(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147699
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】銅ナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/30 20060101AFI20231005BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20231005BHJP
【FI】
B22F9/30 Z
B82Y40/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055358
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪本 浩規
(72)【発明者】
【氏名】山本 博輝
【テーマコード(参考)】
4K017
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017BA05
4K017CA08
4K017EK04
(57)【要約】
【課題】本発明は、銅以外の金属原子を使用せずに、水、アルコール類等に均一に分散し、温度、酸素、酸等に因っても酸化されない銅ナノ粒子を、低温且つ高濃度で、均一な分散液として得る事を目的とする。
本発明は、また、得られた分散液を、小粒径のチタニアナノ粒子分散液と組み合わせる事に依って、均一且つ透明性の有る抗菌剤、抗ウイルス剤、防カビ剤、消臭剤等を得る事を目的とする。
【解決手段】R1R2N-R3-OH (式1)(式1中、R1、及びR2は、同一、又は異なって、各々、水素原子、又はアルキル基を示す。R3は、アルキル鎖を示す。)で表される化合物、及びR4R5NCHO (式2)(式2中、R4、及びR5は、同一、又は異なって、各々、水素原子、又はアルキル基を示す。)で表される化合物から成る群から選択される少なくとも一種の有機溶媒中で、銅(II)アセチルアセトナートを、120℃以上で、加熱する工程を含む、銅ナノ粒子の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅ナノ粒子の製造方法であって、
R1R2N-R3-OH (式1)
(式1中、R1、及びR2は、同一、又は異なって、各々、水素原子、又はアルキル基を示す。R3は、アルキル鎖を示す。)
で表される化合物、及び
R4R5NCHO (式2)
(式2中、R4、及びR5は、同一、又は異なって、各々、水素原子、又はアルキル基を示す。)
で表される化合物から成る群から選択される少なくとも一種の有機溶媒中で、
銅(II)アセチルアセトナートを、120℃以上で、加熱する工程、
を含む、製造方法。
【請求項2】
前記式1で表される化合物は、2-(ジメチルアミノ)エタノール、2-(ジエチルアミノ)エタノール、3-(ジメチルアミノ)-1-プロパノール、及び1-(ジメチルアミノ)-2-プロパノールから成る群から選択される少なくとも一種の有機溶媒である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記式2で表される化合物は、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、及びホルムアミドから成る群から選択される少なくとも一種の有機溶媒である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記加熱する温度は、120℃以上、150℃以下である、請求項1~3の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記銅(II)アセチルアセトナート及び前記有機溶媒を含む反応液の全質量中、銅(II)アセチルアセトナートの濃度は、銅原子換算で0.1質量%以上、2.0質量%以下である、請求項1~4の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶媒は、更に、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、及びアニソールから成る群から選択される少なくとも一種の有機溶媒を含むものである、請求項1~5の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記有機溶媒は、沸点が75℃以上、200℃以下の有機溶媒である、請求項1~6の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記有機溶媒中、前記式1で表される化合物及び前記式2で表される化合物から成る群から選択される少なくとも一種の有機溶媒の合計含有比率は、0.01質量%~100質量%である、請求項1~7の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
抗菌剤、抗ウイルス剤、防カビ剤、及び/又は、消臭剤の製造方法であって、
(A)
R1R2N-R3-OH (式1)
(式1中、R1、及びR2は、同一、又は異なって、各々、水素原子、又はアルキル基を示す。R3は、アルキル鎖を示す。)
で表される化合物、及び
R4R5NCHO (式2)
(式2中、R4、及びR5は、同一、又は異なって、各々、水素原子、又はアルキル基を示す。)
で表される化合物から成る群から選択される少なくとも一種の有機溶媒中で、
