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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014709
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】循環機構、及び動作装置
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20230124BHJP
   H05G 2/00 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
G03F7/20 503
H05G2/00 K
G03F7/20 521
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118821
(22)【出願日】2021-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長野 晃尚
【テーマコード(参考)】
2H197
4C092
【Fターム(参考)】
2H197CA10
2H197CA20
2H197GA01
2H197GA05
2H197GA24
4C092AA06
4C092AA15
4C092AC09
4C092BD18
(57)【要約】
【課題】液体金属による浸食を防止することが可能な循環機構、及び動作装置を提供すること。
【解決手段】本発明の一形態に係る循環機構は、収容部と、供給配管と、回収配管と、循環駆動部と、保護部材とを具備する。前記収容部は、液体金属を収容する。前記供給配管は、対象機構に前記収容部に収容された前記液体金属を供給する。前記回収配管は、前記収容部に連通し、前記対象機構から流出された前記液体金属を前記収容部に回収する。前記循環駆動部は、前記収容部に収容された前記液体金属を前記供給配管に移動させることで、前記対象機構との間で前記液体金属を循環させる。前記保護部材は、前記回収配管の内壁の、前記回収配管を流れる前記液体金属と前記収容部に収容された前記液体金属とが衝突する位置に対応する部分を覆うように配置される。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体金属を収容する収容部と、
対象機構に前記収容部に収容された前記液体金属を供給する供給配管と、
前記収容部に連通し、前記対象機構から流出された前記液体金属を前記収容部に回収する回収配管と、
前記収容部に収容された前記液体金属を前記供給配管に移動させることで、前記対象機構との間で前記液体金属を循環させる循環駆動部と、
前記回収配管の内壁の、前記回収配管を流れる前記液体金属と前記収容部に収容された前記液体金属とが衝突する位置に対応する部分を覆うように配置された保護部材と
を具備する循環機構。
【請求項2】
請求項1に記載の循環機構であって、
前記回収配管は、前記収容部に収容された前記液体金属が前記回収配管の内部に進入する位置で、前記収容部と連通され、
前記保護部材は、前記回収配管の内壁の、前記回収配管内に進入している前記液体金属の液面に接触する部分を覆うように配置される
循環機構。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の循環機構であって、
前記回収配管は、前記回収配管の内壁に構成された保護膜を有し、
前記保護部材は、前記保護膜上に配置される
循環機構。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の循環機構であって、
前記保護部材は、中空状の円筒形状を有し、前記回収配管の内部に挿入される
循環機構。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の循環機構であって、
前記保護部材は、変形可能なシート部材により構成され、前記回収配管の内壁に沿うように変形された状態で、前記回収配管の内部に挿入される
循環機構。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の循環機構であって、
前記保護部材は、中空状の管状部材により構成され、前記回収配管の内部に挿入される
循環機構。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の循環機構であって、
前記液体金属は、スズ、リチウム、ガドリニウム、テルビウム、ガリウム、又はこれらの材料のうちの少なくとも1つを含む合金である
循環機構。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の循環機構であって、
前記保護部材は、モリブデン、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、ルテニウム、オスミウム、及びイリジウム、又はこれらの材料のうちの少なくとも1つを含む合金により構成される
循環機構。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の循環機構であって、
前記保護膜は、チタンナイトライド、チタン、又はこれらの材料のうちの少なくとも1つを含む合金により構成される
循環機構。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の循環機構であって、
前記収容部は、前記回収配管が接続される接続孔を有し、
前記回収配管は、前記接続孔から前記収容部の内部に向かって突出するように、前記接続孔に接続される
循環機構。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の循環機構であって、
前記回収配管は、前記収容部に前記金属材料を流出する配管流出口を有し、
前記保護部材は、前記配管流出口から前記収容部の内部に向かって突出する突出部を有し、
前記突出部は、前記配管流出口から流出された前記液体金属を前記収容部に収容された前記液体金属に向かって流出する流出口を有する
循環機構。
【請求項12】
請求項11に記載の循環機構であって、
前記突出部は、前記収容部に収容された前記液体金属の液面に対して傾斜した方向に沿って延在し、前記流出口が構成される端面が前記液面と平行となるように構成される
循環機構。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の循環機構であって、
前記回収配管は、前記対象機構から流出された前記液体金属が流入する配管流入口と、鉛直方向において前記流入口よりも下方に位置し前記収容部に前記液体金属を流出する配管流出口とを有し、前記収容部に対して傾斜して配置される
循環機構。
【請求項14】
請求項1又は2に記載の循環機構であって、さらに、
前記回収配管を流れる前記液体金属、前記収容部に収容される前記液体金属、又は前記供給配管を流れる前記液体金属の少なくとも1つに対して、温度を調整する温度調整機構を具備する
を具備する循環機構。
【請求項15】
液体金属を利用して動作する動作部と、
前記液体金属を収容する収容部と、
前記動作部に前記収容部に収容された前記液体金属を供給する供給配管と、
前記収容部に連通し、前記動作部から流出された前記液体金属を前記収容部に回収する回収配管と、
前記収容部に収容された前記液体金属を前記供給配管に流出することで、前記液体金属を循環させる循環駆動部と、
前記回収配管の内壁の、前記回収配管を流れる前記液体金属と前記収容部に収容された前記液体金属とが衝突する位置に対応する部分を覆うように配置された保護部材と
を有する循環機構と、
を具備する動作装置。
【請求項16】
請求項15に記載の動作装置であって、
前記動作部は、前記液体金属をプラズマ原料として収容するコンテナと、前記プラズマ原料に一部が浸漬する回転電極とを有し、前記回転電極の前記プラズマ原料が付着している部分にて放電を発生させることで、放射線を放出するプラズマを生成し、
前記動作装置は、前記放射線を出射する装置として構成される
動作装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体金属を循環させる循環機構、及び液体金属を利用して動作する動作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路の微細化、高集積化につれて、露光用光源の短波長化が進められている。次世代の半導体露光用光源としては、特に波長13.5nmの極端紫外光(以下、「EUV(Extreme Ultra Violet)光」ともいう)を放射する極端紫外光光源装置(以下、「EUV光源装置」ともいう)の開発が進められている。
【0003】
EUV光源装置において、EUV光(EUV放射)を発生させる方法はいくつか知られている。それらの方法のうちの一つに極端紫外光放射種(以下、EUV放射種ともいう)を加熱して励起することにより高温プラズマを発生させ、高温プラズマからEUV光を取り出す方法がある。
このような方法を採用するEUV光源装置は、高温プラズマの生成方式により、LPP(Laser Produced Plasma:レーザ生成プラズマ)方式と、DPP(Discharge Produced Plasma:放電生成プラズマ)方式とに分けられる。
【0004】
DPP方式のEUV光源装置は、EUV放射種(気相のプラズマ原料)を含む放電ガスが供給された電極間に高電圧を印加して、放電により高密度高温プラズマを生成し、そこから放射される極端紫外光を利用するものである。
