(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147697
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】摩擦攪拌接合装置及び摩擦攪拌接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
B23K20/12 340
B23K20/12 310
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055351
(22)【出願日】2022-03-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(71)【出願人】
【識別番号】592015271
【氏名又は名称】テクノエイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石黒 幸一
(72)【発明者】
【氏名】篠原 俊
(72)【発明者】
【氏名】宮部 昇三
(72)【発明者】
【氏名】小林 義章
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA06
4E167BG13
4E167BG16
4E167BG20
4E167BG22
(57)【要約】
【課題】
接合温度に対応して、接合ツールの進行速度または回転速度を最適に保持することが可能な摩擦攪拌接合装置を提供する。
【解決手段】
接合ツールを目標回転速度で回転させながら被接合部材に目標深度まで挿入し、前記被接合部材の挿入部及びその近傍を軟化させ、前記被接合部材を摩擦攪拌接合する部位を示す接合線に沿って前記接合ツールを進行させて前記被接合部材を摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合装置であって、前記摩擦攪拌接合装置は、前記接合ツールが接合方向に進行しながら前記被接合部材を摩擦攪拌接合するときに、前記接合線の直下を含む前記挿入部近傍の温度を示す接合温度の値に基づいて、前記接合ツールの進行速度および回転速度の少なくとも何れかを制御することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合ツールを目標回転速度で回転させながら被接合部材に目標深度まで挿入し、前記被接合部材の挿入部及びその近傍を軟化させ、前記被接合部材を摩擦攪拌接合する部位を示す接合線に沿って前記接合ツールを進行させて前記被接合部材を摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合装置であって、
前記摩擦攪拌接合装置は、前記接合ツールが接合方向に進行しながら前記被接合部材を摩擦攪拌接合するときに、前記接合線の直下を含む前記挿入部近傍の温度を示す接合温度の値に基づいて、前記接合ツールの進行速度および回転速度の少なくとも何れかを制御することを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦攪拌接合装置であって、
前記摩擦攪拌接合装置は、前記接合ツールにより前記被接合部材の摩擦攪拌接合を開始する位置から摩擦攪拌接合を終了する位置までを所定の間隔で複数に分割して、それぞれの分割した区間を示す分割区間ごとに設定する基準接合温度に対応して設定する基準進行速度によりそれぞれの前記分割区間ごとの前記進行速度の目標値を設定し、かつ前記基準接合温度に対応して設定する基準回転速度によりそれぞれの前記分割区間ごとの前記回転速度の目標値を設定することを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項3】
請求項2に記載の摩擦攪拌接合装置であって、
前記摩擦攪拌接合装置は、前記被接合部材を摩擦攪拌接合する前段階のテスト接合において、それぞれの前記分割区間ごとに所望の摩擦攪拌接合が可能な前記接合温度の下限値と上限値とを計測してその温度範囲を前記基準接合温度として設定し、そのときの前記進行速度を計測して前記基準進行速度として設定するとともに、そのときの前記回転速度を計測して前記基準回転速度として設定することを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項4】