銅(II)アセチルアセトナートを、120℃以上で、加熱し、銅ナノ粒子分散液を製造する工程、及び
(B)
前記工程(A)で製造した銅ナノ粒子分散液と、チタニアナノ粒子分散液とを混合する工程
を含み、
前記チタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアセトキシ基が結合しており、示差熱熱重量同時測定装置によって600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が5質量%以上であり、粒径が1nm~10nmのものである、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅ナノ粒子は、導電インク、触媒等として用いられている。しかし、銅ナノ粒子は、低温且つ高濃度で作成する事が困難であり、一般に、銅以外の金属元素を有する還元剤を添加する事に依り作成する。また、銅ナノ粒子は、表面が酸化され易く、一般に、脂肪酸等で保護する事に依り作成する。しかし、脂肪酸等で保護された銅ナノ粒子は、水、親水性のアルコール等に溶解する事が難しいという問題、酸性の溶液に接触すると銅イオンが生じるという問題等を生じる。
【0003】
一方、水に溶解し易い銅イオンは、抗菌、抗ウイルス、防カビ、消臭等の効果を有する。しかし、銅イオンは、皮膚感作性(ひふかんさせい)を有し、皮膚が触れる用途に用いる技術分野では検討が必要である。
【0004】
従来、銅塩から銅ナノ粒子を作製する代表的な方法に、ポリオール還元法が知られている(非特許文献1~11)。何れも塩化銅、硫酸銅等無機塩を原料としており、中和剤としてNaOH等の金属塩を用いたり(非特許文献1~7)、NaBH4等のCu以外の金属を含む無機系還元剤を用いたり(非特許文献8~11)している。その事から、反応後に、Cu以外の金属、陰イオン等を除去する為の洗浄処理、分離処理等施さない限り、そのままコーティング液として用いたり、焼成して用いたりしても、銅ナノ粒子以外の物質が残留する。また、反応性を高める為に、マイクロウェーブを用いている例が有るが、特殊設備が必要であり、量産に不適である(非特許文献1及び8)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chem. Commun., 47, 7740 (2011)
【非特許文献2】Mater.Lett., 59, 3933 (2005)
【非特許文献3】Nanoscale Res.Lett., 4, 705 (2009)
【非特許文献4】J.Mater.Chem., 3, 627 (1993)
【非特許文献5】J. Mater.Chem., 21, 7062 (2011)
【非特許文献6】Dalton Transactions, 39, 6496 (2011)
【非特許文献7】Nanotechnology, 16, 3079 (2005)
【非特許文献8】J.Cryst.Growth, 270, 722 (2004)
【非特許文献9】J. Colloid Interface Sci., 311, 417 (2007)
【非特許文献10】Colloids Surf.A, 360, 99 (2010)
【非特許文献11】Adu.Funct.Mater., 18, 679 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、銅以外の金属原子を使用せずに、水、アルコール類等に均一に分散し、温度、酸素、酸等に因っても酸化されない銅ナノ粒子を、低温且つ高濃度で、均一な分散液として得る事を目的とする。
【0007】
本発明は、また、得られた分散液を、小粒径のチタニアナノ粒子分散液と組み合わせる事に依って、均一且つ透明性の有る抗菌剤、抗ウイルス剤、防カビ剤、消臭剤等を得る事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を鑑み、鋭意検討した結果、銅ナノ粒子の製造方法において、特定の構造の銅化合物と特定の構造の溶媒とを組み合わせる事に依り、容易に水、エタノール等に、均一に分散する銅ナノ粒子を得る事が出来、上記課題を解決出来る事を見出した。
【0009】
そして、本発明者は、更に研究を重ね、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0011】
項1.
銅ナノ粒子の製造方法であって、
R1R2N-R3-OH (式1)
(式1中、R1、及びR2は、同一、又は異なって、各々、水素原子、又はアルキル基を示す。R3は、アルキル鎖を示す。)
で表される化合物、及び
R4R5NCHO (式2)
(式2中、R4、及びR5は、同一、又は異なって、各々、水素原子、又はアルキル基を示す。)
で表される化合物から成る群から選択される少なくとも一種の有機溶媒中で、
銅(II)アセチルアセトナートを、120℃以上で、加熱する工程、
を含む、製造方法。
【0012】
項2.
前記式1で表される化合物は、2-(ジメチルアミノ)エタノール、2-(ジエチルアミノ)エタノール、3-(ジメチルアミノ)-1-プロパノール、及び1-(ジメチルアミノ)-2-プロパノールから成る群から選択される少なくとも一種の有機溶媒である、前記項1に記載の製造方法。
【0013】
項3.
前記式2で表される化合物は、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、及びホルムアミドから成る群から選択される少なくとも一種の有機溶媒である、前記項1に記載の製造方法。
【0014】
項4.
