IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東リ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-内装材、及びその製造方法 図1
  • 特開-内装材、及びその製造方法 図2
  • 特開-内装材、及びその製造方法 図3
  • 特開-内装材、及びその製造方法 図4
  • 特開-内装材、及びその製造方法 図5
  • 特開-内装材、及びその製造方法 図6
  • 特開-内装材、及びその製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147639
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】内装材、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20231005BHJP
   E04F 15/02 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B32B27/00 B
E04F15/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055271
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000222495
【氏名又は名称】東リ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【弁理士】
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 健斗
(72)【発明者】
【氏名】松本 龍樹
(72)【発明者】
【氏名】梶村 康平
【テーマコード(参考)】
2E220
4F100
【Fターム(参考)】
2E220AA15
2E220AA33
2E220AB14
2E220AC01
2E220BA01
2E220BB04
2E220BB12
2E220EA02
2E220FA01
2E220GA22X
2E220GA25X
2E220GA26X
2E220GB25X
2E220GB34X
4F100AK01B
4F100AK15A
4F100AK25B
4F100AK51B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100DD01B
4F100EH46
4F100EJ52
4F100EJ53
4F100EJ54
4F100GB08
4F100JB01
4F100JB14B
4F100JK12A
4F100JL06
4F100JN21
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】低光沢性と、防汚性との両立が図られた内装材を提供する。
【解決手段】基材2と、基材2に積層された、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30の硬化体からなる活性エネルギー線硬化樹脂層3とを備える内装材1であって、活性エネルギー線硬化樹脂層3の表面3aは、下記(1)~(3)の表面粗さパラメータを満たす凹凸構造4を有する。(1)算術平均高さ(Sa)が0.5~6μmである。(2)凸部4aの先端の平均算術曲率(Spc)が300~1300μm-1である。(3)凹凸構造4を平坦面に投影したときの投影面積をS1とし、凹凸構造4の実際の表面積と投影面積S1との差分をS2としたとき、S2/S1で表される展開面積比(Sdr)が0.05~0.2である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材に積層された、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化体からなる活性エネルギー線硬化樹脂層とを備える内装材であって、
前記活性エネルギー線硬化樹脂層の表面は、下記(1)~(3)の表面粗さパラメータを満たす凹凸構造を有する内装材。
(1)算術平均高さ(Sa)が0.5~6μmである。
(2)凸部の先端の平均算術曲率(Spc)が300~1300μm-1である。
(3)前記凹凸構造を平坦面に投影したときの投影面積をS1とし、前記凹凸構造の実際の表面積と前記投影面積S1との差分をS2としたとき、S2/S1で表される展開面積比(Sdr)が0.05~0.2である。
【請求項2】
前記凹凸構造は、さらに下記(4)の表面粗さパラメータを満たす請求項1に記載の内装材。
(4)最大高さ(Sz)が5~50μmである。
【請求項3】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、多官能ウレタンアクリレートと、多官能アクリレートモノマーとを含む請求項1又は2に記載の内装材。
【請求項4】
前記多官能ウレタンアクリレートの質量(a)と、前記多官能アクリレートモノマーの質量(b)との比(a:b)は、10~90:90~10である請求項3に記載の内装材。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の内装材の製造方法であって、
前記基材に前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布する塗布工程と、
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物にエキシマレーザー光を照射する第一照射工程と、
前記第一照射工程の後に紫外線又は電子線を照射する第二照射工程と
を包含する内装材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材と、基材上に積層された活性エネルギー線硬化樹脂層とを備える内装材、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
床材、壁材といった内装材として、低光沢な表面を有する内装材が用いられている。
【0003】
この種の内装材としては、基材に、シリカ等の粉体を含む紫外線硬化樹脂層が積層され、粉体によって表面に微細な凹凸構造が形成されてなる化粧シート(内装材)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、基材に、紫外線硬化性樹脂を含む塗布液を塗布し、エキシマレーザー光を照射することによって塗布液の表面を部分的に硬化させた後、紫外線を照射して塗布液全体を硬化させることによって、表面に微細な凹凸構造を有する紫外線硬化性樹脂が形成されてなる化粧シート(内装材)や建築材料(内装材)が提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-165033号公報
