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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147718
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】車両用空調装置の冷凍サイクル
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
F25B1/00 101F
F25B1/00 304Q
F25B1/00 387Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055393
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】500309126
【氏名又は名称】株式会社ヴァレオジャパン
(71)【出願人】
【識別番号】521537852
【氏名又は名称】ダイムラー トラック エージー
(74)【代理人】
【識別番号】110000545
【氏名又は名称】弁理士法人小竹アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】小野 三也
(72)【発明者】
【氏名】松下 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮磨
(72)【発明者】
【氏名】我満 真由子
(72)【発明者】
【氏名】松永 康裕
(72)【発明者】
【氏名】加藤 敏則
(72)【発明者】
【氏名】座間 隆宏
(57)【要約】
【課題】冷媒の充填量が大きい冷凍サイクルであっても、温度変化による冷凍サイクル内の冷媒の移動によって圧縮機内部の潤滑油が圧縮機外へ流出することを抑制する。
【解決手段】圧縮装置(圧縮機101)、この圧縮装置で圧縮された冷媒を凝縮させる凝縮装置(コンデンサ102)、この凝縮装置で凝縮された冷媒を減圧膨張させる膨張装置(膨張弁106)、この膨張装置を介して膨張した冷媒を蒸発させる蒸発装置(エバポレータ103)を備え、圧縮装置と凝縮装置を高圧配管104にて接続し、蒸発装置と圧縮装置を低圧配管108にて接続する冷凍サイクル100において、圧縮装置をバイパスして低圧配管108と高圧配管104を接続するバイパス配管109を設け、このバイパス配管内に、高圧配管側の圧力と低圧配管側の圧力が等しい時は流通を許可し、高圧配管側の圧力が低圧配管側の圧力より所定値以上高まった時に流通を遮断する流通制御手段110を設ける。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮・吐出する圧縮装置、この圧縮装置で圧縮・吐出された冷媒を凝縮させる凝縮装置、この凝縮装置で凝縮された冷媒を減圧膨張させる膨張装置、この膨張装置を介して膨張した冷媒を蒸発させる蒸発装置を備え、前記圧縮装置と前記凝縮装置を高圧配管にて接続し、前記蒸発装置と前記圧縮装置を低圧配管にて接続した冷凍サイクルにおいて、
前記圧縮装置をバイパスして前記低圧配管と前記高圧配管との間で冷媒の流通を可能にするバイパス配管を設け、
このバイパス配管内に、前記高圧配管側の圧力と前記低圧配管側の圧力が等しい時は流通を許可し、前記高圧配管側の圧力が前記低圧配管側の圧力より所定値以上高まった時に流通を遮断する流通制御手段を設けたことを特徴とする車両用空調装置の冷凍サイクル。
【請求項2】
前記バイパス配管内に、前記バイパス配管を前記高圧配管側から閉鎖可能とする弁体と、前記弁体を前記高圧配管側に向かって付勢する付勢手段と、を配置することにより前記流通制御手段を構成したことを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置の冷凍サイクル。
【請求項3】
内部に通路が形成された円筒状のボディと、このボディの通路内に配置され、前記ボディの前記通路の一端から他端への連通を閉鎖可能な弁体と、前記ボディの通路内に配置され、前記弁体を他端側から一端側に向かって付勢する付勢手段と、を具備するカートリッジ弁を備え、
このカートリッジ弁を前記バイパス配管内に配置することにより、前記流通制御手段を構成したことを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置の冷凍サイクル。
【請求項4】
