(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147557
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】アルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20231005BHJP
C01B 25/14 20060101ALI20231005BHJP
H01M 4/62 20060101ALN20231005BHJP
H01M 10/0562 20100101ALN20231005BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
C01B25/14
H01M4/62 Z
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055123
(22)【出願日】2022-03-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(72)【発明者】
【氏名】松田 厚範
(72)【発明者】
【氏名】永井 篤志
(72)【発明者】
【氏名】ラディアン フェビ インドラワン
(72)【発明者】
【氏名】蒲生 浩忠
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AJ14
5H029AK05
5H029AL12
5H029AM12
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA11
5H050CB12
5H050DA13
5H050EA01
(57)【要約】
【課題】 量産性および合成の再現性に優れ、合成の副生成物を生じず、導電性や充放電容量の低下のないアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法を提供すること。
【解決手段】 エーテル結合を含まない非プロトン性極性溶媒を含む溶媒に、Li元素、P元素及びS元素を含む材料を分散した第一の前駆体用分散液とチオール系溶媒含む溶媒に少なくともLiXを分散させた第二の前駆体用分散液とを混合し、脱溶、熱処理する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液相によるLi元素、P元素、S元素及びX元素(Xはハロゲン)を含むアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法であって、
固体電解質製造用原料前駆体液を調製する前駆体液調製工程と、該前駆体液調製工程によって調製された前記固体電解質製造用原料前駆体液を脱溶する脱溶工程と、該脱溶工程によって得られた乾固物を熱処理する工程とを含み、
前記前駆体液調製工程は、
少なくともエーテル結合を含まない非プロトン性極性溶媒を含む溶媒に、Li元素、P元素及びS元素を含み、かつ各元素のモル比を(3+a):1:(4+b)(0≦a≦2,0≦b≦1)とした材料が分散された第一の前駆体用分散液を調製する第一の前駆体用分散液調製工程と、
少なくともチオール系溶媒含む溶媒に少なくともLiXを分散させた第二の前駆体用分散液を調製する第二の前駆体用分散液調製工程と、
前記第一の前駆体用分散液と前記第二の前駆体用分散液とを混合する混合工程と
を含むことを特徴とするアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法。
【請求項2】
第一の前駆体用分散液調製工程と第二の前駆体用分散液調製工程のいずれか、あるいは両方において用いる溶媒が、ピリジンを含むものであることを特徴とする請求項1に記載のアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法。
【請求項3】
第一の前駆体用分散液調製工程が、少なくともピリジンを含む溶媒にP2S5を分散させた分散液と、少なくともエーテル結合を含まない非プロトン性極性溶媒を含む溶媒にLi2Sを分散させた分散液とを混合する工程を有するものであることを特徴とする請求項1または2に記載のアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法。
【請求項4】
第一の前駆体用分散液調製工程と第二の前駆体用分散液調製工程のいずれか、あるいは両方が、40℃以上かつ含有する溶媒のうち最も沸点の低い溶媒の沸点未満の温度で撹拌する工程を有することを特徴とする請求項1に記載のアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法。
【請求項5】