請求項3に記載の摩擦攪拌接合装置であって、
前記摩擦攪拌接合装置は、前記テスト接合を所定回数繰り返し、前記基準接合温度と前記基準進行速度と前記基準回転速度との相関関係の組合せを所定数準備し、前記被接合部材を摩擦攪拌接合するときに、取得した前記接合温度が属する基準接合温度を選択してそれに対応する前記基準進行速度と前記基準回転速度を選択することを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項5】
請求項2に記載の摩擦攪拌接合装置であって、
前記摩擦攪拌接合装置は、前記被接合部材を摩擦攪拌接合する前段階のテスト接合において、それぞれの前記分割区間ごとに所望の摩擦攪拌接合が可能な前記接合温度を計測して前記基準接合温度として設定し、そのときの前記進行速度を計測して前記基準進行速度として設定するとともに、そのときの前記回転速度を計測して前記基準回転速度として設定することを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項6】
請求項5に記載の摩擦攪拌接合装置であって、
前記摩擦攪拌接合装置は、前記被接合部材を摩擦攪拌接合するときに、それぞれの前記分割区間ごとに設定した前記基準進行速度を前記進行速度の目標値として選択し、それぞれの前記分割区間ごとに設定した前記基準回転速度を前記回転速度の目標値として選択することを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項7】
請求項2から6のいずれか1項に記載の摩擦攪拌接合装置であって、
前記摩擦攪拌接合装置は、前記被接合部材を載置する載置台において、前記接合線の直下で、それぞれの前記分割区間ごとに1つ以上配設した温度センサにより前記接合温度を取得することを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項8】
以下のステップを含む摩擦攪拌接合方法;
(a)接合ツールにより被接合部材を摩擦攪拌接合する前段階のテスト接合を所定回数実施し、前記被接合部材を載置する載置台において前記被接合部材を摩擦攪拌接合する部位を示す接合線を所定の間隔で複数の区間に分割するステップ、
(b)前記(a)ステップで分割したそれぞれの分割区間ごとに前記接合線の直下で前記載置台に1つ以上配設した温度センサにより所望の摩擦攪拌接合が可能な前記接合ツール近傍の温度を示す接合温度の下限値と上限値と温度範囲を前記分割区間ごとに所定数取得して基準接合温度として設定するステップ、
(c)前記(b)ステップと並行して、前記接合ツールの進行速度を所定数取得して基準進行速度として設定するとともに、そのときの前記接合ツールの回転速度を所定数取得して基準回転速度として設定するステップ、
(d)前記被接合部材を摩擦攪拌接合する際に、それぞれの前記分割区間ごとに前記温度センサにより現在の接合温度を取得して、それぞれの前記分割区間ごとに前記現在の接合温度の属する前記基準接合温度を選択して、前記選択した基準接合温度に対応する前記基準進行速度を前記進行速度の目標値として設定し、および/または、前記選択した基準接合温度に対応する前記基準回転速度を前記回転速度の目標値として設定するステップ。
【請求項9】
以下のステップを含む摩擦攪拌接合方法;
(a)接合ツールにより被接合部材を摩擦攪拌接合する前段階のテスト接合を実施し、前記被接合部材を載置する載置台において前記被接合部材を摩擦攪拌接合する部位を示す接合線を所定の間隔で複数の区間に分割するステップ、
(b)前記(a)ステップで分割したそれぞれの分割区間ごとに前記接合線の直下で前記載置台に1つ以上配設した温度センサにより所望の摩擦攪拌接合が可能な前記接合ツール近傍の温度を示す接合温度を前記分割区間ごとに取得して基準接合温度として設定するステップ、
(c)前記(b)ステップと並行して、前記接合ツールの進行速度を取得して基準進行速度として設定するとともに、そのときの前記接合ツールの回転速度を取得して基準回転速度として設定するステップ、
