(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147512
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】プラズマ溶接トーチ
(51)【国際特許分類】
H05H 1/28 20060101AFI20231005BHJP
H05H 1/34 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H05H1/28
H05H1/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055050
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】302040135
【氏名又は名称】日鉄溶接工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 茂
【テーマコード(参考)】
2G084
【Fターム(参考)】
2G084AA16
2G084BB21
2G084BB35
2G084CC01
2G084CC32
2G084FF33
2G084GG03
2G084GG07
2G084GG18
2G084GG28
(57)【要約】
【課題】プラズマ溶接トーチにおいてトーチサイズを大型化させることなく冷却水経路の拡大を図り、冷却能力の高いプラズマ溶接トーチを提供する。
【解決手段】プラズマ溶接を行うプラズマ溶接トーチ1であって、トーチボディ20と、前記トーチボディ20の軸心部に設けられる電極30と、前記電極30の周囲に設けられるパイロットガス経路PGと、前記パイロットガス経路PGの外側に設けられる冷却水経路W2と、を含み、前記冷却水経路W2は、前記パイロットガス経路PGの外周壁として設けられる絶縁部66を当該冷却水経路W2の内周壁として用い、且つ、外周壁として金属製筒状部69及び/又は絶縁筒状部13を用いて構成される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ溶接を行うプラズマ溶接トーチであって、
トーチボディと、前記トーチボディの軸心部に設けられる電極と、前記電極の周囲に設けられるパイロットガス経路と、前記パイロットガス経路の外側に設けられる冷却水経路と、を含み、
前記冷却水経路は、前記パイロットガス経路の外周壁として設けられる絶縁部を当該冷却水経路の内周壁として用い、且つ、外周壁として金属製筒状部及び/又は絶縁筒状部を用いて構成されることを特徴とする、プラズマ溶接トーチ。
【請求項2】
前記トーチボディは、チップ台、絶縁スペーサー、及び電極台を含み、
前記金属製筒状部は、前記チップ台及び前記電極台を含み、
前記絶縁筒状部は、前記絶縁スペーサーを含むことを特徴とする、請求項1に記載のプラズマ溶接トーチ。
【請求項3】
前記絶縁部は、前記トーチボディに含まれるチップ台、絶縁スペーサー、及び電極台に連通して挿入され、
当該絶縁部と、前記チップ台、前記絶縁スペーサー、及び前記電極台との間で前記冷却水経路が構成されることを特徴とする、請求項1又は2に記載のプラズマ溶接トーチ。
【請求項4】
前記絶縁部は、前記トーチボディに含まれるチップ台、絶縁スペーサー及び電極台と、前記トーチボディの下端部に位置するインサートチップとに連通して挿入され、
当該絶縁部と、前記チップ台、前記絶縁スペーサー、前記電極台及び前記インサートチップとの間で前記冷却水経路が構成されることを特徴とする、請求項1又は2に記載のプラズマ溶接トーチ。
【請求項5】
前記絶縁部は着脱可能に構成されることを特徴とする、請求項1に記載のプラズマ溶接トーチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ溶接トーチ、プラズマ粉体肉盛溶接トーチ、プラズマ切断トーチといったプラズマの原理を利用したプラズマトーチに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ溶接は、例えばタングステン等の金属で形成されている電極を一般的に陰極として放電を行い、その際に発生するプラズマアークを水冷インサートチップの孔を通過させ母材に移行させて行われる。これによりエネルギー密度の高いプラズマアークが集中性の良い高温プラズマ流として母材に移行させられ、効果的な溶接が実施される
【0003】