前記前駆体液調製工程に含まれる各工程は、いずれもエーテル結合を有する材料および溶媒を含まず、かつ、アルコール性OH基を有する材料および溶媒を含まないことを特徴とする請求項1から4に記載のアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電池に好適に用いられるアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法に関し、より詳しくは、工程が煩雑となるミリング処理を用いない液相によるLi元素、P元素、S元素及びX元素(Xはハロゲン)を含むアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、充電時には正極からリチウムがイオンとして脱離して負極へ移動して吸蔵され、放電時には負極から正極へリチウムイオンが挿入されて戻る構造の二次電池である。このリチウムイオン電池は、エネルギー密度が大きく、長寿命である等の特徴を有しているため、従来、パソコン、カメラ等の家電製品や、携帯電話機等の携帯型電子機器又は通信機器、パワーツール等の電動工具等の電源として広く用いられており、最近では、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)等に搭載される大型電池にも応用されている。このようなリチウムイオン電池において、可燃性の有機溶剤を含む電解液に代えて固体電解質を用いると、安全装置の簡素化が図られるだけでなく、製造コスト、生産性等にも優れることから、各種材料の研究が盛んに進められている。なかでも、硫化物を含む固体電解質は、導電率(リチウムイオン伝導度)が高く、電池の高出力化を図る上で有用であるといわれている。特に、高い導電率を与えるアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質は注目されており、種々の製造方法が知られている。
【0003】
例えば、非特許文献1にはメカニカルミリング処理の後に熱処理をすることにより室温で10-4S/cmオーダーの導電率を有するアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質を作製することが開示されている。特許文献1にはミリング工程のない溶液法による固体電解質の製造方法が開示され、具体的には原料粉末の混合粉末とアセトニトリルを反応容器にいれて混合溶液を作製し、真空乾燥によりアセトニトリルを除去した後に550℃で5時間熱処理して結晶化することによりアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質を作製することが開示されている。非特許文献2には、Li2SとP2S5をTHF(テトラヒドロフラン)に分散して24時間撹拌してLi3PS4とした分散液にLi2SとLiXを所定の比率でエタノールに溶解した溶液を混合して前駆体溶液を得る。得られた前駆体を乾燥後、焼成して結晶化することによりアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質を作製することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】R. P. Rao、S. Adams Phys. Status Solidi A, 208, 8, 1804-1807 (2011). 「Studies of lithium argyrodite solid electrolytes for all-solid-state batteries」
【非特許文献2】Laidong Zhou, Kern-Ho Park, Xiaoqi Sun, Fabien Lalere, Torben Adermann, Pascal Hartmann, and Linda F. Nazar, ACS Energy Lett. 4, 1, 265-270 (2019) .「Solvent-Engineered Design of Argyrodite Li6PS5X (X = Cl, Br, I) Solid Electrolytes with High Ionic Conductivity」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1のミリング処理を用いる方法はスケールアップが難しく、また、合成物の回収が煩雑で量産適性を有さない。さらに、ミリング処理で作製した電解質を用いた全固体リチウム電池においては、リチウム金属で挟んだ充放電の繰り返しにおいて突然の短絡が発生することがありロバストネスに課題のあることがわかってきた。特許文献1の手法は、多段階の合成反応を一液で処理するために合成の均一性、再現性に課題があり、作製された電解質はミリング処理等の手法により作製されたアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質に比べて導電性が劣る。非特許文献2の手法で作製されたアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質は副生成物(Li3PO4)を生じる課題がある。そのため、導電性が劣っており、また、全固体電池を構築した際の充放電容量も低下することがわかってきた。さらに、リチウム金属で挟んだ充放電の繰り返しにおいて絶縁性の反応層が形成され大幅な加電圧の上昇を生じることがわかってきた。
【0007】
本発明の目的は、スケールアップや合成物の回収が容易で量産性に優れ、かつ、合成の再現性が良く、また、合成の副生成物を生じず、導電性や充放電容量の低下がなく、充放電の繰り返しにおいても突然の短絡や絶縁性反応層形成による加電圧の上昇がなく高いロバスト性を有するアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記課題は、以下の手段により解決される。
[1]液相によるLi元素、P元素、S元素及びX元素(Xはハロゲン)を含むアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法であって、
