(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147436
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】木材連結金物、およびその木材連結金物を使用した木造建物
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20231005BHJP
E04B 1/24 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
E04B1/58 G
E04B1/24 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054925
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】522127140
【氏名又は名称】株式会社長谷川大輔構造計画
(71)【出願人】
【識別番号】315007581
【氏名又は名称】BXカネシン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121496
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 重雄
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】篠田 将
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA03
2E125AA13
2E125AA33
2E125AB12
2E125AC23
2E125AG12
2E125AG13
2E125AG23
2E125BA26
2E125BE07
2E125BF05
2E125CA79
(57)【要約】
【課題】木材の割裂を防止する作業の作業時間を短縮化する。
【解決手段】第2連結金物12には、斜材5を貫通した複数の木材固定ピン14をそれぞれ通す複数の木材固定ピン通し孔12a1~12a9と、斜材5および第1連結金物11に通された金物同士連結ピン13が通る金物同士連結ピン通し孔12bとが設けられると共に、木材固定ピン通し孔12a1~12a9と金物同士連結ピン通し孔12bとの間には、金物同士連結ピン通し孔12bの中心から斜材5の長手方向に延ばした直線を中心として両側それぞれの方向に当該直線から金物同士連結ピン13の直径R1または金物同士連結ピン通し孔12bの内径r3の1.5倍以上の長さL1だけ離れた位置で、かつ、最外側の木材固定ピン通し孔12a1,12a9よりも内側に斜材5を貫通する割裂防止ピン15を通す割裂防止ピン通し孔12c,12cを設ける。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の木材に複数の線状結合具により固定される第1連結金物と、他方の木材に複数の線状結合具により固定される第2連結金物とを金物同士連結ピンによって連結する木材連結金物において、
前記第2連結金物における前記複数の線状結合具がそれぞれ通される複数の線状結合具通し位置と前記金物同士連結ピンが通される金物同士連結ピン通し孔との間には、当該金物同士連結ピン通し孔の中心から他方の木材の長手方向に延ばした直線を中心として両側それぞれの方向に当該直線から前記金物同士連結ピンの直径または前記金物同士連結ピン通し孔の内径よりも1.5倍以上の長さ離れた位置に、他方の木材を貫通する割裂防止ピンをそれぞれ通す割裂防止ピン通し孔が設けられていることを特徴とする木材連結金物。
【請求項2】
請求項1記載の木材連結金物において、
前記割裂防止ピン通し孔は、前記複数の線状結合具通し位置の内、最外側の線状結合具通し位置よりも内側に設けられていることを特徴とする木材連結金物。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の木材連結金物において、
前記第2連結金物における前記線状結合具通し位置と前記割裂防止ピン通し孔との間の間隔は、前記線状結合具の直径の5倍以上離れていることを特徴とする木材連結金物。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか一の請求項に記載の木材連結金物を使用した木造建物であって、
前記第2連結金物における前記金物同士連結ピン通し孔と前記割裂防止ピン通し孔との間の他方の木材の長手方向の間隔は、前記線状結合具通し位置と前記割裂防止ピン通し孔との間の他方の木材の長手方向の間隔以上であることを特徴とする木材連結金物。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか一の請求項に記載の木材連結金物を使用した木造建物であって、
前記一方の木材は、横架材と柱材であり、その横架材と柱材との接合部に前記第1連結金物が固定されている一方、
前記他方の木材は、前記横架材と柱材との接合部に連結される斜材であり、その斜材の端部に前記第2連結金物が前記線状結合具で固定される一方、その斜材と前記第2連結金物の前記割裂防止ピン通し孔に前記割裂防止ピンが通され、
前記第1連結金物と前記第2連結金物とが前記金物同士連結ピンによって連結されていることを特徴とする木造建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材の割裂を防止する木材連結金物、およびその木材連結金物を使用した木造建物に関する。
【背景技術】
【0002】
木造建物の木材接合部では、木材接合部を構成する一方の木材に形成したほぞ穴に他方の木材の端面に設けたほぞを挿入すると共に、一方及び他方の木材の連続する両側面にプレート状補強金具を釘や木ねじなどの線状結合具を打ち込んで接合することが行われている。このような木造建物の木材接合部の構造においては、線状結合具が打ち込まれた木材に生じる割裂を防止するため、一方の木材の木材繊維方向と交叉する方向であって線状結合具と直交する方向に、木材の割裂を防止する割裂防止用ねじ具(特許文献2では、補強軸と称している。)を複数ねじ込む発明が提案されている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4546492号公報
