(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147510
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】高天井倉庫の空調システム
(51)【国際特許分類】
F24F 13/06 20060101AFI20231005BHJP
F24F 13/02 20060101ALI20231005BHJP
F24F 1/005 20190101ALI20231005BHJP
【FI】
F24F13/06 B
F24F13/02 A
F24F13/02 D
F24F1/005
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055044
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井澤 美咲
(72)【発明者】
【氏名】岩田 喜正
【テーマコード(参考)】
3L080
【Fターム(参考)】
3L080AA03
3L080AC01
(57)【要約】
【課題】高天井倉庫内の上下方向及び水平面で空調ダクト延長方向での温度分布を向上させることが可能な低コストの高天井倉庫の空調システムを提供する。
【解決手段】高天井倉庫Whの空調システム1は、高天井倉庫の床面Flに設置される空調機2と、空調機2から天井Ceまで立ち上げる立上げ部31及びこの立上げ部の上部から天井に沿って水平にのびる水平部32を有する空調ダクト3と、水平部の下壁32aに水平部の長手方向に所定の間隔を存して設けられる複数の透孔32bと、複数の透孔に夫々挿設される複数の吹出ノズル4と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高天井倉庫の床面に設置される空調機と、
前記空調機から天井まで立ち上げる立上げ部及びこの立上げ部の上部から天井に沿って水平にのびる水平部を有する空調ダクトと、
前記水平部の下壁に前記水平部の長手方向に所定の間隔を存して設けられる複数の透孔と、
前記複数の透孔に夫々挿設される複数の吹出ノズルと、を備えることを特徴とする高天井倉庫の空調システム。
【請求項2】
請求項1記載の高天井倉庫の空調システムであって、前記高天井倉庫の床面に複数の多段ラックが間隔を存して並設されるものにおいて、
互いに隣接する多段ラックの隙間の上方に、この隙間に沿って前記複数の吹出ノズルが間隔を存して配置されることを特徴とする高天井倉庫の空調システム。
【請求項3】
前記吹出ノズルの開口径は、65mm~150mmの範囲内に設定され、
互いに隣接する前記吹出ノズルの間隔は、500mm~1,000mmの範囲内に設定されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高天井倉庫の空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品を所定の温度範囲内で保管する高天井倉庫の空調システムに関し、より詳しくは、物品を保管する多段ラックが設置される高天井自動倉庫の空調に適したものに関する。
【背景技術】
【0002】
図10を参照して、従来の高天井自動倉庫Whの空調システム100として、床面Flに設置される空調機2と、空調機2から天井Ce近傍まで立ち上げる立上げ部31及びこの立上げ部31の上部から天井Ce下面に沿って水平にのびる水平部32を有する空調用ダクト30と、空調用ダクト30の水平部32から複数に分岐しボリュームダンパVDを介して接続された複数の短管ダクト321に設けられる複数の吹出口41と、を備えるものが利用されている。ボリュームダンパVDとしては、例えば、下記特許文献1に開示の如く、角型ダクトの途中の風量調整ダンパとして設置されたものが用いられ、吹出口41としては、例えば、下記特許文献2に開示の如く、グリルに風向調整用のシャッタが付設されたもの(所謂VHSグリルレジスタ型の吹出口)が用いられている。なお、高天井自動倉庫Wh内での物品の自動搬送(多段ラック51~54に対する物品の受け渡しを含む)を行う搬送手段としては、スタッカクレーン6(例えば、特許文献3参照)が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第2584735号公報