前記加熱する温度は、120℃以上、150℃以下である、前記項1~3の何れか1項に記載の製造方法。
【0015】
項5.
前記銅(II)アセチルアセトナート及び前記有機溶媒を含む反応液の全質量中、銅(II)アセチルアセトナートの濃度は、銅原子換算で0.1質量%以上、2.0質量%以下である、前記項1~4の何れか1項に記載の製造方法。
【0016】
項6.
前記有機溶媒は、更に、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、及びアニソールから成る群から選択される少なくとも一種の有機溶媒を含むものである、前記項1~5の何れか1項に記載の製造方法。
【0017】
項7.
前記有機溶媒は、沸点が75℃以上、200℃以下の有機溶媒である、前記項1~6の何れか1項に記載の製造方法。
【0018】
項8.
前記有機溶媒中、前記式1で表される化合物及び前記式2で表される化合物から成る群から選択される少なくとも一種の有機溶媒の合計含有比率は、0.01質量%~100質量%である、前記項1~7の何れか1項に記載の製造方法。
【0019】
項9.
抗菌剤、抗ウイルス剤、防カビ剤、及び/又は、消臭剤の製造方法であって、
(A)
R1R2N-R3-OH (式1)
(式1中、R1、及びR2は、同一、又は異なって、各々、水素原子、又はアルキル基を示す。R3は、アルキル鎖を示す。)
で表される化合物、及び
R4R5NCHO (式2)
(式2中、R4、及びR5は、同一、又は異なって、各々、水素原子、又はアルキル基を示す。)
で表される化合物から成る群から選択される少なくとも一種の有機溶媒中で、
銅(II)アセチルアセトナートを、120℃以上で、加熱し、銅ナノ粒子分散液を製造する工程、及び
(B)
前記工程(A)で製造した銅ナノ粒子分散液と、チタニアナノ粒子分散液とを混合する工程
を含み、
前記チタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアセトキシ基が結合しており、示差熱熱重量同時測定装置によって600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が5質量%以上であり、粒径が1nm~10nmのものである、
製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明に依れば、銅ナノ粒子の製造方法として、金属塩等の除去し難い還元剤を使用せずに、非常に小さい粒子径で、活性が高く、透明なコーティングも可能で、熱、酸素、酸等に由る酸化にも強く、水、親水性アルコール等にも分散する銅ナノ粒子を合成する事が出来る。
【0021】
本発明に依れば、銅ナノ粒子の製造方法において、特定の構造を有する銅化合物と特定の構造を有する溶媒とを使用し、特定の温度で攪拌を行う事に依り、短時間で、銅ナノ粒子分散液を得る事が出来る。
【0022】
本発明に依れば、得られた銅ナノ粒子分散液を、チタニアナノ粒子と混合する事に依り、それらの複合体を分散性の高い状態で得る事が出来る。
【0023】
本発明に依れば、銅ナノ粒子分散液とチタニアナノ粒子とを含む材料は、透明で、且つ高活性な抗菌剤、抗ウイルス剤、防カビ剤、消臭剤等として用いる事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施態様を表す図である。
図1は、実施例1で得られた銅ナノ粒子分散液を、シリコンウェハ上にスピンコートし、焼成した後のSEM観察を行った結果を表す。100nm以下のナノ粒子が確認された。
【
図2】本発明の実施態様を表す図である。
図2は、実施例1で得られた銅ナノ粒子分散液について、ESCA分析を行った結果を表す。金属銅である。
【
図3】本発明の実施態様を表す図である。
図3は、実施例1で得られた銅ナノ粒子分散液について、XRDに依る結晶構造解析を行った結果を表す。金属銅である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0026】
本明細書において、「含む」及び「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0027】
