(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147507
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20231005BHJP
C08J 3/16 20060101ALI20231005BHJP
C08F 20/14 20060101ALI20231005BHJP
C08F 265/06 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08J5/18 CEY
C08J3/16
C08F20/14
C08F265/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055038
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】起 貞吾
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩嗣
【テーマコード(参考)】
4F070
4F071
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4J100
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
【課題】乳化重合によって合成した(メタ)アクリル系重合体の凝固品を用いて、溶液流延法によって、低ヘイズで、発泡が抑制された樹脂フィルムを製造する方法の提供。
【解決手段】樹脂フィルムの製造方法は、乳化重合によって(メタ)アクリル系重合体のラテックスを得る工程、前記ラテックスに凝固剤を添加して前記(メタ)アクリル系重合体を凝固させた後、水相から前記(メタ)アクリル系重合体を分離する工程、分離した前記(メタ)アクリル系重合体を、エタノールを含む溶媒と混合してドープを形成する工程、及び、前記ドープを支持体表面に流延した後、前記溶媒を蒸発させる工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化重合によって(メタ)アクリル系重合体のラテックスを得る工程、
前記ラテックスに凝固剤を添加して前記(メタ)アクリル系重合体を凝固させた後、水相から前記(メタ)アクリル系重合体を分離する工程、
分離した前記(メタ)アクリル系重合体を、エタノールを含む溶媒と混合してドープを形成する工程、及び
前記ドープを支持体表面に流延した後、前記溶媒を蒸発させる工程を含む、樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記凝固剤は、無機塩または酸である、請求項1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記無機塩は、カルシウム塩又はマグネシウム塩である、請求項2に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記溶媒中のエタノールの含有割合は1~25重量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記溶媒は、塩化メチレンをさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル系重合体は、メタクリル酸メチル単位30~100重量%、及び、これと共重合可能な他の単量体単位0~70重量%を構成単位とする重合体である、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記共重合可能な他の単量体単位が、エステル部位の炭素数が1~20である(メタ)アクリル酸エステル単位(ただし、メタクリル酸メチル単位を除く)、及び/又は、置換又は無置換のマレイミド単位を含む、請求項6に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記(メタ)アクリル系重合体は、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)と、非架橋メタクリル系重合体成分(b)とを含むグラフト共重合体であり、
架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)と非架橋メタクリル系重合体成分(b)の合計のうち架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)の占める割合が1重量%以上50重量%未満である、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項9】
非架橋メタクリル系重合体成分(b)は、メタクリル酸メチル単位を70重量%以上99重量%以下含む、請求項8に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項10】
非架橋メタクリル系重合体成分(b)は、置換又は無置換のマレイミド単位、及び、エステル部位が縮合環構造を有する炭素数7~16の飽和炭化水素基であるメタクリル酸エステル単位、のうち少なくとも1種を含む、請求項8又は9に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項11】
乳化重合によって合成した(メタ)アクリル系重合体の凝固品、及び、
エタノールを含む溶媒、を含む、ドープ。
【請求項12】
請求項11に記載のドープを支持体表面に流延した後、前記溶媒を蒸発させる工程を含む、樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液流延法によって樹脂フィルムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイの偏光子保護フィルムに使用されるTAC(トリアセチルセルロース)は、近年、画面の大型化、高精細化に伴い、高い透湿性、吸水性が原因で、輸送中にパネルが反り、画質低下を引き起こす課題が顕在化している。
【0003】
アクリル系樹脂フィルムは、優れた光学特性を有し、低透湿、低吸水性であることから、TACフィルムの代替フィルムとして、注目を集めてきている。
【0004】
特許文献1には、アクリル樹脂を溶液流延法でフィルム化する際に、乾燥工程での残留溶媒量や温度等の条件を最適化することによって、得られるフィルムの白化や、フィルムに発生する気泡を抑制する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、特定の構造を有する懸濁重合分散剤の存在下で懸濁重合することにより得たアクリル系重合体を溶液流延法で用いることによって、光学物性や寸法安定性、接着性に優れるフィルムが得られるとの開示がある。
【0006】
一方、アクリル系樹脂フィルムの主成分たる(メタ)アクリル系重合体を製造するための重合方法の1つとして、乳化重合が知られている。
乳化重合で得られたラテックスから重合体を分離する方法として、ラテックスに加熱乾燥や噴霧乾燥などの乾燥法を適用することが考えられるが、乾燥法では多量のエネルギーが必要となる。
乾燥法と比較して消費エネルギーを抑制できる手法として、乳化重合後のラテックスに凝固剤を添加して樹脂成分を凝固させた後、水相から分離する方法が知られている(例えば、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-177089号公報
【特許文献2】特表2019-533203号公報
【特許文献3】特開2013-124282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように乳化重合後に凝固剤を用いて水相から分離した(メタ)アクリル系重合体の凝固品を用いて、溶液流延法にて樹脂フィルムを製造すると、得られる樹脂フィルムのヘイズが悪化したり、フィルムに微細な気泡が含まれる場合があることが判明した。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑み、乳化重合によって合成した(メタ)アクリル系重合体の凝固品を用いて、溶液流延法によって、低ヘイズで、発泡が抑制された樹脂フィルムを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、乳化重合によって合成した(メタ)アクリル系重合体の凝固品を用いて、溶液流延法にて樹脂フィルムを製造する際に、溶液流延法のドープに使用する溶媒として、少なくともエタノールを使用することで、得られた樹脂フィルムが低ヘイズとなり、発泡が抑制され得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、乳化重合によって(メタ)アクリル系重合体のラテックスを得る工程、
前記ラテックスに凝固剤を添加して前記(メタ)アクリル系重合体を凝固させた後、水相から前記(メタ)アクリル系重合体を分離する工程、
分離した前記(メタ)アクリル系重合体を、エタノールを含む溶媒と混合してドープを形成する工程、及び
前記ドープを支持体表面に流延した後、前記溶媒を蒸発させる工程を含む、樹脂フィルムの製造方法に関する。
好ましくは、前記凝固剤は、無機塩または酸である。
好ましくは、前記無機塩は、カルシウム塩又はマグネシウム塩である。
好ましくは、前記溶媒中のエタノールの含有割合は1~25重量%である。
好ましくは、前記溶媒は、塩化メチレンをさらに含む。
好ましくは、前記(メタ)アクリル系重合体は、メタクリル酸メチル単位30~100重量%、及び、これと共重合可能な他の単量体単位0~70重量%を構成単位とする重合体である。
好ましくは、前記共重合可能な他の単量体単位が、エステル部位の炭素数が1~20である(メタ)アクリル酸エステル単位(ただし、メタクリル酸メチル単位を除く)、及び/又は、置換又は無置換のマレイミド単位を含む。
好ましくは、前記(メタ)アクリル系重合体は、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)と、非架橋メタクリル系重合体成分(b)とを含むグラフト共重合体であり、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)と非架橋メタクリル系重合体成分(b)の合計のうち架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)の占める割合が1重量%以上50重量%未満である。
