(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147240
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】重ねレーザ溶接継手、自動車車体用構造部材、及び重ねレーザ溶接継手の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/21 20140101AFI20231004BHJP
B23K 26/32 20140101ALI20231004BHJP
B23K 26/244 20140101ALI20231004BHJP
【FI】
B23K26/21 G
B23K26/21 Z
B23K26/32
B23K26/244
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045827
(22)【出願日】2023-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2022053580
(32)【優先日】2022-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】芦田 肇
(72)【発明者】
【氏名】富士本 博紀
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA02
4E168BA03
4E168BA85
(57)【要約】
【課題】溶接割れの発生を防止可能な重ねレーザ溶接継手、自動車車体用構造部材、及び重ねレーザ溶接継手の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手は、複数の金属板を接合する第一のビードを備え、複数の金属板の隙間の厚さの合計値Gと、複数の金属板の厚さの合計値Tとの比率G/Tが0~17%であり、重ねレーザ溶接継手が、第二のビードをさらに備え、第一のビードは屈曲された形状を有し、第二のビードは屈曲された形状を有し、第一のクレータの最凹部及び第二のクレータの最凹部の間隔が5.0mm以下であり、第一の終端部の一部又は全部及び第二の終端部の一部又は全部が、幅方向に隣り合って並べられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わせられた複数の金属板と、
複数の前記金属板を接合する、線状に延在するレーザ溶接部である第一のビードと、を備える重ねレーザ溶接継手であって、
複数の前記金属板の隙間の厚さの合計値Gと、複数の前記金属板の厚さの合計値Tとの比率G/Tが0~17%であり、
前記重ねレーザ溶接継手が、線状に延在するレーザ溶接部である第二のビードをさらに備え、
前記重ねレーザ溶接継手の厚さ方向に沿った平面視において、前記重ねレーザ溶接継手の少なくとも一方の面では、
前記第一のビードは、終端から5.0mmまでの部位であり、第一のクレータが形成された第一の終端部と、前記第一の終端部以外の部位である第一の主部とからなり、
前記第二のビードは、終端から5.0mmまでの部位であり、第二のクレータが形成された第二の終端部と、前記第二の終端部以外の部位である第二の主部とからなり、
前記第一のビードは、前記第一のクレータの最凹部が前記第一のビードの前記第一の主部の中心軸の延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有し、
前記第二のビードは、前記第二のクレータの最凹部が前記第二のビードの前記第二の主部の中心軸の延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有し、
前記第一のクレータの前記最凹部及び前記第二のクレータの前記最凹部の間隔が5.0mm以下であり、
前記第一の終端部の一部又は全部及び前記第二の終端部の一部又は全部が、幅方向に隣り合って並べられている
重ねレーザ溶接継手。
【請求項2】
前記第一の終端部の中心軸、及び前記第二の終端部の中心軸の一部又は全部が、互いに平行であることを特徴とする請求項1に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項3】
前記第一のクレータの前記最凹部を中心とした半径5mmの円内に含まれる、前記第二のビードの面積が10.0mm2以上であり、
前記第二のクレータの前記最凹部を中心とした半径5mmの円内に含まれる、前記第一のビードの面積が10.0mm2以上である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項4】
重ね合わせられた複数の金属板と、
複数の前記金属板を接合する、線状に延在するレーザ溶接部である第一のビードと、を備える重ねレーザ溶接継手であって、
複数の前記金属板の隙間の厚さの合計値Gと、複数の前記金属板の厚さの合計値Tとの比率G/Tが0~17%であり、
前記重ねレーザ溶接継手が、線状に延在するレーザ溶接部である第二のビードをさらに備え、
前記重ねレーザ溶接継手の厚さ方向に沿った平面視において、前記重ねレーザ溶接継手の少なくとも一方の面では、
前記第一のビードは、終端から5.0mmまでの部位である第一の終端部と、前記第一の終端部以外の部位である第一の主部とからなり、
前記第二のビードは、終端から5.0mmまでの部位である第二の終端部と、前記第二の終端部以外の部位である第二の主部とからなり、
前記第一の終端部及び前記第二の終端部は連結しており、
前記第一の終端部及び前記第二の終端部のいずれかに、1つのクレータが形成されており、
前記第一のビードは、前記クレータの最凹部が前記第一のビードの前記第一の主部の中心軸の延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有し、
前記第二のビードは、前記クレータの最凹部が前記第二のビードの前記第二の主部の中心軸の延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有する
重ねレーザ溶接継手。
【請求項5】
前記第二のビードが複数の前記金属板を接合することを特徴とする請求項1、2又は4に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項6】
前記第一の主部の中心及び前記第二の主部の中心を結ぶ直線に垂直であり且つ前記第一の主部の前記中心を通る仮想線と、前記第一の主部の前記中心及び前記第二の主部の前記中心を結ぶ前記直線に垂直であり且つ前記第二の主部の前記中心を通る仮想線との間の領域に、全ての前記クレータの前記最凹部が位置することを特徴とする請求項1、2又は4に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項7】
前記第一の終端部の一部又は全部が、前記第一の主部の最も長い直線部と並行であり、 前記第二の終端部の一部又は全部が、前記第二の主部の最も長い直線部と並行であることを特徴とする請求項1、2又は4に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項8】
前記第一のビードが、前記重ねレーザ溶接継手の片面のみに存在することを特徴とする請求項1、2又は4に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項9】
前記第一のビードの幅W1及び前記第二のビードの幅W2のうち大きい方をWmaxと定義したとき、
間隔が2×Wmaxである平行な二本の仮想線に挟まれた領域に、前記第一のビード及び前記第二のビードの全てが含まれる
ことを特徴とする請求項1、2又は4に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項10】
複数の前記金属板が、複数の鋼板であり、
複数の前記鋼板のうち1枚以上の化学組成が、
C:0.05~0.5mass%、
Si:0.1~3.5mass%、
Mn:0.1~5.5mass%、及び
P及びS:合計0.03mass%以下
を含有することを特徴とする請求項1、2又は4に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項11】
複数の前記金属板が、複数の鋼板であり、
複数の前記鋼板のうち1枚以上の引張強さが980MPa以上であることを特徴とする請求項1、2又は4に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項12】
前記重ねレーザ溶接継手が、重ね隅肉継手である、請求項1、2又は4に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項13】
請求項1、2又は4に記載の重ねレーザ溶接継手を備える自動車車体用構造部材。
【請求項14】
複数の金属板を重ね合わせる工程と、
複数の前記金属板を接合する線状に延在するレーザ溶接部である第一のビードを形成するように、重ねられた複数の前記金属板に第一のレーザ溶接をする工程と、
を備える重ねレーザ溶接継手の製造方法であって、
前記重ね合わせにおいて、複数の前記金属板の隙間の厚さの合計値Gと、複数の前記金属板の厚さの合計値Tとの比率G/Tを0~17%とし、
前記重ねレーザ溶接継手の製造方法が、線状に延在するレーザ溶接部である第二のビードを形成するように、前記重ねレーザ溶接継手の少なくとも一方の表面の前記金属板に第二のレーザ溶接をする工程をさらに備え、
前記重ねレーザ溶接継手の厚さ方向に沿った平面視において、レーザ照射面では、
前記第一のビードを、終端から5.0mmまでの部位であり、第一のクレータが形成された第一の終端部と、前記第一の終端部以外の部位である第一の主部とからなるものとし、
前記第二のビードを、終端から5.0mmまでの部位であり、第二のクレータが形成された第二の終端部と、前記第二の終端部以外の部位である第二の主部とからなるものとし、
前記第一のビードを、前記第一のクレータの最凹部が前記第一のビードの前記第一の主部の中心軸の延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有するものとし、
前記第二のビードを、前記第二のクレータの最凹部が前記第二のビードの前記第二の主部の中心軸の延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有するものとし、
前記第一のクレータの前記最凹部及び前記第二のクレータの前記最凹部の間隔を5.0mm以下とし、
前記第一の終端部の一部又は全部及び前記第二の終端部の一部又は全部を、幅方向に隣り合うように並べる
重ねレーザ溶接継手の製造方法。
【請求項15】
複数の金属板を重ね合わせる工程と、
複数の前記金属板を接合する線状に延在するレーザ溶接部である第一のビードを形成するように、重ねられた複数の前記金属板に第一のレーザ溶接をする工程と、
を備える重ねレーザ溶接継手の製造方法であって、
前記重ね合わせにおいて、複数の前記金属板の隙間の厚さの合計値Gと、複数の前記金属板の厚さの合計値Tとの比率G/Tを0~17%とし、
前記重ねレーザ溶接継手の製造方法が、線状に延在するレーザ溶接部である第二のビードを形成するように、前記重ねレーザ溶接継手の少なくとも一方の表面の前記金属板に第二のレーザ溶接をする工程をさらに備え、
前記重ねレーザ溶接継手の厚さ方向に沿った平面視において、レーザ照射面では、
前記第一のビードを、終端から5.0mmまでの部位である第一の終端部と、前記第一の終端部以外の部位である第一の主部とからなるものとし、
前記第二のビードを、終端から5.0mmまでの部位である第二の終端部と、前記第二の終端部以外の部位である第二の主部とからなるものとし、
前記第一の終端部及び前記第二の終端部を連結させ、
前記第一の終端部及び前記第二の終端部のいずれかに、1つのクレータを形成し、
