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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147766
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】筆記用具洗浄剤および単位量物
(51)【国際特許分類】
   C11D 17/04 20060101AFI20231005BHJP
   C11D 1/38 20060101ALI20231005BHJP
   C11D 1/66 20060101ALI20231005BHJP
   C11D 3/37 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C11D17/04
C11D1/38
C11D1/66
C11D3/37
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055466
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】西川 知明
(72)【発明者】
【氏名】菅井 洋典
【テーマコード(参考)】
4H003
【Fターム(参考)】
4H003AB39
4H003AC08
4H003BA18
4H003DA05
4H003DA12
4H003DB03
4H003DC02
4H003EB14
4H003EB16
4H003EB33
4H003ED02
4H003ED28
4H003FA04
4H003FA07
4H003FA16
(57)【要約】
【課題】
本発明の課題は、くし溝をインキ流量調節機構として配設した筆記具のくし溝、ペン先、コンバーター(インキ瓶のようなインキ収容体から、筆記具のインキ貯蔵体内に直接インキを吸入することができる機能をもつインキ貯蔵体(万年筆用インキ吸入器))などの筆記具部材を効率よく洗浄することができ、洗浄後の再筆記性も良好であり、かつ、簡易的に使用することができる、筆記具用洗浄剤および単位量物を提供することである。
【解決手段】
筆記具用洗浄組成物と、前記洗浄組成物に含まれる少なくとも一部の成分を包含する可溶性フィルムと、を含む筆記具用洗浄剤とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆記具用洗浄組成物と、前記洗浄組成物に含まれる少なくとも一部の成分を包含する可溶性フィルムと、を含む筆記具用洗浄剤。
【請求項2】
前記洗浄組成物が、ノニオン系界面活性剤またはカチオン系界面活性剤、pH調整剤を含んでなる洗浄組成物であることを特徴とする請求項1に記載の筆記具用洗浄剤。
【請求項3】
前記洗浄組成物が、水を含んでなる洗浄組成物であることを特徴とする請求項1または2に記載の筆記具用洗浄剤。
【請求項4】
前記ノニオン系界面活性剤またはカチオン系界面活性剤のHLB値が、15以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の筆記具用洗浄剤。
【請求項5】
前記可溶性フィルムは、水溶性フィルムであり、前記洗浄組成物は、水溶性洗浄組成物であることを特徴とする 請求項1ないし4のいずれか1項に記載の筆記具用洗浄剤。
【請求項6】
前記可溶性フィルムは、ポリビニルアルコールを主成分としてなる請求項5に記載の筆記具用洗浄剤。
【請求項7】
前記筆記具用洗浄剤に溶媒を加えて洗浄液にした場合、20℃における前記洗浄液の表面張力が、20~50mN/mであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の筆記具用洗浄剤。
【請求項8】
前記筆記具用洗浄剤に溶媒を加えて洗浄液にした場合、20℃における前記洗浄液のpHが、10以下であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の筆記具用洗浄剤。
【請求項9】
筆記具用洗浄組成物に含まれる少なくとも一部の成分を単位量ごとに個別に包含してなる可溶性フィルム、からなる単位量物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用洗浄剤および単位量物に関する。さらに詳しくは、くし溝をインキ流量調節機構として配設した筆記具の、くし溝、ペン先、コンバーター(インキ瓶のようなインキ収容体から、筆記具のインキ貯蔵体内に直接インキを吸入することができる機能をもつインキ貯蔵体(万年筆用インキ吸入器))などの筆記具部材を洗浄する筆記具用洗浄剤および単位量物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、万年筆や製図用ペンなどの、インキカートリッジやコンバーター(インキ瓶のようなインキ収容体から、インキ貯蔵体内に直接インキを吸入することができる機能をもつインキ貯蔵体(万年筆用インキ吸入器))を接続して使用する筆記具はよく知られている。
このような万年筆や製図用ペンは、筆記によりインキが無くなった場合には、新たにインキが充填されたインキカートリッジに交換したり、ペン先からコンバーター内にインキを吸入することにより、筆記具本体を廃棄せずに、繰り返し使用し続けることができる。
【0003】
前記のような筆記具では、長期間使用せずに放置しておくと、インキ中の水分が徐々に蒸発し、筆記具のくし溝、ペン先、コンバーターなどの筆記具部材に、染料や顔料などのインキの成分が固まり、インキ乾固してしまうと、筆記不良や、コンバーターの作動不良にもなり得る。
したがって、長期間使用しなくなる前、あるいは長期間放置した後に再び使用する際には、筆記具のくし溝、ペン先、コンバーターなどの筆記具部材を水やぬるま湯で洗浄することが行われている。
また、例えば黒色インキを使用していた筆記具に、黒色インキに替えてあらたに赤色インキを使用する場合には、黒色インキと赤色インキとが筆記具部材の内部で混ざり、混色の筆跡になったり、あるいは種類の異なるインキが混ざることでの凝集や析出物の発生を防止するため、筆記具のくし溝、ペン先、コンバーター(万年筆用インキ吸入器)などの筆記具部材に、残った黒色インキを水やぬるま湯で洗浄することも行われている。
【0004】
また、耐水性や耐光性に優れ、良好な発色を示す優れた筆跡を得るために、着色剤や樹脂などを含む筆記具用インキ組成物においては、インキ中に樹脂成分が含有されているために、一旦インキが乾固してしまうと、筆記具のくし溝、ペン先、コンバーターを水やぬるま湯に浸漬しただけでは乾固したインキを取り除くことが極めて困難である。
それを解決するため、浸漬した状態でさらに超音波をかける洗浄方法(例えば特許文献1および2)があったが、洗浄する際の装置が大がかりになり、手間がかかるため、もっと手軽に洗浄可能で、簡易的な洗浄方法が求められ、改善の余地があった。
【0005】
さらに、着色剤として顔料を用いたインキ組成物(顔料インキ)を使用した筆記具を洗浄する場合には、インキが乾燥すると、筆記具の、ペン先、コンバーターなどの筆記具部材に、強く乾固しやすくなる。特に、万年筆では、筆記によりインキが無くなった場合には、ペン先からコンバーター(万年筆用インキ吸入器)内にインキを吸入することにより、筆記具本体を廃棄せずに繰り返し使用し続けるため、長期に渡って同じ筆記具部材である、くし溝、ペン先、コンバーターなどを使い続ける。そのため、インキ吸入時に、前記筆記具部材に装着傷や摺動傷などの擦り傷などができてしまい、その擦り傷などにインキが入り込んで、インキ乾固してしまうと、乾固したインキを取り除くことが極めて困難となってしまう問題もあり、洗浄剤も改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
実開昭56-76092号公報
特開2001-96974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記のような従来の問題を解決するもので、くし溝をインキ流量調節機構として配設した筆記具のくし溝、ペン先、コンバーター(インキ瓶のようなインキ収容体から、筆記具のインキ貯蔵体内に直接インキを吸入することができる機能をもつインキ貯蔵体(万年筆用インキ吸入器))などの筆記具部材を効率よく洗浄することができ、洗浄後の再筆記性も良好であり、かつ、簡易的に使用することができる、くし溝、ペン先、コンバーターなどの筆記具部材の洗浄用の筆記具用洗浄剤(以下、単に「洗浄剤」と表すことがある)および単位量物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために
「1.筆記具用洗浄組成物と、前記洗浄組成物に含まれる少なくとも一部の成分を包含する可溶性フィルムと、を含む筆記具用洗浄剤。
2.前記洗浄組成物が、ノニオン系界面活性剤またはカチオン系界面活性剤、pH調整剤を含んでなる洗浄組成物であることを特徴とする第1項に記載の筆記具用洗浄剤。
3.前記洗浄組成物が、水を含んでなる洗浄組成物であることを特徴とする第1項または第2項に記載の筆記具用洗浄剤。
4.前記ノニオン系界面活性剤またはカチオン系界面活性剤のHLB値が、15以下であることを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の筆記具用洗浄剤。
5.前記ノニオン系界面活性剤またはカチオン系界面活性剤のHLB値が、15以下であることを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の筆記具用洗浄剤。
6.前記可溶性フィルムは、ポリビニルアルコールを主成分としてなる第5項に記載の筆記具用洗浄剤。
7.前記筆記具用洗浄剤に溶媒を加えて洗浄液にした場合、20℃における前記洗浄液の表面張力が、20~50mN/mであることを特徴とする第1項ないし第6項のいずれか1項に記載の筆記具用洗浄剤。
8.前記筆記具用洗浄剤に溶媒を加えて洗浄液にした場合、20℃における前記洗浄液のpHが、10以下であることを特徴とする第1項ないし第6項のいずれか1項に記載の筆記具用洗浄剤。
9.筆記具用洗浄組成物に含まれる少なくとも一部の成分を単位量ごとに個別に包含してなる可溶性フィルム、からなる単位量物。」とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、くし溝をインキ流量調節機構として配設した筆記具のくし溝、ペン先、コンバーター(インキ瓶のようなインキ収容体から、筆記具のインキ貯蔵体内に直接インキを吸入することができる機能をもつインキ貯蔵体(万年筆用インキ吸入器))などの筆記具部材を効率よく洗浄することができ、洗浄後の再筆記性も良好であり、かつ、簡易的に使用することができる、筆記具用洗浄剤および単位量物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」等は特に断らない限り質量基準である。
【0011】
本実施形態の筆記具用洗浄剤は、筆記具用洗浄組成物と、筆記具用洗浄組成物に含まれる少なくとも一部の成分を包含する可溶性フィルムとを含む。
【0012】
可溶性フィルムは、筆記具用洗浄組成物に含まれる少なくとも一部の成分を包含する。可溶性フィルムは、例えば、筆記具用洗浄組成物に含まれる少なくとも一部の成分を、単位量ごとに個別の単位量物として包含する。
【0013】
本実施形態の筆記具用洗浄剤は、筆記具用洗浄組成物と、筆記具用洗浄組成物に含まれる少なくとも一部の成分を包含する可溶性フィルムとを含む。このため、ユーザは、筆記具用洗浄組成物に含まれる少なくとも一部の成分を包含した可溶性フィルムによってなる単位量物を、所望の個数を用いることで、筆記具部材の洗浄を簡易的に行うことができる。
【0014】
(筆記具用洗浄剤)
本発明で用いる筆記具用洗浄剤について、詳細に説明する。
筆記具用洗浄剤は水などの溶媒を加えて洗浄液として用いることで、くし溝をインキ流量調節機構として配設した筆記具の、細いくし溝や精密なペン先、コンバーター(インキ瓶のようなインキ収容体から、筆記具のインキ貯蔵体内に直接インキを吸入することができる機能をもつインキ貯蔵体(万年筆用インキ吸入器))などの内部に乾固したインキの洗浄性に優れ、洗浄後の再筆記性も良好である筆記具用洗浄剤とするものである。
特に、万年筆では、筆記によりインキが無くなった場合には、ペン先からコンバーター内にインキを吸入することにより、筆記具本体を廃棄せずに繰り返し使用し続けるため、長期に渡って筆記具部材である、くし溝、ペン先、コンバーターなどを交換せずに使い続ける。そのため、インキ吸入時や日常的に使用していると、前記部材に装着傷や摺動傷などの擦り傷などができてしまい、その擦り傷などにインキが入り込んで、乾固してしまうと、乾固したインキを取り除くことが極めて困難になるが、そのような場合でも、洗浄性に優れることが可能となる。
【0015】
また、本発明の筆記具用洗浄剤は、筆記具用洗浄組成物を可溶性フィルムに包含されているので、携帯性や簡便性の点で、フィルムで個別包装されており、好適に用いられ、さらに、溶媒などの蒸発抑制で、長期保存性を向上できるため、好ましい。
【0016】
また、筆記具用洗浄剤および単位量物は、万年筆、ボールペン、マーキングペン(サインペン)、筆ペン、カリグラフィー用のペン、製図用のペンなどの筆記具と一緒に筆記具洗浄剤セットとして販売することが好ましい。また、単位量物に水などの溶媒を加えて洗浄液とするための容器や撹拌用の棒(マドラー)などと一緒にした、筆記具用洗浄剤セットとして販売することが好ましい。
【0017】
(筆記具用洗浄組成物)
<界面活性剤>
本発明の筆記具用洗浄組成物は、所望の洗浄効果を得るためには、界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などを挙げることができるが、これらの中でも、ノニオン系界面活性剤またはアニオン界面活性剤を含むことが好ましく、洗浄効果を考慮すれば、ノニオン系界面活性剤が好ましい。特に、筆記具部材に装着傷や摺動傷などの擦り傷などができてしまう場合でも、洗浄性に優れるためである。
これらの界面活性剤は、1種または2種以上の混合物として使用してもよい。
【0018】
界面活性剤については、HLB値が15以下であることが好ましい。これは、HLB値が15以下である界面活性剤は、筆記具のくし溝、ペン先、コンバーター(万年筆用インキ吸入器)に、インキ成分が固まるなどして、インキ乾固した場合でも、洗浄することが可能であり、さらに、HLB値が15以下である界面活性剤は、筆記具用洗浄組成物または洗浄液中でも安定しているため、長期間の洗浄効果が得られるためである。さらに、くし溝、ペン先、コンバーター(万年筆用インキ吸入器)などの筆記具部材を洗浄後も、筆記性能に問題なく、再筆記性も良好である
これは、理由は定かではないが下記のように推測する。
HLB値が15以下である界面活性剤のはたらきにより、洗浄液の表面張力が下がって、筆記具のくし溝、ペン先、コンバーターへのぬれ性が向上すると共に、乾固したインキ中に含まれる着色剤や樹脂が、洗浄液への溶解後に前記界面活性剤により当該洗浄液中に効率的に分散され、また洗浄液中に分散された着色剤や樹脂が、くし溝、ペン先、コンバーターに再付着することが防止されるため、高い洗浄性を発揮するものと推測する。さらに、筆記具部材を洗浄後も、洗浄液が筆記具部材に付着し続けて、筆記性能に影響することがないため、再筆記性も良好となると推測する。
特に、ペン先・くし溝を具備した首軸、コンバーター(インキ収容体から、筆記具のインキ貯蔵体内に直接インキを吸入することができる機能をもつインキ貯蔵体(万年筆用インキ吸入器))を装着した万年筆の場合は、くし溝は、細かい複雑な構造をしているため、インキ乾固した場合では、洗浄してもインキ汚れが取れにくいため、本発明の筆記具用洗浄剤を用いると効果的であり、好ましい。
【0019】
HLB値が15以下である界面活性剤の中でも、洗浄性や水への溶解性を考慮して、HLB値4~15が好ましく、より考慮すれば、HLB値6~15が好ましい。さらに、くし溝、ペン先、コンバーターなどの筆記具部材に擦り傷がある場合を考慮すれば、洗浄性に優れるHLB値8~14が好ましく、より考慮すれば、HLB値11~14が好ましい。
上記のHLB値は、グリフィン法から算出される値であり、下記式によって算出される。
HLB値=20×(親水基の質量%)=20×(親水基の式量の総和/界面活性剤の分子量)
【0020】
筆記具用洗浄剤を用いた筆記具の洗浄方法としては、筆記具用洗浄剤に水などの溶媒を加えて洗浄液とし、筆記具からキャップ、軸、ならびにコンバーターなどを取り外して、くし溝・ペン先(首軸)の状態とした後に、当該くし溝・ペン先(首軸)、コンバーターを洗浄液中に浸漬する方法や、洗浄液を、スポイトなどを用いてくし溝・ペン先(首軸)、コンバーターに流す方法や、インキ貯蔵体として用いるコンバーターを利用して、洗浄液を、インキを補充するようにペン先から吸入して洗浄する方法などが挙げられる。
