(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147253
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】液状組成物およびコーティング構造体
(51)【国際特許分類】
C09D 127/12 20060101AFI20231004BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20231004BHJP
B32B 27/42 20060101ALI20231004BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20231004BHJP
A61L 29/08 20060101ALI20231004BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20231004BHJP
C09D 161/28 20060101ALN20231004BHJP
【FI】
C09D127/12
B32B27/30 D
B32B27/42
C08J7/04 Z CEW
C08J7/04 CEZ
A61L29/08 100
A61L31/10
C09D161/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048342
(22)【出願日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2022052851
(32)【優先日】2022-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390005050
【氏名又は名称】東邦化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】増原 直治
【テーマコード(参考)】
4C081
4F006
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4C081AC06
4C081AC08
4C081BB05
4C081CA132
4C081CA152
4C081DC01
4F006AA18
4F006AA33
4F006AB19
4F006AB33
4F006BA09
4F006CA09
4F006DA04
4F006EA05
4F100AB04C
4F100AK18A
4F100AK36A
4F100AK36B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CC01A
4F100CC01B
4F100GB32
4F100JK12A
4F100JK16A
4F100JL10B
4J038CD101
4J038DA161
4J038PB01
(57)【要約】
【課題】滑り性および耐久性に優れるコーティング層を形成可能であり、且つ安定性に優れ取扱いが容易である組成物を提供する。また、滑り性および耐久性に優れるコーティング層を備えるコーティング構造体を提供する。
【解決手段】本開示の液状組成物の一実施形態は、フッ素系樹脂および水性メラミン系化合物を含む。また、本開示の一実施形態に係るコーティング構造体1は、基材2と、基材2の少なくとも一部の外表面を被覆する第一コーティング層3とを備え、第一コーティング層3はフッ素系樹脂およびメラミン系樹脂を含み、第一コーティング層3表面の鉛筆硬度(500g荷重)は3B以上、厚さは0.5~10μm、JIS K7125に準拠して測定される静摩擦係数は0.50以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系樹脂および水性メラミン系化合物を含む液状組成物。
【請求項2】
前記液状組成物中の前記フッ素系樹脂の含有割合は、前記液状組成物の総量100質量%に対して5質量%以上60質量%以下である、請求項1に記載の液状組成物。
【請求項3】
前記液状組成物中の前記水性メラミン系化合物の含有量は、前記フッ素系樹脂の総量100質量部に対して10質量部以上250質量部以下である、請求項1に記載の液状組成物。
【請求項4】
さらにプロトン性溶媒を含む請求項1に記載の液状組成物。
【請求項5】
基材と、前記基材の少なくとも一部の外表面を被覆する第一コーティング層とを備え、
前記第一コーティング層は請求項1に記載の液状組成物により形成された層である、コーティング構造体。
【請求項6】
前記第一コーティング層の膜厚は0.5~10μmである請求項5に記載のコーティング構造体。
【請求項7】
基材と、前記基材の少なくとも一部の外表面を被覆する第一コーティング層とを備え、
前記第一コーティング層はフッ素系樹脂およびメラミン系樹脂を含み、
前記第一コーティング層表面の鉛筆硬度(500g荷重)は3B以上、厚さは0.5~10μm、JIS K7125に準拠して測定される静摩擦係数は0.50以下である、コーティング構造体。
【請求項8】
前記基材および前記第一コーティング層の間に、さらに第二コーティング層を備える、請求項5または7に記載のコーティング構造体。
【請求項9】
前記第二コーティング層はメラミン系樹脂を含む請求項8に記載のコーティング構造体。
【請求項10】
前記第二コーティング層は着色層であり、前記第一コーティング層を介して前記第二コーティング層の色を視認可能である、請求項8に記載のコーティング構造体。
【請求項11】
前記基材はワイヤー状である請求項5または7に記載のコーティング構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液状組成物およびコーティング構造体に関する。より詳細には、液状組成物、および、上記液状組成物より形成されたコーティング層を備えるコーティング構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、内視鏡を用いた生体管腔等の観察や処置に使用されるガイドワイヤーやカテーテルなどには、体内への挿入を容易とするためや体内組織に触れた際に傷をつけないようにするために、表面に滑り性を付与するコーティング層が形成されている。
【0003】
このようなコーティング層を形成する組成物として、例えば特許文献1には、固体潤滑剤と、含窒素分散剤と、熱硬化性樹脂と、溶媒とを含有する内視鏡用コーティング組成物が開示されている。また、特許文献2には、低摩擦樹脂材料と顔料とを含む層を表面に設けた医療用具が開示されている。
【0004】
また、エンジン、トランスミッション等の自動車使用される様々な機器にも摺動部材が用いられることがある。例えば特許文献3には、特定の超高分子量ポリマーを特定量で含む摺動用樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-116336号公報
【特許文献2】国際公開第2010/018762号
【特許文献3】特開2015-124311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のようなコーティング層や摺動部材は、使用中において繰り返し擦れが発生するため、滑り性に優れることに加えて、耐久性に優れることが求められる。また、コーティング層を形成する組成物には、安定性に優れ、取扱いが容易であることが求められる。
【0007】
従って、本開示の目的は、滑り性および耐久性に優れるコーティング層を形成可能であり、且つ安定性に優れ取扱いが容易である組成物を提供することにある。また、本開示の他の目的は、滑り性および耐久性に優れるコーティング層を備えるコーティング構造体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一実施形態は、フッ素系樹脂および水性メラミン系化合物を含む液状組成物を提供する。上記液状組成物はフッ素系樹脂を含むことにより、形成されるコーティング層は滑り性に優れる。そして、上記液状組成物はフッ素系樹脂とともに水性メラミン系化合物を含むことにより、液状組成物としての安定性に優れ取扱いが容易であり、コーティング層の滑り性をさらに高くし、そしてコーティング層に硬さを付与し耐久性に優れたものとすることができる。混合安定性およびポットライフは塗料として安定に存在する指標でありポットライフが長いほど、安定に存在する期間が長いので、取扱いも容易になる。
