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  • 特開-昆布佃煮の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147367
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】昆布佃煮の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/60 20160101AFI20231005BHJP
【FI】
A23L17/60 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054819
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】591183625
【氏名又は名称】フジッコ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森本 直也
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 孝行
(72)【発明者】
【氏名】稲熊 渉
【テーマコード(参考)】
4B019
【Fターム(参考)】
4B019LE05
4B019LP04
4B019LP05
(57)【要約】
【課題】増粘多糖類や寒天を含むまぶし液を使用せずに、昆布ペーストを用いることでまぶし液と同等の効果を有することに着目し、昆布ペーストを用いて混合むらが生じない昆布佃煮の製造方法を提供すること、および昆布ペーストを用いて昆布佃煮の製造において生産性を高める方法を提供すること。
【解決手段】水煮昆布を粉砕処理して得られた昆布ペーストと、水煮昆布とを混合して煮熟処理することを特徴とする昆布佃煮の製造方法等が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水煮昆布を粉砕処理して得られた昆布ペーストと、水煮昆布とを混合して煮熟処理することを特徴とする昆布佃煮の製造方法。
【請求項2】
水煮昆布10重量部に対して前記昆布ペーストとの混合割合が、1重量部~15重量部である、請求項1記載の昆布佃煮の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昆布佃煮の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に市販されている昆布佃煮は、調味液で煮熟した昆布(以下、「煮熟昆布」という。)に、さらにまぶし液と呼ばれる増粘多糖類や寒天を含む調味液を表面に付着させることにより、調味性を高めるだけでなく、昆布表面の照り、艶を増すと共に、保存中の照りの消失、昆布表面の乾燥を防止することで品質を向上させている(特許文献1、2)。
【0003】
一方、通常のまぶし液は粘稠性が高い液状物を用いているため、煮熟昆布とまぶし液との混合は、昆布同士が重なっている場合は均一に満遍なく混合するのが困難であり、混合むらが生じる問題がある。また、製造面においては、煮熟昆布とまぶし液を別々に製造する必要があり、製造工程が増えるため生産性が低下する問題があった。
【0004】
本願出願人は、従来の増粘多糖類や寒天を含むまぶし液に代わり昆布ペーストを使用して、煮熟昆布と調味煮熟した昆布ペーストとを混合することにより液垂れが抑制された昆布佃煮が得られる方法を開示している(特許文献3)。しかし、ともに調味煮熟していない昆布と昆布ペーストとを、同時に調味煮熟する昆布佃煮の製造方法については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-187207号公報
【特許文献2】特開2011-229502号公報
【特許文献3】特開2020-162546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、増粘多糖類や寒天を含むまぶし液を使用せずに、昆布ペーストを用いることでまぶし液と同等の効果を有することに着目し、昆布ペーストを用いて混合むらが生じない昆布佃煮の製造方法を提供することを目的とする。また、昆布ペーストを用いることにより昆布佃煮の製造において生産性を高める方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、水煮処理した昆布を粉砕処理して得られた昆布ペーストと水煮処理した昆布とを同時に煮熟することにより、まぶし液の代替となる昆布ペーストを単独で煮熟する必要がなくなり、且つ、従来の煮熟昆布とまぶし液とを混合する混合工程も不要となり、さらに昆布の表面に昆布ペーストが均一にまぶすことができる、生産性と品質に優れた昆布佃煮の製造方法を見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下に関するものである。
