IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コクヨ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-転写具 図1
  • 特開-転写具 図2
  • 特開-転写具 図3
  • 特開-転写具 図4
  • 特開-転写具 図5
  • 特開-転写具 図6
  • 特開-転写具 図7
  • 特開-転写具 図8
  • 特開-転写具 図9
  • 特開-転写具 図10
  • 特開-転写具 図11
  • 特開-転写具 図12
  • 特開-転写具 図13
  • 特開-転写具 図14
  • 特開-転写具 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147337
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】転写具
(51)【国際特許分類】
   B43L 19/00 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
B43L19/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054777
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001351
【氏名又は名称】コクヨ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 草
(57)【要約】
【課題】滑りクラッチが構成される第一回転部材と第二回転部材とを組み立て易い転写具を提供する。
【解決手段】転写具の滑りクラッチSが、第一回転部材である繰出ギアM及び当該繰出ギアMに外嵌された繰出用リールCの何れか一方に設けられた弾性係合部Qと、他方に設けられ弾性係合部Qが弾性的に当接する被当接部Gとを備えたものであり、繰出ギアMに、弾性係合部Q又は被当接部Gを含んでなり軸心cnを囲うようにループ状に連続したループ構造部m3が設けられているものとした。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰出用リールから繰り出された転写テープを転写ヘッドを経由させて巻取用リールに巻き取らせるようにした転写具であって、
前記繰出用リールと前記巻取用リールの回転を連動させるリール連動機構と、このリール連動機構を構成するものであり共通軸周りに回転する第一回転部材と第二回転部材との間に滑りを生じさせて前記転写テープの緊張度合を適正化するための滑りクラッチを備えたものであり、
前記滑りクラッチが、前記第一回転部材及び当該第一回転部材に外嵌された前記第二回転部材の何れか一方に設けられた弾性係合部と、他方に設けられ前記弾性係合部が弾性的に当接する被当接部とを備えたものであり、
前記第一回転部材に、前記弾性係合部又は前記被当接部を含んでなり軸心を囲うようにループ状に連続したループ構造部が設けられている転写具。
【請求項2】
前記第一回転部材が、前記ループ構造部とは異なる箇所に設けられ、前記第二回転部材の離脱を規制し得る離脱規制部を備えている請求項1記載の転写具。
【請求項3】
前記ループ構造部に、複数の前記弾性係合部が設けられたものである請求項1又は2記載の転写具。
【請求項4】
前記第一回転部材に、前記弾性係合部を径方向に弾性変形させ得る貫通孔が隣設されている請求項3記載の転写具。
【請求項5】
前記ループ構造部が、概略三角形状をなしたものであり、軸心から最も離れた三箇所に前記弾性係合部が配されている請求項3又は4記載の転写具。
【請求項6】
前記弾性係合部が、弾性係合部本体と、この弾性係合部本体に凸設され前記被当接部に対して当接する当接部分とを備えたものである請求項3、4又は5記載の転写具。
【請求項7】
前記離脱規制部が、前記弾性係合部よりも前記共通軸に対して近接又は離間した位置に設けられている請求項2記載の転写具。
【請求項8】
前記第一回転部材が、ギアの機能を有するものであり、
前記第二回転部材が、前記転写テープを巻回保持するものである請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の転写具。
【請求項9】
前記第一回転部材が、円環状の外周縁に複数の歯が並設されたギア本体部と、このギア本体部よりも前記共通軸の軸心方向に変位した位置に配された前記弾性係合部とを備えたものである請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の転写具。