【特許文献2】特許第4948934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の特許文献1,2に開示された木材連結金物では、木材の割裂を防止するために、木材接合金物であるプレート状補強金具を木材に固定する釘や木ねじ等の線状結合具とは別に割裂防止用ねじ具(特許文献1)または螺旋凸条を備えた補強軸(特許文献2)をねじ込む作業が必要であるため、作業時間が増大するという問題があった。
【0005】
また、上述の特許文献1,2に記載された割裂防止用ねじ具(特許文献1)または螺旋凸条を備えた補強軸(特許文献2)はいずれも木ねじを示唆していると考えられるが、例えば釘や木ねじ等の線状結合具は径が一般的に細いため、耐力の向上を目的としてねじ込む場合、想定される負担荷重によっては十数本以上必要になる場合があるため、この点からも作業時間が増大する問題もあった。
【0006】
また、上述の特許文献1,2に記載された割裂防止用ねじ具(特許文献1)または補強軸(特許文献2)はいずれも線状結合具と直交する方向にねじ込む必要があり、線状結合具と施工方向が異なるため、施工手順を誤ると後からの施工が困難になるおそれがある等、施工性の点で問題もあった。
【0007】
そこで、本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、木材の割裂を防止する作業の作業時間を短縮化することができると共に、施工性を向上することができる木材連結金物およびその木材連結金物を使用した木造建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するため、本発明に係る木材連結金物は、一方の木材に複数の線状結合具により固定される第1連結金物と、他方の木材に複数の線状結合具により固定される第2連結金物とを金物同士連結ピンによって連結する木材連結金物において、前記第2連結金物における前記複数の線状結合具がそれぞれ通される複数の線状結合具通し位置と前記金物同士連結ピンが通される金物同士連結ピン通し孔との間には、当該金物同士連結ピン通し孔の中心から他方の木材の長手方向に延ばした直線を中心として両側それぞれの方向に当該直線から前記金物同士連結ピンの直径または前記金物同士連結ピン通し孔の内径よりも1.5倍以上の長さ離れた位置に、他方の木材を貫通する割裂防止ピンをそれぞれ通す割裂防止ピン通し孔が設けられていることを特徴とする。
また、本発明に係る木材連結金物では、前記割裂防止ピン通し孔は、前記複数の線状結合具通し位置の内、最外側の線状結合具通し位置よりも内側に設けられていることも特徴とする。
また、本発明に係る木材連結金物では、前記第2連結金物における前記線状結合具通し位置と前記割裂防止ピン通し孔との間の間隔は、前記線状結合具の直径の5倍以上離れていることも特徴とする。
また、本発明に係る木材連結金物では、前記第2連結金物における前記金物同士連結ピン通し孔と前記割裂防止ピン通し孔との間の他方の木材の長手方向の間隔は、前記線状結合具通し位置と前記割裂防止ピン通し孔との間の他方の木材の長手方向の間隔以上であることも特徴とする。
また、本発明に係る木造建物は、上述のいずれかの木材連結金物を使用した木造建物であって、前記一方の木材は、横架材と柱材であり、その横架材と柱材との接合部に前記第1連結金物が固定されている一方、前記他方の木材は、前記横架材と柱材との接合部に連結される斜材であり、その斜材の端部に前記第2連結金物が前記線状結合具で固定される一方、その斜材と前記第2連結金物の前記割裂防止ピン通し孔に前記割裂防止ピンが通され、前記第1連結金物と前記第2連結金物とが前記金物同士連結ピンによって連結されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る木材連結金物では、他方の木材に取付ける第2連結金物における線状結合具通し位置と金物同士連結ピン通し孔との間には、金物同士連結ピン通し孔の中心から他方の木材の長手方向に延ばした直線の両側それぞれに、当該直線から前記金物同士連結ピンの直径または前記金物同士連結ピン通し孔の内径よりも1.5倍以上の長さ離れた位置に当該他方の木材を貫通する割裂防止ピンをそれぞれ通す割裂防止ピン通し孔を設けている。
そのため、地震等によって木材連結金物で連結していた一方の木材と他方の木材とが離れ、木材連結金物を構成する第1連結金物および第2連結金物に対し引張力が作用した際、第2連結金物では、第2連結金物の割裂防止ピン通し孔に挿入した割裂防止ピン同士が互いに近付くように引寄せる引寄せ効果を発揮することによって、金物同士連結ピン通し孔と線状結合具通し位置との間の部分で第2連結金物が固定されている他方の木材の割裂を防止するように作用するので、割裂防止用ねじ具をねじ込む作業を行わなくても木材の割裂を防止することが可能となり、作業時間を減少させることができる。
また、第2金物に打ち込む金物同士連結ピンや線状結合具、割裂防止ピンは、いずれも同じ方向に施工するため、施工手順を誤った場合でも後から容易に施工することが可能であり、施工性も向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る実施形態の木材連結金物の使用状態を示す正面図である。
【
図2】
図1におけるA部分の要部拡大正面図である。
【
図3】本発明に係る実施形態の木材連結金物を構成する第1連結金物と第2連結金物と金物同士連結ピンと割裂防止ピンと、木材固定ピンや梁受金物、ボルト等との組付けや連結、配置等を示す斜視図である。
【
図4】本発明に係る実施形態の木材連結金物を構成する第1連結金物と第2連結金物とを金物同士連結ピンで連結した状態であって割裂防止ピンや木材固定ピン等の他の部材を省略した状態を示す斜視図である。
【
図5】本発明に係る実施形態の木材連結金物を構成する第1連結金物の斜視図である。
【
図6】(a)~(d)それぞれ、本発明に係る実施形態の木材連結金物を構成する第1連結金物の平面図、正面図、底面図、左側面図である。
【
図7】本発明に係る実施形態の木材連結金物を構成する第2連結金物の斜視図である。
【
図8】(a)~(d)それぞれ、本発明に係る実施形態の木材連結金物を構成する第2連結金物の平面図、正面図、底面図、左側面図である。
【
図9】斜材に設けたスリットに本発明に係る実施形態の木材連結金物を構成する第2連結金物を挿入した状態を示す図であって、斜材における割裂が発生し易い箇所と、各ピン通し孔の位置関係等を示す説明図である。
【