ところで、近年、被溶接物の多様化や溶接の効率化などに伴い、プラズマ溶接の高電流化が求められている。プラズマ溶接が高電流化されると、溶接中のプラズマ溶接トーチ内の熱量が増加してトーチを構成する部品の温度が上昇し、特にインサートチップを破損する恐れがある。そのため、冷却用に供給される冷却水の流量を増加させ、トーチの冷却能力を高めることが求められる。例えば特許文献1には、プラズマノズルと放熱部材との対向する面(挿入面・被挿入面)の形状を円錐状にすることで冷却能力を高めた構成のプラズマ溶接トーチが開示されている。
【0004】
一方で、プラズマ溶接トーチの取り扱い等、溶接作業性の観点からはプラズマ溶接トーチの小型化が望まれる。例えば特許文献2には、プラズマ溶接トーチにおいて先端部の小型化を図る技術が開示されている。この特許文献2では、シールドガス流路を電極の軸心回りの周方向において分離する分岐路からなる構成とすることでプラズマ溶接トーチの先端部の小型化が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-224830号公報
【特許文献2】特開2017-124432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
代表的なプラズマ溶接トーチは、例えば中心から径方向外向きに、電極(マイナス電位)、タングステンチャック、パイロットガス経路、金属製筒状部(電極と同電位)、絶縁材の筒状部、金属製筒状部(プラス電位)、冷却水経路、金属製筒状部(プラス電位)といった部材を有する構成となっている。即ち、パイロットガス経路、冷却水経路及びマイナス電位とプラス電位を絶縁する部材をプラズマ溶接トーチ内に設ける必要がある都合上、プラズマ溶接トーチの小型化には設計上の制限がある。
【0007】
例えば上記特許文献1に開示されたプラズマ溶接トーチの構成では、冷媒用流路を構成するために複数の層構造を有するような冷媒ケースを用いており、十分な小型化が実現されない恐れがある。
【0008】
また、例えば上記特許文献2に開示されたプラズマ溶接トーチの構成では、冷却水流路の例えば軸方向流路がトーチボディ内に設けられており、金属製の筒状部材に囲まれた流路となっている。そのため、冷却水流路の断面積が小さく、プラズマ溶接が高電流化された際の熱量の増加に十分対応できない恐れがある。なお、部材の薄肉化によって冷却水流路の拡大を図ることも考え得るが、部品の強度や製作コストの観点から薄肉化には限界があり、現実的ではない。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、プラズマ溶接トーチにおいてトーチサイズを大型化させることなく冷却水経路の拡大を図り、冷却能力の高いプラズマ溶接トーチを提供することを目的とする。特に、インサートチップ及び電極に対し大電流を流すと熱量が増加するが、トーチサイズをそのままとし、且つ、冷却水経路を拡大させ冷却能力の向上を実現させることで既存のトーチサイズにてプラズマ溶接の高電流化を実現させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、本発明によれば、プラズマ溶接を行うプラズマ溶接トーチであって、トーチボディと、前記トーチボディの軸心部に設けられる電極と、前記電極の周囲に設けられるパイロットガス経路と、前記パイロットガス経路の外側に設けられる冷却水経路と、を含み、前記冷却水経路は、前記パイロットガス経路の外周壁として設けられる絶縁部を当該冷却水経路の内周壁として用い、且つ、外周壁として金属製筒状部及び/又は絶縁筒状部を用いて構成されることを特徴とする、プラズマ溶接トーチが提供される。
【0011】
前記トーチボディは、チップ台、絶縁スペーサー、及び電極台を含み、前記金属製筒状部は、前記チップ台及び前記電極台を含み、前記絶縁筒状部は、前記絶縁スペーサーを含んでも良い。
【0012】
前記絶縁部は、前記トーチボディに含まれるチップ台、絶縁スペーサー、及び電極台に連通して挿入され、当該絶縁部と、前記チップ台、前記絶縁スペーサー、及び前記電極台との間で前記冷却水経路が構成されても良い。
【0013】
前記絶縁部は、前記トーチボディに含まれるチップ台、絶縁スペーサー及び電極台と、前記トーチボディの下端部に位置するインサートチップとに連通して挿入され、当該絶縁部と、前記チップ台、前記絶縁スペーサー、前記電極台及び前記インサートチップとの間で前記冷却水経路が構成されても良い。
【0014】
