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特開2023-14716鉄筋コンクリート構造物の解体システム及び解体方法
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  • 特開-鉄筋コンクリート構造物の解体システム及び解体方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014716
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリート構造物の解体システム及び解体方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/08 20060101AFI20230124BHJP
【FI】
E04G23/08 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118833
(22)【出願日】2021-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】392014715
【氏名又は名称】株式会社千代田エレクトロニクス
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】井戸 康浩
(72)【発明者】
【氏名】山崎 輝士
(72)【発明者】
【氏名】石丸 達朗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信也
(72)【発明者】
【氏名】下坂 賢二
(72)【発明者】
【氏名】松岡 明彦
(72)【発明者】
【氏名】成田 修英
(72)【発明者】
【氏名】右田 周平
(72)【発明者】
【氏名】奥田 修司
(72)【発明者】
【氏名】田中 高広
(72)【発明者】
【氏名】工藤 真温
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 清久
(72)【発明者】
【氏名】力石 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真弘
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176DD01
2E176DD53
(57)【要約】
【課題】環境への影響を一層低減することが可能な鉄筋コンクリート構造物の解体システムを提供する。
【解決手段】鉄筋コンクリート構造物12から露出した鉄筋13に直流電流を供給し、電流の供給により鉄筋13が熱膨張することで鉄筋13とコンクリート14との付着力を低下させ、コンクリート14に電気的に接地する接地線を接続し、接地線上に第2電流計25を配置した。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造物から露出した鉄筋に直流電流を供給し、電流の供給により前記鉄筋が熱膨張することで前記鉄筋とコンクリートとの付着力を低下させ、
前記コンクリートに電気的に接地する接地線を接続し、前記接地線上に接地線用電流計を配置したことを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の解体システム。
【請求項2】
前記コンクリートにコンクリート漏れ電流検出線の両端を接続し、前記コンクリート漏れ電流検出線上にコンクリート漏れ電流検出線用電流計を配置したことを特徴とする請求項1に記載の鉄筋コンクリート構造物の解体システム。
【請求項3】
前記鉄筋コンクリート構造物が、ガス切断により切り出されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄筋コンクリート構造物の解体システム。
【請求項4】
鉄筋コンクリート構造物から露出した鉄筋に直流電流を供給し、電流の供給により前記鉄筋が熱膨張することで前記鉄筋とコンクリートとの付着力を低下させ、
前記コンクリートに電気的に接地する接地線を接続し、前記接地線上に接地線用電流計を配置したことを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の解体方法。
【請求項5】
前記コンクリートにコンクリート漏れ電流検出線の両端を接続し、前記コンクリート漏れ電流検出線上にコンクリート漏れ電流検出線用電流計を配置したことを特徴とする請求項4に記載の鉄筋コンクリート構造物の解体方法。
【請求項6】
前記鉄筋コンクリート構造物が、ガス切断により切り出されたものであることを特徴とする請求項4又は5に記載の鉄筋コンクリート構造物の解体方法。
【請求項7】
鉄筋コンクリート構造物から露出した鉄筋に直流電流を供給し、電流の供給により前記鉄筋が熱膨張することで前記鉄筋とコンクリートとの付着力を低下させ、
前記鉄筋に接続端子を介して電流供給線を接続し、
前記直流電流のプラス側及びマイナス側のうち少なくとも一方において、前記接続端子と前記電流供給線の組が少なくも1組設けられ、各組の電流を検出しながら前記直流電流を供給することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の解体システム。
【請求項8】
