(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147165
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】定着装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
G03G15/20 505
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160914
(22)【出願日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2022052916
(32)【優先日】2022-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100177644
【弁理士】
【氏名又は名称】児玉 和樹
(72)【発明者】
【氏名】綿谷 友宏
(72)【発明者】
【氏名】上原 雅和
(72)【発明者】
【氏名】河済 択哉
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕徳
(72)【発明者】
【氏名】大西 祥太
(72)【発明者】
【氏名】酒井 雄大
【テーマコード(参考)】
2H033
【Fターム(参考)】
2H033AA06
2H033AA10
2H033AA11
2H033AA21
2H033AA23
2H033AA25
2H033BA25
2H033BA26
2H033BB04
2H033BB15
2H033BB18
2H033BB21
2H033BB29
2H033BB30
2H033BB33
2H033BB34
2H033BB37
2H033BE00
(57)【要約】
【課題】定着ベルトの内周面に対する潤滑剤の過剰な付着を抑制し、且つ定着ベルトの波打つような変形を抑制する定着装置を提供する。
【解決手段】
定着装置7は、軸周りに回転しながら用紙P上のトナー像を加熱する定着ベルト20と、加圧領域Nを通過する用紙P上のトナーを加圧する加圧ローラー21と、定着ベルト20の内側に設けられ、潤滑剤を介して定着ベルト20の内周面20Aに接触する第1摺動面26を有するヒーターホルダー22と、を備え、ヒーターホルダー22は、加圧領域Nよりも用紙Pの通過方向の上流側で第1摺動面26に軸方向に並べられ、定着ベルト20の回転方向の上流から下流に向かう潤滑剤の移動をガイドする複数の第1スリット31と、各々の第1スリット31からの潤滑剤の流出を制限し、且つ各々の第1スリット31への定着ベルト20の落ち込みを規制する塞き止め部41と、を有している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する筒状に形成され、軸周りに回転しながら媒体上のトナー像を加熱する定着ベルトと、
軸周りに回転しながら前記定着ベルトとの間に加圧領域を形成し、前記加圧領域を通過する前記媒体上のトナーを加圧する加圧部材と、
前記定着ベルトの内側に設けられ、潤滑剤を介して前記定着ベルトの内周面に接触する摺動面を有し、前記定着ベルトを加熱するヒーターを保持するホルダーと、を備え、
前記ホルダーは、
前記加圧領域よりも前記媒体の通過方向の上流側で前記摺動面に軸方向に並べられ、前記定着ベルトの回転方向の上流から下流に向かう前記潤滑剤の移動をガイドする複数のスリットと、
各々の前記スリットからの前記潤滑剤の流出を制限し、且つ各々の前記スリットへの前記定着ベルトの落ち込みを規制する塞き止め部と、を有していることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
各々の前記スリットは、底面と周壁面とを有し、前記摺動面に環状の開口縁部を形成するように窪んでおり、
前記塞き止め部は、各々の前記スリットの前記周壁面のうち前記定着ベルトの回転方向の下流側に位置する壁面を含むことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記塞き止め部は、複数の前記スリットよりも前記定着ベルトの回転方向の下流側において、前記ホルダーの前記摺動面から突き出したリブを含むことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項4】
各々の前記スリットは、前記定着ベルトの回転方向の上流から下流に向かって軸方向の中央側に傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項5】
複数の前記スリットは、軸方向の中央付近において前記定着ベルトの回転方向と平行に延びた少なくとも1つの前記スリットを除き、前記定着ベルトの回転方向の上流から下流に向かって軸方向の中央側に傾斜し、
複数の前記スリットの傾斜角度は、軸方向の中央から両外側に向かって次第に増加することを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項6】
前記スリットは、前記定着ベルトの回転方向の上流側から前記潤滑剤を流入させる流入部と、前記定着ベルトの回転方向の下流側へと前記潤滑剤を流出させる流出部と、を有し、
前記摺動面は、前記定着ベルトを挟んで前記媒体に対向する対向領域と、前記対向領域の軸方向の両外側であって前記定着ベルトを挟んで前記媒体に非対向となる一対の非対向領域と、を有し、
前記塞き止め部は、前記対向領域のみに形成され、
前記対向領域には複数の前記スリットが形成され、各々の前記非対向領域には少なくとも1つの前記スリットが形成され、
少なくとも、前記非対向領域に形成された前記スリットおよび前記対向領域の軸方向の最外端に形成された前記スリットは、それぞれ、前記定着ベルトの回転方向から見た場合に、前記流出部を、軸方向の内側に隣接する他の前記スリットの前記流入部に重ねるように傾斜していることを特徴とする請求項4または5に記載の定着装置。
【請求項7】
