(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147115
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20231004BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
B60C11/00 E
B60C11/03 300D
B60C11/00 B
B60C11/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054688
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丹野 篤
(72)【発明者】
【氏名】渡部 大地
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA26
3D131BA01
3D131BA02
3D131BA07
3D131BB01
3D131BC12
3D131BC19
3D131BC35
3D131BC36
3D131EA07V
3D131EA07X
3D131EA10V
3D131EA10X
3D131EB13V
3D131EB13X
3D131EB18V
3D131EB18X
3D131EB74V
3D131EB74X
3D131EC16V
3D131EC16X
(57)【要約】
【課題】応力緩和層の耐久性能およびタイヤのウェット性能を両立できるタイヤを提供すること。
【解決手段】このタイヤ1では、応力緩和層4が、タイヤ子午線方向の断面視にて、主溝21の溝底から左右の陸部31、32の踏面まで連続して延在して陸部31、32のエッジ部を覆う。また、陸部31、32の踏面における応力緩和層4の幅Wcが、主溝21の溝深さHg1に対して0.06≦Wc/Hgの範囲にある。また、1つの陸部31;32の踏面における応力緩和層4の総幅ΣWcが、陸部31;32の接地幅Wb1;Wb2に対してΣWc/Wb≦0.70の範囲にある。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド面に露出するトレッドゴムと、前記トレッド面に形成された主溝および陸部と、前記主溝の溝底の表面に形成された応力緩和層とを備えるタイヤであって、
前記応力緩和層が、ジエン系ゴム材料および非ジエン系ゴム材料を主成分とすると共にカーボン、加硫剤および加硫促進剤を含み、
前記応力緩和層が、タイヤ子午線方向の断面視にて、前記主溝の溝底から少なくとも一方の前記陸部の踏面まで連続して延在して前記陸部のエッジ部を覆い、
前記陸部の踏面における前記応力緩和層の幅Wcが、前記主溝の溝深さHgに対して0.06≦Wc/Hgの範囲にあり、且つ、
1つの前記陸部の踏面における前記応力緩和層の総幅ΣWcが、前記陸部の接地幅Wbに対してΣWc/Wb≦0.70の範囲にあることを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
前記応力緩和層の100[℃]での100%伸長時のモジュラスMcが、前記トレッドゴムの100[℃]での100%伸長時のモジュラスMtに対して0.45≦Mc/Mt≦1.15の範囲にある請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記応力緩和層のゴム硬さHcが、前記トレッドゴムのゴム硬さHtに対して0≦Ht-Hc≦32の範囲にある請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記応力緩和層の引張強さTBcが、前記トレッドゴムの引張強さTBtに対して0.30≦TBc/TBt≦0.90の範囲にある請求項1~3のいずれか一つに記載のタイヤ。
【請求項5】
前記陸部の踏面における前記応力緩和層の幅Wcが、前記陸部の接地幅Wbに対して0.02≦Wc/Wb≦0.50の範囲にある請求項1~4のいずれか一つに記載のタイヤ。
【請求項6】
前記陸部の踏面における前記応力緩和層の幅Wcが、前記主溝の溝底における前記応力緩和層の厚さGc1に対して2.0≦Wc/Gc1≦70の範囲にある請求項1~5のいずれか一つに記載のタイヤ。
【請求項7】
前記主溝の溝底における前記応力緩和層の厚さGc1が、0.030[mm]≦Gc1≦0.400[mm]の範囲にある請求項1~6のいずれか一つに記載のタイヤ。
【請求項8】
前記主溝の溝壁の所定領域における前記応力緩和層の厚さGc2の最小値Gc2_minが、前記主溝の溝底における前記応力緩和層の厚さGc1よりも薄い請求項1~7のいずれか一つに記載のタイヤ。
【請求項9】
前記主溝の溝壁の所定領域における前記応力緩和層の厚さGc2の最小値Gc2_minが、前記陸部の踏面における前記応力緩和層の厚さGc3よりも薄い請求項1~8のいずれか一つに記載のタイヤ。
【請求項10】
前記主溝の左右の溝壁角度θgA、θgB[deg]が、前記主溝の溝幅Wg[mm]および溝深さHg[mm]に対して2.0×(Wg+Hg)-35.0≦θgA+θgB≦4.5×(Wg+Hg)-22.5の関係を有する請求項1~9のいずれか一つに記載のタイヤ。
【請求項11】
前記主溝の溝底と左右の溝壁との接続部の曲率半径RgA、RgBの最小値Rg_min[mm]が、前記主溝の溝幅Wg[mm]、溝深さHg[mm]および左右の溝壁角度θgA、θgB[deg]に対して以下の条件を満たす請求項1~10のいずれか一つに記載のタイヤ。
【数1】
【請求項12】
前記主溝の溝底における前記応力緩和層の厚さGc1[mm]が、前記トレッドゴムの溝底ゲージUG[mm]に対して0.055×e^(-0.452×UG)≦Gc1≦0.070×e^(-0.620×UG)+0.150の範囲にある請求項1~11のいずれか一つに記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、タイヤに関し、さらに詳しくは、応力緩和層の耐久性能およびタイヤのウェット性能を両立できるタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のタイヤでは、主として主溝の溝底に発生するグルーブクラックを抑制するために、主溝の溝底に応力緩和層を備える構成が採用されている。かかる構成を有する従来のタイヤとして、特許文献1、2に記載される技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2-45202号公報
【特許文献2】特表2005-523193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、応力緩和層の耐久性能およびタイヤのウェット性能を両立できるタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、この発明にかかるタイヤは、トレッド面に露出するトレッドゴムと、前記トレッド面に形成された主溝および陸部と、前記主溝の溝底の表面に形成された応力緩和層とを備えるタイヤであって、前記応力緩和層が、ジエン系ゴム材料および非ジエン系ゴム材料を主成分とすると共にカーボン、加硫剤および加硫促進剤を含み、前記応力緩和層が、タイヤ子午線方向の断面視にて、前記主溝の溝底から少なくとも一方の前記陸部の踏面まで連続して延在して前記陸部のエッジ部を覆い、前記陸部の踏面における前記応力緩和層の幅Wcが、前記主溝の溝深さHgに対して0.06≦Wc/Hgの範囲にあり、且つ、1つの前記陸部の踏面における前記応力緩和層の総幅ΣWcが、前記陸部の接地幅Wbに対してΣWc/Wb≦0.70の範囲にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