【0009】
上記液状組成物中の上記フッ素系樹脂の含有割合は、上記液状組成物の総量100質量%に対して5質量%以上60質量%以下であることが好ましい。上記含有割合が5質量%以上であることにより、メラミン系化合物と混合した際の上記液状組成物中の混合安定性に優れ、コーティング層の成膜性に優れ、より薄く均一に塗膜を形成することができ、且つコーティング層にフッ素系樹脂の潤滑性を付与でき、コーティング層の滑り性により優れる。上記含有割合が60質量%以下であることにより、メラミン系化合物と混合した際のゲル化を起こりにくくすることができ、上記液状組成物中の混合安定性に優れ、コーティング層の表面硬度が低くなることを防ぎ、耐久性により優れる。
【0010】
上記液状組成物中の上記水性メラミン系化合物の含有量は、上記フッ素系樹脂の総量100質量部に対して10質量部以上250質量部以下であることが好ましい。上記含有量が10質量部以上であることにより、上記液状組成物中のゲル化を起こりにくくすることができ、上記液状組成物の安定性に優れ、形成されるコーティング層の滑り性および表面硬度がより高くなり、耐久性に優れる。上記含有量が250質量部以下であることにより、上記液状組成物中の安定性に優れ、コーティング層の成膜性に優れ、より薄く均一に塗膜を形成することができる。
【0011】
上記液状組成物はさらにプロトン性溶媒を含むことが好ましい。このような構成を有することにより、形成されるコーティング層の表面硬度がより高くなり、また成膜性に優れる。
【0012】
また、本開示の一実施形態は、基材と、上記基材の少なくとも一部の外表面を被覆する第一コーティング層とを備え、上記第一コーティング層は上記液状組成物により形成された層である、コーティング構造体を提供する。このようなコーティング構造体は、上記第一コーティング層の滑り性および耐久性に優れるため、表面の滑り性および耐久性に優れる。
【0013】
上記第一コーティング層の膜厚は0.5~10μmであることが好ましい。上記膜厚が0.5μm以上であることにより、第一コーティング層の耐久性により優れる。上記膜厚が10μm以下であることにより、第一コーティング層の透明性に優れる。また、上記第一コーティング層の膜厚が10μm以下と薄い場合であっても、上記第一コーティング層は耐久性に優れる。
【0014】
また、本開示の一実施形態は、基材と、上記基材の少なくとも一部の外表面を被覆する第一コーティング層とを備え、上記第一コーティング層はフッ素系樹脂およびメラミン系樹脂を含み、上記第一コーティング層表面の鉛筆硬度(500g荷重)は3B以上、厚さは0.5~10μm、JIS K7125に準拠して測定される静摩擦係数は0.50以下である、コーティング構造体を提供する。このようなコーティング構造体は、上記第一コーティング層の滑り性および耐久性に優れるため、表面の滑り性および耐久性に優れる。
【0015】
上記コーティング構造体は、上記基材および上記第一コーティング層の間に、さらに第二コーティング層を備えることが好ましい。このような構成を有することにより、上記第二コーティング層に、第一コーティング層を形成する組成物の塗装時の濡れ性や第一コーティング層形成後の接着性を向上させるなどの各種機能を付与することができる。
【0016】
上記第二コーティング層はメラミン系樹脂を含むことが好ましい。このような構成を有することにより、基材に対する第一コーティング層の密着性により優れ、また第一コーティング層の静摩擦係数が下がり、滑り性に優れる。
【0017】
上記第二コーティング層は着色層であり、上記第一コーティング層を介して上記第二コーティング層の色を視認可能であることが好ましい。このような構成を有することにより、上記第二コーティング層にデザインを付与した場合であっても当該デザインを視認することができる。
【0018】
上記基材はワイヤー状であることが好ましい。このような構成を有することにより、上記コーティング構造体を、ガイドワイヤーやカテーテルなど、表面の滑り性および耐久性に優れることが求められる用途に好ましく用いることができる。
【発明の効果】
【0019】
本開示の液状組成物は、滑り性および耐久性に優れるコーティング層を形成可能であり、且つ安定性に優れ取扱いが容易である。また、本開示のコーティング構造体は、滑り性および耐久性に優れるコーティング層を備えるため、表面の滑り性および耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本開示のコーティング構造体の一実施形態を示す断面図((a)は径方向の断面図、(b)は長さ方向の部分断面図)である。
【
図2】本開示のコーティング構造体の他の一実施形態を示す断面図((a)は径方向の断面図、(b)は長さ方向の部分断面図)である。
【
図3】本開示のコーティング構造体のさらに他の一実施形態を示す断面図((a)は径方向の断面図、(b)は長さ方向の部分断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[液状組成物]
本開示の一実施形態に係る液状組成物は、フッ素系樹脂およびメラミン系化合物を少なくとも含む。上記液状組成物は、室温(例えば20~30℃の少なくとも1点)において液状である。
【0022】
(フッ素系樹脂)
上記液状組成物がフッ素系樹脂を含むことにより、形成されるコーティング層は滑り性に優れる。上記フッ素系樹脂としては、公知乃至慣用のものが使用でき、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロジオキソール(TEE/PDD)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、フルオロエチレン・ビニルエーテル共重合体(FEVE)などが挙げられる。上記フッ素系樹脂は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0023】
上記フッ素系樹脂としては、中でも、コーティング層の滑り性により優れる観点から、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカンが好ましく、より好ましくはポリテトラフルオロエチレンである。
【0024】
上記フッ素系樹脂の平均粒子径(メディアン径D50)は、0.1~2.0μmが好ましく、より好ましくは0.2~0.9μmである。上記平均粒子径が上記範囲内であると、上記液状組成物中の上記フッ素系樹脂の混合安定性により優れる。なお、本明細書において、「混合安定性」とは、2つの成分が混合された状態において、一方の成分が他方の成分中に一様に存在する状態となりやすく、またその状態で安定しやすい性質をいうものとする。
【0025】
上記液状組成物中の上記フッ素系樹脂の含有割合は、上記液状組成物の総量100質量%に対して、5~60質量%が好ましく、より好ましくは10~55質量%、さらに好ましくは15~50質量%、もっとも好ましくは20~45質量%である。上記含有割合が5質量%以上であると、メラミン系化合物と混合した際の上記液状組成物中の混合安定性に優れ、コーティング層の成膜性に優れ、より薄く均一に塗膜を形成することができ、且つコーティング層にフッ素系樹脂の潤滑性を付与でき、コーティング層の滑り性により優れる。上記含有割合が60質量%以下であると、メラミン系化合物と混合した際のゲル化を起こりにくくすることができ、上記液状組成物中の混合安定性に優れ、コーティング層の表面硬度が低くなることを防ぎ、コーティング層の耐久性により優れる。上記含有割合は、コーティング層の滑り性により優れる観点からは、さらに好ましくは20質量%以上、特に好ましくは30質量%以上である。上記含有割合は、基材に対する密着性により優れる観点からは、35質量%以下であってもよく、30質量%以下であってもよい。
