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  • -過電圧保護装置及び電力変換装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147543
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】過電圧保護装置及び電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20231005BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M7/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055104
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】岡林 晃司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 将樹
(72)【発明者】
【氏名】柏木 航平
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA21
5H770BA01
5H770DA03
5H770DA31
5H770DA41
5H770HA03Y
5H770LA01Y
5H770PA01
5H770PA21
5H770PA28
5H770PA42
5H770PA50
5H770QA40
(57)【要約】
【課題】スイッチング素子の温度上昇を、より簡単な構成で抑制できる過電圧保護装置及び電力変換装置を提供する。
【解決手段】一対の端子間に設けられ、前記一対の端子間の電圧が閾値以上となった際に、前記一対の端子間を短絡させることにより、前記一対の端子間の過電圧を抑制するスイッチング素子と、前記スイッチング素子と熱的に結合し、前記スイッチング素子の温度上昇を前記スイッチング素子の過渡熱耐量以下に収めるように、前記スイッチング素子の放熱を行う放熱部材と、を備え、前記放熱部材は、前記スイッチング素子の前記過渡熱耐量の温度よりも低い所定温度で相転移することにより、潜熱によって前記スイッチング素子の温度上昇を抑制する温度上昇抑制部と、前記温度上昇抑制部を支持する支持部と、を有する過電圧保護装置が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の端子間に設けられ、前記一対の端子間の電圧が閾値以上となった際に、前記一対の端子間を短絡させることにより、前記一対の端子間の過電圧を抑制するスイッチング素子と、
前記スイッチング素子と熱的に結合し、前記スイッチング素子の温度上昇を前記スイッチング素子の過渡熱耐量以下に収めるように、前記スイッチング素子の放熱を行う放熱部材と、
を備え、
前記放熱部材は、
前記スイッチング素子の前記過渡熱耐量の温度よりも低い所定温度で相転移することにより、潜熱によって前記スイッチング素子の温度上昇を抑制する温度上昇抑制部と、
前記温度上昇抑制部を支持する支持部と、
を有する過電圧保護装置。
【請求項2】
前記所定温度は、前記スイッチング素子が過電圧抑制の動作を行っていない状態において前記温度上昇抑制部が相転移を起こしてしまう温度よりも高く、前記スイッチング素子の前記過渡熱耐量の温度よりも低い請求項1記載の過電圧保護装置。
【請求項3】
前記温度上昇抑制部は、低融点金属、低融点金属を含む合金、及び有機物の少なくともいずれかを含む請求項1又は2に記載の過電圧保護装置。
【請求項4】
前記温度上昇抑制部は、前記支持部の内部に設けられる請求項1~3のいずれか1つに記載の過電圧保護装置。
【請求項5】
複数のスイッチング素子を有し、前記複数のスイッチング素子のスイッチングによって電力の変換を行う主回路部と、
前記複数のスイッチング素子のうちの少なくとも1つのスイッチング素子に設けられ、前記少なくとも1つのスイッチング素子と熱的に結合し、前記少なくとも1つのスイッチング素子の温度上昇を前記少なくとも1つのスイッチング素子の過渡熱耐量以下に収めるように、前記少なくとも1つのスイッチング素子の放熱を行う放熱部材と、
を備え、
前記放熱部材は、
前記少なくとも1つのスイッチング素子の前記過渡熱耐量の温度よりも低い所定温度で相転移することにより、潜熱によって前記少なくとも1つのスイッチング素子の温度上昇を抑制する温度上昇抑制部と、
前記温度上昇抑制部を支持する支持部と、
