IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイカ工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147338
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】カチオン硬化型エポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/40 20060101AFI20231005BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20231005BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20231005BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08G59/40
C09J163/00
C09J11/04
C09J11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054778
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】水間 健太
【テーマコード(参考)】
4J036
4J040
【Fターム(参考)】
4J036AC05
4J036AD08
4J036AJ01
4J036AJ10
4J036CD01
4J036FA05
4J036GA02
4J036GA03
4J036GA04
4J036GA06
4J036GA28
4J036HA02
4J036HA12
4J036JA06
4J040EC031
4J040EC041
4J040EC051
4J040HA176
4J040HA306
4J040HD13
4J040JA03
4J040JB02
4J040JB08
4J040KA12
4J040KA13
4J040KA25
4J040LA03
4J040MA10
4J040MB03
4J040MB09
4J040NA17
4J040NA19
(57)【要約】
【課題】シリカ配合量を多くして高充填した場合でも、作業性が良好な粘度を維持でき、且つ保存安定性が良好で、硬化物の線膨張率が低いカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂と、シリカと、炭酸カルシウムと、カチオン重合開始剤と、を含み、前記エポキシ樹脂がシクロアルケンオキサイド骨格を有するエポキシ樹脂及び芳香環を有するジグリシジルエーテルを含み、前記シリカが平均一次粒子径0.05~1.0μmの球状シリカ、及び平均一次粒子径1.5~30μm未満の球状シリカを含むことを特徴とするカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)と、シリカ(B)と、炭酸カルシウム(C)と、カチオン重合開始剤(D)と、を含み、前記(A)がシクロアルケンオキサイド骨格を有するエポキシ樹脂(a1)及び芳香環を有するジグリシジルエーテル(a2)を含み、前記(B)が平均一次粒子径1.5~30μmの球状シリカ(b1)、及び平均一次粒子径0.05~1.0μmの球状シリカ(b2)を含むことを特徴とするカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)の配合量が前記(A)100重量部に対し150~280重量部であることを特徴とする請求項1記載のカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)に対する(b1)の配合比率が、50~95重量%であることを特徴とする請求項1又は2記載のカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記(D)が光カチオン重合開始剤(d1)及び熱カチオン重合開始剤(d2)であることを特徴とする請求項1~3いずれか記載のカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
光学部品又は光学装置用の接着剤であることを特徴とする請求項1~4いずれか記載のカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン重合で硬化するエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から光学部品の接着には透明性や速硬化性の要求から、紫外線硬化型接着剤が広く用いられている。紫外線硬化型接着剤としては主にラジカル硬化型のアクリル系と、カチオン硬化型のエポキシ系があるが、前者は空気中の酸素による重合阻害を受けること、およびエステル基が加水分解することにより接着力が低下するという長期信頼性の面で問題があり、信頼性を重要視される分野ではエポキシ系の紫外線硬化型接着剤が広く用いられるようになっている。
【0003】
