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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147355
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】赤外線カメラシステム
(51)【国際特許分類】
   H04N 23/60 20230101AFI20231005BHJP
   G01J 1/42 20060101ALI20231005BHJP
   G01J 5/48 20220101ALI20231005BHJP
【FI】
H04N5/232 290
G01J1/42 C
G01J5/48 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054801
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】林 嵯隼
【テーマコード(参考)】
2G065
2G066
5C122
【Fターム(参考)】
2G065AA04
2G065AB02
2G065BA04
2G065BA34
2G065BB06
2G065BC33
2G065BC35
2G066AC14
2G066BA14
2G066BC15
2G066CA08
2G066CA20
2G066CB01
5C122DA11
5C122DA16
5C122DA30
5C122EA06
5C122EA68
5C122FA06
5C122FH06
5C122FH10
5C122FH11
5C122FH23
5C122HA81
5C122HB06
5C122HB09
5C122HB10
(57)【要約】
【課題】処理時間の増大を抑制するとともに、火源位置の検出精度の向上を図ることのできる赤外線カメラシステムを得る。
【解決手段】レンズを介して監視領域を撮像することで複数画素のそれぞれに対応した温度情報を画像データとして出力する赤外線カメラと、赤外線カメラから出力される画像データにおける複数画素のそれぞれの温度情報に基づいて火源位置を特定する制御部とを備え、制御部は、画素位置と温度情報との対応関係に影響を及ぼすレンズ固有の性能を特性データとしてあらかじめ取得し、特性データに基づいて対応関係に及ぼす影響を相殺するように複数画素のそれぞれに対する温度情報を補正処理し、複数画素のそれぞれに対する補正処理後の温度情報に基づいて火源位置を特定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズを介して監視領域を撮像することで複数画素のそれぞれに対応した温度情報を画像データとして出力する赤外線カメラと、
前記赤外線カメラから出力される前記画像データにおける前記複数画素のそれぞれの温度情報に基づいて火源位置を特定する制御部と
を備え、
前記制御部は、画素位置と温度情報との対応関係に影響を及ぼすレンズ固有の性能を特性データとしてあらかじめ取得し、前記特性データに基づいて前記対応関係に及ぼす影響を相殺するように前記複数画素のそれぞれに対する温度情報を補正処理し、前記複数画素のそれぞれに対する補正処理後の温度情報に基づいて前記火源位置を特定する
赤外線カメラシステム。
【請求項2】
前記制御部は、縦軸を画角、横軸を歪みとしたレンズ固有の歪み特性を前記特性データとした場合には、前記歪み特性による影響を相殺するように前記複数画素のそれぞれに対する温度情報を補正処理することで、前記画素位置と前記温度情報との前記対応関係を補正する
請求項1に記載の赤外線カメラシステム。
【請求項3】
前記制御部は、縦軸をMTF、横軸を出力としたレンズ固有のMTF曲線を前記特性データとした場合には、前記特性データ、および前記赤外線カメラの設置環境における実際の視野状態に基づいて前記MTF曲線による影響を相殺するように前記複数画素のそれぞれに対する温度情報を補正処理することで、前記画素位置と前記温度情報との前記対応関係を補正する
請求項1または2に記載の赤外線カメラシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、赤外線カメラを用いて火源位置を検出する赤外線カメラシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
火災監視領域内における火源位置を特定するために、赤外線カメラを用いる従来技術がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1において、赤外線カメラは、担当範囲内を画像データとして撮像することで、複数画素のそれぞれに対応した温度情報を画像データとして出力する。
【0003】
特に、大規模空間を火災監視領域とする場合には、火災監視領域を複数のエリアに分割し、エリアごとに赤外線カメラを位置決めし、複数の停止位置において赤外線カメラによる撮像を行う。そして、複数の停止位置で赤外線カメラによって撮像された画像データの中から、温度情報が最も高い画素を特定することで、火源位置を特定することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-120151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
