(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147477
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】急排弁一体型ダイヤフラムポンプ
(51)【国際特許分類】
F04B 45/04 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
F04B45/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054987
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000121833
【氏名又は名称】マブチモーターオーケン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】板原 一毅
【テーマコード(参考)】
3H077
【Fターム(参考)】
3H077AA12
3H077CC02
3H077CC17
3H077DD02
3H077EE02
3H077FF04
3H077FF12
3H077FF14
(57)【要約】
【課題】流量損失を低減可能な急排弁一体型ダイヤフラムポンプを提供する。
【解決手段】複数のポンプ室17を形成するダイヤフラム13および駆動機構21を備えたポンプ本体部3と、一部のポンプ室から気体が供給される第1の供給通路52および残りのポンプ室から気体が供給される第2の供給通路54を有しかつ吐出通路58を有する急排弁構造体4とを備える。急排弁構造体4は、入力側空間53と、排出通路55と、出力側空間61と、逆止弁66と、排気通路59と、入力側空間53の圧力と出力側空間61の圧力とに応じて排気口62を開閉する急排弁71とを備える。排出通路55は、所定の流路抵抗が生じる構成である。流路抵抗は、第1の供給通路52の流量が所定流量以下の場合、入力側空間53の気体が排出通路55から排出され、第1の供給通路52の流量が所定流量を越えた場合、急排弁71が排気口62を閉塞し、入力側空間53の気体が逆止弁66を通って出力側空間61に流出する流路抵抗である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のポンプ室を形成するダイヤフラムおよび前記ポンプ室を拡縮させる駆動機構を備えたポンプ本体部と、
前記複数のポンプ室のうちの一部の前記ポンプ室から気体が供給される第1の供給通路および残りの前記ポンプ室から気体が供給される第2の供給通路を有しかつ加圧対象物に接続される吐出通路を有する急排弁構造体とを備え、
前記急排弁構造体は、
前記第1の供給通路に接続された入力側空間と、
一端が前記入力側空間に接続されるとともに他端がこの急排弁構造体の外面に開口する排出通路と、
前記入力側空間とは隔壁によって仕切られ、前記第2の供給通路に接続されるとともに前記吐出通路に連通された出力側空間と、
前記入力側空間の気体を前記出力側空間に流す逆止弁と、
一端が前記出力側空間に接続されるとともに他端がこの急排弁構造体の外面に開口する排気通路と、
前記排気通路の前記一端からなる排気口を開閉する弁体を有し、前記入力側空間の圧力が前記出力側空間の圧力より高い状態で前記排気口を閉じ、かつ前記入力側空間の圧力が前記出力側空間の圧力以下の状態で前記排気口を開く急排弁とを備え、
前記排出通路は、予め定めた流路抵抗が生じる構成が採られ、
前記予め定めた流路抵抗は、
前記入力側空間に前記第1の供給通路を通って供給される気体の流量が所定の流量以下の場合、前記入力側空間に供給された気体が前記排出通路を通って大気中に排出され、
前記入力側空間に前記第1の供給通路を通って供給される気体の流量が前記所定の流量を越えた場合、前記急排弁が前記排気口を閉塞するとともに、前記入力側空間の気体が前記逆止弁を通って前記出力側空間に流出する流路抵抗であることを特徴とする急排弁一体型ダイヤフラムポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の急排弁一体型ダイヤフラムポンプにおいて、
さらに、
前記ダイヤフラムと前記隔壁との間に設けられ、前記ダイヤフラムと協働して前記ポンプ室を形成するとともに、前記隔壁と協働して前記入力側空間を形成する第1の筐体と、
前記隔壁を前記第1の筐体と協働して挟み、前記隔壁との間に前記出力側空間を形成する第2の筐体とを備え、
前記第1の筐体は、前記ポンプ室と対向する位置にポンプ出口通路を有し、
前記隔壁は、前記ポンプ出口通路を開閉する吐出弁を有し、
前記第1の供給通路は、前記吐出弁から前記第1の筐体と前記隔壁との間を通って前記入力側空間に至るように形成され、