を有する電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、過電圧保護装置及び電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電機の短絡故障等の事故が発生した場合に、スイッチング素子に短絡電流を通電し、過電圧を抑制することで、他装置への被害の拡大を抑制する過電圧保護装置がある。過電圧保護装置の動作時には、スイッチング素子に大電流が流れるため、スイッチング素子の温度が急激に上昇する。温度上昇をスイッチング素子の過渡熱耐量以下に収めるためには、スイッチング素子用の放熱部材の放熱能力を高くすることが必要となる。
【0003】
例えば、放熱部材に水冷方式の冷却方式を適用することが行われている。しかしながら、水冷方式では、放熱部材に対して冷却水を循環させるための冷却装置が必要となり、スイッチング素子の温度上昇を抑制するための構成が複雑になってしまう。例えば、冷却装置の追加によるコストの増加や、冷却装置の設置スペースによる装置の大型化などが必要となってしまう。
【0004】
一方、自身の熱容量及び放熱面に接する空気を利用して放熱を行う自冷式の放熱部材とした場合には、放熱能力が低下してしまう。このため、スイッチング素子の並列化などが必要となり、やはりコスト増や大型化を招いてしまう可能性がある。
【0005】
また、複数のスイッチング素子を備え、複数のスイッチング素子のスイッチングによって電力の変換を行う電力変換装置がある。こうした電力変換装置においても、例えば、負荷側に地絡や短絡などの事故が発生した際に、スイッチング素子に大電流が流れ、スイッチング素子の温度が急激に上昇してしまう可能性がある。このため、電力変換装置においても、過電圧保護装置と同様に、スイッチング素子用の放熱部材の放熱能力を高くすることが求められる。
【0006】
このように、過電圧保護装置及び電力変換装置においては、スイッチング素子の温度上昇を、より簡単な構成で抑制できるようにすることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8-317694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の実施形態は、スイッチング素子の温度上昇を、より簡単な構成で抑制できる過電圧保護装置及び電力変換装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態によれば、一対の端子間に設けられ、前記一対の端子間の電圧が閾値以上となった際に、前記一対の端子間を短絡させることにより、前記一対の端子間の過電圧を抑制するスイッチング素子と、前記スイッチング素子と熱的に結合し、前記スイッチング素子の温度上昇を前記スイッチング素子の過渡熱耐量以下に収めるように、前記スイッチング素子の放熱を行う放熱部材と、を備え、前記放熱部材は、前記スイッチング素子の前記過渡熱耐量の温度よりも低い所定温度で相転移することにより、潜熱によって前記スイッチング素子の温度上昇を抑制する温度上昇抑制部と、前記温度上昇抑制部を支持する支持部と、を有する過電圧保護装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
スイッチング素子の温度上昇を、より簡単な構成で抑制できる過電圧保護装置及び電力変換装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態に係る過電圧保護装置を模式的に表す回路図である。
図2】第1の実施形態に係る過電圧保護装置の一部を模式的に表す斜視図である。
図3】第2の実施形態に係る電力変換装置を模式的に表す回路図である。
【0012】
以下に、各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る過電圧保護装置を模式的に表す回路図である。
図1に表したように、過電圧保護装置10は、第1保護回路11と、第2保護回路12と、を備える。
【0014】
過電圧保護装置10は、例えば、誘導発電機2の二次側に接続して使用される。誘導発電機2の二次側には、例えば、変換器4が設けられる。誘導発電機2は、例えば、三相交流電力を発電し、発電した三相交流電力を変換器4に供給する。変換器4は、例えば、誘導発電機2と接続されるとともに、交流の電力系統と接続され、誘導発電機2から供給された三相交流電力を電力系統に応じた交流電力に変換し、変換後の交流電力を電力系統に供給する。
【0015】
例えば、誘導発電機2の一次側において地絡や短絡故障などの事故が発生すると、誘導発電機2の二次側に過電圧が発生する。こうした過電圧は、変換器4などの故障の要因となってしまう。
【0016】
