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特開2023-147239チオール基含有ポリエーテルポリマー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147239
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】チオール基含有ポリエーテルポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/326 20060101AFI20231004BHJP
   C08G 59/66 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C08G65/326
C08G59/66
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045706
(22)【出願日】2023-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2022053094
(32)【優先日】2022-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000187046
【氏名又は名称】東レ・ファインケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 基晴
(72)【発明者】
【氏名】西村 朋晃
(72)【発明者】
【氏名】阿部 博允
【テーマコード(参考)】
4J005
4J036
【Fターム(参考)】
4J005AA03
4J005AA04
4J005BC00
4J005BD06
4J036AB00
4J036AC01
4J036AD08
4J036AG04
4J036AG07
4J036AJ05
4J036AJ14
4J036AK19
4J036CD12
4J036DB01
4J036DB02
4J036DD02
4J036JA06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】従来のポリメルカプタン系硬化剤を使用したエポキシ接着剤より可使時間を長くしながら、従来同等のセットタイムで接着できる硬化剤として使用可能なチオール基含有ポリエーテルポリマーを提供する。
【解決手段】チオール基含有ポリエーテルポリマーは、主鎖中に、ポリエーテル部分と、下記一般式(2)で表される構造単位を含有し、かつ末端に、下記一般式(3)で表される構造単位を有する。


【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖中に、下記一般式(1)
【化1】

(式(1)中、Rは炭素数が10以下の多価アミンまたは多価アルコールから水素原子を除いた残基、Rは炭素数が2~6のアルキレン基、nは1~200の整数、mは2~8の整数である)
で表されるポリエーテル部分と、下記一般式(2)
【化2】

(式(2)中、Xは1~5の整数で、lは0~10の整数である)
で表される構造単位を含有し、かつ末端に、下記一般式(3)
【化3】

(式(3)中、lは0~10の整数である)
で表される構造単位を有する、チオール基含有ポリエーテルポリマー。
【請求項2】
チオール基を16質量%~20質量%含有する、請求項1に記載のチオール基含有ポリエーテルポリマー。
【請求項3】
請求項1または2に記載のチオール含有ポリエーテルポリマー100質量部に対し、エポキシ樹脂を100~600質量部含有する、エポキシ樹脂含有組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂100質量部に対して、アミン類を1~60質量部含有する、請求項3に記載のエポキシ樹脂含有組成物。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂10gを含むエポキシ樹脂含有組成物を使用し23℃、50%RHで硬化する時の可使時間が、5.5分~25分である、請求項3または4に記載のエポキシ樹脂含有組成物。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂含有組成物を6.0mm厚以上に塗布し23℃、50%RHで硬化するとき、硬化開始1時間後のJIS K7215に準拠したショアD硬度が50以上且つJIS K 6850に準拠した引張せん断接着強度が8MPa以上であり、硬度開始24時間後のJIS K7215に準拠したショアD硬度が60以上且つJIS K 6850に準拠した引張せん断接着強度が12MPa以上である、請求項3または4に記載のエポキシ樹脂含有組成物。
【請求項7】
請求項1または2に記載のチオール基含有ポリエーテルポリマーを含有するエポキシ樹脂用硬化剤。
【請求項8】
請求項3に記載のエポキシ樹脂含有組成物からなるエポキシ樹脂接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チオール基含有ポリエーテルポリマーに関する。さらに、本発明は、従来のポリメルカプタン系硬化剤を使用したエポキシ接着剤より可使時間を長くしながら、従来同等のセットタイムで接着できるエポキシ樹脂含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂を含む硬化物は、良好な接着性、耐薬品性、低収縮率、および優れた物理的性質を有しており、塗料や接着剤などとして従来から広く使用されている。
【0003】
中でもエポキシ接着剤は、良好な接着性、耐薬品性を持つ。エポキシ接着剤の硬化剤としては、速硬化性かつ高い接着強度が要求される場合、ポリチオール化合物が使用されている。エポキシ接着剤の硬化剤として、ポリチオール化合物が使用された場合、他のエポキシ硬化剤と比べて硬化が迅速である。
【0004】
チオール基とエポキシ基を速やかに反応させることができる化合物として、主鎖にポリサルファイド骨格を含まない末端チオール基含有化合物が数多く報告されている(例えば、特許文献1参照)。その中でも経済性、安全性を兼ね備えたエポキシ樹脂の硬化剤として、主鎖にポリエーテル骨格を持ち、1分子中にチオール基を3個以上有する化合物が広く市販されている。主鎖にポリエーテル骨格を持ち、1分子中にチオール基を3個以上有する化合物としては、例えば、東レ・ファインケミカル(株)製「ポリチオール QE-340M」、Gabriel Performance Products製「Capcure3-800」などが挙げられる。一般的にこれらのポリメルカプタン系硬化剤はエポキシ樹脂と硬化促進剤である三級アミンとを混合して使用される。
【0005】
主鎖にポリエーテル骨格を持ち、1分子中にチオール基を3個以上有する化合物をポリメルカプタン系硬化剤として使用したエポキシ接着剤は、常温での可使時間は2~10分程度で硬化する。しかしながら、接着面積が広い場合、可使時間が短いと接着面に接着剤を塗布する前に接着剤が硬化して使用できなくなる課題があった。一方で、接着剤の可使時間を長くした場合、当然ながらセットタイムが長くなり、作業効率が著しく悪化することが懸念される。
