(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147362
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】太陽電池モジュール製造方法
(51)【国際特許分類】
H10K 39/10 20230101AFI20231005BHJP
H10K 30/50 20230101ALI20231005BHJP
【FI】
H01L31/04 124
H01L31/04 112Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054808
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】三島 良太
【テーマコード(参考)】
5F151
【Fターム(参考)】
5F151AA11
5F151BA14
5F151CB13
5F151CB14
5F151CB15
5F151CB27
5F151EA09
5F151EA10
5F151EA11
5F151EA16
5F151FA02
5F151FA04
5F151FA06
5F151GA03
5F151GA05
5F151HA01
(57)【要約】
【課題】歩留まりの高い太陽電池モジュール製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様に係る太陽電池モジュール製造方法は、太陽電池サブセルを形成する領域の境界に第1電極層を切断する第1内部分離溝を形成する工程と、太陽電池モジュールを形成する領域の外縁に第1電極層を切断する第1外部分離溝を形成する工程と、太陽電池サブセルを形成する領域の境界に第1電荷輸送層、光電変換層および第2電荷輸送層を切断する第2内部分離溝を形成する工程と、太陽電池サブセルを形成する領域の境界に第1電荷輸送層、光電変換層、第2電荷輸送層および第2電極層のうち少なくとも第2電極層を切断する第3内部分離溝を形成する工程と、太陽電池モジュールを形成する領域の外縁に第1電極層、第1電荷輸送層、光電変換層、第2電荷輸送層および第2電極層を切断する第2外部分離溝を形成する工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の太陽電池サブセルを有する太陽電池モジュールの製造方法であって、
支持基板の一方の主面に樹脂基材層を積層する工程と、
前記樹脂基材層に第1電極層を積層する工程と、
レーザ照射により前記太陽電池サブセルを形成する領域の境界に前記第1電極層を切断する第1内部分離溝を形成する工程と、
レーザ照射により前記太陽電池モジュールを形成する領域の外縁に前記第1電極層を切断する第1外部分離溝を形成する工程と、
前記第1電極層に第1電荷輸送層を積層する工程と、
前記第1電荷輸送層に光電変換層を積層する工程と、
前記光電変換層に第2電荷輸送層を積層する工程と、
レーザ照射により前記太陽電池サブセルを形成する領域の境界に前記第1電荷輸送層、前記光電変換層および前記第2電荷輸送層を切断する第2内部分離溝を形成する工程と、
前記第2電荷輸送層に第2電極層を積層する工程と、
レーザ照射により前記太陽電池サブセルを形成する領域の境界に前記第1電荷輸送層、前記光電変換層、前記第2電荷輸送層および前記第2電極層のうち少なくとも前記第2電極層を切断する第3内部分離溝を形成する工程と、
レーザ照射により前記太陽電池モジュールを形成する領域の外縁に前記第1電極層、前記第1電荷輸送層、前記光電変換層、前記第2電荷輸送層および前記第2電極層を切断する第2外部分離溝を形成する工程と、
前記太陽電池モジュールを形成する領域の内側の前記樹脂基材層を前記支持基板から剥離する工程と、
を備え、
前記第1外部分離溝を形成するレーザの強度は、前記第1内部分離溝を形成するレーザの強度よりも高く、前記第2外部分離溝を形成するレーザの強度は、前記第3内部分離溝を形成するレーザの強度よりも高い、
太陽電池モジュール製造方法。
【請求項2】
前記第1外部分離溝を形成するレーザ照射により、前記樹脂基材層の樹脂を変質させる、請求項1に記載の太陽電池モジュール製造方法。