こうしたエポキシ系の接着剤では、チクソ性の改良や接着力等の物性向上のため、シリカをはじめとする無機フィラーを配合する場合がある。例えば光学部品を固定する接着剤としては、2個のグリシジル基が直接芳香環結合したエポキシ樹脂と脂環族ポリエーテル骨格エポキシ樹脂と脂環式エポキシ化合物と光カチオン重合触媒とシランカップリング剤とシリカ微粒子からなる接着剤(特許文献1)や、脂環式エポキシとオキセタン化合物と光カチオン重合開始剤とシリカを含む接着剤(特許文献2)などが提案されている。
【0004】
しかしながら、無機フィラーの配合量を多くすると沈降しやすくなり、これを防ぐため分散剤を配合しても、短時間で増粘する傾向があった。また、硬化収縮や線膨張係数を低減する目的で無機フィラーを高充填した場合は粘度が著しく高くなり、作業性や流動性を低下させる等の不具合が発生する場合があった。そのため、作業性が良好な粘度を有しながら、線膨張係数が十分低く、また保存安定性が良好である光学部品に使用可能な接着剤が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-94509号公報
【特許文献2】特許6709730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、シリカ配合量を多くして高充填した場合でも、作業性が良好な粘度を維持でき、且つ保存安定性が良好で、硬化物の線膨張率が低いカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため請求項1記載の発明は、エポキシ樹脂(A)と、シリカ(B)と、炭酸カルシウム(C)と、カチオン重合開始剤(D)と、を含み、前記(A)がシクロアルケンオキサイド骨格を有するエポキシ樹脂(a1)及び芳香環を有するジグリシジルエーテル(a2)を含み、前記(B)が平均一次粒子径1.5~30μm未満の球状シリカ(b1)、及び平均一次粒子径0.05~1.0μmの球状シリカ(b2)を含むことを特徴とするカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記(B)の配合量が前記(A)100重量部に対し150~280重量部であることを特徴とする請求項1記載のカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0009】
請求項3記載の発明は、前記(B)に対する(b1)の配合比率が、50~95重量%であることを特徴とする請求項1又は2記載のカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0010】
請求項4記載の発明は、前記(D)が光カチオン重合開始剤(d1)及び熱カチオン重合開始剤(d2)であることを特徴とする請求項1~3いずれか記載のカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0011】
請求項5記載の発明は、光学部品又は光学装置用の接着剤であることを特徴とする請求項1~4いずれか記載のカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物は、シリカの配合量を多くして高充填していても、作業性に優れる粘度を維持し、且つ保存安定性が良好で、硬化物の線膨張率も低いため、光学用途の接着剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明のエポキシ樹脂組成物の構成は、エポキシ樹脂(A)と、シリカ(B)と、炭酸カルシウム(C)と、カチオン重合開始剤(D)である。
【0015】
本発明で使用されるエポキシ樹脂(A)は、カチオン重合開始剤によって開環し架橋構造となるエポキシ基を有する、耐熱性と可撓性に優れる透明性の高い主要構成樹脂であり、シクロアルケンオキサイド骨格を有するエポキシ樹脂(a1)及び芳香環を有するジグリシジルエーテル(a2)を含む。
【0016】
本発明で使用されるシクロアルケンオキサイド骨格を有するエポキシ樹脂(a1)は、脂環骨格に直接エポキシ基が配置された構造で、カチオン触媒と良好な反応性を有し、接着性と硬化性が良好で、低温硬化性にも優れる樹脂である。硬化性に優れるので、硬化後に硬化物に残存する未硬化物の量を減らすことができ、また高温高湿環境下でも収縮応力の増加を抑えることができるため、結果として耐高温高湿性を向上させることができる。常温で液状が好ましく、また反応性の点でエポキシ基は2官能以上であることが好ましい。2官能以上の(a1)としては、例えば3′,4′-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシルレート、3,4,3’,4’-ジエポキシビシクロヘキサン、ε-カプロラクトン変性3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)などが挙げられ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では、低粘度で架橋密度の高い硬化物が得られる3′,4′-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシルレートが好ましい。
