(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147657
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】押出発泡シート及び押出発泡シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/04 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
C08J9/04 101
C08J9/04 CET
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055297
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100126413
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 太亮
(72)【発明者】
【氏名】角田 博俊
(72)【発明者】
【氏名】久保田 真史
(72)【発明者】
【氏名】勝山 直哉
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA32
4F074AA68
4F074AA77
4F074BA37
4F074BA38
4F074BC12
4F074CA22
4F074DA02
4F074DA12
4F074DA19
4F074DA23
4F074DA34
(57)【要約】
【課題】環境負荷低減性と発泡性に優れ、外観の良好な押出発泡シート、およびその製造方法を提供する
【解決手段】
ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリ乳酸系樹脂の混合樹脂を基材樹脂とする押出発泡シートにおいて、前記混合樹脂における前記ポリ乳酸系樹脂の配合量が10質量%以上50質量%以下であり(ただし、前記ポリスチレン系樹脂、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂、及び前記ポリ乳酸系樹脂の配合量の合計を100質量%とする)、前記混合樹脂のビカット軟化温度が110℃以上150℃以下であり、且つ、前記ポリ乳酸系樹脂の融点Tm[℃]と前記混合樹脂の前記ビカット軟化温度Vst[℃]との差(Tm-Vst)の値が、0℃を超え40℃以下であり、該押出発泡シートの見掛け密度が50kg/m3以上300kg/m3以下であり、該押出発泡シートの独立気泡率が70%以上である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリ乳酸系樹脂の混合樹脂を基材樹脂とする押出発泡シートであって、
前記混合樹脂における前記ポリ乳酸系樹脂の配合量が10質量%以上50質量%以下であり(ただし、前記ポリスチレン系樹脂、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂、及び前記ポリ乳酸系樹脂の配合量の合計を100質量%とする)、
前記混合樹脂のビカット軟化温度Vst[℃]が110℃以上150℃以下であり、且つ、
前記ポリ乳酸系樹脂の融点Tm[℃]と前記混合樹脂の前記ビカット軟化温度Vst[℃]との差(Tm-Vst)が、0℃を超え40℃以下であり、
前記押出発泡シートの見掛け密度が50kg/m3以上300kg/m3以下であり、
前記押出発泡シートの独立気泡率が70%以上である、ことを特徴とする、
押出発泡シート。
【請求項2】
前記ポリ乳酸系樹脂の融点Tm[℃]が125℃以上160℃以下である、
請求項1に記載の押出発泡シート。
【請求項3】
前記混合樹脂の前記ビカット軟化温度Vst[℃]が120℃以上140℃以下である、
請求項1または2に記載の押出発泡シート。
【請求項4】
前記押出発泡シートの前記独立気泡率が80%以上である、
請求項1から3のいずれか1項に記載の押出発泡シート。
【請求項5】
ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリ乳酸系樹脂の混合樹脂と物理発泡剤とを含む発泡性溶融樹脂を押出発泡させる工程を含む押出発泡シートの製造方法であって、
前記混合樹脂における前記ポリ乳酸系樹脂の配合量が10質量%以上50質量%以下であり(ただし、前記混合樹脂における前記ポリスチレン系樹脂、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂、及び前記ポリ乳酸系樹脂の配合量の合計を100質量%とする)、
前記混合樹脂のビカット軟化温度Vst[℃]が110℃以上150℃以下であり、且つ、
前記ポリ乳酸系樹脂の融点Tm[℃]と前記混合樹脂の前記ビカット軟化温度Vst[℃]との差(Tm-Vst)が、0℃を超え40℃以下であり、
前記押出発泡シートの見掛け密度が50kg/m3以上300kg/m3以下であり、
前記押出発泡シートの独立気泡率が70%以上である、ことを特徴とする、
押出発泡シートの製造方法。
【請求項6】
前記ポリフェニレンエーテル系樹脂は、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂と前記ポリスチレン系樹脂とを混練してなる混合物として定められる変性ポリフェニレンエーテル系樹脂に由来しており、且つ、前記変性ポリフェニレンエーテル系樹脂のガラス転移温度Tg[℃]が110℃以上150℃以下である、請求項5に記載の押出発泡シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出発泡シート及び押出発泡シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製の押出発泡シート等の発泡シートは、軽量性や成形性等に優れ、様々な用途で使用される。例えば、ポリスチレン系樹脂発泡シートを熱成形して得られる成形体は、食品容器等の広範な用途で使用される。
【0003】
こうした成形体を構成する樹脂については、環境負荷低減に寄与する樹脂としてポリ乳酸が注目されている。ポリ乳酸は、バイオマス由来の原料から重合することができ、カーボンニュートラルな材料であり、且つ、物性に優れるとされる。そこで、環境負荷軽減の観点から、特許文献1には、ポリスチレン系樹脂とポリ乳酸との混合樹脂を基材樹脂として発泡シートを製造することが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、発泡性、外観及び成形性の良好な押出発泡シートを得る観点から改善の余地があった。特に、押出発泡で発泡シートを製造する場合等に、表面に凹凸や筋模様の少ない発泡シートを得る観点から改善の余地があった。
【0006】
本発明の目的は、環境負荷低減性と発泡性に優れ、外観が良好で、成形性も良好な押出発泡シート、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、次の(1)から(6)に示す発明を要旨とする。
【0008】
(1)ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリ乳酸系樹脂の混合樹脂を基材樹脂とする押出発泡シートであって、
前記混合樹脂における前記ポリ乳酸系樹脂の配合量が10質量%以上50質量%以下であり(ただし、前記ポリスチレン系樹脂、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂、及び前記ポリ乳酸系樹脂の配合量の合計を100質量%とする)、
前記混合樹脂のビカット軟化温度Vst[℃]が110℃以上150℃以下であり、且つ、
前記ポリ乳酸系樹脂の融点Tm[℃]と前記混合樹脂の前記ビカット軟化温度Vst[℃]との差(Tm-Vst)が、0℃を超え40℃以下であり、
前記押出発泡シートの見掛け密度が50kg/m3以上300kg/m3以下であり、
前記押出発泡シートの独立気泡率が70%以上である、ことを特徴とする、
押出発泡シート。
(2)前記ポリ乳酸系樹脂の融点Tm[℃]が125℃以上160℃以下である、
上記(1)に記載の押出発泡シート。
(3)前記混合樹脂の前記ビカット軟化温度Vst[℃]が120℃以上140℃以下である、
上記(1)または(2)に記載の押出発泡シート。
(4)前記押出発泡シートの前記独立気泡率が80%以上である、
上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の押出発泡シート。