【0006】
したがって、従来のポリメルカプタン系硬化剤を使用したエポキシ接着剤より可使時間を長くしながら、従来同等のセットタイムで接着できる接着剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8-269203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来のポリメルカプタン系硬化剤を使用したエポキシ接着剤より可使時間を長くしながら、従来同等のセットタイムで接着できる硬化剤として使用可能なチオール基含有ポリエーテルポリマーを提供することにある。
【0009】
さらに本発明の目的は、従来のポリメルカプタン系硬化剤を使用したエポキシ接着剤より可使時間を長くしながら、従来同等のセットタイムで接着できる接着剤としてエポキシ樹脂含有組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のチオール基含有ポリエーテルポリマーは、主鎖中に、下記一般式(1)
【化1】

(式(1)中、Rは炭素数が10以下の多価アミンまたは多価アルコールから水素原子を除いた残基、Rは炭素数が2~6のアルキレン基、nは1~200の整数、mは2~8の整数である)
で表されるポリエーテル部分と、下記一般式(2)
【化2】

(式(2)中、Xは1~5の整数、lは0~10の整数である)
で表される構造単位を含有し、かつ末端に、下記一般式(3)
【化3】

(式(3)中、lは0~10の整数である)
で表される構造単位を有する。
【0011】
本発明のエポキシ樹脂含有組成物は、上述したチオール含有ポリエーテルポリマー100質量部に対し、エポキシ樹脂を100~600質量部含有する。また、好ましくは、前記エポキシ樹脂100質量部に対して、アミン類を1~60質量部含有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のチオール基含有ポリエーテルポリマーは、可使時間が長く、セットタイムが短い接着性を有するエポキシ樹脂の硬化剤として使用できる。
さらに本発明のエポキシ樹脂含有組成物は、可使時間が長く、セットタイムが短い接着性を有するエポキシ樹脂接着剤として使用することができる。
【0013】
一般的にポリメルカプタン硬化剤を使用したエポキシ接着剤にアミン化合物が配合される。このアミン化合物はポリメルカプタン化合物とエポキシ化合物との反応を促進させるための触媒として配合されており、アミン化合物量は接着剤の可使時間に大きく影響する。当然、アミン量が少ないとポリメルカプタン化合物とエポキシ化合物との反応は遅くなり、可使時間は長くなるが、反応が完結しにくく、結局、セットタイムを長くとらないと満足いく接着強度などの接着剤としての機能が得られない。つまり、従来のポリメルカプタン系硬化剤を使用したエポキシ接着剤より可使時間を長くしながら、従来同等のセットタイムで接着できる硬化剤はアミン化合物量の調整だけで得られるものではない。
【0014】
本発明者らはアミン化合物量を少なくして可使時間を長くしても、従来同等のセットタイムで接着できるポリメルカプタン硬化剤として、ポリメルカプタン化合物の架橋点に着目した。ポリメルカプタン化合物の架橋点は、エポキシ化合物と反応後には高次構造をとり、その結果、比較的速い段階で、接着剤として必要な硬度、接着強度が得られると期待される。つまり、ポリメルカプタン化合物の架橋点が多いと、可使時間を長くしてエポキシ化合物との反応が少ない状態でも、従来同等との接着剤としての機能を有し、従来同等のセットタイムで接着できると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のチオール基含有ポリエーテルポリマーを詳細に説明する。
チオール基含有ポリエーテルポリマーは、主鎖中に、下記一般式(1)
【化4】

(式(1)中、Rは炭素数が10以下の多価アミンまたは多価アルコールから水素原子を除いた残基、Rは炭素数が2~6のアルキレン基、nは1~200の整数、mは2~8の整数である)
で表されるポリエーテル部分と、下記一般式(2)
【化5】

(式(2)中、Xは1~5の整数で、lは0~10の整数である)
で表される構造単位を含有し、かつ末端に、下記一般式(3)
【化6】

(式(3)中、lは0~10の整数である)
で表される構造単位を有する、チオール基含有ポリエーテルポリマーである。
【0016】
は、炭素数が10以下の多価アミンまたは多価アルコールからm個の水素原子を除いた残基である。mは2~8の整数、好ましくは2~5の整数である。炭素数が10以下の多価アミンおよび多価アルコールとして、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ヘキサントリオール、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ショ糖等を挙げることができる。これらの多価アミンおよび多価アルコールは、単独で用いても、併用しても良い。上記の多価アルコールの中では、特に、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンが好ましい。
【0017】
は、炭素数が2~6のアルキレン基、好ましくは炭素数2~4のアルキレン基である。炭素数が2~6のアルキレン基として、例えばエチレン、n-プロピレン、イソプロピレン、n-ブチレン、イソブチレン、ペンチレン、ヘキシレン等を挙げることができる。
【0018】
nは、1~200の整数、好ましくは1~100の整数である。また、mは2~8の整数、好ましくは2~5の整数である。
【0019】
チオール基含有ポリエーテルポリマーは、ハロゲン末端ポリエーテルポリマーと、硫化水素金属塩とを反応させることによって得ることができる。ハロゲン末端ポリエーテルポリマーは、(a)主鎖にポリエーテル部分を有し、末端に2個以上の水酸基を有するポリオールに、(b)ポリオールの水酸基に対してエピハロヒドリンを付加させることにより得られる。更に、本発明のチオール基含有ポリエーテルポリマーの架橋点を増やすために、ポリオールの水酸基より過剰量のエピハロヒドリンを付加させることが重要である。
【0020】
ハロゲン末端ポリエーテルポリマーは、主鎖中に、下記一般式(1)
【化7】

(式(1)中、Rは炭素数が10以下の多価アミンまたは多価アルコールから水素原子を除いた残基、Rは炭素数が2~6のアルキレン基、nは1~200の整数、mは2~8の整数である)
で表されるポリエーテル部分と、下記一般式(4)
【化8】

(式(4)中、Xはハロゲン原子、lは0~10の整数である)
で表される構造を末端に有する。
【0021】
エピハロヒドリンはエピブロモヒドリン、エピクロロヒドリンが好ましく、より好ましくはエピクロロヒドリンである。
エピハロヒドリンの使用量はポリオールの水酸基に対して1.5モル倍から5.0モル倍、好ましくは1.6モル倍から3.0モル倍である。
【0022】
チオール基含有ポリエーテルポリマーの合成に用いる、主鎖にポリエーテル部分を有し、末端に2個以上の水酸基を有するポリオール(以下、ポリオールという。)は、下記一般式(5)で表される。
