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  • 特開-メルトブローン不織布及び衛生材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147247
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】メルトブローン不織布及び衛生材料
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/16 20060101AFI20231004BHJP
   D04H 3/009 20120101ALI20231004BHJP
   A61F 13/511 20060101ALI20231004BHJP
   A61F 13/514 20060101ALI20231004BHJP
   A41D 13/11 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
D04H3/16
D04H3/009
A61F13/511 300
A61F13/514 100
A41D13/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047155
(22)【出願日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2022053743
(32)【優先日】2022-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯濱 翔
(72)【発明者】
【氏名】北山 秀超
(72)【発明者】
【氏名】山岸 尚貴
(72)【発明者】
【氏名】久田 稔
(72)【発明者】
【氏名】松原 暁雄
【テーマコード(参考)】
3B200
3B211
4L047
【Fターム(参考)】
3B200BA01
3B200BA02
3B200BA03
3B200BA05
3B200BA13
3B200BB03
3B200DC01
3B200DC02
3B200DD01
3B200DD02
3B200EA07
3B200EA08
3B211AC08
4L047AA25
4L047AB03
4L047AB07
4L047BA08
4L047CB01
4L047CC03
4L047CC04
4L047CC05
(57)【要約】
【課題】破断伸度及び耐水圧に優れるメルトブローン不織布を提供する。
【解決手段】本開示のメルトブローン不織布は、数平均分子量(Mn)が100,000以上であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が2.4以下である熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを含み、平均繊維径が6.5μm未満である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量(Mn)が100,000以上であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が2.4以下である熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを含み、平均繊維径が6.5μm未満であるメルトブローン不織布。
【請求項2】
数平均分子量(Mn)が100,000以上であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が2.4以下である熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを含み、目付(g/m)に対するMD方向の回復応力が0.034N・m/50mm・gより大きいメルトブローン不織布。
【請求項3】
平均繊維径が5.5μm以下である請求項1又は請求項2に記載のメルトブローン不織布。
【請求項4】
前記熱可塑性ポリウレタン系エラストマーが、下記の式Iを満たす請求項1又は請求項2に記載のメルトブローン不織布。
a/(a+b)≦0.8 (I)
(式I中、aは、示差走査熱量計により測定される90℃~140℃の範囲にある吸熱ピークから得られる融解熱量の総和を表し、bは、示差走査熱量計により測定される140℃超220℃以下の範囲にある吸熱ピークから得られる融解熱量の総和を表す。)
【請求項5】
前記熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、数平均分子量(Mn)が101,500以上である請求項1又は請求項2に記載のメルトブローン不織布。
【請求項6】
MD方向の破断伸度が、250%以上である請求項1又は請求項2に記載のメルトブローン不織布。
【請求項7】
目付(g/m)に対する耐水圧が6.0mmHO・m/g以上である請求項1又は請求項2に記載のメルトブローン不織布。
【請求項8】
目付(g/m)に対するMD方向の回復応力が0.035N・m/50mm・g以上である請求項1又は請求項2に記載のメルトブローン不織布。
【請求項9】
請求項1又は請求項2に記載のメルトブローン不織布を含む衛生材料。
【請求項10】
請求項1又は請求項2に記載のメルトブローン不織布を含む耐水シート。
【請求項11】
請求項1又は請求項2に記載のメルトブローン不織布を含む医療用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、メルトブローン不織布及び衛生材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、不織布は通気性及び柔軟性に優れることから各種用途に幅広く用いられている。そのため、不織布には、その用途に応じた各種の特性が求められるとともに、その特性の向上が要求されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、ポリウレタン繊維不織布状物(以下、単に「不織布」とも称する)を開示している。特許文献1に開示の不織布は、平均繊維径10μm以下のポリウレタン極細繊維からなり、繊維本数の15~80%が束状に融着した繊維からなる。特許文献1に開示の不織布では、平衡染着量が60mg/g以上である。
【0004】
特許文献2は、フィルターを開示している。特許文献2に開示のフィルターは、熱可塑性エラストマー樹脂を主成分する繊維不織布からなる。特許文献2に開示のフィルターでは、該繊維不織布が下記(1)~(4)を満たす。(1)は、該繊維不織布を構成する繊維の平均繊維径が10μm以下であることを示す。(2)は、繊維本数の15~80%が2本以上の束状に融着した繊維からなることを示す。(3)は、100%以上の破断伸度を有すると共に、50%伸張回復率が60%以上であることを示す。(4)は、少なくとも1方向に50%伸張した時の通気度が未伸張時の通気度の2倍以下であることを示す。
【0005】
特許文献3は、熱可塑性ポリウレタンに基づく繊維(以下、単に「繊維」とも称する)を開示している。特許文献3に開示の繊維は、無機添加剤を含む。特許文献3に開示の繊維では、該無機添加剤の粒子の少なくとも70%が、熱可塑性ポリウレタンの繊維径の75%よりも小さな最大粒子直径を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-064567号公報
【特許文献2】特開2004-057882号公報
【特許文献3】特表2010-509512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、不織布に関して幅広い用途が検討されている。
例えば、不織布は、使い捨ておむつ、生理用品などの吸収性材料、衛生マスクなどの衛生材料、包帯などの医療材料、衣料素材、包装材等の用途に用いることが考えられる。
上記の様々な用途において、不織布は、破断伸度及び耐水圧に優れることを求められる場合が多い。
【0008】
本開示の一実施態様が解決しようとする課題は、破断伸度及び耐水圧に優れるメルトブローン不織布、及びメルトブローン不織布を含む衛生材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 数平均分子量(Mn)が100,000以上であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が2.4以下である熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを含み、平均繊維径が6.5μm未満であるメルトブローン不織布。
<2> 数平均分子量(Mn)が100,000以上であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が2.4以下である熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを含み、目付(g/m)に対するMD方向の回復応力が0.034N・m/50mm
・gより大きいメルトブローン不織布。
<3> 平均繊維径が5.5μm以下である<1>又は<2>に記載のメルトブローン不織布。