【請求項3】
前記樹脂基材層を積層する工程は、前記支持基板にポリアミド酸溶液を塗工する工程と、前記ポリアミド酸溶液の塗膜を加熱する工程と、を含む、請求項1または2に記載のモジュール製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュール製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1枚の基材上に複数の太陽電池サブセルを電気的に直列に接続した状態で形成した太陽電池モジュールが知られている。太陽電池をモジュール化することにより、サブセル間は無効領域となるため有効面積は低下するが、特に受光面側の電極における抵抗損を軽減できる。太陽電池を適切にモジュール化すれば、有効面積の低下よりも抵抗損の軽減による光電変換効率向上効果が上回る。
【0003】
太陽電池モジュールは、基材に第1電極層を積層する工程、第1電極層を第1のレーザ照射により切断する工程、第1電荷輸送層、光電変換層および第2電荷輸送層を積層する工程、第1電荷輸送層、光電変換層および第2電荷変換層を第2のレーザ照射により切断する工程、第2電極層を積層する工程、並びに第1電荷輸送層、光電変換層、第2電荷輸送層および第2電極層を第3のレーザ照射により切断する工程をこの順願に行い、第1のレーザ照射、第2のレーザ照射および第3のレーザ照射の位置を順番に少しずつずらすことにより、電気的に直列に接続された複数の太陽電池サブセルを形成する方法により製造され得る(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、可撓性を有する薄型の太陽電池モジュールを得るために、樹脂フィルムを基材とすることが検討される。樹脂フィルムを基材とする太陽電池の製造方法としては、製造時に中間製品を支持する基板上にワニスを塗工することによりポリイミドフィルムを形成し、このポリイミドフィルム上に第1の電極、電子輸送層、光電変換層、正孔輸送層および第2の電極を形成しポリイミドフィルムを基板から剥離することにより太陽電池を得る方法が、提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-189408号公報
【特許文献2】国際公開第2020/026495号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
支持基板上に形成した樹脂フィルムに太陽電池モジュールを形成する場合、レーザ照射により樹脂フィルムが支持基板から予期せぬ箇所にて剥離しやすくなることがあり、太陽電池モジュールの歩留まりを低下させるおそれがある。そこで、本発明は、歩留まりの高い太陽電池モジュール製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る太陽電池モジュール製造方法は、複数の太陽電池サブセルを有する太陽電池モジュールの製造方法であって、支持基板の一方の主面に樹脂基材層を積層する工程と、前記樹脂基材層に第1電極層を積層する工程と、レーザ照射により前記太陽電池サブセルを形成する領域の境界に前記第1電極層を切断する第1内部分離溝を形成する工程と、レーザ照射により前記太陽電池モジュールを形成する領域の外縁に前記第1電極層を切断する第1外部分離溝を形成する工程と、前記第1電極層に第1電荷輸送層を積層する工程と、前記第1電荷輸送層に光電変換層を積層する工程と、前記光電変換層に第2電荷輸送層を積層する工程と、レーザ照射により前記太陽電池サブセルを形成する領域の境界に前記第1電荷輸送層、前記光電変換層および前記第2電荷輸送層を切断する第2内部分離溝を形成する工程と、前記第2電荷輸送層に第2電極層を積層する工程と、レーザ照射により前記太陽電池サブセルを形成する領域の境界に前記第1電荷輸送層、前記光電変換層、前記第2電荷輸送層および前記第2電極層のうち少なくとも前記第2電極層を切断する第3内部分離溝を形成する工程と、レーザ照射により前記太陽電池モジュールを形成する領域の外縁に前記第1電極層、前記第1電荷輸送層、前記光電変換層、前記第2電荷輸送層および前記第2電極層を切断する第2外部分離溝を形成する工程と、前記太陽電池モジュールを形成する領域の内側の前記樹脂基材層を前記支持基板から剥離する工程と、を備え、前記第1外部分離溝を形成するレーザの強度は、前記第1内部分離溝を形成するレーザの強度よりも高く、前記第2外部分離溝を形成するレーザの強度は、前記第3内部分離溝を形成するレーザの強度よりも高い。
