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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147604
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】卵の破裂防止剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 15/00 20160101AFI20231005BHJP
【FI】
A23L15/00 D
A23L15/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055194
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】306007864
【氏名又は名称】ユニテックフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 愛美
(72)【発明者】
【氏名】坂本 有宇
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC09
4B042AC10
4B042AD29
4B042AG07
4B042AH09
4B042AK09
4B042AP02
4B042AP10
(57)【要約】
【課題】冷凍された加熱済み卵に限らず、調理された段階や、調理後常温保存、冷蔵保存等された段階の加熱済み卵に対しても幅広く対応でき、かつ、簡便に使用できる卵の破裂防止剤を提供する。
【解決手段】増粘多糖類を有効成分とする卵の破裂防止剤を提供する。さらに、増粘多糖類が、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、キサンタンガム、HMペクチン、LMペクチン、シロキクラゲ多糖体、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム及びアセチル化アジピン酸架橋デンプンから選ばれるいずれか一種以上である卵の破裂防止剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
増粘多糖類を有効成分とする卵の破裂防止剤。
【請求項2】
増粘多糖類が、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、キサンタンガム、HMペクチン、LMペクチン、シロキクラゲ多糖体、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム及びアセチル化アジピン酸架橋デンプンから選ばれるいずれか一種以上である請求項1に記載の卵の破裂防止剤。
【請求項3】
次の(A)及び(B)の工程を含む、破裂防止処理がされた卵の製造方法。
(A)請求項1又は2に記載の卵の破裂防止剤を溶媒に溶解する工程
(B)上記(A)の工程で得た卵の破裂防止剤の溶液により、卵の表面を被膜する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は卵の破裂防止剤に関する。さらに詳しくは、増粘多糖類を有効成分とする卵の破裂防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子レンジは焼く、煮る、蒸す等の様々な調理に使用できる調理器具のひとつとして、一般的に用いられつつある。
ガス等を用いた従来の調理方法では、食品素材の外部から熱が加えられるのに対して、電子レンジ加熱では、食品素材に含まれる水分がマイクロ波エネルギーを吸収して発熱するため、外部のみならず内部からも加熱されるという特徴がある。そのため、電子レンジでの調理は、通常の調理に比べて食品素材が壊れ易い等の問題がある。
特に卵や銀杏等の殻を有する食品素材は破裂するため、殻をむく、殻にひびを入れる等の下処理なしに電子レンジ加熱することはできず、茹卵や温泉卵等の殻を除去した加熱済み卵であっても破裂する危険があるため、一般的に電子レンジ加熱には適さないものとされている。
しかし、茹卵や温泉卵のような加熱済み卵はトッピング等として人気であり、惣菜、お弁当等に多用されている。そのため、温め直し等を目的とした電子レンジ加熱において、卵のみお弁当等から一旦取り出す手間がかからず、そのまま安全に電子レンジ加熱できる方法の提供が望まれている。
【0003】