<4> 前記熱可塑性ポリウレタン系エラストマーが、下記の式Iを満たす<1>~<3>のいずれか1つに記載のメルトブローン不織布。
a/(a+b)≦0.8 (I)
(式I中、aは、示差走査熱量計により測定される90℃~140℃の範囲にある吸熱ピークから得られる融解熱量の総和を表し、bは、示差走査熱量計により測定される140℃超220℃以下の範囲にある吸熱ピークから得られる融解熱量の総和を表す。)
<5> 前記熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、数平均分子量(Mn)が101,500以上である<1>~<4>のいずれか1つに記載のメルトブローン不織布。
<6> MD方向の破断伸度が、250%以上である<1>~<5>のいずれか1つに記載のメルトブローン不織布。
<7> 目付(g/m)に対する耐水圧が6.0mmHO・m/g以上である<1>~<6>のいずれか1つに記載のメルトブローン不織布。
<8> 目付(g/m)に対するMD方向の回復応力が0.035N・m/50mm・g以上である<1>~<7>のいずれか1つに記載のメルトブローン不織布。
<9> <1>~<8>のいずれか1つに記載のメルトブローン不織布を含む衛生材料。
<10> <1>~<8>のいずれか1つに記載のメルトブローン不織布を含む耐水シート。
<11> <1>~<8>のいずれか1つに記載のメルトブローン不織布を含む医療用シート。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一実施態様は、破断伸度及び耐水圧に優れるメルトブローン不織布、及びメルトブローン不織布を含む衛生材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、メルトブローン不織布の製造装置10の構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示において、組成物に含まれる各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する上記複数の物質の合計量を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、材料中の各成分の量は、材料中の各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、材料中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0013】
≪メルトブローン不織布≫
本開示のメルトブローン不織布は、第1態様のメルトブローン不織布及び第2態様のメルトブローン不織布を含む。
第1態様のメルトブローン不織布及び第2態様のメルトブローン不織布について、以下に説明する。
【0014】
[第1態様]
第1態様のメルトブローン不織布は、数平均分子量(Mn)が100,000以上であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)(以下、単に「分子量分布(Mw/Mn)」と称する。)が2.4以下である熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを含み、平均繊維径が6.5μm未満である。
【0015】
第1態様のメルトブローン不織布は、上記の構成を有するので、破断伸度及び耐水圧に優れる。
本開示における熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、数平均分子量(Mn)が比較的大きい。これによって、繊維の破断強度を高めることができ、容易に破断することを防ぐことができる。破断強度が高いことは耐水圧の向上にも寄与する。
本開示における熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、分子量分布(Mw/Mn)が2.4以下である。これによって、繊維中の分子量が均一となる。これにより、破断の起点となる分子鎖絡み合いの弱い部分が少なくなる。その結果、繊維の破断強度及びメルトブローン不織布の耐水圧は、向上する。
メルトブローン不織布の平均繊維径が6.5μm未満であることで、メルトブローン繊維の繊維量、ひいては自己融着点が増加し、絡み合いが強固となる。そして、繊維の絡み合いが強固であること、及び、上述の繊維の破断強度が高いことの組み合わせにより、絡み合った繊維を破断することなく良好に伸ばすことができるという相乗的な効果を奏する。
【0016】
熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、メルトブローン不織布に含まれる状態での数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を意味する。
メルトブローン不織布に含まれる状態での熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、メルトブローン不織布を成形する際の条件によって変動し得る。
例えば、上述の特許文献1は、成形温度が高いこと、通気度及び破断伸度が著しく低いこと等からエラストマーの分子量が低いと考えられる。高温成形による高融着が発生している可能性がある。
【0017】
第1態様のメルトブローン不織布は、平均繊維径が6.5μm未満である。
これによって、メルトブローン繊維の繊維量、ひいては自己融着点が増加し、絡み合いが強固となる。
第1態様のメルトブローン不織布は、平均繊維径が6.4μm以下であることが好ましく、5.5μm以下であることがより好ましい。平均繊維径が5.5μm以下であると、上記のメルトブローン繊維の繊維量、自己融着点がさらに増加し、絡み合いがより強固となる。加えて、破断や漏水の起点となる不織布の薄いムラ部分が少なくなる。これにより、破断伸度および耐水圧は、さらに向上する。
第1態様のメルトブローン不織布は、平均繊維径が2.5μm以上であることが好ましく、3.0μm以上であることがより好ましい。
第1態様のメルトブローン不織布は、平均繊維径が2.5μm以上6.5μm未満であってもよい。
【0018】
平均繊維径は以下の方法により測定する。
電子顕微鏡(例えば日立製作所製S-3500N)を用いて、倍率1000倍のメルトブローン不織布の写真を撮影する。得られた写真から繊維の直径を測定する。撮像と測定を繊維の本数の合計が100本を超えるまで繰り返し、得られた繊維の直径の算術平均値を平均繊維径(μm)とする。
【0019】
<熱可塑性ポリウレタン系エラストマー>
第1態様のメルトブローン不織布は、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを含む。
【0020】
(数平均分子量(Mn))
熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは数平均分子量(Mn)が100,000以上である。
これによって、繊維の破断強度を高めることができ、容易に破断することを防ぐことができる。破断強度が高いことは耐水圧の向上にも寄与する。
熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは数平均分子量(Mn)が101,500以上であることが好ましく、102,500以上であることがより好ましく、103,500以上であることがさらに好ましい。数平均分子量(Mn)が101,500以上であると、分子鎖の絡み合いがさらに増加し、繊維の破断強度、ひいては不織布の破断伸度・耐水圧は、さらに向上する。
【0021】
(重量平均分子量(Mw))
熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの重量平均分子量(Mw)は、紡糸性の観点から、180,000以上であることが好ましく、190,000以上であることが好ましい。
【0022】
(分子量分布)
熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの分子量分布(Mw/Mn)は、2.4以下であり、2.3以下であることが好ましく、2.2以下であることがより好ましい。分子量分布(Mw/Mn)の上限値は、特に制限されないが、例えば、1.0以上であってもよい。
つまり、分子量分布(Mw/Mn)は、1.0~2.4であることが好ましく、1.0~2.3であることがより好ましく、1.0~2.2であることがさらに好ましい。
【0023】
数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)は、以下の方法により測定する。
作製したメルトブローン不織布を、下記溶離液中で、80℃で加熱溶解して測定用サンプルを作製する。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、下記の条件で、単分散ポリスチレン基準により数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を得る。得られる数平均分子量(Mn)に対する得られる重量平均分子量(Mw)の比を分子量分布(Mw/Mn)とした。
GPC測定条件;
