(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147270
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】光応答性オリゴヌクレオチド
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6844 20180101AFI20231004BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20231004BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20231004BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z
C12Q1/6869 Z
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023051562
(22)【出願日】2023-03-28
(31)【優先権主張番号】22164966
(32)【優先日】2022-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】520094891
【氏名又は名称】ミルテニー バイオテック ベー.フェー. ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Miltenyi Biotec B.V. & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Friedrich-Ebert-Strasse 68, 51429 Bergisch Gladbach, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ピナード
(72)【発明者】
【氏名】細野 正裕
(72)【発明者】
【氏名】エミリー ニール
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル ペルボス
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QS24
4B063QS34
4B063QS39
4B063QS40
(57)【要約】 (修正有)
【課題】空間的に制御された核酸増幅反応又はシーケンシング反応を提供する。
【解決手段】本発明は、光応答性オリゴヌクレオチドの核酸へのハイブリダイゼーションを、該核酸に相補的なオリゴヌクレオチドを供給することにより行い、その際、オリゴヌクレオチドが、核酸合成のためのポリメラーゼの出発点として機能する方法であって、光応答性オリゴヌクレオチドが、光照射した場合に第1の配座から第2の配座に変化する少なくとも2つの光応答性素子を有し、それにより、オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションが不能または可能となることを特徴とする方法を提供する。それに加えて、本発明は、非対象領域の空間照明によって特定の部位への空間的に制御されたオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを行い、したがってオリゴヌクレオチドの配座を非結合状態に変化させる方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのオリゴヌクレオチドの核酸へのハイブリダイゼーションを、前記核酸に少なくとも1つの相補的なオリゴヌクレオチドを供給することにより行い、その際、前記オリゴヌクレオチドが、核酸合成のためのポリメラーゼの出発点として機能する方法であって、前記オリゴヌクレオチドが、光で照射した場合に第1の配座から第2の配座に変化する少なくとも2つの光応答性素子を有し、それにより、前記オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションが不能または可能となることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記核酸が、相補的なヌクレオチド鎖をポリメラーゼによって生成するための鋳型として機能し、それにより合成された核酸鎖を作り出すことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記核酸が、環状であり、かつローリングサークル増幅のための鋳型として機能することを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記光応答性オリゴヌクレオチドが、パドロック系の一部であり、前記核酸は、ギャップ充填反応の鋳型として機能し、その際、前記パドロックのギャップが、相補的なヌクレオチドで満たされ、ライゲートされ、環状鋳型が形成されることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記合成された核酸鎖が、前記光応答性オリゴヌクレオチドを含み、その際、前記光応答性オリゴヌクレオチドの配座が、光で照射した場合に非結合状態に変化し、したがって前記合成された核酸を、前記鋳型から解離することを可能にすることを特徴とする、請求項2または4記載の方法。
【請求項6】