鉄筋コンクリート構造物から露出した鉄筋に直流電流を供給し、電流の供給により前記鉄筋が熱膨張することで前記鉄筋とコンクリートとの付着力を低下させ、
前記鉄筋に接続端子を介して電流供給線を接続し、
前記鉄筋と前記接続端子との間に、導電性部材を介在させたことを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の解体システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、通電加熱による鉄筋コンクリート構造物の解体システム及び解体方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市部の新築工事では既存の鉄筋コンクリート構造物の解体を伴う工事が多くなっている。耐圧スラブなど大断面の部材については、圧砕が容易ではなく、大型ブレーカーを用いた解体が行われている。解体に大型ブレーカーを用いた場合には、発生する騒音、振動、粉塵など、周辺環境へ及ぼす影響が課題となる。また、ワイヤーソーや連続コアボーリングを併用した解体工法もあるが、これらは、大型ブレーカーと比較して解体効率が低く、コストが高いことが課題となる。
【0003】
このような背景から、発明者らは、鉄筋コンクリート構造物の解体効率化や周辺環境に及ぼす影響の低減を目的とし、鉄筋を電気的に加熱する方法(以下、通電加熱破砕工法)による解体工法を提案している(特許文献1)。当工法は、直流電流を鉄筋に流すことで、コンクリートにひび割れを発生させ、その後の解体作業を容易にする解体補助工法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-159080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、通電加熱破砕工法による解体工法は、上述のように、解体を効率化したり、周辺環境への影響を低減したりするうえで有効である。したがって、通電加熱破砕工法による解体工法に改良を加え、環境への影響を一層低減できるものとすることが望ましい。
【0006】
本発明は、環境への影響を一層低減することが可能な鉄筋コンクリート構造物の解体システム、及び、解体方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、鉄筋コンクリート構造物から露出した鉄筋に直流電流を供給し、電流の供給により前記鉄筋が熱膨張することで前記鉄筋とコンクリートとの付着力を低下させ、
前記コンクリートに電気的に接地する接地線を接続し、前記接地線上に接地線用電流計を配置したことを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の解体システムや解体方法にある。
また、上記課題を解決するために本発明は、鉄筋コンクリート構造物から露出した鉄筋に直流電流を供給し、電流の供給により前記鉄筋が熱膨張することで前記鉄筋とコンクリートとの付着力を低下させ、
前記鉄筋に接続端子を介して電流供給線を接続し、
前記直流電流のプラス側及びマイナス側のうち少なくとも一方において、前記接続端子と前記電流供給線の組が少なくも1組設けられ、各組の電流を検出しながら前記直流電流を供給することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の解体システムにある。
また、上記課題を解決するために本発明は、鉄筋コンクリート構造物から露出した鉄筋に直流電流を供給し、電流の供給により前記鉄筋が熱膨張することで前記鉄筋とコンクリートとの付着力を低下させ、
前記鉄筋に接続端子を介して電流供給線を接続し、
前記鉄筋と前記接続端子との間に、導電性部材を介在させたことを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の解体システムにある。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、環境への影響を一層低減することが可能な鉄筋コンクリート構造物の解体システム、及び、解体方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る解体システム、及び、解体方法を説明するための図である。
図2】接続端子と鉄筋との接触形態の一例を示す図である。
図3】接続端子を複数にした場合の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の一実施形態に係る解体システム10、及び、解体方法について説明する。図1は本発明の一実施形態に係る解体システム10を模式化して示している。この解体システム10においては、地面(大地)11に直接置かれた鉄筋コンクリート構造物(以下では「構造物」と称する)12の鉄筋13に対して、直流電源17(図示を省略した発電機に接続されている)から、制御装置18もしくは整流器(図示略)を介して、直流電流が供給される。
【0011】
構造物12から露出した鉄筋13の軸方向の2箇所に対して、接続端子19、20がそれぞれ通電可能に接続される。これらの接続端子19、20には、直流電源17のプラス側出力ケーブル(+)と、マイナス側出力ケーブル(-)が接続されている。プラス側出力ケーブル(+)と、マイナス側出力ケーブル(-)は、電流供給線(或いは電力供給線)として機能する。