DPP方式としては、例えば、特許文献1に記載されているように、放電を発生させる電極(放電電極)表面にEUV放射種を含む液体状の高温プラズマ原料(例えば、Sn(スズ)やLi(リチウム)等)を供給し、当該原料に対してレーザビーム等のエネルギービームを照射して当該原料を気化し、その後、放電によって高温プラズマを生成する方法が提案されている。このような方式は、LDP(Laser Assisted Discharge Produced Plasma)方式と称されることもある。
【0005】
一方、LPP方式のEUV光源装置は、レーザ光をターゲット材料に照射し、当該ターゲット材料を励起させてプラズマを生成するものである。
【0006】
EUV光源装置は、半導体デバイス製造における半導体露光装置(リソグラフィ装置)の光源装置として使用される。あるいは、EUV光源装置は、リソグラフィに使用されるマスクの検査装置の光源装置として使用される。すなわちEUV光源装置は、EUV光を利用する他の光学系装置(利用装置)の光源装置として使用される。
【0007】
上記したように、LDP方式においては、高温プラズマ原料が放電電極表面に供給される。具体的には、特許文献1に記載されているように、液相のプラズマ原料(例えば、液相のスズ)がコンテナに貯留されていて、この液相のプラズマ原料に、円盤状の放電電極(アノード、カソード)の一部が浸漬している。
放電電極は回転可能に構成されている。そして、放電電極が回転して、当該放電電極の液相のプラズマ原料に浸漬している部分が放電領域に輸送される。すなわち、液相のプラズマ原料が放電領域に輸送される。ここで放電領域は、上記したエネルギービームが照射されたあと、放電を発生させる領域である。
プラズマ原料が貯留されているコンテナ、及び放電電極(アノード、カソード)がプラズマ源として機能し、放電領域にて高温プラズマが生成される。
【0008】
ここでコンテナに貯留する液相のプラズマ原料は、プラズマを発生することにより消費され減少する。よってこれを補給するため、液相のプラズマ原料を貯留するコンテナは、液相のプラズマ原料を保持するリザーバを含むプラズマ原料供給機構と接続されている。特許文献2には、このプラズマ原料供給機構について開示されている。
【0009】
放電電極は、放電の発生に伴い加熱される。ここで上記したように放電電極は、その一部が、コンテナが貯留する液相のプラズマ原料に浸漬している。そのため、放電電極を回転させることにより、少なくとも放電電極の放電により加熱された部分が上記液相のプラズマ原料を通過するので、当該加熱された部分と液相のプラズマ原料との間で熱交換が行われ、上記放電により加熱された部分が冷却される。その一方で、コンテナが貯留する液相のプラズマ原料の温度が上昇する。
よって、コンテナと上記リザーバを含むプラズマ原料供給機構との間で液相のプラズマ原料を循環させ、循環路の少なくとも一部を冷却することにより、コンテナに液相のプラズマ原料を供給し、またコンテナに貯留される液相のプラズマ原料の温度も所定の温度に保持することが可能となる。
【0010】
加工性の容易さ、材料費の観点から、通常、ステンレス鋼がプラズマ原料供給機構の構成材料として使用されている。しかしながら、ステンレス鋼は、液相のプラズマ原料である金属溶融物(例えば、リチウムやスズなど)の電気化学的な腐食及び加熱された金属の機械的な侵食に対する十分な抵抗力を有していない。
金属溶融物(液体金属)に対する抵抗力をステンレス鋼に付与するために、特許文献3では、ステンレス鋼から構成されるプラズマ原料供給機構の液体金属と接触する表面に、共有結合性無機固体材料で被覆することが提案されている。共有結合性無機固体材料としては、例えば、TiN等が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2017-219698号公報
【特許文献2】特開2014-225437号公報
【特許文献3】特開2011-527503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記したプラズマ原料供給機構等の液体金属を供給する機構では、配管等が液体金属により浸食されてしまうことを防止することが重要である。
【0013】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、液体金属による浸食を防止することが可能な循環機構、及び動作装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る循環機構は、収容部と、供給配管と、回収配管と、循環駆動部と、保護部材とを具備する。
前記収容部は、液体金属を収容する。
前記供給配管は、対象機構に前記収容部に収容された前記液体金属を供給する。
前記回収配管は、前記収容部に連通し、前記対象機構から流出された前記液体金属を前記収容部に回収する。
前記循環駆動部は、前記収容部に収容された前記液体金属を前記供給配管に移動させることで、前記対象機構との間で前記液体金属を循環させる。
前記保護部材は、前記回収配管の内壁の、前記回収配管を流れる前記液体金属と前記収容部に収容された前記液体金属とが衝突する位置に対応する部分を覆うように配置される。
【0015】
この循環機構では、回収配管の内壁に保護部材が配置される。保護部材は、回収配管を流れる液体金属と収容部に収容された液体金属とが衝突する位置に対応する部分を覆うように配置される。これにより、液体金属により回収配管が浸食されてしまうことを防止することが可能となる。
【0016】
前記回収配管は、前記収容部に収容された前記液体金属が前記回収配管の内部に進入する位置で、前記収容部と連通されてもよい。この場合、前記保護部材は、前記回収配管の内壁の、前記回収配管内に進入している前記液体金属の液面に接触する部分を覆うように配置されてもよい。
【0017】
前記回収配管は、前記回収配管の内壁に構成された保護膜を有してもよい。この場合、前記保護部材は、前記保護膜上に配置されてもよい。
【0018】
前記保護部材は、中空状の円筒形状を有し、前記回収配管の内部に挿入されてもよい。
【0019】
前記保護部材は、変形可能なシート部材により構成され、前記回収配管の内壁に沿うように変形された状態で、前記回収配管の内部に挿入されてもよい。
【0020】
前記保護部材は、中空状の管状部材により構成され、前記回収配管の内部に挿入されてもよい。
【0021】
前記液体金属は、スズ、リチウム、ガドリニウム、テルビウム、ガリウム、又はこれらの材料のうちの少なくとも1つを含む合金であってもよい。
【0022】
前記保護部材は、モリブデン、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、ルテニウム、オスミウム、及びイリジウム、又はこれらの材料のうちの少なくとも1つを含む合金により構成されてもよい。
【0023】
前記保護膜は、チタンナイトライド、チタン、又はこれらの材料のうちの少なくとも1つを含む合金により構成されてもよい。
【0024】
前記収容部は、前記回収配管が接続される接続孔を有してもよい。この場合、前記回収配管は、前記接続孔から前記収容部の内部に向かって突出するように、前記接続孔に接続されてもよい。
【0025】
前記回収配管は、前記収容部に前記金属材料を流出する配管流出口を有してもよい。この場合、前記保護部材は、前記配管流出口から前記収容部の内部に向かって突出する突出部を有してもよい。また前記突出部は、前記配管流出口から流出された前記液体金属を前記収容部に収容された前記液体金属に向かって流出する流出口を有してもよい。
【0026】
前記突出部は、前記収容部に収容された前記液体金属の液面に対して傾斜した方向に沿って延在し、前記流出口が構成される端面が前記液面と平行となるように構成されてもよい。
【0027】
前記回収配管は、前記対象機構から流出された前記液体金属が流入する配管流入口と、鉛直方向において前記流入口よりも下方に位置し前記収容部に前記液体金属を流出する配管流出口とを有し、前記収容部に対して傾斜して配置されてもよい。
【0028】
前記循環機構は、さらに、前記回収配管を流れる前記液体金属、前記収容部に収容される前記液体金属、又は前記供給配管を流れる前記液体金属の少なくとも1つに対して、温度を調整する温度調整機構を具備してもよい。
【0029】
本発明の一形態に係る動作装置は、液体金属を利用して動作する動作部と、前記循環機構とを具備する。
【0030】
前記動作部は、前記液体金属をプラズマ原料として収容するコンテナと、前記プラズマ原料に一部が浸漬する回転電極とを有し、前記回転電極の前記プラズマ原料が付着している部分にて放電を発生させることで、放射線を放出するプラズマを生成してもよい。この場合、前記動作装置は、前記放射線を出射する装置として構成されてもよい。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明によれば、液体金属による浸食を防止することが可能となる。なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の一実施形態に係るプラズマ原料供給機構の基本的な構成例を示す模式図である。
図2】リザーバの回収側接続孔の部分を拡大した拡大図である。
図3】リザーバの回収側接続孔の部分を拡大した拡大図である。
図4】プラズマ原料の衝突により生じる圧力変動(衝撃)の大きさの分布をシミュレーションで解析した結果を示す模式図である。