【特許文献2】特開2021-24102号公報
【特許文献3】特開2018-164901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内装材においては、低光沢性と、防汚性とに優れるものが要望されている。この点に関し、特許文献1~3の内装材は、形成された凹凸構造によって低光沢化を図ることができるものの、ヒールマーク試験で表される防汚性(以下、単に「防汚性」ともいう)は不十分である。これは、低光沢性と、防汚性とはトレードオフの関係にあるからである。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、低光沢性と、防汚性との両立が図られた内装材、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明に係る内装材の特徴構成は、
基材と、前記基材に積層された、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化体からなる活性エネルギー線硬化樹脂層とを備える内装材であって、
前記活性エネルギー線硬化樹脂層の表面は、下記(1)~(3)の表面粗さパラメータを満たす凹凸構造を有することにある。
(1)算術平均高さ(Sa)が0.5~6μmである。
(2)凸部の先端の平均算術曲率(Spc)が300~1300μm-1である。
(3)前記凹凸構造を平坦面に投影したときの投影面積をS1とし、前記凹凸構造の実際の表面積と前記投影面積S1との差分をS2としたとき、S2/S1で表される展開面積比(Sdr)が0.05~0.2である。
【0009】
本構成の内装材によれば、基材と、この基材に積層された、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化体からなる活性エネルギー線硬化樹脂層とを備え、活性エネルギー線硬化樹脂層の表面が、上記(1)~(3)の表面粗さパラメータを満たす凹凸構造を有することにより、活性エネルギー線硬化樹脂層の表面の凹凸構造は、算術平均高さ(Sa)で指標される凸部の突出の程度(突出長さ)、凸部の先端の平均算術曲率(Spc)で指標される凸部の先端の尖り具合(凸部の先端の鋭さ)の程度、及び凹凸構造を平坦面に投影したときの投影面積をS1とし、凹凸構造の実際の表面積と投影面積S1との差分をS2としたとき、S2/S1で表される展開面積比(Sdr)で指標される凹凸構造の傾斜の程度が、低光沢性、及び防汚性の双方を発揮するのに適したものとなる。上記3つの表面粗さパラメータの特定によって発揮される性能が相俟って、これら表面パラメータを満たすような微細な凹凸構造を有する活性エネルギー線硬化樹脂層の表面が、低光沢性、及び防汚性の双方を発揮するのに適したものとなる。これにより、当該内装材は、低光沢性と、防汚性との両立が図られたものとなる。
【0010】
本発明に係る内装材において、
前記凹凸構造は、さらに下記(4)の表面粗さパラメータを満たすことが好ましい。
(4)最大高さ(Sz)が5~50μmである。
【0011】
本構成の内装材によれば、凹凸構造が、さらに上記(4)の表面粗さパラメータを満たすことにより、最大高さ(Sz)で指標される凸部の局所的な突出の程度(突出長さ)が、低光沢性、及び防汚性の双方を発揮するのに適したものとなる。これにより、上記3つの表面粗さパラメータに加えて、さらに最大高さ(Sz)の特定によって発揮される性能が相俟って、上記凹凸構造を有する活性エネルギー線硬化樹脂層の表面が、低光沢性、及び防汚性の双方を発揮するのにより適したものとなる。これにより、当該内装材は、高いレベルで低光沢性と、防汚性との両立が図られたものとなる。
【0012】
本発明に係る内装材において、
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、多官能ウレタンアクリレートと、多官能アクリレートモノマーとを含むことが好ましい。
【0013】
本構成の内装材によれば、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が、多官能ウレタンアクリレートと、多官能アクリレートモノマーとを含むことにより、多官能ウレタンアクリレートに由来する適度な弾性と、多官能アクリレートモノマーに由来する適度な剛性とを兼ね備えた実用的な内装材を得ることができる。
【0014】
本発明に係る内装材において、
前記多官能ウレタンアクリレートの質量(a)と、前記多官能アクリレートモノマーの質量(b)との比(a:b)は、10~90:90~10であることが好ましい。
【0015】
本構成の内装材によれば、多官能ウレタンアクリレートの質量(a)と、多官能アクリレートモノマーの質量(b)との比(a:b)が10~90:90~10であることにより、弾性と剛性とがバランスされた、より優れた内装材を得ることができる。
【0016】
上記課題を解決するための本発明に係る内装材の製造方法の特徴構成は、
前記内装材の製造方法であって、
前記基材に前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布する塗布工程と、
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物にエキシマレーザー光を照射する第一照射工程と、
前記第一照射工程の後に紫外線又は電子線を照射する第二照射工程と
を包含することにある。
【0017】
本構成の内装材の製造方法によれば、上記塗布工程と、上記第一照射工程と、上記第二照射工程とを包含することにより、表面粗さパラメータが上記(1)~(3)を満たす微細な凹凸構造を有する活性エネルギー線硬化樹脂層を基材上に形成することができる。これにより、上述したように、上記3つの表面粗さパラメータの特定によって発揮される性能が相俟って、活性エネルギー線硬化樹脂層の表面が、低光沢性、及び防汚性の双方を発揮するのに適したものとなる。よって、当該内装材の製造方法によれば、低光沢性と、防汚性との両立が図られた内装材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る内装材の積層構造を、その製造方法、及び表面の凹凸構造の拡大図と共に模式的に示す断面図である。
図2図2は、実施例1に係る内装材を示す図であって、図2(a)は表面のレーザー顕微鏡写真であり、図2(b)はレーザー顕微鏡で撮影された領域の三次元画像である。