【0017】
前記(a1)の配合比率は、(A)に対し40~90重量%が好ましく、45~85重量%が更に好ましく、50~75重量%が特に好ましい。40重量%以上とすることで十分に高いガラス転移点(以下Tgという)を確保することができ、90重量%以下とすることで十分な光硬化性を確保することができる。また(a1)と(a2)の合計に対する(a1)の配合比率は45~95重量%が好ましく、50~90重量%が更に好ましい。
【0018】
本発明で使用される芳香環を有するジグリシジルエーテル(a2)は、低粘度で光硬化感度が高い樹脂で、例えば芳香環を一つ有するレゾルシノールジグリシジルエーテル、4-エチルレゾルシノールジグリシジルエーテル、カテコールジグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテルなどや、複数の芳香環を有するビスフェノール型やビフェニル型グリシジルエーテルなどが挙げられ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では、入手性が容易で、シリカの高充填が可能な結晶性エポキシである、レゾルシノールジグリシジルエーテルを含むことが好ましい。
【0019】
前記(a2)の配合比率は、(A)に対し5~50重量%が好ましく、8~45重量%が更に好ましく、20~40重量%が特に好ましい。5重量%以上とすることで十分な硬化性を確保することができ、50重量%以下とすることで十分に高いTgを確保することができる。また(a1)と(a2)の合計に対する(a2)の配合比率は5~55重量%が好ましく、10~40重量%が更に好ましい。
【0020】
前記(a1)及び(a2)に加え、組成物の粘度を調整する反応性希釈剤として、単官能あるいは2官能以上の直鎖脂肪族骨格、分岐脂肪族骨格のエポキシ樹脂(a3)を配合しても良い。これらの中では粘度が非常に低い点で直鎖脂肪族骨格のジグリシジルエーテルが好ましく、25℃における粘度が30mPa・s以下である1,4ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6ヘキサンジオールジグリシジルエーテルが更に好ましい。
【0021】
前記(a1)、(a2)及び(a3)を含む(A)全体の配合比率は、固形分全量に対し15~45重量%が好ましく、20~40重量%が更に好ましく、25~35重量%が特に好ましい。15重量%以上とすることで十分な接着強度と皮膜硬化性を確保することができ、45重量%以下とすることで硬化物の線膨張率を十分低くすることができる。
【0022】
本発明で使用されるシリカ(B)は、硬化収縮の抑制及び線熱膨張係数の低減、更には組成物の流動性向上を目的に配合される。(B)は、平均一次粒子径(以下平均粒径という)が1.5~30μmの球状シリカ(b1)と、平均粒径が0.05~1.0μmの球状シリカ(b2)の2種類を少なくとも含む。
【0023】
球状シリカは、粉砕した珪石を2000℃以上の高温の火炎中で溶融し、表面張力により球状化させたシリカ溶融物を急冷することで得ることができる。得られる球状シリカは、非晶質で熱膨張係数が0.5ppm/Kと非常に小さいため、膨張率が高い樹脂でもこれを配合することで硬化物の硬化収縮を抑制し、線熱膨張係数を低減することができる。
【0024】
前記(b1)と(b2)の2種類の異なる平均粒径を有する球状シリカを配合することで、大径粒子の隙間に小径粒子を配置すること可能となり、充填率の向上ができるようになり、硬化収縮の抑制と線熱膨張係数の大幅な低減が可能となる。また高充填しても粒子間の距離を確保できるため粒子同士の接触を回避でき、結果として高い流動性を確保できる。特に光学部品を固定する接着剤として使用する場合は、流動性と共に作業性が向上し、硬化収縮による位置ずれも小さくすることが可能となる。
【0025】
前記(b1)の平均粒径は1.5~30μmであり、2~15μmが好ましく、3.0~10μmが更に好ましい(b2)の平均粒径は0.05~1.0μmであり、0.2~0.9μmが好ましく、0.4~0.8μmが更に好ましい。またこの範囲とすることで高充填が可能となり、十分な線膨張率の低減や流動性の向上を期待できる。なお平均粒径は、JISZ8825-1に準拠したレーザー回折・散乱法により測定したメジアン径(d=50)とする。
【0026】
(b1)と(b2)の合計に対する(b1)の配合比率は、60~95重量%が好ましく、65~90重量%が更に好ましく、70~85重量%が特に好ましい。60重量%以上とすることで十分な流動性と線膨張率の低減が可能となり、95重量%以下することで作業性が良好な粘度とすることができる。
【0027】
