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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147187
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/12 20060101AFI20231004BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20231004BHJP
   B60C 11/13 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
B60C11/12 A
B60C11/12 D
B60C11/03 B
B60C11/03 100A
B60C11/03 100B
B60C11/13 C
B60C11/03 100C
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005367
(22)【出願日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2022054342
(32)【優先日】2022-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】荻原 佐和
(72)【発明者】
【氏名】早苗 隆平
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 賢
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 達矢
(72)【発明者】
【氏名】大石 直人
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB01
3D131BC13
3D131BC44
3D131EB05U
3D131EB27V
3D131EB32V
3D131EB47V
3D131EB48V
3D131EB82V
3D131EB86V
3D131EB91V
3D131EC01V
3D131EC01X
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ノイズ性能の悪化を制限しつつ操縦安定性能を向上したタイヤを提供する。
【解決手段】トレッド部の陸部4は、周方向に延びる第1エッジe1と第2エッジe2を含む。陸部には、第1エッジに位置する第1端7Aから第2エッジに位置する第2端7Bまで延びる複数の横溝状要素7が形成される。横溝状要素は、一つの横溝状要素の第2端と、それにタイヤ周方向で隣接する別の横溝状要素の第1端とがタイヤ周方向の同じ位置となるように、タイヤ周方向に配置される。横溝状要素は、第1端の側の第1部分と、第2端の側の第2部分と、これらの間の第3部分とを含み、これらは、タイヤ周方向に対して、いずれも同じ向きに傾斜する。第3部分のタイヤ周方向に対する角度θ3は、第1部分のタイヤ周方向に対する角度θ1及び第2部分のタイヤ周方向に対する角度θ2よりも小さい。第3部分の長さは、第1部分と第2部分の長さの和よりも大きい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部は、少なくとも1つの陸部を備え、
前記陸部は、タイヤ周方向に延びる第1エッジと、タイヤ周方向に延びる第2エッジとを含み、
前記陸部には、複数の横溝状要素が形成されており、
前記複数の横溝状要素のそれぞれは、前記第1エッジに位置する第1端から前記第2エッジに位置する第2端まで連続して延び、かつ、タイヤ軸方向及びタイヤ周方向に対して傾斜しており、
前記複数の横溝状要素は、タイヤ1周に亘って第1の配列で並べられており、
前記第1の配列は、一つの横溝状要素の前記第2端が、それにタイヤ周方向で隣接する横溝状要素の前記第1端とタイヤ周方向で同じ位置とされており、
前記複数の横溝状要素のそれぞれは、前記第1端の側の第1部分と、前記第2端の側の第2部分と、これらの間の第3部分とを含み、
前記第1部分、前記第2部分及び前記第3部分は、タイヤ周方向に対して、いずれも同じ向きに傾斜しており、
前記第3部分のタイヤ周方向に対する角度θ3は、前記第1部分のタイヤ周方向に対する角度θ1及び前記第2部分のタイヤ周方向に対する角度θ2よりも小さく、