図3図3は、実施例2に係る内装材を示す図であって、図3(a)は表面のレーザー顕微鏡写真であり、図3(b)はレーザー顕微鏡で撮影された領域の三次元画像である。
図4図4は、実施例3に係る内装材を示す図であって、図4(a)は表面のレーザー顕微鏡写真であり、図4(b)はレーザー顕微鏡で撮影された領域の三次元画像である。
図5図5は、比較例1に係る内装材を示す図であって、図5(a)は表面のレーザー顕微鏡写真であり、図5(b)はレーザー顕微鏡で撮影された領域の三次元画像である。
図6図6は、比較例2に係る内装材を示す図であって、図6(a)は表面のレーザー顕微鏡写真であり、図6(b)はレーザー顕微鏡で撮影された領域の三次元画像である。
図7図7は、比較例3に係る内装材を示す図であって、図7(a)は表面のレーザー顕微鏡写真であり、図7(b)はレーザー顕微鏡で撮影された領域の三次元画像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の内装材に係る一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、各図において、各層の厚み関係や凹凸構造は説明容易化のため適宜誇張又は簡略化しており、実際の内装材における各層の厚みの大小関係(縮尺)や凹凸構造を厳密に反映したものではない。
【0020】
本明細書において、基材上に形成された活性エネルギー線硬化樹脂層の「表面」は、基材とは反対の側の面、すなわち外部に露出している面を指す。また、「活性エネルギー線硬化性樹脂(組成物)」とは、活性エネルギー線の照射によって硬化する性質を有する未硬化の樹脂又は樹脂組成物を意味し、「活性エネルギー線硬化樹脂」とは、活性エネルギー線の照射によって活性エネルギー線硬化性樹脂(組成物)が硬化した状態の樹脂を意味する。なお、本発明の実施形態で使用する活性エネルギー線は、エキシマレーザー光、及び紫外線である。
【0021】
<内装材の全体構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る内装材1の積層構造を、その製造方法、及び表面の凹凸構造と共に模式的に示す断面図である。図1に示す内装材1は、基材2と、基材2に積層された、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30の硬化体からなる活性エネルギー線硬化樹脂層3とを備える内装材である。
【0022】
<基材>
基材2は、内装材1の本体を構成するものであり、その表面2aに活性エネルギー線硬化樹脂層3が積層されるものである。基材2の素材は、特に限定されるものではなく、例えば、軟質ポリ塩化ビニル、硬質ポリ塩化ビニル等の樹脂、セラミック等の無機材料が挙げられる。内装材1は、従来公知の床材、壁材等に利用することができる。特に、塩化ビニル樹脂は、加工性及び強度に優れることから、床材として好適である。
【0023】
基材2の厚みは、例えば1mm以上であることが好ましく、5mm以上がより好ましい。基材2の厚みが1mm以上であることにより、内装材1は、強度が高められたものとなる。基材2の厚みの上限は、特に限定されるものではないが、例えば100mm以下とすることができる。
【0024】
<活性エネルギー線硬化樹脂層>
図1に示すように、活性エネルギー線硬化樹脂層3は、基材2に積層された、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30の硬化体からなり、活性エネルギー線硬化樹脂層3の表面3aは、凹凸構造4を有するように構成されている。この凹凸構造4は、後述する図2~4に示すように、シワを形成している。
【0025】
活性エネルギー線硬化樹脂層3の表面3aは、下記(1)~(3)の表面粗さパラメータを満たす凹凸構造4を有する。
(1)算術平均高さ(Sa)が0.5~6μmである。
(2)凸部4aの先端の平均算術曲率(Spc)が300~1300μm-1である。
(3)凹凸構造4を平坦面に投影したときの投影面積をS1とし、凹凸構造4の実際の表面積と投影面積S1との差分をS2としたとき、S2/S1で表される展開面積比(Sdr)が0.05~0.2である。
本発明者らは、凹凸構造の指標となる多種のパラメータがあり、その組み合わせが非常に多く存在するなかで鋭意研究の結果、上記(1)~(3)の表面粗さパラメータの特定によって発揮される性能が相俟って、これら表面パラメータを満たすような微細な凹凸構造を有する活性エネルギー線硬化樹脂層の表面が、低光沢性、及び防汚性の双方を発揮するのに適したものとなることを発見した。
【0026】
算術平均高さ(Sa)は、凹凸構造4の凸部4aの全体的な突出の程度(突出長さ)の指標である。算術平均高さ(Sa)が小さい程、凸部4aの全体的な突出長さが小さくなり、これに伴って、凹部4bの全体的な深さが小さくなる。一方、算術平均高さ(Sa)が大きい程、凸部4aの全体的な突出長さが大きくなり、これに伴って、凹部4bの全体的な深さが大きくなる。算術平均高さ(Sa)が0.5~6μmであることにより、凸部4aの全体的な突出長さが、低光沢性、及び防汚性に適したものとなる。算術平均高さ(Sa)は、活性エネルギー線硬化樹脂層3の表面3aの任意の十点で測定した平均値として算出する。
【0027】
算術平均高さ(Sa)は、2~5μmであることが好ましい。算術平均高さ(Sa)が2~5μmであることにより、活性エネルギー線硬化樹脂層3の表面3aの凹凸構造4は、算術平均高さ(Sa)で指標される凸部4aの突出の程度(突出長さ)が、低光沢性、及び防汚性の双方を発揮するのにより適したものとなる。これにより、内装材1は、高いレベルで低光沢性と、防汚性との両立が図られたものとなる。
【0028】
凸部4aの先端(頂部)の平均算術曲率(Spc)は、凸部4aの先端の尖り度合(凸部4aの先端の鋭さ)の指標である。平均算術曲率(Spc)は、凸部4aを放物線となるように二次関数的に数値化したときの頂点における曲率を表したものである。平均算術曲率(Spc)が小さい程、凸部4aの先端が丸みを帯びているものとなる。一方、平均算術曲率(Spc)が大きい程、凸部4aの先端が尖っているものとなる。平均算術曲率(Spc)が300~1300μm-1であることにより、凸部4aの尖り具合が、低光沢性、及び防汚性に適したものとなる。凸部4aの先端の平均算術曲率(Spc)は、活性エネルギー線硬化樹脂層3の表面3aの任意の十点で測定した平均値として算出する。
【0029】