前記第2の供給通路は、前記吐出弁から前記隔壁と前記第2の筐体との間を通って前記出力側空間に至るように形成されていることを特徴とする急排弁一体型ダイヤフラムポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体の供給が停止されたときに開く急排弁を備えた急排弁一体型ダイヤフラムポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血圧計のカフ(腕帯)に空気を供給するポンプとしては、例えば特許文献1に記載されているように、空気の供給が停止された後に空気を排出する急排弁を備えた急排弁一体型ダイヤフラムポンプがある。
特許文献1に記載されているダイヤフラムポンプは、空気を突出する通路の途中に逆止弁を備えているとともに、逆止弁より上流側(ポンプ室側)の圧力と、逆止弁より下流側の圧力との圧力差に応じて開閉する急排弁を備えている。急排弁は、逆止弁より上流側の圧力が所定の圧力を超えることにより閉じ、逆止弁より上流側の圧力が所定の圧力を下回ることにより開く。急排弁が開くことにより、逆止弁より下流側の空気が急排弁を通してポンプ外に排出される。
【0003】
このダイヤフラムポンプにおいては、作動を開始して逆止弁より上流側の圧力が上昇し、急排弁が閉じることにより、空気が逆止弁を開いて吐出され、血圧計のカフに供給される。一方、カフに空気を供給した後にダイヤフラムポンプが停止して逆止弁より上流側の圧力が低下することにより、急排弁が開いて逆止弁より下流側の空気、すなわちカフ側の空気が排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている急排弁一体型ダイヤフラムポンプは、空気の全量が逆止弁を通って吐出される。このため、この急排弁一体型ダイヤフラムポンプでは、空気を吐出するときに逆止弁を開くことに起因する弁抵抗を受けるために、流量損失が大きいという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、空気を吐出する通路に逆止弁を有しているにもかかわらず大流量が得られる急排弁一体型ダイヤフラムポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明に係る急排弁一体型ダイヤフラムポンプは、複数のポンプ室を形成するダイヤフラムおよび前記ポンプ室を拡縮させる駆動機構を備えたポンプ本体部と、前記複数のポンプ室のうちの一部の前記ポンプ室から気体が供給される第1の供給通路および残りの前記ポンプ室から気体が供給される第2の供給通路を有しかつ加圧対象物に接続される吐出通路を有する急排弁構造体とを備え、前記急排弁構造体は、前記第1の供給通路に接続された入力側空間と、一端が前記入力側空間に接続されるとともに他端がこの急排弁構造体の外面に開口する排出通路と、前記入力側空間とは隔壁によって仕切られ、前記第2の供給通路に接続されるとともに前記吐出通路に連通された出力側空間と、前記入力側空間の気体を前記出力側空間に流す逆止弁と、一端が前記出力側空間に接続されるとともに他端がこの急排弁構造体の外面に開口する排気通路と、前記排気通路の前記一端からなる排気口を開閉する弁体を有し、前記入力側空間の圧力が前記出力側空間の圧力より高い状態で前記排気口を閉じ、かつ前記入力側空間の圧力が前記出力側空間の圧力以下の状態で前記排気口を開く急排弁とを備え、前記排出通路は、予め定めた流路抵抗が生じる構成が採られ、前記予め定めた流路抵抗を、前記入力側空間に前記第1の供給通路を通って供給される気体の流量が所定の流量以下の場合、前記入力側空間に供給された気体が前記排出通路を通って大気中に排出され、前記入力側空間に前記第1の供給通路を通って供給される気体の流量が前記所定の流量を越えた場合、前記急排弁が前記排気口を閉塞するとともに、前記入力側空間の気体が前記逆止弁を通って前記出力側空間に流出する流路抵抗としたものである。
【0008】
本発明は、前記急排弁一体型ダイヤフラムポンプにおいて、さらに、前記ダイヤフラムと前記隔壁との間に設けられ、前記ダイヤフラムと協働して前記ポンプ室を形成するとともに、前記隔壁と協働して前記入力側空間を形成する第1の筐体と、前記隔壁を前記第1の筐体と協働して挟み、前記隔壁との間に前記出力側空間を形成する第2の筐体とを備え、前記第1の筐体は、前記ポンプ室と対向する位置にポンプ出口通路を有し、前記隔壁は、前記ポンプ出口通路を開閉する吐出弁を有し、前記第1の供給通路は、前記吐出弁から前記第1の筐体と前記隔壁との間を通って前記入力側空間に至るように形成され、前記第2の供給通路は、前記吐出弁から前記隔壁と前記第2の筐体との間を通って前記出力側空間に至るように形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、空気の一部が逆止弁を通ることなく吐出されるから、空気を吐出する通路に逆止弁を有しているにもかかわらず大流量が得られる急排弁一体型ダイヤフラムポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第1の実施の形態による急排弁一体型ダイヤフラムポンプの断面図である。
