(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147126
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】電力変換システム
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20231004BHJP
H02M 7/493 20070101ALI20231004BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M7/493
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054705
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】菊池 輝
(72)【発明者】
【氏名】鳴島 じゅん
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770CA02
5H770DA11
5H770HA02Y
5H770HA03Y
5H770LB01
5H770LB07
(57)【要約】
【課題】 電力変換システムに接続された変圧器の直流偏磁を抑制する。
【解決手段】 複数の電力変換装置が並列に接続され、変圧器を介して負荷に電力を供給する電力変換システムであって、電力変換装置の出力電流を検出する電流検出器と、電流検出器が検出した出力電流から、それぞれの電力変換装置が変圧器に供給する電流を演算する負荷電流演算器と、負荷電流演算器の出力の高次成分を低減し、変圧器の直流偏磁を抑制する偏磁抑制制御器とを有する電力変換システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電力変換装置が並列に接続され、変圧器を介して負荷に電力を供給する電力変換システムであって、
前記電力変換装置の出力電流を検出する電流検出器と、
前記電流検出器が検出した前記出力電流から、それぞれの電力変換装置が前記変圧器に供給する電流を演算する負荷電流演算器と、
前記負荷電流演算器の出力の高次成分を低減し、前記変圧器の直流偏磁を抑制する偏磁抑制制御器とを有する電力変換システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換システムにおいて、
第1の電力変換装置と、
第2の電力変換装置と、
第1の電力変換装置の出力電流を検出する第1の電流検出器と、
第2の電力変換装置の出力電流を検出する第2の電流検出器と、
第1の電流検出器および第2の電流検出器で検出された電流から、第1の電力変換装置が前記変圧器に供給する電流を演算する第1の負荷電流演算器と、
第1の電流検出器および第2の電流検出器で検出された電流から、第2の電力変換装置が前記変圧器に供給する電流を演算する第2の負荷電流演算器と、
第1の負荷電流演算器からの出力を演算する第1の偏磁抑制制御器と、
第2の負荷電流演算器からの出力を演算する第2の偏磁抑制制御器と、を有する電力変換システム。
【請求項3】
請求項1に記載の電力変換システムにおいて、
第1の電力変換装置と、
第2の電力変換装置と、
第1の電力変換装置の出力電流を検出する第1の電流検出器と、
第2の電力変換装置の出力電流を検出する第2の電流検出器と、
第1の電力変換装置と第2の電力変換装置の間に流れる横流電流を検出する横流検出部と、
第1の電流検出器および前記横流検出部の出力から、第1の電力変換装置が前記変圧器に供給する電流を演算する第1の負荷電流演算器と、
第2の電流検出器および前記横流検出部の出力から、第2の電力変換装置が前記変圧器に供給する電流を演算する第2の負荷電流演算器と、
第1の負荷電流演算器からの出力を演算する第1の偏磁抑制制御器と、
第2の負荷電流演算器からの出力を演算する第2の偏磁抑制制御器と、を有する電力変換システム。
【請求項4】
請求項1に記載の電力変換システムにおいて、
前記負荷電流演算器は、
前記変圧器に供給する電流を、前記電力変換装置の台数で除算した電流の値を演算する電力変換システム。
【請求項5】
請求項1に記載の電力変換システムにおいて、
前記負荷電流演算器は、
それぞれの前記電力変換装置が出力する電流の平均値を演算する電力変換システム。
【請求項6】
請求項1に記載の電力変換システムにおいて、
前記負荷電流演算器は、
前記電力変換装置の間に流れる横流成分を除去する演算をする電力変換システム。
【請求項7】
請求項3に記載の電力変換システムにおいて、