(d)前記被接合部材を摩擦攪拌接合する際に、それぞれの前記分割区間ごとに前記基準進行速度を前記進行速度の目標値として設定し、および/または、前記基準回転速度を前記回転速度の目標値として設定するステップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被接合部材同士を摩擦攪拌接合により接合する摩擦攪拌接合装置の構成とその制御に係り、特に、高品質(高精度)な接合が要求される被接合部材の接合に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
円柱状の接合ツールを回転させて発生する摩擦熱で被接合材料を軟化させ、その部分を攪拌することで被接合材料同士を接合する摩擦攪拌接合(FSW:Friction Stir Welding)は、材料以外の素材を用いないため、疲労強度が高く、材料も溶融しないことから溶接変形(ひずみ)の少ない接合が可能であり、航空機や自動車のボディなど、幅広い分野での応用が期待されている。
【0003】
本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1のような技術がある。特許文献1には、「接合ツール(プローブ型回転工具に相当)に直結して配設した反力検知センサを用いて、接合ツールの接合動作時に、接合ツールが被接合部材(被加工物に相当)から受ける反力(反作用力)を反力検知センサで検出し、反力に応じて接合ツールの進行速度(移動速度に相当)を制御する摩擦攪拌接合用回転工具の制御方法」が開示されている。
【0004】
具体的には、運用を開始する前段階において、良好な接合品質(接合表面に相当)を維持できる最大進行速度を求め、それに対応する反力を基準値として設定し、運用段階においては、取得した反力の現在値を基準値に近づくように接合ツールの進行速度を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示された接合ツールの進行速度の制御方法においては、接合ツールを被接合部材に挿入した挿入部近傍の温度を示す接合温度を考慮していない。従って、必ずしも良好な接合品質を保持できるとは限らない。
【0007】
摩擦攪拌接合においては、接合ツールを所定の回転速度で回転させながら被接合部材に所定の挿入深度まで挿入し、良好な接合品質を保持できるまで入熱処理を行い、接合ツールを接合線に従って所定の進行速度で進行させる。接合温度は、既に接合加工を終了した部位の入熱に影響を受けて蓄熱され、一定とはならない。接合ツールの進行速度、または回転速度については、この温度変動を考慮して制御する必要がある。
【0008】
特許文献1では、接合品質を保持できる接合ツールの最大の進行速度を求め、その際の被接合部材からの接合ツールに対する反力を計測して基準値として設定し、運用段階においては反力の現在値を取得して、その値が基準値に近づくように接合ツールの進行速度を制御する。反力は、接合温度変動の影響を受け、一定とはならない。つまり、接合ツールにより接合開始位置から接合終了位置の間において、接合温度が変動するとそれに影響されて反力(負荷)も変動する。この変動に関して考慮されていない。
【0009】
そこで、本発明の目的は、接合温度に対応して、接合ツールの進行速度または回転速度を最適に保持することが可能な摩擦攪拌接合装置及び摩擦攪拌接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、接合ツールを目標回転速度で回転させながら被接合部材に目標深度まで挿入し、前記被接合部材の挿入部及びその近傍を軟化させ、前記被接合部材を摩擦攪拌接合する部位を示す接合線に沿って前記接合ツールを進行させて前記被接合部材を摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合装置であって、前記摩擦攪拌接合装置は、前記接合ツールが接合方向に進行しながら前記被接合部材を摩擦攪拌接合するときに、前記接合線の直下を含む前記挿入部近傍の温度を示す接合温度の値に基づいて、前記接合ツールの進行速度および回転速度の少なくとも何れかを制御することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