前記第3部分の長さは、前記第1部分の長さ及び前記第2部分の長さの和よりも大きい、
タイヤ。
【請求項2】
前記横溝状要素は、幅が2mm以下のサイプである、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記横溝状要素は、幅が2mmよりも大きい溝である、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記第1部分の幅及び前記第2部分の幅は、前記第3部分の幅よりも小さい、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記角度θ1と前記角度θ2とは互いに等しい、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記タイヤが、正規リムに正規内圧でリム組みされ、かつ、正規荷重を負荷してキャンバー角ゼロで平面に接触させた正規荷重負荷状態の接地面において、前記陸部を横切る前記接地面の縁のタイヤ周方向の長さは、前記横溝状要素の一つのタイヤ周方向の長さの20%以下である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記陸部には、前記第1の配列が、複数セット設けられている、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記第3部分のタイヤ周方向に対する角度θ3は、20~50度の範囲にあり、
前記第1部分及び前記第2部分のタイヤ周方向に対する角度θ1及びθ2は、それぞれ、60度以上かつ90度未満の範囲である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項9】
前記第3部分の長さL3は、前記第1部分の長さL1と前記第2部分の長さL2との和(L1+L2)の1.2倍以上である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項10】
前記第3部分の長さL3は、前記第1部分の長さL1と前記第2部分の長さL2との和(L1+L2)の3.5倍以下である、請求項9に記載のタイヤ。
【請求項11】
前記第1部分は、直線状に延びる部分を含み、前記第2部分は、直線状に延びる部分を含み、前記第3部分は、直線状に延びる部分を含む、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項12】
前記第1部分、前記第2部分、及び、前記第3部分は、その間に円弧部分を介在させることなく、互いに直接的に連結されている、請求項11に記載のタイヤ。
【請求項13】
前記第1部分、前記第2部分、及び、前記第3部分は、その間に円弧部分を介在させて互いに連結されている、請求項11に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤのトレッド部には、排水性等の観点から、タイヤ軸方向に延びるサイプや横溝が設けられる(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-168946号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の車両の高性能化及び静粛化に伴い、タイヤについては、さらなる操縦安定性の向上やノイズ性能の改善が求められている。一方、サイプや横溝は、トレッド部の剛性を低下させる他、走行時に様々なノイズを発生させる。したがって、トレッド部にサイプや横溝を配置するにあたり、ノイズ性能や操縦安定性に十分に配慮する必要がある。
【0005】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、ノイズ性能の悪化を制限しつつ操縦安定性能を向上することができるタイヤを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッド部を有するタイヤであって、前記トレッド部は、少なくとも1つの陸部を備え、前記陸部は、タイヤ周方向に延びる第1エッジと、タイヤ周方向に延びる第2エッジとを含み、前記陸部には、複数の横溝状要素が形成されており、前記複数の横溝状要素のそれぞれは、前記第1エッジに位置する第1端から前記第2エッジに位置する第2端まで連続して延び、かつ、タイヤ軸方向及びタイヤ周方向に対して傾斜しており、前記複数の横溝状要素は、タイヤ1周に亘って第1の配列で並べられており、前記第1の配列は、一つの横溝状要素の前記第2端が、それにタイヤ周方向で隣接する横溝状要素の前記第1端とタイヤ周方向で同じ位置とされており、前記複数の横溝状要素のそれぞれは、前記第1端の側の第1部分と、前記第2端の側の第2部分と、これらの間の第3部分とを含み、前記第1部分、前記第2部分及び前記第3部分は、タイヤ周方向に対して、いずれも同じ向きに傾斜しており、前記第3部分のタイヤ周方向に対する角度θ3は、前記第1部分のタイヤ周方向に対する角度θ1及び前記第2部分のタイヤ周方向に対する角度θ2よりも小さく、前記第3部分の長さは、前記第1部分の長さ及び前記第2部分の長さの和よりも大きい、タイヤである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイヤは、上記の構成を採用したことにより、ノイズ性能の悪化を制限しつつ操縦安定性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態のタイヤのトレッド部の部分展開図である。
図2図1の陸部の要部拡大図である。
図3図1の横溝状要素(サイプ)の中心線を表す線図である。
図4】横溝状要素の他の例を示す陸部の平面図である。
図5】横溝状要素の他の例を示す陸部の平面図である。
図6】横溝状要素の他の例を示す陸部の平面図である。
図7】接地面の形状を示すトレッド部の平面図である。
図8】第1の配列が複数セット形成された陸部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のいくつかの実施形態が図面に基づき説明される。
図面は、本発明の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれている場合がある。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。
【0010】
図1は、本実施形態のタイヤ1のトレッド部2の部分展開図であり、図2は、図1の要部拡大図である。本実施形態のタイヤは、例えば、空気入りタイヤとして実施される。空気入りタイヤとしては、例えば、乗用車用タイヤが好適であり、とりわけ乗用車用ラジアルタイヤが好適である。本発明は、自動二輪車用タイヤや、重荷重用タイヤとして実施されても良い。
【0011】
図1では、タイヤ1は正規状態とされている。本明細書において、タイヤ1の正規状態とは、タイヤ1が、正規リムに正規内圧でリム組みされており、かつ、無負荷の状態である。特に言及されていない場合、タイヤ1の各部の寸法等は、この正規状態で測定された値である。
【0012】
本明細書において、「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。
【0013】
本明細書において、「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0014】
図1に示されるように、トレッド部2は、第1トレッド端Te1と、第2トレッド端Te2と、これらの間を構成する踏面2aとを含む。踏面2aは、地面と接触することが意図された部分であって、トレッドゴムによって形成されている。第1トレッド端Te1及び第2トレッド端Te2は、それぞれ、正規荷重負荷状態の接地面において、タイヤ軸方向の最も外側に位置する縁である。
【0015】
本明細書において、「正規荷重負荷状態」とは、正規状態のタイヤ1に、正規荷重を負荷し、かつ、キャンバー角ゼロで平面に接触させた状態である。また、本明細書において、「正規荷重」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。
【0016】
トレッド部2は、例えば、タイヤ周方向に延びる複数本(例えば3本)の周方向溝3が形成されている。本実施形態の周方向溝3は、例えば、タイヤ周方向と平行に直線状に延びている。特に制限されるわけではないが、ウエット走行時に十分な排水性を確保するために、周方向溝3の幅は、例えば、2mmよりも大きく、好ましくは3mm以上、さらに好ましくは4mm以上とされる。同様に、周方向溝3の溝深さは、例えば、3mm以上、好ましくは4mm以上、さらに好ましくは5mm以上とされる。
