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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014717
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】不活化方法および不活化装置
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/10 20060101AFI20230124BHJP
【FI】
A61L2/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118834
(22)【出願日】2021-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】大橋 広行
(72)【発明者】
【氏名】阿部 亮二
(72)【発明者】
【氏名】大和田 樹志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信二
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA21
4C058BB06
4C058DD16
4C058KK02
4C058KK12
4C058KK14
4C058KK22
(57)【要約】
【課題】魚介類に悪影響を与えることなく、当該魚介類の表面に付着している人や動物に対して有害な微生物やウイルスを簡便に不活化する不活化方法および不活化装置を提供する。
【解決手段】不活化方法は、光源から、魚介類の表面のたんぱく質成分に吸収される波長200nm以上240nm以下の紫外線を放射させるステップと、光源から放射された紫外線を魚介類の表面のたんぱく質成分に照射し、当該魚介類の表面に存在する微生物および/またはウイルスを不活化するステップと、を含む。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から、魚介類の表面のたんぱく質成分に吸収される波長200nm以上240nm以下の紫外線を放射させるステップと、
前記光源から放射された前記紫外線を前記魚介類の表面の前記たんぱく質成分に照射し、当該魚介類の表面に存在する微生物および/またはウイルスを不活化するステップと、を含むことを特徴とする不活化方法。
【請求項2】
前記紫外線を前記魚介類の表面に照射することで当該表面に含まれる水分からOHラジカルを生成し、生成された前記OHラジカルにより前記微生物および/またはウイルスを不活化するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の不活化方法。
【請求項3】
前記不活化するステップでは、
前記紫外線を、生存している前記魚介類の表面に照射することを特徴とする請求項1または2に記載の不活化方法。
【請求項4】
前記不活化するステップでは、
前記紫外線を、生存していない前記魚介類の表面に照射することを特徴とする請求項1または2に記載の不活化方法。
【請求項5】
前記不活化するステップでは、
前記紫外線を、表面に体表面粘質物および鱗の少なくとも一方が存在している前記魚介類の表面に照射することを特徴とする請求項1または2に記載の不活化方法。
【請求項6】
前記不活化するステップでは、
前記紫外線を、大気中で前記魚介類の表面に照射することを特徴とする請求項1または2に記載の不活化方法。
【請求項7】
前記不活化するステップでは、
前記紫外線を、水中に存在する前記魚介類の表面に水を介して照射することを特徴とする請求項1または2に記載の不活化方法。
【請求項8】
紫外線を放射して微生物および/またはウイルスを不活化する不活化装置であって、
魚介類の表面のたんぱく質成分に吸収される波長200nm以上240nm以下の紫外線を放射する光源を有する光源部と、
前記光源から放射される前記紫外線を前記魚介類の表面に向けて照射させるべく前記光源部を支持する支持体と、を備えることを特徴とする不活化装置。
【請求項9】
前記光源部は、前記光源を内部に収容し、前記光源から発せられる光の少なくとも一部を出射する光出射窓を有する筐体を備え、
前記光出射窓には、波長200nm以上240nm以下の紫外線を透過し、波長240nmよりも長波長側のUV-C波の透過を阻止する光学フィルタが設けられていることを特徴とする請求項8に記載の不活化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害な微生物やウイルスを不活化する不活化方法および不活化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、消費者による活魚の需要が高い。このような需要に対応するために、魚介類は生きたままスーパー等の生鮮食品売り場や飲食店に輸送される。そして、このような活魚は、輸送先での販売時、あるいは調理加工する際に、人により素手で取り扱われる。