【0026】
(メラミン系化合物)
上記メラミン系化合物としては、メラミンや、メラミンとホルムアルデヒドとを縮合して得られるメチロールメラミン誘導体、フェノール変性メラミン、メチロールメラミン誘導体とアルコールとを脱水縮合して得られる化合物等のエーテル化メラミン(例えば、メチルエーテル化メラミン、ブチルエーテル化メラミン等)、エポキシ変性メラミン、イソブチルアルコール変性メラミン等の変性メラミン、これらの重合物(メラミン系樹脂)などが挙げられる。上記メチロールメラミン誘導体としては、モノメチロールメラミン、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、テトラメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミンなどが挙げられる。上記メラミン系化合物は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0027】
上記メラミン系化合物としては、中でも、水性メラミン系化合物が好ましい。上記液状組成物がフッ素系樹脂とともに水性メラミン系化合物を含むと、コーティング層の滑り性をさらに高くし、そしてコーティング層に硬さを付与し耐久性に優れたものすることができる。
【0028】
上記水性メラミン系化合物は、室温において水に分散または溶解可能なメラミン系化合物であり、例えば水に混合し、一旦加熱した後に室温に冷却した状態において水に分散または溶解しているものであればよく、上記液状組成物の作製時において室温で水に分散または溶解可能であればよい。
【0029】
上記液状組成物中の上記メラミン系化合物の含有割合は、上記液状組成物の総量100質量%に対して、2~40質量%が好ましく、より好ましくは3~35質量%、さらに好ましくは4~30質量%である。上記含有割合が2質量%以上であると、フッ素系樹脂と混合した際のゲル化を起こりにくくすることができ、上記液状組成物中の混合安定性に優れ、コーティング層の表面硬度が低くなることを防ぎ、耐久性により優れる。上記含有割合が40質量%以下であると、フッ素系樹脂と混合した際の上記液状組成物中の混合安定性に優れ、コーティング層の成膜性に優れ、より薄く均一に塗膜を形成することができ、且つコーティング層にフッ素系樹脂の潤滑性を付与でき、コーティング層の滑り性により優れる。上記含有割合は、コーティング層の滑り性により優れる観点からは、10質量%以下であってもよく、8質量%以下であってもよい。上記含有割合は、基材に対する密着性により優れる観点からは、10質量%以上であってもよく、15質量%以上であってもよい。
【0030】
上記液状組成物中の上記メラミン系化合物の含有量は、上記フッ素系樹脂の総量100質量部に対して、10~250質量部が好ましく、より好ましくは10~200質量部、さらに好ましくは10~150質量部であり、もっとも好ましくは10~120質量部である。上記含有量が10質量部以上であると、フッ素系樹脂と混合した際のゲル化を起こりにくくすることができ、上記液状組成物中の混合安定性に優れ、コーティング層の表面硬度が低くなることを防ぎ、耐久性により優れる。上記含有量が250質量部以下であると、フッ素系樹脂と混合した際の上記液状組成物中の混合安定性に優れ、コーティング層の成膜性に優れ、より薄く均一に塗膜を形成することができ、且つコーティング層にフッ素系樹脂の潤滑性を付与でき、コーティング層の滑り性により優れる。上記含有量は、コーティング層の滑り性により優れる観点からは、さらに好ましくは100質量部以下、さらに好ましくは80質量部以下、特に好ましくは40質量部以下である。上記含有量は、基材に対する密着性により優れる観点からは、40質量部以上であってもよく、50質量部以上、60質量部以上であってもよい。
【0031】
(溶媒)
上記液状組成物は溶媒を少なくとも含む。上記溶媒としては、水や有機溶剤などが挙げられる。上記溶媒としてはプロトン性溶媒が好ましい。プロトン性溶媒を含むと、形成されるコーティング層の表面硬度がより高くなり、また成膜性に優れる。上記溶媒は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。上記溶媒は、上記液状組成物を塗布した後、乾燥により除去することができる。なお、上記溶媒は「分散媒」の意味も含む。
【0032】
上記プロトン性溶媒としては、例えば、水、アルコール、アミンなどが挙げられる。上記アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロパノール、ブタノール等のC1-4アルコールなどが挙げられる。中でも、水を含むことが特に好ましい。
【0033】
上記溶媒中の上記プロトン性溶媒の含有割合は、上記溶媒の総量100質量%に対して、10質量%以上が好ましく、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。特に、水の含有割合が上記範囲内であることが好ましい。
【0034】
(その他の成分)
上記液状組成物は、上述の各種成分以外のその他の成分を含んでいてもよい。上記その他の成分としては、例えば、フッ素系樹脂以外の樹脂、可塑剤、着色剤、消泡剤、界面活性剤、分散剤、レベリング剤、充填材(シリカ等の無機粒子など)などが挙げられる。上記その他の成分は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0035】
上記液状組成物中のフッ素系樹脂およびメラミン系化合物の合計の含有割合は、上記液状組成物中の樹脂の総量100質量%に対して、50質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。
【0036】
上記液状組成物の固形分濃度は、特に限定されないが、20~60質量%が好ましく、より好ましくは25~50質量%である。上記固形分濃度が上記範囲内であると、液状組成物が塗工時に垂れ落ちにくく、液状組成物の塗工性(特に、ワイヤー状基材への塗工性)に優れる。
【0037】
上記液状組成物は、公知乃至慣用の方法により上記フッ素系樹脂および上記メラミン系化合物を溶媒中で混合することで作製することができる。上記メラミン系化合物は、水分散液または水溶液としてフッ素系樹脂と混合することが好ましい。このように混合することによって、液状組成物中のフッ素系樹脂とメラミン系化合物との混合安定性(相溶性、分散性など)に優れ、ポットライフが向上する。なお、本明細書において、「ポットライフ」とは、液状組成物にしたときの性状安定性を示す指標であり、液状組成物として使用できる最長時間のことをいうものとする。
【0038】
また、上記フッ素系樹脂は、水分散液または水溶液としてメラミン系化合物と混合することが好ましい。このように混合することによって、液状組成物中のフッ素系樹脂とメラミン系化合物との混合安定性およびポットライフが向上する。そして、このようにして得られた液状組成物により形成されるコーティング層の表面硬度がより高くなり、また成膜性に優れる。
【0039】
上記液状組成物を基材上に塗工(塗装)し、加熱等による溶媒の除去およびメラミン系化合物の硬化を経てコーティング層を形成することができる。上記塗工方法(塗装方法)としては、特に限定されないが、スプレー塗装、エレクトロスプレー塗装、ディッピング塗装、グラビアコーティング、スピンコーティングなどが挙げられる。上記コーティング層は、具体的には、上記液状組成物を塗工して形成された塗膜を、まずは比較的低温(例えば100~250℃程度)で加熱して溶媒を除去し、次いで比較的高温(例えば280~400℃程度)でフッ素系樹脂を溶融させつつメラミン系化合物の硬化を行って形成することができる。このように溶媒の除去およびメラミン系化合物の硬化を順次行うことで、コーティング層のクラック発生や発泡などの成膜上の不具合を抑制することができる。上記コーティング層は、表面の滑り性および耐久性に優れる。
