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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147407
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】付着器、及び水産動物の養殖方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/54 20170101AFI20231005BHJP
【FI】
A01K61/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054879
(22)【出願日】2022-03-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年5月28日に公開された技術支援成果事例集2021,第20頁,地方独立行政法人北海道立総合研究機構 工業試験場にて発表 令和3年6月22日にウェブサイトで公開された技術移転フォーラム2021工業試験場成果発表会の要旨集にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】310010575
【氏名又は名称】地方独立行政法人北海道立総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】000241957
【氏名又は名称】北海道電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100158366
【弁理士】
【氏名又は名称】井戸 篤史
(72)【発明者】
【氏名】川崎 琢真
(72)【発明者】
【氏名】辻野 二朗
(72)【発明者】
【氏名】橋田 修吉
(72)【発明者】
【氏名】執行 達弘
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104AA26
(57)【要約】
【課題】密漁の防止や、産地の特定の必要性から、貝類等の水産動物に出所表示機能を有する標識を施す技術が開発されているが、水産動物上の標識を任意の文字や図形とすることは困難であった。
【解決手段】本発明は、外殻を持つ水産動物を付着させて養殖するための付着器であって、前記水産動物の付着面に凹凸形状を備え、前記凹凸形状が、標章を反転させたものである、付着器を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外殻を持つ水産動物を付着させて養殖するための付着器であって、
前記水産動物の付着面に凹凸形状を備え、
前記凹凸形状が、標章を反転させたものである、付着器。
【請求項2】
前記標章が自他商品識別機能及び/又は出所表示機能を有する、請求項1に記載の付着器。
【請求項3】
前記付着面上に、前記付着面から剥離可能な剥離部を備えた、請求項1又は2に記載の付着器。
【請求項4】
前記凹凸形状の凸部が、前記付着面から剥離可能な剥離部から形成された、請求項1又は2に記載の付着器。
【請求項5】
前記凹凸形状の凹部に、前記付着面から剥離可能な剥離部が埋設された、請求項1又は2に記載の付着器。
【請求項6】
前記付着面が、合成樹脂、及び/又は天然樹脂であり、
前記剥離部が、セラミクス、及び/又は非焼成セラミクスである、
請求項3~5いずれか一項に記載の付着器。
【請求項7】
前記水産動物が、イタボガキ科に属する、請求項1~6いずれか一項に記載の付着器。
【請求項8】
外殻を持つ水産動物の幼稚体を、前記水産動物の付着面に凹凸形状を備えた付着器に付着させるステップ、
前記付着器に付着した前記水産動物を育成するステップ、及び、
育成した前記水産動物を収穫するステップを含み、
前記凹凸形状は、標章を反転させたものであり、
収穫される前記水産動物の外殻上に前記標章が転写される、
水産動物の養殖方法。
【請求項9】
前記標章が自他商品識別機能及び/又は出所表示機能を有する、請求項8に記載の水産動物の養殖方法。
【請求項10】
前記付着器の前記付着面上に、前記付着面から剥離可能な剥離部を備え、
収穫される前記水産動物の外殻上に転写された前記標章は、前記付着面より剥離された前記剥離部からなる、
請求項8又は9に記載の水産動物の養殖方法。
【請求項11】
前記凹凸形状のうち凸部が、前記付着面より剥離可能な剥離部から形成され、