図10】本発明に係る実施形態の木材連結金物を構成する第2連結金物が引張られた際に第2連結金物に作用する割裂防止ピン通し孔の中心から斜材の長手方向に延ばした直線の方向へ向かう圧縮力と、その圧縮力によって割裂防止ピンに作用する抵抗力の方向等を示す説明図である。
【
図11】梁材と柱材の接合部と斜材との間に割裂防止ピンを挿入しない比較例を使用した場合において外力が作用して斜材に割裂が発生した状態を示す説明図である。
【
図12】梁材と柱材の接合部と斜材との間に本発明に係る実施形態の木材連結金物において外力が作用して斜材の割裂を抑制している状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態の木材連結金物1を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、下記に説明する実施形態はその寸法等も含めあくまで本発明の一例であり、本発明は下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で適宜変更可能である。
【0012】
<実施形態の木材連結金物1の構成>
図1は、本発明に係る実施形態の木材連結金物1の使用状態を示す正面図、
図2は、
図1におけるA部分である梁材3と柱材4と斜材5の接合部における本実施形態の木材連結金物1の使用状態を示す要部拡大正面図である。尚、
図1では、実施形態の木材連結金物1を構成する第1連結金物11および第2連結金物12は、梁材3や柱材4、斜材5等のスリットに埋設されて正面から見えないため破線で示すが、
図2では、説明の便宜上、梁材3や柱材4、斜材5等を破線で示し、実施形態の木材連結金物1を構成する第1連結金物11および第2連結金物12や、金物同士連結ピン13、線状結合具である木材固定ピン14、割裂防止ピン15、割裂防止用ねじ具16、梁受金物17,18等は実線で示す。
【0013】
実施形態の木材連結金物1は、
図1および
図2に示すように一方の木材に複数の木材固定ピン14で固定される第1連結金物11と、他方の木材に複数の木材固定ピン14で固定される第2連結金物12とを金物同士連結ピン13によって連結してピン接合する金物である。ここで、一方の木材は、土台2または梁材3の横架材と柱材4であり、その横架材と柱材4との隅部に第1連結金物11を固定する、また他方の木材は、横架材と柱材4との隅部に連結される筋交い等の斜材5であり、その斜材5の両端部にそれぞれ第2連結金物12を木材固定ピン14で固定する。尚、本実施形態では、
図2に示すように上述した従来の特許文献1,2の発明と同様に割裂防止用ねじ具16を斜材5における金物同士連結ピン13に近接してねじ込み、実施形態の木材連結金物1による斜材5の割裂防止機能にプラスして、さらに割裂防止用ねじ具16によっても斜材5の割裂を防止するようにしている。
【0014】
図3は、本発明に係る実施形態の木材連結金物1を構成する第1連結金物11と第2連結金物12と金物同士連結ピン13と割裂防止ピン15と、木材固定ピン14や梁受金物17,18、ボルト19a等との組付けや連結、配置等を示し、
図4は、実施形態の木材連結金物1を構成する第1連結金物11と第2連結金物12とを金物同士連結ピン13で連結した状態であって割裂防止ピン15や木材固定ピン14等の他の部材を省略した状態を示している。
【0015】
上述したように実施形態の木材連結金物1を構成する第1連結金物11および第2連結金物12は、土台2および梁材3の横架材や柱材4、斜材5に形成したスリットに挿入して木材固定ピン14で対応する木材に固定する板状の金物で、本実施形態では、
図3および
図4に示すように2枚ずつ一対で使用する。一対の第1連結金物11,11は、
図3に示すように梁受金物17,18および木材固定ピン14等を使用して土台2および梁材3の横架材や柱材4に固定する一方、一対の第2連結金物12,12は一対の第1連結金物11,11それぞれの外側から一対の第1連結金物11,11を挟むように間隔を空けた上で斜材5に9本の木材固定ピン14で固定する。
【0016】
そのため、土台2および梁材3の横架材や柱材4、斜材5には、本実施形態の木材連結金物1を構成する第1連結金物11および第2連結金物12や金物同士連結ピン13、木材固定ピン14、割裂防止ピン15、梁受金物17,18、ボルト19aやナット19b(
図2参照。)等それぞれが所定の位置に配置されるようにスリットや溝、通し孔等を形成している。
【0017】
(第1連結金物11)
図5は、本発明に係る実施形態の木材連結金物1を構成する第1連結金物11の斜視図、
図6(a)~(d)は、それぞれ、その第1連結金物11の平面図、正面図、底面図、左側面図である。
【0018】
第1連結金物11は、一方の木材である土台2または梁材3の横架材と柱材4との隅部に複数の木材固定ピン14で固定される板状の金物で、
図5および
図6等に示す形状の鋼板で構成されており、
図2等に示すように梁材3に固定する木材固定ピン14が通る2個の木材固定ピン通し孔11aと、柱材4に固定する木材固定ピン14が通る4個の木材固定ピン通し孔11bが設けられている一方、第2連結金物12と金物同士連結ピン13でピン接合するための金物同士連結ピン通し孔11cが設けられて構成されている。
【0019】
本実施形態では、
図2に示すように金物同士連結ピン13の直径R1は、木材固定ピン14の直径R2よりも大きい大径のピンを使用しているため、金物同士連結ピン通し孔11cのr1(
図6参照。)は木材固定ピン通し孔11a,11bの内径r2(
図6参照。)よりも大きくなる。金物同士連結ピン13や木材固定ピン14は、それぞれ、金物同士連結ピン通し孔11cおよび木材固定ピン通し孔11a,11bにほぼ隙間なく挿入されるため、それぞれ、R1=r1、R2=r2であるか、金物同士連結ピン13および木材固定ピン14が通り易くなるように金物同士連結ピン通し孔11cおよび木材固定ピン通し孔11a,11bの内径r1,r2を金物同士連結ピン13の直径R1および木材固定ピン14の直径R2よりもわずか大きくしている。
【0020】
ここで第1連結金物11は、
図2等に示すように梁材3内に埋設した梁受金物17とドリフトピン等の木材固定ピン14で梁材3に設けたスリットに固定される一方、柱材4内に埋設した梁受金物18と木材固定ピン14で柱材4に設けたスリットに固定される。
【0021】
(第2連結金物12)
図7は、本発明に係る実施形態の木材連結金物1を構成する第2連結金物12の斜視図、
図8(a)~(d)は、それぞれ、その第2連結金物12の平面図、正面図、底面図、左側面図である。