また、水族館においては、鑑賞者が直接、展示されている魚類に接触することが可能な施設が設けられている場合がある。このような施設は、魚を鑑賞する客には人気があり、不特定多数の人が素手で生きている魚類に触れる機会が多い。
【0003】
ところが、人が素手で接触する可能性がある魚(魚介類)の表面に、人に対して有害な微生物やウイルス等が付着している場合、人と魚介類との接触によって、上記微生物やウイルスが人に感染してしまう。この場合の有害な微生物やウイルスの感染経路としては、魚介類→人、人→魚介類→人、動物→魚介類→人などが考えられる。
また、上記のような魚介類から人への感染は、生きている魚との接触のみならず、例えば、生鮮食品売り場のバックヤードで処理されて販売されている魚や、漁獲後、速やかに冷凍されて市場に運搬される魚などの生きていない魚についても当てはまる。
【0004】
例えば特許文献1には、魚介類をオゾン水中に浸漬し、更に磁界を印加することにより、魚介類表面に付着した菌類を磁界によって除去し、除去した菌類をオゾン水で殺菌する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4-152873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の技術では、魚介類の表面より除去した菌類をオゾン水で殺菌することが可能である。しかしながら、オゾンは、魚介類に対してダメージ等を与えたり風味を損なわせたりするなどの悪影響を及ぼし得る。また、オゾンは人体にも有害である。そのため、オゾン水生成時のオゾンの安全管理が必要であり、また、オゾン水のオゾン濃度管理も煩雑となる。
そこで、本発明は、魚介類に悪影響を与えることなく、当該魚介類の表面に付着している人や動物に対して有害な微生物やウイルスを簡便に不活化する不活化方法および不活化装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る不活化方法の一態様は、光源から、魚介類の表面のたんぱく質成分に吸収される波長200nm以上240nm以下の紫外線を放射させるステップと、前記光源から放射された前記紫外線を前記魚介類の表面の前記たんぱく質成分に照射し、当該魚介類の表面に存在する微生物および/またはウイルスを不活化するステップと、を含む。
【0008】
このように、波長200nm以上240nm以下の紫外線を当該魚介類の表面に照射することで、魚介類の表面に付着した微生物やウイルスを不活化することができる。ここで、波長200nm以上240nm以下の紫外線は、オゾンを発生させず、かつ、魚介類の表面のたんぱく質成分に吸収され、魚介類内部には浸透しない紫外線である。そのため、オゾンを発生させることなく、また、魚介類にダメージを与えることなく(食用の場合には風味を落とすことなく)、魚介類の表面の微生物やウイルスを不活化することができる。
【0009】
また、上記の不活化方法は、前記紫外線を前記魚介類の表面に照射することで当該表面に含まれる水分からOHラジカルを生成し、生成された前記OHラジカルにより前記微生物および/またはウイルスを不活化するステップをさらに含んでいてもよい。
この場合、生成されたOHラジカルによっても、微生物やウイルスの不活化を行うことができる。つまり、紫外線とOHラジカルとの相乗効果が得られる。また、このOHラジカルは、例えば魚の鱗やエラ等の裏側に回り込むことができるので、紫外線が直接照射されない陰の部分についても不活化効果が得られる。
【0010】
さらに、上記の不活化方法において、前記不活化するステップでは、前記紫外線を、生存している前記魚介類の表面に照射してもよい。
この場合、生きている魚介類に悪影響を与えることなく、魚介類表面に付着している微生物やウイルスを不活化することができる。これにより、例えば、生鮮食品売り場や飲食店などで取り扱われる活魚や水族館などで展示される魚類など、人が素手で接触する機会のある生きている魚介類を介して、人が有害な微生物やウイルスに感染するリスクを低減することができる。
【0011】
また、上記の不活化方法において、前記不活化するステップでは、前記紫外線を、生存していない前記魚介類の表面に照射してもよい。
この場合、生きていない魚介類に悪影響を与えることなく、魚介類表面に付着している微生物やウイルスを不活化することができる。これにより、例えば、生鮮食品売り場や飲食店などで取り扱われる氷締めや活け締めされた魚など、人が素手で接触する機会のある生きていない魚介類を介して、人が有害な微生物やウイルスに感染するリスクを低減することができる。