平均算術曲率(Spc)は、400~1200μm-1であることが好ましい。平均算術曲率(Spc)が400~1200μm-1であることにより、活性エネルギー線硬化樹脂層3の表面3aの凹凸構造4は、平均算術曲率(Spc)で指標される凸部4aの先端の尖り具合(凸部4aの先端の鋭さ)の程度が、低光沢性、及び防汚性の双方を発揮するのにより適したものとなる。これにより、内装材1は、高いレベルで低光沢性と、防汚性との両立が図られたものとなる。
【0030】
凹凸構造4を平坦面に投影したときの投影面積をS1とし、凹凸構造4の実際の表面積と投影面積S1との差分をS2としたとき、S2/S1で表される展開面積比(Sdr)は、凹凸構造4の凸部4a、及び凹部4bの傾斜の程度の指標である。展開面積比(Sdr)は、凹凸構造4を平坦面に投影したときの投影面積S1と、凹凸構造4の実際の表面積と投影面積S1との差分(増加分)S2とを、これらの比S2/S1で表したものであり、0~1(無次元)の範囲の数値で表される。展開面積比(Sdr)が最も小さい場合(Sdr=0)、上記差分S2が0であり、実際の表面積が投影面積S1と一致するため、表面3aに凹凸構造4が形成されておらず、全く傾斜していないことになる。展開面積比(Sdr)が大きくなる程、上記差分S2が大きくなる、すなわち、実際の表面積が投影面積S1よりも大きくなるため、凸部4a、及び凹部4bの傾斜が大きいことになる。算術平均高さ(Sa)が同じであるとき、展開面積比(Sdr)が大きい程、凸部4a、及び凹部4bの数量が大きく、一方、展開面積比(Sdr)が小さい程、凸部4a、及び凹部4bの数量が小さいことになる。展開面積比(Sdr)が0.05~0.2であることにより、凹凸構造4の凸部4a、及び凹部4bの傾斜の程度、及び数量が低光沢性、及び防汚性に適したものとなる。凹凸構造4を平坦面に投影したときの投影面積をS1とし、凹凸構造4の実際の表面積と投影面積S1との差分をS2としたとき、S2/S1で表される展開面積比(Sdr)は、活性エネルギー線硬化樹脂層3の表面3aの任意の十点で測定した平均値として算出する。
【0031】
展開面積比(Sdr)は、0.06~0.17であることが好ましい。展開面積比(Sdr)が0.06~0.17であることにより、活性エネルギー線硬化樹脂層3の表面3aの凹凸構造4は、展開面積比(Sdr)で指標される凹凸構造4の傾斜の程度が、低光沢性、及び防汚性の双方を発揮するのにより適したものとなる。これにより、内装材1は、高いレベルで低光沢性と、防汚性との両立が図られたものとなる。
【0032】
上記(1)~(3)の表面粗さパラメータを満たす凹凸構造4を有することにより、活性エネルギー線硬化樹脂層3の表面3aの凹凸構造4は、算術平均高さ(Sa)で指標される凸部4aの突出の程度(突出長さ)、凸部4aの先端の平均算術曲率(Spc)で指標される凸部4aの先端の尖り具合(凸部4aの先端の鋭さ)の程度、及び凹凸構造4を平坦面に投影したときの投影面積をS1とし、凹凸構造4の実際の表面積と投影面積S1との差分をS2としたとき、S2/S1で表される展開面積比(Sdr)で指標される凹凸構造4の傾斜の程度が、低光沢性、及び防汚性の双方を発揮するのに適したものとなる。すなわち、上記3つの表面粗さパラメータの特定によって発揮される性能が相俟って、これら表面粗さパラメータを満たすような微細な凹凸構造4を有する活性エネルギー線硬化樹脂層3の表面3aが、低光沢性、及び防汚性の双方を発揮するのに適したものとなる。これにより、内装材1は、低光沢性と、防汚性との両立が図られたものとなる。
【0033】
また、上記(1)~(3)の表面粗さパラメータを満たす凹凸構造4を有することにより、耐薬品性も図られたものとなる。これは、この凹凸構造4によって、ロータス効果による撥水効果が得られ、活性エネルギー線硬化樹脂層3の表面3aに接触する薬品を少なくすることができることによるものと考えられる。また、活性エネルギー線硬化樹脂層3の表面3aの密度が高くなることも、耐薬品性の向上に寄与しているものと考えられる。
【0034】
凹凸構造4は、さらに下記(4)の表面粗さパラメータを満たすことが好ましい。
(4)最大高さ(Sz)が5~50μmである。
【0035】
最大高さ(Sz)は、凹凸構造4の凸部4aの局所的な突出の程度(突出長さ)の指標である。算術平均高さ(Sa)が同じであるとき、最大高さ(Sz)が小さい程、凸部4aの全体的な突出長さが小さくなり、これに伴って、凹部4bの全体的な深さも小さくなる。一方、算術平均高さ(Sa)が同じであるとき、最大高さ(Sz)が大きい程、凸部4aの突出長さが局所的に大きくなり、これに伴って、凹部4bの深さが局所的に大きくなる。すなわち、算術平均高さ(Sa)が同じであっても、最大高さ(Sz)が小さい程、凹凸構造4の突出の程度が均質化されているといえる。最大高さ(Sz)が5~50μmであることにより、最大高さ(Sz)で指標される凸部4aの局所的な突出の程度(突出長さ)が、低光沢性、及び防汚性の双方を発揮するのに適したものとなる。これにより、上記3つの表面粗さパラメータに加えて、さらに最大高さ(Sz)の特定によって発揮される性能が相俟って、凹凸構造4を有する活性エネルギー線硬化樹脂層3の表面3aが、低光沢性、及び防汚性の双方を発揮するのにより適したものとなる。これにより、内装材1は、高いレベルで低光沢性と、防汚性との両立が図られたものとなる。また、凹凸構造4の突出の程度が均質化されていることから、耐薬品性がより図られたものとなる。最大高さ(Sz)は、活性エネルギー線硬化樹脂層3の表面3aの任意の十点で測定した平均値として算出する。
【0036】
最大高さ(Sz)は、15~45μmであることが好ましい。最大高さ(Sz)が15~45μmであることにより、活性エネルギー線硬化樹脂層3の表面3aの凹凸構造4は、最大高さ(Sz)で指標される凸部4aの局所的な突出の程度(突出長さ)が抑制され、全体的に均質化された凹凸構造4となり、低光沢性、及び防汚性の双方を発揮するのにさらに適したものとなる。これにより、内装材1は、より高いレベルで低光沢性と、防汚性との両立が図られたものとなる。
【0037】
上記のように、活性エネルギー線硬化樹脂層3の表面3aが、上記表面粗さパラメータを満たす凹凸構造4を有することにより、シリカ等の粉体を含んでいなくても、低光沢性と、防汚性とを発揮することができる。しかし、活性エネルギー線硬化樹脂層3には、上述した凹凸構造4によって奏される低光沢性、及び防汚性を妨げない限りにおいて、シリカ等の粉体を含んでいてもよい。
【0038】