好ましくは、非架橋メタクリル系重合体成分(b)は、メタクリル酸メチル単位を70重量%以上99重量%以下含む。
好ましくは、非架橋メタクリル系重合体成分(b)は、置換又は無置換のマレイミド単位、及び、エステル部位が縮合環構造を有する炭素数7~16の飽和炭化水素基であるメタクリル酸エステル単位、のうち少なくとも1種を含む。
また本発明は、乳化重合によって合成した(メタ)アクリル系重合体の凝固品、及び、エタノールを含む溶媒、を含む、ドープにも関する。
さらに本発明は、前記ドープを支持体表面に流延した後、前記溶媒を蒸発させる工程を含む、樹脂フィルムの製造方法にも関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、乳化重合によって合成した(メタ)アクリル系重合体の凝固品を用いて、溶液流延法によって、低ヘイズで、発泡が抑制された樹脂フィルムを製造する方法を提供することができる。
本発明によって得られる樹脂フィルムは、含まれる微細な気泡が低減されており、外観に優れ、透明性の高いフィルムであり得る。このような樹脂フィルムは、光学欠陥が少なく、光取出し効率が高いため、液晶表示部材用の光学フィルム、特に、偏光子保護フィルムとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、乳化重合によって(メタ)アクリル系重合体のラテックスを得、前記ラテックスに凝固剤を添加して前記(メタ)アクリル系重合体を凝固させた後、水相から該重合体を分離し、該重合体を、エタノールを含む溶媒と混合してドープを形成し、前記ドープを支持体表面に流延した後、前記溶媒を蒸発させることにより、樹脂フィルムを製造するものである。
【0014】
((メタ)アクリル系重合体)
まず、本実施形態における(メタ)アクリル系重合体について二種類の態様を説明する。尚、「(メタ)アクリル」とは、アクリルとメタクリルをまとめて表記するものであり、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。
【0015】
<第一の態様に係る(メタ)アクリル系重合体>
第一の態様に係る(メタ)アクリル系重合体は、メタクリル酸メチル単位30~100重量%、及び、これと共重合可能な他の単量体単位0~70重量%を構成単位とする重合体であってよい。該(メタ)アクリル系重合体は、架橋構造を有しない重合体であることが好ましい。
【0016】
外観、耐候性の観点から、第一の態様に係る(メタ)アクリル系重合体は、該重合体の構成単位全量のうち、メタクリル酸メチル単位を30重量%以上含めばよいが、50重量%以上含むことが好ましく、60重量%以上含むことがより好ましく、70重量%以上含むことがさらに好ましく、80重量%以上含むことが特に好ましい。また、光学特性や耐熱性の観点から、上限は99.9重量%以下であることが好ましく、99重量%以下であることがより好ましく、97重量%以下であることがさらに好ましく、95重量%以下であることが特に好ましい。なお、加工性、外観の観点から、前記(メタ)アクリル系重合体は、分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能性単量体単位を含まないことが好ましい。
【0017】
また、メタクリル酸メチル単位と共重合可能な他の単量体単位としては、例えば、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸エポキシシクロヘキシルメチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシルエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシルプロピル、メタクリル酸ジシクロペンタニル、メタクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル、メタクリル酸2,2,2-トリクロロエチル、メタクリル酸イソボルニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸エポキシシクロヘキシルメチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピルなどの、エステル部位の炭素数が1~20である(メタ)アクリル酸エステル単位(ただし、メタクリル酸メチルを除く);メタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド単位;メタクリル酸、アクリル酸などのカルボン酸類およびその塩;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのビニルシアン単位;スチレン、α-メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等のビニルアレーン単位;N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-メチルマレイミド等のマレイミド単位;マレイン酸、フマル酸およびそれらのエステル類;塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレンなどのハロゲン化ビニル類;蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、イソブチレンなどのアルケン類などが挙げられる。これらの単量体は単独または2種類以上を使用することができる。
【0018】
なかでも、エステル部位の炭素数が1~20である(メタ)アクリル酸エステル単位(ただし、メタクリル酸メチルを除く)、ビニルアレーン単位、及び/又は、置換又は無置換のマレイミド単位が好ましく、エステル部位の炭素数が1~20である(メタ)アクリル酸エステル単位(ただし、メタクリル酸メチルを除く)、及び/又は、置換又は無置換のマレイミド単位が特に好ましい。
【0019】
前記(メタ)アクリル系重合体は、溶液流延法を用いて樹脂フィルムを製造するために用いられる。そのため、共重合可能な他の単量体単位としては、溶媒の揮発速度を高める乾燥促進性コモノマーを構造単位として含むことが好ましい。
【0020】
良好な耐熱性を有し、かつ、溶媒の揮発速度を高めることができる乾燥促進性コモノマー単位としては、置換又は無置換のマレイミド単位、エステル部位が炭素数2~8の第一級もしくは第二級炭化水素基、又は芳香族系炭化水素基であるメタクリル酸エステル単位、エステル部位が縮合環構造を有する炭素数7~16の飽和炭化水素基であるメタクリル酸エステル単位、エステル部位がエーテル結合を含む直鎖状又は分岐状の基であるメタクリル酸エステル単位、及び、ビニルアレーン単位からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの乾燥促進性コモノマー単位を用いると、(メタ)アクリル系重合体が優れた耐熱性を有しながら、溶液流延法での流延膜からの溶媒の揮発速度を速くすることが可能となる。
【0021】
前記マレイミド単位としては、例えば、N-フェニルマレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-メチルマレイミド等が挙げられ、N-フェニルマレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミドが好ましい。
【0022】
前記エステル部位が炭素数2~8の第一級もしくは第二級炭化水素基、又は芳香族系炭化水素基であるメタクリル酸エステル単位としては、例えば、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等が挙げられる。このうち、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ベンジルが好ましい。
【0023】
前記エステル部位が縮合環構造を有する炭素数7~16の飽和炭化水素基であるメタクリル酸エステル単位としては、例えば、メタクリル酸ジシクロペンタニル、メタクリル酸イソボルニル等が挙げられる。前記飽和炭化水素基の炭素数は8~14が好ましく、9~12がより好ましい。また、縮合環構造とは、特に限定されないが、連続する3つの炭素原子によって2つの五員環が縮環した構造であることが好ましい。
【0024】
前記エステル部位がエーテル結合を含む直鎖状又は分岐状の基であるメタクリル酸エステル単位としては、例えば、メタクリル酸2-メトキシエチル等が挙げられる。
【0025】
前記ビニルアレーン単位としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等が挙げられる。このうち、スチレンが好ましい。
【0026】
第一の態様に係る(メタ)アクリル系重合体は、該重合体の構成単位全量のうち、前記共重合可能な他の単量体単位を0~70重量%含有すればよい。しかし、光学特性や耐熱性を調整できることから、前記(メタ)アクリル系重合体は、前記共重合可能な他の単量体単位を0.1重量%以上含むことが好ましく、1重量%以上含むことがより好ましく、3重量%以上含むことがさらに好ましく、5重量%以上含むことが特に好ましい。また、上限は50重量%以下であることが好ましく、40重量%以下であることがより好ましく、30重量%以下であることがさらに好ましく、20重量%以下であることが特に好ましい。
【0027】
第一の態様に係る(メタ)アクリル系重合体は、耐熱性に優れるため、主鎖に環構造を有することが好ましい。環構造の例として、グルタルイミド環構造、ラクトン環構造、無水マレイン酸由来構造、置換又は無置換のマレイミド環構造、及び、無水グルタル酸環構造が挙げられる。また、(メタ)アクリル酸構造単位を分子中に含むアクリル系樹脂も挙げられる。具体的には、マレイミドアクリル系樹脂(共重合成分として無置換又はN-置換マレイミド化合物が共重合されているアクリル系樹脂)、グルタルイミドアクリル系樹脂、ラクトン環含有アクリル系樹脂、水酸基および/又はカルボキシル基を含有するアクリル系樹脂又はメタクリル系樹脂、スチレン単量体およびそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られるスチレン含有(メタ)アクリル系重合体の芳香族環を部分水素添加して得られる部分水添スチレン単位含有(メタ)アクリル系重合体、グルタル酸無水物構造やマレイン酸無水物由来構造等の環状酸無水物構造を有する(メタ)アクリル系重合体等が挙げられる。