【0012】
さらに、上記の不活化方法において、前記不活化するステップでは、前記紫外線を、表面に体表面粘質物および鱗の少なくとも一方が存在している前記魚介類の表面に照射してもよい。
この場合、たんぱく質成分からなる体表面粘質物(所謂、ぬめり)や鱗によって上記波長域の紫外線が吸収され、魚介類内部には浸透しないため、魚介類にダメージを与えることなく魚介類の表面の微生物やウイルスを適切に不活化することができる。
【0013】
また、上記の不活化方法において、前記不活化するステップでは、前記紫外線を、大気中で前記魚介類の表面に照射してもよい。
この場合、例えば市場や加工場でのかごの中や輸送用コンベア上、作業台上(例えば、まな板上)などの魚介類の表面に付着した微生物やウイルスを適切に不活化することができる。
【0014】
さらにまた、上記の不活化方法において、前記不活化するステップでは、前記紫外線を、水中に存在する前記魚介類の表面に水を介して照射してもよい。
この場合、例えば水槽の中にいる魚介類の表面に付着した微生物やウイルスを適切に不活化することができる。
【0015】
また、本発明に係る不活化装置の一態様は、紫外線を放射して微生物および/またはウイルスを不活化する不活化装置であって、魚介類の表面のたんぱく質成分に吸収される波長200nm以上240nm以下の紫外線を放射する光源を有する光源部と、前記光源から放射される前記紫外線を前記魚介類の表面に向けて照射させるべく前記光源部を支持する支持体と、を備える。
【0016】
このように、波長200nm以上240nm以下の紫外線を当該魚介類の表面に照射することで、魚介類の表面に付着した微生物やウイルスを不活化することができる。ここで、波長200nm以上240nm以下の紫外線は、オゾンを発生させず、かつ、魚介類の表面のたんぱく質成分に吸収され、魚介類内部には浸透しない紫外線である。そのため、オゾンを発生させることなく、また、魚介類にダメージを与えることなく(食用の場合には風味を落とすことなく)、魚介類の表面の微生物やウイルスを不活化することができる。
【0017】
また、上記の不活化装置において、前記光源部は、前記光源を内部に収容し、前記光源から発せられる光の少なくとも一部を出射する光出射窓を有する筐体を備え、前記光出射窓には、波長200nm以上240nm以下の紫外線を透過し、波長240nmよりも長波長側のUV-C波の透過を阻止する光学フィルタが設けられていてもよい。
この場合、魚介類や人体、動物への悪影響の少ない波長域の光のみを照射することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、魚介類に悪影響を与えることなく、当該魚介類の表面に付着している人や動物に対して有害な微生物やウイルスを簡便に不活化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】たんぱく質の紫外線吸光スペクトルを示す図である。
図2】本実施形態における不活化装置の適用場面の一例を示す図である。
図3】本実施形態における不活化装置の適用場面の別の例を示す図である。
図4】本実施形態における不活化装置の適用場面の別の例を示す図である。
図5】本実施形態における不活化装置の適用場面の別の例を示す図である。
図6】紫外線照射ユニットの構成例を示す模式図である。
図7】紫外線照射ユニットの別の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態では、所定の空間内において魚介類に対して紫外線照射を行い、当該魚介類の表面に付着した微生物やウイルスの不活化を行う不活化装置について説明する。
なお、本実施形態における「不活化」とは、微生物やウイルスを死滅させる(又は感染力や毒性を失わせる)ことを指すものである。
【0021】
ここで、上記空間は、特に限定されない。上記空間は、例えば、スーパー等の生鮮食品売り場、飲食店、食品加工場、市場、水族館などの施設内の空間や、食品を輸送するトラック、航空機、船などの乗物内の空間など任意の空間であってよい。なお、上記空間は、閉鎖された空間であってもよいし、閉鎖されていない開放空間であってもよい。また、上記空間は、人が存在しない空間であってもよいし、人が存在する空間であってもよい。
また、本実施形態において、紫外線照射対象の魚介類は、表面に鱗や一般に「ぬめり」と呼称される体表面粘質物を有する魚介類とする。さらに、紫外線照射対象の魚介類は、表面が濡れている状態(表面に水分を含む状態)であることが好ましい。
【0022】
本実施形態における不活化装置は、魚介類への悪影響が少ない波長200nm~240nmの紫外線を、魚介類に対して照射して、魚介類の表面等に存在する有害な微生物やウイルスを不活化する。