【0012】
接続端子19、20としては、例えば、鉄筋13に対し加圧力を作用させて密着するタイプ(加圧式)のものを採用することが可能である。このような加圧力を発生させる機構(加圧力発生機構)としては、図示は省略するが、ボルト締めにより、接続端子19、20を鉄筋13に押し付けるものを例示できる。また、板ばね、コイルばね、又は、空気ばね(バルーン)などの弾性体の弾性復元力を接続端子19、20に作用させて、接続端子19、20を鉄筋13に押し付けるものなども例示できる。さらに、接続端子19、20が、板ばねやコイルばねを有するクリップとして構成されているものなども例示できる。
【0013】
加圧力を発生させる接続端子19、20を用いることにより、通電中における接続端子19、20の緩みを防止できる。また、加圧力発生機構として、空気ばね(バルーン)の弾性復元力を接続端子19、20に作用させるものを採用した場合には、空気圧と、鉄筋13と接続端子19、20との接触面積とにより、加圧力が決まることとなる。
【0014】
鉄筋13については、構造物12のコンクリート14から鉄筋13が既に突出していれば、突出した鉄筋13に対して接続端子19、20が接続される。鉄筋13がコンクリート14から露出していない状況であれば、コンクリート14に穴を開けたり、コンクリート14の端面に露出した鉄筋13の周囲を削って除去したりして、鉄筋13を露出させることが可能である。構造物12に穴を開けたり、コンクリート14を削ったりするにあたっては、一般的な種々の技術を採用できる。
【0015】
また、構造物12において、図2に模式的に示すように、鉄筋13の周りでコンクリート14が隆起している場合もあり得る。このような場合には、鉄筋13と接続端子(図2では接続端子19)との間に、導電性の板状体(導電性部材)28を介在させて通電を行ってもよい。この場合には、コンクリート14の凹部内に露出した鉄筋13に対して、接続端子19、20との導通を確保することが可能となる。
【0016】
ここで、図2の例では、鉄筋13の端面に、円形の板状体(「フィラー」や「スペーサ」などともいう)28が面接触しており、板状体28に、接続端子19が面接触している。板状体28の外形寸法(ここでは直径d1)は、鉄筋13の端面における外形寸法(ここでは直径d2)よりも小さくなっている。また、接続端子19(及び接続端子20)を鉄筋13に押し付ける加圧力を発生させる機構としては、前述したような種々のものを採用することが可能である。
【0017】
なお、図2は、鉄筋13、コンクリート14、接続端子19、及び、板状体28をあくまでも模式的に示しているものであり、例えば、コンクリート14の形状は、複雑な形状の凹凸を有していることが多い。また、板状体28と鉄筋13との接触面積を十分に確保できれば、鉄筋13における板状体28との接触位置は、端面以外の部位(長手方向の途中の部位など)であってもよい。
【0018】
直流電源17は、制御装置18に接続されており、直流電源17による通電は、制御装置18により制御される。本実施形態において、鉄筋13に供給される電流の値(定格)はDC2500Aで、電圧の値(定格)は50Vとなっている。この電流値や電圧値は、使用している電源の最大能力を考慮したもので、使用する電源の能力に合わせて、電流値や電圧値を増大させることも可能である。また、図示は省略するが、鉄筋13の温度計測手段や漏洩電流検知手段等が備えられており、鉄筋13の通電加熱の状況は、リアルタイムで監視される。
【0019】
鉄筋13に供給される電流の値は、解体しようとする構造物12の状態や、鉄筋13の太さや配設等の事情を考慮して設定される。例えば、電力(定格)を、例えば、DC2000A-20V~DC2500A-50Vの間(単体の電源又は複数の電源を組合わせることで定格容量の拡張が可能)で変化させ、解体の対象の構造物12や鉄筋13の状況によって、電流の値を調整できるようにすることが可能である。また、通電により鉄筋13が熱膨張する。鉄筋13とコンクリート14の熱膨張率の違いにより、コンクリート14にひび割れが生じるとともに、コンクリート14が熱により脆弱化され、鉄筋13とコンクリート14との付着力が低下する。
【0020】
温度計測手段や漏洩電流検知手段等を用いた監視により、過度な温度上昇や漏洩電流が検出されれば、直流電源17の出力の調整や、直流電源17の出力停止が行われる。このような、通電状況の検出結果に基づく直流電源17の制御は、作業者が、計器類を目視しながら行ってもよい。或いは、各種の監視信号を制御装置18に入力し、制御装置18が自動で行うようにしてもよい。
【0021】
構造物12のコンクリート14には、コンクリート漏れ電流検出線21を介して第1電流計(コンクリート漏れ電流検出線用電流計)22が接続されている。第1電流計22は、コンクリート14に流れる電流(コンクリート表面-コンクリート表面の間の電流)を検出し、電流値を表示することが可能である。電流値の表示は、アナログ式であっても、デジタル式であってもよい。コンクリート漏れ電流検出線21の両端は、コンクリート14に通電可能に接続されている。
【0022】