【請求項10】
前記第一回転部材が、前記繰出用リールに係合する繰出ギアであり、
前記第二回転部材が、前記繰出ギアに外嵌された前記繰出用リールである請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載の転写具。
【請求項11】
前記リール連動機構が、前記繰出用リールと、この繰出用リールとともに回転し得る前記繰出ギアと、この繰出ギアに直接又は他のギアを介して間接的に噛合する巻取ギアと、この巻取ギアとともに回転し得る前記巻取用リールとを備えたものである請求項10記載の転写具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、糊等の転写物が添着された転写テープが繰り出される繰出用リールと、繰出用リールから繰り出された転写テープを巻き取るための巻取用リールと、繰出用リールと巻取用リールの回転を連動させるリール連動機構とを備えた転写具が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
この種の転写具では、リール連動機構を構成する繰出ギアと繰出用リールを支持し得るコア部材との間にコイルスプリングを介在させて、転写テープの緊張度合を適正化するため滑りクラッチを構成したものがある。かかる構成の滑りクラッチは、テープの緊張度合を適正化させるための優れた機能を発揮し得るものとなる反面、コイルスプリングを必須の構成としているために部品点数や製造工数の抑制に一定の限界があるというジレンマがある。
【0004】
そこで、コイルスプリングを使用することなく、繰出ギアと繰出リールとを係わり合わせるだけで滑りクラッチを実現しようとする試みがなされている。
【0005】
ところが、従来のものは、繰出ギアと繰出リールとを組み付ける際に、特定の部位が過度な変形をしたり破損したりすることに起因して、所期の滑りクラッチの機能が適切に発揮されない場合があった。このため、従来のものは、製品毎に滑りクラッチの精度にばらつきが生じ易く、滑りクラッチが構成される部材同士を精度よく好適に組み立て難いものとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-062537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような事情に着目してなされたものであり、少なくとも、滑りクラッチが構成される第一回転部材と第二回転部材とを好適に組み立てることができる転写具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は次の構成をなしている。
【0009】
請求項1に記載の発明は、繰出用リールから繰り出された転写テープを転写ヘッドを経由させて巻取用リールに巻き取らせるようにした転写具であって、前記繰出用リールと前記巻取用リールの回転を連動させるリール連動機構と、このリール連動機構を構成するものであり共通軸周りに回転する第一回転部材と第二回転部材との間に滑りを生じさせて前記転写テープの緊張度合を適正化するための滑りクラッチを備えたものであり、前記滑りクラッチが、前記第一回転部材及び当該第一回転部材に外嵌された前記第二回転部材の何れか一方に設けられた弾性係合部と、他方に設けられ前記弾性係合部が弾性的に当接する被当接部とを備えたものであり、前記第一回転部材に、前記弾性係合部又は前記被当接部を含んでなり軸心を囲うようにループ状に連続したループ構造部が設けられている転写具である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記第一回転部材が、前記ループ構造部とは異なる箇所に設けられ、前記第二回転部材の離脱を規制し得る離脱規制部を備えている請求項1記載の転写具である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記ループ構造部に、複数の前記弾性係合部が設けられたものである請求項1又は2記載の転写具である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記第一回転部材に、前記弾性係合部を径方向に弾性変形させ得る貫通孔が隣設されている請求項3記載の転写具である。
【0013】
請求項5に記載の発明は、前記ループ構造部が、概略三角形状をなしたものであり、軸心から最も離れた三箇所に前記弾性係合部が配されている請求項3又は4記載の転写具である。
【0014】
請求項6に記載の発明は、前記弾性係合部が、弾性係合部本体と、この弾性係合部本体に凸設され前記被当接部に対して当接する当接部分とを備えたものである請求項3、4又は5記載の転写具である。