【0028】
これらの中でも、樹脂フィルムの耐熱性を効果的に向上でき、光学特性とのバランスに優れることから、グルタルイミド環構造、置換又は無置換のマレイミド環構造が特に好ましい。これらは併用しても良く、(メタ)アクリル系重合体に光学特性、高い熱安定性、耐溶剤性を付与することができる。
【0029】
第一の態様に係る(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量は、特に限定されないが、得られる樹脂フィルムが強靭になり、良好な製膜性とのバランスが取れる観点から、40万~400万であることが好ましく、80万~350万であることがより好ましく、80万~300万であることがさらにより好ましく、100万~300万であることが特に好ましい。重量平均分子量は、80万~250万であってもよく、80万~200万であってもよい。
【0030】
また、溶融押出によって製膜する場合には、(メタ)アクリル系重合体を溶融させて粘度を下げる必要があるため、重合体の分子量を比較的低くする必要がある。しかし、本実施形態では溶液流延法によって製膜するため、重合体が高分子量のものであっても容易に成膜が可能である。この観点から、前記(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量は50万以上であってもよい。
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、標準ポリスチレン換算法により算出することができる。
【0031】
第一の態様に係る(メタ)アクリル系重合体は、優れた耐熱性を有していることが好ましく、耐熱性を示す指標として、ガラス転移温度を用いることができる。前記(メタ)アクリル系重合体は110℃以上のガラス転移温度を示すことが好ましく、114℃以上がより好ましく、115℃以上がさらに好ましく、119℃以上が更により好ましく、122℃以上が特に好ましく、125℃以上が最も好ましい。
【0032】
<第二の態様に係る(メタ)アクリル系重合体>
第二の態様に係る(メタ)アクリル系重合体は、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)と、非架橋メタクリル系重合体成分(b)とを含むグラフト共重合体であってよい。以下では、第二の態様に係る(メタ)アクリル系重合体を、グラフト共重合体ともいう。
【0033】
架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)はゴム成分であるため、強度の改善に寄与し得る。また、非架橋メタクリル系重合体成分(b)によって優れた耐熱性を達成することができる。メタクリル系樹脂にコアシェル型グラフト共重合体を混合してなる系と対比すると、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)は、前記コアシェル型グラフト共重合体におけるコアのゴム成分に相当し、非架橋メタクリル系重合体成分(b)は、マトリックスである前記メタクリル系樹脂に相当し得る。
【0034】
非架橋メタクリル系重合体成分(b)の少なくとも一部は、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)にグラフト結合している。当該グラフト結合は、後述するように乳化重合でグラフト共重合体を製造することによって実現できる。この製造方法に起因して、グラフト共重合体には、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)にグラフト結合していない非架橋メタクリル系重合体成分(b)も含まれ得る。
【0035】
第二の態様に係るグラフト共重合体は、粒子径の小さい架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)が高分子量の非架橋メタクリル系重合体成分(b)中に分散している構成を有することができ、そのため、グラフト共重合体中で架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)の凝集が進行しにくい。その結果、第二の態様に係るグラフト共重合体をパウダー状で貯蔵する時、また、溶媒に溶かしたドープとして貯蔵する時いずれの場合でも安定性が良好となる。また、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)の凝集が抑制されていることから、第二の態様に係るグラフト共重合体は溶媒に溶解しやすいという利点もある。
【0036】
(架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a))
架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)は、(メタ)アクリル系ゴム粒子である。第二の態様に係るグラフト共重合体は架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)を含むことによって、例えばフィルム化した時に高い強度を達成することができる。
【0037】
架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)は、粒子径が比較的小さいものであることが好ましく、具体的には平均粒子径が150nm以下であることが好ましい。このように粒子径が小さい架橋(メタ)アクリル系重合体粒子を使用することによって、第二の態様に係るグラフト共重合体を例えばフィルム化した時に低いヘイズを達成することができる。また、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子を小粒子化することで架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)と非架橋メタクリル系重合体成分(b)の屈折率を合わせる必要がなくなる。その結果、屈折率を考慮することなく、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)のガラス転移温度が低くなるような単量体組成を採用でき、これにより、グラフト共重合体を例えばフィルム化した時に高い強度を達成することができる。
【0038】
前記平均粒子径は、低ヘイズの観点から、130nm以下がより好ましく、120nm以下がさらに好ましく、110nm以下がより更に好ましく、100nm以下が特に好ましい。前記平均粒子径の下限は特に限定されないが、フィルムの強度、又は、粒子の製造の容易さの観点から、30nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましく、60nm以上がさらに好ましい。尚、平均粒子径は体積平均粒子径であり、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)のラテックスの状態で、市販の測定装置(例えば日機装株式会社のMicrotrac UPA150)を用いて測定することができる。また、平均粒子径は、粒子作製時の条件(具体的には乳化剤の種類や量、乳化重合時の撹拌条件など)を調節することによって制御可能である。
【0039】
架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)は、ガラス転移温度が-10℃以下を示すことが好ましい。このようにガラス転移温度が低い架橋(メタ)アクリル系重合体粒子を使用することによって、グラフト共重合体を例えばフィルム化した時に高い強度を達成することができる。ガラス転移温度は、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)を構成する単量体の種類や比率などを調節することによって制御できる。
【0040】
架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)のガラス転移温度は-20℃以下がより好ましく、-30℃以下がさらに好ましく、-40℃以下がより更に好ましく、-45℃以下が特に好ましい。前記ガラス転移温度の下限は特に限定されないが、例えば、-130℃以上が好ましく、-110℃以上がより好ましく、-100℃以上がさらに好ましく、-80℃以上がより更に好ましく、-70℃以上が特に好ましい。尚、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)のガラス転移温度は、ポリマーハンドブック[Polymer Hand Book(J.Brandrup,Interscience 1989)]に記載されている値を使用してFoxの式を用いて算出した値である(例えば、ポリアクリル酸n-ブチルは-54℃である)。
【0041】
架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)は、(メタ)アクリル系単量体を含む単量体成分、及び、多官能性単量体を重合してなる架橋(メタ)アクリル系重合体から形成される粒子である。多官能性単量体を除く単量体成分は、アクリル系単量体及び/又はメタクリル系単量体を含むものであるが、少なくともアクリル系単量体を含むことが好ましい。
【0042】
架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)に含まれるアクリル系単量体としては、アルキル基の炭素数が1~8であるアクリル酸アルキルエステルが好ましい。具体的には、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。前記アクリル酸アルキルエステルとしては1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、アクリル酸n-ブチルが好ましい。