【
図2】
図2は、急排弁構造体を拡大して示す断面図である。
【
図3】
図3は、下側筐体の要部を拡大して示す平面図である。
【
図4】
図4は、第2の実施の形態による急排弁一体型ダイヤフラムポンプの分解斜視図である。
【
図9】
図9は、急排弁一体型ダイヤフラムポンプの一部を示す斜視断面図である。
【
図10】
図10は、急排弁一体型ダイヤフラムポンプの一部を示す斜視断面図である。
【
図11】
図11は、急排弁一体型ダイヤフラムポンプの一部を示す斜視断面図である。
【
図12】
図12は、急排弁一体型ダイヤフラムポンプの一部を示す斜視断面図である。
【
図13】
図13は、急排弁一体型ダイヤフラムポンプの一部を示す斜視断面図である。
【
図14】
図14は、急排弁一体型ダイヤフラムポンプの一部を示す斜視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施の形態)
以下、本発明に係る急排弁一体型ダイヤフラムポンプの一実施の形態を
図1~
図3を参照して詳細に説明する。
図1に示す急排弁一体型ダイヤフラムポンプ1は、
図1において最も下に位置するモータ2に取付けられ、このモータ2によって駆動されて動作する。この実施の形態による急排弁一体型ダイヤフラムポンプ1は、空気を吸込んで吐出するポンプである。この実施の形態においては、空気が本発明でいう「気体」に相当する。
この急排弁一体型ダイヤフラムポンプ1は、モータ2に固定されたポンプ本体部3と、このポンプ本体部3に取付けられた急排弁構造体4とを備えている。
【0012】
<ポンプ本体部の説明>
ポンプ本体部3は、モータ2に固定されたハウジング5と、このハウジング5に保持された複数の機能部品とによって構成されている。
ハウジング5は、複数の部材をモータ2の軸線方向(
図1においては上下方向)に組み合わせて円柱状に形成されており、モータ2の回転軸6と同一軸線上に位置付けられている。
【0013】
ハウジング5を構成する複数の部材は、モータ2に固定用ボルト7によって固定された有底角筒状の底体11と、この底体11の開口部分に取付けられたダイヤフラムホルダー12と、このダイヤフラムホルダー12との間に後述するダイヤフラム13が挟まれる状態でダイヤフラムホルダー12に取付けられた円板状のバルブホルダー14などである。
【0014】
ダイヤフラム13は、ダイヤフラムホルダー12とバルブホルダー14とに挟まれて保持されている。また、ダイヤフラム13は、バルブホルダー14に向けて開口する複数のカップ状の変形部15を有している。これらの変形部15は、ハウジング5の周方向において、ダイヤフラム13を複数に分割する位置にそれぞれ設けられている。また、これらの変形部15は、ダイヤフラムホルダー12に形成された穴12aの中に挿入されている。
変形部15の開口部分は、バルブホルダー14によって閉塞されている。また、個々の変形部15の開口部分には、変形部15の内方に向けてバルブホルダー14に沿って突出する板状の吸入用弁体16が一体に形成されている。
【0015】
この変形部15とバルブホルダー14との間にポンプ室17が形成されている。このため、ダイヤフラム13は、バルブホルダー14と協働してポンプ室17を形成している。
カップ状を呈する変形部15の底にはピストン18が設けられているとともに、ポンプ室17とは反対方向に向けて突出する連結片19が設けられている。この連結片19は、後述する駆動機構21の駆動体22に連結されている。
【0016】
バルブホルダー14におけるポンプ室17の壁を構成する部分には、吸入通路23と出力通路24とが穿設されている。吸入通路23は、バルブホルダー14の外縁側であって、上述した吸入用弁体16と重なる位置に設けられている。この吸入通路23のポンプ室17側の開口は、吸入用弁体16によって開閉される。
出力通路24は、バルブホルダー14の中心側に設けられている。
【0017】
バルブホルダー14におけるポンプ室17とは反対側の端面には、本発明でいう「吐出弁」を構成する吐出用弁体25が取付けられている。吐出用弁体25は、バルブホルダー14の中央部に突設された突起14aに取付けられた基部25aと、この基部25aからバルブホルダー14に沿って突出するポンプ室17毎の弁体部25bとを有している。弁体部25bは、出力通路24におけるポンプ室17とは反対側の開口と対向している。この出力通路24の開口は、弁体部25bによって開閉される。