【0022】
第2連結金物12は、第1連結金物11と同様に所定の厚さを有する鋼板を
図8(b)に示すような先細形状にカットして、幅が広い下部には他方の木材である斜材5を貫通する線状結合具である複数の木材固定ピン14をそれぞれ通す例えば9個の木材固定ピン通し孔12a1~12a9を設ける一方、幅が狭い上部には第1連結金物11を貫通した金物同士連結ピン13を通す金物同士連結ピン通し孔12bを設け、木材固定ピン通し孔12a1~12a9と金物同士連結ピン通し孔12bとの間に斜材5を貫通した割裂防止ピン15をそれぞれ通す一対の割裂防止ピン通し孔12c,12cとを設けている。
【0023】
9個の木材固定ピン通し孔12a1~12a9は、
図7や
図8(b)等に示すように一定間隔を空けて上下2段にジグザグに配置されており、上段は5つの木材固定ピン通し孔12a1,12a3,12a5,12a7,12a9、下段は4個の木材固定ピン通し孔12a2,12a4,12a6,12a8で構成されている。尚、本実施形態では、第2連結金物12を斜材5に固定する線状結合具として複数の木材固定ピン14を使用するため、複数の木材固定ピン14それぞれが線状結合具通し位置となる。
【0024】
ここで、本実施形態では、木材固定ピン通し孔12a1~12a9に通す木材固定ピン14は、第1連結金物11を梁材3や土台2、柱材4に固定する木材固定ピン14と同じ物を使用するため、木材固定ピン通し孔12a1~12a9の内径r4(
図8参照。)は、第1連結金物11の木材固定ピン通し孔11a,11bの内径r2(
図6参照。)と同じとする。また、金物同士連結ピン通し孔12bのr3(
図8参照。)は、同じ金物同士連結ピン13が通る第1連結金物11の金物同士連結ピン通し孔11cのr1(
図6参照。)と同じとする。
【0025】
一対の割裂防止ピン通し孔12c,12cは、金物同士連結ピン通し孔12bと9個の木材固定ピン通し孔12a1~12a9との間のスペースであって金物同士連結ピン通し孔12bの中心から斜材5の長手方向に延ばした直線CLを中心として左右両側それぞれの方向に金物同士連結ピン通し孔12bの内径r3よりも1.5倍以上の長さL1だけ離れた位置で、かつ、複数の木材固定ピン通し孔12a1~12a9の内、最外側の木材固定ピン通し孔12a1,12a9よりも内側に、斜材5を貫通した割裂防止ピン15をそれぞれ通す一対の割裂防止ピン通し孔12c,12cを設けている。尚、斜材5の長手方向は、一般的には斜材5の木目方向と平行になるが、実際には多少木目方向が変化する場合もあるため、木目方向に対し多少傾斜する場合がある。
【0026】
ここで、一対の割裂防止ピン通し孔12c,12cを金物同士連結ピン通し孔12bと木材固定ピン通し孔12a1~12a9との間に設けることにした理由は、後述するように梁材3と柱材4の隅部が梁材から離れるような大きな外力が作用した場合、金物同士連結ピン13を通している第1連結金物11の金物同士連結ピン通し孔11c周縁や第2連結金物12の金物同士連結ピン通し孔12b周縁が塑性変形して、斜材5および第2連結金物12が第1連結金物11や金物同士連結ピン13等から離れ、後述する
図11等に示すように斜材5における金物同士連結ピン13と木材固定ピン14との間において斜材5の割裂が発生し易いため、その割裂が発生し難くなるよう割裂が発生し易い領域に対し外側から割裂防止ピン通し孔12c,12cそれぞれの中心から斜材5の長手方向に延ばした直線CLの方向へ向かう圧縮力を加えてその割裂を防止するためである。
【0027】
また、一対の割裂防止ピン通し孔12c,12cを金物同士連結ピン通し孔12bの中心から斜材5の長手方向に延ばした直線CLを中心として左右両側それぞれの方向に当該直線CLから金物同士連結ピン13の直径R1または金物同士連結ピン通し孔12bの内径r3よりも1.5倍以上の長さL1だけ離れた位置に設けることにした理由は、第2連結金物12が取り付けられた斜材5において割裂が発生し易い箇所は、
図9に示すように金物同士連結ピン13が通る斜材側金物同士連結ピン通し孔5bに連続する斜材側金物同士連結ピン通し孔5bから斜材5の長手方向に延ばした幅が金物同士連結ピン13の直径R1または金物同士連結ピン通し孔12bの内径r3の領域(
図9において、左下がりおよび右下がりの破線の斜線が重なった領域)αであるが、実験の結果では領域αの外側でも割裂が発生しており、実験の結果および木目方向の変化や木目方向と長手方向のズレ等を考慮した安全性を見込むと、金物同士連結ピン13の直径R1(
図2参照。)または金物同士連結ピン通し孔12bの内径r3(
図8参照。)の3倍である3×R1(または3×r3)の幅、つまり斜材側金物同士連結ピン通し孔5bの中心から左右方向に1.5×R1(または1.5×r3)だけ離れた領域(
図9において、左下がりの破線の斜線が重なった領域)βで割裂が発生し易い箇所とみなせばほぼ十分と考えられるからである。
【0028】
さらに、第2連結金物12において一対の割裂防止ピン通し孔12c,12cを複数の木材固定ピン通し孔12a1~12a9の内、最外側の木材固定ピン通し孔12a1,12a9よりも内側に設けることにした理由は、
図1や
図2等に示すように第1連結金物11は梁材3や土台2と柱材4とが接合する隅部に設けられ、その第1連結金物11に対し金物同士連結ピン13を介し連結される第2連結金物12は斜材5の端部に設けられ、その斜材5の端部の形状は、隅部に隙間無く接合するよう三角形にカットされ、その斜材5の端部に設ける第2連結金物12も
図7や
図8(b)等に示すように金物同士連結ピン通し孔12bを設けた側の幅が木材固定ピン通し孔12a1~12a9を設けた側の幅より狭い形状に形成されるからである。
【0029】
また、金物同士連結ピン通し孔12bに通した金物同士連結ピン13と木材固定ピン通し孔12a1~12a9に通した木材固定ピン14が引っ張られて、
図10に示すように第2連結金物12に対し
図10上、上下方向となる矢印B,B’方向に働く引張力が作用した場合には、その引張力によって金物同士連結ピン通し孔12bと木材固定ピン通し孔12a1~12a9との間には、内部応力として
