(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147536
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】ハニカムフィルタ
(51)【国際特許分類】
B01D 39/20 20060101AFI20231005BHJP
B01D 46/00 20220101ALI20231005BHJP
C04B 38/06 20060101ALI20231005BHJP
F01N 3/022 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B01D39/20 D
B01D46/00 302
C04B38/06 D
F01N3/022 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055095
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 文彦
(72)【発明者】
【氏名】栗本 雄大
【テーマコード(参考)】
3G190
4D019
4D058
【Fターム(参考)】
3G190AA02
3G190AA12
3G190BA02
3G190BA17
3G190BA22
3G190BA26
3G190CA03
3G190CA13
3G190CB13
4D019AA01
4D019BA05
4D019BB06
4D019BC07
4D019BD01
4D019CA01
4D019CB04
4D019CB06
4D058JA37
4D058JA38
4D058JA39
4D058JB22
4D058JB44
4D058SA08
4D058TA06
(57)【要約】
【課題】低圧力損失であるとともに、セルの開口部を目封止するように配設された目封止部の耐エロージョン性に優れ、更に耐熱衝撃性にも優れたハニカムフィルタを提供する。
【解決手段】複数のセル2を取り囲むように配置された多孔質の隔壁1を有する柱状のハニカム構造部4と、目封止部5と、を備え、流入セル2aの断面形状が八角形であり、且つ、流出セル2bの断面形状が四角形であり、流入セル2aの断面積S1に対する、流出セル2bの断面積S2の面積比(S1/S2)が1.40~2.20であり、目封止部5は、当該目封止部5が配設された側のハニカム構造部4の端面からセル2の延びる方向の外側に向かって突出する凸部6を有し、凸部6の前記端面を底部とした突出高さHが0.3~3.0mmであり、且つ凸部6を有する目封止部5の前記端面からの目封止深さLが4.0~9.0mmである。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入端面から流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを取り囲むように配置された多孔質の隔壁を有する柱状のハニカム構造部と、前記セルの前記流入端面側又は前記流出端面側のいずれか一方の端部を封止するように配設された目封止部と、を備え、
前記流出端面側の端部に前記目封止部が配設され、前記流入端面側が開口した前記セルを、流入セルとし、
前記流入端面側の端部に前記目封止部が配設され、前記流出端面側が開口した前記セルを、流出セルとし、
前記ハニカム構造部の前記セルの延びる方向に直交する断面において、前記ハニカム構造部の最外周に配設された前記セルを除き、前記流入セルの断面形状が八角形であり、且つ、前記流出セルの断面形状が四角形であり、
前記断面形状が八角形の前記流入セルの断面積S1に対する、前記断面形状が四角形の前記流出セルの断面積S2の面積比(S1/S2)が1.40~2.20であり、
前記断面形状が八角形の前記流入セル及び前記断面形状が四角形の前記流出セルの端部を封止する前記目封止部は、当該目封止部が配設された側の端面から前記セルの延びる方向の外側に向かって突出する凸部を有し、
前記凸部の前記端面を底部とした突出高さHが0.3~3.0mmであり、且つ前記凸部を有する前記目封止部の前記端面からの目封止深さLが4.0~9.0mmである、ハニカムフィルタ。
【請求項2】
前記隔壁の厚さが0.17~0.32mmである、請求項1に記載のハニカムフィルタ。
【請求項3】
前記ハニカム構造部のセル密度が30~62個/cm2である、請求項1又は2に記載のハニカムフィルタ。
【請求項4】
