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特開2023-147733モータ制御装置並びにこれを用いたモータ駆動システム、電気掃除機及び電動車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147733
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】モータ制御装置並びにこれを用いたモータ駆動システム、電気掃除機及び電動車両
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20231005BHJP
   H02P 6/26 20160101ALI20231005BHJP
【FI】
H02P27/08
H02P6/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055417
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 尚礼
(72)【発明者】
【氏名】馬飼野 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】ハディナタ アグネス
(72)【発明者】
【氏名】戸張 和明
(72)【発明者】
【氏名】吉野 知也
【テーマコード(参考)】
5H505
5H560
【Fターム(参考)】
5H505AA08
5H505AA16
5H505CC04
5H505DD01
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG02
5H505GG04
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ17
5H505JJ22
5H505JJ24
5H505JJ26
5H505LL12
5H505LL22
5H560AA08
5H560BB02
5H560BB12
5H560DB11
5H560EB01
5H560RR06
5H560SS02
5H560TT08
5H560TT11
5H560TT15
5H560UA06
5H560XA02
5H560XA04
(57)【要約】
【課題】モータ制御装置の演算負荷を低減し、モータの制御の自由度を高める。
【解決手段】電流検出部によって得られた単相電動機に流れる電流情報が入力され、単相電動機を駆動するための電圧を調整するドライブ信号を単相電力変換器に対して出力するモータ制御装置であって、電流検出部の電流情報が入力されるフィルタと、単相電動機の回転子位置を算出する積分器と、単相交流電圧指令作成器と、を備え、単相電動機の速度指令値及び回転子位置に基いて、単相電動機の電流と単相電動機を駆動するための電圧との位相差が所定値になるようにドライブ信号を調整する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流検出部によって得られた単相電動機に流れる電流情報が入力され、前記単相電動機を駆動するための電圧を調整するドライブ信号を単相電力変換器に対して出力するモータ制御装置であって、
前記電流検出部の前記電流情報が入力されるフィルタと、
前記単相電動機の回転子位置を算出する積分器と、
単相交流電圧指令作成器と、を備え、
前記単相電動機の速度指令値及び前記回転子位置に基いて、前記単相電動機の電流と前記単相電動機を駆動するための前記電圧との位相差が所定値になるように前記ドライブ信号を調整する、モータ制御装置。
【請求項2】
テーブル参照部と、
比例制御器と、を更に備え、
前記フィルタは、前記電流情報から電流位相を算出し、
前記テーブル参照部は、前記フィルタが算出した前記電流位相を用いて前記電流位相の目標値を求め、
前記比例制御器は、前記電流位相の前記目標値と前記電流位相との差から前記電圧の周波数の操作量を算出する、請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記単相電動機の前記電流と前記回転子位置の負の正弦値とを乗算して得られた乗算値を前記フィルタに入力して得られた値又は直流成分に応じて、前記電圧の振幅を調整する、請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記位相差が所定値になっている状態で、前記単相電動機の前記電流に応じて、前記電圧の振幅を調整する、請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のモータ制御装置と、
前記単相電動機と、
前記単相電力変換器と、
前記電流検出部と、を備えた、モータ駆動システム。
【請求項6】
請求項5記載のモータ駆動システムを備えた、電気掃除機。
【請求項7】