カラム:Shodex GPC KD-806M(8.0mmID×300mmL)×2
カラム温度:40℃
溶離液:0.01mol/L―LiBr in ジメチルホルムアミド
流量:0.7mL/分
検出波長:UV 264nm
注入量:100μL
測定装置:515ポンプ、717plus自動注入装置、2487UV検出計(日本ウォーターズ株式会社製)
【0024】
(凝固開始温度)
熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、凝固開始温度が好ましくは65℃以上であり、より好ましくは75℃以上であり、さらに好ましくは85℃以上である。
凝固開始温度が65℃以上であると、メルトブローン不織布を得る際に繊維同士の融着、糸切れ、樹脂塊などの成形不良を抑制することができるとともに、熱エンボス加工の際に成形されたメルトブローン不織布がエンボスローラーに巻きつくことを防止できる。
加えて、熱可塑凝固開始温度が65℃以上であると、得られるメルトブローン不織布のベタツキを抑制できる。そのため、メルトブローン不織布は、衣料、衛生材料、スポーツ材料等の肌と接触する材料として好適に用いることができる。
【0025】
熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、凝固開始温度が好ましくは195℃以下である。
凝固開始温度が195℃以下であることにより、成形加工性を向上させることができる。
【0026】
凝固開始温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される。
詳しくは、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを10℃/分で230℃まで昇温し、230℃で5分間保持した後、10℃/分で降温させる。この際に生じる熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの凝固に由来する発熱ピークの開始温度が、凝固開始温度である。
【0027】
熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの凝固開始温度を65℃以上に調整する方法としては、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの原料として使用するポリオール化合物、イソシアネート化合物、鎖延長剤等の化学構造を適宜選択する方法、熱可塑性ポリウレタン系エラストマー中のハードセグメント量を調整する方法等が挙げられる。
【0028】
「ハードセグメント量」とは、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの製造に使用するイソシアネート化合物と鎖延長剤との合計含有量を、ポリオール化合物、イソシアネート化合物及び鎖延長剤の総量で除算して100を掛けた質量パーセント(質量%)値を意味する。
ハードセグメント量は、好ましくは20質量%~60質量%であり、より好ましくは22質量%~50質量%であり、更に好ましくは25質量%~48質量%である。
【0029】
(極性溶媒不溶分の粒子数)
熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、好ましくは極性溶媒不溶分の粒子数が、熱可塑性ポリウレタン系エラストマー1gに対して、好ましくは300万個(300万個/g)以下であり、より好ましくは250万個/g以下であり、さらに好ましくは200万個/g以下である。
「熱可塑性ポリウレタン系エラストマー中の極性溶媒不溶分」とは、主に、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの製造中に発生するフィッシュアイやゲルなどの塊状物である。
極性溶媒不溶分が発生する原因となる成分としては、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーのハードセグメント凝集物に由来する成分、ハードセグメント及び/又はソフトセグメントがアロファネート結合、ビュレット結合等により架橋された成分、熱可塑性ポリウ
レタン系エラストマーを構成する原料、原料間の化学反応により生じる成分等が挙げられる。
【0030】
極性溶媒不溶分の粒子数は、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーをジメチルアセトアミド溶媒に溶解させた際の不溶分を、細孔電気抵抗法を利用した粒度分布測定装置に100μmのアパーチャーを装着して測定した値である。
100μmのアパーチャーを装着することで、未架橋ポリスチレン換算で2μm~60μmの粒子の数を測定することができる。
【0031】
極性溶媒不溶分の粒子数を300万個/g以下にすることにより、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの凝固開始温度範囲内において、繊維径の分布の増大、紡糸時の糸切れ等の問題の発生をより抑えることができる。極性溶媒不溶分の少ない熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、ポリオール化合物、イソシアネート化合物及び鎖延長剤の重合反応を行なった後、ろ過することにより得ることができる。
【0032】
大型メルトブローン成形機械でのメルトブローン不織布の成形におけるストランド中への気泡の混入及び糸切れの発生を抑制する観点からは、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの水分値は350ppm以下であることが好ましく、300ppm以下であることがより好ましく、150ppm以下であることが更に好ましい。
【0033】
熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、メルトブローン不織布の伸縮性を向上させる観点から、下記の式Iを満たすことが好ましく、下記の式IIを満たすことがより好ましく、下記の式IIIを満たすことがさらに好ましい。
【0034】
a/(a+b)≦0.8(I)
a/(a+b)≦0.7(II)
a/(a+b)≦0.6(III)
【0035】
(式I、式II及び式III中、aは、示差走査熱量計により測定される90℃~140℃の範囲にある吸熱ピークから得られる融解熱量の総和を表す。bは、示差走査熱量計により測定される140℃超220℃以下の範囲にある吸熱ピークから得られる融解熱量の総和を表す。)
【0036】
(融解熱量比)
上記「a/(a+b)」は熱可塑性ポリウレタン系エラストマーのハードドメインの融解熱量比(単位:%)を意味する。
熱可塑性ポリウレタン系エラストマーのハードドメインの融解熱量比が、80%以下であることで、繊維及びメルトブローン不織布において、強度及び伸縮性が向上する。第1態様のメルトブローン不織布は、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーのハードドメインの融解熱量比の下限値が0.1%程度であることが好ましい。
【0037】
熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、温度200℃、せん断速度100sec-1の条件における溶融粘度(以下、単に「溶融粘度」とも称する)が100Pa・s~3000Pa・sであることが好ましく、200Pa・s~2000Pa・sであることがより好ましく、900Pa・s~1600Pa・sであることがさらに好ましい。
溶融粘度は、キャピログラフ(東洋精機(株)製、ノズル長30mm、直径1mmのものを使用)で測定する。
このような特性を有する熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、例えば、特開2004-244791号公報に記載された製造方法により得ることができる。
なお、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーはバイオマス原料を含んでもよい。バイオマス由来の原料を含む熱可塑性ポリウレタン系エラストマー(バイオマス由来の熱可塑性ポリウレタン系エラストマー)の詳細については、後述する。
【0038】
メルトブローン不織布は、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを50質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、99質量%以上含むことが特に好ましい。
【0039】
メルトブローン不織布の目付は、用途により適宜決めればよい。例えば、メルトブローン不織布の目付は、1g/m~100g/mであることが好ましく、4g/m~65g/mであることがより好ましい。
【0040】
メルトブローン不織布の目付は、以下の方法により測定する。
メルトブローン不織布から200mm(流れ方向:MD方向)×50mm(横方向:CD方向)の試験片を6点採取する。なお、採取場所はMD方向、CD方向ともに任意の3箇所とする(計6箇所)。次いで、採取した各試験片について、上皿電子天秤(例えば研精工業株式会社製の上皿電子天秤)を用いて、それぞれの質量(g)を測定する。各試験片の質量の平均値を求める。求めた平均値を1m当たりの質量(g)に換算し、小数点第2位を四捨五入した値を、各サンプルの目付〔g/m2〕とする。