前記隔壁の気孔率が50~60%である、請求項1~3のいずれか一項に記載のハニカムフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカムフィルタに関する。更に詳しくは、低圧力損失であるとともに、セルの開口部を目封止するように配設された目封止部の耐エロージョン(erosion)性に優れ、更に耐熱衝撃性にも優れたハニカムフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のエンジン等の内燃機関より排出される排ガス中の粒子状物質を捕集するフィルタや、CO,HC,NOxなどの有毒なガス成分を浄化する装置として、ハニカム構造体を用いたハニカムフィルタが知られている(特許文献1参照)。ハニカム構造体は、コージェライトなどの多孔質セラミックスによって構成された隔壁を有し、この隔壁によって複数のセルが区画形成されたものである。ハニカムフィルタは、上述したハニカム構造体に対して、複数のセルの流入端面側の開口部と流出端面側の開口部とを交互に目封止するように目封止部を配設したものである。即ち、ハニカムフィルタは、流入端面側が開口し且つ流出端面側が目封止された流入セルと、流入端面側が目封止され且つ流出端面側が開口した流出セルとが、隔壁を挟んで交互に配置された構造となっている。そして、ハニカムフィルタにおいては、多孔質の隔壁が、排ガス中の粒子状物質を捕集するフィルタの役目を果たしている。以下、排ガスに含まれる粒子状物質を、「PM」ということがある。「PM」は、「particulate matter」の略である。
【0003】
ハニカムフィルタによる排ガスの浄化は、以下のようにして行われる。まず、ハニカムフィルタは、その流入端面側が、排ガスが排出される排気系の上流側に位置するように配置される。排ガスは、ハニカムフィルタの流入端面側から、流入セルに流入する。そして、流入セルに流入した排ガスは、多孔質の隔壁を通過し、流出セルへと流れ、ハニカムフィルタの流出端面から排出される。
【0004】
ハニカムフィルタによって排ガス中のPMの除去を継続して行うと、ハニカムフィルタの内部に煤等のPMが堆積し、浄化効率が低下するとともに、ハニカムフィルタの圧力損失が大きくなる。そこで、例えば、ハニカムフィルタを用いた浄化装置においては、ハニカムフィルタの内部に堆積したPMを燃焼させる「再生処理」などが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、自動車等のエンジンから排出される排ガスを浄化するためのハニカムフィルタには、自動車の燃費性能の向上等を目的として、圧力損失の低減化が求められている。圧力損失の低減化の対策の1つとして、ハニカムフィルタの気孔率を従来に比して更に高める「高気孔率化」に関する検討が進められている。しかしながら、ハニカムフィルタの高気孔率化に伴い、目封止部を構成する目封止材が高気孔率となると、ハニカムフィルタ全体の熱容量が低くなり、上述したような再生処理において、ハニカムフィルタに破損が起こり易くなるという問題があった。
【0007】
また、ハニカムフィルタは、エンジンや排気管から発生した金属粒などの異物が排ガスの流れにのって飛来した場合、ハニカムフィルタの目封止部に異物が衝突し、異物が衝突した目封止部が摩耗してしまうという問題があった。特に、近年の高気孔率化に対応した目封止部は、異物の衝突によって摩耗し易く、上記した問題がより顕著となっている。以下、排ガスの流れにのって飛来した異物による目封止部等の摩耗や削れのことを、「エロージョン(Erosion)」ということがある。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。本発明は、低圧力損失であるとともに、目封止部の耐エロージョン性に優れ、更に耐熱衝撃性にも優れたハニカムフィルタを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下に示す、ハニカムフィルタが提供される。
【0010】
[1] 流入端面から流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを取り囲むように配置された多孔質の隔壁を有する柱状のハニカム構造部と、前記セルの前記流入端面側又は前記流出端面側のいずれか一方の端部を封止するように配設された目封止部と、を備え、
前記流出端面側の端部に前記目封止部が配設され、前記流入端面側が開口した前記セルを、流入セルとし、
前記流入端面側の端部に前記目封止部が配設され、前記流出端面側が開口した前記セルを、流出セルとし、
前記ハニカム構造部の前記セルの延びる方向に直交する断面において、前記ハニカム構造部の最外周に配設された前記セルを除き、前記流入セルの断面形状が八角形であり、且つ、前記流出セルの断面形状が四角形であり、
前記断面形状が八角形の前記流入セルの断面積S1に対する、前記断面形状が四角形の前記流出セルの断面積S2の面積比(S1/S2)が1.40~2.20であり、