【0008】
上述の太陽電池モジュール製造方法において、前記第1外部分離溝を形成するレーザ照射により、前記樹脂基材層の樹脂を変質させてもよい。
【0009】
上述の太陽電池モジュール製造方法において、前記樹脂基材層を積層する工程は、前記支持基板にポリアミド酸溶液を塗工する工程と、前記ポリアミド酸溶液の塗膜を加熱する工程と、を含んでもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る太陽電池モジュールは、歩留まりが高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る太陽電池モジュール製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図2】
図1の太陽電池モジュール製造方法により支持基板上に太陽電池モジュールを形成した状態を示す模式断面図である。
【
図3】
図1の太陽電池モジュール製造方法における支持基板上のレーザ照射位置を示す模式平面図である。
【
図4】
図1の太陽電池モジュール製造方法の第1内部分離溝形成工程および第1外部分離溝形成工程を説明する模式断面図である。
【
図5】
図1の太陽電池モジュール製造方法の第1電荷輸送層積層工程、光電変換層積層工程および第2電荷輸送層積層工程を説明する模式断面図である。
【
図6】
図1の太陽電池モジュール製造方法の第2内部分離溝形成工程を説明する模式断面図である。
【
図7】
図1の太陽電池モジュール製造方法の第2電極層積層工程を説明する模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態の太陽電池モジュール製造方法の手順を示すフローチャートである。
図2は、
図1の太陽電池モジュールの製造方法により支持基板S上に太陽電池モジュール1を形成した状態を示す模式断面図である。なお、図において、各構成要素の寸法等は分かりやすいように修正されている。
【0013】
図1の太陽電池モジュール製造方法によって製造される太陽電池モジュール1は、樹脂基材層11と、樹脂基材層11に積層される第1電極層12と、第1電極層12に積層される第1電荷輸送層13と、第1電荷輸送層13の積層される光電変換層14と、光電変換層14に積層される第2電荷輸送層15と、第2電荷輸送層15に積層される第2電極層16と、を備える。太陽電池モジュール1は、
図2に示すように、支持基板Sの一方の主面に樹脂基材層11が積層され、且つ最終的にトリミングされて太陽電池モジュール1には含まれない無効領域Eに取り囲まれた状態で形成される。
【0014】
また、太陽電池モジュール1は、第1電極層12を切断するよう形成される複数の第1内部分離溝21と、第1電荷輸送層13、光電変換層14および第2電荷輸送層15を切断するよう形成される複数の第2内部分離溝22と、第1電荷輸送層13、光電変換層14、第2電荷輸送層15および第2電極層16のうち少なくとも第2電極層16を切断するよう形成される複数の第3内部分離溝23と、を有する。第1内部分離溝21、第2内部分離溝22および第3内部分離溝23は、この順番に互いに接近して形成され、電気的に直列に接続される複数の太陽電池サブセル2を画定する。太陽電池モジュール1は、一端に、光電変換には寄与しないが、末端の太陽電池サブセル2の第1電極層12に第2電極層16を介して電気的接続を行うための接続部3が設けられている。本実施形態に係る太陽電池モジュール1は、樹脂基材層11側から受光することを企図しているが、第2電極層16側から受光するよう構成されてもよい。なお、複数の太陽電池モジュール1を用いてより大きな太陽電池モジュールを形成してもよい。つまり、太陽電池モジュール1は、太陽電池サブモジュールとして使用されてもよい。
【0015】