【化9】
(但し、Rは炭素数が10以下の多価アミンまたは多価アルコールからm個の水素原子を除いた残基であり、Rは炭素数が2~4のアルキレン基であり、nは1~200の整数であり、mは2~8の整数である。)
【0023】
このようなポリオールとしては、多価アミンまたは多価アルコールに、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等を付加したものが挙げられる。多価アミンまたは多価アルコールとしては、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ヘキサントリオール、トリエタノールアミン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、エチレンジアミン、ショ糖等を挙げることができる。これらの多価アミンおよび多価アルコールは、単独で用いても、併用しても良い。上記のポリオールの中では、特にグリセリンまたはトリメチロールプロパンまたはトリメチロールエタンに、プロピレンオキサイドを付加して得られるポリプロピレングリコールが好ましい。
【0024】
このポリオールの分子量は、通常200~10,000であり、200~3,000が好ましい。
【0025】
本発明のチオール基含有ポリエーテルポリマーは、上述したハロゲン末端ポリエーテルポリマーと、硫化水素金属塩とを反応させることによって調製することができる。すなわち、硫化水素金属塩を反応させることにより、ハロゲン末端ポリエーテルポリマーの前記一般式(4)で表される構造から、チオール基含有ポリエーテルポリマーの前記一般式(2)および一般式(3)で表される構造が生成する。硫化水素金属塩として、例えば、硫化水素カリウム、硫化水素ナトリウム、硫化水素リチウム、硫化水素セシウム、硫化水素ルビジウム、等を挙げることができる。なかでも硫化水素金属塩として、硫化水素ナトリウムが好ましい。硫化水素金属塩は、水溶液でも使用する事ができ、水溶液の硫化水素金属塩濃度は、25質量%以上、好ましくは32質量%以上、より好ましくは40質量%以上70質量%以下である。
【0026】
硫化水素金属塩は、末端ハロゲン化ポリエーテルポリマーのハロゲンのモル量に対し、好ましくは1.0モル倍~5.0モル倍、より好ましくは1.1モル倍~1.5モル倍を使用するとよい。硫化水素金属塩の使用量をこのような範囲内にすることにより、チオール基含有ポリエーテルポリマー中のハロゲンの含有量を少なくすることができる。電子材料用途では製品、部品、素材の成分において、ハロゲンやハロゲン化合物を含有しないことが要求され、国際規格であるIEC(国際電気標準会議)61249-2-21、米国IPC(電気回路工業協会)4101B、日本の社団法人日本電子回路工業会(JPCA)においてハロゲンフリーの閾値が定義されており、塩素(Cl)含有率を0.09質量%(900ppm)以下にすることが求められている。
【0027】
末端ハロゲン化ポリエーテルポリマーに硫化水素金属塩を反応させるとき、溶媒を使用しても不使用でも良い。溶媒として、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、アセトニトリル等のニトリル類、ピリジン等のアミン類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類、水、等が挙げられる。これらの中では、特に、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、水が好ましい。
上記溶媒を使用する場合、好ましくはハロゲン末端ポリエーテルポリマーの質量に対し、0.2質量倍~5.0質量倍が好ましく、より好ましくは1.0質量倍~3.0質量倍を使用するとよい。
【0028】
末端ハロゲン化ポリエーテルポリマーに硫化水素金属塩を反応させるとき、触媒を使用しても、不使用でも良いが、触媒を使用すると、反応速度が向上し、反応が素早く完結する利点がある。触媒として、例えば、テトラブチルアンモニウムクロリド(TBAC)、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩(TBAHS)、トリブチルメチルアンモニウムクロリド(MTBAC)、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド(BTMAC)、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド(BTEAC)、メチルトリオクチルアンモニウムクロリド(MTOAC)、テトラブチルホスホニウムブロミド(TBPB)、等の相間移動触媒が挙げられる。これらの中では、TBAB、MTBACが好ましい。
【0029】
上記触媒を使用する場合、触媒量は、好ましくは末端ハロゲン化ポリエーテルポリマーのハロゲンのモル量に対し、0.005モル倍~0.2モル倍が好ましく、より好ましくは0.01モル倍~0.1モル倍を使用するとよい。
【0030】
末端ハロゲン化ポリエーテルポリマーに硫化水素金属塩を反応させるとき、反応系中の雰囲気として、例えば空気、窒素、ヘリウムのような不活性ガス、硫化水素が挙げられる。これらの中では特に、得られるチオール基含有ポリエーテルポリマーの粘度を下げる効果のある硫化水素が好ましい。
【0031】
硫化水素は反応系に密閉容器を用いて、副生する硫化水素を閉じ込めても良いし、硫化水素ボンベ等を用いて系外から導入しても良い。更には、酸と硫化水素金属塩の中和反応により硫化水素雰囲気を作り出しても良い。その際に使用する酸はギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、クエン酸、乳酸等の有機カルボン酸類、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の有機スルホン酸類、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸類等が挙げられる。酸の使用量は密閉容器の缶内圧力に応じて設定され、缶内圧力は0.01~2.0MPaが好ましく、より好ましくは0.05~1.0MPaである。
【0032】
末端ハロゲン化ポリエーテルポリマーに硫化水素金属塩を反応させるときの反応温度は、好ましくは40~130℃、より好ましくは60~100℃にするとよい。反応温度をこのような範囲内にすることにより、生成するチオール基含有ポリエーテルポリマーのハロゲン含有量を少なくし、取り扱いやすい粘度にすることができる。
【0033】
末端ハロゲン化ポリエーテルポリマーに硫化水素金属塩を反応させるときの反応時間は、好ましくは1~20時間、より好ましくは3~9時間にするとよい。反応時間をこのような範囲内にすることにより、生成するチオール基含有ポリエーテルポリマーのハロゲン含有量を少なくし、効率的な生産を確保することができる。
【0034】
本発明のチオール基含有ポリエーテルポリマーは、ハロゲン量が好ましくは900ppm以下、より好ましくは600ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下であるとよい。チオール基含有ポリエーテルポリマーのハロゲン量をこのような範囲内にすることにより、電子材料用途に好適使用することができる。