収穫される前記水産動物の外殻上に転写された前記標章は、前記付着面より剥離された前記剥離部からなる、
請求項8又は9に記載の水産動物の養殖方法。
【請求項12】
前記凹凸形状のうち凹部が、付着面より剥離可能な剥離部により埋設され、
収穫される前記水産動物の外殻上に転写された前記標章は、前記付着面より剥離した前記剥離部からなる、
請求項8又は9に記載の水産動物の養殖方法。
【請求項13】
前記付着面が、合成樹脂、及び/又は天然樹脂であり、
前記剥離部が、セラミクス、及び/又は非焼成セラミクスである、
請求項10~12いずれか一項に記載の水産動物の養殖方法。
【請求項14】
前記水産動物が、イタボガキ科に属する、請求項8~13いずれか一項に記載の養殖方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水産動物を付着させて養殖するための付着器、及び当該付着器を用いた水産動物の養殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
密漁の防止や、産地の特定の必要性から、貝類等の水産動物に出所表示機能を有する標識を施す技術が開発されている。例えば、色の異なる複数の海藻をアワビ類に給餌し、アワビ類の殻に二色以上の縞模様を施すことによってアワビ類の産地を識別する方法(特許文献1参照)、貝類の貝殻周縁部を表裏から挟み付ける挟着具の、貝殻裏面へ当てつける部分において、貝殻と反対面に貝殻粉体を付着したことを特徴とする貝類用標識(特許文献2参照)、貝殻を水中に浸漬して鉄粉末粒子を水中の酸素と反応させて生成される錆を利用して標識を形成する方法(特許文献3参照)、二枚貝類の靱帯に識別片となる金属片を埋設する標識貝への標識方法(特許文献4参照)、稚貝の新規成長部分に着色部が広がらないよう化学結合により着色物質を貝殻表面に析出させる標識形成方法(特許文献5参照)等が挙げられる。
【0003】
また、二枚貝の代表的な養殖種であるカキでは、カキの稚貝を付着させて養殖する付着器について、養殖の効率性を高める形状が検討されている。例えば、カキの付着性を向上させるため、扇形、碁板目状、台形状、その他の多角形状の山谷からなる付着床を表面に有する円板状のカキ養殖基体(特許文献6参照)、複数の突起状のスペーサと、付着性を向上されるための細かな凹凸を表面に有する平板状盤体であるカキ養殖用付着器(特許文献7参照)等が知られている。
【0004】
また、商品価値を高めるためにカキ殻の形状を変化させる技術として、殻付きカキの成長端側の中央をV字型に切り欠き、切り欠き箇所にこれに相対応するV字型先端側を有する成形器を挿入係合することで、V字型窪みを成形するステップを含む、殻外形がハート形に形成された殻付きカキの養殖方法(特許文献8参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-023971号公報
【特許文献2】特開2004-141084号公報
【特許文献3】特開2000-300108号公報
【特許文献4】特開平11-196706号公報
【特許文献5】特開平6-141725号公報
【特許文献6】特開平10-155386号公報
【特許文献7】実用新案登録第3182951号公報
【特許文献8】特開2012-152179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、及び3~5に記載の方法では、貝殻における標識を任意の文字や図形とすることは困難である。また、特許文献2に記載の方法では、1個体ずつ挟着具が必要であるため、多数の水産動物に使用するとコストが膨大となるという問題がある。
【0007】
特許文献8のように、カキの外殻の形状を変化させる方法が知られており、外殻を独自の形状にすれば出所表示機能を持たせることはできるものの、当該方法は、1個体ずつ切り欠きや挿入係合といった処理が必要となり、作業負担が極めて大きい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、カキ等の外殻を持つ水産養殖動物に対して、簡便且つ安価に自他商品等識別機能や出所表示機能等を付与するための付着器、及び当該付着器を用いた養殖方法を提供する。
【0009】
すなわち、本発明は、外殻を持つ水産動物を付着させて養殖するための付着器であって、前記水産動物の付着面に凹凸形状を備え、前記凹凸形状が、標章を反転させたものである。
【0010】