請求項1に記載の定着装置を備えていることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒体にトナー像を定着させる定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
定着ベルトと、これに接触してニップ部を形成する加圧ローラーとを備えた定着装置が知られている(特許文献1)。定着ベルトの内側にはニップ形成部材が配置され、定着ベルトの内周面とニップ形成部材の摺動面との間には潤滑剤が付着している。ニップ形成部材の摺動面には、潤滑剤を軸方向(幅方向)の中央部側へと移送する複数の傾斜溝が形成されている。傾斜溝における定着ベルトの回転方向の下流端部は、ニップ形成部材の摺動面との間に段差が無く、摺動面に連続するように形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した定着装置では、傾斜溝の下流端部が摺動面に連続するように形成されていたため、傾斜溝に溜まった潤滑剤が流出し易く、定着ベルトの内周面に過剰に付着することがあった。
【0005】
また、上記した定着装置では、定着ベルトが傾斜溝に落ち込んで軸方向に波打つように変形することがあった。波打つように変形した定着ベルトの内周面には潤滑剤が均一に付着せず、定着ベルトとニップ形成部材との摺動抵抗(摩擦)が増加する虞があった。また、波打つように変形した定着ベルトでは、ニップ部の圧力が軸方向に亘って均一にならず、定着画像に筋状の光沢ムラが入る等の画像不良が発生することがあった。さらに、波打つように変形した定着ベルトが回転すると、定着ベルトを軸方向に移動させる力が働き、定着ベルトの端部が破損する虞もあった。
【0006】
本発明は、上記事情を考慮し、定着ベルトの内周面に対する潤滑剤の過剰な付着を抑制し、且つ定着ベルトの波打つような変形を抑制する定着装置および画像形成装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の定着装置は、可撓性を有する筒状に形成され、軸周りに回転しながら媒体上のトナー像を加熱する定着ベルトと、軸周りに回転しながら前記定着ベルトとの間に加圧領域を形成し、前記加圧領域を通過する前記媒体上のトナーを加圧する加圧部材と、前記定着ベルトの内側に設けられ、潤滑剤を介して前記定着ベルトの内周面に接触する摺動面を有し、前記定着ベルトを加熱するヒーターを保持するホルダーと、を備え、前記ホルダーは、前記加圧領域よりも前記媒体の通過方向の上流側で前記摺動面に軸方向に並べられ、前記定着ベルトの回転方向の上流から下流に向かう前記潤滑剤の移動をガイドする複数のスリットと、各々の前記スリットからの前記潤滑剤の流出を制限し、且つ各々の前記スリットへの前記定着ベルトの落ち込みを規制する塞き止め部と、を有している。
【0008】
この場合、各々の前記スリットは、底面と周壁面とを有し、前記摺動面に環状の開口縁部を形成するように窪んでおり、前記塞き止め部は、各々の前記スリットの前記周壁面のうち前記定着ベルトの回転方向の下流側に位置する壁面を含むとよい。
【0009】
この場合、前記塞き止め部は、複数の前記スリットよりも前記定着ベルトの回転方向の下流側において、前記ホルダーの前記摺動面から突き出したリブを含むとよい。
【0010】
この場合、各々の前記スリットは、前記定着ベルトの回転方向の上流から下流に向かって軸方向の中央側に傾斜してもよい。
【0011】
他の場合、複数の前記スリットは、軸方向の中央付近において前記定着ベルトの回転方向と平行に延びた少なくとも1つの前記スリットを除き、前記定着ベルトの回転方向の上流から下流に向かって軸方向の中央側に傾斜し、複数の前記スリットの傾斜角度は、軸方向の中央から両外側に向かって次第に増加するとよい。
【0012】
この場合、前記スリットは、前記定着ベルトの回転方向の上流側から前記潤滑剤を流入させる流入部と、前記定着ベルトの回転方向の下流側へと前記潤滑剤を流出させる流出部と、を有し、前記摺動面は、前記定着ベルトを挟んで前記媒体に対向する対向領域と、前記対向領域の軸方向の両外側であって前記定着ベルトを挟んで前記媒体に非対向となる一対の非対向領域と、を有し、前記塞き止め部は、前記対向領域のみに形成され、前記対向領域には複数の前記スリットが形成され、各々の前記非対向領域には少なくとも1つの前記スリットが形成され、少なくとも、前記非対向領域に形成された前記スリットおよび前記対向領域の軸方向の最外端に形成された前記スリットは、それぞれ、前記定着ベルトの回転方向から見た場合に、前記流出部を、軸方向の内側に隣接する他の前記スリットの前記流入部に重ねるように傾斜してもよい。
【0013】
本発明の画像形成装置は、上記のいずれかの定着装置を備えている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、定着ベルトの内周面に対する潤滑剤の過剰な付着を抑制し、且つ定着ベルトの波打つような変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の内部構造を示す概略図(側面図)である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る定着装置を示す斜視図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る定着装置を示す正面図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係る定着装置を示す背面図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る定着装置を示す断面図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係る定着装置を示す正面図である。
【
図8】本発明の第2実施形態に係る定着装置を示す背面図である。
【
図9】本発明の第1実施形態の変形例に係る定着装置を示す正面図である。
【
図10】本発明の第1実施形態の変形例に係る定着装置を示す背面図である。
【
図11】本発明の第1実施形態の他の変形例に係る定着装置を示す正面図である。
【