本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、「A以上、B以下」を意味する。
【0028】
1.銅ナノ粒子の製造方法
本発明の銅ナノ粒子の製造方法は、
R1R2N-R3-OH (式1)
(式1中、R1、及びR2は、同一、又は異なって、各々、水素原子、又はアルキル基を示す。R3は、アルキル鎖を示す。)
で表される化合物、及び
R4R5NCHO (式2)
(式2中、R4、及びR5は、同一、又は異なって、各々、水素原子、又はアルキル基を示す。)
で表される化合物から成る群から選択される少なくとも一種の有機溶媒中で、
銅(II)アセチルアセトナートを、120℃以上で、加熱する工程、
を含む。
【0029】
(1)銅系化合物
本発明では、銅ナノ粒子の原料として、銅の有機錯体である銅(II)アセチルアセトナートを用いる。銅(II)アセチルアセトナートは、水に溶けず電離せず、共鳴構造を取る。
【0030】
【0031】
本発明では、銅(II)アセチルアセトナートを還元して銅ナノ粒子を得る。
【0032】
(2)有機溶媒
本発明では、有機溶媒は、窒素原子(N)を有する溶媒を使用する。
【0033】
溶媒は、更に、グリコール類、アルコール類等の弱い還元力を有する溶媒を混合しても良く、還元力を有さない溶媒を混合しても良い。
【0034】
窒素原子(N)を有する溶媒は、R1R2N-R3-OH(式1)で表される化合物である。式1中、R1、及びR2は、同一、又は異なって、各々、水素原子、又はアルキル基を示す。R3は、アルキル鎖を示す。
【0035】
窒素原子(N)を有する溶媒は、R4R5NCHO(式2)で表される化合物である。式2中、R4、及びR5は、同一、又は異なって、各々、水素原子、又はアルキル基を示す。
【0036】
溶媒は、式1で表される化合物、及び式2で表される化合物から成る群から選択される少なくとも一種の有機溶媒である。
【0037】
アルキル基及びアルキル鎖は、好ましくは、直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基及びアルキル鎖が挙げられ、具体的には、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、1-エチルプロピル等の炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基及びアルキル鎖;n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル、3-メチルペンチル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、5-プロピルノニル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル等を加えた炭素数1~18の直鎖状又は分岐状のアルキル基及びアルキル鎖;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等の炭素数3~8の環状アルキル基及びアルキル基等である。
【0038】
アルキル基及びアルキル鎖は、好ましくは、メチル、エチル等のアルキル基及びアルキル鎖ある。
【0039】
窒素原子を有する溶媒は、式1で表される化合物は、好ましくは、2-(ジメチルアミノ)エタノール、2-(ジエチルアミノ)エタノール、3-(ジメチルアミノ)-1-プロパノール、及び1-(ジメチルアミノ)-2-プロパノールから成る群から選択される少なくとも一種の有機溶媒である。
【0040】
窒素原子を有する溶媒は、前記式2で表される化合物は、好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、及びホルムアミドから成る群から選択される少なくとも一種の有機溶媒である。
【0041】
窒素原子を有する溶媒は、より好ましくは、2-(ジメチルアミノ)エタノール、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等である。
【0042】
本発明では、有機溶媒は、好ましくは、窒素原子(N)を含まない溶媒として、更に、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、及びアニソールから成る群から選択される少なくとも一種の有機溶媒を含む。