本発明に用いられる活性エネルギー線は、例えば、遠紫外線、紫外線、近紫外線、赤外線、エキシマレーザー光等の光線、X線、γ線等の電磁波の他、電子線、プロトン線、中性子線等が挙げられる。本発明に用いられる活性エネルギー線硬化樹脂は、活性エネルギー線を照射することにより、架橋、硬化した樹脂を指し、公知の方法で活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射して得ることができるものである。活性エネルギー線硬化樹脂の中でも、紫外線硬化樹脂、又は電子線硬化樹脂が好適に用いられ、加工性に優れ、扱い易いことから、紫外線硬化樹脂がより好適に用いられる。
【0039】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30に含まれる活性エネルギー線硬化性樹脂は、特に限定されるものではなく、適宜設定され得る。例えば活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30は、多官能ウレタンアクリレートと、多官能アクリレートモノマーとを含むことが好ましい。活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30が、多官能ウレタンアクリレートと、多官能アクリレートモノマーとを含むことにより、多官能ウレタンアクリレートに由来する適度な弾性と、多官能アクリレートモノマーに由来する適度な剛性とを兼ね備えた実用的な内装材1を得ることができる。
【0040】
多官能ウレタンアクリレートとしては、2官能ウレタンアクリレート、3官能ウレタンアクリレート、4官能ウレタンアクリレート、5官能ウレタンアクリレート、6官能ウレタンアクリレート等が挙げられ、2官能ウレタンアクリレートが好ましい。多官能ウレタンアクリレートが2官能ウレタンアクリレートであることにより、多官能ウレタンアクリレートに由来する適度な弾性を高いレベルで備えた実用的な内装材1を得ることができる。多官能ウレタンアクリレートの具体例としては、例えばフェニルグリシジルエーテル(メタ)アクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、フェニルグリシジルエーテル(メタ)アクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマー、フェニルグリシジルエーテル(メタ)アクリレートトリレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、グリセリンジ(メタ)アクリレートトリレンジイソシアネートウレタンオリゴマー、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンオリゴマー、グリセリンジ(メタ)アクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンオリゴマー、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートトリレンジイソシアネートウレタンオリゴマー、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレオリゴマー等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0041】
多官能アクリレートモノマーとしては、2官能アクリレートモノマー、3官能アクリレートモノマー、4官能アクリレートモノマー、5官能アクリレートモノマー、6官能アクリレートモノマー等が挙げられ、3官能アクリレートモノマーが好ましい。多官能アクリレートモノマーが3官能アクリレートモノマーであることにより、3官能アクリレートモノマーに由来する適度な剛性を高いレベルで備えた実用的な内装材1を得ることができる。また、上記表面粗さパラメータ(1)~(3)、さらには(4)を満たす凹凸構造4を、より確実に得ることができる。多官能アクリレートモノマーとしては、例えばエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、1,3-プロパンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,5-ペンタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、グリセロールトリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0042】
多官能ウレタンアクリレートの質量(a)と、多官能アクリレートモノマーの質量(b)との比(a:b)は、例えば、10~90:90~10であり、好ましくは、20~80:80~20であり、より好ましくは、30~70:70~30である。多官能ウレタンアクリレートの質量(a)と、多官能アクリレートモノマーの質量(b)との比(a:b)が上記範囲内であることにより、適度な粘度で塗布性に優れ、弾性と剛性とがバランスされた、より優れた内装材1を得ることができる。
【0043】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30における多官能ウレタンアクリレート、及び多官能アクリレートモノマーの合計含有量としては、90質量%以上が好ましく、93質量%以上がより好ましい。活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30における多官能ウレタンアクリレート、及び多官能アクリレートモノマーの合計含有量が90質量%以上であることにより、多官能ウレタンアクリレート、及び多官能アクリレートモノマーによる上述した弾性、及び剛性を、より発揮させることができる。
【0044】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30は、重合開始剤を含むことが好ましい。活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30が重合開始剤を含むことにより、内装材1の表面3aに凹凸構造4を形成した後、活性エネルギー線が届き難い深部まで活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30を確実に硬化させることができる。その結果、内装材1の強度が向上し、実用性を高めることができる。重合開始剤としては、光照射によらずに重合が可能な重合開始剤を用いることができる。そのような重合開始剤として、例えば加熱により発生したラジカルによって重合が開始される過酸化ベンゾイルやアゾビスイソブチロニトリル等のラジカル重合開始剤が挙げられる。活性エネルギー線が届く浅部においては、ベンゾフェノン、市販品のOmnirad 754、Omnirad 184、Omnirad127(IGM Resins B.V.社製)等の光重合開始剤を用いることも勿論可能である。活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30における重合開始剤の含有量としては、1~10質量%が好ましく、1~7質量%がより好ましい。