前記第一のビードを、前記クレータの最凹部が前記第一のビードの前記第一の主部の中心軸の延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有するものとし、 前記第二のビードを、前記クレータの最凹部が前記第二のビードの前記第二の主部の中心軸の延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有するものとする重ねレーザ溶接継手の製造方法。
【請求項16】
前記第一のレーザ溶接の後で、前記第二のレーザ溶接をすることを特徴とする請求項14又は15に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法。
【請求項17】
前記第二のレーザ溶接の後で、前記第一のレーザ溶接をすることを特徴とする請求項14又は15に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法。
【請求項18】
前記重ねレーザ溶接継手が重ね隅肉継手である、請求項14又は15に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重ねレーザ溶接継手、自動車車体用構造部材、及び重ねレーザ溶接継手の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重ね継手は、重ね合わせられた複数の金属板を溶接して得られる溶接継手である。重ね継手を製造するための溶接手段の一つにレーザ溶接がある。重ねレーザ溶接とは、重ね合わせた複数枚の金属板の片側表面にレーザビームを照射して、金属板を溶融凝固させることにより、これら金属板を接合する溶接のことである。
【0003】
重ねレーザ溶接は、ハット形部材のフランジ部などの狭い領域を、高速に接合することが可能である。しかしながら、重ねレーザ溶接には、溶接ビードの終端にある最終凝固部で割れが生じやすいという問題がある。
【0004】
レーザ溶接においては、レーザの進行方向と反対の方向に、溶融金属の流れが生じる。そのため、レーザ溶接によって形成されたビードの終端部には、クレータと呼ばれる凹みが生じる。さらに、レーザ溶接の終了後には、ビードの終端部に引張応力が加えられる。レーザ溶接の終了後は、溶接部からその周辺への抜熱によって溶接部が急冷され、収縮するからである。クレータが形成されたビード終端部に引張応力が加えられることによって、ビード終端部は、ビードの延在方向に垂直に引き裂かれるように破断することがある。この場合、終端部の破断がビードに沿って進展し、ビード全体にわたって亀裂が形成されるおそれがある。
【0005】
近年、機械構造部品の材料を高強度化する例が増えている。例えば自動車車体用部材、特に自動車の骨格部材となる構造部材では、車体の強度の向上を目的として、引張強さ980MPa以上の高強度鋼板が適用される例が増えている。しかしながら、金属板の引張強さが大きくなるほど、レーザ溶接の終了後にビード終端部に加わる引張応力が大きくなり、ビード終端部の割れが生じるおそれが高まる。ビードに、その全長にわたる亀裂が発生すると、接合部のせん断強度及び剥離強度等の静的強度が低下し、さらに、疲労強度も著しく低下する。以上の事情により、高強度金属板においてビード終端部の割れを防止する技術が待望されている。
【0006】
特許文献1には、複数の鋼板を重ね合わせた鋼板の片側表面にレーザビームを断続的に照射して、線状の第1接合部とその第1接合部に続いて直線状の後続接合部とが列状に配列した溶接部を形成する際、少なくとも、上記溶接部を構成する鋼板間の合計間隙Gを、溶接部を構成する鋼板の合計厚Tの0~15%の範囲内とし、上記レーザビームを照射する溶接ヘッドの移動方向とレーザビームの走査方向を逆向きとすることにより、第1接合部の溶接始端部と該第1接合部に隣接した後続接合部の溶接終端部とが対向し、かつ、上記後続接合部同士の溶接始端部と溶接終端部とが対向するよう溶接部を形成するとともに、上記した接合部の各種寸法を適正範囲に制御することによって、接合部の溶接終端部の割れ発生がなく、剥離強度にも優れる重ねレーザ溶接継手とその製造方法およびその溶接継手を有する自動車車体用構造部材が開示されている。
【0007】
特許文献2には、自動車の衝突の際の衝撃吸収特性に優れ、衝突エネルギーを確実かつ効果的に吸収することにより乗員の保護を図ることができる衝撃吸収部材が開示されている。これは、フランジを有する第1の部材及び第2の部材を接合するためのレーザー溶接ビードをフランジに有する筒体からなる衝撃吸収部材である。レーザー溶接ビードは、フランジの長手方向に離間して交互に複数形成される第1の領域と複数の第2の領域とにより構成され、第1の領域におけるフランジの幅方向への投影長さが、第2の領域におけるフランジの幅方向への投影長さよりも大きい。
【0008】
特許文献3には、溶接ビードに応力集中することがなく、すなわち、溶接開始点・溶接終了点の強度不足や溶接欠陥に起因して熱影響部が連続破断することのない、接合強度の高い溶接構造物を提供すること。また、高エネルギビームにより溶接をする際に生じる溶接欠陥の影響を低減することが可能な溶接方法および溶接装置が開示されている。ここでは、二つの部材が重ね溶接により接合されてなる溶接構造物において、シングルパスで形成された溶接ビードのうち、始端部および終端部の少なくとも一方の溶接ビードを、中間部の溶接ビードに対して側方へ屈曲して形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2020/194669号
【特許文献2】特開2008-161911号公報
【特許文献3】特開2003-290951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、これらの技術によっても、特に高強度鋼板のレーザ溶接において割れを十分に抑制することは困難である。特許文献1の技術においては、J字形状を有する曲線状の接合部に沿って、割れが伝播するおそれがある。特許文献2の技術においては、レーザ溶接部を一対の第1の領域と、この間に形成された第2の領域とから構成されるものとしており、第1の領域が点状に形成されている場合やコの字状溶接または異形コの字状溶接の場合は、第2の領域に割れが伝播するおそれがある。一方、I字状溶接の場合は、これにより第2の領域の割れは抑制されると考えられる。しかしながら、第1の領域において、その延在方向に沿って亀裂が伝播するおそれがある。特許文献3の技術においては、レーザ溶接部を始端部、中間部、及び終端部から構成されるものとしており、これらがコの字状あるいは略コの字状の場合や付加溶接ビードが溶接ビードの溶接終了点からずらした位置に形成される場合は、溶接ビード(中間部)に割れが伝播あるは発生するおそれがある。一方、I字状溶接の場合は、これにより中間部の割れは抑制されると考えられる。しかしながら、始端部及び終端部において、その延在方向に沿って亀裂が伝播するおそれがある。
【0011】
以上の事情に鑑みて、本発明は、溶接割れの発生を防止可能な重ねレーザ溶接継手、自動車車体用構造部材、及び重ねレーザ溶接継手の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0013】
(1)本発明の第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手は、重ね合わせられた複数の金属板と、複数の前記金属板を接合する、線状に延在するレーザ溶接部である第一のビードと、を備える重ねレーザ溶接継手であって、複数の前記金属板の隙間の厚さの合計値Gと、複数の前記金属板の厚さの合計値Tとの比率G/Tが0~17%であり、前記重ねレーザ溶接継手が、線状に延在するレーザ溶接部である第二のビードをさらに備え、前記重ねレーザ溶接継手の厚さ方向に沿った平面視において、前記重ねレーザ溶接継手の少なくとも一方の面では、前記第一のビードは、終端から5.0mmまでの部位であり、第一のクレータが形成された第一の終端部と、前記第一の終端部以外の部位である第一の主部とからなり、前記第二のビードは、終端から5.0mmまでの部位であり、第二のクレータが形成された第二の終端部と、前記第二の終端部以外の部位である第二の主部とからなり、前記第一のビードは、前記第一のクレータの最凹部が前記第一のビードの前記第一の主部の中心軸の延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有し、前記第二のビードは、前記第二のクレータの最凹部が前記第二のビードの前記第二の主部の中心軸の延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有し、前記第一のクレータの前記最凹部及び前記第二のクレータの前記最凹部の間隔が5.0mm以下であり、前記第一の終端部の一部又は全部及び前記第二の終端部の一部又は全部が、幅方向に隣り合って並べられている。
(2)上記(1)に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記第一の終端部の中心軸、及び前記第二の終端部の中心軸の一部又は全部が、互いに平行であってもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記第一のクレータの前記最凹部を中心とした半径5mmの円内に含まれる、前記第二のビードの面積が10.0mm2以上であり、前記第二のクレータの前記最凹部を中心とした半径5mmの円内に含まれる、前記第一のビードの面積が10.0mm2以上であってもよい。
【0014】
(4)本発明の第二実施形態に係る重ねレーザ溶接継手は、重ね合わせられた複数の金属板と、複数の前記金属板を接合する、線状に延在するレーザ溶接部である第一のビードと、を備える重ねレーザ溶接継手であって、複数の前記金属板の隙間の厚さの合計値Gと、複数の前記金属板の厚さの合計値Tとの比率G/Tが0~17%であり、前記重ねレーザ溶接継手が、線状に延在するレーザ溶接部である第二のビードをさらに備え、前記重ねレーザ溶接継手の厚さ方向に沿った平面視において、前記重ねレーザ溶接継手の少なくとも一方の面では、前記第一のビードは、終端から5.0mmまでの部位である第一の終端部と、前記第一の終端部以外の部位である第一の主部とからなり、前記第二のビードは、終端から5.0mmまでの部位である第二の終端部と、前記第二の終端部以外の部位である第二の主部とからなり、前記第一の終端部及び前記第二の終端部は連結しており、前記第一の終端部及び前記第二の終端部のいずれかに、1つのクレータが形成されており、前記第一のビードは、前記クレータの最凹部が前記第一のビードの前記第一の主部の中心軸の延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有し、前記第二のビードは、前記クレータの最凹部が前記第二のビードの前記第二の主部の中心軸の延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有する。
(5)上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記第二のビードが複数の前記金属板を接合してもよい。
(6)上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記第一の主部の中心及び前記第二の主部の中心を結ぶ直線に垂直であり且つ前記第一の主部の前記中心を通る仮想線と、前記第一の主部の前記中心及び前記第二の主部の前記中心を結ぶ前記直線に垂直であり且つ前記第二の主部の前記中心を通る仮想線との間の領域に、全ての前記クレータの前記最凹部が位置してもよい。
