(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147566
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】地盤改良体及び地盤改良体の構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 31/12 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
E02D31/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055136
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨田 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】牛田 貴士
(72)【発明者】
【氏名】松丸 貴樹
(57)【要約】
【課題】充填材を散逸させることがないうえに、土留め壁と地盤の壁面摩擦力を確実に高めることができる地盤改良体を提供する。
【解決手段】土留め壁1に隣接して設けられる地盤改良体2である。
そして、土留め壁の根入れ部12に隣接して配置される膨張可能な袋体3と、袋体が膨張するように充填された充填材4と、地表から袋体への充填材の注入を可能にする連絡管5とを備えている。
ここで、袋体は、土留め壁の平面視の延伸方向に沿って間隔を置いて複数が配置される。また、連絡管には、深度方向に複数の袋体が取り付けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土留め壁に隣接して設けられる地盤改良体であって、
前記土留め壁の根入れ部に隣接して配置される膨張可能な袋体と、
前記袋体が膨張するように充填された充填材と、
地表から前記袋体への前記充填材の注入を可能にする連絡管とを備え、
前記袋体は、前記土留め壁の平面視の延伸方向に沿って間隔を置いて複数が配置されることを特徴とする地盤改良体。
【請求項2】
前記連絡管には、深度方向に複数の前記袋体が取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の地盤改良体。
【請求項3】
複数の前記袋体の少なくとも1つは、水平方向の膨張量が他の袋体と異なっていることを特徴とする請求項2に記載の地盤改良体。
【請求項4】
土留め壁に隣接して設けられる地盤改良体の構築方法であって、
掘削前の地盤に土留め壁を構築する工程と、
前記土留め壁の掘削側の地表から、膨張可能な袋体が先端側に取り付けられた連絡管を深度方向に推進させる工程と、
前記土留め壁の根入れ部に隣接した位置に配置された前記袋体に、前記連絡管を利用して充填材を注入することで前記袋体を膨張させる工程とを備えたことを特徴とする地盤改良体の構築方法。
【請求項5】
前記連絡管に対して深度方向に複数の前記袋体が取り付けられている場合に、下方の袋体から順に前記充填材を注入して膨張させることを特徴とする請求項4に記載の地盤改良体の構築方法。
【請求項6】
前記袋体を地中の難透水層の下層に配置するとともに、前記難透水層の下方で膨張させることを特徴とする請求項4又は5に記載の地盤改良体の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土留め壁に隣接して設けられる地盤改良体及び地盤改良体の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1-3に開示されているように、掘削土留め工において、難透水層下において被圧地下水が想定される場合は、盤ぶくれに対する検討を行わなければならない。盤ぶくれに対する抵抗としては、重量、土留め壁の摩擦、地盤のせん断が抵抗要素として考えられている。
【0003】
一方、盤ぶくれに有効な対策として地盤改良が用いられているが、全面改良はコストがかかるうえに品質の管理が難しいため、地盤改良体の摩擦力に期待した工法が提案されている。例えば特許文献1では、難透水層と被圧滞水層(被圧層)に盤ぶくれ防止杭を貫入することで、浮上りを防止する構成となっている。
【0004】
また、特許文献2には、コマ状の拡張部を備えた杭による、摩擦力と難透水層の上方地盤のせん断抗力に期待する盤ぶくれ防止杭が開示されている。さらに、特許文献3には、盤ぶくれを抑止する支圧力と杭外周面の摩擦力により盤ぶくれに抵抗する盤ぶくれ抑止杭が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-181806号公報
【特許文献2】特開2010-133159号公報
