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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147311
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】糸紡ぎ機
(51)【国際特許分類】
   D01H 7/02 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
D01H7/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054726
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】522128701
【氏名又は名称】黒木 志保
(74)【代理人】
【識別番号】100189854
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 明美
(72)【発明者】
【氏名】黒木 志保
【テーマコード(参考)】
4L056
【Fターム(参考)】
4L056AA01
4L056BD05
4L056BE25
4L056DA17
4L056EA12
4L056EB04
4L056EB12
4L056EC06
(57)【要約】
【課題】熟練度に関わらずに繊維の塊から送り出す繊維の量の調整を容易に行うことができる糸紡ぎ機を提供する。
【解決手段】ボビン7とボビン7を回転させる回転装置3を備えており、回転装置3は水平方向に手回し操作で回転可能な円盤30を備え、ボビン7は円盤30に当接した状態で回転軸9に軸支されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボビンと、該ボビンを回転させる回転装置を備えており、
前記回転装置は水平方向の手回し操作で回転可能な円盤を備え、
前記ボビンは前記円盤に当接した状態で回転軸に軸支されていることを特徴とする糸紡ぎ機。
【請求項2】
前記円盤は比較的慣性モーメントが大きい剛体からなることを特徴とする請求項1に記載の糸紡ぎ機。
【請求項3】
前記円盤は、鉄よりも比重の大きい金属により成ることを特徴とする請求項2に記載の糸紡ぎ機。
【請求項4】
前記ボビンは、円盤上面の外径側に鍔部が当接していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の糸紡ぎ機置。
【請求項5】
前記回転軸は、前記円盤に対して傾斜するように設置されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の糸紡ぎ機。
【請求項6】
前記回転装置は、前記回転軸が固定された基台に形成された凹部に台座が遊嵌設置されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の糸紡ぎ機。
【請求項7】
前記回転軸は、前記回転装置が設置される基台に対して前後方向に傾動可能に枢支されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の糸紡ぎ機。
【請求項8】
前記基台には前後方向に傾動可能に回転支持部材が取り付けられ、該回転支持部材に繊維が掛けられるバー部を備えた前記回転軸が相対回転可能に軸支されており、
前記ボビンは前記回転軸に対して相対回転可能に遊嵌され、
前記ボビンと前記回転軸との間の動摩擦力が、前記回転軸と前記回転支持部材との間の動摩擦力よりも大きいことを特徴とする請求項1ないし請求項7に記載の糸紡ぎ機。
【請求項9】
前記ボビンの回転数を視覚的に把握することができる回転数カウンタを更に備えていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の糸紡ぎ機。
【請求項10】
前記基台の左右側部には、ボビンをそれぞれ回転可能に支持することができるボビン受け部材が取り付けられていることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の糸紡ぎ機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然繊維や化学繊維を糸にする糸紡ぎ機に関する。
【0002】