【0043】
窒素原子を含まない溶媒は、より好ましくは、エチレングリコール、プロピレングリコール、アニソール等である。
【0044】
本発明では、前記有機溶媒中、好ましくは、前記式1で表される化合物及び前記式2で表される化合物から成る群から選択される少なくとも一種の有機溶媒(窒素原子を有する溶媒)の合計含有比率は、0.01質量%~100質量%である。有機溶媒中、窒素原子を有する溶媒の比率を、前記範囲に調整する事に依り、ごく少量でも、窒素原子を含まず、還元性の有る溶媒のみを用いる事に比べて、高濃度の銅ナノ粒子分散液を得ることが出来る。
【0045】
前記有機溶媒中、窒素原子を有する溶媒の合計含有比率は、好ましくは、全溶媒の重量に対して、0.01質量%以上、100質量%以下であり、より好ましくは、0.1質量%以上、100質量%以下である。
【0046】
窒素原子を有する溶媒の合計含有比率の上限は、好ましくは、100質量%である。窒素原子を有する溶媒のみを使用する事(単独使用)に依り、還元力は強く、良好に還元反応が進む。
【0047】
使用する有機溶媒の別の態様として、有機溶媒中の窒素原子を有する溶媒は、多い程反応速度が速いが、加熱中の分解に由り、塩基性が強くなる事から、後に酸性の物質と混合して使用する場合は少ない方が望まし事から、有機溶媒中、窒素原子を有する溶媒は、更に好ましくは、0.01質量%以上、10質量%以下であり、特に好ましくは、0.01質量%以上、5質量%以下である。
【0048】
酸性のチタニアゾルと混ぜる時に、窒素原子を有する溶媒から分解した塩基性物質に因り分散性が低下するという現象が生じ得る事から、これを抑える為に、窒素原子を有する溶媒に、窒素原子を含まない溶媒(エチレングリコール等)を混合する事が好ましい。
【0049】
有機溶媒中、窒素原子を含まない溶媒は、好ましくは、90質量%以上、99.9質量%以下であり、特に好ましくは、95質量%以上、99.9質量%以下である。
【0050】
本発明では、前記有機溶媒の沸点は、好ましくは、60℃以上、250℃以下である。有機溶媒は、より好ましくは、沸点が75℃以上、200℃以下の有機溶媒である。有機溶媒は、反応温度を勘案して、75℃以上である事が好ましく、銅ナノ粒子分散液からの除去性を勘案して、200℃以下である事が好ましい。
【0051】
(3)製造方法
本発明の銅ナノ粒子の製造方法では、銅(II)アセチルアセトナートを、前記有機溶媒と混合し、120℃以上で、加熱し、銅ナノ粒子分散液を製造する。
【0052】
加熱する温度が低い場合、銅(II)アセチルアセトナートは、溶媒に一旦溶解し、冷却後に析出する傾向が有る。加熱する温度が高い場合、良好に反応は進む。使用する有機溶媒の沸点以下で、加熱を行う事が安全上好ましい。加熱は、一部の溶媒を沸騰させた状態で行っても良い。
【0053】
加熱する温度は、好ましくは、100℃以上、200℃以下であり、より好ましくは、110℃以上、180℃以下であり、更に好ましくは、120℃以上、150℃以下である。
【0054】
銅(II)アセチルアセトナート及び有機溶媒を含む反応液の全質量中、銅(II)アセチルアセトナートの濃度が薄い場合、良好に銅ナノ粒子を精製する事が出来る。銅(II)アセチルアセトナートの濃度を高くして、銅ナノ粒子の生産性を向上させる。金属銅の大粒子の発生を抑える点から、銅(II)アセチルアセトナートの濃度を調整する。
【0055】
銅(II)アセチルアセトナート及び有機溶媒を含む反応液の全質量中、銅(II)アセチルアセトナートの濃度は、銅(Cu)原子換算で、好ましくは、0.1質量%以上、2.0質量%以下である。
【0056】
2.光触媒、抗菌材料、抗ウイルス材料、及び抗ウイルスコーティング液
本発明の銅ナノ粒子は、光触媒と混合して用いる事が出来る。本発明の銅ナノ粒子を、光触媒と混合して用いる事に依り、紫外線照射時のみ活性化していた通常の光触媒に、可視光照射時、暗所等において、抗菌性、抗ウイルス性、防カビ性、消臭性等を付与する事が出来る。
【0057】
本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤、防カビ剤、及び/又は、消臭剤の製造方法は、
(A)
R1R2N-R3-OH (式1)