前記バイパス配管は、前記高圧配管から分岐した高圧側分岐管と前記低圧配管から分岐した低圧側分岐管と、前記高圧側分岐管と前記低圧側分岐管とに着脱可能な中間配管とを備え、前記流通制御手段は、前記中間配管内に配置されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の車両用空調装置の冷凍サイクル。
【請求項5】
前記バイパス配管は、前記高圧配管から分岐した高圧側分岐管と前記低圧配管から分岐した低圧側分岐管と、前記高圧側分岐管と前記低圧側分岐管とに着脱可能な中間配管とを備え、前記流通制御手段は、前記中間配管内に配置され、前記カートリッジ弁を前記中間配管の前記高圧配管側寄りに配置したことを特徴とする請求項3に記載の車両用空調装置の冷凍サイクル。
【請求項6】
前記圧縮装置は、第1圧縮機と第2圧縮機を含み、
この第1圧縮機と第2圧縮機は、前記凝縮装置の流入口と前記蒸発装置の流出口に対して並列に接続され、
前記バイパス配管は、前記第1圧縮機と前記第2圧縮機にそれぞれ接続される前記高圧配管の合流点よりも凝縮器側の高圧配管と、前記第1圧縮機と前記第2圧縮機にそれぞれ接続される前記低圧配管の合流点よりも蒸発器側の低圧配管と、の間に接続されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに車両用空調装置の冷凍サイクル。
【請求項7】
前記圧縮装置は、走行用エンジンにより駆動され、前記圧縮装置と前記走行用エンジンは、車両のエンジンルーム内に配置され、前記バイパス配管は、前記エンジンルームの外側に配置されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の車両用空調装置の冷凍サイクル。
【請求項8】
前記車両は、キャブオーバ型バスであることを特徴とする請求項7に記載の車両用空調装置の冷凍サイクル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バスなどの大型車両に適した車両用空調装置の冷凍サイクルに関し、特に圧縮機の停止時に温度変化による冷凍サイクル内の冷媒の移動によって圧縮機内部の潤滑油が圧縮機外へ流出することを抑制する機能を備えた冷凍サイクルに関する。
【背景技術】
【0002】
空調装置、例えば自動車用空調装置に用いられる冷凍サイクルは、エンジンルーム側と車室側とを仕切る仕切壁(フロアパネル)を境に、車室側にエバポレータが配設され、エンジンルーム側にコンデンサや圧縮機等が配設されている。このような冷凍サイクルにおいては、圧縮機が運転を停止している状態において、日中の日射により車両が暖められると、図6に示されるように、日射により暖められ易い車室側に配されるエバポレータの温度も上昇する一方で、エンジンルーム内に配されるコンデンサと圧縮機は、エバポレータほど温度が上昇しない。また、熱容量の大きい圧縮機は暖められにくいため、冷凍サイクルの中では、最も温度が低い箇所となり、圧縮機内部に冷媒が凝縮することとなる。このため、圧縮機内には、オイル(潤滑油)と凝縮液化した冷媒とにより、オイル貯め容量を超えた液体が滞留することとなる。
【0003】
これに対して、夕刻になり、日射による車両の加熱がなくなると、熱容量の小さいコンデンサの温度は徐々に低下し、エバポレータ、圧縮機、及びコンデンサのそれぞれの温度は次のような関係となる。
エバポレータ温度>圧縮機温度>コンデンサ温度
このため、この温度差により、コンデンサの圧力が冷凍サイクル中で最も低くなってしまい、エバポレータからの圧力によってオイルが溶け込んだ圧縮機内に停留している冷媒がコンデンサ側に押し出されてしまう現象が生じる。
【0004】
温度変化によるこのような現象が繰り返されると、圧縮機内に保持されていたオイルは圧縮機外へ徐々に運び出されてしまい、圧縮機内に残存するオイルが枯渇することになる。このため、長期間空調装置を使用しない状態が続いた後に空調装置を稼働させると、潤滑不良により圧縮機の焼き付きが生じる懸念がある。
【0005】
このような不都合を解消するために、特許文献1には、圧縮機のハウジング内に区画された吸入領域と吐出領域とを連通するバイパス通路を設け、このバイパス通路内に吐出領域側から閉鎖可能とする弁体と、この弁体を吐出領域側に向かって付勢するスプリングを設けた圧縮機が提案されている。