実用上、除染(殺菌)用途に使用される紫外線の波長域は、200nm~320nmとされており、特に、微生物やウイルスが保有する核酸(DNA、RNA)の吸収が大きい260nm付近の紫外線を用いることが一般的となっている。しかしながら、このような260nm付近の波長域の紫外線は、人や動物や魚介類における核酸での吸収が大きく、人や動物や魚介類に悪影響を及ぼし得る。
【0023】
図1は、たんぱく質の紫外線吸光スペクトルを示す図である。
この図1に示すように、たんぱく質は、波長200nmに吸光ピークを有し、波長240nm以上では紫外線が吸収されにくいことがわかる。
魚介類(特に魚類)の表面は、ケラチンやコラーゲン、リン酸カルシウム等からなる鱗や、一般的にムチンと総称される糖たんぱく質を多く含む体表面粘質物(ぬめり)で覆われている。
【0024】
つまり、波長240nm以上の紫外線は、魚介類表面のたんぱく質成分である体表面粘質物や鱗を透過しやすく、魚介類の体表面内部まで浸透する。そのため、魚介類の体表面内部の細胞がダメージを受けやすい。これに対して、波長200nm付近の紫外線は、魚介類表面の体表面粘質物の主成分である糖たんぱく質や鱗の一部を構成するたんぱく質により吸収され、魚介類の体表面内部まで浸透しない。そのため、魚介類の体表面に対して安全である。
また、波長240nm以上の紫外線は、人間や動物の皮膚を透過しやすく、皮膚内部まで浸透する。そのため、人の皮膚内部の細胞がダメージを受けやすい。これに対して、波長200nm付近の紫外線は、人の皮膚表面(例えば角質層)で吸収され、皮膚内部まで浸透しない。そのため、人間や動物の皮膚に対して安全である。
【0025】
一方で、波長200nm未満の紫外線は、オゾン(O)を発生し得る。これは、波長200nm未満の紫外線が酸素を含む雰囲気中に照射されると、酸素分子が光分解されて酸素原子を生成し、酸素分子と酸素原子との結合反応によってオゾンが生成されるためである。
したがって、波長200nm~240nmの波長範囲は、魚介類や人、動物に安全な波長範囲であるといえる。なお、魚介類や人、動物に安全な波長範囲は、好ましくは波長200nm~237nm、より好ましくは波長200nm~235nm、さらに好ましくは200nm~230nmである。
例えば、KrClエキシマランプから放出される波長222nmの紫外線や、KrBrエキシマランプから放出される波長207nmの紫外線は、いずれも魚介類や人、動物に安全であって、微生物の殺菌やウイルスの不活化を行うことができる光である。
【0026】
図2は、本実施形態における不活化装置の適用場面を示す図である。この図2では、不活化装置について、当該不活化装置を構成する光源部が備える紫外線光源110と波長選択フィルタ(光学フィルタ)111のみを示し、その他の構成は図示を省略している。
紫外線光源110は、人が素手で接触する可能性がある生きている魚201に紫外線(UV)を照射するように構成されており、魚201の表面に対して紫外線を照射し、魚201の表面に付着している人や動物に対して有害な微生物やウイルス等を不活化する。
【0027】
紫外線光源110は、上記紫外線として、微生物および/またはウイルスを不活化する波長範囲の紫外線であって、魚介類に対して悪影響の少ない上記した波長200nm~240nmの波長範囲にある紫外線を放射する。紫外線光源110は、例えば中心波長222nmの紫外線を放射するKrClエキシマランプや、中心波長207nmの紫外線を放射するKrBrエキシマランプとすることができる。
なお、紫外線光源110は、上記のエキシマランプに限定されるものではなく、LED光源やLD光源、レーザ光から放出されるレーザ光を波長変換して上記波長域の紫外線が放射されるコヒーレント光源であってもよい。
【0028】
ただし、紫外線光源によっては、上記した波長200nm~240nmの紫外線に加えて、魚や人、動物にとって安全とは言えない波長を含む光も放出する。そこで、このような波長の光をカットするために、例えば図2に示すように、紫外線光源110と魚201との間に、波長域200nm~240nmの光を透過し、それ以外のUV-C領域(200nm~280nm)の光をカットする波長選択フィルタ111を設けてもよい。
これにより、紫外線光源110から放射される紫外線を含む光から、波長選択フィルタ111によって波長200nm~240nmの紫外線を選択し、選択した紫外線を生きている魚201の表面に照射することができる。
なお、本実施形態では、不活化装置が波長選択フィルタ111を備える場合について説明するが、波長選択フィルタ111は、不活化装置と別体であってもよい。
【0029】
ここで、生きている魚201への紫外線照射は、例えば、大気中にて行うことができる。