【0043】
架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)に含まれ得る任意のメタクリル系単量体としては、アルキル基の炭素数が1~8であるメタクリル酸アルキルエステルが好ましい。具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル等が挙げられる。前記メタクリル酸アルキルエステルとしては1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、アルキル基の炭素数が1~4のメタクリル酸アルキルエステルが好ましい。特に、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0044】
架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)では、上述したアクリル酸アルキルエステル及びメタクリル酸アルキルエステル以外の単量体を使用してもよい。そのような単量体としては、前記アクリル酸アルキルエステル以外のアクリル酸エステル、前記メタクリル酸アルキルエステル以外のメタクリル酸エステル、芳香族ビニル系単量体、他の共重合性ビニル単量体が挙げられる。前記アクリル酸アルキルエステル以外のアクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル等が挙げられる。前記メタクリル酸アルキルエステル以外のメタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル等が挙げられる。前記芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、その他のスチレン誘導体等が挙げられる。前記他の共重合性ビニル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のα,β-不飽和カルボン酸類、酢酸ビニル、エチレンやプロピレン等のオレフィン系単量体、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル系単量体、N-エチルマレイミド、N-プロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-o-クロロフェニルマレイミド等のマレイミド系単量体等が挙げられる。これらはいずれも単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)を構成する単量体成分は、強度や耐熱性の観点から、多官能性単量体を除く単量体成分のうち、アクリル酸エステル(特にアルキル基の炭素数が1~8であるアクリル酸アルキルエステル)を70重量%以上100重量%以下含むことが好ましく、80重量%以上100重量%以下含むことがより好ましく、90重量%以上100重量%以下含むことがさらに好ましく、95重量%以上100重量%以下含むことが特に好ましい。
【0046】
架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)は、前記単量体成分を、多官能性単量体の存在下で重合することにより形成することができる。当該多官能性単量体は、架橋剤または架橋性単量体としても知られており、(メタ)アクリル系単量体と共重合可能な不飽和結合を1分子中に2個以上有する化合物である。具体的には、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルイタコネート、モノアリルマレエート、モノアリルフマレート、ブタジエン、ジビニルベンゼン、トリアリルイソシアヌレート、アルキレングリコールジメタクリレート、アルキレングリコールジアクリレート等が挙げられる。これらは1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。好ましくは、アリルメタクリレートである。
【0047】
前記多官能性単量体の使用量は、強度の観点から適宜設定することができるが、具体的には、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)を構成する単量体成分(但し、多官能性単量体を除く単量体成分)100重量部に対して0.1重量部以上5.0重量部以下程度であってよい。しかし、グラフト共重合体の強度の観点から、前記多官能性単量体の使用量は、0.2~3.5重量部が好ましく、0.2~3.0重量部がより好ましく、0.3~2.0重量部がさらに好ましく、0.4~1.5重量部が特に好ましい。
【0048】
(非架橋メタクリル系重合体成分(b))
非架橋メタクリル系重合体成分(b)は、主にメタクリル系単量体が重合して構成され、架橋構造を有しない(即ち、多官能性単量体を使用しない重合によって得られた)重合体である。非架橋メタクリル系重合体成分(b)の少なくとも一部は、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)にグラフト結合しており、これによって、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)は凝集しにくくなり、第二の態様に係るグラフト共重合体の貯蔵安定性が良好になり、また、フィルム化した時に低ヘイズを達成することができる。
【0049】
非架橋メタクリル系重合体成分(b)は、高分子量の重合体であることが好ましく、具体的には重量平均分子量が25万以上を示すことが好ましい。非架橋メタクリル系重合体成分(b)が高分子量であることによって、第二の態様に係るグラフト共重合体は高い耐熱性を達成することができ、また、溶液流延法によるフィルム化が可能となる。前記重量平均分子量は、溶液流延法によるフィルム化を容易にする観点から、30万以上がより好ましく、35万以上がさらに好ましく、40万以上がより更に好ましく、45万以上が特に好ましい。重量平均分子量の上限は特に限定されないが、溶液流延法によるフィルム化を容易にする観点から、100万以下が好ましく、90万以下がより好ましい。
【0050】
非架橋メタクリル系重合体成分(b)は、グラフト共重合体の耐熱性の観点から、ガラス転移温度が115℃以上を示すことが好ましく、118℃以上がより好ましく、120℃以上がさらに好ましい。ガラス転移温度の上限は特に限定されないが、例えば、160℃以下であってもよく、150℃以下であってもよい。ガラス転移温度は、非架橋メタクリル系重合体成分(b)を構成する単量体の種類や比率などを調節することによって制御できる。尚、非架橋メタクリル系重合体成分(b)のガラス転移温度は、ポリマーハンドブック[Polymer Hand Book(J.Brandrup,Interscience 1989)]に記載されている値を使用してFoxの式を用いて算出することもできる(例えば、ポリメタクリル酸メチルは105℃である)。
【0051】
非架橋メタクリル系重合体成分(b)は、主にメタクリル系単量体単位から構成される重合体である。グラフト共重合体の耐熱性及びフィルム化の観点から、メタクリル系単量体単位としては、メタクリル酸メチル単位が好ましい。特に、非架橋メタクリル系重合体成分(b)を構成する単量体成分のうち、メタクリル酸メチル単位を、70重量%以上99重量%以下含むことが好ましい。これにより、耐熱性を改善すると共に、溶液流延法によるフィルム化をより容易に実現することができる。メタクリル酸メチル単位の含有量は、75~98重量%がより好ましく、80~97重量%がさらに好ましく、85~96重量%がより更に好ましく、88~95重量%がよりさらに好ましく、90~95重量%が特に好ましい。
【0052】
非架橋メタクリル系重合体成分(b)は、メタクリル酸メチル単位以外の単量体単位として、第一の態様に係る(メタ)アクリル系重合体に関して説明した乾燥促進性コモノマーを構造単位として含むことが好ましい。このような単量体単位を含むことによって、グラフト共重合体の耐熱性を大きく低下させることなく、溶液流延法でフィルムを製造するに際して、流延膜から溶媒を蒸発させる際に該溶媒の揮発速度を速くすることが可能となる。乾燥促進性コモノマーの具体的な種類は、第一の態様に係る(メタ)アクリル系重合体に関して上述したものと同様であるので、記載を省略する。
【0053】
溶液流延法で流延膜からの溶媒の揮発速度を速くすることに加えて、グラフト共重合体の耐熱性をより高めることができるため、非架橋メタクリル系重合体成分(b)は、前記乾燥促進性コモノマー単位として、置換又は無置換のマレイミド単位、及び、エステル部位が縮合環構造を有する炭素数7~16の飽和炭化水素基であるメタクリル酸エステル単位、のうち少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0054】
この時、前記乾燥促進性コモノマー単位として、置換又は無置換のマレイミド単位、及び、エステル部位が縮合環構造を有する炭素数7~16の飽和炭化水素基であるメタクリル酸エステル単位、のうち少なくとも1種のみを用いても良いが、置換又は無置換のマレイミド単位、及び、エステル部位が縮合環構造を有する炭素数7~16の飽和炭化水素基であるメタクリル酸エステル単位、のうち少なくとも1種と、これら以外の乾燥促進性コモノマー単位を組み合わせて用いても良い。このような併用により、グラフト共重合体の耐熱性と溶媒の揮発速度を調節して、両者をバランス良く高めることが可能となる。
【0055】
該置換又は無置換のマレイミド単位及びエステル部位が縮合環構造を有する炭素数7~16の飽和炭化水素基であるメタクリル酸エステル単位以外の乾燥促進性コモノマー単位は、上述したようなエステル部位が炭素数2~8の第一級もしくは第二級炭化水素基または芳香族系炭化水素基であるメタクリル酸エステル単位、エステル部位がエーテル結合を含む直鎖状又は分岐状の基であるメタクリル酸エステル単位、及び、ビニルアレーン単位からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0056】