別の本発明は、前記付着面上に、前記付着面から剥離可能な剥離部を備えた付着器である。また、別の本発明は、前記凹凸形状の凸部が、前記付着面から剥離可能な剥離部から形成された付着器である。さらに、別の本発明は、前記凹凸形状の凹部に、前記付着面から剥離可能な剥離部が埋設された付着器である。前記付着面は、合成樹脂、及び/又は天然樹脂であり、前記剥離部が、セラミクス、及び/又は非焼成セラミクスであってもよい。
【0011】
さらに、本発明は、水産動物の養殖方法を提供する。すなわち、本発明は、外殻を持つ水産動物の幼稚体を、前記水産動物の付着面に凹凸形状を備えた付着器に付着させるステップ、前記付着器に付着した前記水産動物を育成するステップ、及び、育成した前記水産動物を収穫するステップを含み、前記凹凸形状は、標章を反転させたものであり、収穫される前記水産動物の外殻上に前記標章が転写される、水産動物の養殖方法である。
【0012】
別の本発明は、前記付着器の前記付着面上に、前記付着面から剥離可能な剥離部を備え、収穫される前記水産動物の外殻上に転写された前記標章は、前記付着面より剥離された前記剥離部からなる、水産動物の養殖方法である。また、別の本発明は、前記凹凸形状のうち凸部が、前記付着面より剥離可能な剥離部から形成され、収穫される前記水産動物の外殻上に転写された前記標章は、前記付着面より剥離された前記剥離部からなる、水産動物の養殖方法である。さらに、別の本発明は、前記凹凸形状のうち凹部が、付着面より剥離可能な剥離部により埋設され、収穫される前記水産動物の外殻上に転写された前記標章は、前記付着面より剥離した前記剥離部からなる、水産動物の養殖方法である。前記付着面は、合成樹脂、及び/又は天然樹脂であり、前記剥離部が、セラミクス、及び/又は非焼成セラミクスであってもよい。
【0013】
前記水産動物はイタボガキ科に属するものでよい。また、標章が自他商品識別機能及び/又は出所表示機能を有するものであり得る。
【発明の効果】
【0014】
本発明の付着器を用いて、カキ等の外殻を持つ水産養殖動物を養殖すれば、外殻に標章が付された水産養殖動物を収穫することができる。本発明の養殖方法においては、本発明の付着器を用いる他は、通常の養殖方法と同様であり、特別な作業は必要としない。
【0015】
また、本発明の付着器は、標章を反転させた凹凸形状を付着面に有するが、カキ等の幼稚体は付着基質上の凹凸形状を好んで付着する、稚貝が付着した後は、付着面上に凹凸形状があるために養殖中に水産動物が脱離しにくい等の効果を奏する。
【0016】
本発明の付着器は、水産動物の収穫時に付着面から剥離する剥離部を設けることもできる。剥離部は、外殻上で標章を形成するが、剥離部を構成する素材に色彩を持つものを選択したり、任意の顔料を混合したりすれば、外殻上の標章に、所望の色彩を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施態様の付着器の外観を示す斜視図である。
図2】一の実施態様の付着器の凹凸形状を示す概略断面図である。
図3】一の実施態様の付着器の凹凸形状を示す概略断面図である。
図4】一の実施態様の付着器の凹凸形状を示す概略断面図である。
図5】一の実施態様の付着器の凹凸形状を示す概略断面図である。
図6】一の実施態様の付着器の凹凸形状を示す概略断面図である。
図7】一の実施態様の付着器の凹凸形状を示す概略断面図である。
図8】実施態様の付着器を用いた養殖方法を示す斜視図である。
図9】実施例1及び2の付着器の外観を示す写真である。
図10】実施例1及び2の付着器を用いて養殖されたイワガキの外殻の外観を示す写真である。
図11】実施例3及び4の付着器の外観を示す写真である。
図12】実施例3の付着器を用いて養殖されたイワガキの外殻を示す写真である。
図13】実施例4の付着器を用いて養殖されたイワガキの外殻を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、発明を実施するための形態に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明は、実施形態によって限定されることはない。
【0019】