図12】本発明の第1実施形態の他の変形例に係る定着装置を示す背面図である。
【
図13】本発明の第1実施形態の他の変形例に係る定着装置の第1摺動面の一部を拡大して示す正面図である。
【
図14】本発明の第1実施形態の他の変形例に係る定着装置の第2摺動面の一部を拡大して示す背面図である。
【
図15】本発明の第1実施形態の他の変形例に係る定着装置のスリットの作用を説明する説明図である。
【
図16】本発明の第1実施形態の他の変形例に係る定着装置のスリットの他の作用を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。なお、図面に示すFr、Rr、L、R、U、Dは、前、後、左、右、上、下を示している。また、前後方向(通過方向)、左右方向(軸方向)および上下方向は、互いに直交している。本明細書では方向や位置を示す用語を用いるが、それらの用語は説明の便宜のために用いるものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。また、「上流」および「下流」並びにこれらに類する用語は、用紙Pの通過方向(搬送方向)の「上流」および「下流」並びにこれらに類する概念を指す。なお、各図において、部材の寸法や角度等は、正確なものではなく、説明のために模式化している。
【0017】
図1を参照して、実施形態に係る画像形成装置1について説明する。
図1は画像形成装置1を示す概略図(側面図)である。
【0018】
画像形成装置1は、電子写真方式のプリンターである。画像形成装置1は、略直方体状の外観を構成する装置本体2を備えている。装置本体2の下部には、例えば、用紙P(媒体)を収容する給紙カセット3が着脱可能に設けられている。装置本体2の上面には、排紙トレイ4が設けられている。なお、媒体の一例としての用紙Pは、紙製に限らず、樹脂製のシート等であってもよい。
【0019】
画像形成装置1は、給紙装置5と、作像装置6と、定着装置7と、を備えている。給紙装置5は、給紙カセット3から排紙トレイ4まで延びた搬送路9Aの上流端部に設けられ、給紙カセット3に収容された用紙Pを1枚ずつ搬送路9Aに送り出す。作像装置6は、搬送路9Aの中間部に設けられ、搬送される用紙Pにトナー像を形成する。定着装置7は、搬送路9Aの下流側に設けられ、用紙Pにトナー像を熱定着させる。
【0020】
搬送路9Aには、搬送される用紙Pを一時的に塞き止めて、用紙Pの傾きを補正(スキュー補正)するレジストローラー対10Aが設けられている。搬送路9Aよりも下方には、搬送路9Aの下流側で分岐し、搬送路9Aの上流側に合流する反転搬送路9Bが設けられている。反転搬送路9Bには、用紙Pを搬送する複数の搬送ローラー対10Bが設けられている。
【0021】
作像装置6は、トナーコンテナ11と、ドラムユニット12と、光走査装置13と、を有している。トナーコンテナ11は、装置本体2の前上部に配置され、例えば、黒色のトナー(現像剤)を収容している。ドラムユニット12は、感光体ドラム14と、帯電装置15と、現像装置16と、転写ローラー17と、を有している。感光体ドラム14は、略円筒状に形成され、モーター(図示せず)によって軸周りに回転駆動される。帯電装置15、現像装置16および転写ローラー17は感光体ドラム14の周囲に画像形成プロセス順に配置されている。転写ローラー17は、下側から感光体ドラム14に接触して転写ニップを形成している。光走査装置13は、感光体ドラム14よりも上方に設けられ、感光体ドラム14の表面に向かって走査光を出射する。
【0022】
[画像形成処理]
画像形成装置1の動作について説明する。画像形成装置1を統括制御する制御装置(図示せず)は、外部端末から入力された画像データに基づいて、以下のように画像形成処理を実行する。
【0023】
帯電装置15は、感光体ドラム14の表面を帯電させ、光走査装置13は、画像データに基づいた走査光を出射し、感光体ドラム14上に静電潜像を形成する。現像装置16は、トナーコンテナ11から供給されたトナーを用いて感光体ドラム14上にトナー像を現像する。給紙装置5は、給紙カセット3から用紙Pを1枚ずつ搬送路9Aに送り出す。用紙Pは、搬送路9Aに沿って搬送され、レジストローラー対10Aでスキュー補正され、転写ニップに進入する。転写ローラー17は、転写ニップを通過する用紙Pの表面に感光体ドラム14上のトナー像を転写する。定着装置7は、用紙Pにトナー像を熱定着させる。片面印刷の場合、定着装置7を通過した用紙Pは、排紙トレイ4に排出される。
【0024】
両面印刷の場合、定着装置7を通過した用紙Pは、搬送路9Aの下流端部でスイッチバックして反転搬送路9Bに送られる。用紙Pは、搬送ローラー対10Bによって搬送され、反転搬送路9Bから再び搬送路9Aに戻され、レジストローラー対10Aでスキュー補正された後に転写ニップに送られる。その後、トナー像が用紙Pに転写され、熱定着され、両面印刷された用紙Pが排紙トレイ4に排出される。
【0025】
[第1実施形態:定着装置]
図2および
図3を参照して、第1実施形態に係る定着装置7について説明する。
図2は定着装置7を示す斜視図である。
図3は、
図2のIII-III断面図である。
【0026】
定着装置7は、定着ベルト20と、加圧ローラー21と、ヒーターホルダー22と、ヒーター23と、を備えている。定着ベルト20および加圧ローラー21はフレーム(図示せず)に支持され、フレームは装置本体2に固定されている。ヒーターホルダー22は定着ベルト20の内側に設けられ、ヒーター23はヒーターホルダー22に保持されている(
図3参照)。
【0027】
<定着ベルト>
定着ベルト20は、左右方向(軸方向)に長い略円筒状に形成された無端状のベルトである。定着ベルト20は、例えば、耐熱性および可撓性(弾力性)を有する合成樹脂等で形成されている。定着ベルト20の左右両端部には一対の保持部材24(
図2参照)が差し込まれ、定着ベルト20を略円筒形状に保持する。一対の保持部材24は、定着ベルト20の軸方向の両端部を軸周りに回転可能にガイドする。なお、定着ベルト20は、一対の保持部材24を介してフレームに支持されている(図示せず)。
