(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147451
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 22/02 20060101AFI20231005BHJP
G01N 22/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01N22/02 B
G01N22/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054952
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 達郎
(72)【発明者】
【氏名】射庭 彩人
(72)【発明者】
【氏名】木村 徹
(72)【発明者】
【氏名】池田 誠人
(57)【要約】
【課題】メンテナンス作業が容易な検査装置を提供する。
【解決手段】検査装置は、発信器と、第1の導波管11と、共振器12と、第2の導波管13と、受信器と、受信器で受信した電磁波の変動に基づいて、線状体Fに含まれる異物を検出する検出部と、を備える。共振器12は、導入口50と、共振部41と、通過孔42と、導出口60と、を有する。共振部41は、一端が導入口50に接続され、他端が導出口60に接続され、電磁波が通過する固体の誘電体100と、誘電体100における導入口50から導出口60に向かう中心軸Pの周りに位置する外周面を覆う導電体101と、を有する。通過孔42は、誘電体100と導電体101を貫通するように形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状体を検査するための検査装置であって、
電磁波を発信する発信器と、
前記発信器から発信された前記電磁波が通過する第1の導波管と、
前記第1の導波管を通過した前記電磁波が導入される導入口と、前記導入口から導入された前記電磁波が通過し共振する共振部と、前記共振部に設けられ、前記線状体が通過する通過孔と、前記共振部を通過した前記電磁波が導出される導出口と、を有する共振器と、
前記共振器の前記導出口から導出された前記電磁波が通過する第2の導波管と、
前記第2の導波管を通過した前記電磁波を受信する受信器と、
前記受信器で受信した前記電磁波の変動に基づいて、前記線状体に含まれる異物を検出する検出部と、を備え、
前記共振部は、
一端が前記導入口に接続され、他端が前記導出口に接続され、前記電磁波が通過する固体の誘電体と、
前記誘電体における前記導入口から前記導出口に向かう中心軸の周りに位置する外周面を覆う導電体と、を有し、
前記通過孔は、前記誘電体と前記導電体を貫通するように形成されている、
検査装置。
【請求項2】
前記誘電体は、樹脂またはセラミックスである、
請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記共振部の前記誘電体が前記導入口を介して前記第1の導波管内に延長した第1の延長部と、
前記共振部の前記誘電体が前記導出口を介して前記第2の導波管内に延長した第2の延長部とを、さらに備える、
請求項1または2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記第1の延長部は、前記第1の導波管において前記電磁波が入射する方向に対して傾斜した入射端面を有し、
前記第2の延長部は、前記第2の導波管において前記電磁波が出射する方向に対して傾斜した出射端面を有する、
請求項3に記載の検査装置。
【請求項5】
前記入射端面及び前記出射端面は、30°以上60°以下の角度で傾斜している、
請求項4に記載の検査装置。
【請求項6】
前記第1の延長部及び前記第2の延長部は、誘電率が、空気により近い誘電率から前記共振部に近づくにつれて前記共振部の前記誘電体の誘電率に近づくように構成されている、
請求項3から5のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項7】
前記第1の延長部及び前記第2の延長部は、前記誘電率が異なる複数層を有する、
請求項6に記載の検査装置。
【請求項8】
前記導入口及び前記導出口は、絞り穴である、
請求項1から7のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項9】
前記共振器は、前記共振部を保持する治具をさらに有する、