図5】保護部材を用いた構成の一例を示す模式図である。
図6】保護部材を用いた他の構成例を示す模式図である。
図7】極端紫外光光源装置(EUV光源装置)の基本的な構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0034】
[プラズマ原料供給機構]
図1は、本発明の一実施形態に係るプラズマ原料供給機構の基本的な構成例を示す模式図である。
ここでは、プラズマ原料供給機構1が、LDP方式のEUV光源装置2内に構成されている場合を例に挙げる。
プラズマ原料供給機構1は、本発明に係る循環機構の一実施形態に相当する。
プラズマ原料供給機構1を含むLDP方式のEUV光源装置2は、本発明に係る動作装置の一実施形態に相当する。
【0035】
まず、プラズマ原料供給機構1が接続される、EUV光源装置2のプラズマ源3について、簡単に説明する。
プラズマ源3は、円盤状の放電電極4(アノード4a、カソード4b)と、液相のプラズマ原料5を収容するコンテナ6を有する。コンテナ6に貯留されている液相のプラズマ原料5に、円盤状の放電電極4の一部が浸漬している。なお、本実施形態では、プラズマ原料5として、液相のスズが用いられる。
プラズマ原料5は、本発明に係る液体金属の一実施形態に相当する。
またプラズマ源3を、ソースモジュール(熱源)や、ソースヘッドと呼ぶことも可能である。
【0036】
放電電極4(アノード4a、カソード4b)は回転可能に構成されている。放電電極4が回転すると、放電電極4の液相のプラズマ原料5に浸漬している部分が放電領域7に輸送される。すなわち、放電電極4の液相のプラズマ原料5が塗布された部分が放電領域7に輸送される。
ここで放電領域7は、レーザビーム等のエネルギービームEが照射されたあと、放電を発生させる領域である。このように、放電領域7には常に新鮮なプラズマ原料5が供給される。液相のプラズマ原料5は、放電電極4の冷媒としても機能する。
【0037】
アノード4aとカソード4bとの間で放電を発生させるためのパルス電力供給部8は、金属性のコンテナ6に接続されている。パルス電力供給部8は、各放電電極4と電気的に接続されるコンテナ6、導電性である液相のプラズマ原料5を介して、各放電電極4に給電する。
そして、カソード4bにエネルギービームEが照射されると、プラズマ原料5が塗布された両電極間で放電が発生し、高温プラズマPが生成され、当該高温プラズマPよりEUV光Lが放出される。
【0038】
図1に示すように、プラズマ原料供給機構1は、プラズマ源3のカソード4b側のコンテナ6に対して、液相のプラズマ原料5の供給及び回収を実行可能に構成されている。プラズマ源3のアノード4a側にも同様のプラズマ原料供給機構1が接続される。
以下、2つのプラズマ原料供給機構1のうち、カソード4b側に原料を供給するプラズマ原料供給機構1を代表して説明する。
【0039】
プラズマ原料供給機構1は、リザーバ(容器)10と、供給配管11と、回収配管12と、ポンプ13と、冷却機構14とを有する。
リザーバ10は、おおよその外形として、中空状の円筒形状を有する。円筒形状の高さ方向のサイズは、比較的小さいサイズとなる。また、円筒の中心軸の軸方向が水平方向と略平行となるように、リザーバ10は配置される。
すなわち、リザーバ10は、高さの低い円筒形状の中空部材であり、横向きに配置される。図1では、リザーバ10を中心軸の軸方向に直交する方向で切断した模式的な断面図が図示されている。
なお、リザーバ10の構成は限定されず、他の構成が採用されてもよい。
【0040】
図1に示すように、リザーバ10の内部空間は、大きく2つの空間に分割される。具体的には、リザーバ10を円筒形状の中心軸に沿って見た場合、上方側のある位置から下方斜めに向かって延在するように、壁部15が構成される。
この壁部15により分割される下方側の空間が、プラズマ原料5が収容される原料供給空間S1となる。壁部15により分割される上方側の空間が、プラズマ原料5をコンテナ6へ流出するための経路を内包する原料通過空間S2となる。
原料供給空間S1と原料通過空間S2は、壁部15により相互に封止されて空間的に分割されている。
【0041】
リザーバ10の原料供給空間S1は、プラズマ源3のコンテナ6よりも容量が大きく設計されている。これにより、放電動作等で消費されるプラズマ原料5のコンテナ6への充填を比較的長期間実施することが可能となる。
【0042】
図1に示すように、リザーバ10の原料供給空間S1を構成する外壁には、回収配管12が接続される回収側接続孔16と、供給配管11が接続される供給側接続孔17とが形成される。
回収側接続孔16は、原料供給空間S1に収容されるプラズマ原料5の液面18の位置の近傍に、原料供給空間S1に連通するように構成される。
供給側接続孔17は、原料供給空間S1の最下方の位置の近傍に、原料供給空間S1に連通するように構成される。従って、供給側接続孔17は、原料供給空間S1に収容されるプラズマ原料5の深い所に構成される。
【0043】
供給配管11は、原料供給空間S1に収容されたプラズマ原料5をコンテナ6に供給するための配管である。
供給配管11の一方の端部は、原料供給空間S1に連通する供給側接続孔17に接続される。従って、この端部は、プラズマ原料5が流入する配管流入口19となる(図1では、供給側接続孔17と同じ箇所に符号19を付している)。
供給配管11の他方の端部は、コンテナ6に形成された原料還流口20に接続される。原料還流口20は、コンテナ6内にプラズマ原料5を供給するための孔である。従って、この端部は、プラズマ原料5が流出する配管流出口21となる(図1では、原料還流口20と同じ箇所に符号21を付している)。
このように、供給配管11は、リザーバ10の原料供給空間S1、及びコンテナ6の各々と連通し、原料供給空間Sに収容されたプラズマ原料5を、コンテナ6に供給する。
【0044】
回収配管12は、コンテナ6からプラズマ原料5を回収するための配管である。
回収配管の一方の端部は、コンテナ6に形成された原料排出口22に接続される。原料排出口22は、コンテナ6内からプラズマ原料5を排出するための孔である。従って、この端部は、プラズマ原料5が流入する配管流入口23となる(図1では、原料排出口22と同じ箇所に符号23を付している)。
回収配管12の他方の端部は、原料供給空間S1に連通する回収側接続孔16に接続される。図1に示すように本実施形態では、回収配管12は、回収側接続孔16からリザーバ10の内部に向かって突出するように、回収側接続孔16に接続される。
リザーバ10の内部に配置された配管流出口24から、リザーバ10にプラズマ原料5が流出される。
このように、回収配管12は、コンテナ6、及びリザーバ10の原料供給空間S1の各々と連通し、コンテナ6から流出されたプラズマ原料5を、原料供給空間S1に回収する。
【0045】
リザーバ10、供給配管11、及び回収配管12は、ステンレス鋼により構成される。
またリザーバ10の内壁、供給配管11の内壁、及び回収配管12の内壁等、プラズマ原料5と接触する領域には、保護膜として、液体金属に対する抵抗性被膜が構成される(図示は省略)。
保護膜としては、例えば、共有結合性無機固体材料が被覆される。本実施形態では、チタンナイトライド(TiN)により構成されるTiN膜が形成されるが、他の材料からなる保護膜が形成されてもよい。
例えば、チタンナイトライド(TiN)、チタン(Ti)、又はこれらの材料のうちの少なくとも1つを含む合金により、保護膜が形成されてもよい。
【0046】
ポンプ13は、供給配管11に設けられる。
ポンプ13が駆動することにより、リザーバ10の原料供給空間S1に収容されたプラズマ原料5が供給配管11に流出し、リザーバ10、供給配管11、コンテナ6、及び回収配管12の循環系にて、プラズマ原料5を循環させることが可能となる。
すなわち、ポンプ13の駆動により、リザーバ10内のプラズマ原料5をコンテナ6に供給し、またリザーバ10に回収することが可能となる。
ポンプ13としては、例えば電磁ポンプ(Electromagnetic pump)が用いられる。電磁ポンプは、供給配管11の外部から磁場を印加し、電流を流したときに供給配管11内のプラズマ原料5に生じるローレンツ力を利用して、供給配管11内にプラズマ原料5の流れを生成する。この結果、原料供給空間S1に収容されたプラズマ原料5を供給配管11に移動させることが可能なポンプ力が発生する。
【0047】
ポンプ13が設けられる位置は限定されない。原料供給空間S1に収容されたプラズマ原料5を供給配管11に移動させることが可能なポンプ力を発生可能であれば、リザーバ10、供給配管11、及び回収配管12により構成される循環路の任意の位置に、ポンプ13を配置することが可能である。
なお、コンテナ6に供給されるプラズマ原料5は、放電電極4の回転により、原料排出口22から回収配管12に流出される。
【0048】
なお、原料還流口20は、コンテナ6における放電電極4が放電領域7に到達する直前に通過する領域の近傍に形成されている。また、原料排出口22は、コンテナ6における放電電極4のエネルギービームEが照射された部分がコンテナ6内のプラズマ原料5に再び浸漬する領域の近傍に形成されている。
このように構成することにより、エネルギービームEが照射される前、かつ放電が発生する前の放電電極4に、所定の設定温度のプラズマ原料5を放電領域7に輸送することが可能となる。