本発明の付着器、及び当該付着器を用いる水産動物の養殖方法は、外殻を持ち、付着器に付着して成長する水産動物に適用可能である。水産動物は、好ましくは、二枚貝又は甲殻類である。二枚貝としては、具体的にはマガキ、イワガキ、シカメガキ、ホタテガイ、アカガイ、エゾイシカゲガイ、ハマグリ、アサリ、タイラギ、アコヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイ、マベ等が挙げられる。甲殻類としては、フジツボ類が挙げられ、具体的にはミネフジツボ、アカフジツボ、オオアカフジツボ、クロフジツボ、ピコロコ、カメノテ、ペルセベ等が挙げられる。
【0020】
より好ましくは、本発明における水産動物は、イタボガキ科(Ostreidae)に属する二枚貝である。イタボガキ科(Ostreidae)に属する二枚貝は、左殻と右殻とからなる外殻を持ち、うち左殻を基質に付着させて成長する。以下、水産動物としてマガキ属(Crassostrea)に属するマガキ(Crassostrea gigas)やイワガキ(Crossostrea nippona)等のカキを例に挙げて、付着器及び当該付着器を用いた養殖方法の実施態様を説明するが、本発明は、これらの水産動物に限定されるものではなく、外殻を基質に付着させて成長する水産動物全てに適用可能である。
【0021】
付着器10の実施態様の斜視図を図1に示す。付着器10は、円板状であるが、他の実施形態においては、方形その他の平板状や、球体、角柱、円柱等の立体的構造物であってよい。付着板10の表面及び/又は裏面は、付着面12とも呼称され、水産動物の幼稚体が付着する。付着面12の全面には、標章を左右反転又は上下反転した凹凸形状が備えられる。本実施態様は、主にアルファベット「HRO」を左右反転した凸部14を付着面12上に連続的に備えたものである。
【0022】
ここで、標章とは、人の知覚によって認識することができる文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合であって、出所表示機能及び/又は自他商品等識別機能を有する標章が好ましく用いられる。カキの外殻に付着面12の凹凸形状が転写されることで、外殻上に凹凸形状が反転した形状、すなわち標章が形成されることとなり、消費者は、カキの産地や生産者を容易に識別することができる。付着器10を用いてカキを養殖した場合、カキの左殻には凸部14の形状が反転したアルファベット「HRO」が転写され、左殻上にアルファベット「HRO」が形成されたカキを収穫することができる。
【0023】
ここで、付着器の付着面に設けられた凹凸形状の複数の実施態様を説明する。図2図7は、板状の付着器10の板厚方向の概略断面図であり、ここでの付着器10は片面(表面)のみを付着面12とするものである。また、図2図7においては、付着面上の凹部14及び/又は凸部16は、短手方向の断面を図示する。図2は、付着面12上に、凸部14を設けた実施態様であり、付着面12を平面視した場合に、凸部14は、標章を反転させた形状を構成する。当該付着面に付着させて育成したカキを収穫すると、その左殻上には凸部14に対応した凹部が形成される。当該凹部は、凸部14の形状が反転して転写されたものであるため、標章が左殻上に凹状に形成される。
【0024】
図3は、付着面12上に、凹部16を設けた実施態様であり、付着面12を平面視した場合に、凹部16は、標章を反転させた形状を構成する。付着面12に付着させて育成したカキを収穫すると、その左殻には凹部16に対応した凸部が形成される。当該凸部は、凹部16の形状が反転された標章を構成する。当該凸部は、凹部16の形状が反転して転写されたものであるため、標章が左殻上に凸状に形成される。
【0025】
図4は、付着面12上に、凸部14を設けた実施態様であるが、凸部14は、付着面12から剥離可能な剥離部18からなり、付着面12を平面視した場合に、標章を反転させた形状を構成する。カキを当該付着面12に付着させて育成すると、カキの左殻は凸部14と接着する。カキを収穫すると、凸部14は付着面12から剥離し、剥離した凸部14の剥離部18が、左殻上に凸部14形状が反転した標章を構成する。
【0026】
図5は、付着面12上に、凹部16を設けた実施態様である。凹部16は、付着面12を平面視した場合に、標章を反転させた形状を構成しており、剥離部18が埋設される。カキを当該付着面12に付着させて育成すると、カキの左殻は凹部16に埋設された剥離部18と接着する。カキを収穫すると、剥離部18は付着面12から剥離し、剥離した剥離部18が左殻上に凹部16の形状が反転した標章を構成する。
【0027】