前記供給された核酸が、シーケンシング反応のための鋳型として機能することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項7】
オリゴヌクレオチド結合を、非対象領域の空間照明によって制御し、したがって前記オリゴヌクレオチドの配座を非結合状態に変化させ、それにより特定の部位へのオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを制御することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記光応答性オリゴヌクレオチドの長さが、少なくとも15、50または75ヌクレオチドであることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記光応答性オリゴヌクレオチドの構造が、1:2または1:3のX:N比を有し、ここで、Nはヌクレオチドであり、Xは光応答性素子であることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
光応答性オリゴヌクレオチドが、式N(XNN)nXNを有し、ここで、Nはヌクレオチドであり、Xは光応答性素子であり、n=3~29であることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
光応答性オリゴヌクレオチドが、第1の波長を有する光で照射した場合に第1の配座から第2の配座に変化し、第2の波長を有する光で照射した場合に前記第2の配座から前記第1の配座に変化することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記第1の波長が、300~400nmの間にあり、前記第2の波長が、400~600nmにあることを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記核酸が、組織試料、チップまたはハイドロゲルによって供給されることを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記核酸が、直鎖状または環状であることを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、核酸分析、空間トランスクリプトーム解析および次世代シーケンシングの分野に関する。
【0002】
背景
核酸の分析は、分子生物学における重要なツールである。典型的な適用は、次世代シーケンシングおよび空間トランスクリプトーム解析である。すべての方法は、試料中の特定の配列の検出に使用されるか、または増幅もしくはシーケンシングのための核酸合成反応の出発点として使用されるオリゴヌクレオチドの特異的結合に依存する。これらの技術の顕著な例は、以下に例示的に開示されている:smFISH(A. M. Femino, F. S. Fay, K. Fogarty, R. H. Singer, Science 1998, 280, 585; A. Raj, P. Van Den Bogaard, S. Rifkin, Nat. Methods 2008, 5, 877)、MERFISH(K. H. Chen, A. N. Boettiger, J. R. Moffitt, S. Wang, X. Zhuang, Science 2015, 348, aaa6090; G. Wang, J. R. Moffitt, X. Zhuang, Sci. Rep. 2018, 8, 4847; F. Chen, A. T. Wassie, A. J. Cote, A. Sinha, S. Alon, S. Asano, E. R. Daugharthy, J. B. Chang, A. Marblestone, G. M. Church, A. Raj, E. S. Boyden, Nat. Methods 2016, 13, 679)、smHCR(S. Shah, E. Lubeck, M. Schwarzkopf, T. F. He, A. Greenbaum, C. H. Sohn, A. Lignell, H. M. Choi, V. Gradinaru, N. A. Pierce, L. Cai, Development 2016, 143, 2862)、seqFISH(E. Lubeck, A. F. Coskun, T. Zhiyentayev, M. Ahmad, L. Cai, Nat. Methods 2014, 11, 360; S. Shah, E. Lubeck, W. Zhou, L. Cai, Neuron 2016, 92, 342.)、seqFISH+(C.-H. L. Eng, M. Lawson, Q. Zhu, R. Dries, N. Koulena, Y. Takei, J. Yun, C. Cronin, C. Karp, G. C. Yuan, L. Cai, Nature 2019, 568, 235)、osmFISH(S. Codeluppi, L. E. Borm, A. Zeisel, G. La Manno, J. A. van Lunteren, C. I. Svensson, S. Linnarsson, Nat. Methods 2018, 15, 932)、RNAscope(D. Clair, Bio-Techne Announces Commercial Release of RNAscope(登録商標)HiPlex Assay: A Multiplex In Situ Hybridization Assay For Tissues 2016; D. Schulz, V. R. T. Zanotelli, J. R. Fischer, D. Schapiro, S. Engler, X. K. Lun, H. W. Jackson, B. Bodenmiller, Cell Syst. 2018, 6, 25. e5; A. Mavropoulos, B. Allo, M. He, E. Park, D. Majonis, O. Ornatsky, Cytometry, Part A 2017, 91, 1200)。