また放電発生により加熱された放電電極4がコンテナ6内のプラズマ原料5と接触し、プラズマ原料5が所望の温度以上に加熱されるが、この加熱されたプラズマ原料5をコンテナ6から迅速に排出することが可能となる。これにより、プラズマ原料5の加熱による影響が、次の放電時に放電領域7に輸送されるプラズマ原料5に作用してしまうことを防止することが可能となる。
【0049】
回収配管12から回収される高温のプラズマ原料5は、回収配管12の配管流出口24からリザーバ10の原料供給空間S1内に排出され、リザーバ10内のプラズマ原料5と混合され、ある程度冷却される。
【0050】
ここで、コンテナ6から排出されるプラズマ原料5には不純物や酸化金属(酸化スズ)等のスラグ25が含まれる。そして、回収配管12の配管流出口24からリザーバ10に排出されるプラズマ原料5に含まれているスラグ25は、リザーバ10内の液相のプラズマ原料5の液面18に凝集する。
【0051】
図1に示すように、本実施形態では、原料供給空間S1内に、孔26が形成された板状のスラグセパレータ27が設けられる。
スラグセパレータ27は、リザーバ10の下方側に設けられている供給側接続孔17の上方側の位置から、プラズマ原料5が排出される回収側接続孔16の近傍まで斜めに延在するように設けられる。
スラグセパレータ27は、スラグ25が凝集する液面18とリザーバ10の下方側に設けられた供給側接続孔17との間に障壁として構成される。
これにより、回収側接続孔16に接続される回収配管12から排出される液相のプラズマ原料5と、液相のプラズマ原料5の液面18に凝集しているスラグ25とを分離することが可能となる。この結果、スラグ25が混合してしまった状態のプラズマ原料5が、供給側接続孔17に接続された供給配管11に流出してしまうことを防止することが可能となる。
【0052】
コンテナ6から回収配管12を介してリザーバ10へ回収されるプラズマ原料5は、リザーバ10内のプラズマ原料5と混合してある程度冷却される。更にプラズマ原料5をコンテナ6に還流させる前には、プラズマ原料5の温度は、プラズマ原料5の溶融温度より適度に(1~50K)高い温度レベルに調節される。
【0053】
冷却機構14は、プラズマ原料5に対して、冷却(温度調整)を実行可能である。
図1に示すように、冷却機構14は、原料通過空間S2に設けられる。
原料通過空間S2には、原料通過空間S2を横断するスルーチャネル28が形成される。供給配管11は、スルーチャネル28内に設けられる。あるいは、スルーチャネル28自体が、供給配管11の一部として構成されてもよい。
【0054】
冷却機構14は、スルーチャネル28に対して構成され、スルーチャネル28を冷却することで、プラズマ原料5の冷却(温度調整)を実行する。
冷却機構14としては、例えば、特許文献2に開示されている噴霧冷却機構やヒートパイプ、ラジエータ等が用いられる。(図1では、冷却機構は、模式的に原料通過空間S2内にドット柄で示されている)。
【0055】
プラズマ源3においては放電動作(高温プラズマ生成)により、コンテナ6のプラズマ原料5は消費される。その消費された分だけ、リザーバ10の原料供給空間S1に貯留されているプラズマ原料5がコンテナ6に補填される。よって、結果的にリザーバ10に貯留されるプラズマ原料5も徐々に減少する。
本実施形態では、原料供給空間S1には、当該空間に貯留されるプラズマ原料5の貯留量をセンシングするセンサ(図示は省略)が設けられる。当該センサとしては、例えば特許文献2に開示されているプラズマ原料5の液面レベルを検知するレベルセンサが用いられる。
レベルセンサとプラズマ原料5との接触が解除されたことが検知された場合、リザーバ10の原料供給空間S1にプラズマ原料5の再充填が行われる。
プラズマ原料5の充填は、図示を省略したプラズマ原料補充用ポートよりなされる。プラズマ原料補充用ポートは、プラズマ原料5が貯留されるリザーバ10の原料供給空間S1に対して設けられる。
【0056】
プラズマ源3の放電電極4を冷却し、かつプラズマ源3で生成される高圧プラズマPからEUV放射を発生させる場合、リチウム(Li)、スズ(Sb)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ガリウム(Ga)、又はこれらの材料のうちの少なくとも1つを含む合金を使用することが可能である。
これらの材料に限定されず、本発明は、任意に液体金属に対して適用することが可能である。
【0057】
プラズマ源3やプラズマ原料供給機構1は、EUV光源装置2内に配置される。プラズマ原料供給機構1が貯留したり、プラズマ源3のコンテナ6との間で循環するプラズマ原料5は、高熱に維持される液体金属である。
よって、EUV光源装置2内であって、プラズマ原料供給機構1の周囲に配置される他の機構に対して、プラズマ原料5からの不所望な熱輻射を遮断することが望ましい。
このため、プラズマ原料5を内包するリザーバ10は、周囲の他の機構への熱輻射を抑制するために、負圧状態において配置されている。
【0058】
本実施形態において、プラズマ源3のEUV光Lを生成する機構は、対象機構の一実施形態に相当する。また、EUV光Lを生成する機構は、液体金属を利用して動作する動作部の一実施形態に相当する。
リザーバ10(原料供給空間S1を構成する部分)は、液体金属を収容する収容部の一実施形態に相当する。
供給配管11は、本発明に係る供給配管の一実施形態に相当する。
回収配管12は、本発明に係る回収配管の一実施形態に相当する。
ポンプ13は、収容部に収容された液体金属を供給配管に移動させることで、対象機構との間で液体金属を循環させる循環駆動部の一実施形態に相当する。
リザーバ10の回収側接続孔16は、回収配管が接続される接続孔の一実施形態に相当する。
回収配管12の配管流出口24は、収容部に金属材料を流出する配管流出口の一実施形態に相当する。
冷却機構14は、回収配管を流れる液体金属、収容部に収容される液体金属、又は供給配管を流れる液体金属の少なくとも1つに対して、温度を調整する温度調整機構の一実施形態に相当する。
【0059】
[配管等の浸食について]
特許文献2にも開示されているように、回収配管12の内壁、供給配管11の内壁、及びリザーバ10の内壁等の、高温に加熱されたプラズマ原料5(液体金属:液相のスズ)が接触する領域において、保護膜(TiN膜)が形成されていたとしても、プラズマ原料5によって浸食が発生してしまう場合がある。
特許文献2では、このような浸食の発生は、プラズマ原料5の循環路を構成する配管が液体金属の流れの方向において歪曲している領域や、リザーバ10のプラズマ原料5が機械的に衝突する領域等において、プラズマ原料5の熱または流れによって大きな応力が印加されるためであるとしている。
【0060】
本発明者は、プラズマ原料5による配管等の浸食について検討を重ねた。
本発明者が配管等のプラズマ原料5により浸食された部分(TiN膜が破壊され、配管等が破損した部分)を調査したところ、浸食発生個所は所定の場所でのみ発生していることが判明した。
プラズマ原料5の流れの力による応力であるならば、応力がかかる部分の至るところでランダムに浸食が発生するはずであるが、実機による実績でも実験によっても、ある特定の場所でのみ浸食が発生していることが分かった。
すなわち、TiN膜や配管における浸食の発生は、必ずしもプラズマ原料5の流れにともなう応力(せん断応力)に起因するものではないことが示唆される。
また、本発明者が配管と同じ材質にTiNを成膜した試験片を用いて実験を行った結果、プラズマ原料5の熱に起因する応力によっても、TiN膜の破損や母材の浸食は確認されなかった。
【0061】
図2及び図3は、リザーバ10の回収側接続孔16の部分を拡大した拡大図である。
本発明者の調査によると、回収配管12とリザーバ10との接続部分において、浸食が発生することが判明した。
本発明者は、回収配管12とリザーバ10との接続部分において、図2及び図3に例示する複数の構成について、浸食が発生する箇所について詳しく調査をした。
【0062】
なお、図1にも示すように、本実施形態では、回収配管12の配管流出口24は、コンテナ6から流出されたプラズマ原料5が流入する配管流入口23よりも、鉛直方向において下方側に設置される。また回収配管12は、リザーバ10に対して傾斜して配置される。
傾斜して配置されるとは、例えば、回収配管12の配管流入口23と配管流出口24とを結ぶ線が、リザーバ10に対して傾斜している種々の構成を含む。
例えば、屈曲することなく直線状に構成された回収配管12がリザーバ10に対して傾斜して配置される構成は、回収配管12がリザーバ10に対して傾斜して配置される構成に含まれる。
これに限定されず、途中で屈曲している部分を有する回収配管12が、リザーバ10に対して斜めに配置される場合も、配管流入口23と配管流出口24とを結ぶ線が、リザーバ10に対して傾斜している場合は、回収配管12がリザーバ10に対して傾斜して配置される構成に含まれる。
図2及び図3に例示する複数の構成は、いずれも回収配管12がリザーバ10に対して傾斜して配置される構成に含まれる。
【0063】
図2Aに示す構成は、回収配管12の配管流出口24の近傍にて、回収配管12が屈曲している。屈曲している部分(以下、屈曲部とする)29が、リザーバ10の回収側接続孔16に接続されている。
また回収配管12の配管流出口24の下方側の一部が、リザーバ10(原料供給空間S1)に収容されているプラズマ原料5の液面18よりも下方側に浸水している。従って、回収配管12の配管流出口24から屈曲部29の内側まで、プラズマ原料5が進入した状態となっている。