【0040】
上記液状組成物は、フッ素系樹脂およびメラミン系化合物の混合安定性(相溶性、分散性など)に優れるため、安定性に優れる。このため、上記液状組成物はポットライフが向上し、また取扱いが容易である。さらに、これにより、上記液状組成物を用いて、均一な膜厚を有し、滑り性および耐久性に優れるコーティング層を作製することができる。さらに、上記液状組成物より形成されるコーティング層は柔軟性に優れる。また、上記液状組成物により形成されるコーティング層は、上記メラミン系化合物から形成されるメラミン樹脂が黄色や茶褐色などに変色しにくく、透明性に優れる。このため、上記コーティング層を介して下層をクリアに視認することができ、下層の視認性に優れる。
【0041】
[コーティング構造体]
本開示のコーティング構造体は、基材と、上記基材の少なくとも一部の外表面を被覆する第一コーティング層とを備える。また、上記第一コーティング層は、上記基材の外表面を直接的に被覆(すなわち基材と第一コーティング層とが直接積層)していてもよく、間接的に被覆(例えば後述の第二コーティング層等の他の層を介して基材と第一コーティング層とが積層)していてもよい。
【0042】
上記第一コーティング層はフッ素系樹脂およびメラミン系樹脂を少なくとも含む。上記コーティング構造体は、上記基材および上記第一コーティング層の間に、さらに第二コーティング層を備えていてもよい。上記コーティング構造体は、上記第二コーティング層を備える場合、上記基材、上記第二コーティング層、および上記第一コーティング層をこの順に備える領域を少なくとも有する。また、上記コーティング構造体は、上記基材、上記第一コーティング層、および上記第二コーティング層以外のその他の層を備えていてもよい。
【0043】
上記コーティング構造体において、上記第一コーティング層および上記第二コーティング層は、それぞれ、単層であってもよく、複数の層から構成される複層であってもよい。例えば、上記第一コーティング層が複層である場合、複数の第一コーティング層は、複数が直接積層していてもよく、第二コーティング層などのその他の層を介して積層していてもよい。例えば、第一コーティング層を形成する組成物を複数回に分けて塗工することで、均一に成膜することや、または、所定膜厚を有する第一コーティング層を形成することができる。複数の第一コーティング層は、構成成分、その割合、および厚さなどが同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。複数の第二コーティング層を有する場合についても同様である。また、各コーティング層において、光の屈折率が異なっていてもよい。
【0044】
(第一コーティング層)
上記第一コーティング層は、上記液状組成物により形成された層であることが好ましい。すなわち、上記第一コーティング層に含まれるフッ素系樹脂は上記液状組成物に含まれるフッ素系樹脂であり、上記メラミン系樹脂は上記液状組成物に含まれるメラミン系化合物の重合物であることが好ましい。
【0045】
上記第一コーティング層表面の鉛筆硬度(500g荷重)は、特に限定されないが、3B以上(例えば3B~7H)が好ましく、より好ましくはHB以上(例えばHB~7H)、さらに好ましくはH以上(例えばH~7H)、さらに好ましくは2H以上(例えば2H~6H)、特に好ましくは3H以上(例えば3H~6H)である。上記鉛筆硬度が3B以上(特にH以上)であると、第一コーティング層の耐久性により優れる。上記鉛筆硬度が7H以下であると、第一コーティング層の柔軟性に優れ、摺動するときの相手材を傷つけにくい。このため、相手材が傷つくことに起因した問題、例えば第一コーティング層と相手材との摺動性の低下や、第一コーティング層および相手材の摩耗といった問題が生じにくい。また、柔軟性に優れることで、ワイヤー状の基材を用いた場合にワイヤーの変形に対する追従性に優れる。上記鉛筆硬度は、JISK5400に記載の方法に準じて評価することができる。
【0046】
上記第一コーティング層表面の鉛筆硬度(1kg荷重)は、特に限定されないが、3B以上(例えば3B~7H)が好ましく、HB以上(例えばHB~7H)、さらに好ましくはH以上(例えばH~7H)、さらに好ましくは2H以上(例えば2H~6H)、特に好ましくは3H以上(例えば3H~6H)である。上記鉛筆硬度が3B以上(特にH以上)であると、第一コーティング層の耐久性により優れる。上記鉛筆硬度が7H以下であると、第一コーティング層の柔軟性に優れ、摺動するときの相手材を傷つけにくい。このため、相手材が傷つくことに起因した問題が生じにくい。また、柔軟性に優れることで、ワイヤー状の基材を用いた場合にワイヤーの変形に対する追従性に優れる。上記鉛筆硬度は、JIS K5400に記載の方法に準じて評価することができる。
【0047】
上記第一コーティング層のJIS K5400(クロスカット法)に準拠して測定される付着性(密着性)は、特に限定されないが、分類0~2が好ましく、より好ましくは分類0~1、さらに好ましくは分類0である。上記分類が上記範囲内であると、上記第一コーティング層の基材(特に、ワイヤー状基材)に対する密着性に優れる。
【0048】
上記第一コーティング層のJIS K7125に準拠して測定される静摩擦係数は、0.50以下が好ましく、より好ましくは0.40以下、さらに好ましくは0.30以下である。上記静摩擦係数が0.50以下であると、第一コーティング層表面の滑り性により優れる。上記静摩擦係数の下限は、例えば0.05である。上記静摩擦係数は、第一コーティング層が平面状の基材に形成された状態で測定される値であり、具体的には実施例に記載の方法で測定される。
【0049】
上記第一コーティング層のJIS K7125に準拠して測定される動摩擦係数は、0.30以下が好ましく、より好ましくは0.20以下、さらに好ましくは0.15以下である。上記動摩擦係数が0.30以下であると、第一コーティング層表面の滑り性により優れる。上記動摩擦係数の下限は、例えば0.05である。上記動摩擦係数は、第一コーティング層が平面状の基材に形成された状態で測定される値であり、具体的には実施例に記載の方法で測定される。
【0050】
上記第一コーティング層の荷重200gの条件で測定される静摩擦係数は、0.10以下が好ましく、より好ましくは0.06以下、さらに好ましくは0.05以下である。上記静摩擦係数が0.10以下であると、第一コーティング層表面の滑り性により優れる。上記静摩擦係数の下限は、例えば0.01である。上記静摩擦係数は、第一コーティング層がワイヤー状の基材に形成された状態で測定される値であり、具体的には実施例に記載の方法で測定される。
【0051】
上記第一コーティング層の荷重200gの条件で測定される動摩擦係数は、0.10以下が好ましく、より好ましくは0.06以下、さらに好ましくは0.05以下である。上記動摩擦係数が0.10以下であると、第一コーティング層表面の滑り性により優れる。上記動摩擦係数の下限は、例えば0.01である。上記動摩擦係数は、第一コーティング層がワイヤー状の基材に形成された状態で測定される値であり、具体的には実施例に記載の方法で測定される。
【0052】
上記第一コーティング層は透明性を有することが好ましい。上記メラミン系化合物から形成されるメラミン樹脂が黄色や茶褐色などに変色しにくいため、上記液状組成物により透明性に優れる第一コーティング層を作製することができる。透明性を有すると、第一コーティング層の下部(例えば、基材や第二コーティング層など)を視認することができる。また、上記第一コーティング層は不透明であってもよく、第一コーティング層の下部を視認できる程度に有色透明や半透明であってもよい。上記第一コーティング層は着色層であってもよいし、無色層であってもよい。