第1の負荷電流演算器は、
第1の電流検出器の出力と前記横流検出部の出力の差分を演算し、
第2の負荷電流演算器は、
第2の電流検出器の出力と前記横流検出部の出力の差分を演算する電力変換システム。
【請求項8】
請求項1に記載の電力変換システムにおいて、
前記電力変換装置の出力電圧を検出する電圧検出器と、
前記電圧検出器の前記出力電圧から、出力電圧指令を演算する電圧制御器と、
前記出力電圧指令と、前記偏磁抑制制御器からの出力電圧補正指令から、補正後の出力電圧指令を演算する演算器と、を有する電力変換システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、並列に接続した複数の電力変換装置から構成される電力変換システムに関する。
【背景技術】
【0002】
交流を直流にあるいは直流を交流に変換する電力変換装置の交流側には、所望の交流電圧及び電流を得るためや、電力変換装置の交流側に接続する電源や負荷などの他装置との絶縁を取るために、一般に変圧器が接続される。このような変圧器の入力電圧に直流成分が含まれると、変圧器を構成する磁性材料の飽和により、変圧器の励磁インダクタンスが急激に減少し過大な励磁電流が流れる、変圧器の出力電圧が歪むなどの不具合が発生し、電力変換装置の運転継続が困難になる。このように変圧器が飽和する現象は直流偏磁と呼ばれる。そこで、このような変圧器の直流偏磁を抑制するための方法が特許文献1で提案されている。特許文献1では、電力変換装置の出力電流から変圧器の直流偏磁の強さ及び方向を検出し、この検出値に基づいて電力変換装置の交流出力を補正し、変圧器の直流偏磁を抑制している。
【0003】
また、電力変換装置は、出力する電力容量を増加したい目的のため、もしくは、電力変換装置の冗長化を目的として、並列化する。この時、並列接続している各電力変換装置間に横流が流れることで、電力変換装置の交流側に接続する電源や負荷とはやり取りしない有効電力や無効電力が発生する。このような横流が流れると、各電力変換装置に必要な電力の容量が大きくなったり、各電力変換装置で発生する損失が大きくなったりする。そこで、並列に接続した複数の電力変換装置から構成される電力変換システムにおいて、各電力変換装置間に流れる横流を抑制するための方法が特許文献2で提案されている。特許文献2では、複数の並列接続した電力変換装置間に流れる横流を検出する回路を設けた無停電電源装置システムが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-309980号公報
【特許文献2】特開2005-27436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の並列接続された電力変換装置間に流れる横流を抑制することは、例えば特許文献2に示されている横流検出回路を用いて横流を検出して、その横流が小さくなるように制御することで可能である。しかし、横流を完全にゼロにすることは困難であるため、複数の並列接続された電力変換装置の出力電流には多少なりとも横流成分が含まれる。このような並列接続された電力変換装置の交流側に接続された変圧器に直流偏磁が発生すると、その電力変換装置の出力電流には直流偏磁に起因する成分と横流に起因する成分が重畳する。その場合には、特許文献1のように、電力変換装置の出力電流から変圧器の直流偏磁の強さ及び方向を検出することが困難になる。
【0006】
並列に接続した複数の電力変換装置から構成される電力変換システムにおいて、電力変換システムに接続された変圧器の直流偏磁を抑制することを、本発明は目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の好ましい一例としては、複数の電力変換装置が並列に接続され、変圧器を介して負荷に電力を供給する電力変換システムであって、前記電力変換装置の出力電流を検出する電流検出器と、前記電流検出器が検出した前記出力電流から、それぞれの電力変換装置が前記変圧器に供給する電流を演算する負荷電流演算器と、前記負荷電流演算器の出力の高次成分を低減し、前記変圧器の直流偏磁を抑制する偏磁抑制制御器とを有する電力変換システムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電力変換システムに接続された変圧器に発生する直流偏磁を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】2台の電力変換装置が並列接続した電力変換システムの実施例1の構成を示す。