請求項1から8のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項10】
前記治具は、前記共振器の前記通過孔に連通し、前記線状体が通過する治具通過孔を有する、
請求項9に記載の検査装置。
【請求項11】
前記治具は、前記共振部をはめ込み可能なはめ込み部を有する、
請求項9または10に記載の検査装置。
【請求項12】
前記第1の導波管及び前記第2の導波管は、前記治具に固定されるフランジ部を有する、
請求項9から11のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項13】
前記誘電体は、直方体形状又は円柱形状を有し、
前記導電体は、前記誘電体の前記外周面に被覆された金属膜である、
請求項1から12のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項14】
前記共振器の前記通過孔は、前記導入口から前記導出口に向かう方向に対し垂直方向に向けて形成されている、
請求項1から13のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項15】
前記共振器は、複数の前記通過孔を有する、
請求項1から14のいずれか一項に記載の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維、プラスチック繊維のような線状体の製造ラインにおいて、設備や周囲環境、製造プロセスなどに起因して当該線状体にゴミや埃などの異物が付着する場合がある。線状体に付着した異物を検出するべく、空洞共振器内で線状体に電磁波を入射する検査装置が利用されている。かかる空洞共振器において、線状体に電磁波を入射すると、空洞共振器の内部の媒質と線状体の誘電率によって決まる周波数で共振が起こる。誘電率に差がある異物が線状体に含まれていると、その共振の周波数に変化が生じるため、その変化を捉えることで異物を検出することができる(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の検査装置では、空洞共振器に線状体を貫通走行させるため、空洞共振器の空洞に、線状体から落下したごみや埃が溜まることが懸念される。空洞共振器の空洞にごみや埃が溜まると、それらを空洞から取り除く作業が必要になり、メンテナンス作業が大変である。
【0005】
そこで、本発明は、メンテナンス作業が容易な検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、共振部が、固体の誘電体と、誘電体を覆う導電体を有することで、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明の態様は以下を含む。
【0007】
(1)線状体を検査するための検査装置であって、電磁波を発信する発信器と、前記発信器から発信された前記電磁波が通過する第1の導波管と、前記第1の導波管を通過した前記電磁波が導入される導入口と、前記導入口から導入された前記電磁波が通過し共振する共振部と、前記共振部に設けられ、前記線状体が通過する通過孔と、前記共振部を通過した前記電磁波が導出される導出口と、を有する共振器と、前記共振器の前記導出口から導出された前記電磁波が通過する第2の導波管と、前記第2の導波管を通過した前記電磁波を受信する受信器と、前記受信器で受信した前記電磁波の変動に基づいて、前記線状体に含まれる異物を検出する検出部と、を備え、前記共振部は、一端が前記導入口に接続され、他端が前記導出口に接続され、前記電磁波が通過する固体の誘電体と、前記誘電体における前記導入口から前記導出口に向かう中心軸の周りに位置する外周面を覆う導電体と、を有し、前記通過孔は、前記誘電体と前記導電体を貫通するように形成されている、検査装置。
(2)前記誘電体は、樹脂またはセラミックスである、(1)に記載の検査装置。
(3)前記共振部の前記誘電体が前記導入口を介して前記第1の導波管内に延長した第1の延長部と、前記共振部の前記誘電体が前記導出口を介して前記第2の導波管内に延長した第2の延長部とを、さらに備える、(1)または(2)に記載の検査装置。
(4)前記第1の延長部は、前記第1の導波管において前記電磁波が入射する方向に対して傾斜した入射端面を有し、前記第2の延長部は、前記第2の導波管において前記電磁波が出射する方向に対して傾斜した出射端面を有する、(3)に記載の検査装置。
(5)前記入射端面及び前記出射端面は、30°以上60°以下の角度で傾斜している、(4)に記載の検査装置。