<ノニオン系界面活性剤>
【0021】
ノニオン系界面活性剤については、 ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アルキルグリコシド、アルキルグリセリルグリコシド、メチルグルコシド脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの中でも、ポリオキシエチレンなどのポリオキシアルキレン基を有するノニオン系界面活性剤を用いることが好ましい。これは、着色剤や樹脂との親和性が高く、くし溝、ペン先、コンバーターから着色剤や樹脂を効率よくひきはがす効果が得られやすいためで、さらにポリオキシアルキレン基を有すると、水に対する溶解性が良く、水性インキ中で安定しており、長期間安定して、洗浄効果を得られやすいためである。その中でも、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルの中から1種以上を用いることが好ましく、より好ましくは、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルである。これは、浸透性に優れ、起泡力が低いため、くし溝、ペン先、コンバーターなどの筆記具部材に擦り傷がある場合や、細い複雑な構造のくし溝、精密なペン先、コンバーターであっても、入り込んで洗浄するため、取れにくい汚れでも洗浄効果が得られるためである。
特に、ペン先・くし溝を具備した首軸、コンバーター(インキ収容体から、筆記具のインキ貯蔵体内に直接インキを吸入することができる機能をもつインキ貯蔵体(万年筆用インキ吸入器))を装着した万年筆の場合は、インキ乾固した場合では、洗浄してもインキ汚れが取れにくいため、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを用いると効果的であり、好ましい。
【0022】
前記ポリオキシアルキレン基を有するノニオン系界面活性剤については、前記ポリオキシアルキレン基を有するノニオン系界面活性剤のアルキル基の炭素数が1~20であることが好ましい。これは、上記範囲であると、筆記具部材の擦り傷、細かい複雑な構造などでも、前記洗浄液が、浸透しやすくする効果が得られるのに適したアルキル基の炭素数での長さであり、高い洗浄効果を得られやすいためである。一方、前記アルキル基の炭素数が多くて、長すぎると、水に対して溶解しづらく、洗浄効果に影響しやすく、また、前記アルキル基の炭素数が少なくて、短すぎても、洗浄効果が十分に得られづらいため、前記アルキル基の炭素数が4~16であることが好ましく、より考慮すれば、前記アルキル基の炭素数が8~14であることが好ましい。
【0023】
前記ポリオキシアルキレン基を有するノニオン系界面活性剤のアルキル基については、直鎖構造、分岐構造を有するものがあるが、分岐構造を有するアルキル基である方が、嵩高い構造であるため、汚れに対する親和性が高く、洗浄効果が得られやすいため、好ましい。そのため、本発明のように、筆記具部材に擦り傷がある場合や、細い複雑な構造をしているくし溝、精密なペン先、コンバーターであっても、取れにくい汚れが取れやすくする効果が得られるため好ましい。
前記ポリオキシアルキレン基を有するノニオン系界面活性剤として、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルの具体例としては、ポリオキシアルキレンイソデシルエーテル(アルキル基:分岐構造)、ポリオキシアルキレンイソトリデシルエーテル(アルキル基:分岐構造)、ポリオキシアルキレントリデシルエーテル(アルキル基:直鎖構造)、ポリオキシアルキレンデシルエーテル(アルキル基:直鎖構造)、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル(アルキル基:直鎖構造)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリラウレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールモノオレートなど挙げられるが、動的表面張力を低下させることで、浸透性に優れることで、洗浄力を向上しやすいことを考慮すれば、ポリオキシアルキレンイソデシルエーテルを用いることが好ましい。
【0024】
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのポリオキシアルキレン基については、エチレンオキシド基、または、プロピレンオキシド基を有することが好ましい。これは、水に対する溶解性が良く、水性インキ中で安定しており、洗浄効果を得られやすいためであり、より考慮すれば、少なくともエチレンオキシド基を有することが好ましい。さらに、前記ポリオキシアルキレン基については、アルキレンオキシドの平均付加モル数が1~20であることが好ましい。これは、上記範囲であると、筆記具部材の擦り傷などに浸透しやすい、アルキレンオキシドの長さであるため、高い洗浄効果を得られやすいためである。一方、前記アルキレンオキシドの平均付加モル数が多く、長すぎると、水に対して溶解しづらく、洗浄効果に影響しやすく、前記アルキレンオキシドの平均付加モル数が少なく、短すぎても、洗浄効果が得られづらいため、前記アルキレンオキシドの平均付加モル数が3~15であることが好ましく、前記アルキレンオキシドの平均付加モル数が5~10であることが好ましい。
【0025】
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの曇点については、洗浄効果を考慮すれば、90℃以下であることが好ましく、より考慮すれば、30~80℃が好ましく、さらに40~80℃であることが好ましい。
【0026】
前記ノニオン系界面活性剤については、具体的には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては具体的には、ノイゲンLFシリーズ(ポリオキシアルキレンイソデシルエーテル、第一工業製薬(株)製)、ノイゲンSDシリーズ(ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、第一工業製薬(株)製))、ノイゲンTDXシリーズ(ポリオキシアルキレンイソトリデシルエーテル、第一工業製薬(株)製))、ノイゲンXLシリーズ(ポリオキシアルキレンイソデシルエーテル、第一工業製薬(株)製))、ノイゲンTDSシリーズ(ポリオキシエチレントリデシルエーテル、第一工業製薬(株)製))、ノイゲンLPシリーズ(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、第一工業製薬(株)製))、ソルゲン シリーズ(ソルビタン脂肪酸エステル、第一工業製薬(株)製))、ソルゲンTWシリーズ(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、第一工業製薬(株)製))、レオドール シリーズ(ソルビタン脂肪酸エステル・ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、花王 (株)製))、エマノーンシリーズ(ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、花王 (株)製))などが挙げられる。
【0027】
<アニオン系界面活性剤>
アニオン系界面活性剤については、カルボン酸型界面活性剤、スルホン酸型界面活性剤、硫酸エステル型界面活性剤、リン酸エステル型界面活性剤などを挙げることができる。
中でも、着色剤や樹脂との親和性が高く、くし溝やペン先から着色剤や樹脂を効率よくひきはがすスルホン酸基やリン酸基を分子中に含むスルホン酸型界面活性剤やリン酸エステル型界面活性剤が好ましく、さらに、着色剤や樹脂との親和性が高いリン酸基を分子中に含むリン酸エステル型界面活性剤がより好ましい。
【0028】
特に、着色剤として顔料を用いたインキ組成物(顔料インキ)を使用した筆記具を洗浄する場合、前記アニオン系界面活性剤は顔料インキ中に含まれる顔料や顔料分散剤に対して親和性が高いため、好ましい。