【0035】
本発明のチオール基含有ポリエーテルポリマーの架橋点はチオール基含有量でも示すことができ、チオール基含有ポリエーテルポリマー中のチオール基含量は、好ましくは16質量%以上、より好ましくは16質量%~25質量%、さらに好ましくは16質量%~20質量%である。
【0036】
本発明のチオール基含有ポリエーテルポリマーの粘度は、好ましくは、9~30Pa・sであり、より好ましくは10Pa・s~25Pa・sである。
【0037】
上述したチオール含有ポリエーテルポリマーは、好ましくは、エポキシ樹脂用硬化剤として使用される。本発明のエポキシ樹脂用硬化剤は、本発明のチオール基含有ポリエーテルポリマーを含有する。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂含有組成物は、上述したチオール含有ポリエーテルポリマー100質量部に対し、エポキシ樹脂を100~600質量部含有する。このエポキシ樹脂含有組成物は、可使時間が長く、且つセットタイムが短い、優れた接着性を有するエポキシ樹脂接着剤として使用することができる。チオール基含有ポリエーテルポリマーは、溶媒に溶解してもよく、エポキシ樹脂含有組成物の塗布性を改善することができる。溶媒としては、好ましくはアルコール系溶媒が用いられる。エポキシ樹脂含有組成物を基板などに塗布した後、僅かな加熱で留去できる観点から、沸点が低いアルコールが好ましく、特にメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、n-ヘプタノール、n-ヘキサノール等が、チオール基含有ポリエーテルポリマーとの相溶性に優れるため好ましい。なかでも低分子であるメタノール、エタノールがより好ましい。
【0039】
本発明のエポキシ樹脂含有組成物に用いるエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロカテコール、4,4-ジヒドロキシビフェニル、1,5-ヒドロキシナフタリンなどの多価フェノールにエピクロロヒドリンを付加させて得られるエポキシ樹脂、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコールにエピクロロヒドリンを付加させて得られるエポキシ樹脂、およびオキシ安息香酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸にエピクロロヒドリンを付加させて得られるエポキシ樹脂、末端にエポキシ基を有するポリサルファイドポリマー(商品名「FLEP-50」、「FLEP-60」いずれも東レ・ファインケミカル株式会社製)などが挙げられ、常温で液状のものが好ましい。
【0040】
本発明のエポキシ樹脂含有組成物において、エポキシ樹脂は、チオール基含有ポリエーテルポリマー100質量部に対して、100~600質量部含有することが好ましい。チオール基含有ポリエーテルポリマー100質量部に対するエポキシ樹脂の含有量は、より好ましくは、100~400質量部、さらにより好ましくは、100~200質量部である。
【0041】
本発明のエポキシ樹脂含有組成物は、好ましくは、アミン類を含有する。
本発明のエポキシ樹脂含有組成物において、アミン類は、エポキシ樹脂100質量部に対して、1~100質量部含有することが好ましく、より好ましくは1~60質量部含有するとよい。アミン類の含有量は可使時間に影響するので、可使時間の設計に応じて使用量を設定することができる。
【0042】
本発明のエポキシ樹脂含有組成物に用いるアミン類としては、通常のエポキシ樹脂用硬化剤や触媒として公知のものでよく、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン、トリメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、N,N-ジメチルプロピルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族3級アミン類、N-メチルピペリジン、N,N’-ジメチルピペラジンなどの脂環族3級アミン類、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルフェノール、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(Evonik Industries製/ANCAMINE K―54、ADEKA(株)製/EHC-30)などの芳香族3級アミン類などが挙げられ、さらにエポキシ樹脂を過剰なアミンと反応させて製造されるポリアミンエポキシ樹脂アダクト、ポリアミン-エチレンオキサイドアダクト、ポリアミン-プロピレンオキサイドアダクト、シアノエチル化ポリアミンや、主鎖がシリコンであるジアミン、または、ポリアミン類とフェノール類およびアルデヒド類などとを反応させて得られる脱水縮合物、2―エチル―4-メチルイミダゾールなどのイミダゾール類、変性ポリアミンなどが挙げられる。
【0043】
エポキシ樹脂含有組成物は、好ましくは、23℃、50%RHで硬化するときの可使時間が、5.5分から25分である。可使時間の測定は、JIS K 6870記載の多成分接着剤のポットライフの求め方(方法1)を参考にし、23℃、50%RH条件で、エポキシ樹脂10gに、チオール含有ポリエーテルポリマーとアミン化合物を所定の割合で混合しエポキシ樹脂含有組成物に爪楊枝を入れて動かなくなる点を可使時間と定義した。
【0044】
エポキシ樹脂含有組成物は、エポキシ樹脂含有組成物を6.0mm厚以上に塗布し23℃、50%RHで硬化するとき、硬化開始1時間後のJIS K7215に準拠したショアD硬度が好ましくは50以上、且つJIS K 6850に準拠した引張せん断接着強度が好ましくは8MPa以上であり、硬度開始24時間後のJIS K7215に準拠したショアD硬度が好ましくは60以上、且つJIS K 6850に準拠した引張せん断接着強度が好ましくは12MPa以上である。
【0045】
本明細書において、セットタイムはエポキシ樹脂含有組成物を6.0mm厚以上に塗布し23℃、50%RHで硬化するとき、硬化開始からJIS K7215に準拠したショアD硬度が50以上、且つJIS K 6850に準拠した引張せん断接着強度が8MPa以上になるまでの時間をセットタイムとする。エポキシ樹脂含有組成物のセットタイムは、好ましくは1時間以下であるとよい。エポキシ樹脂含有組成物のセットタイムを1時間以下にすることにより、優れた作業効率が得られる。
【実施例0046】
以下に実施例と比較例を示して本発明を具体的に説明する。以下の実施例において、原料は特に明示しない場合、試薬メーカーから購入した一般的な試薬を用いた。分析には以下の装置および方法を用いた。
【0047】
・粘度測定
東機産業製粘度計U-EIIを用いて25℃でのサンプル粘度を測定した。
【0048】
・チオール基の含量測定
試料をトルエンとピリジンの混合溶液に溶解し、ヨウ化カリウム水溶液を加えた後にヨウ素標準溶液を用いて滴定し、チオール基の含量を測定した。