この発明にかかるタイヤでは、応力緩和層が主溝の溝底から陸部の踏面まで連続して延在して陸部のエッジ部を覆うので、応力緩和層が溝底および溝壁のみに形成された構成と比較して、トレッドゴムに対する応力緩和層の接着面積が増加する。これにより、タイヤ転動時における応力緩和層の剥離が抑制される。また、比Wc/Hgの上記下限により、陸部の踏面における応力緩和層の幅Wcが適正に確保されて、応力緩和層の剥離が適正に抑制される。また、比ΣWc/Wbの上記上限により、陸部の踏面におけるトレッドゴムの露出面積が確保されるので、摩耗初期におけるタイヤのウェット性能が確保される。これらにより、応力緩和層の耐久性とタイヤのウェット性能とを両立できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、この発明の実施の形態にかかるタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に記載したタイヤのトレッド面を示す平面図である。
【
図3】
図3は、
図2に記載したタイヤのトレッド面の片側領域を示す拡大図である。
【
図4】
図4は、
図3に記載したショルダー主溝を示す断面図である。
【
図5】
図5は、
図3に記載したショルダー主溝を示す断面図である。
【
図6】
図6は、
図3に記載したショルダー主溝を示す断面図である。
【
図7】
図7は、
図3に記載したショルダー主溝を示す断面図である。
【
図8】
図8は、
図2に記載したタイヤの変形例を示す説明図である。
【
図9】
図9は、
図8に記載したセンター主溝を示す断面図である。
【
図15】
図15は、この発明の実施の形態にかかるタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
【
図16】
図16は、この発明の実施の形態にかかるタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0009】
[タイヤ]
図1は、この発明の実施の形態にかかるタイヤ1を示すタイヤ子午線方向の断面図である。同図は、タイヤ径方向の片側領域の断面図を示している。この実施の形態では、タイヤの一例として、乗用車用空気入りラジアルタイヤについて説明する。
【0010】
同図において、タイヤ子午線方向の断面は、タイヤ回転軸(図示省略)を含む平面でタイヤを切断したときの断面として定義される。また、タイヤ赤道面CLは、JATMAに規定されたタイヤ断面幅の中点を通りタイヤ回転軸に垂直な平面として定義される。また、タイヤ幅方向は、タイヤ回転軸に平行な方向として定義され、タイヤ径方向は、タイヤ回転軸に垂直な方向として定義される。
【0011】
タイヤ1は、タイヤ回転軸を中心とする環状構造を有し、一対のビードコア11、11と、一対のビードフィラー12、12と、カーカス層13と、ベルト層14と、トレッドゴム15と、一対のサイドウォールゴム16、16と、一対のリムクッションゴム17、17とを備える(
図1参照)。
【0012】
一対のビードコア11、11は、スチールから成る1本あるいは複数本のビードワイヤを環状かつ多重に巻き廻して成り、ビード部に埋設されて左右のビード部のコアを構成する。一対のビードフィラー12、12は、一対のビードコア11、11のタイヤ径方向外周にそれぞれ配置されてビード部を補強する。
【0013】
カーカス層13は、1枚のカーカスプライから成る単層構造あるいは複数枚のカーカスプライを積層して成る多層構造を有し、左右のビードコア11、11間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。また、カーカス層13の両端部は、ビードコア11およびビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止される。また、カーカス層13のカーカスプライは、スチールあるいは有機繊維材(例えば、アラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨンなど)から成る複数のカーカスコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、80[deg]以上100[deg]以下のコード角度(タイヤ周方向に対するカーカスコードの長手方向の傾斜角として定義される。)を有する。
【0014】
ベルト層14は、複数のベルトプライ141~143を積層して成り、カーカス層13の外周に掛け廻されて配置される。ベルトプライ141~143は、一対の交差ベルト141、142と、ベルトカバー143とを含む。
【0015】
一対の交差ベルト141、142は、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で15[deg]以上55[deg]以下のコード角度(タイヤ周方向に対するベルトコードの長手方向の傾斜角として定義される)を有する。また、一対の交差ベルト141、142は、相互に異符号のコード角度を有し、ベルトコードの長手方向を相互に交差させて積層される(いわゆるクロスプライ構造)。また、一対の交差ベルト141、142は、カーカス層13のタイヤ径方向外側に積層されて配置される。
【0016】
ベルトカバー143は、スチールあるいは有機繊維材から成るベルトカバーコードをコートゴムで被覆して構成され、絶対値で0[deg]以上10[deg]以下のコード角度を有する。また、ベルトカバー143は、例えば、1本あるいは複数本のベルトカバーコードをコートゴムで被覆して成るストリップ材であり、このストリップ材を交差ベルト141、142の外周面に対してタイヤ周方向に複数回かつ螺旋状に巻き付けて構成される。また、ベルトカバー143が交差ベルト141、142の全域を覆って配置される。
【0017】
トレッドゴム15は、カーカス層13およびベルト層14のタイヤ径方向外周に配置されてタイヤ1のトレッド部を構成する。また、トレッドゴム15は、キャップトレッドおよびアンダートレッド(図示省略)を備える。キャップトレッドは、接地特性および耐候性に優れるゴム材料から成り、タイヤ外周面の全域に渡って露出してトレッド面を構成する。具体的には、タイヤの転がり抵抗を低減すると共にタイヤのウェット性能を向上するために、シリカがキャップトレッドに配合される。さらに、シリカが配合されたキャップトレッドでは、後述する応力緩和層4との接着力を高めるために、粒径20[nm]以上150[nm]以下のカーボンブラックがキャップトレッドに配合されることが好ましい。アンダートレッドは、耐熱性に優れるゴム材料から成り、キャップトレッドとベルト層14(
図1参照)との間に挟み込まれて配置されて、トレッドゴム15のベース部分を構成する。
【0018】
一対のサイドウォールゴム16、16は、カーカス層13のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されて左右のサイドウォール部を構成する。一対のリムクッションゴム17、17は、左右のビードコア11、11およびカーカス層13の巻き返し部のタイヤ径方向内側からタイヤ幅方向外側に延在して、ビード部のリム嵌合面を構成する。
【0019】
[トレッド面]
図2は、
図1に記載したタイヤ1のトレッド面を示す平面図である。同図は、ウィンター用タイヤのトレッド面を示している。同図において、タイヤ周方向とは、タイヤ回転軸周りの方向をいう。また、符号Tは、タイヤ接地端であり、寸法記号TWは、タイヤ接地幅である。
【0020】
図2に示すように、タイヤ1は、4本の周方向主溝21~24と、5列の陸部31~35とをトレッド面に備える。
【0021】
周方向主溝21~24は、一対のショルダー主溝21、24と、2本のセンター主溝22、23とから構成される。これらの周方向主溝21~24は、タイヤ全周に渡って連続的に延在する環状構造を有する。ショルダー主溝21、24は、タイヤ幅方向の最外側にある周方向主溝であり、タイヤ赤道面CLを境界とする左右の領域のそれぞれで定義される。センター主溝22、23は、ショルダー主溝21、24よりもタイヤ赤道面CL側にある周方向主溝として定義される。
【0022】
主溝は、JATMAに規定されるウェアインジケータの表示義務を有する溝として定義される。また、周方向主溝21~24が、4.0[mm]以上の溝幅および6.2[mm]以上の溝深さを有する。
【0023】