【0028】
<加圧ローラー>
加圧部材の一例としての加圧ローラー21は、左右方向に長い略円筒状に形成されている。加圧ローラー21は、金属製の芯金21Aと、その外周面に積層されたシリコンスポンジ等の弾性層21Bと、を有している(
図3参照)。芯金21Aの左端部には、ギア列(図示せず)を介して駆動モーターMが接続されている(
図2参照)。加圧ローラー21は、定着ベルト20に下側から接触し、定着ベルト20との間に加圧領域Nを形成する。なお、加圧領域Nとは、圧力が0Paである上流側の位置から圧力が作用する位置を経由して再び圧力が0Paとなる下流側の位置までの領域を指している。
【0029】
<ヒーターホルダー>
図3に示すように、ヒーターホルダー22(ホルダー)は、定着ベルト20の内側において支持部材25に支持されている。支持部材25は、例えば、ステンレス等の金属材料で左右方向(軸方向)に長い略角筒状に形成されている。支持部材25は、一対の保持部材24の間に架設されている。ヒーターホルダー22は、支持部材25の下部に固定されている。ヒーターホルダー22は、例えば、耐熱性および耐摩耗性を有する合成樹脂によって左右方向に長い略半円筒状に形成されている。ヒーターホルダー22は、定着ベルト20の下側(加圧領域Nの側)の内周面20Aに接触している。
【0030】
<ヒーター>
ヒーター23は、左右方向に長い略矩形板状に形成され、ヒーターホルダー22の下面に固定されている。ヒーター23は、基板上に積層されて通電されることで発熱する発熱抵抗体(図示せず)を有している。ヒーター23は、加圧領域Nに対応する位置において発熱抵抗体を定着ベルト20の内周面20Aに接触している。
【0031】
なお、定着ベルト20等を支持するフレームには、定着ベルト20の表面温度を検知するための温度センサー(図示せず)が設けられている。駆動モーターM、ヒーター23および温度センサー等は、各種の駆動回路(図示せず)を介して画像形成装置1の制御装置に電気的に接続され、適宜制御される。
【0032】
[定着装置の作用]
ここで、定着装置7の作用(定着処理)について説明する。加圧ローラー21は駆動モーターMの駆動力を受けて回転し、定着ベルト20は加圧ローラー21に従動して回転する(
図3の矢印参照)。ヒーター23は、定着ベルト20を加熱する。制御装置は、温度センサーから検出信号を受信し、予め設定された温度を維持するようにヒーター23を制御しながら、既に説明した画像形成処理の実行を開始する。
【0033】
トナー像が転写された用紙Pは加圧領域Nに進入する。定着ベルト20は、軸周りに回転しながら加圧領域Nを通過する用紙P上のトナー(トナー像)を加熱する。加圧ローラー21は、軸周りに回転しながら加圧領域Nを通過する用紙P上のトナーを加圧する。すると、トナー像が用紙Pに定着する。そして、トナー像が定着した用紙Pは排紙トレイ4に排出される。
【0034】
[ヒーターホルダーの詳細]
図3に示すように、ヒーターホルダー22は、ヒーター23を保持する部分(加圧領域Nに対応する位置)を挟んで上流側と下流側とに、定着ベルト20の内周面20Aに接触する摺動面26,27を有している。なお、本明細書では、説明の便宜上、加圧領域Nよりも上流側にある摺動面26を「第1摺動面26」と呼び、加圧領域Nよりも下流側にある摺動面27を「第2摺動面27」と呼び、第1摺動面26と第2摺動面27とで共通する説明では単に「摺動面26,27」と呼ぶこととする。
【0035】
定着ベルト20の内周面20Aには潤滑剤(図示せず)が塗布されており、ヒーターホルダー22の摺動面26,27は潤滑剤を介して定着ベルト20の内周面20Aに接触している。潤滑剤は、粘性と流動性とを有するグリス等であり、定着ベルト20とヒーターホルダー22との間の摩擦抵抗を軽減する。潤滑剤は、定着ベルト20の回転に伴って移動するが、定着ベルト20の内周面20Aが摺動面26,27に接触していない部分では、軸方向の両外側に向かって移動することが知られている。定着処理の繰り返しにより、潤滑剤が定着ベルト20の軸方向の両端から漏出し、潤滑剤の量が減少すると、定着ベルト20とヒーターホルダー22との間の摩擦抵抗が増大し、定着ベルト20の円滑な回転に支障がでる虞があった。
【0036】
そこで、本実施形態に係る定着装置7では、定着ベルト20の内周面20Aに塗布された潤滑剤の漏出を抑制する構造を備えている。以下、
図3ないし
図5を参照して、潤滑剤の漏出を抑制する構造について説明する。
図4は定着装置7を示す正面図である。
図5は定着装置7を示す背面図である。なお、
図4および
図5では、定着ベルト20の図示を省略している。
【0037】
<スリット>
ヒーターホルダー22は、加圧領域Nよりも上流側で第1摺動面26に左右方向(軸方向)に並べられた複数の第1スリット31(
図4参照)と、加圧領域Nよりも下流側で第2摺動面27に軸方向に並べられた複数の第2スリット32(
図5参照)と、を有している。複数の第1スリット31および複数の第1スリット31は、それぞれ、定着ベルト20の回転方向の上流から下流に向かう潤滑剤の移動をガイドする。なお、本明細書では、説明を簡単にするため、主に1つの第1スリット31および1つの第2スリット32について説明し、第1スリット31と第2スリット32とで共通する説明では単に「スリット31,32」と呼ぶこととする。また、冒頭でも述べたが、本明細書では、単に「上流・下流」という場合は、用紙Pの通過方向(搬送方向)を指しており、定着ベルト20の回転方向の「上流・下流」と区別している。
【0038】
図4および
図5に示すように、スリット31,32は、定着ベルト20の回転方向に沿うように直線状に延びた溝である。正確には、スリット31,32は、定着ベルト20の回転方向の上流から下流に向かって軸方向の中央側に傾斜している。複数のスリット31,32の傾斜角度(絶対値)は全て同じ大きさであり、複数のスリット31,32は左右方向の中央部を軸として左右対称に配置されている。なお、同一の向きに傾斜した複数のスリット31,32の間隔(図心間距離)は、略等間隔であるが、これに限らず、不定の間隔であってもよい(図示せず)。また、複数のスリット31,32の幅は軸方向において同じであるが、異なる幅に形成されてもよい(図示せず)。