卵の電子レンジ加熱において従来知られている方法として、例えば、特許文献1では、茹卵調理方法として、殻付きの卵を所定濃度、所定容量の食塩水の中に入れてマイクロ波を照射する方法が開示されている。また、特許文献2、3では、電子レンジを用いた卵含有加熱ゲル化食品の製造において、特定の粘度を有するデキストリンやワキシーコーンスターチを加えることが開示されており、デキストリン等の添加によって、突沸、凝固ムラや「す」を生じることなく、均一で滑らかな外観、食感を有する卵含有加熱ゲル化食品を提供できること等が記載されている。
しかし、これらの方法は電子レンジを用いた殻付きの卵の調理や、卵含有加熱ゲル化食品等の特定の食品の製造を目的とするものであり、茹卵や温泉卵のような加熱済み卵の電子レンジ加熱については示唆も検討もされていない。
【0004】
加熱済み卵の電子レンジ加熱を目的とする方法として、例えば、特許文献4において、卵黄部の少なくとも一部が表面に露出し、かつ大きさが1.5cm3以上となるようにカットした冷凍茹卵を用いる方法が開示されている。また、特許文献5において、リン酸塩を含有し冷凍した加工冷凍茹卵について、マイクロ波加熱したりして、解凍できることが記載されている。
しかし、これらの方法はあくまでも冷凍の茹卵を対象としており、特定の形状とする必要がある等の煩雑なものであり、加熱済み卵の電子レンジ加熱において広く使える方法とは言えなかった。
そこで、本発明者らは、冷凍された加熱済み卵に限らず、調理された段階や、調理後常温保存、冷蔵保存等された段階の茹卵や温泉卵等の加熱済み卵に対しても幅広く対応でき、かつ、簡便に使用できる卵の破裂防止剤の提供を試みた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60-126062号公報
【特許文献2】特開2013-066439号公報
【特許文献3】特開2013-042741号公報
【特許文献4】特開2015-208231号公報
【特許文献5】特開平7-135926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、冷凍された加熱済み卵に限らず、調理された段階や、調理後常温保存、冷蔵保存等された段階の加熱済み卵に対しても幅広く対応でき、かつ、簡便に使用できる卵の破裂防止剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、増粘多糖類を有効成分とすることで、茹卵、温泉卵、目玉焼き等の加熱済み卵に対して幅広く対応でき、かつ、簡便に使用できる卵の破裂防止剤(以下、本発明において単に破裂防止剤と示す場合がある。場合により、爆発防止剤、突沸防止剤と呼んでも良い)が得られることを見出すに至った。
本発明の卵の破裂防止剤を用いて卵の表面を被膜することによって、電子レンジ加熱による卵の破裂を簡便に抑制することができる。
【0008】
すなわち、本発明は次の(1)~(3)に示される卵の破裂防止剤や破裂防止処理がされた卵の製造方法等に関する。
(1)増粘多糖類を有効成分とする卵の破裂防止剤。
(2)増粘多糖類が、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、キサンタンガム、HMペクチン、LMペクチン、シロキクラゲ多糖体、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム及びアセチル化アジピン酸デンプンから選ばれるいずれか一種以上である上記(1)に記載の卵の破裂防止剤。
(3)次の(A)及び(B)の工程を含む、破裂防止処理がされた卵の製造方法。
(A)上記(1)又は(2)に記載の卵の破裂防止剤を溶媒に溶解する工程
(B)上記(A)の工程で得た卵の破裂防止剤の溶液により、卵の表面を被膜する工程
【発明の効果】
【0009】
本発明の卵の破裂防止剤の提供によって、電子レンジ加熱が簡便かつ安全にできる茹卵、温泉卵、目玉焼き等の加熱済み卵の提供が容易となる。これにより、加熱済み卵をトッピング等として含む様々な種類の惣菜や弁当等の提供も容易となる。
本発明の卵の破裂防止剤は高い破裂防止効果を有するだけでなく、食品として使用可能な増粘多糖類を有効成分とするため安全であり、かつ、卵の味、食感、香り等の風味も維持できる等の利点を有し、加熱済み卵に対して幅広く使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の「卵の破裂防止剤」とは、加熱済み卵を電子レンジで再加熱する際に、マイクロウェーブ照射によって、卵の形状が加熱前の形状と比べて壊れることを抑制するための剤のことをいう。
この「卵の破裂防止剤」は増粘多糖類を含むものであればよく、さらにその他の有用な成分を含むものであってもよい。本発明の「卵の破裂防止剤」は、食品に使用可能な「増粘多糖類」であることが好ましい。
【0011】