【0049】
・ハロゲン量測定
チオール基含有ポリエーテルポリマーが含有するハロゲン量は、ハロゲン測定装置(元素計、三菱ケミカルアナリテック社製NSX-2100)を使用し、塩素含有量を測定した。
【0050】
・可使時間
エポキシ樹脂含有組成物の可使時間は、JIS K 6870記載の多成分接着剤のポットライフの求め方(方法1)を参考した。本発明では、23℃、50%RH条件で、エポキシ樹脂10gに、チオール含有ポリエーテルポリマーとアミン化合物を所定の割合で混合し、エポキシ樹脂含有組成物に爪楊枝を入れ、爪楊枝が指で触れても動かなくなる点を可使時間と測定した。可使時間は混合開始から測定し、15秒毎に爪楊枝の状態を確認して分単位で決定した。
【0051】
・硬度
エポキシ樹脂含有組成物の硬度は、JIS K 7215に規定された方法で測定した。具体的には、温度23℃、湿度50%RHの室内でエポキシ樹脂含有組成物を内径31mmm、深さ8mmの複数の容器に流し込み、エポキシ樹脂含有組成物のプレ混合開始を起点として、1時間後、3時間後、6時間後、24時間後に直径31×厚さ8mmの測定用試料を得た。試料の平らな面の硬度を、タイプDデュロメーターを用いて測定した。測定は3回実施し、平均値を硬度の数値とした。
【0052】
・引張せん断接着強度
エポキシ樹脂含有組成物の引張せん断接着強度はJIS K 6850に規定された方法を参考に測定した。具体的な測定方法を以下に示す。
被着材:100mm×25mm×3mmの軟鋼板(サンドブラスト仕上げ)の表面をアセトン、次いでメチルエチルケトンを用いて脱脂し、表面処理を実施した。
試験片:温度23℃、湿度50%RHの室内でJIS K 6850に規定された寸法で作製した。具体的には被着材にエポキシ樹脂含有組成物を塗布し、他方の被着材と、重ね長さ12.5mm、接着層の厚さ約0.2mmとなるように貼り合わせ、温度23℃、湿度50%RHで硬化させ、エポキシ樹脂含有組成物のプレ混合開始を起点として、1時間後、3時間後、24時間後に引張せん断接着強度を測定した。
測定方法:温度23℃、湿度50%RHの室内でJIS K 6850に規定された引張試験機を用いて速度毎分2.0mmで引張せん断接着強度を測定した。測定は試験片3個を使用し、平均値を引張せん断接着強度の数値とした。
【0053】
・セットタイム
エポキシ樹脂含有組成物を6.0mm厚以上に塗布し23℃、50%RHで硬化するとき、硬化開始からJIS K7215に準拠したショアD硬度が50以上、且つJIS K 6850に準拠した引張せん断接着強度が8MPa以上になるまでの時間をセットタイムとした。
【0054】
実施例1
グリセリンにプロピレンオキサイドを付加して得られる三官能性ポリプロピレングリコール(OH価510mgKOH/ポリプロピレングリコール)250gと塩化第二スズ五水和物2.4gとを1リットルの反応容器に仕込み、50℃に昇温してエピクロロヒドリン334g(三官能性ポリプロピレングリコールのOH基の1.6モル倍)を1時間かけて滴下し、滴下後80℃で2時間攪拌し、ハロゲン末端ポリエーテルポリマーを得た。ついで、ハロゲン末端ポリエーテルポリマーを密閉容器に移し替え、クエン酸15gを加えて容器を密閉した。密閉した容器に硫化水素ナトリウム水溶液(濃度48%)925gを滴下して、95℃で5時間攪拌した。その後、無機塩と水を除去して、無色透明な液状ポリマー[チオール基含有ポリエーテルポリマー]を得た。得られたチオール基含有ポリエーテルポリマーのチオール基含量は16.5質量%、塩素量は250ppm、粘度は14.2Pa・s(25℃)であった。以上の結果を表1に示す。
【0055】
実施例2
グリセリンにプロピレンオキサイドを付加して得られる三官能性ポリプロピレングリコール(OH価510mgKOH/ポリプロピレングリコール)100gと塩化第二スズ五水和物1.0gとを1リットルの反応容器に仕込み、50℃に昇温してエピクロロヒドリン167g(三官能性ポリプロピレングリコールのOH基の2.0モル倍)を1時間かけて滴下し、滴下後80℃で2時間攪拌し、ハロゲン末端ポリエーテルポリマーを得た。ついで、ハロゲン末端ポリエーテルポリマーを密閉容器に移し替え、ジメチルホルムアミド400gとクエン酸13gを加えて容器を密閉した。密閉した容器に硫化水素ナトリウム水溶液(濃度48%)279gを滴下して、95℃で5時間攪拌した。その後、無機塩と水とジメチルホルムアミドを除去して、無色透明な液状ポリマー[チオール基含有ポリエーテルポリマー]を得た。得られたチオール基含有ポリエーテルポリマーのチオール基含量は18.8質量%、塩素量は260ppm、粘度は10.1Pa・s(25℃)であった。以上の結果を表1に示す。
【0056】
実施例3
グリセリンにプロピレンオキサイドを付加して得られる三官能性ポリプロピレングリコール(OH価510mgKOH/ポリプロピレングリコール)50gと塩化第二スズ五水和物0.5gとを0.5リットルの反応容器に仕込み、50℃に昇温してエピクロロヒドリン125g(三官能性ポリプロピレングリコールのOH基の3.0モル倍)を1時間かけて滴下し、滴下後80℃で2時間攪拌し、ハロゲン末端ポリエーテルポリマーを得た。ついで、ハロゲン末端ポリエーテルポリマーを密閉容器に移し替え、ジメチルホルムアミド263gとクエン酸31gを加えて容器を密閉した。密閉した容器に硫化水素ナトリウム水溶液(濃度48%)219gを滴下して、95℃で5時間攪拌した。その後、無機塩と水とジメチルホルムアミドを除去して、無色透明な液状ポリマー[チオール基含有ポリエーテルポリマー]を得た。得られたチオール基含有ポリエーテルポリマーのチオール基含量は21.9質量%、塩素量は210ppm、粘度は22.7Pa・s(25℃)であった。以上の結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示されるように、実施例1~3のチオール基含有ポリエーテルポリマーのチオール基含有量は16質量%以上と高く、チオール基含有ポリエーテルポリマー内の架橋点が多いことを意味する。一方、参考例1(東レ・ファインケミカル(株)製「ポリチオール QE-340M」)および参考例2(Gabriel Performance Products製「Capcure3-800」)に記載した従来の製品は、チオール化合物のチオール基含有量は16質量%未満であり、チオール化合物内の架橋点が、実施例1~3のチオール基含有ポリエーテルポリマーに比べ少ない。
【0059】
実施例4