【特許文献2】特許第3311272号公報
【特許文献3】特許第5169211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来例の空調システム100を高天井自動倉庫Whに設置する場合、多段ラック51~54の設置よりも先に、空調ダクト30及び吹出口41の設置が行われる。上述の如く床面Flから空調ダクト30の水平部32までの高さが10メートルを超える場合、設置作業は、高所作業車を用いるのではなく、足場を組んで行われることが一般的である。この設置作業用の足場は、多段ラック51~54の搬入や設置作業などの障害となるため、空調ダクト30及び吹出口41の設置が完了すると、一旦解体撤去される。その後、多段ラック51~54が設置され、ラック51~54の設置後、搬送設備としてのスタッカクレーン6の搬入据付工事が発生する。その後電気工事として動力盤の設置及び通線工事が進み、床面Flに設置した空調機2への通電が可能になると、各吹出口41の分岐ダクトにあるボリュームダンパVDのダンパ開度調節による風量調整が行われる。風量調整を行うのに際しては、設置作業用と同様の足場が組まれることになる。このように、上記従来例では、設置作業用と風量調整用とで足場を2回組む必要があるため、コスト上昇を招来する。また、VHSまたはHSグリルレジスタ型の吹出口41で適切とされる面速の範囲で吹き出された空気(下降流)の流速では、たとえ面速範囲の最大風量まで多くなるように空調機2の内蔵ファンの風量を増大しボリュームダンパVDを開けて各吹出口41での風向を調整したところで、たとえ吹出口直下でも床面Fl上5m程度のレベルで吹出し動圧が無くなって、床面Fl付近の空気を動かしにくい(床面Fl近傍に空気のよどみが生じる)。また、水平に延長する空調ダクト30の水平部32の途中に多数に分岐しボリュームダンパVDを介して接続される複数の吹出口41同士の風量調整は、吹出口41が開口部が大きく羽根がまばらなレジスタのため、吹出口41ではあまり差圧が立たず、ボリュームダンパVDだけでは空調ダクト30内の静圧分布の悪さを解消しづらく、どうしても分布が悪い。この吹出口41は風量とコストとのバランスで5m程度に1個の大きな設置間隔となり分布的には点で吹く形となる。その結果、高天井自動倉庫Whの天井Ceと床面Flとの間の温度差が大きくなり、ひいては高天井自動倉庫Wh内の上下方向の温度分布が悪化する。上下方向(Z軸方向)の温度分布を改善するために、空調ダクト30の水平部32の下流端(
図10(b)中の右端)から床面Fl近傍まで立ち下げる立下げ部33と、立下げ部33の下端から床面Fl近傍に空気を吹き出す吹出口42とが別途設けられているが、これでは、更なるコスト上昇を招来する。
【0005】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、高天井倉庫内の上下方向及び水平面で空調ダクト延長方向での温度分布を向上させることが可能な低コストの高天井倉庫の空調システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る高天井倉庫の空調システムは、高天井倉庫の床面に設置される空調機と、前記空調機から天井まで立ち上げる立上げ部及びこの立上げ部の上部から天井に沿って水平にのびる水平部を有する空調ダクトと、前記水平部の下壁に前記水平部の長手方向に所定の間隔を存して設けられる複数の透孔と、前記複数の透孔に夫々挿設される複数の吹出ノズルと、を備えることを特徴とするものである。なお、本発明においては、透孔に吹出ノズルが挿設されるとは、吹出ノズルの上端が、水平部の下壁と面一になるのではなく、水平部の内部に位置することをいうものとする。また、高天井倉庫とは、床面から天井までの高さが10m以上の倉庫をいうものとする。
【0007】
本発明において、前記高天井倉庫の床面に複数の多段ラックが間隔を存して並設される場合には、互いに隣接する多段ラックの隙間の上方に、この隙間に沿って前記複数の吹出ノズルが配置されることが好ましい。