前記絶縁部は着脱可能に構成されても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、プラズマ溶接トーチにおいてトーチサイズを大型化させることなく冷却水経路の拡大を図り、冷却能力の高いプラズマ溶接トーチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】小電流用プラズマ溶接トーチの構成の一例を示す概略説明図である。
【
図2】小電流用プラズマ溶接トーチにおける冷却水経路の構成例を示す概略説明図である。
【
図3】従来の大電流用プラズマ溶接トーチにおける冷却水経路を含む経路構成の概略説明図である。
【
図4】従来の小電流用プラズマ溶接トーチにおける冷却水経路を含む経路構成の概略説明図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る冷却水経路を含む経路構成の概略説明図である。
【
図6】本発明の他実施形態に係る大電流用プラズマ溶接トーチの構成の一例を示す概略説明図である。
【
図7】本発明の他実施形態に係る大電流用プラズマ溶接トーチにおける冷却水経路の構成例を示す概略説明図である。
【
図8】従来の小電流用プラズマ溶接トーチの構成の一例を示す概略説明図である。
【
図9】従来の大電流用プラズマ溶接トーチの構成の一例を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。なお、本実施形態では、主にいわゆる小電流用プラズマ溶接トーチを例示して説明する。本明細書における小電流用プラズマ溶接トーチとは、インサートチップに直接冷却水経路が接することのない間接水冷式の溶接トーチを指す。
【0018】
<プラズマ溶接トーチの構成>
図1は、本実施の形態に係る小電流用プラズマ溶接トーチ1の構成の一例を示す概略説明図である。また、
図2は小電流用プラズマ溶接トーチ1における冷却水経路の構成例を示す概略説明図である。なお、
図1、
図2には、説明のため小電流用プラズマ溶接トーチ1の概略断面を示している。
【0019】
図1に示すように、小電流用プラズマ溶接トーチ1は、チップ台(プラス電位)10、絶縁スペーサー13、電極台(マイナス電位)16を含み、これらチップ台10、絶縁スペーサー13、及び電極台16によってトーチボディ20が構成される。図示のように、チップ台10と電極台16は、チップ台10の上方において絶縁スペーサー13により絶縁されており、これらを例えば樹脂に封入することによって一体化させることでトーチボディ20が構成される。また、各部材間などにおいては、図示していないOリングにより水漏れやガス漏れを防止する構成となっている。また、トーチボディ20の上端にはトーチキャップ25が取り付けられる。
【0020】
トーチボディ20の軸心部にはチャック部材31を介して電極30が配置される。電極30とトーチボディ20との間には絶縁水路32(後述する絶縁部66に相当)やセンタリングストーン33が設けられ、電極30が軸心部に位置決め固定される。絶縁部としての絶縁水路32は着脱可能に構成され、トーチボディ20に連通する(チップ台10、絶縁スペーサー13、電極台16に連通する)ように、絶縁水路32を上方から挿入することで、チップ台10、絶縁スペーサー13、電極台16と絶縁水路32との間に後述する冷却水経路Wが形成される。なお、電極30は例えばタングステン等の金属で形成されても良い。
【0021】
トーチ下端部において、電極30の周囲にはインサートチップ35が設けられ、その周囲にはシールドキャップ38が設けられている。プラズマ溶接トーチ1の下端においてインサートチップ35の下端部(先端部)は、シールドキャップ38の中央下部の開口から突出するように構成され、その中央には電極30の下端から噴出されたプラズマ気流の噴出口としてのプラズマノズル口40が構成されている。
【0022】
また、
図2に示すように、小電流用プラズマ溶接トーチ1は、その内部に導通するパイロットガス経路PG、冷却水経路W、及びシールドガス経路SGを備えている(
図2中の斜線部参照)。パイロットガス経路PGは電極30の周囲に設けられている。冷却水経路Wはパイロットガス経路PGの外側に設けられ、例えばトーチボディ20の内部に挿通される。シールドガス経路SGは電極30に対しパイロットガス経路PGや冷却水経路Wの更に外側に設けられている。なお、ここでは図示されていないが、冷却水経路Wについて、トーチボディ20の周囲にはそれぞれ入口と出口が個別に形成されても良い。
【0023】