溝幅は、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を充填した無負荷状態にて、トレッド踏面における溝開口部の対向する溝壁間の距離の最大値として測定される。切欠部あるいは面取部を溝開口部に有する構成では、溝幅方向かつ溝深さ方向に平行な断面視におけるトレッド踏面の延長線と溝壁の延長線との交点を端点として、溝幅が測定される。
【0024】
溝深さは、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を充填した無負荷状態にて、トレッド踏面から溝底までの距離の最大値として測定される。また、部分的な凹凸部やサイプを溝底に有する構成では、これらを除外して溝深さが測定される。
【0025】
規定リムとは、JATMAに規定される「標準リム」、TRAに規定される「Design Rim」、あるいはETRTOに規定される「MEASURING RIM」をいう。また、規定内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。また、規定荷重とは、JATMAに規定される「最大負荷能力」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「LOAD CAPACITY」をいう。ただし、JATMAにおいて、乗用車用タイヤの場合には、規定内圧が空気圧180[kPa]であり、規定荷重が規定内圧での最大負荷能力の88[%]である。
【0026】
また、
図2の構成では、タイヤ赤道面CLから左右のショルダー主溝21、24の溝中心線までの距離(図中の寸法記号省略)が、タイヤ接地幅TWの19[%]以上34[%]以下の範囲にある。
【0027】
溝中心線は、対抗する溝壁間の距離の中点を接続した仮想線として定義される。
【0028】
タイヤ接地幅TWは、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に静止状態にて平板に対して垂直に置いて規定荷重に対応する負荷を付与したときのタイヤと平板との接触面におけるタイヤ軸方向の最大直線距離として測定される。
【0029】
タイヤ接地端Tは、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に静止状態にて平板に対して垂直に置いて規定荷重に対応する負荷を付与したときのタイヤと平板との接触面におけるタイヤ軸方向の最大幅位置として定義される。
【0030】
陸部31~35は、一対のショルダー陸部31、35と、一対のミドル陸部32、34と、1列のセンター陸部33とから構成される。これらの陸部31~35は、周方向主溝21~24に区画されて成り、タイヤ全周に渡って延在する環状の踏面を構成する。ショルダー陸部31、35は、ショルダー主溝21、24に区画されたタイヤ幅方向外側の陸部として定義される。また、一対のショルダー陸部31、35が、タイヤ赤道面CLを境界とする左右の領域に配置される。ミドル陸部32、34は、ショルダー主溝21、24に区画されたタイヤ幅方向内側の陸部として定義される。また、一対のミドル陸部32、34が、タイヤ赤道面CLを境界とする左右の領域に配置される。センター陸部33は、ミドル陸部32、34よりもタイヤ赤道面CL側にある陸部として定義される。
【0031】
また、
図2において、ショルダー陸部31、35の接地幅Wb1、Wb5が、タイヤ接地幅TWに対して12[%]以上26[%]以下の範囲にある。また、ミドル陸部32、34の接地幅Wb2、Wb4が、タイヤ接地幅TWに対して8[%]以上27[%]以下の範囲にある。また、センター陸部33の接地幅Wb3が、タイヤ接地幅TWに対して10[%]以上23[%]以下の範囲にある。
【0032】
陸部の接地幅は、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に静止状態にて平板に対して垂直に置いて規定荷重に対応する負荷を付与したときの陸部と平板との接触面におけるタイヤ軸方向の最大直線距離として測定される。
【0033】
また、
図2の構成では、上記のように、タイヤ1が一対のショルダー主溝21、24および2本のセンター主溝22、23を備えることにより、一対のショルダー陸部31、35、一対のミドル陸部32、34および単一のセンター陸部33が定義される。しかし、これに限らず、タイヤ1が単一あるいは3本以上のセンター主溝を備えても良い(図示省略)。前者の構成では、センター陸部が省略され、後者の構成では、2列以上のセンター陸部が定義される。
【0034】
また、
図2の構成では、一方(図中左側)のセンター主溝22が、長尺部と短尺部とをタイヤ周方向に交互に接続して成るジグザグ形状を有している。また、左右のショルダー主溝21、24が、ストレート形状を有している。しかし、これに限らず、任意の周方向主溝21~24が、ストレート形状を有しても良いし、タイヤ幅方向に振幅を有するジグザグ形状、波状形状あるいはステップ形状を有しても良い(図示省略)。例えば、すべての周方向主溝21~24がストレート形状を有する構成(図示省略)が採用され得る。
【0035】
また、
図2の構成では、左右のショルダー陸部31、35、一方(図中左側)のミドル陸部32およびセンター陸部33のそれぞれが陸部31、35を貫通する貫通ラグ溝311、321、331、351を有することにより、これらの陸部31、32、33、35がタイヤ周方向に分断されてブロック列となっている。また、他方のミドル陸部34のラグ溝311が片側開口ラグ溝341を有することにより、陸部34がタイヤ周方向に連続した踏面を有するリブとなっている。また、陸部31~35のそれぞれが、複数のサイプ(図中の符号省略)を備えている。
【0036】
ラグ溝311~351は、タイヤ幅方向に延在する横溝であり、1.5[mm]以上の幅および3.0[mm]以上の深さを有することにより、タイヤ接地時に開口して溝として機能する。
【0037】
[応力緩和層]
図3は、
図2に記載したタイヤ1のトレッド面の片側領域を示す拡大図である。
図4および
図5は、
図3に記載したショルダー主溝21を示す断面図である。これらの図において、
図4は、ショルダー主溝21におけるタイヤ幅方向の拡大断面図を示し、
図5は、ショルダー主溝21に沿ったタイヤ周方向の拡大断面図を示している。
【0038】
このタイヤ1は、主溝21、24の溝底の表面に形成されてグルーブクラックを抑制する応力緩和層4を備える。
図2の構成では、応力緩和層4が、グルーブクラックが発生し易い、左右のショルダー主溝21、24のそれぞれに形成される。一方で、センター主溝22、23には、応力緩和層4が形成されていない。しかし、これに限らず、応力緩和層4が、ショルダー主溝21、24に加えてセンター主溝22、23にも形成され得る(後述する
図8参照)。
【0039】
ここでは、一例として一方(図中左側)のショルダー主溝21に形成された応力緩和層4について説明し、他方のショルダー主溝24については、一方のショルダー主溝21と同様であるので、その説明を省略する。
【0040】
応力緩和層4は、ジエン系ゴム材料および非ジエン系ゴム材料を主成分とし、カーボン、加硫剤および加硫促進剤を含む。ジエン系ゴムは、天然ゴム、合成ジエン系ゴム(イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)等)を含むジエン系重合体から成る群より選択される。非ジエン系ゴムは、合成非ジエン系ゴム(ブチルゴム(IIR)、エチレン・プロピレンゴム(EPDM、EPM)、ウレタンゴム、シリコーンゴム等)を含む非ジエン系重合体から成る群より選択される。また、応力緩和層4は、耐候性を確保するために、樹脂成分を含まないことが好ましい。
【0041】
また、応力緩和層4が老化防止剤を含まないことが好ましい。かかる構成では、後述するような応力緩和層4のコーティング材を未加硫のトレッドゴム15に塗布して加硫成型工程を行う構成において、応力緩和層4のモールドへの転写が抑制され、また、応力緩和層4への着色が抑制される点で好ましい。
【0042】