支持基板S上において、太陽電池モジュール1と無効領域Eとの境界には、第1電極層12を切断するよう形成される第1外部分離溝31と、第1電荷輸送層13、光電変換層14、第2電荷輸送層15および第2電極層16を切断するよう形成される第2外部分離溝32とが形成される。
図3に、第1内部分離溝21、第2内部分離溝22および第3内部分離溝23、並びに第1外部分離溝31および第2外部分離溝32の支持基板S上での配置を示す。
【0016】
このような太陽電池モジュール1を製造する本実施形態に係る太陽電池モジュール製造方法は、支持基板Sの一方の主面に樹脂基材層11を積層する工程(S01:樹脂基材層積層工程)と、樹脂基材層11に第1電極層12を積層する工程(S02:第1電極層積層工程)と、レーザ照射により太陽電池サブセル2を形成する領域の境界に第1電極層12を切断する第1内部分離溝21を形成する工程(S03:第1内部分離溝形成工程)と、レーザ照射により太陽電池モジュール1を形成する領域の外縁に第1電極層12を切断する第1外部分離溝31を形成する工程(S04:第1外部分離溝形成工程)と、第1電極層12に第1電荷輸送層13を積層する工程(S05:第1電荷輸送層積層工程)と、第1電荷輸送層13に光電変換層14を積層する工程(S6:光電変換層積層工程)と、光電変換層14に第2電荷輸送層15を積層する工程(S7:第2電荷輸送層積層工程)と、レーザ照射により太陽電池サブセル2を形成する領域の境界に第1電荷輸送層13、光電変換層14および第2電荷輸送層15を切断する第2内部分離溝22を形成する工程(S08:第2内部分離溝形成工程)と、第2電荷輸送層15に第2電極層16を積層する工程(S09:第2電極層積層工程)と、レーザ照射により太陽電池サブセル2を形成する領域の境界に第1電荷輸送層13、光電変換層14、第2電荷輸送層15および第2電極層16を切断する第3内部分離溝23を形成する工程(S10:第3内部分離溝形成工程)と、レーザ照射により太陽電池サブセル2を形成する領域の境界に第1電荷輸送層13、光電変換層14、第2電荷輸送層15および第2電極層16のうち少なくとも第2電極層16を切断する第3内部分離溝23を形成する工程(S10:第3内部分離溝形成工程)と、レーザ照射により太陽電池モジュール1を形成する領域の外縁に第1電荷輸送層13、光電変換層14、第2電荷輸送層15および第2電極層16を切断する工程(S11:第2外部分離溝形成工程)と、太陽電池モジュール1を形成する領域の内側の樹脂基材層11を支持基板Sから剥離する工程(S12:太陽電池モジュール剥離工程)と、を備える。
【0017】
樹脂基材層積層工程では、例えばガラス板等の支持基板Sに、例えばポリイミド、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂からなる樹脂基材層11を積層する。樹脂基材層11は、太陽電池モジュール1の強度を担保する構造部材である。樹脂基材層11は、例として、ポリアミド酸溶液を塗工する工程と、前記ポリアミド酸溶液の塗膜を加熱する工程とを含み、支持基板S上でポリイミドを形成する方法によって積層することが好ましい。これにより、厚みが小さく平滑な樹脂基材層11を形成できる。特に、ガラス板からなる支持基板S上にポリイミドからなる樹脂基材層11を形成する場合、第1外部分離溝31および第2外部分離溝32の形成による支持基板Sと樹脂基材層11の密着性の制御を適切に行い得る。
【0018】
樹脂基材層11の厚みの下限としては、3μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、樹脂基材層11の厚みの上限としては、50μmが好ましく、30μmがより好ましい。樹脂基材層11の厚みを前記下限以上とすることによって、太陽電池モジュール1の強度を担保することができる。また、樹脂基材層11の厚みを前記上限以下とすることによって、太陽電池モジュール1に可撓性を付与することができると共に、第1外部分離溝31による剥離防止効果が顕著となる。
【0019】