顔料インキの顔料分散剤としては、酸性樹脂、塩基性樹脂、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤などがあるが、前記アニオン系界面活性剤は、特にアクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、フェノール樹脂などの酸性樹脂を用いたインキを使用した筆記具に対して洗浄効果が得られやすい。
そのため、前記アニオン系界面活性剤を用いた本発明の筆記具洗浄液は、顔料インキを使用した筆記具の洗浄液に好ましく用いられる。
【0029】
本発明で用いられる前記リン酸エステル型界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸トリエステル、アルキルリン酸エステル、アルキルエーテルリン酸エステルあるいはその誘導体などが挙げられ、前記リン酸エステル型界面活性剤のアルキル基は、スチレン化フェノール系、ノニルフェノール系、オクチルフェノール系、直鎖アルコール系などが挙げられる。
【0030】
前記リン酸エステル型界面活性剤の具体例としては、プライサーフシリーズ(第一工業製薬株式会社)やフォスファノールシリーズ(東邦化学工業株式会社)などを挙げることができる。
スチレン化フェノール系のリン酸エステル型界面活性剤としては、プライサーフAL(酸価:70~95、HLB:5.6)が挙げられ、直鎖アルコール系のリン酸エステル型界面活性剤の中のラウリルアルコール系としては、プライサーフA208B(酸価:160~185、HLB:6.6)が挙げられ、トリデシルアルコール系としては、プライサーフA212C(酸価:100~120、HLB:9.4)、プライサーフA215C(酸価:80~95、HLB:11.5)が挙げられ、オクチルアルコール系としては、プライサーフA208F(酸価:165~195、HLB:8.7)が挙げられる。
また、ステアリルアルコール系としては、フォスファノールRB410(酸価:80~90、HLB:8.6)が挙げられる。
これらのリン酸エステル型界面活性剤は、1種または2種以上の混合物として使用してもよい。
【0031】
前記リン酸エステル型界面活性剤の酸価については、筆記具のくし溝ならびにペン先の洗浄能力や、洗浄組成物中や洗浄液中の塩基性成分への影響を考慮して、200(mgKOH/g)以下とすることが好ましく、より考慮すれば、酸価は30~200(mgKOH/g)が好ましく、さらに、酸価は50~100(mgKOH/g)が好ましい。
なお、酸価については、試料1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表すものとする。
前記リン酸エステル型界面活性剤のHLB値については、水への溶解性や洗浄能力を考慮して、HLB値4~17が好ましく、より考慮すれば、5~13が好ましい。
なお、本発明において、リン酸エステル系界面活性剤のHLB値とは、川上法から算出される値であり、下記式によって算出される。
HLB=7+11.7log(Mw/Mo)、(Mw;親水基の分子量、Mo;親油基の分子量)
【0032】
本発明の筆記具用洗浄組成物における、前記界面活性剤の含有量は、筆記具用洗浄組成物の総質量を基準として、0.1~70質量%が好ましく、3~60質量%が好ましく、5~50質量%であることがより好ましい。これは、上記範囲より含有量が少ないと、洗浄効果を十分に発揮しづらく、上記範囲より多いと、筆記具用洗浄組成物中での安定性や、水などの溶媒への溶解性が劣りやすく、前記効果の向上は認められにくいので、これ以上の含有することは要しないためである。
【0033】
<pH調整剤>
本発明の筆記具用洗浄組成物は、pH調整剤を含有することが好ましい。
pH調整剤としては、塩基性成分であるアンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどの塩基性無機化合物、酢酸ナトリウム、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの塩基性有機化合物や、酸性成分である乳酸およびクエン酸などが挙げられる。本発明において、前記界面活性剤との相性を考慮すれば、塩基性成分を用いることが好ましい。これらのpH調整剤は単独又は2種以上混合して使用してもかまわない。
【0034】
塩基性成分の中でも、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどに代表される水溶性のアミン化合物は、前記界面活性剤との親和性がよく、長期保存安定性に優れた筆記具用洗浄組成物または洗浄液になることから好ましく、より考慮すれば、アルカノールアミンが好ましく、その中でも、弱塩基性であるトリエタノールアミンがより好ましい。特に、ノニオン系界面活性剤またはアニオン界面活性剤との親和性がよいため、好ましく、ノニオン系界面活性剤とは、より好ましく用いられる。
【0035】
本発明の筆記具用洗浄組成物における、前記pH調整剤の含有量は、筆記具用洗浄組成物の総質量を基準として、0.1~95質量%が好ましく、10~90質量%が好ましく、20~90質量%が好ましく、筆記具のくし溝、ペン先、コンバーターの洗浄性と筆記具用洗浄組成物または洗浄液のpHの上昇の両方を考慮すると、40~90質量%であることが好ましい。
pH調整剤は、含有量が少なすぎると本発明が本来の目的とする効果を十分に発揮することができない場合があり、逆に含有量が多すぎると、洗浄液のpHによる安全性に懸念が生じてしまう場合がある。
【0036】
<水>
本発明の筆記具用洗浄組成物は、水を含有することが好ましい。
水としては、特に制限はなく、たとえば、イオン交換水、限外ろ過水、蒸留水、などを用いることができる。
【0037】
筆記具用洗浄組成物の全質量に対する水の含有量は、より少ない事が好ましい。例えば、筆記具用洗浄組成物の全質量に対する水の含有量は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。
【0038】
筆記具用洗浄組成物の全質量に対する水の含有量を上記範囲とすることで、可溶性フィルムとして水溶性フィルムを用いた場合、フィルム安定性の向上を図ることができる。また、筆記具用洗浄組成物の水の含有量を抑制することで、筆記具用洗浄組成物に含まれる防腐剤の含有量を抑制することができ、皮膚感作性抑制等の安全性の向上を図ることができる。
【0039】
また、洗浄剤または洗浄液には、ファインバブルを含んでも良い。ファインバブルとは、液体中に含まれる直径100μm以下の気泡のことをいう。本発明において直径とは、球相当直径のことをいう。ファインバブルは、液体中でブラウン運動をしながら浮力の影響を受けずに、液体中に滞在する気泡である。本発明に用いるファインバブルとしては、その直径が100~1000nmであることが好ましく、100~300nmであることがより好ましい。この範囲より小さいとバブルが溶媒中に溶解する傾向があり、この範囲より大きいとバブルが浮上して破泡するなどして、ファインバブルとしての機能を果たせなくなる恐れがある。
【0040】
ファインバブルとしては、バブル中の気体として、空気の他、ヘリウム、窒素、アルゴンなどの不活性ガス、酸素、オゾン、水素、メタン、プロパン、ブタンなどを用いることができる。特に、空気を用いた場合には、液体中にファインバブルを含ませる際に、特殊な気体を用いる必要がないので、好ましい。
【0041】
本発明に用いるファインバブルは、くし溝の微細な隙間に入り込み、汚れに対して気泡圧壊による衝撃を与えることにより、複雑な構造のくし溝を洗浄することが可能となるため、洗浄効果が高くなる。また、ファインバブルは負の電荷を帯びており、正の電荷を持つ汚れを吸着することにより、高い洗浄効果を発現する。
【0042】
本発明に用いるファインバブルは、洗浄剤中または洗浄液中に含まれていれば良いが、その個数としては、洗浄剤または洗浄液1mlあたり、1~1×10個が好ましく、より好ましくは、1×10~5×10個、さらに好ましくは1×10~3×10個である。この範囲より少ないと洗浄する際のバブルの効果が劣る恐れがあり、この範囲より多いとバブル同士が会合し、大きな気泡となり浮上し消滅して、洗浄する際のバブルの効果が劣る恐れがある。前記範囲にあると、バブルによる洗浄力を効果的に発揮できる。
【0043】
また、本発明の筆記具用洗浄組成物や洗浄液は、物性や機能を向上させる目的で、防腐剤、防錆剤、キレート剤などの各種添加剤を含んでなることが好ましい。