【0041】
メルトブローン不織布の厚みは、用途により適宜決めればよい。
例えばメルトブローン不織布の厚みは、0.01mm~1.00mmであってもよい。
【0042】
「MD(Machine Direction)方向」とは、繊維の流れ方向を意味する。MD(Machine Direction)方向は、メルトブローン不織布を製造する際の搬送方向でもある。
「CD(Cross Direction)方向」とは、MD方向(つまり繊維の流れ方向)と直交する方向を意味する。
【0043】
(破断伸度)
第1態様のメルトブローン不織布は、MD方向の破断伸度が、250%以上であることが好ましく、270%以上であることがより好ましく、300%以上であることがさらに好ましく、340%以上であることが特に好ましい。
第1態様のメルトブローン不織布は、MD方向の破断伸度が、700%以下であることが好ましく、650%以下であることがより好ましく、600%以下であることがさらに好ましい。
第1態様のメルトブローン不織布は、MD方向の破断伸度が、250%以上600%以下であることも好ましい。
MD方向の破断伸度が、250%以上であると、人体の変形に追従する必要のある用途(例えば、使い捨ておむつ、包帯など等)において、メルトブローン不織布は、メルトブローン不織布が伸びる方向の変形に対して破断することなく良好に追従できる。
【0044】
第1態様のメルトブローン不織布は、CD方向の破断伸度が、250%以上であることが好ましく、350%以上であることがより好ましく、400%以上であることがさらに好ましく、430%以上であることが特に好ましい。
第1態様のメルトブローン不織布は、CD方向の破断伸度が、700%以下であることが好ましく、650%以下であることがより好ましく、600%以下であることがさらに好ましい。
第1態様のメルトブローン不織布は、CD方向の破断伸度が、250%以上600%以下であることも好ましい。
【0045】
破断伸度は、以下の方法により測定する。
メルトブローン不織布から200mm(測定方向)×50mm(測定直交方向)の試験片を5点採取する。なお、採取場所は任意の5箇所とする。次いで、採取した各試験片を、万能引張試験機(例えばインテスコ社製、IM-201型)を用いて、チャック間100mm、引張速度100mm/minの条件で試験片のMD方向に延伸し、試験片が破断した際の延伸倍率をMD方向の破断伸度〔%〕とする。試験片の引張方向を試験片のMD方向から試験片のCD方向に変更した他は、MD方向の破断伸度〔%〕の測定方法と同様にして延伸倍率を測定する。延伸倍率の測定値をCD方向の破断伸度〔%〕とする。
【0046】
(耐水圧)
第1態様のメルトブローン不織布は、目付(g/m)に対する耐水圧(以下、単に「耐水圧」とも称する)が6.0mmHO・m/g以上であることが好ましく、9.0mmHO・m/g以上であることがより好ましく、12.0mmHO・m/g以上であることがさらに好ましい。
第1態様のメルトブローン不織布は、耐水圧が30.0mmHO・m/g以下であることが好ましく、20.0mmHO・m/g以下であることがより好ましく、15.0mmHO・m/g以下であることがさらに好ましい。
第1態様のメルトブローン不織布は、耐水圧が6.0mmHO・m/g以上30.0mmHO・m/g以下であることも好ましい。
耐水圧が6.0mmHO・m/g以上であると、液体防漏性が求められる用途(例えば、使い捨ておむつ、生理用品など)において、メルトブローン不織布は、液体(例えば、尿、血液など)が漏れ出ることを防止することができる。
【0047】
耐水圧は、JISL1096に規定されているA法(低水圧法)に準拠して測定したメルトブローン不織布の耐水圧を、目付で除して得られる値である。メルトブローン不織布の耐水圧の単位は、(mmHO)/(g/m)、つまりmmHO・m/gである。
【0048】
(回復応力)
第1態様のメルトブローン不織布は、目付(g/m)に対するMD方向の回復応力(以下、単に「MD方向の回復応力」とも称する)が0.035N・m/50mm・g以上であることが好ましく、0.036N・m/50mm・g以上であることがより好ましい。
第1態様のメルトブローン不織布は、MD方向の回復応力が0.060N・m/50mm・g以下であることが好ましく、0.050N・m/50mm・g以下であることがより好ましく、0.040N・m/50mm・g以下であることがさらに好ましい。
第1態様のメルトブローン不織布は、MD方向の回復応力が0.035N・m/50mm・g以上0.060N・m/50mm・g以下であることも好ましい。
MD方向の回復応力が0.035N・m/50mm・g以上であると、人体の変形に追従する必要のある用途(例えば、使い捨ておむつ、包帯など)において、メルトブローン不織布は、メルトブローン不織布が縮む方向の変形に対して伸びたままになることなく、良好に追従できる。
【0049】
MD方向の回復応力は、以下の方法により測定する。
メルトブローン不織布から200mm(MD)×50mm(CD)の試験片を5点採取する。なお、採取場所は任意の5箇所とする。次いで、採取した各試験片を、万能引張試験機(例えばインテスコ社製、IM-201型)を用いて、チャック間100mm、引張速度100mm/min、延伸倍率100%の条件でMD方向に延伸した後、同じ速度で原長まで回復させる。この操作を2サイクル実施して、2サイクル目の回復時にMD方向の延伸倍率が50%となった際の応力を、目付で除して得られる値を、目付(g/m)に対するMD方向の回復応力とする。
目付(g/m)に対するMD方向の回復応力の単位は(N/50mm)/(g/m)、つまりN・m/50mm・gである。
【0050】
(より好ましい構成)
第1態様では、メルトブローン不織布の平均繊維径が、3.0μm~3.7μmであることが好ましい。第1態様では、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの数平均分子量(Mn)が、101,500~104,000であることが好ましい。第1態様では、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの数平均分子量(Mn)が101,500~104,000であり、かつメルトブローン不織布の平均繊維径が3.0μm~3.7μmであることが好ましい。これにより、メルトブローン不織布の破断伸度及び耐水圧の総合性能は、優れる。
【0051】
第1態様では、メルトブローン不織布の平均繊維径が3.0μm~3.7μmであり、かつメルトブローン不織布の目付が4g/m~30g/mであることが好ましい。第1態様では、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの数平均分子量(Mn)が101,500~104,000であり、かつメルトブローン不織布の目付が4g/m~30g/mであることが好ましい。第1態様では、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの数平均分子量(Mn)が101,500~104,000であり、メルトブローン不織布の平均繊維径が3.0μm~3.7μmであり、メルトブローン不織布の目付が4g/m~30g/mであることが好ましい。これにより、メルトブローン不織布の破断伸度及び耐水圧の総合性能は、より優れる。
【0052】
第1態様のメルトブローン不織布の用途としては、例えば、使い捨ておむつ、生理用品等の吸収性物品、衛生マスク等の衛生物品、包帯等の医療物品、衣料素材、包装材、耐水シート、医療用シートなどが挙げられる。
【0053】
≪衛生材料≫
本開示の衛生材料は、本開示のメルトブローン不織布を含むことが好ましい。
第1態様のメルトブローン不織布は、展開型使い捨ておむつ又はパンツ型使い捨ておむつにおいて、トップシート、バックシート、ウェストバンド(例えば、延長テープ、サイドフラップ等)、ファスニングテープ、立体ギャザー、レッグカフに好適に用いることができる。第1態様のメルトブローン不織布は、パンツ型使い捨ておむつのサイドパネル等の部位に好適に用いることができる。
これら部位に第1態様のメルトブローン不織布を使用することで、装着者の動きに追随し装着者の身体にフィットすることが可能となり、着用中においても快適な状態が維持される。
【0054】
第1態様のメルトブローン不織布は、口許周辺被覆部と、上記被覆部の両側から延びる耳掛け部と、から構成される使い捨てマスク等にも好適に用いられる。
第1態様のメルトブローン不織布は、使い捨て手術着、レスキューガウンなどにおける、腕、肘、肩などの可動間接部に用いられる基材として好適に用いられる。
【0055】
≪耐水シート≫