【0003】
空間トランスクリプトーム解析の適用は、例えば、組織試料中の核酸分析に焦点を当てている。核酸合成反応およびシーケンシング反応を開始させるために、プライマー(オリゴヌクレオチド)が使用されている。加えられた分子は、対象領域へのハイブリダイゼーションを制御する能力を持たずに、試料中のすべての位置ですべての相補的な核酸に結合する。それに加えて、既存のプライマーを過酷な条件下で除去する必要があるため、複数回の分析に試料を使用することは困難である。これにより、しばしば、下流の反応を妨げる試料の損傷や残留汚染が生じている。
【0004】
オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションおよび除去は、通常、二量体の溶融温度(Tm)の関数である。この温度は、核酸の長さおよび配列;%GC;核酸(RNAまたはDNA)の種類および修飾の関数である(a small number among a myriad: phosphorothioate, 2’Fluoro, LNA; Nucleic Acids Research, 2007, Vol. 35, Web Server issue W43 - W46; Howley PM, Israel MF, Law M-F, Martin MA. A rapid method for detecting and mapping homology between heterologous DNAs. Evaluation of polyomavirus genomes. J. Biol. Chem. 1979;254:4876 - 4883; Breslauer KJ, Frank R, Bloecker H, Marky LA. Predicting DNA duplex stability from the base sequence. Proc. Natl Acad. Sci. USA. 1986;83:3746 - 3750; Sugimoto N, Nakano S, Yoneyama M, Honda K. Improved thermodynamic parameters and helix initiation factor to predict stability of DNA duplexes. Nucleic Acids Res. 1996; 24:4501 - 4505)。それに基づいて、オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションは、塩濃度(Na+のような一価またはMg2+のような二価)、温度、クラウディング剤(PEG、デキストラン)の有無;不安定化剤(ホルムアミド;炭酸エチレン、尿素)の有無およびpH特異的な緩衝条件によって制御され得る(Lee, Je Hyuk, et al. “Fluorescent in situ sequencing (FISSEQ) of RNA for gene expression profiling in intact cells and tissues.” Nature protocols 10.3 (2015): 442-458.; MERFISH (K. H. Chen, A. N. Boettiger, J. R. Moffitt, S. Wang, X. Zhuang, Science 2015, 348, aaa6090; G. Wang, J. R. Moffitt, X. Zhuang, Sci. Rep. 2018, 8, 4847; seqFISH+ (C.-H. L. Eng, M. Lawson, Q. Zhu, R. Dries, N. Koulena, Y. Takei, J. Yun, C. Cronin, C. Karp, G. C. Yuan, L. Cai, Nature 2019, 568, 235), osmFISH (S. Codeluppi, L. E. Borm, A. Zeisel, G. La Manno, J. A. van Lunteren, C. I. Svensson, S. Linnarsson, Nat. Methods 2018, 15, 932)。
【0005】
既存の方法の大きな欠点の1つは、特定の緩衝成分によって反応系に汚染物質が導入され、これが試料の損傷につながり得るか、潜在的な下流の反応を妨げ得ることである。さらに、現状では、局在するオリゴヌクレオチドの結合または局在するオリゴヌクレオチドの除去の制御性は低い。
【0006】