赤外線カメラによって撮像される画像データは、レンズを介して赤外線撮像素子に投影された画像として取得される。従って、それぞれの画素における温度情報は、本来の位置における温度情報ではなく、レンズの歪みの影響を受けることとなる。レンズ中心から離れるほど、レンズの歪みの影響を受けることとなり、画像データとしては、中心部からの距離が離れている画素ほど、本来の位置からずれて撮像されることとなる。
【0006】
また、レンズ性能を評価する別の指標として、MTF曲線がある。MTF曲線とは、被写体の持つコントラストを像面上でどれだけ忠実に再現できるかを空間周波数特性として表したものである。従って、MTF曲線は、レンズのコントラスト、解像度、ボケの自然さといったレンズ性能を評価する指標といえる。
【0007】
言い換えると、MTF曲線は、レンズの影響により、赤外線撮像素子の中心から離れるほど、出力が減少する度合を示す特性を示す。すなわち、中心からの距離が離れた画素ほど、MTF曲線に従って、出力される温度情報が本来の値よりも減少することとなる。
【0008】
また、赤外線カメラシステムにおいて、より広い領域を1回で撮像するためには、広角レンズを採用することが一般的である。広角レンズを介して赤外線カメラにより撮像される画像では、画像内の画素位置によって、各画素に対応する実際の撮像エリアの大きさが異なることとなる。すなわち、同じサイズの火源であったとしても、赤外線カメラからの距離が遠いほど、画素数が少ない画像データとして抽出される。
【0009】
このことは、赤外線カメラからの距離が遠い位置の画像に対応する画素ほど、空間的な周期をもつ構造の繰り返しが、単位長に多く含まれることと等価であり、空間周波数が高いこととなる。従って、赤外線カメラからの距離が遠い火源に関しては、MTF曲線の影響により、温度情報の出力が、本来の値よりも減少することとなる。
【0010】
上述した歪みおよびMTF曲線で示されるようなレンズ性能を評価する指標による影響は、レンズの中心部の画像ほど少ないといえる。従って、レンズの中心部の画像を用いることにより、精度よく火源位置を特定することが可能である。
【0011】
しかしながら、大規模空間を火災監視領域とする場合に、撮影した画像の中心部のみを利用する手法を採用すると、全範囲における高精度の画像データを取得するためには、より多くの停止位置での撮像が必要となる。この結果、火源位置の検出精度を向上させることはできたとしても、停止回数に比例して、処理時間が増大してしまう。
【0012】
本開示は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、処理時間の増大を抑制するとともに、火源位置の検出精度の向上を図ることのできる赤外線カメラシステムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示に係る赤外線カメラシステムは、レンズを介して監視領域を撮像することで複数画素のそれぞれに対応した温度情報を画像データとして出力する赤外線カメラと、赤外線カメラから出力される画像データにおける複数画素のそれぞれの温度情報に基づいて火源位置を特定する制御部とを備え、制御部は、画素位置と温度情報との対応関係に影響を及ぼすレンズ固有の性能を特性データとしてあらかじめ取得し、特性データに基づいて対応関係に及ぼす影響を相殺するように複数画素のそれぞれに対する温度情報を補正処理し、複数画素のそれぞれに対する補正処理後の温度情報に基づいて火源位置を特定するものである。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、処理時間の増大を抑制するとともに、火源位置の検出精度の向上を図ることのできる赤外線カメラシステムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の実施の形態1に係る赤外線カメラシステムの全体構成図である。
図2】本開示の実施の形態1に係る赤外線カメラの垂直方向の監視領域を説明するための断面図である。
図3】本開示の実施の形態1に係る赤外線カメラの水平方向の監視領域を説明するための平面図である。
図4】本発明の実施の形態1に係る赤外線カメラによる監視位置をまとめた一覧表である。
図5】本開示の実施の形態1における赤外線カメラによる撮像結果を示した説明図である。
図6】本開示の実施の形態1において、レンズの特性データとして得られるMTF曲線の一例を示した図である。
図7】本開示の実施の形態1において、レンズの特性データとして得られる歪みデータの一例を示した図である。
図8】本開示の実施の形態1において、レンズの特性データとして得られるディストーションの正負に関する説明図である。
図9】本開示の実施の形態1において、負のディストーションを有するレンズによりテストパターンを撮像した場合のディストーションの影響を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の赤外線カメラシステムの好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。本開示に係る赤外線カメラシステムは、レンズ固有の特性データに基づいて、画素位置と温度情報との対応関係に及ぼす影響を相殺するように、複数画素のそれぞれに対する温度情報を補正処理し、複数画素のそれぞれに対する補正処理後の温度情報に基づいて火源位置を特定する構成を備えていることを技術的特徴とするものである。
【0017】
実施の形態1.