(7)上記(1)~(6)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記第一の終端部の一部又は全部が、前記第一の主部の最も長い直線部と並行であり、前記第二の終端部の一部又は全部が、前記第二の主部の最も長い直線部と並行であってもよい。
(8)上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記第一のビードが、前記重ねレーザ溶接継手の片面のみに存在してもよい。
(9)上記(1)~(8)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記第一のビードの幅W1及び前記第二のビードの幅W2のうち大きい方をWmaxと定義したとき、間隔が2×Wmaxである平行な二本の仮想線に挟まれた領域に、前記第一のビード及び前記第二のビードの全てが含まれてもよい。
(10)上記(1)~(9)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手では、複数の前記金属板が、複数の鋼板であり、複数の前記鋼板のうち1枚以上の化学組成が、C:0.05~0.5mass%、Si:0.1~3.5mass%、Mn:0.1~5.5mass%、及びP及びS:合計0.03mass%以下を含有してもよい。
(11)上記(1)~(10)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手では、複数の前記金属板が、複数の鋼板であり、複数の前記鋼板のうち1枚以上の引張強さが980MPa以上であってもよい。
(12)上記(1)~(11)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手は、重ね隅肉継手であってもよい。
【0015】
(13)本発明の第三実施形態に係る自動車車体用構造部材は、上記(1)~(12)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手を備える。
【0016】
(14)本発明の第四実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の製造方法は、複数の金属板を重ね合わせる工程と、複数の前記金属板を接合する線状に延在するレーザ溶接部である第一のビードを形成するように、重ねられた複数の前記金属板に第一のレーザ溶接をする工程と、を備える重ねレーザ溶接継手の製造方法であって、前記重ね合わせにおいて、複数の前記金属板の隙間の厚さの合計値Gと、複数の前記金属板の厚さの合計値Tとの比率G/Tを0~17%とし、前記重ねレーザ溶接継手の製造方法が、線状に延在するレーザ溶接部である第二のビードを形成するように、前記重ねレーザ溶接継手の少なくとも一方の表面の前記金属板に第二のレーザ溶接をする工程をさらに備え、前記重ねレーザ溶接継手の厚さ方向に沿った平面視において、レーザ照射面では、前記第一のビードを、終端から5.0mmまでの部位であり、第一のクレータが形成された第一の終端部と、前記第一の終端部以外の部位である第一の主部とからなるものとし、前記第二のビードを、終端から5.0mmまでの部位であり、第二のクレータが形成された第二の終端部と、前記第二の終端部以外の部位である第二の主部とからなるものとし、前記第一のビードを、前記第一のクレータの最凹部が前記第一のビードの前記第一の主部の中心軸の延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有するものとし、前記第二のビードを、前記第二のクレータの最凹部が前記第二のビードの前記第二の主部の中心軸の延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有するものとし、前記第一のクレータの前記最凹部及び前記第二のクレータの前記最凹部の間隔を5.0mm以下とし、前記第一の終端部の一部又は全部及び前記第二の終端部の一部又は全部を、幅方向に隣り合うように並べる。
【0017】
(15)本発明の第五実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の製造方法は、複数の金属板を重ね合わせる工程と、複数の前記金属板を接合する線状に延在するレーザ溶接部である第一のビードを形成するように、重ねられた複数の前記金属板に第一のレーザ溶接をする工程と、を備える重ねレーザ溶接継手の製造方法であって、前記重ね合わせにおいて、複数の前記金属板の隙間の厚さの合計値Gと、複数の前記金属板の厚さの合計値Tとの比率G/Tを0~17%とし、前記重ねレーザ溶接継手の製造方法が、線状に延在するレーザ溶接部である第二のビードを形成するように、前記重ねレーザ溶接継手の少なくとも一方の表面の前記金属板に第二のレーザ溶接をする工程をさらに備え、前記重ねレーザ溶接継手の厚さ方向に沿った平面視において、レーザ照射面では、前記第一のビードを、終端から5.0mmまでの部位である第一の終端部と、前記第一の終端部以外の部位である第一の主部とからなるものとし、前記第二のビードを、終端から5.0mmまでの部位である第二の終端部と、前記第二の終端部以外の部位である第二の主部とからなるものとし、前記第一の終端部及び前記第二の終端部を連結させ、前記第一の終端部及び前記第二の終端部のいずれかに、1つのクレータを形成し、前記第一のビードを、前記クレータの最凹部が前記第一のビードの前記第一の主部の中心軸の延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有するものとし、前記第二のビードを、前記クレータの最凹部が前記第二のビードの前記第二の主部の中心軸の延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有するものとする。
(16)上記(14)又は(15)に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法では、前記第一のレーザ溶接の後で、前記第二のレーザ溶接をしてもよい。
(17)上記(14)又は(15)に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法では、前記第二のレーザ溶接の後で、前記第一のレーザ溶接をしてもよい。
(18)上記(14)~(17)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法では、前記重ねレーザ溶接継手が重ね隅肉継手であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、溶接割れの発生を防止可能な重ねレーザ溶接継手、自動車車体用構造部材、及び重ねレーザ溶接継手の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の一例の平面図である。
【
図2】第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の一例の平面図である。
【
図3】第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の一例の平面図である。
【
図4A】両面に第一のビードが形成される重ねレーザ溶接継手における、第一のビードの第一の主部の中心軸に垂直な断面図である。
【
図4B】第一のビードの中心軸に垂直な断面拡大図である。
【
図4C】片面のみに第一のビードが形成される重ねレーザ溶接継手における、第一のビードの第一の主部の中心軸に垂直な断面図である。
【
図5】第二実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の一例の平面図である。
【
図6】仮想線VL2と仮想線VL3との間の領域に、第一のクレータの最凹部及び第二のクレータの最凹部が位置する重ねレーザ溶接継手の平面図である。
【
図7】比較例の重ねレーザ溶接継手の平面図である。
【
図8A】単独で設けられたビードに生じる応力のFEM解析結果である。
【
図8B】単独で設けられたビードに生じる応力及び溶接割れの模式図である。
【
図8C】終端部が幅方向に隣り合って設けられた2つのビードに生じる応力の模式図である。
【
図9】本発明の変形例である重ね隅肉継手の平面図である。
【
図10】本発明の変形例である重ね隅肉継手の平面図である。
【
図11】比較例の重ねレーザ溶接継手の平面図である。
【
図12】例No.5の重ねレーザ溶接継手の写真である。
【
図13】例No.7の重ねレーザ溶接継手の写真である。
【
図14A】例No.17の重ねレーザ溶接継手の写真である。
【
図14B】例No.17の重ねレーザ溶接継手の平面概略図である。
【
図15】No.24の実施例の重ね隅肉継手の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1>
本発明の第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1は、
図1~
図3に示されるように、重ね合わせられた複数の金属板10と、複数の金属板10を接合する、線状に延在するレーザ溶接部である第一のビード11と、を備える。ここで、複数の金属板10の隙間の厚さの合計値Gと、複数の金属板10の厚さの合計値Tとの比率G/Tが0~17%である。また、重ねレーザ溶接継手1が、線状に延在するレーザ溶接部である第二のビード12をさらに備える。重ねレーザ溶接継手1の厚さ方向に沿った平面視において、重ねレーザ溶接継手1の少なくとも一方の面では、第一のビード11は、終端から5.0mmまでの部位であり、第一のクレータ113が形成された第一の終端部111と、第一の終端部111以外の部位である第一の主部112とからなり、第二のビード12は、終端から5.0mmまでの部位であり、第二のクレータ123が形成された第二の終端部121と、第二の終端部121以外の部位である第二の主部122とからなり、第一のビード11は、第一のクレータの最凹部が第一のビード11の第一の主部112の中心軸の延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有し、第二のビード12は、第二のクレータの最凹部が第二のビード12の第二の主部122の中心軸の延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有し、第一のクレータの最凹部及び第二のクレータの最凹部の間隔が5.0mm以下であり、第一の終端部111の一部又は全部及び第二の終端部121の一部又は全部が、幅方向に隣り合って並べられている。以下、第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1について詳細に説明する。
【0021】
(金属板10)
複数の金属板10は、重ねレーザ溶接継手1の母材である。金属板10の種類、厚さ、及び表面処理の有無は、レーザ溶接に適したものである限り、特に限定されない。金属板10の枚数も特に限定されず、2枚以上の任意の枚数とすることができる。
【0022】
複数の金属板10の好適な一例は、複数の鋼板、及び複数のAl板等である。また、鋼板とAl板を組み合わせて、複数の金属板10としてもよい。金属板10を鋼板とする場合、この鋼板の化学組成は特に限定されず、重ねレーザ溶接継手1の用途に応じた好適な化学組成を適用することができる。例えば、複数の鋼板のうち1枚以上の化学組成が、C:0.05~0.5mass%、Si:0.1~3.5mass%、Mn:0.1~5.5mass%、及びP及びS:合計0.03mass%以下を含有してもよい。この場合、鋼板の化学成分の残部はFeおよび不純物を含んでもよい。このような化学組成を有する鋼板は、高い強度を有するので、重ねレーザ溶接継手1に優れた強度を付与することができる。なお、このような化学組成を有する鋼板に、通常の重ねレーザ溶接を実施すると、ビードの終端部において溶接割れが生じやすい。しかし第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1においては、後述するようにビード形状及びビード終端部の位置関係を特定のものとすることによって、溶接割れが抑制されている。