図10上、左右方向で割裂防止ピン通し孔12c,12cそれぞれの中心から斜材5の長手方向に延ばした直線CLに向かう矢印C,C’方向の圧縮力が作用し、その圧縮力は金物同士連結ピン通し孔12bと最外側の木材固定ピン通し孔12a1,12a9とを結ぶ直線TL1,TL9に近い程、強くなるため、直線TL1,TL9に近接する箇所にそれぞれ割裂防止ピン通し孔12c,12cを設け、割裂防止ピン通し孔12c,12cそれぞれに挿入した割裂防止ピン15が矢印C,C’方向に向かう力を斜材5の割裂防止の外力として利用するためである。尚、ここでは、割裂防止ピン通し孔12c,12cを金物同士連結ピン通し孔12bと最外側の木材固定ピン通し孔12a1,12a9とを結ぶ直線TL1,TL9の外側に設けているが、最外側の木材固定ピン通し孔12a1,12a9よりも内側であれば、その直線TL1,TL9の内側でも良いし(ただし、領域βの外側)、直線TL1,TL9上に設けても良い。
【0030】
また、割裂防止ピン通し孔12c,12cと第2連結金物12における上段の木材固定ピン通し孔12a1,12a3,12a5,12a7,12a9との間の斜材5の長手方向の間隔L2は、木材固定ピン12の直径R2の5倍以上離し、L2≧5×R2の関係としている。
【0031】
これは、割裂防止ピン通し孔12c,12cと第2連結金物12における上段の木材固定ピン通し孔12a1,12a3,12a5,12a7,12a9との間隔L2が小さい場合には、割裂防止ピン通し孔12c,12cに挿入した割裂防止ピン15が割裂防止機能よりも木材固定ピン通し孔12a1~12a9に通した木材固定ピン14と同じ木材固定機能を発揮することになるからである。
【0032】
ただし、第2連結金物12における金物同士連結ピン通し孔12bと割裂防止ピン通し孔12c,12cとの間の斜材5の長手方向の間隔L3は、木材固定ピン通し孔12a1~12a9と割裂防止ピン通し孔12c,12cとの間の斜材5の長手方向の間隔L2以上、つまりL3≧L2としている。尚、実験では、L3はL2の1.0~1.4倍程度において試験を行っており、斜材5の割裂防止効果を確認している。
【0033】
尚、本実施形態では、後述するように割裂防止ピン15は木材固定ピン14と同じ直径R2のドリフトピンを使用しているため、割裂防止ピン通し孔12c,12cの内径r5(
図8参照。)は、木材固定ピン通し孔12a1~12a9の内径r4および第1連結金物11の木材固定ピン通し孔11a,11bの内径r2(
図6参照。)と同じにしている。
【0034】
(金物同士連結ピン13)
金物同士連結ピン13は、本実施形態では、
図2に示すように木材固定ピン14の直径R2および割裂防止ピン15の直径R3よりも大径である直径がR1が例えば30mm以上のドリフトピンを使用している。ただし、木材固定ピン14の直径R2や割裂防止ピン15の直径R3と同じ直径のドリフトピンを使用しても勿論良い。
【0035】
(木材固定ピン14)
木材固定ピン14は、金物同士連結ピン13の直径よりも小さい直径R2(
図2参照。)の10mm強のドリフトピンを使用しており、本実施形態では割裂防止ピン15と同じ直径R3のドリフトピンを使用しているが、割裂防止ピン15の直径R3と異なるピンを使用しても勿論良い。
【0036】
(割裂防止ピン15)
割裂防止ピン15は、第2連結金物12の金物同士連結ピン通し孔12bと木材固定ピン通し孔12a1~12a9との間に設けた割裂防止ピン通し孔12c,12cそれぞれに通すことによって斜材5の割裂を防止するピンで、
図9に示すように主に斜材5における斜材側金物同士連結ピン通し孔5bの下側である斜材側木材固定ピン通し孔5a1~5a9側における斜材5の割裂を防止する機能を有する部材である。
【0037】
割裂防止ピン15は、金物同士連結ピン13の直径R1よりも小さい直径R3が10mm強のドリフトピンを使用しており、本実施形態では木材固定ピン14と同じ直径R2のドリフトピンを使用しているが、木材固定ピン14の直径R2と異なるドリフトピンを使用しても勿論良い。
【0038】
(割裂防止用ねじ具16)
割裂防止用ねじ具16は、
図2等に示すように金物同士連結ピン13よりも上側である梁材3と柱材4との隅部側における斜材5に対しそのネジ山によってねじ込むネジ部材で、斜材5における斜材側金物同士連結ピン通し孔5bの下側である斜材側木材固定ピン通し孔5a1~5a9側における斜材5の割裂を主に防止する機能を有する2本の割裂防止ピン15とは異なり、主に斜材5における斜材側金物同士連結ピン通し孔5b(
図9参照。)の上側における斜材5の割裂を防止するねじ部材である。尚、割裂防止用ねじ具16は、本発明では、省略しても良い。
【0039】
(梁材3)
梁材3は、
図1や
図2に示すように実施形態の木材連結金物1を構成する一対の第1連結金物11,11の水平部分が固定される木材であって、梁材3には一対の第1連結金物11,11を梁材3に固定する梁受金物17を埋設するためのスリット等が形成されており、梁材3における梁受金物17の固定は複数本(ここでは、例えば、3本としている。)のボルト19aを梁受金物17の背板に通してナット19bによって締結することにより行われる。尚、梁受金物17と一対の第1連結金物11,11との固定は、梁材3にボルト19aとは直交する方向に通され、梁受金物17の両側面および一対の第1連結金物11,11それぞれの2箇所の木材固定ピン通し孔11a(
図5参照。)を貫通する2本の木材固定ピン14によって行われる。
【0040】
(柱材4)
柱材4は、
図1や
図2に示すように実施形態の木材連結金物1を構成する一対の第1連結金物11,11の鉛直部分が固定される木材であって、一対の第1連結金物11,11を柱材4に固定する梁受金物18を埋設するためのスリット等が形成されており、柱材4における梁受金物18の固定は複数本(ここでは、例えば、4本としている。)のボルト19aを梁受金物18の背板に通してナット19b(
図2参照。)によって締結することにより行われる。尚、梁受金物18と一対の第1連結金物11,11との固定は、柱材4にボルト19aとは直交する方向に通され、梁受金物18の両側面および一対の第1連結金物11,11それぞれの4箇所の木材固定ピン通し孔11b(
図5参照。)を貫通する4本の木材固定ピン14によって行われる。
【0041】
(斜材5)
斜材5は、
図1や
図2に示すように実施形態の木材連結金物1を構成する一対の第2連結金物12,12が固定される木材であって、第1連結金物11,11の場合とは異なり、梁受金物17,18を使用せずに斜材5に設けたスリットに一対の第2連結金物12,12を直接挿入して9本の木材固定ピン14によって固定すると共に、9本の木材固定ピン14以外に金物同士連結ピン13および一対の割裂防止ピン15,15も通す。
【0042】
