(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147094
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】アイソレータ及びアイソレータの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 6/126 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
G02B6/126
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054656
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100132045
【弁理士】
【氏名又は名称】坪内 伸
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【弁理士】
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】後藤 太一
(72)【発明者】
【氏名】杉田 丈也
(72)【発明者】
【氏名】丹波 泰之
(72)【発明者】
【氏名】井上 広章
【テーマコード(参考)】
2H147
【Fターム(参考)】
2H147AB02
2H147AB04
2H147AB11
2H147AB22
2H147AC07
2H147BD02
2H147BE03
2H147BE11
2H147DA09
2H147DA10
2H147EA07D
2H147EA13A
2H147EA13C
2H147EA14B
2H147EA14C
2H147EA16C
2H147FA05
2H147FA09
2H147FB01
2H147FC02
2H147FC05
(57)【要約】
【課題】非相反性材料による基板上の素子に対する影響を低減するアイソレータ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】アイソレータ10は、基板50と、基板50上に位置する導波路21、22及び電子回路60と、導波路21、22及び電子回路60の上に位置する非相反性部材40とを備える。非相反性部材40のうち電子回路60から所定範囲62内に位置する部分における非相反性は、導波路21、22に接触する部分における非相反性よりも弱い状態になっている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上に位置する導波路及び電子回路と、
前記導波路及び前記電子回路の上に位置する非相反性部材と
を備え、
前記非相反性部材のうち前記電子回路から所定範囲内に位置する部分における非相反性は、前記導波路に接触する部分における非相反性よりも弱い状態になっている、
アイソレータ。
【請求項2】
前記非相反性部材は、YIG(イットリウム・鉄・ガーネット)を含む、請求項1に記載のアイソレータ。
【請求項3】
前記非相反性部材のうち前記電子回路から所定範囲内に位置する部分における結晶化の度合いは、前記導波路に接触する部分における結晶化の度合いよりも小さい、請求項1又は2に記載のアイソレータ。
【請求項4】
前記非相反性部材の結晶化された部分の格子定数は、前記基板のうち前記非相反性部材の結晶化された部分に接している部分の格子定数と異なる、請求項1から3までのいずれか一項に記載のアイソレータ。
【請求項5】
前記非相反性部材の結晶化された部分と前記基板との間に、前記非相反性部材又は前記基板の非晶質の部分が位置する、請求項4に記載のアイソレータ。
【請求項6】
前記非相反性部材の結晶化された部分において所定粒径以上の粒径を有する結晶の割合が所定割合以上である、請求項1から5までのいずれか一項に記載のアイソレータ。
【請求項7】
基板の上に導波路及び電子回路を形成し、
前記導波路及び前記電子回路の上に非相反性部材を形成し、
前記非相反性部材のうち前記導波路に接触する部分を含み、かつ、前記電子回路から所定範囲内を含まない範囲にレーザ光を照射する、
アイソレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アイソレータ及びアイソレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気光学材料Ce:YIGを導波層として用いる光アイソレータが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非相反性材料を用いたアイソレータを半導体基板上に形成する場合、非相反性材料による半導体基板上の素子に対する影響を低減することが求められる。