【0023】
また、重ねレーザ溶接継手1の強度を高める観点からは、金属板10の強度は高いほど好ましい。例えば、複数の金属板10が複数の鋼板である場合、これら鋼板のうち1枚以上の引張強さが980MPa以上、1000MPa以上、又は1100MPa以上であってもよい。鋼板の引張強さが高いほど、溶接後にビードの終端部に係る引張応力が大きくなるが、第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1においては、後述するようにビード形状及びビード終端部の位置関係を特定のものとすることによって、溶接割れが抑制されている。
【0024】
また、引張強さが980MPa以上の鋼板、即ち高強度鋼板は、重ねレーザ溶接継手1の最表面に配置されても良く、内側に配置されても良い。一般に、高強度鋼板はC含有量が大きく、溶接される鋼板を重ね合わせた板組のどこかに高強度鋼板が含まれていれば、溶接部のC含有量は高くなるので、溶接部の溶接割れは起こりやすくなる。しかしながら、第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1においては、後述するようにビード形状及びビード終端部の位置関係を特定のものとすることによって、高強度鋼板が含まれる板組においても溶接割れ防止効果を効果的に発現させることができる。なお、複数の金属板10が複数の鋼板であり、且つ、これらのうち1枚以上が高強度鋼板である場合、後述する第一のビード11および第二のビード12の両方が高強度鋼板まで溶け込んでいることが好ましい。また、高強度鋼板において、後述する第一のビード11と第二のビード12との位置関係が満たされることが一層好ましい。一方、高強度鋼板と組み合わせられる引張強さ980MPa未満の鋼板のみにビードが形成されていたとしても、後述する第一のビード11及び第二のビード12の位置関係が重ねレーザ溶接継手1の少なくとも片面において満たされている限り、ビード終端部における引張応力を緩和して、高強度鋼板における溶接割れを抑制する効果は十分に得られる。
【0025】
金属板10は、めっきされていても、非めっきでもよい。めっきの例として、GIめっき、GAめっき、EGめっき、Zn-Niめっき、Zn-Alめっき、Zn-Mgめっき、及びZn-Mg-Alめっき等が挙げられる。金属板10が亜鉛系ホットスタンプ鋼板の場合、Fe-Zn又はFe-Zn-Niの固溶相の表層に、亜鉛酸化物が含まれていても良い。金属板10がアルミ系ホットスタンプ鋼板の場合、Al-Fe-Si系の複数の金属間化合物層が形成されていても良く、さらに、金属間化合物層の上にZnOや黒色被膜が形成されていても良い。金属板10が非めっきホットスタンプ鋼板の場合は、ホットスタンプ工程において発生するスケールを除去するために、これにショットブラストしたものを使用しても良い。
【0026】
(複数の金属板10の隙間G)
レーザ溶接においては、レーザの進行方向と反対の方向に、溶接金属の流れが生じる。そのため、レーザ溶接によって形成されるビードの終端部には、一般に、クレータと称される凹みが形成される。クレータは溶接割れの原因となるので、小さいほど好ましい。ここで、複数の金属板10の間の隙間を小さくすることによって、クレータを小さくすることができる。以上の理由により、複数の金属板10の間の隙間の厚さの合計値Gと、複数の金属板10の厚さの合計値Tとの比率G/Tは、0~17%の範囲内とされる。Gは、金属板10の枚数が2枚である場合は、2枚の金属板10の隙間の大きさであり、金属板10の枚数が3枚以上である場合は、金属板10同士の隙間の厚さの合計値である。例えば
図4Aに例示される重ねレーザ溶接継手1の断面図においては、Gは、隙間g1と隙間g2とを足した値であり、Tは、板厚t1、t2、及びt3の合計値である。G/Tは小さい程好ましく、15%以下、12%以下、10%以下、または8%以下であってもよい。
【0027】
金属板10の間の隙間の大きさは、第一のビード11の断面において測定する。断面は、第一のビード11の終端から5.0mmを通る、つまりは、第一のビード11の終端部111と主部112の境界を通るものとする。また、断面は、前記位置における第一の主部112の幅方向に垂直な中心軸112Xに対して垂直にする。この断面において、複数の金属板10の間の隙間の厚さの合計値Gと、複数の金属板10の厚さの合計値Tとを測定する。また、
図4Bに示されるように、隙間の大きさは、断面における第一のビード11の第一の主部112の両端において測定する。第一の主部112の左側における隙間の大きさglと、右側における隙間の大きさgrとの平均値を、金属板10同士の隙間の大きさとみなす。
【0028】
(レーザ溶接部)
第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1においては、複数の金属板10に、当該複数の金属板10を接合する第一のビード11と、当該第一のビード11の終端に近接して設けられた第二のビード12とを有する。なお「ビード」とは一般的に、溶接によって盛り上がった部分を意味するが、第一実施形態では、ビードの盛り上がり部を研磨などにより除去することによって形成されたビード痕についても「ビード」とみなす。ビード11、12が平坦化されていても、第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1の効果は損なわれない。複数の金属板10同士の間隔、並びにビード11、12の形状及び位置関係を最適化することによって、ビード11、12の終端部111、121における溶接割れを防止することができる。以下、ビード11、12の形状及び位置関係について説明する。
【0029】
なお、ビード11、12の形状は、重ねレーザ溶接継手1の表面と裏面とで必ずしも一致しない。以下に説明されるビード11、12の形状及び位置関係が、重ねレーザ溶接継手1の少なくとも片方の面において満たされていれば、溶接割れを抑制する効果が得られる。従って、以下に説明されるビード11、12の形状及び位置関係が、少なくとも片方の面において後述の範囲内とされる継手は、第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1とみなされる。以下に説明されるビード11、12の形状及び位置関係が、重ねレーザ溶接継手1の両面において満たされていてもよい。また、特に断りが無い限り、以下に説明するビード11、12の形状及び位置関係は、重ねレーザ溶接継手1の厚さ方向に沿って重ねレーザ溶接継手1を平面視したときのものである。
【0030】
第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1においては、一対以上のビード11、12が設けられている。一対のビード11、12においては、これらの終端部111、121が、所定条件を満たした状態で隣接されている。以下、便宜上、一対のビード11、12を第一のビード11および第二のビード12と称する。第一のビード11及び第二のビード12の相違は、前者は複数の金属板10を必ず接合するものである一方、後者は複数の金属板10を接合しない場合がある点である。しかし、それ以外の点において両者は等価物である。一対のビード11、12が、いずれも複数の金属板10を接合する場合は、いずれを第一のビード11とみなしてもよい。以下、第一のビード11についての説明は、特に断りが無い限り、第二のビード12にも適用される。
【0031】
(第一のビード11)
第一のビード11は、複数の金属板10を接合する、線状に延在するレーザ溶接部である。第一のビード11の形状については、線状であれば、特に限定されない。第一のビード11は、直線や曲線でもよく、また、折れ曲がっていてもよい。例えば、第一のビード11は、C字状やL字状でもよい。
【0032】
第一のビード11のうち、その終端から5.0mmまでの部位を、第一の終端部111と称する。第一の終端部111にはクレータが形成されている。第一の終端部111に形成されたクレータを、第一のクレータ113と称する。第一の終端部111は、凝固時に大きな引張応力が加わり、溶接割れが生じやすい部位である。また、第一のビード11のうち、第一の終端部111以外の部位を、第一の主部112と称する。
【0033】
第一のビード11は、複数の金属板10を接合するものであるので、第一のビード11を断面視すると、通常は、
図4Aに例示されるように全ての金属板10に跨るように板厚方向に延在している。ただし、第一のビード11が全ての金属板10を貫通している必要はない。
図4Cに例示されるように、第一のビード11が重ねレーザ溶接継手1の片面にのみ形成されていてもよい。また、第一のビード11が、複数の金属板10のうち一部のみを接合することも許容される。例えば、複数の金属板10のうち一部のみを接合するビードを、重ねレーザ溶接継手1の両面に設けることにより、複数の金属板10の全てを接合することができるからである。
【0034】
なお、被溶接材である金属板10の面積が大きい場合は、重ねレーザ溶接継手1に複数の第一のビード11を設けてもよい。この場合、複数の第一のビード11の第一の終端部111それぞれの近傍に、後述する第二のビード12の第二の終端部121を配置すればよい。ただし、重ねレーザ溶接継手1に含まれる全ての第一のビード11の第一の終端部111の近傍に、第二のビード12の第二の終端部121を配置する必要はない。溶接割れが特に懸念される箇所においてのみ、第二のビード12の第二の終端部121を配置してもよい。
【0035】
(第二のビード12)
第二のビード12もまた、線状に延在するレーザ溶接部である。第一のビード11が複数の金属板10の接合を担うので、第二のビード12は複数の金属板10を接合しなくてもよい。一方、第二のビード12が複数の金属板10を接合することにより、重ねレーザ溶接継手1の接合強度が一層向上する。
【0036】
この点を除き、第二のビード12は第一のビード11と同じ構成を有する。即ち、第二のビード12のうち、その終端から5.0mmまでの部位を、第二の終端部121と称する。第二の終端部121に形成されたクレータを、第二のクレータ123と称する。また、第二のビード12のうち、第二の終端部121以外の部位を、第二の主部122と称する。その他、第一のビード11に関して上述した事項を、第二のビード12にも適用することができる。
【0037】
第一のビード11及び第二のビード12から構成される一対のビード11、12は、以下に挙げる形状を有する。
(A)一対のビード11、12の両方が、それぞれに設けられたクレータの最凹部がそれぞれの主部の中心軸の延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有する。
(B)2つのクレータ113、123の最凹部の間隔が5.0mm以下である。
(C)一対のビード11、12それぞれの終端部111、121の一部又は全部が、幅方向に隣り合って並べられている。
一対のビード11、12が、これらの3つの要件全てを満たす形状とされることにより、第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1では溶接割れが極めて効果的に抑制される。
【0038】
(A)ビードの屈曲形状
第一のビード11及び第二のビード12それぞれは、屈曲形状を有し、その結果、第一のクレータ113の最凹部は第一の主部112の中心軸112Xの延長線から0.5mm以上離隔され、第二のクレータ123の最凹部は第二の主部122の中心軸122Xの延長線から0.5mm以上離隔されている。本発明者らの実験結果によれば、例えば、