そのため、斜材5には、
図9に示すように9本の木材固定ピン14をそれぞれ通す斜材側木材固定ピン通し孔5a1~5a9が設けられていると共に、金物同士連結ピン13を通す斜材側金物同士連結ピン通し孔5bと、一対の割裂防止ピン15,15も通す斜材側割裂防止ピン通し孔5c,5cを設けている。尚、
図9は、斜材5に設けたスリット(図示せず。)に第2連結金物12を挿入した状態で、金物同士連結ピン13や木材固定ピン14、割裂防止ピン15を通す前の状態を示している。
【0043】
<実施形態の木材連結金物1の作用>
次に、以上のように構成された実施形態の木材連結金物1の作用について、割裂防止ピン通し孔12c,12cを省略した比較例の作用と比較して説明する。
【0044】
(割裂防止ピン通し孔12c,12cを省略した比較例の場合)
図11は、梁材3と柱材4の隅部と斜材5との接合に割裂防止ピンが無い比較例、すなわち割裂防止ピン通し孔12c,12cを省略した比較例を使用した場合において外力が作用して斜材5に割裂が発生した状態を示す説明図である。
【0045】
割裂防止ピン15を省略した比較例では、
図11に示すように梁材3と柱材4の隅部が梁材から
図11上、右斜上の矢印D方向に離れるような大きな外力が作用した場合、梁材3と柱材4に固定された第1連結金物11も図上、右斜上の矢印D方向に引っ張られる。すると、第1連結金物11と金物同士連結ピン13を介して連結された第2連結金物12も
図11上、右斜上の矢印D方向に引っ張られ、第2連結金物12が固定された斜材5に引張力が作用する。
【0046】
ここで、第2連結金物12は、斜材5に対し9本の木材固定ピン14で固定されている一方、第1連結金物11に対しては1本の金物同士連結ピン13で連結されており、9本の木材固定ピン14の固定力が1本の金物同士連結ピン13より連結力が大きいため、斜材5の引張力が過大の場合、金物同士連結ピン13を通している第1連結金物11の金物同士連結ピン通し孔11c周縁や第2連結金物12の金物同士連結ピン通し孔12b周縁が塑性変形して、斜材5および第2連結金物12が第1連結金物11および金物同士連結ピン13から離れようとする。
【0047】
すると、斜材5では、
図11に示すように金物同士連結ピン13を通している斜材側金物同士連結ピン通し孔5bが広がって斜材側金物同士連結ピン通し孔5bの上側である梁材3側と柱材4側とで割裂が発生し、斜材5の端部5dが斜材5から分離すると共に、斜材側金物同士連結ピン通し孔5bの下部側となる斜材側木材固定ピン通し孔5a1~5a9側でも斜材5の長手方向に対し直交する矢印E,E’方向に割裂する力が作用して、割裂5eが発生する。
【0048】
その際、斜材側金物同士連結ピン通し孔5bの下部側となる斜材側木材固定ピン通し孔5a1~5a9側での割裂5eは、上述したように金物同士連結ピン13が挿入された斜材5の斜材側金物同士連結ピン通し孔5bと9本の木材固定ピン14が通された斜材側木材固定ピン通し孔5a1~5a9の内、割裂が発生し易い領域β(
図9参照。)で発生し易く、
図11では、斜材側金物同士連結ピン通し孔5bから領域βにある斜材側木材固定ピン通し孔5a4に向かって斜材5の長手方向である繊維方向に割裂5eが発生している。
【0049】
これは、本実施形態の木材連結金物1の第2連結金物12が取り付けられた斜材5において割裂は、主に金物同士連結ピン13が通る斜材側金物同士連結ピン通し孔5bの周縁から斜材5の木目に沿って発生するため、斜材側金物同士連結ピン通し孔5b周縁から斜材5の長手方向に延ばした幅が金物同士連結ピン13の直径R1の領域αとなるが、実験の結果では領域αの外側でも割裂が発生しており、実験の結果および木目方向の変化や木目方向と長手方向のズレ等を考慮した安全性を見込むと斜材側金物同士連結ピン通し孔5bよりも後方側であって、金物同士連結ピン13の直径R1または金物同士連結ピン通し孔12bの内径r3の3倍である3×R1(または3×r3)の幅、つまり斜材側金物同士連結ピン通し孔5bの中心を通る直線CL(
図9参照。)から左右方向に1.5×R1(または1.5×r3)だけ離れた領域βで割裂が発生し易い箇所となるからである。尚、
図9の場合であれば、この領域βに斜材側木材固定ピン通し孔5a3,5a4,5a5,5a6,5a7が位置していて、斜材側金物同士連結ピン通し孔5bと斜材側木材固定ピン通し孔5a4との間で割裂5eが発生している。
【0050】
そのため、領域βに斜材側木材固定ピン通し孔5a1~5a9が存在しなければ斜材側金物同士連結ピン通し孔5bと連続する割裂は発生し難いことになるが、第2連結金物12と他方の木材である斜材5との固定(接合)強度を確保するためには、斜材側木材固定ピン通し孔5a1~5a9の数をある程度、確保する必要があり、領域βを避けて全ての斜材側木材固定ピン通し孔5a1~5a9を設けることは事実上困難で、斜材側木材固定ピン通し孔5a3~5a7のように領域β内に設けることが必要だからである。
【0051】
(割裂防止ピン通し孔12c,12cを有する本実施形態の場合)
図12は、梁材3と柱材4の隅部と斜材5との接合に実施形態の木材連結金物1を使用した場合において外力が作用して斜材5に割裂が発生した状態を示す説明図である。
【0052】
図12に示すように梁材3と柱材4の隅部と斜材5との接合部に実施形態の木材連結金物1を使用して梁材3と柱材4の隅部が梁材から図上、右斜上の矢印D方向に離れるような大きな外力が作用した場合、斜材5および第2連結金物12が第1連結金物11および金物同士連結ピン13から離れ、金物同士連結ピン13を通している斜材側金物同士連結ピン通し孔5bが広がって斜材側金物同士連結ピン通し孔5bの上側である梁材3側と柱材4側とで割裂が発生した場合、
図11の場合と同様に斜材5の端部5dが斜材5から分離すると共に、斜材側金物同士連結ピン通し孔5bの下部側となる斜材側木材固定ピン通し孔5a1~5a9側でも斜材5の長手方向に対し直交する矢印E,E’方向に割裂する力が作用する。
【0053】
しかし、本実施形態の木材連結金物1では、
図9等に示すように、斜材5に設けた第2連結金物12における9個の木材固定ピン通し孔12a1~12a9と金物同士連結ピン通し孔12bとの間には、金物同士連結ピン通し孔12bの中心から斜材5の長手方向に延ばした直線CLを中心として左右両側それぞれの方向に金物同士連結ピン通し孔12bの内径r3よりも1.5倍以上の長さL1だけ離れた幅が3×R1(または3×r3)の割裂が発生し易い領域βの外側に2本の割裂防止ピン15をそれぞれ通す一対の割裂防止ピン通し孔12c,12cを設けており、第2連結金物12におけるその間には第2連結金物12が斜材5の長手方向である矢印D方向に引っ張られることによって、上述したように斜材側割裂防止ピン通し孔5c,5c(
