(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147783
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】被圧延材の反りの測定方法
(51)【国際特許分類】
B21B 38/02 20060101AFI20231005BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20231005BHJP
B21B 37/28 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B21B38/02
B21C51/00 L
B21B37/28 140
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055491
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智典
(72)【発明者】
【氏名】田邊 万作
(72)【発明者】
【氏名】福増 秀彰
(72)【発明者】
【氏名】長岡 佑磨
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124AA19
4E124EE14
(57)【要約】
【課題】生産性および作業員の安全性を低下させることなく、且つ、最終的に得られる圧延製品に外観品質上の問題および異物混入を生じさせることなく、熱間圧延工程における被圧延材の反りを定量的且つ容易に精度よく測定することができる、被圧延材の反りの測定方法の提供。
【解決手段】熱間圧延工程における被圧延材の反りを測定する方法であって、熱間圧延機の入側、出側、あるいは前記入側および前記出側に配置された、帯状且つ非接触で測定可能な変位計により前記被圧延材の反りを測定することを特徴とする被圧延材の反りの測定方法を採用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延工程における被圧延材の反りを測定する方法であって、
熱間圧延機の入側、出側、あるいは前記入側および前記出側に配置された、帯状且つ非接触で測定可能な変位計により前記被圧延材の反りを測定することを特徴とする被圧延材の反りの測定方法。
【請求項2】
前記被圧延材の表面と前記変位計との距離をLとし、前記変位計の走査角度をθとし、前記変位計の測定範囲をxとしたとき、下記式(1)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の被圧延材の反りの測定方法。
【数1】
【請求項3】
熱間圧延設備における搬送ロール同士の間隔をnとしたとき、前記変位計の測定範囲xが下記式(2)を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の被圧延材の反りの測定方法。
n×1.1×2<x …(2)
【請求項4】
前記変位計が、前記熱間圧延機の前記入側のみ、あるいは前記出側のみに配置されたことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の被圧延材の反りの測定方法。
【請求項5】
前記変位計が前記熱間圧延機の前記入側または前記出側に2台、あるいは前記入側および前記出側にそれぞれ2台配置されており、
前記入側または前記出側の前記2台の前記変位計同士の間隔をdとしたとき、前記間隔d、前記被圧延材の表面と前記変位計との距離Lおよび前記変位計の走査角度θが下記式(3)を満足することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の被圧延材の測定方法。
【数2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被圧延材の反りの測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板を熱間圧延に供する場合、被圧延材(熱間圧延に供される金属板)が大きく反ることがある。このとき、反りの程度によっては、反った被圧延材が熱間圧延機のワークロール周辺設備に激突することで当該設備を破損させたり、また被圧延材をミルテーブル上で搬送できなくなったり等の問題を引き起こす。そのため、当該設備の修理が必要となる場合や、熱間圧延を続行することができなくなり製品化を断念する場合等があり、生産性が低下するおそれがある。
【0003】
熱間圧延工程における被圧延材の反りは、被圧延材が熱間圧延機に対して入射する際の角度、被圧延材の板厚、圧下量、上下ワークロールの周速比に影響を受ける。また、被圧延材がクラッド金属板である場合には、クラッド金属板の各層の厚さや変形抵抗の組み合わせにも影響を受ける。熱間圧延工程における被圧延材の反りは、これらの影響因子を適宜調整することで制御される。