【特許文献3】特開2013-2109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1-3に開示された工法では、いずれも地盤に削孔された孔にモルタルやコンクリートを充填することで杭を構築することになるが、間隙が大きい被圧層においてはモルタル等の充填材が散逸し、期待していた底盤の支圧効果や揚圧力が作用したときのせん断抗力を期待できない場合がある。
【0007】
そこで、本発明は、充填材を散逸させることがないうえに、土留め壁と地盤の壁面摩擦力を確実に高めることができる地盤改良体及び地盤改良体の構築方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の地盤改良体は、土留め壁に隣接して設けられる地盤改良体であって、前記土留め壁の根入れ部に隣接して配置される膨張可能な袋体と、前記袋体が膨張するように充填された充填材と、地表から前記袋体への前記充填材の注入を可能にする連絡管とを備え、前記袋体は、前記土留め壁の平面視の延伸方向に沿って間隔を置いて複数が配置されることを特徴とする。
【0009】
ここで、前記連絡管には、深度方向に複数の前記袋体が取り付けられている構成とすることができる。また、複数の前記袋体の少なくとも1つは、水平方向の膨張量が他の袋体と異なっている構成であってもよい。
【0010】
また、地盤改良体の構築方法の発明は、土留め壁に隣接して設けられる地盤改良体の構築方法であって、掘削前の地盤に土留め壁を構築する工程と、前記土留め壁の掘削側の地表から、膨張可能な袋体が先端側に取り付けられた連絡管を深度方向に推進させる工程と、前記土留め壁の根入れ部に隣接した位置に配置された前記袋体に、前記連絡管を利用して充填材を注入することで前記袋体を膨張させる工程とを備えたことを特徴とする。
【0011】
ここで、前記連絡管に対して深度方向に複数の前記袋体が取り付けられている場合に、下方の袋体から順に前記充填材を注入して膨張させることができる。また、前記袋体を地中の難透水層の下層に配置するとともに、前記難透水層の下方で膨張させることもできる。
【発明の効果】
【0012】
このように構成された本発明の地盤改良体は、土留め壁の根入れ部に隣接して配置される袋体が、充填材によって膨張している。すなわち、土留め壁の平面視の延伸方向に沿って間隔を置いて複数が配置される袋体が膨張することによって、土留め壁の壁面に袋体の周囲の地盤が押し付けられた状態なる。
【0013】
要するに、袋体に充填材を充填するため散逸させることがないうえに、土留め壁の壁面に対して垂直な応力が地盤を介して加わることになるので、土留め壁と地盤の壁面摩擦力を確実に高めることができる。
【0014】
また、深度方向に複数の袋体が連絡管に取り付けられていれば、土留め壁の根入れ部が長くなる場合でも、深度方向に分散して配置される膨張した袋体によって、効果的に膨張圧を壁面に作用させることができるようになる。
【0015】
さらに、複数の袋体の少なくとも1つが、水平方向の膨張量が他の袋体と異なる構成となっていれば、例えば難透水層の下方に配置された袋体を、それより上方の袋体より大きく膨張させることで垂直抗力を高めることができる。
【0016】
また、地盤改良体の構築方法の発明は、膨張可能な袋体を土留め壁の根入れ部に隣接した位置に配置した後に、連絡管を利用して充填材を注入することで袋体を膨張させる。すなわち、膨張前の袋体を推進させるので地盤の乱れを抑えることができるうえに、その後に充填材を注入して袋体を膨張させることで、周囲の地盤が圧縮されて密着度を高めることができる。
【0017】
また、連絡管に対して深度方向に複数の袋体が取り付けられている場合に、下方の袋体から順に充填材を注入して膨張させることで、すべての袋体を期待した通りの大きさに膨張させることが容易にできる。
【0018】
さらに、袋体を地中の難透水層の下層に配置して膨張させることで、難透水層の下層が被圧層であっても、充填材の散逸が防げるうえに、膨張した袋体が盤ぶくれに対する垂直抗力になって、盤ぶくれの発生を抑えることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施の形態の地盤改良体が設けられた掘削土留め工の概要を示した説明図である。
【
図2】本実施の形態の地盤改良体の構成を示した斜視図である。
【
図3】本実施の形態の地盤改良体の配置を平面視で示した説明図である。
【
図4】本実施の形態の地盤改良体の構築方法の各工程を示した説明図である。
【
図5】本実施の形態の地盤改良体の構築方法の各工程を示した説明図である。
【
図6】本実施の形態の地盤改良体の構築方法の各工程を示した説明図である。
【
図7】実施例1の地盤改良体の構成を示した斜視図である。
【