前記(b1)及び(b2)に加え、チクソ性を向上させフィラー成分の沈降抑制を目的として、更にヒュームドシリカ(b3)を含んでも良い。(b3)の比表面積は50~300m/gが好ましく、80~200m/gが更に好ましく、100~150m/gが特に好ましい。この範囲とすることでチクソ性の向上により十分な沈降防止効果が期待できる。表面処理が未処理の場合は親水性で水分を吸湿しやすくなるため、表面処理されたシリカであることが好ましく、表面処理剤としてはジメチルジクロロシラン等が挙げられる。なお比表面積はガス吸着によるBET法により測定できる。
【0028】
前記(b3)の配合比率は、(B)に対し3.0重量%以下が好ましく、0.3~2.0重量%が更に好ましく、0.5~1.5%が特に好ましい。この範囲とすることで十分な沈降防止効果を確保することができる。
【0029】
前記(b1)、(b2)及び(b3)を含む(B)の配合量は、(A)100重量部に対し130~350重量部が好ましく、150~300重量部が更に好ましく、170~270重量部が特に好ましい。130部以上とすることで十分な線膨張率の低減や流動性の向上を期待でき、350部以下とすることで作業性に適した粘度と流動性を確保できる。また前記(B)の固形分全量に対する配合比率は、50~75重量%が好ましく、55~70重量%が更に好ましく、57~68重量%が特に好ましい。この範囲とすることで、硬化性と流動性にバランスが取れた組成物とすることができる。
【0030】
本発明で使用される炭酸カルシウム(C)は、高充填されたシリカの影響で高くなる組成物の粘度上昇を低く抑制する目的で配合される。粘度を低くできる理由は明らかではないが、酸度が高くなった組成物を中和させていることが理由の一つと考えられ、また同じ理由で、経時的な増粘を抑え保存性の向上が期待できる。
【0031】
前記(C)の平均粒子径は0.1~30μmが好ましく、1.0~20μmが更に好ましく、3.0~10μmが特に好ましい。この範囲とすることで組成物の粘度低減効果が得られると同時に、シリカと共に皮膜中にフィラーとして高充填され、十分に線膨張率を低く維持することができる。
【0032】
前記(C)の配合量は、固形分全量に対する配合比率は1~15重量%が好ましく、2~10重量%が更に好ましく、3~8重量%が特に好ましい。また(B)100重量部に対する配合量は2~20重量部が好ましく、3~15重量部が更に好ましく、5~12重量部が特に好ましい。この範囲とすることで組成物の粘度上昇を十分抑制して作業性に優れた粘度範囲とすることが可能となる。
【0033】
本発明で使用するカチオン重合開始剤(D)は、光及び熱重合反応の開始物質として、光カチオン重合開始剤(d1)及び熱カチオン重合開始剤(d2)を含むことが好ましい。
【0034】
前記(d1)は、可視光線、紫外線、電子線などの活性エネルギー線の照射によってカチオンイオンを発生する開始剤で、例えばアンチモン、リン、イオウ、窒素、ヨウ素の芳香族有機原子陽イオンと、FG、FGa、BF 、PF 、SbF 、(CPF 等の陰イオン等で構成されるオニウム塩である。具体的には芳香族ジアゾニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩等があり、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。これらの中では毒性が低く、モノマーへの溶解性と光感度に優れる、芳香族トリアリールスルホニウム塩系が好適である。
【0035】
前記(d1)成分の配合量は、(A)100重量部に対し0.1~5.0重量部が好ましく、0.3~4.0重量部が更に好ましく、0.5~3.0重量部が特に好ましい。この範囲内とすることで、十分な光硬化性と保存安定性を確保することができる。市販品ではCPI-100シリーズ、200シリーズ、300シリーズ(商品名:いずれもサンアプロ社製)等がある。特にi線(365nm)に高感度で非アンチモン系のCPI-310FGが硬化物の着色が無く好ましい。
【0036】
前記(d2)は、加熱によりカチオンイオンを発生する開始剤で、例えば、窒素のオニウム塩、イオウのオニウム塩、リンのオニウム塩、ヨードのオニウム塩等が挙げられる。これらオニウム塩の陰イオン成分として、例えば、SbF 、SbF 、AsF 、B(C ,PF 等が挙げられ、(c1)成分として用いることができる場合もある。具体的には4級アンモニウム塩型化合物、スルホニウム塩型化合物、ホスホニウム塩型化合物、ヨードニウム塩型化合物等があり、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では低温硬化性が良好な点で、リン系芳香族スルホニウム塩型化合物、ホウ素系芳香族スルホニウム塩型化合物、及び4級アンモニウム塩型化合物が好ましい。
【0037】
前記(A)に対する(d2)の溶解性が低い場合は、(d2)を一旦溶剤に溶かしてから配合することが好ましい。溶剤として、例えばγブチロラクトン等が挙げられるが、溶剤(d2)の良溶媒であり、(A)を含む他の成分との相溶性が良好であれば特に限定されず、γブチロラクトン以外の溶媒であってもよい。また安定剤等の添加剤を加えても良い。
【0038】