生きたまま流通して、バックヤード等の加工場に送られる魚介類については、例えば、かごの中や輸送用コンベア上、加工現場(例えば、まな板上)において、紫外線(例えば、波長222nmの紫外線)が大気中で照射される。図2は、大気中で生きている魚201に紫外線を照射する例を示している。
【0030】
なお、紫外線光源110は、後述する制御部17(図6参照)により紫外線の放射タイミングが制御されてもよい。例えば、紫外線光源110から放射される紫外線が照射される照射領域が予め定められている場合、当該照射領域に生きている魚201が載置された、または、移送されたことを不図示の検知部により検知したタイミングで、制御部17が紫外線光源110を制御して上記照射領域に紫外線を照射するようにしてもよい。
また、水族館などにおける鑑賞者が接触可能な魚などに対しては、長期間にわたって常時紫外線を照射し続けることが逆に悪影響を及ぼし得る。そのため、このような観賞用の魚に対しては、不図示の検知部により鑑賞者の接近を検知したタイミングで、制御部17が紫外線光源110を制御して上記照射領域に紫外線を照射するようにしてもよい。
【0031】
以上説明したように、本実施形態では、紫外線光源110から、魚介類の表面のたんぱく質成分に吸収される波長200nm以上240nm以下の紫外線を放射させ、紫外線光源110から放射された紫外線を魚介類の表面のたんぱく質成分に照射することで、当該魚介類の表面に存在する微生物および/またはウイルスを不活化する。
このように、魚介類に紫外線を照射することにより、人と接触する前の魚介類表面に、人に有害な微生物やウイルスが付着していたとしても、当該微生物やウイルスを人が接触する前に不活化することができる。そのため、魚介類を介して人が有害な微生物やウイルスに感染するリスクを低減することができる。つまり、魚介類から人への感染経路を遮断することができる。
【0032】
また、流通現場等では、不特定の人(場合によっては動物)が生きている魚介類に接触する。この場合、人や動物由来の有害な微生物やウイルスが魚介類の表面に付着し得る。さらに、人が魚介類に接触せずとも、会話やくしゃみ、呼気により人から放出される飛沫に有害な微生物やウイルスが含まれている場合、この飛沫が魚介類の表面に付着することにより、魚介類表面に有害な微生物やウイルスが付着する。
これらの場合にも、上記したような方法で魚介類に紫外線を照射することにより、魚介類を介して、人が、人や動物由来の有害な微生物やウイルスに感染するリスクを低減することができる。つまり、人(あるいは動物)→魚介類→人の感染経路を遮断することができる。
【0033】
また、本実施形態では、生きている魚介類の表面に存在する有害な微生物やウイルスを不活化するために、当該魚介類に、たんぱく質成分に吸収される波長200nm~240nmの紫外線を照射する。生きている魚(魚介類)の表面は、たんぱく質を含む鱗や体表面粘質物(ぬめり)で覆われているので、照射する紫外線の波長を200nm~240nmとすることにより、当該魚介類内部に紫外線を浸透させずに魚介類表面にのみ作用させることができる。したがって、魚介類内部にダメージを与えることなく、魚介類表面に存在する微生物やウイルスを不活化することができる。なお、ここでいうダメージとは、魚介類の生存を脅かす、魚介類の風味を損なわせる、等を含む。
【0034】
なお、魚介類表面への紫外線照射作業中に、照射される紫外線の一部が、魚介類が保持される作業台やその周辺の物品によって乱反射して作業者に照射されることもありうる。しかしながら、上記したように、波長200nm~240nmの紫外線は、人に対しても原理的には安全であり、許容照射量を越えなければ、作業者の皮膚や目に照射されても問題はない。
上記のように乱反射して作業者に照射される紫外線の照度は比較的小さく、また、作業中の紫外線照射時間もあまり長くはない。そのため、通常の作業中において、人(作業者)に対する紫外線の照射量は許容照射量に到達することは殆どない。したがって、人が存在する空間においても、人に安全に、紫外線照射による不活化処理を行うことができる。
【0035】
また、魚介類へのUV照射は、具体的には、魚介類の表面が水分で濡れている状態でのUV照射としてもよい。
魚の表面が水分で濡れていることで、ぬめりの連続性(ひび割れ防止)、ぬめりの膜厚の維持、乾燥による鱗のめくれ上がりや欠落、ひび割れが抑制される。したがって、魚介類表面で波長200nm~240nmの紫外線を適切に吸収させることができる。
さらに、波長222nmの紫外線を水に照射した場合、OHラジカル(ヒドロキシルラジカル)が生成される。魚の表面が濡れている場合、波長222nmの紫外線を照射することで、魚の表面の水分からOHラジカルを生成することができる。このOHラジカルは、魚介類表面の微生物やウイルスの不活化に大きく寄与する。つまり、波長222nmの紫外線とOHラジカルとを併用して微生物やウイルスを不活化できるという相乗効果が期待できる。また、このOHラジカルは、例えば魚の鱗やエラ等の裏側に回り込むことができるので、紫外線が直接照射されない陰の部分についても不活化効果が得られる。