(式1中、R1、及びR2は、同一、又は異なって、各々、水素原子、又はアルキル基を示す。R3は、アルキル鎖を示す。)
で表される化合物、及び
R4R5NCHO (式2)
(式2中、R4、及びR5は、同一、又は異なって、各々、水素原子、又はアルキル基を示す。)
で表される化合物から成る群から選択される少なくとも一種の有機溶媒中で、
銅(II)アセチルアセトナートを、120℃以上で、加熱し、銅ナノ粒子分散液を製造する工程、及び
(B)
前記工程(A)で製造した銅ナノ粒子分散液と、チタニアナノ粒子分散液とを混合する工程を含む。
【0058】
前記チタニアナノ粒子分散液が含むチタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアセトキシ基が結合しており、示差熱熱重量同時測定装置によって600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が5質量%以上であり、粒径が1nm~10nmのものである。
【0059】
チタニアは、二酸化チタン(TiO2)のみを指すものではなく、三酸化二チタン(Ti2O3)、一酸化チタン(TiO)、Ti4O7、Ti5O9等に代表される二酸化チタンから酸素欠損した組成のもの等も含む。チタニアは、末端OH基に代表される様に、一部酸化チタンの合成に起因するTi-O-Ti以外の基を含んでいても良い。チタニアは、末端OH基に有機酸等が結合したものも含む。
【0060】
銅イオンを用いた場合、一般に、銅イオンは、皮膚感作性を生じる可能性が有り、銅ナノ粒子を用いた場合も、銅ナノ粒子は、酸性の光触媒と接触する事に由り、一部が溶解し、銅イオンを生じる事から、同様に皮膚感作性を生じる可能性が有る。
【0061】
本発明の銅ナノ粒子は、酸性の溶液と接触しても、銅ナノ粒子の状態を保持し、皮膚感作性が発生し難い。
【0062】
本発明の銅ナノ粒子は、水、又は有機溶媒に沈殿せず、均一に分散させる事が出来る。本発明の銅ナノ粒子は、例えば、水、エタノール、アセトン等に、均一に溶解した状態と成り、透明性の有る茶色の溶液と成る。
【0063】
本発明の銅ナノ粒子は、安全性と均一性とを両立した状態で、抗菌、抗ウイルス、防カビ、消臭等の用途に用いる事が出来る。
【0064】
工程(A)の銅ナノ粒子分散液を製造する工程は、前記「1.銅ナノ粒子の製造方法」に記載の通りである。
【0065】
工程(B)では、前記工程(A)で製造した銅ナノ粒子分散液と、チタニアナノ粒子分散液とを混合する。
【0066】
銅ナノ粒子(銅ナノ粒子分散液)を、チタニアナノ粒子分散液(光触媒)と混合する場合、チタニアナノ粒子が均一分散した分散液(ゾル)と混合す事が好ましい。
【0067】
チタニアナノ粒子分散液(光触媒)と銅ナノ粒子との比率は、特に制限は無い。チタニアナノ粒子分散液(光触媒)と銅ナノ粒子との比率は、透明性、着色性等を考慮して、好ましくは、質量比で、チタニアナノ粒子(光触媒):銅ナノ粒子=1:0.001~1:0.1である。
【実施例0068】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明する。
【0069】
本発明は、これらのみに限定されるものではない。
【0070】
実施例
(実施例1)銅(II)アセチルアセトナート0.0824g(銅原子換算で0.2質量%)に、溶媒として、2-(ジメチルアミノ)エタノール10gを加え、120℃に加熱した。
【0071】
その結果、液の色は群青色から緑色、茶色と変化し、透明感の有るこげ茶色の銅ナノ粒子の分散液が得られた。
【0072】
この銅ナノ粒子の分散液を水で10倍に希釈したところ、透明で均一な茶色の溶液が得られた。
【0073】
この銅ナノ粒子の分散液をエタノールで10倍に希釈したところ、透明で均一な茶色の溶液が得られた。
【0074】
この銅ナノ粒子の分散液をエタノールで20倍希釈し、この20倍希釈液をシリコンウェハ上にスピンコートし、次いで、500℃で焼成した後に、SEM観察を行った。SEM観察から、少なくとも100nm以下のナノ粒子のみが確認された(
図1)。
【0075】
この銅ナノ粒子の分散液を乾燥し、X線光電子分光法(ESCA)に依る極表面の元素組成を分析したところ、932.8eVにピークが見られた事と、940-945eVにピークが見られなかった事から、金属銅である事が分かった(