このように、図2Aに示す例では、回収配管12は、リザーバ10に収容されたプラズマ原料5が回収配管12の内部に進入する位置で、リザーバ10と連通される。
【0064】
図2Aに示す構成では、回収配管12の内壁の、回収配管12内に進入しているプラズマ原料5の液面30の位置の近傍の領域Rで、浸食が発生していた。
なお、回収配管12内に進入しているプラズマ原料5は、リザーバ10に収容されるプラズマ原料5に含まれる。また典型的には、回収配管12内に進入しているプラズマ原料5の液面30の位置は、回収配管12内に進入していないプラズマ原料5の液面18と等しい位置となる。
回収配管12の構成や、回収配管12とリザーバ10との接続形態によっては、回収配管12内に進入しているプラズマ原料5の液面30の位置と、回収配管12内に進入していないプラズマ原料5の液面18とが異なる場合もあり得る。この場合でも、本発明は適用可能である。
図2Aに示す調査結果では、特許文献2に開示されているように、プラズマ原料5の熱や流れに起因する応力が屈曲部29に作用したと考えることも可能である。
【0065】
図2Bに示す構成では、図2Aに示す構成と同様に、配管流出口24の近傍が屈曲している回収配管12が用いられる。一方で、リザーバ10に収容されているプラズマ原料5の液面18の位置は、回収配管12の配管流出口24よりも下方側に設定されている。
図2Bに示す構成では、回収配管12の配管流出口24は、プラズマ原料5の液面18よりも上方側に位置し、プラズマ原料5に接触しない。従って、回収配管12の内部には、プラズマ原料5は進入しない。
回収配管12を流れるプラズマ原料5は、配管流出口24から原料供給空間S1に流出し、リザーバ10に収容されているプラズマ原料5の液面18に衝突する。
【0066】
図2Bに示す構成では、回収配管12の屈曲部29も含む内壁の全領域にて、浸食は確認されなかった。一方で、プラズマ原料5の液面18と回収配管12より流入してくるプラズマ原料5とが衝突する位置の近傍の領域Rで、リザーバ10の内壁に浸食が発生していた。
従って、浸食の発生の要因として、プラズマ原料5の熱や流れに起因する応力の作用よりも、他の事項があるのではないかという知見が得られる。
【0067】
図3Aに示す構成では、屈曲している部分がない直線状の回収配管12が用いられる。回収配管12は、配管流出口24がリザーバ10の回収側接続孔16よりもリザーバ10の内部に向かって突出するように、回収側接続孔16に接続される。
またプラズマ原料5の液面18の位置は、回収配管12の配管流出口24よりも下方側に、配管流出口24に接触しない位置に設定される。従って、回収配管12の内部には、プラズマ原料5は進入しない。
回収配管12を流れるプラズマ原料5は、配管流出口24から原料供給空間S1に流出し、リザーバ10に収容されているプラズマ原料5の液面18に衝突する。
【0068】
図3Aに示す構成では、図2Aに示す構成よりも、回収配管12より流入してくるプラズマ原料5が液面18と衝突する位置が、リザーバ10の中央側(内部側)となる。すなわち、図3Aに示す構成の方が、図2Bに示す構成よりも、流出してくるプラズマ原料5が液面18に衝突する位置が、リザーバ10の内壁(回収側接続孔16の近傍の内壁)から離れた位置となる。
図3Aに示す構成では、回収配管12の内壁にも、リザーバ10の内壁にも、浸食は確認されなかった。
【0069】
図3Bに示す構成では、図3Aに示す構成と同様に、屈曲している部分がない直線状の回収配管12が用いられる。一方で、回収配管12は、リザーバ10に収容されたプラズマ原料5が回収配管12の内部に進入する位置で、リザーバ10と連通される。
本構成は、後に説明する圧力変動のシミュレーションを実行する際に、検討の対象となった構成である。
【0070】
本発明者は、図2A及びB、図3Aの構成における、浸食の発生位置の調査結果に基づいて、さらに検討を重ねた。また種々の材料に対するキャビテーション浸食試験についての文献等も調べた結果、TiN材料に対してキャビテーション浸食が発生するという知見が得られた。すなわち、TiN材料は、耐衝撃性が低い材料であるという知見が得られた。
【0071】
図2A及び図2Bに示す調査結果により、浸食が発生する箇所は、リザーバ10(原料供給空間S1)内に貯留されているプラズマ原料5の液面18(30)と、回収配管12の内部を流れるコンテナ6より回収されたプラズマ原料5の流れとが衝突する領域の近傍であることが分かる。
従って、回収配管12が屈曲していることで当該配管を流れるプラズマ原料5の流れの向きが変わるために浸食が起こるというよりも、浸食の位置は液体状のプラズマ原料5の液面18(30)の位置に追従して変化していると考えられる。
本発明者は、この実験から得られる知見と、TiN材料は耐衝撃性が低いという知見とにより、以下の新たな事項を導いた。
すなわち、TiN膜が破壊され、配管等が破損したり、リザーバ10の内壁の一部が損傷するのは、リザーバ10内に貯留されるプラズマ原料5の液面18(30)と、回収配管12を流れるコンテナ6から回収されたプラズマ原料5との衝突により生じる圧力変動(衝撃)が、衝突箇所近傍の循環路の内壁に機械的な負荷を与える。そして、その結果、循環路の内壁に施されているTiN膜が破壊され、その部分での内壁表面が腐食・変形して、場合によっては孔があくといった浸食が発生する。
例えば、循環路の内壁に孔があいてしまうと、その部分にプラズマ原料5が流れ込み、外部の断熱構造と熱的に接続されてしまうと、プラズマ原料5が溶融温度よりも下がってしまう。この結果、プラズマ原料5が凝固してしまい、プラズマ原料の循環が停止してしまうといった不具合も発生してしまう。
【0072】
本発明者は、新たに導いた事項を確認するために、図2A図3A及びBに示す各構成において、リザーバ10内に貯留されるプラズマ原料5の液面18(30)と、回収配管12を流れるプラズマ原料5との衝突により生じる圧力変動(衝撃)の大きさの分布をシミュレーションで解析した。
【0073】
図4は、シミュレーション結果を示す模式図である。
図4Aは、図2Aの構成に対応するシミュレーション結果である。
図4Bは、図3Bの構成に対応するシミュレーション結果である。
図4Cは、図3Aの構成に対応するシミュレーション結果である。
図4A~Cには、回収配管12とリザーバ10との接続部分を、下方側から見た場合の、圧力変動の分布が図示されている。
【0074】
図4Aに示すように、圧力変動(衝撃)が大きい部分Tは、リザーバ10に貯留されるプラズマ原料5の液面18(30)と回収配管12を流れる回収したプラズマ原料5の流れとが衝突する領域Uに存在する。当該圧力変動(衝撃)が大きい部分Tの分布は、図2Aに示す浸食が確認された領域Rの位置とほぼ一致した。
【0075】
図4Bに示すように、圧力変動(衝撃)が大きい部分Tは、リザーバ10に貯留されるプラズマ原料5の液面18(30)と回収配管12を流れる回収したプラズマ原料5の流れとが衝突する領域Uに存在する。図4Bの結果から、回収配管12に屈曲部分を無くしても当該回収配管12内にプラズマ原料5が進入していると、プラズマ原料5の液面18(30)部分で圧力変動が集中して発生することがわかる。
従って、図3Bに示す構成において、浸食発生個所の調査を行った場合、図2Aに示す構成と同様に、回収配管12内の液面30の位置の付近で、浸食が発生するものと考えられる。
【0076】
図4Cに示すように、図3Aに示す構成においては、圧力変動(衝撃)が比較的大きい部分Vが、リザーバ10の内壁32の、リザーバ10に貯留されるプラズマ原料5の液面18と回収配管12を流れる回収したプラズマ原料5の流れとが衝突する領域の近傍に複数分散して存在した。一方で、回収配管12の中は、圧力変動は観察されるものの、図4A及びBにて確認されたような圧力変動(衝撃)が大きい領域は確認されなかった。
これは、図3Aにおいて、回収配管12内でも、リザーバ10の内壁でも、浸食部分は確認できなかったこととよく対応する。
【0077】
以上の考察及び検討により、本発明者は、プラズマ原料供給機構1において、配管(回収配管12)やリザーバ10の原料供給空間における容器壁(内壁)の所定の部分の損傷は、リザーバ10に貯留されるプラズマ原料5の液面18(30)と回収配管12を流れる回収したプラズマ原料5の流れとの衝突により生じる圧力変動に伴う衝撃によるものということを新たなに見出した。
例えばEUV光源装置2の稼働中には、長期間連続的に上記衝突が生じるので、上記所箇所は、長期間連続的に衝撃を受ける。
配管表面や容器の壁の表面に施される共有結合性無機固体材料(例えば、TiN)は、接触するプラズマ原料5に対する耐蝕性の面では機能しているが、このような連続した衝撃への長期的な耐性は十分でないものと考えられる。
【0078】
[保護部材]
本発明者は新たなに導き出した事項に基づいて、浸食の発生を防止するための有効な構成として、保護部材を用いた構成を新たに考案した。
図5A及びBは、保護部材を用いた構成の一例を示す模式図である。
図5Aは、図2Aに示す構成に対応する構成である。
図5Bは、図3Bに示す構成に対応する構成である。
【0079】
図5A及びBに示すように、保護部材34は、回収配管12の内壁の、回収配管12を流れるプラズマ原料5とリザーバ10に収容されたプラズマ原料5とが衝突する位置に対応する部分を覆うように配置される。また、保護部材34は、回収配管12の内壁に構成された保護膜上に配置される。