図8】実施例1の地盤改良体が設けられた掘削土留め工の概要を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態の地盤改良体2が設けられた掘削土留め工の概要を示した説明図であり、
図3は、地盤改良体2の配置を平面視で示した説明図である。また、
図2は、地盤改良体2の構成を示した斜視図である。
【0021】
掘削土留め工において、地盤Gの難透水層G2の下層に被圧層G3が存在し、被圧地下水によって、難透水層G2が
図1の上向き矢印のような揚圧力を受けていると想定される場合は、盤ぶくれに対する検討を行わなければならない。
【0022】
そこで、本実施の形態では、盤ぶくれ対策として、土留め壁1の内側に地盤改良体2を構築する。本実施の形態の地盤改良体2は、土留め壁1に隣接して設けられることで、土留め壁1の壁面摩擦力を向上させることができる。
【0023】
本実施の形態の地盤改良体2は、
図1に示すように、土留め壁1の根入れ部12に隣接して配置される袋体3と、袋体3が膨張するように充填された充填材4と、地表から地中の袋体3への充填材4の注入を可能にする連絡管5とを備えている。
【0024】
図2を参照しながら地盤改良体2の構成について詳述する。袋体3は、膨張可能となるように、強度や伸縮性に優れた合成樹脂等で製作されている。
図2は、袋体3の内空に充填材4が充填されて、双円錐台状に膨張した状態を示している。例えば、袋体3の最大張り出し部の直径が300mm程度となるまで、膨張させることができる。また、膨張前の袋体3は、後述する接続管31の直径程度に収めることができる。
【0025】
充填材4には、袋体3の膜を透過することがなく、硬化後に所望する強度が得られるグラウトやモルタルなどの改良剤が使用できる。充填材4は、ケーシング管などの連絡管5に挿入された注入管51によって、袋体3の内空に地表から充填される。なお、構成によっては、連絡管5に直接、充填材4を流すこともできる。連絡管5には、例えば直径100mm程度の鋼管が使用できる。
【0026】
図2に示した地盤改良体2には、連絡管5の下方となる先端側に、深度方向に間隔を置いて2つの袋体3が取り付けられている。上下の袋体3,3間は、円筒形の接続管31で繋がれ、先端側の袋体3の下方には、円錐状の先端コーン32が設けられる。
【0027】
先端コーン32は、袋体3を地盤Gの所望する深度に埋設させるために取り付けられる。すなわち、先端コーン32を地盤Gに押し当てて回転させるなどして、地盤Gの中に推進させる。このため、先端コーン32は、袋体3とともに地中に残置されることになる。
【0028】
地盤改良体2は、
図1に示すように、土留め壁1の内側に設けられる。掘削土留め工においては、土留め壁1で囲まれた掘削地盤G1を掘り下げることになる。この
図1では、掘削地盤G1の下層に難透水層G2が存在し、さらにその下層に被圧層G3が存在する地盤構造を模式的に例示している。
【0029】
被圧層G3は、被圧地下水が存在する被圧滞水層で、その上層となる難透水層G2は、被圧層G3から揚圧力を受けている。そこで、地盤改良体2の袋体3を難透水層G2に配置して、根入れ部12の付近で膨張させることで、その膨張圧を土留め壁1の壁面11に作用させる。
【0030】
土留め壁1の壁面11に垂直な押し付け力(応力)が作用すると、根入れ部12とその周囲の地盤(難透水層G2)との壁面摩擦力が増加することになって、盤ぶくれに対する摩擦抵抗を増加させることができる。以下ではこの作用を、「支圧効果」と呼ぶこととする。
【0031】
土留め壁1は、
図3の平面視の説明図に示したように、横方向に広がって設けられるため、袋体3は、土留め壁1の平面視の延伸方向に沿って間隔を置いて複数が配置されることになる。
【0032】
ここで、袋体3と土留め壁1の壁面11との距離が広すぎると、充分に膨張圧を壁面11に作用させることができなくなる。また、袋体3,3間の間隔が狭すぎると、土留め壁1の延伸方向の長さに応じて必要となる袋体3の数が増えて、コストが嵩むことになる。そこで、例えば、膨張した袋体3の直径をdとしたときに、袋体3と壁面11との距離が1d程度、袋体3,3間の距離が1d程度となるように配置を決める。
【0033】
すなわち、
図3に平面視で示したように、難透水層G2に埋設された土留め壁1の根入れ部12に隣接して、複数の膨張した袋体3が配置されることによって、土留め壁1の壁面11は、平面視の延伸方向にも連続して膨張圧を受けることができるようになる。
【0034】
以下では、
図4-
図6を参照しながら、本実施の形態の地盤改良体の構築方法の各工程について説明する。
図4の左図に示したように、本実施の形態の地盤改良体の構築方法の対象となる地盤Gは、掘削土留め工を行ったときに盤ぶくれが起きる可能性がある、被圧層G3から揚圧力を受ける難透水層G2が掘削床付近に存在する地盤である。ここでは、ボーリング調査によって、被圧地下水の存在が判明した地盤Gを例に説明する。