【0005】
本開示は、非相反性材料による基板上の素子に対する影響を低減できるアイソレータ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態に係るアイソレータは、基板と、前記基板の上に位置する導波路及び電子回路と、前記導波路及び前記電子回路の上に位置する非相反性部材とを備える。前記非相反性部材のうち前記電子回路から所定範囲内に位置する部分における非相反性は、前記導波路に接触する部分における非相反性よりも弱い状態になっている。
【0007】
本開示の一実施形態に係るアイソレータの製造方法は、基板の上に導波路及び電子回路を形成することと、前記導波路及び前記電子回路の上に非相反性部材を形成することとを含む。前記アイソレータの製造方法は、前記非相反性部材のうち前記導波路に接触する部分を含み、かつ、前記電子回路から所定範囲内を含まない範囲にレーザ光を照射することを含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施形態に係るアイソレータ及びその製造方法によれば、非相反性材料による基板上の素子に対する影響が低減され得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係るアイソレータの構成例を示す平面図である。
【
図3】導波路が略円形のレーザ照射領域内につづら折り状に配置される構成例を示す平面図である。
【
図4】レーザを照射する構成例を示す側面図である。
【
図5】非相反性部材に照射するレーザパワーと、レーザを照射された非相反性部材のファラデー回転角との関係を示すグラフである。
【
図6】非相反性部材にレーザを照射するときのレンズ位置と、レーザを照射された非相反性部材のファラデー回転角との関係を示すグラフである。
【
図7】ファラデー回転角が大きいときの非相反性部材の表面の写真例である。
【
図8】ファラデー回転角が小さいときの非相反性部材の表面の写真例である。
【
図9】結晶化した非相反性部材のXRD測定の結果の一例を示すグラフである。
【
図10A】基板の上に導波路と電子回路と絶縁層とを形成する工程を示す断面図である。
【
図10B】導波路の側面が露出するように絶縁層に溝を形成し、更に非相反性部材を成膜する工程を示す断面図である。
【
図10C】非相反性部材の一部にレーザを照射して結晶化させる工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(アイソレータ10の構成例)
図1及び
図2に示されるように、一実施形態に係るアイソレータ10は、基板50の上に形成された、第1導波路21と、第2導波路22と、非相反性部材40と、第1分岐部81と、第2分岐部82とを備える。第1導波路21及び第2導波路22は、単に導波路とも称される。非相反性材料とは、磁気光学効果により、物質から受ける効果が、光の伝搬方向によって異なる材料である。
【0011】
アイソレータ10は、第1分岐部81に入力されたTEモードの電磁波を第2分岐部82に透過させ、第2分岐部82に入力されたTEモードの電磁波を遮断して第1分岐部81に透過させないように構成される。電磁波が第1分岐部81から第2分岐部82に伝搬する方向は、第1方向とも称される。電磁波が第2分岐部82から第1分岐部81に伝搬する方向は、第2方向とも称される。つまり、アイソレータ10は、TEモードの電磁波を第1方向に透過させ、第2方向に透過させない。
【0012】
アイソレータ10の第1分岐部81に入力される電磁波は、光源から射出される。光源は、基板50の上に設けられてよい。アイソレータ10の第2分岐部82から出力される電磁波は、変調器によって信号に変換される。変調器によって変換された信号は、高周波伝送回路から外部に伝送される。変調器又は高周波伝送回路は、基板50の上に設けられてよい。光源、変調器又は高周波伝送回路は、電子回路60と総称されるとする。
【0013】
アイソレータ10は、非対称マッハツェンダー干渉計の原理を用いて非対称な電磁波の伝搬特性を実現する。アイソレータ10は、第1導波路21を第1方向に伝搬する電磁波の位相のずれと第2導波路22を第1方向に伝搬する電磁波の位相のずれとが同じになるように構成される。また、アイソレータ10は、第1導波路21を第2方向に伝搬する電磁波の位相のずれと第2導波路22を第2方向に伝搬する電磁波の位相のずれとの間に波長の1/4に相当する分(90度の位相)だけ差が生じるように構成される。
【0014】