古来より、羊毛や綿などの天然繊維から糸を紡ぐ装置として、糸紡ぎ機が利用されている。一般に糸紡ぎ機は、紡錘と紡錘よりも大径であるはずみ車とをベルトで連結されており、はずみ車を回すことで紡錘が回転し、撚りをかけられた繊維が糸となって紡錘に巻き取られるようになっている。また、比較的新しい糸紡ぎ機では紡錘のかわりに、回転可能に軸支されたボビンと、ボビンの外側に配されてフライヤーと呼ばれる回動可能な枠を備えており、このような糸紡ぎ機では、フライヤーに引っ掛けられた繊維はフライヤーで撚られ糸にされてボビンに巻き取られる。
【0003】
はずみ車として代表的なものとして、直接手回しするもの、足踏み式のもの、モーター等の駆動装置を用いたものがある。いずれの構成にせよ、糸を紡ぐ際には、手で繊維の塊を持ちボビンに巻き取られることで塊から出ていく繊維の量や撚り具合の調整を、はずみ車を回転させる操作と並行して行うことで太さや張りが均一になるようにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願昭58-240932号(特開昭60-134031号)のマイクロフィルム(第2頁、第1図参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
足踏み式はもちろん、電動の場合もフットコントローラによりはずみ車の回転を操作するため、両手が空き、例えば一方の手で繊維の塊を持ち、他方の手で更にボビン寄りの繊維を持つなどすることで、繊維の塊から送り出す繊維の量の調整や撚り具合の調整を行い易くなっている。しかしながら、電動や足踏み式の糸紡ぎ機にあっては、手足の連携という部分で熟練性が必要となり、これらの連携が合わないと、想定よりも繊維の塊から繊維が引き出される速度が早くなるなど、気持ちが焦り自分のペースで紡ぐことができなくなる問題があった。一方ではずみ車を直接手回しする構造は、手によって直接はずみ車を回転させるため、繊維の塊から繊維が引き出される速度を調整しやすく、気持ちにゆとりを持って糸を紡ぐことができるが、一方の手ははずみ車を継続的に回転させるための操作を行う必要があるため、繊維の塊から送り出す繊維の量の調整や撚り具合の調整については、他方の手だけで行う必要があり、熟練度が低いと送り出す繊維の量や撚り具合の調整の難易度が極めて高いという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、熟練度に関わらずに繊維の塊から送り出す繊維の量の調整を容易に行うことができる糸紡ぎ機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の糸紡ぎ機は、
ボビンと、該ボビンを回転させる回転装置を備えており、
前記回転装置は、水平方向の手回し操作で回転可能な円盤を備え、
前記ボビンは前記円盤に当接した状態で回転軸に軸支されていることを特徴としている。
この特徴によれば、ボビンが円盤の近くで回転するため、円盤の手回し操作を行っていた一方の手を、塊から繊維を送り出す操作を行う他方の手の方へ迅速に移動させ、この繊維の送り出しを調整する操作を両手で行うことができ、熟練度に関わらずに繊維の塊から送り出す繊維の量の調整を容易に行うことができる。
【0008】
前記円盤は比較的慣性モーメントが大きい剛体からなることを特徴としている。
この特徴によれば、円盤の慣性モーメントが大きいことから、手回しで円盤を回転させた後、しばらくは円盤が惰性回転するため、手回し操作を行っていた方の手を繊維の塊から繊維を送り出す操作側に余裕を持って移動させることができる。
【0009】
前記円盤は、鉄よりも比重の大きい金属により成ることを特徴としている。
この特徴によれば、円盤の慣性モーメントを大きくしながら、円盤をコンパクトにすることができる。
【0010】
前記ボビンは、円盤上面の外径側に鍔部が当接していることを特徴としている。
この特徴によれば、円盤において周長の長い外径側に鍔部を当接させることで、円盤の回転数に対してボビンを多く回転させることができる。
【0011】
前記回転軸は、前記円盤に対して傾斜するように設置されていることを特徴としている。
この特徴によれば、ボビンの軸線方向下方に円盤が位置し、円盤の手回し操作と繊維を送り出す操作との間で手の移動量が少なく、また視点の移動も少ないため、気持ちにゆとりを持って糸を紡ぐことができる。
【0012】
前記回転装置は、前記回転軸が固定された基台に形成された凹部に台座が遊嵌設置されていることを特徴としている。
この特徴によれば、回転装置を着脱して持ち運びが可能であるとともに、円盤の手回し操作時に回転装置の位置ズレがなく、糸を紡ぐ作業を行いやすい。
【0013】
