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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147400
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 9/02 20060101AFI20231005BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20231005BHJP
   F02D 9/00 20060101ALI20231005BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20231005BHJP
   B60W 20/15 20160101ALI20231005BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
F02D9/02 Q
F02D45/00 364G
F02D45/00 364D
F02D9/00 Z ZHV
B60K6/46
B60W20/15
B60W10/06 900
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054871
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】下坂 一将
【テーマコード(参考)】
3D202
3G065
3G384
【Fターム(参考)】
3D202AA07
3D202BB01
3D202BB40
3D202BB43
3D202CC05
3D202DD00
3G065BA06
3G065GA01
3G065GA10
3G065GA26
3G065GA41
3G384AA01
3G384AA07
3G384AA28
3G384BA03
3G384BA05
3G384FA04Z
3G384FA09Z
(57)【要約】
【課題】高地等の大気圧が低い環境下において、ブレーキブースタ負圧の確保のために徒に長時間内燃機関をモータリングし続ける問題を抑制ないし回避する。
【解決手段】内燃機関、内燃機関の吸気通路におけるスロットルバルブの下流に発生する吸気負圧を蓄えその負圧を利用してブレーキ踏力を倍力するブレーキブースタ、及び内燃機関を回転駆動する電動機が搭載された車両を制御するものであり、前記ブレーキブースタに蓄えている負圧の大きさが閾値を下回る場合に、前記電動機により内燃機関を回転駆動し、なおかつ、その際のスロットルバルブの開度(=α+β)を現在の大気圧が低いほど縮小する車両の制御装置を構成した。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、前記内燃機関の吸気通路におけるスロットルバルブの下流に発生する吸気負圧を蓄えその負圧を利用してブレーキ踏力を倍力するブレーキブースタと、前記内燃機関を回転駆動する電動機とが搭載された車両を制御するものであり、
前記ブレーキブースタに蓄えている負圧の大きさが閾値を下回る場合に、前記電動機により内燃機関を回転駆動し、なおかつ、その際のスロットルバルブの開度を現在の大気圧が低いほど縮小する車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される内燃機関の運転を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、電動機及び内燃機関の二種の動力源を備えるハイブリッド車両が一定の普及を見ている。シリーズ方式のハイブリッド車両(例えば、下記特許文献1を参照)は、内燃機関が発電用モータジェネレータを駆動して発電を行い、発電した電力を蓄電装置、即ちリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池等のバッテリ及び/またはキャパシタに蓄えるとともに、走行用モータジェネレータに供給する。そして、走行用モータジェネレータによって車両の駆動輪を回転させて走行する。
【0003】
発電用モータジェネレータのみならず、走行用モータジェネレータもまた、回生制動により発電を行い、発電した電力を蓄電装置に蓄えることができる。蓄電装置の容量一杯まで既に電荷が蓄えられている場合には、回生制動により得られる電力を敢えて発電用モータジェネレータに供給し、これを電動機として作動させて内燃機関を回転駆動するモータリングを行うことで、余剰の電力を消費する。
【0004】