【0015】
請求項7に記載の発明は、前記離脱規制部が、前記弾性係合部よりも前記共通軸に対して近接又は離間した位置に設けられている請求項2記載の転写具である。
【0016】
請求項8に記載の発明は、前記第一回転部材が、ギアの機能を有するものであり、前記第二回転部材が、前記転写テープを巻回保持するものである請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の転写具である。
【0017】
請求項9に記載の発明は、前記第一回転部材が、円環状の外周縁に複数の歯が並設されたギア本体部と、このギア本体部よりも前記共通軸の軸心方向に変位した位置に配された前記弾性係合部とを備えたものである請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の転写具である。
【0018】
請求項10に記載の発明は、前記第一回転部材が、前記繰出用リールに係合する繰出ギアであり、前記第二回転部材が、前記繰出ギアに外嵌された前記繰出用リールである請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載の転写具である。
【0019】
請求項11に記載の発明は、前記リール連動機構が、前記繰出用リールと、この繰出用リールとともに回転し得る前記繰出ギアと、この繰出ギアに直接又は他のギアを介して間接的に噛合する巻取ギアと、この巻取ギアとともに回転し得る前記巻取用リールとを備えたものである請求項10記載の転写具である。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように本発明によれば、少なくとも、滑りクラッチが構成される第一回転部材と第二回転部材とを好適に組み立てることができる転写具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態を示す斜視図。
図2】同実施形態における右側面図。
図3図2におけるX-X線断面図。
図4】同実施形態における分解斜視図。
図5】同実施形態におけるカバーを外した右側面図。
図6図5におけるY-Y線断面図。
図7】同実施形態における繰出ギア(第一回転部材)の正面図。
図8】同実施形態における繰出ギア(第一回転部材)の左側面図。
図9】同実施形態における繰出ギア(第一回転部材)の右側面図。
図10】同実施形態における繰出ギアの(第一回転部材)平面図。
図11図9におけるZ-Z線断面図。
図12】同実施形態における繰出用リール(第二回転部材)の正面図。
図13】同実施形態における繰出用リール(第二回転部材)の左側面図。
図14】同実施形態における繰出用リール(第二回転部材)の右側面図。
図15図14におけるV-V線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態を、図1~15を参照して説明する。
【0023】
この実施形態は、本発明を、転写物である糊(図示せず)を用紙等の転写対象面(図示せず)に対して転写するための転写具に適用したものである。転写具は、繰出用リールCから繰り出された転写テープTを、転写ヘッドBを経由させて巻取用リールDに巻き取らせるようにしたものである。
【0024】
転写具は、帯状をなす基材t1の一面側に糊が添着されてなる転写テープTを、転写ヘッドBの先端部に設けられた転写ローラーb4によって転写対象面に対して押し付けつつ転写テープTを上流側(繰出用リールC側)から下流側(巻取用リールD側)に向かって流動・走行させることにより、当該転写対象面に対して基材t1から糊を転写し得るように構成したものである。
【0025】
転写具は、内部に転写テープTを収容し得るケースAと、ケースAの前端部に配された転写ヘッドBと、ケースA内に収容され糊を保持した転写テープTが巻装された繰出用リールCと、ケースA内に収容され繰出用リールCから繰り出されるとともに転写ヘッドBの転写ローラーb4を経由した転写テープTを巻き取るための巻取用リールDと、繰出用リールCと巻取用リールDの回転を連動させるリール連動機構Eを備えたものである。
【0026】
リール連動機構Eには、ケースAに設けられた共通軸である第一の支軸j1周りに回転する第一回転部材である繰出ギアMと第二回転部材である繰出用リールCとの間に滑りすなわち相対回転を生じさせて転写テープTの緊張度合を適正化するための滑りクラッチSが設けられている。
【0027】
以下、転写具の各構成について説明する。
【0028】
<ケースA>