前記断面形状が八角形の前記流入セル及び前記断面形状が四角形の前記流出セルの端部を封止する前記目封止部は、当該目封止部が配設された側の端面から前記セルの延びる方向の外側に向かって突出する凸部を有し、
前記凸部の前記端面を底部とした突出高さHが0.3~3.0mmであり、且つ前記凸部を有する前記目封止部の前記端面からの目封止深さLが4.0~9.0mmである、ハニカムフィルタ。
【0011】
[2] 前記隔壁の厚さが0.17~0.32mmである、前記[1]に記載のハニカムフィルタ。
【0012】
[3] 前記ハニカム構造部のセル密度が30~62個/cm2である、前記[1]又は[2]に記載のハニカムフィルタ。
【0013】
[4] 前記隔壁の気孔率が50~60%である、前記[1]~[3]のいずれかに記載のハニカムフィルタ。
【発明の効果】
【0014】
本発明のハニカムフィルタは、低圧力損失であるとともに、目封止部の耐エロージョン性に優れ、更に耐熱衝撃性にも優れるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のハニカムフィルタの一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1に示すハニカムフィルタの流入端面側を示す平面図である。
【
図3】
図1に示すハニカムフィルタの流出端面側を示す平面図である。
【
図4】
図2に示すハニカムフィルタの流入端面側の一部を拡大した拡大平面図である。
【
図5】
図2のA-A’断面を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図5に示すハニカムフィルタの流入端面側の一部を拡大した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0017】
(1)ハニカムフィルタ:
本発明のハニカムフィルタの一の実施形態は、
図1~
図6に示すようなハニカムフィルタ100である。ここで、
図1は、本発明のハニカムフィルタの一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2は、
図1に示すハニカムフィルタの流入端面側を示す平面図である。
図3は、
図1に示すハニカムフィルタの流出端面側を示す平面図である。
図4は、
図2に示すハニカムフィルタの流入端面側の一部を拡大した拡大平面図である。
図5は、
図2のA-A’断面を模式的に示す断面図である。
図6は、
図5に示すハニカムフィルタの流入端面側の一部を拡大した拡大断面図である。
【0018】
図1~
図6に示すように、ハニカムフィルタ100は、ハニカム構造部4と、目封止部5と、を備えたものである。ハニカム構造部4は、流入端面11から流出端面12まで延びる流体の流路となる複数のセル2を取り囲むように配置された多孔質の隔壁1を有する。ハニカム構造部4は、流入端面11及び流出端面12を両端面とする柱状の構造体である。本発明において、セル2とは、隔壁1によって取り囲まれた空間のことを意味する。ハニカムフィルタ100を構成するハニカム構造部4は、その外周側面に、隔壁1を囲繞するように配設された外周壁3を更に有している。
【0019】
目封止部5は、セル2の流入端面11側の端部又は流出端面12側の端部のいずれか一方に配設され、セル2の開口部を目封止するものである。目封止部5は、多孔質材料によって構成された多孔質のもの(即ち、多孔質体)である。
図1~
図6に示すハニカムフィルタ100は、流入端面11側の端部に目封止部5が配設されている所定のセル2と、流出端面12側の端部に目封止部5が配設されている残余のセル2とが、隔壁1を挟んで交互に配置されている。以下、目封止部5が流入端面11側の端部に配設されたセル2を、「流出セル2b」ということがある。目封止部5が流出端面12側の端部に配設されたセル2を、「流入セル2a」ということがある。
【0020】
ハニカムフィルタ100は、ハニカム構造部4のセル2の延びる方向に直交する断面において、ハニカム構造部4の最外周に配設されたセル2を除き、流入セル2aの断面形状が八角形であり、且つ、流出セル2bの断面形状が四角形である。以下、セル2の周縁が隔壁1のみによって取り囲まれたセル2のことを「完全セル」ということがある。一方で、ハニカム構造部4の外周側面に外周壁3が配設されている場合、ハニカム構造部4の最外周に配設されたセル2(以下、単に「最外周のセル2」ともいう)は、隔壁1と外周壁3とによって取り囲まれたセル2となる。このような最外周のセル2は、セル2の周縁の一部が外周壁3によって区画されており、完全セルの一部が欠損したような不完全なセル2となっている。このようなセル2の周縁が隔壁1と外周壁3によって取り囲まれたセル2のことを「不完全セル」ということがあり、このような不完全セルは、上述した流入セル2a及び流出セル2bを構成しているセル2には含めないこととする。このため、特にことわりのない限り、単に「流入セル2a」及び「流出セル2b」という場合には、完全セルである「流入セル2a」及び「流出セル2b」のことをいう。