ハイブリッド車両では、内燃機関が燃料を燃焼させて回転駆動力を発生させるファイアリングを行わなくとも、走行用モータジェネレータが出力する回転駆動力により車両を走行させることが可能である。故に、車両の運用中であっても、内燃機関の回転を停止している状態が継続することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-054241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来より、車両の制動時に必要となる操作力、即ちブレーキペダルの踏力を軽減する目的で、内燃機関の吸気通路におけるスロットルバルブの下流で発生する吸気負圧を利用して踏力を倍力する真空倍力式(バキューム式)のブレーキブースタが広く採用されている。この種のブレーキブースタは、吸気負圧を蓄える定圧室(負圧室)と、大気圧を導き入れる変圧室(大気圧室)とを有している。運転者がブレーキペダルを踏んでいないときには、変圧室と定圧室とが連通し、かつ変圧室への大気圧の導入が遮断されている。運転者によりブレーキペダルが踏まれると、変圧室と定圧室との間が隔絶され、かつ変圧室に大気圧が導入されて、変圧室と定圧室との圧力差による倍力作用が営まれる。
【0007】
ブレーキブースタの定圧室に蓄えた負圧は、車両の運転者がフットブレーキにより車両を制動することで消費される。ハイブリッド車両は、内燃機関の回転を停止したままで走行することが可能である。内燃機関の回転が停止している間は、吸気負圧が発生せず、負圧をブレーキブースタに供給することができない。それ故、ブレーキブースタに蓄えている負圧の大きさをセンシングし、その負圧が下限閾値まで減少したときには、内燃機関をモータリング(または、ファイアリング)して吸気負圧を発生させ、これをブレーキブースタに供給して、負圧を上限閾値まで回復させる。
【0008】
既に述べた通り、ブレーキブースタの踏力を倍力する負圧は、大気圧とこれよりも低い定圧室内圧力との差圧である。その大きさは、大気圧センサを介して検出される大気圧から、定圧室に設けた圧力センサを介して検出される定圧室内圧力を減算することで求められる。
【0009】
だが、大気圧は恒常的に一定ではない。車両が高地に所在しているときには、平地に所在しているときと比較して大気圧自体が低くなる。このため、現況下の大気圧との差圧としてのブレーキブースタ負圧が上限閾値まで回復するのに時間がかかるか、閾値を超えることができず、負圧の確保のために徒に内燃機関をモータリングし続ける状況が生起することがあった。
【0010】
以上の点に着目してなされた本発明は、高地等の大気圧が低い環境下において、ブレーキブースタ負圧の確保のために徒に長時間内燃機関をモータリングし続ける問題を抑制ないし回避することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、内燃機関と、前記内燃機関の吸気通路におけるスロットルバルブの下流に発生する吸気負圧を蓄えその負圧を利用してブレーキ踏力を倍力するブレーキブースタと、及び内燃機関を回転駆動する電動機とが搭載された車両を制御するものであり、前記ブレーキブースタに蓄えている負圧の大きさが閾値を下回る場合に、前記電動機により内燃機関を回転駆動し、なおかつ、その際のスロットルバルブの開度を現在の大気圧が低いほど縮小する車両の制御装置を構成した。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高地等の大気圧が低い環境下において、ブレーキブースタ負圧の確保のために徒に長時間内燃機関をモータリングし続ける問題を抑制ないし回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態におけるシリーズ方式のハイブリッド車両及び制御装置の概略構成を示す図。
図2】同実施形態のハイブリッド車両に搭載される内燃機関の概要を示す図。
図3】同実施形態のハイブリッド車両に搭載される走行用モータジェネレータの要求出力の区分を示す図。
図4】同実施形態の制御装置が制御する内燃機関のモータリング中のスロットルバルブ開度を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、本実施形態における車両の主要システムの概略構成を示す。本実施形態の車両は、二種類の動力源を搭載したハイブリッド車両である。内燃機関1と、内燃機関1により駆動されて発電を行う回転電機である発電用モータジェネレータ2と、発電用モータジェネレータ2が発電した電力を蓄える蓄電装置3と、発電用モータジェネレータ2及び/または蓄電装置3から電力の供給を受けて車両の駆動輪62を駆動する回転電機である走行用モータジェネレータ4とを備えている。
【0015】