位相のずれは、導波路の線路長によって調整され得るし、導波路の実効屈折率によって調整され得る。アイソレータ10は、非相反性部材40が存在しない場合に第1導波路21を伝搬する電磁波の位相が第2導波路22を伝搬する電磁波の位相よりも90度だけ進むように構成されるとする。非相反性部材40が存在しない場合、電磁波がアイソレータ10を第1方向に伝搬する場合でも第2方向に伝搬する場合でも第1導波路21を伝搬する電磁波の位相が第2導波路22を伝搬する電磁波の位相よりも90度だけ進む。したがって、単に導波路の線路長又は実効屈折率を設定しても、第1方向に伝搬する電磁波の位相のずれ方と第2方向に伝搬する電磁波の位相のずれ方とが同じになる。そこで、アイソレータ10は、導波路を第1方向に伝搬する電磁波の位相のずれと第2方向に伝搬する電磁波の位相のずれとを異ならせるように、導波路の少なくとも一部に沿って位置する非相反性部材40を備える。非相反性部材40を備える導波路は、磁場の印加によって非相反性導波路として機能する。
【0015】
非相反性導波路は、伝搬する電磁波の位相を進ませたり遅らせたりする。本実施形態に係るアイソレータ10は、電磁波の伝搬方向に向かって導波路を見たときに非相反性部材40が導波路の右側に位置する場合に、その電磁波の位相を波長の1/8に相当する分(45度の位相)だけ遅らせるとする。また、アイソレータ10は、電磁波の伝搬方向に向かって導波路を見たときに非相反性部材40が導波路の左側に位置する場合に、その電磁波の位相を波長の1/8に相当する分(45度の位相)だけ進ませるとする。
【0016】
図1の例において、電磁波が第1方向(
図1でX軸の正の方向)に伝搬する場合、非相反性部材40は、第1導波路21の第1方向に向かって右側に位置する。また、非相反性部材40は、第2導波路22の第1方向に向かって左側に位置する。したがって、第1方向に伝搬する電磁波の位相は、第1導波路21で45度だけ遅れ、第2導波路22で45度だけ進む。上述したように、アイソレータ10は、非相反性部材40が存在しない場合に第1導波路21を第1方向に伝搬する電磁波の位相が第2導波路22を第1方向に伝搬する電磁波の位相に対して90度だけ進むように構成される。そうすると、第1導波路21を第1方向に向かって伝搬する電磁波の位相の進みが45度になる。一方で、第2導波路22を第1方向に向かって伝搬する電磁波の位相の進みが45度になる。その結果、第1導波路21を第1方向に向かって伝搬する電磁波の位相のずれと第2導波路22を第1方向に向かって伝搬する電磁波の位相のずれとの差が0度になる。つまり、第1導波路21を第1方向に向かって伝搬する電磁波の位相のずれと第2導波路22を第1方向に向かって伝搬する電磁波の位相のずれとが同じになる。
【0017】
一方で、電磁波が第2方向(
図1でX軸の負の方向)に伝搬する場合、非相反性部材40は、第1導波路21の第2方向に向かって左側に位置する。また、非相反性部材40は、第2導波路22の第2方向に向かって右側に位置する。したがって、第2方向に伝搬する電磁波の位相は、第1導波路21で45度だけ進み、第2導波路22で45度だけ遅れる。上述したように、アイソレータ10は、非相反性部材40が存在しない場合に第1導波路21を第2方向に伝搬する電磁波の位相が第2導波路22を第2方向に伝搬する電磁波の位相よりも90度だけ進むように構成される。そうすると、第1導波路21を第2方向に向かって伝搬する電磁波の位相の進みが135度になる。一方で、第2導波路22を第2方向に向かって伝搬する電磁波の位相の遅れが45度になる。その結果、第1導波路21を第2方向に向かって伝搬する電磁波の位相のずれと第2導波路22を第1方向に向かって伝搬する電磁波の位相のずれとの差が180度になる。
【0018】
以上述べてきたように構成されるアイソレータ10において、第1導波路21を伝搬する電磁波と第2導波路22を伝搬する電磁波との間の位相差が、第1方向に伝搬する場合において0度になり、第2方向に伝搬する場合において180度になる。このようにすることで、アイソレータ10は、第1方向に伝搬する電磁波を透過させ、第2方向に伝搬する電磁波を透過させないように構成される。
【0019】
アイソレータ10の導波路及び非相反性部材40は、基板面50Aを有する基板50の上に形成されている。基板50は、金属等の導体、シリコン等の半導体、ガラス、又は樹脂等を含んで構成されてよい。本実施形態において、基板50は、シリコン(Si)であるとするが、これに限られず、他の種々の材料であってよい。
【0020】