(5)ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリ乳酸系樹脂の混合樹脂と物理発泡剤とを含む発泡性溶融樹脂を押出発泡させる工程を含む押出発泡シートの製造方法であって、
前記混合樹脂における前記ポリ乳酸系樹脂の配合量が10質量%以上50質量%以下であり(ただし、前記混合樹脂における前記ポリスチレン系樹脂、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂、及び前記ポリ乳酸系樹脂の配合量の合計を100質量%とする)、
前記混合樹脂のビカット軟化温度Vst[℃]が110℃以上150℃以下であり、且つ、
前記ポリ乳酸系樹脂の融点Tm[℃]と前記混合樹脂の前記ビカット軟化温度Vst[℃]との差(Tm-Vst)が、0℃を超え40℃以下であり、
前記押出発泡シートの見掛け密度が50kg/m3以上300kg/m3以下であり、
前記押出発泡シートの独立気泡率が70%以上である、ことを特徴とする、
押出発泡シートの製造方法。
(6)前記ポリフェニレンエーテル系樹脂は、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂と前記ポリスチレン系樹脂とを混練してなる混合物として定められる変性ポリフェニレンエーテル系樹脂に由来しており、且つ、前記変性ポリフェニレンエーテル系樹脂のガラス転移温度Tg[℃]が110℃以上150℃以下である、
上記(5)に記載の押出発泡シートの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、環境負荷低減性と発泡性に優れ、成形性と外観が良好な押出発泡シート、およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態について、1.第1の実施形態(押出発泡シート)、2.第2の実施形態(押出発泡シートを有する積層シート(表皮付き発泡シート))、3.押出発泡シートの製造方法、4.適用例の順序で以下に説明する。
【0011】
なお、本発明は、以下に説明する実施の形態等に限定されない。
【0012】
本発明の押出発泡シートは、基材樹脂を用いて押出発泡させた構造を有するシートである。
【0013】
[1 第1の実施形態(押出発泡シート)]
[1-1 構成]
本発明の第1の実施形態にかかる押出発泡シートは、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリ乳酸系樹脂を含む樹脂(以下、混合樹脂と呼ぶ)を基材樹脂とする。
【0014】
(ポリスチレン系樹脂)
ポリスチレン系樹脂は、特に限定されず、例えば、例えば、ポリスチレン(汎用ポリスチレン)、ゴム変性ポリスチレン(耐衝撃性ポリスチレン)、スチレン-αメチルスチレン共重合体、スチレン-pメチルスチレン共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタクリル酸エチル共重合体、スチレン-アクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル酸エチル共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体等が挙げられる。これらの中でも、ポリスチレンであることが好ましい。
【0015】
(ポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度)
押出発泡シートに用いられるポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度については、成形性と外観等が良好な押出発泡シートを得る観点から、ポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度は100℃以上であることが好ましく、105℃以上であることがより好ましい。ポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度は、樹脂の流動性等の観点から、概ね120℃以下であることが好ましく、110℃以下であることがより好ましい。
【0016】
(ポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度の測定)
ポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度はJIS K7206:2016のA50法にて求められる。
【0017】
(ポリフェニレンエーテル系樹脂)
ポリフェニレンエーテル系樹脂は、芳香族ポリエーテル化合物で定められる単位構造を少なくとも主鎖に有する重合体(芳香族ポリエーテル構造を有する重合体と呼ぶ)を示す。例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、下記一般式(式(A))に示す構造を単位構造とする主鎖を有する重合体をあげることができる。芳香族ポリエーテル構造を有する重合体は、単位構造を1種類とするものでも、複数種類とするものでもよい。芳香族ポリエーテル構造を有する重合体の重合度(1分子あたりの単位構造の数)は、特に限定されず、例えば10程度から5500程度の範囲内の数字を例示することができる。
【0018】
【0019】
上記式(A)中、R1からR3は、炭素数1から4のアルキル基(ただし、少なくとも一部の水素を置換されているものを含む)またはハロゲン原子を示す。R1からR3は、それぞれ独立にメチル基又はエチル基であることが好ましい。
【0020】
ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、例えば、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェ ニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジプロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル等を挙げることができる。そのほか、ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、2,6-ジアルキルフェノールと2,3,6-トリアルキルフェノールを用いた共重合体等を挙げることができる。混合樹脂に含有されるポリフェニレンエーテル系樹脂は、上述したポリフェニレンエーテル系樹脂として利用可能な重合体化合物(芳香族ポリエーテル構造を有する重合体)の誘導体であってもよい。さらに、ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、上記したような重合体化合物の複数種類を混合した混合物であってもよい。
【0021】
(ポリ乳酸系樹脂)
ポリ乳酸系樹脂は、乳酸成分単位を50モル%以上含むポリマーとして定義される。ポリ乳酸系樹脂には、例えば、次の(1)から(5)で示すポリマー(コポリマーを含む)や、(1)から(5)の組み合わせによる混合物等が包含される。
【0022】
(1)乳酸の重合体(ポリマー)、
(2)乳酸とその他(乳酸以外)の脂肪族ヒドロキシカルボン酸とのコポリマー、
(3)乳酸と脂肪族多価アルコールと脂肪族多価カルボン酸とのコポリマー、
(4)乳酸と脂肪族多価カルボン酸とのコポリマー、そして
(5)乳酸と脂肪族多価アルコールとのコポリマー。
【0023】
上記乳酸の具体例としては、L-乳酸、D-乳酸、DL-乳酸又はそれらの環状2量体であるL-ラクチド、D-ラクチド、DL-ラクチド又はそれらの混合物を挙げることができる。その他(乳酸以外)の脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、酒石酸、クエン酸などを例示することができる。脂肪族多価カルボン酸としては、ブタンテトラカルボン酸などを例示することができる。脂肪族多価アルコールとしては、例えばグリセリンを例示することができる。
【0024】
乳酸成分単位を構成する化合物(モノマー)としては、上記したようにD体とL体の2種類(以下、それぞれD体化合物とL体化合物と呼ぶことがある)の光学異性体が挙げられる。ポリ乳酸系樹脂としては、L体化合物のみ、D体化合物のみ及びL体化合物とD体化合物の両方のいずれが用いられたものであってもよい。
【0025】
ポリ乳酸系樹脂としては、上記(1)乳酸の重合体が好ましい。乳酸の重合体としては、L-乳酸の単独重合体(PLLA)、D-乳酸の単独重合体(PDLA)、L-乳酸とD-乳酸との共重合体、PLLAとPDLAとの混合物等が例示される。発泡性の観点からは、ポリ乳酸系樹脂は、L-乳酸とD-乳酸との共重合体であることが好ましい。