本ハイブリッド車両は、内燃機関1を発電にのみ使用するシリーズハイブリッド方式の電気自動車であり、車両の駆動輪62には専ら走行用モータジェネレータ4から走行のための駆動力を供給する。内燃機関1と駆動輪62との間は機械的に切り離されており、元来両者の間で回転駆動力の伝達がなされない。従って、内燃機関1は、走行用モータジェネレータ4及び駆動輪62から完全に独立して回転し、また完全に独立して停止することが可能である。従って、イグニッションスイッチ(パワースイッチ、またはイグニッションキー)がONに操作されている車両の運用中、運転者がアクセルペダルを踏むことで車両が走行可能な状態にあっても、蓄電装置3が十分な電荷を蓄え、かつブレーキブースタ15が十分な負圧を蓄えている状況下では、燃料の燃焼を伴う内燃機関1の運転を実施しないことがある。
【0016】
内燃機関1の回転軸であるクランクシャフトは、発電用モータジェネレータ2の回転軸と歯車機構7を介して機械的に接続している(両者は常に接続しており、この接続が切り離されることはない。両者の間に断接切換可能なクラッチ等は存在しない)。そして、内燃機関1が出力する回転駆動力を発電用モータジェネレータ2に入力することで、発電用モータジェネレータ2が発電する。発電した電力は、蓄電装置3に充電し、及び/または、走行用モータジェネレータ4に供給する。また、発電用モータジェネレータ2は、自らが回転駆動力を発生させて内燃機関1のクランクシャフトを回転駆動するモータリング用の電動機としても機能する。例えば、発電用モータジェネレータ2は、停止している内燃機関1を始動する準備としてのクランキングを実行する。
【0017】
走行用モータジェネレータ4は、車両の走行のための駆動力を発生させ、その駆動力を減速機61を介して駆動輪62に入力する。また、走行用モータジェネレータ4は、駆動輪62に連れ回されて回転することで発電し、車両の運動エネルギを電気エネルギとして回収する。この回生制動により発電した電力は、蓄電装置3に充電する。
【0018】
尤も、既に蓄電装置3の容量一杯まで電荷が蓄えられており、それ以上の充電が困難であるならば、走行用モータジェネレータ4が回生発電した電力を発電用モータジェネレータ2に供給し、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させて内燃機関1を回転駆動する。これにより、車両の制動性能を維持しながら、余剰の電力を消尽する。また、このとき、内燃機関1の回転が保たれることから、内燃機関1の気筒への燃料供給を一時的に停止する燃料カットを実行することができる。
【0019】
発電機インバータ21は、発電用モータジェネレータ2が発電する交流電力を直流電力に変換する。そして、その直流電力を蓄電装置3または駆動機インバータ41に入力する。並びに、発電機インバータ21は、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させる際に、蓄電装置3及び/または駆動機インバータ41から供給される直流電力を交流電力に変換した上で発電用モータジェネレータ2に入力する。
【0020】
駆動機インバータ41は、蓄電装置3及び/または発電機インバータ21から供給される直流電力を交流電力に変換した上で走行用モータジェネレータ4に入力する。並びに、駆動機インバータ41は、車両の回生制動を行うときに走行用モータジェネレータ4が発電する交流電力を直流電力に変換した上で蓄電装置3または発電機インバータ21に入力する。発電機インバータ21及び駆動機インバータ41は、PCU(Power Control Unit)02の一部をなす。
【0021】
蓄電装置3は、バッテリ及び/またはキャパシタ等である。バッテリは、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池等の、エネルギ密度の大きい高電圧の二次電池である。蓄電装置3は、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4の各々が発電する電力を充電して蓄える。並びに、蓄電装置3は、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4の各々を電動機として作動させるための電力を放電し、それらモータジェネレータ2、4に必要な電力を供給する。
【0022】
図2に、本実施形態のハイブリッド車両に搭載される内燃機関1の概要を示している。内燃機関1は、例えば火花点火式の4ストロークレシプロエンジンであり、複数の気筒11(例えば、三気筒。図2には、そのうち一つを図示する)を包有している。各気筒11の吸気ポート近傍には、吸気ポートに向けて燃料を噴射するインジェクタ111を設けている。また、各気筒11の燃焼室の天井部に、点火プラグ112を取り付けてある。点火プラグ112は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。