【0008】
本発明において、前記吹出ノズルの開口径は、65mm~150mmの範囲内に設定され、互いに隣接する前記吹出ノズルの間隔は、500mm~1,000mmの範囲内に設定されることが好ましい。開口径が65mmより小さいと、吹出ノズルの数を増やす必要がある一方で、開口径が150mmより大きいと、高速で空気を吹き出すことができなくなり、誘引効果が使えない場合がある。間隔が1,000mmより広いと、吹出ノズルから吹き出された3~7m/sという比較的高速な空気による周囲空気の誘因による面での吹き降ろし効果が小さくなり、大風量且つ水平面内で均一な速度分布を持つ下降気流を形成できなくなる場合がある。一方、間隔が500mmより狭いと、吹出ノズルの数が過剰となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、空調ダクトの水平部に複数の吹出ノズルを挿設し、吹出ノズルの上端がダクト水平部の内部に位置するため、水平部を流れる空気の動圧成分を多く持った中央位置の空気の静圧再取得が進むことで、各吹出ノズルから下方に向けて空気が各吹出ノズルの位置によらず均一な高速で吹き出される。各吹出ノズルから吹き出された空気がその周囲の空気を誘引することで、大風量且つ水平面内で均一な速度分布を持つ下降気流が形成される。下降気流は、床面に近づくのに従って徐々に流速が低下するものの、床面付近でも微風速で空気が動いている。このため、高天井倉庫内の上下方向及び水平面で空調ダクト延長方向での温度分布を向上させることができる。しかも、各吹出ノズルの位置ごとの風量調整は空調機の動作如何によらず不要であるため、風量調整作業用の足場を設置する必要がない。その上、空調ダクトの立下げ部や床面近傍の吹出口も別途設ける必要がないため、設置作業用の足場を1回組めばよいことと相俟って、低コスト化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)は、実施の形態による高天井倉庫の空調システムの平面図、(b)は、
図1(a)のIb-Ib断面図、(c)は、
図1(a)のIc-Ic断面図である。
【
図2】(a)は、本実施の形態におけるXZ面内での流速分布を示すシミュレーション結果、(b)は、従来例のXZ面内での気体流速分布を示すシミュレーション結果である。
【
図3】(a)は、本実施の形態におけるYZ面内での流速分布を示すシミュレーション結果、(b)は、従来例のYZ面内での気体流速分布を示すシミュレーション結果である。
【
図4】(a)は、本実施の形態における高さ20mのXY面内での流速分布を示すシミュレーション結果、(b)は、従来例の高さ20mのXY面内での流速分布を示すシミュレーション結果である。
【
図5】(a)は、本実施の形態における高さ10mのXY面内での流速分布を示すシミュレーション結果、(b)は、従来例の高さ10mのXY面内での流速分布を示すシミュレーション結果である。
【
図6】(a)は、本実施の形態におけるXZ面内での温度分布を示すシミュレーション結果、(b)は、従来例のXZ面内での温度分布を示すシミュレーション結果である。
【
図7】(a)は、本実施の形態におけるYZ面内での温度分布を示すシミュレーション結果、(b)は、従来例のYZ面内での温度分布を示すシミュレーション結果である。
【
図8】(a)は、本実施の形態における高さ20mのXY面内での温度分布を示すシミュレーション結果、(b)は、従来例の高さ20mのXY面内での温度分布を示すシミュレーション結果である。
【
図9】(a)は、本実施の形態における高さ10mのXY面内での温度分布を示すシミュレーション結果、(b)は、従来例の高さ10mのXY面内での温度分布を示すシミュレーション結果である。
【
図10】(a)は、従来例の高天井倉庫の空調システムの平面図、(b)は、
図10(a)のXb-Xb断面図、(c)は、
図10(a)のXc-Xc断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。各図において共通または対応する要素には、同一の符号を付して、説明を簡略化または省略する。各図においては、作図の都合上、一部の構成要素の図示が省略されている場合がある。