請求項5記載のモータ駆動システムを備えた、電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ制御装置並びにこれを用いたモータ駆動システム、電気掃除機及び電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、有効電力と無効電力とを制御して単相モータを駆動するモータ駆動装置を得ることを目的として、交流電圧の極性の変化を基点とした位相による正弦波と電流検出部で検出された電流との積によって算出される物理量に応じて単相モータの回転速度を制御するモータ駆動装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/208785号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のモータ駆動装置においては、PI制御器73が有効電力を算出し、PI制御器74が無効電力を算出するように構成されている。そして、算出された有効電力及び無効電力を用いて逆PQ変換を行うため、演算負荷が大きくなる点で改善の余地があると考えられる。
【0005】
本開示の目的は、モータ制御装置の演算負荷を低減し、モータの制御の自由度を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のモータ制御装置は、電流検出部によって得られた単相電動機に流れる電流情報が入力され、単相電動機を駆動するための電圧を調整するドライブ信号を単相電力変換器に対して出力するものであって、電流検出部の電流情報が入力されるフィルタと、単相電動機の回転子位置を算出する積分器と、単相交流電圧指令作成器と、を備え、単相電動機の速度指令値及び回転子位置に基いて、単相電動機の電流と単相電動機を駆動するための電圧との位相差が所定値になるようにドライブ信号を調整する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、モータ制御装置の演算負荷を低減し、モータの制御の自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例のモータ駆動システムを示す概略構成図である。
図2図1の単相電動機20を示す模式構成図である。
図3】回転子位置に対する誘起電圧、単相モータの電圧及び単相モータの電流の波形の例を示すグラフである。
図4】誘起電圧、単相モータの電圧及び単相モータの電流をdq平面におけるベクトル図として示すグラフである。
図5】制御部の例を示す構成図である。
図6図5の簡易フーリエ変換器17を示す構成図である。
図7】制御座標の軸に位相差が生じる場合を示すグラフである。
図8】位相制御を付加した制御部の例を示す構成図である。
図9図8の制御部10の変形例を示す構成図である。
図10】単相電力変換器30を示す構成図である。
図11】標準的な三角波比較方式によるドライブ信号の生成方法を示すグラフである。
図12】本開示に係るモータ制御装置が内蔵された電気掃除機の一例を示す外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を参照しつつ本開示の実施例を詳細に説明する。同様の構成要素には同様の符号を付し、また、同一の説明は繰り返さない。
【0010】
本開示の各種の構成要素は、必ずしも個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、或る構成要素が他の構成要素の一部であること、或る構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること等を許容する。
【実施例0011】
<モータ駆動システムの概略構成>
図1は、実施例のモータ駆動システムを示す概略構成図である。
【0012】
モータ駆動システム100は、制御部10(モータ制御装置)と、単相電動機20(単相モータ)と、単相電力変換器30(単相インバータ)と、電流検出手段50(「電流検出部」又は「電流センサ」とも呼ぶ。)と、を備えている。単相電力変換器30は、制御部10と単相電動機20との間に設置されている。電流検出手段50は、単相電動機20と単相電力変換器30との間に設置されている。単相電動機20には、図示はしていないが、機械的あるいは磁気的に機構が接続されている。モータ駆動システム100は、単相電動機20の回転数またはトルクを所望の値に制御する。
【0013】
単相電力変換器30は、バッテリーなどの直流電圧源と、スイッチング素子を含むブリッジ回路と、を有し、入力されるドライブ信号に応じてスイッチング素子をスイッチングして電圧を出力する。スイッチング素子のスイッチング動作が遅れなく理想的に切り替わると仮定すると、単相電力変換器30から出力される電圧は、パルス状の電圧となる。公知のパルス幅変調の考えを用いると、パルス状電圧は、交流電圧とみなすことができる。