ケースAは、内部に繰出用リールC、及び、巻取用リールDを収容し得る収容空間spが形成された合成樹脂製のものである。ケースAには、リール連動機構Eを構成する繰出用リールC、繰出ギアM、巻取用リールD、巻取ギアN、及び、繰出ギアMと繰出用リールCとの間に設けられた滑りクラッチSが収容されている。
【0029】
ケースAは、左右の側壁1、2と、左右の側壁1、2の上端部間に配された上壁3と、左右の側壁1、2の後端部間に配された後壁4と、左右の側壁1、2の下端部間に配された下壁5とを備えている。
【0030】
ケースAの前側には、転写テープTを転写ヘッドBの転写ローラーb4に導出するとともに転写ヘッドBの転写ローラーb4を経由した転写テープTをケースAの内部に導入するための開口部6が形成されている。
【0031】
ケースAは、左ケース部材Lと、左ケース部材Lに対して装着される右ケース部材Rとによって構成されている。
【0032】
左ケース部材Lは、左の側壁1を有するとともに上壁3を構成する左上壁部31、後壁4を構成する左後壁部41、及び、下壁5を構成する左下壁部51を有したものである。
【0033】
右ケース部材Rは、右の側壁2を有するとともに上壁3を構成する右上壁部32、後壁4を構成する右後壁部42、及び、下壁5を構成する右下壁部52を有したものである。
【0034】
この実施形態では、右ケース部材Rに設けられた右上壁部32、右後壁部42、及び、右下壁部52が、上壁3、後壁4、及び、下壁5の主要部を構成し得るように左ケース部材Lのものよりも横幅方向に長く設定されている。
【0035】
なお、図5の右側面図では、転写具の内部構造を説明する便宜のために、右ケース部材Rを取り外した状態のものを示している。
【0036】
左の側壁1の内面には、リール連動機構Eを構成する繰出用リールCや繰出ギアMを回転可能に支持する第一の支軸j1が突設されている。
【0037】
左の側壁1の内面には、リール連動機構Eを構成する巻取用リールDや巻取ギアNを回転可能に支持する第二の支軸j2が突設されている。第二の支軸j2は、第一の支軸j1よりも後に配されている。
【0038】
第一、第二の支軸j1、j2の先端部は、それぞれ、右の側壁2の内面に連結されるようになっている。
【0039】
ケースAには、不使用時等において、転写ヘッドBをカバーし得る保護カバーFが回転可能に支持されている。
【0040】
<転写ヘッドB>
転写ヘッドBは、ケースAに設けられた左右の起立壁b1、b2と、左右の起立壁b1、b2の先端部間に架設されたローラー支持軸b3と、ローラー支持軸b3に支持された円筒状をなす転写ローラーb4とを備えたものである。
【0041】
左の起立壁b1は、左ケース部材Lに一体に設けられており、右の起立壁b2は右ケース部材Rに一体に設けられている。
【0042】
ローラー支持軸b3は、左ケース部材Lから突設された円柱状のものである。ローラー支持軸b3は、左の起立壁b1と一体に形成されている。ローラー支持軸b3の突出端は右の起立壁b2に連結されている。
【0043】
転写ローラーb4は、ローラー支持軸b3が挿入される左右方向に貫通した軸挿通孔を有する円筒状のものである。転写ローラーb4は、転写操作時においてローラー支持軸b3周りに回転し得るものとなっている。
【0044】
<繰出用リールC>
繰出用リールCは、リール連動機構Eを構成するものである。繰出用リールCは、繰出ギアMに対して外嵌されている。繰出用リールCは、繰出ギアMを介してケースAに突設された第一の支軸j1に回転可能に支持されている。この実施形態では、繰出用リールCは巻取用リールDよりも前に配設されている。
【0045】
繰出用リールCは、左右方向に延びてなり外周部に転写テープTが巻装された円筒状をなす繰出リール本体部c1と、繰出リール本体部c1の左右両端部にそれぞれ鍔状に設けられた左右の側板部c2と、繰出リール本体部c1の内周面から内方すなわち回転中心方向に向かって鍔状に突設され繰出ギアMに設けられた離脱規制部m2に係合し得る被係合部c3とを有してなるものである。繰出リール本体部c1、左右の側板部c2、及び、被係合部c3は、合成樹脂により一体に形成されている。
【0046】
繰出リール本体部c1の内周面には、繰出ギアMの弾性係合部Qが弾性的に当接する被当接部Gが設けられている。被当接部Gは、繰出リール本体部c1における円筒内周面の幅方向中央部に設定されている。
【0047】
左右の側板部c2は、繰出リール本体部c1に巻回された転写テープTを位置決めし得るものである。左右の側板部c2は、側面視において略ドーナツ状をなしている。
【0048】