【0012】
図1(a)は、実施の形態による高天井自動倉庫Whの空調システム1の平面図であり、
図1(b)は、
図1(a)のIb-Ib断面図であり、
図1(c)は、
図1(a)のIc-Ic断面図である。本実施の形態では、後述する空調ダクト3の水平部32の長手方向をX軸方向、上下方向をZ軸方向、X軸方向及びZ軸方向に直交する、後述する多段ラック51~54の並設方向をY軸方向とする。
【0013】
空調システム1は、高天井自動倉庫Whの床面Flに設置される3台の空調機2と、各空調機2に夫々接続される3つの空調ダクト3と、各空調ダクト3の後述する水平部32に設けられる複数の吹出口4と、を備える。
【0014】
空調機2は、図示省略する吸気口から高天井自動倉庫Wh内の空気を吸い込んだ還り空気を冷却または加熱(本実施形態では加熱)し、加熱した空気を空調ダクト3に送り込むことができるように構成されている。空調機2としては、例えば、冷却コイル及び温水コイルを備える公知のものが利用できるため、これ以上の説明は省略する。また、空調ダクト3としては、例えば0.2mmAq/m程度の圧力損失にて選定でき、その場合例えば8,000CMHの風量の空調機2でなら、空調ダクトの断面での各辺が700mm×500mm程度のものを利用できるため、これ以上の説明は省略する。
【0015】
空調ダクト3は、空調機2から天井Ce近傍の所定高さまで立ち上げる立上げ部31と、立上げ部31の上部から天井Ceの下面に沿って水平に且つX軸方向にのびる水平部32と、を有する。水平部32の下壁32aには、X軸方向に等間隔で複数の透孔32bが開設されている。各透孔32bには、透孔32bよりも大きい面積を持つ板状の固定部材34が接着剤や溶接などにより下方から取り付けられている。固定部材34の中央部には、後述する吹出ノズル4の筒部4aのねじ山に対応するねじ溝が切られた貫通孔34aが開設されている。吹出ノズル4は筒部4aにネジ山があり貫通孔34aにねじ溝があると調整取付けしやすいが、これに限らず一定の差込代が確保できるならほかの形式の固定でもよい。なお、本実施形態では、水平部32が、下流側に向かうのに従って断面積が段階的に小さくなるように形成されているが、一定の断面積で形成されてもよい。また、本実施形態では、3つの空調ダクト3に対応させて3つの空調機2を設けているが、1つの空調機2を3つの空調ダクト3で兼用してもよい。この場合、空調機2から立ち上げる立上げ部31の上部から3つの水平部32に分岐するように構成することができる。
【0016】
本実施形態では、水平部32に複数の吹出ノズル4を夫々挿設している。吹出ノズル4は、円筒状の筒部4aと、筒部4aの下端に一体に形成され、一定の径で延長する吹出部4bと、で構成されている。吹出部4b下端の開口径Dnは、65mm~150mmの範囲内に設定することができる。これにより、吹出ノズル4から高速で空気を吹き出すことができる。開口径Dnが65mmより小さいと、吹出ノズル4の数を大幅に増やす必要がある一方で、開口径Dnが150mmより大きいと、高速で空気を吹き出せなくなる場合がある。筒部4aの外側面には、貫通孔34aのねじ溝に対応(螺合)するねじ山が形成されている。そして、吹出ノズル4をその筒部4aを上側にして貫通孔34aに当接させながら回転させると、水平部32に対して吹出ノズル4が挿設される。これに限らず一定の差込代が確保できるならほかの形式の固定でもよい。即ち、吹出ノズル4の上端が、水平部32の下壁32aと面一ではなく、水平部32の内部に位置している。これにより、吹出ノズル4の上端が水平部32の内部に位置するため、水平部32を流れる空気の動圧成分を多く持った中央近傍位置の空気の静圧再取得が進むことで、各吹出ノズル4から下方に向けて各吹出ノズル4の位置によらず均一な高速で空気が吹き出される。筒部4aの挿入長さLnは、筒部4aの上端が水平部32内面の摩擦抵抗による流速低下の影響を受けない位置に配置されるように設定される。