【0045】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30は、上述した凹凸構造4によって奏される低光沢性、及び防汚性を妨げない限りにおいて、任意の添加剤を含んでいてもよい。例えば活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30は、希釈による粘度の調整等のための従来公知の有機溶剤等を含んでいてもよい。
【0046】
活性エネルギー線硬化樹脂層3の厚みは、5~50μmであることが好ましく、10~25μmがより好ましい。活性エネルギー線硬化樹脂層3の厚みが上記下限値以上であることにより、活性エネルギー線硬化樹脂層3を均一な厚みを有するものとすることができる。活性エネルギー線硬化樹脂層3の厚みが上記上限値以下であることにより、低光沢性、及び防汚性を発揮し得る凹凸構造4を形成することが容易となる。
【0047】
活性エネルギー線硬化樹脂層3の表面3aの光沢度(60°)は、5%以下であることが好ましい。活性エネルギー線硬化樹脂層3の表面3aの光沢度が5%以下であることにより、内装材1は、より低光沢性が優れたものとなり、汚れや傷が目立ち難くなる。光沢度(60°)は、後述する測定方法によって測定する。
【0048】
<内装材の特性>
内装材1における活性エネルギー線硬化樹脂層3の表面3aの表面粗さパラメータ(Sa)、(Spc)、(Sdr)、及び(Sz)、並びに光沢度(60°)については、上述したとおりである。
【0049】
<内装材の製造方法>
内装材1の製造方法としては、基材2に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30を塗布する塗布工程と、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30にエキシマレーザー光を照射する第一照射工程と、第一照射工程の後に紫外線又は電子線を照射する第二照射工程とを包含する製造方法が挙げられる。このような内装材1の製造方法を、図1(a)~(c)を参照して説明する。
【0050】
まず、図1(a)に示すように、基材2の表面2aに、塗布液としての未硬化の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30を塗布する(塗布工程)。基材2上における活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30の塗布厚みは、硬化体としての活性エネルギー線硬化樹脂層3の厚みが所望の値となるように適宜設定すればよく、例えば活性エネルギー線硬化樹脂層3の上述した厚みに合わせて、10~50μm、好ましくは、15~25μmとすることができる。塗布方法は、特に限定されず、ロールコーター、ブレードコーター、カーテンコーター等の各種コーター法が好適に用いられる。
【0051】
次いで、図1(b)に示すように、塗布された活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30の表面30aに、エキシマレーザー光照射装置51からエキシマレーザー光(図1(b)中に「EL」として示す)を照射する(第一照射工程)。エキシマレーザー光は、励起状態にある原子と、基底状態にある原子とによって構成されている励起状態の分子(エキシマ)が2つの原子に解離する際に放射される、波長ピークが単一な光である。エキシマレーザー光としては、例えば、Arのエキシマから放射される波長126nmのエキシマレーザー光、Krのエキシマから放射される波長146nmのエキシマレーザー光、Fのエキシマから放射される波長157nmのエキシマレーザー光、Xeのエキシマから放射される波長172nmのエキシマレーザー光、ArFのエキシマから放射される波長193nmのエキシマレーザー光等が挙げられる。このようなエキシマレーザー光を用いることで、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30の表面30aのみを部分的に硬化させることができる。本実施形態においては、波長172nmのエキシマレーザー光を使用することができる。エキシマレーザー光は、その波長の短さゆえに、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30の内部にまで到達することができない。このため、エキシマレーザー光の照射により、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30の表面30aが選択的に硬化する。活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30の表面30aが硬化に伴って収縮する一方、内部は硬化せず、収縮しないため、この収縮力の差が、表面30aの局所的な隆起、すなわち凹凸の形成によって緩和される。収縮力の緩和に伴って発生する凹凸は、シワとして捉えることができる。すなわち、凹凸構造は、シワであるともいえる。このようにして、表面が硬化して凹凸構造41を有する一方、内部が未硬化であるような中間体として、表面硬化体(表面が硬化した活性エネルギー線硬化性樹脂組成物)31が形成される。エキシマレーザー光の照射条件としては、特に限定されるものではないが、例えば、ピーク照度を70~100mW/cm、積算光量を50~200mJ/cmに設定することができる。
【0052】
次いで、図1(c)に示すように、表面硬化体31の表面31aに、紫外線照射装置52から紫外線(図1(c)中に「UV」として示す)を照射する(第二照射工程)。この紫外線は、エキシマレーザー光の波長よりも大きい波長を有する紫外線である。このような紫外線としては、例えば、波長300~400nmの紫外線が挙げられる。紫外線は、表面硬化体31の内部まで到達することができるため、これによって全体が硬化し(すなわち、完全硬化し)、表面に凹凸構造4を有する完全硬化体としての活性エネルギー線硬化樹脂層3が得られる。なお、表面硬化体31の表面31aの凹凸構造41は、略そのままの状態で、活性エネルギー線硬化樹脂層3の表面3aの凹凸構造4となる。凹凸構造4は、複数の凸部4aと、複数の凹部4bとを有する。紫外線の照射条件としては、ピーク照度、及び積算光量の双方を、夫々エキシマレーザー光のピーク照度、及び積算光量よりも大きくすることが好ましい。この場合において、例えば紫外線のピーク照度を90~130mW/cm、積算光量を400~800mJ/cmに設定することができる。紫外線での硬化は、製造時の加工性に優れるので、生産効率の向上の観点から好ましい。