【0017】
トレッド部2には、1ないし複数の周方向溝3によって複数の陸部4が区分される。本実施形態では、陸部4は、一対のクラウン陸部5と、一対のクラウン陸部5のタイヤ軸方向の両外側に配された一対のショルダー陸部6とを含む。
【0018】
以下、陸部4を説明するにあたり、一つのクラウン陸部5(図1において左側)を参照する。他の陸部4は、以下で説明される構成と同様に構成されても良いし、異なっていても良い。
【0019】
クラウン陸部5は、タイヤ周方向に延びる第1エッジe1と、タイヤ周方向に延びる第2エッジe2とを含む。本実施形態において、第1エッジe1は、クラウン陸部5の第1トレッド端Te1の側のエッジであり、第2エッジe2は、クラウン陸部5の第2トレッド端Te2の側のエッジである。第1エッジe1と第2エッジe2との間で、クラウン陸部5の踏面が画定される。
【0020】
クラウン陸部5には、タイヤ軸方向及びタイヤ周方向に対して傾斜した複数の横溝状要素7が形成されている。したがって、複数の横溝状要素7のそれぞれは、タイヤ軸方向及びタイヤ周方向に対して、ゼロではない角度を有する。
【0021】
横溝状要素7は陸部4の接地面から凹んだ空隙であって、例えば、サイプ及び溝の双方を含む包括的な概念である。本明細書において、図1及び図2の例では、横溝状要素7は、サイプである場合を示す。代替的に、横溝状要素7は、溝であっても良い。
【0022】
本明細書において、「サイプ」は、長手方向と直交する幅が2mm以下、好ましくは1.5mm以下のスリット状の空隙である。サイプは、例えば、正規荷重負荷状態で地面に接地したときに、一対のサイプ壁の少なくとも一部が互い接触するように機能する。したがって、サイプは、陸部4の剛性低下を最小限に抑え、ひいては、操縦安定性を向上させるのに役立つ。また、本明細書において、「溝」は、長手方向及びそれと直交する幅を有する空隙であり、幅が2mmよりも大きいものを指す。溝の幅の上限は特に制限されないが、乗用車用タイヤの場合、例えば10mm以下とされても良い。このような溝は、排水性を高めるのに役立つ。
【0023】
図2に表されているように、複数の横溝状要素7のそれぞれは、第1エッジe1に位置する第1端7Aと、第2エッジe2に位置する第2端7Bとを含み、これらの間を連続して延びている。したがって、横溝状要素7のそれぞれは、クラウン陸部5をタイヤ軸方向に完全に横切るように延びている。これにより、陸部4は、ブロック状の陸部要素8に区分される。
【0024】
クラウン陸部5には、複数の横溝状要素7が第1の配列10で並べられている。本実施形態では、クラウン陸部5に、1セットの第1の配列10が形成されている。好ましい態様ではクラウン陸部5には、第1の配列10(複数の横溝状要素7)のみが形成される。
【0025】
第1の配列10では、一つの横溝状要素7の第2端7Bと、それにタイヤ周方向で隣接する別の横溝状要素7の第1端7Aとがタイヤ周方向の同じ位置にあるように、複数の横溝状要素7がタイヤ1周に亘って繰り返し配置される。より具体的には、図2に示されるように、一つの横溝状要素7の中心線7Cが第1エッジe1と交差する第1位置P1と、前記横溝状要素7にタイヤ周方向で隣接する別の横溝状要素7の中心線7Cが第2エッジe2と交差する第2位置P2とが、タイヤ周方向で同じ位置にある。ただし、タイヤという加硫ゴム製品の特性を鑑み、製造上の誤差を許容しうるように、第1位置P1と第2位置P2とが、タイヤ周方向に僅かな距離aでずれても良い。この場合、距離aは、横溝状要素7の溝中心線のタイヤ周方向の長さLaの5%以下とされ、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下とされる。
【0026】
タイヤ走行時のノイズとして、ピッチ音が知られている。横溝状要素7によって区分された陸部要素8が接地する度にインパクト力が生じる。このインパクト力は、トレッド部2やサイドウォール部(図示省略)を周期的に振動させ、ひいては、ピッチ音が生じる。しかしながら、本実施形態の第1の配列10は、横溝状要素7の中心線7Cを基準とした、横溝状要素7の配列のピッチと横溝状要素7のタイヤ周方向長さLaとが実質的に等しい。このため、本実施形態のタイヤ1は、走行時、複数の横溝状要素7が絶え間なく、かつ、連続的に接地することから、上記インパクト力の変動を小さくする。したがって、本実施形態のタイヤ1は、ピッチ音を低減することにより、ノイズ性能を改善することができる。