この圧縮機によれば、運転を停止しているときに温度変化によってエバポレータの圧力がコンデンサの圧力より高まったとしても、圧縮機内に設けたバイパス通路を介してエバポレータ側からの冷媒を圧縮機内部をバイパスさせてコンデンサ側に逃がすことができる。このため、圧縮機内のオイルが圧力差によって圧縮機外に押し出されることを防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013―124648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の通り、圧縮機が運転を停止している状態において、日中の日射により車両が暖められると、熱容量の大きい圧縮機は冷凍サイクルの中で最も温度の低い箇所になり、圧縮機内に液化した冷媒が停留する。圧縮機内に停留する液冷媒の量は、冷凍サイクル内に充填された冷媒の量が多くなるにしたがって増えるため、バス用エアコン、特にキャブオーバ型のバス用エアコンなどの、冷媒充填量の大きい冷凍サイクルの場合、圧縮機内で液化した冷媒の液位が、圧縮機内に設けたバイパス通路を超えることが懸念される。
バイパス通路を超えた分の液冷媒はバイパス通路を介してエバポレータ側からコンデンサ側に押し出されてしまうので、液冷媒に溶け込んだオイルもコンデンサ側に持ち出されてしまう。よって、前述のような温度変化を繰り返すうちに圧縮機内のオイルが枯渇する恐れがある。
【0008】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、冷媒の充填量が大きい冷凍サイクルであっても、温度変化による冷凍サイクル内の冷媒の移動によって圧縮機内部の潤滑油が圧縮機外へ流出することを効果的に抑制することが可能な車両用空調装置の冷凍サイクルを提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するために、本発明に係る車両用空調装置の冷凍サイクルは、冷媒を圧縮・吐出する圧縮装置、この圧縮装置で圧縮された冷媒を凝縮させる凝縮装置、この凝縮装置で凝縮された冷媒を減圧膨張させる膨張装置、この膨張装置を介して膨張した冷媒を蒸発させる蒸発装置を備え、前記圧縮装置と前記凝縮装置を高圧配管にて接続し、前記蒸発装置と前記圧縮装置を低圧配管にて接続し、前記圧縮装置をバイパスして前記低圧配管と前記高圧配管との間で冷媒の流通を可能にするバイパス配管を設け、このバイパス配管内に、前記高圧配管側の圧力と前記低圧配管側の圧力が等しい時は流通を許可し、前記高圧配管側の圧力が前記低圧配管側の圧力より所定値以上高まった時に流通を遮断する流通制御手段を設けたことを特徴としている。
【0010】
したがって、上述の構成によれば、圧縮装置の停止時において、高圧配管側の冷媒圧力と低圧配管側の冷媒圧力が等しいときは、バイパス配管は冷媒の流通が可能になっているので、温度変化により低圧配管側の冷媒圧力が高圧配管側の冷媒圧力より高まった場合でも、低圧配管側の冷媒圧力をバイパス配管を介して高圧配管側に速やかに解放することが可能となる。また、バイパス配管が、低圧配管と高圧配管とを接続する箇所に設けられているので、冷媒充填量の多い冷凍サイクルであっても、バイパス配管が液冷媒に浸漬する恐れがない。これにより、圧縮機内に残留しているオイルが液冷媒と共に高圧配管側へ持ち出されることが防がれる。また、圧縮装置の運転中は、圧縮装置により圧縮・吐出された冷媒により高圧配管の冷媒圧力が高まることにより、ただちに流通制御手段がバイパス配管内の冷媒の流通を遮断するので、圧縮・吐出された冷媒は全て冷凍サイクル内を循環し、冷凍性能を損なうことがない。
【0011】
ここで、流通制御手段は、前記バイパス配管内に、前記バイパス配管を前記高圧配管側から閉鎖可能とする弁体と、前記弁体を前記高圧配管側に向かって付勢する付勢手段と配置することにより、構成するとよい。
【0012】
このような構成によれば、簡単な構成で流通制御手段の機能を満たすことできる。
【0013】
また、内部に通路が形成された円筒状のボディと、このボディの通路内に配置され、前記ボディの前記通路の一端から他端への連通を閉鎖可能な弁体と、前記ボディの通路内に配置され、前記弁体を他端側から一端側に向かって付勢する付勢手段と、によってカートリッジ弁を構成し、このカートリッジ弁を前記バイパス配管内に配置することにより、前記流通制御手段を構成してもよい。
【0014】
好ましくは、前記高圧配管から分岐した高圧側分岐管と、前記低圧配管から分岐した低圧側分岐管と、この高圧側分岐管と低圧側分岐管とに着脱可能な中間配管を含むことによって前記バイパス配管を構成するようにし、前記中間配管の中に前記流通制御手段を配置するとよい。
【0015】
さらに好ましくは、前記カートリッジ弁を、前記中間配管の前記高圧配管側寄りに配置するとよい。