【
図4】3台以上の電力変換装置が並列接続した電力変換装置の実施例1の構成を示す。
【
図5】2台の電力変換装置が並列接続した電力変換システムの実施例2の構成を示す。
【
図7】3台以上の電力変換装置が並列接続した電力変換装置の実施例2の構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る電力変換システムの実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例0011】
図1は、電力変換システムの実施例1の構成を示す。本実施例の電力変換システム1は、三相交流系統2及び変圧器3に接続し、変圧器3の他方の端子は負荷4に接続しており、電力変換システム1は変圧器3を介して、負荷4に電力を供給している。
【0012】
電力変換システム1は、電力変換装置11a、電力変換装置11b、電圧検出器(電圧検出センサ)12a、電圧検出器(電圧検出センサ)12b、電流検出器(電流検出センサ)13a、電流検出器(電流検出センサ)13b、電流検出器(電流検出センサ)14a、電流検出器(電流検出センサ)14b、横流検出回路15、コントローラ16a、コントローラ16bを有している。コントローラ16a、16bは、プロセッサや記録装置などのハードウエアと、記録装置に記録されたプログラムとを有し、プロセッサがプログラムを読み出して、後述する演算を実行するように構成できる。コントローラ16a、16bは、例えばマイクロコンピュータで構成される。
【0013】
電力変換装置11aの一方の交流端子は、三相交流系統2に接続する。他方の交流端子は、変圧器3に接続している。電力変換装置11aは三相交流系統2から交流電力を受電して、変圧器3に接続している交流端子の交流電圧を所望の値に制御する。
【0014】
電圧検出器12aは、電力変換装置11aの出力交流電圧を検出する。電流検出器13a、電流検出器14aは、電力変換装置11aの出力する交流電流を検出する。
【0015】
電力変換装置11bの一方の交流端子は、三相交流系統2に接続する、他方の交流端子は、変圧器3に接続している。電力変換装置11bは三相交流系統2から交流電力を受電して、変圧器3に接続している交流端子の交流電圧を所望の値に制御する。
【0016】
電圧検出器12bは、電力変換装置11bの出力交流電圧を検出する。電流検出器13b、電流検出器14bは電力変換装置11bの出力する交流電流を検出する。
【0017】
横流検出回路15は、電流検出器14aの検出する交流電流検出値及び電流検出器14bの検出する交流電流検出値を入力として、電力変換装置11aに流れる横流電流及び電力変換装置11bに流れる横流電流を検出する。ここで、電力変換装置11aに流れる横流電流とは、電流検出器14a及び電流検出器14bの検出する交流電流検出値の平均値と電流検出器14aの検出する交流電流検出値の差分の電流である。同様に、電力変換装置11bに流れる横流電流とは、電流検出器14a及び電流検出器14bの検出する交流電流検出値の平均値と電流検出器14bの検出する交流電流検出値の差分の電流である。
【0018】
コントローラ16aは、電圧検出器12aの出力する交流電圧検出値Va、電流検出器13aの出力する交流電流検出値Ia、横流検出回路15の出力する横流電流検出値Ivaを入力として、電力変換装置11aへの補正後出力電圧指令Vaqを出力する。
【0019】
コントローラ16bは、電圧検出器12bの出力する交流電圧検出値Vb、電流検出器13bの出力する交流電流検出値Ib、横流検出回路15の出力する横流電流検出値Ivbを入力として、電力変換装置11bへの補正後出力電圧指令Vbqを出力する。
【0020】
コントローラ16aは、電圧制御器161a、負荷電流演算器162a、偏磁抑制制御器163a、加算器164aを有している。電圧制御器161aは電圧検出器12aの出力する交流電圧検出値Vaを入力として、電力変換装置11aが出力する交流電圧の検出値が所定の値になるように出力電圧指令Vaoを出力する。
【0021】
負荷電流演算器162aは、電流検出器13aが出力する交流電流検出値Ia、横流検出回路15が出力する電力変換装置11aに流れる横流電流の検出値Ivaを入力として、電力変換装置11aが変圧器3に供給する負荷電流演算値Iwaを出力する。
【0022】
偏磁抑制制御器163aは、負荷電流演算器162aが出力する負荷電流演算値Iwaを入力として、変圧器3が直流偏磁しないように出力電圧補正指令Vapを出力する。
【0023】
