(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014764
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】位相変調器の校正方法、バランス型光検出器の校正方法及び位相変調器の校正システム
(51)【国際特許分類】
G02F 1/01 20060101AFI20230124BHJP
G01N 21/45 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
G02F1/01 F
G01N21/45 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118909
(22)【出願日】2021-07-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)事業「光・量子を活用したSociety 5.0実現化技術/量子暗号技術と量子セキュアクラウド技術に関する研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 幹生
(72)【発明者】
【氏名】武岡 正裕
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雅英
(72)【発明者】
【氏名】富田 章久
【テーマコード(参考)】
2G059
2K102
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059EE05
2G059EE09
2G059GG01
2G059JJ17
2G059JJ22
2G059KK03
2G059MM14
2K102AA21
2K102BA01
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD09
2K102CA00
2K102DA04
2K102DB04
2K102DC07
2K102EA02
2K102EB11
2K102EB22
2K102EB24
2K102EB26
(57)【要約】
【課題】位相変調器及びバランス型光検出器の量子鍵配送のための高精度な校正方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る位相変調器の校正方法1は、位相の校正基準とする第一の遅延干渉計10及び校正対象の位相変調器30が光路に設置された第二の遅延干渉計20を準備し、第一及び第二の遅延干渉計10、20のそれぞれについて、入力する1つのパルスから分割されたパルス間の時間間隔によって遅延時間を測定し、遅延時間を伝送クロックの周期に同期させ、前記第一の遅延干渉計について、入力する連続波レーザ光が出力において強め合う干渉となるように位相差を調整し、第一の遅延干渉計10を前段、第二の遅延干渉計20を後段として縦続接続した校正回路100を組んで制御信号を確定することを含む。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御信号によって位相変調量が制御される位相変調器の校正方法であって、
位相の校正基準とする第一の遅延干渉計及び校正対象の位相変調器が光路に設置された第二の遅延干渉計を準備し、
前記第一及び第二の遅延干渉計のそれぞれについて、入力する1つのパルスから分割されたパルス間の時間間隔によって遅延時間を測定し、前記遅延時間を伝送クロックの周期に同期させ、
前記第一の遅延干渉計について、入力する連続波レーザ光が出力において強め合う干渉となるように位相差を調整し、
前記第一の遅延干渉計を前段、前記第二の遅延干渉計を後段として縦続接続した校正回路を組んで前記制御信号を確定する
ことを含む位相変調器の校正方法。
【請求項2】
前記第一の遅延干渉計の位相差の調整は、前記第一の遅延干渉計の温度を調整することによって行う請求項1に記載の位相変調器の校正方法。
【請求項3】
前記第一の遅延干渉計の位相差の調整は、出力における消光比を測定し、前記消光比が最大となるように調整する請求項1又は請求項2に記載の位相変調器の校正方法。
【請求項4】