パイロットガス経路PGは最終的には小電流用プラズマ溶接トーチ1の下端においてプラズマノズル口40からパイロットガスを噴出させ、プラズマアークを発生及び維持させる役割を有し、高温プラズマ流を発生させて溶接を行うものである。また、シールドガス経路SGはインサートチップ35の周囲からシールドガスを噴出させることで、プラズマアークやプラズマアークにより溶かされた母材を大気から遮蔽するものである。
【0024】
また、冷却水経路Wはトーチボディ20、チャック部材31、絶縁水路32、インサートチップ35といった小電流用プラズマ溶接トーチ1を構成する各部材を直接的あるいは間接的に冷却するために設けられる。冷却対象とする部材に任意であり、トーチ構成によって異なるが、例えば少なくともチップ台10の一部を直接冷却するように、冷却水経路Wは当該チップ台10の内部を通るように設けられても良い。また、冷却水経路Wは、絶縁スペーサー13、電極台16の内部を通り、これら絶縁スペーサー13、電極台16の少なくとも一部を冷却するように設けられても良い。プラズマ溶接時には、プラズマトーチの各部材、特に電極30、チャック部材31及びインサートチップ35には、溶接電流に応じて高温の熱量がかかる。この高温による焼損を防止するため冷却水を流すことで各部材を保護している。しかし、発熱量が冷却能力を超えると部品が焼損する。このため、高電流であっても、各部材の焼損を防止するため、この冷却水経路Wの冷却能力向上が求められる。
【0025】
一方で、小電流用プラズマ溶接トーチ1によってプラズマ溶接を行う対象物(被溶接物)の形状や、付帯的な治具等の形状に基づき、小電流用プラズマ溶接トーチ1には寸法的な制約がある。そこで、本発明者らは、冷却水経路Wの周辺部材を含めた構成について鋭意検討を行い、トーチサイズを大型化させることなく冷却水経路Wを拡大させ、冷却能力の向上を図るべく新たな経路構成を創案した。
【0026】
以下、本実施形態に係る冷却水経路Wやその周辺部材の構成について図面を参照して説明する。なお、以下の説明においては、
図1、
図2を含め、同じ機能構成を有する構成要素については同一の符号を付して図示し、その説明を省略する場合がある。
【0027】
<従来の冷却水経路W1を含む経路構成>
先ず、従来の冷却水経路W1を含む経路の構成例について説明する。
図3は従来の大電流用プラズマ溶接トーチにおける冷却水経路W1を含む経路構成50a(50)の概略説明図である。また、
図9は従来の大電流用プラズマ溶接トーチの構成の一例を示す概略説明図である。ここで、従来の大電流用プラズマ溶接トーチとは、
図9のように、インサートチップに直接冷却水経路が接するような直接水冷式の溶接トーチを指す。なお、
図3には、説明のため従来の大電流用プラズマ溶接トーチの一部分(
図9の破線部参照)を拡大した際の経路断面を概念図として図示している。
【0028】
図4は従来の小電流用プラズマ溶接トーチにおける冷却水経路W1を含む経路構成50b(50)の概略説明図である。また、
図8は従来の小電流用プラズマ溶接トーチの構成の一例を示す概略説明図である。ここで、従来の小電流用プラズマ溶接トーチとは、
図8のように、インサートチップに冷却水経路が接することのない、間接水冷式の溶接トーチを指す。なお、
図4には、説明のため従来の小電流用プラズマ溶接トーチの一部分(
図8の破線部参照)を拡大した際の経路断面を概念図として図示している。
【0029】
図3に示す経路構成50aにおいては、軸心の電極30を中心とし、外側に向かって順に電極30、チャック部材31、パイロットガス経路PG、金属製筒状部54、絶縁部56、金属製筒状部58、冷却水経路W1、金属製筒状部59を含む構成となっている。ここで、チャック部材31、金属製筒状部54は電極30と同電位、金属製筒状部58、59はプラス電位となっている。
【0030】
また、
図4に示す経路構成50bにおいては、軸心の電極30を中心とし、外側に向かって順に電極30、チャック部材31、パイロットガス経路PG、絶縁部56、金属製筒状部58、冷却水経路W1、金属製筒状部59を含む構成となっている。ここで、チャック部材31は電極30と同電位、金属製筒状部58、59はプラス電位となっている。
【0031】
これら
図3及び
図4に示す経路構成50(50a、50b)においては、冷却水経路W1を構成するために両側に金属製筒状部58、59を設けている。また、例えばセラミックによって形成される絶縁部56は、電極30やチャック部材31等のマイナス電位を有する部材と、金属製筒状部58、59といったプラス電位を有する部材とを電気的に絶縁させるために必ず設ける必要がある。
【0032】