【0039】
(第1スリット)
図3および
図4に示すように、第1スリット31は、底面31Aと周壁面31Bとを有し、第1摺動面26に環状の開口縁部31Cを形成するように窪んでいる。底面31Aおよび開口縁部31Cは略平行四辺形となる外形を有し、周壁面31Bは底面31Aの周縁と開口縁部31Cとの間を繋ぐように略角筒状に形成されている。つまり、周壁面31Bは、底面31Aと第1摺動面26との間に段差を形成している。この段差は、例えば、0.5~2.0mm程度であるとよい。第1スリット31の周壁面31Bのうち定着ベルト20の回転方向の下流側に位置する壁面は、第1スリット31からの潤滑剤の流出を制限する塞き止め部41となる。詳細は後述するが、塞き止め部41は、第1スリット31への定着ベルト20の落ち込みを規制する機能も有している。塞き止め部41は、加圧領域N(ヒーター23の保持部分)の最上流端よりも上流側に位置し、塞き止め部41と加圧領域Nの最上流端との間にも第1摺動面26が形成されている。
【0040】
(第2スリット)
図3および
図5に示すように、第2スリット32は、第1スリット31を上下反転させたような形状である。第2スリット32は、底面32Aと周壁面32Bとを有し、第2摺動面27に環状の開口縁部32Cを形成するように窪んでいる。周壁面32Bのうち回転方向の下流側に位置する壁面は、塞き止め部42となっている。
【0041】
[スリットの作用]
定着ベルト20の内周面20Aに付着した潤滑剤は、定着ベルト20の回転に伴って回転方向の下流へと移動し、第1摺動面26に対して摺動する定着ベルト20(内周面20A)を潤滑する。潤滑剤は、第1スリット31に進入し、第1スリット31に沿って軸方向の中央側に移動する。
【0042】
定着ベルト20の回転が進むと、潤滑剤は、ヒーター23に対して摺動する定着ベルト20を潤滑し、定着ベルト20が加圧領域Nを通過すると、第2摺動面27に対して摺動する定着ベルト20を潤滑する。潤滑剤は、第2スリット32に進入し、第2スリット32に沿って軸方向の中央側に移動する。
【0043】
以上のように、スリット31,32が、定着ベルト20の回転方向の上流から下流に向かって軸方向の中央側に傾斜しているため、潤滑剤をヒーターホルダー22の軸方向の中央側に移動させることができる。これにより、定着ベルト20の軸方向の両外端からの潤滑剤の漏出を抑制することができる。
【0044】
ところで、仮に、スリット31,32に塞き止め部41,42(段差)が無く、スリット31,32において回転方向の下流側が摺動面26,27に滑らかに連続する場合、スリット31,32に流入した潤滑剤が略全て流出してしまい、定着ベルト20の内周面20Aへの潤滑剤の付着量が過剰になることがあった。また、上記した仮定の場合、定着ベルト20が、スリット31,32における回転方向の下流側に落ち込んで、軸方向に亘って波打つように変形することがあった。波打つように変形した定着ベルト20の内周面20Aには潤滑剤が均一に付着せず、定着ベルト20と摺動面26,27との摺動抵抗(摩擦)が増加する虞があった。また、波打つように変形した定着ベルト20では、加圧領域Nの圧力が軸方向に亘って均一にならず、定着画像に筋状の光沢ムラが入る等の画像不良が発生することがあった。さらに、波打つように変形した定着ベルト20が回転すると、定着ベルト20を軸方向に移動させる力が働き、定着ベルト20の端部が保持部材24に当接して破損する虞もあった。
【0045】
上記した問題に対し、第1実施形態に係る定着装置7では、スリット31,32において回転方向の下流側に、潤滑剤の移動を制限する塞き止め部41,42が形成されていた。スリット31,32に沿って移動する一部の潤滑剤は塞き止め部41,42を乗り越えて流出するが、残りの潤滑剤は塞き止め部41,42に塞き止められスリット31,32に残留する。これにより、スリット31,32から流出する潤滑剤の量を制限することができ、定着ベルト20の内周面20Aに対する潤滑剤の過剰な付着を抑制することができる。
【0046】
また、第1実施形態に係る定着装置7では、スリット31,32が摺動面26,27に環状の開口縁部31C,32Cを有する窪みであり、定着ベルト20が環状の開口縁部31C,32Cに支持される構成とした。この構成によれば、定着ベルト20がスリット31,32に落ち込んで軸方向に波打つように変形することを抑制することができる。これにより、平滑な定着ベルト20の内周面20Aに対し、潤滑剤を略均一に付着させることができる。その結果、定着ベルト20とヒーターホルダー22との摺動抵抗(摩擦)の増加を抑制することができ、定着ベルト20の円滑な回転を担保することができる。また、加圧領域Nよりも上流側において定着ベルト20の波打つような変形が抑制されるため、加圧領域Nでの圧力を軸方向に亘って略均一にすることができる。これにより、光沢ムラ等の画像不良を抑制することができる。さらに、定着ベルト20の回転によって軸方向に移動させる力が働き難くなるため、定着ベルト20の端部が保持部材24に当接することが抑制され、定着ベルト20の端部の破損を抑制することもできる。
【0047】
[第2実施形態:定着装置]
次に、
図6ないし
図8を参照して、第2実施形態に係る定着装置8について説明する。
図6は定着装置8を示す断面図である。
図7は定着装置8を示す正面図である。
図8は定着装置8を示す背面図である。なお、
図7および
図8では、定着ベルト20の図示を省略している。また、以下の説明では、第1実施形態に係る定着装置7と同様の構成については同一の符号を付し、同様の構成の説明は省略する。
【0048】
第2実施形態に係る定着装置8では、摺動面26,27に形成されたスリット33,34と塞き止め部43,44とが、第1実施形態に係る定着装置7と相違する。
【0049】
ヒーターホルダー22は、加圧領域Nよりも上流側で第1摺動面26に左右方向(軸方向)に並べられた複数の第1スリット33(