前記制御信号の確定は、前段の入力にパルスレーザ光を入力して1つのパルスから分割され後段から出力される先頭及び後尾のパルスの中央に位置する中央パルスの強さを測定しながら前記制御信号を調整し、前記中央パルスの強さが最大となる前記制御信号を0度制御信号、最小となる前記制御信号を180度制御信号と定める請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の位相変調器の校正方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の位相変調器の校正方法によって前記位相変調器が校正されている前記校正回路において、
前記前段の入力に前記連続波レーザ光を入力して前記0度制御信号及び前記180度制御信号を交互に繰り返して前記位相変調器を制御し、前記後段の出力に接続したバランス型光検出器によって測定する消光比が最大となるように前記バランス型光検出器の利得を調整することを含むバランス型光検出器の校正方法。
【請求項6】
制御信号によって位相変調量が制御される位相変調器の校正システムであって、
校正回路と、
前記校正回路に光を入力する光源と、
前記校正回路の出力に接続される光検出器と、
前記制御信号を発生させる制御信号発生器と
を備え、
前記校正回路は、遅延時間が伝送クロックの周期に同期され、位相差が強め合う干渉となるように調整されている第一の遅延干渉計を前段、遅延時間が前記伝送クロックの周期に同期され、校正対象の位相変調器が光路に設置されている第二の遅延干渉計を後段として縦続接続されている位相変調器の校正システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子鍵配送における位相変調器の校正方法、バランス型光検出器の校正方法及び位相変調器の校正システムに関する。
【背景技術】
【0002】
量子鍵配送は、遠隔地に情報理論的安全な暗号鍵(乱数列)の共有を可能とする技術である。その安全性は物理法則によって理論的に担保されている。ただし、実際の通信機器の動作が理論上の動作と大きく乖離しないことが前提となる。
量子鍵配送では、光の位相状態を用いる方式による高速化、広帯域化の研究が進められている。この方式では、光の位相状態を情報のビット値に対応させて、光信号を位相変調して送受信する。位相変調は、高速光通信に使用されている技術であるが、量子鍵配送と光通信とでは、必要とされる位相精度は大きく異なる。例えば非特許文献1には、量子鍵配送装置を構成する部品における位相精度の重要性が指摘されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】“Quantum key distribution with flawed and leaky source,” M. Pereira, M. Curtty, and K.Tamaki, npj Quantum Information volume 5, Article number: 62 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光通信は、デジタル処理が可能であるため、光信号の位相に10-20度程度の誤差があっても問題なく通信が可能である。一方、量子鍵配送は、1パルスあたりの光子数が1未満の光波の位相を数度の正確さで確定する必要がある。光検出器で測定される状態に合わせて位相の制御を行うだけでは、量子鍵配送で必要とされる絶対的な位相精度が保証されているとはいえない。そのため、量子鍵配送においては、測定された位相が絶対的な位相精度を有することを保証できる技術が求められている。
本発明は、かかる課題を解決するためになされたのであり、量子鍵配送に必要な精度の量子状態制御を保証するための高精度な位相変調器の校正方法、バランス型光検出器の校正方法、及び、位相変調器の校正システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる課題を解決するために、本発明に係る位相変調器の校正方法は、制御信号によって位相変調量が制御される位相変調器の校正方法であって、位相の校正基準とする第一の遅延干渉計及び校正対象の位相変調器が光路に設置された第二の遅延干渉計を準備し、前記第一及び第二の遅延干渉計のそれぞれについて、入力する1つのパルスから分割されたパルス間の時間間隔によって遅延時間を測定し、前記遅延時間を伝送クロックの周期に同期させ、前記第一の遅延干渉計について、入力する連続波レーザ光が出力において強め合う干渉となるように位相差を調整し、前記第一の遅延干渉計を前段、前記第二の遅延干渉計を後段として縦続接続した校正回路を組んで前記制御信号を確定することを含む。