なお、各吹出ノズル4の挿入長さLnを厳密に一致させる必要はなく、挿入長さLnが多少異なっていても、上端が水平部32の中央近傍まで差し込まれていれば、各吹出ノズル4から吹き出される空気の流速は殆ど変わらない。互いに隣接する吹出ノズル4の間隔Snは、500mm~1,000mmの範囲内に設定することが好ましい。これによれば、吹出部4bの開口径Dnを上記範囲内に設定することと相俟って、後述する誘引効果を確実に得ることができる。間隔Snが1,000mmより広いと、誘引効果が小さくなり、大風量の下降気流を形成できなくなる場合がある。一方、間隔Snが500mmより狭いと、吹出ノズル4の数が過剰となる。また、水平部32の肉厚が比較的厚く、水平部32がステンレスなどの比較的硬い材料で形成されるような場合には、透孔32bに直接ねじ溝を切ってもよい。この場合、固定部材34を省略することができるため、部品点数を減らすことができ、有利である。これに限らず一定の差込代が確保できるならほかの形式の固定でもよい。
【0017】
高天井自動倉庫Whには、X軸方向に長手の複数(本実施形態では4つ)の多段ラック51~54が、Y軸方向に間隔を存して複数(本実施形態では4つ)並設されている。各多段ラック51~54には、図示省略する物品が収納される。本実施形態では、Y軸方向内側で隣接する2つの多段ラック52,53の間の隙間S2が、多段ラック52,53と夫々隣接するY軸方向外側の多段ラック51,54との間の隙間S1,S3よりも小さく設定されている。そして、これらの隙間S1,S2,S3のZ軸方向上方に水平部32が配置される。これにより、隙間S1,S2,S3の上方に、且つ、隙間S1,S2,S3に沿って、複数の吹出ノズル4が配置される。このように吹出ノズル4を配置することで、各吹出ノズル4から吹き出された空気ひいては後述する下降気流が、床面Flまで到達可能な空間を確保すると共に、多段ラック51~54の内部に入り込み易くなる。また、多段ラック51,54のY軸方向外側には、多段ラック51~54の各棚収納部から物品を出し入れするスタッカクレーン6が2列設置されている。スタッカクレーン6は、高天井自動倉庫Wh内での物品の自動搬送(多段ラック51~54に対する物品の受け渡しを含む)を行うものであり、図外のコンピュータにより駆動制御される。多段ラック51~54及びスタッカクレーン6としては公知のものを利用できるため、これ以上の説明は省略する。
【0018】
本実施の形態によれば、空調ダクト3の水平部32に複数の吹出ノズル4を挿設したため、水平部32を流れる空気が各吹出ノズル4から下方に向けて高速で吹き出される。各吹出ノズル4から吹き出された空気がその周囲の空気を誘引することで、大風量且つ水平面内(XY面内)で均一な流速を持つ下降気流が形成される。下降気流は、床面Flに近づくのに従って徐々に流速が低下するものの、床面Flまで到達する。このため、床面Fl近傍に空気のよどみが生じることはなく、高天井自動倉庫Wh内の上下方向(Z軸方向)及び水平面で空調ダクト延長方向(X軸方向)での温度分布を向上させることができる。しかも、吹出ノズル4の風量調整(挿入長さLnの調整)は不要であるため、風量調整作業用の足場を設置する必要がない。その上、上記従来例の如く空調ダクト30の立下げ部33や床面Fl近傍の吹出口42を別途設ける必要がないため、設置作業用の足場を1回組めばよいことと相俟って、低コスト化を実現することができる。
【0019】
本実施の形態では、高天井自動倉庫Wh内の上下方向の温度分布を確認するため、以下の条件でシミュレーションを行った。即ち、床面Flから天井Ceまでの距離を24,000mm(24m)、空調ダクト3のダクト寸法(断面での各辺)を700mm×500mm、吹出ノズル4の開口径Dnを80mm、間隔Snを700mm、挿入長さLnを100mmとした。また、本実施の形態と比較される従来例では、
図10に示すようにVHSグリルレジスタ型の吹出口41を用い、吹出口41の間隔を5,000mmとし、下がり部33と吹出口42を別途設けた点を除き、実施の形態と同一のシミュレーション条件とした。
【0020】
本実施の形態では、
図2(a)及び