S02の第1電極層積層工程では、樹脂基材層11の一方の主面全体に、第1電極層12を積層する。第1電極層12は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法などの方法で樹脂基材層11上に積層され得る。
【0020】
第1電極層12は、第1電荷輸送層13を通して光電変換層14で生成された第1の電荷を収集して隣接する太陽電池サブセル2または外部に出力する。本実施形態において、第1電極層12は、正孔を収集する正極である。また、本実施形態において、第1電極層12は、導電性および光透過性を有する透明導電性酸化物(TCO:Transparent Conductive Oxide)により形成され得る。第1電極層12を形成する透明導電性酸化物としては、例えば、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化チタンおよびそれらの複合酸化物等を用いることができる。これらの中でも、酸化インジウムを主成分とするインジウム系複合酸化物が好ましい。高い導電率と透明性の観点からは、インジウム酸化物が特に好ましい。さらに、信頼性またはより高い導電率を確保するために、インジウム酸化物にドーパントを添加することが好ましい。ドーパントとしては、例えば、Sn、W、Zn、Ti、Ce、Zr、Mo、Al、Ga、Ge、As、Si、S等が挙げられる。特に好適な例として、インジウム酸化物にスズが添加されたITO(Indium Tin Oxide)が広く知られている。
【0021】
第1電極層12の厚みの下限としては、5nmが好ましく、10nmがより好ましい。一方、第1電極層12の厚みの上限としては、200nmが好ましく、150nmがより好ましい。第1電極層12の厚みを前記下限以上とすることによって、電気抵抗を小さくすることにより光電変換効率を向上できる。また、第1電極層12の厚みを前記上限以下とすることによって、光電変換層14への光の入射量を大きくすることにより光電変換効率を向上できる。第1電極層12は、例えば多結晶ITO層と非晶質ITO層との積層構造等の多層構造を有してもよい。
【0022】
S03の第1内部分離溝形成工程では、レーザアブレーションにより、第1電極層12を平面視で複数の平行な線状に除去することによって、第1内部分離溝21を形成する。照射するレーザとしては、例えばTHG(第3高調波)レーザ等を用いることができる。第1内部分離溝21を形成するレーザの強度は、第1電極層12を太陽電池サブセル2間で確実に絶縁でき、且つ樹脂基材層11のダメージをできるだけ小さくできるように設定される。ダメージを軽減するために、膜面側よりレーザを入射させることが好ましい。
【0023】
第1内部分離溝21の幅としては、レーザアブレーションにより形成することを考慮すると、10μm以上200μm以下とされることが好ましく、20μm以上100μm以下とされることがより好ましい。これにより、太陽電池サブセル2間の確実な分離と太陽電池サブセル2の有効面積の確保とが可能となる。
【0024】
S04の第1外部分離溝形成工程では、レーザアブレーションにより、太陽電池モジュール1を形成する領域の外縁を画定するように第1電極層12を線状に除去することによって、
図4に示すように第1外部分離溝31を形成する。第1外部分離溝31を形成するレーザの強度は、第1内部分離溝21を形成するレーザの強度よりも高く設定され、第1外部分離溝31の奥部の樹脂基材層11の樹脂を熱により変質させて支持基板Sに対する樹脂基材層11の密着性を向上させる。熱をより加えるために、THGよりIRを用いることが好ましい。また、熱をより加えるために、基板側よりレーザを加えることが好ましい。これにより、以降の工程および工程間のハンドリング等において、支持基板Sから樹脂基材層11が剥離することを防止できる。密着性を高めるために、1本より複数の線をもって形成されることが好ましい。
【0025】
一部の第1外部分離溝31は、太陽電池モジュール1の外縁部の第1内部分離溝21に置き換えて形成されてもよい。
【0026】
第1内部分離溝形成工程と第1外部分離溝形成工程の順番は入れ換えてもよく、並行して行ってもよい。例として、第1内部分離溝21と第1外部分離溝31とを区別せずにレーザヘッドの移動経路を設定し、逐次レーザの出力を調整することにより、第1内部分離溝21および第1外部分離溝31を形成してもよい。