しかし、これに限らず、応力緩和層4が老化防止剤を含んでも良い。その場合には、アミン系老化防止剤を用いずに、他の老化防止剤(例えば、フェノール系、亜リン酸系、有機チオ酸系、ベンズイミダゾール系など)をゴム成分100重量部に対して0.1重量部以上5重量部以下の範囲で配合することが好ましい。
【0043】
また、応力緩和層4の100[℃]での100%伸長時のモジュラスMcが、0.3[MPa]≦Mc≦2.8[MPa]の範囲にあり、好ましくは0.4[MPa]≦Mc≦2.3[MPa]の範囲にあり、より好ましくは0.5[MPa]≦Mc≦1.8[MPa]の範囲にあり、さらに好ましくは0.6[MPa]≦Mc≦1.5[MPa]の範囲にある。上記下限により、タイヤ転動時にて主溝に侵入した異物(例えば小石など)による応力緩和層4の破損が抑制され、上記上限により、応力緩和層4のモジュラスMcが過大となることに起因する陸部の偏摩耗が抑制される。
【0044】
また、応力緩和層4の100[℃]での100%伸長時のモジュラスMcが、トレッドゴム15の100[℃]での100%伸長時のモジュラスMtに対して0.45≦Mc/Mt≦1.15の範囲にあり、好ましくは0.50≦Mc/Mt≦1.10の範囲にある。また、例えば、サマータイヤでは、上記比Mc/Mtが0.50≦Mc/Mt≦0.90の範囲にあることが好ましく、ウインタータイヤでは、上記比Mc/Mtが0.70≦Mc/Mt≦1.10の範囲にあることが好ましい。
【0045】
モジュラスMc、Mtは、JIS K6251(3号ダンベル使用)に準拠して、ダンベル状試験片を用いた温度100[℃]での引張試験により測定される。また、トレッドゴム15のモジュラスMtは、応力緩和層4に対して面接触する部分のゴム材料のモジュラスとして測定される。
【0046】
また、応力緩和層4のゴム硬さHcが、トレッドゴム15のゴム硬さHtに対して0≦Ht-Hc≦32の範囲にあり、好ましくは2≦Ht-Hc≦27の範囲にある。上記下限により、応力緩和層4のゴム硬さHcが確保されて、タイヤ転動時にて主溝に侵入した異物(例えば小石など)による応力緩和層4の破損が抑制される。また、上記上限により、応力緩和層4のゴム硬さHcが過大となることに起因する陸部の偏摩耗が抑制される。
【0047】
ゴム硬さHc、Htは、JIS K6253に準拠した20[℃]の温度条件にて測定される。また、トレッドゴム15のゴム硬さHtは、トレッドゴム15を構成するゴム材料のうち、応力緩和層4に対して面接触するゴム材料のゴム硬さとして測定される。
【0048】
また、応力緩和層4の引張強さTBcが、トレッドゴム15の引張強さTBtに対して0.30≦TBc/TBt≦0.90の範囲にあり、好ましくは0.35≦TBc/TBt≦0.88の範囲にある。上記下限により、応力緩和層4の引張強さTBcが確保されて、タイヤ転動時の歪に対する応力緩和層4の破断耐久性が確保される。また、上記上限により、応力緩和層4の引張強さTBcが過大となることに起因する応力緩和層の剥離が抑制される。また、応力緩和層4の引張強さTBcが、トレッドゴム15の引張強さTBtに対して3[MPa]≦TBt-TBc≦15[MPa]の範囲にあることが好ましい。
【0049】
引張強さTBc、TBtは、JIS K6251(3号ダンベル使用)に準拠して、ダンベル状試験片を用いた室温(温度20[℃])での引張試験により測定される。また、トレッドゴム15の引張強さTBtは、応力緩和層4に対して面接触する部分のゴム材料の引張強さとして測定される。
【0050】
また、
図3および
図5に示すように、応力緩和層4が、主溝21に沿ってタイヤ周方向に連続して延在する。また、
図3および
図4に示すように、応力緩和層4が、主溝21の溝底のみならず、溝壁および溝開口部まで連続して延在して主溝21の内壁の全域を覆う。さらに、
図4に示すように、タイヤ子午線方向の断面視にて、応力緩和層4が、陸部31、32のエッジ部で屈曲して陸部31、32の踏面まで延在して陸部31、32のエッジ部を覆う。また、応力緩和層4が、陸部31、32の踏面、すなわち接地領域にエッジ部を有する。
【0051】
一方で、
図3および
図4に示すように、陸部31、32の踏面が、応力緩和層4に覆われていない非被覆領域(図中の符号省略)を陸部31、32の幅方向の中央部に有する。この非被覆領域では、トレッドゴム15が露出して陸部31、32の接地面を構成する。また、
図3の構成では、ショルダー主溝21がストレート形状を有し、また、応力緩和層4のエッジ部がショルダー主溝21に沿ったストレート形状を有している。
【0052】
上記の構成では、応力緩和層4が主溝21の溝底から陸部31、32の踏面まで連続して延在して陸部31、32のエッジ部を覆うので、応力緩和層4が溝底および溝壁のみに形成された構成(後述する
図17参照)と比較して、トレッドゴム15に対する応力緩和層4の接着面積が増加する。これにより、タイヤ転動時における応力緩和層4の剥離が抑制される。また、トレッド踏面におけるトレッドゴム15の露出面積が後述する応力緩和層4の幅Wcの上限により適正に確保されることにより、タイヤ新品時から応力緩和層4が摩滅するまでの摩耗初期におけるタイヤのウェット性能が適正に確保される。これらにより、応力緩和層が溝底および溝壁のみに設置された構成(後述する
図17参照)、ならびに、応力緩和層が陸部の踏面の全域を覆って配置された構成(図示省略)と比較して、応力緩和層4の剥離耐久性およびタイヤのウェット性能が効果的に両立する。
【0053】
また、
図3および
図4において、陸部31、32の踏面における応力緩和層4の幅Wc(
図3では、ショルダー陸部31における幅WcAおよびミドル陸部32における幅WcB)が、主溝21の溝深さHg(Hg1)に対して0.06≦Wc/Hgの範囲にあり、好ましくは0.10≦Wc/Hgの範囲にある。上記下限により、陸部31、32の踏面における応力緩和層4の幅Wcが適正に確保されて、応力緩和層4の剥離が適正に抑制される。すなわち、主溝21が深いほどタイヤ転動時における主溝21の変形量が大きいため、主溝21の溝深さHgが大きいほど、応力緩和層4の幅Wcが大きく設定される。なお、比Wc/Hgの上限は、特に限定がないが、他の条件により制約を受ける。
【0054】
陸部31、32の踏面における応力緩和層4の幅Wcは、タイヤ子午線方向の断面視にて、陸部31、32のエッジ部から応力緩和層4のエッジ部までのタイヤ幅方向の距離として測定される。また、陸部のエッジ部が面取部を有する構成(後述する
図9参照)では、応力緩和層4の幅Wcが、主溝の溝壁の延長線と陸部の踏面の延長線との交点を端点として測定される。
【0055】
また、
図3および
図4において、1つの陸部31;32の踏面における応力緩和層4の総幅ΣWcが、陸部31;32の接地幅Wb(Wb1;Wb2)に対してΣWc/Wb≦0.70の範囲にあり、好ましくはΣWc/Wb≦0.68の範囲にある。したがって、陸部31;32の踏面におけるトレッドゴム15の露出幅(図中の寸法記号省略)が陸部31;32の接地幅Wbに対して30[%]以上確保される。上記上限により、陸部31、32の踏面におけるトレッドゴム15の露出面積が確保されるので、摩耗初期におけるタイヤのウェット性能が確保される。なお、比ΣWc/Wbの下限は、特に限定がないが、他の条件により制約を受ける。
【0056】
例えば、
図3の構成では、センター主溝22が応力緩和層4を有さないため、ショルダー陸部31の踏面における応力緩和層4の総幅ΣWcがWcAであり、ミドル陸部32の踏面における応力緩和層4の総幅ΣWcがWcBである。一方で、応力緩和層4がショルダー主溝21、24に加えてセンター主溝22、23にも形成された構成(
図2および後述する
図8参照)では、応力緩和層4の幅Wcが図中左側のミドル陸部32、センター陸部33および図中右側のミドル陸部34の左右のエッジ部にそれぞれ存在するため、各陸部32~34における応力緩和層4の総幅ΣWcが上記の条件を満たすように設定される。
【0057】
また、
図4において、陸部31、32の踏面における応力緩和層4の幅Wc(WcA、WcB)が、陸部31、32の接地幅Wb(Wb1、Wb2。