過電圧保護装置10は、誘導発電機2の二次側の各線間に接続され、誘導発電機2の二次側に過電圧が発生した際に、誘導発電機2の二次側の各線間を短絡させる。これにより、過電圧保護装置10は、誘導発電機2の二次側に発生した過電圧から変換器4などを保護する。
【0017】
第1保護回路11は、3つのスイッチング素子21、22、23と、駆動回路24と、を有する。3つのスイッチング素子21、22、23は、誘導発電機2の二次側の各線間にΔ接続されている。換言すれば、3つのスイッチング素子21、22、23は、誘導発電機2の二次側の3つの交流端子のそれぞれの間に設けられる。
【0018】
スイッチング素子21、22、23は、一対の主端子と、制御端子と、を有する。スイッチング素子21、22、23は、一対の主端子間を導通させるオン状態と、一対の主端子間の電流の流れを遮断するオフ状態と、を有する。スイッチング素子21、22、23は、例えば、通常はオフ状態であり、制御端子に入力される信号に基づいてオフ状態からオン状態に切り替わる。スイッチング素子21、22、23は、オン状態となることにより、誘導発電機2の二次側の各線間を短絡させる。なお、オフ状態は、一対の主端子間に電流が全く流れない状態に限ることなく、過電圧保護装置10の動作に影響の無い程度の微弱な電流が一対の主端子間に流れる状態でもよい。
【0019】
駆動回路24は、スイッチング素子21、22、23と接続され、スイッチング素子21、22、23のオフ状態からオン状態への切り替えを駆動する。駆動回路24は、誘導発電機2の二次側の各線間の電圧を検出し、検出した電圧が第1閾値以上となったことに応じて、スイッチング素子21、22、23をオフ状態からオン状態に切り替える。第1閾値は、過電圧の検出レベルである。第1閾値は、例えば、変換器4の最大入力電圧よりも所定電圧だけ低い値に設定される。
【0020】
このように、第1保護回路11は、誘導発電機2の二次側の各線間の電圧が第1閾値以上となったことに応じて、スイッチング素子21、22、23をオフ状態からオン状態に切り替えることにより、誘導発電機2の二次側の各線間を短絡させる。これにより、誘導発電機2の二次側の各線間に発生する過電圧を抑制することができる。そして、過電圧による変換器4の故障などを抑制することができる。スイッチング素子21、22、23のオフ状態は、換言すれば、過電圧抑制の動作を行っていない状態である。スイッチング素子21、22、23のオン状態は、換言すれば、過電圧抑制の動作を行っている状態である。
【0021】
スイッチング素子21、22、23には、例えば、サイリスタが用いられる。駆動回路24は、換言すれば、サイリスタの制御端子に点弧パルスを入力することによって、サイリスタを点弧させる点弧回路である。但し、スイッチング素子21、22、23は、サイリスタに限ることなく、誘導発電機2の二次側の各線間に発生する過電圧に耐えることが可能な任意の素子でよい。スイッチング素子21、22、23は、例えば、IGBTなどの自励式のスイッチング素子などでもよい。
【0022】
第2保護回路12は、6つのスイッチング素子31a、31b、32a、32b、33a、33bを有する。スイッチング素子31a、32a、33aは、誘導発電機2の二次側の各線間にΔ接続されている。スイッチング素子31a、32a、33aは、換言すれば、誘導発電機2の二次側の3つの交流端子のそれぞれの間に設けられる。スイッチング素子31bは、スイッチング素子31aに対して逆並列に接続されている。同様に、スイッチング素子32bは、スイッチング素子32aに対して逆並列に接続され、スイッチング素子33bは、スイッチング素子33aに対して逆並列に接続されている。
【0023】
スイッチング素子31a、31b、32a、32b、33a、33bは、一対の主端子を有する。スイッチング素子31a、31b、32a、32b、33a、33bは、スイッチング素子21、22、23と同様に、オン状態とオフ状態とを有する。スイッチング素子31a、31b、32a、32b、33a、33bは、通常はオフ状態であり、一対の主端子間に印加された電圧が第2閾値以上となったことに応じて、オフ状態からオン状態に切り替わる。スイッチング素子31a、31b、32a、32b、33a、33bは、オン状態となることにより、誘導発電機2の二次側の各線間を短絡させる。
【0024】
このように、第2保護回路12は、誘導発電機2の二次側の各線間の電圧が第2閾値以上となったことに応じて、スイッチング素子31a、31b、32a、32b、33a、33bがオフ状態からオン状態に切り替わることにより、誘導発電機2の二次側の各線間を短絡させる。
【0025】