【0027】
S05の第1電荷輸送層積層工程では、第1電極層12に第1電荷輸送層13を積層する。第1電荷輸送層13は、第1内部分離溝21および第1外部分離溝31の内面に充填されることが好ましい。第1電荷輸送層13は、光電変換層14で発生する第1の極性の電荷(光キャリア)を通過させる層であり、本実施形態では正孔を第1電極層12に伝達する正孔輸送層(HTL)である。第1電荷輸送層13は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法などの方法により形成され得る。また、第1電荷輸送層13が有機物を含む場合、第1電荷輸送層13は例えば有機物の溶液の塗工および乾燥等の方法により形成され得る。
【0028】
正孔輸送層である第1電荷輸送層13の主材料としては、例えば酸化ニッケル(NiO)、酸化銅(Cu2O)等の金属酸化物、例えばPTAA(Poly(bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine))、Spiro-MeOTAD等の有機物が挙げられる。また、第1電荷輸送層13は、例えば2PACz([2-(9H-Carbazol-9-yl)ethyl]phosphonic Acid)、MeO-2PACz([2-(3,6-Dimethoxy-9H-carbazol-9-yl)ethyl]phosphonic Acid)、Me-4PACz([4-(3,6-Dimethyl-9H-carbazol-9-yl)butyl]phosphonic Acid)等により形成される自己組織化単分子膜(SAM:Self-Assembled Monolayers)であってもよい。第1電荷輸送層13を自己組織化単分子膜により形成する場合、材料溶液の塗工時にその溶剤が支持基板Sと樹脂基材層11の間に浸透して樹脂基材層11の剥離を促進するおそれがあるため、第1外部分離溝31の形成による樹脂基材層11の剥離防止効果が特に顕著となる。なお、第1電荷輸送層13は、多層構造を有してもよい。
【0029】
第1電荷輸送層13の厚みは、その材料、隣接する層の構成等により大きく異なり得るが、例えば0.5nm以上200nm以下とすることができ、特に自己組織化単分子膜である場合には材料分子の厚みとされ得る。
【0030】
S06の光電変換層積層工程では、第1電荷輸送層13に光電変換層14を積層する。光電変換層14は、入射光を吸収して光キャリア(電子および正孔)を生成する。光電変換層14は、ペロブスカイト化合物を含むものとされ得る。
【0031】
ペロブスカイト化合物を含む光電変換層14は、ペロブスカイト化合物がメチルアンモニウムハロゲン化鉛(MAPbX3(CH3NH3PbX3))である場合、光電変換層14は、ハロゲン化鉛(PbX2)材料およびハロゲン化メチルアンモニウム(MAX)材料を順に製膜し、これらの材料の薄膜を反応温度で反応させることにより形成され得る。例えば、ペロブスカイト化合物がメチルアンモニウムヨウ化鉛(MAPbIyX(3-y)(CH3NH3PbIyX(3-y)))である場合、光電変換層14は、例えばハロゲン化鉛(PbX2)材料およびヨウ化メチルアンモニウム(MAI)材料を順に製膜し、これらの材料の薄膜を反応温度で反応させることにより形成される。また、光電変換層14は、例えば液相の塗膜内でペロブスカイト化合物を合成するゾルゲル法、予め合成されたペロブスカイト化合物を含む溶液を塗布する塗布法等の方法によっても形成され得る。
【0032】
光電変換層14に含まれるペロブスカイト化合物としては、1価の有機アンモニウムイオンおよびアミジニウム系イオンのうちの少なくとも1種を含む有機原子A、2価の金属イオンを生成する金属原子B、およびヨウ化物イオンI、臭化物イオンBr、塩化物イオンCl、およびフッ化物イオンFのうちの少なくとも1種を含むハロゲン原子Xを含み、ABX3で表される化合物を用いることができる。中でも、光電変換層14を蒸着法(ドライプロセス)により形成する場合、有機原子AとしてはメチルアンモニウムMA(CH3NH3)およびホルムアミジニウムFA(CH(NH2)2)が好ましく、金属原子Bとしては鉛Pbが好ましく、ハロゲン原子Xとしてはヨウ化物I、臭化物イオンBrおよび塩化物イオンClのうちの少なくとも1つが好ましい。