、(a)接合ツールにより被接合部材を摩擦攪拌接合する前段階のテスト接合を所定回数実施し、前記被接合部材を載置する載置台において前記被接合部材を摩擦攪拌接合する部位を示す接合線を所定の間隔で複数の区間に分割するステップ、(b)前記(a)ステップで分割したそれぞれの分割区間ごとに前記接合線の直下で前記載置台に1つ以上配設した温度センサにより所望の摩擦攪拌接合が可能な前記接合ツール近傍の温度を示す接合温度の下限値と上限値と温度範囲を前記分割区間ごとに所定数取得して基準接合温度として設定するステップ、(c)前記(b)ステップと並行して、前記接合ツールの進行速度を所定数取得して基準進行速度として設定するとともに、そのときの前記接合ツールの回転速度を所定数取得して基準回転速度として設定するステップ、(d)前記被接合部材を摩擦攪拌接合する際に、それぞれの前記分割区間ごとに前記温度センサにより現在の接合温度を取得して、それぞれの前記分割区間ごとに前記現在の接合温度の属する前記基準接合温度を選択して、前記選択した基準接合温度に対応する前記基準進行速度を前記進行速度の目標値として設定し、および/または、前記選択した基準接合温度に対応する前記基準回転速度を前記回転速度の目標値として設定するステップ、を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、(a)接合ツールにより被接合部材を摩擦攪拌接合する前段階のテスト接合を実施し、前記被接合部材を載置する載置台において前記被接合部材を摩擦攪拌接合する部位を示す接合線を所定の間隔で複数の区間に分割するステップ、(b)前記(a)ステップで分割したそれぞれの分割区間ごとに前記接合線の直下で前記載置台に1つ以上配設した温度センサにより所望の摩擦攪拌接合が可能な前記接合ツール近傍の温度を示す接合温度を前記分割区間ごとに取得して基準接合温度として設定するステップ、(c)前記(b)ステップと並行して、前記接合ツールの進行速度を取得して基準進行速度として設定するとともに、そのときの前記接合ツールの回転速度を取得して基準回転速度として設定するステップ、(d)前記被接合部材を摩擦攪拌接合する際に、それぞれの前記分割区間ごとに前記基準進行速度を前記進行速度の目標値として設定し、および/または、前記基準回転速度を前記回転速度の目標値として設定するステップ、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接合温度に対応して、接合ツールの進行速度または回転速度を最適に保持することが可能な摩擦攪拌接合装置及び摩擦攪拌接合方法を実現することができる。
【0014】
これにより、被接合部材同士の高品質(高精度)な摩擦攪拌接合が可能となる。
【0015】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例1に係る摩擦攪拌接合装置の全体概要を示す図である。
【
図2】
図1の載置台と温度センサの具体例を示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施例1に係る接合線と分割区間を示す図である。
【
図4】本発明の実施例1に係る基準接合温度と基準進行速度と基準回転速度の相関関係を示す図である。
【
図5】主軸モータ負荷率と接合ツール挿入動作の関係を概念的に示す図である。
【
図6】本発明の実施例3に係る接合ツールの進行速度及び回転速度の目標値設定方法を用いた摩擦攪拌接合方法を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の実施例4に係る接合ツールの進行速度及び回転速度の目標値設定方法を用いた摩擦攪拌接合方法を示すフローチャートである。
【
図8A】本発明の実施例5に係る摩擦攪拌接合装置の全体概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【実施例0018】
図1から
図5を参照して、本発明の実施例1に係る摩擦攪拌接合装置及び摩擦攪拌接合方法について説明する。
【0019】
図1は、本実施例に係る摩擦攪拌接合装置1の全体概要を示す図である。
【0020】