【0044】
防腐剤(防菌剤)としては、フェノール、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルフォニル)ピリジン、2-ピリジンチオール-1-オキシドナトリウム、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンなどが挙げられる。これらの防腐剤は、1種または2種以上の混合物として使用してもよい。
これらの防腐剤(防菌剤)の中でも、防腐剤(防菌剤)効果を考慮すれば、イソチアゾリン系化合物を用いることが好ましく、より考慮すれば、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンの中から選択することが好ましい。さらに、本発明のように、前記ノニオン系界面活性剤などの他成分との相性によって、洗浄液の安定性(経時変化、加温経時変化、色の変化)の影響を考慮すれば、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンを用いることが好ましい。
【0045】
防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、チオ硫酸ナトリウム、サポニン、またはジアルキルチオ尿素などが挙げられる。本発明に用いる、防錆効果や、前記ノニオン性界面活性剤の相溶性などを考慮すると、前記防錆剤の中でも、ベンゾトリアゾールを用いることが好ましく、これらの防錆剤は、1種または2種以上の混合物として使用してもよい。
【0046】
また、本発明による筆記具用洗浄組成物は、筆記具に含まれるインキ組成物の着色剤のイオン物質や、筆記具部材に付着した洗浄液を水で洗い流す、すなわち「すすぎ」を行った後に、水に含まれるイオン物質による析出物を抑制するために、キレート剤を含んでなることが好ましい。
【0047】
キレート剤としては、アミノカルボン酸などのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)及びそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩またはアミン塩などが挙げられる。
筆記具用洗浄組成物に、キレート剤の配合前後の物性に大きく影響を及ぼしにくい傾向にあること、また、本発明に用いるノニオン性界面活性剤の相溶性などを考慮すると、前記キレート剤の中でも、アミノカルボン酸またはその塩を用いることが好ましく、中でも、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)またはその塩を用いることが好ましい。
【0048】
本発明の筆記具用洗浄組成物におけるキレート剤の含有量は、筆記具用洗浄組成物の総質量を基準として、0.01~5質量%が好ましい。これは、1質量%以下であれば、筆記具用洗浄組成物または洗浄液の性能や物性に影響しにくく、0.01質量%以上であれば、析出物の発生を抑制しにくいためであり、より好ましくは0.1~3質量%である。
【0049】
また、本発明の筆記具用洗浄組成物は、水溶性有機溶剤を含んでいてもよい。
水溶性有機溶剤としては、(i)エチレングリコール、ポリエチレングリコール、またはグリセリンなどのグリコール類、(ii)メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t-ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコールなどのアルコール類、および(iii)エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシブタノール、または3-メトキシ-3-メチルブタノールなどのグリコールエーテル類などが挙げられる 。
これらの水溶性有機溶剤は、1種または2種以上の混合物として使用してもよい。
【0050】
また、本発明の筆記具用洗浄組成物は、筆記具用インキに用いられるような樹脂(顔料分散剤)、界面活性剤を含んでも良い。これは、インキ中に樹脂成分が含有されているために、一旦インキが乾固してしまうと、顔料分散剤などの樹脂を含んだインキ汚れは落ちにくくなるが、洗浄液中に筆記具用インキに用いた樹脂と同じ成分を含むと、インキ汚れを洗浄しやすくなるためである。特に、顔料分散剤を含んでなることが好ましく、酸性樹脂、ノニオン系界面活性剤を含んでなることが好ましい。
【0051】
(可溶性フィルム)
可溶性フィルムについて説明する。
可溶性フィルムは、溶媒に溶解可能なフィルムであればよい。詳細には、可溶性フィルムは、水溶性フィルム、または油溶性フィルムである。包含する筆記具用洗浄組成物が水溶性の筆記具用洗浄組成物である場合には、可溶性フィルムには水溶性フィルムを用いる事が好ましい。また、包含する洗浄組成物が油溶性の筆記具用洗浄組成物である場合には、可溶性フィルムには油溶性フィルムを用いる事が好ましい。
【0052】
可溶性フィルムの厚みは、可溶性フィルムによって包含された成分が常温環境下で可溶性フィルムの外部へ流出しない厚みであればよく、包含する成分の種類、包含する成分の量、可溶性フィルムの成分、などに応じて調整すればよい。例えば、可溶性フィルムの厚みは、10μm以上200μm以下、20μm以上150μm以下、35μm以上125μm以下等の範囲であることが好ましい。
【0053】
(水溶性フィルム)
水溶性フィルムは、水に溶解する材料であればよい。水溶性フィルムとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレンオキシド、アクリルアミド、アクリル酸、セルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、セルロースアミド、ポリ酢酸ビニル、ポリカルボン酸および塩、ポリアミノ酸またはペプチド、ポリアミド、ポリアクリルアミド、マレイン酸/アクリル酸のコポリマー、プルラン、デンプンおよびゼラチンを含む多糖類、キサンタンおよびカラゴムなどの天然ゴムから選択される少なくとも1種以上である。
【0054】
水溶性フィルムは、好ましくは、ポリアクリレート及び水溶性アクリレートコポリマー、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デキストリン、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マルトデキストリン、ポリメタクリレートから選択される少なくとも1種以上である。水溶性フィルムは、更に好ましくは、ポリビニルアルコール、プルラン、ポリビニルアルコールコポリマー及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、更に好ましくは、ポリビニルアルコール、プルラン、並びにこれらの組み合わせから選択される。
【0055】
特に好ましくは、水溶性フィルムは、ポリビニルアルコールを主成分とすることが好ましい。主成分であるとは、上記と同様に、水溶性フィルムの全重量に対するポリビニルアルコールの含有量が50重量%以上であることを意味する。
【0056】
ポリビニルアルコールは、生分解性およびガスバリア性を有する。このため、ポリビニルアルコールを主成分とした水溶性フィルムを用いることで、環境保護、および、可溶性フィルムによって包含された筆記具用洗浄組成物または少なくとも一部の成分の酸化抑制を図ることができる。
【0057】
水溶性フィルムに用いられるポリビニルアルコールとしては、一般的なポリビニルアルコールに加え、アニオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール等の各種変性ポリビニルアルコールを利用することも可能である。ポリビニルアルコールは1種単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0058】
水溶性フィルムに含まれる樹脂の分子量は限定されない。例えば、水溶性フィルムがポリビニルアルコールを主成分とする場合、ポリビニルアルコールの重量平均分子量は、1,000以上1,000,000以下、10,000以上300,000以下、20,000以上150,000以下、の範囲等が挙げられる。
【0059】