これらの「増粘多糖類」は、市販のものであっても、従来知られているいずれかの方法によって独自に調製したものであってもよい。例えば、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、キサンタンガム、HMペクチン、LMペクチン、シロキクラゲ多糖体、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、グアガム、タラガム、ローカストビーンガム、グアガム分解物、スクシノグリカン、アラビアガム、寒天、カラギナン、ピーチガム、グルコマンナン、アセチル化酸化デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、及び、デンプングリコール酸ナトリウム等が挙げられる。また、複数の増粘多糖類を組み合わせて製剤化されたものであってもよい。
本発明の「卵の破裂防止剤」は、これらの増粘多糖類、又は増粘多糖類の製剤が1種以上含まれていればよく、これらを二種以上組み合わせて含むものであってもよい。
【0012】
本発明の「卵の破裂防止剤」は、溶媒に溶解されていても良い。また、「卵の破裂防止剤」自体、又はこれを溶解する溶媒中に食塩をさらに含むものであってもよい。食塩は食品として使用できるものであれば塩化ナトリウム以外の成分を含むものであってもよい。また、固形のものであっても、食塩水等の液状のものであってもよい。これらの食塩は市販のものであっても、従来知られているいずれかの方法によって独自に調製したものであってもよい。
【0013】
本発明の「破裂防止処理がされた卵の製造方法」は、少なくとも次の(A)及び(B)の工程を含む方法であればよく、電子レンジ加熱において卵の破裂防止効果を発揮するにあたり有用なその他の工程を含んでもよい。
(A)増粘多糖類を有効成分とする卵の破裂防止剤を溶媒に溶解する工程
(B)上記(A)の工程で得た卵の破裂防止剤の溶液により、卵の表面を被膜する工程
【0014】
ここで「破裂防止処理がされた卵」とは、卵の表面に本発明の卵の破裂防止剤が被膜された卵のことをいう。卵は生であってもよく、茹卵、温泉卵、目玉焼き等の加熱済み卵であってもよい。
電子レンジ加熱の対象となる卵は、本発明の卵の破裂防止剤によって「破裂防止処理がされた卵」であればオムレツ、スクランブルエッグ等のいずれの形状のものであってもよいが、生卵、茹卵、温泉卵、目玉焼き等の黄身と白身の形状をそれぞれ維持しているものであることがより好ましい。
【0015】
「破裂防止処理がされた卵の製造方法」の(A)の工程において、本発明の卵の破裂防止剤を溶解する「溶媒」は、卵の破裂防止効果に影響を及ぼさないものであれば、いずれのものであってもよく、食品に使用可能な溶媒であることが好ましい。溶媒としては、例えば、水、酢、油等そのものや、食塩、醤油、味噌、酢、油等の調味料や出汁等を含む溶液が挙げられる。これらの溶媒は市販のものであっても、従来知られているいずれかの方法によって独自に調製したものであってもよい。
【0016】
本発明の卵の破裂防止剤、あるいは、本発明の破裂防止処理がされた卵の製造方法に使用する「溶液」は、卵の破裂防止に有用な濃度の増粘多糖類を含む溶液であればよく、増粘多糖類を溶媒中に0.001重量%以上、0.0005重量%以上、0.01重量%以上、0.02重量%以上、0.03重量%以上、0.04重量%以上、0.05重量%以上、0.06重量%以上、0.07重量%以上、0.08重量%以上、0.09重量%以上、0.1重量%以上、0.2重量%以上、0.3重量%以上、0.4重量%以上、0.5重量%以上、0.6重量%以上、0.7重量%以上、0.8重量%以上、0.9重量%以上、1.0重量%以上、1.1重量%以上、1.2重量%以上、1.3重量%以上、1.4重量%以上、1.5重量%以上、1.6重量%以上、1.7重量%以上、1.8重量%以上、1.9重量%以上、2.0重量%以上、2.1重量%以上、2.2重量%以上、2.3重量%以上、2.4重量%以上、2.5重量%以上、2.6重量%以上、2.7重量%以上、2.8重量%以上、又は2.9重量%以上であり、10.0重量%以下、9.0重量%以下、8.0重量%以下、7.0重量%以下、6.0重量%以下、5.0重量%以下、4.0重量%以下、又は3.0重量%以下含むものであることが好ましい。一態様において、増粘多糖類を溶媒中に0.001~10.0重量%となるように含み、別の態様において0.005~5.0重量%となるように含み、さらに別の態様において0.01~2.0重量%含む。
【0017】