図7参照)と、加圧領域Nよりも下流側で第2摺動面27に軸方向に並べられた複数の第2スリット34(
図8参照)と、を有している。なお、本明細書では、説明を簡単にするため、主に1つの第1スリット33および1つの第2スリット34について説明し、第1スリット33と第2スリット34とで共通する説明では単に「スリット33,34」と呼ぶこととする。
【0050】
図6および
図7に示すように、第1スリット33は、底面33Aと周壁面33Bとを有し、第1摺動面26にU字状の開口縁部33Cを形成するように窪んでいる。周壁面33Bは定着ベルト20の回転方向の下流側に壁面を有さず、底面33Aの下流端部は、段差を形成せず、第1摺動面26に連続するように形成されている。なお、第2スリット34(底面34A、周壁面34B、開口縁部34C)は、第1スリット33を上下反転させたような形状であるため(
図6および
図8参照)、その詳細な説明は省略する。
【0051】
図6ないし
図8に示すように、塞き止め部43,44は、スリット33,34よりも定着ベルト20の回転方向の下流側において、ヒーターホルダー22の摺動面26,27から突き出したリブである。塞き止め部43,44は、スリット33,34に近接した位置で、軸方向に直線状に延びている。塞き止め部43,44の上端部は丸められているとよく、塞き止め部43,44の高さは、例えば、0.5~2.0mm程度であるとよい。
【0052】
[スリットの作用]
定着ベルト20の内周面20Aに付着した潤滑剤は、定着ベルト20の回転に伴って回転方向の下流へと移動し、スリット33,34に沿って軸方向の中央側に移動する。スリット33,34に流入した潤滑剤の大部分は流出する。スリット33,34から流出した一部の潤滑剤は塞き止め部43,44を乗り越えて回転方向の下流へ移動するが、残りの潤滑剤は塞き止め部43,44に塞き止められる。
【0053】
以上説明した第2実施形態に係る定着装置8によれば、スリット33,34から流出する潤滑剤の量を制限することができ、定着ベルト20の内周面20Aに対する潤滑剤の過剰な付着を抑制することができる。また、定着ベルト20が塞き止め部43,44に支持されるため、定着ベルト20がスリット33,34に落ち込んで軸方向に波打つように変形することを抑制することができる。これにより、定着ベルト20の円滑な回転、画像不良の抑制、定着ベルト20の端部の破損の抑制等、第1実施形態に係る定着装置7と同様の効果を得ることができる。
【0054】
なお、第2実施形態に係る定着装置8では、スリット33,34の下流端部が摺動面26,27に連続するように形成されていたが、本発明はこれに限定されない。第2実施形態に係る定着装置8では、スリット33,34に代えて、第1実施形態に係る定着装置7のスリット31,32が適用されてもよい(図示せず)。つまり、スリット31,32に設けられた塞き止め部41,42と、リブ状の塞き止め部43,44とが、摺動面26,27に設けられてもよい(図示せず)。このように、2種の塞き止め部41~44が設けられることで、定着ベルト20の内周面20Aに対する潤滑剤の過剰な付着や、定着ベルト20の波打ちを、より効果的に抑制することができる。
【0055】
[変形例]
なお、第1~第2実施形態に係る定着装置7,8では、複数のスリット31~34が同じ大きさの角度で傾斜しているため、その傾斜角度によっては、潤滑剤が軸方向の中央部に集まり過ぎることも考えられる。そこで、第1実施形態の変形例に係る定着装置7として、
図9および
図10に示すように、軸方向の中央付近にある3つのスリット31,32は、定着ベルト20の回転方向と平行に形成され、この3つのスリット31,32を除いた他のスリット31,32は、定着ベルト20の回転方向の上流から下流に向かって軸方向の中央側に傾斜してもよい。また、複数のスリット31,32の傾斜角度は、軸方向の中央から両外側に向かって次第に増加してもよい。この構成によれば、軸方向の外側にあるスリット31,32ほど潤滑剤の移動方向を中央側に向けることができる。これにより、潤滑剤が軸方向の中央部に集まり過ぎることを抑制しながら、定着ベルト20の軸方向の両端からの潤滑剤の漏出を抑制することができる。その結果、定着ベルト20の内周面20Aに対し潤滑剤を略均一に付着させることができる。
【0056】
なお、上記した変形例に係るスリット31,32では、軸方向の中央付近にある3つのスリット31,32が回転方向と平行に形成されていたが、これに限らず、少なくとも1つのスリット31,32が回転方向と平行に形成されていればよい。また、上記した変形例に係るスリット31,32は、上下流両方の摺動面26,27に形成されていたが、本発明はこれに限定されない。上下流両方の摺動面26,27のいずれか一方に変形例に係るスリット31,32が形成され、いずれか他方には同じ大きさの角度で傾斜したスリット31,32が形成されてもよい(図示せず)。また、上記した変形例に係るスリット31,32の特徴は、第2実施形態に係る定着装置8のスリット33,34に適用されてもよい(図示せず)。
【0057】
[他の変形例]
なお、用紙P上のトナーを加熱および加圧するために、加圧領域Nや摺動面26,27は、用紙Pの幅(左右方向の寸法)よりも左右方向(軸方向)に長く形成されている。このため、定着ベルト20は、用紙Pに接触する通紙領域(図示せず)と、通紙領域の軸方向の両外側で用紙Pに非接触となる一対の非通紙領域(図示せず)と、を有することになる。また、定着ベルト20の内周面20Aに接触する摺動面26,27は、通紙領域に対応し、定着ベルト20を挟んで用紙Pに対向する対向領域26A,27Aと、一対の非通紙領域に対応し、対向領域26A,27Aの軸方向の両外側であって定着ベルト20を挟んで用紙Pに非対向となる一対の非対向領域26B,27Bと、を有している。非通紙領域(非対向領域26B,27B)では、潤滑剤が軸方向の両外側に向かって移動し易いため、潤滑剤の流れを軸方向の中央側に向けることが好ましい。そこで、例えば、第1実施形態の他の変形例に係る定着装置7は、上記した変形例に係る定着装置7の特徴に加え、軸方向の両外側への潤滑剤の漏れを抑制する構成を備えている。
【0058】