【0026】
ポリ乳酸系樹脂の製造方法は、特に限定されない。例えば、ポリ乳酸系樹脂の製造方法は、乳酸又は乳酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸の混合物を原料として、直接脱水重縮合する方法、乳酸の環状二量体(ラクチド)を重合する開環重合法等を挙げることができる。
【0027】
(ポリ乳酸系樹脂のD体含有率)
ポリ乳酸系樹脂のD体含有率(質量%)は、特に限定されるものでないが、0.5質量%以上15質量%以下であることが好ましい。ポリ乳酸系樹脂のD体含有率が少ないほど、ポリ乳酸系樹脂の結晶性が向上し、耐熱性が向上する傾向がある。一方、ポリ乳酸系樹脂のD体含有率が多いほど、ポリ乳酸系樹脂の結晶性が低下し(非晶性が強まり)、発泡性を向上させやすくなる傾向がある。ポリ乳酸系樹脂のD体含有率(質量%)が上記範囲内であると、耐熱性と発泡性とをバランスよく両立させることができる。また、押出発泡シートの耐衝撃性をより高める観点から、ポリ乳酸系樹脂のD体含有率は2質量%以上12質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上8質量%以下であることが更に好ましい。
【0028】
なお、ポリ乳酸系樹脂のD体含有率(質量%)とは、ポリ乳酸系樹脂中の乳酸成分単位を構成する化合物の全量に対する、D体化合物の質量比率(質量%)である。
【0029】
(ポリ乳酸系樹脂の融点)
ポリ乳酸系樹脂の融点Tm[℃]は、165℃以下であることが好ましい。ポリ乳酸系樹脂の融点がこの範囲内である場合、押出発泡シートの成形時において、押出発泡直後ではポリ乳酸系樹脂の固化の進行が緩やかになりやすく、押出発泡直後において押出発泡シートの伸びが優れ、発泡性良好で高独泡率の発泡シートが得られやすくなる。この観点からは、ポリ乳酸系樹脂の融点が160℃以下であることがより好ましい。一方、押出発泡シートの耐熱性をより高める観点から、ポリ乳酸系樹脂の融点Tm[℃]は125℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。
【0030】
(ポリ乳酸系樹脂の融点の測定)
ポリ乳酸系樹脂の融点は、JIS K7121:1987に基づき求められる。具体的には、状態調節として「(2)一定の熱処理を行なった後、融解温度を測定する場合」を採用し、状態調節された試験片を10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱することによりDSC曲線を取得し、融解(吸熱)ピークの頂点温度を融点とする。なお、DSC曲線に複数の融解ピークが表れる場合は、最も高さの高い融解ピークの頂点温度を融点とする。
【0031】
(Tm-Vst)
本発明にかかる押出発泡シートにおいては、ポリ乳酸系樹脂の融点と混合樹脂のビカット軟化温度との関係が次に示すような関係を有する。すなわち、押出発泡シートにおいては、混合樹脂のビカット軟化温度(Vst[℃])とポリ乳酸系樹脂の融点(Tm[℃])との差(Tm-Vst)の値が、0℃を超え40℃以下である。ところで、一般的に、ある程度のポリ乳酸を含有された樹脂(例えば、その樹脂におけるポリ乳酸系樹脂の配合量が10質量%以上等)を押出発泡させることには困難が伴うとされている。この点、(Tm-Vst)の値が0℃を超え40℃以下の範囲を満たすことで、混合樹脂にポリ乳酸が含まれていたとしても押出発泡を行うことが容易となり、外観の良好な押出発泡シートを得ることが容易となる。この観点からは、(Tm-Vst)の値が、5℃以上35℃以下であることが好ましく、10℃以上30℃以下であることがより好ましい。
【0032】
(混合樹脂のビカット軟化温度)
混合樹脂のビカット軟化温度Vst[℃]は、110℃以上150℃以下であり、115℃以上145℃以下であることが好ましく、120℃以上140℃以下であることがより好ましい。混合樹脂のビカット軟化温度Vst[℃]が上記範囲であることで、混合樹脂にポリ乳酸が含まれていたとしても混合樹脂の押出発泡を行うことが容易となる。混合樹脂のビカット軟化温度Vst[℃]は、混合樹脂に含まれるポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂の配合比率や、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂及びポリ乳酸系樹脂の3種の成分の配合比率を調整すること等で調整することができる。なお、混合樹脂のビカット軟化温度Vst[℃]は、ポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度について上記で説明したことと同様に、JIS K7206:2016のA50法にて求められる。
【0033】
(混合樹脂におけるポリ乳酸系樹脂の配合比率)
混合樹脂におけるポリ乳酸系樹脂の配合量は、10質量%以上50質量%以下となっている。ただし、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリ乳酸系樹脂の配合量の合計を100質量%とする。
【0034】
混合樹脂は、ポリ乳酸系樹脂を10質量%以上含むことで、環境負荷軽減の実質的効果を確保しやすくなる。混合樹脂は、ポリ乳酸系樹脂を50質量%以下含むことで、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂の合計を50質量%以上とすることができ、押出発泡シートの成形性等の物性が向上しやすくなる。環境負荷軽減と成形性の向上の観点からは、混合樹脂におけるポリ乳酸系樹脂の配合量は、15質量%以上45質量%以下となっていることが好ましく、20質量%以上40質量%以下となっていることがより好ましい。
【0035】
(混合樹脂におけるポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂の配合比率)
混合樹脂におけるポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂の配合比率について、ポリフェニレン系樹脂が5質量%以上50質量%以下となっていることが好ましく、10質量%以上40質量%以下となっていることがより好ましい。ただし、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂の合計を100質量%とする。混合樹脂は、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂をこの範囲で含むことで、押出発泡シートの成形性等の物性が向上しやすくなる。
【0036】
(その他の添加物)
本発明においては、基材樹脂には、本発明の所期の目的が阻害されない程度に、他の熱可塑性樹脂が含まれてもよい。例えば、他の熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂等を挙げることができる。ポリオレフィン系樹脂としては、エチレン、プロピレン等のオレフィン系モノマーの単独重合体又はこれらの共重合体、オレフィン系モノマーを主成分とし、オレフィン系モノマーとこれに重合可能なビニルモノマーとの共重合体等が挙げられる。他の熱可塑性樹脂の含有量は、基材樹脂中20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、押出発泡シートの剛性を高めるという観点からは、基材樹脂は、ゴム変性スチレンを含まないことが好ましい。
【0037】
押出発泡シートは、必要に応じて各種の添加剤を含有していてもよい。添加剤は、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂及びポリ乳酸系樹脂、ならびに後述する発泡剤を除く他の構成成分を示す。添加物としては、例えば、酸化防止剤、安定剤、無機充填剤、着色剤、消臭剤、難燃剤、帯電防止剤、気泡調整剤、紫外線吸収剤等を例示することができる。添加物として挙げた各種の具体的物質は特に限定されず、押出発泡シートに求められる性質等に応じて適宜採用されてよい。具体的物質については、例えば、酸化防止剤としては、酸化チタン、カーボン等が挙げられる。安定剤は、熱安定剤などを例示することができる。着色剤は、各種の顔料等を例示することができる。消臭剤としては、例えば、ゼオライト、シリカ、リン酸ジルコニウム等を例示することができる。添加物としては、一種類でも複数種類のものが採用されてもよい。
【0038】