【0021】
本実施形態のハニカムフィルタ100は、このような流入セル2a及び流出セル2bの形状及びその断面積と、これらのセル2のいずれか一方の端部に配設され目封止部5の構成において、特に主要な特性を有している。即ち、本実施形態のハニカムフィルタ100は、断面形状が八角形の流入セル2aの断面積S1に対する、断面形状が四角形の流出セル2bの断面積S2の面積比(S1/S2)が1.40~2.20である。そして、このような流入セル2a及び流出セル2bの端部を封止する目封止部5は、当該目封止部5が配設された側の端面からセル2の延びる方向の外側に向かって突出する凸部6を有する。ここで、「目封止部5が配設された側の端面」とは、流入セル2aの端部に配設された目封止部5においては、ハニカム構造部4の流出端面12のことであり、流出セル2bの端部に配設された目封止部5においては、ハニカム構造部4の流入端面11のことである。目封止部5の凸部6は、凸部6の突出高さHが0.3~3.0mmであり、且つ凸部6を有する目封止部5の目封止深さLが4.0~9.0mmである。ここで、凸部6の突出高さHとは、凸部6が配設されたハニカム構造部4の端面(即ち、流入端面11又は流出端面12)を底部とした場合の、当該凸部6の頂部までの高さのことをいう。また、目封止部5の目封止深さLとは、凸部6が配設されたハニカム構造部4の端面(即ち、流入端面11又は流出端面12)を起点とし、セル2内に充填された目封止部5の長さ(セルの延びる方向の長さ)のことをいう。
【0022】
以上のように構成された本実施形態のハニカムフィルタ100は、低圧力損失であるとともに、目封止部5の耐エロージョン性に優れ、更に耐熱衝撃性にも優れるという効果を奏するものである。特に、目封止部5を上述したような凸部6を有するものとすることにより、流入端面11側の目封止部5の端部に傾斜が生じ、流入端面11側から流入する排ガスが流入セル2a内に円滑(スムーズ)に流入し、ハニカムフィルタ100の圧力損失が低減する。また、凸部6を有する目封止部5について、排ガスの流れにのって飛来した異物による目封止部5の摩耗(エロージョン)の発生過程を研究した結果、以下のような新たな知見が得られた。凸部6を有する目封止部5は、流入セル2aの断面積S1を流出セル2bの断面積S2に比して相対的に大きくした場合に、飛来する異物との接触確率が低くなり、目封止部5の耐エロージョン性が向上する。特に、流入セル2aの断面形状を八角形とし、且つ、流出セル2bの断面形状を四角形とし、それらの面積比(S1/S2)を1.40~2.20とすることで、目封止部5の耐エロージョン性が極めて優れたものとなる。また、このような流入セル2a及び流出セル2bの断面形状及び面積比(S1/S2)とすることで、凸部6による円滑な排ガスの流入効果が促進され、ハニカムフィルタ100の圧力損失の更なる低減を図ることができる。
【0023】
また、本実施形態のハニカムフィルタ100は、凸部6の突出高さHを0.3~3.0mmとし、凸部6を有する目封止部5の目封止深さLを4.0~9.0mmとすることで、凸部6による容積増大分を含めてハニカムフィルタ100の熱容量が高くなる。このため、ハニカムフィルタ100の内部に堆積したPMを燃焼させる再生処理において、ハニカムフィルタ100に破損が起こり難くなり、耐熱衝撃性にも優れたものとなる。
【0024】
流入セル2aは断面形状が八角形であり、流出セル2bは断面形状が四角形である。以下、流入セル2a及び流出セル2bの「断面形状」のことを、「セル形状」ということがある。流入セル2a及び流出セル2bのセル形状については、各多角形(八角形及び四角形)の角部が曲線状に形成された形状、例えば、四角形の角部が曲線状に形成された略四角形であってもよい。また、流出セル2bのセル形状が「四角形」であり、流入セル2aのセル形状が「八角形」である場合、流入セル2aのセル形状は、以下のように構成された「八角形」であることが好ましい。即ち、流入セル2aのセル形状は、流出セル2bのセル形状である四角形の一辺の長さを所定の長さだけ拡大し、拡大した四角形の四隅を面取りすることによって構成される「八角形」であることが好ましい。
【0025】
流入セル2aの断面積S1に対する、流出セル2bの断面積S2の面積比(S1/S2)は、1.40~2.20である。面積比(S1/S2)が1.40未満であると、圧力損失の低減効果が低く、また、十分な耐エロージョン性の向上も期待できない。面積比(S1/S2)が2.20を超えると、圧力損失が増大する。面積比(S1/S2)は、1.50~2.10であることが好ましく、1.70~2.10であることが更に好ましい。