本発明者らは、この課題を、光応答性オリゴヌクレオチドの使用により解決できることを見出した。光(紫外線または可視光)を用いて反応を制御することには、他の外部刺激よりも多くの利点がある:(1)光は、反応系に汚染物質を導入しない;(2)光応答性分子の設計により励起波長を制御することができる;(3)照射時間および/または局所励起を制御する。
【0007】
光応答性DNA素子を用いたDNA媒介バイオプロセスの適用は、H. Asanuma, et alおよび他の文献(Angew. Chem. Int. Ed. 2001, 40, 2671 - 2673, H. Asanuma, et al., Nat. Protoc. 2007, 2, 203 - 212; Y. Kamiya and H. Asanuma, Acc. Chem. Res. 2014, 47, 1663 - 1672; X.G. Liang, et al., J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 16408 - 16415; H. Ito, et al., Org. Biomol. Chem. 2010, 8, 5519 - 5524; X.G. Liang, et al., J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 1877 - 1883; M. Zhou, et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2010, 49, 2167 - 2170; M. Liu, et al., J. Am. Chem. Soc. 2003, 128, 1009 - 1015)によって開示されている。それらには、アゾベンゼン誘導体による核酸の修飾、ならびにバイオテクノロジーおよびナノテクノロジーへのそれらの適用が記載されている。それに加えて、欧州特許出願公開第3015555号明細書には、光応答性核酸鋳型を、等温DNA増幅に使用することが記載されている。しかしながら、これらの文献には、光応答性オリゴヌクレオチドを、核酸分析、空間トランスクリプトーム解析および次世代シーケンシングに使用することは記載されていない。
【0008】
本発明者らは、驚くべきことに、光応答性オリゴヌクレオチドによって、試料の完全性を保ちながら、過酷な条件を用いずに、これらの構造体の結合を制御し、穏やかに除去できることを見出した。さらに、本発明者らは、光応答性オリゴヌクレオチドには、試料中でのそれらの結合を空間的に制御するという大きな可能性があることを見出した。
【0009】
発明の概要
本発明の課題は、光応答性オリゴヌクレオチドの核酸へのハイブリダイゼーションを、該核酸に相補的なオリゴヌクレオチドを供給することにより行い、その際、オリゴヌクレオチドが、核酸合成のためのポリメラーゼの出発点として機能する方法であって、光応答性オリゴヌクレオチドが、光で照射した場合に第1の配座から第2の配座に変化する少なくとも2つの光応答性素子を有し、それにより、オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションが不能または可能となることを特徴とする方法を提供することである。
【0010】
それに加えて、本発明は、非対象領域の空間照明によって特定の部位への空間的に制御されたオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを行い、したがってオリゴヌクレオチドの配座を非結合状態に変化させる方法を提供する。
【0011】
オリゴヌクレオチドの可逆的なハイブリダイゼーションは、ローリングサークル増幅およびシーケンシング反応などのいくつかの反応の制御に使用され得る。
【0012】
図面の説明
図面は、特許請求の範囲を限定することなく、本発明の方法およびその実施形態を説明するものとする。
【0013】
図1は、パドロック系の一部である光応答性オリゴヌクレオチドの例を示す。核酸、例えばmRNAは、核酸合成(ギャップ充填)反応の鋳型として機能する(
図1A)。パドロックが核酸に結合した後、本明細書に開示される第2の波長を有する光で照明することによってパドロックが核酸から除去され得る。これにより、オリゴヌクレオチドの非結合状態への配座変化が誘発され、上記パドロックの非結合が生じる(
図1D)。次いで、第2の波長で照明されず、したがって依然として核酸に結合しているパドロックのギャップを、相補的なヌクレオチドで満たし、ライゲートする(
図1B)。そのようにすることによって、上記光応答性オリゴヌクレオチドを含む環状鋳型が形成される(
図1C)。
【0014】
図2および
図3は、空間的に制御されたローリングサークル核酸合成反応を示す。光応答性オリゴヌクレオチドは、例えばパドロック系により供給される環状核酸鋳型を含む試料に添加される。試料中の非対象領域は、本明細書に開示される第2の波長を有する光で照明される。応答として、これらの領域に局在するオリゴヌクレオチドは、配座を非結合状態へ変化させる。したがって、上記オリゴヌクレオチドは、既に核酸から結合されている場合、結合も解離もしないので、核酸合成反応が妨げられる(
図2B)。非照明領域または本明細書に開示される第1の波長を有する光で照明された試料の領域に局在する光応答性オリゴヌクレオチドは、第1の配座状態(結合状態;