【0023】
吸気を供給するための吸気通路13は、外部から空気を取り入れて各気筒11の吸気ポートへと導く。吸気通路13上には、エアクリーナ131、電子スロットルバルブ132、サージタンク133、吸気マニホルド134を、上流からこの順序に配置している。エアクリーナ131は、吸気通路13における最上流の、空気を取り入れる吸気口にある。吸気口は、冷たい空気を取り入れて内燃機関の充填効率を上げるために、車両の前方に開口している。
【0024】
内燃機関1には、車両の制動時に必要となる操作力、即ちブレーキペダルの踏力を軽減するためのブレーキブースタ15が付帯している。ブレーキブースタ15は、吸気通路13におけるスロットルバルブ132の下流側の部位(または、サージタンク133)から吸気負圧を導き入れ、その負圧を用いてブレーキペダルの踏力を倍力する、この分野では広く知られているものである。ブレーキブースタ15は、負圧を蓄える定圧室(負圧室)と、大気圧が加わる変圧室(大気圧室)とを有し、定圧室が負圧管路151を介して吸気通路13に接続している。負圧管路151は、スロットルバルブ132の下流側の吸気負圧を定圧室へと導く。負圧管路151上には、負圧を定圧室内に留め、定圧室に正圧が加わることを防止するためのチェックバルブ152を設けてある。
【0025】
運転者によりブレーキペダルが操作されていないとき、変圧室と定圧室とが連通し、かつ変圧室が大気圧から隔絶される。ブレーキペダルが操作されると、変圧室と定圧室との間が遮断され、かつ変圧室に大気が導入される。結果、変圧室と定圧室との圧力差が、ブレーキペダルの踏力を倍力する制御圧力となる。ブレーキブースタ15により増幅されたブレーキ踏力は、マスタシリンダ16において液圧力に変換される。マスタシリンダ16が出力するマスタシリンダ圧(マスタシリンダ16が吐出するブレーキ液の圧力)は、液圧回路を介してブレーキキャリパやホイールシリンダ等といったフットブレーキ装置に伝達され、当該ブレーキ装置による車両の制動に用いられる。
【0026】
本実施形態にあって、内燃機関1、発電用モータジェネレータ2、蓄電装置3、インバータ21、41及び走行用モータジェネレータ4等を制御する制御装置0は、複数基のECU、即ち内燃機関1を制御するEFI(Electronic Fuel Injection)ECU01、モータジェネレータ2、4及びインバータ21、41を制御するMG(Motor Generator)ECU02、蓄電装置3を制御するBMS(Battery Management System)ECU03、並びに、それらの制御を統括する上位のコントローラであるHV(Hybrid Vehicle)ECU00等が、CAN(Controller Area Network)等の電気通信回線を介して相互に通信可能に接続されてなるものである。各ECU00、01、02、03はそれぞれ、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
【0027】
制御装置0に対しては、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、内燃機関1のクランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するクランク角センサから出力されるクランク角信号b、運転者によるアクセルペダルの踏込量をアクセル開度(いわば、運転者が車両(の走行用モータジェネレータ4)に対して要求している駆動力)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、内燃機関1の気筒11に連なる吸気通路13(特に、サージタンク133または吸気マニホルド134)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号d、内燃機関1の冷却水の温度を検出する水温センサから出力される冷却水温信号e、大気圧を検出する大気圧センサから出力される大気圧信号f、蓄電装置3に蓄えている電荷量を検出するセンサ(特に、バッテリ電流及び/またはバッテリ電圧センサ)から出力されるバッテリSOC(State Of Charge)信号g、ブレーキブースタ15の定圧室内の圧力ひいては定圧室に蓄えている負圧の大きさを検出する圧力センサから出力される信号h等が入力される。
【0028】