非架橋メタクリル系重合体成分(b)を構成する単量体成分のうち、前記乾燥促進性コモノマー単位の割合は1重量%以上30重量%以下であることが好ましく、2~25重量%がより好ましく、3~20重量%がさらに好ましく、4~18重量%がより更に好ましく、4~15重量%がより更に好ましく、4~12重量%がより更に好ましく、5~10重量%が特に好ましい。乾燥促進性コモノマー単位が2種類以上含まれる場合、乾燥促進性コモノマー単位の割合とは、含まれる全ての乾燥促進性コモノマー単位の合計量が全モノマー単位のうちに占める割合のことをいう。このような重量割合とすることで、グラフト共重合体が優れた耐熱性を有しながら、溶液流延法での溶媒の揮発速度を速めることができる。なお、これら各単位の重量割合は、プロトン核磁気共鳴分光法により求めることができる。
【0057】
非架橋メタクリル系重合体成分(b)は、乾燥促進性コモノマー単位に該当しない他のコモノマー単位を含まない共重合体であってもよいし、乾燥促進性コモノマー単位に該当しない他のコモノマー単位を含む共重合体であってよい。そのような他のコモノマーとしては、例えば、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸エポキシシクロヘキシルメチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,2-トリクロロエチルメタクリレート、メタクリルアミド、N-メチロ-ルメタクリルアミド等のメタクリル酸エステル類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸オクチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸エポキシシクロヘキシルメチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリルアミド、N-メチロ-ルアクリルアミド等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸、アクリル酸などのカルボン酸類およびその塩;アクリロニトニル、メタクリロニトリルなどのビニルシアン類;マレイン酸、フマル酸およびそれらのエステル等;塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレンなどのハロゲン化ビニル類;蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、イソブチレンなどのアルケン類等が挙げられる。このような他のコモノマー単位が、非架橋メタクリル系重合体成分(b)を構成する単量体成分のうち占める割合は10重量%以下であることが好ましく、8重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることがさら好ましい。
【0058】
第二の態様に係るグラフト共重合体において、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)と非架橋メタクリル系重合体成分(b)の合計のうち架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)が占める割合は1重量%以上50重量%未満であり、非架橋メタクリル系重合体成分(b)の占める割合は99重量%以下50重量%超であることが好ましい。第二の態様に係るグラフト共重合体が非架橋メタクリル系重合体成分(b)を高い割合で含有することによって、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)が凝集しにくく、高強度かつ低ヘイズのフィルムを形成可能となり、しかも、当該グラフト共重合体又はそのドープの貯蔵安定性が良好となり得る。架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)が占める前記割合は、3重量%以上45重量%以下が好ましく、4~40重量%がより好ましく、5~35重量%がさらに好ましく、6~30重量%が特に好ましい。
【0059】
更に、得られるフィルムの耐折り曲げ性の観点から、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)と非架橋メタクリル系重合体成分(b)の合計のうち架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)が占める割合は、5重量%以上であることが好ましく、6重量%以上がより好ましく、7重量%以上がさらに好ましい。透湿度と弾性率の観点から、前記割合の上限は25重量%以下であることが好ましく、20重量%以下がより好ましく、15重量%以下がさらに好ましく、12重量%以下がより更に好ましく、10重量%以下が特に好ましい。透湿度と弾性率、耐折り曲げ性のバランスの観点からは、6重量%以上が好ましく、7重量%以上がより好ましく、また、20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましく、12重量%以下がさらに好ましく、10重量%以下が特に好ましい。
【0060】
(乳化重合)
本実施形態において、前記(メタ)アクリル系重合体は、乳化剤と重合開始剤を用いた通常の乳化重合によって形成することができる。乳化重合を実施することによって、前記(メタ)アクリル系重合体のラテックスを得ることができる。
【0061】
特に、第二の態様に係るグラフト共重合体を製造する際には、乳化重合により架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)を形成した後、その重合系に、非架橋メタクリル系重合体成分(b)を構成する単量体成分を添加して引き続き乳化重合を行って非架橋メタクリル系重合体成分(b)を形成すればよい。これにより、非架橋メタクリル系重合体成分(b)の少なくとも一部が、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)にグラフト結合したグラフト共重合体を製造することができる。これによって、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)が非架橋メタクリル系重合体成分(b)中に十分に分散している構成とすることができる。
【0062】
前記乳化剤としては特に限定されないが、例えば、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(スルホコハク酸ジ(2-エチルヘキシル)ナトリウム)、ラウリル硫酸ナトリウム、脂肪酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム等のリン酸エステル塩等の陰イオン界面活性剤や、非イオン性界面活性剤等が示される。これらの界面活性剤は、単独で用いてもよく、2種以上併用しても良い。
【0063】
製膜乾燥時の発泡痕を高度に抑制することができる上、重合安定性にも優れることから、前記乳化剤としては、スルホン酸塩が好ましい。当該スルホン酸塩としては、例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩-ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩、N-メチル-N-アシルタウリン塩等が挙げられる。中でも、ジアルキルスルホコハク酸塩、又はアルキルベンゼンスルホン酸塩が好ましい。
【0064】
前記スルホン酸塩としては、特に限定されないが、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等であってよい。特に発泡痕を効果的に抑制できる観点から、リチウム塩、ナトリウム塩、及び、カリウム塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。スルホン酸塩がこれら一価の陽イオンの塩として存在している場合、(メタ)アクリル系重合体中に塩が残存した状態であっても、ドープ溶媒中のエタノールに塩が溶解し、溶液ドープ中で塩をミクロに微細分散させると考えられるため、製膜乾燥時の発泡が抑制され得る。
【0065】
前記重合開始剤としては、公知のものを使用することができるが、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩;ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ8,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物等が挙げられる。
得られる樹脂フィルムの熱安定性向上の観点から、10時間半減期温度が100℃以下の重合開始剤が好ましい。そのような重合開始剤としては特に限定されないが、過硫酸塩が好ましい。
【0066】
重合開始剤は、熱分解機構のみで重合開始剤を開裂させてラジカルを発生させて重合してもよいし、また、特許第3960631号公報の実施例記載のように、硫酸第一鉄などの酸化剤、及び、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウムなどの還元剤との組合せにより、低温でラジカルを発生させるレドックス開始剤として使用しても良い。
【0067】
また、前記(メタ)アクリル系重合体の分子量を調節するため、乳化重合時に、公知の連鎖移動剤を用いても良い。特に、第二の態様に係るグラフト共重合体を製造する際には、非架橋メタクリル系重合体成分(b)を形成する段階で、該重合体成分(b)の分子量を制御するために、連鎖移動剤を用いてもよい。
【0068】
前記連鎖移動剤としては特に限定されないが、例えば、n-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ヘキサデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタンなどの1級アルキルメルカプタン系連鎖移動剤、s-ブチルメルカプタン、s-ドデシルメルカプタンなどの2級アルキルメルカプタン系連鎖移動剤、t-ドデシルメルカプタン、t-テトラデシルメルカプタンなどの3級アルキルメルカプタン系連鎖移動剤、2-エチルヘキシルチオグリコレート、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)などのチオグリコール酸エステル、チオフェノール、テトラエチルチウラムジスルフィド、ペンタンフェニルエタン、アクロレイン、メタクロレイン、アリルアルコール、四塩化炭素、臭化エチレン、α-メチルスチレンダイマーなどのスチレンオリゴマー、テルピノレンなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0069】