前記(d2)の配合量は、(A)100重量部に対し0.1~3.0重量部が好ましく、0.3~2.5重量部が更に好ましく、0.5~2.0重量部が特に好ましい。この範囲内とすることで、十分な熱硬化性と保存安定性を確保することができる。市販品ではTA-100(商品名:サンアプロ社製、芳香族スルホニウム塩系化合物)、CXC-1612及びCXC-1821(いずれも商品名:KING INDUSTRIES社製、4級アンモニウム塩型化合物)等が挙げられる。
【0039】
前記(d1)と(d2)の合計である(D)の配合量は、(A)100重量部に対し0.3~8.0重量部が好ましく、1.0~6.0重量部が更に好ましく、2.0~5.0重量部が特に好ましい。この範囲内とすることで、十分な低温硬化性と保存安定性を確保することができる。また(d1)と(d2)の配合比率は、(d2)/(d1)=0.30~0.95が好ましく、0.50~0.90が更に好ましく、0.65~0.85が特に好ましい。(d2)の配合量を(d1)よりも少なくすることで、光照射時に(d1)から発生する光酸によって(d2)が開裂するリスクを低減でき、結果として光学部品の固定精度を維持できる。
【0040】
本発明の組成物(以下本組成物という)には、更にシランカップリング剤(E)を配合することにより、被着体との接着性を向上させると共に、沈殿を抑制し長期保存性を向上させることができる。(E)は分子内に有機材料及び無機材料と結合する官能基を併せ持つ構造であり、有機材料と反応する官能基としては、例えばビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基などが挙げられ、無機材料とは加水分解性シリル基が反応する。
【0041】
前記(E)としては、(A)との相溶性が良好なエポキシ官能基を有するタイプが好ましく、またイソシアヌレート骨格を有するタイプも、接着力及び耐熱性の向上に効果が大きく好ましい。前者の市販品としてはGLYMO(商品名:エボニックインダストリーズ社製)があり、後者の市販品としてはKBM9659(商品名:信越化学工業社製)等が挙げられる。シランカップリング剤の配合量としては、(A)100重量部に対し0.5~8重量部であることが好ましく、1~5重量部であることが更に好ましい。
【0042】
上記のほか、本組成物の性能を損なわない範囲で、必要により酸化防止剤、光増感剤、粘着付与剤、レベリング剤、消泡剤、硬化促進剤、着色剤、増粘剤、難燃剤、有機微粒子等を配合することが出来る。
【0043】
本脂組成物の、E型粘度計で測定された25℃、ローター3°×R7.7、1rpmにおける粘度は、0.1~20Pa・sであることが好ましく、1~15Pa・sであることが更に好ましい。また23℃で24時間放置した後の粘度の上昇率は、初期値に対し1.6倍以下が好ましく、1.3倍以下が更に好ましい。この上昇率以下とすることで、十分な保存性を確保できる。
【0044】
本組成物の線膨張率は、厚み1mmの測定サンプルで、昇温速度10℃/分における測定値がα1(Tg以下での線膨張率)は30ppm以下であることが好ましく、20ppm以下であることが更に好ましい。またα2(Tg超での線膨張率)は60ppm以下であることが好ましく、40ppm以下であることが更に好ましい。この範囲とすることで、高い信頼性が要求される光通信デバイス等の光学部品を接合する接着剤として十分使用することができる。
【0045】
本組成物を硬化させる際の光源としては公知のもので良く、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、カーボンアーク灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、LEDランプ、無電極紫外線ランプなどがあげられる。また硬化条件としては50mW/cm~3000mW/cmの照射強度で、積算光量として50~6,000mJ/cmが例示される。また照射する雰囲気は空気中でもよいし、窒素、アルゴンなどの不活性ガス中でもよい。
【0046】
以下,実施例及び比較例にて本発明のカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物について具体的に説明するが、具体例を示すものであって特にこれらに限定するものではない。なお表記が無い場合、室温は25℃相対湿度65%の条件で測定を行った。
【実施例0047】
実施例1