なお、左の側板部c2における繰出ギア本体部m1を臨む外面は、繰出ギア本体部m1に突設された当接凸部m12に当接し得るものとなっている。繰出用リールCは、当接凸部m12に当接することにより繰出ギアMに対して位置決めされている。
【0049】
また、右の側板部c2における周縁部の外面には、転写テープTに緩みが生じた場合にこれを是正するための凹み穴c21が並設されている。凹み穴c21は、繰出用リールCを回転させる事により、滑りクラッチSを強制作動させ得るようにした既知の構成のものである。
【0050】
被係合部c3は、側面視において環状をなしている。被係合部c3は、繰出リール本体部c1における被当接部Gよりも右の側壁2に近い箇所に設けられている。被係合部c3は、繰出リール本体部c1から内方すなわち軸心cnに近づく方向に延びてなる内方延出部分c31と、内方延出部分c31における延出端に設けられた円筒部分c32とを備えている。円筒部分c32は、繰出リール本体部c1よりも小径な円筒状をなしている。
【0051】
繰出用リールCは、繰出ギアMに設けられた離脱規制部m2に対して被係合部c3の円筒部分c32が直接的に係わり合うことにより、繰出ギアMから離脱しないように構成されている。
【0052】
<巻取用リールD>
巻取用リールDは、繰出用リールCから転写ヘッドBの転写ローラーb4を経由して送り出された転写テープTを巻き取るものである。巻取用リールDは、左右方向に延びてなり外周部に転写テープTを巻き取り得る概略円筒状の巻取リール本体部d1と、巻取リール本体部d1の左右両端部に設けられた左右の鍔部d2、d3とを備えたものである。巻取用リールDは、ケースAに突設された第二の支軸j2に回転可能に支持されている。
【0053】
一方すなわち左の鍔部d2の外側には巻取ギアNが一体に設けられている。他方すなわち右の鍔部d3の外側には、右の側壁2の内面に設けられた図示しない爪係止部に係止し得る逆転防止用の爪d4が設けられている。
【0054】
<リール連動機構E>
リール連動機構Eは、糊が保持された転写前の転写テープTが巻かれた繰出用リールCと、第一の支軸j1に回転可能に支持され繰出用リールCとともに回転し得る繰出ギアMと、第二の支軸j2に回転可能に支持され繰出ギアMと噛合する巻取ギアNと、当該巻取ギアNが側部に一体に設けられ糊が離脱した転写後の転写テープTを巻き取る巻取用リールDと、繰出ギアMと繰出用リールCとの間に設けられた滑りクラッチSを含んで構成されている。
【0055】
<繰出ギアM>
繰出ギアMは、外周縁に歯haを有するとともに中心部に第一の支軸j1が挿入される軸孔Hを有したものである。
【0056】
繰出ギアMは、円環状の外周縁に巻取ギアNと噛合する複数の歯haが並設された繰出ギア本体部m1と、第一の支軸j1が挿入される軸孔Hを有するとともに先端部が繰出用リールCの円筒部分c32に係合し得る離脱規制部m2と、離脱規制部m2よりも外側すなわち軸心cnから離れた位置に配設され第一の支軸j1の軸心cnを囲うようにループ状に連続したループ構造部m3と、離脱規制部m2とループ構造部m3との間を離間させるように繰出ギア本体部m1と離脱規制部m2との間及びループ構造部m3と離脱規制部m2との間を繋ぐ連結部m4を備えている。繰出ギア本体部m1、離脱規制部m2、ループ構造部m3、及び、連結部m4は、合成樹脂により一体に形成されている。
【0057】
繰出ギア本体部m1は、円環状をなしその外周縁に巻取ギアNと噛合し得る複数の歯haが並び設けられた外環状部m11と、外環状部m11の内周縁部すなわち歯haよりも軸心cn側に凸設され繰出用リールCが当接することにより当該繰出用リールCを位置決めし得る当接凸部m12と、外環状部m11よりも軸心cn側に一定の間隔を空けて形成された複数すなわち三つの貫通孔Iと、三つの貫通孔Iの間に介在した板状のものであり外環状部m11の内縁部から軸心cnに対して近づく方向に延設された複数すなわち三つの板状部m13とを備えている。
【0058】
当接凸部m12は、外環状部m11に突設された環状をなしたものである。当接凸部m12は、離脱規制部m2の係止爪m22と協働して、繰出ギアMに外嵌された繰出用リールCを繰出ギアMに対して位置決めし得るものとなっている。
【0059】
貫通孔Iは、繰出ギアMの回転方向に一定の間隔を空けて三箇所に形成されている。貫通孔Iは、外環状部m11と離脱規制部m2の間に亘って設けられている。なお、ループ構造部m3は、貫通孔Iを跨ぐようにして隣り合う板状部m13間を繋いでいる。
【0060】
貫通孔Iは、軸孔Hを有する離脱規制部m2よりも外側の領域に設けられている。貫通孔Iは、ループ構造部m3に設けられた三つの弾性係合部Qを径方向に弾性変形させ得るように設けられている。