図1は、本開示の実施の形態1に係る赤外線カメラシステムの全体構成図である。図1に示した赤外線カメラシステム10は、火災監視領域において、あらかじめ割り当てられた担当範囲内における火源位置を探査するように配置されている。赤外線カメラシステム10は、制御部11、赤外線カメラ12、および駆動機構13を備えて構成されている。
【0018】
赤外線カメラ12は、レンズを介して担当範囲内を撮像することで、複数画素のそれぞれに対応した温度情報を画像データとして出力する機能を備えている。また、制御部11は、赤外線カメラ12で取得された画像データに基づいて、担当範囲内での火源位置を特定する特定処理を実行する。
【0019】
なお、本実施の形態1における制御部11は、レンズ性能を評価する指標であるレンズの歪みおよびMTF曲線による影響を抑制するように、赤外線カメラ12から出力される検出情報を補正することで、火源位置の検出精度の向上を実現している点に特徴を有している。本開示に固有のこの特徴に関しては、図を用いて後述する。
【0020】
駆動機構13は、赤外線カメラ12による撮像エリアを移動させ、撮像位置を変更させるための機構である。なお、駆動機構13によって1台の赤外線カメラ12の撮像位置を移動させただけでは、火災監視領域の全域をカバーできない場合には、赤外線カメラ12および駆動機構13の組を異なる場所に複数設置することが考えられる。
【0021】
次に、赤外線カメラ12の視野角、および駆動機構13を用いた赤外線カメラ12の移動に伴う監視領域の具体例について、図2図5を用いて詳細に説明する。図2は、本開示の実施の形態1に係る赤外線カメラ12の垂直方向の監視領域を説明するための断面図である。図2では、赤外線カメラ12が、垂直視野角80度を有しており、初期設定された探査時における俯仰角が-42度として設定されている場合の監視領域を示している。
【0022】
監視領域の床面から8mの高さ位置に赤外線カメラ12を設置した場合には、足元の半径1.1mのエリアが、初期設定された俯仰角における未警戒エリアとなる。また、監視領域の床面から15mの高さ位置に赤外線カメラ12を設置した場合には、足元の半径2.1mのエリアが、初期設定された俯仰角における未警戒エリアとなる。
【0023】
なお、図2に示した垂直視野角80度は一例に過ぎず、垂直視野角は、例えば90度(±45度)など、用途に応じて変更可能である。
【0024】
そして、赤外線カメラ12から遠ざかるほど、1画素に含まれる領域は大きくなる。従って、同じサイズの火源は、赤外線カメラ12からの距離が遠いほど、画素数が少ない画像データとして抽出される結果となる。
【0025】
図3は、本開示の実施の形態1に係る赤外線カメラ12の水平方向の監視領域を説明するための平面図である。図3では、赤外線カメラ12が、水平視野角50度を有しており、水平指向方向として、70度、35度、0度、-35度、-70度の5方向に移動して撮像することで、95度から-95度までの監視範囲をカバーする場合を示している。
【0026】
すなわち、制御部11は、駆動機構13を位置制御することで赤外線カメラ12による撮像位置を移動可能とし、赤外線カメラ12を35度ずつ水平方向に旋回させる。この結果、赤外線カメラ12は、70度、35度、0度、-35度、-70度の5方向において水平視野角50度の監視領域を撮像することで、95度から-95度までの監視範囲における温度情報を含む検出情報を取得することができる。
【0027】
図4は、本発明の実施の形態1に係る赤外線カメラ12による監視位置をまとめた一覧表である。図4に示したように、制御部11は、No.1~No.5の5つの監視位置に赤外線カメラ12を移動させることで、図2に示したような垂直方向-2度~-39度の範囲、および図3に示したような水平方向95度~-95度の範囲にわたる検出情報を取得することができる。
【0028】
なお、対象となる監視領域の大きさによっては、垂直方向においても赤外線カメラを移動させ、複数の指向方向で検出情報を取得することも可能である。また、俯仰角を制御し、足元エリアを撮像することで、未警戒エリアをなくすことができる。なお、足元エリアの撮像は、水平方向5方向のうち、1回だけ行えば未警戒エリアをなくすことができ、少ない停止位置での撮像で、広い範囲の監視が可能となる。
【0029】