水溶性フィルムは、常温の水(溶媒)に対して、5分以内に溶解性を示すことが好ましい。溶解性は、常温の水が入った容器の中に水溶性フィルムを投入し、撹拌しながら形状が変化するまでの時間を測定すればよい。常温の水(溶媒)は、洗浄液を作成する際に用いられる溶媒の一例である。
【0060】
水溶性フィルムの水への溶解性は、ポリビニルアルコールを主成分とする場合には、ポリ酢酸ビニルの加水分解により得られるポリビニルアルコールの加水分解度、または、架橋剤の使用、あるいは、部分ケン化(ケン化度87%~89%)等により調整される。
【0061】
水溶性フィルムの溶剤である水は特に限定されるものではなく、例えば、水道水、イオン交換水、限外ろ過水、蒸留水等を例示できる。
【0062】
(油溶性フィルム)
油溶性フィルムは、油成分に溶解する材料であればよい。油溶性フィルムとしては、例えば、ポリビニルブチラール樹脂/ケトン樹脂/フェノール樹脂/ポリビニルピロリドン/ビニルアセテート、アクリレート、アクリレート/シリコーンコポリマー、ポリブテン、ポリエチレン、ポリウレタン-14、AMP-アクリレートコポリマー、オクチルアクリルアミド/アクリレートコポリマー、ポリクオタニウム-11、ビニルカプロラクタム/ビニルピロリドン及びメチルアクリルアミドのターポリマー等の少なくとも一つが挙げられる。
【0063】
油溶性フィルムは、溶媒(有機溶剤)に対して、5分以内に溶解性を示すことが好ましい。溶解性は、常温の溶剤が入った容器の中に油溶性フィルムを投入し、撹拌しながら形状が変化するまでの時間を測定すればよい。
【0064】
油溶性フィルムの溶剤である油成分は特に限定されるものではなく、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール等のグリコールエーテル溶剤、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコール等のグリコール溶剤、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t-ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール溶剤(脂肪族アルコール、芳香族アルコールなど)、ヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素溶剤などの有機溶剤が例示できる。これらの中でも、安全性、油溶性フィルムとの安定性の観点から脂肪族アルコールを用いる事が好ましく、より好ましくは、低級脂肪族アルコール(炭素数1以上4以下)を用いる事が好ましい。
【0065】
(添加剤)
可溶性フィルムには、1以上の添加剤成分を含有させてもよい。例えば、グリセロール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、及びこれらの混合物などの可塑剤が挙げられる。
【0066】
また、可溶性フィルムは、嫌悪剤を更に含んでよい。嫌悪剤は、可溶性フィルムの表面、可溶性フィルム内、または可溶性フィルムに包含された筆記具用洗浄組成物または筆記具用洗浄組成物に含まれる成分内、の何れか1つに含まれていればよい。
【0067】
嫌悪剤とは、口に入れたとき、又は摂取したときに不快な味をもたらす任意の化合物を意味する。不快な味には、苦味、辛味、薬味、不快臭、酸味、冷感、又はこれらの組み合わせが挙げられる。嫌悪剤は、苦味剤であってよい。好ましくは、嫌悪剤は、人体に安全であり、かつ、上記不快な味をもたらす任意の化合物であればよい。
【0068】
嫌悪剤は、例えば、ナリンギン、オクタアセチルスクロース、塩酸キニーネ、安息香酸デナトニウム、カプサイシノイド(capsicinoids)(カプサイシンなど)、バニリルエチルエーテル、バニリルプロピルエーテル、バニリルブチルエーテル、バニリンプロピレン、グリコールアセタール、エチルバニリンプロピレングリコールアセタール、カプサイシン、ジンジェロール、4-(1-メントキシメチル)-2-(3’-メトキシ-4’-ヒドロキシ-フェニル)-1,3-ジオキソラン、ペッパー油、ペッパーオレオレジン、ジンジャーオレオレジン、ノニル酸バニリルアミド、ジャンブーオレオレジン、サンショウ皮抽出物、サンショオール、サンショアミド、ブラックペッパー抽出物、シャビシン、ピペリン、スピラントール、及びこれらの混合物からなる群から選択されてよい。
【0069】
可溶性フィルムは、透明、不透明、半透明、の何れであってもよい。また、可溶性フィルムは、着色されていてもよい。また、可溶性フィルムは、印刷領域を含んでいてよい。例えば、可溶性フィルムは、包含した筆記具用洗浄組成物または包含した筆記具用洗浄組成物に含まれる成分の識別情報などを印刷した印刷領域を含んでいてよい。
【0070】
可溶性フィルムは、任意の熱成型または可塑化技術によりフィルム状に成型すればよい。
【0071】
(筆記具用洗浄剤)(単位量物)
本実施形態の筆記具用洗浄剤は、筆記具用洗浄組成物と、筆記具用洗浄組成物に含まれる少なくとも一部の成分を包含する可溶性フィルムと、を含む。
【0072】
本実施形態の筆記具用洗浄剤は、筆記具用洗浄組成物に含まれる少なくとも一部の成分を単位量ごとに包含した可溶性フィルムからなる1の単位量物または複数の単位量物の群として提供される。
【0073】
単位量物は、筆記具用洗浄組成物に含まれる少なくとも一部の成分を、可溶性フィルムによって予め定められた単位量ごとに個別に包含してなる物体である。
【0074】
詳細には、例えば、単位量物は、互いに異なる成分の各々を、予め定めた単位量ごとに個別に包含して成る。
【0075】
また、単位量物は、筆記具用洗浄組成物に含まれる成分を、予め定めた分類条件に沿って複数のグループに分類したグループごとに、予め定めた単位量の成分を個別に包含して成る構成であってもよい。分類条件は、予め定めればよい。
【0076】
例えば、界面活性剤に属する成分と界面活性剤以外に属する成分とを分類条件としてもよい。この場合、単位量物は、筆記具用洗浄組成物に含まれる界面活性剤と、筆記具用洗浄組成物に含まれる界面活性剤以外の成分と、を異なるグループとし、グループごとに予め定めた単位量の成分を個別に包含して成る構成であってもよい。さらに、個別に包含した単位量物が相互に連接して成る構成であってもよい。
【0077】
また、例えば、共存した状態となると不安定となる成分が異なる単位量物となることを分類条件としてもよい。この場合、単位量物は、筆記具用洗浄組成物に含まれる複数の成分を、共存した状態でも安定して存在する成分の群ごとに包含した単位量物とすればよい。言い換えると、この場合、単位量物は、筆記具用洗浄組成物に含まれる複数の成分を、共存した状態となると不安定となる成分を異なる単位量物として可溶性フィルムによって別々に包含して成る構成とすればよい。この場合においても、別々に包含した単位量物が相互に連接して成る構成であってもよい。
【0078】
また、例えば、同じ機能を有する成分を分類条件としてもよい。この場合、単位量物は、筆記具用洗浄組成物に含まれる複数の成分を同じ機能を有する成分の群ごとに複数のグループ分類し、グループごとに予め定めた単位量の成分を個別に包含した構成とすればよい。具体的には、例えば、筆記具用洗浄組成物の洗浄効果を付与するための機能を有するビヒクル(界面活性剤、pH調整剤などを含むもの)と、筆記具用洗浄組成物の洗浄効果を高めるビヒクル(キレート剤、ファインバブル含有液体)などを含むもの)と、を別々の単位量物として可溶性フィルムによって個別に包含した構成とすればよい。この場合においても、別々に包含した単位量物が相互に連接して成る構成であってもよい。
【0079】
単位量物を、筆記具用洗浄組成物、または筆記具用洗浄組成物に含まれる少なくとも一部の成分を可溶性フィルムによって予め定められた単位量ごとに個別に包含してなる物体とすることで、以下の効果が得られる。
【0080】
本実施形態では、筆記具用洗浄剤に含まれる筆記具用洗浄組成物または筆記具用洗浄組成物に含まれる少なくとも一部の成分は、可溶性フィルムによって包含された別々の単位量物として存在する。
【0081】
そして、これらの単位量物は、水などの溶媒に混合されることで洗浄液に調整される。すなわち、可溶性フィルムによって包含された筆記具用洗浄組成物または筆記具用洗浄組成物に含まれる少なくとも一部の成分は、別々の単位量物として存在し、洗浄液に調整する際に初めて混合される。このため、単位量物として存在する可溶性フィルムによって包含された筆記具用洗浄組成物および筆記具用洗浄組成物の少なくとも一部の成分の経時安定性および析出抑制などの安定性の向上を図ることができる。