[1]水煮昆布を粉砕処理して得られた昆布ペーストと、水煮昆布とを混合して煮熟処理することを特徴とする昆布佃煮の製造方法。
[2]水煮昆布10重量部に対して前記昆布ペーストとの混合割合が、1重量部~15重量部である、請求項1記載の昆布佃煮の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来の昆布佃煮の製造に必要な製造工程のうち、まぶし液の作製工程、および煮熟昆布とまぶし液との混合工程が不要となり、昆布佃煮の製造において生産性を高めることができる。また、まぶし液の代替となる昆布ペーストを煮熟昆布の表面に均一にまぶすことができることから、照り艶のよい品質に優れた昆布佃煮を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の製法の一実施例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(原料)
本発明において使用する原料昆布は、生昆布、冷凍昆布、塩蔵昆布または乾燥昆布のいずれの状態の昆布であってもよい。塩蔵昆布を用いる場合は、後述する水煮処理の前に水にさらし脱塩してから用いる。
【0012】
昆布の種類は、真昆布、利尻昆布、日高昆布、長昆布、猫足昆布、ラウス昆布などいずれの種類であってもよく、その種類は問わない。また、使用部位についても、葉昆布、根昆布のいずれの部位であってもよい。
【0013】
昆布の産地は、北海道、青森などの国産の他、中国産、ロシア産でもよく、特に限定されず、いずれの産地の昆布でも用いることができる。
【0014】
以下、本発明を実施するための形態として、乾燥昆布を用いた昆布佃煮の一実施形態について説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。図1は、昆布佃煮の製造方法の一実施例を示すフローチャートである。
【0015】
(1)昆布ペーストの作製
〔前処理(St1)〕
昆布を軟化させるために、乾燥昆布を適当な濃度の酢酸溶液に漬けて引き上げた後、数日寝かせて養生する前処理(St1)を行う。酢酸溶液の濃度は1~10%(V/V)でもよく、酢酸溶液の量も昆布全体に酢酸溶液が馴染めばよく、特に限定されない。なお、前処理(St1)は、必須の工程ではなく必要に応じて行えばよく、使用する原料が乾燥昆布のように固い場合には、昆布の切断を容易にするために前処理(St1)をすることが好ましい。前処理(St1)後、または、後述する水煮処理(St2)後に昆布を所望する大きさに適宜切断する。
また、原料に塩蔵昆布を使用する場合は、前処理(St1)として塩蔵昆布を水にさらし脱塩処理を行う。
【0016】
〔水煮処理(St2)〕
水煮処理(St2)は昆布をさらに軟化させ、昆布を膨らますことができ、前処理(St1)で用いた酢酸や昆布に付着する異物を取り除き、また昆布に含まれるヨウ素を減らすために水煮処理(St2)を行う。水煮処理(St2)の処理条件は、昆布を軟化させるために60℃以上100℃以下で行い、好ましくは、70℃以上100℃以下で1~120分間であり、さらに好ましくは80℃以上100℃以下で1~60分間行うことで、昆布を軟化させ、膨潤させることができる。
【0017】
また、使用する原料昆布が生昆布、冷凍昆布または塩蔵昆布の場合は、乾燥昆布と同様にして水煮処理(St2)すればよい。特に、冷凍昆布を用いる場合は、一旦解凍してから水煮処理(St2)してもよく、冷凍状態のまま水煮処理(St2)して解凍と水煮処理(St2)を同時に行ってもよい。
【0018】
〔粉砕処理(St3)〕
水煮処理(St2)した昆布(以下、「水煮昆布」という。)を粉砕処理(St3)する。粉砕処理(St3)は、水煮昆布または水煮昆布と水を粉砕機に供することにより昆布が粉砕、せん断され、昆布に含まれる粘性多糖が溶出して粘性が増加し、ペースト状の昆布粘性物(以下、「昆布ペースト」という。)となる。また、昆布がより細かく粉砕されるほど昆布の表面積が増加し、保水力と歩留りを高めることができる。
【0019】
粉砕処理(St3)の粉砕サイズ は、目開き5~6mm以下であればよく、特に限定されない。また、昆布ペーストの粘度および保水性をより増加させること、および食感を滑らかにすることを目的とする場合は、粉砕サイズを目開き2.5mm以下とすることが好ましく、より好ましくは目開き0.8mm以下であり、粉砕サイズが小さくなるほど粘度と保水性が高くなり、食感も滑らかにすることができる。粉砕処理(St3)の手段は、フードカッターやグラインダーカッターなどでよく、特に限定されない。
【0020】
(2)水煮昆布の作製
水煮昆布の作製は、昆布ペーストの作製と同様に、原料昆布を前処理(St1)した後、最終製品に適した形状に切断した昆布を水煮処理(St2)して作製する。なお、水煮昆布に使用する原料昆布は、最終製品の食感や風味に適した原料昆布を選択すればよく、特に限定されない。
【0021】
〔煮熟処理(St4)〕