【0061】
貫通孔Iは、側面視において弾性係合部Qよりも径方向内側に隣設された内貫通孔部i1と、側面視において弾性係合部Qよりも径方向外側に隣設された外貫通孔部i2と、側面視において弾性係合部Qと重なり合う位置に隣設された中央貫通孔部i3とを備えたものである。
【0062】
離脱規制部m2は、繰出ギアMに外嵌された繰出用リールCの離脱を規制し得るものである。換言すれば、離脱規制部m2は、繰出用リールCを抜け止めするためのものである。離脱規制部m2は、繰出用リールCを回転可能に支持し得る繰出用リール支持軸を兼ねている。
【0063】
離脱規制部m2は、弾性係合部Qを配したループ構造部m3よりも第一の支軸j1に対して近接した位置に設けられている。すなわち、繰出ギアMにおいて、離脱規制部m2は、ループ構造部m3とは異なる箇所に設けられている。
【0064】
離脱規制部m2は、軸心cn方向に立設された概略円筒状をなす離脱規制部本体m21と、離脱規制部本体m21の外周面に突設され繰出用リールCの被係合部c3に係合することにより当該繰出用リールCを抜け止めする三つの係止爪m22とを備えたものである。
【0065】
離脱規制部本体m21の突出端部側には、繰出用リールCを装着する際において係止爪m22を設けた部分を一時的に弾性変形させるための切欠部kaが形成されている。
【0066】
係止爪m22は、一定の間隔を空けて三箇所に設けられている。各係止爪m22には繰出ギア本体部m1側を向き繰出用リールCにおける円筒部分c32の端面に摺動可能に当接し得るリール係接面meが設けられている。
【0067】
ループ構造部m3は、閉ループ構造をなし離脱規制部m2よりも外側すなわち軸心cnに対して離れた位置に配設されている。ループ構造部m3は、側面視において概略三角形状をなしている。ループ構造部m3は、軸心cnから最も離れた三箇所に弾性係合部Qが配されている。
【0068】
ループ構造部m3は、繰出ギア本体部m1における板状部m13の内方端部から軸心cn方向に立設された複数すなわち三つの基部Uと、隣り合う基部Uの先端部間に架設された弾性係合部Qとを備えたものである。
【0069】
基部Uは、側面視において、外方に向かって凸をなすように湾曲した部分円筒状をなしている。基部Uは、軸心cnを囲うようにして繰出ギアMの回転方向に一定の間隔を空けて三箇所に配設されている。基部Uは、繰出ギア本体部m1の板状部m13から立ち上がる部位をなしている。基部Uの外周面には、補強リブuaが突設されている。
【0070】
弾性係合部Qは、径方向に弾性変形し易い構成をなしている。弾性係合部Qは、繰出用リールCの適切な姿勢を維持し得るために設定された被当接部Gの配設箇所(すなわち、繰出リール本体部c1の左右方向中央部)に対して弾性的に当接するように構成されている。
【0071】
弾性係合部Qは、繰出ギア本体部m1よりも繰出リール本体部c1の左右方向中央部側に位置するように第一の支軸j1の軸心cn方向に変位した位置に配されている。
【0072】
弾性係合部Qは、隣り合う基部Uの間に架け渡されたものである。弾性係合部Qは、貫通孔Iを臨む箇所に設けられている。弾性係合部Qは、弾性係合部本体q1と、弾性係合部本体q1に凸設され繰出用リールCの被当接部Gに対して当接する当接部分q2とを備えている。
【0073】
弾性係合部本体q1は、両端部が基部Uに連設されたものとなっている。弾性係合部本体q1の中央部には、繰出ギア本体部m1とは逆の方向に突出した突出部分q11が設けられている。突出部分q11の外面側には滑りクラッチS機構を構成する当接部分q2が設けられている。
【0074】
<巻取ギアN>
巻取ギアNは、外周縁に繰出ギアMと噛合する複数の歯haが設けられたものである。巻取ギアNは、巻取用リールDと軸心cnを一致させて当該巻取用リールDに一体に設けられている。
【0075】
<滑りクラッチS>
滑りクラッチSは、繰出用リールCと巻取用リールDとの間に掛け渡された転写テープTの緊張度合を適正化するために、転写テープTに一定以上の緊張が生じた場合に繰出ギアMと繰出用リールCとの相対回転(滑り)を許容し得るものである。
【0076】
滑りクラッチSは、繰出ギアMに設けられた弾性係合部Qと、繰出用リールCに設けられ繰出ギアMの弾性係合部Qが弾性的に当接する被当接部Gとを備えたものである。
【0077】
弾性係合部Qは、その両端部が基部Uに支持されており、且つ、貫通孔Iが隣設されたものとなっている。そして、弾性係合部Qに突設された当接部分q2が被当接部Gに対して部材の弾性変形を利用して弾性的に接するものとなっている。
【0078】
続いて、本実施形態における転写具における滑りクラッチSの作動について説明する。