【0006】
また、本発明に係る位相変調器の校正システムは、制御信号によって位相変調量が制御される位相変調器の校正システムであって、校正回路と、前記校正回路に光を入力する光源と、前記校正回路の出力に接続される光検出器と、前記制御信号を発生させる制御信号発生器とを備え、前記校正回路は、遅延時間が伝送クロックの周期に同期され、位相差が強め合う干渉となるように調整されている第一の遅延干渉計を前段、遅延時間が前記伝送クロックの周期に同期され、校正対象の位相変調器が光路に設置されている第二の遅延干渉計を後段として縦続接続されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、位相変調器及びバランス型光検出器を高精度に校正して、量子鍵配送に必要な精度の量子状態制御を保証することが可能となり、高精度な校正を行うことができる位相変調器の校正システムの提供を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2A】実施形態に係る位相変調器の校正方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2B】実施形態に係るバランス型光検出器の校正方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3B】校正対象の位相変調器が設置された第二の遅延干渉計の模式図である。
【
図4】遅延干渉計の遅延時間を測定する回路の一例を示す模式図である。
【
図5】遅延干渉計の位相差を測定する回路の一例を示す模式図である。
【
図6】実施形態に係る校正回路の一例を示す模式図である。
【
図7】バランス型光検出器の校正回路の一例を示す模式図である。
【
図8】実施形態に係る位相変調器の校正システムの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[位相変調器の校正方法]
本発明に係る位相変調器の校正方法について、図面を参照しながら説明する。本発明における校正対象となる位相変調器は、
図1に一例を示すように、量子鍵配送装置に使用される。位相変調器は、送信側及び受信側双方の遅延干渉計に設置されている。
位相変調器は、制御信号によって位相変調量が制御されるものであればよい。例えば、LiNbO
3結晶の屈折率が電場によって変化する現象を利用して、電気信号によって位相変調を行うLN位相変調器とすることができる。
本発明に係る位相変調器の校正方法1は、
図2Aに示すように、遅延干渉計の準備S1、遅延時間の同期S2、位相差の調整S3、制御信号の確定S4を含む。
【0010】
(遅延干渉計の準備)
遅延干渉計の準備S1は、第一の遅延干渉計10及び第二の遅延干渉計20を準備する手続きである。遅延干渉計は、入力される光を1対1の比率で2つに分けて、長光路を通った光と短光路を通った光とを再び重ね合わせて干渉させる装置である。
遅延干渉計は、例えばマッハツェンダ干渉計であり、光路長の調整手段を有している。遅延干渉計は、入力光の位相を短い周期で変化させた場合でも、長光路を通った光と短光路を通った光との間に生じる位相差の変動が小さいものが好ましい。このため、例えば石英を光路とする平面光波回路(Planar Lightwave Circuit、以下PLCと略記する)による非対称干渉計とし、光路長の調整のために、温度調整手段を用いることが実装方法の一例として挙げられる。
【0011】
第一の遅延干渉計10は、
図3Aに一例を示すように、短光路13A及び長光路13Bを有し、光路長の調整手段として、粗調手段14A及び微調手段14Bを有している。粗調手段14Aは、例えばネジ等による機械的な調整である。微調手段14Bは、例えば圧電素子等を用いた調整や、光路を形成する物質の温度変化による膨張及び収縮を利用した調整である。
【0012】
第一の遅延干渉計10は、入力端子11A、11B及び出力端子12A、12Bを有している。位相変調器の校正方法1では、一方の入力端子、例えば11Aが使用される。出力端子も一方、例えば12Aが使用されるが、両方を使用してもよい。2つの出力端子12A、12Bからの出力は、例えば、短光路13Aを通った光と長光路13Bを通った光との位相差が0度であれば、出力端子12Aから出力され、位相差が180度であれば、出力端子12Bから出力される。