上述したように、赤外線カメラ12により撮像される画像内の画素位置によって、各画素に対応する実際の撮像エリアの大きさは異なる。さらに、[発明が解決しようとする課題]において説明したように、歪みおよびMTF曲線による影響を抑制して火源位置を特定するためには、レンズの中心部の画像を採用するように位置補正処理を行うことが考えられる。
【0030】
このような位置補正処理を行うことで、火源位置の算出精度を安定化させる効果を得ることができる。この位置補正処理は、特許文献1において実施されており、概要について図5を用いて説明する。
【0031】
図5は、本開示の実施の形態1における赤外線カメラ12による撮像結果を示した説明図である。図5では、一例として、図4に示した5ヶ所の監視位置のうちのいずれかの監視位置において、赤外線カメラ12によって、X方向320画素、Y方向240画素からなる画像データが撮像され、各画素に対応して、温度情報を含む検出情報が取得できる状態を示している。
【0032】
ここで、制御部11において、点P1(x1、y1)が火源位置として特定されたと仮定する。この場合、制御部11は、火源位置である点P1が、画像の中心であるPc(xc、yc)の位置になるように、駆動機構13を制御し、赤外線カメラ12の指向方向を移動させることで、位置補正処理を行う。
【0033】
より具体的には、制御部11は、現在の駆動機構の水平位置からの水平移動角、および現在の駆動機構の垂直位置からの垂直移動角を、下式により算出することができる。
水平移動角=現在の駆動機構の水平位置
+(水平画素数/2-x1)×(水平視野角/水平画素数)
垂直移動角=現在の駆動機構の垂直位置
+(垂直画素数/2-y1)×(垂直視野角/垂直画素数)
【0034】
ここで、図2図3図5に示した具体例に基づくと、
水平視野角=50度
垂直視野角=80度
水平画素数=320
垂直画素数=240
となる。
【0035】
制御部11は、位置補正処理が完了した後、火源位置の特定処理を再度実行する。このようにして、位置補正処理を行った後に、レンズの中心部のデータに基づいて火源位置を再特定することで、歪みおよびMTF曲線による影響を抑制して、火源位置の算出精度を安定化させることができる。
【0036】
火源探査の流れは、全体の高温部を粗く探査した後、赤外線量の大きい火源候補点に対し、図5を用いて説明したような位置補正処理を行うことで、詳細な位置を探査するといった手法を採用している。誤報源もあるため、なるべく赤外線量の大きい個所から詳細なスキャンを行うことで、全体の探査時間削減につながる。
【0037】
しかしながら、図5に示したP1での検出情報は、レンズの中心部により得られたものではなく、P1における画素位置と温度情報との対応関係は、歪みおよびMTF曲線による影響が含まれている。
【0038】
そこで、本開示に係る赤外線カメラシステムでは、P1において得られた温度情報に関して、レンズの特性データとして得られる歪みデータおよびMTF曲線の影響を相殺するようにそれぞれの画素の温度情報を補正処理している。すなわち、レンズを通過した得られた全ての画素における温度情報に関して、レンズの特性データに基づいて画素位置と温度情報との対応関係に及ぼす影響を相殺するような補正処理を行っている。
【0039】
そこで、火源位置の検出精度の向上を実現するための、本開示におけるレンズの特性データに基づく補正処理について、図6図9を用いて説明する。
【0040】
<MFT曲線に基づく補正処理について>
図6は、本開示の実施の形態1において、レンズの特性データとして得られるMTF曲線の一例を示した図である。MTF(Modulation Transfer Function)曲線は、周期的な線上の信号に対して高周波にすると、どの程度信号が落ちるかを定量的に示したものである。換言すると、MTF曲線は、レンズ性能を評価する指標の1つであり、被写体の持つコントラストを像面上でどれだけ忠実に再現できるかを空間周波数特性として表したものである。
【0041】
図6に示したMTF曲線は、横軸が赤外線撮像素子の中心部からの距離を示し、縦軸が指標値としてのMTFを示している。具体的には、ある周波数で光強度を空間的に変調したときのコントラストの低下を測定することで、MTF曲線を生成することができ、図6の例では、1mmの単位長での周波数が10、30の2通りをパラメータとするMTF曲線が示されている。
【0042】