【0079】
転写具は、転写ヘッドBの転写ローラーb4に裏当てされた転写テープTが転写対象面に当接しつつ移動させられると、繰出用リールCから転写テープTが順次繰り出されるようになっている。これと同時に、転写テープTの移動により生ずる繰出用リールCの回転力がリール連動機構Eにより巻取用リールDに伝達されることにより、転写テープTが巻取用リールDに巻き取られるようになっている。
【0080】
繰出用リールCの回転力は、滑りクラッチSを介して繰出ギアMに伝達される。さらに、繰出用リールCの回転力は、繰出ギアMに噛合した巻取ギアN及び当該巻取ギアNと一体に形成された巻取用リールDに伝達される。そして、回転力を得た巻取用リールDは、転写テープTを巻き取ることになる。
【0081】
繰出用リールCに巻回された転写テープTの残量が減少し、巻取用リールDに巻き取られた転写テープTの巻取量が増えていくと、繰出用リールCの回転数が増えていくとともに巻取用リールDの回転数も増えていく。この結果、巻取用リールDと繰出用リールCとの間の転写テープTの張力すなわち緊張度合は次第に増大していくことになる。また、繰出用リールCから繰出ギアMに伝達される回転力も転写テープTの張力と比例して増大していくことになる。
【0082】
この回転力が所定以上に増大すると、繰出用リールCと繰出ギアMとの間の摩擦力よりも繰出用リールCの回転力が大きくなり、繰出用リールCが繰出ギアMに対して回転方向に滑り動くことになる。すなわち、繰出用リールCが、繰出ギアMよりも回転方向に対して早く回転することになる。
【0083】
この実施形態では、繰出ギアMのループ構造部m3に設けられた弾性係合部Qの当接部分q2が、繰出用リールCにおける繰出リール本体部c1の内周面である被当接部Gに対して弾性的に接しており、必要時において所定の滑り機能を好適に発揮し得るものとなっている。
【0084】
なお、繰出用リールCと協働して滑りクラッチSの機能を発揮し得る弾性係合部Qは繰出ギアMにおけるループ構造部m3に設けられているが、繰出用リールCを繰出ギアMから抜け止めする機能を発揮し得る離脱規制部m2は繰出ギアMにおけるループ構造部m3よりも軸心cnに近い位置に(すなわち、ループ構造部m3とは別の位置に)設けられている。
【0085】
そのため、この実施形態における滑りクラッチSの構成であれば、弾性係合部Qによる被当接部Gに対する押圧付勢力が、組み立て工程等によって変動し難いものとなり、安定した値に設定され得るものとなっている。つまり、この実施形態における滑るクラッチSであれば、樹脂摩擦を安定化させやすく、好適に作動し得るものとなる。
【0086】
以上に詳述したように本実施形態に係る転写具は、繰出用リールCから繰り出された転写テープTを転写ヘッドBを経由させて巻取用リールDに巻き取らせるようにしたものである。
【0087】
そして、転写具は、繰出用リールCと巻取用リールDの回転を連動させるリール連動機構Eと、リール連動機構Eを構成するものであり共通軸である第一の支軸j1周りに回転する第一回転部材である繰出ギアMと第二回転部材である繰出用リールCとの間に滑りを生じさせて転写テープTの緊張度合を適正化するための滑りクラッチSを備えたものである。
【0088】
滑りクラッチSが、繰出ギアMに設けられた弾性係合部Qと、繰出ギアMに外嵌された繰出リールに設けられ弾性係合部Qが弾性的に当接する被当接部Gとを備えたものである。繰出ギアMには、弾性係合部Qを含んでなり軸心cnを囲うようにループ状に連続したループ構造部m3が設けられている。
【0089】
このため、本実施形態であれば、滑りクラッチSが構成される繰出ギアMと繰出用リールCとを組み立て易い転写具を提供することができるものとなる。
【0090】
つまり、繰出ギアMには、弾性係合部Qを含んでなり軸心cnを囲うようにループ状に連続したループ構造部m3が設けられているため、このループ構造部m3に対して被当接部Gを設けた繰出用リールCを外嵌させることによって、所期の機能を発揮し得る滑りクラッチSを簡単に構成し得るものとなっている。
【0091】
換言すれば、ループ構造部m3は、繰出用リールCに内嵌されたものとなるため、部材の弾性変形により生じ得る弾性係合部Qの付勢力が安定的に生じ得るものとなっている。そのため、本実施形態であれば、製品毎に滑りクラッチSの機能にばらつきが生じることが好適に抑制され得るものとなっている。
【0092】
第一回転部材である繰出ギアMが、ループ構造部m3とは異なる箇所に設けられ、繰出用リールCの離脱を規制し得る離脱規制部m2を備えている。
【0093】