(6)前記第1の延長部及び前記第2の延長部は、誘電率が、空気により近い誘電率から前記共振部に近づくにつれて前記共振部の前記誘電体の誘電率に近づくように構成されている、(3)から(5)のいずれか一項に記載の検査装置。
(7)前記第1の延長部及び前記第2の延長部は、前記誘電率が異なる複数層を有する、(6)に記載の検査装置。
(8)前記導入口及び前記導出口は、絞り穴である、(1)から(7)のいずれか一項に記載の検査装置。
(9)前記共振器は、前記共振部を保持する治具をさらに有する、(1)から(8)のいずれか一項に記載の検査装置。
(10)前記治具は、前記共振器の前記通過孔に連通し、前記線状体が通過する治具通過孔を有する、(9)に記載の検査装置。
(11)前記治具は、前記共振部をはめ込み可能なはめ込み部を有する、(9)または(10)に記載の検査装置。
(12)前記第1の導波管及び前記第2の導波管は、前記治具に固定されるフランジ部を有する、(9)から(11)のいずれか一項に記載の検査装置。
(13)前記誘電体は、直方体形状又は円柱形状を有し、前記導電体は、前記誘電体の前記外周面に被覆された金属膜である、(1)から(12)のいずれか一項に記載の検査装置。
(14)前記共振器の前記通過孔は、前記導入口から前記導出口に向かう方向に対し垂直方向に向けて形成されている、(1)から(13)のいずれか一項に記載の検査装置。
(15)前記共振器は、複数の前記通過孔を有する、(1)から(14)のいずれか一項に記載の検査装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、メンテナンス作業が容易な検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施の形態に係る検査装置の構成の概略を示す説明図である。
【
図2】検査装置の主要部分を中心軸を通る垂直断面で切断したA-A断面図である。
【
図3】検査装置の主要部分の構成を分解した分解図である。
【
図5】共振部内の電界強度の一例を示す腹の数n=3の場合の画像である。
【
図6】異物がある場合と異物がない場合の受信電磁波の強度の一例を示すグラフである。
【
図7】延長部を有する検査装置の主要部分のA-A断面図である。
【
図8】延長部がある場合と延長部がない場合の受信電磁波の強度の一例を示すグラフである。
【
図9】複数の層を有する延長部を有する検査装置の主要部分のA-A断面図である。
【
図10】複数の通過孔を有する検査装置の構成の概略を示す説明図である。
【
図12】検査装置の主要部分の他の構成例を分解した分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態について、以下具体的に説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されるものではない。同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面中、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。
【0011】
図1は、本実施の形態に係る検査装置1の構成の概略を示す説明図である。
図2は、検査装置1の主要部分をその中心軸Pを通る垂直断面で切断したA-A断面図である。
図3は、検査装置1の主要部分の構成を分解した分解図である。
【0012】
図1に示すように、検査装置1は、発信器10と、第1の導波管11と、共振器12と、第2の導波管13と、受信器14と、検出部15を備えている。
【0013】
発信器10は、所定の共振周波数を中心とした所定の範囲(第1の範囲)の周波数を含む連続波を発生させる装置である。本実施形態では、発信器10は、主にミリ波(30GHz以上300GHz未満)帯に属する電磁波を共振に利用することを想定し、ミリ波を含む電磁波を発信可能である。なお、発信器10は、300GHz以上の電磁波、或いは30GHz以下の電磁波を発信可能であってもよい。
【0014】
第1の導波管11は、発信器10が発信した電磁波を共振器12へ導くための部材である。第1の導波管11の一端は発信器10に接続され、第1の導波管11の他端は共振器12に接続されている。第2の導波管13は、共振器12から導出した電磁波を受信器14へ導くための部材である。第2の導波管13の一端は共振器12に接続され、他端は受信器14に接続されている。第1の導波管11及び第2の導波管13は、導電性部材である金属により形成されている。
【0015】