23℃、50%RH条件下において、エポキシ樹脂として、三菱ケミカル(株)製「jER828」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量が184~194)10.0g、チオール化合物として、実施例1のチオール基含有ポリエーテルポリマーを8.0g、アミン化合物としてEHC-30(ADEKA(株)製)0.3gを15秒間ヘラで混合して、エポキシ樹脂含有組成物とした。得られたエポキシ樹脂含有組成物の23℃の環境下での可使時間は5.9分であった。また、硬化開始1時間後のショアD硬度は76、硬化開始3時間後のショアD硬度は77、硬化開始24時間後のショアD硬度は78であり、硬化開始1時間でも接着剤として十分な硬度を示した。さらに、軟鋼板に対する引張せん断接着強度を測定した。23℃、湿度50%RHで1時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は16MPa、3時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は18MPa、24時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は18MPaであり、1時間後でも接着剤として十分に高い引張せん断接着強度を示した。セットタイムは1時間未満であった。以上の結果を表2に示す。
【0060】
実施例5
23℃、50%RH条件下において、エポキシ樹脂として、三菱ケミカル(株)製「jER828」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量が184~194)10.0g、チオール化合物として、実施例1のチオール基含有ポリエーテルポリマーを8.0g、アミン化合物としてEHC-30(ADEKA(株)製)0.1gを15秒間ヘラで混合して、エポキシ樹脂含有組成物とした。得られたエポキシ樹脂含有組成物の23℃の環境下での可使時間は9.6分であった。また、硬化開始1時間後のショアD硬度は52、硬化開始3時間後のショアD硬度は54、硬化開始24時間後のショアD硬度は64であり、硬化開始1時間でも接着剤として十分な硬度を示した。さらに、軟鋼板に対する引張せん断接着強度を測定した。23℃、湿度50%RHで1時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は11MPa、3時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は15MPa、24時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は14MPaであり、1時間後でも接着剤として十分に高い引張せん断接着強度を示した。セットタイムは1時間未満であった。以上の結果を表2に示す。
【0061】
実施例6
23℃、50%RH条件下において、エポキシ樹脂として、三菱ケミカル(株)製「jER828」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量が184~194)10.0g、チオール化合物として、実施例2のチオール基含有ポリエーテルポリマーを8.0g、アミン化合物としてEHC-30(ADEKA(株)製)0.3gを15秒間ヘラで混合して、エポキシ樹脂含有組成物とした。得られたエポキシ樹脂含有組成物の23℃の環境下での可使時間は5.6分であった。また、硬化開始1時間後のショアD硬度は76、硬化開始3時間後のショアD硬度は79、硬化開始24時間後のショアD硬度は79であり、硬化開始1時間でも接着剤として十分な硬度を示した。さらに、軟鋼板に対する引張せん断接着強度を測定した。23℃、湿度50%RHで1時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は16MPa、3時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は14MPa、24時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は15MPaであり、1時間後でも接着剤として十分に高い引張せん断接着強度を示した。セットタイムは1時間未満であった。以上の結果を表2に示す。
【0062】
実施例7
23℃、50%RH条件下において、エポキシ樹脂として、三菱ケミカル(株)製「jER828」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量が184~194)10.0g、チオール化合物として、実施例2のチオール基含有ポリエーテルポリマーを8.0g、アミン化合物としてEHC-30(ADEKA(株)製)0.1gを15秒間ヘラで混合して、エポキシ樹脂含有組成物とした。得られたエポキシ樹脂含有組成物の23℃の環境下での可使時間は10.7分であった。また、硬化開始1時間後のショアD硬度は78、硬化開始3時間後のショアD硬度は79、硬化開始24時間後のショアD硬度は79であり、硬化開始1時間でも接着剤として十分な硬度を示した。さらに、軟鋼板に対する引張せん断接着強度を測定した。23℃、湿度50%RHで1時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は14MPa、3時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は16MPa、24時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は17MPaであり、1時間後でも接着剤として十分に高い引張せん断接着強度を示した。セットタイムは1時間未満であった。以上の結果を表2に示す。
【0063】
実施例8
23℃、50%RH条件下において、エポキシ樹脂として、三菱ケミカル(株)製「jER828」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量が184~194)10.0g、チオール化合物として、実施例3のチオール基含有ポリエーテルポリマーを8.0g、アミン化合物としてEHC-30(ADEKA(株)製)0.5gを15秒間ヘラで混合して、エポキシ樹脂含有組成物とした。得られたエポキシ樹脂含有組成物の23℃の環境下での可使時間は5.6分であった。また、硬化開始1時間後のショアD硬度は78、硬化開始3時間後のショアD硬度は80、硬化開始24時間後のショアD硬度は79であり、硬化開始1時間でも接着剤として十分な硬度を示した。さらに、軟鋼板に対する引張せん断接着強度を測定した。23℃、湿度50%RHで1時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は14MPa、3時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は12MPa、24時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は14MPaであり、1時間後でも接着剤として十分に高い引張せん断接着強度を示した。セットタイムは1時間未満であった。以上の結果を表2に示す。
【0064】
実施例9