【0014】
尚、パルス幅変調においては、等価的な交流電圧(等価交流電圧)の周波数(ここでは、単相電動機20の回転周波数に相当する。)に対し、スイッチング素子をオンオフする周期、つまりスイッチング周波数を十分に高くすることが一般的である。しかしながら、パルス状電圧の基本波成分を考えることも可能である。例えば、スイッチング周波数が単相電動機20の回転周波数の1~3倍程度といった近い場合においては、パルス状電圧の基本波成分が単相電動機20に印加されているとして考えることができる。したがって、本明細書においては、単相電力変換器30の出力電圧は、交流波形であるとして説明する。
【0015】
尚、直流電圧源ではなく、交流電力源を整流などによって直流電力に変換する構成としてもよい。
【0016】
本図においては、制御部10は、単相交流電圧指令作成器11と、フィルタ13と、PWM信号作成器14と、積分器15と、比例制御器16と、テーブル参照部70と、を含む。単相交流電圧指令作成器11は、電圧指令作成器12を含む。ここで、PWMは、Pulse Width Modulationの略称である。
【0017】
制御部10の構成の詳細は後述するが、制御部10には、電流検出手段50によって得られた単相電動機20に流れる電流情報が入力され、単相交流電圧指令作成器11が出力する単相交流電圧指令値を基に、PWM信号作成器14から単相電力変換器30に内蔵されているスイッチング素子のオンオフを制御するドライブ信号を出力する。本図において、単相電動機20の速度指令値(ω)は、制御部10の中に示しているが、例えば、図示していない上位制御系や他の制御系などから得る構成であってもよい。
【0018】
図2は、図1の単相電動機20の構造を模式的に示す図である。
【0019】
図2に示すように、単相電動機20は、固定子21と、回転子22と、を含む。固定子21は、固定子コア26(固定子鉄心)に巻線25(コイル)が巻かれた固定子磁極28を複数有している。回転子22は、永久磁石27を有している。
【0020】
本図においては、固定子21の磁極の数(スロット数とも呼ぶ)が2、回転子22の磁極の数が2の例を示している。固定子21及び回転子22の磁極の数は、自由に選ぶことができ、また、固定子21と回転子22との磁極の数が等しくない構成であってもよい。また、複数ある巻線の接続は、並列接続でも直列接続でもよい。
【0021】
固定子磁極28は、巻線25に電流を流すことで電磁石としての磁極を生させることができる。したがって、巻線25の電流の向きによって極性(N極、S極)を変えられる。本明細書では、巻線25に正の直流電流を流した際に固定子磁極28がS極となり、回転子22の永久磁石27のN極が引きつけられる際の回転子22の回転角度(回転角度位置)をゼロ度(0(deg))と定義する。尚、以降、回転子の回転角度位置を回転子位置θと表記する。巻線25が複数ある場合は、いずれかの一つを基準の位置として定める。本明細書では、図2の右側にある巻線25を基準位置として説明する。本明細書においては、回転子22が反時計回りに回転する方向を正回転と定義する。また、回転子22の永久磁石27のN極の方向をd軸と定義し、d軸から回転方向に電気角90度進んだ方向をq軸と定義する。d軸の定義は、基準の巻線25に鎖交する永久磁石27の磁束が最大となる回転角度位置とも言い換えることができる。
【0022】
なお、d軸は磁石磁束軸、q軸は巻線磁束軸ともいうことができる。特に、q軸方向の電流を適切に制御することが重要である。
【0023】
<単相モータの駆動方法>
回転子22に永久磁石27を有する単相電動機20を駆動する場合、永久磁石27による磁束に対し、回転方向に電気角90度進んだ位置に、巻線25による磁束を発生させると、最小の電流で最大のトルクを得ることができる。このように駆動することにより、単相電動機20の小型化や軽量化を実現できるだけでなく、単相電力変換器30も小型化できる効果がある。
【0024】
<本開示の目的>
d軸方向及びq軸方向の電流や電圧を制御する方法として、ベクトル制御と呼ばれる方式がある。この方式は、非常に有用であり、特に三相モータの駆動方式として広く使われている。ベクトル制御は、座標変換を用いて三相の交流量からd軸方向及びq軸方向の値に変換して制御した後、再度、座標変換をして三相交流量に戻す必要がある。また、d軸方向及びq軸方向のそれぞれで、個別に電流制御をすることが一般的である。また、ベクトル制御の演算は、スイッチング周波数を基準に実行される。そのため、モータを高速で回転させる場合には、ベクトル制御および電流制御の演算時間(演算負荷)が障壁となる。
【0025】
そこで、本開示は、演算負荷低減に好適なモータ制御装置を提供することを目的の一つとする。また、q軸の電流を簡便に求めることも目的の一つとする。さらに、回転子位置に応じた制御構成を位置センサを用いずに実現することも本開示の目的の一つとする。