添加物の含有量は、特に限定されないが、押出発泡シートの成形性に対する影響を抑制する観点からは、基材樹脂に対する質量比率で0.03質量%以上25質量%以下程度であることが好ましい。
【0039】
(押出発泡シートの厚み)
押出発泡シートの厚みは、特に限定されないが、おおむね0.5mm以上15mm以下であることが好ましい。押出発泡シートの厚みがこの範囲にあると、押出発泡シートを食品容器、弁当箱等の折箱、ディスプレイパネル等の用途に好適に用いることができる。本発明の押出発泡シートを熱成形用の押出発泡シートとして好適に用いることができ、剛性、断熱性、及び取り扱い性等に優れる容器を熱成形可能なものとなる観点から、押出発泡シートの厚みは、0.5mm以上3mm以下であることがより好ましい。
【0040】
(押出発泡シートの厚みの測定方法)
押出発泡シートの厚み(mm)は、押出発泡シートの幅方向にわたって等間隔の10箇所について厚みを測定し、それらを算術平均することにより求められる値として定めることができる。
【0041】
(押出発泡シートの見掛け密度)
押出発泡シートの見掛け密度は、50kg/m3以上300kg/m3以下である。押出発泡シートの見掛け密度が小さすぎると、押出発泡シートを熱成形して得られる容器等の成形体の強度が低下するおそれがある。また、押出発泡シートの見掛け密度が大きすぎると、上記成形体の断熱性及び軽量性が低下するおそれがある。これらの観点から、押出発泡シートの見掛け密度は、80kg/m3以上180kg/m3未満であることが好ましく、また100kg/m3以上150kg/m3未満であることがより好ましい。なお、ここにいう見掛け密度は、後述する表層部の発泡シートの見掛け密度とは異なり、発泡シートの厚み方向の全体についての密度を示すものとする。
【0042】
(押出発泡シートの見掛け密度の測定方法)
押出発泡シートの見掛け密度は、例えば、次のようにして測定される値として特定することができる。まず、押出発泡シートから縦25mm×横25mmの試験片を切り出す。試験片の厚みは押出発泡シートの厚みである。次に、切り出された試験片の質量(g)を測定する。測定された質量を1600倍して、単位換算することで坪量(g/m2)を求める。さらに、求められた押出発泡シートの坪量(g/m2)を押出発泡シートの厚み(mm)で除した値を単位換算し、押出発泡シートの見掛け密度(kg/m3)とする。上記測定を、押出発泡シートの幅方向における等間隔の10箇所について行い、それらの算術平均値を押出発泡シートの見掛け密度とする。
【0043】
(押出発泡シートの坪量)
押出発泡シートの坪量は、100g/m2~400g/m2が好ましく、より好ましくは150g/m2~300g/m2である。坪量がこの範囲内であると、押出発泡シートを熱成形して得た容器が、剛性と軽量性とのバランスにより優れたものとなる。
【0044】
(押出発泡シートの坪量の測定方法)
押出発泡シートの坪量は、例えば、次のようにして測定される値として特定することができる。まず、押出発泡シートから縦25mm×横25mmの試験片を切り出す。試験片の厚みは押出発泡シートの厚みである。次に、切り出された試験片の質量(g)を測定する。測定された質量を1600倍して、単位換算することで坪量(g/m2)を求める。上記測定を、押出発泡シートの幅方向における等間隔の10箇所について行い、それらの算術平均値を押出発泡シートの坪量とする。
【0045】
(押出発泡シートの独立気泡率)
押出発泡シートの独立気泡率は、70%以上であり、75%以上であることが好適である。押出発泡シートの独立気泡率がこの好適な範囲であることで、押出発泡シートを用いた成形体を熱成形する際の押出発泡シートの二次発泡性を良好にすることができる。また、押出発泡シートを熱成形することで得られる成形体の強度等を確保することができる。この観点から、押出発泡シートの独立気泡率は、80%以上であることが好ましい。
【0046】
(押出発泡シートの独立気泡率の測定方法)
押出発泡シートから無作為に25mm×25mm×シート厚み(押出発泡シートの厚み)に切断したカットサンプルを作製する。シート厚みの総和が20mmに最も近づくように(ただし、20mmを超えない。)カットサンプルを複数枚重ねて試験片とする。次に、ASTM-D2856-70の手順Cに従って、東芝ベックマン株式会社の空気比較式比重計930型等を使用して試験片の真の体積Vxを測定し、下記数式(式(1))により独立気泡率S(%)を計算する。上記測定を、5個の試験片を用いて行い、その算術平均値を発泡シートの独立気泡率とする。
【0047】
【0048】
ただし、
Vx:上記方法で測定された試験片の真の体積(cm3)であり、発泡シートを構成する樹脂の容積と、試験片内の独立気泡部分の気泡全容積との和に相当する、
Va:測定に使用された試験片の外寸から計算された試験片の見掛け上の体積(cm3)、
W:測定に使用されたカットサンプル全質量(g)、そして
ρ:発泡シートを構成する樹脂の密度(g/cm3)、
である。
【0049】
(押出発泡シートの表層部の見掛け密度)
押出発泡シートの表層部の見掛け密度(kg/m3)は、押出発泡シートの表面から厚み方向に200μmまでの部分の見掛け密度と定義される。押出発泡シートの表層部の見掛け密度(kg/m3)は、50kg/m3以上450kg/m3以下であることが好ましい。表面が平滑で外観が優れる押出発泡シートを得るという観点から、押出発泡シートの表層部の見掛け密度が押出発泡シートの上述した見掛け密度よりも高いことが好ましく、押出発泡シートの見掛け密度に対する押出発泡シートの表層部の見掛け密度の比率が1.1以上であることがより好ましく、1.2以上であることがさらに好ましい。押出発泡シートの見掛け密度に対する押出発泡シートの表層部の見掛け密度の比率の上限は概ね1.5であることが好ましい。なお、押出発泡シートの表層部の見掛け密度を特定範囲とするために環状ダイから押出された直後の筒状発泡体に冷却エアーを当てて冷却することで、押出発泡シートの表層部の見掛け密度を高めると共に、ポリスチレン系樹脂発泡層の表層部の気泡の成長を抑制することが好ましい。
【0050】
(押出発泡シートの表層部の見掛け密度の測定方法)
押出発泡シートの表面から厚み方向に200μmの部分をスライスし、長さ(シートの押出方向)と幅(シートの押出方向と直行する幅方向)を切り揃えた試験片を得て、試験片の質量と厚みをゲージ等により測定する。試験片の質量を試験片の体積(幅×長さ×厚み)で除し、単位換算して試験片の見掛け密度を求めることにより押出発泡シートの表層部の見掛け密度を求めることができる。
【0051】
[1-2 作用及び効果]
食品収容用の容器などの様々な分野でポリスチレン系樹脂を用いた押出発泡シートの熱成形体が用いられている。熱成形体は、例えば、金型などを用いて押出発泡シートを加熱条件下で用途に応じた形状に賦形することで得ることができる。こうした熱成形体は、使い捨て用途で使用されることも多く、自然環境への影響を懸念されている。また、ポリスチレン系樹脂は石油系の原料を用いて製造されることも多く石油資源への影響も懸念される。そこで、熱成形体に使用される樹脂の一部あるいは全部を、生分解性樹脂やバイオマス由来の原料から合成できる樹脂とすることが検討される。
【0052】
第1の実施形態にかかる押出発泡シートは、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とポリ乳酸系樹脂との混合樹脂を基材樹脂としている。押出発泡シートがこのようなポリ乳酸系樹脂を基材樹脂の一部に使用されることで、環境負荷低減に貢献することができる。例えば、ポリ乳酸系樹脂系の一例であるポリ乳酸は、バイオマス由来の原料から合成できる樹脂であり、且つ、コンポスト化において生分解可能な樹脂であることから、環境負荷軽減に貢献する。
【0053】
ポリ乳酸系樹脂とポリスチレン系樹脂を含む樹脂を基材樹脂として用いて押出発泡シートを形成する場合の課題として、押出発泡シートの表面における凹凸や筋模様などの外観への影響や、押出発泡シートを二次成形する際の熱成形性等への影響が懸念されている。その原因は明らかではないが、こうした懸念の要因として、ポリスチレン系樹脂とポリ乳酸系樹脂との相溶性の低さや、ポリスチレン系樹脂を含有する樹脂が発泡できる温度として想定される温度(第1想定温度とよぶ)とその樹脂にポリ乳酸系樹脂をさらに添加された状態で樹脂が発泡できる温度として想定される温度(第2想定温度)とのズレ等を考えることができる。この点、本発明の押出発泡シートにおいては、ポリ乳酸系樹脂の融点Tm[℃]やポリ乳酸系樹脂の融点Tm[℃]と混合樹脂のビカット軟化温度Vst[℃]との差(Tm-Vst)の値を所定の範囲としていることで、第1想定温度と第2想定温度の差を押出発泡を行う上での適切な範囲に収めることが可能となっていると予想することができる。このため、本発明によれば、発泡性に優れ、成形性と外観に優れた押出発泡シートを得ることができると考えられる。