【0004】
しかしながら、被圧延材の反りに影響を及ぼす因子は、上述の通り数多く存在するため、熱間圧延工程における被圧延材の反りを制御することは容易ではない。特に、被圧延材がクラッド金属板である場合には、クラッド金属板としての最終製品において所望の特性を得る必要があるため、熱間圧延工程における被圧延材の反りを低減することを目的としてクラッド金属板の各層の厚さや変形抵抗の組み合わせを変更することができない場合がある。このような場合には、熱間圧延工程における被圧延材の反りの制御はより困難となる。
【0005】
ところで、熱間圧延工程における被圧延材の反りに影響を及ぼす影響因子を詳細に把握するためには、熱間圧延のパス毎において生じる被圧延材の反り傾向を、圧延条件との組み合わせにおいて詳細に把握することが有効である。肉眼で観察し、強く上向きに反る、弱く下向きに反るというような定性的な評価も可能だが、例えば回帰分析や機械学習等の分析手法を用いて被圧延材の反りに影響を及ぼす影響因子を把握するためには、被圧延材の反り傾向を定量的に精度よく測定する必要がある。
【0006】
熱間圧延工程における被圧延材の反りを定量的に測定する方法として、
図13に示す方法が考えられる。
図13の方法では、左側から右側に被圧延材101を通板させ、熱間圧延機103によって被圧延材101を熱間圧延した後に、反った被圧延材101の上に直尺102を宛てがい、真直からの乖離具合を別の定規等で測定することにより曲率半径等の定量値を得る。この方法は、被圧延材101の反り傾向を定量的な値として得る上で有効である。
【0007】
しかし、
図13に示す方法では、熱間圧延工程において複数パスの圧延を行う場合、パス毎の反り傾向を把握するためには、パス毎に圧延を中断して直尺102を宛てがう等の作業工程が必要となる。そのため、生産性が著しく劣る。また、直尺102を宛てがう等の作業を人手によって行う場合には、圧延ラインに作業員が立ち入り、高温の被圧延材101に近接する必要があるため、作業員が高温物に触れる等して負傷するおそれがあり安全性に劣る。
【0008】
熱間圧延工程における被圧延材の反りを定量的に測定する別の方法として、
図14に示す方法が考えられる。
図14に示す方法では、被圧延材101の形状測定用の上下移動可能な可動ロール104を熱間圧延機103の入側および出側に複数台設けておき、被圧延材101にそれらの可動ロール104を接触させることで被圧延材101の表面の位置を特定し、得られた位置情報から曲率半径等の定量値を算出する。この方法も、被圧延材101の反り傾向を定量的な値として得る方法として有効である。特に、この方法の場合では、熱間圧延工程において複数パスの圧延を行うとき、パス毎の反り傾向を把握する場合であっても、パス毎に圧延を中断する必要がないため、生産性が低下することが無い。また、圧延ラインに作業員が立ち入る必要も無いため、作業員が高温物に触れる等して負傷するおそれも無い。更に、この方法では、被圧延材101の形状測定用の可動ロール104を熱間圧延機103の入側および出側に設ける数を増やすことにより、被圧延材101の熱間圧延中の局所的な反り挙動の変化も把握することができる。
【0009】
しかし、
図14に示す方法では、形状測定用の可動ロール104を被圧延材101の表面に直接接触させることから、被圧延材101の表面に接触痕が生じる場合があり、熱間圧延後に得られる製品の表面に外観品質上の問題を生じるおそれがある。また、被圧延材101の形状測定用の可動ロール104を熱間圧延機103の入側および出側に設ける数を多くした場合、熱間圧延設備の構造が複雑となり設置費用やメンテナンス費用が嵩むだけでなく、複雑な構造から小ねじ等の部品が脱落し被圧延材101に混入する等の品質上のリスクを高めてしまうおそれがある。
【0010】
熱間圧延工程における被圧延材の反りを定量的に測定する更に別の方法として、
図15に示す方法が考えられる。
図15に示す方法では、被圧延材101の形状測定用のスポットビーム方式のレーザー変位計105を被圧延材101の上側に複数台設けておき、それらのレーザー変位計105により被圧延材101の表面の位置を特定し、得られた位置情報から曲率半径等の定量値を算出する。この方法も、被圧延材101の反り傾向を定量的な値として得る方法として有効である。特に、この方法では、被圧延材101の形状測定用のレーザー変位計105を熱間圧延機103の入側および出側且つ被圧延材の上側および下側に設ける数を増やすことにより、圧延中の被圧延材101の局所的な反り挙動の変化も把握することができる。また、被圧延材101に直接ロール等を接触させる構造ではなく、非接触で測定することができるため、熱間圧延後に得られる製品の表面に外観品質上の問題を生じるおそれも無い。
【0011】
しかし、