図7に示されるような、屈曲形状を有しない一対のビード11、12においては、溶接割れの発生を十分に抑制することができなかった。一方、
図1~
図3に示されるようにビード11、12を曲げることによって、溶接割れの発生を抑制できた。その理由は明らかではないが、主部112、122の凝固によって生じる引張応力が終端部111、121に及ぼす影響を、屈曲形状が緩和していると推定される。また、屈曲形状を利用して、一対のビード11、12を形成するために必要な面積が小さくなる効果も得られる場合がある。これにより、一対のビード11、12が形成されるフランジ部の幅を狭めて、機械構造部品の重量を削減すること等の、様々な利益が得られる。
【0039】
ここで、一対のビード11、12それぞれにおいて、クレータの最凹部が、主部の中心軸の延長線から0.5mm以上離隔されている必要がある。即ち、第一のビード11は、第一のクレータ113の最凹部が第一のビード11の第一の主部の中心軸112Xの延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有し、第二のビード12は、第二のクレータ123の最凹部が第二のビード12の第二の主部122の中心軸122Xの延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有する必要がある。クレータ113、123の最凹部と、主部112、122の中心軸の延長線との距離が0.5mm未満である場合は、溶接割れの発生を抑制させる効果が得られない。クレータ113、123の最凹部と、主部112、122の中心軸の延長線との距離が0.8mm以上、1.0mm以上、又は2.0mm以上であってもよい。
【0040】
なお、「クレータの最凹部」とは、クレータ113、123が配された面を基準として、クレータの最も深い点のことである。通常、クレータ113、123は肉眼では小さな点形状として認められるので、クレータ全体をクレータ最凹部とみなしてもよい場合がある。一方、必要な場合は、三次元形状測定をすること等により、クレータ113、123の最凹部を厳密に求めてもよい。
【0041】
また、「ビードの主部の中心軸」とは、主部の長手方向に沿った、主部の中心軸のことである。「ビードの主部の中心軸の延長線」とは、主部が直線形状である場合は、中心軸を単に延長した直線を意味する。一方、主部が直線形状ではない場合は、「ビードの主部の中心軸の延長線」とは、主部と終端部との境界において、ビードの主部の中心軸に接する直線を意味する。
【0042】
(B)2つのクレータ113、123の最凹部の間隔
(C)2つの終端部111、121の位置関係
クレータ113、123の最凹部同士の距離は、5.0mm以下とされている。換言すると、
図1~
図3に示されるように、第一のクレータ113の最凹部を中心とした半径5.0mmの円C1内に第二のクレータ123の最凹部が配置され、第二のクレータ123の最凹部を中心とした半径5.0mmの円C2内に第一のクレータ113の最凹部が配置される。これにより、クレータ113、123が形成されている終端部111、121は、非常に近い範囲内に設けられている。加えて、一対のビード11、12それぞれの終端部111、121の一部又は全部は、幅方向に隣り合って並べられている。これにより、一対のビード11、12それぞれの終端部111、121の凝固の際に生じる引張応力を、相殺することができる。この点について、
図8A~
図8Cを挙げて説明する。
【0043】
図8Aは、第二のビード12が無い場合に、第一のビード11の先端に加わる応力のFEM解析結果である。
図8Bは、第二のビード12が無い場合に、第一のビード11に加わる引張応力、圧縮応力、及び溶接割れの概念図である。第一のビード11の第一の終端部111には、第一のクレータ113が形成される。また、レーザ溶接によって加熱された母材部が収縮することにより、第一の終端部111の側縁に、引張応力が加わる。加えて、本発明者らがFEM解析を行った結果、
図8A及び
図8Bに示されるように、第一の終端部111の先端には、圧縮応力が加わることも判明した。
図8Bに記載された、第一のビード11から離れる方向を指す矢印は、第一の終端部111に加わる引張応力を図示したものである。また、
図8Bに記載された、第一のビード11に近づく方向を指す矢印は、第一の終端部111の先端に加わる圧縮応力を図示したものである。この引張応力によって、第一の終端部111が引き裂かれると、溶接割れCが生じる。溶接割れCは、第一のビード11の延在方向に沿って生じ、第一のビード11を伝播して成長する。なお、ビードの終端部の周囲に他のビードが設けられていない場合、終端部の先端に加わる圧縮応力は、終端部の割れの挙動に特段の影響を及ぼさないと現時点では考えられている。
【0044】
一方、
図8Cは、第一のビード11の第一の終端部111に隣り合うように第二のビード12の第二の終端部121を形成した場合の、引張応力及び圧縮応力の概念図である。第一の終端部111の一部又は全部及び第二の終端部121の一部又は全部が、幅方向に隣り合って並べられている場合、第一の終端部111において溶接割れCが生じにくくなる。これは、第二の終端部121の側方に生じる引張応力によって、第一の終端部111の側縁に加わる引張応力が緩和されるからであると推定される。第二の終端部121においても、同じ理由で、溶接割れCが生じにくくなる。
【0045】
ただし、2つのクレータ113、123同士の距離が離れすぎている場合は、引張応力が相殺されず、溶接割れの発生を十分に抑制させることができない。また、2つのクレータ113、123同士の距離が小さかったとしても、
図7に示されるように、2つの終端部111、121が長手方向に隣り合って並べられており、先端が突き合せられている場合には、引張応力は相殺されない。また、一方の終端部の側方に、他方の終端部の先端が位置する場合にも、引張応力は相殺されない。終端部の先端には圧縮応力が発生しており、これは、近接する終端部の側縁に加わる引張応力を相殺する効果を有しないからである。一方の終端部の側部の引張応力発生領域と、他方の終端部の引張応力発生領域とが重なるように、一対のビード11、12の位置関係が定められる必要がある。以上の理由により、第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1において、(B)第一のクレータの最凹部及び第二のクレータの最凹部の間隔が5.0mm以下であり、且つ(C)第一の終端部111の一部又は全部及び第二の終端部121の一部又は全部が、幅方向に隣り合って並べられている。
【0046】
なお、第一の終端部111の一部又は全部及び第二の終端部121の一部又は全部は、幅方向に隣り合って並べられている限り、離隔されていてもよいし、接していてもよい。第一の終端部111及び第二の終端部121が離隔されている場合、第一の終端部111の側縁及び第二の終端部121の側縁の一部または全部が対向していればよい。第一の終端部111および第二の終端部121が接している場合、第一の終端部111の側部及び第二の終端部121の側部の一部または全部が重なっていればよい。2つのクレータ113、123同士の間隔が5.0mm以下となるように、2つの終端部111、121同士は極めて近づけられているので、例えば一方の終端部の側縁の約50%程度の範囲が、他方の終端部の側縁に対向していたり、一方の終端部の側部の約50%程度の範囲が、他方の終端部の側部と重なっていたりすれば足りる。また、第一の終端部111の中心軸及び第二の終端部121の中心軸が平行である必要もなく、互いに若干の角度をなしていてもよい。なお、第一の終端部111及び第二の終端部121を一層近づけることにより、第一のクレータ113又は第二のクレータ123を消滅させることもできる。このような重ねレーザ溶接継手は、次に説明する第二実施形態に係る重ねレーザ溶接継手2に該当する。
【0047】
<第二実施形態に係る重ねレーザ溶接継手2>
次に、第二実施形態に係る重ねレーザ溶接継手2について説明する。
図5に示されるように、第二実施形態に係る重ねレーザ溶接継手2は、重ね合わせられた複数の金属板20と、複数の金属板20を接合する、線状に延在するレーザ溶接部である第一のビード21と、を備え、複数の金属板20の隙間の厚さの合計値Gと、複数の金属板20の厚さの合計値Tとの比率G/Tが0~17%であり、重ねレーザ溶接継手2が、線状に延在するレーザ溶接部である第二のビード22をさらに備え、重ねレーザ溶接継手2の厚さ方向に沿った平面視において、重ねレーザ溶接継手2の少なくとも一方の面では、第一のビード21は、終端から5.0mmまでの部位である第一の終端部211と、第一の終端部211以外の部位である第一の主部212とからなり、第二のビード22は、終端から5.0mmまでの部位である第二の終端部221と、第二の終端部221以外の部位である第二の主部222とからなり、第一の終端部211及び第二の終端部221は連結しており、第一の終端部211及び第二の終端部221のいずれかに1つのクレータ231が形成されており、第一のビード21は、クレータ231の最凹部が第一のビード21の第一の主部212の中心軸212Xの延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有し、第二のビード22は、クレータ231の最凹部が第二のビード22の第二の主部222の中心軸222Xの延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有する。ここで、第一のビード21の終端又は第二のビード22の終端が、もう一方のビードによって上書きされて確認できない場合は、終端が確認できないビードの中心軸と、第一のビード21と第二のビード22の外縁が交差する点のうち最も始端側の点を、終端が確認できないビードの終端とみなす。
【0048】
第二実施形態にかかる重ねレーザ溶接継手2は、G/Tが0~17%の範囲内とされる点、主部及び終端部からなる第一のビード21及び第二のビード22を有し、これらの終端部211、221が近づけられた形状を有する点、及び第一のビード21及び第二のビード22それぞれが屈曲形状を有する点で、第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1と同じである。以下、第一実施形態と同様の構成については説明を省略する。
【0049】
一方、第二実施形態にかかる重ねレーザ溶接継手2は、2つの終端部211、221同士が第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1よりも近づけられて、第一の終端部211及び第二の終端部221は連結しており、その結果、第一のクレータ113又は第二のクレータ123が消滅している点で、第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1とは異なる。また、2つの終端部211、221が必ずしも幅方向に隣り合っていない点で、第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1とは異なる。以下、第二実施形態に係る重ねレーザ溶接継手2に特有の構成について説明する。
【0050】
第二実施形態に係る重ねレーザ溶接継手2においては、第一の終端部211及び第二の終端部221が連結し、第一の終端部211及び第二の終端部221のいずれか一方にのみ1つのクレータ231が形成されている。クレータ231の個数が1つであれば、クレータ231は第一の終端部211及び第二の終端部221のいずれに設けられていてもよい。上述の通り、第一のビード21及び第二のビード22は実質的に等価物だからである。
【0051】