【0054】
[2 第2の実施形態(押出発泡シートを有する積層シート(表皮付き発泡シート))]
第1の実施形態で説明した押出発泡シートに対して表皮層が設けられていてもよい。すなわち、押出発泡シートは、押出発泡シートとその押出発泡シートの表面に表皮層を積層した積層シートとされて用いられてもよい。積層シートは、押出発泡シートと表皮層を有するものであり、いわゆる表皮付き発泡シートである。このような積層シートの形態を第2の実施形態と称呼する。
【0055】
第2の実施形態にかかる積層シートは、押出発泡シートとして、上記した第1の実施形態にかかる押出発泡シートが用いられる。したがって、第2の実施形態では、積層シートを形成する押出発泡シートは第1の実施形態にかかる押出発泡シートと実質的に同一の構成となるため、説明を省略する。
【0056】
(表皮層)
表皮層の構造は、押出発泡シートとは異なる構造を有する層であれば、特に限定されない。表皮層としては、例えば、非発泡状態の樹脂製の層(以下、単に樹脂層と称呼することがある)を例示することができる。押出発泡シートが、表皮層を有することで表面強度や意匠性を向上させることができる。
【0057】
表皮層を構成する樹脂は、特に限定されず、第1の実施形態で説明した押出発泡シートを構成する混合樹脂と同様の樹脂でもよいし、混合樹脂を構成する各種の樹脂(例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂及びポリ乳酸系樹脂から選ばれた樹脂)やそれらの組み合わせでもよい。
【0058】
より具体的には、表皮層としては、例えば、ポリスチレン樹脂製のフィルム、ハイインパクトポリスチレン樹脂製のフィルムなどを用いることができる。熱成形性、押出発泡シートとの融着性の観点からは、表皮層として、ポリスチレン樹脂製のフィルムを用いることが好ましい。また、表皮層は、電子レンジ加熱用途や耐油性の観点からは、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂との多層フィルムやポリオレフィン系樹脂フィルムを用いることが好ましくい。ポリオレフィン系樹脂フィルムとしては、ポリエチレン樹脂製のフィルム、ポリプロピレン系樹脂製のフィルム等を例示することができる。表皮層がこのようなフィルムである場合、フィルムは、無延伸フィルムでもよいし、延伸フィルムでもよい。
【0059】
表皮層の厚みは、特に限定されないが、5μm~100μmであることが好ましく、10μm~80μmであることがより好ましく、15μm~60μmであることがさらに好ましい。
【0060】
表皮層の形成方法は特に限定されない。表皮層は、共押出法で押出発泡シートとともに形成されてもよい。その他にも例えば、押出発泡シートが形成された後に、表皮層をなす樹脂層が加熱条件下で貼り合わせられてもよい(熱ラミネート方法)。こうして押出発泡シートに表皮層を形成した構造を形成することができ、積層シートを得ることができる。
【0061】
[2-2 作用及び効果]
第2の実施形態にかかる積層シートによれば、上記第1の実施形態の作用及び効果で説明したことと同様の作用及び効果を得ることができる。
【0062】
第2の実施形態で示したように、本発明においては、第1の実施形態にかかる押出発泡シートと、表皮層を有する積層シート(表皮付き発泡シート)、という構成を採用することができる。
【0063】
[3 押出発泡シートの製造方法]
本発明にかかる押出発泡シートは、例えば、次のように製造することができる。
【0064】
[3-1 製造方法の内容]
(混合樹脂の調製)
ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂及びポリ乳酸系樹脂を混合した混合樹脂を準備する。第1の実施形態の説明でも示したとおり、混合樹脂は、ポリ乳酸系樹脂の配合量が10質量%以上50質量%以下である。ただし、混合樹脂におけるポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリ乳酸系樹脂の配合量の合計を100質量%とする。また、混合樹脂のビカット軟化温度が110℃以上150℃以下であり、且つ、混合樹脂のビカット軟化温度(Vst[℃])とポリ乳酸系樹脂の融点(Tm[℃])との差(Tm-Vst)の値が、0℃を超え40℃以下である。
【0065】
(混合樹脂の供給)
上記で説明したポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂及びポリ乳酸系樹脂を含有する上記した混合樹脂を基材樹脂として、基材樹脂が押出機に供給される。押出発泡シートを得るための押出機は、特に限定されないが、一般的には、複数台の押出機(例えば第一押出機と第二押出機)を連結した、タンデム押出機を用いられる。通常、第一押出機では、基材樹脂の原料となる各種の樹脂が混合、溶融及び混練され発泡性溶融樹脂が形成される。第二押出機では、第一押出機から送られた発泡性溶融樹脂が所定の温度に調整され、押出発泡が行われる。
【0066】
(押出発泡)
基材樹脂は押出機内で加熱、溶融、及び混練される。なお、押出機には必要に応じて添加される気泡調整剤等の各種の添加剤が供給される。さらに、押出機内に発泡剤が圧入され、基材樹脂をさらに混練することで、発泡性溶融樹脂が形成される。発泡性溶融樹脂は、目的とする樹脂温度に調整された状態とされる。そして所定の樹脂温度に調整された発泡性溶融樹脂を、環状ダイ(円環ダイ等)を通して大気圧下に押出して、発泡性溶融樹脂を発泡させることにより、押出発泡体が円筒状に形成される。環状ダイから押出しされた円筒状の押出発泡体(発泡筒状体)は、冷却機能を備えたマンドレル(冷却用筒)に沿わせて引取りながら冷却される。円筒状の押出発泡体がカッター等で切り裂かれて平面状に展開され、押出発泡シートが得られる。平面状に展開された押出発泡シートは、通常、巻き取りロール等で巻き取られロール状となっている。こうして得られた押出発泡シートの見掛け密度は、二次成形で得られる成形品に求められる機能等に応じて設定されてよいが、押出発泡シートは、その見掛け密度がおおむね50kg/m3以上300kg/m3以下であるものを得ることができる。また、押出発泡シートとして、その独立気泡率が70%以上であるものを得ることができる。
【0067】
なお、発泡剤としては、例えばプロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族 飽和炭化水素類、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、ジメチ ルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル等のエーテル類、二酸化炭素、窒素、水等の物理発泡剤を用いることができる。この中では、本発明の混合樹脂をより容易に可塑化できるため押出発泡シートの製造を容易とする観点、且つ、押出発泡シートを用いた熱成形性を向上させる観点からは、発泡剤としては、炭素数3から5の脂肪族飽和炭化水素から選ばれた1種類以上を用いられることが好ましく、ノルマルブタン、イソブタン又はこれらの混合物を用いられることがより好ましい。
【0068】
発泡剤の添加量、気泡調節剤の添加量は、基材樹脂の種類・発泡剤の種類、気泡調整剤の種類や、目的とする各発泡層の密度によって適宜選択できるが、通常は、基材樹脂100質量部に対して、発泡剤は0.5~10質量部、気泡調整剤は0.1~3質量部である。また、発泡時の溶融樹脂混合物の樹脂温度は、基材樹脂の種類、発泡剤の種類、気泡 調節剤の種類や、目的とする押出発泡シートの密度によって適宜選択できる。
【0069】
上記押出発泡シートの製造方法において、環状ダイが用いられたのは、厚みの調整などの後工程の適用容易性を考慮したためである。また、発泡性溶融樹脂を環状ダイから押出して発泡させることにより、樹脂に配向がかかりやすく、得られる押出発泡シートの剛性を高めることができる。
【0070】