第2閾値は、例えば、第1閾値よりも高い値に設定される。第2閾値は、例えば、第1閾値よりも高く、変換器4の最大入力電圧よりも低い値に設定される。これにより、例えば、第1保護回路11の駆動回路24が故障を起こした際などにも、誘導発電機2の二次側の各線間の電圧が第1閾値よりも高い第2閾値以上となることにより、スイッチング素子31a、31b、32a、32b、33a、33bがオフ状態からオン状態に切り替わり、誘導発電機2の二次側の各線間を短絡させる。これにより、誘導発電機2の二次側の各線間に発生する過電圧をより確実に抑制することができる。過電圧による変換器4の故障などをより確実に抑制することができる。
【0026】
なお、第2閾値は、第1閾値と同じでもよいし、第1閾値よりも低い値に設定してもよい。第1閾値及び第2閾値は、誘導発電機2の二次側の各線間に発生する過電圧を適切に抑制することができる任意の値でよい。
【0027】
スイッチング素子31a、31b、32a、32b、33a、33bには、例えば、過電圧保護機能付きサイリスタ(VBOフリーサイリスタ)などが用いられる。但し、スイッチング素子31a、31b、32a、32b、33a、33bは、これに限ることなく、誘導発電機2の二次側の各線間に発生する過電圧に耐えることができ、かつ、一対の主端子間の電圧に応じて自らオフ状態からオン状態に切り替わることが可能な任意のスイッチング素子でよい。
【0028】
スイッチング素子31a、31b、32a、32b、33a、33bは、制御端子をさらに有してもよい。例えば、一対の主端子間に印加された電圧が第2閾値以上となった際に、制御端子の電圧が所定電圧以上となるように回路を構成することにより、一対の主端子間に印加された電圧が第2閾値以上となったことに応じて、スイッチング素子31a、31b、32a、32b、33a、33bが、オフ状態からオン状態に切り替わるようにしてもよい。
【0029】
図2は、第1の実施形態に係る過電圧保護装置の一部を模式的に表す斜視図である。
図2に表したように、過電圧保護装置10は、放熱部材50をさらに備える。放熱部材50は、スイッチング素子21と熱的に結合し、スイッチング素子21の温度上昇をスイッチング素子21の過渡熱耐量以下に収めるように、スイッチング素子21の放熱を行う。放熱部材50は、スイッチング素子21の温度上昇を抑制する。放熱部材50は、より詳しくは、自身の熱容量及び放熱面に接する空気を利用して放熱を行う自冷式の放熱部材である。
【0030】
放熱部材50は、例えば、スイッチング素子21と直接接することにより、スイッチング素子21と熱的に結合する。放熱部材50は、例えば、放熱グリースなどの別の部材を介して、スイッチング素子21と熱的に結合してもよい。このように、放熱部材50は、スイッチング素子21と直接接してもよいし、別の部材を介してスイッチング素子21と接してもよい。
【0031】
過電圧保護装置10は、第1保護回路11の複数のスイッチング素子21、22、23、及び第2保護回路12の複数のスイッチング素子31a、31b、32a、32b、33a、33bのそれぞれに設けられた複数の放熱部材50を備える。複数の放熱部材50は、複数のスイッチング素子21、22、23、31a、31b、32a、32b、33a、33bのそれぞれの放熱を行う。複数の放熱部材50の構成は、実質的に同じであるので、スイッチング素子21に設けられた放熱部材50を例に説明を行う。
【0032】
放熱部材50は、温度上昇抑制部51と、支持部52と、を有する。温度上昇抑制部51は、スイッチング素子21の過渡熱耐量の温度よりも低い所定温度で相転移することにより、潜熱によってスイッチング素子21の温度上昇を抑制する。支持部52は、温度上昇抑制部51を支持する。
【0033】
支持部52は、例えば、スイッチング素子21との取り付けに用いられる。放熱部材50は、例えば、支持部52を介してスイッチング素子21に取り付けられる。例えば、支持部52に複数のネジ孔が設けられ、複数のネジによってスイッチング素子21を支持部52にネジ止めすることにより、放熱部材50が、スイッチング素子21に取り付けられる。
【0034】
但し、スイッチング素子21と放熱部材50との取り付けは、上記に限るものではない。放熱部材50は、別の部材を介してスイッチング素子21に取り付けてもよい。例えば、複数のスイッチング素子21、22、23を積層構造とする場合がある。この場合には、例えば、スイッチング素子21とスイッチング素子22との間に1つの放熱部材50が設けられ、スイッチング素子22とスイッチング素子23との間に別の1つの放熱部材50が設けられる。そして、スイッチング素子21、22、23と2つの放熱部材50との積層体を両側から挟んで支持する支持体が設けられる。このように、放熱部材50のスイッチング素子21への取り付け方法は、スイッチング素子21と放熱部材50とを熱的に結合させた状態で適切に取り付けることができる任意の方法でよい。また、上記のように、放熱部材50は、1つのスイッチング素子に限ることなく、複数のスイッチング素子に対して共通に用いてもよい。