遮光ビンに、前記(a1)としてCeloxide 2021P(商品名:ダイセル社製、3′,4′-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシルレート)を、(a2)としてEX-201-IM(商品名:ナガセケムテックス社製、レゾルシノールジグリシジルエーテル)を、(a3)としてYED216D(商品名:三菱化学社製、1,6ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、粘度15mPa・s)を、(b1)としてFB-5SDC(商品名:デンカ社製、平均粒子径5μm、溶融シリカ)を、(b2)としてFSP-130MC(商品名:デンカ社製、平均粒子径0.5μm、溶融シリカ)を、(b3)としてTS610(商品名:CABOT社製、ヒュームドシリカ、ジメチルジクロロシラン処理、比表面積130m/g)を、(C)としてシプロンA(商品名:シプロ化成社製、平均粒子径5μm)を、(d1)としてCPI-210S(商品名:サンアプロ社製、ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート)を、(d2)としてCXC1612(商品名:KING INDUSTRIES社製、4級アンモニウム塩型化合物)を、(d2)の溶媒としてγブチルラクトンを、(E)としてKBM9659(商品名:信越化学工業社製、トリス-(トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート)及びGLYMO(商品名:エボニックジャパン社製、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)を表1に示す量入れ、撹拌脱泡器を用いて均一になるまで撹拌して実施例1のカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物を得た。なお配合表の単位は重量部とする。
【0048】
実施例2~10
実施例1で用いた材料の他、遮光ビンに、前記(a2)としてYL980(商品名:三菱ケミカル社製、ビスフェノールAエポキシ、エポキシ当量180~190)を、(d2)としてCXC1821(商品名:KING INDUSTRIES社製、4級アンモニウム塩型化合物)及びTA-100(商品名:サンアプロ社製、芳香族スルホニウム塩系化合物)を、表1に示す量入れ、撹拌脱泡器を用いて均一になるまで撹拌して実施例2~10のカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物を得た。
【0049】
比較例1~4
実施例で用いた材料の他、(A)としてYX8000(商品名:三菱ケミカル社製、水添ビスフェノールAエポキシ、エポキシ当量205)を、表2に示す量入れ、撹拌脱泡器を用いて均一になるまで撹拌して比較例1~4のカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物を得た。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
評価項目及び評価方法
【0053】
線膨張率試験片の作成
上記で得られたエポキシ樹脂組成物を、硬化後のサイズが5mm×5mm×1mm厚となるよう注型し、へレウス社製の紫外線照射装置(無電極)LH6/LC-6Bを用い、Dバルブ出力100mW/cm、積算光量6000mJ/cmの条件で照射して光硬化後、更に130℃2時間で熱養生して硬化させた。
【0054】
線膨張率:理学電機社製の熱機械分析装置ThermoPlus2 TMA8310を用い、5mm×5mm×1mm厚の上記試験片を用い、昇温速度10℃/分の条件で測定し、温度/膨張率グラフの傾きの変化する温度を熱膨張率とし、ガラス転移点前をα1、ガラス転移点後をα2とした。
【0055】
粘度:東機産業製のE型粘度計RE-215Rを用い、コーン角3°R7.7で25±1℃、回転数10rpmで測定し、0.1~20Pa・Sを〇、この範囲から外れる場合を×とした。
【0056】
保存性:23℃で24時間放置した際の粘度上昇率を測定。初期値に対して1.6倍以下を〇、1.
1.6倍超を×とした。
【0057】
ガラス転移点:5mm×40mm×t0.5mmのシリコーン型に樹脂組成物を流し込み、離型フィルムを重ねた上からFusionD bulbで100mW/cm2、6000mJ/cm2の条件で硬化させ、型から取り出した試験体を130℃の恒温槽で2時間加熱処理を行ったものをサンプルとした。得られたサンプルを、TAインスツルメント社製の動的粘弾性測定装置Q800を用いて常温から200℃までを昇温速度3℃/分、周波数1Hzの条件で引張試験を行い、貯蔵弾性率と損失弾性率を求め、得られたTanΔの極大点における温度をガラス転移温度とし、150℃以上を〇、150℃未満を×とした。
【0058】
硬化性:示差走査熱量計を用い、各エポキシ樹脂組成物を100℃で3時間保持した際の、硬化前の樹脂の総発熱量Aと、硬化後の樹脂の総発熱量Bを測定した。
反応率=(A-B)/A×100で算出し、反応率が95%超を◎、90~95%を〇、90%未満を×とした。
【0059】
評価結果
評価結果を表3及び4に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
実施例のエポキシ樹脂組成物は、線膨張率、粘度、保存性、ガラス転移点、硬化性、いずれの評価も良好な結果であった。
【0063】
一方、(B)が未配合の比較例1は相溶性が悪く分離し、(b2)が未配合の比較例2、(C)が未配合の比較例3は粘度が高く、(a1)が未配合の比較例4はTgが低く、いずれも本願発明に適さないものであった。