【0082】
また、インキに含まれる筆記具用洗浄組成物または筆記具用洗浄組成物に含まれる少なくとも一部の成分は、可溶性フィルムによって包含された別々の単位量物として存在するため、筆記具用洗浄組成物を収容する容器の削減、輸送コスト削減、および、CO排出量等のエネルギー削減を図ることができる。
【0083】
可溶性フィルムによって包含される筆記具用洗浄組成物または筆記具用洗浄組成物に含まれる成分の単位量は、筆記具用洗浄組成物の種類や調整インキの適用対象等に応じて予め定めればよい。単位量は、例えば、0.1g以上10.0g以下、0.5g以上50.0g以下、1.0g以上100.0g以下等の範囲であるが、これらに限定されない。
【0084】
なお、可溶性フィルムによって包含される筆記具用洗浄組成物または筆記具用洗浄組成物に含まれる成分の少なくとも一部は、液体、固体、の何れであってもよい。固体には、例えば、粉体が含まれる。
【0085】
(単位量物の作製方法)
単位量物の作製方法は限定されない。例えば、可溶性フィルムによって上記筆記具用洗浄組成物または成分を単位量毎に公知の方法で包含することで、筆記具用洗浄組成物または筆記具用洗浄組成物に含まれる成分を単位量毎に包含した単位量物を作製すればよい。
【0086】
可溶性フィルムによる筆記具用洗浄組成物または筆記具用洗浄組成物に含まれる成分の包含には、例えば、縦型ピロー包装機、ロータリードラム包装機、プリーツ包装機等を用いればよい。
【0087】
(洗浄液)
本発明で用いる筆記具用洗浄剤は、水などの溶媒を加えて、筆記具用洗浄組成物を包含する可溶性フィルムを溶解させて、洗浄液として用いることができる。
洗浄液は、くし溝をインキ流量調節機構として配設した筆記具部材の、細い複雑な構造をしているくし溝、精密なペン先の内部、コンバーター(万年筆用インキ吸入器)などに、乾固したインキを洗浄するために、洗浄液の20℃環境下の表面張力は50mN/m以下が好ましく、40mN/m以下がより好ましく、35mN/m以下がより好ましい。また20mN/m以上であると、筆記具のくし溝やペン先、コンバーターに洗浄液が残った場合であっても、筆記具に新たに入れるインキへの影響が出にくいため、好ましく、23mN/m以上がより好ましい。
表面張力は、20℃環境下において、協和界面科学株式会社製の表面張力計測器を用い、白金プレートを用いて、垂直平板法によって測定して求めることができる。
特に、ペン先・くし溝を具備した首軸、コンバーター(インキ収容体から、筆記具のインキ貯蔵体内に直接インキを吸入することができる機能をもつインキ貯蔵体(万年筆用インキ吸入器))を装着した万年筆の場合は、くし溝は、細かい複雑な構造をしているため、インキ乾固した場合では、洗浄してもインキ汚れが取れにくいため、本発明の洗浄液を用いると効果的であり、好ましい。
【0088】
また、洗浄液は、浸透性に優れることで、くし溝、ペン先、コンバーターなどの筆記具部材に擦り傷がある場合や、細いくし溝、精密なペン先であっても、入り込んで洗浄性が優れるため、ブルックフィールド社製DV-II粘度計(CPE-42ローター)を用いて、20℃、剪断速度380sec-1(回転数100rpm)で測定した洗浄液の粘度が、12mPa・s以下であることが好ましく、より浸透性を向上し、洗浄性を向上することを考慮して、6mPa・s以下であることが好ましく、より考慮すれば、3mPa・s以下であることがより好ましい。
【0089】
洗浄液は、20℃環境下のpHが10以下であることが好ましい、これは、洗浄液がpH10以下であると、アルカリ性が強くなりずらく、インキ中に含まれる染料などの着色剤の析出や、変色を抑制しやすく、洗浄時に、使用者の手や衣服などに洗浄液が付着した場合でも、安全性に優れるためである。
さらに、洗浄性、安定性を考慮すれば、洗浄液の20℃環境下のpHは、pH7~10が好ましく、pH8~10がより好ましく、pH9~10がより好ましい。
また、洗浄液のpHについては、後述する高濃度の原液でのpHを測定しても良く、当該原液を水などで希釈した時の洗浄液のpHを測定してもよい。
特に、筆記具のくし溝ならびにペン先の洗浄時におけるpHを測定することがよい。
本発明において、pH値は、市販のpHメーター(たとえば、IM-40S型pHメーター/東亜ディーケーケー株式会社製)によって、20℃環境下において測定される。
【0090】
前述した筆記具の洗浄方法により、くし溝やペン先に乾固したインキを取り除いた後は、一般的に洗浄液を水で洗い流す手順、すなわち「すすぎ」が行われるが、当該すすぎが不十分だと、筆記具のくし溝やペン先に洗浄液が残り、この状態のまま、筆記具のくし溝・ペン先(首軸)に新たなインキが充填されたコンバーターを装着し、ペン先からコンバーター内に新たなインキを吸入すると、筆記具のくし溝、ペン先、コンバーターに残った洗浄液が、新たなインキ中に混入する場合がある。
このように、仮にすすぎが不十分で、筆記具のくし溝、ペン先、コンバーターに洗浄液が残った場合は、新たに吸入されるインキに混ざってしまい、悪影響を及ぼす可能性があるため、その影響が出にくいことを考慮すれば、洗浄液の20℃環境下のpHは10以下が好ましく、表面張力は20~50mN/mが好ましい。より好ましくは、洗浄液の20℃環境下で、pH7~10が好ましく、表面張力は23~40mN/mが好ましい。
【0091】
特に、着色剤として顔料を用いたインキ組成物(顔料インキ)を使用した筆記具を洗浄する場合、前記ノニオン系界面活性剤は顔料インキ中に含まれる顔料や顔料分散剤に対して親和性が高いため、好ましい。
顔料インキの顔料分散剤としては、酸性樹脂、塩基性樹脂、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤などがあるが、前記HLB値が15以下であるノニオン系界面活性剤は、特にアクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、フェノール樹脂などの酸性樹脂を用いたインキを使用した筆記具に対して洗浄効果が得られやすく、さらに、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂を用いたインキを使用した筆記具に対して、より洗浄効果が得られやすいため、好ましい。
そのため、前記ノニオン系界面活性剤を用いた本発明の筆記具洗浄液は、顔料インキを使用した筆記具の洗浄液に好ましく用いられる。
【0092】
顔料を用いたインキ組成物(顔料インキ)を使用した筆記具を洗浄する場合は、くし溝、ペン先、コンバーターにインキが乾固すると、一般的に洗浄しても汚れが取れにくいため、本発明の筆記具用洗浄剤を用いると効果的である。インキ組成物(顔料インキ)に用いられる顔料としては、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、その中でも、有機顔料は、洗浄しても汚れが取れにくいため、本発明の洗浄剤を用いると効果的であり、さらに、考慮すれば、フタロシアニン系の有機顔料であり、最も効果的なのは、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルーを用いたインキ組成物では、効果的であり、好ましい。フタロシアニングリーンとしては、例えばPigment Green7、36、58が挙げられ、フタロシアニンブルーとしては、例えばPigment Blue 16、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、75、79などが挙げられ、特に、Pigment Blue 15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6を用いた場合は、効果的である。
(実施例1)
【0093】
<筆記具用洗浄組成物(1)>
ノニオン系界面活性剤 3.0質量%
(第一工業製薬株式会社製、商品名:ノイゲンXL-70、ポリオキシアルキレン分岐デシルエーテル、HLB値14.7)
トリエタノールアミン 9.0質量%
防腐剤 0.3質量%
(1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン)
防錆剤 0.3質量%
(ベンゾトリアゾール)