固体電解質製造用原料前駆体液を調製する前駆体液調製工程と、該前駆体液調製工程によって調製された前記固体電解質製造用原料前駆体液を脱溶する脱溶工程と、該脱溶工程によって得られた乾固物を熱処理する工程とを含み、
前記前駆体液調製工程は、
少なくともエーテル結合を含まない非プロトン性極性溶媒を含む溶媒に、Li元素、P元素及びS元素を含み、かつ各元素のモル比を(3+a):1:(4+b)(0≦a≦2,0≦b≦1)とした材料が分散された第一の前駆体用分散液を調製する第一の前駆体用分散液調製工程と、
少なくともチオール系溶媒含む溶媒に少なくともLiXを分散させた第二の前駆体用分散液を調製する第二の前駆体用分散液調製工程と、
前記第一の前駆体用分散液と前記第二の前駆体用分散液とを混合する混合工程と
を含むことを特徴とするアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法。
[2]第一の前駆体用分散液調製工程と第二の前駆体用分散液調製工程のいずれか、あるいは両方において用いる溶媒が、ピリジンを含むものであることを特徴とする[1]に記載のアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法。
[3]第一の前駆体用分散液調製工程が、少なくともピリジンを含む溶媒にP2S5を分散させた分散液と、少なくともエーテル結合を含まない非プロトン性極性溶媒を含む溶媒にLi2Sを分散させた分散液とを混合する工程を有するものであることを特徴とする[1]または[2]に記載のアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法。
[4]第一の前駆体用分散液調製工程と第二の前駆体用分散液調製工程のいずれか、あるいは両方が、40℃以上かつ含有する溶媒のうち最も沸点の低い溶媒の沸点未満の温度で撹拌する工程を有することを特徴とする[1]に記載のアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法。
[5]前記前駆体液調製工程に含まれる各工程は、いずれもエーテル結合を有する材料および溶媒を含まず、かつ、アルコール性OH基を有する材料および溶媒を含まないことを特徴とする[1]から[4]に記載のアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スケールアップや合成物の回収が容易で量産性に優れ、かつ、合成の再現性が良く、また、合成の副生成物を生じず、導電性や充放電容量の低下がなく、充放電の繰り返しにおいても突然の短絡や絶縁性反応層形成による加電圧の上昇がなく高いロバスト性を有するアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】SE2(550)、SE2(600)、SE3(550)、SE3(600)のX線回折像
【
図2】SE2(550)、SE2(600)、SE3(550)、SE3(600)の導電率の温度依存性
【
図4】SE2(550)、SE3(550)の充放電測定
【
図5】SE1(550)、SE2(550)、SE3(550)の定電流充放電サイクル測定
【
図6】SE4(600-10)、SE4(600―2)、SE5(600-10)、SE5(600―2)のX線回折像
【
図7】SE4(600-10)、SE4(600―2)、SE5(600-10)、SE5(600―2)の導電率の温度依存性
【
図8】SE5(550)、SE6(550)のX線回折像
【
図9】SE5(550)、SE6(550)の導電率の温度依存性
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において示す「~ 」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0012】
まず、本発明は液相によるLi元素、P元素、S元素及びX元素(Xはハロゲン)を含むアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法に関する。製造した固体電解質が、アルジロダイト型結晶構造を有していることは、例えば、CuKα線を使用したX線回折測定(以下、XRDともいう)により確認できる。アルジロダイト型結晶構造は、2θ=25.2±1.0deg及び29.7±1.0degに強い回折ピークを有する。なお、アルジロダイト型結晶構造の回折ピークは、例えば、2θ=15 .3±1.0deg、17.7±1.0deg、31.1±1.0deg、44.9±1.0deg又は47.7±1.0degにも現れることがある。本発明のアルジロダイト型固体電解質は、これらのピークを有していてもよい。
【0013】
本発明のアルジロダイト型固体電解質は、Li元素、P元素、S元素及びX元素(Xはハロゲン)を含む。X元素としてはF元素、Cl元素、Br元素、I元素をあげることが出来る。X元素は1種であっても2種以上であっても良い。組成式としては、例えば、X元素の種類を区別してX1元素(ハロゲン1)、X2元素(ハロゲン2)として、Li7-y-zPS6-y-zX1
yX2
z(y≧0、Z≧0、1≦y+z≦1.8)と表すことが出来る。具体的にはLi6PS5Cl、Li6PS5Br、Li6PS5I、Li6PS5Cl0.75Br0.25、Li6PS5Cl0.5Br0.5、Li5.75PS4.75Cl1.25、Li5.5PS4.5Cl1.5などをあげることが出来るが、これらに限定されない。
【0014】