【0035】
温度上昇抑制部51は、例えば、支持部52の内部に設けられる。換言すれば、温度上昇抑制部51は、全周を支持部52に覆われた状態で、支持部52内に収容される。この場合、支持部52が、スイッチング素子21と熱的に結合し、温度上昇抑制部51は、支持部52と熱的に結合することにより、支持部52を介してスイッチング素子21と熱的に結合する。
【0036】
支持部52が、スイッチング素子21と熱的に結合する場合には、支持部52もスイッチング素子21の温度上昇の抑制に寄与する。支持部52は、温度上昇抑制部51を支持するとともに、自身の熱容量及び放熱面に接する空気を利用してスイッチング素子21の放熱を行う。
【0037】
但し、温度上昇抑制部51は、必ずしも支持部52の内部に設けなくてもよい。温度上昇抑制部51は、例えば、支持部52の外側に設けてもよい。例えば、温度上昇抑制部51は、スイッチング素子21と接することにより、スイッチング素子21と直接的に熱的に結合してもよい。支持部52は、必ずしもスイッチング素子21の温度上昇の抑制に寄与しなくてもよい。
【0038】
図2では、支持部52を矩形状とし、温度上昇抑制部51を支持部52内に設けられた球体状としている。温度上昇抑制部51の形状及び支持部52の形状は、これに限ることなく、任意の形状でよい。
【0039】
上記のように、温度上昇抑制部51は、スイッチング素子21の過渡熱耐量の温度よりも低い所定温度で相転移する。スイッチング素子21がオフ状態である場合、温度上昇抑制部51の相(物理的状態)は、例えば、固体である。換言すれば、スイッチング素子21が過電圧抑制の動作を行っていない状態における温度上昇抑制部51の相は、例えば、固体である。
【0040】
スイッチング素子21がオン状態となり、誘導発電機2の二次側の線間がスイッチング素子21によって短絡すると、スイッチング素子21に大きな電流が流れ、スイッチング素子21の温度が急激に上昇する。
【0041】
スイッチング素子21の温度上昇にともなって温度上昇抑制部51の温度が上昇し、温度上昇抑制部51の温度が所定温度に到達すると、温度上昇抑制部51の相が変化し始める。例えば、温度上昇抑制部51の相が、固体から液体に変化し始める。これにより、温度上昇抑制部51の潜熱(融解熱)によってスイッチング素子21の温度上昇を抑制することができる。例えば、スイッチング素子21の温度が所定温度よりも高くなることを抑制することができる。
【0042】
誘導発電機2の一次側の事故などに起因する誘導発電機2の二次側の過電圧は、誘導発電機2の動作の停止などにより、比較的短い時間で解消される。誘導発電機2の二次側の過電圧の発生期間は、例えば、数秒以下(例えば2秒以下)である。温度上昇抑制部51は、この過電圧の発生期間において、スイッチング素子21の温度上昇をスイッチング素子21の過渡熱耐量以下に収めればよい。
【0043】
例えば、過電圧の発生期間(想定される所定の期間)において、温度上昇抑制部51の一部のみが相転移し、別の一部は相転移せずに残るように、温度上昇抑制部51の大きさ(質量)を調整する。例えば、過電圧の発生期間の開始から終了までの間に、固体の温度上昇抑制部51の一部のみが融解し、別の一部は固体のまま残るように、温度上昇抑制部51の大きさを調整する。
【0044】
これにより、スイッチング素子21の温度が所定温度よりも高くなることをより適切に抑制することができる。例えば、過電圧の発生期間内において、温度上昇抑制部51の全てが相転移し、再び温度上昇抑制部51及びスイッチング素子21の温度が上昇してしまうことを抑制することができる。但し、温度上昇抑制部51の大きさは、上記に限ることなく、任意の大きさでよい。
【0045】
温度上昇抑制部51が相転移すると、温度上昇抑制部51の体積が増加する。このため、上記のように、温度上昇抑制部51が、支持部52の内部に設けられている場合には、支持部52内の空気や体積の増加した温度上昇抑制部51の一部を外部に排出できるようにするための排出孔を支持部52に設けてもよい。これにより、温度上昇抑制部51の体積の増加により、支持部52が破損してしまうことなどを抑制することができる。
【0046】
例えば、スイッチング素子21がサイリスタである場合、過渡熱耐量の温度は、例えば、200℃~300℃程度である。
【0047】