【0036】
なお、図2では、生きている魚201を紫外線の照射対象とする例を示しているが、紫外線の照射対象は生きていない魚であってもよい。この場合の紫外線の照射対象は、例えば、売買、飲食等で流通する魚介類であって、運送時に冷凍された魚や、加工される前の既に生きていない魚等である。
例えば図3に示すように、紫外線光源110から放射され波長選択フィルタ111を透過した紫外線(UV)を、まな板311の上に載置された生きていない魚202の表面に対して照射するようにしてもよい。
【0037】
また、まな板311が紫外線透過性の素材により構成されている場合は、図4に示すように、まな板311の下方から紫外線を照射することもできる。この場合、例えば、まな板311を載置する作業台の内部に紫外線光源110を配置し、作業台に設けられた波長選択フィルタ111を含む紫外線透過窓を介して紫外線を照射することができる。
【0038】
なお、生きていない魚202に対する紫外線照射は、まな板311の上で行われる場合に限定されない。上述した生きている魚201の場合と同様に、例えば市場や加工場でのかごの中や輸送用コンベア上などにおいても、生きていない魚202に対して紫外線照射を行うことができる。また、紫外線透過性のラップフィルム等により包装された魚202に対して紫外線照射を行ってもよい。
近海や沿岸で漁獲された魚は、砕氷とともにスチール箱などに保存され、生きていない状態でスーパー等の生鮮食品売り場や飲食店に輸送される。このような生きてない魚に対しては、生鮮食品売り場や飲食店での加工前に紫外線が照射されればよい。
また、遠洋漁業により漁獲された魚は、鮮度維持のために、前処理(尻尾、エラ、内臓等を切除し、血抜きする処理)が行われた後に急速冷凍され、冷凍倉庫に保管される。このような生きていない魚に対しては、例えばセリ等の取引の前に、紫外線が照射されてもよい。
【0039】
スチール箱に詰められたり、冷凍されたりしている生きていない魚介類においても、流通する際に、不特定の人が素手で触ったり、人からの飛沫が付着したりすることで、表面に有害な微生物やウイルスが付着する可能性がある。しかしながら、上記したような方法で生きていない魚介類に紫外線を照射することにより、当該有害な微生物やウイルスを適切に不活化することができ、魚介類を介して、人が、人由来の有害な微生物やウイルスに感染するリスクを低減することができる。
また、紫外線照射作業中における乱反射した紫外線の作業者への影響も、上述した生きている魚201の場合と同様に、殆ど問題にはならない。
【0040】
ここで、生きていない魚介類(魚)に紫外線を照射する場合、当該魚介類表面の鱗や体表面粘質物(ぬめり)が除去されていない状態で当該表面に紫外線を照射することが好ましい。
鱗や体表面粘質物が除去された状態で魚介類の表面に紫外線が照射されると、当該紫外線が魚介類の可食部分に直接照射されることになり、魚介類によっては旨味や風味が変わってしまい食用としての価値が落ちる場合がある。
【0041】
さらに、魚201、202等の魚介類への紫外線照射は、例えば、水を介して行われてもよい。この場合の紫外線の照射対象は、流通時における輸送中の水槽、輸送先の生け簀、水族館の水槽などに入れられた魚である。
例えば図5に示すように、紫外線光源110から放射され波長選択フィルタ111を透過した紫外線(UV)を、水槽321中の水322を介して生きている魚201の表面に対して照射するようにしてもよい。また、水槽321は、図5に示すように輸送手段(移動手段)であるトラックの荷台331に積まれた状態であってもよい。
【0042】
紫外線光源110は、水槽321の上方に配置され、下方に紫外線(UV)を照射する。この紫外線光源110は、トラックに設置されていてもよいし、水槽321に設置されていてもよい。
なお、紫外線光源110の配置位置は、図5に示す位置に限定されない。紫外線光源110は、例えば水槽321の側方に配置されていてもよいし、水槽321の下方に配置されていてもよい。
【0043】
また、紫外線光源110の数は1つに限定されない。例えば1つの水槽321に対して複数の紫外線光源110を配置し、それぞれ異なる方向から水槽321に向けて紫外線を照射してもよい。この場合、水槽321に多数の魚201が入れられている場合であっても、水槽321中における紫外線光源110に近い側(図5では上側)に位置する魚201によって紫外線が遮光されて、紫外線光源110から遠い側(図5では下側)に位置する魚201に紫外線が照射されないといったことが起きるのを抑制することができる。