図15に示す方法では、スポットビーム方式のレーザー変位計105により被圧延材101の形状を測定しているため、単位時間あたりに1点のデータしか得ることができず、精度よく正しい曲率を得るには、膨大な設置台数が必要となる。
【0012】
被圧延材の反りを測定するための方法として、例えば、特許文献1には、熱間圧延ラインの圧延機前後における圧延材の反り量を測定する圧延材の反り量測定方法が開示されている。特許文献1には、可視光から近赤外の波長帯の輝度を測定可能なカメラを用いて圧延後の圧延材の画像を圧延材の斜め上方から撮影し、撮影された圧延材の画像の輝度値に基づいて圧延材の板幅エッジ部を検出し、検出された板幅エッジ部の形状に基づいて圧延材の反り量を曲率で定量化することが開示されている。
【0013】
特許文献2には、仕上げ圧延工程での圧延材先端部の反り予測方法であって、入力データとして粗圧延工程の操業パラメータから選択した1又は2以上のパラメータを含み、機械学習により学習された反り予測モデルを用いて仕上げ圧延工程での圧延材先端部の反りを予測する反り予測方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2019-181562号公報
【特許文献2】特開2021-30300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、板幅方向に延びた被圧延材の板幅エッジ部が垂れているような場合に、カメラによって板幅エッジ部を検出することが困難となり、反り量を精度良く測定できない。例えば、被圧延材がクラッド金属である場合、熱間圧延中に比較的強度の低い皮材が伸びることで、被圧延材の幅方向に皮材が突出することがある。突出した皮材は幅方向に垂れて、且つ形状が波状となるため、カメラによって板幅エッジ部を検出することが困難となる。
【0016】
特許文献2は被圧延材の反りの予測方法や制御方法が開示されているに過ぎず、反りを測定する方法については言及されていない。
【0017】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、生産性および作業員の安全性を低下させることなく、且つ、最終的に得られる圧延製品に外観品質上の問題および異物混入を生じさせることなく、熱間圧延工程における被圧延材の反りを定量的且つ容易に精度よく測定することができる、被圧延材の反りの測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(1)本発明に係る被圧延材の反りの測定方法は、
熱間圧延工程における被圧延材の反りを測定する方法であって、
熱間圧延機の入側、出側、あるいは前記入側および前記出側に配置された、帯状且つ非接触で測定可能な変位計により前記被圧延材の反りを測定することを特徴とする。
(2)本発明に係る被圧延材の反りの測定方法において、
前記被圧延材の表面と前記変位計との距離をLとし、前記変位計の走査角度をθとし、前記変位計の測定範囲をxとしたとき、下記式(1)を満たしてもよい。
【数1】
(3)本発明に係る被圧延材の反りの測定方法において、
熱間圧延設備における搬送ロール同士の間隔をnとしたとき、前記変位計の測定範囲xが下記式(2)を満たしてもよい。
n×1.1×2<x …(2)
(4)本発明に係る被圧延材の反りの測定方法において、
前記変位計が、前記熱間圧延機の前記入側のみ、あるいは前記出側のみに配置されていてもよい。
(5)本発明に係る被圧延材の反りの測定方法において、
前記変位計が前記熱間圧延機の前記入側または前記出側に2台、あるいは前記入側および前記出側にそれぞれ2台配置されており、
前記入側または前記出側の前記2台の前記変位計同士の間隔をdとしたとき、前記間隔d、前記被圧延材の表面と前記変位計との距離Lおよび前記変位計の走査角度θが下記式(3)を満足してもよい。
【数2】
【発明の効果】
【0019】
本発明により、生産性および作業員の安全性を低下させることなく、且つ、最終的に得られる圧延製品に外観品質上の問題および異物混入を生じさせることなく、熱間圧延工程における被圧延材の反りを定量的且つ容易に精度よく測定することができる、被圧延材の反りの測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】熱間圧延を行うための熱間圧延設備の一例を示す図。
【
図2】
図1の熱間圧延設備において一部を省略した図。
【
図3】変位計の測定範囲xと被圧延材のうねりの曲率との関係について説明するための図。
【
図4】変位計の測定範囲xと被圧延材のうねりの曲率との関係について説明するための図。
【
図5】(A)はうねりを除去していない反り形状を示す図。(B)はうねりを除去した反り形状を示す図。
【
図7】被圧延材のうねりの波長λと搬送ロール同士の間隔nとの関係について説明するための図。
【
図8】変位計の走査角度θの測定限界値を示すグラフ。
【