なお、上記の押出発泡シートの製造方法の説明では、混合樹脂を押出機に供給した例が用いられているが、押出発泡シートの製造方法はこれに限定されない。押出機内で押出発泡シートを構成する各種の原料(例えばポリスチレン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂等)が加熱、溶融、及び混練されるのであれば、各種の原料を混合した状態で押出機に供給されても、各種の原料を個別に押出機に供給されてもいずれであってもよい。この場合、押出機への供給順序については、まずポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とを押出機に供給し、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とを混合した後(溶融させた後)、ポリ乳酸系樹脂を押出機に供給してさらに混合させてもよい。また、一部のポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とを押出機に供給し、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とを混合した後(溶融させた後)、ポリ乳酸系樹脂と残りのポリスチレン系樹脂を押出機に供給してさらに混合させてもよい。さらに、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とを混練した混合物(この混合物は、いわゆる変性ポリフェニレンエーテル系樹脂である)を予め調製し、この混合物を押出機に供給し、その後、ポリ乳酸系樹脂を押出機に供給して混合物に対してさらにポリ乳酸系樹脂を混合させてもよい。この場合には、押出機に供給されるポリフェニレンエーテル系樹脂を変性ポリフェニレンエーテル系樹脂に由来するものとすることができる。このように、混合樹脂は、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とを混合した後、ポリ乳酸系樹脂を混合することにより得られることが好ましい。このような混合樹脂は、具体的には、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とを押出機に供給し加熱、溶融及び混練させ第1次混練物を形成した後、ポリ乳酸系樹脂の分解温度未満の温度を加熱温度とした条件下で、第1次混練物を形成した押出機にポリ乳酸系樹脂を供給し、第1次混練物とともに溶融及び混練することによって得ることができる。なお、このとき、発泡剤が押出機内に圧入されていれば、混合樹脂の形成(すなわち基材樹脂の形成)とともに発泡性溶融樹脂が形成された状態となる。ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とを混練した混合物(いわゆる変性ポリフェニレンエーテル系樹脂)を予め調製する場合には、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂のガラス転移温度Tg[℃]が110℃以上150℃以下となるように調製することが好ましい。
【0071】
押出発泡シートの上記した製造方法では、押出発泡シートは、円筒状の押出発泡体を切り裂いてシート状に形成されたが、押出発泡シートの製造方法はこれに限定されない。例えば、押出機から発泡性溶融樹脂を押出して発泡された状態の円筒状の押出発泡体を、その押出方向に対しておおむね垂直な方向に沿ってプレスして押出発泡体の内面を融着させることで1つのシートとしたものが押出発泡シートとして使用されてもよい。
【0072】
[3-2 作用及び効果]
上記した押出発泡シートの製造方法によれば、本発明の押出発泡シートを容易に製造することができる。また、押出発泡シートの製造方法において、物理発泡剤が炭素数3から5の飽和炭化水素から選ばれた1種類以上を用いられる場合、二酸化炭素などの発泡剤に比べてガス透過性が抑えられており(押出発泡シート内に保持されやすい)、熱成形時の二次発泡倍率を高めることができる点で、熱成形性を向上することができる。具体的には、容器等を熱成形する際の加熱温度や加熱時間等の成形条件の範囲を広くすることができる。また、押出発泡シートを製造後、長期にわたって保管した場合であっても良好な熱成形を確保することができる。
【0073】
上記した押出発泡シートの製造方法では、混合樹脂が、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とを混合した後、ポリ乳酸系樹脂を混合することにより得られていることで、より均一に混合樹脂中にポリ乳酸系樹脂が存在する状態を形成することができ、基材樹脂に含まれる樹脂成分の混合ムラを抑制し、外観に優れた押出発泡シートを得ることができる。
【0074】
[4 適用例]
本発明にかかる第1の実施形態に示す押出発泡シートや第2の実施形態に示す積層シートは、そのままシート材として用いられてよい他、様々な成形品の原反材料として用いることができる。押出発泡シートを用いた成形品としては、例えば、丼容器、皿やコップ等の容器類などを挙げることができる。成形品は、押出発泡シートや積層シートを二次成形することで得ることができる。二次成形の方法は特に限定されず、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、プレス成形、射出成形等を例示することができる。
【0075】
次に、実施例を用いてさらに詳細に説明する。
【実施例0076】
(押出機と樹脂の準備)
第一押出機と第二押出機とを連結したタンデム押出機を準備し、表1に示すポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とポリ乳酸系樹脂を準備した。ただし、ポリフェニレンエーテル系樹脂については、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂の混合物の状態で準備された。
【0077】
なお、表1は、準備されたポリ乳酸系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂及びポリスチレン系樹脂それぞれの内容を示す。表1のPLA1、PLA2、PLA3及びPLA4は、それぞれD体化合物(いずれもD体乳酸)の含有率が12質量%、4質量%、2.7質量%、1質量%のポリ乳酸である。PLA1、PLA2、PLA3及びPLA4は、それぞれTotal Corbion社製の商品名(グレード名)LX975、Total Corbion社製の商品名(グレード名)LX175、浙江海正生物材料社製の商品名(グレード名)REVODE110、Total Corbion社製の商品名(グレード名)L175を準備された。
【0078】
また、表1のmPPEは、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂との混合物を示す。また、mPPEについて、ポリフェニレンエーテル系樹脂とポリスチレン系樹脂の含有率は、ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有率が70質量%であり、ポリスチレン系樹脂の含有率が30質量%である。ただし、ポリフェニレンエーテル系樹脂とポリスチレン系樹脂との合計を100質量%とする。mPPEとしては、SABIC社製の商品名(グレード名)EFN4230が準備された。表1のPSは、ポリスチレン系樹脂を示す。PSとしては、PSジャパン社製の商品名(グレード名)GX154が準備された。
【0079】
表1には、各樹脂のガラス転移温度(Tg)が示されており、PLA1、PLA2、PLA3、PLA4及びPSの各樹脂についてのMFRが示されている。表1には、PLA1、PLA2、PLA3及びPLA4の各樹脂について、さらに、結晶化温度、融点(Tm)が示されている。表1には、基材樹脂となる混合樹脂を構成するポリスチレン系樹脂(PS)のビカット軟化温度(℃)についても示されている。表1に示す樹脂のガラス転移温度(℃)及びMFR(g/10min(190℃))、結晶化温度(℃)及び融点(℃)の測定方法、ならびに混合樹脂のビカット軟化温度(℃)の測定方法は、それぞれ以下のとおりである。
【0080】
(樹脂のMFRの測定)
表1に示す樹脂のMFR(g/10min(190℃))は、JIS K7210-1:2014に基づき求めた。測定条件としては、190℃、荷重2.16kgの条件を採用した。
【0081】
(樹脂のガラス転移温度)