基板50は、基板面50Aの上にシリコン酸化膜等の絶縁体で構成されるボックス層52を備える。導波路は、ボックス層52の上に位置する。基板50は、導波路の上に位置する絶縁層54を更に備える。基板50は、ボックス層52の上、又は、絶縁層54の中若しくは上に位置する電子回路60を更に備える。
【0021】
基板50は、導波路の少なくとも一部を露出させるように絶縁層54に設けられている溝30を更に備える。溝30は、導波路に沿って延在する。溝30は、その延在方向(
図1においてX軸方向)に向かって見た断面(
図2)において底部と側部とを有する。溝30の底部の位置は、
図2に示されるようにボックス層52の中であってもよいし、導波路の下面(ボックス層52の上面)の位置と略同一であってよい。
【0022】
基板50は、絶縁層54、溝30、及び溝30で露出している導波路を覆う非相反性部材40を更に備える。非相反性部材40は、基板50への成膜によって形成され、溝30の底部及び側部、並びに、絶縁層54の上面に位置する。非相反性部材40は、第1導波路21及び第2導波路22に沿って位置する溝30において、第1導波路21及び第2導波路22の側面に接触する。
【0023】
導波路は、ボックス層52と絶縁層54と非相反性部材40とに囲まれている。導波路は、コアとも称される。ボックス層52及び絶縁層54は、クラッドとも称される。コア及びクラッドは、誘電体を含んで構成されてよい。導波路は、誘電体線路とも称される。コア及びクラッドの材質は、コアの比誘電率がクラッドの比誘電率よりも大きくなるように定められる。言い換えれば、コア及びクラッドの材質は、クラッドの屈折率がコアの屈折率より大きくなるように定められる。このようにすることで、コアを伝搬する電磁波は、クラッドとの境界において全反射され得る。その結果、コアを伝搬する電磁波の損失が低減され得る。
【0024】
コア及びクラッドの比誘電率は、空気の比誘電率よりも大きくされてよい。コア及びクラッドの比誘電率が空気の比誘電率よりも大きくされることで、アイソレータ10からの電磁波の漏れが抑制され得る。結果として、アイソレータ10から外部に電磁波が放射されることによる損失が低減され得る。
【0025】
本実施形態において、コアとしての導波路の材質は、シリコン(Si)であるとするが、これに限られず、他の種々の材料であってよい。クラッドとしてのボックス層52及び絶縁層54の材質は、石英ガラス又はシリコン酸化膜(SiO2)であるとするが、これに限られず、他の種々の材料であってよい。シリコン及び石英ガラスの比誘電率はそれぞれ、約12及び約2である。シリコンは、約1.2μm~約6μmの近赤外波長を有する電磁波を低損失で伝搬させ得る。導波路は、シリコンで構成される場合、光通信で使用される1.3μm帯又は1.55μm帯の波長を有する電磁波を低損失で伝搬させ得る。
【0026】
本実施形態において、非相反性部材40の材料としてCe:YIG(セリウム置換のイットリウム・鉄・ガーネット)が用いられる。非相反性部材40の材料として、Bi:YIG(ビスマス置換のYIG)等のYIGの一部置換物質のような透明状磁性体が用いられてもよい。これらに限られず他の種々の磁性材料が非相反性部材40として用いられてよい。
【0027】
YIG系の非相反性部材40は、その結晶化が十分に進行することによって十分な非相反性を発現させる。非相反性部材40を所定温度以上に加熱することによって非相反性部材40の結晶化が進行する。しかし、基板50に形成された導波路又は配線等の他の構成への影響を考慮すれば、非相反性部材40の成膜時において基板50の全体を所定温度以上に加熱することは難しい。したがって、基板50を加熱しない状態の成膜によって溝30に形成された非相反性部材40は、十分に結晶化されておらず、そのままで十分な非相反性を発現させない。
【0028】
そこで、本実施形態に係るアイソレータ10において、非相反性部材40を結晶化させるために、レーザ光の照射によって非相反性部材40が加熱される。レーザ光として、非相反性部材40による光の吸収効率が高い波長の光が用いられる。非相反性部材40がCe:YIGである場合、可視光の吸収効率が高い。したがって、加熱のために可視光レーザが用いられてよい。
【0029】
非相反性部材40によって発現する非相反性は、導波路を進行する電磁波の位相に対して影響を及ぼすとともに、電子回路60の動作に対しても影響を及ぼし得る。本実施形態に係るアイソレータ10において、電子回路60を含む影響範囲62の中に位置する非相反性部材40は、非相反性を発現しない、又は、弱い非相反性しか発現しないように構成される。逆に、導波路に接触する部分に位置する非相反性部材40は、導波路を進行する電磁波の位相が所定値(例えば45度)だけ進んだり遅れたりするために必要な非相反性を発現するように構成される。