(凝固)
前記乳化重合によって得られた前記(メタ)アクリル系重合体のラテックスに対して、凝固剤を添加することで、前記(メタ)アクリル系重合体を凝固させることができる。その後、必要に応じて熱処理を実施した後、水相から前記重合体の凝固物を分離して乾燥を行なう等の公知の方法に付すことにより、固体状又は粉末状の前記(メタ)アクリル系重合体の凝固品を得ることができる。
【0070】
前記凝固剤としては特に限定されず、公知のものを使用することができるが、無機塩又は酸であることが好ましい。凝固剤は、水溶液の状態にあるものを使用してもよい。
【0071】
無機塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムなどのアルカリ金属ハロゲン化物;硫酸カリウム、硫酸ナトリウムなどのアルカリ金属硫化物;硫酸アンモニウム;塩化アンモニウム;硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどのアルカリ金属硝化物;塩化カルシウム、硫酸第一鉄、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、塩化バリウム、塩化第一鉄、塩化第二鉄、塩化マグネシウム、硫酸第二鉄、硫酸アルミニウム、カリウムミョウバン、鉄ミョウバン等が挙げられる。酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、酢酸、ギ酸などの有機酸等が挙げられる。凝固剤としては1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0072】
凝固剤としては、無機塩が好ましく、中でも、カルシウム塩又はマグネシウム塩が好ましく、塩化カルシウム又は塩化マグネシウムがより好ましい。
【0073】
凝固剤の使用量は特に限定されないが、例えば、ラテックスに含まれる(メタ)アクリル系重合体の総量100重量部に対して0.1~10重量部程度であってよく、0.5~5重量部が好ましい。
【0074】
凝固剤を添加する前には、前記(メタ)アクリル系重合体のラテックスを、フィルター、メッシュ等でろ過し、微細な重合スケールを予め取り除いておくことが好ましい。これにより、微細な重合スケールに起因するフィッシュアイや異物等を低減させることができる。
【0075】
凝固剤をラテックスに添加した後、重合体粒子の凝集を促進するために、ラテックスを加熱する熱処理を実施してもよい。熱処理時の加熱温度は特に限定されないが、例えば、60~130℃であってよく、70~120℃が好ましく、70~100℃がより好ましく、70~98℃がさらに好ましい。また、加熱時間も特に限定されないが、例えば、1分~1時間程度であってよく、3分~30分が好ましい。また、必要に応じて加圧下での熱処理を行うことで、ガラス転移温度の高い樹脂も凝固させることができる。
【0076】
凝固剤を添加して前記(メタ)アクリル系重合体を凝固させた後は、脱水を実施する。この脱水の後、樹脂固形分重量に対して例えば10倍量の水で洗浄し、再び脱水することで、発泡源になり得る系中の残存夾雑物の量を削減することができる。本操作をしても夾雑物は系中に残存し得るが、後述するように溶液流延法で特定溶媒を使用することで、樹脂フィルムにおける発泡を抑制することができる。得られた脱水後の樹脂を例えば100℃で乾燥させることで、前記(メタ)アクリル系重合体を取得することができる。
【0077】
(ドープ)
以上のようにして水相から分離して取得した前記(メタ)アクリル系重合体の凝固品を、溶媒と混合して該溶媒に溶解または分散させることで、ドープを形成することができる。
【0078】
本実施形態では、前記溶媒として、少なくともエタノールを使用する。エタノールを含むドープを使用することで、溶液流延法で得られた樹脂フィルムは、ヘイズが低く、微細な気泡の発生を抑制することができる。
これに対し、エタノールを含まないドープ又はエタノールの代わりにメタノールを含むドープを使用すると、溶液流延法で得られた樹脂フィルムは、ヘイズが高く、微細な気泡が多数含まれることになる。
【0079】
溶媒としてエタノールを使用することで樹脂フィルムの低ヘイズと発泡抑制を達成できる理由は、定かではないが、乳化重合で使用した乳化剤、及び/又は、凝固剤に由来する塩が(メタ)アクリル系重合体に残留しており、これらがエタノールに溶解することで、製膜乾燥時に発泡が生じにくくなることが原因と考えられる。一方、エタノールを使用しない場合、前記乳化剤及び/又は塩が溶媒に溶解しにくく、発泡の核となって、製膜乾燥時に発泡が多数生じ得ると考えられる。しかし、本発明は以上の記載によって限定されるものではない。
【0080】
また、溶媒としてエタノールを使用することで、溶液流延実施時の製膜性や、フィルムの離型性、ハンドリング性などを改善することもできる。
【0081】
前記ドープに含まれる溶媒総量に対するエタノールの含有割合は、(メタ)アクリル系重合体の溶媒への良好な溶解性または分散性を実現しつつ、上述した低ヘイズ及び発泡抑制を達成する観点から、1~25重量%であることが好ましく、3~20重量%がより好ましく、5~15重量%がさらに好ましく、5~10重量%が特に好ましい。
【0082】
前記ドープに含まれる溶媒としては、エタノールに加えて、前記(メタ)アクリル系重合体の溶解性が高い、いわゆる良溶媒を併用することが好ましい。良溶媒の種類としては、特に限定はされないが、1,4-ジオキサン、2-フェニルエタノール、アセトン、アセトニトリル、クロロホルム、二塩基酸エステル、ジアセトンアルコール、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸メチル、酢酸エチル、γ-ブチロラクトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、塩化メチレン、酢酸n-ブチル、N-メチル-2-ピロリドン、炭酸プロピレン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、テトラヒドロフラン、トルエン等が挙げられる。これら良溶媒は1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0083】
良溶媒のなかでも、前記(メタ)アクリル系重合体の溶解性に優れると共に、揮発速度も速いため、メチルエチルケトン、クロロホルム、塩化メチレンが好ましく、塩化メチレンがより好ましい。
【0084】
前記ドープに含まれる溶媒総量に対する良溶媒の含有割合は、(メタ)アクリル系重合体の溶媒への良好な溶解性または分散性を実現しつつ、上述した低ヘイズ及び発泡抑制を達成する観点から、75~99重量%であることが好ましく、80~97重量%がより好ましく、85~95重量%がさらに好ましく、90~95重量%が特に好ましい。
【0085】
前記ドープは、エタノール及び前記良溶媒以外の溶媒を含有してもよいし、含有しなくてもよい。そのような他の溶媒としては、メタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。前記ドープに含まれる溶媒総量に対する前記他の溶媒の含有割合は、例えば、0~5重量%程度であってよい。0~3重量%であってもよいし、0~1重量%であってもよい。
【0086】
前記ドープ中の前記(メタ)アクリル系重合体の濃度は特に限定されず、用いた溶媒に対する前記(メタ)アクリル系重合体の溶解性または分散性や、溶液流延法の実施条件などを考慮して適宜決定することが可能であるが、5~50重量%であることが好ましく、7~45重量%がより好ましく、10~40重量%がさらに好ましく、12~35重量%がより更に好ましく、15~30重量%が特に好ましく、15~20重量%が最も好ましい。
【0087】
前記ドープの作製手順の一例を以下に説明する。まず、前記(メタ)アクリル系重合体、場合によって他の成分を含むペレットを作製した後、該ペレットを溶媒と混合して、各成分を溶媒に溶解又は分散させたドープを作製する。あるいは、ペレットを作製せずに、前記(メタ)アクリル系重合体と他の成分を、同時に又は順次、溶媒に混合して、各成分を溶媒に溶解又は分散させたドープを作製する。溶解又は分散させる工程は、温度および圧力を適宜調節して実施することができる。以上の溶解又は分散工程の後、得られたドープをろ過したり、脱泡してもよい。
【0088】
(他の成分)
前記ドープは、樹脂成分として、前記(メタ)アクリル系重合体のみを含むものであってもよいが、前記(メタ)アクリル系重合体に加えて、他の樹脂を含有してもよい。
当該他の樹脂としては特に限定されず、例えば、アクリロニトリル・スチレン樹脂、メタクリル酸メチル・スチレン樹脂、スチレン・無水マレイン酸樹脂等のスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリフッ化ビニリデンやポリフッ化アルキル(メタ)アクリレート樹脂等のフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等が挙げられる。
【0089】
前記他の樹脂の含有量としては特に限定されないが、例えば、前記(メタ)アクリル系重合体100重量部に対して、0~50重量部程度であってもよい。さらに、0~30重量部であってもよく、0~10重量部であってもよく、0~5重量部であってもよく、0~1重量部であってもよい。
【0090】
前記ドープは、光安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、酸化防止剤、艶消し剤、光拡散剤、着色剤、染料、顔料、帯電防止剤、熱線反射材、滑剤、可塑剤、フィラー等の公知の添加剤をさらに含有してもよい。
【0091】
前記ドープは、第二の態様に係るグラフト共重合体に該当しない、コア・シェル構造を有するグラフト共重合体をさらに含有してもよい。前記コア・シェル構造を有するグラフト共重合体を配合すると、樹脂フィルムに、耐折り曲げ性や耐割れ性等の機械的強度を付与することができる。