本開示の耐水シートは、本開示のメルトブローン不織布を含むことが好ましい。本開示の耐水シートは、本開示のメルトブローン不織布を含むことの他は、公知の構成であればよい。例えば、本開示の耐水シートは、本開示のメルトブローン不織布からなってもよいし、本開示のメルトブローン不織布からなる層(以下、「メルトブローン不織布層」ともいう)と、公知の繊維(例えば、セルロース繊維等)からなる層(以下、「繊維層」ともいう)と、を有してもよい。繊維層は、メルトブローン不織布層の一方の主面上に積層されている。本開示の耐水シートは、使い捨ておむつ、生理用品などの吸収性材料、衛生マスク、化粧用素材などの衛生材料、包帯などの医療材料、衣料素材、包材などの生活資材、フィルタなどの工業資材等の用途に用いることができる。特に柔軟性、通気性、伸縮性、及びバリア性に優れるので、衛生材料の例としては、紙おむつ、生理用ナプキン、湿布材等の基布、ベッドカバーなどの素材に好適に用いられる。医療材料および衣料素材の例としては、ガウン、キャップ、ドレープ、マスク、ガーゼ、包帯、各種防護服などの素材として特に好適に使用できる。さらにヒートシールなどの後加工性が良好であるため、脱酸素剤、カイロ、温シップ、マスク、各種粉体、半固体、ゲル状、液状の物質を包む用途、CD(コンパクトディスク)袋、食品包装材、衣服カバー、農業用シートなどの生活資材全般に応用可能である。同様の理由で、自動車内装材や各種バッキング材、建材などの工業資材としても好適に使用できる。また、細繊維で構成されることから、液体フィルター、エアフィルター資材としても広く適用可能である。
【0056】
≪医療用シート≫
本開示の医療用シートは、本開示のメルトブローン不織布を含むことが好ましい。本開示の医療用シートは、本開示のメルトブローン不織布を含むことの他は、公知の構成であればよい。例えば、本開示の医療用シートは、メルトブローン不織布からなってもよいし、メルトブローン不織布層と、繊維層と、を有してもよい。繊維層は、メルトブローン不織布層の一方の主面上に積層されている。本開示の医療用シートは、ガウン、キャップ、ドレープ、マスク、ガーゼ、包帯、各種防護服などの素材、プラスター基布、パップ材、外傷被覆材、傷テープ等に好適に用いられる。さらに滅菌時や殺菌時に照射される電子線やガンマ線に安定な原料を使用することで、滅菌医療用シートに好適に用いられる。
【0057】
(バイオマス由来の熱可塑性ポリウレタン系エラストマー)
本開示の熱可塑性ポリウレタン系エラストマーとして、上述したように、バイオマス由来の熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを用いることもできる。
【0058】
近年、循環型社会の構築を求める声の高まりとともに、材料分野においてもエネルギーと同様に化石燃料からの脱却が望まれており、バイオマスの利用が注目されている。バイオマスは、二酸化炭素と水から光合成された有機化合物であり、それを利用することにより、再度二酸化炭素と水になる、いわゆるカーボンニュートラルな再生可能エネルギーである。環境への負荷を低減させることが可能であるこれらバイオマスを原料としたバイオマスプラスチックの実用化が急速に進んでおり、各種の樹脂をバイオマス原料から製造する試みも行われている。
【0059】
本開示において、「バイオマス由来の熱可塑性ポリウレタン系エラストマー」とは、バイオマス由来の原料から製造される熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを示す。バイオマス由来の熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、カーボンニュートラルな材料であるため、スパンボンド不織布の製造における環境負荷を低減することができる。
【0060】
(熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの原料)
一般に、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、原料として、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、およびポリカーボネートポリオールなどのポリマーグリコール;脂肪族グリコール、芳香族グリコール、および脂環式グリコールなどの短鎖グリコール(鎖延長剤);および芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、および脂環式ジイソシアネートなどのイソシアネート化合物などを含む。これらの原料の少なくとも一部が植物(バイオマス)由来である場合、得られるポリウレタン系熱可塑性エラストマーは、バイオマス由来のポリウレタン系熱可塑性エラストマーとなる。
なお、原料は、バイオマス由来の原料を100質量%含むものでなくてもよい。バイオマス由来のポリウレタン系熱可塑性エラストマーの原料は、化石燃料由来の原料を含んでもよい。
【0061】
(グリコール)
本開示において、ポリマーグリコールや短鎖グリコールなどのグリコールの基礎原料としては、通常化石燃料由来のエチレン、プロピレン、およびブテンなどのオレフィンが用いられる。例えば、ポリマーグリコールや脂肪族グリコールの場合、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオールなどから相当するオレフィンの酸化、加水分解反応を経て生成した原料が用いられる。このようなグリコールは、ポリエステルポリオールの原料ともなる。なお、ポリエーテルポリオールは、オレフィンを酸化したエチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどを付加重合して得ることもできる。ここで、バイオマス由来の原料(バイオナフサ)をクラッキングして得られるオレフィンを出発原料とすることで、植物(バイオマス)由来のポリウレタン系熱可塑性エラストマーが得られる。
【0062】
(イソシアネート化合物)
本開示において、原料のイソシアネート化合物として、バイオマス由来ポリイソシアネートを用いることができる。バイオマス由来のポリイソシアネートは、バイオマス由来の二価カルボン酸を酸アミド化し、還元することで末端アミノ基に変換し、さらに、ホスゲンと反応させ、該アミノ基をイソシアネート基に変換することにより得られる。バイオマス由来のポリイソシアネートとしては、ダイマー酸ジイソシアネート(DDI)、オクタメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート等が挙げられる。また、バイオマス由来のアミノ酸を原料として、そのアミノ基をイソシアネート基に変換することによってもバイオマス由来のイソシアネート化合物を得ることができる。例えば、リシンジイソシアネート(LDI)は、リシンのカルボキシル基をメチルエステル化した後、アミノ基をイソシアネート基に変換することにより得られる。また、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(PDI)はリシンのカルボキシル基を脱炭酸した後、アミノ基をイソシアネート基に変換することにより得られる。1,5-ペンタメチレンジイソシアネートの他の合成方法としては、ホスゲン化法やカルバメート化法が挙げられる。より具体的には、ホスゲン化方法は、1,5-ペンタメチレンジアミンまたはその塩を直接ホスゲンと反応させる方法や、ペンタメチレンジアミンの塩酸塩を不活性溶媒中に懸濁させてホスゲンと反応させる方法により、1,5-ペンタメチレンジイソシアネートを合成するものである。また、カルバメート化法は、まず、1,5-ペンタメチレンジアミンまたはその塩をカルバメート化し、ペンタメチレンジカルバメート(PDC)を生成させた後、熱分解することにより、1,5-ペンタメチレンジイソシアネートを合成するものである。本開示において、好適に使用されるポリイソシアネートとしては、三井化学株式会社製の1,5-ペンタメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネート(商品名:スタビオ(登録商標))などの脂肪族イソシアネート、芳香族イソシアネートなどが挙げられる。
【0063】
(ジカルボン酸)
バイオマス由来のポリウレタン系熱可塑性エラストマーの原料となるポリエステルポリオールやイソシアネート化合物の原料として、バイオマス由来の多官能カルボン酸を用いることができる。バイオマス由来の多官能カルボン酸は、再生産可能な大豆油、亜麻仁油、桐油、ヤシ油、パーム油、ひまし油等の植物由来の油、及びそれらを主体とした廃食用油等をリサイクルした再生油等の植物原料から得られる。バイオマス由来の脂肪族多官能カルボン酸としては、例えば、セバシン酸、コハク酸、グルタル酸、ダイマー酸等が挙げられる。例えば、セバシン酸は、ひまし油から得られるリシノール酸をアルカリ熱分解することにより、ヘプチルアルコールを副生成物として生成される
【0064】
一方、植物(バイオマス)由来の原料から発酵、化学反応(クラッキングなどの熱反応以外)を用いて熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの原料を得ることもできる。例えば、さとうきびなどから抽出された糖を発酵して得られるエタノールを脱水してエチレンが得られる。