【0026】
流入セル2aの断面積S1及び流出セル2bの断面積S2は、走査型電子顕微鏡(SEM)又はマイクロスコープ(microscope)を用いて観察を行い得られた画像を解析することによって測定することができる。また、任意に選択した10箇所にて流入セル2aの断面積S1及び流出セル2bの断面積S2を測定し、それぞれの平均値とする。
【0027】
目封止部5は、凸部6の突出高さHが0.3~3.0mmであり、目封止深さLが4.0~9.0mmである。凸部6の突出高さHが0.3mm未満であると、耐エロージョン性の点で好ましくない。凸部6の突出高さHが3.0mmを超えると、浄化性能の点で好ましくない。凸部6の突出高さHは、0.5~3.0mmであることが好ましく、0.5~2.0mmであることが更に好ましい。また、目封止深さLが4.0mm未満であると、耐熱衝撃性の点で好ましくない。目封止深さLが9.0mmを超えると、圧力損失の点で好ましくない。目封止深さLは、4.0~9.0mmであることが好ましく、4.5~9.0mmであることが更に好ましい。
【0028】
凸部6の突出高さH及び目封止深さLは、以下の方法で測定することができる。突出高さHは、ハニカムフィルタ100の端面からスケール(SCALE)を用いて測定することができる。目封止深さLは、ハニカムフィルタ100の全長よりも長く、長さが既知である棒をセル2に挿入し、ハニカムフィルタ100から露出した棒の長さと、棒自体の長さの差から、目封止部5の長さ(即ち、目封止深さL)を算出することによって測定する。また、任意に選択した10箇所にて突出高さH及び目封止深さLを測定し、それぞれの平均値とする。
【0029】
目封止部5の凸部6は、当該目封止部5が配設された側の端面からセル2の延びる方向の外側に向かって突出するものであればよく、例えば、凸部6の形状は、半球状又は角錐状等のようにどのような形で突出していてもよい。なお、凸部6の頂部は1つであることが好ましく、凸部6の頂部は、その頂部から底部に下ろした垂線が、当該目封止部5が配設されたセル2の断面中心(断面重心)に近接することがより好ましい。凸部6の突出高さH及び目封止深さLは、流入端面11側に配設された目封止部5と、流出端面12側に配設された目封止部5とで、同一の値であってもよいし異なる値であってもよい。但し、ハニカム構造部4の流入端面11側に配設された目封止部5の突出高さH1及び目封止深さL1と、ハニカム構造部4の流出端面12側に配設された目封止部5の突出高さH2及び目封止深さL2とは、これまでに説明した数値範囲を満たすものとする。
【0030】
ハニカムフィルタ100において、多孔質の隔壁1を有するハニカム構造部4の構成については特に制限はない。但し、ハニカム構造部4の好ましい態様は、以下の通りである。
【0031】
ハニカム構造部4は、隔壁1の厚さが0.17~0.32mmであることが好ましく、0.20~0.30mmであることが更に好ましい。隔壁1の厚さL2は、例えば、走査型電子顕微鏡又はマイクロスコープ(microscope)を用いて測定することができる。隔壁1の厚さL2が0.17mm未満であると、十分な強度が得られない場合がある。一方、隔壁1の厚さL2が0.32mmを超えると、ハニカムフィルタ100の圧力損失が増大することがある。
【0032】
ハニカム構造部4は、隔壁1の気孔率が50~60%であることが好ましく、52~58%であることが更に好ましい。隔壁1の気孔率は、水銀圧入法によって測定された値である。隔壁1の気孔率の測定は、例えば、Micromeritics社製のオートポア9500(商品名)を用いて行うことができる。隔壁1の気孔率の測定は、ハニカム構造部4から隔壁1の一部を切り出して試料片とし、このようにして得られた試料片を用いて行うことができる。なお、隔壁1の気孔率は、ハニカム構造部4の全域において一定の値であることが好ましい。
【0033】
ハニカム構造部4は、隔壁1によって区画形成されるセル2のセル密度が、30~62個/cm2であることが好ましく、31~62個/cm2であることが更に好ましい。このように構成することによって、ハニカムフィルタ100の捕集性を維持しつつ、圧力損失の増大を抑制することができる。
【0034】
ハニカム構造部4の外周壁3は、隔壁1と一体的に構成されたものであってもよいし、隔壁1の外周側に外周コート材を塗工することによって形成した外周コート層であってもよい。例えば、図示は省略するが、外周コート層は、製造時において、隔壁と外周壁とを一体的に形成した後、形成された外周壁を、研削加工等の公知の方法によって除去した後、隔壁の外周側に設けることができる。
