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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147737
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】モールドパウダー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/108 20060101AFI20231005BHJP
   B22D 27/18 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B22D11/108 F
B22D27/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055422
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】和田 太一
(72)【発明者】
【氏名】梶原 一希
(72)【発明者】
【氏名】金澤 悠里
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004MB14
4E004NC01
(57)【要約】
【課題】中炭素鋼、高炭素鋼又は電磁鋼の連続鋳造に用いるのに好適な低い粘度を有しながら、白煙の発生を抑制できるモールドパウダーを製造すること。
【解決手段】本発明の一側面は、中炭素鋼、高炭素鋼又は電磁鋼の連続鋳造に用いられるモールドパウダーの製造方法であって、フッ化ナトリウム及びナトリウムオキソ酸塩を含む原料からモールドパウダーを得る工程を備え、モールドパウダー中のNaOの含有量が9質量%以上であり、Clの含有量が0.5質量%以下であり、モールドパウダーの1300℃における粘度が2dPa・s以下である、製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中炭素鋼、高炭素鋼又は電磁鋼の連続鋳造に用いられるモールドパウダーの製造方法であって、
フッ化ナトリウム及びナトリウムオキソ酸塩を含む原料から前記モールドパウダーを得る工程を備え、
前記モールドパウダー中のNaOの含有量が9質量%以上であり、Clの含有量が0.5質量%以下であり、
前記モールドパウダーの1300℃における粘度が2dPa・s以下である、製造方法。
【請求項2】
前記モールドパウダー中のFの含有量が6質量%以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記原料中の前記ナトリウムオキソ酸塩の含有量が9質量%以下であり、前記モールドパウダーが中空顆粒状である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記原料中の前記フッ化ナトリウムの含有量が5質量%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記フッ化ナトリウム中の塩素の残留量が3.5質量%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
中炭素鋼、高炭素鋼又は電磁鋼の連続鋳造に用いられるモールドパウダーであって、
前記モールドパウダー中のNaOの含有量が9質量%以上であり、Clの含有量が0.5質量%以下であり、
前記モールドパウダーの1300℃における粘度が2dPa・s以下である、モールドパウダー。
【請求項7】
前記モールドパウダー中のFの含有量が6質量%以上である、請求項6に記載のモールドパウダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モールドパウダー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モールドパウダーは、連続鋳造の鋳型内に投入され、溶鋼の熱で溶けて溶融スラグとなり、凝固した鋼と鋳型との隙間に流入して、潤滑及び抜熱制御の役割を果たす。中炭素鋼、高炭素鋼又は電磁鋼の連続鋳造では、それらの鋼種の特性により、操業トラブルや鋳片品質トラブルを防ぐことが特に求められており、そのため、それらの鋼種の連続鋳造に用いられるモールドパウダーには、潤滑性を高く保持することが求められる。
【0003】
モールドパウダーの潤滑性を高く保持しようとする場合、モールドパウダーの粘度を低く抑える必要がある。そして、モールドパウダーの粘度を低く抑えるためには、例えば、モールドパウダーの粘度を調整する成分として知られているナトリウム源(例えば特許文献1を参照)をモールドパウダー中に多く含ませることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-309464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているように、ナトリウム源を含ませる場合、ナトリウムのフッ化物や塩化物を原料として用いることが知られているが、本発明者らの検討によれば、塩化物を用いた場合、得られるモールドパウダー中の塩素の残留量が多くなると、モールドパウダーの使用時に白煙が生じ得ることが判明した。
【0006】
そこで、本発明の一側面は、中炭素鋼、高炭素鋼又は電磁鋼の連続鋳造に用いるのに好適な低い粘度を有しながら、白煙の発生を抑制できるモールドパウダーを製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、中炭素鋼、高炭素鋼又は電磁鋼の連続鋳造に用いられるモールドパウダーの製造方法であって、フッ化ナトリウム及びナトリウムオキソ酸塩を含む原料からモールドパウダーを得る工程を備え、モールドパウダー中のNaOの含有量が9質量%以上であり、Clの含有量が0.5質量%以下であり、モールドパウダーの1300℃における粘度が2dPa・s以下である、製造方法である。