図9参照。)から斜材側金物同士連結ピン通し孔5bの方向へ引っ張られる力が発生し、その力の分解によって
図12に示すように割裂防止ピン通し孔12c,12cそれぞれの中心から斜材5の長手方向に対し直交する矢印F,F’方向の圧縮力が作用する。
【0054】
そのため、本実施形態の木材連結金物1では、割裂防止ピン通し孔12c,12cそれぞれに通した2本の割裂防止ピン15,15にも割裂防止ピン通し孔12c,12cそれぞれの中心から斜材5の長手方向に延ばした直線CLに向かう矢印F,F’方向の圧縮力が作用し、斜材5におけるその間にも2本の割裂防止ピン15,15が斜材側割裂防止ピン通し孔5c,5c(
図9参照。)を介して割裂が発生し易い領域βをその外側から挟むように押圧するので、斜材5の割裂の発生を低減することができる。
【0055】
尚、
図12では、割裂防止用ねじ具16を省略して図示していないが、
図2等に示すように斜材5において斜材側金物同士連結ピン通し孔5bの上側である梁材3と柱材4との隅部側に割裂防止用ねじ具16を通しているため、割裂防止用ねじ具16が斜材5の端部5dの割裂を防止する。つまり、本実施形態では、割裂防止用ねじ具16は斜材5における斜材側金物同士連結ピン通し孔5bの上側である梁材3と柱材4との隅部側における斜材5の割裂を主に防止する一方、2本の割裂防止ピン15は斜材側金物同士連結ピン通し孔5bの下側となる斜材側木材固定ピン通し孔5a1~5a9側における斜材5の割裂を主に防止することになる。
【0056】
<本発明に係る実施形態の木材連結金物1のまとめ>
本発明に係る実施形態の木材連結金物1では、第2連結金物12における木材固定ピン通し孔12a1~12a9と金物同士連結ピン通し孔12bとの間には、金物同士連結ピン通し孔12bの中心から斜材5の長手方向に延ばした直線CLを中心として左右両側それぞれの方向に、当該直線CLから金物同士連結ピン13の直径R1または金物同士連結ピン通し孔12bの内径r3の1.5倍以上の長さL1だけ離れた位置に、斜材5を貫通した割裂防止ピン15をそれぞれ通す割裂防止ピン通し孔12c,12cを設けている。
【0057】
その結果、本発明に係る実施形態の木材連結金物1では、従来の特許文献1,2で採用している割裂防止用ねじ具や補強軸をねじ込む作業を行わなくても斜材5における割裂の発生を防止することが可能となり、ねじ込む作業が不要になる分だけ作業時間を短縮化することができる。
【0058】
特に、本発明に係る実施形態の木材連結金物1では、斜材5が引っ張られたことによって第2連結金物12に引張力が作用すると、第2連結金物12における木材固定ピン通し孔12a1~12a9と金物同士連結ピン通し孔12bとの間において割裂防止ピン通し孔12c,12cそれぞれの中心から斜材5の長手方向に延ばした直線CLに向かう圧縮力が作用して、割裂防止ピン通し孔12c,12cそれぞれに挿入した割裂防止ピン15,15同士が互いに近付く引寄せ効果を発揮することによって斜材5において割裂が発生し易い領域β(
図9参照。)をその外側から挟んで割裂が発生しないように押圧するので、割裂が発生し易い領域βにおける割裂の発生を極力低減することができる。
【0059】
これにより、少ない本数の木材固定ピン14および割裂防止ピン15の線状結合具でも想定される負担荷重に対して効率的に荷重を負担できる。また、斜材5が引っ張られたことによって木材連結金物1に引張力が作用すると、初期の引張力をまず金物同士連結ピン13が負担し、続いて木材固定ピン14がその引張力を負担するため、強い引張力が斜材5にかかった際にも、斜材5の損傷を遅らせることができ、効率的かつ段階的な引張力を負担することが可能となるので、木造建物自体の強度も向上させることができる。
【0060】
また、径が一般的に細い釘や木ねじ等の線状結合具に比べ、木材固定ピン14や割裂防止ピン15等の径が太い線状結合具を使用することで、1本あたりの負担できる荷重が向上し、前者では想定される負担荷重によっては十数本以上必要になる場合があるが、後者では数本の使用で想定荷重を負担でき、線状結合具の削減をすることが可能となり、この点でも作業時間を減少させることができる。
【0061】
特に、従来の特許文献1,2の割裂防止用ねじ具または補強軸は、釘や木ねじ等の線状結合具とは直交する方向で、本実施形態の割裂防止用ねじ具16と同様に梁材3または土台2等の横架材や柱材4、斜材5で形成する壁面と平行、つまりその壁面の面内方向に複数本ねじ込む必要があるため、線状結合具とは施工方向が異なり、施工手順を誤ると後から施工できない場合があった。
【0062】
これに対し、本発明に係る実施形態の木材連結金物1では、斜材5の割裂を防止するため、梁材3および土台2等の横架材や柱材4、斜材5で形成する壁面の面内方向にねじ込むのではなく、梁材3および土台2等の横架材や柱材4、斜材5で形成する壁面と直交する壁面の面外方向に2本の割裂防止ピン15,15を差し込むことにより斜材5の割裂を防止すると共に、割裂防止ピン15,15を差し込む順番等の施工手順を誤った場合でも問題なく施工することができるので、斜材5の接合後の現場作業を容易化して、現場作業の負担を減少することができる等、施工性を向上させることができる。
【0063】
特に、本発明に係る実施形態の木材連結金物1では、上述した特許文献1,2の従来技術とは異なり、金物同士連結ピン13や木材固定ピン14、割裂防止ピン15はいずれも同じ方向に施工することになるため、施工手順が容易となり、施工性が向上するので、この点からも作業時間を減少させることができる。
【0064】
また、本発明に係る実施形態では、割裂防止ピン通し孔12c,12cは、金物同士連結ピン通し孔12bの中心から斜材5の長手方向に延ばした直線CLを中心として左右両側それぞれの方向に、当該直線CLから金物同士連結ピン13の直径R1または金物同士連結ピン通し孔12bの内径r3の1.5倍以上の長さL1だけ離れた位置であって、かつ、複数の木材固定ピン通し孔12a1~12a9の内、最外側の木材固定ピン通し孔12a1,12a9よりも内側に設けている。
【0065】