【0033】
具体的に、好ましいペロブスカイト化合物としては、メチルアンモニウムハロゲン化鉛MAPbX3(CH3NH3PbX3)、MAPbI3、MAPbBr3、MAPbCl3等、またはホルムアミジニウムハロゲン化鉛FAPbX3(CH(NH2)2PbX3)、FAPbI3、FAPbBr3、FAPbCl3、等が挙げられる。なお、ハロゲン原子Xとしては複数種類を含んでもよい。ヨウ化物Iと他のハロゲン原子Xとを含むペロブスカイト化合物としては、例えばメチルアンモニウムヨウ化鉛MAPbIyX(3-y)(CH3NH3PbIyX(3-y))、MAPbIyBr(3-y)等が挙げられる(yは任意の正の整数)。また、(FAPbI3)z(MAPbBr3)100-z等、メチルアンモニウムハロゲン化鉛とホルムアミジニウムハロゲン化鉛を混合してもよい(zは任意の正の整数)。
【0034】
光電変換層14の厚みとしては、形成材料等にもよるが、光の吸収率を大きくしつつ、生成する電荷の移動距離を小さくするために、100nm以上1000nm以下とすることが好ましい。
【0035】
S07の第2電荷輸送層積層工程では、光電変換層14に第2電荷輸送層15を積層する。これにより、
図5に示すような積層体が得られる。第2電荷輸送層15は、光電変換層14で発生する第2の極性の電荷を通過させる層である。本実施形態では電子を第2電極層16に伝達する電子輸送層(ETL)である。第2電荷輸送層15は、例えばゾルゲル法、塗布法等の方法により形成され得る。
【0036】
電子輸送層である第2電荷輸送層15の主材料としては、例えば、フラーレンやPCBM等が挙げられる。フラーレンとしては、例えばC60、C70、これらの水素化物、酸化物、金属錯体、アルキル基等を付加した誘導体、例えば、PCBM([6,6]-Phenyl-C61-Butyric Acid Methyl Ester)などが挙げられる。特に第2電荷輸送層15としてリチウムLiを内包させたフラーレンを含む材料から形成することにより、電子の輸送効率を向上することができる。また、第2電荷輸送層15は、多層構造を有してもよい。
【0037】
第2電荷輸送層15の厚みとしては、その材料、隣接する層の構成等により大きく異なり得るが、例えば3nm以上50nm以下とされ得る。
【0038】
S08の第2内部分離溝形成工程では、レーザアブレーションにより、第1電荷輸送層13、光電変換層14および第2電荷輸送層15を複数の平行な線状に除去することによって、
図6に示すように、複数の第2内部分離溝22を形成する。第2内部分離溝22の幅は、第1内部分離溝21の幅と同様とされ得るが、第1電極層12への第2電極層16の接続を確実にするために第1内部分離溝21の幅よりも大きくてもよい。
【0039】
S09の第2電極層積層工程では、
図7に示すように、第2電荷輸送層15に第2電極層16を積層する。第2電極層16は、第1電極層12と対をなす電極であり、本実施形態では負極である。第2電極層16は、隣接する太陽電池サブセル2間を電気的に直列に接続するために、第2内部分離溝22の奥部において第1電極層12に接触するよう積層される。第2電極層16は、電気抵抗を小さくするために、例えば銅等から形成される金属層を含んでもよい。また、第2電極層16は、第2電荷輸送層15との密着性を向上するための透明導電性酸化物層等を含む多層構造を有してもよい。第2電極層16は、スパッタリング法、真空蒸着法、めっき法等の方法により積層され得る。
【0040】
第2電極層16の厚みの下限としては、10nmが好ましく、20nmがより好ましい。一方、第2電極層16の厚みの上限としては、200nmが好ましく、100nmがより好ましい。第2電極層16の厚みを前記下限以上とすることによって、集電抵抗を十分に小さくできる。また、第2電極層16の厚みを前記上限以下とすることによって、第3内部分離溝23の形成が容易となる。
【0041】