【0053】
上記第一コーティング層の厚さは、0.5~10μmが好ましく、より好ましくは0.8~7μm、さらに好ましくは1~5μmである。上記厚さが0.5μm以上であると、第一コーティング層の耐久性により優れる。上記厚さが10μm以下であると、第一コーティング層の透明性に優れる。また、上記第一コーティング層の厚さが10μm以下と薄い場合であっても、上記第一コーティング層は耐久性に優れる。上記第一コーティング層の厚さは、複層が直接積層されている場合は当該複層の総厚さである。
【0054】
本明細書において、第一コーティング層および第二コーティング層の厚さは、測定対象のコーティング層が最表層に形成された構造体において、当該コーティング層が形成された領域と当該コーティング層が形成されていない領域との段差をレーザー顕微鏡(例えば、商品名「VK-X150」、株式会社キーエンス製)で測定して算出することができる。また、基材の形状がワイヤー状などである場合、測定対象のコーティング層が最表層に形成された構造体において、当該コーティング層が形成されていない領域の外径を測定し、次に当該コーティング層が形成された領域の外径を測定し、その測定値の差を2で割った値をコーティング層の膜厚としてもよい。上記外径の測定は、例えば2次元高速寸法測定器(商品名「TM-3000」、株式会社キーエンス製)やワイヤー線径測定器(型番「LDS2000-1」、CERSA社製)を用いて行うことができる。
【0055】
上記第一コーティング層中のフッ素系樹脂およびメラミン系樹脂の合計の含有割合は、上記第一コーティング層中の樹脂の総量100質量%に対して、50質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。
【0056】
上記第一コーティング層中の上記メラミン系樹脂の含有量は、上記フッ素系樹脂の総量100質量部に対して、10~250質量部が好ましく、より好ましくは10~200質量部、さらに好ましくは10~150質量部であり、もっとも好ましくは10~120質量部である。上記含有量が10質量部以上であると、第一コーティング層の表面硬度が低くなることを防ぎ、耐久性により優れる。上記含有量が250質量部以下であると、第一コーティング層の成膜性に優れ、より薄く均一に塗膜を形成することができ、且つ第一コーティング層にフッ素系樹脂の潤滑性を付与でき、第一コーティング層の滑り性により優れる。上記含有量は、第一コーティング層の滑り性により優れる観点からは、さらに好ましくは100質量部以下、さらに好ましくは80質量部以下、特に好ましくは40質量部以下である。上記含有量は、基材に対する密着性により優れる観点からは、40質量部以上であってもよく、50質量部以上、60質量部以上であってもよい。
【0057】
(基材)
上記基材としては、表面の滑り性および耐久性が求められるものとして使用される公知乃至慣用の基材が挙げられる。上記基材の材質としては、金属、セラミクス、プラスチック、ソーダガラス、石英ガラス、紙、不織布などが挙げられる。中でも金属が好ましい。上記材質は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0058】
上記金属としては、例えば、鉄、金、銀、銅、アルミニウム、リチウム、ニッケル、スズ、パラジウム、クロム、チタン、亜鉛、またはこれらの合金などが挙げられる。上記金属から形成される基材(例えば金属層)としては、例えば、SUS、鋳鉄、鋼、合金層、これらの金属メッキ物などが挙げられる。
【0059】
上記基材の形状としては、ワイヤー状、繊維状、シート状、球状などが挙げられ、第一コーティング層を形成可能な面を有するものであれば特に限定されない。上記基材の形状は、中でも、ワイヤー状が好ましい。上記基材がワイヤー状であると、上記コーティング構造体を、ガイドワイヤーやカテーテルなど、表面の滑り性および耐久性に優れることが求められる用途に好ましく用いることができる。
【0060】
(第二コーティング層)
上記第二コーティング層は、基材および第一コーティング層の間に備えられる。これにより、上記第二コーティング層に、第一コーティング層を形成する組成物の塗装時の濡れ性や第一コーティング層形成後の接着性を向上させるなどの各種機能を付与することができる。上記第二コーティング層は、例えば第一コーティング層の基材に対する塗工性および接着性を改善するプライマー層としての機能を有する。
【0061】
上記第二コーティング層は、単層であってもよいし、複数の層から構成される複層であってもよい。上記第二コーティング層が複層である態様としては、例えば、上記基材の外表面を覆う第二コーティング層(A)と、第二コーティング層(A)外表面に部分的に形成された第二コーティング層(B)との複層が挙げられる。例えば、第二コーティング層(A)を下地とし、第二コーティング層(B)で図柄を形成することにより、上記コーティング構造体にデザイン性をもたせることができる。
【0062】
上記第二コーティング層はフッ素系樹脂を含むことが好ましい。このような構成を有することにより、また、第一コーティング層中のフッ素系樹脂をより高配合にして第一コーティング層表面の滑り性をより高くしつつ、基材に対する第一コーティング層の密着性を高くすることができる。上記フッ素系樹脂は、一種のみを使用してもよく、二種以上を使用してもよい。
【0063】
上記第二コーティング層は、バインダー樹脂を少なくとも含むことが好ましい。上記バインダー樹脂としては、フッ素系樹脂以外の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などが挙げられる。上記熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ゴム系樹脂、アクリル系樹脂などが挙げられる。上記熱硬化性樹脂としては、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、アルキド系樹脂などが挙げられる。上記バインダー樹脂は、一種のみを使用してもよく、二種以上を使用してもよい。
【0064】
また、上記第二コーティング層はフッ素系樹脂とともにバインダー樹脂(特にメラミン系樹脂)を含むことが好ましい。このような構成を有することにより、基材に対する第一コーティング層の密着性により優れ、また第一コーティング層の静摩擦係数が下がり、滑り性に優れる。また、第一コーティング層中のフッ素系樹脂をより高配合にして第一コーティング層表面の滑り性をより高くしつつ、基材に対する第一コーティング層の密着性を高くすることができる。
【0065】
上記第二コーティング層中のフッ素系樹脂および上記バインダー樹脂(特にメラミン系樹脂)の合計の含有割合は、上記第二コーティング層中の樹脂の総量100質量%に対して、50質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。
【0066】
上記第二コーティング層中のフッ素系樹脂の総量100質量部に対する上記バインダー樹脂(特にメラミン系樹脂)の含有量は、上記第一コーティング層中のフッ素系樹脂の総量100質量部に対するメラミン系樹脂の含有量よりも多いことが好ましい。このような構成を有することにより、基材に対する第一コーティング層の密着性により優れる。
【0067】
上記第二コーティング層中の上記バインダー樹脂(特にメラミン系樹脂)の含有量は、上記フッ素系樹脂の総量100質量部に対して、20~350質量部が好ましく、より好ましくは30~300質量部、さらに好ましくは50~250質量部である。上記含有量が20質量部以上であると、基材に対する第一コーティング層の密着性により優れる。上記含有量が350質量部以下であると、第二コーティング層の成膜性に優れ、より均一に塗膜を形成することができる。