さらに、コンクリート14は、接地線23とアース端子24を介して電気的に接地(アース)されており、コンクリート14とアース端子24との間には、第2電流計(接地線用電流計)25が配置されている。第2電流計25によって、アース線に流れる電流(コンクリート表面とアースの間の電流)を検出し、電流値を表示することが可能である。電流値の表示は、第1電流計22と同様にアナログ式であっても、デジタル式であってもよい。接地線23の一端はコンクリート14に通電可能に接続され、他端はアース端子24に接続されている。
【0023】
ここで、第1電流計22や第2電流計25が示す電流値を監視して、直流電源17の出力を調整することも可能である。このような直流電源17に係る出力の調整は、作業者が、第1電流計22や第2電流計25(主には第1電流計22)を目視しながら行ってもよい。或いは、第1電流計22や第2電流計25の検出結果を制御装置18に入力し、制御装置18が直流電源17の出力を自動で調整するようにしてもよい。
【0024】
以上説明したような解体システム10に対し、フィールド実験を行い、構造物12(特にコンクリート14)を乾燥した状態とし、鉄筋13に通電した。この結果、第1電流計22の値(コンクリート表面-コンクリート表面の値)は、0.001mAとなった。さらに、第1電流計22の値に関しては、構造物12(特にコンクリート14)を散水により湿潤した状態とし、鉄筋13に通電した。この結果、第1電流計22の値は0.025mAとなり、電流の測定値が乾燥時に比べて上昇した。
【0025】
ここで、構造物12は、梁形状の鉄筋コンクリートとし、構造物12の寸法は、W(幅)600×H(高さ)600×L(長さ)1200(単位mm)であった。また、鉄筋13の種類やサイズについては、主筋D(直径)25、スターラップ筋D10とし、一本の主筋に対し通電を行った。電流値については、2500Aとなるように整流器(図示略)により制御し、電流と電圧が安定したときの電流値を読み取った。ここで、通電対象とする鉄筋の数は一本に限られないが、このフィールド実験では、一本の鉄筋に対して通電を行った。また、必要な電力(ここでは電流値の2500A)は、このフィールド実験での値であり、鉄筋のサイズ(長さや径)などの条件の違いにより変更される。
【0026】
これに対し、第2電流計25の値(コンクリート表面-アースの値)に関しては、構造物12(特にコンクリート14)を乾燥した状態とした際には、0.006mAとなった。また、散水により湿潤した状態では、第2電流計25の値は0.010mAとなり、第2電流計25についても、電流の測定値が乾燥時に比べて上昇した。参考として計測したアースの接地抵抗値は12Ωであった。この値は、一般的に計測される値と同等以下の値であり、測定時は、電流が大地へ流れ易い状態であったといえる。
【0027】
このように、構造物12の乾燥時に比べて湿潤時には、第1電流計22及び第2電流計25の計測値は上昇したが、いずれの場合も1mA以下であった。第1電流計22及び第2電流計25の計測値が、いずれも1mA以下といった低い値になることについては、以下のように推測できる。
【0028】
構造物12が地面11に置かれ、地面11に接していることから、構造物12のコンクリート14から漏れたとしても、電流の大部分は、地面11の表面近くの部位を通って、構造物12に戻る。つまり、構造物12と地面11とに跨る電流の閉ループ(通電回路)が形成され、構造物12と地面11との間で電流が循環する。このため、地面11の、構造物12が置かれた部位から外側の部位に、1mAを超えるような電流は漏れず、過大な漏れ電流の発生が防止されると考えられる。
【0029】
また、上述したフィールド実験のみでなく、実際の施工現場においても、電流測定を行った。対象とした構造物(構造物12に相当する)は、基礎地中梁と基礎フーチングであり、通電対象の鉄筋は、いずれも主筋D25とした。基礎地中梁については、構造物(構造物12)の両端を切断後、クレーン(図示略)で揚重し、地上の解体ヤードにて、通電加熱作業を行った。基礎フーチングについては、原位置にて通電加熱作業を行った。
【0030】
基礎地中梁については、コンクリートに十分に散水し湿潤状態で計測した。基礎フーチングについては、地下水や降雨の影響により、コンクリート表面が湿っている状態であった。通電加熱の電流値については、フィールド実験と同様にDC2500Aとした。
【0031】
電流の計測結果(コンクリート表面-アースの値)は、基礎地中梁で0.106mA、基礎フーチングの上端筋で0.518mA、同じく基礎フーチングの下端筋で0.017mAであった。いずれの測定箇所も、水の供給に関わらず(湿潤状態であっても乾燥状態と同様に)1mA以下となった。
【0032】
以上説明した解体システム10や解体工法によれば、切り出された構造物12が地面に直接置かれ、第1電流計22や第2電流計25がコンクリート14に接続され、作業中の電流値を提示しながら、鉄筋13への通電加熱が行われる。このため、高い値の電流(例えばDC2500A)を使用しながらも漏れる電流を少なくすることができる。さらに、高い値の電流を使用しながらも漏れる電流が少ない作業であることを、作業者や監督者等(作業者等)に明示することができる。
【0033】