プラズマ原料5が衝突する位置は、回収配管12内に進入する液体金属の液面30の位置である。上でも述べたが、典型的には、回収配管12内に進入しているプラズマ原料5の液面30の位置は、回収配管12内に進入していないプラズマ原料5の液面18と等しい位置となる。回収配管12内に進入しているプラズマ原料5の液面30の位置と、回収配管12内に進入していないプラズマ原料5の液面18とが異なる場合でも、本発明は適用可能である。
【0080】
回収配管12の内壁の、プラズマ原料5が衝突する位置に対応する部分は、回収配管12内に進入するプラズマ原料5の液面30に接触している部分となる。この部分を覆うように保護部材34が配置される。
例えば、回収配管12内に進入するプラズマ原料5の液面30に接触している部分を基準として、プラズマ原料5の衝突により生じる圧力変動に伴う衝撃を受けると判定される領域が、保護対象領域として設定される。当該保護対象領域を覆うように保護部材34が配置される。
あるいは、特に保護対象領域を設定することなく、回収配管12内に進入するプラズマ原料5の液面30に接触している部分を少なくとも覆うように、所定のサイズの保護部材34が配置されてもよい。
【0081】
図5A及びBに示す例では、保護部材34として、中空状の円筒形状を有する部材が用いられる。すなわち中空構造であり中空円筒状に構成された保護部材34が用いられる。保護部材34は、全体が回収配管12の内部に包含されるように、回収配管12に挿入される。
保護部材34は、プラズマ原料5が流入する流入口35と、保護部材34に流入するプラズマ原料5を流出する流出口36とを有する。保護部材34は、流入口35がプラズマ原料5の液面30よりも上方側に位置し、流出口36の下方側の一部が液面30よりも下方側に位置するように配置される。
従って、保護部材34は、コンテナ6から回収されるプラズマ原料5が衝突する、回収配管12内におけるプラズマ原料5の液面30を包囲するように配置される。回収配管12内におけるプラズマ原料5の液面30は、流体衝突面とも言える。
流体衝突面(液面30)でのプラズマ原料5の衝突は、保護部材34の空洞部分で発生し、その衝突時の衝撃は、保護部材34の外側(回収配管12の内壁)には伝わらない。これにより、プラズマ原料5の衝突により生じる圧力変動に伴う衝撃が回収配管12の内壁に構成された保護膜に伝わってしまうことを防止することが可能となる。
【0082】
保護部材34の材料としては、連続した衝撃への長期的な耐性を有する材料が用いられる。例えば保護部材34は、モリブデン(Mo)、もしくは、モリブデン合金からなる。モリブデン合金としては、例えば、TZM(Ti-Zr-Mo:チタンジルコニウムモリブデン)合金が用いられる。その他の材料が用いられてもよい。
例えば、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、又はこれらの材料のうちの少なくとも1つを含む合金が用いられてもよい。
【0083】
保護部材34として、変形可能なシート部材が、回収配管12の内壁に沿うように変形された状態で、回収配管12の内部に挿入されてもよい。シート部材が丸められ端部同士が接触または重なり合った場合には、当該シート部材は中空状の円通形状を有する部材となる。
例えば、厚み100μm程度のモリブデン(Mo)シートを丸めて挿入することで、保護部材34として構成することが可能である。
例えば、図5Aに示すような屈曲部29の内側に保護部材34を配置する場合には、シート部材を丸めて挿入することで、屈曲部29の位置に保護部材34を容易に配置することが可能となる。
すなわち、シート部材を用いることで、直線状に構成されていない回収配管12に対しても、ステントの要領で、容易に所望の位置に保護部材34を配置することが可能となる。
もちろんこれに限定されず、保護部材34として、中空状の管状部材が用いられ、回収配管12の内部に挿入されてもよい。
【0084】
また、保護部材34として、回収配管12の内壁の全周囲に沿うような円筒形状となる部品以外の部品が用いられてもよい。例えば、回収配管12の内壁のプラズマ原料5の液面30と接触する部分が、360度の全周にわたって存在しない場合もあり得る。例えば、そのような場合等において、円筒形状ではなく、所定の角度範囲の領域を覆うような凹状の保護部材34が用いられてもよい。
例えば、回収配管12に丸められて挿入されたシート部材が、回収配管12内で元の形状の復元しようとした結果、必ずしも円筒形状でなく、凹状の部材となる場合もあり得る。このような場合でも、回収配管12の内壁のプラズマ原料5の液面30と接触する部分を覆ることで、保護部材34として十分に機能する。
【0085】
保護部材34のサイズ(長さ)等は、任意に設定されてよい。典型的には、上記したように、プラズマ原料5の衝突により生じる圧力変動に伴う衝撃を受けると判定される領域(保護対象領域)を覆うことが可能なサイズで、保護部材34が構成される。
例えば、流体衝突面(液面30)の取り得る位置に基づいて保護対象領域を設定し、保護部材34のサイズを設定することが可能である。
例えば、リザーバ10におけるプラズマ原料5の液面レベルは、プラズマ原料5をプラズマ源3のコンテナ6に還流したり、コンテナ6より回収する循環動作中に変動し得る。この液面レベルの変動に対応して、保護対象領域を設定し、保護対象領域を覆うことが可能なサイズを有する保護部材34を設置する。
これにより保護部材34により、液面レベルの変動に対応して、衝撃を保護部材34の外側(回収配管の内壁)に伝えないように構成することが可能となる。
【0086】
例えば、レベルセンサの検出結果に基づいて、リザーバ10内に収容されるプラズマ原料5の液面レベルが略一定となるように維持されてもよい。この場合、例えば維持されている液面レベルを基準として、上下にオフセットされた領域が保護対象領域として設定され、保護対象領域を覆うことが可能なサイズで保護部材34が構成される。
あるいは、図5A及びBに示すように、所定の変動幅を許容するように、リザーバ10内にプラズマ原料5が収容されてもよい。この場合、液面レベルが最も上方側に位置する最上端レベルTLの位置と、液面レベルが最も下方側に位置する最下端レベルBLの位置とに基づいて、保護対象領域が設定される。
例えば、最上端レベルTLの位置から上方側にオフセットされた位置から、最下端レベルBLの位置から下方側にオフセットされた位置までの領域が保護対象領域として設定され、保護対象領域を覆うことが可能なサイズで保護部材34が構成される。
【0087】
保護部材34のサイズ(長さ)を大きくすることで、回収配管12内のより大きな領域を保護することが可能となる。
一方、保護部材34のサイズ(長さ)を必要最低限のサイズとすることで、部品コストを抑えることが可能となる。
例えば、直径30mm×長さ50mmの保護部材34が用いられる。もちろんこのサイズに限定される訳ではない。
【0088】
保護部材34を設置しない構成では、回収配管12内での損傷(内部に施されているTiN膜の破壊およびそれに続く配管の損傷)は、EUV光源装置2からEUVパルス放射を放出する動作を数Gショット行うと発生する場合もあった。
これに対して、保護部材34を設置した構成では、回収配管12内での損傷は、上記数Gショットの4倍の動作を行っても発生しなかった。
従って、保護部材34を用いることで、プラズマ原料5による浸食を防止することが可能となった。
【0089】
図6A及びBは、保護部材34を用いた他の構成例を示す模式図である。
図6Aに示す例では、プラズマ原料5の液面レベルが最下端レベルBLとなった場合に、回収配管12の配管流出口24が、リザーバ10に収容されたプラズマ原料5とは接触しない状態となる。
このような状態では、図2Bに示すように回収配管12より流入してくるプラズマ原料5が液面18と衝突する位置がリザーバ10の内壁に近い場合には、リザーバ10の内壁にて、浸食が発生する可能性が高い。
一方、図3Aに示すように、回収配管12より流入してくるプラズマ原料5が液面18と衝突する位置がリザーバ10の内壁から遠い場合には、リザーバ10の内壁に浸食は発生しない。
従って、回収配管12からのプラズマ原料5の流出位置を、リザーバ10の内壁から遠ざけることで、リザーバ10の内壁の浸食を防止することが可能となる。
【0090】
図6Aに示す例では、回収配管12に挿入される保護部材34が、回収配管12の配管流出口24からリザーバ10の内部に向かって突出するように配置される。保護部材34の配管流出口24から突出する部分も、突出部41とする。
突出部41の先端が、配管流出口24から流出されたプラズマ原料5をリザーバ10に収容されたプラズマ原料5に向かって流出する流出口36となる。
【0091】
保護部材34の突出部41の長さの分だけ、プラズマ原料5の流出位置をリザーバ10の内壁から遠ざけることが可能となる。この結果、回収配管12より流入してくるプラズマ原料5が液面18と衝突する位置を、リザーバ10の内壁から遠ざけることが可能となり、リザーバ10の内壁の浸食を防止することが可能となる。
【0092】
図6Aに示す保護部材34は、プラズマ原料5の液面レベルが上方に移動した場合には、流体衝突面を包囲することで、回収配管12の内壁の浸食を防止することが可能である。そして、プラズマ原料5の液面レベルが下方に移動した場合には、プラズマ原料5の流出位置をリザーバ10の内壁から遠ざける機能を発揮する。
図6Aに示す保護部材34を、流出位置を移動させるための部材や、回収配管を延長するための部材と見做すことも可能である。