前記回転軸は、前記回転装置が設置される基台に対して前後方向に傾動可能に枢支されていることを特徴としている。
この特徴によれば、回転軸を起こすことでボビンの脱着を行いやすく、かつ糸が絡まる等の不測の事態が生じた際には、簡単かつ即座に円盤とボビンとを離間させて回転駆動を縁切りすることができる。
【0014】
前記基台には前後方向に傾動可能に回転支持部材が取り付けられ、該回転支持部材に繊維が掛けられるバー部を備えた前記回転軸が相対回転可能に軸支されており、
前記ボビンは前記回転軸に対して相対回転可能に遊嵌され、
前記ボビンと前記回転軸との間の動摩擦力が、前記回転軸と前記回転支持部材との間の動摩擦力よりも大きいことを特徴としている。
この特徴によれば、動摩擦力の差により、ボビンの回転に引きずられてバー部を備えた回転軸を供回りさせることができるため繊維に撚りをかける操作を行え、バー部を手で止めれば、回転軸のみが停止し撚られた糸をボビンへ巻き付ける操作を行うことができる。つまり、これら繊維に撚りをかける操作と撚られた糸をボビンへ巻き付ける操作を区別して行うことができ、気持ちにゆとりを持って糸を紡ぐことができる。
【0015】
前記ボビンの回転数を視覚的に把握することができる回転数カウンタを更に備えていることを特徴としている。
この特徴によれば、回転数カウンタを用いることで、熟練度に関わらずに適切に繊維を撚って安定した品質の糸を得やすくなる。
【0016】
前記基台の左右側部には、ボビンをそれぞれ回転可能に支持することができるボビン受け部材が取り付けられていることを特徴としている。
この特徴によれば、ボビン受け部材にそれぞれ糸を巻いたボビンを取り付けることで、被回転機構によってそれぞれのボビンに巻かれた糸同士を撚り合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る実施例1の糸紡ぎ機を示す斜視図である。
図2】糸紡ぎ機の基台と被回転機構の構造を示す図である。
図3】糸紡ぎ機の側面図である。
図4】回転装置の断面図である。
図5】基台の折りたたみ構造を示す側面図である。
図6】糸紡ぎ作業を示し、一方の手で円盤の手回し操作を行う様子を示す上面図である。
図7】糸紡ぎ作業を示し、両手で繊維の送り出しを調整する操作を行う様子を示す上面図である。
図8】ヒンジを回動中心として左右のボビン受け部材を前方に開いた状態を示す斜視図である。
図9】実施例2の糸紡ぎ機における回転数カウンタを示すイメージ図である。
図10】実施例3の糸紡ぎ機における回転数カウンタを示すイメージである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る糸紡ぎ機を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0019】
実施例1に係る糸紡ぎ機につき、図1から図8を参照して説明する。
【0020】
本実施例の糸紡ぎ機1は、手動で操作されて天然繊維や化学繊維から糸を紡ぐ装置であり、机等の作業台の上や床の上等の水平面に載置されて使用される。
【0021】
図1に示されるように、糸紡ぎ機1は、基台2、回転装置3、被回転機構5、ボビン受け部材22を有して構成されている。基台2はベース部材12と回転支持部材4とから構成されている。
【0022】
ベース部材12は、木製の板材により形成されており、平面視で糸紡ぎ機1の使用者との対向方向に長手を有する略矩形状を成している。また、ベース部材12の奥側には手前側の下段面12aよりも一段高い上段面12bが形成されている。下段面12aの中央には円形の凹部20が形成されている。図2に示されるように、凹部20は手前側の端部20aと奥側の端部20bとがそれぞれ前後に拡張されており、全体として大部分が略円形を成している。
【0023】
図2に示されるように、回転支持部材4はベース部材12の上段面12bの手前側に取り付けられており、この回転支持部材4に糸紡ぎ用の被回転機構5が取り付けられている。被回転機構5は、互いに相対回転可能なボビン7とフライヤー8で構成されている。フライヤー8は、ボビン7を貫通する貫通孔70に挿通される回転軸部9と、後述する繊維が掛けられるコ字状のバー部80とを備えている。
【0024】
回転支持部材4は、ベース部材12と同様の木製の板材で形成されており、ベース部材12の上段面12bの手前側にヒンジ10を介して固定されている。図3に示されるように、ヒンジ10は、一方の羽根10bがベース部材12の上段面12bにネジ固定され、他方の羽根10aが回転支持部材4の裏面4aにネジ固定されている。このヒンジ10により回転支持部材4は、ベース部材12に対して前後方向に傾動可能に枢支されている。