レンズの性能は、ボケ味、色収差など、MTFでは判断できない部分もあり、MTF曲線だけを見て画質の全てを判断することはできない。ただし、MTF曲線が1(100%)に近いほど明暗部の描写に優れていることがわかり、そのレンズの大まかな性能を判断することには有用である。
【0043】
図6からは、以下の2点の傾向がわかる。
傾向1:3通りのパラメータのいずれにおいても、画素位置が中心から離れるほど、信号の出力値が低下する傾向にある。すなわち、それぞれの画素で検出情報として得られる温度情報は、画素の中心からの距離が大きくなるほど、MTF曲線に従って本来の値よりも低下し、検出すべき本来の温度に対して温度差を持った値となってしまう。
【0044】
傾向2:高周波になるほど、信号の出力値が低下する傾向にある。すなわち、それぞれの画素で検出情報として得られる温度情報は、赤外線カメラ12からの距離が遠い位置ほど、かつ、火源が小さいほど、MTF曲線に従って本来の値よりも低下し、検出すべき本来の温度に対して温度差を持った値となってしまう。
【0045】
傾向1に関しては、画素位置とMTF曲線の関係から、温度情報を補正することができる。また、傾向2に関しては、赤外線カメラ12から被写体までの距離とMTF曲線との関係から、温度情報を補正することができる。ここで、それぞれの画素における赤外線カメラ12から被写体までの距離は、先の図2に示したように、設置環境に応じて既知の値として得ることができる。
【0046】
従って、制御部11は、赤外線カメラ12から得られた各画素の温度情報について、傾向1に関する温度補正1と、傾向2に関する温度補正2を施すことで、レンズ固有のMTF曲線の影響により生じてしまう温度差を抑制することが可能となる。
【0047】
この結果、1画面内において、画素位置によって生じる火源の温度差を抑制し、かつ、遠近両方の火源を比較する際の差を小さくでき、火源判定温度閾値を上げることができ、誤報を減らすことができる。
【0048】
さらに、温度補正1、温度補正2を実施することで、1画面内で最も高い温度を示す画素を、傾向1、傾向2による影響を抑制した上で、より確実に特定することができる。この結果、先の図5で説明した位置補正処理を行う際にも、画像内で最も高い温度情報を有する画素に相当する火源位置P1を、正確に求めることができる。
【0049】
結論として、制御部11は、MFT曲線として得られるレンズ固有の特性データに基づいて、画素位置と温度情報との対応関係に及ぼす影響を相殺するように、複数画素のそれぞれに対する温度情報を補正処理し、複数画素のそれぞれに対する補正処理後の温度情報に基づいて火源位置を特定することができる。
【0050】
<歪みデータに基づく補正処理について>
図7は、本開示の実施の形態1において、レンズの特性データとして得られる歪みデータの一例を示した図である。歪みに相当するディストーションという光学収差は、画像情報を実際に減らしているのではなく、物体の位置的情報のみに誤差を与えている固有の収差である。図7では、横軸がディストーション(%)を示し、縦軸が画角(°)を示している。
【0051】
ディストーションは、単色収差の1つで、特定作動距離で得られる実視野内での画像の倍率的変化を表わす。ディストーションの量は、レンズの光学設計で決まる。一般的に、広い実視野が得られるレンズ(すなわち、広角レンズ)ほど、ディストーションの量も大きくなる。
【0052】
ディストーションは、図7の横軸で示されたように、正と負の2種類がある。図8は、本開示の実施の形態1において、レンズの特性データとして得られるディストーションの正負に関する説明図である。図8(A)は、ディストーション(%)が正値となる場合の説明図であり、図8(B)は、ディストーション(%)が負値となる場合の説明図である。
【0053】
図8(A)に示すように、樽型のディストーションは、実視野内のどのポイントも、中心部により近付く距離で像が結ばれる。一方、図8(B)に示すように、負値となる糸巻き型のディストーションは、逆に中心部からより遠ざかる距離に像が結ばれる。図8(A)および図8(B)においては、点線で示した四角が、ディストーションがない場合の理想的な像を示している。一方、図8(A)に示した樽型の実線、および図8(B)に示した糸巻き型の実線は、それぞれレンズ固有のディストーションの影響を受けて結像される形を示している。
【0054】