【0016】
また、前記圧縮装置を第1圧縮機と第2圧縮機を含むように構成した場合は、この第1圧縮機と第2圧縮機を、冷凍サイクル内で並列に接続し、前記バイパス配管を、前記第1圧縮機と前記第2圧縮機のそれぞれの前記高圧配管の合流点よりも前記凝縮器側の部位と、前記第1圧縮機と前記第2圧縮機のそれぞれの前記低圧配管の合流点よりも前記蒸発器側の部位とによって接続させるとよい。
【0017】
バイパス配管が、第1圧縮機と第2圧縮機の配管の合流点よりも熱交換器側にて前記高圧配管と前記低圧配管に接続しているので、ひとつのバイパス配管を設けるだけで、2つの圧縮機のそれぞれの低圧配管の圧力と高圧配管の圧力が均圧になり、それぞれの圧縮機内のオイルの持ち出しを防ぐことができる。
【0018】
なお、以上までの構成において、圧縮装置は、走行用エンジンにより駆動され、圧縮装置と走行用エンジンは、車両のエンジンルーム内に配置され、バイパス配管は、エンジンルームの外側に配置されることが好ましい。
このような配置とすることで、バイパス配管が外気温環境下に置かれることになるため、バイパス配管やその近傍が液冷媒によって浸漬する虞がなくなり、低圧配管と高圧配管との圧力均衡が確実に保たれ、圧縮機内のオイルの持ち出しを確実に防ぐことが可能となる。
また、以上までの構成は、車両としてキャブオーバ型バスに用いて好適である。
【発明の効果】
【0019】
以上述べたように、本発明によれば、圧縮装置をバイパスして低圧配管と高圧配管との間で冷媒の流通を可能にするバイパス配管を設け、このバイパス配管内に、前記高圧配管側の圧力と前記低圧配管側の圧力が等しい時は流通を許可し、前記高圧配管側の圧力が前記低圧配管側の圧力より所定値以上高まった時に流通を遮断する流通制御手段を設けたので、圧縮装置の停止時に、温度変化により低圧配管側の冷媒圧力が高圧配管側の冷媒圧力より高まった場合でも、低圧配管側の冷媒圧力をバイパス配管を介して高圧配管側に速やかに解放することが可能となる。また、冷媒充填量の多い冷凍サイクルであっても、バイパス配管が液冷媒に浸漬することがない。これにより、圧縮機内の残留しているオイルが液冷媒と共に高圧配管側へ移動することが防がれる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明に係る車両用空調装置の冷凍サイクルの概略構成を示す図である。
図2図2は、圧縮機の概略構成と冷媒の流れを説明する概念図であり、圧縮機の側断面図を示す図である。
図3図3は、本発明に係る冷凍サイクルの高圧配管と低圧配管との間に設けられるバイパス配管と、このバイパス配管の一部を構成する中間配管を示す図である。
図4図4は、バイパス配管の一部を構成する中間配管とこれに収納されるカートリッジ弁を示す図であり、(a)はカートリッジ弁が組付けられた中間配管の断面図、(b)は、カートリッジ弁の拡大断面図、(c)は中間配管にカートリッジ弁を組み付ける前の中間配管とカートリッジ弁を示す斜視図である。
図5図5は、本発明に係る車両用空調装置の冷凍サイクルにおいて、圧縮機を2基設けた場合の概略構成を示す図である。
図6図6は、車両に搭載した冷凍サイクルのエバポレータ、コンデンサ、圧縮機の温度変化を示すグラフと圧縮機が停止している場合の冷媒及びオイルの流れを説明する模式図とを示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、この発明の実施形態を添付図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1において、車体のエンジン部分の上に運転席を配した、いわゆるキャブオーバ型バス等の大型車両に搭載される空調装置の冷凍サイクルの一例が示されている。この空調装置の冷凍サイクル100は、バス車両の進行方向前方に配置され、冷媒を圧縮・吐出する圧縮機101(圧縮装置に相当)と、バス車両の側部に配置され、圧縮機101で圧縮された冷媒を凝縮させるコンデンサ102(凝縮装置に相当)と、コンデンサ102で凝縮された冷媒を気液分離し、気相冷媒を回収するレシーバタンク105と、レシーバタンク105で気相冷媒を分離した後の液冷媒を減圧膨張させる膨張弁106(膨張装置に相当)と、バス車両の後方に設置され、膨張弁106で減圧膨張された冷媒を蒸発させるエバポレータ103(蒸発装置に相当)と、圧縮機101とコンデンサ102とを連結する高圧配管104と、コンデンサ102とエバポレータ103とをレシーバタンク105や膨張弁106を介して接続する高圧配管107と、エバポレータ103と圧縮機101とを接続する低圧配管108とを備えている。圧縮機101は、バス走行用エンジン(図示せず)によって駆動され、このエンジンとともに、バス車両の前方に区画されたエンジンルームA内に収容されている。