【0026】
<単相電動機20の電圧と電流のベクトル表記>
前述の定義に従うと、巻線25に鎖交する磁石磁束Φは、次の式(1)のように表すことができる。
【0027】
【数1】
【0028】
式中、Φmaxは、磁石磁束Φの振幅である。
【0029】
また、磁石磁束Φによって巻線25に生じる誘起電圧eは、磁束の90°進み位相になるため、次の式(2)のように表すことができる。
【0030】
【数2】
【0031】
式中、Eは、誘起電圧の振幅である。
【0032】
図3は、回転子位置に対する誘起電圧、単相モータの電圧及び単相モータの電流の波形の例を示すグラフである。図中、一点鎖線は誘起電圧e、実線はモータ電圧v、破線はモータ電流iを表している。単相モータの電圧の振幅はV、単相モータの電流の振幅はIである。
【0033】
本図においては、誘起電圧eを基準とした場合、単相モータの電圧v及び電流iのずれはそれぞれ、電圧位相δ、電流位相φである。
【0034】
したがって、単相モータの電圧v及び電流iはそれぞれ、次の式(3)及び(4)で表すことができる。
【0035】
【数3】
【0036】
【数4】
【0037】
図4は、誘起電圧、単相モータの電圧及び単相モータの電流をdq平面におけるベクトル図として示すグラフである。
【0038】
本図においては、d軸は余弦波、q軸は負の正弦波に対応すると考えることができる。言い換えると、上記式(3)及び(4)には、負の正弦波(-sin)が含まれている。
【0039】
誘起電圧の振幅Eは、q軸上の座標として表される。dc軸の回転速度をωとし、巻線25(図2)の抵抗をR、巻線25のインダクタンスをLとする。
【0040】
単相モータの電圧v及び電流iは、電圧位相δ及び電流位相φとともに、ベクトルとして表される。
【0041】
図4に示すように、モータ電圧vは、d軸電圧V及びq軸電圧Vの合成であり、次の式(5)で表すことができる。
【0042】
【数5】
【0043】
尚、図4の例では、Vは負値となっているため、例えば、Vを大きさとして考える場合には、後で-1を乗算する必要がある。このように、V及びVの大きさを求め、それぞれに余弦波および正弦波を乗算し、それらを合成することで、任意の振幅及び位相を持つ単相交流電圧を生成することができる。
【0044】
<制御部の全体構成>
図5は、制御部の例を示す構成図である。
【0045】
本図に示す制御部10aは、単相電動機20(図1)の負荷トルクが小さい場合や誘起電圧が相対的に大きくモータ電流が小さい場合などに好適な、最も演算負荷低減に効果的な構成である。
【0046】
図5においては、制御部10aは、単相交流電圧指令作成器11と、PWM信号作成器14と、積分器15と、簡易フーリエ変換器17と、を含む。単相交流電圧指令作成器11は、電圧指令作成器12と、減算器191と、を含む。電圧指令作成器12は、加算器90と、乗算器92と、を含む。簡易フーリエ変換器17は、フィルタ13aを含む。
【0047】
電圧指令作成器12は、速度指令値(ω)と、フィルタ13aの出力値と、積分器15からの出力値と、を入力として用いて、図4のV及びVに相当する電圧指令値を出力する。図5のKは、誘起電圧定数を意味し、回転速度に比例して大きさが決まる誘起電圧eに関係する。誘起電圧の振幅Eと誘起電圧定数Kとの関係は、次の式(6)で表すことができる。
【0048】
【数6】
【0049】
図5において、Rは巻線25の抵抗、Lは巻線25のインダクタンスを意味している。本図に示す電圧指令作成器12の演算は、フィルタ13aの出力値をI とすると、V及びVは、次の式(7)及び(8)で表すことができる。
【0050】
【数7】
【0051】
【数8】
【0052】
すなわち、Vに相当する電圧は、速度指令値(ω)に誘起電圧定数Kを乗算した結果と、巻線抵抗Rとフィルタ13aの出力値をI を乗算した結果と、を加算器90で加算して得られる。Vに相当する電圧は、巻線インダクタンスLとフィルタ13aの出力値をI を乗算した結果を乗算器92で速度指令値(ω)と乗算して得られる。
【0053】
尚、図5に示す電圧指令作成器12の構成は一例であり、他の形態で構成してもよい。
【0054】
図5に示す制御部10aでは、回転子位置θは、速度指令値(ω)を積分器15にて積分することで得られる。前述のように、d軸は余弦波、q軸は負の正弦波として考えることができるため、上記式(7)に負の正弦波を乗算し、上記式(8)に余弦波を乗算した後、減算器191でこれらの値の差を算出する。なお、乗算器を用いる理由は、上記式(8)で求めたVを大きさとして計算に用いるためである。
【0055】
制御部10aには、電流検出手段50(図1)によって得られた単相電動機20に流れる電流値(i)が入力される。
【0056】