【0027】
図3には、横溝状要素7の略図として、その中心線7Cを示す。複数の横溝状要素7のそれぞれは、第1端7Aの側の第1部分71と、第2端7Bの側の第2部分72と、これらの間の第3部分73とを含む。第1部分71、第2部分72及び第3部分は、タイヤ周方向に対して、いずれも同じ向きに傾斜している。本実施形態では、第1部分71、第2部分72及び第3部分は、いずれも、タイヤ周方向に対して、右上がりに傾斜している。このような横溝状要素7は、各横溝状要素7の長手方向の一端から他端側へと徐々に接地することから、タイヤ軸方向に平行に延びるものに比べて走行ノイズの改善に有利である。
【0028】
図3に示されるように、第3部分73のタイヤ周方向に対する角度θ3は、第1部分71のタイヤ周方向に対する角度θ1及び第2部分72のタイヤ周方向に対する角度θ2よりも小さい。また、第3部分73の長さL3は、第1部分71の長さL1及び第2部分72の長さL2の和(L1+L2)よりも大きい。
【0029】
横溝状要素7のタイヤ周方向に対する角度に関し、前記角度が大きいほど、操縦安定性には有利に働く。また、車両の旋回走行時には陸部4の第1エッジe1及び第2エッジe2に作用する力が大きくなる。本実施形態では陸部4の両端に位置する第1部分71及び第2部分72の角度θ1及びθ2が、第3部分73の角度θ3よりも大きいことで、操縦安定性が向上する。また、傾斜が急な第3部分73の長さL3が、第1部分71の長さL1及び第2部分72の長さL2の和(L1+L2)よりも大きいことで、旋回走行時に各陸部要素8が捻じれ難くなる。これらの作用により、本実施形態のタイヤ1は、操縦安定性が向上する。なお、本実施形態のように、横溝状要素7がサイプの場合、横溝状要素7を上述のように屈曲させることで、タイヤ走行時、隣接する陸部要素8が互いに支え合うことで、操縦安定性がさらに向上する。
【0030】
上述の陸部要素8の捻じれ変形をより効果的に抑制する観点では、第3部分73の長さL3は大きいことが望ましい。例えば、第3部分73の長さL3は、第1部分71の長さL1及び第2部分72の長さL2の和(L1+L2)の1.2倍以上とされ、好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは2.0倍以上とされる。また陸部4の第1エッジe1及び第2エッジe2付近での横剛性を十分に確保する観点では、第3部分73の長さL3は、前記和(L1+L2)の例えば3.5倍以下、好ましくは3.0倍以下とされる。特に望ましい例では、第1部分71の長さL1と第2部分72の長さL2とは互いに等しい(L1=L2)。他の例では、L1≠L2であっても良い。
【0031】
第1部分71の角度θ1及び第2部分72の角度θ2は、特に制限されるものではないが、操縦安定性を向上させる観点では、例えば、60度以上とされ、好ましくは65度以上とされ、さらに好ましくは70度以上とされる。第1部分71の角度θ1及び第2部分72の角度θ2の上限は、90度未満であれば良いが、好ましくは85度以下、より好ましくは80度以下とされる。特に望ましい例では、角度θ1と角度θ2とは互いに等しい(θ1=θ2)。他の例では、θ1≠θ2であっても良い。
【0032】
第3部分73の角度θ3は、第1部分71の角度θ1及び第2部分72の角度θ2よりも小さければ特に制限されるものではないが、旋回走行時、隣接する陸部要素8を互いに強固に係合させてより高い操縦安定性が発揮するために、好ましくは、20度以上、より好ましくは30度以上とされ、また、好ましくは50度以下、より好ましくは40度以下とされる。
【0033】
図1及び2の実施形態では、第1部分71、第2部分72及び第3部分73は、いずれも直線状に延びており、かつ、これらの各部分が円弧部を介在することなく直接接続されている。他の例では、図4に示されるように、第1部分71と第3部分73との間、及び/又は、第3部分73と第2部分72との間に、曲率半径Rの円弧部9が配されても良い。図4のような例では、第1部分71、第2部分72及び第3部分73の各長さは、それぞれの中心線を仮想延長し、それらの交点を基準に特定されるものとする。
【0034】