植物(バイオマス)由来の原料を用いる場合、植物原料から発酵、化学反応(クラッキングなどの熱反応以外)を用いて原料を生成する場合とバイオマス由来の原料(バイオナフサ)をクラッキングして得られるオレフィンを出発原料にする場合がある。バイオマス由来の原料(バイオナフサ)としては再生産可能な大豆油、亜麻仁油、桐油、ヤシ油、パーム油、ひまし油等の植物由来の油、及びそれらを主体とした廃食用油等をリサイクルした再生油等がある。
【0065】
バイオマス由来の熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの原料となるオレフィン系モノマーは、バイオマスナフサのクラッキングやバイオマス由来エチレンから合成することができる。バイオマス由来の熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、このようにして合成したバイオマス由来のモノマーを、従来公知の化石燃料由来の原料を用いる場合と同様の方法で重合することによって得られる。
【0066】
また、バイオマス由来の熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、ヤシ殻等の空果房(EFB:Empty Fruit Bunches)を熱分解することで発生するガスを用いた、メタノールからのオレフィン(MTO:Methanol-to-Olefins)あるいはメタノールからのプロピレン(MTP:Methanol-to-Propylene)の合成によって得られるプロピレンを重合することによっても得られる。
さらに、バイオマス由来の熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、ソルゴー等の非可食植物を主体とするバイオマス原料から、発酵によって製造したイソプロパノールを脱水して得られるプロピレンを重合することによっても得られる。
【0067】
また、植物原料を分解してグルコースを得る発酵法により、グリセロールから3-ヒドロキシプロピルアルデヒド(HPA)を経てバイオマス由来の1,3-プロパンジオール(HOCH2CH2CH2OH)を製造する。バイオマス由来の1,4-ブタンジオールは、植物原料からグリコールを製造し発酵することで得られたコハク酸を得て、これを水添することによってバイオマス1,4-ブタンジオールが製造できる。
【0068】
本開示において、「バイオマス度」は、バイオマス由来の炭素の含有率を示し、放射性炭素(C14)を測定することにより算出する。大気中の二酸化炭素には、C14が一定割合(約105.5pMC)で含まれているため、大気中の二酸化炭素を取り入れて成長する植物(例えばトウモロコシ)中のC14含有量も約105.5pMC程度であることが知られている。また、化石燃料中にはC14が殆ど含まれていないことも知られている。したがって、原料中の全炭素原子中に含まれるC14の割合を測定することにより、原料中のバイオマス由来の炭素の含有率を算出することができる。
【0069】
例えば、原料中のC14の含有量をPC14とした場合、原料中のバイオマス由来の炭素の含有率Pbio(%)は、次の式(1)により算出することができる。
Pbio(%)=PC14/105.5×100・・・式(1)
【0070】
すなわち、ポリウレタンの原料が全てバイオマス由来であれば、理論上は、バイオマス由来の炭素の含有率は100%となるので、バイオマス由来の熱可塑性ポリウレタン系エラストマーのバイオマス度は100%となる。また、化石燃料由来の原料にはC14が殆ど含まれていないので、化石燃料由来原料のみで製造されたポリウレタン中の、バイオマス由来の炭素の含有率は0%となり、化石燃料由来ポリウレタンのバイオマス度は0%となる。
【0071】
本開示のスパンボンド不織布の原料として用いられるバイオマス由来のポリウレタン系熱可塑性エラストマーのバイオマス度は、1%以上であることが好ましい。
【0072】
本開示のスパンボンド不織布の原料がリサイクルポリマーを含む場合、本開示のスパンボンド不織布の原料として用いられる熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、リサイクルによって得られた、いわゆるリサイクルポリマーを含んでいてもよい。
【0073】
「リサイクルポリマー」とは、廃ポリマー製品のリサイクルにより得られたポリマーを含むものであり、例えば、DE102019127827(A1)に記載の方法で製造することができる。リサイクルポリマーは、リサイクルにより得られたことが識別できるようなマーカーを含んでいてもよい。
【0074】
[第2態様]
第2態様のメルトブローン不織布は、数平均分子量(Mn)が100,000以上であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)(以下、単に「分子量分布(Mw/Mn)」とも称する)が2.4以下である熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを含み、目付(g/m)に対するMD方向の回復応力(以下、単に「MD方向の回復応力」とも称する)が0.034N・m/50mm・gより大きい。
【0075】
第2態様のメルトブローン不織布は、破断伸度及び耐水圧に優れる。
本開示における熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、数平均分子量(Mn)が比較的大きい。これによって、繊維の破断強度を高めることができ、容易に破断することを防ぐことができる。破断強度が高いことは耐水圧の向上にも寄与する。
本開示における熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、分子量分布(Mw/Mn)が2.4以下である。これによって、繊維中の分子量が均一となる。これにより、破断の起点となる分子鎖絡み合いの弱い部分が少なくなる。その結果、繊維の破断強度及び不織布の耐水圧は、向上する。
MD方向の回復応力が0.034N・m/50mm・gより大きいことは、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーのハードセグメント及びソフトセグメントの構造が十分に形成されていることを示す。これによって、繊維が塑性変形することを抑制することができる。その結果、高い水圧が付加された場合でも繊維が形状を維持することができ、繊維の目開きが抑制され、耐水圧が向上する。
熱可塑性ポリウレタン系エラストマーのハードセグメントが十分に形成されることで、繊維中のポリウレタン分子の絡み合いが維持されやすくなり、繊維が破断することなく高い伸度まで弾性変形できる。そして、繊維の伸度が高いこと、及び、上述の繊維の破断強度が高いことの組み合わせにより、絡み合った繊維を破断することなく良好に伸ばすことができるという相乗的な効果を奏する。
【0076】
第1態様の項に記載の各項目の説明は、第2態様においても適用できる。
例えば、第2態様における平均繊維径の好ましい範囲、定義、測定方法等の詳細は、第1態様における平均繊維径の好ましい範囲、定義、測定方法等の詳細と同様である。
第2態様における熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、凝固開始温度、ハードセグメント量、極性溶媒不溶分の粒子数、水分値、式I、式II、式III、融解熱量比、溶融粘度、含有量等の好ましい範囲、定義、測定方法等の詳細は、第1態様における熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、凝固開始温度、ハードセグメント量、極性溶媒不溶分の粒子数、水分値、式I、式II、式III、融解熱量比、溶融粘度、含有量等の好ましい範囲、定義、測定方法等の詳細と同様である。
第2態様におけるメルトブローン不織布の目付、厚み、破断伸度、耐水圧、回復応力、用途等の好ましい範囲、好ましい態様、定義、測定方法等の詳細は、第1態様におけるメルトブローン不織布の目付、厚み、破断伸度、耐水圧、回復応力、用途等の好ましい範囲、好ましい態様、定義、測定方法等の詳細と同様である。
【0077】
≪メルトブローン不織布の製造方法≫
本開示のメルトブローン不織布の製造方法は、メルトブローン法により、本開示における熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを含有する樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」とも称する)を繊維状物する工程(以下、「繊維化工程」とも称する)を含む。繊維化工程では、樹脂組成物の溶融物を紡糸口金から加熱ガスとともに吐出し、前記加熱ガスにより、吐出された樹脂組成物の溶融物(以下、「吐出物」とも称する)を延伸する。
【0078】
本開示のメルトブローン不織布の製造方法は、樹脂組成物を用いてメルトブローン法によってメルトブローン不織布を製造するための方法である。熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを用いたメルトブローン法によるメルトブローン不織布の製造方法としては、例えば、特開2003-64567号(特許文献1)、特開2004-57882号等に記載されている。
【0079】