【0018】
この吐出用弁体25と上述した吸入用弁体16は、ポンプ室17の容積の増減に伴ってそれぞれ開閉する。吐出用弁体25は、ポンプ室17の容積が減少する収縮行程で開き、それ以外の場合は閉じている。吸入用弁体16は、ポンプ室17の容積が増加する拡張行程で開き、それ以外の場合は閉じている。ポンプ室17の容積は、ダイヤフラム13のピストン18が後述する駆動機構21により押されたり引かれたりすることによって変化する。
【0019】
駆動機構21は、モータ2の回転軸6に取付けられたクランク体31と、このクランク体31に駆動軸32を介して連結された駆動体22などを備えている。クランク体31は、円柱状に形成されており、回転軸6に固定されている。このため、クランク体31は、回転軸6と一体に回転する。
駆動軸32は、クランク体31側の一端部がクランク体31における回転軸6とは偏心した部位に固着されてクランク体31に支持され、回転軸6に対して所定の方向に傾斜している。
【0020】
駆動体22は、駆動軸32に回転自在に支持された円柱状の軸部33と、この軸部33から径方向の外側に 突出する複数の腕部34とによって構成されている。
腕部34は、ダイヤフラム13の変形部15毎に設けられており、軸部33から放射状に径方向の外側へ延びている。腕部34には貫通穴34aが穿設されている。この貫通穴34aには、ダイヤフラム13の連結片19が係入されている。連結片19は、腕部34を貫通した状態で腕部34に固定されている。
この駆動機構21によれば、モータ2の回転軸6とともにクランク体31と駆動軸32とが回転することにより、駆動体22が揺動し、ポンプ室17を拡縮させる。
【0021】
<急排弁構造体の説明>
急排弁構造体4は、バルブホルダー14に取付けられた下側筐体41と、この下側筐体41に重ねて取付けられた上側筐体42と、これらの下側筐体41と上側筐体42との間に挟まれて保持された隔壁43とによって構成されている。
【0022】
下側筐体41は、バルブホルダー14に向けて突出する外側筒状体44、内側筒状体45および仕切壁46と、バルブホルダー14とは反対側に向けて突出する円筒47とを有している。この下側筐体41は、プラスチック材料を使用して型(図示せず)によって所定の形状に成型されている。
外側筒状体44は、下側筐体41の外縁部に設けられている。内側筒状体45と仕切壁46は、外側筒状体44の内方に設けられている。これらの外側筒状体44、内側筒状体45および仕切壁46の突出端は、気密となるようにバルブホルダー14に固定されている。
【0023】
外側筒状体44と内側筒状体45との間には、吸入空間48が形成されている。この吸入空間48は、外側筒状体44および内側筒状体45を含む下側筐体41の外縁部と、バルブホルダー14の外縁部とによって囲まれて形成されている。上述した吸入通路23は、この吸入空間48とポンプ室17とを連通している。また、吸入空間48は、外側筒状体44を貫通する流入通路49によって大気中に連通されている。
仕切壁46は、内側筒状体45によって囲まれた空間をポンプ室毎に仕切っている。この実施の形態においては、
図1において右側に描かれているポンプ室17と対応する第1の供給空間50と、
図1において左側に描かれているポンプ室17と対応する第2の供給空間51とが仕切壁46によって内側筒状体45の中に形成されている。
【0024】
第1の供給空間50と第2の供給空間51は、下側筐体41の内側筒状体45を含む中央部と、バルブホルダー14の中央部とによって囲まれて形成されている。上述した出力通路24は、第1および第2の供給空間50,51とポンプ室17とを連通している。また、吐出用弁体25は、この第1の供給空間50と第2の供給空間51にそれぞれ設けられている。
【0025】
下側筐体41の中央部であって、第1の供給空間50の壁を構成する部分には、第1の供給通路52が穿設されている。この第1の供給通路52の一端は、第1の供給空間50に開口し、他端は、下側筐体41と後述する隔壁43との間に形成された入力側空間53に開口している。この第1の供給通路52は、ポンプ室17から出力通路24と第1の供給空間50とを通して気体が供給される。
下側筐体41の第2の供給空間51の壁を構成する部分には、第2の供給通路54が穿設されている。第2の供給通路54の一端は、第2の供給空間51に開口し、他端は、円筒47の内部に開口している。円筒47の内部は、上側筐体42と後述する隔壁43との間に形成された出力側空間61に連通されている。
【0026】