そして、制御装置0は、各種センサを介してセンシングしている、運転者が操作するアクセルペダルの踏込量や、現在の車両の車速、蓄電装置3が蓄えている電荷の量、発電用モータジェネレータ2の発電電力等に応じて、走行用モータジェネレータ4が出力する回転駆動力、内燃機関1が出力する回転駆動力、及び発電用モータジェネレータ2が発電する電力の大きさ等を増減制御する。
【0029】
原則として、蓄電装置3が現在十分な電荷を蓄えており、走行用モータジェネレータ4に対して要求される出力が小さいならば、内燃機関1への燃料の供給を遮断して内燃機関1を運転しない。翻って、蓄電装置3が蓄えている電荷の量が下限値を下回り、または走行用モータジェネレータ4に対して要求される出力が大きいならば、内燃機関1を始動し気筒11に燃料を供給してこれを燃焼させるファイアリングを実行し、内燃機関1の出力する回転駆動力により発電機モータジェネレータ2を駆動し、発電を実施して蓄電装置3を充電し、または走行用モータジェネレータ4に供給する電力を増強する。
【0030】
図3に、車両の運転者が要求する出力と、内燃機関1及び発電用モータジェネレータ2の運転の要否との関係を示している。走行用モータジェネレータ4に対して要求される出力は、運転者が操作するアクセルペダルの踏込量及び車速によって決まる。駆動輪62に与えるべき駆動力は、アクセル開度が大きいほど大きくなる。その要求出力は、駆動輪62に与えるべき駆動力が大きいほど大きくなり、車速が高くなるほど大きくなる。図3上、右上方に向かうほど要求出力が大きいということになる。
【0031】
制御装置0は、駆動輪62に与えるべき駆動力が比較的小さく、車速も比較的低い低出力領域Iでは、内燃機関1に燃料を供給せずにそのファイアリング運転を停止し、発電用モータジェネレータ2を発電機として作動させない。低出力領域Iでは、走行用モータジェネレータ4が、蓄電装置3のみから電力供給を受けて、車両の走行のための駆動力を出力する。低出力領域Iは、典型的には、アクセル開度が0または所定値以下に小さいとき、あるいは車両の減速走行中である。
【0032】
制御装置0は、駆動輪62に与えるべき駆動力がある程度以上大きい、または車速がある程度以上高い中高出力領域II、IIIでは、内燃機関1に燃料を供給してこれをファイアリング運転し、発電用モータジェネレータ2を発電機として作動させる。要求出力が顕著に大きくない中出力領域IIでは、走行用モータジェネレータ4が、主として発電用モータジェネレータ2から電力供給を受けて、車両の走行のための駆動力を出力する。このとき、蓄電装置3からは、少量の電力供給を受けるか、または全く電力供給を受けない。要求出力が顕著に大きい高出力領域IIIでは、走行用モータジェネレータ4が、発電用モータジェネレータ2及び蓄電装置3の双方から電力供給を受けて、車両の走行のための駆動力を出力する。
【0033】
ファイアリング運転中の内燃機関1に対して要求される出力も、基本的には、走行用モータジェネレータ4に対して要求される出力が大きいほど大きくなる。但し、現在蓄電装置3が蓄えている電荷量にもよる。蓄電装置3の電荷量が欠乏したときには、可及的速やかにこれを充電する必要があり、たとえ走行用モータジェネレータ4に対する要求出力が小さくとも、発電のために内燃機関1に対する要求出力が大きくなることがある。
【0034】
内燃機関1の気筒11に燃料を供給して内燃機関1を運転しておらず、走行用モータジェネレータ4により駆動輪62を駆動して車両を走行させている最中に、内燃機関1を始動して発電用モータジェネレータ2による発電を実行しようとするためには、まず、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させ、これにより内燃機関1の始動のためのモータリングを行う。そして、内燃機関1のクランクシャフトが所定回数以上または所定角度以上回転し、内燃機関1の各気筒11の現在の行程またはピストンの位置を知得する気筒判別が完了したならば、内燃機関1の各気筒11の行程に合わせて適切なタイミングで燃料を噴射し、かつ適切なタイミングで燃料を着火燃焼させるファイアリングを開始する。内燃機関1のクランクシャフトの回転角度及び回転数、または発電用モータジェネレータ2の回転軸の回転角度及び回転数(発電用モータジェネレータ2の回転数は内燃機関1の回転数に比例し、その比例定数は既知)は、内燃機関1に付帯するクランク角センサを介して(EFI ECU01において)検出することができ、発電用モータジェネレータ2に付帯するレゾルバを介して(PCU(または、MG ECU)02において)検出することもできる。
【0035】