所定温度は、スイッチング素子21が過電圧抑制の動作を行っていない状態(オフ状態)においては、温度上昇抑制部51が相転移を起こすことなく、スイッチング素子21が過電圧抑制の動作を行っている状態(オン状態)の時にのみ、温度上昇抑制部51が相転移を起こす範囲において、なるべく低く設定することが好ましい。スイッチング素子21がサイリスタである場合には、所定温度は、素子が動作しない状態において生じうる最大温度より少し上の温度(例えば60℃程度)とすることが好適である。
【0048】
但し、所定温度は、スイッチング素子21が過電圧抑制の動作を行っていない状態において温度上昇抑制部51が相転移を起こしてしまう温度よりも高く、スイッチング素子21の過渡熱耐量の温度よりも低い任意の温度でよい。所定温度は、スイッチング素子21の種類や放熱部材50の設置環境などに応じて適宜設定すればよい。
【0049】
温度上昇抑制部51には、例えば、Sn、Bi、Pbなどの低融点金属、低融点金属を含む合金、及びパラフィンなどの有機物などが用いられる。換言すれば、温度上昇抑制部51は、低融点金属、低融点金属を含む合金、及び有機物の少なくともいずれかを含む。これにより、温度上昇抑制部51を上記のように相転移させることができる。但し、温度上昇抑制部51の材質は、必要とする放熱スピードや相転移を開始する温度などに応じて適宜選定すればよい。温度上昇抑制部51の材質は、上記のように相転移させることが可能な任意の材質でよい。
【0050】
温度上昇抑制部51は、例えば、材質の異なる複数の部分を有してもよい。温度上昇抑制部51は、例えば、第1所定温度で相転移を開始する第1部分と、第1所定温度よりも高い第2所定温度で相転移を開始する第2部分と、を有してもよい。温度上昇抑制部51は、2つに限ることなく、3つ以上の部分を有してもよい。
【0051】
支持部52には、例えば、銅、アルミニウム、鉄などの熱伝導率の高い高融点の金属材料が用いられる。これにより、支持部52によって適切に温度上昇抑制部51を支持しつつ、支持部52を介してスイッチング素子21の温度を温度上昇抑制部51に伝達させる際にも、スイッチング素子21の温度を適切に温度上昇抑制部51に伝達することができる。
【0052】
支持部52の融点は、例えば、スイッチング素子21の過渡熱耐量の温度よりも高い。これにより、スイッチング素子21から加わる熱によって支持部52が融け、温度上昇抑制部51を支持できなくなってしまうことを抑制することができる。但し、支持部52の材質は、上記に限ることなく、温度上昇抑制部51を適切に支持することができる任意の材質でよい。支持部52は、例えば、材質の異なる複数の部材で構成してもよい。
【0053】
なお、複数のスイッチング素子21、22、23、31a、31b、32a、32b、33a、33bのそれぞれに設けられる複数の放熱部材50は、少なくとも温度上昇抑制部51と支持部52とを有していればよい。複数の放熱部材50のそれぞれの形状や大きさなどは、必ずしも同じでなくてもよい。また、温度上昇抑制部51の材質及び支持部52の材質は、複数の放熱部材50のそれぞれで異なってもよい。複数の放熱部材50の構成は、複数のスイッチング素子21、22、23、31a、31b、32a、32b、33a、33bのそれぞれの温度上昇を適切に抑制することができる任意の構成でよい。
【0054】
以上、説明したように、本実施形態に係る過電圧保護装置10では、放熱部材50が、温度上昇抑制部51と支持部52とを有し、温度上昇抑制部51が、スイッチング素子21の過渡熱耐量の温度よりも低い所定温度で相転移することにより、潜熱によってスイッチング素子21の温度上昇を抑制する。
【0055】
従って、本実施形態に係る過電圧保護装置10では、水冷を行うための冷却装置を設けたり、スイッチング素子を並列化したりすることなく、複数のスイッチング素子21、22、23、31a、31b、32a、32b、33a、33bのそれぞれの温度上昇を適切に抑制することができる。例えば、自冷式の放熱部材50においても、水冷式に近い放熱能力を得ることができる。
【0056】
このように、本実施形態に係る過電圧保護装置10では、スイッチング素子21、22、23、31a、31b、32a、32b、33a、33bの温度上昇を、より簡単な構成で抑制することができる。例えば、部品点数の増加にともなうコストの増加や装置の大型化などを抑制することができる。
【0057】
また、上記のように、誘導発電機2の二次側の過電圧の発生期間は、例えば、数秒以下である。さらに、誘導発電機2の一次側において地絡や短絡故障などの事故が発生し、誘導発電機2の二次側に過電圧が発生する頻度は極めて低い。例えば、温度上昇抑制部51が過電圧の抑制にともなって相転移し、形状が変化したり、温度上昇抑制部51の一部が外部に排出されたりするなどして、放熱部材50が使用できなくなってしまった場合には、過電圧保護装置10や放熱部材50を交換すればよい。誘導発電機2の二次側に接続して使用される過電圧保護装置10は、1回の過電圧の発生にともなうスイッチング素子の温度上昇を適切に抑制できればよい。このため、温度上昇抑制部51と支持部52とを有する放熱部材50は、誘導発電機2の二次側に接続して使用される過電圧保護装置10に適用することが、特に有用である。