上記(1)、(2)で得られた昆布ペーストと水煮昆布を混合し、調味液を加えて煮熟処理(St4)を行い、本発明の昆布佃煮が完成する。本発明の方法により、煮熟処理(St4)中の対流、撹拌により煮熟後の昆布ペーストと煮熟昆布が均一に混合された昆布佃煮を得ることができ、従来の昆布佃煮の製造方法において必要であったまぶし液の作製工程が不要となるだけでなく、煮熟昆布とまぶし液を混合する混合工程も省くことができる。
【0022】
水煮昆布と昆布ペーストの混合割合は、特に限定されず、目的とする最終製品の仕様に合わせて適宜調整できる。また、最終製品の見栄えを昆布の形状が視認できる一般的な昆布佃煮(ペーストの範疇ではない)にする場合は、水煮昆布10重量部に対して昆布ペーストを1重量部~15重量部をすることが好ましく、より好ましくは昆布ペーストを1重量部~10重量部をすることが好ましい。
【0023】
煮熟処理(St4)においては、昆布ペーストと水煮昆布に、醤油および糖質を含む調味液とを合わせて、Bx40以上、水分活性Aw0.9未満となるように煮熟処理(St4)を行うことで保存性を有する昆布佃煮にすることができる。より保存性を高める場合には水分活性をAw0.88未満となるように煮熟処理(St4)すればよく、さらに好ましくは水分活性をAw0.86未満となるように煮熟処理(St4)すればよい。
【0024】
煮熟処理(St4)に使用する調味液は、醤油および糖質を必須の調味料として含み、その他に使用する調味料は特に制限されず、酸味料、増粘剤、保存料などの添加物を使用することができる。本発明においては、昆布ペースの保水力が高いため、増粘多糖類等を添加しなくても昆布佃煮の液垂れを抑制することができるが、増粘多糖類を含む増粘剤、ゲル化剤および安定剤、寒天、でん粉、加工でん粉を使用することでさらに保水性を高めることができる。
【0025】
かくして得られた昆布佃煮は、昆布ペーストの混合割合によって様々な形態、用途に用いることができる。一例として、昆布ペーストの混合割合が少ない場合は、一般的な昆布佃煮を提供することができ、一方、昆布ペーストの割合が高い場合は、具材の食感がある海苔佃煮のようなペーストタイプの昆布佃煮を提供することができる。
【0026】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「重量%」、「部」は「重量部」を意味する。
【実施例0027】
次に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
〔実施例1: 乾燥昆布を原料とした昆布佃煮の製造〕
日高昆布の乾燥昆布1kgを酢酸溶液に漬けて前処理(St1)した後、軟化した昆布を幅3mm長さ50mmの細切りに切断し、切断後の昆布をお湯(90℃)に投入し、再度90℃に達温後、10分間水煮処理(St2)して水煮昆布を得た。なお、前処理(St1)後の昆布の歩留りは乾燥昆布に対して120%、水煮昆布の歩留りは乾燥昆布に対して300%であった。
次に、水煮昆布を半量ずつに分け、一方の水煮昆布を粉砕機(ミクロマイスター、増幸産業株式会社製、回転速度2,000rpm)を用いて、粉砕サイズを目開き0.76mmで粉砕処理(St3)して昆布ペーストを得た。
煮熟釜に昆布ペーストと残りの水煮昆布の合計100重量部と、醤油および甘味料を含むBx65の調味液210重量部を加え、煮熟終了時にBx52となるように煮熟処理(St4)して昆布佃煮を得た。昆布佃煮の出来高は7.7kgであった。
【0029】
〔実施例2: 冷凍昆布を原料とした昆布佃煮の製造〕
真昆布の冷凍昆布5kgをお湯(90℃)に投入し、再度90℃に達温後、10分間水煮処理(St2)して水煮昆布を得た。水煮昆布を幅4mm長さ50mmの細切りに切断した。なお、水煮昆布の歩留りは、冷凍昆布に対して80%であった。
次に、水煮昆布を半量ずつに分け、一方の水煮昆布を粉砕機(ミクロマイスター、増幸産業株式会社製、回転速度2,000rpm)を用いて、粉砕サイズを目開き0.76mmで粉砕処理(St3)して昆布ペーストを得た。
煮熟釜に昆布ペーストと残りの水煮昆布の合計100重量部と、醤油および甘味料を含むBx65の調味液130重量部を加え、煮熟終了時にBx52となるように煮熟処理(St4)して昆布佃煮を得た。昆布佃煮の出来高は6.4kgであった。
【0030】
〔実施例3: 水煮昆布と昆布ペーストの混合割合の検討〕
日高昆布の乾燥昆布を用いて、水煮昆布と昆布ペーストの混合割合を変える以外は実施例1と同様にして、昆布佃煮を作製し、得られた昆布佃煮の見栄えを評価した。
水煮昆布と昆布ペーストの混合割合を、水煮昆布10重量部に対して昆布ペーストを1重量部~15重量部 の範囲で見栄えの良い昆布佃煮を得ることができた。
【0031】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の方法によって、従来の昆布佃煮の製造において必要であった、まぶし液の作製工程および煮熟昆布とまぶし液との混合工程をなくすことができ、昆布佃煮の製造において生産性を高めることができる。

図1