第一の遅延干渉計10は、位相変調器の校正方法1において、位相の校正基準となる。このため、光路長を微細に調整でき、調整後の光路長が安定しているものが好ましい。
【0013】
第二の遅延干渉計20は、
図3Bに示すように、校正対象となる位相変調器30が短光路23Aに設置されている。位相変調器30は、制御信号入力端子31を有し、第二の遅延干渉計20の外部から位相変調量の制御が可能である。第二の遅延干渉計20は、少なくとも粗調手段24Aを有しており、微調手段を有していてもよい。
なお、粗調手段、微調手段及び制御入力端子は、図において省略する場合がある。
【0014】
(遅延時間の同期)
遅延時間の同期S2は、第一及び第二の遅延干渉計10、20の遅延時間を伝送クロックの周期に同期させる手続きである。本発明に係る量子鍵配送では、伝送クロックの周期ごとに位相状態が設定される。遅延干渉計の遅延時間と伝送クロックの周期とを同期させることで、隣り合うタイムスロット間の光の干渉を測定することができる。
【0015】
遅延時間の同期S2は、遅延干渉計の遅延時間を測定し、光路長を調整することによって行う。遅延時間は、遅延干渉計にパルスレーザ光を入力し、入力する1つのパルスから分割されたパルス間の時間間隔によって測定する。第一の遅延干渉計10の遅延時間を測定する場合、例えば
図4に示すように、第一の遅延干渉計10の1つの入力端子にパルスレーザPLを接続し、1つの出力端子に光検出器PDを接続してオシロスコープOSCで波形を測定する。入力するパルスP01が、2つのパルスP02、P03に分割されて出力される場合、パルスP02、P03の時間間隔Δtを測定し、時間間隔Δtが伝送クロックの周期に一致するように、第一の遅延干渉計10の短光路と長光路との光路長の差を調整する。
【0016】
遅延時間の同期S2では、光路長の調整は、粗調手段によって行うことができる。例えば伝送クロックの周波数が1GHzであり、予め遅延時間が1nsに設定された遅延干渉計を入手できる場合、調整の幅は、0.1mmから10mm程度であると見込まれる。
第二の遅延干渉計20についても同様の手続きを行い、遅延時間の同期S2を経た第一及び第二の干渉計10、20を用いて、以降の手続きを行う。
【0017】
(位相差の調整)
位相差の調整S3は、位相の校正基準とする第一の遅延干渉計10について、入力光が出力において強め合う干渉となるように、位相差を調整する手続きである。位相差の調整S3における入力光の波長は、光ファイバ等の送信側と受信側を結ぶ光通信路で使用される信号光の波長であり、例えば1.55μmである。
【0018】
位相差の調整S3における位相差とは、短光路を通った光と長光路を通った光との出力における位相差であり、短光路と長光路との光路長差に応じて変化する。また、入力光が出力において強め合う干渉となるとき、出力における光の強度が最大となる。このため、位相差の調整S3は、遅延干渉計の出力における光の強度が最大となるように光路長を調整することによって行う。
位相差の調整S3は、例えば
図5に示すように、第一の遅延干渉計10の1つの入力端子に連続波レーザCWを接続し、1つの出力端子にパワーメータM1を接続し、最大の値を示す光路長に調整する。
【0019】
また、パワーメータM1の出力の最大値をVmax、最小値をVminとするとき、(Vmax-Vmin)/(Vmax+Vmin)で与えられる干渉明瞭度は、十分な干渉が生じているかどうかの指標となる。干渉明瞭度を用いれば、例えば一定の干渉明瞭度が確保できていない場合、校正システムの点検を行うといった対応が可能となる。
最大値Vmaxの付近で、さらに消光比を測定することができる。消光比が最大となるように調整することによって、より正確に光路長を調整することができる。消光比は、10・lоg(Vmax/Vmin)で与えられる。
【0020】
位相差の調整S3では、光路長の調整は、微調手段によって行う。例えば信号光の波長が1.55μmの場合、遅延干渉計の光路の屈折率を1.5とすれば、360度の位相差に相当する光路長は約1μmである。このため、位相を4度以下の精度で制御するには10nm程度の調整が必要となり、例えば圧電素子や温度によって調整することができる。温度による調整は、特に微細な調整ができるため好ましい。
位相差の調整S3を経た第一の遅延干渉計10を位相校正の基準として、以降の手続きを行う。
【0021】
(制御信号の確定)