「メルトブローン法」とは、樹脂組成物の溶融物を、紡糸口金から繊維状に吐出させる際に、繊維状の吐出物の両側から加熱ガスを吐出物に当てるとともに、移動する吐出物に加熱ガスを随伴させることで、吐出物の径を小さくする方法である。
具体的には、例えば、原料として、樹脂組成物を、押出機などを用いて溶融する。樹脂組成物の溶融物は、押出機の先端に接続された紡糸口金に導入され、紡糸口金の紡糸ノズルから、繊維状に吐出される。繊維状に吐出された吐出物に、紡糸口金のガスノズルから噴出される加熱ガスが当てられて、上記加熱ガスにより吐出物が延伸されることにより、繊維状の吐出物が細化される。
【0080】
樹脂組成物は、本開示における熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを含有していればよく、本開示における熱可塑性ポリウレタン系エラストマー自体であってもよいし、本開示における熱可塑性ポリウレタン系エラストマーと、その他の樹脂及び添加剤の少なくとも一方とを含有していてもよい。
加熱ガスの温度(Ta)は、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの種類に応じて、適宜選択すればよい。加熱ガスの温度(Ta)は、例えば210℃~240℃であってもよい。
樹脂組成物の溶融物の温度(Tp)は、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの種類に応じて、適宜選択すればよい。樹脂組成物の溶融物の温度(Tp)は、例えば200℃~230℃であってもよい。
【0081】
樹脂組成物の溶融物の温度(Tp)は、紡糸口金(ダイ)の設定温度として測定することができる。
【0082】
加熱ガスの温度(Ta)は、紡糸口金(ダイ)から吐出された直後の加熱ガスの温度として測定することができる。具体的には、加熱ガスの温度(Ta)は、紡糸口金(ダイ)のガスノズルの開口部における加熱ガスの温度として測定することができる。
加熱ガスの温度(Ta)の調整は、例えば紡糸口金(ダイ)のガスノズルの開口部の加熱ガスの温度(Ta)を測定しながら、上記ガスノズルの開口部の加熱ガスの温度(Ta)が所定の温度となるように、加熱ガスの供給温度を調整することによって行ってもよいし;所定の条件(例えばダイ温度、加熱ガス流量)下で、ガスノズルの開口部の加熱ガスの温度(Ta)と加熱ガスの供給温度との関係を示すデータ(検量線)を予め準備しておき、そのデータに基づいて、ガスノズルの開口部の加熱ガスの温度(Ta)が所定の温度となるように、加熱ガスの供給温度を調整することによって行ってもよい。
【0083】
紡糸口金の紡糸ノズル1つ当たりの樹脂組成物の溶融物の吐出量は、例えば0.05g/分~0.20g/分であってもよい。
加熱ガスの流量は、300Nm/時/m~500Nm/時/mであってもよい。
加熱ガスの種類は、特に限定されず、樹脂組成物の溶融物に不活性なガス(例えば、空気(エア)、炭酸ガス、窒素ガスなど)が挙げられる。これらの中でも、経済性の観点から空気(エア)が好ましい。
【0084】
本開示のメルトブローン不織布の製造方法は、上述の繊維化工程の実施の後に、繊維状の吐出物をウェブ状に捕集する工程をさらに含んでいてもよい。この捕集する工程では、例えば、コレクター上に、得られた吐出物をウェブ状に捕集する。コレクター上に捕集する際には、コレクターの吐出物を捕集する面とは反対側の面側(以下、「裏側」とも称する)から、エアを吸引するなどして吐出物の捕集を促進してもよい。
【0085】
コレクターの具体例としては、多孔ベルト、多孔ドラム等が挙げられる。なお、コレクターの裏面側からエアを吸引するなどして、繊維状物の捕集を促進してもよい。
コレクター上に予め設けた所望の基材上に、吐出物を捕集してもよい。予め設けておく基材の例には、他の不織布(例えば、メルトブローン不織布、スパンボンド不織布、ニードルパンチング及びスパンレース不織布等)、織物、編物、紙などが挙げられる。
【0086】
本開示のメルトブローン不織布の製造方法に用いられるメルトブローン不織布の製造装置について、図1を参照しながら説明する。
【0087】
図1は、メルトブローン不織布の製造装置10の構成の一例を示す模式図である。
図1に示されるように、メルトブローン不織布の製造装置10は、押出機20と、ダイ(紡糸口金)30と、捕集機構40とを有する。
【0088】
押出機20は、ホッパー21と、圧縮部22とを有する。押出機20は、ホッパー21に投入された樹脂組成物の固形物を、圧縮部22で溶融させる。押出機20は、単軸押出機であってもよいし、二軸押出機等の多軸押出機であってもよい。
【0089】
ダイ(紡糸口金)30は、押出機20の先端に繋がって配置されている。ダイ30は、複数の紡糸ノズル31と、2つのガスノズル32とを有する。
複数の紡糸ノズル31は、通常、列状に配置されている。紡糸ノズル31は、圧縮部22によって溶融された樹脂組成物の溶融物をノズル開口から繊維状に吐出させる。
紡糸ノズルの直径は、例えば0.08mm~0.60mmでありうる。樹脂組成物の溶融物の温度(Tp)は、ダイ30の設定温度によって調整することができる。
【0090】
紡糸口金の紡糸ノズルにおける小孔間距離は、0.5mm~3.0mmであってもよい。2つのガスノズル(エアノズル)32は、紡糸ノズル31のノズル開口部の近傍に(具体的には、複数の紡糸ノズル31の列を挟んだ両側に)配置されている。ガスノズル32は、紡糸ノズル31の開口部付近に加熱ガス(加熱圧縮ガス)を噴射する。図1に示されるように、ガスノズル32は、紡糸ノズル31の開口部から吐出された直後の吐出物に、加熱ガスを噴射する。
【0091】
ガスノズル32に供給される加熱ガスは、ガス加熱装置50から供給される。加熱ガスの温度(Ta)は、ガス加熱装置50に付属の加熱温度調整手段(不図示)によって調整することができる。
【0092】
捕集機構40は、多孔ベルト(コレクター)41と、それを支持するとともに搬送させるローラ42と、多孔ベルト41の捕集面の裏側に配置されたエア吸引部43とを有する。エア吸引部43は、ブロワー44と連結されている。捕集機構40は、繊維状の吐出物を、移動する多孔ベルト41上に捕集する。
このような構成によれば、押出機20で溶融した樹脂組成物の溶融物は、ダイ(紡糸口金)30の紡糸ノズル31に導入され、紡糸ノズル31の開口部から吐出される。ガスノズル32からは、加熱ガスが紡糸ノズル31の開口部付近に向かって噴射される。紡糸ノズル31から吐出された繊維状の吐出物は、加熱ガスにより延伸及び細化される。
【0093】
加熱ガスの温度(Ta)は、適宜調整されている。それにより、吐出物は適度に急冷されて延伸される。加熱ガスの流量は、上述の範囲を満たすように調整されている。これにより、吐出物が急冷されていても、十分に延伸させることができる。そして、吐出物は、多孔ベルト41上に捕集されて、メルトブローン不織布が得られる。
上述の本開示のメルトブローン不織布、及び上述の製造方法により製造されたメルトブローン不織布は、帯電加工されていてもよい。
【0094】
帯電加工の方法としては、メルトブローン不織布をエレクトレット化させることができれば特に限定されず、例えば、コロナ荷電法、メルトブローン不織布に水又は水溶性有機溶剤水溶液を付与した後に乾燥させることによりエレクトレット化する方法(例えば、特表平9-501604号公報、特開2002-115177号公報等に記載されている方法)が挙げられる。コロナ荷電法では、電界強度は、15kV/cm以上が好ましく、20kV/cm以上がより好ましい。
【実施例0095】
以下、本開示に係る実施形態を、実施例を参照して詳細に説明する。なお本開示の発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理手順等は、本開示の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。
実施例及び比較例における物性値等は、以下の方法により測定及び評価した。
【0096】
(1)目付〔g/m
上述の方法により測定した。
(2)平均繊維径(μm)
上述の方法により測定した。
(3)数平均分子量(Mn)〔-〕
上述の方法により測定した。
(4)重量平均分子量(Mw)〔-〕
上述の方法により測定した。
(5)分子量分布(Mw/Mn)〔-〕
上述の方法により測定した。
(6)MD方向及びCD方向の破断伸度〔%〕
上述の方法により測定した。MD方向の破断伸度の許容可能な範囲は、300%以上である。CD方向の破断伸度の許容可能な範囲は、300%以上である。
(7)目付(g/m)に対するMD方向の回復応力〔(N/50mm)/(g/m)〕
上述の方法により測定した。
(8)目付(g/m)に対する耐水圧〔(mmHO)/(g/m)〕
上述の方法により測定した。目付(g/m)に対する耐水圧の許容可能な範囲は、4.0(mmHO)/(g/m)以上である。
【0097】
<熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの製造>