23℃、50%RH条件下において、エポキシ樹脂として、三菱ケミカル(株)製「jER828」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量が184~194)10.0g、チオール化合物として、実施例3のチオール基含有ポリエーテルポリマーを8.0g、アミン化合物としてEHC-30(ADEKA(株)製)0.3gを15秒間ヘラで混合して、エポキシ樹脂含有組成物とした。得られたエポキシ樹脂含有組成物の23℃の環境下での可使時間は8.1分であった。また、硬化開始1時間後のショアD硬度は74、硬化開始3時間後のショアD硬度は75、硬化開始24時間後のショアD硬度は77であり、硬化開始1時間でも接着剤として十分な硬度を示した。さらに、軟鋼板に対する引張せん断接着強度を測定した。23℃、湿度50%RHで1時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は14MPa、3時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は14MPa、24時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は14MPaであり、1時間後でも接着剤として十分に高い引張せん断接着強度を示した。セットタイムは1時間未満であった。以上の結果を表2に示す。
【0065】
実施例10
23℃、50%RH条件下において、エポキシ樹脂として、三菱ケミカル(株)製「jER828」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量が184~194)10.0g、チオール化合物として、実施例3のチオール基含有ポリエーテルポリマーを8.0g、アミン化合物としてEHC-30(ADEKA(株)製)0.1gを15秒間ヘラで混合して、エポキシ樹脂含有組成物とした。得られたエポキシ樹脂含有組成物の23℃の環境下での可使時間は20.4分であった。また、硬化開始1時間後のショアD硬度は80、硬化開始3時間後のショアD硬度は82、硬化開始24時間後のショアD硬度は82であり、硬化開始1時間でも接着剤として十分な硬度を示した。さらに、軟鋼板に対する引張せん断接着強度を測定した。23℃、湿度50%RHで1時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は9MPa、3時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は15MPa、24時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は14MPaであり、1時間後でも接着剤として十分に高い引張せん断接着強度を示した。セットタイムは1時間未満であった。結果を表2に示す。
【0066】
比較例1
23℃、50%RH条件下において、エポキシ樹脂として、三菱ケミカル(株)製「jER828」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量が184~194)10.0g、チオール化合物として、東レ・ファインケミカル(株)製「ポリチオール QE-340M」を8.0g、アミン化合物としてEHC-30(ADEKA(株)製)1gを15秒間ヘラで混合して、エポキシ樹脂含有組成物とした。得られたエポキシ樹脂含有組成物の23℃の環境下での可使時間は5.0分と速かった。硬化開始1時間後のショアD硬度は82、硬化開始3時間後のショアD硬度は83、硬化開始24時間後のショアD硬度は83であり、硬化開始1時間でも接着剤として十分な硬度を示した。さらに、軟鋼板に対する引張せん断接着強度を測定した。23℃、湿度50%RHで1時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は16MPa、3時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は18MPa、24時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は17MPaであり、1時間後でも接着剤として十分に高い引張せん断接着強度を示した。セットタイムは1時間未満であった。以上の結果を表3に示す。
【0067】
比較例2
23℃、50%RH条件下において、エポキシ樹脂として、三菱ケミカル(株)製「jER828」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量が184~194)10.0g、チオール化合物として、東レ・ファインケミカル(株)製「ポリチオール QE-340M」を8.0g、アミン化合物としてEHC-30(ADEKA(株)製)0.5gを15秒間ヘラで混合して、エポキシ樹脂含有組成物とした。得られたエポキシ樹脂含有組成物の23℃の環境下での可使時間は8.2分であった。また、硬化開始1時間後のショアD硬度は66、硬化開始3時間後のショアD硬度は70、硬化開始24時間後のショアD硬度は76であった。さらに、軟鋼板に対する引張せん断接着強度を測定した。23℃、湿度50%RHで1時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は6MPa、3時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は9MPa、24時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は13MPaであり、1時間後の引張せん断接着強度は不十分であった。セットタイムは1~3時間の間であった。以上の結果を表3に示す。
【0068】
比較例3
23℃、50%RH条件下において、エポキシ樹脂として、三菱ケミカル(株)製「jER828」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量が184~194)10.0g、チオール化合物として、東レ・ファインケミカル(株)製「ポリチオール QE-340M」を8.0g、アミン化合物としてEHC-30(ADEKA(株)製)0.3gを15秒間ヘラで混合して、エポキシ樹脂含有組成物とした。得られたエポキシ樹脂含有組成物の23℃の環境下での可使時間は12.3分であった。また、硬化開始1時間後のショアD硬度は28、硬化開始3時間後のショアD硬度は38、硬化開始24時間後のショアD硬度は41であり、接着剤として不十分な硬度を示した。さらに、軟鋼板に対する引張せん断接着強度を測定した。23℃、湿度50%RHで1時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は4MPa、3時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は5MPa、24時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は6MPaであり、接着剤として不十分な引張せん断接着強度を示した。以上の結果を表3に示す。
【0069】
比較例4