図2に示すように第1の導波管11は、その内部に、電磁波が通過する方向(電磁波の進行方向X)に沿った空洞の導波路20を有している。第2の導波管13は、電磁波の進行方向Xに沿った空洞の導波路30を有している。
図3に示すように導波路20、30の電磁波の進行方向Xに垂直な断面(以下、単に「断面」ともいう。)は、方形形状を有する。導波路20、30の断面の断面積は、共振器12で共振させる電磁波の周波数(共振周波数)によって決定することができる。本実施の形態において、導波路20、30の断面は、共振器12が有する後述の共振部41における電磁波の進行方向Xの端面と同一の寸法を有する。なお、導波路20、30の断面の断面積および形状は、共振器12の共振部41の端面と同一でなくてもよい。また、第1の導波管11および第2の導波管13の長さも特に限定されない。第1の導波管11および第2の導波管13には、例えば、EIA(Electronic Industries Alliance)規格において規定された、所定の周波数帯域の電磁波に対応する寸法を有する形状の導波路(導波管)を適宜選択して用いることができる。
【0016】
図1乃至
図3に示すように第1の導波管11は、共振器12側の端部に、共振器12を固定するための円盤状のフランジ部21を有している。フランジ部21は、例えば、共振器12が有する後述の導入板40及び治具44と同じ外径を有している。同様に、第2の導波管13は、共振器12側の端部に、円盤状のフランジ部31を有している。フランジ部31は、共振器12が有する後述の導出板43及び治具44と同じ外径を有している。
【0017】
共振器12は、導入板40と、共振部41と、通過孔42と、導出板43と、治具44を有している。
【0018】
導入板40は、例えば円板形状を有している。導入板40は、第1の導波管11のフランジ部21と共振部41(治具44)との間に配置されている。導入板40は、その中心に、電磁波の進行方向Xに貫通する導入口50を有している。導入口50は、円形の小穴であり、絞り穴として機能する。導入口50は、第1の導波管11を通過した電磁波を共振部41に導入することができる。
【0019】
導出板43は、例えば円板形状を有している。導出板43は、共振部41(治具44)と第2の導波管13のフランジ部31との間に配置されている。導出板43は、その中心に、電磁波の進行方向Xに貫通する導出口60を有している。導出口60は、円形の小穴であり、絞り穴として機能する。導出口60は、共振部41を通過した電磁波を第2の導波管13に導出することができる。
【0020】
導入板40及び導出板43は、フランジ部21、31と同じ外径を有している。なお、導入板40及び導出板43は、フランジ部21、31と必ずしも同じ形で同じ外径でなくてもよく、導波管11、13の断面および共振部41の一端面100aまたは他端面100b(
図4に記載)を覆える大きさで、導波管11、13および共振部41と固定できればよい。導入板40及び導出板43は、電磁波が透過しないように導電体で構成されることが好ましい。また、導入板40及び導出板43の厚みは、電磁波を通過させない程度の厚みを確保しつつも可能な限り薄いことが好ましい。導入板40及び導出板43の厚みは、例えば、1μm以上100μm未満である。本実施の形態では、厚み50μmの金属板に導入口50および導出口60を形成することで、導入板40及び導出板43が形成されている。
【0021】
導入口50と導出口60は、互いに対向するように配置されている。導入口50と導出口60は、例えば共振部41の電磁波の進行方向Xに沿った中心軸P1上に配置されている。
【0022】
導入口50と導出口60は、共振部41における電磁波の進行方向Xの端面の面積よりも小さい面積を有する。導入口50と導出口60は、共振部41の端面の面積に対して例えば15%以下、0.15%以上の面積を有することが好ましい。この場合、導入口50と導出口60の面積が共振部41の端面の面積に対して15%を超える場合に比べて、導入口50、導出口60から電磁波の漏出を抑制することができる。また、0.15%未満の場合に比べて、共振部41における電磁波の強度を確保することができる。導入口50と導出口60は、例えば1mm以下、0.1mm以上の直径を有することが好ましい。この場合、導入口50と導出口60の直径が1mmを超える場合に比べて、共振周波数をピークとした電磁波の波形(
図6に示す)が急峻になり、異物Mを含む検査対象が通過したときの電磁波の波形の変化が大きく、異物Mに対する感度が大きくなる。また、直径が0.1mm未満の場合に比べて、共振部41における電磁波の強度を確保することができる。