制御信号の確定S4は、校正対象の位相変調器について、位相変調量に対応する制御信号の値を確定する手続きである。位相変調量と制御信号との対応関係は、正確には位相変調器の個体によって異なる。一つ一つの位相変調器について、位相変調量に対応する制御信号の値を確定することで、位相変調器の校正を行うことができる。位相変調量は、光を干渉させることによって観測することができる。
制御信号の確定S4は、
図6に示すように、位相差の調整S3を経た第一の遅延干渉計10を前段、遅延時間の同期S2を経た第二の遅延干渉計20を後段として縦続接続した校正回路100を組んで行う。位相変調器30は、第二の遅延干渉計20の短光路に設置されている。校正回路100は、第二の遅延干渉計20がPLC等であり、偏波依存性が問題となる場合には、第二の遅延干渉計20の入力端子の手前に偏光フィルタ50を有するのが好ましい。
【0022】
制御信号の確定S4では、校正回路100の前段10の入力端子にパルスレーザPLを接続し、後段20の出力端子に光検出器PDを接続してオシロスコープOSCで波形を測定する。位相変調器30には、制御信号発生器40が接続されている。制御信号発生器40は、位相変調器30を制御するための電圧信号等を発生する装置である。
図6に一例を示すように、入力するパルスP11は、前段10で2つのパルスP12、P13に分割され、後段20で2つのパルスP12、P13のそれぞれが2つのパルスに分割される。前段10及び後段20の遅延時間は、どちらもΔtであるため、時間間隔Δtの3つのパルスP14、P15、P16が後段20から出力される。中央パルスP15は、先頭のパルスP14及び後尾のパルスP16の中央に位置している。中央パルスP15の強さは、位相変調器30の位相変調量に対応している。
【0023】
量子鍵配送では、位相変調量が0度及び180度となる制御信号の値が必要となる。このため、制御信号発生器40によって制御信号を調整しながら、中央パルスP15を測定する。中央パルスP15の強さは、位相変調量が0度のとき強め合う干渉によって最大となり、180度のときは弱め合う干渉によって最小となる。このため、中央パルスP15の強さが最大となる制御信号を0度制御信号、最小となる制御信号を180度制御信号と定めることができる。
制御信号の確定S4を経て、0度及び180度の位相変調量に対応する制御信号の値が確定され、位相変調器の校正を終了する。
【0024】
[バランス型光検出器の校正方法]
次に、本発明に係るバランス型光検出器の校正方法について説明する。本発明における校正対象となるバランス型光検出器は、一対の入力端子を有している。バランス型光検出器60は、例えば
図1に示すように、量子鍵配送装置の受信側の遅延干渉計に接続され、2つの入力端子間の光の強度の差を電気信号に変換して出力する装置である。出力された電気信号は、例えば信号処理装置のADコンバータに入力される。
本発明に係るバランス型光検出器の校正方法2は、
図2Bに示すように、遅延干渉計の準備S1、遅延時間の同期S2、位相差の調整S3、制御信号の確定S4、光検出器の調整S5を含む。遅延干渉計の準備S1から制御信号の確定S4までの手続きは、すでに説明した位相変調器の校正方法1と共通するため、説明を省略する。
【0025】
(光検出器の調整)
光検出器の調整S5は、バランス型光検出器が、偏りなく動作するように調整する手続きである。バランス型光検出器は、一対の入力光の強さの差を電気信号として出力することができる。このため、例えば、同じ強さの光に対して生成される電気信号の強さが、入力端子間で偏らないように調整する。光検出器の調整S5は、校正された位相変調器30によって位相変調された光信号に基づいて行われる。
バランス型光検出器60は、例えば
図7に示すように、一対のフォトダイオード62A、62B、光減衰器61A、61B及びアンプ65を有している。一対の入力光は、光減衰器61A、61Bを介して一対のフォトダイオード62A、62Bに照射される。一対のフォトダイオード62A、62Bの光電流は、電流を電圧に変換するアンプ65に入力され、光電流の差に対応する電圧が出力端子66から出力される。
【0026】
光検出器の調整S5は、校正回路100の前段10の入力端子に連続波レーザCWを接続し、後段20の出力端子にバランス型光検出器60を接続して行う。入力する連続波レーザ光の波長は、位相差の調整S3における連続波レーザ光の波長と同じである。バランス型光検出器60の出力は、例えばオシロスコープによって電圧波形として測定することができる。位相変調器30には、制御信号発生器40が接続されている。