本発明者らは、冷却水経路W1を構成するために両側に金属製筒状部58、59を設け、金属製筒状部58、59が2重構造となっているためにトーチ全体の径に占める冷却水経路W1の幅が小さくなっていることに着目し、以下のような経路構成を創案した。
【0033】
<本発明の実施の形態に係る冷却水経路W2を含む経路構成>
図5は本発明の実施の形態に係る冷却水経路W2を含む経路構成60の概略説明図である。なお、ここでは、説明のため小電流用プラズマ溶接トーチ1の一部分(
図2の破線部参照)を拡大した際の経路断面を概念図として図示している。
【0034】
図5に示すように、本実施形態に係る経路構成60においては、軸心の電極30を中心とし、外側に向かって順に電極30、チャック部材31、パイロットガス経路PG、絶縁部66、冷却水経路W2、金属製筒状部69を含む構成となっている。ここで、チャック部材31は電極30と同電位、金属製筒状部69はプラス電位となっている。
【0035】
図5に示す経路構成60においては、冷却水経路W2を構成するに際し、一方の側(内周壁)を絶縁部66とし、他方の側(外周壁)を金属製筒状部69としている。本実施の形態に係る構成において、この他方の側(外周壁)としては、チップ台10及び電極台16を含む金属製筒状部69に加え、絶縁スペーサー13を含む絶縁筒状部(図示せず)が用いられても良い。
【0036】
経路構成60では、パイロットガス経路PGの外周壁としての絶縁部66を、冷却水経路W2の内周壁として共用した構成を有している。これにより、電極30やチャック部材31等のマイナス電位を有する部材と、金属製筒状部69といったプラス電位を有する部材とを電気的に絶縁させ、且つ、冷却水経路Wの流路幅を拡大させることができる。
【0037】
換言すると、
図3や
図4に示した冷却水経路W1を構成するための金属製筒状部(58、59)の一方を省略させ、部材数を減らすことができる。これにより、小電流用プラズマ溶接トーチ1のトーチサイズ(例えば径方向の幅長さ)をそのままに、冷却水経路Wの幅を従前の幅(例えば冷却水経路W1の幅)よりも拡大させることが可能となる。
【0038】
<作用効果>
本実施の形態に係る冷却水経路W2を含む経路構成60を備えた小電流用プラズマ溶接トーチ1によれば、冷却水経路W2を構成するにあたり一方の側(内周側)を絶縁部66とし、他方の側(外周側)を金属製筒状部69としている(
図5参照)。そのため、従来の経路構成に比べ部材点数を減らすことができ、冷却水経路W2の幅を従前の幅に比べ拡大させることができる。冷却水経路W2の幅が大きいと断面積も拡大し、当該冷却水経路W2に大流量の冷却水を流すことが可能となり、冷却能力の向上が図られる。
【0039】
また、同じトーチサイズを有する小電流用プラズマ溶接トーチ1において冷却水経路W2のように部材点数の少ない構成でトーチ設計を行うことで、トーチ全体の寸法を大きくすることなく、冷却水経路W2の幅を従前に比べ拡大させ、冷却能力の向上を図ることができる。即ち、小電流用プラズマ溶接トーチ1を構成する他の部材や付帯的な治具等については従前のものを利用し、且つ、冷却能力の向上を図ることで、同じトーチサイズでありながら電極30に大電流を流すことが可能となり、プラズマ溶接の高電流化が実現される。
【0040】
例えば、従前の小電流(15A程度)用に製作されたプラズマ溶接トーチにおいて設計変更を行い冷却水経路の拡大を実施することで、同サイズのプラズマ溶接トーチであっても、最大30Aといった約2倍の大電流を流すことが可能となる。
【0041】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0042】
例えば、上記実施の形態においては小電流用プラズマ溶接トーチ1の構成例として、インサートチップ35には直接冷却水経路Wが接することのないいわゆる間接水冷トーチを挙げて図示し説明したが、本発明技術の適用範囲はこれに限られるものではない。例えば、インサートチップに直接冷却水経路Wを接触させるように構成され、直接水冷トーチと呼称されるいわゆる大電流用プラズマ溶接トーチについても同様に適用可能である。以下、本発明の他実施形態として大電流用プラズマ溶接トーチ(直接水冷トーチ)に対し本発明技術を適用する場合について説明する。
【0043】
<本発明の他実施形態>
図6は、本発明の他実施形態に係る大電流用プラズマ溶接トーチ100の構成の一例を示す概略説明図である。また、
図7は大電流用プラズマ溶接トーチ100における冷却水経路の構成例を示す概略説明図である。なお、
図6、
図7には、説明のため大電流用プラズマ溶接トーチ100の概略断面を示している。
【0044】