円筒47は、下側筐体41の一側部(
図1においては左側部)に設けられている。
下側筐体41の他側部であって、バルブホルダー14とは反対側の端面には、排出通路55が形成されている。この排出通路55は、
図3に示すように、下側筐体41における上側筐体42との合わせ面41aに開口する凹溝によって形成されている。排出通路55の通路断面積は、第1の供給通路52の通路断面積以上である。また、排出通路55の通路長は、第1の供給通路52の通路長より長く、予め定めた流路抵抗が生じる通路長である。この流路抵抗の説明は後述する。
【0027】
上側筐体42は、
図1および
図2に示すように、下側筐体41とは反対側に向けて突出する吐出用円筒部56および排気用円筒部57を有し、後述する隔壁43が下側筐体41との間に挟まれる状態で下側筐体41に気密となるように取付けられている。
吐出用円筒部56は、下側筐体41の円筒47と対向する位置に設けられている。
【0028】
この実施の形態による吐出用円筒部56は、下側筐体41の円筒47を覆う大径部56aと、この大径部56aから突出する小径部56bとによって形成されている。この実施の形態においては、この吐出用円筒部56の内部に吐出通路58が形成されている。小径部56bには、空気供給用ホース(図示せず)の一端が接続される。空気供給用ホースの他端には図示してない加圧対象物が接続される。
【0029】
排気用円筒部57は、内筒57aと外筒57bとを有する二重筒となるように形成されている。内筒57aの中心部には排気通路59が形成されている。排気通路59の一端は、上側筐体42と後述する隔壁43との間に形成された出力側空間61に排気口62として開口している。排気通路59の他端は、上側筐体42の上面(急排弁構造体4の外面)に開口している。
【0030】
隔壁43は、ゴムなどの弾性材料によって板状に形成され、下側筐体41と上側筐体42との間を仕切っている。隔壁43と下側筐体41との間に形成された入力側空間53は、下側筐体41の第1の供給通路52に接続されている。上述した排出通路55の上流端(
図1においては左端)は、隔壁43と下側筐体41の急排弁用支持座63との間に形成された隙間64(
図3参照)によって入力側空間53に接続されている。この排出通路55の下流端は、下側筐体41の外面(急排弁構造体4の外面)に開口している。
【0031】
隔壁43と上側筐体42との間に形成された出力側空間61は、入力側空間53とは隔壁43によって仕切られている。この出力側空間61は、上側筐体42に設けられている吐出通路58と排気通路59とにそれぞれ接続されている。
隔壁43の一側部(
図1においては左側部)には、上側筐体42に向けて突出する筒状弁体65が設けられている。この筒状弁体65は、下側筐体41の円筒47と協働して逆止弁66を構成するものである。
【0032】
この逆止弁66は、入力側空間53の空気を出力側空間61に流す。円筒47は、逆止弁66の弁座を構成している。この筒状弁体65は、円筒47の外周面を覆う円筒状に形成されている。筒状弁体65の突出端は、円筒47の外周面に周方向の全域にわたって密着している。筒状弁体65の基端部は、円筒47より径が大きくなるように形成されている。この筒状弁体65と円筒47との間の空間は、入力側空間53の一部である。
【0033】
また、隔壁43には、
図2に示すように、急排弁71の弁体72が設けられている。急排弁71は、弁体72と、上述した排気用円筒部57の内筒57aに形成された弁座73とによって構成されている。
弁体72は、相対的に薄く形成された環状の支持部72aと、この支持部72aの中央に位置する板状部72bとによって構成されている。この弁体72の板状部72bは、入力側空間53の圧力と出力側空間61の圧力とに応じて移動し、弁座73に対して接離する。
【0034】
入力側空間53の圧力が出力側空間61の圧力より高い場合は、
図2に示すように、弁体72が弁座73に着座して排気口62を閉じる。また、入力側空間53の圧力が出力側空間61の圧力以下の場合には、
図1に示すように、弁体72が弁座73から離れて排気口62が開き、板状部72bが下側筐体41の急排弁用支持座63に接触する状態になる。
【0035】
<第1の実施の形態による急排弁一体型ダイヤフラムポンプの動作の説明>
次に、上述したように構成された急排弁一体型ダイヤフラムポンプ1の動作を説明する。