制御信号発生器40は、位相変調器の校正方法1で定めた0度制御信号及び180度制御信号を交互に繰り返すように設定する。繰り返す周波数は、例えば伝送クロックの周波数である。後段20の2つの出力は、0度制御信号のとき一方が強め合い、他方は弱め合う。反対に、180度制御信号のとき、一方が弱め合い、他方は強め合う。このように、後段20の2つの出力からは、同じ強度の範囲で変化する逆相の光が出力される。
【0027】
この出力光に対して、バランス型光検出器60が、偏りなく動作するように調整する。バランス型光検出器60が偏りなく動作するとき、出力電圧の振幅が最大となる。このため、出力電圧の振幅が最大となるように、一対の入力端子のそれぞれについて、バランス型光検出器60の利得を調整する。さらに消光比を測定し、後段20の出力における消光比が最大になるように、バランス型光検出器60の利得を調整するのが好ましい。利得の調整は、例えば、光減衰器61A、61Bの減衰量やアンプ65の内部の抵抗素子等によって行うことができる。
位相変調器30やバランス型光検出器60は、量子鍵配送装置において使用され、校正された状態から変化を生じる場合がある。このため、例えば日数等の間隔を定めて、位相変調器の校正方法1及びバランス型光検出器の校正方法2による校正を定期的に行うのが好ましい。
【0028】
[位相変調器の校正システム]
次に、本発明に係る位相変調器の校正システムについて説明する。位相変調器の校正システム3は、制御信号によって位相変調量が制御される位相変調器を校正対象とする。位相変調器は、例えばLN位相変調器である。
位相変調器の校正システム3は、
図8に示すように、校正回路100と、光源70と、光検出器80と、制御信号発生器40とを備えている。校正回路100は、第一の遅延干渉計10を前段、第二の遅延干渉計20を後段として縦続接続されている。そして、第一の遅延干渉計10は、遅延時間が伝送クロックの周期に同期され、位相差が強め合う干渉となるように調整されている。第二の遅延干渉計20は、遅延時間が前記伝送クロックの周期に同期され、校正対象の位相変調器30が光路に設置されている。校正回路100は、後段20の偏波依存性が問題となる場合には、後段20の手前に偏光フィルタ50を有するのが好ましい。
【0029】
第一及び第二の遅延干渉計10、20、位相変調器30及び制御信号発生器40は、すでに説明したとおりである。光源70は、例えばパルスレーザ又は連続波レーザである。光検出器80は、光の強度に対応した電流又は電圧を出力し、後段20の2つの出力の両方に接続してもよく、一方にのみ接続してもよい。
【0030】
本発明に係る位相変調器の校正方法1は、制御信号によって位相変調量が制御される位相変調器の校正方法であって、位相の校正基準とする第一の遅延干渉計10及び校正対象の位相変調器30が光路に設置された第二の遅延干渉計20を準備し(S1)、第一及び第二の遅延干渉計10、20のそれぞれについて、入力する1つのパルスから分割されたパルス間の時間間隔によって遅延時間を測定し、遅延時間を伝送クロックの周期に同期させ(S2)、第一の遅延干渉計10について、入力する連続波レーザ光が出力において強め合う干渉となるように位相差を調整し(S3)、第一の遅延干渉計10を前段、第二の遅延干渉計20を後段として縦続接続した校正回路100を組んで制御信号を確定する(S4)ことを含む。
【0031】
かかる構成により、位相変調器の校正方法1は、光路差によって生じる位相差が0度(360度の整数倍を含む)であるように調整された第一の遅延干渉計10を校正の基準とする。これにより、校正された位相変調器30による位相変調量が、絶対的位相として正しい値であることを保証することができる。また、第一の遅延干渉計10の位相差の調整は、連続光を用いて行う。これにより、位相の校正基準となる第一の遅延干渉計10を容易な方法で正確に調整することができる。
位相変調器の校正方法1は、本来量子鍵配送で必要とされる微弱な光ではなく、減衰させる前の強い光パルスもしくは連続光を用いて校正することができる。このため、校正の正確さを高めることができ、伝送クロックの周波数が高い場合であっても、絶対的位相について高精度に校正することができる。そして、正確に校正された位相変調器を量子鍵配送における送信側及び受信側の双方に提供することによって、量子鍵配送装置の実装安全性を高めることができる。
【0032】