図5には、横溝状要素7の変形例が示される。図5の例では、第1部分71の幅W1及び第2部分72の幅W2は、第3部分73の幅よりも小さい。つまり、タイヤ周方向に対して相対的に大きい角度θ1及びθ2を有する第1部分71及び第2部分72の幅W1及びW2は、相対的に小さい角度θ3を有する第3部分73の幅W3よりも小さい。このような態様では、陸部4の接地面と垂直、かつ、タイヤ軸方向と平行な平面での陸部断面において、第1部分71及び第2部分72のそれぞれの幅と、第3部分73の幅とが互いに近似ないし等しくなる。これは、タイヤ走行時のインパクト力の変動をさらに小さくし、より一層、ノイズ性能を改善するのに役立つ。
【0035】
図6には、横溝状要素7の変形例を示す。この例では、横溝状要素7は、横溝で形成されている。本発明の横溝状要素7は、サイプに制限されるものではなく、横溝であっても良い。
【0036】
図7には、正規荷重負荷状態の接地面GLが仮想線で示されている。図7に示されるように、陸部を横切る接地面GLの縁GLaのタイヤ周方向の長さDは、横溝状要素7の一つのタイヤ周方向の長さLaの20%以下とされる。発明者らは、ノイズ改善効果をより高く発揮させるために、横溝状要素7のタイヤ周方向の長さLaと、接地面GLの縁GLaのタイヤ周方向の長さDとの関係性に着目した。第1の配列10が期待するインパクト力の変動抑制効果を得るためには、陸部4を横切る接地面GLの縁GLaがタイヤ軸方向と平行であることが最も有効である。しかし、実際のタイヤでは、接地面GLの縁GLaは図7に示されるように、円弧状になる傾向がある。このような場合でも、接地面GLの縁GLaのタイヤ周方向の長さDが横溝状要素7の一つのタイヤ周方向の長さLaの20%以下の場合とすることにより、陸部4の第1エッジe1と第2エッジe2との接地タイミングのずれを極力小さくできる。これは、上述のインパクト力の変動をさらに小さくし、より一層、ノイズ性能を改善するのに役立つ。特に望ましい態様では、接地面GLの縁GLaのタイヤ周方向の長さDが横溝状要素7の一つのタイヤ周方向の長さLaの10%以下、さらに好ましくは5%以下とされる。
【0037】
図8には、さらに別の実施形態が示される。この実施形態では、一つ陸部4には、第1の配列10が複数セット形成されている。具体的には、第1の配列10Aと、それとは別の第1の配列10Bとの2つが形成されている。このような実施形態においても、ピッチ音を低減することで、ノイズ性能を改善しつつ、操縦安定性能を向上することができる。本実施形態では、第1の配列10A、10Bにおいて、複数の横溝状要素7は、それぞれのタイヤ周方向の長さLa(図2に示す)に等しいピッチで配置されている。また、複数の第1の配列10A及び10Bは、前記ピッチの50%で、互いにタイヤ周方向に位置ずれている。このような実施形態では、上述のインパクト力の変動を小さくし、より一層、ノイズ性能を改善するのに役立つ。
【0038】
以上、本発明のいくつかの実施形態が説明されたが、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであり、本発明は、図示されている具体的構成に限定されるものではない。また、上記実施形態では、クラウン陸部5を例に上げて説明がなされたが、横溝状要素7は、クラウン陸部5ではなく(又は、クラウン陸部5とともに)、ショルダー陸部6に形成されても良い。
【実施例0039】
本発明の効果を確認するため、表1の仕様に基づいたタイヤサイズ195/65R15 91H(装着リムは15×6.0、内圧230kPa)の乗用車用空気入りラジアルタイヤが準備され、操縦安定性及びノイズ性能が試験された。なお、全ての陸部に、表1の仕様の第1の配列が適用された。タイヤの内部構造は、いずれも同一である。試験内容は、次のとおりである。
【0040】
ノイズ性能試験(実車評価):
テスト車両(排気量2000ccの前輪駆動車)の四輪に、テストタイヤが装着された。そして、前記テスト車両を、ドライ路面上を速度40~100km/hで走行させ、このときのノイズの最大の音圧が測定された。結果は、比較例の前記音圧を100とする指数であり、数値が小さいほど、走行ノイズが小さく(音圧が小さく)、ノイズ性能に優れることを示す。
【0041】
操縦安定性試験:
上記テスト車両の四輪に、テストタイヤが装着された。そして、前記テスト車両を、アスファルトの周回コースで走行させ、そのときの操縦安定性が、運転者の官能により評価された。結果は、比較例を100とする評点であり、数値が大きい程、操縦安定性が優れていることを示す。