保護部材34のサイズ(長さ)は、回収配管12の内壁の浸食を防止可能であり、プラズマ原料5の流出位置をリザーバ10の内壁から十分に遠ざけることが可能なように、適宜設計されればよい。
【0093】
図6Aに示すように、保護部材34の流出口36から流出したプラズマ原料5が液面18に衝突する際に、プラズマ原料5の飛沫42が発生する場合がある。
上記したように、リザーバ10の原料供給空間S1には、プラズマ原料5を補充するためのプラズマ原料補充用ポートが設けられている。
プラズマ原料5が液面18に衝突したときに発生した飛沫42が、プラズマ原料補充用ポートの充填口に付着して堆積すると、原料供給空間S1へのプラズマ原料5の補填が難しくなる。
【0094】
このような不具合を抑制するために、図6Bに示すように、保護部材34の先端がリザーバ10内のプラズマ原料5の液面18と平行となるように構成することが好ましい。
すなわち、リザーバ10に収容されたプラズマ原料5の液面18に対して傾斜した方向に沿って延在する突出部41の、流出口36が構成される端面43が液面18と平行となるように構成される。
このように構成することで、保護部材34の端面43により、流体衝突面(液面18)のより大きな領域を上方から覆うことが可能となる。これにより、飛沫42の一部は保護部材34の内部に進入し、プラズマ原料補充用ポートの充填口に到達する量が減少する。
この結果、プラズマ原料補充用ポートを介した、リザーバ10の原料供給空間S1へのプラズマ原料5の供給が困難になるという不具合を抑制することができる
なお、プラズマ原料5の飛沫42がプラズマ原料補充用ポートの充填口に到達することを抑制する他の任意の構成が採用されてよい。
例えば、保護部材34の端面43が、液面18に対して若干斜めの角度となるように構成されてもよい。一方で、保護部材34の端面43を液面18に対して平行に構成することで、保護部材34の加工や設計が容易となり、保護部材34の製造コストを抑えることが可能となる。
【0095】
以上、本実施形態に係るプラズマ原料供給機構1、及びEUV光源装置2では、回収配管12の内壁に保護部材34が配置される。保護部材34は、回収配管12を流れるプラズマ原料5とリザーバ10に収容されたプラズマ原料5とが衝突する位置に対応する部分を覆うように配置される。これにより、プラズマ原料5により回収配管12が浸食されてしまうことを防止することが可能となる。
【0096】
また本発明を適用することで、回収配管12の設計を変更することなく、回収配管12の内壁の衝撃耐性を向上させることが可能となる。これにより、回収配管12の内壁に形成されたTiNコーティングを保護することが可能となり、回収配管12の腐食を防ぐことが可能となる。この結果、回収配管12の寿命を延ばすことが可能となり、冷却システムの高寿命化を実現することが可能となる。
このことは、プラズマ原料供給機構1及びEUV光源装置2の高寿命化の実現にもつながる。
【0097】
[EUV光源装置]
EUV光源装置の基本的な構成例及び動作例について説明する。
図7は、極端紫外光光源装置(EUV光源装置)のチャンバ内および接続チャンバ内を水平方向に切断して示す断面図である。なおここではLDP方式のEUV光源装置を例にとる。
以下の説明では、EUV光源装置の理解をより容易とするために、上記ですでに説明した要素について、改めて新たな符号をつけて説明を行っている箇所もある。
【0098】
EUV光源装置2は、極端紫外光(EUV光)を放出する。この極端紫外光の波長は、例えば、13.5nmである。EUV光は、本発明に係る放射線の一実施形態に相当する。
EUV光源装置2は、放電を発生させる一対の放電電極EA,EBの表面にそれぞれ供給された液相のプラズマ原料SA,SBにレーザビームLB等のエネルギービームを照射して当該プラズマ原料SA,SBを気化させる。その後、放電電極EA,EB間の放電領域Dの放電によってプラズマPを発生させる。プラズマPからはEUV光が放出される。
【0099】
EUV光源装置2は、例えば、半導体デバイス製造におけるリソグラフィ装置の光源装置、又はリソグラフィに使用されるマスクの検査装置の光源装置として使用可能である。
例えば、EUV光源装置2がマスク検査装置用の光源装置と使用される場合、プラズマPから放出されるEUV光の一部が取り出され、マスク検査装置に導光される。
マスク検査装置は、EUV光源装置2から放出されるEUV光を検査光として、マスクのブランクス検査またはパターン検査を行う。ここで、EUV光を用いることにより、5nm~7nmプロセスに対応することができる。なお、EUV光源装置2から取り出されるEUV光は、図7の遮熱板65に設けられた開口(図示は省略)により規定される。
【0100】
図7に示すように、EUV光源装置2は、光源部52と、デブリ捕捉部53とを有する。
光源部52は、LDP方式に基づいてEUV光を発生させる。
デブリ捕捉部53は、光源部52から放射されるEUV光とともに飛散するデブリを捕捉するデブリ低減装置である。光源部52で発生したデブリ、及びデブリ捕捉部53で捕捉されたデブリ等は、デブリ捕捉部53の下方側に配置されるデブリ収容部(図示は省略)に収容される。
【0101】
光源部52は、内部で生成されるプラズマPを外部と隔離するチャンバ54を備える。チャンバ54は、プラズマPを生成する光源部52を収容するプラズマ生成室を形成する。
チャンバ54は、剛体、例えば、金属製の真空筐体であり、その内部は、プラズマ原料SA,SBを加熱励起するための放電を良好に発生させ、EUV光の減衰を抑制するために、図示しない真空ポンプにより所定圧力以下の減圧雰囲気に維持される。
【0102】
光源部52は、一対の放電電極EA,EBを備える。
放電電極EA,EBは、同形同大の円板状部材であり、例えば、放電電極EAがカソードとして使用され、放電電極EBがアノードとして使用される。
放電電極EA,EBは、例えば、モリブデン(Mo)、タングステン(W)またはタンタル(Ta)などの高融点金属から形成される。
放電電極EA,EBは、互いに離隔した位置に配置され、放電電極EA,EBの周縁部が近接している。このとき、プラズマPが生成される放電領域Dは、放電電極EA,EBの周縁部が互いに最も接近した放電電極EA,EB間の間隙に位置する。
【0103】
チャンバ54の内部には、液相のプラズマ原料SAが貯留されるコンテナCAと、液相のプラズマ原料SBが貯留されるコンテナCBとが配置される。
各コンテナCA,CBには、加熱された液相のプラズマ原料SA,SBが供給される。液相のプラズマ原料SA,SBは、例えば、スズ(Sn)であるが、リチウム(Li)であってもよい。
【0104】
コンテナCAは、放電電極EAの下部が液相のプラズマ原料SAに浸されるようにプラズマ原料SAを収容する。コンテナCBは、放電電極EBの下部が液相のプラズマ原料SBに浸されるようにプラズマ原料SBを収容する。
従って、放電電極EA,EBの下部には、液相のプラズマ原料SA,SBが付着する。放電電極EA,EBの下部に付着した液相のプラズマ原料SA,SBは、放電電極EA,EBの回転に伴って、プラズマPが生成される放電領域Dに輸送される。
【0105】
放電電極EAは、モータMAの回転軸JAに連結され、放電電極EAの軸線周りに回転する。放電電極EBは、モータMBの回転軸JBに連結され、放電電極EBの軸線周りに回転する。
モータMA,MBは、チャンバ54の外部に配置され、各モータMA,MBの回転軸JA,JBは、チャンバ54の外部から内部に延びる。回転軸JAとチャンバ54の壁の間の隙間は、シール部材PAで封止され、回転軸JBとチャンバ54の壁の間の隙間は、シール部材PBで封止される。
シール部材PA,PBは、例えば、メカニカルシールである。各シール部材PA,PBは、チャンバ54内の減圧雰囲気を維持しつつ、回転軸JA,JBを回転自在に支持する。
【0106】
図7に示すように、EUV光源装置2は、さらに、制御部55と、パルス電力供給部56と、レーザ源(エネルギービーム照射装置)57と、可動ミラー58をさらに備える。
制御部55、パルス電力供給部56、レーザ源57および可動ミラー58は、チャンバ54の外部に設置される。
制御部55は、EUV光源装置2の各部の動作を制御する。例えば、制御部55は、モータMA,MBの回転駆動を制御し、放電電極EA,EBを所定の回転数で回転させる。また、制御部55は、パルス電力供給部56の動作、レーザ源57からのレーザビームLBの照射タイミングなどを制御する。
【0107】
パルス電力供給部56から延びる2つの給電線QA,QBは、フィードスルーFA,FBを通過して、チャンバ54の内部に配置されたコンテナCA,CBにそれぞれ接続される。
フィードスルーFA,FBは、チャンバ54の壁に埋設されてチャンバ54内の減圧雰囲気を維持するシール部材である。
コンテナCA,CBは、導電性材料から形成され、各コンテナCA,CBの内部に収容されるプラズマ原料SA,SBもスズなどの導電性材料である。
各コンテナCA,CBの内部に収容されているプラズマ原料SA,SBには、放電電極EA,EBの下部がそれぞれ浸されている。従って、パルス電力供給部56からパルス電力がコンテナCA,CBに供給されると、そのパルス電力は、プラズマ原料SA,SBをそれぞれ介して放電電極EA,EBに供給される。
【0108】
パルス電力供給部56は、放電電極EA,EBへパルス電力を供給することにより、放電領域Dで放電を発生させる。