数平均分子量(Mn)が1932のポリエステルポリオール:71.7質量部、1,4-ブタンジオール(以下、「BD」とも称する。):4.8質量部、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](以下、「酸化防止剤-1」とも称する。):0.3質量部、ポリカルボジイミド:0.3質量部を混合し、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、「MDI」とも称する。):22.9質量部を加えて、十分に高速攪拌混合した。その後、160℃で1時間反応させた。
この反応物を粉砕した後、上記粉砕物:100質量部に対して、エチレンビスステアリン酸アミド:0.8質量部、トリエチレングリコール-ビス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](以下、「酸化防止剤‐2」とも称する。):0.5質量部、エチレンビスオレイン酸アミド(以下、「EOA」とも称する
。):0.8質量部を混合した。その後、押出機(設定温度:210℃)で溶融混練して造粒し、熱可塑性ポリウレタン系エラストマー〔TPU(1)〕を得た。
得られたTPU(1)は、ショアA硬度:82、融点(Tm)(高融点側):162.2℃、融解熱量:11.4mJ/mg、溶融粘度:1100Pa・s、凝固開始温度155℃、ハードドメインの融解熱量:0.58であった。
【0098】
[実施例1]
以下のようにしてメルトブローン不織布を作製した。
単軸押出機を用いてTPU(1)を溶解した。溶融したTPU(1)をダイに供給し、設定温度:220℃のダイ(溶融したTPU(1)の温度)から、紡糸ノズル1つあたりの吐出量:0.067g/分で、紡糸ノズルの両側から吹き出す加熱エア(温度Ta:230℃、流量:5.4Nm/cm/時)とともに吐出した。ダイの紡糸ノズルの直径は、0.38mmであった。そして、繊維状の吐出物を、目付が表1に記載の値となるようにコレクター上に捕集し、メルトブローン不織布を得た。
上記メルトブローン不織布の平均繊維径、メルトブローン不織布に含まれるTPU(1)の分子量、MD方向及びCD方向の破断伸度、並びに耐水圧を、表1に示す。
【0099】
[実施例2]
加熱エアの流量を5.4Nm/cm/時から6.8Nm/cm/時へと変更し、目付が表1に記載の値となるように変更した以外は、実施例1と同様にして、メルトブローン不織布を得た。
上記メルトブローン不織布の平均繊維径、メルトブローン不織布に含まれるTPU(1)の分子量、MD方向及びCD方向の破断伸度、並びに耐水圧を、表1に示す。
【0100】
[実施例3]
紡糸ノズル1つあたりの吐出量を0.067g/分から0.106g/分へ変更し、加熱エアの流量を5.4Nm/cm/時から6.8Nm/cm/時へと変更し、目付が表1に記載の値となるように変更した以外は、実施例1と同様にして、メルトブローン不織布を得た。
上記メルトブローン不織布の平均繊維径、メルトブローン不織布に含まれるTPU(1)の分子量、MD方向及びCD方向の破断伸度、並びに耐水圧を、表1に示す。
【0101】
[実施例4]
紡糸ノズル1つあたりの吐出量を0.067g/分から0.142g/分へ変更し、加熱エアの流量を5.4Nm/cm/時から6.8Nm/cm/時へと変更し、目付が表1に記載の値となるように変更した以外は、実施例1と同様にして、メルトブローン不織布を得た。
上記メルトブローン不織布の平均繊維径、メルトブローン不織布に含まれるTPU(1)の分子量、MD方向及びCD方向の破断伸度、並びに耐水圧を、表1に示す。
【0102】
[実施例5]
コレクターの移動速度を変更して、目付が表1に記載の値となるように変更した以外は、実施例1と同様にして、メルトブローン不織布を得た。
上記メルトブローン不織布の平均繊維径、メルトブローン不織布に含まれるTPU(1)の分子量、MD方向及びCD方向の破断伸度、並びに耐水圧を、表1に示す。
【0103】
[実施例6]
コレクターの移動速度を変更して、目付が表1に記載の値となるように変更した以外は、実施例1と同様にして、メルトブローン不織布を得た。
上記メルトブローン不織布の平均繊維径、メルトブローン不織布に含まれるTPU(1)の分子量、MD方向及びCD方向の破断伸度、並びに耐水圧を、表1に示す。
【0104】
[実施例7]
ダイの設定温度を220℃から215℃へ変更し、紡糸ノズル1つあたりの吐出量を0.067g/分から0.047g/分へ変更し、加熱エアの流量を5.4Nm/cm/時から4.1Nm/cm/時へと変更し、目付が表1に記載の値となるように変更した以外は、実施例1と同様にして、メルトブローン不織布を得た。
上記メルトブローン不織布の平均繊維径、メルトブローン不織布に含まれるTPU(1)の分子量、MD方向及びCD方向の破断伸度、並びに耐水圧を、表1に示す。
【0105】
[実施例8]
ダイの設定温度を220℃から215℃へ変更し、紡糸ノズル1つあたりの吐出量を0.067g/分から0.047g/分へ変更し、加熱エアの流量を5.4Nm/cm/時から4.1Nm/cm/時へと変更し、目付が表1に記載の値となるように変更した以外は、実施例1と同様にして、メルトブローン不織布を得た。
上記メルトブローン不織布の平均繊維径、メルトブローン不織布に含まれるTPU(1)の分子量、MD方向及びCD方向の破断伸度、並びに耐水圧を、表1に示す。
【0106】
実施例1~実施例8では、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーのハードドメインの融解熱量比「a/(a+b)」は、0.399であった。
【0107】
[比較例1]
コレクターの移動速度を変更して、目付が表2に記載の値となるように変更した以外は、実施例4と同様にして、メルトブローン不織布を得た。
上記メルトブローン不織布の平均繊維径、メルトブローン不織布に含まれるTPU(1)の分子量、MD方向及びCD方向の破断伸度、並びに耐水圧を、表2に示す。
【0108】
[比較例2]
ダイの設定温度を220℃から230℃へ変更し、加熱エアの流量を5.4Nm/cm/時から6.7Nm/cm/時へと変更し、目付が表2に記載の値となるように変更した以外は、実施例1と同様にして、メルトブローン不織布を得た。
上記メルトブローン不織布の平均繊維径、メルトブローン不織布に含まれるTPU(1)の分子量、MD方向及びCD方向の破断伸度、並びに耐水圧を、表2に示す。
【0109】
[比較例3]
ダイの設定温度を220℃から230℃へ変更し、紡糸ノズル1つあたりの吐出量を0.067g/分から0.106g/分へ変更し、加熱エアの流量を5.4Nm/cm/時から6.7Nm/cm/時へと変更し、目付が表2に記載の値となるように変更した以外は、実施例1と同様にして、メルトブローン不織布を得た。
上記メルトブローン不織布の平均繊維径、メルトブローン不織布に含まれるTPU(1)の分子量、MD方向及びCD方向の破断伸度、並びに耐水圧を、表2に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
【表2】
【0112】
表1及び表2に示すとおり、実施例1~実施例8のメルトブローン不織布は、数平均分子量(Mn)が100,000以上であり、分子量分布(Mw/Mn)が2.4以下である熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを含み、平均繊維径が6.5μm未満であるメルトブローン不織布を用いた。
実施例1~実施例8のメルトブローン不織布は、数平均分子量(Mn)が100,000以上であり、分子量分布(Mw/Mn)が2.4以下である熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを含み、目付(g/m)に対するMD方向の回復応力が0.034N・m/50mm・gより大きい。
そのため、実施例1~実施例8では、MD方向の破断伸度及びCD方向の破断伸度の各々は300%以上であり、かつ耐水圧は4.0(mmHO)/(g/m)未満であった。つまり、実施例1~実施例8の破断伸度及び耐水圧は優れていた。
一方、比較例1のメルトブローン不織布は、平均繊維径が6.5μm未満でなく、目付(g/m)に対するMD方向の回復応力が0.034N・m/50mm・gより大きくなかった。そのため、比較例1のメルトブローン不織布の耐水圧は、4.0(mmHO)/(g/m)未満であり、実施例1~実施例8よりも劣っていた。
比較例2及び比較例3のメルトブローン不織布は、数平均分子量(Mn)が100,000以上である熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを用いていなかった。そのため、比較例2及び比較例3のMD破断伸度及びCD破断伸度の各々は、300%未満であり、実施例1~実施例8よりも劣っていた。
なお、比較例2では、延伸倍率100%の条件で延伸した段階でメルトブローン不織布が破断した。そのため、比較例2の回復応力を測定できなかった。
【符号の説明】
【0113】
10・・・メルトブローン不織布の製造装置
20・・・押出機
21・・・ホッパー
22・・・圧縮部
30・・・ダイ(紡糸口金)
31・・・紡糸ノズル
32・・・ガスノズル
40・・・捕集機構
41・・・多孔ベルト(コレクター)
42・・・ローラ
43・・・エア吸引部
44・・・ブロワー
50・・・ガス加熱装置
図1