試験結果等は、表1に示される。
【0042】
【表1】
【0043】
試験の結果、実施例は、比較例に比べて、ノイズ性能を犠牲にすることなく、操縦安定性を向上していることが確認できた。
【0044】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0045】
[本発明1]
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部は、少なくとも1つの陸部を備え、
前記陸部は、タイヤ周方向に延びる第1エッジと、タイヤ周方向に延びる第2エッジとを含み、
前記陸部には、複数の横溝状要素が形成されており、
前記複数の横溝状要素のそれぞれは、前記第1エッジに位置する第1端から前記第2エッジに位置する第2端まで連続して延び、かつ、タイヤ軸方向及びタイヤ周方向に対して傾斜しており、
前記複数の横溝状要素は、タイヤ1周に亘って第1の配列で並べられており、
前記第1の配列は、一つの横溝状要素の前記第2端が、それにタイヤ周方向で隣接する横溝状要素の前記第1端とタイヤ周方向で同じ位置とされており、
前記複数の横溝状要素のそれぞれは、前記第1端の側の第1部分と、前記第2端の側の第2部分と、これらの間の第3部分とを含み、
前記第1部分、前記第2部分及び前記第3部分は、タイヤ周方向に対して、いずれも同じ向きに傾斜しており、
前記第3部分のタイヤ周方向に対する角度θ3は、前記第1部分のタイヤ周方向に対する角度θ1及び前記第2部分のタイヤ周方向に対する角度θ2よりも小さく、
前記第3部分の長さは、前記第1部分の長さ及び前記第2部分の長さの和よりも大きい、
タイヤ。
[本発明2]
前記横溝状要素は、幅が2mm以下のサイプである、本発明1に記載のタイヤ。
[本発明3]
前記横溝状要素は、幅が2mmよりも大きい溝である、本発明1に記載のタイヤ。
[本発明4]
前記第1部分の幅及び前記第2部分の幅は、前記第3部分の幅よりも小さい、本発明1ないし3のいずれかに記載のタイヤ。
[本発明5]
前記角度θ1と前記角度θ2とは互いに等しい、本発明1ないし4のいずれかに記載のタイヤ。
[本発明6]
前記タイヤが、正規リムに正規内圧でリム組みされ、かつ、正規荷重を負荷してキャンバー角ゼロで平面に接触させた正規荷重負荷状態の接地面において、前記陸部を横切る前記接地面の縁のタイヤ周方向の長さは、前記横溝状要素の一つのタイヤ周方向の長さの20%以下である、本発明1ないし5のいずれかに記載のタイヤ。
[本発明7]
前記陸部には、前記第1の配列が、複数セット設けられている、本発明1ないし6のいずれかに記載のタイヤ。
[本発明8]
前記第3部分のタイヤ周方向に対する角度θ3は、20~50度の範囲にあり、
前記第1部分及び前記第2部分のタイヤ周方向に対する角度θ1及びθ2は、それぞれ、60度以上かつ90度未満の範囲である、本発明1ないし7のいずれか1項に記載のタイヤ。
[本発明9]
前記第3部分の長さL3は、前記第1部分の長さL1と前記第2部分の長さL2との和(L1+L2)の1.2倍以上である、本発明1ないし8のいずれか1項に記載のタイヤ。
[本発明10]
前記第3部分の長さL3は、前記第1部分の長さL1と前記第2部分の長さL2との和(L1+L2)の3.5倍以下である、本発明1ないし9のいずれか1項に記載のタイヤ。
[本発明11]
前記第1部分は、直線状に延びる部分を含み、前記第2部分は、直線状に延びる部分を含み、前記第3部分は、直線状に延びる部分を含む、本発明1ないし10のいずれか1項に記載のタイヤ。
[本発明12]
前記第1部分、前記第2部分、及び、前記第3部分は、その間に円弧部分を介在させることなく、互いに直接的に連結されている、本発明11に記載のタイヤ。
[本発明13]
前記第1部分、前記第2部分、及び、前記第3部分は、その間に円弧部分を介在させて互いに連結されている、本発明11に記載のタイヤ。
【符号の説明】
【0046】
1 タイヤ
2 トレッド部
4 陸部
7 横溝状要素
7A 第1端
7B 第2端
10 第1の配列
71 第1部分
72 第2部分
73 第3部分
GL 接地面の縁
e1 第1エッジ
e2 第2エッジ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8