図2A)を維持する。光応答性オリゴヌクレオチドが鋳型に結合している領域では、ローリングサークル増幅が開始される。ローリングサークル増幅に基づいて、初期の環状核酸鋳型のいくつかのコピーを含む核酸(ロロニー)が生成される(
図3)。
【0015】
図4は、ロロニーを核酸鋳型として使用する、核酸合成のための空間的に制御されたオリゴヌクレオチド結合を示す。ロロニーによって供給される核酸鋳型を含む試料に光応答性オリゴヌクレオチドが添加される。続いて、本明細書に開示される第2の波長を有する光で、試料中の非対象領域が照明される。これらの領域に局在するオリゴヌクレオチドは、配座を非結合状態へ変化させる。これにより、上記核酸からの上記オリゴヌクレオチドの解離または非結合が生じるので、核酸合成反応が妨げられる(
図4B)。非照明領域または本明細書に開示される第1の波長を有する光で照明された試料の領域に局在する光応答性オリゴヌクレオチドは、第1の配座状態(結合状態;
図4A)を維持する。これらの領域では、光応答性オリゴヌクレオチドが鋳型に結合し、核酸合成反応が開始される。
【0016】
図5は、ロロニーが鋳型として機能する、空間的に制御されたシーケンシング反応を例示的に示す。オリゴヌクレオチド結合は、試料の非照明領域または本明細書に開示される第1の波長を有する光で照明された領域において可能となる。これにより、次いで上記シーケンシング反応が開始される。第2の波長を有する光で照明された領域では、オリゴヌクレオチド結合がこれらの領域では不可能であるため、反応が開始されない。
【0017】
図6は、空間的に制御された核酸増幅反応を例示的に示す。オリゴヌクレオチド結合は、試料の非照明領域または本明細書に開示される第1の波長を有する光で照明された領域において可能となる。これにより、次いで上記核酸増幅反応が開始される。第2の波長を有する光で照明された領域では、オリゴヌクレオチド結合がこれらの領域では不可能であるため、反応が開始されない。このような増幅反応の結果として、増幅された核酸産物(コンカタマー)が生成される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】パドロック系の一部である光応答性オリゴヌクレオチドの例を示す図である。
【
図2】空間的に制御されたローリングサークル核酸合成反応を示す図である。
【
図3】空間的に制御されたローリングサークル核酸合成反応を示す図である。
【
図4】ロロニーを核酸鋳型として使用する、核酸合成のための空間的に制御されたオリゴヌクレオチド結合を示す図である。
【
図5】ロロニーが鋳型として機能する、空間的に制御されたシーケンシング反応を例示的に示す図である。
【
図6】空間的に制御された核酸増幅反応を例示的に示す図である。
【0019】
詳細な説明
本発明は、光応答性オリゴヌクレオチドの、試料中の核酸への、光を用いることによる、可逆的でかつ空間的に制御されたハイブリダイゼーションを行う方法を提供する。したがって、光応答性オリゴヌクレオチドは、穏やかな条件下で除去することができ、これにより、試料の完全性の保持が向上するので、複数回の分析が可能となる。
【0020】
第1の態様では、本発明は、核酸に相補的なオリゴヌクレオチドを供給することによって、オリゴヌクレオチドを核酸にハイブリダイゼーションする方法を提供する。上記オリゴヌクレオチドは、核酸合成のためのポリメラーゼの出発点として機能し、少なくとも2つの光応答性素子を含むことを特徴とする。これらの光応答性素子は、光で照射した場合に第1の配座から第2の配座に変化することができ、それにより、オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションが不能または可能となる。
【0021】
光応答性オリゴヌクレオチド
いくつかの光応答性構造が、当該技術分野において分子光スイッチとして知られている。それらは、光照射下で2種以上の異性体に変換する化学構造として定義されている。化学構造間の異性化は、2つの基本的な機序:トランスからシスへの異性化およびトリエン系の6π電子環状反応により進行する。アゾベンゼンおよびそれらのヘテロ芳香族類似体、インジゴ、ヘミチオインジゴ、スチルベン、ヒドラゾン、イミノチオインドキシル、ジアリールエテン、スピロピラン、ステンハウス付加物(DASA)15およびフルギドなどのいくつかの光応答性構造が、当該技術分野において公知である(Ilse M. Welleman, Mark W. H. Hoorens, Ben L. Feringa, Hendrikus H. Boersma and Wiktor Szymanski Chem. Sci., 2020, 11, 11672 - 11691)。
【0022】
アゾベンゼン誘導体は、すぐに利用可能であり、かつ化学的に安定性しているため、多目的に適用するための最も一般的な光応答性分子である。一方の波長の光照射により平面状のトランス型を得ることができ、他方の波長の光照射により非平面状のシス型が得られる。したがって、アゾベンゼンは、適切な波長の光で照射する場合に、第1の配座(トランス)と第2の配座(シス)との間で可逆的に光異性化され得る。
【0023】
共有結合によりアゾベンゼン基を有し、足場としてのD-スレオニノールへのアミド結合により連結されたホスホロアミダイトモノマーは、以下に記載されるように合成され得る:二本鎖形成の効果的な光調節のためのオリゴデオキシリボヌクレオチドへのアゾベンゼンのエナンチオ選択的導入(H. Asanuma, T. Takarada, T. Yoshida, D. Tamaru, X. Liang et M. Komiyama, Angewandte Chemie-International Edition 2001, 40, 2671 - 2673)。