図3において破線で示すモータ電流iの波形の例は、高次高調波を含まない基本波成分のみを示しているが、単相電動機20の構造、つまりは磁気回路によっては、二次あるいは更に高次の高調波を含むこともある。本明細書においては、単相電動機20の回転数またはトルクを所望の値に制御をするために、基本波成分に注目をする。
【0057】
そこで、簡易的なフーリエ変換の考えを用いることにする。
【0058】
図5においては、フィルタ13aを含む簡易フーリエ変換器17を用いている。
【0059】
モータ電流iは、上記式(4)で表すことができるが、単相電動機20に印加される電圧、及び回転数や負荷トルクなど変化すれば、電流位相φは変化する。このような変化が生じる状態においても、本開示の目的であるq軸の電流を簡便に求めるために、Vに相当する電圧に乗算したのと同じ負の正弦波をモータ電流iに乗算する。その乗算により得られた結果を用いて、フィルタ13aによって直流成分を抽出する。これにより、Vに相当する電圧に乗算したのと同じ負の正弦波と同周波数で同位相の正弦波の振幅を得ることができる。
【0060】
単相電動機20に印加される電圧(単相モータの電圧v)は、図4に示すベクトル図から分かるように、q軸とは位相が異なり、回転数や負荷トルクなどの状態によって電圧位相δが変化する。このように、モータ電圧及びモータ電流の位相が駆動状態によって変化する場合においても、モータ電流の内、q軸成分、つまり、誘起電圧と同位相の電流を簡便に求めることができる。
【0061】
図5に示す簡易フーリエ変換器17は、基準波形として入力する交流波形を変えることによって、抽出できる基準波形と同周波数で同位相の正弦波または余弦波の振幅を変えることができる。
【0062】
言い換えると、制御部10aは、電流の大きさではなく、位相を用いてフィードバック制御をする構成であるため、積分の対象となる変数が1つとなり、演算の負荷を低減することができる。
【0063】
<簡易フーリエ変換器17>
図6は、図5の簡易フーリエ変換器17を示す構成図である。
【0064】
本図においては、簡易フーリエ変換器17の乗算器に基準波形及び入力波形が入力され、振幅が出力されることを示している。
【0065】
入力される基準波形は、正弦波または余弦波である。入力された任意の交流波形から、基準波形と同周波数で同位相の正弦波または余弦波の振幅が出力される。
【0066】
<位相制御の構成例>
上記の説明においては、単相電動機20の負荷トルクが小さい場合などに好適な構成例を示している。つまり、単相電動機20のd軸方向及びq軸方向と、制御で想定しているdc軸方向及びqc軸方向とは、ずれがない状態である。ここで、dc軸及びqc軸は、制御で想定している座標、すなわち制御座標を意味する。
【0067】
図2に示すように単相電動機20の回転子22が永久磁石27を有する場合、永久磁石同期モータと分類される。このよう場合には、回転子22は、基本的には、固定子磁極28による磁極と同期して回転する。しかし、単相電動機20の負荷トルクが大きい場合などには、両軸の角度に差(位相差)が生じる。
【0068】
図7は、制御座標の軸に位相差が生じる場合を示すグラフである。
【0069】
本図においては、回転子22の永久磁石27の磁束を基にしたd軸を基準とした場合においてd軸と制御座標の軸であるdc軸(いわゆる仮想のd軸)との位相差は、軸誤差Δθである。
【0070】
dc軸の回転速度がωであるのに対し、d軸の回転速度はωである。
【0071】
q軸電流推定値(Iqc)は、軸誤差Δθによりqc軸上のベクトルとして表される。Iqcのq軸成分及びd軸成分はそれぞれ、I、Iである。
【0072】
回転子22に永久磁石27を有する単相電動機20においては、単相電動機20に印加した交流電圧が所定値以上である場合には、単相電動機20の発生トルクとモータの負荷トルクとが釣り合うように軸誤差Δθが発生して駆動することができる。そのため、この駆動を採用することも問題ない。しかし、単相電動機20に流れる電流を小さくする効果を得たい場合などには、軸誤差Δθを制御する構成を付加する。
【0073】
図8は、位相制御を付加した制御部の例を示す構成図である。
【0074】
本図においては、制御部10は、2つの簡易フーリエ変換器17a、17bを有する。それぞれの簡易フーリエ変換器17a、17bに入力する基準波形として、Vに相当する電圧に乗算したものと同じ負の正弦波と、Vに相当する電圧に乗算したものと同じ余弦波と、を用いることで、q軸に相当する電流及びd軸に相当した電流を検出することができる。
【0075】
それぞれの簡易フーリエ変換器17a、17bの出力を逆正接演算器86に入力し、電流位相φを得る。尚、ここでは、電流位相φを得るために逆正接演算器86を用いているが、他の手段による構成としてもよい。
【0076】