【0058】
但し、過電圧保護装置10は、誘導発電機2の二次側に接続して使用されるものに限ることなく、例えば、単相交流電力を発電する発電機の出力側の一対の線間に接続して使用されるものや、直流電源の出力側の一対の線間に接続して使用されるものなどでもよい。過電圧保護装置10のスイッチング素子は、単相交流の一対の交流端子間に設けてもよいし、直流電源などの一対の直流端子間に設けてもよい。過電圧保護装置10に設けられるスイッチング素子の構成は、一対の端子間に設けられ、一対の端子間の電圧が閾値以上となった際に、一対の端子間を短絡させることにより、一対の端子間の過電圧を抑制する任意の構成でよい。
【0059】
上記実施形態では、スイッチング素子が過電圧抑制の動作を行っていない状態における温度上昇抑制部51の相を固体としている。スイッチング素子が過電圧抑制の動作を行っていない状態における温度上昇抑制部51の相は、固体に限ることなく、液体でもよい。温度上昇抑制部51は、液体から気体への変化にともなう蒸発熱(気化熱)によってスイッチング素子の温度上昇を抑制してもよい。
【0060】
例えば、スイッチング素子が過電圧抑制の動作を行っていない状態における温度上昇抑制部51の相を固体とし、温度上昇抑制部51の温度が第1所定温度に到達したことに応じて温度上昇抑制部51を固体から液体に変化させるとともに、温度上昇抑制部51が液体に変化した後、温度上昇抑制部51の温度が第1所定温度よりも高い第2所定温度に到達したことに応じて温度上昇抑制部51を液体から気体に変化させてもよい。これにより、スイッチング素子の温度上昇をより適切に抑制することができる。
【0061】
温度上昇抑制部51の一部は、液体や気体に相転移した後、放熱部材50の外部に排出されるようにしてもよい。例えば、温度上昇抑制部51の一部は、固体から液体に変化した後、放熱部材50の外部に融け落ちてもよいし、液体から気体に変化した後、放熱部材50の外部に噴出されてもよい。これにより、前述のように、体積の変化による支持部52の破損などを抑制することができる。特に、気体に変化する場合には、体積の膨張が大きいため、温度上昇抑制部51の一部が、外部に噴出されるように構成することが好適である。但し、放熱部材50は、温度上昇抑制部51の一部が放熱部材50の外部に排出された際にも、空隙などによって温度上昇抑制部51とスイッチング素子との熱的な結合が阻害されないようにすることが好適である。
【0062】
温度上昇抑制部51は、所定温度に到達して相転移した後、所定温度よりも低くなることによって、前の相に戻るようにしてもよい。すなわち、温度上昇抑制部51は、再使用可能に構成してもよい。また、例えば、支持部52のみを再使用可能とし、過電圧の抑制を一度行った後、温度上昇抑制部51のみを交換できるようにしてもよい。
【0063】
例えば、図2に表したように、温度上昇抑制部51を支持部52の内部に設ける。これにより、例えば、温度上昇抑制部51が固体から液体に変化した後、温度上昇抑制部51が温度の低下に応じて液体から固体に戻り、温度上昇抑制部51を再使用可能とすることもできる。
【0064】
また、温度上昇抑制部51を支持部52の内部に設けた場合には、例えば、温度上昇抑制部51の設置を容易にすることができる。例えば、温度上昇抑制部51の通常の状態が液体である場合にも、適切に温度上昇抑制部51を設置することができる。また、温度上昇抑制部51を支持部52の内部に設けた場合には、例えば、支持部52によって放熱部材50をスイッチング素子に取り付けることができ、放熱部材50のスイッチング素子への取り付けの構成を簡単にすることができる。
【0065】
(第2の実施形態)
図3は、第2の実施形態に係る電力変換装置を模式的に表す回路図である。
図3に表したように、電力変換装置100は、主回路部101を備える。主回路部101は、三相ブリッジ接続された6つのスイッチング素子111~116と、6つのスイッチング素子111~116のそれぞれに対して逆並列に接続された6つの整流素子121~126と、6つのスイッチング素子111~116のそれぞれに対して並列に接続された電荷蓄積素子130と、を有する。
【0066】