【0025】
回転支持部材4は、ベース部材12に枢支される根元部41の板厚t1はベース部材12の下段面12aと上段面12bとの高さ寸法h1と同寸もしくは僅かに小さい。また、自由端部42は根元部41よりも正面方向に突出している。自由端部42の膨出部分の厚み寸法t2は、ベース部材12の円形の凹部20の深さ寸法d1よりも大きい。また、図2に示されるように、自由端部42は、膨出部分の下端42aが下方に凸となる曲面を成している。
【0026】
回転支持部材4の表面側、すなわち起立状態にある回転支持部材4の自由端部42の正面42bには、フライヤー8の回転軸部(回転軸)9が回動自在に取り付けられる軸穴40が形成されている。
【0027】
図5に示されるように、回転装置3と被回転機構5とを取り外した状態において、回転支持部材4は正面側に倒伏させて折り畳むことができる。このとき、自由端部42の膨出部分はベース部材12の円形の凹部20に一部挿入され、折りたたんだ状態の基台2の厚み寸法を小さくすることができる。
【0028】
また、ベース部材12の上段面12bには、ヒンジ10よりも奥側に上方に起立するストッパー部材11が固定されている。ストッパー部材11は金属棒が屈曲されて所定の高さを有する下向きコ字状を成している。
【0029】
図2に示されるように、被回転機構5は、ボビン7とフライヤー8とを備え、ボビン7は回転支持部材4の軸穴40に軸支される回転軸部9に対して遊嵌されている。なお、撚りの作業時において、軸穴40と回転軸部9との間、ボビン7と回転軸部9との間にそれぞれに同時に外力が作用する環境下で、軸穴40と回転軸部9との間の動摩擦力に比べて、ボビン7と回転軸部9との間の動摩擦力が若干大きくなっている。このボビン7と回転軸部9との間の動摩擦力は、回転軸部9が軸支される回転支持部材4がヒンジ10により前方に倒れ、ボビン7が円盤30に凭れた状態にあることから、常に回転軸部9の外面がボビン7の貫通穴70の内面上部に押圧された状態となることより高められたものである。
【0030】
ボビン7は巻取軸17と、巻取軸17の上下端に形成された鍔部18,19を備えて構成されている。下方の鍔部19は、鍔部本体19aの外周に合成ゴムなどの高摩擦材からなる摩擦部19bが設けられて構成されている。
【0031】
図3図5に示されるように、被回転機構5が取り付けられた状態の回転支持部材4は、後方に傾倒された際には、ストッパー部材11の上部11aに凭れて傾斜状態で支持される。言い換えると、被回転機構5が取り付けられた状態の回転支持部材4はストッパー部材11の上部11aに近接した状態で傾動中心であるヒンジ10よりも後方に重心が位置する状態となり、ストッパー部材11から所定距離離間した状態(ここではストッパー部材11の上部11aに当接した状態から約10度前方に傾動させた状態)でヒンジ10よりも前方に重心が位置する状態となる。
【0032】
回転支持部材4をストッパー部材11から所定距離離間させることで、被回転機構5はボビン7の下方の鍔部19の外周面すなわち摩擦部19bが、回転支持部材4より正面側に配置された回転装置3の円盤30の上面30aに当接し、回転軸部9が傾斜した状態で支持される。言い換えると、フライヤー8の回転軸部9は円盤30に対して傾斜状態で設置されている。
【0033】
図4に示されるように、回転装置3は、台座31と台座31に対してボールベアリング(軸受手段)を介して水平方向に相対回動可能に取り付けられる円盤30とを備えている。より詳しくは、円盤30に固定された軸30bにボールベアリング32が挿嵌されており、このボールベアリング32の外側が台座31に固定されている。回転装置3は、いわゆる手回しろくろと同様の構造を有しており、円盤30は手で回されると、ボールベアリング32による低摩擦性が、円盤30の回転時の抵抗を減らし、惰性回転しやすくなっている。
【0034】
また、円盤30は、比較的慣性モーメントが大きい剛体である鉄を主成分とした鋳鉄製であるため、慣性モーメントが大きく惰性回転しやすい。
【0035】
図3に示されるように、回転装置3は、台座31が基台2に形成された円形の凹部20に遊嵌設置される。基台の円形の凹部20の深さ寸法d1は、台座31の高さ寸法よりも小さく形成されており、回転装置3が設置された円形の凹部20から円盤30の側面30cが上下に亘って露出するようになっている。
【0036】