【0053】
このように、基材2上に塗布液としての未硬化の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30を塗布し、塗布された活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30の表面30aにエキシマレーザー光を照射し、次いで、紫外線を照射することにより、基材2上に活性エネルギー線硬化樹脂層3が形成された内装材1を得ることができる。
【0054】
当該内装材1の製造方法によれば、上記塗布工程と、上記第一照射工程と、上記第二照射工程とを包含することにより、表面粗さパラメータが上記(1)~(3)を満たす微細な凹凸構造4を有する活性エネルギー線硬化樹脂層3を基材2上に形成することができる。これにより、上記3つの表面粗さパラメータの特定によって発揮される性能が相俟って、活性エネルギー線硬化樹脂層3の表面3aが、低光沢性、及び防汚性の双方を発揮するのに適したものとなる。よって、当該内装材1の製造方法によれば、低光沢性と、防汚性との両立が図られた内装材1を製造することができる。
【0055】
活性エネルギー線硬化樹脂層3の表面3aの凹凸構造4における上記表面粗さパラメータは、上述した活性エネルギー線硬化性樹脂の種類、エキシマレーザー光の照射条件、紫外線の照射条件等を適宜設定することにより、上記(1)~(3)を満たすように設定し、さらには上記(4)を満たすように設定することが好ましい。また、基材2と、この基材2上に塗布された活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30との積層体を移動させながら、エキシマレーザー光、及び紫外線を照射してもよく、この場合には、ライン速度を適宜設定することにより、各積算光量を調整することができる。
【0056】
また、図1(c)では、紫外線を照射する例を示したが、これに限定されず、紫外線に替えて、電子線(EB)を照射してもよい。この場合、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物30は、光重合開始剤の添加が不要なものとなる。
【実施例0057】
本発明の特徴構成を有する内装材(実施例1~3)を作製し、各種測定及び評価を行った。また、比較のため、本発明の特徴構成を有しない内装材(比較例1~3)を作製し、同様の測定及び評価を行った。
【0058】
[実施例1~3]
活性エネルギー線硬化性樹脂としての紫外線硬化性樹脂(以下、実施例及び比較例において同様である)として、2官能ウレタンアクリレート、及び3官能アクリレートモノマーを用いた。これら2官能ウレタンアクリレート、及び3官能アクリレートモノマーと、重合開始剤とを、表1に示す配合量で混合することにより、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を得た。得られた活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を、基材としての硬質ポリ塩化ビニルタイル上に、厚みが25μmとなるように塗布し、表1に示す照射条件でエキシマレーザー光、次いで紫外線を照射することにより、基材上に活性エネルギー線硬化樹脂層が積層されてなる実施例1~3の内装材を得た。
【0059】
[比較例1]
エキシマレーザー光の照射条件を、表1に示す照射条件に設定すること以外は実施例1と同様にして、比較例1の内装材を得た。
【0060】
[比較例2]
3官能アクリレートモノマーに代えて、1官能アクリレートモノマーを用い、表1に示す配合量とすること以外は実施例1と同様にして、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を得た。得られた活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を、基材としての硬質ポリ塩化ビニルタイル上に、厚みが25μmとなるように塗布し、表1に示す照射条件でエキシマレーザー光、次いで紫外線を照射することにより、基材上に活性エネルギー線硬化樹脂層が積層されてなる比較例2の内装材を得た。
【0061】
[比較例3]
活性エネルギー線硬化性樹脂、及び重合開始剤に加えて、さらに粉体として艶消しシリカを用い、これらを表1に示す配合量で混合すること以外は実施例1と同様にして、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を得た。得られた活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を、基材としての硬質ポリ塩化ビニルタイル上に、厚みが25μmとなるように塗布し、エキシマレーザー光を照射することなく、表1に示す照射条件で紫外線を照射することにより、基材上に、艶消しシリカ(粉体)を有する活性エネルギー線硬化樹脂層が積層されてなる比較例3の内装材を得た。
【0062】
実施例1~3の内装材、及び比較例1~3の内装材の写真、及び三次元画像を図2~7に示す。図2(a)は活性エネルギー線硬化樹脂層の表面のレーザー顕微鏡写真であり、図2(b)はレーザー顕微鏡で撮影された領域の三次元画像であり、両者は表面における同じ範囲を示している。すなわち、図2では長方形の表面が示されているが、図2(b)には、長辺が277.243μm、短辺が207.32μmであることが示され、この寸法は、図2(a)の長方形の長辺と短辺の寸法に相当する。また、図2(b)は、基準面からの寸法が17.66μm、-25.398μmと示されているが、両者の絶対値の合計値が凹凸構造における山の頂点から谷の底までの寸法を示している。図3~7に示される数値も、図2と同義である。なお、図2~7は、実施例1~3、及び比較例1~3の各十点のうちの一点での写真、及び三次元画像である。
【0063】
実施例1~3、及び比較例1~3における測定及び評価項目は、活性エネルギー線硬化樹脂層の表面における表面粗さパラメータとしての算術平均高さ(Sa)、最大高さ(Sz)、凸部の先端の平均算術曲率(Spc)、及び凹凸構造を平坦面に投影したときの投影面積をS1とし、凹凸構造の実際の表面積と投影面積S1との差分をS2としたとき、S2/S1で表される展開面積比(Sdr)、並びに光沢度、防汚性、及び耐薬品性である。各項目について、以下、説明する。