【0023】
圧縮機101は、図2に示されるように、冷媒を作動流体とする往復動型のもので、図示しない駆動源(エンジン)によってシャフト11を回転駆動し、このシャフト11の回転によって両頭ピストン12を往復動させ、冷媒を吸入、圧縮、吐出させるようにしている。
具体的には、圧縮機101の内部に、斜板収容室10を形成し、この斜板収容室10に、駆動源(エンジン)によって回転駆動するシャフト11と、このシャフト11と一体に回転する斜板15と、を配置している。シャフト11が駆動源によって回転されると、斜板15が揺動回転して両頭ピストン12を往復動させ、これにより冷媒を吸入ポート13から吸入し、圧縮室14で圧縮した後に吐出ポート16から外部サイクルへ吐出するようにしている。
また、斜板収容室10には、その下部にオイルが保持され、斜板15の回転によって斜板収容室10に保持されたオイルが摺動部に跳ねかけられ、摺動部を潤滑するようにしている。
【0024】
そして、圧縮機101から吐出された高温高圧の冷媒は、コンデンサ102において放熱されて凝縮液化し、レシーバタンク105で気相冷媒が回収された後、膨張弁106によって減圧膨張されて低温低圧の気液二相冷媒となり、その後、エバポレータ103においてここに送風される空気と熱交換して蒸発気化して低温冷媒ガスとなり、圧縮機101に戻される。
【0025】
本実施形態のキャブオーバ型のバスに搭載される冷凍サイクル100は、車両前方の圧縮機101から車両後方のエバポレータ103にかけて配管を床下等に引き回す必要があるため、冷凍サイクル100内には、非常に多くの冷媒が充填されている。このような冷媒量が多い冷凍サイクルにおいては、圧縮機101が運転を停止している状態において、日中の日射により車両が暖められると、熱容量の大きい圧縮機101は、冷凍サイクルの中で最も温度が低い箇所となるため、圧縮機101内に凝縮液化した冷媒が非常に多く停留することになる。このような冷凍サイクルにおいては、圧縮機101内に吸入領域と吐出領域との圧力差を無くすためにバイパス通路を設けたとしても、圧縮機101内に停留している冷媒の液位がバイパス通路よりも高くなる状態が形成される。
このため、圧縮機101の運転停止中に温度変化によってエバポレータ103の圧力がコンデンサ102の圧力より高まった場合には、バイパス通路を超えた分の液冷媒は、エバポレータ103の圧力によって、バイパス通路を介してエバポレータ103側からコンデンサ102側に押し出され、液冷媒に溶け込んだオイルもコンデンサ102側へ持ち出されてしまう不都合がある。
【0026】
そこで、冷媒の充填量が多い冷凍サイクルにも対応するために、圧縮機101の外側で圧縮機101の停止時に高圧側と低圧側との圧力均衡を図る手段を設けるようにしている。すなわち、圧縮機101とコンデンサ102を接続する高圧配管104と、エバポレータ103と圧縮機101を接続する低圧配管108との間で冷媒の流通を可能にするバイパス配管109を設け、このバイパス配管109に高圧配管104と低圧配管108との間で冷媒の流通を制御する流通制御手段110を設けている。
【0027】
この流通制御手段110は、高圧配管104側の圧力と低圧配管108側の圧力が等しい時は冷媒の流通を許可し(その結果、低圧配管108側の圧力が高圧配管104側の圧力より高い時も冷媒の流通を許可し)、高圧配管104側の圧力が低圧配管108側の圧力より所定値以上高まった時に冷媒の流通を遮断するもので、バイパス配管109内に、このバイパス配管109を高圧配管側から閉鎖可能とする弁体63と、前記弁体63を前記高圧配管104側に向かって付勢する付勢手段64と、を配置することにより構成されている。
【0028】
このような流通制御手段110は、バイパス配管109内に弁体63と付勢手段64を直接配置して構成するものであっても、カートリッジ弁(後述する)の内部に弁体63と付勢手段64とを配置して構成し、このカートリッジ弁をバイパス配管109内に配置するものであってもよい。また、バイパス配管109内に流通制御手段110を設けるに当たり、バイパス配管109の適所にバイパス配管109の一部をなす中間配管50を設け、この中間配管50に流通制御手段110を直接又はカートリッジ弁60を介して設けるようにしてもよい。