図6は、付着面12上に、凸部14を設けた実施態様であり、付着面12を平面視した場合に、凸部14は、標章を反転させた形状を構成する。さらに、付着面12上に、カキを収穫した際に剥離可能な剥離部18を備え、剥離部18は略均等な厚みで付着面12上に層状に設けられる。カキは、付着面12上に設けられた層状の剥離部18上に付着し、左殻が凸部14上の剥離部18を取り込むように成長するため、収穫時には、左殻上に剥離部18からなる標章が形成される。凸部14上以外の剥離部18は、左殻に取り込まれないか、取り込まれたとしても凸部14上の剥離部よりも薄いために、左殻には凸部14の形状が反転して転写された標章として視認可能な形状が構成される。
【0028】
図7は、付着面12上に、凹部16を設けた実施態様であり、付着面12を平面視した場合に、凹部16は、標章を反転させた形状を構成する。さらに、付着面12上に、カキを収穫した際に剥離可能な剥離部18を備える。剥離部18は凹部16を埋設しつつ、付着面12上に層状に設けられる。カキは、付着面12上に設けられた層状の剥離部18上に付着し、左殻を剥離部18と接着させながら成長する。カキを収穫すると、剥離部18は付着面12から剥離する。左殻に接着した剥離部18のうち、凹部16内に埋設された剥離部18は、それ以外の剥離部18よりも厚いために、左殻には凹部16の形状が反転して転写された標章として視認可能な形状が構成される。
【0029】
図2図7においては、短手方向の断面が矩形状の凹部及び/又は凸部を備えた付着器の実施態様を説明したが、別の実施態様では、凹部及び/凸部は円弧状、半円状、三角形状の断面形状を有していてもよい。
【0030】
付着面12上の凹凸形状の高さや深さは限定されないが、好ましくは、凸部14の高さ又は凹部18の深さが0.1~5.0mmとなるように形成され、より好ましくは0.5~1.0mmになるように形成される。
【0031】
付着器10は、天然樹脂や合成樹脂等の高分子材料や、セラミクスや非焼成セラミクス(無焼成セラミクス)等の無機材料によって製造される。高分子材料としては、具体的には、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ナイロン樹脂、ポリ乳酸樹脂やこれらの混合物等が挙げられる。無機材料としては、レンガ、セメント、石膏、シリカ、漆喰、ジオポリマーやこれらの混合物等が挙げられる。
【0032】
また、付着面12上に剥離部を備えた付着器の実施態様においては、剥離部は、上述した高分子材料、セラミクス及び/又は非焼成セラミクスであり得るが、付着面12上に塗り固められる素材を用いることがより好ましい。付着面12上に塗り固められる素材としては、セメント、漆喰、モルタル等が挙げられる。また、これらの素材に顔料を混合することで、カキ左殻に形成される標章に所望の色彩を与えることができる。
【0033】
剥離部18は、付着面に対して、採苗中及び/又は養殖中に、付着面から剥離しない程度の接着性を有する。一方で、剥離部は、付着器10が可塑性を有する場合、付着器10からカキを収穫する際に、付着器10を捻ることで、カキの左殻と共に付着面から剥離され得る。
【0034】
付着器10や、付着面12上の凹凸形状は、射出成形やブロー成形等の成形手法、金型や樹脂型を用いた成形手法、切削加工、3Dプリンタ等を用いて製造することができる。また、剥離層18は、浸漬(ディッピング)塗装、噴霧塗装、ヘラや刷毛、ブラシ等を用いた塗装等の塗装工程、接着剤や静電気を利用した接着工程等によって設けられる。
【0035】
本発明の付着器を用いたカキ養殖方法の実施態様を説明する。本発明のカキの養殖方法は、付着器10は、付着面12上にカキの幼稚体、すなわち稚貝を付着させ、海中又は水槽中でカキを育成する方法である。図8は、付着器10を、稚貝を付着させるために並べた状態を図示したものである。図1に示したように、付着器10の中央部は、付着器10を表面から裏面まで貫通する貫通孔20を有する。図8では、貫通孔20に紐22を挿通し、3枚の付着器10が鉛直方向に積層された状態を図示している。積層された付着器10の間には、貫通孔の径よりも大きな径を有するスペーサ24が設けられ、付着器10の付着面12が、別の付着器10に接触することを防ぐ。積層した付着器10を、採苗連と呼称する。
【0036】