表1に示す樹脂のガラス転移温度(℃)は、JIS K7121-1987に準拠して熱流束示差走査熱量測定を行うことにより求めた。測定装置としては熱流束示差走査熱量測定装置(TA Instruments社製「装置名:DSC Q1000」)を用いた。なお、DSC測定における加熱速度は10℃/分とした。DSC測定により得られるDSC曲線の中間点ガラス転移温度を、樹脂のガラス転移温度とした。樹脂のガラス転移温度を求める状態調節として、JIS K7121-1987の「3.試験片の状態調節(3)」に記載の『一定の熱処理を行った後、ガラス転移温度を測定する場合』を採用し、樹脂片をDSC装置の容器に入れ、200℃まで10℃/分にて昇温して加熱溶解させ、直ちに0℃まで10℃/分にて冷却する状態調整を行ったものを試験片とした。
【0082】
(ポリ乳酸系樹脂の融点)
ポリ乳酸系樹脂の融点Tm(℃)は、JIS K7121:1987に基づき求められた。具体的には、状態調節として「(2)一定の熱処理を行なった後、融解温度を測定する場合」を採用し、状態調節された試験片を10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱することによりDSC曲線を取得し、融解(吸熱)ピークの頂点温度を融点とした。なお、測定装置としては、熱流束示差走査熱量測定装置(TA Instruments社製「装置名:DSC Q1000」)を用いた。
【0083】
(ポリ乳酸系樹脂の結晶化温度)
ポリ乳酸系樹脂の結晶化温度Tc(℃)は、JIS K7121:1987に基づき求めた。具体的には、状態調節として「(2)一定の熱処理を行なった後、融解温度を測定する場合」を採用し、状態調節された試験片を10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱することによりDSC曲線を取得し、結晶化(発熱)ピークの頂点温度を結晶化温度とした。なお、測定装置としては、熱流束示差走査熱量測定装置(TA Instruments社製「装置名:DSC Q1000」)を用いた。
【0084】
(混合樹脂のビカット軟化温度の測定)
混合樹脂(ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂及びポリ乳酸系樹脂といった各原料樹脂の混合物)のビカット軟化温度(℃)はJIS K7206:2016のA50法に準拠して求められた。それぞれ実施例及び比較例に示す材料及び配合比率と同じ材料及び配合比率で押出機にて溶融混練した混合樹脂の混練物を230℃で5MPaに加圧することにより気泡が混入しないようにして縦20mm×横20mm×厚み4mmの試験片を作製し、該試験片をアニーリング処理せずに測定に用いた。測定装置としては、株式会社上島製作所製「HDT/VSPT試験装置 MODEL TM-4123」を使用した。
【0085】
【0086】
(実施例1から9及び比較例5)
表2及び表3に示す混合樹脂における原料樹脂の配合比率(混合樹脂の配合比率)(質量%)となるようにポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂及びポリ乳酸系樹脂といった各原料樹脂をタンデム押出機の第一押出機に供給し、さらに第一押出機内で加熱溶融し混練した。なお、ポリスチレン系樹脂と表1に示すmPPEとをポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂との質量割合(ポリスチレン系樹脂:ポリフェニレンエーテル系樹脂)が65:35となるように混練した混合物(変性ポリフェニレンエーテル系樹脂)(mPPE2と称呼することがある)を予め調製した。なお、混合物(mPPE2)のガラス転移温度は131℃であった。mPPE2は、表1に示すmPPEよりもポリスチレン系樹脂の割合が高められている。この変性ポリフェニレンエーテル系樹脂と、ポリスチレン系樹脂及びポリ乳酸系樹脂を適宜組み合わせて表2、表3に示す混合樹脂における原料樹脂の配合比率を実現した。このとき、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂及びポリ乳酸系樹脂の混合樹脂が形成され、この混合樹脂が基材樹脂として用いられる。また、混合樹脂を形成する際には、タルクも第一押出機に供給された。なお、上記した配合比率は、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂及びポリ乳酸系樹脂の質比率(質量%)の合計を100質量%とした場合の値である。
【0087】
次に、第一押出機に物理発泡剤を圧入し、さらに混練して混練物を形成した。混練物を第二押出機に移送し、樹脂温度(混練物の温度)を調整して発泡シート形成用樹脂溶融物を形成した。そして、発泡シート形成用樹脂溶融物を環状ダイ(環状ダイの直径は50mm)から、所定の発泡温度で、吐出量50kg/hrで大気中に押出発泡させて発泡筒状体が形成された。さらに発泡筒状体を外径150mmの冷却用筒(マンドレル)の外面に沿わせながら、ブロー比を3として、引取速度8m/minで引取りながら、発泡筒状体を押出方向に沿って切り開くことで、押出発泡シートが製造された。
【0088】
上記タルクは、気泡調整剤として用いられ、ポリスチレン系樹脂とポリ乳酸系樹脂との合計100質量部に対して2質量部の比率で第一押出機に供給された。また、上記物理発泡剤は、ブタン(イソブタン30質量%とノルマルブタン70質量%との混合ブタン)を用いられ、ポリスチレン系樹脂とポリ乳酸系樹脂との合計100質量部に対して2.3質量部となるように第一押出機に圧入された。
【0089】
(比較例1から4,6)
溶融混練時に、予めポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂とを混練した混合物(mPPE2)を調製することなく、表1に示すmPPE、ポリスチレン系樹脂、ポリ乳酸を第一押出機に供給して表3に示す混合樹脂における原料樹脂の配合比率を実現した以外は、実施例1と同様にして押出発泡シートを製造した。
【0090】
実施例1から9及び比較例1から6それぞれについて、下記のように押出発泡シートの製造時の状況を観察し、製造安定性を評価した。また、実施例1から9及び比較例1から6それぞれについて、得られた押出発泡シートを室内環境下(23℃、相対湿度50%)で1週間養生し、養生後の押出発泡シートを用いて、下記のように厚み、坪量、発泡倍率、見掛け密度、幅、厚み方向の平均気泡径、独立気泡率、表層部の見掛け密度、及び外観(表面性)の評価を行った。結果を表2及び表3に示す。なお、表2及び表3には、各実施例及び比較例で使用された基材樹脂となる混合樹脂のビカット軟化温度Vst(℃)についても示されている。混合樹脂のビカット軟化温度Vst(℃)は、既述したようにJIS K7206:2016のA50法にて求められる。
【0091】
また、実施例1から9及び比較例1から6それぞれについて、押出発泡シートの製造時に用いられる基材樹脂を用いて非発泡の樹脂シートを下記の方法で製造した。
【0092】
(非発泡の樹脂シートの製造)
吐出量15Kgの押出機を準備した。実施例1から9及び比較例1から6それぞれについて、表2及び表3に示すような配合率となるようにポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂及びポリ乳酸系樹脂といった各原料樹脂をこの押出機に供給して、加熱、溶融及び混練して混練物を得た。そして、混練物をスリットダイ(スリットの幅1mm)から押出し、非発泡の樹脂シート(厚さ1.5mm)が製造された。得られた非発泡の樹脂シートについて、外観(表面性)の評価を行った。結果を表2及び表3に示す。
【0093】
表2及び表3に示すとおり、実施例1から9では、押出発泡シートは表面性に優れていた。また、実施例1から9及び比較例1から6のいずれについても、非発泡の樹脂シートについての外観(表面性)は良好であることから、押出発泡シートで表面性を向上させるための条件と、非発泡の樹脂シートで表面性を向上させるための条件が一致していないことが確認された。
【0094】
(押出発泡シートの厚み)
押出発泡シートの厚みは、既述した方法により測定した。
【0095】
(押出発泡シートの坪量及び見掛け密度)
押出発泡シートの見掛け密度は、既述した方法により測定した。具体的には、押出発泡シートの幅方向における等間隔の10箇所それぞれから縦25mm×横25mm×押出発泡シートの厚みの寸法で試験片を切り出して質量を測定した。次に、その質量を1600倍して、単位換算することで坪量が算出された。さらに、算出された押出発泡シートの坪量を押出発泡シートの厚みで除した値を単位換算し、各試験片の見掛け密度を算出した。そして、それらの算術平均値を発泡シートの見掛け密度(D1)とした。
【0096】
(押出発泡シートの幅)