加算器164aは、電圧制御器161aが出力する出力電圧指令Vao、偏磁抑制制御器163aが出力する出力電圧補正指令Vapを入力として、加算演算を実施して補正後出力電圧指令Vaqとして出力する。加算器164aが出力する補正後出力電圧指令Vaqは電力変換装置11aが出力する交流電圧の指令となる。
【0024】
コントローラ16bは、電圧制御器161b、負荷電流演算器162b、偏磁抑制制御器163b、加算器164bを有している。電圧制御器161bは電圧検出器12bの出力する交流電圧検出値Vbを入力として、電力変換装置11bが出力する交流電圧の検出値が所定の値になるように出力電圧指令Vboを出力する。
【0025】
負荷電流演算器162bは、電流検出器13bが出力する交流電流検出値Ib、横流検出回路15が出力する電力変換装置11bに流れる横流電流の検出値Ivbを入力として、電力変換装置11bが変圧器3に供給する負荷電流演算値Iwbを出力する。
【0026】
偏磁抑制制御器163bは、負荷電流演算器162bが出力する負荷電流演算値Iwbを入力として、変圧器3が直流偏磁しないように出力電圧補正指令Vbpを出力する。
【0027】
加算器164bは、電圧制御器161bが出力する出力電圧指令Vbo、偏磁抑制制御器163bが出力する出力電圧補正指令Vbpを入力として、加算演算を実施して補正後出力電圧指令Vbqとして出力する。加算器164bが出力する補正後出力電圧指令Vbqは電力変換装置11bが出力する交流電圧の指令となる。
【0028】
図2は、負荷電流演算器162a、162bの構成を示す。負荷電流演算器162a、162bは減算器1621を有している。電流検出値IaまたはIb、横流電流検出値IvaまたはIvbを入力として、減算器1621がその差分を負荷電流演算値IwaまたはIwbとして出力する。
【0029】
横流電流検出値を出力する横流検出回路15は、コントローラ16aに対しては、電流検出器14a及び電流検出器14bの検出する交流電流検出値の平均値と電流検出器14aの検出する交流電流検出値の差分の電流を横流電流検出値Ivaとして出力する。同様に、コントローラ16bに対しては、電流検出器14a及び電流検出器14bの検出する交流電流検出値の平均値と電流検出器14bの検出する交流電流検出値の差分の電流を横流電流検出値Ivbとして出力する。
【0030】
したがって、
図2に示す演算を行うことで、負荷電流演算値IwaまたはIwbは電流検出器14a及び電流検出器14bの検出する交流電流検出値の平均値を求めていることになる。したがって、このような演算を実施することで、負荷電流演算値IwaまたはIwbには横流成分が含まれなくなり、横流の影響を排除することができる。
【0031】
図3は、偏磁抑制制御器163a、163bの構成を示す。偏磁抑制制御器163a、163bは高調波検出器1631、高調波制御器1632を有している。
【0032】
高調波検出器1631は負荷電流演算値IwaまたはIwbに含まれる高調波成分を検出する。高調波制御器1632は高調波検出器1631が出力する高調波成分検出値Ippが零になるように出力電圧補正指令VapまたはVbpを出力する。
【0033】
変圧器3が直流偏磁すると、変圧器3の出力電圧が歪むため、電力変換装置11a及び電力変換装置11bと変圧器3の間に流れる電流が歪み、負荷電流演算値IwaまたはIwbに高調波成分が発生する。高調波検出器1631はこの高調波成分を検出し、高調波制御器1632はこの高調波成分が零になるように出力電圧補正指令VapまたはVbpを出力することで、変圧器3の直流偏磁を抑制する。
【0034】
以上の構成により、2台の電力変換装置が並列接続した構成からなる電力変換システムにおいて、負荷電流を演算することで横流の影響を排除することが可能となり、電力変換システムに接続する変圧器の直流偏磁を抑制することが可能となる。
【0035】
なお、本実施例では、2台の電力変換装置が並列接続した構成を示したが、3台以上の電力変換装置が並列接続した構成にしても良い。
図4に、3台以上の電力変換装置が並列接続した構成を示す。コントローラ16a、16b、16cにおける負荷電流演算器は、変圧器3に供給する電流を、電力変換装置の台数で除算した電流の値を演算する。
図4に示すような構成でも同様に、電力変換システムに接続する変圧器の直流偏磁を抑制することが可能である。
すなわち、本実施例では、2台の電力変換装置が並列接続した構成からなる電力変換システムにおいて、実施例1と比べて、横流検出回路を用いることなく、電力変換システムに接続する変圧器の直流偏磁を抑制することが可能となる。