本発明の固体電解質の製造方法は、固体電解質製造用原料前駆体液を調製する前駆体液調製工程と、該前駆体液調製工程によって調製された前記固体電解質製造用原料前駆体液を脱溶する脱溶工程と、該脱溶工程によって得られた乾固物を熱処理する工程とを含む。
【0015】
なお、本発明の固体電解質の製造方法においては、いずれの工程においてもエーテル結合を有する材料および溶媒、アルコール性OH基を有する材料および溶媒を含まないことが好ましい。
【0016】
前駆体液調製工程について説明する。前駆体液調製工程は、少なくともエーテル結合を含まない非プロトン性極性溶媒を含む溶媒に、Li元素、P元素及びS元素を含み、かつ各元素のモル比を(3+a):1:(4+b)(0≦a≦2,0≦b≦1)とした材料が分散された第一の前駆体用分散液を調製する第一の前駆体用分散液調製工程と、少なくともチオール系溶媒含む溶媒に少なくともLiXを分散させた第二の前駆体用分散液を調製する第二の前駆体用分散液調製工程と、前記第一の前駆体用分散液と前記第二の前駆体用分散液とを混合する混合工程とを含む。
【0017】
特許文献1では原料を一括して混合して合成しているが、本発明は、第一の前駆体用分散液調製工程と第二の前駆体用分散液調製工程に分けて分散液を準備した後に混合している。原料をLi2S、P2S5、LiClとした場合を例にするとこの合成は、5Li2S+P2S5+2LiCl→2Li6PS5Clと表現できるが、2Li3PS4+2Li2S+2LiClを経て、Li6PS5Clが合成されている。本発明においては第一の前駆体用分散液調製工程においてあらかじめLi3PS4あるいはその前駆体を形成することで、一括して混合して合成する方法に比べて大幅に合成の安定性が向上している。
【0018】
第一の前駆体用分散液調製工程においては、少なくともエーテル結合を含まない非プロトン性極性溶媒を用いる。アルジロダイト型固体電解質の生成を阻害しない範囲で他の溶媒を併用しても良いが、その場合、エーテル結合を有する溶媒およびアルコール性OH基を有する溶媒を含まないことが好ましい。本発明において、エーテル結合を含まない非プロトン性極性溶媒とは分子内にエーテル結合を含まず、プロトン供与性を持たない比誘電率が20以上の溶媒を表し、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルホルムアミド、ヂメチルスルホキシド等をあげることができる。これらのうち、アセトニトリルが好ましい。非特許文献2においてはエーテル結合を含むテトラヒドロフランが用いられているが、エーテル結合が開環してP2S5と反応し、PO4
3-を生じていた。本発明においては、エーテル結合を含まない非プロトン性極性溶媒を用いることでPO4
3-を生じることなく、Li3PS4あるいはその前駆体が形成される。エーテル結合を含まない非プロトン性極性溶媒は第一の前駆体用分散液に用いる溶媒の30質量%以上であることが好ましく、後述するピリジンを併用する場合以外は60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが最も好ましい。
【0019】
第一の前駆体用分散液調製工程において、少なくともエーテル結合を含まない非プロトン性極性溶媒を含む溶媒に、Li元素、P元素及びS元素を含み、かつ各元素のモル比を(3+a):1:(4+b)(0≦a≦2,0≦b≦1)とした材料が分散される。先に述べたように第一の前駆体用分散液においては、Li3PS4あるいはその前駆体が形成されることからLi元素、P元素及びS元素の各元素のモル比は3:1:4であることが好ましいが、第二の前駆体用分散液にもLi元素、P元素が含まれることからその一部をLi3PS4あるいはその前駆体の形成を阻害しない範囲で第一の前駆体用分散液調製工程に含めても良い。範囲としては0≦a≦2,0≦b≦1である。
【0020】
Li元素、P元素及びS元素を含む材料に用いられる原料としては、リチウム(Li)、硫黄(S)、リン(P)、硫化リチウム(Li2S)、五硫化二リン(P2S5)、Li3PS4をあげることが出来るがこれらに限定されない。ただし、エーテル結合を有する材料およびアルコール性OH基を有する材料を含まないことが好ましい。中でも硫化リチウム(Li2S)及び五硫化二リン(P2S5)を用いることが好ましい。また、アルジロダイト型固体電解質の生成を阻害しない範囲で他の元素を含む材料を含んでも良い。第一の前駆体用分散液における原料の濃度は特に限定されないが、0.1~30質量%とすることが好ましく、0.5~15質量%の範囲とすることがより好ましい。濃度が低いと生産性が悪くなってしまう。濃度が高いと未反応物を生じてしまうことがある。
【0021】
第一の前駆体用分散液調製工程においては、溶媒としてピリジンを併用する、あるいは、加温撹拌することが合成の安定性を向上させる上で好ましい。
【0022】
溶媒としてピリジンを併用する場合について説明する。ピリジンを併用することで原料の溶解性が向上し、より合成の安定性が向上すると考えている。第一の前駆体用分散液調製工程においてピリジンを併用する場合は、少なくともピリジンを含む溶媒にP2S5を分散させた分散液と少なくともエーテル結合を含まない非プロトン性極性溶媒を含む溶媒にLi2Sを分散させた分散液とを混合する工程とすることがより好ましい。それぞれの分散液における原料の濃度は特に限定されないが、0.1~30質量%とすることが好ましく、0.5~15質量%の範囲とすることがより好ましい。また、それぞれの分散液におけるピリジン、非プロトン性極性溶媒の使用量はそれぞれの分散液の溶媒全体の60質量%以上であることがこのましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0023】