続いて、糸紡ぎ機1を用いた糸紡ぎ作業について説明する。まず、準備としてここでは図示しないが、操作者は繊維の塊から引き出した繊維に導き糸の一方端を結びつけ、導き糸の他方端をフライヤー8のバー部80に設けられたループ8a(図2参照)を通した後にボビン7の巻取軸17に括り付けておく。次いで、被回転機構5が取り付けられた回転支持部材4を正面側に傾倒させ、ボビン7の下方の鍔部19の外周面すなわち摩擦部19bを円盤30の上面30aに当接させる。
【0037】
上記の様に準備が完了した後の糸紡ぎ作業を、図6図7を用いて説明する。なお、本実施例では、左手で繊維の塊FMを持ち、右手で塊FMから引き出した繊維Fの送り出し量を調整する場合を例に取り説明する。
【0038】
図6に示されるように、まず右手で円盤30を手回しで回転させる。円盤30はボールベアリング32を介して台座31に対して回転されるため、しばらくの間は慣性モーメントで円盤30が惰性回転することになる。操作者は、その円盤30が惰性回転している間においては、左手と被回転機構5との間において右手で繊維Fを持ち、円盤30を手回しする以外の操作を行うことができる。
【0039】
上述したように、軸穴40と回転軸部9との間の動摩擦力に比べて、ボビン7と回転軸部9との間の動摩擦力が若干大きくなっていることから、フライヤー8は、自然状態では円盤30の回転駆動を受けて回転するボビン7と共回りする構成である。糸紡ぎの手順として、円盤30の回転時にはフライヤー8の回転によって塊FMから引き出された繊維Fがボビン7の外側で回転し、漸次撚られていく。操作者は、繊維Fの撚りの具合を確認し、適宜フライヤー8の回転のみを手(ここでは右手)で止める操作を行う。ボビン7は貫通孔70がフライヤー8の回転軸部9に遊嵌していることから、フライヤー8とボビン7は相対回転可能であり、フライヤー8が停止した状態でも、ボビン7のみが円盤30の回転駆動を受けて回転軸部9に対して相対回転し、撚られて糸となった繊維Fがボビン7の巻取軸17に巻き取られる。
【0040】
上述したように、円盤30を手回し操作した後、しばらくは慣性モーメントで円盤30が回転することから、手回し操作をせずとも円盤30が惰性回転している間は、両手で繊維の塊FMから送り出す繊維Fの量や撚り具合の調整を行うことができる。手回しで回転させる円盤30とボビン7とは、上下に直接的に近接して配置されていることから、円盤30の手回し操作と塊FMから繊維Fを送り出す操作との間で手(ここでは右手)の移動量が少なく、また視点の移動も少ないため、気持ちにゆとりを持って糸を紡ぐことができる。また、直感的にフライヤー8の回転のみを手で止めることで、繊維に撚りをかける操作と撚られた糸を巻取軸17へ巻き付ける操作とを区別して行うことができ、気持ちにゆとりを持って糸を紡ぐことができる。
【0041】
なお、撚りの作業中には、左手の人差し指と親指で繊維Fを摘んでおけば、フライヤー8の回転に抗して塊FMから繊維Fは引き出されないため、右手による円盤30の手回し操作と撚りの作業とのタイミングを合わせることで、操作者はより気持ちにゆとりをもって作業を行うことができる。
【0042】
また、図3に示されるように、ボビン7の下方の鍔部19は、円盤30の上面30aにおける周長の長い外径側に当接しているため、円盤30の回転数に対してボビン7を効率よく回転させることができる。
【0043】
また、フライヤー8の回転軸9は円盤30に対して傾斜するように設置されているため、ボビン7の軸線方向下方に円盤30が位置し、これらの距離が短くなることで円盤30の手回し操作と繊維を送り出す操作との間で手の移動量が少なくなり、また視点の移動も少なくすることできるため、操作者は気持ちにゆとりを持って糸を紡ぐことができる。なお、本実施例では、回転軸9と円盤30の上面30aとが成す角度は約30度となっており、これによれば、被回転機構5の先端部と円盤30の上面30aとの間に操作者の手が余裕を持って挿入できることから回転する被回転機構5との接触による怪我や、紡がれる糸の乱れを防ぐことができる。
【0044】
また、回転装置3は、基台2に形成された円形の凹部20に台座31が遊嵌設置されているため、回転装置3を着脱して持ち運びが可能であるとともに、円盤30の手回し操作時に回転装置3の位置ズレが生じず、安定して糸を紡ぐ作業を行うことができる。
【0045】
また、回転装置3が設置された円形の凹部20から円盤30の側面30cが上下に亘って露出するため、手回し操作時には円盤30の上面30aに加えて側面30cに手を添えることができ、操作可能な範囲が広いことで焦らずに手回し操作を行うことができるとともに、回転の緩急を調整し易い。