1回目のレーザ溶接の完了後に、1つめのビードの終端部に重ねて2つめのビードの終端部を形成するように2回目のレーザ溶接をすることにより、第一の終端部211及び第二の終端部221が連結し、第一の終端部211及び第二の終端部221のいずれか一方にのみ1つのクレータ231が形成する。2つめのビードの終端部を形成する際に、1つめのビードの凝固が完了し、クレータが生じていたとしても、2つめのビードの終端部の溶融凝固によって1つ目のクレータは消滅する。2つめのビードの終端部を形成する際に、1つめのビードの凝固が完了していなければ、2つめのビードの終端部が、一対のビードにおける最終凝固部となり、1つのクレータが形成される。いずれの場合でも、第一の終端部211及び第二の終端部221のいずれか一方にのみ1つのクレータ231が形成される。
【0052】
ビードの始端部にはクレータが形成されない。従って、第二実施形態に係る重ねレーザ溶接継手2においては、一対のビード21、22全体においてクレータの数が1つのみに抑えられている。さらに、重ねレーザ溶接継手2においては、後述のように、第一のビード21は、クレータ231の最凹部が第一のビード21の第一の主部の中心軸212Xの延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有し、第二のビード22は、クレータ231の最凹部が第二のビード22の第二の主部222の中心軸222Xの延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有する。クレータ231近傍に屈曲部が形成されることにより、一対のビード21、22それぞれの終端部211、221の凝固の際に生じる引張応力を、相殺することができ、溶接割れを抑制することが可能である。また、本発明者らの実験結果によれば、第二実施形態に係る重ねレーザ溶接継手2においては、2つの終端部211、221を幅方向に隣り合って並べることは必須ではない。例えば
図5に示されるような形状のビード21、22においても、溶接割れの発生を十分に抑制することができた。
【0053】
なお、第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1においては、第一のビード11の屈曲の度合いは、第一のクレータ113を基準に規定され、第二のビード12の屈曲の度合いは、第二のクレータ123を基準に規定されると上述した。第二実施形態に係る重ねレーザ溶接継手2においては、第一のビード21、及び第二のビード22の両方の屈曲の度合いを、1つのクレータ231を基準に規定する。即ち、第二実施形態に係る重ねレーザ溶接継手2においては、第一のビード21は、クレータ231の最凹部が第一のビード21の第一の主部の中心軸212Xの延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有し、第二のビード22は、クレータ231の最凹部が第二のビード22の第二の主部222の中心軸222Xの延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有する。2つの終端部211、221を重ねるように溶接をした場合、第一のクレータ及び第二のクレータは同一位置に生じているとみなすことができるからである。
【0054】
上述の要件を満たす限り、第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1、及び第二実施形態に係る重ねレーザ溶接継手2は、様々な形態をとることができる。以下、重ねレーザ溶接継手1、2の一層好ましい態様について説明する。説明のために用いられる図面や符号は、便宜上、第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1に関するものとしている。しかしながら、特段の断りが無い限り、以下に説明される態様は第一実施形態、及び第二実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1、2の両方に適用可能である。
【0055】
第一実施形態及び第二実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1では、
図6に示されるように、第一の主部112の中心及び第二の主部122の中心を結ぶ直線VL1に垂直であり且つ第一の主部112の中心を通る仮想線VL2と、第一の主部112の中心及び第二の主部122の中心を結ぶ直線VL1に垂直であり且つ第二の主部122の中心を通る仮想線VL3との間の領域に、全てのクレータ113、123の最凹部が位置してもよい。ここで、「主部の中心」とは、主部の先端から、主部の中心軸に沿って測定される主部の長さの1/2の距離にある、主部の中心軸上の点のことである。これにより、第一のビード11及び第二のビード12をあわせた溶接線の長さを長くして、重ねレーザ溶接継手1の接合強度の向上、及び2つの終端部の割れ防止を一層効率よく行うことができる。
【0056】
上述のように、重ねレーザ溶接継手1では、第一の終端部111の中心軸と第二の終端部121の中心軸とが若干の角度をなしていてもよい。一方、第一の終端部111及び第二の終端部121の一部又は全部が、互いに平行であることが好ましい。これにより、一対のビード11、12を狭い領域内に収納することが可能となる。例えば機械構造部品のフランジ部に一対のビード11、12を設ける場合、第一の終端部111及び第二の終端部121の一部又は全部を互いに平行にすることにより、フランジ幅を狭めることができて好ましい。
【0057】
第一の終端部111の一部又は全部が、第一の主部112の最も長い直線部と並行であり、第二の終端部121の一部又は全部が、第二の主部122の最も長い直線部と並行であってもよい。これにより、一対のビード11、12を狭い領域内に収納することが可能となる。
【0058】
第一のビード11が、重ねレーザ溶接継手1の片面のみに存在してもよい。即ち、第一のビード11は、重ねレーザ溶接継手1に含まれる複数の金属板10全てを貫通するものでなくてもよい。重ねレーザ溶接継手1のもう一方の面や複数の金属板の隙間に溶融金属が流れ出さず、クレータの大きさを小さくすることができ、クレータの影響を一層緩和することもできる。一方、第一のビード11が重ねレーザ溶接継手1の両面に存在してもよい。第二のビード12もまた、重ねレーザ溶接継手1の片面のみに存在しても、両面に存在してもよい。
【0059】
重ねレーザ溶接継手1においては、第一のビード11及び第二のビード12が上述のように配置された面を平面視したときに、第一のクレータ113の最凹部を中心とした半径5.0mmの円C1内に含まれる、第二のビード12の面積が10.0mm2以上であり、第二のクレータ123の最凹部を中心とした半径5.0mmの円C2内に含まれる、第一のビード11の面積が10.0mm2以上であってもよい。好ましくは、それぞれ12.0mm2以上である。換言すると、一方のビードのクレータから5.0mm以内の領域に、他方のビードをなるべく多く配置することが好ましい。これにより、一方のビードが他方のビードに及ぼす引張応力緩和効果を、一層高めることができる。
【0060】
ビードの中心軸に垂直な方向に沿って測定されるビードの幅の最大値をビードの幅と定義し、第一のビード11の幅W1及び第二のビード12の幅W2のうち大きい方をWmaxと定義したとき、間隔が2×Wmaxである平行な二本の仮想線に挟まれた領域に、第一のビード11及び第二のビード12の全てが含まれてもよい。これにより、一対のビード11、12を狭い領域内に収納することが可能となる。例えば機械構造部品のフランジ部に一対のビード11、12を設ける場合、フランジ幅を狭めることができて好ましい。
【0061】
<第三実施形態に係る自動車車体用構造部材>
次に、本発明の別の態様に係る自動車車体用構造部材について説明する。本発明の別の態様に係る自動車車体用構造部材は、第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1、及び/又は第二実施形態に係る重ねレーザ溶接継手2を含む。自動車車体用構造部材とは、例えば、Aピラー、Bピラー、ルーフレール、サイドシル、フロアクロスメンバー、バンパー、クラッシュボックス、インパネリンフォース、シートフレーム、バッテリーケースである。これら部材のフランジ部などに、重ねレーザ溶接継手1、2を適用することにより、生産性に優れ、且つ、溶接割れの発生が抑制された自動車車体用構造部材を得ることができる。
【0062】
<第四実施形態、及び第五実施形態に係るレーザ溶接継手の製造方法>
次に、本発明の第四実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1の製造方法、及び第五実施形態に係る重ねレーザ溶接継手2の製造方法について説明する。この製造方法によれば、上述した第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1、又は第二実施形態に係る重ねレーザ溶接継手2を好適に製造することができる。ただし、以下に説明する製造方法以外の方法で得られた重ねレーザ溶接継手であっても、上述の要件を満たすのであれば、第一、又は第二実施形態に係る重ねレーザ溶接継手とみなされる。
【0063】
第四実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1の製造方法、及び第五実施形態に係る重ねレーザ溶接継手2の製造方法のいずれも、
(S1)複数の金属板を重ね合わせる工程と、
(S2)複数の金属板を接合する、線状に延在するレーザ溶接部である第一のビード11、21を形成するように、第一のレーザ溶接をする工程と、
を備え、さらに、
(S3)線状に延在するレーザ溶接部である第二のビード12、22を形成するように、第二のレーザ溶接をする工程
を備える。ここで、重ね合わせ(S1)において、複数の金属板の隙間の厚さの合計値Gと、複数の金属板の厚さの合計値Tとの比率G/Tを0~17%とする。これらの工程について、以下に説明する。
【0064】
まず、(S1)複数の金属板を重ね合わせる。次に、(S2)複数の金属板に第一のレーザ溶接をして、複数の金属板を接合する第一のビード11、21を形成する。また、(S3)重ねレーザ溶接継手の少なくとも一方の表面の金属板に第二のレーザ溶接をして、第二のビード12、22を形成する。上述のように、第一のビード及び第二のビードはほぼ等価物であるので、第一のレーザ溶接及び第二のレーザ溶接の順番は特に限定されない。第一のレーザ溶接の後で第二のレーザ溶接をしてもよいし、第一のレーザ溶接の後で第二のレーザ溶接をしてもよい。第一のレーザ溶接を終了してから第二のレーザ溶接を開始するまでの間に停止時間を設けてもよいが、作業効率の観点から、当該停止時間を60秒以下、50秒以下、30秒以下、又は10秒以下としてもよい。
【0065】
第四実施形態に係る製造方法においては、重ねレーザ溶接継手1の厚さ方向に沿った平面視において、レーザ照射面では、第一のビード11を、終端から5.0mmまでの部位であり、第一のクレータ113が形成された第一の終端部111と、第一の終端部111以外の部位である第一の主部112とからなるものとし、第二のビード12を、終端から5.0mmまでの部位であり、第二のクレータ123が形成された第二の終端部121と、第二の終端部121以外の部位である第二の主部122とからなるものとし、第一のビード11を、第一のクレータの最凹部が第一のビード11の第一の主部の中心軸112Xの延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有するものとし、第二のビード12を、第二のクレータの最凹部が第二のビード12の第二の主部122の中心軸の延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有するものとし、第一のクレータの最凹部及び第二のクレータの最凹部の間隔を5.0mm以下とし、第一の終端部111の一部又は全部及び第二の終端部121の一部又は全部を、幅方向に隣り合うように並べる。これにより得られる一対のビード11、12の形状及び配置は、上述した第一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1と同一である。これにより、重ねレーザ溶接継手1に生じる溶接割れを効果的に抑制することができる。