モータ2の回転軸6が回転すると、クランク体31と駆動軸32とが回転軸6を中心にして回転し、駆動体22の腕部34がダイヤフラム13のピストン18を押したり引いたりする。ピストン18が腕部34によって引かれることにより、ポンプ室17が拡張するとともに吸入用弁体16が開き、大気が流入通路49から吸入空間48と吸入通路23とを通ってポンプ室17に吸入される。一方、ピストン18が腕部34によって押されることにより、ポンプ室17が収縮するとともに吐出用弁体25が開き、ポンプ室17内の空気が出力通路24と、第1および第2の供給空間50,51と、第1および第2の供給通路52,54とに流出する。第1の供給通路52に流れ込んだ空気は、入力側空間53に流入する。第2の供給通路54に流れ込んだ空気は、出力側空間61に流入する。
【0036】
入力側空間53は、排出通路55を介して大気中に開放されている。このため、入力側空間53に流入した空気は、排出通路55の流路抵抗を受けながら排気通路59を通って大気中に放出される。排出通路55を通って排出される空気の最大流量は、排出通路55の流路抵抗によって制約を受ける。この流路抵抗は、第1の供給通路52を通って入力側空間53に流入する空気の流量が所定の流量以下である場合に、その空気の全量が排出通路55を通って排出されるように設定されている。この「所定の流量」は、全てのポンプ室17の吐出量に応じて適宜設定される。第1の供給通路52を通って入力側空間53に流入する空気の流量が所定の流量以下である場合は、急排弁71が
図1に示すように開状態となる。この状態においては、第2の供給通路54から出力側空間61に流入した空気の大部分は、排気通路59からポンプ外に排出される。
【0037】
第1の供給通路52を通る空気の流量が上述した所定の流量を越えた場合には、この空気を排出通路55のみでは排出できなくなり、入力側空間53の圧力が上昇する。この場合は、入力側空間53の圧力上昇に伴って急排弁71が排気口62を閉塞する。そして、逆止弁66の筒状弁体65が
図2に示すように開いて入力側空間53の空気が逆止弁66を通って出力側空間61に流出する。
【0038】
すなわち、排出通路55の流路抵抗は、第1の供給通路52を通る空気の流量が所定の流量以下の場合にこの空気の全量が排出通路55から排出され、かつ第1の供給通路52を通る空気の流量が所定の流量を越えた場合、急排弁71が排気口62を閉塞するとともに、入力側空間53の空気が逆止弁66を通って出力側空間61に流出するような流路抵抗である。
【0039】
逆止弁66を通って出力側空間61に流出した空気と、第2の供給通路54を通って出力側空間61に流出した空気は、上側筐体42の吐出用円筒部56から図示していないホースを通って加圧対象物に供給される。このため、この急排弁一体型ダイヤフラムポンプ1によれば、一部のポンプ室(
図1において左側のポンプ室17)から第2の供給通路54に吐出された空気は逆止弁66を通ることなく出力側空間61に供給されるから、全ての空気が逆止弁66を通る場合と較べると流量損失を低減することができる。
【0040】
モータ2が停止してポンプが停止すると、入力側空間53に第1の供給通路52から空気が供給されることがなくなる。このため、入力側空間53の圧縮された空気は、直ちに排出通路55を通って大気中に排出される。これに伴って、入力側空間53の圧力が速やかに出力側空間61の圧力以下になり、この結果、急排弁71が早く開き、出力側空間61を通って加圧対象物から空気が速やかに排出されるようになる。
【0041】
(第2の実施の形態)
本発明に係る急排弁一体型ダイヤフラムポンプの急排弁構造体は
図4~
図14に示すように構成することができる。これらの
図4~
図14において、
図1~
図3によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図4に示す急排弁一体型ダイヤフラムポンプ81は、3つのポンプ室82~84を備えている。以下においては、これらのポンプ室82~84を第1のポンプ室82、第2のポンプ室83、第3のポンプ室84として説明する。この実施の形態においては、第1,第2のポンプ室82,83が本発明でいう「複数のポンプ室のうちの一部のポンプ室」に相当し、第3のポンプ室84が本発明でいう「残りのポンプ室」に相当する。
【0042】
<急排弁構造体の説明>
この実施の形態による急排弁構造体4は、ダイヤフラム13に重ねられる第1の筐体85と、第1の筐体85に重ねられる隔壁86と、隔壁86に重ねられる第2の筐体87とによって構成されている。第1の筐体85と第2の筐体87はプラスチック材料によって所定の形状に成型されている。隔壁86は、ゴムなどの弾性材料によって板状に形成されている。隔壁86の表裏両面には、後述する各種の機能部を囲むようにシール用の突条86a(
図7参照)が形成されている。
この実施の形態によるダイヤフラム13は、第1の実施の形態で示したものとはポンプ室の数が異なる他は同等の構成が採られている。
【0043】
第1の筐体85は、ダイヤフラム13と隔壁86との間に設けられ、