【0029】
以下、一例として、中間配管50に流通制御手段110を備えたカートリッジ弁60を配置する例について説明する。
【0030】
前記バイパス配管109は、図1に示されるように、図示しないエンジンや圧縮機101が収容されたエンジンルームAの外側、即ち、車室BとエンジンルームAを仕切る仕切り壁111よりも車室側に配置するようにしている。バイパス配管109は、図3に示されるように、高圧配管104に途中に設けられた分岐継手104-branchを介して分岐した高圧側分岐管109aと、低圧配管108の途中に設けられた分岐継手108-branchから分岐した低圧側分岐管109bと、高圧側分岐管109aと低圧側分岐管109bとに着脱可能な中間配管50と、によって構成され、流通制御手段110は、中間配管50の内部に配置されている。
また、この例において中間配管50は、低圧配管108に対してクリップ113等の保持手段によって保持されている。
【0031】
この中間配管50は、図4(a)に示されるように、高圧側分岐管109aと接続する高圧側接続部51と、低圧側分岐管109bと接続する低圧側接続部52と、高圧側接続部51と低圧側接続部52を連通させる連通路53とを備えている。
【0032】
中間配管50の高圧側接続部51と高圧側分岐管109aとの接続は、高圧側接続部51の内側に設けられた受け入れ凹部51aに高圧側分岐管109aの先端を挿入し、高圧側分岐管109aに摺動可能に外装された継手袋ナット121(図3に示す)を、高圧側分岐管109aに形成された図示しない鍔部と高圧側接続部51と高圧側分岐管109aとの間をシールするOリングとを間に介在させて高圧側接続部51の外周に気密に螺合することで行われる。
同様に、中間配管50の低圧側接続部52と低圧側分岐管109bとの接続は、低圧側接続部52の内側に設けられた受け入れ凹部52aに低圧側分岐管109bの先端を挿入し、低圧側分岐管109bに摺動可能に外装された継手袋ナット122(図3に示す)を、低圧側分岐管109bの外周に形成された図示しない鍔部と低圧側接続部52と低圧側分岐管109bとの間をシールするOリングとを間に介在させて低圧側接続部52の外周に気密に螺合することで行われる。
【0033】
また、中間配管50には、高圧側接続部51の内側に設けられた受け入れ凹部51aに続いて、弁収容部51bが設けられ、この弁収容部51bにカートリッジ弁60が収容固定されている。
【0034】
このカートリッジ弁60は、図4(b)にも示されるように、内部に連通路61が形成された円筒状のボディ62と、このボディ62の連通路61内に配置され、このボディの通路の一端から他端への連通を閉鎖可能な弁体63としてのボール弁と、ボディ62の連通路61内に配置され、弁体63を他端側から一端側に向かって付勢する付勢手段64としての圧縮ばねと、を具備している。
円筒状のボディ62は、基端部62aの径がそれ以外の部分に比べて大きく形成され、中間配管50の高圧側接続部51に形成された弁収容部51bの終端部に圧入できるようにしている。
【0035】
ボディ62の内部に形成される連通路61は、ボディ62の中央で軸方向に貫通しているもので、ボディ62を弁収容部51bに収容固定した状態において、一端が受け入れ凹部51aと連通し、他端が中間配管50の連通路53と連通している。この連通路61は、その中間部が中間配管50の連通路53と接続する他端側から受け入れ凹部51aと接続する一端側にかけて徐々に径が大きくなっている。ボディ62の軸方向の中間部には、弁体(ボール弁)63を着座させるテーバ状の弁座部61aと、付勢手段(圧縮ばね)64を収容するばね収容空間61bとを備えている(このばね収容空間61bによって、弁口66が形成されている)。連通路61の受け入れ凹部51aと連通する一端と弁座部61aとの間には、弁体(ボール弁)63を収容する弁体収容空間61cが形成され、この弁体収容空間61cは、弁体(ボール弁)63の径より幾分大きい内径(ボール弁との間に所定のクリアランスが得られる内径)に形成されている。したがって、弁体(ボール弁)63は弁体収容空間61cの軸方向に移動自在である。
【0036】
また、ボディ62には、弁体収容空間61cの軸心に対して直交するピン受け孔61dが形成され、このピン受け孔61dに弁体(ボール弁)63の移動量を規制するピン65が挿入されている。
【0037】