【0035】
ハニカム構造部4の形状については特に制限はない。ハニカム構造部4の形状としては、流入端面11及び流出端面12の形状が円形、楕円形、多角形等の柱状を挙げることができる。
【0036】
ハニカム構造部4の大きさ、例えば、流入端面11から流出端面12までの長さや、ハニカム構造部4のセル2の延びる方向に直交する断面の大きさについては、特に制限はない。ハニカムフィルタ100を、排ガス浄化用のフィルタとして用いた際に、最適な浄化性能を得るように、各大きさを適宜選択すればよい。
【0037】
隔壁1の材料については特に制限はない。例えば、隔壁1の材料として、炭化珪素、コージェライト、珪素-炭化珪素複合材料、コージェライト-炭化珪素複合材料、窒化珪素、ムライト、アルミナ及びチタン酸アルミニウムから構成される群から選択される少なくとも1種を含む材料を挙げることができる。隔壁1を構成する材料は、上記群に列挙された材料を、90質量%以上含む材料であることが好ましく、92質量%以上含む材料であることが更に好ましく、95質量%以上含む材料であることが特に好ましい。なお、珪素-炭化珪素複合材料とは、炭化珪素を骨材とし、珪素を結合材として形成された複合材料である。また、コージェライト-炭化珪素複合材料とは、炭化珪素を骨材とし、コージェライトを結合材として形成された複合材料である。
【0038】
目封止部5の材質は、隔壁1の材質として好ましいとされた材質であることが好ましい。目封止部5の材質と隔壁1の材質とは、同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。
【0039】
ハニカムフィルタ100は、複数のセル2を区画形成する隔壁1に排ガス浄化用の触媒が担持されていることが好ましい。隔壁1に触媒を担持するとは、隔壁1の表面及び隔壁1に形成された細孔の内壁に、触媒がコーティングされることをいう。このように構成することによって、排ガス中のCOやNOxやHCなどを触媒反応によって無害な物質にすることができる。また、捕集した煤等のPMの酸化を促進させることができる。本実施形態のハニカムフィルタ100においては、多孔質の隔壁1の細孔の内部に触媒が担持されていることが特に好ましい。このように構成することによって、低触媒量時の触媒担持後において捕集性能の向上及び圧力損失の低減の両立を図ることができる。更に、触媒担持後において、ガスの流れが均一となることで、浄化性能の向上も期待することができる。
【0040】
隔壁1に担持する触媒については特に制限はない。例えば、白金族元素を含有する触媒であって、アルミニウム、ジルコニウム、及びセリウムのうちの少なくとも一種の元素の酸化物を含む触媒を挙げることができる。
【0041】
(2)ハニカムフィルタの製造方法:
本発明のハニカムフィルタを製造する方法については、特に制限はなく、例えば、以下のような方法を挙げることができる。まず、ハニカム構造部を作製するための可塑性の坏土を調製する。ハニカム構造部を作製するための坏土は、原料粉末として、前述の隔壁の好適な材料の中から選ばれた材料に、適宜、バインダ等の添加剤、造孔材、及び水を添加することによって調製することができる。
【0042】
次に、このようにして得られた坏土を押出成形することにより、複数のセルを区画形成する隔壁、及びこの隔壁を囲繞するように配設された外周壁を有する、柱状のハニカム成形体を作製する。押出成形においては、押出成形用の口金として、坏土の押出面に、成形するハニカム成形体の反転形状となるスリットが設けられた口金を用いることができる。なお、押出成形用の口金として、成形するハニカム成形体において、八角形のセルと四角形のセルとが隔壁を挟んで交互に配置されるようなスリットが設けられた口金を用いる。八角形のセルと四角形のセルの大きさについては、八角形のセルの面積S1’と四角形のセルの面積S2’との面積比(S1’/S2’)が1.40~2.20となるように、各セルの大きさを調節する。次に、得られたハニカム成形体を、例えば、マイクロ波及び熱風で乾燥する。
【0043】
次に、乾燥したハニカム成形体のセルの開口部に目封止部を配設する。具体的には、例えば、まず、目封止部を形成するための原料を含む目封止材を調製する。次に、ハニカム成形体の流入端面に、流入セルが覆われるようにマスクを施す。次に、先に調製した目封止材を、ハニカム成形体の流入端面側のマスクが施されていない流出セルの開口部に充填する。この際、スポイト等の所定量の目封止材の移動を可能とする器具を用いて充填することが好ましい。目封止材を充填する際には、ハニカム成形体の流入端面の上に突出部ができるよう、目封止材を当該端面上にあふれるまで注入する。このようにすることで、突出高さHが0.3~3.0mmの凸部を形成する。その後、ハニカム成形体の流出端面についても、上記と同様の方法で、流入セルの開口部に目封止材を充填する。また、目封止材を充填する際は、得られる目封止部の目封止深さLが4.0~9.0mmとなるように、目封止材の充填深さを調節する。