【0030】
非相反性部材40のうち、導波路に接触する部分に位置して必要な非相反性を発現するように構成される部分は、第1部分41とも称される。非相反性部材40のうち、電子回路60を含む影響範囲62の中に位置して電子回路60に影響を及ぼすほどの非相反性を発現しないように構成される部分は、第2部分42とも称される。第2部分42は、非相反性部材40の中において、第1部分41よりも弱い非相反性しか発現しない部分、又は、非相反性を発現しない部分に相当する。言い換えれば、非相反性部材40のうち電子回路60から所定範囲内(影響範囲62の中)に位置する部分(第2部分42)における非相反性は、導波路に接触する部分(第1部分41)における非相反性よりも弱い状態になっている。
【0031】
本実施形態に係るアイソレータ10において、レーザ光を照射して非相反性部材40を加熱する際に、非相反性部材40が第1部分41と第2部分42とを含むように、レーザ光が部分的に照射される。レーザ光は、第1部分41の結晶化を進行させ、第2部分42の結晶化を進行させないように、基板50の上に成膜した非相反性部材40のうち第1部分41に照射される。このようにすることで、非相反性部材40は、選択的に結晶化され得る。その結果、結晶化した非相反性部材40の第1部分41による電子回路60に対する影響が低減され得る。
【0032】
非相反性部材40を加熱する際に、電子回路60の温度が上昇し得る。電子回路60の温度の上昇は、電子回路60の特性を変化させ得る。つまり、非相反性部材40の加熱は電子回路60に影響を及ぼし得る。電子回路60を含む影響範囲62にレーザ光が照射されないことによって、電子回路60の温度が上昇しにくくなる。言い換えれば、レーザ光が選択的に照射されることによって、電子回路60に対する影響が低減され得る。
【0033】
アイソレータ10は、レーザ光が非相反性部材40の第1部分41に照射されて第2部分42に照射されないようにレーザ光を遮断又は減衰させるマスクを備えてもよい。マスクは、レーザ光の透過率が透過閾値未満になるように、例えばアルミ等の金属を材料として構成されてよい。
【0034】
以上述べてきたように、本実施形態に係るアイソレータ10において、電子回路60等の基板50の上の素子に影響を及ぼしにくいように、非相反性部材40が選択的に加熱される。このようにすることで、加熱処理を必要とする材料を非相反性部材40として用いた場合でも、電子回路60等の基板50の上の素子に及ぼす影響が低減され得る。
【0035】
図3に示されるように、第1導波路21及び第2導波路22はそれぞれ、つづら折り状に配置されてもよい。言い換えれば、導波路は、延在方向が変化する部分を有してよい。導波路は、略円形の領域の中につづら折り状に位置してもよい。導波路は、略円形のレーザ照射領域LSの中に入るように配置されてよい。このようにすることで、レーザ光が非相反性部材40の加熱に有効に利用され得る。また、電子回路60等の素子は、レーザ照射領域LSの外に配置されてよい。このようにすることで、レーザ光照射が電子回路60等の基板50の上の素子に影響を及ぼしにくくなる。
【0036】
図4に示されるように、本実施形態に係るアイソレータ10において、非相反性部材40に対してレーザ光を照射するために、照射装置70が用いられてよい。照射装置70は、レーザ光源72と、レンズ74と、ステージ78とを備える。ステージ78は、基板50を載置可能に構成される。レーザ光源72は、レーザ光76を射出する。レーザ光76は、レンズ74によって収束される。収束されたレーザ光76は、ステージ78の上に載置されている基板50の上の非相反性部材40に入射して非相反性部材40を加熱する。基板50の上においてレーザ光76が照射される範囲は、LSとして表される。ステージ78は、XY平面に沿って基板50の位置を制御可能に構成される。照射装置70は、ステージ78の上で基板50の位置を制御し、かつ、レーザ光源72からのレーザ光76の射出を制御することによって、基板50に対してレーザ光76を照射する範囲を制御する。
【0037】
レーザ光76は、パルスレーザであってもよいし、連続発振レーザ(CW発振レーザ)であってもよい。レーザ光76がパルスレーザである場合、短時間で大きいエネルギーが非相反性部材40に与えられる。このようにすることで、基板50に熱が逃げる前に非相反性部材40の温度が上昇する。その結果、非相反性部材40が効率的に加熱される。パルスレーザの条件は、例えば、以下のように設定されてよい。