採苗連は、カキの幼生が豊富に存在する海域、又は、カキの幼生を人工的に育成した水槽内に設置し、カキの幼生を付着面12に付着させる。この工程は採苗と呼ばれる。稚貝が付着した付着器は、収穫時のカキの殻高よりも長いスペーサ24に替えて、積層させる。また、ロープの撚り隙間に付着器を挟み込むことで積層させてもよい。これを垂下連と呼称し、海中又は水槽中に垂下連を垂下して養殖を行う。通常の養殖期間は1~2年であるが、垂下連を海水から揚げて空気にさらす処理を1回又は複数回行ってもよい。この工程は抑制と呼ばれる。
【0037】
カキが収穫サイズに成長すると、垂下連を海水から揚げて収穫を行う。付着器10が可塑性を有する場合には、付着器10を捻ることで、カキの左殻と付着器10との接着が外れる。付着器10が剥離部18を備える場合には、カキと共に付着面12から剥離部18が剥離する。その結果、標章が反転した凹凸形状が左殻に転写されたカキを収穫することができる。付着器10が可塑性を有しない場合には、ヘラ等の物理的な方法で、付着器10からカキを剥がすことで収穫される。
【実施例0038】
実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【0039】
本発明の付着器の実施例を製造した。実施例1は、ABS樹脂を直径12cm程度、厚み2mm程度の円板になるように3Dプリンタで出力したものであり、付着面上にアルファベット「HRO」を左右反転した高さ0.6mmの凸部を連続的に備えたものである。実施例1の外観の写真を図9(A)に示す。
【0040】
実施例2は、PLA樹脂を直径12cm程度、厚み2mm程度の円板となるよう3Dプリンタで出力したものであり、付着面上にアルファベット「HRO」を左右反転した深さ0.3mmの凹部を連続的に備えたものである。実施例2の外観の写真を図9(B)に示す。
【0041】
イワガキの浮遊幼生を育成した水槽に、実施例1及び2の付着器からなる採苗連を垂下し、付着器1枚当たり概ね20個体の稚貝(殻長約0.3mm)が付着したことを確認した。その後、水槽内で殻長1mm以上になるまで育成した後で、採苗連を垂下連に組み換え、北海道奥尻地区のカキ養殖場にて垂下養殖を行い、その後約12ヶ月でカキを収穫した。
【0042】
収穫されたイワガキの左殻の写真を図10に示す。図中、(A)は実施例1を用いて養殖されたイワガキであり、(B)は実施例2を用いて養殖されたイワガキである。収穫されたイワガキの左殻上には、実施例1及び2の付着面の凹凸形状が転写され、アルファベット「HRO」からなる標章が明瞭に形成されたことを確認した。
【0043】
さらに、別の実施例を製造した。実施例3は、長辺15cm、短辺10cm、厚さ2mm程度のPLA樹脂の方板の付着面上に、アルファベット「HRO」を左右反転した深さ約0.5mmの凹部を連続的に備えたものである。さらに、その付着面に、厚さ約1mmとなるように黄色のセメントを塗布した。黄色のセメントからなる剥離部は凹部を埋設しつつ、付着面全面が略平坦状になるように層状に設けられた。
【0044】
実施例4は、長辺15cm、短辺10cm、厚さ2mm程度のPLA樹脂の方板の付着面上に、アルファベット「HRO」を左右反転した深さ約0.5mmの凸部を連続的に備えたものである。さらに、その付着面に、厚さ約1mmとなるように赤色のセメントを塗布した。赤色のセメントからなる剥離部は、凸部に沿って層状に設けられた。実施例3、及び実施例4の付着器の外観写真を図11に示す。
【0045】
イワガキの浮遊幼生を育成した水槽に、実施例1~4の付着器からなる採苗連を垂下し、付着器1枚当たり概ね20個体の稚貝(殻長約0.3mm)が付着したことを確認した。その後、水槽内で殻長1mm以上になるまで育成した後で、採苗連を垂下連に組み換え、北海道奥尻地区のカキ養殖場にて垂下養殖を行い、その後約4ヶ月でカキを収穫した。
【0046】
収穫されたイワガキの写真を図12及び図13に示す。図12は、実施例3を用いて養殖されたイワガキであり、図中(A)は右殻の外観、(B)は左殻の外観の写真である。また、図13は、実施例4を用いて養殖されたイワガキであり、図中(A)は右殻の外観、(B)は左殻の外観の写真である。いずれも、収穫されたイワガキの左殻上には、実施例3及び実施例4の剥離部が付着し、アルファベット「HRO」からなる標章が明瞭に形成されたことを確認した。
【符号の説明】
【0047】
10 付着器
12 付着面
14 凸部
16 凹部
18 剥離部
20 貫通孔
22 紐
24 スペーサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13