内燃機関1が自立的に回転し発電のために必要な回転駆動力を出力可能となり、発電用モータジェネレータ2の出力を低減させてもなおエンジン回転数が上昇傾向を維持できるようになったならば、電動機として作動させている発電用モータジェネレータ2の出力を0まで低減させてモータリングを終了し、今度は内燃機関1により発電用モータジェネレータ2を回転駆動する。さらに、発電用モータジェネレータ2を発電機として作動させ、その発電電力を0から増大させる。
【0036】
しかる後、エンジン回転数を段階的に引き上げられる目標回転数に追従させるように、内燃機関1の気筒1に供給する吸気量及び燃料噴射量、並びに発電用モータジェネレータ2の発電電力を増減調整する。最終的な目標回転数は、内燃機関1を最適または最適に近い効率で運転でき燃料消費率にとって最も有利な回転数、あるいは、内燃機関1が最大トルク若しくは最大出力またはこれに近いトルク若しくは出力を達成できるような回転数に設定する。
【0037】
制御装置0の一部をなすEFI ECU01は、内燃機関1の運転制御に必要な各種情報b、d、e、fを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒11に吸入される空気量を推算する。そして、吸入空気量に見合った(目標空燃比を具現するために必要な)要求燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング(一度の燃焼に対する点火の回数を含む)、要求EGR率(または、EGRガス量)等といった内燃機関1の運転パラメータを決定する。EFI ECU01は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、lを、出力インタフェースを介して点火プラグ112のイグナイタ、インジェクタ111、スロットルバルブ132、EGRバルブ123等に対して出力する。
【0038】
車両が停車しまたは停車に近い低車速の状況から、運転者がアクセルペダルを踏み込み車両を発進させようとするときには、走行用モータジェネレータ4に対する要求出力が低出力領域Iから中高出力領域II、IIIに遷移することから、それまで停止していた内燃機関1を始動する。または、蓄電装置3に蓄えている電荷量(SOC)が所定値以下に減少したときにも、内燃機関1を始動することになる。
【0039】
内燃機関1の運転制御を司るEFI ECU01と、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4を含むハイブリッド車両全体の統括制御を司るHV ECU00とは、互いに独立して存在している。EFI ECU01は、ファイアリング運転中の内燃機関1の目標出力、換言すれば目標エンジン回転数及び/または目標エンジントルクに関する情報(目標エンジン回転数、目標エンジントルク自体であることもあれば、発電用モータジェネレータ2が発電する電力、出力する電圧若しくは電流、または発電用モータジェネレータ2による内燃機関1に対する負荷トルク等の値であることもある)を受信する。EFI ECU01は、その受信した情報に応じて、目標エンジン回転数及び/または目標エンジントルクを達成するべく、スロットルバルブ132の開度やインジェクタ111からの燃料噴射量、点火プラグ112による混合気への火花点火のタイミング、EGRバルブ123の開度等を操作する。
【0040】
PCU(または、MG ECU)02もまた、発電機として動作して発電中の発電用モータジェネレータ2の目標出力、換言すれば目標MG回転数及び/または目標MG負荷トルクに関する情報(目標MG回転数、目標MG負荷トルク自体であることもあれば、発電用モータジェネレータ2が発電する電力、出力する電圧若しくは電流等の値であることもある)を受信する。PCU02は、その受信した情報に応じて、目標MG回転数及び/または目標MG負荷トルクを達成するべく、発電電力、電圧若しくは電流(PWM(Pulse Width Modulation)制御におけるDUTY比であることがある)を制御する。
【0041】
ブレーキブースタ15の定圧室に蓄えた負圧は、車両の運転者がフットブレーキを操作して車両を制動することで消費される。内燃機関1をファイアリング運転していない状態で、ブレーキブースタ15に蓄えている負圧の大きさが下限閾値まで減少したときには、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させ、当該モータジェネレータ2により内燃機関1を回転駆動するモータリングを行う。ブレーキブースタ15に負圧を補充する目的のモータリングは、ブレーキブースタ15に蓄えている負圧が上限閾値に回復するまで続行し、その後発電用モータジェネレータ2及び内燃機関1を停止させる。