【0008】
この製造方法では、モールドパウダー中のNaOの含有量が9質量%以上であり、モールドパウダーの1300℃における粘度が2dPa・s以下であることにより、モールドパウダーがナトリウム源を充分に含み、モールドパウダーの粘度が低く抑えられているため、中炭素鋼、高炭素鋼又は電磁鋼の連続鋳造用モールドパウダーに求められる潤滑性を発揮できる。また、この製造方法では、フッ化ナトリウム及びナトリウムオキソ酸塩を含む原料を用い、モールドパウダー中のClの含有量が0.5質量%以下であるため、モールドパウダーの使用時の白煙の発生を抑制できる。
【0009】
モールドパウダー中のFの含有量は、6質量%以上であってよい。原料中のナトリウムオキソ酸塩の含有量は9質量%以下であってよく、モールドパウダーは中空顆粒状であってよい。原料中のフッ化ナトリウムの含有量は、5質量%以上であってよい。フッ化ナトリウム中の塩素の残留量は、3.5質量%以下であってよい。
【0010】
本発明の他の一側面は、中炭素鋼、高炭素鋼又は電磁鋼の連続鋳造に用いられるモールドパウダーであって、モールドパウダー中のNaOの含有量が9質量%以上であり、Clの含有量が0.5質量%以下であり、モールドパウダーの1300℃における粘度が2dPa・s以下である、モールドパウダーである。モールドパウダー中のFの含有量は、6質量%以上であってよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面によれば、中炭素鋼、高炭素鋼又は電磁鋼の連続鋳造に用いるのに好適な低い粘度を有しながら、白煙の発生を抑制できるモールドパウダーを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明の一実施形態は、フッ化ナトリウム及びナトリウムオキソ酸塩を含む原料からモールドパウダーを得る工程を備える、モールドパウダーの製造方法である。
【0014】
原料は、フッ化ナトリウム、ナトリウムオキソ酸塩及びその他の原料を配合することにより得られる。ナトリウムオキソ酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、燐酸ナトリウム、及び珪酸ナトリウムが挙げられる。
【0015】
その他の原料は、基材原料、フラックス原料、炭素質原料(骨材カーボン)、及び有機バインダーからなる群より選ばれる1種以上である。基材原料は、例えばプリメルト基材原料であってよく、具体的には、製銑及び製鋼工程で生成される高炉スラグ及び転炉スラグ、電気炉・キュポラ等で生成される電気炉スラグ、黄リンスラグ及び合成珪酸カルシウムなど、加熱溶融工程を経て生産される原料であってよい。フラックス原料は、例えば、二酸化マンガン等の金属酸化物、フッ化カルシウムのフッ化物(ただし、フッ化ナトリウムを除く)、炭酸リチウム等の炭酸塩(ただし、ナトリウムオキソ酸塩を除く)などであってよい。炭素質原料は、例えば炭素粉末であってよい。有機バインダーは、例えば水溶性高分子化合物であってよい。
【0016】
原料中のフッ化ナトリウムの含有量(原料の全量を基準とした含有量)は、好ましくは、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上、8質量%以上、9質量%以上、又は10質量%以上であってよく、20質量%以下、19質量%以下、18質量%以下、又は17質量%以下であってよい。
【0017】
原料中のナトリウムオキソ酸塩の含有量(原料の全量を基準とした含有量)は、好ましくは、1質量%以上、2質量%以上、又は3質量%以上であってよく、9質量%以下、8質量%以下、7質量%以下、又は6質量%以下であってよい。原料中のナトリウムオキソ酸塩の含有量がこの範囲であることにより、モールドパウダーが中空顆粒状である場合に、中空部分が過度に増加し、モールドパウダーの嵩密度の低下及び強度の低下が生じることを抑制できる。
【0018】
原料中の塩素の含有量は、得られるモールドパウダー中の塩素(Cl)の含有量が0.5質量%以下となるように調整される必要がある。したがって、例えば、ナトリウム源としては、塩化ナトリウム以外のナトリウム源を用いることが好ましい。原料として用いられるフッ化ナトリウムには、塩素が例えば塩化ナトリウムの形態で残留する場合があるため、その場合は、フッ化ナトリウム中の塩素の残留量を低減することが好ましい。フッ化ナトリウム中の塩素の残留量は、好ましくは、3.5質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下、0.4質量%以下、又は0.35質量%以下であってよく、0.01質量%以上、0.1質量%以上、又は0.2質量%以上であってよい。
【0019】
モールドパウダーを得る工程では、上記のような原料を粉末状にして、粉末状のモールドパウダーを得ることができる。あるいは、当該工程では、原料を分散媒に分散させてスラリーを調製した後、当該スラリーを噴霧及び乾燥する造粒工程を実施することにより、中空顆粒状のモールドパウダーを得ることもできる。
【0020】
以上の製造方法により得られるモールドパウダーにおいては、NaOの含有量が9質量%以上であり、Clの含有量が0.5質量%以下であり、1300℃における粘度が2dPa・s以下となっている。このモールドパウダーは、低い粘度を有しているため、高い潤滑性が求められる中炭素鋼、高炭素鋼又は電磁鋼の連続鋳造に好適に用いられ、かつ白煙の発生を抑制できる。なお、本明細書中、特に断らない限り、モールドパウダー中の各成分の含有量は、モールドパウダー全量を基準とした含有量(質量%)である。
【0021】
モールドパウダー中のNaOの含有量は、好ましくは、10質量%以上、10.5質量%以上、11質量%以上、又は12質量%以上であってもよく、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、又は13質量%以下であってもよい。