【0046】
また、回転支持部材4はベース部材12に対して前後方向に傾動可能に枢支されているため、回転支持部材4を起こすことで作業の開始と終わりにボビン7の脱着を行い易いことに加え、糸が絡まる等の不測の事態が生じた際には、簡単かつ即座に円盤30の上面30aとボビン7の下方の鍔部19とを離間させて円盤30の駆動力からボビン7を縁切りすることができる。なお、円盤30と回転支持部材4とが近接していることから、このような駆動力からの縁切り操作を即座に行うことができるといえる。
【0047】
また、軸穴40と回転軸部9との間の動摩擦力に比べて、ボビン7と回転軸部9との間の動摩擦力が若干大きくなっているため、繊維を撚る作業時にフライヤー8とボビン7とが相対回転せず、これらを確実に同速度で共回りさせることができ、撚りの作業中には糸がボビンの巻取軸17に巻き取られない。
【0048】
また、図3に示されるように、ボビン7の軸方向寸法L1は、ボビン7の下方の鍔部19が円盤30の上面30aに凭れた状態で、ボビン7の先端部7aが円盤30の回転中心の略直上に位置する寸法になっている。そのため、円盤30の正面側半分(半円)を広く手回し操作用の領域として常時使用することができることに加え、円盤30の手回し操作と繊維Fを送り出す操作との間で手の奥行方向の移動量を少なくできる。
【0049】
また、図2に示されるように、自由端部42は、膨出部分の下端42aが下方に凸となる曲面を成しており、ボビン7の下方の鍔部19の外周面に沿い、円盤30に干渉しにくくなっている。
【0050】
また、図8に示されるように、ベース部材12の左右側部12cの手前側には、外方に膨出する凸部21がそれぞれ形成されており、これら凸部21は奥側に向くテーパ面21aを有している。そしてテーパ面21aより奥側の左右側部12cには、後に詳述するボビン受け部材22が取り付けられている。
【0051】
ボビン受け部材22は、ベース部材12の左右側部12cにそれぞれヒンジ23を介して取り付けられるアームであり、ボビン受け部材22の自由端には上方に開口する軸穴22a(図1参照)が形成されており、この軸穴22aには図示しない回転軸を介して糸を巻いたボビン24を回転可能に取り付けることができる。
【0052】
ボビン受け部材22は、図8に示されるように、ヒンジ23を回動中心として前方に開くことができ、それぞれ根元側が凸部21のテーパ面21aに沿って当接し、前方への回動範囲が規制されている。
【0053】
このように糸紡ぎ機1は、ヒンジ23を回動中心として前方に開いたボビン受け部材22の軸穴22aにそれぞれ糸を巻いたボビン24を取り付け、それぞれのボビン24から出した糸を被回転機構5によって撚り合わせるという、糸を紡ぐ機能とは別の機能を併せ持っている。
【実施例0054】
次に、実施例2に係る糸紡ぎ機につき、図9を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0055】
ところで、繊維Fの撚りは、繊維の種類にもよるが大体の場合、ボビン7の回転数が200回転程度撚られた場合の品質が優れているとされる。そのため、200回転を計測できる回転数カウンタを備えてもよい。例えば、図9に示されるイメージ図のように、円盤30の下面に設けたピン状の凸部52と、ベース部材12に取り付けられた回転軸53aに軸支される歯車53とにより、いわゆるジェネバ機構により回転数カウンタを構成してもよい。円盤30の1回転毎に凸部52が歯車53に噛合し、歯車53が所定の角度で回動する。この歯車53の回動量をここでは図示しない別の機構、例えば回転軸53aに固定された螺旋状棒を歯車の回転に応じて上昇するようにしたボール等の位置によって撚りに必要なボビン7の回転数を可視化するようにしてもよい。この場合、ボビン7の回転数が200回転程度撚られたときに該ボールが螺旋状棒から自然落下して元の位置に戻るとともに、ボールの落下と連動してフライヤー8の回転を停止させるような機構を設けるようにしてもよい。これによれば、電池などを用いずとも撚りに必要なボビンの回転数を把握することができる。
【実施例0056】
次に、実施例3に係る糸紡ぎ機につき、図10を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0057】
実施例3に係る糸紡ぎ機の回転数カウンタは、図10に示されるイメージ図のように、円盤の上面に螺旋状の凸条62を形成するとともに、この凸条62に案内されるボール部材63、またボール部材63を軸方向に移動可能に支持する操作棒64とを有している。