【0023】
図4は、共振部41の斜視図である。共振部41は、電磁波の進行方向Xに長い直方体形状を有している。共振部41は、電磁波が通過する固体の誘電体100と、誘電体100の中心軸P1周りの外周面100cを覆う導電体101を有している。
【0024】
誘電体100は、電磁波を通過させる媒質であり、例えば樹脂またはセラミックスにより構成されている。誘電体100は、電磁波の進行方向Xに長い直方体形状を有している。誘電体100の長手方向(電磁波の進行方向X、中心軸P1方向)の一端面100aが導入口50に接続され、他端面100bが導出口60に接続されている。
【0025】
導電体101は、誘電体100にメッキ加工された金属膜である。導電体101は、誘電体100の中心軸P1周りの外周面100cに被覆されている。導電体101は、例えば1μm以上の厚みを有する。誘電体101の厚みが1μm以上であることで、誘電体100を通過する電磁波が、メッキの金属膜を透過し外部に漏出することを防止することができる。なお、外周面100cは、互いに対向する上面100c-1及び下面100c-2、互いに対向する2つの側面100c-3、100c-4からなる4つの面を有している。導電体101は、電磁波の進行方向Xの前後方向の端面が導入板40及び導出板43に接触し、中心軸P周りの外周面が治具44に接触するように構成されている。
【0026】
共振部41は、導入口50から導出口60に向かって、1つ以上の腹であってその腹の数nが奇数となる電磁波の定在波が生じるように構成されている。この定在波、所定の共振周波数成分を有する。一例として、本実施形態では、共振部41で生じる定在波の腹の数nが3となるようにし(
図5参照)、電磁波が特定の振動モードで共振するようにしている。なお、
図5に示す3つの略円形の電界強度の中では、それぞれ、中央部分ほど強度が強くなっている。この
図5についてさらに付言しておくと、もともとカラーで表現されていた電界強度画像を白黒の濃淡で表現している関係上、略円形の外側部分の電界強度が濃く現れているが、実際の電界強度は円の中央から離れるほど弱くなっている。本実施の形態において、例えば定在波の電界強度が強い腹の部分が3つ形成され、その一つは、共振部41の電磁波の進行方向Xの中央付近に位置している。
【0027】
図4に示す通過孔42は、検査対象である線状体Fが通過するための孔である。通過孔42は、共振部41(誘電体100及び導電体101)における電磁波の進行方向Xの中央に形成されている。通過孔42は、電磁波の進行方向Xに対し垂直な方向Y、すなわち、誘電体100の外周面100cが有する対向する2つの平坦面(
図4において上面100c-1、下面100c-2)に対し垂直方向Yに貫通している。これにより、通過孔42は、共振部41で生じる定在波の電界強度が強い部分に合わせて形成されている。また、通過孔42は、線状体Fが共振部41で発生する定在波の振幅の向きに通過するように形成されている。通過孔42は、線状体Fよりも径が大きい円柱状の孔である。通過孔42は、0.1mm以上2.2mm以下の直径を有する。通過孔42が0.1mm以上であることで、線状体Fが共振部41の壁面や角に擦れて傷がつくことを防ぐことができる。一方、通過孔42が2.2mm以下であることで、電磁波の漏出を抑制し、電磁波強度のピークを急峻にすることができるので、感度のよい検査を行うことができる。通過孔42は、1mm以上がより好ましい。通過孔42の内表面には、誘電体100が露出している。
【0028】
共振部41で生じる電磁波の共振周波数fは次の式で示すことができる。式中、εは媒質(誘電体100)の誘電率、μは媒質(誘電体100)の透磁率、a、b、cは、
図4に示す共振部41の寸法、l、m、nは、共振モードである。
【0029】
【0030】
上記式から、共振部41の寸法を小さくすることにより、高い周波数領域の共振周波数が得られる。一例として、a=3.0mm、b=1.5mmとし、また、n=3、c=7.2mmとすることで、共振周波数79GHzを有する定在波を共振部41内に発生させることができる。かかる検査装置1では、線状体Fが通過する共振部41に電磁波を入射し、共振部41と線状体Fの誘電率によって決まる所定の共振周波数で共振させ、そこに誘電率が異なる異物Mが含まれている場合に生じる周波数の変化を捉えて線状体Fの異物Mを検出する。異物Mには、金属やプラスチックなどの誘電体の異物が含まれる。金属は、磁性、非磁性のいずれであってもよい。