図2参照)に対して0.02≦Wc/Wb≦0.50の範囲にあり、好ましくは0.03≦Wc/Wb≦0.35の範囲にある。また、陸部31、32のエッジ部がストレート形状を有する構成では、比Wc/Wbが0.02≦Wc/Wb≦0.12の範囲に設定されることが好ましい。上記下限により、陸部31、32の踏面における応力緩和層4の幅Wcが適正に確保され、上記上限により、陸部31、32の踏面におけるトレッドゴム15の露出面積が確保される。例えば
図3の構成では、陸部31、32のエッジ部がストレート形状を有するため、応力緩和層4の幅Wcが後述する
図8の構成と比較して狭く設定されている。また、ショルダー陸部31およびミドル陸32がショルダー主溝21側のエッジ部にのみ応力緩和層4を有するので、応力緩和層4の総幅の比ΣWc/Wbが小さく設定されている。これにより、トレッドゴム15の露出面積が広く確保されている。
【0058】
また、
図4において、陸部31、32の踏面における応力緩和層4の幅Wc(WcA、WcB)が、主溝21の溝底における応力緩和層4の厚さGc1に対して2.0≦Wc/Gc1≦70の範囲にあり、好ましくは2.3≦Wc/Gc1≦65の範囲にある。また、主溝21の溝底における応力緩和層4の厚さGc1が、0.030[mm]≦Gc1≦0.400[mm]の範囲にあり、好ましくは0.040[mm]≦Gc1≦0.380[mm]の範囲にある。これにより、主溝21の溝底における応力緩和層4の厚さGc1が適正化されて、タイヤ転動時における応力緩和層4の剥離が抑制される。
【0059】
主溝21の溝底における応力緩和層4の厚さGc1は、主溝21の溝中心線(図示省略)上にて測定される。
【0060】
また、
図4において、主溝21の溝壁の所定領域における応力緩和層4の厚さGc2(Gc2A、Gc2B)の最小値Gc2_minが、主溝21の溝底における応力緩和層4の厚さGc1よりも薄い(Gc2_min<Gc1)。かかる構成では、応力緩和層4が主溝21の溝壁に薄肉部を有することにより、主溝21の溝底における応力緩和層4の剥離が抑制される。また、比Gc2_min/Gc1が、Gc2_min/Gc1≦0.60の範囲にあり、好ましくはGc2_min/Gc1≦0.40の範囲にある。また、応力緩和層4の厚さGc2の最小値Gc2_minが0.003[mm]以上であることが好ましい。
【0061】
主溝21の溝壁における応力緩和層4の厚さGc2(Gc2A、Gc2B)は、主溝21の溝底から溝深さHg1の40[%]以上60[%]以下の領域にて測定される。
【0062】
また、
図4において、主溝21の溝壁における応力緩和層4の厚さGc2(Gc2A、Gc2B)の最小値Gc2_minが、陸部31、32の踏面における応力緩和層4の厚さGc3よりも薄い(Gc2_min<Gc3)。かかる構成では、応力緩和層4が主溝21の溝壁に薄肉部を有するので、摩耗進行時にて陸部31、32の踏面に露出した応力緩和層4の部分が摩滅する過程で、応力緩和層4の全体が主溝21の溝壁から溝底に向かって剥離する事態が抑制される。また、比Gc2_min/Gc3が、Gc2_min/Gc3≦0.60の範囲にあり、好ましくはGc2_min/Gc3≦0.40の範囲にある。
【0063】
また、
図4において、陸部31、32の踏面における応力緩和層4の厚さGc3(Gc3A、Gc3B)が、0.030[mm]≦Gc3≦0.400[mm]の範囲にあり、好ましくは0.040[mm]≦Gc3≦0.380[mm]の範囲にある。これにより、応力緩和層4の接地に起因するトレッド踏面の性能悪化が抑制される。
【0064】
陸部31、32の踏面における応力緩和層4の厚さGc3は、陸部31、32の踏面に露出する応力緩和層4の部分の厚さの最大値として測定される。
【0065】
また、
図4において、主溝21の左右の溝壁角度θgA、θgB[deg]が、主溝21の溝幅Wg(Wg1)[mm]および溝深さHg(Hg1)[mm]に対して2.0×(Wg+Hg)-35.0≦θgA+θgB≦4.5×(Wg+Hg)-22.5の関係を有し、好ましくは2.5×(Wg+Hg)-40.0≦θgA+θgB≦4.0×(Wg+Hg)-25.0の関係を有する。これにより、主溝21の溝底における応力緩和層4の接着性が向上して、応力緩和層4の剥離が効果的に抑制される。
【0066】
主溝21の溝壁角度θgA、θgBは、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に無負荷状態としたときのタイヤ子午線方向の断面視にて、主溝21の溝壁面と溝深さ方向とのなす角度として測定される。
【0067】
また、
図4において、主溝21の溝底と左右の溝壁との接続部の曲率半径RgA、RgB[mm]のうちの小さい方の曲率半径Rg_minが、主溝21の溝幅Wg(Wg1)[mm]、溝深さHg(Hg1)[mm]および左右の溝壁角度θgA、θgB[deg]に対して以下の数式(1)の条件を満たす。これにより、主溝21の溝底における応力緩和層4の厚さの分布が適正化されて、応力緩和層4の剥離が効果的に抑制される。
【0068】
【0069】
主溝21の溝底と左右の溝壁との接続部の曲率半径RgA、Rgは、Bタイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に無負荷状態としたときのタイヤ子午線方向の断面視にて、測定される。
【0070】
また、
図4において、主溝21の溝底における応力緩和層4の厚さGc1[mm]が、トレッドゴム15の溝底ゲージUG[mm]に対して0.055×e^(-0.452×UG)≦Gc1≦0.070×e^(-0.620×UG)+0.150の範囲にあり、好ましくは0.065×e^(-0.368×UG)≦Gc1≦0.070×e^(-0.551×UG)+0.125の範囲にある。
【0071】
トレッドゴム15の溝底ゲージUGは、主溝21の溝底からベルト層14の最外層(
図4では、ベルトカバー143)までのゴムゲージとして測定される。具体的には、ベルト層14の最外層143を構成するベルトコードの径方向外側の端点を接続した仮想線(図示省略)を作図し、主溝21の溝底から上記仮想線までの距離が測定される。
【0072】
また、
図5に示すように、応力緩和層4が、主溝21に沿ってタイヤ周方向に延在し、また、一様な厚さGc1を有する。また、応力緩和層4が、ウェアインジケータ5の表面全体を覆って配置される。このように、主溝21が凸部あるいは凹部を溝底に有する場合には、応力緩和層4がこれらの凸部あるいは凹部の全体を覆って配置されることが好ましい。
【0073】
また、溝底に形成された凸部あるいは凹部が、タイヤ周方向の断面視にて、直線および/または10[mm]以上の曲率半径をもつ曲線から成ることが好ましい。これにより、タイヤ転動時における凸部あるいは凹部の変形が抑制されて、応力緩和層4の剥離が抑制される。
図5の構成では、ウェアインジケータ5の側壁と主溝21の溝底との接続部の曲率半径Ri1、ならびに、ウェアインジケータ5の側壁と頂部との接続部の曲率半径Ri2のそれぞれが、10[mm]以上に設定されている。なお、スノープラットフォーム(図示省略)のように、溝底からの凸部の高さが主溝21の溝深さHg1の1/3以上である場合には、少なくとも凸部の側壁と主溝21の溝底との接続部の曲率半径Ri1が上記の条件を満たせば良い。
【0074】
図6は、
図3に記載したショルダー主溝21を示す断面図である。同図は、ラグ溝311、321の開口位置におけるショルダー主溝21の断面図を示している。
【0075】
図6に示すように、主溝21とラグ溝311、321との交差位置では、応力緩和層4が、主溝21の溝底からラグ溝311、321の溝底まで連続して延在して、ラグ溝311、321の溝底で終端する。また、ラグ溝311、321の溝底における応力緩和層4の幅Wc’(Wc’A、Wc’B)が、主溝21の溝深さHg(Hg1)に対して0.06≦Wc’/Hg≦1.00の範囲にあり、好ましくは0.10≦Wc’/Hg≦0.90の範囲にある。このように、応力緩和層4が主溝21の溝底からラグ溝311、321の溝底まで連続して延在することにより、主溝21の溝底における応力緩和層4の剥離が効果的に抑制される。例えば、