【0044】
次に、セルのいずれか一方の開口部に目封止部を配設したハニカム成形体を焼成して、ハニカムフィルタを作製する。焼成温度及び焼成雰囲気は原料により異なり、当業者であれば、選択された材料に最適な焼成温度及び焼成雰囲気を選択することができる。
【実施例0045】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
コージェライト化原料100質量部に、造孔材を2質量部、分散媒を2質量部、有機バインダを7質量部、それぞれ添加し、混合、混練して坏土を調製した。コージェライト化原料としては、アルミナ、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、及びシリカを使用した。分散媒としては、水を使用した。有機バインダとしては、メチルセルロース(Methylcellulose)を使用した。分散剤としては、デキストリン(Dextrin)を使用した。造孔材としては、平均粒子径20μmの吸水性ポリマーを使用した。本実施例において、各原料の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(D50)のことである。
【0047】
次に、ハニカム成形体作製用の口金を用いて坏土を押出成形し、全体形状が円柱形状のハニカム成形体を得た。ハニカム成形体のセルの形状は、八角形と四角形とし、このような八角形と四角形のセルが隔壁を挟んで交互に配置されるものとした。
【0048】
次に、ハニカム成形体をマイクロ波乾燥機で乾燥し、更に熱風乾燥機で完全に乾燥させた後、ハニカム成形体の両端面を切断し、所定の寸法に整えた。
【0049】
次に、目封止部を形成するための目封止材を調製した。具体的には、セラミックス原料に、水及びバインダ等を加えてスラリー状の目封止材を調製した。セラミックス原料は、例えば、ハニカム成形体の作製に用いたコージェライト化原料等を用いることができる。その後、目封止材を用いて、乾燥したハニカム成形体の流入端面側の所定のセルの開口部、及び流出端面側の残余のセルの開口部に目封止部を形成した。目封止部の形成は、セル形状が八角形のセルが流入セルとなり、セル形状が四角形のセルが流出セルとなるようにして行った。
【0050】
次に、各目封止部を形成したハニカム成形体を、脱脂し、焼成して、実施例1のハニカムフィルタを製造した。
【0051】
実施例1のハニカムフィルタは、流入端面及び流出端面の形状が円形の、円柱形状のものであった。流入端面及び流出端面の直径の大きさは、267mmであった。また、ハニカムフィルタのセルの延びる方向の長さは、178mmであった。実施例1のハニカムフィルタは、流入セルのセル形状(断面形状)は、八角形であり、流出セルのセル形状(断面形状)は、四角形であった。また、隔壁の厚さが0.26mmで、セル密度が47個/cm2であり、隔壁の気孔率が55%であった。隔壁の気孔率は、Micromeritics社製のオートポア9500(商品名)を用いて測定した。表1に、各結果を示す。
【0052】
流入セルの断面積S1と流出セルの断面積S2を、走査型電子顕微鏡(SEM)又はマイクロスコープ(microscope)を用いて観察を行い、得られた画像を解析することで測定した。測定した結果を元に、流入セルの断面積S1に対する、流出セルの断面積S2の面積比(S1/S2)を算出した。算出したセルの面積比(S1/S2)は、1.70であった。結果を表1に示す。
【0053】
各セルの端部を封止する目封止部は、当該目封止部が配設された側の端面からセルの延びる方向の外側に向かって突出する凸部を有していた。目封止部の凸部の突出高さHは2.0mmであった。また、各目封止部の目封止深さLは7.0mmであった。各結果を表1に示す。
【0054】
【0055】
実施例1のハニカムフィルタについて、以下の方法で、「圧力損失」、「耐エロージョン性」及び「耐熱衝撃性」の評価を行った。表2に各結果を示す。
【0056】
[圧力損失]