【0092】
前記コア・シェル構造を有するグラフト共重合体は、多段重合体、多層構造重合体、又はコア・シェル型重合体と称されるものである。これらの重合体は、架橋重合体粒子(コア層)の存在下に、単量体混合物を重合して得られる重合体層(シェル層)を有する重合体である。コア層とシェル層は、それぞれ1層から構成されてもよいし、2層以上から構成されてもよい。このようなグラフト共重合体は、特に限定されず、公知のものを適宜使用することができる。一例として、アクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物と架橋剤を重合させて、アクリル酸エステル系ゴム状重合体を形成し、該アクリル酸エステル系ゴム状重合体の存在下において、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物を重合して得られるグラフト共重合体が挙げられる。
【0093】
前記コア・シェル構造を有するグラフト共重合体を使用する場合、前記(メタ)アクリル系重合体と、コア・シェル構造を有するグラフト共重合体の配合比率は、前記(メタ)アクリル系重合体100重量部に対して、例えば、1重量部~50重量部であってよく、5重量部~40重量部が好ましく、7重量部~30重量部がより好ましい。
【0094】
(溶液流延法)
以上のようにして得られた前記ドープを用いて、溶液流延法により樹脂フィルムを形成する。具体的には、前記ドープを支持体表面に流延した後、溶媒を蒸発させることにより、樹脂フィルムを製造することができる。
【0095】
前記溶液流延法の実施態様を以下に説明するが、限定されない。前記ドープを送液ポンプにより加圧ダイに送液し、加圧ダイのスリットから、金属製または合成樹脂製の無端ベルトやドラム等の支持体の表面(鏡面)に前記ドープを流延して、流延膜を形成する。
【0096】
形成された流延膜を前記支持体上で加熱し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成させる。溶媒を蒸発させる際の条件としては、使用する溶媒の沸点に応じて適宜決定することができる。
【0097】
このようにして得られた樹脂フィルムは支持体表面から剥離される。その後、得られた樹脂フィルムは、適宜、乾燥工程や加熱工程、延伸工程等に付してもよい。
【0098】
(樹脂フィルム)
本実施形態によって製造される樹脂フィルムの厚みは特に限定されないが、5~200μmであることが好ましく、5~100μmであることがより好ましい。樹脂フィルムの厚みが200μm以下であると、成形後の冷却が均一となるため、光学特性が均一になったり、乾燥速度が速くなる傾向がある。また、樹脂フィルムの厚みが5μm以上であると、樹脂フィルムの取り扱いが容易となり、保護膜としての機能に優れる傾向がある。
【0099】
前記樹脂フィルムは、膜厚40μmで測定したときに、ヘイズが2%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがより好ましく、0.8%以下であることがさらに好ましく、0.6%以下であることがさらにより好ましく、0.4%以下であることが特に好ましい。ヘイズが当該範囲を満足する場合、透明性が高いため、光透過性が要求される光学部材に好適に使用できる。
【0100】
前記樹脂フィルムは、好ましくは他基材表面への積層保護用フィルム、より好ましくは光学用フィルム、特に好ましくは、偏光子保護フィルムとして使用することができる。
【0101】
偏光子保護フィルムとして使用する場合、光学等方性が小さいことが好ましい。特に、樹脂フィルムの面内方向(長さ方向、幅方向)の光学等方性だけでなく、厚み方向の光学等方性についても小さいことが好ましい。
【0102】
より具体的には、面内位相差の絶対値は10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましく、3nm以下であることが特に好ましい。また、厚み方向位相差の絶対値は50nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることが更に好ましく、5nm以下であることが特に好ましい。このような位相差を有する樹脂フィルムは、液晶表示装置の偏光板が備える偏光子保護フィルムとして好適に使用することができる。
【0103】
ここで、位相差は複屈折をベースに算出される指標値であり、面内位相差(Re)、厚み方向位相差(Rth)は、それぞれ以下の式により算出することができる。3次元方向について完全光学等方である理想的な成形体では、面内位相差(Re)、厚み方向位相差(Rth)がともにゼロとなる。
Re=(nx-ny)×d
Rth=((nx+ny)/2-nz)×d
上記式中において、nx、ny、およびnzは、それぞれ面内において伸張方向(ポリマー鎖の配向方向)をX軸、X軸に垂直な方向をY軸、成形体の厚さ方向をZ軸とし、それぞれの軸方向の屈折率を表す。また、dは成形体の厚さを表し、nx-nyは配向複屈折を表す。なお、成形体のMD方向をX軸とするが、延伸成形体の場合は延伸方向をX軸とする。
【0104】
本実施形態によって製造される樹脂フィルムは、配向複屈折が、-2.6×10-4~2.6×10-4であることが好ましく、-1.7×10-4~1.7×10-4であることがより好ましく、-1.0×10-4~1.0×10-4であることが更に好ましく、-0.5×10-4~0.5×10-4であることが特に好ましく、-0.2×10-4~0.2×10-4であることが最も好ましい。配向複屈折が上記範囲内であれば、成形加工時の複屈折が生じることなく、安定した光学特性を得ることができる。また、液晶ディスプレイ等に使用される光学フィルムとしても非常に適している。
【0105】
前記樹脂フィルムは、光弾性定数が-6×10-12~6×10-12Pa-1であることが好ましく、-4×10-12~4×10-12Pa-1であることがより好ましく、-2×10-12~2×10-12Pa-1であることが更に好ましく、-1×10-12~1×10-12Pa-1であることがことさらに好ましく、-0.5×10-12~0.5×10-12Pa-1であることが特に好ましく、-0.2×10-12~0.2×10-12Pa-1であることが最も好ましい。
【0106】
ここで、光弾性複屈折は、成形体に応力が加わった場合に成形体中のポリマーの弾性的な変形(歪)に伴って引き起こされる複屈折であり、実際には、そのポリマー固有の光弾性定数を求めることで、その材料の光弾性複屈折の度合いを評価することができる。まずポリマー材料に応力を印加し、弾性的な歪が生じた際の複屈折を測定する。得られた複屈折と応力との比例定数が光弾性定数である。この光弾性定数を比較することにより、ポリマーの応力印加時の複屈折を評価することができる。光弾性定数が上記範囲内であれば、成形体に応力がかかって、成形体が変形した場合でも複屈折が生じることが無いため、光学等方性の小さい成形体を得ることができる。例えば、偏光子保護フィルム用途において、空気中の湿分や温度の影響で、輸送中に万が一パネルが変形した場合でも、安定した光学特性が維持されるため、画質低下等の品質リスクを低く抑えることができる。
【0107】
(延伸)
本実施形態によって製造される樹脂フィルムは靭性が高く柔軟性に富むものであり、未延伸フィルムであってもよいが、延伸フィルムであってもよい。延伸することにより、樹脂フィルムの機械的強度の向上、膜厚精度の向上を図ることができる。
【0108】
前記樹脂フィルムを延伸する場合は、未延伸状態のフィルムを製造した後、一軸延伸または二軸延伸を行うことにより、あるいは、フィルム成形中に、成膜及び溶媒の脱気の工程の進展と共に延伸操作を適宜加えることにより、延伸フィルム(一軸延伸フィルムまたは二軸延伸フィルム)を製造することができる。また、フィルム成形中の延伸と、フィルム成形後の延伸を適宜組み合わせても良い。
【0109】
延伸フィルムの延伸倍率は、特に限定されず、製造する延伸フィルムの機械的強度、表面性、および厚み精度等に応じて、決定すればよい。延伸温度にも依存するが、延伸倍率は、一般的には、1.1倍~5倍の範囲で選択することが好ましく、1.3倍~4倍の範囲で選択することがより好ましく、1.5倍~3倍の範囲で選択することがさらに好ましい。延伸倍率が上記範囲内であれば、フィルムの伸び率、引裂伝播強度、および耐揉疲労等の力学的性質を大幅に改善することができる。
【0110】
(用途)
本実施形態によって製造される樹脂フィルムは、必要に応じて、公知の方法によりフィルム表面の光沢を低減させることができる。そのような方法としては、例えば、無機充填剤または架橋性高分子粒子を添加する方法が挙げられる。また、得られるフィルムにエンボス加工を施すことにより、プリズム形状やパターン、意匠、ナーリングなどの表面凹凸層を形成したり、フィルム表面の光沢を低減させることも可能である。
【0111】
前記樹脂フィルムは、必要に応じて、粘着剤、接着剤等によるドライラミネート法及び/または熱ラミネート法などを用いて別のフィルムを積層したり、フィルムの表面あるいは裏面にハードコート層、反射防止層、防汚層、帯電防止層、印刷加飾層、金属光沢層、表面凹凸層、艶消し層等の機能性層を形成して用いることができる。
【0112】
前記樹脂フィルムは、耐熱性、透明性、柔軟性などの性質を利用して、各種用途に使用することができる。例えば、自動車内外装、パソコン内外装、携帯内外装、太陽電池内外装、太陽電池バックシート;カメラ、VTR、プロジェクター用の撮影レンズ、ファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ、レンズカバーなどの映像分野、CDプレイヤー、DVDプレイヤー、MDプレイヤーなどにおける光ディスク用ピックアップレンズなどのレンズ分野、CD、DVD、MDなどの光ディスク用の光記録分野、有機EL用フィルム、液晶用導光板、拡散板、バックシート、反射シート、偏光子保護フィルム、偏光フィルム透明樹脂シート,位相差フィルム,光拡散フィルム、プリズムシートなどの液晶ディスプレイ用フィルム、表面保護フィルムなどの情報機器分野、光ファイバ、光スイッチ、光コネクターなどの光通信分野、自動車ヘッドライト、テールランプレンズ、インナーレンズ、計器カバー、サンルーフなどの車両分野、眼鏡、コンタクトレンズ、内視鏡用レンズ、滅菌処理の必要な医療用品などの医療機器分野、道路標識、浴室設備、床材、道路透光板、ペアガラス用レンズ、採光窓、カーポート、照明用レンズ、照明カバー、建材用サイジングなどの建築・建材分野、電子レンジ調理容器(食器)、家電製品のハウジング、玩具、サングラス、文房具などに使用することができる。また、転写箔シートを使用した成形品の代替用途としても使用できる。