図11ないし
図14を参照して、他の変形例に係る定着装置7について説明する。
図11は定着装置7を示す正面図である。
図12は定着装置7を示す背面図である。
図13は定着装置7の第1摺動面26の一部を拡大して示す正面図である。
図14は定着装置7の第2摺動面27の一部を拡大して示す背面図である。
【0059】
図11および
図12に示すように、他の変形例に係る定着装置7では、塞き止め部41,42が、対向領域26A,27Aのみに形成されており、非対向領域26B,27Bには形成されていない。具体的に説明すると、摺動面26,27の対向領域26A,27Aには、塞き止め部41,42を有するスリット31,32が複数並んで形成されている。これに対し、摺動面26,27の各々の非対向領域26B,27Bには、塞き止め部41,42がないスリット33,34が2つ並んで形成されている。なお、
図11および
図12では、各々の非対向領域26B,27Bに2つのスリット33,34が形成されていたが、これに限らず、少なくとも1つのスリット33,34が形成されていればよい。また、対向領域26A,27Aには、2つ以上のスリット31,32が形成されていればよい。
【0060】
図13および
図14に示すように、非対向領域26B,27Bに形成された2つのスリット33,34および対向領域26A,27Aの軸方向の外側に形成された幾つか(例えば、5~6つ(
図11および
図12参照))のスリット31,32は、それぞれ、定着ベルト20の回転方向から見た場合に、流出部F2を、軸方向の内側に隣接する他のスリット31~34の流入部F1に重ねるように傾斜している(
図13および
図14に示す破線も参照)。ここで、スリット31~34において、「流入部F1」とは、定着ベルト20の回転方向の上流側から潤滑剤を流入させる部分(上流端)であり、「流出部F2」とは、定着ベルト20の回転方向の下流側へと潤滑剤を流出させる部分(下流端)である。
【0061】
具体的に説明すると、非対向領域26B,27Bにおいて、軸方向の最外端に位置するスリット33,34の流出部F2は、回転方向から見て、その軸方向の内隣りのスリット33,34の流入部F1と重なっている。また、非対向領域26B,27Bにおける軸方向の内側に位置するスリット33,34の流出部F2は、回転方向から見て、その軸方向の内隣りである対向領域26A,27Aにおける軸方向の最外端に位置するスリット31,32の流入部F1と重なっている。さらに、対向領域26A,27Aにおいて、軸方向の最外端に位置するスリット31,32の流出部F2は、その軸方向の内隣りのスリット31,32の流入部F1と重なっている。以降、対向領域26A,27Aの軸方向の外側に形成された幾つかのスリット31,32であって、隣り合う一対のスリット32は、外側の流出部F2を内側の流入部F1に重ねるような傾斜とされている(
図11および
図12参照)。
【0062】
なお、定着ベルト20の回転方向から見た場合に、隣り合うスリット31~34の流出部F2と流入部F1とが「重なる」とは、流出部F2と流入部F1とが完全に一致するように重なることを含むが、これに限らず、例えば、スリット31~34の幅の一部分が重なることを含む意味である。また、複数のスリット31~34の傾斜角度は、軸方向の両外側から中央に向かって次第に減少しているため、隣り合うスリット31~34の流出部F2と流入部F1との重なり幅も、軸方向の両外側から中央に向かって次第に減少している(
図11および
図12参照)。対向領域26A,27Aの軸方向の両外側付近を除いた中間部分では、回転方向から見て、隣り合うスリット31,32の流出部F2と流入部F1とは重なっていない(
図11および
図12参照)。
【0063】
[スリットの作用]
図15を参照して、他の変形例に係る定着装置7のスリット31~34の作用を説明する。
図15はスリット31~34の作用を説明する説明図である。
【0064】
定着ベルト20の内周面20Aに付着した潤滑剤は、定着ベルト20の回転に伴って、スリット31~34に進入し、スリット31~34に沿って回転方向の下流側かつ軸方向の中央側に移動する。ここで、第2摺動面27の非対向領域27Bにおいて、軸方向の最外端に位置する第2スリット34に着目すると(
図15の右上図を参照)、潤滑剤は、この第2スリット34の流入部F1から流入し、軸方向の中央側に流れて行く(
図15の右上図に示す破線を参照)。この第2スリット34に対応する塞き止め部42は存在しないため、潤滑剤は、この第2スリット34の流出部F2から円滑に流出する(
図15の右上図に示す破線を参照)。
【0065】
その後、潤滑剤は、定着ベルト20の回転に伴って、第1摺動面26の非対向領域26Bまで運ばれ、非対向領域26Bの軸方向の内側(最外端から2番目)に位置する第1スリット33の流入部F1から流入し、軸方向の中央側に流れて行く(
図15の左上図に示す破線を参照)。この第1スリット33に対応する塞き止め部41は存在しないため、潤滑剤は、この第1スリット33の流出部F2から円滑に流出する(
図15の左上図に示す破線を参照)。
【0066】
その後、潤滑剤は、定着ベルト20の回転に伴って、第2摺動面27の対向領域27Aまで運ばれ、対向領域27Aの最外端に位置する第2スリット32の流入部F1から流入し、軸方向の中央側に流れて行く(
図15の右下図に示す破線を参照)。この第2スリット32には塞き止め部42が形成されているため、潤滑剤の一部は、塞き止め部42を乗り越えて流出部F2から流出するが、残りの潤滑剤は塞き止め部42で塞き止められる(
図15の右下図に示す破線を参照)。
【0067】
以降、定着ベルト20の回転に伴って、潤滑剤は、スリット31~34によって軸方向の中央側に移動するように案内される(
図15の左下図を参照)。なお、潤滑剤は、定着ベルト20の内周面20Aが摺動面26,27に接触していない部分では、軸方向の両外側に向かって移動する傾向があるため、全ての潤滑剤が軸方向の内側に移動するわけではなく、潤滑剤の一部は軸方向の内側に移動する。つまり、軸方向の両外側で潤滑剤が枯渇することはない。
【0068】