【0031】
図1乃至
図3に示すように、治具44は、共振部41を保持し、共振部41を第1の導波管11及び導入板40、並びに導出板43及び第2の導波管13に固定する部材である。治具44は、例えば円柱形状を有している。治具44は、例えば金属製、樹脂製、或いはセラミックスである。治具44は、導入板40及び導出板43と同じ外径を有している。なお、治具44は、導入板40及び導出板43と必ずしも同じ形で同じ外径でなくてもよい。
【0032】
治具44は、共振部41をはめ込んで収容するはめ込み部110を有している。はめ込み部110は、治具44の中心軸P1上に電磁波の進行方向Xに沿って貫通するように形成されている。はめ込み部110は、共振部41と同形の直方体形状に形成されている。
【0033】
治具44は、線状体Fが通過する治具通過孔120を有している。治具通過孔120は、共振部41に形成された通過孔42に対応する位置に垂直方向Yに向けて形成されている。治具通過孔120は、例えば通過孔42と同じ内径を有する円柱状の孔であり、通過孔42と連通している。
【0034】
図3に示すように第1の導波管11のフランジ部21、導入板40及び治具44は、それらを中心軸P方向(電磁波の進行方向X)に貫通するボルト130によって互いに固定されている。同様に、第2の導波管13のフランジ部31、導出板43及び治具44は、それらを中心軸P方向に貫通するボルト130によって互いに固定されている。
【0035】
受信器14は、第2の導波管13を通過した、共振周波数を含む電磁波を受信する。受信器14で受信した電磁波の情報は、検出部15に出力することができる。
【0036】
検出部15は、共振器12内での電磁波の変動に基づいて線状体Fの状態を評価する演算装置を有している。検出部15は、受信器14が受信する電磁波に含まれる所定の共振周波数の強度の変動に基づいて線状体Fの状態を評価することができ、あるいは、電磁波の発生周波数の変動に基づいて線状体Fの状態を評価することができる。例えば、線状体Fに異物が含まれている場合には、
図6に示すように、電磁波のピークの周波数が変動する。検出部15は、この電磁波のピークの周波数の変動を検出することで異物を検出する。検出部15は、例えばコンピュータであり、記憶部に記憶されたプログラムをCPUで実行することで、線状体Fが有する異物Mの有無を検査することができる。
【0037】
次に、検査装置1における検査プロセスについて説明する。
【0038】
図1に示すように、検査対象である線状体Fが、共振器12の通過孔42内を所定の速度で通過する。線状体Fには、特に限定されないが、例えばガラス、プラスチック、天然繊維、金属等からなる糸状体や帯状体が含まれる。発信器10から、ミリ波を含む電磁波が発信され、第1の導波管11を通り、導入板40の導入口50から共振部41に導入される。電磁波は、共振部41の誘電体100を通過する。このとき、電磁波の一部の共振周波数成分が共振部41と共振する。共振部41を通過した、共振周波数成分を含む電磁波が導出板43の導出口60から第2の導波管13に導出され、第2の導波管13を通り、受信器14で受信される。
【0039】
受信器14で受信した電磁波の情報は、検出部15に出力される。検出部15では、電磁波の周波数の情報に基づいて異物Mの有無を検出する。
【0040】
本実施の形態によれば、検査装置1の共振部41が、電磁波が通過する固体の誘電体100と、誘電体100の外周面100cを覆う導電体101を有し、通過孔42は、誘電体100と導電体101を貫通するように形成されている。このため、従来のように空洞共振器の空洞に線状体から落下したごみや埃が溜まることがない。空洞共振器の空洞にごみや埃が溜まると、共振周波数がドリフトして検出性能が変化する可能性あり、ごみや埃を取り除く作業が必要になるが、本実施の形態によれば、空洞に溜まったごみや埃を取り除く作業が必要なく、メンテナンス作業が容易になる。また、共振部41が固定の誘電体100とそれを覆う導電体101を有し、線状体Fが通過する通過孔42が共振部41を貫通するように形成されているので、共振部41を簡単に製造することができ、その結果、検査装置1のコストを低減することができる。
【0041】
誘電体100は、樹脂またはセラミックスであるので、加工しやすく、装置コストを低減することができる。
【0042】
導入口50及び導出口60は、絞り穴であるので、電磁波の漏出を抑制することができ、この結果、共振部41に所定の周波数の電磁波を通過させ、共振部41に所定の共振周波数を有する定在波を適切に発生させることができる。