図2)。例えば、二価の銅イオンの場合、933.5eV以上にピークが見られ、940-945eVにサテライトピークが見られる。
【0076】
また、X線回折法(XRD)に依る結晶構造解析を行ったところ、金属銅であり、一価の銅でない事も分かった(
図3)。
【0077】
(実施例2)溶媒をN,N-ジメチルホルムアミドに変え、反応温度を126℃にする事以外は、実施例1と同様に、実験を行った。実施例2においても、こげ茶色の銅ナノ粒子の分散液が得られた。
【0078】
(実施例3)溶媒をN-メチルホルムアミドに変え、反応温度を128℃にする事以外は、実施例1と同様に実験を行った。実施例3においても、こげ茶色の銅ナノ粒子の分散液が得られた。
【0079】
(実施例4)溶媒をN-メチルホルムアミドに変え、反応温度を123℃にする事以外は、実施例1と同様に実験を行った。実施例4においても、こげ茶色の銅ナノ粒子の分散液が得られた。
【0080】
(実施例5)溶媒を2-(ジメチルアミノ)エタノール1gとエチレングリコール9gとの混合溶媒に変え、反応温度を127℃にする事以外は、実施例1と同様に実験を行った。実施例5においても、こげ茶色の銅ナノ粒子の分散液が得られた。
【0081】
(実施例6)溶媒を2-(ジエチルアミノ)エタノール1gとエチレングリコール9gとの混合溶媒に変え、反応温度を127℃にする事以外は、実施例1と同様に実験を行った。実施例6においても、こげ茶色の銅ナノ粒子の分散液が得られた。
【0082】
(実施例7)溶媒を2-(ジエチルアミノ)エタノール1gとアニソール9gとの混合溶媒に変え、反応温度を127℃にする事以外は、実施例1と同様に実験を行った。実施例7においても、こげ茶色の銅ナノ粒子の分散液が得られた。
【0083】
(実施例8)銅(II)アセチルアセトナートを0.412g(銅原子換算で1質量%)とし、反応温度を139℃にする事以外は、実施例1と同様に実験を行った。実施例8においても、こげ茶色の銅ナノ粒子の分散液が得られた。
【0084】
(実施例9)銅(II)アセチルアセトナートを0.824g(銅原子換算で2質量%)とし、反応温度を137℃にする事以外は、実施例1と同様に実験を行った。実施例9においても、こげ茶色の銅ナノ粒子の分散液が得られた。
【0085】
この銅ナノ粒子の分散液をエタノールで20倍希釈し、この20倍希釈液をシリコンウェハ上にスピンコートし、次いで、500℃で焼成した後に、SEM観察を行った。SEM観察から、高温での焼成後にも関わらず、100nm以下の粒子のみが観察された。
【0086】
比較例
(比較例1)溶媒をエチレングリコールモノメチルエーテル10gに変え、反応温度を122℃にする事以外は、実施例1と同様に実験を行った。比較例1では、反応液が緑青色から変わらず、銅ナノ粒子は生成しなかった。冷却後、原料である青紫色の銅(II)アセチルアセトナートが析出した。
【0087】
(比較例2)溶媒をエタノール10gに変え、反応温度を122℃にする事以外は、実施例1と同様に実験を行った。比較例2では、反応液が青色から変わらず、銅ナノ粒子は生成しなかった。冷却後、原料である青紫色の銅(II)アセチルアセトナートが析出した。
【0088】
(比較例3)溶媒をエチレングリコール10gに変える事以外は、実施例1と同様に実験を行った。比較例3では、液が一部こげ茶色に成り、銅ナノ粒子が生成したが、冷却後、原料である青紫色の銅(II)アセチルアセトナートが析出した。
【0089】
(比較例4)原料を硝酸銅(II)0.076g(銅原子換算で0.2質量%)とする事以外は、実施例1と同様に実験を行った。比較例4では、反応液が青緑色から変わらず、冷却後、反応液は青紫色と青い沈殿の混合物と成り、銅ナノ粒子は生成しなかった。
【0090】
(比較例5)原料を酢酸銅(II)0.063g(銅原子換算で0.2質量%)とする事以外は、実施例1と同様に実験を行った。比較例5では、反応液が緑青色から変わらず、冷却後、反応液は紫色と白い沈殿の混合物と成り、銅ナノ粒子は生成しなかった。
【0091】
(比較例6)原料をクエン酸銅(II)0.113g(銅原子換算で0.2質量%)とする事以外は、実施例1と同様に実験を行った。比較例6では、反応液が薄い青色から変わらず、冷却後、反応液は青色と白い沈殿の混合物と成り、銅ナノ粒子は生成しなかった。