図6の構成では、ラグ溝311、321の溝深さH11、H21が主溝21の溝深さHg1よりも浅い。このため、主溝21の溝底とラグ溝311、321の溝底との間に、段差が生じている。そして、応力緩和層4が、この段差のエッジ部を覆うように形成されている。これにより、応力緩和層4の剥離が効果的に抑制される。
【0076】
ラグ溝311、321の溝底における応力緩和層4の幅Wc’(Wc’A、Wc’B)は、ラグ溝311、321の溝底におけるタイヤ幅方向への延在距離として定義される。
【0077】
図7は、
図3に記載したショルダー主溝21を示す断面図である。同図は、サイプ6の開口位置におけるショルダー主溝21の断面図を示している。
【0078】
図3の構成では、陸部31、32が複数のサイプ6を有し、一部のサイプ6が主溝21に開口している。かかる構成では、応力緩和層4の一部がサイプ6の開口部によりタイヤ周方向に分断されるので、タイヤ転動時における応力緩和層4への応力が分散されて、応力緩和層4の剥離が抑制される。また、
図7において、サイプ6の開口深さHs(HsA、HsB)が、主溝21の溝深さHg(Hg1)に対して0.10≦Hs/Hg≦0.80の範囲にあることが好ましい。上記下限により、サイプ6による応力緩和層4の剥離の抑制作用が確保され、上記上限により、サイプ6を起点としたグルーブクラックの発生が抑制される。また、タイヤ周方向に隣り合うサイプ6、6の間隔Ds(図示省略。
図3参照)が、主溝21の溝深さHgに対してDs≦Hgの関係を有することが好ましい。
【0079】
サイプ6は、トレッド踏面に形成された切り込みであり、1.5[mm]未満の最大幅および1.5[mm]以上の最大深さ(図中の寸法記号省略)を有することにより、タイヤ接地時に閉塞する。タイヤ接地時には、サイプ6が氷路面の氷路面の水膜を吸収して除去することにより、氷路面に対するブロック5の踏面の密着性(いわゆる凝着摩擦力)が向上する。これにより、タイヤの氷上性能が向上する。
【0080】
サイプ幅は、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を充填した無負荷状態にて、トレッド踏面におけるサイプの開口幅として測定される。
【0081】
サイプ深さは、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を充填した無負荷状態にて、トレッド踏面からサイプ底までの距離として測定される。また、サイプが部分的な底上部あるいは凹凸部をサイプ底に有する構成では、これらを除外してサイプ深さが測定される。
【0082】
サイプ6の開口深さHs(HsA、HsB)は、主溝21の溝壁におけるサイプ6の開口部の溝深さ方向への延在長さとして測定される。
【0083】
[変形例]
図8は、
図2に記載したタイヤ1の変形例を示す説明図である。同図は、トレッド面のセンター領域の拡大図を示している。
図9は、
図8に記載したセンター主溝23を示す断面図である。これらの図において、
図3および
図4に記載した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0084】
図2の構成では、上記のように、応力緩和層4が、左右のショルダー主溝21、24のそれぞれに形成され、一方で、センター主溝22、23には形成されていない。しかし、これに限らず、
図8に示すように、応力緩和層4が、左右のショルダー主溝21、24に加えてセンター主溝22、23に形成されても良い。
【0085】
図8の構成では、応力緩和層4が、左右のセンター主溝22、23のそれぞれに形成されている。また、図中左側のセンター主溝22がタイヤ幅方向に振幅をもつジグザグ形状を有し、応力緩和層4がセンター主溝22の全体を覆って配置される。また、陸部32、33の踏面における応力緩和層4の幅Wc(WcA_min、WcA_max、WcB_min、WcB_max、)が、センター主溝22の溝深さHg(図示省略)に対して0.06≦Wc/Hg≦1.00の範囲にある。また、陸部32、33の踏面における応力緩和層4の幅Wc(WcA_min、WcA_max、WcB_min、WcB_max)が、陸部32、33の接地幅Wb(Wb2、Wb3。
図2参照)に対して0.02≦Wc/Wb≦0.50の範囲にある。
【0086】
また、応力緩和層4が3本以上の主溝(例えば、
図8の変形例では4本の主溝21、~24)に形成された構成では、タイヤ接地面における応力緩和層4の総幅ΣWbが、タイヤ接地幅TWに対してΣWc/TW≦0.20の範囲にあり、好ましくはΣWc/TW≦0.18の範囲ある。これにより、タイヤ接地面におけるトレッドゴム15の露出面積が確保されて、タイヤのウェット性能が確保される。
【0087】
また、
図8の構成では、図中右側のミドル陸部34が、センター主溝23側のエッジ部に複数の面取部342を有する。また、
図9に示すように、応力緩和層4が、センター主溝23の溝底からミドル陸部34の踏面まで延在してミドル陸部34の面取部342を覆って、配置される。このように、陸部34が面取部342を有する構成においても、応力緩和層4が陸部34の踏面まで延在して露出することにより、応力緩和層4の剥離が適切に抑制される。
【0088】
また、
図2の構成では、左右のショルダー主溝21、24がストレート形状を有することにより、左右の陸部31、32のエッジ部がストレート形状を有する。一方で、図中左側のセンター主溝22がジグザグ形状を有することにより、このセンター主溝22に区画された陸部32、33のエッジ部がジグザグ形状を有している。また、
図8に示すように、図中右側のセンター主溝23に区画されたミドル陸部34がセンター主溝23側のエッジ部に複数の面取部342を有することにより、ミドル陸部34のエッジ部がジグザグ形状を有している。
【0089】
これに対して、応力緩和層4は、
図3および
図8に示すように、陸部31~35の主溝21~24側のエッジ部の形状にかかわらず、主溝21~24および陸部31~35のエッジ部の全体を囲んだストレート形状の領域に形成される。
【0090】
上記した
図3および
図8のように、応力緩和層4がストレート形状の領域に形成される構成では、応力緩和層4の成形工程を容易化できる。具体的に、上記の構成では、応力緩和層4のコーティング材が未加硫のトレッドゴム15の所定の位置、すなわち主溝21~24の形成位置を囲む領域に塗布され、その後に加硫成型工程が行われて主溝21~24が形成される。このため、加硫成型後のトレッドゴムに応力緩和層のコーティング材を塗布する工程と比較して、コーティング材の塗布工程が容易化される。
【0091】
しかし、これに限らず、加硫成型後のトレッドゴムに応力緩和層のコーティング材を塗布しても良い。この場合には、例えば
図8において、応力緩和層4がセンター主溝22のジグザグ形状に沿ったジグザグ形状の領域に形成され得る(図示省略)。
【0092】
図10は、
図4に記載した応力緩和層4の変形例を示す説明図である。同図において、
図4に記載した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0093】
図4の構成では、応力緩和層4が、主溝21の溝底から左右の陸部31、32の踏面まで延在して左右の陸部31、32のエッジ部を覆っている。このため、応力緩和層4の左右のエッジ部が、左右の陸部31、32の踏面にそれぞれ位置している。かかる構成では、応力緩和層4の剥離を効果的に抑制できる点で好ましい。
【0094】
これに対して、
図10の構成では、応力緩和層4の一方のエッジ部が主溝21の溝底からショルダー陸部31の踏面まで延在し、他方のエッジ部がミドル陸部32のエッジ部を超えることなく主溝21の溝壁で終端している。この場合には、ミドル陸部32側における応力緩和層4の幅WcBがゼロとなる。かかる構成としても、応力緩和層4の剥離の抑制作用が得られる。
【0095】
図11は、
図2に記載したタイヤ1の変形例を示す説明図である。同図は、ショルダー陸部31の1つのブロックを示している。
図12および
図13は、
図11に記載したショルダー陸部31の細浅溝7を示す説明図である。これらの図において、
図12は、ショルダー陸部31のタイヤ幅方向の断面図を示し、