・波長:532ナノメートル(nm)
・走査速度:100マイクロメートル毎秒(μm/s)~10ミリメートル毎秒(mm/s)
・レーザ照射スポットの直径:1~1000マイクロメートル(μm)
・出力平均パワー:0.1~10ワット(W)
【0038】
基板50が大気中で加熱される場合、基板50に含まれる導波路又は電子回路60等の素子が酸化され得る。基板50に含まれる素子が酸化されないように、照射装置70は、基板50を載置するステージ78を収容する真空チャンバを更に備えてよい。レーザ光源72又はレンズ74は、真空チャンバの中に収容されてもよいし、真空チャンバの外に設置されてもよい。レーザ光源72又はレンズ74が真空チャンバの外に設置される場合、真空チャンバは、レーザ光76を透過させる窓を有してよい。
【0039】
<非相反性部材40の状態の特定>
非相反性部材40の状態は、ファラデー回転角の測定値によって特定されてよい。非相反性部材40のファラデー回転角の測定値が大きいほど、その非相反性部材40によって発現する非相反性が強い。
図5及び
図6に例示されるように、ファラデー回転角の測定値は、レーザ光76のパワー又はレンズ74の位置に応じて変化する。
図5及び
図6の縦軸は、非相反性部材40のファラデー回転角の測定値を表す。
図5の横軸は、レーザ光76のパワーを表す。
図6の横軸は、レンズ74の位置を表す。
【0040】
レーザ光76のパワーが大きいほど、レーザ光76を非相反性部材40に照射したときの非相反性部材40の温度が高くなる。また、レーザ光76をレンズ74によって収束させたときのレンズ74の焦点位置が非相反性部材40の位置に近いほど、レーザ光76のパワーが非相反性部材40の加熱に効率的に利用され、非相反性部材40の温度が高くなる。
【0041】
具体的に、
図5に示されるように、レーザ光76のパワーがR1で表される範囲内であるときに、ファラデー回転角がFTHで表される閾値以上になっている。また、
図6に示されるように、レンズ74の位置がR2で表される範囲内であるときに、ファラデー回転角がFTHで表される閾値以上になっている。
図5及び
図6に示されるグラフによれば、照射装置70によるレーザ光76の照射条件が適切に設定されて非相反性部材40の温度が所定範囲内まで上昇することによって、非相反性部材40の結晶化が十分に進行し、ファラデー回転角が閾値以上になる。
【0042】
図7に写真として例示されるように、ファラデー回転角が閾値以上になったときの非相反性部材40は、十分に結晶化することによって略均一に結晶化されている。略均一に結晶化されている状態は、所定粒径以上の粒径を有する結晶の割合が所定割合以上になっている状態に対応する。言い換えれば、非相反性部材40に含まれる各結晶の粒径の差が小さくなっている。
【0043】
非相反性部材40の温度が十分に上昇しなかった場合(温度が低すぎた場合)、非相反性部材40の結晶化が十分に進行しないことによって、ファラデー回転角が大きくならない。
図8に写真として例示されるように、結晶化が不十分な箇所を含む非相反性部材40に含まれる各結晶の粒径の差が大きくなっている。また、非相反性部材40の温度が高くなりすぎた場合、非相反性部材40の構造相転移を生じ、磁気光学効果が消失する。
【0044】
非相反性部材40の結晶状態は、X線回折装置(XRD装置)で得られる測定結果によって特定され得る。XRDの測定は、測定対象の試料(結晶)におけるX線の回折条件を表すブラッグの式nλ=2d・sinθに基づく。dは、測定対象の試料(結晶)の原子配列の格子面間隔を表す。nは、X線の次数を表す。λは、XRD測定で用いる特性X線の波長を表す。θは、試料(結晶)の表面に対するX線の入射角度を表す。
【0045】
XRDの測定結果は、
図9に例示されるように、横軸をX線の回折角(2θ)とし、縦軸を回折強度としたグラフによって表される。回折角は、試料にX線が入射する方向と試料で回折したX線が進む方向との角度である。非相反性部材40がYIGである場合、結晶化が進んでいる非相反性部材40の測定波形にピークが現れる。非相反性部材40の第1部分41は、単結晶であってもよいし多結晶であってもよい。非相反性部材40の第1部分41が多結晶である場合、XRDの測定結果の波形において、
図9に例示されるように、P1、P2及びP3で表される3つのピークが現れ得る。非相反性部材40の第1部分41が単結晶である場合、XRDの測定結果の波形において、1つのピークが現れ得る。
【0046】