本実施例の摩擦攪拌接合装置1は、
図1に示すように、主要な構成として、装置本体2と、Z軸上下動駆動機構部3を介して装置本体2に接続される主軸支持部4と、主軸支持部4により保持される主軸15と、主軸15により保持されるツールホルダ(接合ヘッド)5と、ツールホルダ(接合ヘッド)5により保持される接合ツール6とを備えて構成されている。
【0021】
Z軸上下動駆動機構部3には、
図1に例示するように、例えばボールスクリュー、リニアガイドなどが用いられ、Z軸上下動駆モータ16により装置本体2に対して主軸支持部4をZ軸方向(上下方向)に駆動させる。
【0022】
接合ツール6はショルダ部7およびプローブ部(接合ピン)8で構成され、主軸モータ14に連結(
図1では直結)されている。主軸モータ14は、接合ツール6を所定方向に回転させる。
【0023】
装置本体2は、Z軸上下動駆動機構部3を介して主軸支持部4を支持し、装置本体2に搭載(付属)された制御部(制御装置)11から主軸モータ14に駆動信号を付与して接合ツール6を回転させながら接合線に沿って進行させる。つまり、装置本体2は、主軸支持部4と、主軸15と、ツールホルダ(接合ヘッド)5を保持し、接合ツール6を回転させると共に、接合ツール6を
図1のX軸方向およびZ軸方向に移動させる。
【0024】
接合ツール6を所定の回転数で回転させながら、載置台10上に載置された被接合部材9(9a,9b)表面の接合線上にショルダ部7とプローブ部8とを押し付けることにより摩擦熱を発生させて被接合部材9を軟化させ、ショルダ部7とプローブ部8とを被接合部材9に必要量挿入し、当該回転数を保持することで塑性流動が生じ、挿入部が攪拌される。接合ツール6を引き抜く、又は移動することで攪拌部(接合部)が冷却され、被接合部材9は接合される。
【0025】
なお、
図1では、ツールホルダ(接合ヘッド)5及び接合ツール6が、主軸15及び主軸支持部4、Z軸上下動駆動機構部3を介して装置本体2に接続(保持)される構成を示しているが、これに限定されるものではなく、例えば、Z軸上下動駆動機構部3のみを介して装置本体2に接続(保持)される構成や、他の可動手段を介して装置本体2に接続(保持)される構成、ツールホルダ(接合ヘッド)5及び接合ツール6が直接装置本体2に接続(保持)される構成、或いは、
図1の構成に、さらにツールホルダ(接合ヘッド)5と装置本体2の間にC型フレームを設ける構成、多軸ロボットアームを有する装置本体2に接続(保持)される構成なども本実施例の範囲に含むものとする。
【0026】
また、ショルダ部7とプローブ部(接合ピン)8とが同一である接合ツール(つまりプローブを有さず、ショルダのみ)であっても良く、また、ショルダ部7が回転しない構造であっても良い。
【0027】
装置本体2には、摩擦攪拌接合装置1の動作を制御する制御部(制御装置)11が設置(付属)されている。制御部(制御装置)11は、接合ツール6による接合条件を決定する接合条件信号やZ軸上下動駆動機構部3による接合ツール6の鉛直方向(Z方向)の保持位置(接合ピン8の挿入量)を決定する保持位置決定信号などの接合パラメータ(FSW接合条件)を記憶する記憶部(図示せず)を備えている。なお、制御部11は、制御装置として装置本体とは別に構成してもよい。
【0028】
また、装置本体2には、X軸方向に駆動可能なX軸前後駆動機構部12が設けられており、X軸前後動駆モータ13により装置本体2の上部をX軸方向に設けられたリニアガイドのレールに沿って移動させることで、ツールホルダ(接合ヘッド)5及び接合ツール6をX軸方向(接合方向)へ移動させることができる。
【0029】
ここで、本実施例の摩擦攪拌接合装置1には、
図1に示すように、接合ツール6により被接合部材9を摩擦攪拌接合する際の接合温度を測定する温度センサ17が載置台10に配設されている。温度センサ17は、摩擦攪拌接合する際の接合線に沿ってX軸方向の任意の場所の接合温度を測定できるようX軸方向に複数配置されている。
【0030】
温度センサ17により取得した接合温度情報は、制御部(制御装置)11に入力され、接合ツール6による摩擦攪拌接合の接合条件にフィードバックされる。
【0031】
図2に、載置台10と温度センサ17の具体例を示す。