【0035】
掘削土留め工では、まず、土留め壁1の構築を行う。この例では、土留め壁1の根入れ部12は、土留め壁1の打設によって難透水層G2に埋設されている。続いて、
図4の右図に示すように、ボーリングマシン6を土留め壁1に隣接した位置にセットし、ロッド61の先端を先端コーン32に接続する。
【0036】
先端コーン32の上方には、袋体3が取り付けられており(
図2参照)、ボーリングマシン6を操作することによってロッド61を回転させると、先端コーン32もそれに伴って回転する。そこで、この回転と、ボーリングマシン6からロッド61を介して付与される推進力とによって削孔を行いながら、袋体3を地盤Gに押し込んでいく。
【0037】
ここで、ロッド61は、1mなど単位長さに形成されているので、最初にセットしたロッド61が地中に埋設された後には、
図5の左図に示すようにロッド61を継ぎ足して、推進を続けることになる。このとき、袋体3の上方には、連絡管5などの管部材を継ぎ足すことになる。ロッド61は、連絡管5の内空を通って、先端コーン32とボーリングマシン6とに接続される。
【0038】
袋体3が、難透水層G2の土留め壁1の根入れ部12に隣接する所定の位置まで押し込まれた後に、ロッド61を逆回転させるなどして先端コーン32と切り離し、ロッド61の回収を行う。
【0039】
そして、
図5の中央図に示すように、連絡管5に注入ホース又は注入管51を挿入して(
図2参照)、注入管51の上端を注入装置7に接続する。注入装置7は、充填材4となる改良剤を注入するための装置である。
【0040】
注入管51の先端には、ダブルパッカ52が設けられており、上下のパッカの間に開いた穴から、充填材4を吐出させることができる。
図5の中央図は、下段の袋体3の内空にダブルパッカ52を配置して充填材4の注入を行うことで、下段の袋体3を膨張させた状況を示している。
【0041】
注入装置7による注入は、地表に突出している注入管51の口元の圧力計で圧力管理を行いながら実施される。すなわち、袋体3の膨張前後の容積や難透水層G2の強度などを基準にして設定された圧力によって管理することで、所望する大きさに袋体3を膨張させることができる。
【0042】
下段の袋体3を膨張させた後には、注入管51を少し引き上げて、上段の袋体3の内空にダブルパッカ52を配置する。そして、再び注入を開始すると、上段の袋体3が膨張することになる。このような改良剤の注入は、袋体3の数だけ繰り返される。
【0043】
図5の右図は、すべての袋体3に改良剤を注入して、膨張させた状態を示している。
図3に示すように、土留め壁1の平面視の延伸方向に配置された袋体3についても、注入を完了させる。グラウトなどの改良剤は、注入時は流動体であるが、所定の時間が経過すると硬化して、設計時に予定していた強度を発現することになる。
【0044】
そこで、
図6の左図に示すように、掘削土留め工として、掘削地盤G1の掘削を開始する。掘削は、バックホウなどの重機を使用して行われ、掘削が進むにつれて、連絡管5の上部が露出することになる。
【0045】
掘削によって露出した連絡管5などの管部材は、
図6の中央図に示すように、継手部が露出するなど撤去が可能になった段階で、ねじ継手の接続を解除することで、逐次、撤去される。撤去された連絡管5などの管部材は、再利用することができる。
【0046】
このようにして、掘削床付けまでの掘削が完了すると、
図6の右図に示すように、難透水層G2には、充填材4によって膨張した袋体3と先端コーン32だけが残置された状態になる。
【0047】
次に、本実施の形態の地盤改良体及び地盤改良体の構築方法の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の地盤改良体2は、土留め壁1の根入れ部12に隣接して配置される袋体3が、充填材4によって膨張している。すなわち、土留め壁1の平面視の延伸方向に沿って間隔を置いて複数が配置される袋体3が膨張することによって、土留め壁1の壁面11に袋体3の周囲の地盤が押し付けられた状態なる。
【0048】
ここで、袋体3に充填材4を充填するのであれば、充填材4を地中に散逸させることはないうえに、所望する膨張体の形状を安定して設けることができる。すなわち、袋体3の膨張させた形状は、注入圧力を管理しながら注入することで、所望する形状になっているかの確認を行うことが可能で、品質管理が容易にできるようになる。
【0049】
そのうえ、土留め壁1の壁面11に対して、袋体3を膨張させたことで発生した膨張圧を垂直な応力として加える支圧効果によって、土留め壁1と地盤の壁面摩擦力を確実に高めることができる。すなわち、土留め壁1の壁面11と地盤との境界において、盤ぶくれによる摩擦切れが起きにくい状態にすることができる。