本実施形態に係るアイソレータ10は、非相反性部材40の第2部分42の結晶化の度合いが第1部分41の結晶化の度合いよりも小さくなるように構成される。結晶化の度合いは、XRDの測定波形のピークの強度によって特定され得る。第2部分42の測定結果のピークの強度が第1部分41の測定結果のピークの強度よりも低い場合、第2部分42の結晶化の度合いが第1部分41の結晶化の度合いよりも小さくなっていることが確認される。非相反性部材40の結晶化の度合いは、XRDに限られず、他の手法によっても特定され得る。例えば、非相反性部材40を透過型電子顕微鏡(TEM)等によってサブナノオーダーの分解能で観察した像に基づいて、非相反性部材40の結晶化の度合いが特定され得る。
【0047】
非相反性部材40の結晶化された部分(第1部分41)の格子定数は、基板50のうち非相反性部材40の結晶化された部分(第1部分41)に接している部分の格子定数と異なるように構成されてよい。本実施形態に係るアイソレータ10において、非相反性部材40は、成膜された後で結晶化される。したがって、第1部分41の格子定数は、基板50の格子定数と一致していなくてもよい。
【0048】
試料(結晶)の格子定数は、XRDの測定結果に基づいて算出され得る。回折強度のピークが現れている回折角(2θ)においてブラッグの式が満たされている。ピークが現れている回折角(2θ)をブラッグの式に適用することによって格子定数が算出され得る。
【0049】
試料(結晶)の格子定数は、XRDに限られず、他の方法でも確認され得る。例えば、試料(結晶)をFIB(Focused Ion Beam)等によって薄片化し、薄片化した試料(結晶)に対して透過型電子顕微鏡(TEM)で電子線を照射することによって得られる回折像に基づいて、試料(結晶)の格子定数が算出され得る。また、試料(結晶)をサブナノオーダーの分解能で観察した像に基づいて、試料(結晶)の格子定数が算出され得る。また、試料(結晶)に電子線を照射したときに試料(結晶)から射出されるX線を分析することによっても、試料(結晶)の格子定数が算出され得る。
【0050】
非相反性部材40の結晶化された部分(第1部分41)と基板50との間に、非相反性部材40又は基板50の非晶質の部分が位置してもよい。非晶質であるかは、XRD測定によって特定され得る。本実施形態に係るアイソレータ10において、非相反性部材40は、成膜された後で結晶化される。したがって、成膜するためのシード膜として結晶化した膜が必要とされない。
【0051】
(アイソレータ10の製造方法)
本実施形態に係るアイソレータ10の製造方法が
図10Aから
図10Cまでに例示される断面図を参照して説明される。
【0052】
図10Aに示されるように、基板50のボックス層52の上に、第1導波路21及び第2導波路22が形成される。導波路は、成膜工程とエッチング工程との組み合わせによって形成されてよい。成膜工程として、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)又はスパッタ等が実行されてよい。エッチング工程として、例えばRIE(Reactive Ion Etching)等のドライエッチング又はウェットエッチングが実行されてよい。続いて、第1導波路21及び第2導波路22の上に絶縁層54が形成される。絶縁層54は、プラズマCVD等によって成膜されてよい。また、ボックス層52の上、又は、絶縁層54の中若しくは上に電子回路60が形成される。電子回路60は、既知の半導体素子製造プロセスによって形成されてよい。
【0053】
図10Bに示されるように、絶縁層54に溝30が形成される。溝30は、ドライエッチングによって形成されてよい。溝30の側部で導波路が露出するように、ウェットエッチングが更に実行されてもよい。続いて、溝30及び絶縁層54の上に非相反性部材40が形成される。非相反性部材40は、スパッタ等によって成膜されてよい。
【0054】
図10Cに示されるように、非相反性部材40に対してレーザ照射領域LSにレーザ光が照射される。レーザ照射領域LSは、電子回路60を含む影響範囲62を含まない範囲として設定される。レーザ光の照射によって非相反性部材40が加熱される。非相反性部材40の温度及び加熱時間を制御することによって、非相反性部材40の結晶化の度合いが制御され得る。レーザ照射領域LSに位置する非相反性部材40は、第1部分41に対応する。非相反性部材40の第1部分41に対するレーザ光の照射で第1部分41が加熱されることによって第1部分41の結晶化が進む。レーザ照射領域LSの外(影響範囲62内)に位置する非相反性部材40は、第2部分42に対応する。非相反性部材40の第2部分42の結晶化は進まない。
【0055】
以上、
図10A~