第一の遅延干渉計10の位相差の調整S3は、第一の遅延干渉計10の温度を調整することによって行うのが好ましい。
かかる構成により、位相変調器の校正方法1は、第一の遅延干渉計10の位相差の調整を正確に行うことができる。
【0033】
第一の遅延干渉計10の位相差の調整S3は、出力における消光比を測定し、消光比が最大となるように調整するのが好ましい。
かかる構成により、位相変調器の校正方法1は、第一の遅延干渉計10の位相差の調整をさらに正確に行うことができる。
【0034】
制御信号の確定S4は、前段10の入力にパルスレーザ光を入力して1つのパルスから分割され後段20から出力される先頭及び後尾のパルスの中央に位置する中央パルスの強さを測定しながら制御信号を調整し、中央パルスの強さが最大となる制御信号を0度制御信号、最小となる制御信号を180度制御信号と定めるのが好ましい。
かかる構成により、位相変調器の校正方法1は、明確でわかりやすい方法で正確な校正を行うことができる。
【0035】
本発明に係るバランス型光検出器の校正方法2は、位相変調器の校正方法1によって位相変調器30が校正されている校正回路100において、前段10の入力に連続波レーザ光を入力して0度制御信号及び180度制御信号を交互に繰り返して位相変調器30を制御し、後段20の出力に接続したバランス型光検出器60によって測定する消光比が最大となるようにバランス型光検出器60の利得を調整することを含む。
かかる構成により、バランス型光検出器の校正方法2は、校正された第一の遅延干渉計10及び位相変調器30を校正の基準として、さらにバランス型光検出器60を高精度に校正することができる。これにより、量子鍵配送の実装安全性をさらに高めることができる。
位相変調器の校正方法1及びバランス型光検出器の校正方法2によって校正された位相変調器及びバランス型光検出器を用いることで、量子鍵配送の実装安全性を担保すると共に、量子鍵配送装置が正しく実装されているかを判断することが可能となる。
【0036】
本発明に係る位相変調器の校正システムは、制御信号によって位相変調量が制御される位相変調器の校正システムであって、校正回路100と、校正回路100に光を入力する光源70と、校正回路100の出力に接続される光検出器80と、制御信号を発生させる制御信号発生器40とを備え、校正回路100は、遅延時間が伝送クロックの周期に同期され、位相差が強め合う干渉となるように調整されている第一の遅延干渉計10を前段、遅延時間が伝送クロックの周期に同期され、校正対象の位相変調器30が光路に設置されている第二の遅延干渉計20を後段として縦続接続されている。
【0037】
かかる構成により、位相変調器の校正システム3は、第一の遅延干渉計10を位相の校正基準として、位相変調器30を高精度に校正することができる。また、位相変調器の校正システム3によって、位相変調器の動作検証を行うことができる。これにより、量子鍵配送装置が正しく実現されているかどうかを判断することが可能となる。
【0038】
なお、遅延干渉計は、PLCの他に、光路を空間や光ファイバ等とし、ハーフミラー等を用いて光学系を構成したものでもよい。
第二の遅延干渉計20において、位相変調器30は、短光路23Aではなく長光路23Bに設置してもよい。また、第二の遅延干渉計20への位相変調器30の設置は、遅延時間の同期S2の後で行ってもよい。
第一の遅延干渉計10の位相差の調整S3は、光路の近くに誘電体を挿入し、誘電体に印加する電圧を変化させる方法で行ってもよい。また、2つの出力端子にパワーメータM1、M2を接続して光の強度を測定してもよい。パワーメータではなく、
図4に示すように、光検出器PD及びオシロスコープOSCを接続して測定してもよい。
位相変調器の校正システム3は、光源70を第一の遅延干渉計10の位相差を調整した波長の光を発する連続波レーザとし、光検出器80を校正対象のバランス型光検出器60とすれば、バランス型光検出器の校正システムとして、バランス型光検出器60を高精度に校正することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 校正方法(位相変調器)
2 校正方法(バランス型光検出器)
3 校正システム(位相変調器)
10 第一の遅延干渉計
20 第二の遅延干渉計
30 位相変調器
31 制御信号入力端子
40 制御信号発生器
50 偏光フィルタ
60 バランス型光検出器
70 光源
80 光検出器
100 校正回路