主回路部101では、各スイッチング素子111~116の両端が、一対の直流端子106a、106bとなり、スイッチング素子111とスイッチング素子112との接続点、スイッチング素子113とスイッチング素子114との接続点、及びスイッチング素子115とスイッチング素子116との接続点が、それぞれ3つの交流端子108a~108cとなる。電力変換装置100(主回路部101)は、いわゆる三相2レベルインバータである。
【0067】
主回路部101は、例えば、各交流端子108a~108cを介して交流電力系統と接続される。各交流端子108a~108cは、例えば、図示を省略した遮断器や変圧器などを介して交流電力系統と接続される。また、主回路部101は、例えば、一対の直流端子106a、106bを介して直流電源あるいは直流負荷と接続される。主回路部101は、例えば、各スイッチング素子111~116のスイッチングにより、直流から交流への変換及び交流から直流への変換の少なくとも一方を行う。
【0068】
電力変換装置100は、6つのスイッチング素子111~116のそれぞれに設けられた6つの放熱部材151~156をさらに備える。放熱部材151~156の構成は、上記第1の実施形態に関して説明した放熱部材50と同様に、温度上昇抑制部51と支持部52とを有する。放熱部材151~156の構成は、上記第1の実施形態に関して説明した放熱部材50の構成と実質的に同じであるから、詳細な説明は省略する。放熱部材151~156は、対応するスイッチング素子111~116と熱的に結合し、スイッチング素子111~116の温度上昇をスイッチング素子111~116の過渡熱耐量以下に収めるように、スイッチング素子111~116の放熱を行う。
【0069】
電力変換装置100では、例えば、交流系統側あるいは直流負荷側に地絡や短絡などの事故が発生した際に、スイッチング素子111~116に比較的大きな電流が流れ、スイッチング素子111~116の温度が急激に上昇してしまう可能性がある。この際、電力変換装置100では、放熱部材151~156の温度上昇抑制部51が、スイッチング素子111~116の過渡熱耐量の温度よりも低い所定温度で相転移することにより、潜熱によってスイッチング素子111~116の温度上昇を抑制する。これにより、電力変換装置100では、上記第1の実施形態と同様に、スイッチング素子111~116の温度上昇を、より簡単な構成で抑制することができる。
【0070】
なお、電力変換装置は、三相2レベルインバータに限定されるものではない。電力変換装置は、単相2レベルインバータでもよいし、3レベルインバータなどのマルチレベルインバータなどでもよい。主回路部に設けられるスイッチング素子の数は、6つに限ることなく、任意の数でよい。電力変換装置(主回路部)の構成は、複数のスイッチング素子を有し、複数のスイッチング素子のスイッチングによって電力の変換を行う任意の構成でよい。電力変換装置による電力の変換は、電力を複数のスイッチング素子のスイッチングによって別の電力に変換する任意の変換でよい。
【0071】
図3に表した例では、複数のスイッチング素子のそれぞれに複数の放熱部材を設けている。放熱部材の数は、必ずしもスイッチング素子の数と同じでなくてもよい。放熱部材は、2つ以上のスイッチング素子に対して共通に用いてもよい。例えば、図3の例では、スイッチング素子111、112に対して1つ、スイッチング素子113、114に対して1つ、スイッチング素子115、116に対して1つの合計3つの放熱部材を設けてもよい。例えば、主回路部の複数のスイッチング素子に対して1つの放熱部材を設けてもよい。さらには、複数のスイッチング素子のそれぞれに対応する複数の温度上昇抑制部を1つの放熱部材に設けてもよい。支持部は、複数の温度上昇抑制部を支持する構成としてもよい。
【0072】
電力変換装置に設けられる放熱部材の構成は、複数のスイッチング素子のうちの少なくとも1つのスイッチング素子に設けられ、少なくとも1つのスイッチング素子と熱的に結合し、少なくとも1つのスイッチング素子の温度上昇を少なくとも1つのスイッチング素子の過渡熱耐量以下に収めるように、少なくとも1つのスイッチング素子の放熱を行う任意の構成でよい。
【0073】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0074】
2…誘導発電機、 4…変換器、 10…過電圧保護装置、 11…第1保護回路、 12…第2保護回路、 21、22、23…スイッチング素子、 24…駆動回路、 31a、31b、32a、32b、33a、33b…スイッチング素子、 50…放熱部材、 51…温度上昇抑制部、 52…支持部、 100…電力変換装置、 101…主回路部、 111~116…スイッチング素子、 121~126…整流素子、 130…電荷蓄積素子、 151~156…放熱部材
図1
図2
図3