【0092】
(比較例7)原料をエチルヘキサン酸銅(II)0.110g(銅原子換算で0.2質量%)とする事以外は、実施例1と同様に実験を行った。比較例7では、反応液が青緑色から変わらず、冷却後、反応液は透明な青紫色と成り、銅ナノ粒子は生成しなかった。
【0093】
(比較例8)原料をアセト酢酸銅(II)0.101g(銅原子換算で0.2質量%)、溶媒を2-(ジメチルアミノ)エタノール1gとエチレングリコール9gとの混合溶媒に変え、反応温度を136℃とする事以外は、実施例1と同様に実験を行った。比較例8では、反応液の色は深緑色から変わらず、冷却後は黄土色の濁った液と成り、均一な銅ナノ粒子分散液は生成しなかった。
【0094】
抗ウイルスコーティング液の製造
チタンテトライソプロポキシド142.1g(0.5mol)に、酢酸120g(2mol)を加え、60分撹拌し、水を538g加えた。この分散液は、チタンテトライソプロポキシドの濃度が0.625mol/Lであり、酢酸の濃度が2.5mol/Lであり、pHが2.2であった。
【0095】
この分散液では、半透明の沈殿が発生したが、60分間撹拌した後に、加熱を行ったところ、70℃で沈殿が全て溶解した。なお、この分散液において、無機酸の濃度、N、Cl及びS元素の濃度は、いずれも0mol/Lであった。
【0096】
その後、常圧(0.10MPa)で、98℃で3時間撹拌した後、冷却し、1か月放置したところ、有機分散剤を使うこと無く、半透明の均一なチタニアゾルが得られた。
【0097】
このチタニアゾルに超音波分散を加えたところ、粘度が低減され、透明性が増した。得られたチタニアゾルの加熱残分(200℃)は5.7質量%であった。加熱残分(700℃)は5.0質量%であった。
【0098】
このチタニアゾルを水で希釈しながら、少量のAgナノ粒子を担持し、チタニア2.0質量%、Ag0.1質量%の分散液(チタニアナノ粒子分散液)を作製した。
【0099】
この分散液100gに対し、下記の液を調製した。
【0100】
コーティング液(A)実施例8で合成した、銅ナノ粒子0.02g(Cu原子としてチタニア比1%(質量比))を含む分散液2gを加えた。
【0101】
コーティング液(B)酢酸銅一水和物0.31gを加えた(Cu原子としてチタニア比5%(質量比))。
【0102】
コーティング液(C)酢酸銅一水和物0.0063gを加えた(Cu原子としてチタニア比0.1%(質量比))。
【0103】
コーティング液(D)銅ナノ粒子(25nm)を0.02g加えた(Cu原子としてチタニア比1%(質量比))
夫々の液を、60℃で減圧濃縮を行って、粉末化を行った。
【0104】
コーティング液(A)に関しては、褐色の粉末が得られた。
【0105】
コーティング液(B)及びコーティング液(C)に関しては、灰色の粉末が得られた。
【0106】
コーティング液(D)に関しては、濃縮途中で鮮やかな青色と成り、青色の粉末が得られ、酸性のチタニアゾルに銅ナノ粒子が溶解して、二価の銅イオンが生成している事が示唆された。
【0107】
コーティング液(A)及びコーティング液(B)の分散液に関して、50mm角のガラスに500pmでスピンコートを行ったところ、半透明の膜が得られた。これら試験片((A)及び(B))を用いて、コロナ系エンベロープウイルスの不活性化試験を行ったところ、暗所での活性値はいずれも2.9で十分な活性が確認できた。
【0108】
コーティング液(A)及びコーティング液(B)の分散液に関して、皮膚感作性試験を行ったところ、コーティング液(A)は陰性であり、コーティング液(B)は陽性であった。コーティング液(C)の分散液に関して、皮膚感作性試験を行ったところ、銅イオンの濃度を1/50にしても陽性であった。
本発明の銅ナノ粒子の製造方法では、金属塩等の除去し難い還元剤を使用せずに、非常に小さい粒子径で、活性が高く、透明なコーティングも可能で、熱、酸素、酸等に由る酸化にも強く、水、親水性アルコール等にも分散する銅ナノ粒子を合成する事が出来る。
本発明の銅ナノ粒子の製造方法では、特定の構造を有する銅化合物と特定の構造を有する溶媒とを使用し、特定の温度で攪拌を行う事に依り、短時間で、銅ナノ粒子分散液を得る事が出来る。