【0113】
前記樹脂フィルムは、金属、プラスチックなどの基材に積層して用いることができる。樹脂フィルムの積層方法としては、積層成形や、鋼板などの金属板に接着剤を塗布した後、金属板にフィルムを載せて乾燥させ貼り合わせるウエットラミネートや、ドライラミネート、エキストルージョンラミネート、ホットメルトラミネートなどが挙げられる。
【0114】
プラスチック部品にフィルムを積層する方法としては、フィルムを金型内に配置しておき、射出成形にて樹脂を充填するインサート成形またはラミネートインジェクションプレス成形や、フィルムを予備成形した後に金型内に配置し、射出成形にて樹脂を充填するインモールド成形などが挙げられる。
【0115】
前記樹脂フィルムの積層体は、自動車内装材、自動車外装材などの塗装代替用途、窓枠、浴室設備、壁紙、床材、採光・調光部材、防音壁、道路標識などの土木建築用部材、日用雑貨品、家具や電子電気機器のハウジング、ファクシミリ、ノートパソコン、コピー機などのOA機器のハウジング、携帯電話、スマートフォン、タブレットなどの端末の液晶画面の前面板や、照明用レンズ、自動車ヘッドライト、光学レンズ、光ファイバ、光ディスク、液晶用導光板などの光学部材、光学用素子、電気または電子装置の部品、滅菌処理の必要な医療用品、玩具またはレクリエーション品目、繊維強化樹脂複合材料などに使用することができる。
【0116】
特に、前記樹脂フィルムは、耐熱性および光学特性に優れる点では、光学用フィルムに好適であり、各種光学部材に用いられ得る。例えば、携帯電話、スマートフォン、タブレットなどの端末の液晶画面の前面板、照明用レンズ、自動車ヘッドライト、光学レンズ、光ファイバ、光ディスク、液晶用導光板、拡散板、バックシート、反射シート、偏光フィルム透明樹脂シート、位相差フィルム、光拡散フィルム、プリズムシート、表面保護フィルム、光学的等方フィルム、偏光子保護フィルムや透明導電フィルム等液晶表示装置周辺や、有機EL装置周辺、光通信分野等の公知の光学的用途に適用できる。
【実施例0117】
以下、本発明を実施例にて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下で「部」および「%」は、特記ない限り、「重量部」および「重量%」を意味する。また、略号はそれぞれ下記の物質を示す。
BA:アクリル酸ブチル
MMA:メタクリル酸メチル
BMA:メタクリル酸ブチル
PhMI:フェニルマレイミド
2-EHMA:メタクリル酸2-エチルヘキシル
ALMA:メタクリル酸アリル
2-EHTG:チオグリコール酸2-エチルヘキシル
DSS:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム
NPS:過硫酸ナトリウム
NDS:ピロ亜硫酸ナトリウム
SFS:スルホキシル酸ナトリウム・ホルムアルデヒド
ED:エチレンジアミン4酢酸・2ナトリウム
FeSO4:硫酸第一鉄・7水和物
t-BHP:t-ブチルハイドロパーオキサイド
【0118】
(製造例1)(メタ)アクリル系重合体Aの製造
攪拌機付き8L重合装置に、脱イオン水:133部、水酸化ナトリウム:0.004部、スルホコハク酸ジ(2-エチルヘキシル)ナトリウム:0.2部を仕込んだ。重合機内窒素ガスで十分に置換した後、内温を80℃にし、NPS:0.03部、NDS:0.001部を0.5%水溶液で入れ、次いで表1記載の架橋(メタ)アクリル系重合体粒子用のモノマー(a)8.5部を0.523部/分の速度で連続的に添加した。さらに30分重合を継続することにより、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)を得た。体積平均粒子径は60nm、重合転化率は99.5%であった。
その後、表1記載の非架橋メタクリル系重合体成分用のモノマー(b)91.5部を1.353部/分の速度で連続的に添加した。また、モノマー(b)追加開始と同時にスルホコハク酸ジ(2-エチルヘキシル)ナトリウム0.4部を5%水溶液で、モノマー(b)と同じ時間をかけて連続的に添加した。添加終了後、60分重合を継続し、グラフト共重合体ラテックスを得た。重合転化率は100.0%であった。
次に、得られた重合ラテックスの固形分に対して3.0部の凝固剤(塩化カルシウム又は塩化マグネシウム)を、ラテックス溶液の固形分濃度が15%になるように水溶液の形で投入した後、95℃で5分間撹拌し、塩析、凝固させた。得られた凝固液をヌッチェ脱水し、固形分量に対して10倍の水でリスラリーした後、さらにヌッチェ脱水し、75℃の乾燥オーブンで12時間乾燥させ、白色粉末状の(メタ)アクリル系重合体A[架橋(メタ)アクリル系重合体粒子(a)と非架橋メタクリル系重合体成分(b)とを含むグラフト共重合体]を得た。体積平均粒子径は131nm、重量平均分子量は683,496であった。
【0119】
【0120】
(重合転化率)
重合により得られた重合体の重合転化率は以下の方法で求めた。重合系から重合体を含む約2gのラテックスを採取・精秤し、それを熱風乾燥機中で120℃、1時間乾燥し、その乾燥後の重量を固形分量として精秤した。次に、乾燥前後の精秤の結果の比率を試料中の固形分比率として求めた。最後に、この固形分比率を用いて、以下の計算式より重合転化率を計算した。なお、この計算式において、多官能性単量体および連鎖移動剤は仕込み単量体として取り扱った。
重合転化率(%)={(仕込み原料総重量×固形分比率-水および単量体以外の原料総重量)/仕込み単量体重量}×100
【0121】
(製造例2)(メタ)アクリル系重合体Bの製造
パドル型撹拌機を備えた8Lガラス製反応器に、脱イオン水:143部、水酸化ナトリウム:0.01部、DSS:0.15部を仕込んだ。次に175rpmで撹拌し、反応器内を窒素置換しながら、85℃まで昇温した。85℃到達後、NPS:0.022部、SFS:0.0005部を仕込んだ。その後、MMA:85部、2-EHMA:5部、PhMI:10部からなる単量体混合物を、80分間かけて連続的に反応器に加え、反応を行った。また、単量体混合物の添加から15分目に、単量体混合物の添加と追随する形でDSS:0.55部を滴下し、連続的に反応器に加えた。なお、単量体混合物の添加開始から55分目に200rpmへ、また、70分目に240rpmへ攪拌数を上げた。単量体混合物の添加終了後、ED:0.0055部、FeSO4:0.0015部の混合水溶液、SFS:0.03部、DSS:0.3部、t-BHP:0.03部、を順に反応器に添加した。そのあと、60分間、反応を継続し、重合を完結させ、重合ラテックスを得た。重合転化率は99.9%であった。
次に、得られた重合ラテックスの固形分に対して3.0部の凝固剤(塩化カルシウム又は塩化マグネシウム)を、ラテックス溶液の固形分濃度が15%になるように水溶液の形で投入した後、95℃で5分間撹拌し、塩析、凝固させた。得られた凝固液をヌッチェ脱水し、固形分量に対して10倍の水でリスラリーした後、さらにヌッチェ脱水し、75℃の乾燥オーブンで12時間乾燥させ、白色粉末状の(メタ)アクリル系重合体Bを得た。体積平均粒子径は196nm、重量平均分子量は1,600,000であった。
【0122】
(実施例1~4及び比較例1~5)樹脂フィルムの製造
表2の記載に従って、製造例1又は2で得た(メタ)アクリル系重合体A又はBを用いて、以下の手順で樹脂フィルムを作製した。
塩化メチレン(MC)、塩化メチレン/メタノールの混合溶媒(MC/MeOH)、又は、塩化メチレン/エタノールの混合溶媒(MC/EtOH)を調製し、この溶媒に、固形分濃度20重量%となるように、(メタ)アクリル系重合体A又はBを加えた後、スターラーチップで撹拌、混合し、ドープを作製した。尚、前記混合溶媒中のアルコール(メタノール又はエタノール)の含有割合は表2に記載のとおりである。
このドープを、バーコーターを用いて、ガラス板上にウェット膜厚0.25mmで塗工し、室温下、風の当たらない場所で8分間静置し、生乾きフィルムを作製した。
この生乾きフィルムをガラス板から剥離した後、素早く、適したサイズの金属枠に耐熱テープとクリップを用いて固定し、熱風乾燥機中で160℃、15分乾燥した。乾燥した後、金属枠から取り出して各樹脂フィルムを得た。
【0123】
(樹脂フィルムのヘイズ測定)
各樹脂フィルムのヘイズを、スガ試験機株式会社製HZ-V3ヘイズメーターを用いて、JIS-K7105に基づき、測定した。
一方、各樹脂フィルムの両面をグリセリン、次いでガラスの順で挟んで同様の測定を行い、得られた値を内部ヘイズとした。
【0124】
(樹脂フィルムのYI測定)
各樹脂フィルムのYIを、スガ試験機株式会社製SC-P分光測色計を用いて測定した。
【0125】
(樹脂フィルムの発泡痕数測定)
各樹脂フィルムの表面を、OLYMPUS株式会社製BX51偏光顕微鏡を用いて観察し、拡大した顕微鏡写真において、一辺100μmの正方形内において、径が30μm以下の発泡痕の個数を数えた。その数に基づいて以下の基準によって評価を行った。
1:発泡痕の個数が0~2個
2:発泡痕の個数が3~5個
3:発泡痕の個数が6~10個
4:発泡痕の個数が10~20個
5:発泡痕の個数が20個以上
以上の測定結果を表2に示す。
【表2】
【0126】
表2より、乳化重合によって合成した(メタ)アクリル系重合体Aの凝固品と、エタノールとを含むドープから樹脂フィルムを形成した実施例1~3では、エタノールを含まないドープを用いた比較例1~3と比較して、ヘイズが低く、発泡痕の個数が低減していることが分かる。
また、乳化重合によって合成した(メタ)アクリル系重合体Bの凝固品と、エタノールとを含むドープから樹脂フィルムを形成した実施例4においても同様で、エタノールを含まないドープを用いた比較例4~5と比較して、ヘイズが低く、発泡痕の個数が低減していることが分かる。