第一の前駆体用分散液調製工程において加温撹拌する場合について説明する。加温撹拌することにより原料の溶解性が向上し、より合成の安定性が向上すると考えている。撹拌方法としては従来知られている方法が利用でき、例えば、マグネチックスターラーを用いる方法やシャフトにプロペラ、パドル、ディスクタービン等の撹拌翼をとりつけてモーターで回転させる方法などを利用できる。加温する温度は40℃以上でかつ含有する溶媒のうち最も沸点の低い溶媒の沸点未満であることが好ましい。アセトニトリルの場合は40℃以上80℃以下であることが好ましく、60℃以上80℃以下であることがより好ましい。撹拌の時間は1~100時間であることが好ましく、12~72時間であることがより好ましい。
【0024】
第二の前駆体用分散液調製工程は少なくともチオール系溶媒含む溶媒に少なくともLiXを分散させる工程である。チオール系溶媒はR-SH(Rは有機基)で表される構造を有する溶媒であり、例えば、エタンチオール、1-プロパンチオール、2-プロパンチオール、1-ブタンチオール、2-ブタンチオールをあげることができる。これらのうち、1-プロパンチオール、2-プロパンチオールが好ましい。非特許文献2においてはアルコール系溶媒が用いられるが、アルコール系溶媒がP2S5と反応し、PO4
3-を生じていた。チオール系溶媒はアルコール系溶媒に近い性質を有するが、本発明において、チオール系溶媒がP2S5と反応しても生じるのはPS4
3-であり、これば本発明で製造されるアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の構成要素であり悪影響することはない。また、アルジロダイト型固体電解質の生成を阻害しない範囲で他の溶媒を併用しても良いが、その場合、エーテル結合を有する溶媒およびアルコール性OH基を有する溶媒を含まないことが好ましい。
【0025】
第二の前駆体用分散液調製工程に用いる原料はLiXと必要に応じてLi2S、リチウム、硫黄を用いる。なお、アルジロダイト型固体電解質の生成を阻害しない範囲で他の材料を含んでも良いが、その場合、エーテル結合を有する材料およびアルコール性OH基を有する材料を含まないことが好ましい。添加量は、所望するアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の組成となるように、第一の前駆体用分散液調製工程により得られる分散液と第二の前駆体用分散液調製工程により得られる分散液とを混合する際の混合比率、第一の前駆体用分散液調製工程により得られる分散液に含まれる各元素の濃度を考慮して調製する。この際、第二の前駆体用分散液調製工程により得られる分散液の濃度は特に限定されないが、0.1~30質量%とすることが好ましく、0.5~15質量%の範囲とすることがより好ましい。濃度が低いと生産性が悪くなってしまう。濃度が高いと未反応物を生じてしまうことがある。チオール系溶媒は第二の前駆体用分散液に用いる溶媒の30質量%以上であることが好ましく、後述するピリジンを併用する場合以外は60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが最も好ましい。
【0026】
第二の前駆体用分散液調製工程においては、溶媒としてピリジンを併用する、あるいは、加温撹拌することが合成の安定性を向上させる上で好ましい。
【0027】
溶媒としてピリジンを併用する場合について説明する。ピリジンを併用することで原料の溶解性が向上する、あるいは、ピリジンの塩基性によりハロゲン原子をトラップすることが合成安定性に寄与するのではないかと考えている。ピリジンを併用する場合、ピリジン溶媒、チオール系溶媒は第二の前駆体用分散液の溶媒全体に対してそれぞれ30質量%以上であることが好ましく、それぞれ40質量%以上であることがより好ましい。
【0028】
第二の前駆体用分散液調製工程において加温撹拌する場合について説明する。加温撹拌することにより原料の溶解性が向上し、より合成の安定性が向上すると考えている。撹拌方法としては従来知られている方法が利用でき、例えば、マグネチックスターラーを用いる方法やシャフトにプロペラ、パドル、ディスクタービン等の撹拌翼をとりつけてモーターで回転させる方法などを利用できる。加温する温度は40℃以上でかつ含有する溶媒のうち最も沸点の低い溶媒の沸点未満であることが好ましい。1-プロパンチオールの場合は40℃以上65℃以下であることが好ましく、45℃以上55℃以下であることがより好ましい。撹拌の時間は1~100時間であることが好ましく、12~72時間であることがより好ましい。
【0029】
第一の前駆体用分散液調製工程により得られる分散液と第二の前駆体用分散液調製工程により得られる分散液とを混合する混合工程について説明する。第一の前駆体用分散液調製工程により得られる分散液と前記第二の前駆体用分散液調製工程により得られる分散液とを所望するアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の組成となる比率で混合する。混合した液は、両分散液を均一に混合するために撹拌することが好ましい。撹拌方法は第一の前駆体用分散液調製工程における撹拌方法に記載した方法を利用できる。第一の前駆体用分散液調製工程と第二の前駆体用分散液調製工程のいずれにおいてもピリジンを併用しない場合は、混合工程において、撹拌の際に加温することが好ましく、温度は40℃以上、かつ含まれる溶媒の中で最も沸点が低い溶媒の沸点未満であることが好ましい。1-プロパンチオールが該当する場合は40℃以上65℃以下であることが好ましく、45℃以上55℃以下であることがより好ましい。撹拌の時間は1~100時間であることが好ましく、12~72時間であることがより好ましい。