【0042】
ブレーキブースタ15の踏力を倍力する負圧は、大気圧とこれよりも低い定圧室内圧力との差圧である。制御装置0は、その負圧の大きさを、大気圧センサの出力信号fを参照して知得される大気圧から、定圧室に設けた圧力センサの出力信号hを介して検出される定圧室内の圧力を減算することによって求める。そしてこれを、上記の下限閾値及び上限閾値の各々と比較する。
【0043】
ところが、大気圧は恒常的に一定ではない。車両が高地に所在しているときには、平地に所在しているときと比較して大気圧自体が低くなる。このため、高地では、ブレーキブースタ15負圧の大きさが上限閾値まで回復するのに時間がかかり、内燃機関1をモータリングし続ける期間が徒に引き延ばされることがあった。内燃機関1のモータリング期間が長くなることは、蓄電装置3に蓄えている電気エネルギを浪費することと同義であり、決して好ましくない。
【0044】
そこで、本実施形態の制御装置0は、現在の大気圧の大きさに応じて、つまりは車両が平地に所在するか高地に所在するかに応じて、ブレーキブースタ15に負圧を補充する目的でのモータリング中のスロットルバルブ132の開度を変更するようにしている。具体的には、図2に示すように、現在の大気圧が低い場合、現在の大気圧がより高い場合と比較して、モータリング中のスロットルバルブ132の開度をより縮小する。これにより、吸気通路13におけるスロットルバルブ132の下流により強い吸気負圧を発生させて、これをブレーキブースタ15の定圧室に供給できるようにする。さすれば、ブレーキブースタ15負圧の大きさが速やかに上限閾値まで回復し、モータリング期間が不当に延長されるのを避けることができる。
【0045】
図4中、αは、内燃機関1のファイアリング運転中に、必要最低限の目標エンジン回転数を維持できるようなスロットルバルブ132の開度である。この開度αは、現在の大気圧が低いほど、即ち空気の密度が低いほど大きくなる。開度αは、内燃機関1のファイアリング中に適時学習して、制御装置0のメモリに記憶保持しておく。
【0046】
βは、内燃機関1のモータリング運転中の開度の拡大補正量である。モータリング中のスロットルバルブ132の開度があまりに小さいと、電動機たる発電用モータジェネレータ2にかかる負荷が過大になる。そこで、補正量βを加味した開度(=α+β)に、スロットルバルブ132を操作する。開度補正量βは、現在の大気圧が低いほど小さくなる。
【0047】
本実施形態では、内燃機関1、内燃機関1の吸気通路13におけるスロットルバルブ132の下流に発生する吸気負圧を蓄えその負圧を利用してブレーキ踏力を倍力するブレーキブースタ15、及び内燃機関1を回転駆動する電動機2が搭載された車両を制御するものであり、前記ブレーキブースタ2に蓄えている負圧の大きさが閾値を下回る場合に、前記電動機2により内燃機関1を回転駆動し、なおかつ、その際のスロットルバルブ132の開度を現在の大気圧が低いほど縮小する車両の制御装置0を構成した。
【0048】
本実施形態によれば、ハイブリッド車両のような内燃機関1の回転が停止している期間が長くなる傾向にある車両にあっても、モータリングによりブレーキブースタ15の負圧を必要十分に確保できる。しかも。モータリング期間が不当に長くなることがない。
【0049】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、現在の大気圧に基づき、ブレーキブースタ15に必要な負圧を確保する(負圧を上限閾値まで回復させる)のに要する時間の長さを推定し(現在の大気圧が低いほどその所要時間は長くなるであろう)、その推定の所要時間が所定値以上に長いことを条件として、内燃機関1のスロットルバルブ132の開度を平常よりも(現在の大気圧が低いほど)縮小し、さもなくばスロットルバルブ132の開度を平常の大きさのまま縮小しないこととしてもよい。上記の所要時間が比較的短く、電費や燃費の悪化が懸念されないのであれば、スロットルバルブ132の開度を過度に縮小せず、気筒11における燃焼の不安定化を招くことを防止する。
【0050】
また、本発明の適用対象は、シリーズ方式のハイブリッド車両に搭載される内燃機関1及び電動機2に限定されない。
【0051】
その他、各部の具体的構成や処理の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0052】
0…制御装置(ECU)
1…内燃機関
13…吸気通路
132…スロットルバルブ
15…ブレーキブースタ
2…発電機、モータリング用電動機(発電用モータジェネレータ)
3…蓄電装置
4…走行用電動機(走行用モータジェネレータ)
62…駆動輪
図1
図2
図3
図4