押出発泡シートの幅は、次のように特定された。すなわち、押出発泡シートから互いに異なる位置を10箇所選択し、それぞれの箇所において押出方向に対しておおむね直交する方向に押出発泡シートの一方端から他方端までの距離を測定し、それぞれの箇所で測定された値を算術平均した。この算術平均された値が押出発泡シートの幅とされた。
【0097】
(厚み方向平均気泡径)
押出発泡シートの厚み方向平均気泡径(μm)は、次のように求めた。まず、押出発泡シートを押出方向に対して垂直に切断し、押出発泡シートの幅方向において等間隔な10箇所についての切断面(幅方向垂直断面)の拡大写真を撮影した。次に、各々の切断面の拡大写真に基づいて押出発泡シートの厚み方向(押出方向に対して垂直な方向)の長さを測定した。次に、それぞれの拡大写真において押出発泡シートの厚み方向に直線を引き、直線と交わる押出発泡シート中の全ての気泡数を計測することで、押出発泡シートの厚み方向の気泡数が求められた。次に、10箇所のそれぞれについて、押出発泡シートの厚み方向の気泡数を押出発泡シートの厚み方向の長さで除することで厚み方向の気泡径が算出された。そして求められた10箇所それぞれにおける厚み方向の気泡径の算術平均値を押出発泡シートの平均気泡径(厚み方向平均気泡径)とした。
【0098】
(独立気泡率)
押出発泡シートから無作為に25mm×25mm×シート厚み(押出発泡シートの厚み)に切断したカットサンプルを作製する。シート厚みの総和が20mmに最も近づくように(ただし、20mmを超えない。)カットサンプルを複数枚重ねて試験片とした。次に、ASTM-D2856-70の手順Cに従って、東芝ベックマン株式会社の空気比較式比重計930型等を使用して試験片の真の体積Vxを測定し、下記数式(式(1))により独立気泡率S(%)を計算した。上記測定を、5個の試験片を用いて行い、その算術平均値を発泡シートの独立気泡率とした。
【0099】
【0100】
ただし、
Vx:上記方法で測定された試験片の真の体積(cm3)であり、発泡シートを構成する樹脂の容積と、試験片内の独立気泡部分の気泡全容積との和に相当する、
Va:測定に使用された試験片の外寸から計算された試験片の見掛け上の体積(cm3)、
W:測定に使用されたカットサンプル全質量(g)、そして
ρ:発泡シートを構成する樹脂の密度(g/cm3)、
である。
【0101】
(押出発泡シートの表層部の見掛け密度)
押出発泡シートの表層部の見掛け密度は、次に示されるように特定された。押出発泡シートの表面から厚み方向に200μmの部分をスライスし、長さ(押出発泡シートの押出方向)20mm×幅(押出発泡シートの押出方向と直交する幅方向)5mmの試験片に切り揃えると共に、試験片の質量と厚みをゲージにより測定した。試験片の質量を試験片の体積(幅×長さ×厚み)で除し、単位換算して試験片の見掛け密度を求めた。上記測定を、押出発泡シートの幅方向における等間隔で定められた10箇所について行い、それらの算術平均値を押出発泡シートの表層部の見掛け密度とした。
【0102】
(外観(表面性)の評価)
押出発泡シートの外観の良否の評価方法については、押出発泡シートの表面を目視で観察し、観察結果に基づき、以下の基準により押出発泡シートの外観(表面性)を評価した。観察にあたっては、押出発泡シートから押出方向の長さ1m(幅及び厚みは表2、3に記載の値)の試験片を無作為に20枚切り出し、それぞれの試験片について観察した。
【0103】
◎(きわめて良好):全てのシートの表面に凹凸と筋模様のいずれも認められず表面が平滑であった。
〇(良好):表面に凹凸と筋模様の少なくともいずれか一方が認められるシートが稀に発生したにとどまった。
×(不良):ほぼ全てのシートの表面に凹凸と筋模様の少なくともいずれか一方が見受けられた。
【0104】
なお、ここでは押出発泡シートの外観についての評価方法を記載したが、非発泡シートの外観についての評価方法及び評価の基準についても、押出発泡シートの外観の良否の評価方法及び評価基準と同様である。上記示す評価の基準については、押出発泡シート及び押出発泡シートのいずれについても共通するシートの文言を用いて記載した。
【0105】
さらに、実施例1から9及び比較例1から6のそれぞれについて、得られた押出発泡シートを室内環境下(23℃、相対湿度50%)で30日間養生した発泡シート(養生後の押出発泡シート)を用いて次のように成形品を製造した。そして、押出発泡シートの成形性の評価、成形品の外観(表面性)の評価を行った。結果を表2及び表3に示す。また、養生後の押出発泡シートの厚み(一次厚み)を測定した。さらに養生後の押出発泡シートを用いて二次発泡試験を行った。二次発泡後の厚み(二次厚み)、及び二次発泡倍率の測定を行った。結果を表2及び表3の成形品欄にあわせて示す。
【0106】
(成形品の製造)
養生後の押出発泡シートを用いて、次に示すようなマッチモールド真空成形で成形品(成型品)を得た。真空成形には熱成形機(浅野研究所製 型番FKS-0631-10)が使用された。成形機は、押出発泡シートを加熱させる加熱ゾーンと、成形を行う成形ゾーンとからなり、加熱ゾーンに押出発泡シートの上下に位置して加熱ヒーターが設けられている。押出発泡シートを600mm角の開口部を有する枠に固定して、上側ヒーターを290℃、下側ヒーターを290℃に調整し、押出発泡シートの加熱を13.6秒間行った。その後、成形ゾーンに加熱された押出発泡シートを送り、開口部が直径φ202mmの円形、深さ38mm、絞り比0.19の容器を成形した。
【0107】
上記マッチモールド真空成形は、加熱秒数を上記の値から変更して複数回実施された。良好な成形品を取得できた加熱秒数のうち最長時間と最短時間との差から求められる時間の幅を測定し、この時間幅を成形可能な時間幅とした。
【0108】
(成形性)
成形可能な時間幅に基づき、押出発泡シートの成形性は、次に示す基準で評価された。
◎(きわめて良好):成形可能な時間の幅が8秒以上である。
〇(良好):成形可能な時間の幅が3秒以上8秒未満である。
×(不良):成形可能な時間の幅があったが3秒未満、あるいは良好な成形品を取得することができない。
【0109】
(成形品の外観(表面性))
上記成形品の製造により20個を超える成形品を製造し、得られた複数の成形品から無作為に20個選び、各成形品の表面を目視で観察し、以下の基準により成形品の外観(表面性)を評価した。
◎(きわめて良好):全ての成形品の表面に凹凸と筋模様のいずれもが認められない。
〇(良好):成形品の表面に凹凸と筋模様の少なくともいずれか一方が認められる成形品が稀に認められるにとどまった。
×(不良):ほぼ全ての成形品の表面に凹凸と筋模様の少なくともいずれか一方が見受けられた。
【0110】
(一次厚み)
養生後の押出発泡シートの厚み(一次厚み)は、既述した押出発泡シートの厚みの測定方法と同様の方法により測定された。
【0111】
(二次発泡試験)
養生後の押出発泡シートの幅方向中心付近から200mm×200mmの試験片(押出方向における加熱前の試験片の長さ及び幅方向における加熱前の試験片の長さはいずれも200mm)を切り出し、試験片を160℃に設定したオーブン(タバイエスペック株式会社製 品番 PERFECT OVEN PH-200)に入れ、25秒加熱した。加熱後の試験片をオーブンから取り出した。
【0112】
(二次厚み)
養生後の押出発泡シートの二次発泡後の厚み(二次厚み)は、上記した二次発泡試験で得られる加熱後の試験片の厚みとして測定された。加熱後の試験片の厚みは、既述した押出発泡シートの厚みの測定方法と同様の方法により測定された。
【0113】
(二次発泡倍率)
養生後の発泡シートを160℃のオーブンに入れて加熱し、加熱後の発泡シートについて、押出発泡シートの見掛け密度(D1)の測定方法と同様の方法により、見掛け密度(D2)を測定した。二次発泡倍率(倍)は、以下の数式(式(2))で算出された。
【0114】
【0115】
表2及び表3に示すとおり、実施例1から9では、押出発泡シートの成形性及び成形品の表面性が優れていることが確認された。
【0116】
【0117】
【0118】
以上、本発明の第1の実施形態、第2の実施形態、製造方法及び適用例について具体的に説明したが、これらは一例であり、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0119】
例えば、上述において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値等を用いてもよい。また、上述の実施形態等の構成、方法、工程、形状、材料および数値等は、本発明の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。