図9に示すように、ダイヤフラム13と協働して第1~第3のポンプ室82~84を形成している。なお、
図9には、第1のポンプ室82と第3のポンプ室84のみが図示されている。
図9の破断位置は、
図7中にIX-IX線によって示す位置である。
また、第1の筐体85は、第1の実施の形態における下側筐体41とバルブホルダー14の機能を有するもので、
図10に示すように、隔壁86と協働して入力側空間53を形成している。
図10の破断位置は、
図6中にX-X線によって示す位置である。入力側空間53は、第1の筐体85に形成された凹部88の開口部分を隔壁86が塞ぐことによって形成されている。
【0044】
第2の筐体87は、第1の実施の形態における上側筐体42の機能を有するもので、
図9に示すように、隔壁86を第1の筐体85と協働して挟み、隔壁86との間に出力側空間61を形成している。出力側空間61は、第2の筐体87に形成された凹部89の開口部分を隔壁86が塞ぐことによって形成されている。
【0045】
<空気吸入系の説明>
この実施の形態による急排弁一体型ダイヤフラムポンプ81の空気吸入系は、上述した第1の実施形態を採る場合とは異なり、隔壁86と接する第1の筐体85を利用して構成されている。空気吸入系は、第1~第3のポンプ室82~84毎に設けられている。ここでは便宜上、第1のポンプ室82の空気吸入系を
図11によって説明する。
図11の破断位置は、
図5中にXI-XI線で示す位置である。
【0046】
図11に示すように、ダイヤフラム13に一体に形成された吸入用弁体16は、ダイヤフラムホルダー12に形成された吸入通路23を開閉するように構成されている
吸入通路23は、ダイヤフラムホルダー12を貫通し、ポンプ本体部3内と、吸入用弁体16を収容するダイヤフラム13の吸入空間91とを連通している。ダイヤフラム13がダイヤフラムホルダー12に重ねられることにより、吸入用弁体16がダイヤフラムホルダー12に着座して吸入通路23の下流端が閉塞される。ダイヤフラム13の吸入空間91は、第1の筐体85に形成された溝92を介してポンプ室(
図11においては第3のポンプ室84)に連通されている。ポンプ本体部3内は、ハウジング5に形成された通気孔(図示せず)を介してポンプ外に連通している。このため、この急排弁一体型ダイヤフラムポンプ81は、ポンプ本体部3内を通して大気を吸入する。
【0047】
<空気吐出系の説明>
図10に示す入力側空間53の一端部(
図10においては右側の端部)には、排出通路55が接続されている。この実施の形態による排出通路55は、隔壁86に形成された通気孔93と、通気孔93に挿入された第1の筐体85の円柱94と、円柱94が嵌合する第2の筐体87の貫通孔95と、貫通孔95の内周面に形成された溝96とによって構成されている。溝96は、貫通孔95の孔壁面に貫通孔95の一端から他端まで延びるように形成されている。
【0048】
図9に示すように、第1の筐体85は、第1~第3のポンプ室82~84と対向する位置にそれぞれポンプ出口通路101を有している。ポンプ出口通路101は、第1の筐体85を貫通している。第1の筐体85の隔壁86と対向する面におけるポンプ出口通路101の周囲には、
図6に示すように平坦面からなる第1~第3の弁座102~104が形成されている。これらの第1~第3の弁座102~104には、
図7に示すように隔壁86に設けられた第1~第3の吐出用弁体105~107が着座する。
【0049】
第1~第3の吐出用弁体105~107は、隔壁86に急排弁71の弁体72や逆止弁66の筒状弁体65とともに一体に形成されている。詳述すると、第1~第3の吐出用弁体105~107は、
図7に示すように、円板状を呈する隔壁86の外周部から径方向の中央に向けて突出する略半円形の板状に形成されている。隔壁86が第1の筐体85に重ねられることにより、第1~第3の吐出用弁体105~107が第1の筐体85の第1~第3の弁座102~104に着座する。第1~第3の吐出用弁体105~107が第1~第3の弁座102~104に着座することにより、ポンプ室毎のポンプ出口通路101の下流端が閉塞される。第1~第3の吐出用弁体105~107は、第1~第3のポンプ室82~84の圧力が上昇することにより、第1~第3のポンプ室82~84内の圧力によって押されて開く。この実施の形態においては、第1~第3の吐出用弁体105~107が本発明でいう「ポンプ出口通路を開閉する吐出弁」に相当する。
【0050】
<第1の供給通路の説明>
図6に示すように、第1の筐体85における第1および第2の弁座102,103の近傍には、第1および第2の吐出用弁体105,106の形状に倣う第1および第2の円弧状の溝111,112が形成されている。これらの第1および第2の円弧状の溝111,112は、