そして、このカートリッジ弁60を中間配管50の高圧側端部51に基端部62aの側から挿入し、弁収容部51bまで移動させ、ボディ62の基端部62aを弁収容部51bの終端部に高圧配管側から圧入して中間配管50に固定すれば、流通制御手段110(弁体63,付勢手段64)が中間配管50の高圧配管側寄りに配置され、高圧側から大きな圧力が作用しても外れないようになっている。
【0038】
以上の構成において、圧縮機101が運転を停止している状態において、圧縮機101の吐出領域と接続する高圧配管104内の冷媒圧力と圧縮機101の吸入領域と接続する低圧配管108内の冷媒圧力とがほぼ等しくなるように均衡している状態においては、高圧配管104と低圧配管108との間に形成されるバイパス配管109の流通制御手段110の弁体63の前後で圧力差は殆どなく、弁体63は付勢手段(圧縮ばね)64の付勢力により高圧領域側へ押されて弁座部61aから離反した状態となる。
【0039】
この状態において、日射による影響で冷凍サイクル機器の温度が高くなり、その後、日射による車両の加熱がなくなり、エバポレータ103、圧縮機101、及びコンデンサ102のそれぞれの温度が、エバポレータ温度>圧縮機温度>コンデンサ温度、の関係になると、エバポレータ103からの圧力によって低圧配管側から圧縮機101を介して高圧配管側へ冷媒が流れようとするが、圧縮機101の外部において高圧配管104と低圧配管108とを接続するバイパス配管109には、流通制御手段110が設けられ、この流通制御手段110の弁体63(カートリッジ弁60に設けられる63)が、エバポレータ103からの圧力によって弁座部61aから離反された状態となる。このため、低圧配管108と高圧配管104とはバイパス配管109に設けられた流通制御手段110を介して連通された状態となり、低圧配管108側の冷媒が圧縮機101の内部を通過することなく高圧配管104側へ速やかに流れる。このため、圧縮機101の外側で低圧配管108側と高圧配管104側の圧力が均衡するので、低圧配管108側から流れる冷媒が圧縮機101内部のオイルを持ち出すことがなくなり、圧縮機101内部のオイルの枯渇を防ぐことが可能となる。
【0040】
これに対して、圧縮機101が運転を開始する直後において、圧縮機101から高圧配管104に吐出された冷媒は、一部がバイパス配管109を通って低圧配管108に流れようとする。この際、高圧配管104から低圧配管108に流入しようとする冷媒は、カートリッジ弁60の弁体収容空間61cに収容される弁体63の側面を通過し、その後、連通路61を通って低圧配管108側に流出しようとするが、弁体63と弁体収容空間61cとの間の通路面積は弁口66の断面積に比して小さく設定されているので、ここで圧力が大きく降下し、弁体63の上流と下流に確実に圧力差が発生することとなる。このため、冷媒は付勢手段64の付勢力に抗して弁体63を弁口66側に押すこととなり、弁体63は、この力により弁座部61aに速やかに着座し、弁口66を閉鎖することとなる。そして、一旦弁体63が弁口66を塞ぐと、弁体63の前後に吐出圧力と吸入圧力が作用し、この圧力差により付勢手段64の付勢力に抗して閉鎖状態が安定して維持される。
【0041】
そして、この状態は、圧縮機101が再び停止して高圧配管104と低圧配管108との圧力差が十分小さくなり付勢手段64の付勢力により弁体63が吐出領域側に向かって(開弁方向に向かって)移動することとなるまで維持されることとなる。
【0042】
また、上述した構成においては、弁体63の外周面と弁体収容空間61cの内周面との間の通路面積が、弁口66の面積よりも小さく設定されているので、圧縮機101が運転を開始した直後にバイパス配管109を弁体63の側方を介して流れようとする冷媒によって弁体63前後に確実に圧力差が発生し、弁体63をより速やか移動させ、確実に弁口66を閉鎖させることが可能となる。
【0043】
さらに、上述した構成においては、エンジンルームAの外部、即ち車室B側にバイパス配管109が設けられ、また高圧配管104のバイパス配管109が接続する部位は、コンデンサ102に近い部位に設けられていることも特徴である。
【0044】
仮にバイパス配管109が、エンジンルーム内に配置される場合には、エンジンルーム内は熱容量の大きいエンジンが格納されているので、エンジンルーム内全体の温度が低くなり、バイパス配管109の高圧配管104や低圧配管108との接続部位が液冷媒に浸漬し、低圧配管108と高圧配管104との圧力均衡を保てなくなる恐れがある。