【0066】
第五実施形態に係る製造方法においては、重ねレーザ溶接継手2の厚さ方向に沿った平面視において、レーザ照射面では、第一のビード21を、終端から5.0mmまでの部位である第一の終端部211と、第一の終端部211以外の部位である第一の主部212とからなるものとし、第二のビード22を、終端から5.0mmまでの部位である第二の終端部221と、第二の終端部221以外の部位である第二の主部222とからなるものとし、第一の終端部211及び第二の終端部221を、連結し、第一の終端部211及び第二の終端部221のいずれかに、1つのクレータ231を形成し、第一のビード21を、クレータ231の最凹部が第一のビード21の第一の主部の中心軸112Xの延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有するものとし、第二のビード22を、クレータ231の最凹部が第二のビード22の第二の主部222の中心軸の延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有するものとする。これにより得られる一対のビード21、12の形状及び配置は、上述した第二実施形態に係る重ねレーザ溶接継手2と同一である。これにより、重ねレーザ溶接継手2に生じる溶接割れを効果的に抑制することができる。ここで、第一のビード21の終端又第二のビード22の終端が、もう一方のビードによって上書きされて確認できない場合は、終端が確認できないビードの中心軸と、第一のビード21と第二のビード22の境界が交差する点のうち最も始端側の点を、終端が確認できないビードの終端とみなす。
【0067】
第一実施形態及び第二実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1、2に適用可能な好適な態様は、第四実施形態及び第五実施形態に係る製造方法にも適用することができる。
【0068】
ここまで、実施形態を挙げて、重ねレーザ溶接継手、自動車車体用構造部材、及び重ねレーザ溶接継手の製造方法を説明した。ただし、本発明の技術的範囲は上記実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0069】
<重ねレーザ溶接継手(重ね隅肉継手)1A>
例えば、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手は、重ね隅肉継手であってもよい。重ね隅肉継手1Aは、例えば、
図9に示すように、複数の金属板10のうちの、最表層に配された金属板10である第一の金属板10Aの端面と、第一の金属板10Aと重ね合わされた第二の金属板10Bの表面とが、少なくとも第一のビード11Aにより接合されている。
【0070】
重ね隅肉継手1Aは、少なくとも第一のビード11Aが第一の金属板10Aの端面と、第二の金属板10Bの表面と、を接合していること以外は、上述した重ねレーザ溶接継手1と基本的に同様である。したがって、重ね隅肉継手1Aは、重ね合わせられた複数の金属板10と、複数の金属板10を接合する、線状に延在するレーザ溶接部である第一のビード11Aと、を備える重ね隅肉継手であって、複数の金属板10の隙間の厚さの合計値Gと、複数の金属板10の厚さの合計値Tとの比率G/Tが0~17%であり、重ね隅肉継手1Aが、線状に延在するレーザ溶接部である第二のビード12Aをさらに備え、重ね隅肉継手1Aの厚さ方向に沿った平面視において、重ね隅肉継手1Aの少なくとも一方の面では、第一のビード11Aは、終端から5.0mmまでの部位であり、第一のクレータ113Aが形成された第一の終端部111Aと、第一の終端部111A以外の部位である第一の主部112Aとからなり、第二のビード12Aは、終端から5.0mmまでの部位であり、第二のクレータ123Aが形成された第二の終端部121Aと、第二の終端部121A以外の部位である第二の主部122Aとからなり、第一のビード11Aは、第一のクレータ113Aの最凹部が第一のビード11Aの第一の主部112Aの中心軸112AXの延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有し、第二のビード12Aは、第二のクレータ123Aの最凹部が第二のビード12Aの第二の主部122Aの中心軸122AXの延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有し、第一のクレータ113Aの最凹部及び第二のクレータ123Aの最凹部の間隔が5.0mm以下であり、第一の終端部111Aの一部又は全部及び第二の終端部121Aの一部又は全部が、幅方向に隣り合って並べられている。
【0071】
(第一のビード11A)
第一のビード11Aは、複数の金属板10のうちの、第一の金属板10Aの端面と、第二の金属板10Bの表面と、が接合され、線状に延在する隅肉レーザ溶接部である。第一のビード11Aの形状については、線状であれば、特に限定されない。第一のビード11Aにおける主部112Aは、例えば、第一の金属板10Aの端面に沿った形状である。第一のビード11Aにおける第一の終端部111Aは、例えば、
図9に示すように、第一の主部112Aから連なり、第一の金属板10A側に屈曲した部分を含む。第一のビード11Aのうち、その終端から5.0mmまでの部位が第一の終端部111Aであるため、第一の終端部111Aは、第一のビード11Aにおける第一の金属板10Aの端面に沿った部分の一部を含むことがある。なお、第一のビード11Aにおける第一の終端部111Aは、例えば、第二の金属板10B側に屈曲していてもよい。
【0072】
第一のビード11Aは、複数の金属板10のうちの、第一の金属板10Aの端面と、第二の金属板10Bの表面とを少なくとも接合しているが、複数の金属板10を接合するために、全ての金属板10に跨るように板厚方向に延在していてもよい。また、第一のビード11Aが全ての金属板10を貫通している必要はなく、第一のビード11Aが重ねレーザ溶接継手の片面にのみ形成されていてもよい。
【0073】
(第二のビード12A)
第二のビード12Aは、第一のビード11Aと同様に、複数の金属板10のうちの、第一の金属板10Aの端面と、第二の金属板10Bの表面と、が接合され、線状に延在する隅肉レーザ溶接部である。
【0074】
第一のビード11A及び第二のビード12Aから構成される一対のビード11A、12Aは、上述した(A)~(C)の要件を満足するため、溶接割れが極めて効果的に抑制される。
【0075】
(複数の金属板10の隙間G)
重ね隅肉継手1Aにおける金属板10の間の隙間の大きさは、基本的には既に説明した方法と同様の方法で測定する。ただし、第一の金属板10Aと第二の金属板10Bとの隙間の大きさは、断面における第一の金属板10Aと第二の金属板10Bとが重なった側の第一のビード11Aの端部において測定する。
【0076】
重ね隅肉継手1Aの製造方法は、第一のレーザ溶接をする工程において、少なくとも、複数の金属板10のうちの最表面に配された第一の金属板10Aの端面と、第一の金属板10Aと重ね合わされた第二の金属板10Bの表面と、接合する点、並びに、第二のレーザ溶接をする工程において、複数の金属板10のうちの最表面に配された第一の金属板10Aの端面と、第一の金属板10Aと重ね合わされた第二の金属板10Bの表面と、接合する点で、重ねレーザ溶接継手1の製造方法とは異なる。しかしながら、他の工程はレーザ溶接継手1の製造方法と同様である。したがって、重ね隅肉継手1Aの製造方法は、複数の金属板10を重ね合わせる工程と、重ね合わせられた複数の金属板10のうちの最表面に配された第一の金属板10Aの端面と、第一の金属板10Aと重ね合わされた第二の金属板10Bの表面とに第一のレーザ溶接をして、複数の金属板10を接合する第一のビード11Aを形成するように、重ねられた複数の金属板10にレーザ溶接をする工程と、を備える。上記の重ね合わせにおいて、複数の金属板10の隙間の厚さの合計値Gと、複数の金属板10の厚さの合計値Tとの比率G/Tを0~17%とする。上記重ね隅肉継手1Aの製造方法は、重ね合わせられた複数の金属板10のうちの最表面に配された第一の金属板10Aの端面と、第一の金属板10Aと重ね合わされた第二の金属板10Bの表面とに第二のビード12Aを形成するように、第二のレーザ溶接をする工程をさらに備える。重ね隅肉継手1Aの厚さ方向に沿った平面視において、レーザ照射面では、第一のビード11Aを、終端から5.0mmまでの部位であり、第一のクレータ113Aが形成された第一の終端部111Aと、第一の終端部111A以外の部位である第一の主部112Aとからなるものとし、第二のビード12Aを、終端から5.0mmまでの部位であり、第二のクレータ123Aが形成された第二の終端部121Aと、第二の終端部121以外の部位である第二の主部122Aとからなるものとし、第一のビード11Aを、第一のクレータ113Aの最凹部が第一のビード11Aの第一の主部112Aの中心軸112AXの延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有するものとし、第二のビード12Aを、第二のクレータ123Aの最凹部が第二のビード12Aの第二の主部122Aの中心軸122AXの延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有するものとし,第一のクレータ113Aの最凹部及び第二のクレータ123Aの最凹部の間隔を5.0mm以下とし、第一の終端部111Aの一部又は全部及び第二の終端部121Aの一部又は全部を、幅方向に隣り合うように並べる。
【0077】
<重ねレーザ溶接継手(重ね隅肉継手)2A>
更に、変形例である重ね隅肉継手2Aは、上述した第二実施形態と同様の構成を有していてもよい。すなわち、
図10に示すように、重ね隅肉継手2Aは、重ね合わせられた複数の金属板20と、複数の金属板20を接合する、線状に延在するレーザ溶接部である第一のビード21Aと、を備える重ね隅肉継手であって、複数の金属板20の隙間の厚さの合計値Gと、複数の金属板20の厚さの合計値Tとの比率G/Tが0~17%であり、重ね隅肉継手2Aが、線状に延在するレーザ溶接部である第二のビード22Aをさらに備え、重ね隅肉継手2Aの厚さ方向に沿った平面視において、重ね隅肉継手2Aの少なくとも一方の面では、第一のビード21Aは、終端から5.0mmまでの部位である第一の終端部211Aと、第一の終端部211A以外の部位である第一の主部212Aとからなり、第二のビード22Aは、終端から5.0mmまでの部位である第二の終端部221Aと、第二の終端部221A以外の部位である第二の主部222Aとからなり、第一の終端部211A及び第二の終端部221Aは連結しており、第一の終端部211A及び第二の終端部221Aのいずれかに、1つのクレータ231Aが形成されており、第一のビード21Aは、クレータ231の最凹部が第一のビード21Aの第一の主部212Aの中心軸212AXの延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有し、第二のビード22Aは、クレータ231の最凹部が第二のビード22Aの第二の主部222Aの中心軸222AXの延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有する。