図2では、載置台10の構成例として、載置台移動機構部10aにより被接合部材9(9a,9b)をX軸方向に移動可能な構造の載置台を示している。
【0032】
上述したように、載置台10には、X軸方向に複数の温度センサ17(ここでは、n1~n5の5個)が配設されており、摩擦攪拌接合する際の接合線に沿ってX軸方向の任意の場所の接合温度を測定することができる。
【0033】
本発明では、後述するように、温度センサ17により取得した接合温度情報に基づいて、被接合部材9(9a,9b)に対する接合ツール6(ショルダ部7及びプローブ部8)のX軸方向進行速度及び回転速度の少なくとも何れかを制御する。
【0034】
次に、
図5を用いて、主軸モータ負荷率と接合ツール挿入動作の関係について説明する。
図5は、主軸モータ負荷率と接合ツール挿入動作の関係を概念的に示す図である。
図5に示すように、接合ツール位置は主軸モータ14の負荷率と関係がある。
【0035】
プローブ部(接合ピン)8を被接合部材9に接触させて接合ツール6の挿入を開始すると、接合ツール位置が深くなるに従い主軸モータ14の負荷率は上昇する。
【0036】
接合ツール6の挿入中にショルダ部7が被接合部材9に接触すると、主軸モータ14の負荷率の上昇率は一時的に低下するが、接合ツール6の挿入がさらに進むと、主軸モータ14の負荷率の上昇率は再び上昇する。
【0037】
接合ツール6の挿入時の目標負荷率または目標接合ツール位置に到達した時点で、接合ツール6の挿入処理を終了し、接合ツール位置を固定した状態で、接合ツール6を一定の時間回転させて被接合部材9への入熱処理を行う。
【0038】
その後、被接合部材9の摩擦攪拌接合処理を行う。摩擦攪拌接合処理の間は、主軸モータ負荷率と接合ツール位置をともに一定の値(目標値)を保持するように、主軸モータ14及びZ軸上下動駆動モータ16の駆動を制御する。
【0039】
摩擦攪拌接合処理が終了した時点で、接合ツール6の引き抜きを開始すると、接合ツール位置が浅くなるに従い主軸モータ14の負荷率は低下する。
【0040】
上記のように、本実施例の摩擦攪拌接合装置1は、接合ツール6を所定の回転速度を示す目標回転速度で回転しながら被接合部材9(9a,9b)に目標とする深度を示す目標深度まで挿入し、その位置において、接合ツール6近傍の被接合部材9の温度を示す接合温度が所望の値に上昇するまで入熱処理を行い、その後、接合線(被接合部材9aと被接合部材9bとの接合部)上を所定の進行速度を示す目標進行速度で接合ツール6を摩擦攪拌接合終了位置まで進行させて被接合部材9(9a,9b)を摩擦攪拌接合する。
【0041】
摩擦攪拌接合は、接合ツール6を回転させて接合ツール6の挿入部とその近傍を軟化させながら進行させて被接合部材9を摩擦攪拌接合するものであり、被接合部材9を軟化させる摩擦熱が重要な要素となる。従って、所望の摩擦攪拌接合品質を確保するためには、摩擦熱、すなわち接合温度を適切に管理することが重要となる。
【0042】
これまでの摩擦攪拌接合装置は、接合温度の変動に関係なく、接合ツールの回転速度の目標値と進行速度の目標値を、被接合部材の材質と厚さに基づく接合条件により設定した初期値により、摩擦攪拌接合開始位置から摩擦攪拌終了位置まで変化させることなく一定に保持する運用が行われてきた。
【0043】
被接合部材の厚みが厚く、少々の接合温度の変動による摩擦攪拌接合品質のばらつきが無視できる用途であれば特に問題になることはない。しかしながら、電動移動体などの車両重量の軽量化に供することを目的として使用されるアルミ薄板材を被接合部材とする場合には、接合温度の変動による摩擦攪拌接合品質のばらつきが問題となる場合がある。本発明は、この課題を解決するものである。
【0044】
摩擦熱の大小、すなわち接合温度の高低は、接合ツールの回転速度および/または進行速度の値により定まる。
【0045】
例えば、一定の回転速度であっても、進行速度を遅くすれば接合温度は上昇し、また、一定の進行速度であっても回転速度を速くしても接合温度は上昇する。逆に、一定の回転速度であっても、進行速度を速くすれば接合温度は下降し、また、一定の進行速度であっても回転速度を遅くしても接合温度は下降する。
【0046】