【0024】
このモノマーを用いることで、アゾベンゼンカートリッジを、光応答性素子(X)としてオリゴヌクレオチドに簡単に導入することが可能となり、このようにして光応答性を持たせる。したがって、本発明によれば、「オリゴヌクレオチド」および「光応答性オリゴヌクレオチド」という用語は、互換的に使用され得る。
【0025】
アゾベンゼンカートリッジの特性に基づいて、オリゴヌクレオチドの光調節が達成される。光応答性オリゴヌクレオチドは、第1の波長を有する光で照射した場合に第1の配座から第2の配座に変化し、第2の波長を有する光で照射した場合に第2の配座から第1の配座に変化する。本発明によれば、光応答性オリゴヌクレオチドの第1(初期)の配座は、トランスである。これらの用語は、互換的に使用され得る。この形態では、オリゴヌクレオチドは、核酸にハイブリダイズし得る。これとは対照的に、第2の配座状態(シス型)のオリゴヌクレオチドは、立体障害のために結合することができない。第2の配座状態は、「非結合状態」または「シス」とも呼ばれる。本発明によれば、「ハイブリダイゼーション」、「結合」という用語およびそれらの文法的に等しい用語は、互換的に使用され得る。
【0026】
明細書に開示されたオリゴヌクレオチドの第2の配座への配座変化は、第1の波長の光で照明することによって誘発され得る。第1の波長は、300~400nm、より好ましくは330nmの範囲にある。配座変化は可逆的であること、すなわち、第2の波長の光で照明することによって配座を第2の配座(シス)から第1の配座(トランス)へと変化させることができることに留意しなければならない。第2の波長は、400~600nm、より好ましくは532nmまたは525nmの範囲にある。
【0027】
アゾベンゼンの機能をオリゴヌクレオチドに与えるために、光応答性素子(X)が、核酸の塩基対(N)の間に導入される(例えばNNN→NXNN)。修飾された光応答性オリゴヌクレオチド鎖は、さらにその相補的な鎖と二本鎖を形成することができ、すべての塩基対は、二本鎖中で維持される。効率的な光制御を達成するために、複数のアゾベンゼン残基を導入することが有効である。天然ヌクレオチドをXで置き換えることは、二本鎖の不安定化を引き起こすので推奨されないことに留意すべきである。
【0028】
本発明の一実施形態では、光応答性オリゴヌクレオチドの構造は、1:2または1:3のX:N比を有し、ここで、Nはヌクレオチドであり、Xは光応答性素子である。本発明のより好ましい実施形態では、光応答性オリゴヌクレオチドは、式N(XNN)nXNを有し、ここで、Nはヌクレオチドであり、Xは光応答性素子であり、n=3~29、好ましくは9、14または23である。この設計戦略を使用することにより、ヌクレオチド二本鎖のハイブリダイゼーションおよび解離の反復的かつ効率的な調節を、第1の波長と第2の波長との間で交互に照明することによって促進させることができる。光応答性オリゴヌクレオチドは、少なくとも15、50または70、より好ましくは20または30または50のヌクレオチド長を有する。
【0029】
方法/用途
光応答性オリゴヌクレオチドは、核酸の相補的な部分にハイブリダイズし得る。これは、核酸合成のためのポリメラーゼの開始点として機能し得る。
【0030】
上記核酸は、相補的なヌクレオチド鎖をポリメラーゼによって生成するための鋳型として機能し得、それにより合成された核酸鎖を作り出す(核酸合成)。核酸合成中に、相補的なヌクレオチドが、結合したオリゴヌクレオチドの3’末端にポリメラーゼによって付加され、したがって相補的な核酸が生成される。これらの反応に使用され得る標準的なポリメラーゼは、例えば、T7DNAポリメラーゼ、Klenow断片、T9DNAポリメラーゼである。
【0031】
核酸が鋳型として機能する核酸合成反応には、cDNA合成、直鎖状DNA増幅、シーケンシング、ギャップ充填反応またはローリングサークル増幅が含まれるが、これらに限定されない。
【0032】
反応の鋳型は、試料中の核酸、例えば、組織試料、チップまたはハイドロゲルによって供給される。核酸は、直鎖状または環状の配座を有し得るデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)で作られたポリヌクレオチド鎖であり得る。本発明の特定の実施形態では、核酸は、環状であり、かつローリングサークル増幅のための鋳型として機能する。
【0033】
開示された方法で分析されるべき試料は、無脊椎動物(例えば、カエノラブディティス・エレガンス、キイロショウジョウバエ)、脊椎動物(例えば、ゼブラフィッシュ、アフリカツメガエル)、および哺乳動物(例えば、ハツカネズミ、人類)の動物全体、器官、組織切片、細胞凝集体、または単一細胞のような任意の試料に由来し得る。生体試料は、組織切片、細胞凝集体、懸濁細胞または粘着細胞の形態を有し得る。
【0034】
本発明の一実施形態では、光応答性オリゴヌクレオチドは、合成された核酸鎖の非破壊除去のために使用され得る。光応答性オリゴヌクレオチドの核酸へのハイブリダイゼーション後、核酸合成反応が開始され、したがって上記光応答性オリゴヌクレオチドを含む合成された核酸鎖が生成される。光応答性オリゴヌクレオチドの配座は、光で照射した場合に非結合状態に変化し、したがって合成された核酸を、鋳型から解離することを可能にする。