このため、繰出ギアMに対して繰出用リールCを装着する際等において、離脱規制部m2が変形した場合であっても、滑りクラッチSの機能に影響が生じ難いものとなっている。
【0094】
ループ構造部m3に、複数すなわち三つの弾性係合部Qが設けられたものである。
【0095】
このため、三つの弾性係合部Qが、繰出用リールCをバランスよく付勢し得るものとなっている。
【0096】
繰出ギアMに、弾性係合部Qを径方向に弾性変形させ得る貫通孔Iが隣設されている。
【0097】
このため、弾性係合部Qは、隣設された貫通孔Iによって、径方向への弾性変形が柔軟に行われるものとなっている。
【0098】
ループ構造部m3が、概略三角形状をなしたものである。そして、ループ構造部m3は、軸心cnから最も離れた三箇所に弾性係合部Qが配されている。
【0099】
このため、三箇所の弾性係合部Qが、繰出用リールCをバランスよく付勢し得るものとなっている。
【0100】
弾性係合部Qが、弾性係合部本体q1と、弾性係合部本体q1に凸設され被当接部Gに対して当接する当接部分q2とを備えたものである。
【0101】
このため、弾性係合部Qは、弾性係合部本体q1により好適に弾性変形し得るものとなっている。さらに、弾性係合部Qは、被当接部Gに接する部分を当接部分q2だけに限定しているので、滑りクラッチSを好適に設定し得るものとなっている。
【0102】
離脱規制部m2は、弾性係合部Qよりも共通軸である第一の支軸j1に対して近接した位置に設けられている。
【0103】
このため、離脱規制部m2は、繰出用リールCを好適に抜け止めし得る得るものとなっている。
【0104】
繰出ギアMが、円環状の外周縁に複数の歯haが並設された繰出ギア本体部m1と、繰出ギア本体部m1よりも共通軸の軸心cn方向に変位した位置に配された弾性係合部Qとを備えたものである。
【0105】
このため、弾性係合部Qは、繰出用リールCにおける好適な箇所に配された被当接部Gに対して当接し得るものとなり、繰出ギアMに外嵌した繰出用リールCが繰出ギアMに対して安定的に支持されたものとなる。
【0106】
なお、本発明は、以上に詳述した実施形態に限られるものではない。
【0107】
転写具は、転写テープに添着された転写物を転写対象物に転写するものであればよい。換言すれば、転写物は、本実施形態に示された糊に限られるものではなく、例えば、薄膜状の修正剤や装飾用の装飾剤(装飾テープ)であってもよい。
【0108】
共通軸周りに回転する第一回転部材と第二回転部材は、本実施形態に示されたものに限られるものではない。
【0109】
第一回転部材が繰出用リールであり、第二回転部材が繰出ギアであってもよい。
【0110】
また、第一回転部材及び第二回転部材の何れか一方が巻取ギアであり、他方が巻取用リールであってもよい。
【0111】
第一回転部材や第二回転部材は、共通軸周りに回転するギアとリールとの間に介在するギアやリールとは別体をなす部材、例えば、コア部材と称されるような筒状をなす部材であってもよい。
【0112】
第一回転部材が、ギアの機能を有するものであれば好ましい。また、第二回転部材が、転写テープを巻回保持するものであれば好ましい。
【0113】
位置規制部は、第二回転部材を第一回転部材に対して位置決めする構成であれば、どのようなものであってもよい。
【0114】
転写ヘッドは、転写テープを転写対象面に押し付ける機能を発揮することができればよく、本実施形態に示されるものに限られるものではない。他の転写ヘッドとしては、例えば、板状部材の先端を、転写テープを転写対象面に押し付けるための押圧部としたものを挙げることができる。
【0115】
転写具は、転写テープが無くなった場合は以後使用できなくなるいわゆるディスポーザブルタイプのものには限定されるものではない。転写具は、転写物を保持した交換部品であるリフィルを使用したリフィル交換可能タイプのものであってもよい。
【0116】
リール連動機構は、繰出用リールと巻取用リールを連動させ得るものであれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、繰出ギアと巻取ギアとの間に単数又は複数の中間ギアを介在させたものであってもよい。
【0117】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0118】
A…ケース
B…転写ヘッド
C…繰出用リール(第二回転部材)
D…巻取用リール
E…リール連動機構
G…被当接部
M…繰出ギア(第一回転部材)
m3…ループ構造部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15