そのため、斜材5の端部を梁材3や土台2と柱材4とが接合する隅部に隙間無く接合するようその隅部に応じて三角形にカットし、斜材5の端部に取付ける第2連結金物12の形状も斜材5の端部の形状に応じて金物同士連結ピン通し孔12bを設けた側の幅が木材固定ピン通し孔12a1~12a9を設けた側の幅より狭い形状に形成した場合でも、斜材5の割裂防止機能を有する割裂防止ピン15,15を確実に設けることが可能となる。
【0066】
また、本発明に係る実施形態では、木材連結金物1の割裂防止ピン15,15だけでなく、従来の特許文献1,2と同様に割裂防止用ねじ具16を使用しているので、斜材5における割裂の発生をさらに防止することができる。特に、本実施形態の木材連結金物1の割裂防止ピン15,15は、主に斜材5における斜材側金物同士連結ピン通し孔5b(
図9参照。)の下側である斜材側木材固定ピン通し孔5a1~5a9側における斜材5の割裂を防止する機能を発揮するのに対し、割裂防止用ねじ具16は、主に斜材5における斜材側金物同士連結ピン通し孔5b(
図9参照。)の上側における斜材5の割裂を防止する機能を発揮するため、斜材5の割裂を効率良く防止することができる。
【0067】
また、本発明に係る実施形態の木材連結金物1では、第2連結金物12における上段の木材固定ピン通し孔12a1,12a3,・・・,12a9と割裂防止ピン通し孔12c,12cとの間の間隔L2を、線状結合具である木材固定ピン14の直径R2の5倍以上離している。
【0068】
そのため、第2連結金物12における割裂防止ピン通し孔12c,12cと上段の木材固定ピン通し孔12a1,12a3,・・・,12a9との間の間隔L2が小さく、割裂防止ピン通し孔12c,12cが上段の木材固定ピン通し孔12a1,12a3,・・・,12a9の位置に近付くと割裂防止ピン通し孔12c,12cに挿入した割裂防止ピン15が木材固定ピン通し孔12a1~12a9に通した木材固定ピン14の機能に近付いて割裂防止機能を低下するが、割裂防止ピン通し孔12c,12cと上段の木材固定ピン通し孔12a1,12a3,・・・,12a9との間の距離L2を木材固定ピン14の直径R2の5倍以上離すことによって十分に確保することができるので、実験結果によれば割裂防止ピン通し孔12c,12cに挿入した2本の割裂防止ピン15,15によって斜材5において割裂が発生し易い領域βの外側から斜材5に対し直線CLに向かう圧縮力を効率良く発生させることが可能となり、割裂が発生し易い領域βにおける割裂の発生を確実に低減することができる。
【0069】
また、本発明に係る実施形態の木材連結金物1では、第2連結金物12における金物同士連結ピン通し孔12bと割裂防止ピン通し孔12c,12cとの間の斜材5の長手方向の間隔L3は、木材固定ピン通し孔12a1~12a9と割裂防止ピン通し孔12c,12cとの間の斜材5の長手方向の間隔L2以上であって、L3はL2の1.0~1.4倍としている。
【0070】
そのため、割裂防止ピン通し孔12c,12cは、第2連結金物12において金物同士連結ピン通し孔12bと上段の木材固定ピン通し孔12a1,12a3,・・・,12a9との中間点よりも上段の木材固定ピン通し孔12a1,12a3,・・・,12a9側に寄せて設けるため、実験結果によれば、割裂防止ピン通し孔12c,12cに挿入した2本の割裂防止ピン15,15によって斜材5において割裂が発生し易い領域βの外側から斜材5に対し直線CLに向かう圧縮力を効率良く発生させることが可能となり、割裂が発生し易い領域βにおける割裂の発生を確実に低減することができる。
【0071】
尚、上記実施形態の説明では、第1連結金物11には2個の木材固定ピン通し孔11aと、4個の木材固定ピン通し孔11bを設ける一方、第2連結金物12には、9個の木材固定ピン通し孔12a1~12a9を設けて説明したが、本発明では、これは一例で第1連結金物11および第2連結金物12には、適宜の個数の木材固定ピン通し孔を設けても勿論良い。
【0072】
また、上記実施形態の説明では、第1連結金物11および第2連結金物12を木材に固定するための線状結合具として木材固定ピン14を一例に説明したが、本発明ではこれに限定されず、釘や木ねじ、金属製のビスやネジ等、ピン以外の線状結合具を使用しても勿論良い。
【0073】
さらに、上記実施形態の説明では、
図3や
図4等に示すように第1連結金物11および第2連結金物12を2枚ずつ設けて金物同士連結ピン13によって連結して説明したが、本発明ではこれに限らず、第1連結金物11および第2連結金物12を3枚ずつ設けて金物同士連結ピン13によって連結しても良いし、さらには第1連結金物11および第2連結金物12を1枚ずつ設けて金物同士連結ピン13によって連結しても勿論良く、金物同士連結ピン13によって連結する第1連結金物11および第2連結金物12の枚数は限定されるものではなく、第1連結金物11の枚数と第2連結金物12の枚数が同数でなく異なっていても勿論良い。
【0074】
そして第1連結金物11および第2連結金物12の枚数が増えることで、木材固定ピン14や割裂防止ピン15の各線状結合具を支える支点が増えるため、より接合部の強度の向上が可能となる。尚、その場合、枚数を増やすのではなく、第1連結金物11および第2連結金物12の板厚を厚くしても同様の効果が見込める。
【0075】
また、本発明に係る実施形態の木材連結金物1では、金物同士連結ピン13の直径R1は初期剛性をより負担できるように割裂防止ピン15や木材固定ピン14に比べ径が大きいものを使用して説明したが、本発明ではこれに限らず、割裂防止ピン15や木材固定ピン14の直径と同径もしくは小さい径のピンを使用しても勿論良い。
【0076】
また、本発明に係る実施形態の木材連結金物1では、柱材4、土台2、梁材3と斜材5という所謂筋かい構造を例に説明したが、本発明ではこれに限らず、トラスなど他の斜材に用いても勿論良い。
【符号の説明】
【0077】
1 木材連結金物
11 第1連結金物
11a,11b 木材固定ピン通し孔
11c 金物同士連結ピン通し孔
12 第2連結金物
12a1~12a9 木材固定ピン通し孔(線状結合具通し位置)
12b 金物同士連結ピン通し孔
12c,12c 割裂防止ピン通し孔
13 金物同士連結ピン
14 木材固定ピン(線状結合具)
15 割裂防止ピン
16 割裂防止用ねじ具
17,18 梁受金物
19a ボルト
19b ナット
2 土台
3 梁材
4 柱材
5 斜材
5a1~5a9 斜材側木材固定ピン通し孔
5b 斜材側金物同士連結ピン通し孔
5c,5c 斜材側割裂防止ピン通し孔