従って、接合温度を制御するには、接合ツールの回転速度および/または進行速度を制御する必要がある。つまり、所望の摩擦攪拌接合品質を確保するには、接合温度を適正に管理できるように、接合ツールの回転速度および/または進行速度を制御することが必要である。
【0047】
そこで、本発明では、接合ツール6の回転速度と進行速度の目標値を設定して管理する。
【0048】
図3に、摩擦攪拌接合する際の接合線18と、接合線18を所定の間隔で複数の区間に分割した分割区間を示す。なお、
図3では、分かり易いように、被接合部材9(9a,9b)の図示を省略している。
【0049】
先ず、
図3に示すように、接合線18を所定の間隔で複数の区間(ここでは、分割区間1~分割区間7の7区間)に分割する。それぞれの分割区間ごとに接合ツール6の回転速度と進行速度の目標値を設定する。その設定方法について詳述する。
【0050】
摩擦攪拌接合装置1により被接合部材9の本運用接合をする前段階において、テスト接合を実施する。テスト接合において、各接合条件(回転速度と進行速度)で分割区間ごとに所望の摩擦攪拌接合品質を確保できる接合温度の範囲を定める下限値と上限値とを計測する。さらに、そのときの接合ツール6の回転速度と進行速度を計測する。
【0051】
これらの接合温度範囲、接合ツール6の回転速度の値、接合ツール6の進行速度の値を、基準接合温度、基準回転速度、基準進行速度として設定する。
【0052】
この処理を所定回数繰り返し、それぞれの分割区間ごとに、
図4に示す対応表のように、基準接合温度と基準進行速度と基準回転速度の相関関係の組合せを所定数設定する。所定数の相関関係の組合せを準備するのは、ごく微小な温度変化に対応し、最高精度の摩擦攪拌接合品質を確保するためである。
【0053】
摩擦攪拌接合装置1による本運用接合においては、分割区間ごとに現在の接合温度を示す現在接合温度を取得する。その取得した現在接合温度が属する最も近い基準接合温度を選択し、その選択した基準接合温度に対応する基準回転速度を回転速度の目標値として選択し、その選択した基準接合温度に対応する基準進行速度を進行速度の目標値として選択する。実際には、そのときの接合温度状態により、回転速度か進行速度の何れか一方の目標値を再設定するか、両方の目標値を再設定するか決定する。
【0054】
具体的に本発明を適用した摩擦攪拌接合装置1の本運用接合を説明する。接合ツール6を摩擦攪拌接合開始位置にポジショニングし、接合ツール6の回転速度の初期の目標値を設定して接合ツール6を回転させながら被接合部材9に目標深度まで接合ツール6を挿入する。
【0055】
その位置において入熱処理を行い、現在接合温度を取得する。その分割区間において、該現在接合温度の属する基準接合温度を選択し、該基準接合温度に対応する基準進行速度を接合ツール6の進行速度の目標値として設定し、接合ツール6を接合線18に従って進行させる。
【0056】
次の分割区間に接合ツール6が到達したら、再び現在接合温度を取得し、その分割区間において、該現在接合温度の属する基準接合温度を選択し、該基準接合温度に対応する基準進行速度を接合ツール6の目標値として再設定して接合ツール6の進行を継続する。接合ツール6が次の分割区間に到達する毎にこの処理を繰り返して進行速度を制御し、接合温度を管理する。
【0057】
なお、上記の例では、接合ツール6の回転速度を一定にして進行速度の目標値を分割区間ごとに再設定する方法について説明したが、回転速度の目標値を設定しても良いし、必用であれば、回転速度及び進行速度の両方の目標値を設定しても良い。
【0058】
それぞれの分割区間の接合温度(基準接合温度及び現在接合温度)は、
図2に示すように、それぞれの分割区間ごとに接合線直下で載置台10に配設した温度センサ17を用いて取得する。
【0059】
温度センサ17は、接合線直下に等間隔で配設しても良いが、接合温度の変動度合いに応じて温度センサ17の配設間隔を設定してもよい。例えば、
図3からわかるように、接合温度の変動が比較的小さな接合線の単純形状(直線部)部分においては、温度センサ17を配設する間隔を大きくし、接合温度の変動が比較的大きな複雑形状(曲線部、蛇行曲線部など)部分においては、 温度センサ17を配設する間隔を小さくする。