しかし、本構成においては、バイパス配管109が車室側に配されて外気温環境下に置かれているので、バイパス配管やその近傍が液冷媒で浸漬する虞がなく、低圧配管108と高圧配管104との圧力均衡が確実に保たれ、圧縮機内のオイルの持ち出しを確実に防ぐことが可能となる。
【0045】
また、上述の構成においては、中間配管50に取り付けられるカートリッジ弁60が中間配管50の高圧配管側寄り(中間配管50の受け入れ凹部51aに続いて設けられた弁収容部51b)に配置され、カートリッジ弁60の基端部62aを高圧配管104側から圧入固定して低圧配管108側へ移動できない状態としているので、高圧配管104側から圧力が作用してもカートリッジ弁60が中間配管50から抜けることはない。
【0046】
さらに、上述の構成においては、中間配管50は、図3に示されるように、低圧配管108に固定されているので、冷媒の熱による影響を受けることがない。
【0047】
以上の構成は、圧縮機101が1基の場合の例を示したが、バス等の大型車両に搭載される空調装置の冷凍サイクルは、冷媒充填量も多く、大きな冷媒循環能力が必要となるため、図5に示されるように、圧縮機101a,101bが複数(例えば、2つ)設けられる場合が多い。
【0048】
そこで、圧縮機が2基設けられている場合の本発明の構成について説明すると、圧縮機101は、第1圧縮機101aと第2圧縮機101bを備え、この第1圧縮機101aと第2圧縮機101bは、コンデンサ102の流入口とエバポレータ103の流出口に対して並列に接続、すなわち冷凍サイクル100内で並列に配置されている。具体的には、高圧配管104は、コンデンサ102の流入口に接続される高圧主管104aに、それぞれの圧縮機の吐出口に接続される高圧枝管104b,104cを合流させて接続している。また、低圧配管108は、エバポレータ103の流出口に接続される低圧主管108aに、それぞれの圧縮機の吸入口に接続される低圧枝管108b,108cを合流させて接続している。
【0049】
そして、バイパス配管109は、第1圧縮機101aと第2圧縮機101bのそれぞれの高圧配管104の合流点よりもコンデンサ102側の部位と、第1圧縮機101aと第2圧縮機101bのそれぞれの低圧配管108の合流点よりもエバポレータ103側の部位とによって、高圧配管104と低圧配管108に接続するように設けられている。具体的には、第1圧縮機101aと第2圧縮機101bのそれぞれの吐出口に接続される高圧枝管104b,104cの合流点αよりもコンデンサ102側となる高圧主管104aの途中と、第1圧縮機101aと第2圧縮機101bのそれぞれの吸入口に接続される低圧枝管108b,108cの合流点βよりもエバポレータ103側となる低圧主管108aの途中と、の間にバイパス配管109が接続されている。
なお、バイパス配管109がエンジンルーム外にあるなど、他の構成については、前記実施例と同様であるので、同一箇所に同一符号を付して説明を省略する。
【0050】
このような構成においては、バイパス配管109が、第1圧縮機101aと第2圧縮機101bの配管の合流点よりも熱交換器側にて高圧配管104と低圧配管108に接続されているので、1つのバイパス配管109を設けるだけで、2つの圧縮機(、第1圧縮機101a、第2圧縮機101b)のそれぞれの低圧枝管108b、108cの圧力と高圧枝管104b、104cの圧力との均衡を図ることが可能となり、それぞれの圧縮機内のオイルの持ち出しを防ぐことが可能となる。
【0051】
尚、上述の構成においては、弁体収容空間61c、弁座部61a、弁口66が形成されたボディ62に付勢手段64と弁体63とを収容してカートリッジ状に形成し、これを中間配管50に収容してバイパス配管109の途中に設置するようにしたが、バイパス配管109の途中に弁収容孔、弁座部、弁口を直接設けるようにしてもよい。
【0052】
また、上述の例では、圧縮機として、両頭ピストンを利用した往復動式圧縮機の例を示したが、圧縮機はこれに限られるものではなく、他のピストン式圧縮機でも他の形式の圧縮機でも同様の構成を採用することが可能である。
【符号の説明】
【0053】
50 中間配管
60 カートリッジ弁
62 ボディ
63 弁体
64 付勢手段
100 冷凍サイクル
101 圧縮機
101a 第1圧縮機
101b 第2圧縮機
102 コンデンサ
103 エバポレータ
104 高圧配管
106 膨張弁
108 低圧配管
109 バイパス配管
110 流通制御手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6