6.7Lディーゼルエンジンから排出される排ガスを、各実施例及び比較例のハニカムフィルタに流入させて、ハニカムフィルタの隔壁にて、排ガス中の煤を捕集した。煤の捕集は、ハニカムフィルタの単位体積(1L)当たりの煤の堆積量が5g/Lとなるまで行った。そして、煤の堆積量が5g/Lとなった状態で、200℃のエンジン排ガスを12m3/minの流量で流入させて、ハニカムフィルタの流入端面側と流出端面側との圧力を測定した。そして、流入端面側と流出端面側との圧力差を算出することにより、ハニカムフィルタの圧力損失(kPa)を求めた。そして、比較例1のハニカムフィルタの圧力損失の値を100%とした場合における、各ハニカムフィルタの圧力損失の比率(%)を算出し、以下の下記評価基準に基づき、各実施例及び比較例のハニカムフィルタの評価を行った。なお、下記評価基準において、「圧力損失比(%)」とは、比較例1のハニカムフィルタの圧力損失の値を100%とした場合における、各ハニカムフィルタの圧力損失の比率(%)のことである。
評価「優」:圧力損失比(%)が、80%以下である場合を「優」とする。
評価「良」:圧力損失比(%)が、80%を超え、90%以下である場合を「良」とする。
評価「可」:圧力損失比(%)が、90%を超え、100%以下である場合を「可」とする。
評価「不可」:圧力損失比(%)が、100%を超える場合を「不可」とする。
【0057】
[耐エロージョン性]
まず、ハニカムフィルタを缶体にキャニング(収納)して、キャニングされたハニカムフィルタをガスバーナ試験機に配置した。次に、ガスバーナ試験機によりSiC製の砥粒をハニカムフィルタの流入端面に衝突させる。砥粒を衝突させる条件としては、以下の通りとした。投入砥粒量を5gとした。ハニカムフィルタに流入させるガスの温度を、700℃とした。ハニカムフィルタに流入させるガスの流量を、120m/秒とした。試験時間は10分とし、その間砥粒を少しずつ投入した。その後、ハニカムフィルタを取り出し、取り出したハニカムフィルタを断層撮影法(CT)で撮影し、砥粒を衝突によって削られたハニカムフィルタの深さ(エロージョン深さ(mm))を算出した。このエロージョン量の測定試験では、平均粒子径が50μmの砥粒を用いた。以下の評価基準に従い、ハニカムフィルタの「耐エロージョン性」の評価を行った。
評価「OK」:比較例1のエロージョン深さに比して、評価対象のエロージョン深さが小さい場合を、合格(OK)とする。
評価「NG」:比較例1のエロージョン深さに比して、評価対象のエロージョン深さが大きい場合を、不合格(NG)とする。
【0058】
[耐熱衝撃性]
まず、6.7Lディーゼルエンジンを搭載するエンジンベンチにて、一定運転条件にて、所定量の煤を発生させ、発生させた煤を、各実施例及び比較例のハニカムフィルタの隔壁の表面に堆積させた。次に、ポストインジェクションによる再生処理を行い、ハニカムフィルタの入口ガス温度を上昇させ、ハニカムフィルタの前後の圧損が低下し始めたところでポストインジェクションを切り、エンジンをアイドル状態に切り替えた。再生処理前の所定量の煤の堆積量を徐々に増加させ、ハニカムフィルタにクラックが生じるまで、上記操作を繰り返して行った。ハニカムフィルタにクラックが生じる煤の堆積量を、各ハニカムフィルタにおける「煤の堆積限界量」とした。以下の下記評価基準に基づき、各実施例及び比較例のハニカムフィルタの評価を行った。
評価「優」:比較例1の「煤の堆積限界量」を100%とした場合に、評価対象の「煤の堆積限界量」が、110%以上の場合、その評価を「優」とする。
評価「良」:比較例1の「煤の堆積限界量」を100%とした場合に、評価対象の「煤の堆積限界量」が、105%以上、110%未満の場合、その評価を「良」とする。
評価「可」:比較例1の「煤の堆積限界量」を100%とした場合に、評価対象の「煤の堆積限界量」が、100%以上、105%未満の場合、その評価を「可」とする。
評価「不可」:比較例1の「煤の堆積限界量」を100%とした場合に、評価対象の「煤の堆積限界量」が、100%未満の場合、その評価を「不可」とする。
【0059】
【0060】
(実施例2~5及び比較例1~5)
ハニカムフィルタの構成を、表1に示すように変更した以外は、実施例1のハニカムフィルタと同様の方法でハニカムフィルタを作製した。
【0061】
実施例2~5及び比較例1~5のハニカムフィルタについても、実施例1と同様の方法で、「圧力損失」、「耐エロージョン性」及び「耐熱衝撃性」の評価を行った。表2に各結果を示す。
【0062】
(結果)
実施例1~5のハニカムフィルタは、圧力損失、耐エロージョン性及び耐熱衝撃性の評価において、基準となる比較例1のハニカムフィルタの各性能を上回るものであることが確認できた。一方、比較例2~5のハニカムフィルタは、実施例1~5のハニカムフィルタに比して圧力損失又は耐エロージョン性又は耐熱衝撃性の評価結果が劣るものであった。
1:隔壁、2:セル、2a:流入セル、2b:流出セル、3:外周壁、4:ハニカム構造部、5:目封止部、6:凸部、11:流入端面、12:流出端面、100:ハニカムフィルタ、H,H1,H2:突出高さ、L,L1,L2:目封止深さ、S1,S2:断面積(セルの断面積)。