図10Cを参照して説明してきたように、非相反性部材40が第1部分41と第2部分42とを含むようにアイソレータ10が製造され得る。
【0056】
(アイソレータ10の応用例)
アイソレータ10は、電磁波を送信する構成と組み合わされて使用されてよい。アイソレータ10は、光スイッチ、光送受信機、又は、データセンタに適用されてもよい。アイソレータ10は、例えば、電磁波送信器に適用されてもよい。電磁波送信器は、アイソレータ10と、光源とを備える。電磁波送信器は、光源からアイソレータ10に電磁波を入力し、アイソレータ10から受信器に向けて電磁波を出力する。アイソレータ10は、光源から受信器に向けて伝搬する電磁波の透過率が受信器から光源に向けて伝搬する電磁波の透過率より大きくなるように構成される。このようにすることで、光源に向けて電磁波が入射しにくくなる。その結果、光源が保護され得る。
【0057】
光源は、例えば、LD(Laser Diode)又はVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER)等の半導体レーザであってよい。光源は、可視光に限られず種々の波長の電磁波を射出するデバイスを含んでよい。光源は、基板50の上にアイソレータ10とともに形成されてよい。光源は、TEモードの電磁波をアイソレータ10に入力してよい。
【0058】
電磁波送信器は、変調器と信号入力部とをさらに備えてよい。変調器は、電磁波の強度を変化させることによって変調する。変調器は、光源とアイソレータ10との間ではなく、アイソレータ10と受信器との間に位置してもよい。変調器は、例えば、電磁波をパルス変調してもよい。信号入力部は、外部装置等からの信号の入力を受け付ける。信号入力部は、例えばD/Aコンバータを含んでよい。信号入力部は、変調器に信号を出力する。変調器は、信号入力部で取得した信号に基づいて、電磁波を変調する。
【0059】
光源は、変調器及び信号入力部を含んで構成されてもよい。この場合、光源は、変調した電磁波を出力し、アイソレータ10に入力してもよい。
【0060】
電磁波送信器は、基板50の上に実装されてよい。光源は、変調器を介して、第1分岐部81に接続するように実装されてよい。光源は、変調器を介さずに、第1分岐部81に接続するように実装されてよい。受信器は、変調器を介さずに、第2分岐部82に接続するように実装されてよい。受信器は、変調器を介して、第2分岐部82に接続するように実装されてよい。この場合、変調器は、第2分岐部82に接続するように実装されてよい。光源、変調器及び受信器は、上述してきた電子回路60に含まれてよい。
【0061】
本開示に係る実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は改変を行うことが可能であることに注意されたい。従って、これらの変形又は改変は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部などに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部などを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0062】
本開示において「第1」及び「第2」等の記載は、当該構成を区別するための識別子である。本開示における「第1」及び「第2」等の記載で区別された構成は、当該構成における番号を交換することができる。例えば、第1導波路21は、第2導波路22と識別子である「第1」と「第2」とを交換することができる。識別子の交換は同時に行われる。識別子の交換後も当該構成は区別される。識別子は削除してよい。識別子を削除した構成は、符号で区別される。本開示における「第1」及び「第2」等の識別子の記載のみに基づいて、当該構成の順序の解釈、小さい番号の識別子が存在することの根拠に利用してはならない。
【0063】
本開示において、X軸、Y軸、及びZ軸は、説明の便宜上設けられたものであり、互いに入れ替えられてよい。本開示に係る構成は、X軸、Y軸、及びZ軸によって構成される直交座標系を用いて説明されてきた。本開示に係る各構成の位置関係は、直交関係にあると限定されるものではない。
【符号の説明】
【0064】
10 アイソレータ
21 第1導波路
22 第2導波路
30 溝
40 非相反性部材(41:第1部分、42:第2部分)
50 基板(50A:基板面、52:ボックス層、54:絶縁層)
60 電子回路(62:影響範囲)
70 照射装置(72:光源、74:レンズ、76:レーザ光、78:ステージ)
81 第1分岐部
82 第2分岐部
LS レーザ照射範囲