【0064】
[表面粗さパラメータ]
白色干渉計搭載レーザー顕微鏡 VK-X3000(株式会社キーエンス製)を用い、得られた内装材における活性エネルギー線硬化樹脂層の表面を倍率50倍で撮影すると共に、付属の解析ツールを用いて解析した。これにより、活性エネルギー線硬化樹脂層の表面について撮影された写真、及び撮影された領域の3次元画像を得ると共に、表面粗さパラメータとして、算術平均高さ(Sa)、最大高さ(Sz)、凸部の先端の平均算術曲率(Spc)、及び凹凸構造を平坦面に投影したときの投影面積をS1とし、凹凸構造の実際の表面積と投影面積S1との差分をS2としたとき、S2/S1で表される展開面積比(Sdr)を得た。
【0065】
[光沢度]
得られた内装材を縦300mm×横300mmの正方形状に裁断することにより、試験片を得た。試験片を温度23℃±2℃、湿度70%±15%の条件下で24時間養生した後、光沢度計(型式:IG-320、株式会社堀場製作所製)を用い、試験片における活性エネルギー線硬化樹脂層の表面の任意の五点の光沢度(60°)を測定し、その平均値を算出した。
【0066】
[防汚性(ヒールマーク試験)]
得られた内装材を縦22cm×横22cmの正方形状に裁断することにより、試験片を得た。3枚の試験片における基材の表面(活性エネルギー線硬化樹脂層とは反対の側の面)を、正六角柱状の中空容器の内壁に貼り付けた。この中空容器内に縦5cm×横5cm×高さ5cmの立方体状のゴム片を6個投入し、この中空容器を時計回りに15分間回転(回転速度:63回転/分)させ、次に反時計回りに15分間回転(回転速度:63回転/分)させることにより、ヒールマーク試験を行った。回転停止後、試験片を取り出し、下記の3条件にて目視で観察し、下記の判定基準で評価した。
<条件>
条件1:ヒールマーク試験直後(拭き取りなし、試験直後)
条件2:乾燥した布を用いて布拭きした後(乾拭き後)
条件3:水で濡らした布を用いて布拭きした後(水拭き後)
<判定基準>
A:ヒールマークが全く付着していない(良好)
B:ヒールマークが少し付着している(やや不良)
C:ヒールマークが多く付着している(不良)
【0067】
[耐薬品性]
得られた内装材を縦10cm×横10cmの正方形状に裁断することにより、試験片を得た。各試験片の中央に厚み約5mmの1.5cm×1.5cmの正方形状の脱脂綿を配置し、ポピドンヨード(商品名:イソジン(登録商標))1.0mLを脱脂綿全体に染み込ませた。試験片と脱脂綿とを十分に密着させた後、直径9.0cmの時計皿を、脱脂綿を覆うように試験片に被せた状態で24時間静置した後、脱脂綿を除去し、試験片の表面を蒸留水で洗浄した。この処理後、試験片を目視で観察し、下記の判定基準で評価した。
<判定基準>
A:着色していない(良好)
B:僅かに着色している(やや不良)
C:多く着色している(不良)
【0068】
実施例1~3の内装材、及び比較例1~3の内装材の構成、並びに、測定結果、及び評価結果を表1に示す。なお、表1において、積算光量の単位は「mJ/cm」であり、ピーク照度の単位は「mW/cm」である。
【0069】
【表1】
【0070】
実施例1~3の内装材は、活性エネルギー線硬化樹脂層の表面の表面粗さパラメータにつき、算術平均高さ(Sa)が0.5~6μmであり、平均算術曲率(Spc)が300~1300μm-1であり、展開面積比(Sdr)が0.05~0.2であるものであった。また、最大高さ(Sz)が5~50μmであるものであった。これら実施例1~3の内装材は、光沢度(60°)が5%以下であり、低光沢性が優れると共に、防汚性の評価が、試験直後、乾拭き後、及び水拭き後の3条件全てにおいてA評価であり、防汚性も優れるものであることが示された。また、実施例1~3の内装材は、耐薬品性の評価がA評価であり、耐薬品性も優れるものであることが示された。
【0071】
これに対し、比較例1の内装材は、上記表面粗さパラメータのうち、平均算術曲率(Spc)、及び展開面積比(Sdr)が上記数値範囲を超えるものであった。図5には、活性エネルギー線硬化樹脂層の表面に比較的綺麗なシワが形成されているものの、シワの密度が多く、高低差も大きいことが示されている。この比較例1の内装材は、光沢度が5%以下であり、低光沢性が優れる一方、防汚性の評価が、試験直後においてC評価であり、防汚性が劣るものであることが示された。また、比較例1の内装材は、耐薬品性の評価がB評価であり、耐薬品性が劣るものであることが示された。
【0072】
比較例2の内装材は、上記表面粗さパラメータのうち、算術平均高さ(Sa)、平均算術曲率(Spc)、及び展開面積比(Sdr)が上記数値範囲を超えるものであった。図6には、活性エネルギー線硬化樹脂層の表面に均一なシワが形成されず、局所的にシワが形成されていることが示されている。この比較例2の内装材は、光沢度が5%超であり、低光沢性が劣ると共に、防汚性の評価が、試験直後においてC評価、乾拭き後においてB評価であり、防汚性が劣るものであることが示された。また、比較例2の内装材は、耐薬品性の評価がB評価であり、耐薬品性が劣るものであることが示された。
【0073】
比較例3の内装材は、上記表面粗さパラメータの全てが上記数値範囲に満たないものであった。具体的には、算術平均高さ(Sa)、及び最大高さ(Sz)が小さいことから、凸部の突出長さが小さく、平均算術曲率(Spc)が小さいことから、凸部の尖り具合が小さく、展開面積比(Sdr)が0に近いことから平坦面に近いものであった。図7には、活性エネルギー線硬化樹脂層の表面に艶消しシリカに由来する非常に微細な凸部が形成されているものの、略平坦面であることが示されている。この比較例3の内装材は、光沢度が5%超であり、低光沢性が劣ると共に、防汚性の評価が、試験直後においてC評価であり、防汚性が劣るものであることが示された。また、比較例3の内装材は、耐薬品性の評価がC評価であり、耐薬品性が劣るものであることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、広く建築業界、リフォーム業界等の内装材として利用可能な技術であり、例えば、一般住宅、集合住宅、マンション、商業モール、オフィスビル、工場、店舗、駅、学校、病院、公共施設等の各種建造物において、内装材、特に床材を施工する場面で特に有用である。
【符号の説明】
【0075】
1 内装材
2 基材
3 活性エネルギー線硬化樹脂層
3a 表面
30 活性エネルギー線硬化性樹脂組成物
4 凹凸構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7