【0044】
図6は、不活化装置の構成例を示す模式図である。
この図6では、光源部の紫外線照射に関する部分である紫外線照射ユニット10と、光源部を支持する支持体21と、を示している。
紫外線照射ユニット10は、例えば導電性の金属からなる筐体11と、筐体11内部に収容された紫外線光源12と、を備える。
紫外線光源12は、上述した紫外線光源110に対応しており、例えば、中心波長222nmの紫外線を放出するKrClエキシマランプとすることができる。なお、紫外線光源12は、KrClエキシマランプに限定されるものではなく、200nm~240nmの波長範囲にある紫外線を放射する光源であればよい。
支持体21は、紫外線光源(エキシマランプ)12から放射される紫外線を魚介類の表面に向けて照射させるべく光源部を支持する。例えば支持体21は、天井や壁、その他の構造物などに取り付けられて光源部を支持する。
【0045】
また、紫外線照射ユニット10は、エキシマランプ12に給電する給電部16と、エキシマランプ12の照射および非照射や、エキシマランプ12から放出される紫外線の光量等を制御する制御部17と、を備える。エキシマランプ12は、筐体11内において、支持部18によって支持されている。
ここで、支持部18は、例えば除振部材であってもよい。エキシマランプ12を除振部材18によって支持することで、エキシマランプ12が振動の影響を受けることを抑制し、安定して紫外線を照射することができる。例えば図5に示すように、トラックの荷台331に積まれた水槽321内の魚201に対して紫外線照射を行う場合で、光源部がトラックに設置されている場合、エキシマランプ12はトラックの移動中に振動を受ける。このように移動手段の移動中に紫外線照射ユニット10(エキシマランプ12)に振動が加わった場合であっても、エキシマランプ12から安定して紫外線を放出することができる。
【0046】
筐体11には、光出射窓となる開口部11aが形成されている。この開口部11aには窓部材11bが設けられている。窓部材11bは、例えば石英ガラスからなる紫外線透過部材や、不要な光を遮断する上述した波長選択フィルタ111に対応する光学フィルタ等を含むことができる。
なお、筐体11内には、複数本のエキシマランプ12を配置することもできる。エキシマランプ12の数は特に限定されない。また、エキシマランプ12の構成も特に限定されない。
【0047】
上記光学フィルタとしては、例えば、波長域200nm~230nmの光を透過し、それ以外のUV-C波長域の光(231nm~280nmの光)をカットする波長選択フィルタを用いることができる。
ここで、波長選択フィルタとしては、例えば、HfO層およびSiO層による誘電体多層膜フィルタを用いることができる。
なお、波長選択フィルタとしては、SiO層およびAl層による誘電体多層膜を有する光学フィルタを用いることもできる。
このように、光出射窓に光学フィルタを設けることで、エキシマランプ12から人に有害な光が放射されている場合であっても、当該光が筐体11の外に漏洩することをより確実に抑えることができる。
【0048】
また、エキシマランプは、高周波電力が印加されて高周波点灯を行うので、高周波ノイズが発生する。しかしながら、上記のようにエキシマランプを収容する筐体11を導電性の金属によって構成することで、エキシマランプからの高周波ノイズが筐体11外部へ発信されることを抑制することができる。これにより、紫外線照射ユニット10近傍に設置された他の制御システムへの制御指令が、この高周波ノイズによる外乱を受けることを抑制することができ、当該制御指令に不具合が生じないようにすることができる。
【0049】
なお、上記実施形態においては、紫外線光源としてエキシマランプを用いる場合について説明したが、紫外線光源としてLEDを用いることもできる。
LEDとしては、例えば窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系LED、窒化アルミニウム(AlN)系LED、酸化マグネシウム亜鉛(MgZnO)系LED等を採用することができる。
ここで、AlGaN系LEDとしては、中心波長が190nm~235nmの範囲内となるようにAlの組成を調整することが好ましい。AlN系LEDは、ピーク波長210nmの紫外線を放出する。また、MgZnO系LEDは、Mgの組成を調整することで、中心波長が222nmである紫外線を放出することができる。
図7は、紫外線光源としてLED19を用いた紫外線照射ユニット10の一例である。この図7においては、紫外線照射ユニット10は、複数のLED19を備えている。
【0050】
上記したように、除染(殺菌)用途に使用される紫外線の波長域は、200nm~320nmであり、特に効果的な波長は、核酸(DNA、RNA)の吸収が大きい260nm付近である。