【0030】
前駆体液調製工程によって調製された固体電解質製造用原料前駆体液を脱溶する脱溶工程について説明する。脱溶工程は、固体電解質製造用原料組成物に含まれた溶媒を除去する工程であり、加熱、減圧等を利用することができる。加熱する場合の温度は、好ましくは60℃~180℃、より好ましくは70℃~150℃である。減圧については従来知られている真空乾燥装置を用いる方法が利用できる。加熱と減圧を併用する方法も好ましく用いることができる。
【0031】
脱溶工程によって得られた乾固物を熱処理する工程について説明する。脱溶工程によって得られた乾固物を熱処理することにより乾固物を結晶化してアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質とする工程である。なお、熱処理を行う前に脱溶工程によって得られた乾固物を加圧成形に供することも好ましい。加圧条件としては例えば20~150MPaである。熱処理の条件はアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質と出来る条件であればいずれの条件でも利用できるが、好ましくは400~700℃、より好ましくは500~650℃で、熱処理時間は好ましくは0.5~24時間、より好ましくは1~15時間である。
【0032】
本発明の製造方法における各工程の雰囲気は特に限定されないが、乾燥窒素ガス、乾燥アルゴンガス等の乾燥不活性ガス、乾燥空気等からなるものとすることが好ましい。
【実施例0033】
本発明について、以下に実施例を示し更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
1.製造原料
固体電解質の製造に用いた原料は、以下の通りである。
1-1.五硫化二リン(P2S5)粉体
Merck社製「P2S5」(商品名)を用いた。純度は99%である。
1-2.硫化リチウム(Li2S)粉体
三津和化学薬品社製「Li2S」(商品名)を用いた。純度は99.9%である。
1-3.塩化リチウム(LiCl)粉体
Sigma-Aldrich社製「LiCl」(商品名)を用いた。純度は99%である。
1-4.アセトニトリル
富士フイルム和光純薬社製「アセトニトリル(超脱水)」(商品名)を用いた。純度は99.9%である。
1-5.テトラヒドロフラン
Sigma-Aldrich社製「テトラヒドロフラン(無水)」(商品名)を用いた。純度は99.9%である。
1-6.エタノール
富士フイルム和光純薬社製「エタノール(超脱水)」(商品名)を用いた。純度は99.5%である。
1-7.1-プロパンチオール
東京化成工業社製「1-プロパンチオール」(商品名)を用いた。純度は98%である。
1-8.ピリジン
Sigma-Aldrich社製「ピリジン(無水)」(商品名)を用いた。純度は99.8%である。
【0034】
(比較例1;ミリング処理による固体電解質SE1の製造)
硫化リチウム粉体と五硫化二リン粉体と塩化リチウム粉体とをモル比で5:1:2、合計1gとなるように秤量し、メノウ乳鉢を用いて混合した。次いで、混合粉末を直径10mmのジルコニアボールとともにFrisch社製遊星型ボールミル機(容器:ジルコニア製)に入れ、メカニカルミリング(回転数600rpm、20時間)を行った。ミリング処理した粉体を回収した。この際、ジルコニアボールや容器に強く付着した粉体の回収に非常な手間がかかるとともに完全には全量を回収することが出来なかった。回収した粉体を127MPaで一軸プレスしてペレット化した。得られたペレットを、550℃で10時間熱処理し、固体電解質SE1(550)を得た。本例の固体電解質の製造は乾燥アルゴンガス雰囲気中で行った。
【0035】
(比較例2;テトラヒドロフランとエタノールを用いた液相法による固体電解質SE2の製造)
Li、P及びSのモル比が3:1:4となるように、硫化リチウム粉体を0.275g、五硫化二リン粉体を0.141g秤量してテトラヒドロフラン溶媒10mlに添加し、次いで、25℃で24時間マグネチックスターラーを用いて撹拌して、第一の前駆体用分散液を得た。次に、硫化リチウム粉体を0.171g、塩化リチウム粉体を0.158g秤量してエタノール溶媒10mlに添加し、次いで、25℃で24時間マグネチックスターラーを用いて撹拌して、第二の前駆体用分散液を得た。得られた第一の前駆体用分散液と第二の前駆体用分散液とを混合し、次いで、50℃で24時間撹拌して、固体電解質製造用原料前駆体液を得た。
【0036】
その後、上記固体電解質製造用原料前駆体液をダイヤフラムポンプ(Buchi社製、V-700真空ポンプ)を用いて減圧乾燥(80℃、12時間)することにより溶媒除去して乾固物を得た。得られた乾固物を127MPaで一軸プレスしてペレット化した。得られたペレットを、550℃で10時間熱処理し、固体電解質SE2(550)を得た。熱処理温度を600℃とした以外は同様にして固体電解質SE2(600)を得た。本例の固体電解質の製造は乾燥アルゴンガス雰囲気中で行った。
【0037】