図6に示すように、大電流用プラズマ溶接トーチ100は、チップ台(プラス電位)110、絶縁スペーサー113、電極台(マイナス電位)116を含み、これらチップ台110、絶縁スペーサー113、及び電極台116によってトーチボディ120が構成される。図示のように、チップ台110と電極台116は、チップ台110の上方において絶縁スペーサー113により絶縁され、これらを例えば樹脂に封入することによって一体化させることでトーチボディ120が構成される。また、各部材間などにおいては、図示していないOリングにより水漏れやガス漏れを防止する構成となっている。また、トーチボディ120の上端にはトーチキャップ125が取り付けられる。
【0045】
トーチボディ120の軸心部にはチャック部材131を介して電極130が配置される。電極130とトーチボディ120との間には、チャック受け127、絶縁部としての絶縁水路132やセンタリングストーン133が設けられ、電極130が軸心部に位置決め固定される。トーチ下端部において電極130の周囲にはインサートチップ135が設けられる。絶縁部としての絶縁水路132は着脱可能に構成され、トーチボディ120やインサートチップ135に連通するように絶縁水路132を上方から挿入することで、チップ台110、絶縁スペーサー113、電極台116、及びインサートチップ135と、絶縁水路132との間に冷却水経路Wが形成される。なお、電極130は例えばタングステン等の金属で形成されても良い。
【0046】
インサートチップ135の周囲にはシールドキャップ138が設けられている。大電流用プラズマ溶接トーチ100の下端においてインサートチップ135の下端部(先端部)は、シールドキャップ138の中央下部の開口から突出するように構成され、その中央には電極130の下端から噴出されたプラズマ気流の噴出口としてのプラズマノズル口140が構成されている。
【0047】
また、
図7に示すように、大電流用プラズマ溶接トーチ100は、その内部に導通するパイロットガス経路PG、冷却水経路W、及びシールドガス経路SGを備えている(
図7中の斜線部参照)。パイロットガス経路PGは電極130の周囲に設けられ、トーチ上部から電極130の周囲にパイロットガスの供給が行われる。
【0048】
冷却水経路Wは、トーチボディ120の側方から供給された冷却水がトーチボディ120の内部を通過しつつインサートチップ135内部まで流れる。図示のように、大電流用プラズマ溶接トーチ100においては、冷却水経路Wの導入口150と排出口152が設けられても良い。シールドガス経路SGは電極130に対しパイロットガス経路PGや冷却水経路Wの更に外側に設けられている。
【0049】
本形態に係る大電流用プラズマ溶接トーチ100においては、冷却水経路Wがより広範囲に設けられている。具体的には、電極台116の一部、チップ台110全体、インサートチップ135の一部といった箇所が直接水冷により冷却される構成を有している。本形態に係る大電流用プラズマ溶接トーチ100においても、本発明技術を適用することで、上記実施の形態と同様に、冷却水経路Wの幅を従前の幅に比べ拡大させ、大流量の冷却水を流し、冷却能力の向上を図ることができる。
【0050】
大電流用プラズマ溶接トーチ100においては、冷却水経路Wがより広範囲に設けられており、冷却水経路Wの幅を従前の幅に比べ拡大させた場合の冷却能力の向上が大きい。具体的には、180A用に製作された大電流用プラズマ溶接トーチにおいて設計変更を行い冷却水経路の拡大を実施することで、250Aといった大電流を流すことが可能な構成を実現させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、プラズマ溶接トーチ、プラズマ粉体肉盛溶接トーチ、プラズマ切断トーチといったプラズマの原理を利用したプラズマトーチに適用できる。
【符号の説明】
【0052】
1…小電流用プラズマ溶接トーチ
10…チップ台
13…絶縁スペーサー
16…電極台
20…トーチボディ
25…トーチキャップ
30…電極
31…チャック部材
32…絶縁水路
33…センタリングストーン
35…インサートチップ
38…シールドキャップ
40…プラズマノズル口
50(50a、50b)…(従来の)経路構成
54…金属製筒状部
56…絶縁部
58…金属製筒状部
59…金属製筒状部
60…(本発明の)経路構成
66…絶縁部
69…金属製筒状部
100…(他実施形態に係る)大電流用プラズマ溶接トーチ
PG…パイロットガス経路
SG…シールドガス経路
W(W1、W2)…冷却水経路