【0078】
重ね隅肉継手2Aの製造方法は、第一のレーザ溶接をする工程において、少なくとも、複数の金属板20のうちの最表面に配された第一の金属板20Aの端面と、第一の金属板20Aと重ね合わされた第二の金属板20Bの表面と、接合する点、並びに、第二のレーザ溶接をする工程において、複数の金属板20のうちの最表面に配された第一の金属板20Aの端面と、第一の金属板20Aと重ね合わされた第二の金属板10Bの表面と、接合する点で、レーザ溶接継手1の製造方法とは異なる。しかしながら、他の工程は重ねレーザ溶接継手2の製造方法と同様である。したがって、重ね隅肉継手2Aの製造方法は、複数の金属板20を重ね合わせる工程と、重ね合わせられた複数の金属板20のうちの最表面に配された第一の金属板20Aの端面と、第一の金属板20Aと重ね合わされた第二の金属板20Bの表面とに第一のレーザ溶接をして、複数の金属板20を接合する第一のビード21Aを形成するように、重ねられた複数の金属板20にレーザ溶接をする工程と、を備える。上記重ね合わせにおいて、複数の前記金属板の隙間の厚さの合計値Gと、複数の金属板20の厚さの合計値Tとの比率G/Tを0~17%とし、重ね隅肉継手2Aの製造方法は、重ね合わせられた複数の金属板20のうちの最表面に配された第一の金属板20Aの端面と、第一の金属板20Aと重ね合わされた第二の金属板20Bの表面とに第二のビード22Aを形成するように、第二のレーザ溶接をする工程をさらに備える。重ね隅肉継手2Aの厚さ方向に沿った平面視において、レーザ照射面では、第一のビード21Aを、終端から5.0mmまでの部位である第一の終端部211Aと、第一の終端部211A以外の部位である第一の主部212Aとからなるものとし、第二のビード22Aを、終端から5.0mmまでの部位である第二の終端部221Aと、第二の終端部221A以外の部位である第二の主部222Aとからなるものとし、第一の終端部211A及び第二の終端部221Aを連結させ、第一の終端部211A及び第二の終端部221Aのいずれかに、1つのクレータ231Aを形成し、第一のビード21Aを、クレータ231Aの最凹部が第一のビード21Aの第一の主部212Aの中心軸212AXの延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有するものとし、第二のビード22Aを、クレータ231Aの最凹部が第二のビード22Aの第二の主部222Aの中心軸222AXの延長線から0.5mm以上離隔されるように、屈曲された形状を有するものとする。
【実施例0079】
実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明する。ただし、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例に過ぎない。本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
【0080】
[実施例1]
表1に示す鋼板を2枚重ね合わせて、種々の条件でレーザ溶接をして、第一ビード及び第二ビードを作製した。表1に示す成分以外の化学成分は、Fe及び不純物である。レーザ溶接の際は、割れ評価を容易にするために、鋼板に通常の3~5倍の量の油を塗布した。油は水素源となり、レーザ溶接継手の水素脆化割れを促進する働きを有する。
これにより得られた種々の重ねレーザ溶接継手における溶接割れの有無を確認した。レーザ溶接部の形状及び評価結果を表2に示す。なお、No.1~19においては、第一の主部及び第二の主部を直線形状とした。一方、No.A1及びA2においては、第一の主部及び第二の主部をC字形状とした。
【0081】
表2の「形状」の列には、ビードの形状を記載した。それぞれのビードの形状に最も近い図面の番号を、当該列に表記した。また、参考のために、例No.5の写真を
図12に示し、例No.7の写真を
図13に示し、例No.17の写真を
図14Aに示す。No.17のビードの終端部の形状は、
図14Bに示されるように、ビードの一方が
図2、もう一方が
図3のような形状をしている。
【0082】
表2の「第一のビードの屈曲の程度」とは、第一のクレータの最凹部と、第一のビードの第一の主部の中心軸の延長線との距離のことである。この値は、レーザ照射側の面で測定した。
【0083】
表2の「第二のビードの屈曲の程度」とは、第二のクレータの最凹部と、第二のビードの第二の主部の中心軸の延長線との距離のことである。この値は、レーザ照射側の面で測定した。
【0084】
表2の「最凹部の距離」とは、第一のクレータの最凹部と第二のクレータの最凹部との間の距離のことである。この値は、レーザ照射側の面で測定した。なお、No.7、8、18および19においてはクレータが1つしか形成されなかったので、「最凹部の距離」は記載しなかった。
【0085】
表2の「C1内の第二のビード面積」とは、第一のクレータの最凹部を中心とした半径5.0mmの円C1内に含まれる、第二のビードの面積のことであり、「C2内の第一のビード面積」とは、第二のクレータの最凹部を中心とした半径5.0mmの円C2内に含まれる、第一のビードの面積のことである。No.7、8、18および19においては、クレータが1つしか形成されなかったので、「C1内の第二のビード面積」および「C2内の第一のビード面積」は記載しなかった。
【0086】
表2の「G/T」とは、2枚の鋼板の隙間を、2枚の鋼板の板厚の合計値3.2mmで割った値である。
【0087】
表2の「貫通程度」とは、レーザ照射側と反対側における、第一のビードの状態を意味する。鋼板が第一のビードによって接合されているが、レーザ照射側と反対側の継手表面に第一のビードが形成されていない場合、この列に「部分」と記載し、鋼板が第一のビードによって接合されており、さらにレーザ照射側と反対側の継手表面に第一のビードが形成されている場合、この列に「完全」と記載した。
【0088】
表2の「割れ評価結果」の列には、以下の方法で行われた割れ評価結果を記載した。同一条件で3つの試験片を作製し、これら試験片に生じた溶接割れの数を求めた。表2には、割れが生じなかった試験片の個数を分子として記載し、試験片の個数「3」を分母として記載した。全ての試験片で割れが生じた例に関しては、耐溶接割れ性を「×」と評価し、全ての試験片で割れが生じなかった例に関しては、耐溶接割れ性を「〇」と評価し、一部の試験片で割れが生じた例に関しては、耐溶接割れ性を「△」と評価した。「〇」又は「△」と評価された例を、耐溶接割れ性に優れた例と評価した。
【0089】
【0090】
【0091】
No.1及びNo.2の一対のビードは、
図1に示されるような屈曲形状を有し、その屈曲の程度も適切であった。また、
図1に示されるように、一対のビードの終端部は幅方向に隣り合って並べられていた。加えて、板隙の厚さも適正範囲内であった。しかしながら、第一のクレータの最凹部及び第二のクレータの最凹部の間隔が大きすぎたので、耐溶接割れ性が不十分であった。
【0092】
No.3及びNo.4の一対のビードは、第一のクレータの最凹部及び第二のクレータの最凹部の間隔が適切であった。加えて、板隙の厚さも適正範囲内であった。しかしながら、これらのビードは
図7に示されるような略直線形状を有しており、これらのビードの終端部は、長手方向に沿って隣り合っており、先端が突き合せられていた。そのため、No.3及びNo.4においては、耐溶接割れ性が不十分であった。
【0093】
No.15及びNo.16においては、一対のビードの形状及び配置は適切であったが、板隙の厚さが不適切であった。そのため、No.15及びNo.16においては、耐溶接割れ性が不十分であった。
【0094】
No.18及びNo.19においては、第一の終端部及び第二の終端部の連結箇所に1つのみクレータが形成されていた。しかし、これらのビードは
図11に示されるような略直線形状を有していた。第一のビード及び第二のビードが屈曲していなかったので、No.18及びNo.19においては、耐溶接割れ性が不十分であった。
【0095】
一方、ビード形状及び配置、並びに板隙の厚さの全てが適切であった実施例では、耐溶接割れ性評価結果が良好であった。なお上述のように、これら実施例のレーザ溶接継手は、通常の3~5倍の油を塗布してからレーザ溶接された。従って、これら実施例のレーザ溶接継手は、通常よりも極めて割れやすい条件で製造されたものである。これら実施例を通常の条件下で製造した場合、割れは生じないと考えられる。
【0096】
[実施例2]
表3に記載の引張強さ、板厚、及び成分を有する鋼板A~Cを2枚重ね合わせて、最表層に配された第一の金属板の端面と、第一の金属板と重ね合わされた第二の金属板の表面と、を種々の条件でレーザ溶接して、第一ビードを形成した。表3に示す成分以外の化学成分は、Fe及び不純物である。レーザ溶接の際は、割れ評価を容易にするために、鋼板に通常の3~5倍の量の油を塗布した。これにより得られた種々の重ねレーザ溶接継手における溶接割れの有無を確認した。レーザ溶接部の形状及び評価結果を表4に示す。なお、No.22、24~30、35においては、第一の主部及び第二の主部を直線形状とした。
【0097】
表4の「形状」の列には、ビードの形状を記載した。それぞれのビードの形状に最も近い図面の番号を、当該列に表記した。ただし、No.22~35のいずれの例においても、第一の主部及び第二の主部は、第一の金属板の端面を溶接するものとした。言い換えると、第一の主部の中心軸及び第二の主部の中心軸は、平面視でいずれも第一の金属板の端面に一致するものとした。また、参考のために、例No.24の写真を
図15に示す。
【0098】
表4の各項目は、実施例1における各項目と同様の意味を有する。No.31及び34においてはクレータが1つしか形成されなかったので、「最凹部の距離」、「C1内の第二のビード面積」及び「C2内の第一のビード面積」は記載しなかった。
【0099】
表4中の「貫通程度」は、実施例1と同様の基準に従って記載した。また、割れ評価を、実施例1と同様の基準で評価した。
【0100】
【0101】
【0102】
No.22の一対のビードは、
図1に示されるような屈曲形状を有し、その屈曲の程度も適切であった。また、
図1に示されるように、一対のビードの終端部は幅方向に隣り合って並べられていた。加えて、板隙の厚さも適正範囲内であった。しかしながら、第一のクレータの最凹部及び第二のクレータの最凹部の間隔が大きすぎたので、耐溶接割れ性が不十分であった。
【0103】
No.23の一対のビードは、第一のクレータの最凹部及び第二のクレータの最凹部の間隔が適切であった。加えて、板隙の厚さも適正範囲内であった。しかしながら、これらのビードは
図7に示されるような略直線形状を有しており、これらのビードの終端部は、長手方向に沿って隣り合っており、先端が突き合せられていた。そのため、No.23においては、耐溶接割れ性が不十分であった。
【0104】
No.30においては、一対のビードの形状及び配置は適切であったが、板隙の厚さが不適切であった。そのため、No.30においては、耐溶接割れ性が不十分であった。
【0105】
No.34においては、第一の終端部及び第二の終端部の連結箇所に1つのみクレータが形成されていた。しかし、これらのビードは
図11に示されるような略直線形状を有していた。第一のビード及び第二のビードが屈曲していなかったので、No.34においては、耐溶接割れ性が不十分であった。
【0106】
一方、ビード形状及び配置、並びに板隙の厚さの全てが適切であった実施例では、耐溶接割れ性評価結果が良好であった。なお上述のように、これら実施例のレーザ溶接継手は、通常の3~5倍の油を塗布してからレーザ溶接された。従って、これら実施例のレーザ溶接継手は、通常よりも極めて割れやすい条件で製造されたものである。これら実施例を通常の条件下で製造した場合、割れは生じないと考えられる。