【0043】
共振器12は、共振部41を保持する治具44を有するので、例えば、別途製造された固体の誘電体100を有する共振部41を治具44によって適切に保持して共振器12として使用することができる。
【0044】
治具44は、通過孔42に連通し、線状体Fが通過する治具通過孔120を有しているので、共振器12において線状体Fを適切に通過させることができる。
【0045】
治具44は、共振部41をはめ込み可能なはめ込み部110を有するので、例えば、別途製造された固体の誘電体100を有する共振部41を治具44に適切または簡単に取り付けることができる。
【0046】
第1の導波管11及び第2の導波管13は、治具44に固定されるフランジ部21、31を有するので、第1の導波管11及び第2の導波管13と治具44との固定を好適に行うことができる。
【0047】
誘電体100は、直方体形状を有し、導電体101は、誘電体100の外周面100cに被覆された金属膜である。これにより、共振部41を簡単かつ低コストで製造することができる。なお、誘電体100の形状は、直方体形状に限られず、円柱形状などであってもよい。
【0048】
共振器12の通過孔42は、導入口50から導出口60に向かう方向に対し垂直方向Yに向けて形成されている。これにより線状体Fと電磁波の進行方向Xが直角となり、線状体Fに付着した異物Mを精度よく検出することができる。
【0049】
以上の実施の形態において、
図7に示すように、検査装置1は、共振部41の誘電体100が導入口50を介して第1の導波管11内に延長した第1の延長部200と、共振部41の誘電体100が導出口60を介して第2の導波管13内に延長した第2の延長部201を備えていてもよい。
【0050】
第1の延長部200及び第2の延長部201は、共振部41の誘電体100と同じ材質、例えば樹脂やセラミックスで構成されていてもよい。例えば第1の延長部200及び第2の延長部201は、誘電体100の同じ誘電率を有している。第1の延長部200は、導入口50内と、第1の導波管11内の共振部41側の一部を満たしている。第2の延長部201は、導出口60内と、第2の導波管13内の共振部41側の一部を満たしている。
【0051】
第1の延長部200は、第1の導波管11において電磁波が入射する方向(電磁波の進行方向X)に対して傾斜した入射端面200aを有している。入射端面200aは、例えば、30°以上60°以下の角度α1で傾斜している。本実施の形態において、入射端面200aは、共振部41における垂直方向Yに対向する下面や上面と平行な水平面に対して角度α1を有し、斜め上方に向けられている。入射端面200aが60°以下であることで、端面の反射抑制効果が低下することを防止することができる。また、入射端面200aが30°以上であることで、第1の延長部200が長くなりすぎて第1の導波管11の形状等の自由度を制限することを抑制することができる。
【0052】
第2の延長部201は、第2の導波管13において電磁波が出射する方向(電磁波の進行方向X)に対して傾斜した出射端面201aを有している。出射端面201aは、例えば、30°以上60°以下の角度α2で傾斜している。本実施の形態において、出射端面201aは、共振部41における垂直方向Yに対向する下面や上面と平行な水平面に対して角度α2を有し、斜め上方に向けられている。入射端面201aが60°以下であることで、端面の反射抑制効果が低下することを防止することができる。また、入射端面201aが30°以上であることで、第2の延長部201が長くなりすぎて第2の導波管13の形状等の自由度を制限することを抑制することができる。
【0053】
なお、かかる例では、導入口50及び導出口60内に、例えば延長部200、201の樹脂を充填する必要がある。この場合、溶けた樹脂中に導入板40及び導出板43を浸漬し、導入口50及び導出口60内を樹脂で満たし、次に樹脂を硬化する。そして、樹脂を所定の形状に切削加工して誘電体100を作成し、次にメッキ加工で導電体101を被覆し、その後当該共振部41を第1の導波管11、第2の導波管13及び治具44にはめ込んで、検査装置1を製造してもよい。
【0054】
かかる構成により、共振部41における電磁波の端面反射を抑制し、共振部41に入射する電磁波や共振部41から出射する電磁波が減衰することを抑制することができる。
図8は、入射端面200a及び出射端面201aがある場合と、入射端面200a及び出射端面201aがない場合における電磁波の強度の違いを検証したシミュレーション結果を示す。