図3(a)を参照して、各吹出ノズル4から吹き出された空気の流速は4.5m/sであったが、吹出ノズル4の1,500mm下レベルでの面での吹き降ろし気流の風速が0.25m/sと高速であることが確認された。
図4(a)も参照して、各吹出ノズル4から吹き出された気流がその周囲の空気を誘引することで、大風量且つXY面内で均一な流速分布を持つ下降気流が形成されることが確認された。
図5(a)も参照して、下降気流は、床面Flに近づくのに従って徐々に流速が低下するものの、床面Fl付近でも微風速で空気が動いていることが判った。また、
図3(a)及び
図4(a)に顕著に示されるように、多段ラック51~54の内部に空気が入り込んでいくことも確認された。これは、誘引効果により大風量且つXY面内で均一な流速分布を持つ下降気流が形成されるためであると推測される。
【0021】
そして、本実施の形態では、上述したような下降気流が床面Flに到達することにより、
図6(a)及び
図7(a)に示すように、高天井倉庫Whの天井Ce近傍が19℃程度、高天井倉庫Whの中央レベルでは17.5℃程度、床面Fl近傍でも16.5℃程度であり、結果として、高天井倉庫Wh内の上下方向の温度分布が後述の従来例と比べて向上することが確認された。また、
図8(a)及び
図9(a)に示すように、高さ20m、10mのXY面内での温度分布も向上することが確認された。これは、多段ラック51~54の内部に空気が入り込むことによるものと推測される。
【0022】
それに対して、従来例では、
図2(b)及び
図3(b)を参照して、各吹出口41から吹き出された空気の流速はその動圧を有したままの直下では0.25m/sと高いが、その周囲の空気の流速は0.10m/s程度未満と低く、吹出し風速が低速なので周囲の空気を誘引する力がほとんど発生していないことが確認された。これより、本実施形態のような誘引効果が得られず、下降気流が大風量のものとはならないことが判った。
図4(b)及び
図5(b)も参照して、下降気流のXY面内での流速分布は不均一であり、床面Flに近づくのに従って急激に流速が低下することが確認された。このため、図示は省略するが、立下げ部33と吹出口42を別途設けなければ、下降気流が床面Flまで到達しないことが判った。
図2(b)において床面Fl近傍で流速が高いのは、床面Fl近傍の吹出口42から空気を吹き出しているためである。また、
図3(b)及び
図4(b)に示すように、多段ラック51~54の内部には実施の形態ほど空気が入り込まないことが確認された。これは、各吹出口41の直下で局所的に流速が高く、XY面内での流速分布が不均一であるためであると推測される。
【0023】
そして、従来例では、立下げ部33と吹出口42を別途設けたにも拘わらず、
図6(b)及び
図7(b)に示すように、高天井倉庫Whの天井Ce近傍の吹出口42の直下が22℃程度まで高い温度であるにもかかわらず、高天井倉庫Whの中央レベルでは16.8℃、床面Fl近傍まで来ると15.5℃程度であり、上下方向の温度分布が実施の形態より悪いことが確認された。さらに、
図8(b)及び
図9(b)に示すように、高さ20m、10mのXY面内での温度分布も、実施の形態より悪いことが確認された。これは、実施の形態よりも多段ラック51~54の内部に空気が入り込む量が少ないことによるものと推測される。
【0024】
本実施の形態では、暖房運転を行う場合を例に説明したが、冷房運転を行う場合にも適用することができる。冷房運転においても、高天井自動倉庫Wh内の上下方向の温度分布が向上することが確認された。
【0025】
また、本実施形態では、物品の自動搬送を行うスタッカクレーン6を設置した高天井自動倉庫Whに適用した場合を例に説明したが、スタッカクレーン6が設置されていなくてもよく、床面Flから天井Ceまでの高さが10m以上の高天井倉庫に対して本発明は広く適用することができる。
【符号の説明】
【0026】
Wh 高天井自動倉庫(高天井倉庫)、 Fl 床面、 Ce 天井、 1 空調システム、 2 空調機、 3 空調ダクト、 31 立上げ部、 32 水平部、 32a 下壁、 32b 透孔、 4 吹出ノズル、 51,52,53,54 多段ラック