図9に示すように、第2の筐体87に形成された凹部113と、隔壁86に形成された穴114などと協働して第1の供給空間50を形成している。
図9に示す第1の供給空間50は第1の吐出用弁体105を収容する空間である。なお、図示してはいないが、第2の吐出用弁体106も第2の円弧状の溝112を含む第1の供給空間50に収容されている。
【0051】
第1の供給空間50は、第1、第2の吐出用弁体105,106が開いて流出した空気を受ける空間である。
図6に示すように、第1および第2の円弧状の溝111,112は、第1の筐体85に形成された連通溝115,116を介して入力側空間53の壁となる凹部88に接続されている。これらの第1および第2の円弧状の溝111,112と連通溝115,116とを有する第1の筐体85に隔壁86が重ねられることにより、第1および第2の吐出用弁体105,106から第1の筐体85と隔壁86との間を通って入力側空間53に至る第1の供給通路52(
図9参照)が形成される。
【0052】
<第2の供給通路の説明>
図6に示すように、第3の弁座104の近傍には、第3の円弧状の溝117が形成されている。この第3の円弧状の溝117も第3の吐出用弁体107に倣う形状に形成されている。第3の円弧状の溝117は、
図9に示すように、第2の筐体87に形成された凹部118と、隔壁86に形成された穴119などと協働して第2の供給空間51を形成している。第2の供給空間51は、第3の吐出用弁体107が開いて流出した空気を受ける空間で、第2の筐体87に形成された溝121を介して出力側空間61に連通されている。この溝121を有する第2の筐体87が隔壁86に重ねられることにより、第3の吐出用弁体107から隔壁86と第2の筐体87との間を通って出力側空間61に至る第2の供給通路54(
図9参照)が形成される。
【0053】
<入力側空間から逆止弁を経て出力側空間に至る部分の説明>
入力側空間53は、
図12に示すように逆止弁66の上流側端部(
図12においては下端部)に接続されている。
図12の破断位置は、
図6中にXII-XII線で示す位置である。逆止弁66の下流側端部は、
図13および
図14に示すように、第2の筐体87に形成された溝122を介して出力側空間61に接続されている。
図13の破断位置は、
図8中にXIII-XIII線で示す位置である。
図14は第2の筐体87をモータ2の回転軸6の軸線と直交する方向に破断した断面図である。
【0054】
<第2の実施の形態による急排弁一体型ダイヤフラムポンプの動作の説明>
この実施の形態による急排弁一体型ダイヤフラムポンプ81においては、第1のポンプ室82と第2のポンプ室83から吐出された空気が第1の供給通路52を通って入力側空間53に流入し、第3のポンプ室84から吐出された空気が第2の供給通路54を通って出力側空間61に流入する。このため、この急排弁一体型ダイヤフラムポンプ81によれば、一部のポンプ室(第3のポンプ室84)から第2の供給通路54に吐出された空気は逆止弁66を通ることなく出力側空間61に供給される。したがって、この実施の形態対を採る場合であっても、全ての空気が逆止弁66を通る場合と較べると流量損失を低減することができる。
【0055】
この実施の形態による第1の供給通路52は、第1および第2の吐出用弁体105,106から第1の筐体85と隔壁86との間を通って入力側空間53に至るように形成されている。また、第2の供給通路54は、第3の吐出用弁体107から隔壁86と第2の筐体87との間を通って出力側空間61に至るように形成されている。このため、第1の筐体85、隔壁86および第2の筐体87が重ねられる方向において、第1の供給通路52と入力側空間53とを略同じ位置に形成することができるとともに、第2の供給通路54を出力側空間61と略同じ位置に形成することができる。したがって、第1の筐体85、隔壁86および第2の筐体87が重ねられる方向にコンパクトな急排弁一体型ダイヤフラムポンプを提供することができる。
【符号の説明】
【0056】
1,81…急排弁一体型ダイヤフラムポンプ、3…ポンプ本体部、4…急排弁構造体、13…ダイヤフラム、17…ポンプ室、21…駆動機構、43,86…隔壁、52…第1の供給通路、53…入力側空間、54…第2の供給通路、55…排出通路、58…吐出通路、59…排気通路、61…出力側空間、62…排気口、66…逆止弁、71…急排弁、72…弁体、82…第1のポンプ室、83…第2のポンプ室、84…第3のポンプ室、85…第1の筐体、87…第2の筐体、101…ポンプ出口通路、105…第1の吐出用弁体(吐出弁)、106…第2の吐出用弁体(吐出弁)、107…第3の吐出用弁体(吐出弁)。