以上説明した第1実施形態の他の変形例に係る定着装置7では、塞き止め部41,42が対向領域26A,27Aのみに形成され、対向領域26A,27Aを含む軸方向の両外側において隣り合うスリット31~34の流出部F2と流入部F1とがオーバーラップする構成とした。この構成によれば、定着ベルト20の回転に伴って、潤滑剤を効率良く軸方向の中央側に寄せることができると共に、軸方向の外端からの潤滑剤の漏出を有効に抑制することができる。
【0069】
なお、
図11および
図12では、対向領域26A,27Aの幾つかのスリット31,32が、流出部F2と流入部F1とをオーバーラップさせるように傾斜していたが、本発明はこれに限定されない。少なくとも、非対向領域26B,27Bに形成されたスリット33,34および対向領域26A,27Aの軸方向の最外端に形成されたスリット31,32が、それぞれ、定着ベルト20の回転方向から見た場合に、流出部F2を、軸方向の内側に隣接する他のスリット31~34の流入部F1に重ねるように傾斜していればよい。また、他の変形例に係る定着装置7の特徴は、変形例を除いた第1実施形態に係る定着装置7(
図4および
図5参照)に適用されてもよく、この場合、全てのスリット31~34が、流出部F2と流入部F1とをオーバーラップさせるように傾斜していてもよい(図示せず)。
【0070】
また、他の変形例に係る定着装置7の特徴は、第2実施形態に係る定着装置8(
図6ないし
図8参照)に適用されてもよい(図示せず)。すなわち、第1摺動面26には複数の第1スリット33が形成され、第2摺動面27には複数の第2スリット34が形成され、摺動面26,27の対向領域26A,27Aのみに塞き止め部43,44が突出され、各々の非対向領域26B,27Bには塞き止め部43,44は突出されない(設けない)。つまり、塞き止め部43,44は、非対向領域26B,27Bに形成されたスリット33,34からの潤滑剤の流出を妨げない位置に突設されるとよい。
【0071】
また、仮に、他の変形例に係る定着装置7,8において、第2スリット32,34(塞き止め部42,44)は省略されてもよい(図示せず)。第2摺動面27に第2スリット32,34が形成されない場合、第1摺動面26の非対向領域26Bの軸方向の最外端に位置する第1スリット33に着目すると、潤滑剤は、当該第1スリット33に沿って軸方向の中央側に流れ、流出部F2から流出する(
図16の上段の図を参照)。定着ベルト20が1周まわると、潤滑剤は、再び第1摺動面26の非対向領域26Bまで運ばれ、非対向領域26Bの軸方向の内側に位置する第1スリット33の流入部F1から流入し、流出部F2から流出する(
図16の中段の図を参照)。さらに、定着ベルト20が1周まわると、潤滑剤は、第1摺動面26の対向領域26Aまで運ばれ、対向領域26Aの最外端に位置する第1スリット31の流入部F1から流入し、潤滑剤の一部は、塞き止め部41を乗り越えて流出部F2から流出する(
図16の下段の図を参照)。以降、定着ベルト20の回転に伴って、潤滑剤は、第1スリット31によって案内されて軸方向の中央側に移動する。
【0072】
なお、第1~第2実施形態(各変形例を含む。以下同じ。)に係る定着装置7,8では、スリット31~34の軸方向の間隔および幅が略同じであるが、本発明はこれに限定されない。例えば、軸方向の中央部付近に対して端部付近でスリット31~34の間隔を狭くまたは幅を広くしてもよい。(図示せず)
【0073】
なお、第1~第2実施形態に係る定着装置7,8では、上下流両方の摺動面26,27に塞き止め部41~44が設けられていたが、本発明はこれに限定されない。定着ベルト20の波打ちを予防することに着目すれば、少なくとも上流側の第1摺動面26に塞き止め部41,43が設けられていればよい。例えば、第1実施形態に係る定着装置7では、第2スリット32に代えて、第2実施形態に係る定着装置8の第2スリット34が第2摺動面27に形成されてもよい(図示せず)。
【0074】
また、例えば、第1実施形態に係る定着装置7のスリット31,32や塞き止め部41,42が第1摺動面26(または第2摺動面27)に設けられ、第2実施形態に係る定着装置8のスリット33,34や塞き止め部43,44が第2摺動面27(または第1摺動面26)に設けられてもよい(図示せず)。
【0075】
また、第1~第2実施形態に係る定着装置7,8では、スリット31~34が、直線状に形成されていたが、これに限らず、湾曲していてもよい(図示せず)。また、スリット31~34が、傾斜していたが、これに限らず、定着ベルト20の回転方向(または用紙Pの通過方向)と平行になるように形成されてもよい(図示せず)。
【0076】
また、上記実施形態の説明では、一例として、本発明をモノクロの画像形成装置1に適用した場合を示したが、これに限らず、例えば、カラープリンター、複写機、ファクシミリまたは複合機等に本発明を適用してもよい。
【0077】
なお、上記実施形態の説明は、本発明に係る定着装置および画像形成装置における一態様を示すものであって、本発明の技術範囲は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明は技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよく、特許請求の範囲は技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様を含んでいる。
【符号の説明】
【0078】
1 画像形成装置
7,8 定着装置
20 定着ベルト
20A 内周面
21 加圧ローラー(加圧部材)
22 ヒーターホルダー(ホルダー)
23 ヒーター
26 第1摺動面(摺動面)
27 第2摺動面(摺動面)
26A,27A 対向領域
26B,27B 非対向領域
31,33 第1スリット(スリット)
31A,32A,33A,34A 底面
32,34 第2スリット(スリット)
31B,32B,33B,34B 周壁面
31C,32C,33C,34C 開口縁部
41,42,43,44 塞き止め部
F1 流入部
F2 流出部
N 加圧領域
P 用紙(媒体)