【0058】
操作棒64は、円盤30の回転中心に一方端が相対回動可能かつ、自由端を上下に揺動可能に取り付けられるジョイント部65を有している。
【0059】
円盤30の手回し操作を開始する際には、操作棒64を倒してボール部材63を螺旋状の凸条の中心、すなわち円盤30の中点側に配置する。円盤30が回転すると、ボール部材63は螺旋状の凸条62に案内されて漸次外径側に移動する。操作者は、凸条62の外径側の端部にボール部材63が移動したことで撚りに必要なボビン7の回転数を把握できる。また、操作者が外径側の端部にボール部材63が移動した状態で操作棒64を立てる操作を行うことで、ボール部材63を初期位置である操作棒64の根元側(ジョイント部65側)に移動させるとともに、操作棒64がフライヤー8に係止され、フライヤー8の回転を同時に停止させることができる。
【0060】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0061】
例えば、前記実施例においてボビン7は円盤30に当接して、その回転駆動力が伝達される構成で説明したが、これに限らず、例えばボビンの下方の鍔部の外周と円盤の上面とにそれぞれ歯形を設けて、これらが係合を伴って当接する構成であってもよい。
【0062】
また、ボビン7下方の鍔部19が円盤30に当接する構成に限らず、例えば鍔部19よりも下方に鍔部19とは別の円状の凸部が円盤30に当接する構成であってもよい。
【0063】
また、前記実施例においてボビン7はその先端部7aが円盤30の回転中心の略直上に位置するように、円盤30の奥側に配置されているが、これに限らず、例えばボビンの先端部が円盤よりも手前側、すなわち円盤と重ならない外側に位置するように配置してもよく、この場合には円盤が操作者から見て奥側に位置することになる。なお、糸紡ぎ機1を配置する向きとしては、前記実施例は一例であり、ボビンの先端部の延長方向に操作者を位置させる態様に限定されるものではなく、当然右手と左手の操作時の配置位置についても限定されるものではないことはいうまでもない。
【0064】
また、被回転機構5の回転軸部9は円盤30の上面30aに対して傾斜する構成に限らず、例えば円盤30の上面30aに対して垂直方向に配置され、ボビン7の下方の鍔部19の外周部を円盤30の側面30cに当接させる構成であってもよい。
【0065】
また、被回転機構5を構成するボビン7とフライヤー8とは、互いに相対回動自在であればよく、例えば、回転軸は回転支持部材に回転不能に固定され、この回転軸にボビンとフライヤーのバー部とがそれぞれ回転自在に軸支されるようにし、ボビンとフライヤーとの軸方向の対向面間の動摩擦力が、回転軸部とボビンとの周面間の動摩擦力に比べて大きくなるようにしてもよい。
【0066】
また、前記実施例においては、ボビン7と回転軸部9との摩擦抵抗は、回転軸部9が軸支される回転支持部材4がヒンジ10により前方に倒れ、ボビン7が円盤30に凭れた状態にあることから、常に回転軸部9の外面がボビン7の貫通穴70の内面に押圧された状態となることより、これら回転軸部9の外面とボビン7の貫通穴70の内面との動摩擦力が、軸穴40と回転軸部9との間の動摩擦力よりも大きくなるものとして説明したが、これに限らず、例えば回転軸部9の外面とボビン7の貫通穴70の内面との間の摩擦係数が軸穴40と回転軸部9との間の摩擦係数より大きくなるようにしてもよい。
【0067】
また、下方の鍔部19の外周部は、鍔部本体19aの外周に合成ゴムなどの高摩擦材からなる摩擦部19bが設けられて構成されている構成に限らず、摩擦部が周方向に点在する構成でもよいし、鍔部本体自体を高摩擦材で構成し、別体の摩擦部を省略してもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 糸紡ぎ機
2 基台
3 回転装置
4 回転支持部材
5 被回転機構
7 ボビン
7a 先端部
8 フライヤー
9 回転軸部(回転軸)
10 ヒンジ
11 ストッパー部材
12 ベース部材
17 巻取軸
19 下方鍔部
20 凹部
30 円盤
30a 上面
30c 側面
31 台座
32 ボールベアリング(軸受)
40 軸穴
41 根元部
42 自由端部
70 貫通孔
80 バー部
F 繊維
FM 塊
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10