このような通電加熱により、鉄筋13が膨張してコンクリート14にひび割れが生じてコンクリート強度が低下(コンクリート14が脆弱化)するとともに、鉄筋13とコンクリート14との付着力が低下する。このため、圧砕の際には比較的小さな力で効率よくコンクリート14を破砕できるようになる。さらに、低騒音、低振動、短時間、低粉塵での解体が可能であり、周辺環境への影響が少ない。また、圧砕以外にも、例えば、ジャイアントブレーカー等のような重機を用いた解体工法に対して、施工性向上(省力化、時間短縮等)に寄与することができる。発明者等による実験では、鉄筋13が容易にコンクリート14から分離することにより、構造物12に係る解体の効率(解体効率)は、2倍程度向上し、解体に要する所要時間が1/2程度となった。
【0034】
ここで、例えば、直流電源17(及び発電機)や制御装置18を作業車に搭載し、直流電源17や制御装置18を移動させて解体作業を行うことも可能である。
【0035】
また、構造物12は、ワイヤーソーを用いた工法などにより切削され、本実施形態の工法に供されたものとすることができる。また、構造物12は、振動や騒音が少なく、静音性の高いガス切断の工法により切削されたものとすることも可能である。この場合のガス切断の工法としては、切断トーチから燃料ガスやパウダー(金属粉)を噴射し、燃料ガスやパウダーを燃焼させた火炎により、構造物12の切り出しを行えるようにしたものを挙げることができる(例えば、特開2020-138303号公報)。
【0036】
このようなガス切断においては、燃料ガスやパウダー(金属粉)が燃焼酸素とともに、混合ガスとして切断トーチから噴射される。混合ガスに着火が行われ、高温(2000~2500℃ 以上)な火炎が、鉄筋コンクリート構造物に吹き付けられる。高温な火炎により、鉄筋コンクリート構造物の鉄筋13とコンクリート14がともに溶融する。
【0037】
鉄筋13とコンクリート14の溶融により、鉄筋コンクリート構造物に裂開部が形成される。切断トーチを裂開部の中に進入させながら、内部の溶融を進めたり、切断トーチを横方向や縦方向などに移動させたりすることによって、構造物12が、例えば直方体状に切り出される。
【0038】
また、発明者等は、作業者が手で切断トーチを把持し、切断トーチを機動的に移動させて鉄筋コンクリート構造物を切断できるようにした切断装置や切断方法を提案している(特願2020-157195号)。この工法においては、切断トーチに冷却水が供給され、冷却水が、切断トーチの内部と外部との間で循環する。このため、切断トーチが高温にならず、切断トーチの把持が可能となっている。
【0039】
これらのようなガス切断により切り出された構造物12に対し、本実施形態の解体システム10や切断方法を用いることにより、静音性の高い工法を連続させて、構造物12の切断から解体までを一貫して行うことができる。そして、環境への影響を一層低減して、構造物12の解体を行うことが可能となる。
【0040】
なお、プラス側出力ケーブル(+)やマイナス側出力ケーブル(-)の内の、少なくともいずれか一方を複数に分け、各ケーブルに接続端子19(又は接続端子20)を設けて、鉄筋への通電を行ってもよい。図3は、プラス側出力ケーブル(+)とマイナス側出力ケーブル(-)の両方を複数とした例を模式的に示している。図3の例では、プラス側及びマイナス側のいずれも6本のケーブルが用いられているが、ケーブルの本数はこれに限定されるものではない。このように、1つの接続領域に複数のケーブルを接続することで、接続端子19、20を小型化及び軽量化でき、個々の接続端子19、20の接続作業に係る作業性を向上できる。
【0041】
さらに、図示は省略するが、各ケーブル上に電流計を設置し、各ケーブルを流れる電流のバランスを監視できるようにしてもよい。このようにした場合は、例えば、いずれかのケーブルに電流が集中して、ケーブルが過度に温度上昇したり、溶融したりすることを未然に防止できる。
【0042】
例えば、ケーブルの数が、プラス側及びマイナス側で6本ずつであった場合、通電の開始時に、各ケーブル上の電流計の値を監視して、電流供給のバランスを確認する。電流供給のバランスの問題がなければ、その後も電流の供給を継続する。このように、通電の開始当初に電流計を確認すれば、その後の電流計の監視を省略することが可能である。ただし、通電を停止した後に通電を再開するような場合は、通電再開の当初に、改めて、電流計により電流供給のバランスを確認する、といったことも可能である。
【0043】
また、複数の鉄筋13に同時に通電することにより、通電された鉄筋13を含む領域(エリア)に、通電加熱を行うことが可能となる。この場合は、各鉄筋13に1つ又は複数のケーブル(接続端子)を接続することが可能である。
【0044】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で多くの変形が可能である。そして、説明した実施形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【符号の説明】
【0045】
10 解体システム
11 地面
12 鉄筋コンクリート構造物
13 鉄筋
14 コンクリート
17 直流電源
18 制御装置
19、20 接続端子
21 コンクリート漏れ電流検出線
22 第1電流計(コンクリート漏れ電流検出線用電流計)
23 接地線
24 アース端子
25 第2電流計(接地線用電流計)
28 板状体

図1
図2
図3