(実施例1;本発明;アセトニトリルと1-プロパンチオールを用いた液相法による固体電解質SE3の製造)
Li、P及びSのモル比が3:1:4となるように、硫化リチウム粉体を0.275g、五硫化二リン粉体を0.141g秤量してアセトニトリル溶媒10mlに添加し、次いで、75℃で24時間マグネチックスターラーを用いて撹拌して、第一の前駆体用分散液を得た。次に、硫化リチウム粉体を0.171g、塩化リチウム粉体を0.158g秤量して1-プロパンチオール溶媒10mlに添加し、次いで、50℃で24時間マグネチックスターラーを用いて撹拌して、第二の前駆体用分散液を得た。得られた第一の前駆体用分散液と第二の前駆体用分散液とを混合し、次いで、50℃で24時間撹拌して、固体電解質製造用原料前駆体液を得た。
【0038】
その後、上記固体電解質製造用原料前駆体液をダイヤフラムポンプ(Buchi社製、V-700真空ポンプ)を用いて減圧乾燥(80℃、12時間)することにより溶媒除去して乾固物を得た。得られた乾固物を127MPaで一軸プレスしてペレット化した。得られたペレットを、550℃で10時間熱処理し、固体電解質SE3(550)を得た。熱処理温度を600℃とした以外は同様にして固体電解質SE3(600)を得た。本例の固体電解質の製造は乾燥アルゴンガス雰囲気中で行った。
【0039】
(X線回折測定)
SE2(550)、SE2(600)、SE3(550)、SE3(600)について、X線回折測定装置(リガク社製スマートラボ)を用いて、X線回折測定(回折角2θ=10°~70°、サンプリング幅0.02°、スキャン速度5°/分)を行って、
図1のX線回折像を得た。いずれもLi
6PS
4Clのアルジロダイ型結晶構造を有することがわかるが、SE2(550)、SE2(600)ではLi
3PO
4の構造も含むのに対して、本発明の製造方法によるSE3(550)、SE3(600)ではLi
3PO
4を含まないことがわかる。
【0040】
(導電率測定)
SE2(550)、SE2(600)、SE3(550)、SE3(600)について、一軸油圧プレス機を用いて、円板形状の試験片(サイズ:半径5mm×高さ0.6mm)とし、アルゴンガス雰囲気下、測定用ユニット(ガラス容器)に入れた状態で、調温器に接続したリボンヒーター及び断熱材を測定用ユニット(ガラス容器)の周りに巻き付け、SOLATRON社製IMPEDANCE ANALYZER「S1260」(型式名)を用いて、室温(25℃)から徐々に加熱し、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、90℃、110℃、130℃で導電率を測定した。尚、導電率は、試験片を低温側から上記の各温度に保持し始めてから1時間静置した後に測定した。
【0041】
導電率の温度依存性のグラフを
図2に示す。室温(25℃)における導電率はSE2(550)が1.80mS/cm、SE2(600)が1.47mS/cmであった。一方、SE3(550)が2.75mS/cm、SE3(600)が2.13mS/cmであり、本発明の製造方法によるSE3の方がSE2よりも高い導電率を示した。
【0042】
(充放電試験)
正極用複合体として硫化チタン(TiS2)とSE2(550)を質量比1:1となるように秤量し、メノウ乳鉢を用いて混合して、正極用複合体を得た。
【0043】
次に、SE2(550)を、一軸油圧プレス機を用いて加圧成形し、円板形状の予備成形体(半径:5mm、厚さ:0.5mm)とした。そして、この電解質層用の予備成形体をポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製の筒状体の内部に収容した状態で、その一方の表面側の全体に、上記で得られた正極用複合体約5mgを充填し、一軸油圧プレス機を用いて加圧成形を行った。更に、電解質層用予備成形体の他方の面に、Li-In合金箔(厚さ0.1mm、直径5mm)を張り付け、正極用複合体からなる正極電極21(厚さ約30μm)と、SE2(550)からなる電解質層25と、Li-In合金からなる負極電極23とを備える全固体形のリチウム硫黄電池20を得た。
【0044】
その後、このリチウム硫黄電池20を収納した筒状体の両側から、それぞれステンレス-ニッケルの導通部を挿入し、治具で固定して、
図3に示す測定セル10を得た。そして、この測定セル10をガラス容器(図示せず)に封入し、ガラス容器内の気体をアルゴンガスに置換して、充電試験を行った。充電試験は、NAGANO社製充放電装置「BTS-2004H」(型式名)を用い、1.0-2.4V vs Li-In、Cレート:0.1Cの条件で行った。SE3(550)についても同様に試験を行った。その結果を
図4に示す。
【0045】
SE2(550)の充電容量はTiS2単位重量当たり182.8mAh・g-1、放電容量は197.86mAh・g-1であった。一方、SE3(550)の充電容量は221.73mAh・g-1、放電容量は222.38mAh・g-1であり、本発明の製造方法によるSE3の方がSE2よりも高く、理論容量236mAh・g-1に近い充放電容量を示した。
【0046】
(定電流充放電サイクル試験)
電極SE2(550)を用いて、充放電試験における正極用複合体からなる正極電極21とLi-In合金からなる負極電極23にかえて、どちらもLiフォイルとした以外は同様にして対称構造となるセルを得た。NAGANO社製充放電装置「BTS-2004H」(型式名)を用い、電流強度100サイクルまで±0.1mA・cm