ノニオン系界面活性剤、トリエタノールアミン、防腐剤、防錆剤を添加し、プロペラ攪拌により混合して、筆記具用洗浄組成物を得た。
【0094】
(筆記具用洗浄組成物(2)~(33))
筆記具用洗浄組成物に含まれる各成分を表1~3に表される組成に変更した以外は、筆記具用洗浄組成物(1)と同様にして筆記具用洗浄組成物を得た。
【0095】
【表1】
【表2】
【表3】
【0096】
(単位量物の作製)
筆記具用洗浄組成物(1)~(33)の各々について、表1~に記載の各筆記具用洗浄組成物の配合部をg単位に換算した質量を単位量とし、ポリビニルアルコールを主成分とする水溶性フィルムである株式会社クラレ製ポバールを用いて、熱溶着することにより包含した。この包含処理により、各筆記具用洗浄組成物の各々について、表1~に記載の各筆記具用洗浄組成物の配合部をg単位に換算した質量ずつ個別に水溶性フィルムによって包含した単位量物の群からなる筆記具用洗浄組成剤(1)~(31)を作製した。
【0097】
(フィルム安定性の評価)
筆記具用洗浄組成物(1)~(33)の各々の単位量物を、温度20℃、湿度65%の環境下に24時間放置したときの、水溶性フィルムの状態を観察することで、耐溶解性および耐膨潤性によるフィルム安定性を評価した。評価基準を下記に示した。また、評価結果を表1~3に示した。
【0098】
◎:水溶性フィルムのフィルム形状に変化無。内包されている筆記具用洗浄組成物の外部への漏れ出し無。
○:水溶性フィルムのフィルム形状に変形有。内包されている筆記具用洗浄組成物の外部への漏れ出し無。
△:水溶性フィルムのフィルム形状に変形有。内包されている筆記具用洗浄組成物の外部への漏れ出し無いが、○より劣る。
×:水溶性フィルムのフィルム形状に変形有。内包されている筆記具用洗浄組成物の外部への漏れ出し有。
【0099】
(実施例1)
筆記具用洗浄組成物(1)を上記水溶性フィルムで包含した単位量物を、実施例1で用いる筆記具用洗浄組成剤(1)とし、さらにイオン交換水300mlを加え、洗浄液を作製した。
【0100】
(実施例2~30、比較例1)
筆記具用洗浄組成剤として、筆記具用洗浄組成物の組み合わせ、すなわち水溶性フィルムで包含された筆記具用洗浄組成物である単位量物を表に表される組合せに変更した以外は、実施例1と同様にして洗浄液を作製した。
【0101】
(実施例31)
筆記具用洗浄組成剤として、筆記具用洗浄組成物の組み合わせ、すなわち水溶性フィルムで包含された筆記具用洗浄組成物である単位量物を表に表される組合せに変更した。実施例31は、筆記具用洗浄組成物(31)を上記水溶性フィルムで包含した単位量物の筆記具用洗浄組成剤(31)と、筆記具用洗浄組成物(32)を上記水溶性フィルムで包含した単位量物の筆記具用洗浄組成剤(32)とを混合し、オン交換水300mlを加え、洗浄液を作製した。
【0102】
実施例1~31、比較例1で得られた筆記具用洗浄組成剤、洗浄液について、下記のような評価を行い、結果を表に示した。
株式会社パイロットコーポレーション製万年筆(商品名:カスタムNS)に、ペン先・くし溝(首軸)と、実施例1の筆記具用洗浄組成物を0.5ml充填した押圧部材を用いてインキ吸入するプッシュ式のコンバーター(インキ収容体から、筆記具のインキ貯蔵体内に直接インキを吸入することができる機能をもつインキ貯蔵体(万年筆用インキ吸入器))とを装着し、試験用の万年筆とした。その後、万年筆を使用し、インキがなくなるまで筆記使用した。
その後、インキ瓶から、インキをプッシュ式のコンバーターで吸引し、インキを補充した。これを、10回繰り返し使用したところ、同じ筆記具部材を繰り返し使い続けたため、ペン先、コンバーターに装着傷や摺動傷などの擦り傷ができていた。
このような、インキで汚れた擦り傷があるペン先・くし溝(首軸)、コンバーターに、水を吸入し洗浄した。
その後、ペン先・くし溝(首軸)、コンバーターに、洗浄液を吸入し洗浄した。
このペン先・くし溝(首軸)からコンバーターを取り外し、ペン先・くし溝(首軸)、コンバーターを20℃環境下において100mlの洗浄液に浸漬した状態で24時間放置した。
次に、ペン先、くし溝、コンバーターをイオン交換水で洗浄し、インキ付着しているかを目視で評価した。
さらに、0.5mlの筆記具用洗浄組成物を充填したコンバーターを装着し、再筆記性能を評価した。
【0103】
実施例1のように得られた洗浄液の粘度を、ブルックフィールド社製DV-II粘度計(CPE-42ローター)、20℃、剪断速度380sec-1(回転数100rpm)で測定したところ、実施例1、実施例2、実施例23の洗浄液の粘度は、それぞれ、1mPa・s、1mPa・s、4mPa・sであった。
また、得られた洗浄液のpH値を、IM-40S型pHメーター(20℃環境下、東亜ディーケーケー株式会社製)により測定し、得られた洗浄液の表面張力を、表面張力計測器(20℃環境下、白金プレート、垂直平板法、協和界面科学株式会社製)により測定した結果を表に示した。
【0104】
<筆記具用水性顔料インキ組成物>
・顔料分散体(アクリル樹脂分散) 18.0質量%
(富士色素株式会社製、Pigment Blue15:3含有、17質量%水分散体)
・保湿剤 2.0質量%
(グリセリン)
・pH調整剤 0.5質量%
(トリエタノールアミン)
・防腐剤 0.2質量%
(ロンザジャパン株式会社製、商品名:プロキセルXL-2)
・イオン交換水 79.3質量%
イオン交換水、保湿剤、pH調整剤、防腐剤を添加し、プロペラ撹拌により混合してベース液を得た。その後、当該ベース液に顔料分散体を添加し、プロペラ撹拌により混合して、筆記具用水性顔料インキ組成物を得た。
【0105】
<コンバーター(擦り傷あり)の洗浄性>
◎:コンバーターにインキ汚れが、ほとんど見られなかった。
○:コンバーターにインキ汚れが、少し見られた。
△:コンバーターにインキ汚れが、見られたが実用上問題ないレベルであった。
×:コンバーターにインキ汚れが、多く残っていた。
【0106】
<ペン先(擦り傷あり)の洗浄性>
◎:ペン先にインキ汚れが、ほとんど見られなかった。
○:ペン先にインキ汚れが、少し見られた。
△:ペン先にインキ汚れが、見られたが実用上問題ないレベルであった。
×:ペン先にインキ汚れが、多く残っていた。
【0107】
<くし溝の洗浄性>
◎:くし溝にインキ汚れが、ほとんど見られなかった。
○:くし溝にインキ汚れが、少し見られた。
△:くし溝にインキ汚れが、見られたが実用上問題ないレベルであった。
×:くし溝にインキ汚れが、多く残っていた。
【0108】
<再筆記性能>
◎:良好な筆跡であった。
〇:実用上問題ない筆跡であった。
×:筆跡にカスレなどがあり、問題になるレベルであった。
【0109】
表により、実施例1~31の洗浄液は、比較例1の洗浄液と比較して、コンバーター、ペン先、くし溝の内部で顔料インキが乾固した場合でも洗浄効果が高く、擦り傷があったとしても、コンバーター、ペン先の洗浄にも優れた効果を発揮すると共に、再筆記性にも影響がないことがわかった。
また、実施例19、27、28は、HLB値が10未満であったため、洗浄液中での溶解性がやや劣っていた影響もあり、洗浄液を目視したところ、白濁しており、実施例1の方が洗浄力は高かった。
【0110】
一方、比較例1の洗浄液は、洗浄効果が十分ではなく、試験全般でインキ汚れが残ってしまった。
以上の結果から明らかなように、本発明の洗浄液は、洗浄液として優れていることが明らかとなった。
【0111】
なお、実施例では、万年筆のペン先、くし溝、コンバーターを筆記具部材として、洗浄剤を用いて洗浄したが、それ以外の筆記具部材を用いても良く、例えば、ボールペンのプラスチック製チップ、金属製チップなどのペン先、ボールペンチップ保持材(チップホルダー)、インキ収容筒(インキカートリッジ)、筆記具の軸筒、筆記具キャップなどの筆記具部材を洗浄しても良い。
また、コンバーターについては、押圧部材を用いてインキ吸入するプッシュ式のコンバーター、摺動部材を用いてインキ吸入するスライド式コンバーター、回転体を用いてインキ吸入する回転式コンバーターなどがあり、特に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の筆記具用洗浄剤は、万年筆、ボールペン、マーキングペン(サインペン)、筆ペン、カリグラフィー用のペン、製図用のペンなどの筆記具の洗浄液として好適に用いることができ、さらにくし溝をインキ流量調節機構として配設した筆記具の洗浄剤として好適に用いることができる。