図13は、ショルダー陸部31のタイヤ周方向の断面図を示している。また、これらの図において、
図2~
図4に記載した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0096】
図11の構成では、陸部31(32~35)が、複数の細浅溝7を接地面に備える。かかる構成では、タイヤ接地時にて、細浅溝7が氷路面とトレッド面との間に介在する水膜を吸い取って除去することにより、タイヤの氷上制動性能が向上する。
【0097】
細浅溝7は、0.1[mm]以上0.6[mm]以下の溝幅W7および0.1[mm]以上0.5[mm]以下の溝深さH7(
図13参照)を有する。このため、細浅溝7は、サイプ6よりも浅い。また、複数の細浅溝7が、陸部31~33の全面に配置されている。また、複数の細浅溝7が、陸部33の接地面の全域に渡って配置される。また、複数の細浅溝7が、0.8[mm]以上2.0[mm]以下のピッチ長P7(
図13参照)をあけつつ並列に配置される。
【0098】
細浅溝7の溝幅W7は、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を充填した無負荷状態にて、トレッド踏面における溝開口部の対向する溝壁間の距離の最大値として測定される。
【0099】
細浅溝7の溝深さH7は、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を充填した無負荷状態にて、トレッド踏面から溝底までの距離の最大値として測定される。
【0100】
細浅溝7のピッチ長P7は、隣り合う細浅溝7、7の配置間隔として定義される。
【0101】
例えば、
図11の構成では、細浅溝7が、直線形状を有し、タイヤ周方向に対して40[deg]以上90[deg]以下の傾斜角θ7を有している。また、細浅溝7が、陸部31を貫通して主溝21に開口している。しかし、これに限らず、細浅溝7が円弧形状あるいは波状形状を有しても良い(図示省略)。また、細浅溝7が、陸部31を貫通しないクローズド構造を有しても良い(図示省略)。
【0102】
また、
図12および
図13に示すように、応力緩和層4が、細浅溝7を有する陸部31の踏面まで延在して陸部31のエッジ部を覆う。また、応力緩和層4が、細浅溝7の溝内に入り込んで形成される。具体的には、応力緩和層4のコーティング材が未加硫のトレッドゴム15の所定の位置、すなわち主溝21の形成位置に塗布され、その後に加硫成型工程が行われて主溝21および細浅溝7が形成される。かかる構成では、応力緩和層4とトレッドゴム15との接触面積が細浅溝7により増加して、トレッドゴム15に対する応力緩和層4の接着性が向上する。これにより、応力緩和層4の剥離が効果的に抑制される。
【0103】
また、
図12および
図13において、陸部31の踏面における応力緩和層4の厚さGc3が、細浅溝7の溝深さH7に対して0.20≦Gc3/H7≦2.00の範囲にあることが好ましい。これにより、トレッドゴム15に対する応力緩和層4の接着性が確保される。
【0104】
また、応力緩和層4の色彩が、トレッドゴム15の色彩と同一あるいは類似であることが好ましい。具体的には、両者の明度の差が0.4以下であることが好ましい。これにより、タイヤ製品の外観が向上する。
【0105】
図14は、
図4に記載した応力緩和層4の変形例を示す説明図である。同図において、
図4に記載した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0106】
図4の構成では、陸部31、32の踏面における応力緩和層4の外面が、トレッドゴム15の露出面に対して面一となる。したがって、陸部31、32の踏面にて、トレッドゴム15の露出面と応力緩和層4の外面とが段差を有することなく滑らかに接続される。かかる構成では、陸部31、32の踏面がフラットなのでタイヤの外観が向上する点で好ましい。また、タイヤ新品時から摩耗初期における陸部31、32の踏面の接地圧が均一化されるので、タイヤの転がり抵抗が低減され、また、応力緩和層4が摩滅した後も陸部31、32の踏面が平滑に維持される。上記の構成は、上記のように応力緩和層4のコーティング材が未加硫のトレッドゴム15の所定の位置、すなわち主溝21~24の形成位置を囲む領域に塗布され、その後に加硫成型工程が行われて主溝21~24が形成されることにより実現される。具体的には、既存のタイヤ成形金型が陸部31、32の踏面にてフラットな形状を有することにより、応力緩和層4およびトレッドゴム15の露出面が面一に形成される。
【0107】
これに対して、
図14の構成では、トレッドゴム15の外面、すなわちトレッドゴ15の露出面および応力緩和層4に対する接触面が、陸部31、32の踏面にてフラットであり、応力緩和層4が、このフラットなトレッドゴム15の表面に積層される。このため、応力緩和層4が陸部31、32のエッジ部でトレッドゴム15の露出面に対して隆起する。上記の構成は、例えば加硫成型後のトレッドゴムに応力緩和層4のコーティング材を塗布することにより、形成される。このため、
図4の構成と比較して、応力緩和層4の施工の自由度が高いため、様々な溝形状を有するタイヤに対して上記した応力緩和層4を形成できる。
【0108】
図4および
図14の実施形態は、耐グルーブクラック性能、ウェット性能、低転がり抵抗性能などの複数のタイヤ性能のバランス、ならびに、トレッドゴム15の物性およびタイヤのトレッドパターンとの組み合わせを考慮して適宜選択される。
【0109】
[効果]
以上説明したように、このタイヤ1は、トレッド面に露出するトレッドゴム15と、トレッド面に形成された主溝21~24および陸部31~35と、主溝(
図2では、左右のショルダー主溝21、24)の溝底の表面に形成された応力緩和層4とを備える(
図2参照)。また、応力緩和層4が、ジエン系ゴム材料および非ジエン系ゴム材料を主成分とすると共にカーボン、加硫剤および加硫促進剤を含む。また、応力緩和層4が、タイヤ子午線方向の断面視にて、主溝21の溝底から少なくとも一方の陸部(
図4では、左右の陸部31、32)の踏面まで連続して延在して陸部31、32のエッジ部を覆う(
図4参照)。また、陸部31、32の踏面における応力緩和層4の幅Wcが、主溝21の溝深さHg(Hg1)に対して0.06≦Wc/Hgの範囲にある。また、1つの陸部31;32の踏面における応力緩和層4の総幅ΣWc(
図3において、ショルダー陸部31ではΣWc=WcA、ミドル陸部32ではΣWc=WcB)が、陸部31;32の接地幅Wb(Wb1;Wb2)に対してΣWc/Wb≦0.70の範囲にある。
【0110】
かかる構成では、応力緩和層4が主溝21の溝底から陸部31、32の踏面まで連続して延在して陸部31、32のエッジ部を覆うので、応力緩和層4が溝底および溝壁のみに形成された構成(図示省略)と比較して、トレッドゴム15に対する応力緩和層4の接着面積が増加する。これにより、タイヤ転動時における応力緩和層4の剥離が抑制される。また、比Wc/Hgの上記下限により、陸部31、32の踏面における応力緩和層4の幅Wcが適正に確保されて、応力緩和層4の剥離が適正に抑制される。すなわち、主溝21が深いほどタイヤ転動時における主溝21の変形量が大きいため、応力緩和層4の幅Wcの下限が主溝21の溝深さHgに対して適正化される。また、比ΣWc/Wbの上記上限により、陸部31、32の踏面におけるトレッドゴム15の露出面積が確保されるので、摩耗初期におけるタイヤのウェット性能が確保される。これらにより、応力緩和層4の耐久性とタイヤのウェット性能とを両立できる利点がある。
【0111】
また、このタイヤ1では、応力緩和層4の100[℃]での100%伸長時のモジュラスMcが、トレッドゴム15の100[℃]での100%伸長時のモジュラスMtに対して0.45≦Mc/Mt≦1.15の範囲にある。上記下限により、応力緩和層4のモジュラスMcが確保されて、タイヤ転動時にて主溝に侵入した異物(例えば小石など)による応力緩和層4の破損が抑制される利点がある。また、上記上限により、応力緩和層4のモジュラスMcが過大となることに起因する陸部の偏摩耗が抑制される利点がある。