【0068】
上記第二コーティング層中のフッ素系樹脂の含有割合は、上記第一コーティング層中のフッ素系樹脂の含有割合よりも少ないことが好ましい。このような構成を有することにより、基材に対する第一コーティング層の密着性により優れる。
【0069】
上記第二コーティング層中の上記フッ素系樹脂の含有割合は、上記第二コーティング層の総量100質量%に対して、10質量%以上が好ましく、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上である。また、上記含有割合は、90質量%以下が好ましく、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。上記含有割合が上記範囲内であると、基材に対する第一コーティング層の密着性により優れる。
【0070】
上記第二コーティング層は、着色層であることが好ましい。また、上記第二コーティング層は不透明層であることが好ましい。この場合、上記第一コーティング層を介して上記第二コーティング層の色を視認可能であることが好ましい。このような構成を有すると、上記第二コーティング層にデザインを付与した場合であっても当該デザインを視認することができる。具体的には、例えば、上記コーティング構造体がガイドワイヤーである場合、ガイドワイヤーによりカテーテル等を生体内に挿入した際において、例えば目視や内視鏡を介して、ガイドワイヤーの第二コーティング層に付されたデザインを視認することでガイドワイヤーの手元での位置や生体内での位置を確認することができる。
【0071】
上記第二コーティング層が着色層である場合、上記第二コーティング層は着色剤を含む。上記着色剤としては、染料や顔料が挙げられる。上記着色剤は、一種のみを使用してもよく、二種以上を使用してもよい。
【0072】
上記第二コーティング層は、不透明であることが好ましい。不透明であると、第二コーティング層の下部(例えば、基材など)を見えないようにすることができ、意匠性を操作することができる。
【0073】
上記第二コーティング層(特に、第二コーティング層(B))は、上記コーティング構造体においてマーカ機能を発揮する層であってもよい。このような第二コーティング層は、放射能不透過性を有していてもよく、また、レーザー光照射により変色する機能(発色性、変色性、脱色性、退色性など)を有していてもよい。
【0074】
放射能不透過性を有する第二コーティング層は、金属粉末(金、白金、パラジウム、タンタル、タングステン合金等)や金属酸化物粉末(硫酸バリウム、炭酸バリウム、酸化ビスマス等)などの放射線不透過材料を含んでいてもよい。
【0075】
レーザー光の照射による発色性を有する第二コーティング層は、無機系発色剤や有機系発色剤等の発色剤を含んでいてもよい。上記無機系発色剤としては、例えば、雲母、酸化チタン、あるいはこれらを含む混合物等の無機材料が挙げられる。雲母を含有する発色剤としては、例えば、クロウンモ系列に属する雲母、シロウンモ系列に属する雲母、合成雲母、さらに、雲母、酸化チタン、酸化ケイ素および酸化アンチモンドープ酸化スズからなる組成物、または、雲母および酸化アンチモンドープ酸化スズからなる組成物、雲母および酸化チタンからなる組成物、雲母、酸化チタンおよび酸化鉄からなる組成物、雲母および酸化鉄からなる組成物が挙げられる。
【0076】
上記第二コーティング層は、上述の各種成分以外のその他の成分を含んでいてもよい。上記その他の成分としては、例えば、可塑剤、消泡剤、界面活性剤、分散剤、レベリング剤、充填材(シリカ等の無機粒子など)などが挙げられる。上記その他の成分は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0077】
上記第二コーティング層の厚さは、例えば0.5~30μmであり、好ましくは0.8~20μm、より好ましくは1~10μmである。上記厚さが0.5μm以上であると、第一コーティング層の基材への密着性により優れる。上記第二コーティング層の厚さが30μm以下であると、コーティング構造体の柔軟性により優れる。上記第二コーティング層の厚さは、複層が直接積層されている場合は当該複層の総厚さである。
【0078】
図1~3に、本開示のコーティング構造体の一実施形態の断面図を示す。
図1~3において、(a)は径方向断面図、(b)は長さ方向断面図をそれぞれ示す。なお、
図1~3に示すコーティング構造体1において基材2は中空を有しないワイヤー状であるが、中空を有していてもよく、複数のワイヤーを束ねた撚り線であってもよく、あるいはワイヤー状以外の形状であってもよい。
【0079】
<第一実施形態>
図1に示すコーティング構造体1は、ワイヤー状である基材2と、基材2の外表面を直接的に被覆する第一コーティング層3とを備える。すなわち、基材2および第一コーティング層3は直接積層している。第一コーティング層3は透明または視認できる程度の半透明である場合、第一コーティング層3の下部にある基材2を視認することができる。また、第一コーティング層3は不透明であってもよい。
【0080】
<第二実施形態>
図2に示すコーティング構造体1は、基材2および第一コーティング層3の間に、基材2の外表面を被覆する第二コーティング層4を備えること以外は、
図1に示すコーティング構造体1と同様である。具体的には、
図2に示すコーティング構造体1は、ワイヤー状である基材2と、基材2の外表面を被覆する第一コーティング層3と、基材2および第一コーティング層3の間に位置する第二コーティング層4とを備える。第二コーティング層4は基材2の外表面を直接的に被覆しており、第一コーティング層3は第二コーティング層4の外表面を被覆しており、同時に基材2を間接的に被覆している。コーティング構造体1は、基材2、第二コーティング層4、および第一コーティング層3をこの順に備える。基材2および第二コーティング層4、ならびに第二コーティング層4および第一コーティング層3はそれぞれ直接積層している。第一コーティング層3は透明または半透明であり、第二コーティング層4は着色層である。この場合、第一コーティング層3を介して第二コーティング層4の色を視認することができる。また、第一コーティング層3は不透明であってもよい。
【0081】
<第三実施形態>
図3に示すコーティング構造体1は、第二コーティング層が複層で構成されていること以外は、
図2に示すコーティング構造体1と同様である。具体的には、
図3に示すコーティング構造体1は、ワイヤー状である基材2と、基材2の外表面を被覆する第一コーティング層3と、基材2および第一コーティング層3の間に位置する2つの第二コーティング層(第二コーティング層(A)41および第二コーティング層(B)42)とを備える。第二コーティング層(A)41は基材2の外表面を直接的に被覆しており、第二コーティング層(B)42は第二コーティング層41(A)の外表面を部分的かつ直接的に被覆しており、第一コーティング層3は第二コーティング層(A)41および第二コーティング層(B)42の外表面を直接的に被覆している。また、第一コーティング層3は基材2を間接的に被覆している。コーティング構造体1は、基材2、第二コーティング層(A)41、第二コーティング層(B)42、および第一コーティング層3をこの順に備える。基材2および第二コーティング層(A)41、第二コーティング層(A)41および第二コーティング層(B)42、第二コーティング層(B)42および第一コーティング層3、ならびに第二コーティング層(A)41および第一コーティング層3はそれぞれ直接積層している。
【0082】
第二コーティング層(B)42は第二コーティング層(A)41上に、コーティング構造体1の長さ方向に沿って断続的に複数形成されており、それぞれの第二コーティング層(B)42はワイヤー状の基材2の周方向に沿って環状に形成されており、結果として縞模様のデザインを形成している。
【0083】