本図においては、算出した電流位相の目標値を求める構成として、テーブル参照部70を用いている。テーブル参照部70は、簡易フーリエ変換器17aで求めたq軸電流推定値(Iqc)を基に、予め準備したテーブルなどから電流位相の目標値(φ)を出力する。
【0077】
電流位相の目標値φと得られた電流位相φとの差を減算器91で演算し、その差を用いて比例制御器16で単相電力変換器30が出力する交流電圧又は等価交流電圧の周波数の操作量を算出する。これは、例えば、得られた電流位相φが電流位相の目標値φよりも大きい場合は、図7に示すように、制御で想定したdc軸が、回転子22の永久磁石27の磁束を基にしたd軸よりも進んでいる。このため、比例制御器16の出力(この場合は負値)を速度指令値(ω)に加算して、dc軸の回転速度ωをその分下げれば、軸誤差Δθが小さくなる。その結果、最終的には、電流位相φは、電流位相目標値φに追従して動作するようにすることができる。
【0078】
まとめると、単相電動機20の速度指令値(ω)及び回転子位置θに基いて、単相電動機20の電流と単相電動機20を駆動するための電圧との位相差が所定値になるようにドライブ信号を調整する。
【0079】
図9は、図8の制御部10の変形例を示す構成図である。
【0080】
図9においては、テーブル参照部70aは、簡易フーリエ変換器17aで求めたq軸電流推定値(Iqc)と速度指令値(ω)とを基に、予め準備したテーブルなどから電流位相の目標値(φ)を出力する。本変形例は、特に、d軸とq軸とのインダクタンスの差が大きい場合に好適である。
【0081】
<単相電力変換器30(単相インバータ)>
図10は、単相電力変換器30を示す構成図である。
【0082】
単相電力変換器30は、インバータ131と、直流電圧源130と、ゲートドライバ回路133と、を主たる構成要素としている。インバータ131は、スイッチング素子132a、132b、132c、132d(例えば、IGBT、MOS-FET、GaN、SiCなどの半導体スイッチング素子)を含む。これらのスイッチング素子132a、132b、132c、132dは、スイッチング素子132a、132bとスイッチング素子132c、132dとがそれぞれ直列に接続され、2組の上下アームを構成している。これは、いわゆるHブリッジ回路である。
【0083】
図1の制御部10で生成される単相交流電圧指令値を基に、ゲートドライバ回路133が出力するパルス状のドライブ信号134a、134b、134c、134dに応じてスイッチング動作をする。直流電圧源130のスイッチングをして電圧を出力することで、任意の周波数の単相交流電圧を単相電動機20に印加することができる。これにより、単相電動機20の可変速駆動、位置制御駆動及びトルク制御駆動をすることができる。
【0084】
尚、図10に示すように単相電力変換器30の直流側にシャント抵抗135を付加すれば、過大な電流が流れた際にスイッチング素子132a、132b、132c、132dを保護するための過電流保護回路や、後述するシングルシャント電流検出方式などに利用できる。
【0085】
図11は、標準的な三角波比較方式によるドライブ信号の生成方法を示すグラフである。
【0086】
本図においては、交流の電圧指令値と、ドライブ信号を生成するための三角波キャリア信号とを示している。両者を比較し、大小関係により図中のように上アームのドライブ信号Gpおよび下アームのドライブ信号Gnを生成する。
【0087】
ゲートドライバ回路133やスイッチング素子自体の遅れに起因して、上下アームのスイッチング素子が短絡するおそれがあるため、実際には、上下アームの両方がスイッチングオフとなるデッドタイム(数マイクロ秒~十数マイクロ秒程度)を付加して最終的なドライブ信号とする。しかしながら、デッドタイムに関しては、本開示の目的や効果には全く影響がないため、本明細書においては理想的なドライブ信号を示している。もちろん、デッドタイムを付加した構成としてもよい。
【0088】
<電流検出手段50>
インバータ131の下アームには、例えばCT(カレントトランス)等の電流検出手段50を設けることができる。これにより、単相電動機20の巻線25に流れる電流iを検出できる。
【0089】
電流検出手段50として、例えば、CTに代えて、単相電力変換器30の下アームにシャント抵抗を付加し、シャント抵抗に流れる電流から単相電力変換器30にある相に流れる電流を検出する相シャント電流方式を採用できる。
【0090】
電流検出手段50に代えて又は追加して、単相電力変換器30の直流側に付加されたシャント抵抗135に流れる直流電流から、単相電力変換器30の交流側の電流を検出するシングルシャント電流検出方式を採用してもよい。シングルシャント電流検出方式は、単相電力変換器30を構成するスイッチング素子122の通電状態によって、シャント抵抗135に流れる電流が時間的に変化することを利用している。
【0091】