さらに、「卵の破裂防止剤」自体、又はこれを溶解している溶媒中に食塩を含む場合、一般に食品としてきっ食し得る濃度、例えば、調味料等に含まれる程度の濃度で含まれていればよい。即ち、食塩を0.001重量%以上、0.0005重量%以上、0.01重量%以上、0.02重量%以上、0.03重量%以上、0.04重量%以上、0.05重量%以上、0.06重量%以上、0.07重量%以上、0.08重量%以上、0.09重量%以上、0.1重量%以上、0.2重量%以上、0.3重量%以上、0.4重量%以上、0.5重量%以上、0.6重量%以上、0.7重量%以上、0.8重量%以上、0.9重量%以上、1.0重量%以上、1.1重量%以上、1.2重量%以上、1.3重量%以上、1.4重量%以上、1.5重量%以上、1.6重量%以上、1.7重量%以上、1.8重量%以上、1.9重量%以上、2.0重量%以上、2.1重量%以上、2.2重量%以上、2.3重量%以上、2.4重量%以上、2.5重量%以上、2.6重量%以上、2.7重量%以上、2.8重量%以上、又は2.9重量%以上であり、20.0重量%以下、15.0重量%以下、10.0重量%以下、9.0重量%以下、8.0重量%以下、7.0重量%以下、6.0重量%以下、5.0重量%以下、4.0重量%以下、又は3.0重量%以下含むものであればよい。一態様において、食塩を0.01~20.0重量%となるように含み、別の態様において0.005~5.0重量%となるように含み、さらに別の態様において0.1~2.0重量%含む。
【0018】
このように調製された「卵の破裂防止剤の溶液」は、卵の破裂防止に有用な粘度あればいずれの粘度であってもよいが、1.0mPa・s以上、2.0mPa・s以上、3.0mPa・s以上、4.0mPa・s以上、5.0mPa・s以上、6.0mPa・s以上、7.0mPa・s以上、8.0mPa・s以上、9.0mPa・s以上、10.0mPa・s以上、20.0mPa・s以上、30.0mPa・s以上、40.0mPa・s以上、50.0mPa・s以上、60.0mPa・s以上、70.0mPa・s以上、80.0mPa・s以上、90.0mPa・s以上、100.0mPa・s以上、150.0mPa・s以上、200.0mPa・s以上であり、1000mPa・s以下、800mPa・s以下、500.0mPa・s以下、400.0mPa・s以下、300.0mPa・s以下、250.0mPa・s以下であることが好ましい。
【0019】
「破裂防止処理がされた卵の製造方法」の(A)の工程において、「被膜」とは、電子レンジ加熱の対象となる卵の表面の全体又は一部を、本願発明の「卵の破裂防止剤」が覆っている状態とすることをいう。
例えば、卵が容器やご飯等の上に乗った状態の場合は、容器やご飯等に接している面以外の、直接空気に触れている面のみ本願発明の「卵の破裂防止剤」が覆っている状態とすればよい。また、卵が黄身と白身の形状をそれぞれ維持しているものである場合において、黄身のみの破裂を防止したい場合は、黄身のみを本願発明の「卵の破裂防止剤」が覆っている状態としてもよい。
「被膜」は「卵の破裂防止剤の溶液」を卵に滴下する、塗布する、スプレー噴霧する、卵を「卵の破裂防止剤の溶液」に浸漬する等、いずれの方法で行ってもよい。
【0020】
以下に実施例を挙げて本発明の具体的な実施態様について説明する。なお、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【実施例0021】
本発明の実施例において、別途記載がない限りは次の試料を使用し、また、評価を行った。
1.試料
1)卵
市販の生卵又は温泉卵を使用した。
2)増粘多糖類又は増粘多糖類の製剤
A.ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン(製品名:C*PolarTex-Instant(商標)、メーカー名:Cargill社)
B.キサンタンガム(製品名:CX90、メーカー名:Cargill社)
C.HMペクチン(製品名:AYD 5090 MB、メーカー名:Cargill社)
D.LMペクチン(製品名:OF 100C、メーカー名:Cargill社)
E.シロキクラゲ多糖体(製品名:トレメルガム、メーカー名:ユニテックフーズ社、Tremella fuciformis由来、100℃以下のお湯で抽出して製造)
F.オクテニルコハク酸デンプンナトリウム(製品名:エマルスター1、メーカー名:松谷化学工業株式会社)
G.アセチル化アジピン酸架橋デンプン(製品名:パインエース#3、メーカー名:松谷化学工業株式会社)
【0022】
2.評価
1)卵の破裂率
各卵を電子レンジで加熱(プリンカップ(80mL)、1600W、15秒)した後、目視にて外観を観察し、加熱前に比べて黄身の形状が壊れているものを破裂したものと判断した。その後、次の式により破裂率を計算した(n=11~16)。
【0023】
[数1]
破裂率(%)=(破裂した個数/電子レンジで加熱した個数)×100
【0024】
2)官能評価