【0112】
また、このタイヤ1では、応力緩和層4のゴム硬さHcが、トレッドゴム15のゴム硬さHtに対して0≦Ht-Hc≦32の範囲にある。上記下限により、応力緩和層4のゴム硬さHcが確保されて、タイヤ転動時にて主溝に侵入した異物(例えば小石など)による応力緩和層4の破損が抑制される利点がある。また、上記上限により、応力緩和層4のゴム硬さHcが過大となることに起因する陸部の偏摩耗が抑制される利点がある。
【0113】
また、このタイヤ1では、応力緩和層4の引張強さTBcが、トレッドゴム15の引張強さTBtに対して0.30≦TBc/TBt≦0.90の範囲にある。上記下限により、応力緩和層4の引張強さTBcが確保されて、タイヤ転動時の歪に対する応力緩和層4の破断耐久性が確保される利点がある。また、上記上限により、応力緩和層4の引張強さTBcが過大となることに起因する応力緩和層の剥離が抑制される利点がある。
【0114】
また、このタイヤ1では、陸部31;32の踏面における応力緩和層4の幅Wc(WcA、WcB)が、陸部31;32の接地幅Wb(Wb1;Wb2)に対して0.02≦Wc/Wb≦0.50の範囲にある(
図3および
図4参照)。上記下限により、陸部31、32の踏面における応力緩和層4の幅Wcが適正に確保され、上記上限により、陸部31、32の踏面におけるトレッドゴム15の露出面積が確保される利点がある。
【0115】
また、このタイヤ1では、陸部31、32の踏面における応力緩和層4の幅Wc(WcA、WcB)が、主溝21の溝底における応力緩和層4の厚さGc1に対して2.0≦Wc/Gc1≦70の範囲にある(
図4参照)。上記下限により、陸部31、32の踏面における応力緩和層4の幅Wcが適正に確保され、上記上限により、陸部31、32の踏面におけるトレッドゴム15の露出面積が確保される利点がある。
【0116】
また、このタイヤ1では、主溝21の溝底における応力緩和層4の厚さGc1(
図4参照)が、0.030[mm]≦Gc1≦0.400[mm]の範囲にある。これにより、応力緩和層4の厚さGc1が適正化されて、タイヤ転動時における応力緩和層4の剥離が抑制される利点がある。
【0117】
また、このタイヤ1では、主溝21の溝壁の所定領域(主溝21の溝底から溝深さHg1の40[%]以上60[%]以下の領域として定義される。)における応力緩和層4の厚さGc2(Gc2A、Gc2B)の最小値Gc2_minが、主溝21の溝底における応力緩和層4の厚さGc1よりも薄い(
図4参照)。かかる構成では、応力緩和層4が主溝21の溝壁の所定領域に薄肉部を有することにより、主溝21の溝底における応力緩和層4の剥離が抑制される利点がある。
【0118】
また、このタイヤ1では、主溝21の溝壁における応力緩和層4の厚さGc2(Gc2A、Gc2B)の最小値Gc2_minが、陸部31、32の踏面における応力緩和層4の厚さGc3よりも薄い(
図4参照)。かかる構成では、応力緩和層4が主溝21の溝壁に薄肉部を有するので、摩耗進行時にて陸部31、32の踏面に露出した応力緩和層4の部分が摩滅する過程で、応力緩和層4の全体が主溝21の溝壁から溝底に向かって剥離する事態が抑制される利点がある。
【0119】
また、このタイヤ1では、主溝21の左右の溝壁角度θgA、θgB[deg]が、主溝21の溝幅Wg(Wg1)および溝深さHgに対して2.0×(Wg+Hg)-35.0≦θgA+θgB≦4.5×(Wg+Hg)-22.5の関係を有する(
図4参照)。これにより、主溝21の溝底における応力緩和層4の接着性が向上して、応力緩和層4の剥離が効果的に抑制される利点がある。
【0120】
また、このタイヤ1では、主溝21の溝底と左右の溝壁との接続部の曲率半径RgA、RgB[mm]のうちの小さい方の曲率半径Rg_minが、主溝21の溝幅Wg[mm]、溝深さHg[mm]および左右の溝壁角度θgA、θgB[deg]に対して以下の数式(1)の条件を満たす。これにより、主溝21の溝底における応力緩和層4の厚さの分布が適正化されて、応力緩和層4の剥離が効果的に抑制される利点がある。
【0121】
【0122】
また、このタイヤ1では、主溝21の溝底における応力緩和層4の厚さGc1[mm]が、トレッドゴム15の溝底ゲージUG[mm]に対して0.055×e^(-0.452×UG)≦Gc1≦0.070×e^(-0.620×UG)+0.150の範囲にある(
図4参照)。上記下限により、タイヤ転動時における応力緩和層4の剥離が抑制され、上記上限により、応力緩和層4の耐久性が確保される。
【0123】
[適用対象]
また、この実施の形態では、上記のように、タイヤの一例として空気入りタイヤについて説明した。しかし、これに限らず、この実施の形態に記載された構成は、他のタイヤに対しても、当業者自明の範囲内にて任意に適用できる。他のタイヤとしては、例えば、エアレスタイヤ、ソリッドタイヤなどが挙げられる。
【実施例0124】
図15および
図16は、この発明の実施の形態にかかるタイヤ1の性能試験の結果を示す図表である。
図17は、比較例の試験タイヤを示す説明図である。
【0125】
この性能試験では、複数種類の試験タイヤについて、(1)応力緩和層の耐久性能および(2)タイヤのウェット性能に関する評価が行われた。また、タイヤサイズ225/65R17の試験タイヤがリムサイズ17×6.5Jのリムに組み付けられ、この試験タイヤに230[kPa]の内圧および6.0[kN]の規定荷重が付与される。
【0126】
(1)応力緩和層の耐久性能に関する評価では、ドラム径1707[mm]の室内ドラム試験機が用いられ、走行速度120[km/h]の条件下にて溝底部の応力緩和層の剥がれが発生するまでの走行距離が測定される。そして、この測定結果に基づいて比較例を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。
【0127】
(2)タイヤのウェット性能に関する評価では、試験タイヤが排気量2000ccの前輪駆動車の総輪に装着される。また、試験車両が、水深2[mm]のウェット路面を走行し、初速80[km/h]から完全停止までの制動距離が測定される。そして、この測定結果に基づいて比較例を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほどウェット路面での制動性能が優れており好ましい。また、評価が98以上であれば、ウェット性能が適正に確保されているといえる。
【0128】
実施例の試験タイヤは、
図1~
図5の構成を前提とし、左右のショルダー主溝21、24が応力緩和層4を有し、また、左右のセンター主溝22、23が応力緩和層4を有していない。また、図中左側のショルダー主溝21の溝幅Wg1がWg1=7.0[mm]であり、溝深さがHg1=8.8[mm]である。また、タイヤ接地幅TWがTW=180[mm]であり、図中左側のショルダー陸部31およびミドル陸部32の接地幅Wb1、Wb2がWb1=32[mm]、Wb2=44[mm]である。また、トレッドゴム15のキャップトレッドの100[℃]での100%伸長時のモジュラスMtが、1.1[MPa]であり、ゴム硬さHtが52であり、引張強さTBtが13.5[MPa]である。
【0129】
比較例の試験タイヤは、実施例1の試験タイヤにおいて、応力緩和層4が主溝21、22の開口部で終端しており、陸部31、32の踏面における応力緩和層4の幅WcA、WcBがゼロである(
図16参照)。
【0130】
試験結果が示すように、実施例の試験タイヤでは、応力緩和層の耐久性能およびタイヤのウェット性能が両立することが分かる。
1 タイヤ:11 ビードコア:12 ビードフィラー:13 カーカス層:14 ベルト層:141、142 交差ベルト:143 ベルトカバー:15 トレッドゴム:16 サイドウォールゴム:17 リムクッションゴム:21、24 ショルダー主溝:22、23 センター主溝:31、35 ショルダー陸部:32、34 ミドル陸部:33 センター陸部:311、321、331、341、351 ラグ溝:342 面取部:4 応力緩和層:5 ウェアインジケータ:5 ブロック:6 サイプ:7 細浅溝