また、図8(A)および図8(B)におけるAD(Actual Distance)は、実際に像を結んだ距離に相当し、PD(Predicted Distance)は、本来像を結ぶべき距離に相当する。
【0055】
ディストーションの大きさは、ADおよびPDを用いて、下式(1)により単純に計算することができ、下式(1)に基づいてディストーションの影響を相殺するように補正を行うことで、ディストーションの影響を受けない正しい画素位置に位置補正することが可能となる。
ディストーション(%)=(AD-PD)/PD×100 (1)
【0056】
図9は、本開示の実施の形態1において、負のディストーションを有するレンズによりテストパターンを撮像した場合のディストーションの影響を示す説明図である。図9(A)は、テストパターンを示しており、同一形状の16個の円形パターンが4×4で等間隔で配置されている。
【0057】
図9(B)は、図9(A)のテストパターンを、負のディストーションを有するレンズを介して得られた結像結果を示している。図9(B)では、それぞれの円形パターンの中心が、画像の中心部により近付く距離で像が結ばれている。
【0058】
図9(C)は、図9(A)における円形パターンを白抜きとし、図9(B)の結像結果における円形パターンを黒で塗りつぶし、画像の中心部を一致させるように重ね合わせた状態を示している。
【0059】
実際に、赤外線カメラ12を用いてテストパターンを撮像することで、ディストーションに関するキャリブレーションを行うことも考えられる。しかしながら、赤外線カメラ12は、解像度が粗く、このようなキャリブレーションによって補正係数を求めた場合には、精度が問題となる。
【0060】
そこで、本開示では、実際の測定結果を用いるのではなく、レンズの特性データを使用して、それぞれの画素に対応して得られた温度情報に関して、画素位置の補正を行っている。すなわち、図9に示した例に基づいてこの補正処理を説明すると、中心部により近付く画素について得られた温度情報に関して、本来の位置となるように補正することで、結果的に、ディストーションの影響がない画像における正しい位置での温度情報を得ることができる。
【0061】
逆に言うと、制御部11は、画素位置と温度情報との対応関係に影響を及ぼすレンズ固有の性能を特性データとしてあらかじめ取得し、特性データに基づいて対応関係に及ぼす影響を相殺するように複数画素のそれぞれに対する温度情報を補正処理することができる。
【0062】
結論として、制御部11は、歪みデータとして得られるレンズ固有の特性データに基づいて、画素位置と温度情報との対応関係に及ぼす影響を相殺するように、複数画素のそれぞれに対する温度情報を補正処理し、複数画素のそれぞれに対する補正処理後の温度情報に基づいて火源位置を特定することができる。
【0063】
以上のように、実施の形態1によれば、解像度が粗い赤外線カメラに関して、レンズ性能を評価する指標として得ることができるレンズの特性データに基づいて、画素位置と温度情報との対応関係に及ぼす影響を相殺するように、複数画素のそれぞれに対する温度情報を補正処理し、補正後の検出情報を用いて火源位置を特定する構成を備えている。この結果、レンズ固有のMTF曲線およびディストーションの影響を抑制し、火源位置の検出精度の向上を図ることのできる赤外線カメラシステムを実現できる。
【0064】
特に、解像度が粗い赤外線カメラに関して、テストパターンの撮像結果に基づくキャリブレーションを行うことなしに、レンズメーカによる特性データ、および赤外線カメラの設置環境における実際の視野状態に基づいて、火源位置の検出精度の向上を図ることができる。
【0065】
さらに、画素位置と温度情報との対応関係を単純な演算処理で補正処理することができる。この結果、処理時間の増大の抑制と、火源位置の検出精度の向上との両立を実現できる。
【0066】
なお、MFT曲線に基づく補正処理と歪みデータに基づく補正処理とは、少なくともいずれか一方の補正処理を実行することで、火源位置の検出精度の向上に寄与することができる。また、両方の補正処理を実行することで、火源位置の検出精度のさらなる向上に寄与することができる。
【符号の説明】
【0067】
10 赤外線カメラシステム、11 制御部、12 赤外線カメラ、13 駆動機構。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9