【0022】
モールドパウダー中のClの含有量は、好ましくは、0.4質量%以下、0.3質量%以下、0.2質量%以下、0.1質量%以下、0.08質量%以下、0.06質量%以下、0.05質量%以下、0.05質量%未満、0.04質量%以下、又は0.03質量%以下であってもよい。
【0023】
モールドパウダーは、Fを更に含有していてよい。モールドパウダー中のLiOの含有量は、6質量%以上、7質量%以上、8質量%以上、又は9質量%以上であってよく、13質量%以下、12質量%以下、11質量%以下、又は10質量%以下であってよい。モールドパウダー中のFの含有量がこの範囲であることにより、モールドパウダーが鋳型内において溶融し、鋳型と鋳片間に流入してその一部が凝固することによりパウダーフィルムを形成する際に、当該パウダーフィルムの主成分であるCuspidine(CaSi)という結晶が晶出しやすくなり(FがCuspidineの主要成分であるため)、鋳型内での抜熱を安定的に制御できる。
【0024】
モールドパウダーは、CaO及びSiOを更に含有していてよい。モールドパウダー中のCaOの含有量は、20質量%以上、25質量%以上、又は30質量%以上であってよく、55質量%以下、50質量%以下、又は45質量%以下であってよい。モールドパウダー中のSiOの含有量は、20質量%以上、25質量%以上、又は30質量%以上であってよく、50質量%以下、45質量%以下、又は40質量%以下であってよい。SiOに対するCaOの含有量の比(CaO/SiO)は、0.80以上、0.90以上、1.00以上、1.10以上、又は1.20以上であってよく、1.80以下、1.70以下、1.60以下、1.50以下、又は1.40以下であってよい。
【0025】
モールドパウダーは、Cを更に含有していてよい。モールドパウダー中のCの含有量(T.C.)は、2質量%以上、3質量%以上、又は4質量%以上であってよく、8質量%以下、7質量%以下、又は6質量%以下であってよい。
【0026】
モールドパウダーは、Alを更に含有していてよい。モールドパウダー中のLiOの含有量は、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、又は5質量%以上であってよく、10質量%以下、9質量%以下、8質量%以下、又は7質量%以下であってよい。
【0027】
モールドパウダーは、MgOを更に含有していてよい。モールドパウダー中のMgOの含有量は、0.1質量%以上、0.2質量%以上、又は0.5質量%以上であってよく、3質量%以下、2質量%以下、又は1質量%以下であってよい。
【0028】
モールドパウダーは、LiOを更に含有していてよい。モールドパウダー中のLiOの含有量は、0.1質量%以上、0.2質量%以上、又は0.5質量%以上であってよく、3質量%以下、2質量%以下、又は1質量%以下であってよい。
【0029】
モールドパウダーの1300℃における粘度は、1.8dPa・s以下、1.6dPa・s以下、1.5dPa・s以下、1.4dPa・s以下、1.3dPa・s以下、1.2dPa・s以下、又は1.1dPa・s以下であってもよく、0.1dPa・s以上、0.2dPa・s以上、0.3dPa・s以上、0.4dPa・s以上、0.5dPa・s以上、又は0.6dPa・s以上であってもよい。モールドパウダーの1300℃における粘度は、以下の手順に従って回転円筒法により測定されたモールドパウダーの粘度を意味する。
まず、測定対象のモールドパウダーをルツボに装入し、1400℃で完全に溶融させる。その後、縦型環状炉(エレマ炉)に入れ、B型粘度計のローターを溶融パウダー中に浸漬し、1300℃で30分間安定させる。次いで、ローターを回転させ、粘性抵抗によるトルクを測定し、粘度を求める。なお、B型粘度計は、事前に標準粘度計にて較正しておく。
【0030】
モールドパウダーは、粉末状(例えば中実)であってよく、中空顆粒状であってもよい。モールドパウダーは、上述したとおり、中炭素鋼、高炭素鋼又は電磁鋼の連続鋳造に好適に用いられる。中炭素鋼は、炭素含有量が例えば0.08~0.20質量%である鋼である。高炭素鋼は、炭素含有量が例えば0.20質量%以上である鋼である。電磁鋼は、珪素含有量が例えば1.0質量%以上である鋼である。
【実施例0031】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0032】
(モールドパウダーの製造)
表1に示す量のフッ化ナトリウム及び炭酸ナトリウムと、その他の原料とを、表1,2に示す組成及び粘度を有するモールドパウダーとなるように配合して原料を用意した。その他原料は、基材原料、フラックス原料、炭素質原料(骨材カーボン)、及び有機バインダーを含む。なお、表1には、モールドパウダー中のNaO及びClの含有量と粘度を示し、表2には、モールドパウダー中のそれ以外の成分の含有量を示す。続いて、原料に水を加えてスラリーを調製した後、当該スラリーを噴霧造粒することにより、中空顆粒状のモールドパウダーを得た。
【0033】
モールドパウダー中のClの含有量は、モール法により測定した。より具体的には、自動滴定装置(平沼産業株式会社製、製品名:自動滴定装置 COM-300A)にて、銀指示電極を用いた電位差滴定(滴定試薬は0.01mol/Lの硝酸銀標準液)によって、モールドパウダー中のClの含有量を求めた。
【0034】
(白煙の評価)
高周波誘導加熱炉において、1550℃に保持した表1に示す鋼種の溶銑上に各モールドパウダーを散布した。その際にモールドパウダーから発生する白煙について、作業者5名に対して不快感の有無を質問した。不快感「有」と回答した作業者の人数が0名の場合を「A」、1名の場合を「B」、2名以上の場合を「C」とした。結果を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】