第二コーティング層(B)42により形成されるデザインとしては特に限定されないが、例えば、上述の縞模様以外に、ワイヤー状である基材2を巻回する螺旋模様、格子模様などが挙げられる。上記格子模様としては、線状の第二コーティング層が他の線状の第二コーティング層と複数の箇所で交差して全体として格子状をなす形状が挙げられる。二本の上記線状の第二コーティング層は、共に基材を巻回する螺旋模様であるが、螺旋の巻回方向は互いに異なる。
【0084】
第二コーティング層(A)41および第二コーティング層(B)42は、互いに異なる色を呈する着色層であり、透明または視認可能な程度の半透明である第一コーティング層3を介して、それぞれを区別して視認することができる。第二コーティング層(A)41および第二コーティング層(B)42のそれぞれの色は、上述のように異色であり、第二コーティング層のマーカ機能としての視認性が向上する観点から対照色であることが好ましい。また、マーカ機能を有する第二コーティング層(B)42は、視認性向上のために、上記放射線不透過材料や上記発色剤を含んでいてもよい。
【0085】
上記コーティング構造体としては、上記第一コーティング層を摺動面とする摺動部材などが挙げられる。この場合、上記液状組成物は上記摺動用組成物である。上記コーティング構造体としては、例えば、医療器具や、電子部品、精密機械、自動車等に用いられる軸受け(ベアリング、ブッシュ)、ピストン、ギア、ワッシャー、ワイヤー、チューブ、索導管、金型、ナット、ボルト、シューター、ロール、弁、バルブ、コックなどが挙げられる。
【0086】
上記コーティング構造体は、上記第一コーティング層の摺動性に特に優れる観点から、医療器具であることが好ましい。すなわち、上記液状組成物は医療器具用組成物であることが好ましい。上記第一コーティング層は、特に、血液、バイオ医薬品等、生体、タンパク質製剤等と直接接触して用いられるものに好ましく使用される。
【0087】
上記医療器具としては、カテーテル類(カテーテル、バルーンカテーテルのバルーン、ガイドワイヤー等)、人工血管、血管バイパスチューブ、人工弁、血液フィルター、血漿分離用装置、人工臓器(人工肺、人工腎臓、人工心臓等)、輸血用具、血液の体外循環回路、癒着防止膜、創傷被覆材、メス、ピンセット、コンタクトレンズ、カニューレ、注射筒、注射針、点滴ルート、点滴針、点滴バック、血液バッグ、ガーゼ、ステント、内視鏡等の医療用器具;ピペットチップ、シャーレ、セル、マイクロプレート、保存バッグ、プレート、試薬保管容器、チューブ等の生化学用器具、ミキサー、バイオリアクター、ジャーファーメンター等の細胞治療用機器等、細胞培養用シャーレ、細胞培養用セル、細胞培養用マイクロプレート、細胞培養用バッグ、細胞培養用プレート、細胞培養用チューブ、細胞培養用フラスコ、バイオ医薬品用シャーレ、バイオ医薬品用セル、バイオ医薬品用マイクロプレート、バイオ医薬品用プレート、バイオ医薬品用チューブ、バイオ医薬品用バッグ、バイオ医薬品用容器、バイオ医薬品用シリンジ、バイオ医薬品用フラスコ、抗体医薬品用シャーレ、抗体医薬品用セル、抗体医薬品用マイクロプレート、抗体医薬品用プレート、抗体医薬品用チューブ、抗体医薬品用バッグ、抗体医薬品用容器、抗体医薬品用シリンジ、抗体医薬品用フラスコ、血液バッグ(全血、血漿、血小板、赤血球)、血液製剤用バイアル、血液製剤用バックなどが挙げられる。
【0088】
また、上記コーティング構造体は、基材がワイヤー状の構造体であることが好ましい。上記ワイヤー状の構造体としては、例えば、上述の医療器具におけるワイヤー状の構造体(例えば上記カテーテル類)の他、プッシュアンドプルケーブル等の各種操作ワイヤー、ケーブルなどが挙げられる。この場合、上記第一コーティング層は、絶縁性を有する絶縁コート層であってもよい。
【0089】
本開示の液状組成物は、滑り性および耐久性に優れるコーティング層を形成可能であり、且つ安定性に優れ取扱いが容易である。さらに、上記コーティング層は、表面の柔軟性に優れ、ワイヤー状の基材上に形成した状態においてワイヤーの変形に対する追従性に優れる。また、本開示のコーティング構造体は、滑り性および耐久性に優れるコーティング層を備えるため、表面の滑り性および耐久性に優れる。さらに、本開示のコーティング構造体は、表面の柔軟性に優れ、基材がワイヤー状の構造体である場合はワイヤーの変形に対する追従性に優れる。
【実施例0090】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0091】
実施例1
(液状組成物の作製)
スターラーチップを備えた容器に、ポリテトラフルオロエチレン水性分散液(商品名「ポリフロン PTFE D-210C」、ダイキン工業株式会社製)166.7質量部、メラミン系化合物水性分散液(商品名「ウォーターゾール S-695」、DIC株式会社製)151.5質量部、および水125.8質量部を投入して混合し、常温で30分撹拌して、固形分濃度45.0質量%の液状組成物を作製した。
【0092】
(コーティング層の作製)
基材としてのSUS304板(縦100mm×横100mm×厚さ0.3mm)の表面に、ワイヤーバーNo.9(ウェット膜厚:約20.6μm)を用いて上記液状組成物を塗工して塗膜を形成した。そして、塗膜を形成したSUS304板をオーブンで400℃、3.5分間加熱して塗膜を硬化させ、コーティング層を形成した。このようにして、[SUS304板/コーティング層]の層構造を備えるコーティング構造体を作製した。
【0093】
実施例2~8および比較例1~5
混合する成分、配合量、および固形分濃度等を表に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして液状組成物、コーティング層、およびコーティング構造体を作製した。なお、表中に示す各成分の配合量の単位は「質量部」である。
【0094】
実施例および比較例で使用した、表1に示す成分の詳細は以下の通りである。
<フッ素系樹脂>
D-210C:商品名「ポリフロン PTFE D-210C」、PTFE水性分散液、PTFE濃度60質量%、ダイキン工業株式会社製
AD-2CRER:商品名「ネオフロン PFA AD-2CRER」、PFA水性塗料、PFA濃度50質量%、ダイキン工業株式会社製
KD-1000AS:商品名「KD-1000AS」、PTFEのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)分散液、PTFE濃度40質量%、株式会社喜多村製
<メラミン系化合物>
MM-701:商品名「リケンレヂン MM-701」、水溶液、メラミン系化合物濃度76質量%、三木理研工業株式会社製
S-695:商品名「ウォーターゾール S-695」、水およびメタノールの混合溶液、メラミン系化合物濃度66質量%、DIC株式会社製
<その他の樹脂>
HPC-6000-26:商品名「HPC-6000-26」、ポリアミドイミド/エポキシ樹脂のNMP/キシレン溶液、樹脂濃度26質量%、昭和電工マテリアルズ株式会社製
HPC-5012-32:商品名「HPC-5012-32」、ポリアミドイミド樹脂のNMP溶液、樹脂濃度32質量%、昭和電工マテリアルズ株式会社製
HPC-9000-21:商品名「HPC-9000-21」、ポリアミドイミド樹脂のNMP溶液、樹脂濃度21質量%、昭和電工マテリアルズ株式会社製
【0095】
<評価>
実施例および比較例で得られた液状組成物およびコーティング層について以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
(1)混合安定性(初期)
実施例および比較例で得られた液状組成物について、作製直後において目視で観察し、以下の条件で混合安定性評価を行った。
○:凝集物および沈降が確認されなかった。
×:凝集物および/または沈降が確認された。
【0097】
(2)ポットライフ
実施例および比較例で得られた液状組成物について、20~25℃環境に静置保管した。そして、目視評価において凝集物および/または沈降が確認されるまでの期間を確認した。