【0035】
本発明の別の実施形態では、光応答性オリゴヌクレオチドは、欧州特許出願公開第3936623号明細書(
図1)に開示されているようなパドロック系の一部である。核酸は、ギャップ充填反応の鋳型として機能する(
図1A)。パドロックの核酸への結合後、パドロックのギャップは、相補的なヌクレオチドで満たされ、ライゲートされる(
図1B)。そうすることによって、環状鋳型が形成される(
図1C)。これは、上記光応答性オリゴヌクレオチドを含む。この鋳型は、核酸合成反応にさらに使用され得る。
【0036】
一実施形態では、本明細書に開示される第2の波長を有する光で照明することによって核酸からパドロックを除去することができ、したがってオリゴヌクレオチドの非結合状態への配座変化を誘発する。これにより、次いで上記パドロックの非結合、または部分的な非結合が生じ得る(
図1D)。
【0037】
本発明の方法は、空間的制御されたオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションに使用されてもよい。オリゴヌクレオチド結合は、非対象領域の空間照明によって制御され得る。これにより、オリゴヌクレオチドの非結合状態への配座変化が生じ、それにより特定の部位へのオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションが制御される。より詳細には、第1の波長で照明する間に、照明された領域において、光応答性オリゴヌクレオチドの第2の配座状態(シス)への配座変化が開始される。これにより、次いでオリゴヌクレオチドが選択的に除去される。
【0038】
別の実施形態では、非対象領域が、オリゴヌクレオチド結合の前および/または結合中に第1の波長の光で照射されてよく、したがって光ベースのマスクが生成される。これらの領域では、オリゴヌクレオチドは、第2の配座(非結合)のみを有するため、照明領域へのそれらの結合が妨げられることになる。
【0039】
一実施形態では、空間的に制御されたオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションは、空間的に制御された核酸合成のために使用され得る。光応答性オリゴヌクレオチドは、核酸を含む試料に供給される。続いて、本明細書に開示される、第2の波長を有する光で、非対象領域の制御された空間照明が行われる。これにより、非対象領域における上記オリゴヌクレオチドの非結合状態への配座変化が誘発される。これらのオリゴヌクレオチドは、これらの領域の核酸から既に結合している場合、結合または解離することができない。これとは対照的に、非照明領域または本明細書に開示される第1の波長を有する光で照明された領域のオリゴヌクレオチドは、結合状態にある。したがって、核酸への結合が可能となる。結合後、核酸合成が、これらの領域で開始され得る。
【0040】
本発明の具体的な実施形態では、上記の空間的に制御された核酸合成反応は、
図2および
図3に例示的に表されるローリングサークル増幅であり得る。本明細書では、光応答性オリゴヌクレオチドは、例えばパドロック系によって供給される試料中の環状核酸鋳型に供給される。試料中の非対象領域は、本明細書に開示される、第2の波長を有する光で照明される。これらの領域に局在するオリゴヌクレオチドは、配座を非結合状態に変化させる。これにより、これらのオリゴヌクレオチドの非結合(解離)が生じるので、核酸合成反応が妨げられる(
図2B)。これとは対照的に、光応答性オリゴヌクレオチド結合のための条件は、非照明領域または本明細書に開示される第1の波長で照明された試料の領域に与えられ、したがってオリゴヌクレオチドは、第1の配座状態である結合状態に維持される(
図2A)。光応答性オリゴヌクレオチドが鋳型に結合している領域では、ローリングサークル増幅が、開始され得る。ローリングサークル増幅に基づいて、初期の環状核酸鋳型のいくつかのコピーを含む核酸が、生成される(
図3B)。この構造は、ロロニーとして定義される。本発明の別の実施形態では、上記ロロニーは、核酸の増幅またはシーケンシングなどの空間的に制御された核酸合成反応のための鋳型として機能し得る(
図4)。
【0041】
特定の実施形態では、本発明は、ロロニーが鋳型として機能する、空間的に制御されたシーケンシング反応に使用され得る。オリゴヌクレオチド結合は、試料の非照明領域または本明細書に開示される第1の波長を有する光で照明された領域において可能となる。シーケンシング反応が、開始され得る。第2の波長を有する光で照明された領域では、オリゴヌクレオチド結合がこれらの領域で無効になるため、反応を開始することができない(
図5)。
【0042】
別の特定の実施形態では、本発明は、空間的に制御された核酸増幅反応に使用され得る。オリゴヌクレオチド結合は、試料の非照明領域、または本明細書に開示される第1の波長を有する光で照明された領域において可能となる。これにより、次いで上記核酸増幅反応が開始される。第2の波長を有する光で照明された領域では、オリゴヌクレオチド結合が、これらの領域では不可能であるため、反応が開始されない。このような増幅反応の結果として、増幅された核酸産物(コンカタマー)が生成される(
図6)。
【外国語明細書】