23℃、50%RH条件下において、エポキシ樹脂として、三菱ケミカル(株)製「jER828」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量が184~194)10.0g、チオール化合物として、東レ・ファインケミカル(株)製「ポリチオール QE-340M」を8.0g、アミン化合物としてEHC-30(ADEKA(株)製)0.1gを15秒間ヘラで混合して、エポキシ樹脂含有組成物とした。得られたエポキシ樹脂含有組成物の23℃の環境下での可使時間は37.7分であった。また、硬化開始1時間後のショアD硬度は1以下、硬化開始3時間後のショアD硬度は14、硬化開始24時間後のショアD硬度は16であり、接着剤として不十分な硬度を示した。さらに、軟鋼板に対する引張せん断接着強度を測定した。23℃、湿度50%RHで1時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は0.3MPa、3時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は3MPa、24時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は4MPaであり、接着剤として不十分な引張せん断接着強度を示した。以上の結果を表3に示す。
【0070】
比較例5
23℃、50%RH条件下において、エポキシ樹脂として、三菱ケミカル(株)製「jER828」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量が184~194)10.0g、チオール化合物として、Gabriel Performance Products製「Capcure3-800」を8.0g、アミン化合物としてEHC-30(ADEKA(株)製)1gを15秒間ヘラで混合して、エポキシ樹脂含有組成物とした。得られたエポキシ樹脂含有組成物の23℃の環境下での可使時間は3.0分と速かった。硬化開始1時間後のショアD硬度は78、硬化開始3時間後のショアD硬度は79、硬化開始24時間後のショアD硬度は80であり、硬化開始1時間でも接着剤として十分な硬度を示した。さらに、軟鋼板に対する引張せん断接着強度を測定した。23℃、湿度50%RHで1時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は16MPa、3時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は19MPa、24時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は17MPaであり、1時間後でも接着剤として十分に高い引張せん断接着強度を示した。セットタイムは1時間未満であった。以上の結果を表3に示す。
【0071】
比較例6
23℃、50%RH条件下において、エポキシ樹脂として、三菱ケミカル(株)製「jER828」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量が184~194)10.0g、チオール化合物として、Gabriel Performance Products製「Capcure3-800」を8.0g、アミン化合物としてEHC-30(ADEKA(株)製)0.5gを15秒間ヘラで混合して、エポキシ樹脂含有組成物とした。得られたエポキシ樹脂含有組成物の23℃の環境下での可使時間は4.5分と速かった。硬化開始1時間後のショアD硬度は78、硬化開始3時間後のショアD硬度は81、硬化開始24時間後のショアD硬度は82であり、硬化開始1時間でも接着剤として十分な硬度を示した。さらに、軟鋼板に対する引張せん断接着強度を測定した。23℃、湿度50%RHで1時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は4MPa、3時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は5MPa、24時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は6MPaであり、接着剤として不十分な引張せん断接着強度を示した。以上の結果を表3に示す。
【0072】
比較例7
23℃、50%RH条件下において、エポキシ樹脂として、三菱ケミカル(株)製「jER828」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量が184~194)10.0g、チオール化合物として、Gabriel Performance Products製「Capcure3-800」を8.0g、アミン化合物としてEHC-30(ADEKA(株)製)0.3gを15秒間ヘラで混合して、エポキシ樹脂含有組成物とした。得られたエポキシ樹脂含有組成物の23℃の環境下での可使時間は5.5分であった。また、硬化開始1時間後のショアD硬度は15、硬化開始3時間後のショアD硬度は25、硬化開始24時間後のショアD硬度は32であり、接着剤として不十分な硬度を示した。さらに、軟鋼板に対する引張せん断接着強度を測定した。23℃、湿度50%RHで1時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は2MPa、3時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は3MPa、24時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は4MPaであり、接着剤として不十分な引張せん断接着強度を示した。以上の結果を表3に示す。
【0073】
比較例8
23℃、50%RH条件下において、エポキシ樹脂として、三菱ケミカル(株)製「jER828」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量が184~194)10.0g、チオール化合物として、Gabriel Performance Products製「Capcure3-800」を8.0g、アミン化合物としてEHC-30(ADEKA(株)製)0.1gを15秒間ヘラで混合して、エポキシ樹脂含有組成物とした。得られたエポキシ樹脂含有組成物の23℃の環境下での可使時間は10.7分であった。また、硬化開始1時間後のショアD硬度は1以下、硬化開始3時間後のショアD硬度は7、硬化開始24時間後のショアD硬度は7であり、接着剤として不十分な硬度を示した。さらに、軟鋼板に対する引張せん断接着強度を測定した。23℃、湿度50%RHで1時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は2MPa、3時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は2MPa、24時間後の軟鋼板に対する引張せん断接着強度は2MPaであり、接着剤として不十分な引張せん断接着強度を示した。以上の結果を表3に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表2に示されるように、実施1~3で示したチオール基含有ポリエーテルポリマーを配合することで実施例4~10のエポキシ樹脂含有組成物に示すとおり、可使時間は5.6~20.4分と長いにもかかわらず、従来同等の一時間未満のセットタイムで十分に接着できることを見出した。
【0076】
【表3】
【0077】
表3に示されるように、従来広く市販されているチオール基含有ポリエーテルポリマーを用いた比較例1~8のエポキシ樹脂含有組成物では、アミン化合物の量を削減し可使時間を長くすると、十分な硬度や引張せん断接着強度を発現させることはできなかった。