【0098】
(3)成膜性
実施例および比較例でコーティング層を作製する際、膜厚が均一な塗膜を形成できなかった場合を「×」、膜厚が均一な塗膜が形成されたが、コーティング層表面を手で触った際にザラザラした感触が感じられた場合を「△」、これらの現象が確認されなかった場合を「○」として評価した。
【0099】
(4)密着性
実施例および比較例で得られたコーティング層について、JIS K5400(クロスカット法)に準拠して測定した。
【0100】
(5)鉛筆硬度
実施例および比較例で得られたコーティング層について、JIS K5400に記載の方法に準じて、荷重500gおよび1kgのそれぞれについて評価を行った。
【0101】
(6)静摩擦係数、動摩擦係数
実施例および比較例で得られたコーティング層について、JIS K7125に準拠して測定した。
【0102】
【0103】
表1に示すように、実施例1~8の液状組成物は、比較例1~5の液状組成物に比してポットライフが長く、長期安定性に優れていた。従って、塗料として用いる際にも調合して直ちに用いる必要が無く、取扱いが容易となる。また、同じNMP溶媒系の液状組成物である実施例6および比較例1~3によれば、メラミン系化合物を用いた実施例6の混合安定性が優れており、比較例は、ポットライフ評価において高粘度化し、特に比較例1においては数時間でゲル化し、比較例4では凝集物の発生も確認された。これらの結果から、実施例1~8の液状組成物は、安定性に優れており取扱いが容易であることがわかる。
【0104】
また、表1に示すように、実施例のコーティング層は、膜厚が1.4~2.5μmと薄いながら、クロスカット評価が100/100(分類0)であり基材に対する密着性に優れており、鉛筆硬度が3B~5Hと硬く、表面の静摩擦係数および動摩擦係数が低かった。このため、実施例のコーティング層は滑り性および耐久性に優れると判断された。中でも、プロトン性溶媒系の液状組成物である場合(実施例1~5,7,8)、成膜性が特に優れており、表面の静摩擦係数および動摩擦係数が特に低かった。また、実施例1~5,7,8において作製したコーティング層において、メラミン樹脂が黄色や茶褐色などに変色する現象は確認されず、青白っぽい半透明な色を呈していた。そして、作製したコーティング層を介して下層であるSUS304板を視認することができた。
【0105】
一方、メラミン系化合物に代えてアミドイミド樹脂を用いた場合、膜厚が3.3μm以上と厚く、1kg荷重の鉛筆硬度がFと低い(比較例1,4)、あるいは摩擦係数が高く(比較例2,3)、滑り性および耐久性の少なくとも一方が劣ると判断された。また、コーティング層が茶褐色に変色し、下層であるSUS304板を視認することができなかった。さらに、バインダー樹脂として二種類のフッ素系樹脂を混合して用いた場合(比較例5)、鉛筆硬度が低く、耐久性に劣ると評価され、密着性も劣っていた。
【0106】
実施例9
実施例4で得られた液状組成物を、ディッピング塗装装置を用いてワイヤー(SUS304、直径0.85mm)にディッピング塗装してワイヤー表面に塗膜を形成した。そして、塗膜を形成したワイヤーをオーブンで400℃、3.5分間加熱して塗膜を硬化させ、膜厚1.5μmのコーティング層を形成した。上記塗膜およびコーティング層はワイヤー表面に均一に形成でき、本発明の液状組成物によればワイヤー状の基材にも問題なくコーティング層を形成可能であることが確認された。
【0107】
実施例10
実施例3で得られた液状組成物を、ディッピング塗装装置を用いてワイヤー(SUS304、直径0.30mm)にディッピング塗装してワイヤー表面に塗膜を形成した。そして、塗膜を形成したワイヤーをオーブンで450℃、数秒間加熱して塗膜を硬化させ、膜厚1.4μmのコーティング層を形成した。
【0108】
実施例11
(液状組成物の作製)
スターラーチップを備えた容器に、フルオロエチレン・ビニルエーテル共重合体エマルジョン(商品名「ルミフロンFE4400」、FEVE水性分散液、FEVE濃度52質量%、AGC株式会社製)146質量部、メラミン系化合物水性分散液(商品名「リケンレヂンMM-701」、水溶液、メラミン系化合物濃度76質量%、三木理研工業株式会社製)100質量部、および水30質量部を投入して混合し、常温で30分撹拌して、固形分濃度55質量%の液状組成物を作製した。
【0109】
(第二コーティング層の作製)
実施例10と同様に、上記で得られた液状組成物を、ディッピング塗装装置を用いてワイヤー(SUS304、直径0.30mm)にディッピング塗装してワイヤー表面に塗膜を形成した。そして、塗膜を形成したワイヤーをオーブンで400℃、数秒間加熱して塗膜を硬化させ、膜厚4.5μmのコーティング層を形成した。
【0110】
(第一コーティング層の作製)
形成した上記第二コーティング層の表面に、実施例9と同様に、実施例3で作製した液状組成物を、ディッピング塗装装置を用いてワイヤー(SUS304、直径0.30mm)にディッピング塗装してワイヤー表面に塗膜を形成した。そして、塗膜を形成した後オーブンで450℃、数秒間加熱して塗膜を硬化させ、第一コーティング層を形成した。このようにして、[基材/第二コーティング層/第一コーティング層]の層構造を備えるコーティング構造体を作製した。
【0111】
実施例12
第二コーティング層を形成する液状組成物として、ポリテトラフルオロエチレン水性プライマー(商品名「ポリフロン PTFE EK-1909S21R」ダイキン工業株式会社製)を使用したこと以外は実施例11と同様にして第二コーティング層およびコーティング構造体を作製した。
【0112】
<評価>
実施例10~12で得られたコーティング構造体について以下の評価を行った。結果を表2に示す。
【0113】
(1)外径・膜厚
ワイヤー線径測定器(型番「LDS2000-1」、CERSA社製)を用いて、外周約200点において測定を行い、その平均値を算出して、基材外径、第二コーティング層形成時の外径(コーティングワイヤ外径)、および最外層に位置するコーティング層の膜厚(最外層膜厚)を測定した。
【0114】
(2)摩擦係数
実施例で得られたコーティング構造体表面について、摩擦摩耗試験機(商品名「トライボギア TYPE:40」、新東科学株式会社製)を用いて測定した。具体的には、ワイヤー状のコーティング構造体の両端を治具で固定し、ステージ上のコーティング構造体表面に対し、SUS製のローラー治具を使用し、往路のみ、荷重200g、速度100mm/minの条件で100mm移動させて測定した。測定により摩擦力を得、当該摩擦力を荷重で除することにより摩擦係数を算出した。
【0115】
(3)塗膜強度
上記摩擦係数の評価後のコーティング構造体表面の外観をマイクロスコープで観察し、状態を確認し、以下の基準で評価した。
<基準>
1 傷・剥離・凹みなし
2-1 塗膜にわずかな凹みあり
2-2 塗膜に中程度の凹みあり
2-3 塗膜に小さくない凹みが確認されたが使用可能で問題なし
3 塗膜に白化または傷あり
4 塗膜に白化および傷あり
5 塗膜に剥離あり
【0116】
【0117】
表2に示すように、実施例10~12のワイヤー状のコーティング構造体は、いずれも表面の静摩擦力および動摩擦力が低く、実施例のコーティング構造体表面は滑り性に優れると判断された。また、塗膜強度の評価ではいずれの実施例でも傷および剥離がなく、凹みが確認された程度であり、柔軟性に優れ、ワイヤー等の基材の変形に対する追従性に優れることがわかる。特に、実施例10および実施例11,12の対比から、基材と第一コーティング層の間に第二コーティング層を備えることで、静摩擦力が小さくなり、そして凹みが小さくなり、滑り性および塗膜強度に優れることがわかる。さらに、実施例11および実施例12の対比から、第二コーティング層がメラミン樹脂を含むことでさらに静摩擦力および動摩擦力が小さく、滑り性および塗膜強度に優れることがわかる。