S10の第3内部分離溝形成工程では、レーザアブレーションにより、第1電荷輸送層13、光電変換層14、第2電荷輸送層15および第2電極層16を複数の平行な線状に除去することによって、複数の第3内部分離溝23を形成する。これにより、
図2に示すように、支持基板S上に無効領域Eに取り囲まれた太陽電池モジュール1が形成される。第3内部分離溝23の幅は、第1内部分離溝21および第1外部分離溝31の幅と同様とされる。
【0042】
S11の第2外部分離溝形成工程では、レーザアブレーションにより、太陽電池モジュール1を形成する領域の外縁を画定するように、樹脂基材層11の少なくとも表層、第1電極層12、第1電荷輸送層13、光電変換層14、第2電荷輸送層15および第2電極層16を線状に除去することによって、第2外部分離溝32を形成する。第2外部分離溝32を形成するレーザの強度は、第3内部分離溝23を形成するレーザの強度よりも高く設定され、樹脂基材層11を切断または樹脂基材層11の厚みを十分に低減して容易に破断可能とするよう形成されることが好ましい。このため、第2外部分離溝形成工程におけるレーザの強度は、樹脂基材層11への熱入力が、第1外部分離溝形成工程における樹脂基材層11への熱入力よりも大きくなるよう設定されることが好ましい。一方で、熱入力が高すぎると、変質によって分離が難しくなるため、THGを使うことが望ましい。
つまり、第2外部分離溝32は、樹脂基材層11、第1電荷輸送層13、光電変換層14、第2電荷輸送層15および第2電極層16の積層体を、太陽電池モジュール1と無効領域Eとに区分する。
【0043】
図示する例において、第2外部分離溝32は、第1外部分離溝31の内側に形成されているが、第1外部分離溝31の外側に形成されてもよく、第1外部分離溝31と同じ位置に第1外部分離溝31と重複して形成されてもよい。また、第2外部分離溝32は、太陽電池モジュール1の外縁部の第3内部分離溝23に置き換えて形成してもよい。これにより、太陽電池モジュール1における太陽電池サブセル2の面積率を向上できる。なお、太陽電池サブセル2の連接方向両側の第2外部分離溝32を第3内部分離溝23に置き換えて形成する場合、接続部3を形成できないが、太陽電池モジュール1の端面または樹脂基材層11の一部を除去した領域に露出する第1電極層12において電気的接続が行われ得る。
【0044】
第3内部分離溝形成工程と第2外部分離溝形成工程の順番は入れ換えてもよく、並行して行ってもよい。
【0045】
S12の太陽電池モジュール剥離工程では、第2外部分離溝32の内側の樹脂基材層11を支持基板Sから剥離することにより、太陽電池モジュール1を分離する。樹脂基材層11に比較的大きな熱を加えて第2外部分離溝32が形成されていることにより、第2外部分離溝32を起点として、樹脂基材層11を支持基板Sから比較的容易に剥離できる。
【0046】
以上の工程を備える本実施形態に係る太陽電池モジュール製造方法では、第1外部分離溝31を形成するため、製造途中で樹脂基材層11が支持基板Sから剥離することを防止できるので、太陽電池モジュール1の歩留まりを向上できる。また、本実施形態に係る太陽電池モジュール製造方法では、第2外部分離溝32を形成するため、比較的容易に太陽電池モジュール1を選択的に支持基板Sから剥離することができる。これにより、支持基板Sからの剥離時に過大な応力を作用させて太陽電池モジュール1を破損することも防止できる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、種々の変更および変形が可能である。例として、本発明に係る太陽電池モジュール製造方法は、例えば反射防止膜、保護膜等のさらなる層を積層する工程を含んでもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 太陽電池モジュール
2 太陽電池サブセル
3 接続部
11 樹脂基材層
12 第1電極層
13 第1電荷輸送層
14 光電変換層
15 第2電荷輸送層
16 第2電極層
21 第1内部分離溝
22 第2内部分離溝
23 第3内部分離溝
31 第1外部分離溝
32 第2外部分離溝
E 無効領域
S 支持基板