図8に示すように、入射端面200a及び出射端面201aがある場合の方が電磁波の強度が高いことが確認することができる。
【0055】
上記実施の形態において、第1の延長部200及び第2の延長部201は、共振部41に近づくにつれて誘電率が共振部41の誘電体100の誘電率に近づくように構成されていてもよい。例えば
図9に示すように、第1の延長部200及び第2の延長部201は、誘電率が互いに異なる複数層を有する。
【0056】
第1の延長部200は、複数、例えば3つの第1の層210、第2の層211、第3の層212を有する。第1の層210~第3の層212は、それぞれ直方体形状を有し、電磁波の進行方向Xに沿ってこの順番で隙間なく設けられている。第1の層210は、空気の誘電率に最も近い誘電率を有し、第3の層212は、誘電体100の誘電率に最も近い誘電率を有し、第2の層211は、第1の層210と第3の層212の間の誘電率を有する。すなわち、第1の層210~第3の層212の誘電率は、誘電体100に近づくにつれて、空気の誘電率から誘電体100の誘電率に次第に近づいていく。
【0057】
第1の延長部200は、複数、例えば3つの第1の層220、第2の層221、第3の層222を有する。第1の層220~第3の層222は、それぞれ直方体形状を有し、電磁波の進行方向Xの逆方向に沿ってこの順番で隙間なく設けられている。第1の層220は、空気の誘電率に最も近い誘電率を有し、第3の層222は、誘電体100の誘電率に最も近い誘電率を有し、第2の層221は、第1の層220と第3の層222の間の誘電率を有する。すなわち、第1の層220~第3の層222の誘電率は、誘電体100に近づくにつれて、空気の誘電率から誘電体100の誘電率に次第に近づいていく。
【0058】
なお、第1の延長部200及び第2の延長部201における誘電率の異なる層は、3つに限られず、2つであってもよいし4つ以上であってもよい。また、第1の延長部200及び第2の延長部201は、誘電率の異なる複数層になっておらず、連続的に次第に誘電率が変わっていくものであってもよい。
【0059】
かかる構成により、共振部41に入射する電磁波や共振部41から出射する電磁波が減衰することを抑制することができる。
【0060】
以上の実施の形態において、共振部41に形成された、線状体Fの通過孔42は、一つにかぎられず、複数であってもよい。例えば
図10に示すように通過孔42が3つ形成されていてもよい。かかる場合、通過孔42は、共振部41の電界強度が強い部分(定在波の腹の部分)に設けられていてもよい。こうすることにより、複数本の線状体Fを同時に検査することができる。
【0061】
以上の実施の形態において、
図11及び
図12に示すように、共振部41の誘電体100の一端面100aと他端面100bがメッキ加工され金属膜が形成されてもよい。この場合、一端面100aの中央には、メッキがない導入口300が形成され、他端面100bの中央には、メッキがない導出口301が形成される。導入口300及び導出口301の口径は、それぞれ導入口50、60の口径よりも小さくてもよい。また、かかる例において、導入板40(導入口50)、導出板43(導出口60)はなくてもよい。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。たとえば、当業者の通常の創作能力の範囲内で、ある実施形態における一部の構成要素を、他の実施形態に追加することができる。また、ある実施形態における一部の構成要素を、他の実施形態の対応する構成要素と置換することができる。
【0063】
例えば以上の実施の形態で記載した第1の導波管11、共振器12、第2の導波管13等の形状は、他の形状であってもよい。共振器12の共振部41や治具44の形状も他の形状であってもよい。治具44は他の構造であってもよい。共振器12は治具44を有さなくてもよい。通過孔42は、上記例において上下方向に貫通していたが、上下方向である必要はない。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、メンテナンス作業が容易な検査装置を提供する際に有用である。
【符号の説明】
【0065】
1 検査装置
10 発信器
11 第1の導波管
12 共振器
13 第2の導波管
14 受信器
15 検出部
40 導入板
41 共振部
42 通過孔
43 導出板
44 治具
50 導入口
60 導出口
100 誘電体
101 導電体
F 線状体
M 異物