よって、紫外線照射ユニット10に搭載される紫外線光源としてのLED19も、波長200nm~320nmの紫外線を放出するものが採用される。具体的には、例えば窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系LED、窒化アルミニウム(AlN)系LED等を採用することができる。AlGaN系LEDは、アルミニウム(Al)の組成を変化させることにより200nm~350nmの波長範囲の深紫外域(deep UV:DUV)で発光する。また、AlN系LEDは、ピーク波長210nmの紫外線を放出する。
【0051】
ここで、AlGaN系LEDとしては、中心波長が200nm~237nmの範囲内となるようにAlの組成を調整することが好ましい。上記したように、この波長範囲の紫外線であれば、人や動物に安全であって、微生物の殺菌やウイルスの不活化を適切に行うことが可能である。例えば、Alの組成を調整することで、放出する紫外線の中心波長が222nmであるAlGaN系LEDとすることも可能である。
【0052】
また、LEDとして酸化マグネシウム亜鉛(MgZnO)系LEDを採用することもできる。MgZnO系LEDは、マグネシウム(Mg)の組成を変化させることにより190nm~380nmの波長範囲の深紫外域(deep UV:DUV)で発光する。
【0053】
ここで、MgZnO系LEDとしては、中心波長が200nm~237nmの範囲内となるようにMgの組成を調整することが好ましい。
上記したように、この波長範囲の紫外線であれば、人や動物に安全であって、微生物の殺菌やウイルスの不活化を適切に行うことが可能である。例えば、Mgの組成を調整することで、放出する紫外線の中心波長が222nmであるMgZnO系LEDとすることも可能である。
【0054】
ここで、上記のような紫外線(特に深紫外域の紫外線)を放出するLEDは、発光効率が数%以下と低く、発熱が大きい。また、LEDの発熱が大きくなると、当該LEDから放出される光の強度が小さくなり、また放出光の波長シフトも発生する。そのため、LEDの熱上昇を抑制するために、図7に示すように、LED19を冷却部材(例えば、熱を放熱する放熱フィン)20に設置することが好ましい。
このとき、図7に示すように、冷却部材20の一部を紫外線照射ユニット10の筐体11から突出させてもよい。この場合、冷却部材20の一部に外気が当たることになり、冷却部材20の放熱が効率良く進み、結果としてLED19の熱上昇を適切に抑制することができる。
【0055】
なお、上記の中心波長222nmの紫外線を放出するAlGaN系LEDおよびMgZnO系LEDは、中心波長222nmからある程度広がりを有する波長範囲の紫外線を放出し、当該LEDから放出される光には、僅かながら人や動物に安全ではない波長の紫外線も含まれる。そのため、紫外線光源がエキシマランプである場合と同様、波長範囲200nm~230nm以外の波長を有するUV-C波長域の光をカットする誘電体多層膜フィルタ(光学フィルタ)を用いることが好ましい。
【0056】
ただし、上記の中心波長210nmの紫外線を放出するAlN-LEDは、上記光学フィルタは不要である。
また、紫外線光源がエキシマランプであっても、LEDであっても、当該紫外線光源の光放射面での照度や紫外線光源から紫外線の被照射面までの距離等によっては、被照射面での人や動物に安全ではない波長の紫外線の照度が許容値以下となる場合がある。したがって、このような場合には、上記光学フィルタを設ける必要はない。
【0057】
本発明に係る不活化装置および不活化方法によれば、紫外線照射による魚介類や人体への悪影響を及ぼすことなく、紫外線本来の殺菌、ウイルスの不活化能力を提供することができる。特に、従来の不活化装置および不活化方法とは異なり、人が存在する空間にいても、紫外線による効果的な殺菌・不活化を行うことができる。このことは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「あらゆる年齢の全ての人々が健康的な生活を確保し、福祉を促進する」に対応し、また、ターゲット3.3「2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに、肝炎、水系感染症およびその他の感染症に対処する」に大きく貢献するものである。
【符号の説明】
【0058】
10…紫外線照射ユニット、11…筐体、12…エキシマランプ、16…給電部、17…制御部、18…支持部、19…LED、20…冷却部材、21…支持体、110…紫外線光源、111…波長選択フィルタ、201…生きている魚、202…生きていない魚
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7