そして、各放電電極EA,EBの回転に基づいて放電領域Dに輸送されたプラズマ原料SA,SBが放電時に放電電極EA,EB間に流れる電流により加熱励起されることで、EUV光を放出するプラズマPが生成される。
【0109】
レーザ源57は、放電領域Dに輸送された放電電極EAに付着したプラズマ原料SAにエネルギービームを照射して、当該プラズマ原料SAを気化させる。レーザ源57は、例えば、Nd:YVO(Neodymium-doped Yttrium Orthovanadate)レーザ装置である。
このとき、レーザ源57は、波長1064nmの赤外領域のレーザビームLBを発する。ただし、エネルギービーム照射装置は、プラズマ原料SAの気化が可能であれば、レーザビームLB以外のエネルギービームを発する装置であってもよい。
【0110】
レーザ源57から放出されたレーザビームLBは、例えば、集光レンズ59を含む集光手段を介して可動ミラー58に導かれる。集光手段は、放電電極EAのレーザビーム照射位置におけるレーザビームLBのスポット径を調整する。集光レンズ59および可動ミラー58は、チャンバ54の外部に配置される。
【0111】
集光レンズ59で集光されたレーザビームLBは、可動ミラー58により反射され、チャンバ54の側壁54aに設けられた透明窓60を通過して、放電領域D付近の放電電極EAの周縁部に照射される。可動ミラー58の姿勢を調整することにより、放電電極EAにおけるレーザビームLBの照射位置が調整される。
【0112】
放電領域D付近の放電電極EAの周縁部にレーザビームLBを照射するのを容易にするため、放電電極EA,EBの軸線は平行ではない。
回転軸JA,JBの間隔は、モータMA,MB側が狭く、放電電極EA,EB側が広くなっている。
これにより、放電電極EA,EBの対向面側を接近させつつ、放電電極EA,EBの対向面側とは反対側をレーザビームLBの照射経路から退避させることができ、放電領域D付近の放電電極EAの周縁部にレーザビームLBを照射するのを容易にすることができる。
【0113】
放電電極EBは、放電電極EAと可動ミラー58との間に配置される。
可動ミラー58で反射されたレーザビームLBは、放電電極EBの外周面付近を通過した後、放電電極EAの外周面に到達する。
このとき、レーザビームLBが放電電極EBで遮光されないように、放電電極EBは、放電電極EAよりも、モータMB側の方向(図7の左側)に退避される。
放電領域D付近の放電電極EAの外周面に付着された液相のプラズマ原料SAは、レーザビームLBの照射により気化され、気相のプラズマ原料SAとして放電領域Dに供給される。
【0114】
放電領域DでプラズマPを発生させるため(気相のプラズマ原料SAをプラズマ化するため)、パルス電力供給部56は、放電電極EA,EBに電力を供給する。
そして、レーザビームLBの照射により放電領域Dに気相のプラズマ原料SAが供給されると、放電領域Dにおける放電電極EA,EB間で放電が生じる。
放電電極EA、EB間で放電が発生すると、放電領域Dにおける気相のプラズマ材料SAが電流により加熱励起されて、プラズマPが発生する。生成されたプラズマPから放射されるEUV光は、チャンバ54の側壁54bに設けられた貫通孔である第1窓部61を通ってデブリ捕捉部53へ入射する。
【0115】
デブリ捕捉部53は、チャンバ54の側壁54bに配置された接続チャンバ62を有する。接続チャンバ62は、剛体、例えば、金属製の真空筐体であり、その内部は、チャンバ54と同様、EUV光の減衰を抑制するために所定圧力以下の減圧雰囲気に維持される。接続チャンバ62は、チャンバ54と利用装置90(例えばリソグラフィ装置やマスク検査装置)との間に接続される。
【0116】
接続チャンバ62の内部空間は、第1窓部61を介してチャンバ54と連通する。接続チャンバ62は、第1窓部61から入射したEUV光を利用装置90へ導入する光取出し部としての第2窓部63を有する。第2窓部63は、接続チャンバ62の側壁62aに形成された所定形状の貫通孔である。
放電領域DのプラズマPから放出されたEUV光は、第1窓部61及び第2窓部63を通じて利用装置90に導入される。
【0117】
一方、プラズマPからはEUV光とともにデブリが高速で様々な方向に放散される。
デブリは、プラズマ原料SA、SBであるスズ粒子及びプラズマPの発生に伴いスパッタリングされる放電電極EA、EBの材料粒子を含む。
これらのデブリは、プラズマPの収縮および膨張過程を経て、大きな運動エネルギーを得る。すなわち、プラズマPから発生するデブリは、高速で移動するイオン、中性粒子および電子を含む。
このようなデブリは、利用装置90に到達すると、利用装置90内の光学素子の反射膜を損傷または汚染させ、性能を低下させることがある。
【0118】
そのため、デブリが利用装置90に侵入しないようにするため、デブリを捕捉するデブリ捕捉部53が接続チャンバ62内に設けられる。
図7に示す例では、デブリ捕捉部53として、複数のホイルを有し、回転することで複数のホイルをデブリと能動的に衝突させる回転式ホイルトラップ64が配置される。回転式ホイルトラップ64は、接続チャンバ62の内部にて、接続チャンバ62から利用装置90へと進行するEUV光の光路上に配置される。
回転式ホイルトラップ64に代えて、複数のホイルの位置が固定された固定式ホイルトラップが配置されてもよい。あるいは、回転式ホイルトラップ64及び固定式ホイルトラップの双方が設けられてもよい。
【0119】
<その他の実施形態>
本発明は、以上説明した実施形態に限定されず、他の種々の実施形態を実現することができる。
【0120】
上記では、液体金属を利用して動作する動作装置の一実施形態として、EUV光源装置を例に挙げた。そして、本発明に係る循環装置がEUV光源装置内に構成される場合を説明した。
本発明の適用は、EUV光源装置に限定されない。高性能回路、核反応炉、又はX線範囲の放射源の冷却などの様々な用途において、液体金属を冷媒として使用する様々な冷却システムに、本発明を適用することが可能である。
例えば、ナトリウム冷却高速炉等の高速増殖炉に対して、本発明を適用することも可能である。
また冷却システムとは異なる用途のシステムにおいても、液体金属を利用して動作する種々の装置に対して、本発明に係る循環機構を適用することが可能である。
【0121】
各図面を参照して説明したEUV光源装置、循環機構、保護部材等の各構成はあくまで一実施形態であり、本技術の趣旨を逸脱しない範囲で、任意に変形可能である。すなわち本技術を実施するための他の任意の構成が採用されてよい。
【0122】
本開示において、説明の理解を容易とするために、「略」「ほぼ」「おおよそ」等の文言が適宜使用されている。一方で、これら「略」「ほぼ」「おおよそ」等の文言を使用する場合と使用しない場合とで、明確な差異が規定されるわけではない。
すなわち、本開示において、「中心」「中央」「均一」「等しい」「同じ」「直交」「平行」「対称」「延在」「軸方向」「円柱形状」「円筒形状」「リング形状」「円環形状」等の、形状、サイズ、位置関係、状態等を規定する概念は、「実質的に中心」「実質的に中央」「実質的に均一」「実質的に等しい」「実質的に同じ」「実質的に直交」「実質的に平行」「実質的に対称」「実質的に延在」「実質的に軸方向」「実質的に円柱形状」「実質的に円筒形状」「実質的にリング形状」「実質的に円環形状」等を含む概念とする。
例えば「完全に中心」「完全に中央」「完全に均一」「完全に等しい」「完全に同じ」「完全に直交」「完全に平行」「完全に対称」「完全に延在」「完全に軸方向」「完全に円柱形状」「完全に円筒形状」「完全にリング形状」「完全に円環形状」等を基準とした所定の範囲(例えば±10%の範囲)に含まれる状態も含まれる。
従って、「略」「ほぼ」「おおよそ」等の文言が付加されていない場合でも、いわゆる「略」「ほぼ」「おおよそ」等を付加して表現され得る概念が含まれ得る。反対に、「略」「ほぼ」「おおよそ」等を付加して表現された状態について、完全な状態が必ず排除されるというわけではない。
【0123】
本開示において、「Aより大きい」「Aより小さい」といった「より」を使った表現は、Aと同等である場合を含む概念と、Aと同等である場合を含なまい概念の両方を包括的に含む表現である。例えば「Aより大きい」は、Aと同等は含まない場合に限定されず、「A以上」も含む。また「Aより小さい」は、「A未満」に限定されず、「A以下」も含む。
本技術を実施する際には、上記で説明した効果が発揮されるように、「Aより大きい」及び「Aより小さい」に含まれる概念から、具体的な設定等を適宜採用すればよい。
【0124】
以上説明した本技術に係る特徴部分のうち、少なくとも2つの特徴部分を組み合わせることも可能である。すなわち各実施形態で説明した種々の特徴部分は、各実施形態の区別なく、任意に組み合わされてもよい。また上記で記載した種々の効果は、あくまで例示であって限定されるものではなく、また他の効果が発揮されてもよい。
【符号の説明】
【0125】
S1…原料供給空間
1…プラズマ原料供給機構
2…EUV光源装置
3…プラズマ源
4…放電電極
5…プラズマ原料(液体金属)
6…コンテナ
10…リザーバ
11…供給配管
12…回収配管
13…ポンプ
14…冷却機構
16…回収側接続孔
17…供給側接続孔
18、30…液体金属の液面
23…配管流入口
24…配管流出口
34…保護部材
35…流入口
36…流出口
41…突出部
43…流出口を構成する端面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7