図12は、本開示に係るモータ制御装置が内蔵された電気掃除機の一例を示す外観斜視図である。
【0092】
本図に示すように、電気掃除機200は、手元操作スイッチ207等が設けられた掃除機本体202と、延長管205と、吸口体206と、を組み合わせてスティック状に構成されたものである。また、電気掃除機200は、掃除機本体202及び吸口体206の駆動用電源である充電式電池224(二次電池)を備えている。
【0093】
掃除機本体202は、吸引力を発生させる電動送風機201、この電動送風機201の吸引力で集塵した塵埃を収容する集塵部222などを備えている。また、掃除機本体202には、充電式電池224の制御装置が内蔵されている。
【0094】
延長管205の一端は、掃除機本体202の集塵部222と連通するように掃除機本体202の接続口223に接続されている。また、延長管205の他端は、吸口体206に接続されている。また、延長管205は、図示していない通風路が形成されるとともに、充電式電池224と吸口体206のブラシ用の電動機(図示していない)とを電気的に接続する配線(図示していない)を備えている。
【0095】
手元操作スイッチ207を操作すると、モータ制御装置を含む本体制御装置(図示していない)が電動送風機201の運転、停止、吸込み力の切り替え、吸口体206に設けられた電動機(図示していない)の運転及び停止を制御する。本体制御装置は、掃除機本体202内に設けられている。
【0096】
なお、電気掃除機としては、図示されているスティックタイプの掃除機に限定されず、ハンディタイプの掃除機、キャニスター掃除機(シリンダー式掃除機)、ロボット掃除機などの充電式(コードレスタイプ)の電気掃除機に適用することができる。また、同様の構成を有する電源コード式の掃除機にも適用することができる。
【0097】
なお、上記の説明においては、本開示に係るモータ制御装置を充電式掃除機に適用した場合について説明したが、本開示に係るモータ制御装置は、上記の説明内容に限定されるものではなく、本明細書において説明した特徴を損なわない限り、他の構成であってもよい。例えば、充電式のパーソナルコンピュータ(PC)、スマートフォン等の携帯端末、家庭用のルータ、外部のデータセンター(サーバ)等を利用することなくモータの制御を行う電動車両等にも、本開示に係るモータ制御装置を適用することができる。
【0098】
本開示に係るモータ制御装置によれば、モータを制御する際における演算負荷を少なくすることができ、モータの起動直後における回転速度を低くしておく必要がなくなる。このため、モータの制御の自由度を高めることができ、ユーザの使用感も向上する。
【0099】
以下、本開示の望ましい実施形態についてまとめて説明する。
【0100】
モータ制御装置は、テーブル参照部と、比例制御器と、を更に備え、フィルタは、電流情報から電流位相を算出し、テーブル参照部は、フィルタが算出した電流位相を用いて電流位相の目標値を求め、比例制御器は、電流位相の目標値と電流位相との差から電圧の周波数の操作量を算出する。
【0101】
モータ制御装置は、単相電動機の電流と回転子位置の負の正弦値とを乗算して得られた乗算値をフィルタに入力して得られた値又は直流成分に応じて、電圧の振幅を調整する。
【0102】
モータ制御装置は、位相差が所定値になっている状態で、単相電動機の電流に応じて、電圧の振幅を調整する。
【0103】
モータ駆動システムは、モータ制御装置と、単相電動機と、単相電力変換器と、電流検出部と、を備えている。
【0104】
モータ駆動システムは、電気掃除機、電動車両等に適用することができる。
【0105】
本開示は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本開示を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0106】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手続き等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成や機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。
【符号の説明】
【0107】
10:制御部、11:単相交流電圧指令作成器、12:電圧指令作成器、13:フィルタ、14:PWM信号作成器、15:積分器、16:比例制御器、17:簡易フーリエ変換器、20:単相電動機、21:固定子、22:回転子、25:巻線、26:固定子コア、27:永久磁石、28:固定子磁極、30:単相電力変換器、50:電流検出手段、70:テーブル参照部、100:モータ駆動システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12