【0060】
このように温度センサ17を配設することにより、接合温度の変動状態をより精度良く取得することができ、さらに高精度に接合ツール6の進行速度と回転速度を制御することが可能となる。
【0061】
摩擦攪拌接合においては、入熱が接合部以外に伝播することで他の接合部に影響し、接合温度の変動が生じる。接合線18の形状が複雑な場合に、この影響がより大きくなることへ対応するためである。
【0062】
また、本実施例では、分割区間ごとに基準接合温度と基準進行速度と基準回転度速度との相関関係の組合せを所定数準備し、最も高品質の摩擦攪拌接合品質を追及する際の接合ツール6の回転速度制御、進行速度制御について説明したが、要求される摩擦攪拌接合品質が最高品質でない場合は、より簡便な方法で接合ツール6の回転速度、進行速度を制御しても良い。上記の説明では、それぞれの分割区間ごとに基準接合温度と基準進行速度と基準回転速度との相関関係の組合せを設定したが、摩擦攪拌接合開始位置から摩擦攪拌接合終了位置までの全区間において、同じ基準接合温度と基準進行速度と基準回転速度との相関関係の組合せを使用する。
【0063】
その場合は、それぞれの分割区間において現在接合温度は取得するが、該現在接合温度の属する基準接合温度とそれに対応する基準進行速度と基準回転速度については同じ相関関係の組合せの中から選択することになる。
【0064】
また、温度測定位置を接合ツール6の挿入部(接合線)直下ではなく、AS(アドバンシングサイド),RS(リトリーティングサイド)のどちらかに寄せて温度センサ17を配置しても良いし、AS,RSの両方に配置して使用する基準値を各分割区間ごとに選択しても良い。
実施例1においては、微小な接合温度変動にも対応し、最高精度の摩擦攪拌接合品質を確保するために、テスト接合を所定回数繰り返し行い、所定数の基準接合温度、基準進行速度、基準回転速度の相関関係の組合せを設定し、それぞれの分割区間において現在接合温度の属する基準接合温度を選択して、該基準接合温度に対応する基準回転速度を接合ツール6の回転速度の目標値に、該基準接合温度に対応する基準進行速度を接合ツール6の進行速度の目標値にとして選択する制御を示したが、要求される摩擦攪拌接合品質の精度によっては、より簡便な接合ツール6の進行速度制御方法、回転速度制御の方法で接合ツール6の回転速度の目標値及び進行速度の目標値を設定しても良い。
その簡便な制御方法について詳述する。本運用接合の前段階においてテスト接合を実施し、それぞれの分割区間ごとに所望の摩擦攪拌接合品質を確保できる接合温度と接合ツール6の回転速度と接合ツール6の進行速度を計測し、それぞれ基準接合温度、基準進行速度、基準回転速度として設定する。
本運用接合においては、接合ツール6がそれぞれの分割区間に到達したら、到達した分割区間に対応する基準回転速度を接合ツール6の回転速度の目標値として選択し、到達した分割区間に対応する基準進行速度を接合ツール6の進行速度の目標値として選択する。
具体的に本運用接合を説明する。接合ツール6を摩擦攪拌接合開始位置にポジショニングし、接合ツール6の回転速度の初期の目標値を設定して接合ツール6を回転させながら被接合部材9に目標深度まで接合ツール6を挿入する。その位置において入熱処理を行う。
次の分割区間に接合ツール6が到達したら、その分割区間において設定した基準進行速度を選択して接合ツール6の進行速度の目標値として設定し、接合ツール6を接合線18に従って進行させ、接合ツール6の進行を継続する。接合ツール6が次の分割区間に到達する毎にこの処理を繰り返して進行速度を制御し、接合温度を管理する。
なお、上記では、進行速度の目標値を設定する例を説明したが、回転速度の目標値を設定しても良いし、必用であれば、回転速度及び進行速度の両方の目標値を設定しても良い。この制御方法は、それぞれの分割区間ごとの接合ツール6の進行速度と回転速度の目標値を唯一の目標値として準備するものである。
この簡易的な本運用接合においても、接合ツール6の回転速度および/または進行速度を制御することにより接合温度を管理せずに、接合ツール6の回転速度及び進行速度を初期値のまま摩擦攪拌接合する運用に対する優位性について実験で確認済みである。