各卵について電子レンジで加熱(プリンカップ(80mL)、1600W、15秒)した後、きっ食し、卵の破裂防止剤添加による卵の味、食感、香り、外観への影響を調べた。
【0025】
[実施例1~3]
1.卵の破裂防止剤の製造方法
上記の増粘多糖類A~G又は増粘多糖類の製剤Hをそれぞれ、そのまま卵の破裂防止剤A~Gとした。この卵の破裂防止剤は、使用時に溶媒に分散し、常温(20±5℃)で溶解させて用いた。
【0026】
2.破裂防止処理がされた卵の製造方法
(A)表1又は2に記載の溶液濃度となるように組み合わせ、各卵の破裂防止剤A~Gを水に分散し、溶解させた。
(B)卵(温泉卵)を容器(直径10cm、深さ1.5cm)に割り入れ、この卵全体を覆う量(約10g)となるように、上記(A)の工程を経た卵の破裂防止剤の溶液を卵黄の上部からかけた。卵の破裂防止剤の溶液を、黄身のみならず、白身の端まで卵全体に覆わせることで、破裂防止処理がされた卵(未焼成)を製造した。
(C)さらに上記(B)の工程を経た卵を焼成し(スチームコンベクションオーブン(MIC-5HTC3、ホシザキ株式会社)、コンビモード、蒸気 100%、加熱温度 165℃、加熱時間 2分30秒)、破裂防止処理がされた卵(焼成後)を製造した。各卵を放冷した後、10℃で一晩、静置保管した。
【0027】
3.破裂防止効果の確認
上記2の方法によって製造された後、保管された破裂防止処理がされた卵(焼成後)を電子レンジで加熱(プリンカップ(80mL)、1600W、15秒)し、卵の破裂率を調べた。また、破裂が防止された卵をきっ食し、卵の破裂防止剤添加による風味への影響を調べた。
なお、必要に応じてコントロールとして水のみのもの(無添加区)、比較として破裂防止剤の替わりに食塩を表1に記載の配合量となるように混合したもの(比較例)を同様に製造し、破裂防止効果を確認した。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
4.評価
表1に示されるように、増粘多糖類としてヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、キサンタンガム、HMペクチン、LMペクチン、シロキクラゲ多糖体、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、又はアセチル化アジピン酸架橋デンプンをそれぞれ有効成分として含む本発明の卵の破裂防止剤A~Gはいずれもコントロールに比べて卵の破裂防止効果が明らかに高いことが示された。
また、表2に示すように、この卵の破裂防止効果は、卵の破裂防止剤の溶液濃度が0.01~2.0重量%のいずれの濃度であっても維持されていることも確認できた。
なお、これらの表1、2に示す卵はいずれも卵の破裂防止剤添加によって風味が変化することなく、コントロールの卵(温泉卵)と同等の味、食感、香り、外観等を維持していた。
【0031】
[実施例4]
卵(生卵)を用いた場合や、焼成(スチームコンベクションオーブン(MIC-5HTC3、ホシザキ株式会社)、コンビモード、蒸気 100%、加熱温度 165℃、加熱時間2分30秒)後の卵(温泉卵)に破裂防止処理を施した場合の本発明の卵の破裂防止剤の効果を調べた。
即ち、卵の破裂防止剤Dの溶液(0.1重量%)を調製し、卵(生卵)に対して上記2の製造方法と同様の処理を行い、破裂防止処理がされた卵(未焼成)を製造した後、破裂防止処理がされた卵(焼成後)を得た。また、焼成後の卵(温泉卵)に対して、調製した卵の破裂防止剤Dの溶液(0.1重量%)を被膜し、破裂防止処理を施した。
これらの卵について、上記3と同様に電子レンジで加熱(プリンカップ(80mL)、1600W、15秒)し、卵の破裂率を調べたところ、卵(生卵)を用いた場合の破裂率は25.0%であり、焼成後の卵(温泉卵)を用いた場合の破裂率は12.5%であった。また、これらの卵はいずれも破裂防止剤添加によって風味が変化することなく、コントロールの卵(温泉卵)と同等の味、食感、香り、外観等を有していた。
従って、この結果より、本願発明の卵の破裂防止剤は、卵(生卵)や焼成後の卵(温泉卵)を被膜対象とした場合でも、高い破裂防止効果を示すことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の卵の破裂防止剤の提供によって、電子レンジ加熱が簡便かつ安全にできる茹卵、温泉卵、目玉焼き等の加熱済み卵の提供が容易となる。これにより、加熱済み卵をトッピング等として含む様々な種類の惣菜や弁当等の提供も容易となる。
本発明の卵の破裂防止剤は高い破裂防止効果を有するだけでなく、食品として使用可能な増粘多糖類を有効成分とするため安全であり、かつ、卵の味、食感、香り等の風味も維持できる等の利点を有し、加熱済み卵に対して幅広く使用できる。