【0050】
また、深度方向に複数の袋体3が連絡管5に取り付けられていれば、土留め壁1の根入れ部12が長くなる場合でも、深度方向に分散して配置される膨張した袋体3によって、効果的に根入れ部12に膨張圧を作用させることができる。要するに、根入れ部12の広い範囲にわたって、支圧効果を得ることができるようになる。
【0051】
また、地盤改良体の構築方法の発明は、膨張可能な袋体3を土留め壁1の根入れ部12に隣接した位置に配置した後に、連絡管5を利用して充填材4を注入することで袋体3を膨張させる。
【0052】
すなわち、膨張前の袋体3を地中に推進させるので、周辺の地盤が乱れるのを抑えることができる。そして、袋体3を所定の位置に配置した後に、充填材4を注入して袋体3を膨張させることで、袋体3と壁面11との間の地盤が圧縮されて密着度や強度を高めることができる。
【0053】
また、連絡管5に対して深度方向に複数の袋体3が取り付けられている場合に、下方の袋体3から順に充填材4を注入して膨張させることで、すべての袋体3を期待した通りの大きさに膨張させることが容易にできる。
【実施例0054】
以下、前記した実施の形態の地盤改良体及び地盤改良体の構築方法とは別の実施形態について、
図7,
図8を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0055】
前記実施の形態では、1本の連絡管5に取り付けられる複数の袋体3の形状が同じ場合について説明したが、本実施例1では、1本の連絡管5に取り付けられる複数の袋体の少なくとも1つは、水平方向の膨張量が他の袋体と異なっている場合について説明する。
【0056】
図7は、実施例1の地盤改良体2Aの構成を示した斜視図である。実施例1の地盤改良体2Aは、1本の連絡管5に対して、深度方向に間隔を置いて4つの袋体(3,3A)が取り付けられている。
【0057】
詳細には、上方3段は同じ形状の袋体3で、例えば最大張り出し部の直径が300mm程度となるまで膨張させることができる。一方、最下段の袋体3は、他の袋体3よりも水平方向の膨張量が大きく、例えば最大張り出し部の直径が900mm程度となるまで膨張させることができる。
【0058】
図8は、実施例1の地盤改良体2Aが設けられた掘削土留め工の一例を示した説明図である。この図に示すように、地盤改良体2Aの最下段の大型の袋体3Aは、難透水層G2の下層の被圧層G3に配置される。これに対して、標準の大きさの袋体3は、すべて難透水層G2に配置される。
【0059】
実施例1の地盤改良体の構築方法では、最下段の袋体3Aが被圧層G3に配置されるまでボーリングマシン6による推進を行い、その後、前記実施の形態で説明したように充填材4を注入することで、被圧層G3の中で大きく膨張させる。
【0060】
ここで、被圧層G3には、土留め壁1の根入れ部12は埋設されていないので、この袋体3Aの膨張は、土留め壁1に対する支圧効果を期待するものではない。最下段の袋体3Aは、それより上方の難透水層G2に埋設された袋体3よりも大きく膨張させるので、難透水層G2が盤ぶくれする際に引っ掛かりとなって、垂直抗力を高めることができる。
【0061】
一方、難透水層G2に配置された3つの袋体3は、前記実施の形態で説明した通り、土留め壁1の壁面11に膨張圧を与える支圧効果が期待できる。すなわち、実施例1の地盤改良体2Aは、難透水層G2の支圧効果及び垂直抗力の増加の両方の機能を発揮させることができる。
【0062】
このように構成された実施例1の地盤改良体及び地盤改良体の構築方法では、最下段の袋体3Aを地中の難透水層G2の下層の被圧層G3に配置して膨張させるが、充填材4は袋体3Aの内空に注入されるので、充填材4が間隙の大きい被圧層G3に散逸するのを防ぐことができる。
【0063】
さらに、難透水層G2の下層で大きく膨張した袋体3Aが、盤ぶくれに対する垂直抗力になるので、上方に配置された袋体3の支圧効果に加えて、盤ぶくれの発生をより効果的に抑えることができる。
【0064】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と略同様であるので説明を省略する。
【0065】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態又は実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0066】
例えば、前記実施の形態では2つの袋体3を備えた地盤改良体2について説明し、前記実施例1では、大きさが異なる4つの袋体3,3Aを備えた地盤改良体2について説明したが、これに限定されるものではなく、地盤改良体の連絡管5に取り付けられる袋体の数や種類や組み合わせについては、任意に設定することができる。