―2、充放電それぞれ1時間、100サイクル以降は±0.2mA・cm
―2として試験を行った。SE1(550)、SE3(550)についても同様に試験を行った。その結果を
図5に示す。
【0047】
SE1(550)は10時間で短絡した。SE2(550)は初期21mVだった電圧が200時間で154mVに増大した。絶縁性反応層が形成されたことによると思われる。本発明の製造方法によるSE3(550)は初期6mVで、150時間でも13mVまでしか電圧の上昇がなかった。
【0048】
(実施例2;本発明;アセトニトリルと1-プロパンチオールにピリジンを併用した液相法による固体電解質SE4、SE5の製造)
五硫化二リン粉体を0.141g秤量してピリジン溶媒5mlに添加し、室温(25℃)で1時間マグネチックスターラーを用いて撹拌した。硫化リチウム粉体を0.428g秤量して、アセトニトリル溶媒5mlに添加し、室温(25℃)で1時間マグネチックスターラーを用いて撹拌した。これらを混合し、さらに室温(25℃)で24時間マグネチックスターラーを用いて撹拌して、第一の前駆体用分散液を得た。第一の前駆体用分散液におけるLi、P及びSのモル比は5:1:5である。次に、塩化リチウム粉体を0.158g秤量してピリジン溶媒5mlと1-プロパンチオール溶媒5mlを混合した混合溶媒に添加し、室温(25℃)で24時間マグネチックスターラーを用いて撹拌して、第二の前駆体用分散液を得た。得られた第一の前駆体用分散液と第二の前駆体用分散液とを混合し、次いで、室温(25℃)で24時間撹拌して、固体電解質製造用原料前駆体液を得た。固体電解質製造用原料前駆体液におけるLi、P、S及びClのモル比は6:1:5:1である。
【0049】
その後、上記固体電解質製造用原料前駆体液をダイヤフラムポンプ(Buchi社製、V-700真空ポンプ)を用いて減圧乾燥(80℃、12時間)することにより溶媒除去して乾固物を得た。得られた乾固物を127MPaで一軸プレスしてペレット化した。得られたペレットを、600℃で10時間熱処理し、固体電解質SE4(600-10)を得た。熱処理時間を2時間とした以外は同様にして固体電解質SE4(600―2)を得た。本例の固体電解質の製造は乾燥アルゴンガス雰囲気中で行った。
【0050】
さらに、固体電解質製造用原料前駆体液におけるLi、P、S及びClのモル比が5.5:1:4.5:1.5となるように原料の秤量を調製した以外は同様にして固体電解質SE5(600-10)を得た。さらに熱処理時間を2時間とした以外は同様にして固体電解質SE5(600―2)を得た。
【0051】
(X線回折測定)
SE4(600-10)、SE4(600―2)、SE5(600-10)、SE5(600―2)について、X線回折測定装置(リガク社製スマートラボ)を用いて、X線回折測定(回折角2θ=10°~70°、サンプリング幅0.02°、スキャン速度5°/分)を行って、
図6のX線回折像を得た。いずれの電解質もアルジロダイ型結晶構造を有し、Li
3PO
4を含まないことがわかる。
【0052】
(導電率測定)
SE4(600-10)、SE4(600―2)、SE5(600-10)、SE5(600―2)について、SE2(550)等と同様にしてイオン導電率測定を行った。導電率の温度依存性のグラフを
図7に示す。室温(25℃)における導電率はSE4(600-10)が4.76mS/cm、SE4(600―2)が2.11mS/cm、SE5(600-10)が5.41mS/cm、SE5(600―2)が1.82mS/cmであり、SE2よりも高い導電性を示した。なお、これらの例ではイオン伝導に加えて若干、電子伝導の挙動も見られた。脱溶工程で一部の溶剤が残存し炭化した可能性がある。
【0053】
(実施例3;本発明;実施例1から硫化リチウムの添加を変化させた固体電解質SE5、SE6の製造)
実施例1において、第一の前駆体用分散液のLi、P及びSのモル比が4:1:4.5となるように硫化リチウムの添加量を0.324gとし、第二の前駆体用分散液における硫化リチウムの添加量を0.086gとし(固体電解質製造用原料前駆体液におけるLi、P、S及びClのモル比は6:1:5:1である)とした以外は同様(熱処理する工程の条件は550℃で10時間)にして固体電解質SE5(550)を得た。
【0054】
さらに、実施例1において、第一の前駆体用分散液のLi、P及びSのモル比が5:1:5となるように硫化リチウムの添加量を0.428gとし、第二の前駆体用分散液における硫化リチウムの添加量を0gとし(固体電解質製造用原料前駆体液におけるLi、P、S及びClのモル比は6:1:5:1である)とした以外は同様(熱処理する工程の条件は550℃で10時間)にして固体電解質SE6(550)を得た。
【0055】
(X線回折測定)
SE5(550)、SE6(550)について、X線回折測定装置(リガク社製スマートラボ)を用いて、X線回折測定(回折角2θ=10°~70°、サンプリング幅0.02°、スキャン速度5°/分)を行って、
図8のX線回折像を得た。いずれの電解質もアルジロダイ型結晶構造を有し、Li
3PO
4を含まないことがわかる。
【0056】
(導電率測定)
SE5(550)、SE6(550)について、SE2(550)等と同様にしてイオン導電率測定を行った。導電率の温度依存性のグラフを
図9に示す。室温(25℃)における導電率はSE5(550)が2.21mS/cm、SE6(550)が2.37mS/cmであり、SE2よりも高い導電性を示した。