図9】(A)は変位計から発せられる帯状のレーザー光の一例を示す図。(B)は変位計から発せられる帯状のレーザー光の他の例を示す図。
【
図10】
図1の熱間圧延設備において一部を省略した図。
【
図11】変位計同士の間隔と変位計の測定範囲との関係について説明するための図。
【
図12】2台の変位計の測定範囲が離間した場合の被圧延材の反りの測定結果を示す図。
【
図13】直尺を用いて被圧延材の反りを測定する方法を説明するための図。
【
図14】上下移動可能な可動ロールを用いて被圧延材の反りを測定する方法を説明するための図。
【
図15】スポットビーム方式のレーザー変位計を用いて被圧延材の反りを測定する方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面に基づき、本発明の実施形態の一例に係る被圧延材の反りの測定方法(以下、本実施形態に係る被圧延材の反りの測定方法と記載する)ついて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴を分かりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。
【0022】
本実施形態に係る被圧延材の反りの測定方法は、熱間圧延工程における被圧延材の反りを測定する方法であって、熱間圧延機の入側、出側、あるいは前記入側および前記出側に配置された、帯状且つ非接触で測定可能な変位計により被圧延材の反りを測定する。
【0023】
図1は、熱間圧延を行うための熱間圧延設備の一例を示す図である。
図1に示す熱間圧延設備10は、熱間圧延機3を備える。この熱間圧延機3は、上ワークロール31と下ワークロール32とから構成される。
図1のように熱間圧延設備10が1機の熱間圧延機3を備える場合、熱間圧延工程では、熱間圧延機3に被圧延材1を一方の方向に通板させ、その後逆の方向に通板させることを繰り返すことで熱間圧延が行われる。この熱間圧延の方法はリバース圧延と呼ばれる。この場合において、熱間圧延機3の入側とは、熱間圧延工程の1パス目において、被圧延材1の置かれている側(
図1でいうと右側)のことをいい、熱間圧延機3の出側とはその逆側(
図1でいうと左側)のことをいう。
【0024】
被圧延材1としては、例えば金属板であってもよく、異なる特性を有する複数枚の金属板を接合したクラッド金属板であってもよい。より具体的には、被圧延材1としては例えば、アルミニウムからなる金属板、アルミニウム合金からなる金属板、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるクラッド金属板であってもよい。
被圧延材1の熱間圧延前における全長(長手方向の長さ)は例えば2000~5000mmとしてもよく、板厚は200~700mmとしてもよい。
【0025】
図1に示す熱間圧延設備10では、熱間圧延機3の入側に2台の変位計2が配置されている。
変位計2は、帯状且つ非接触で被圧延材1の反りを測定することができるものであれば特に限定されない。帯状で測定可能な変位計2とは、スポットビーム方式のレーザー変位計のように1点のみを測定するものは含まず、
図1に示すように圧延方向に対してある程度の範囲を測定することができる変位計のことをいう。帯状且つ非接触で測定することができる変位計2としては、帯状のレーザー光を被圧延材1に照射し、その反射光を受光素子で受光し、三角測距の原理で被圧延材1の形状プロファイルを生成するものを用いることができる。より具体的には、変位計2としては、例えば、株式会社リンクス製のGocator(登録商標)を用いることができる。
変位計2は、熱間圧延設備10における蒸気や振動が発生したり、圧延油が飛散したりする過酷な環境で使用される。このような環境に耐えられるように、変位計2を、保護ケースによって保護したり、頑丈な架台に設置したり、エアーパージによって圧延油から保護することが好ましい。
【0026】
変位計2により被圧延材1の反りを測定する。変位計2は非接触で測定可能なため、熱間圧延工程においてパス毎に圧延を中断する必要がなく、生産性が低下することがない。また、圧延ラインに作業員が立ち入る必要も無いため、安全性が低下することもない。更に、最終的に得られる圧延製品に外観品質上の問題および異物混入を生じさせることもない。
また、変位計2は帯状に測定可能なため、スポットビーム方式のレーザー変位計などを用いる場合に比べて広範囲に測定することができ、データ数が膨大となることなく、且つ、イレギュラーな測定データを容易に判別することができる。そのため、測定データを容易に整理することができ、被圧延材1の反りを容易に測定することができる。また、
図1に示す例では熱間圧延機3の入側に2台の変位計2が配置されているが、変位計2は1台のみ配置されていてもよい。熱間圧延機3の入側のみ、あるいは出側のみに1台の変位計2を配置して測定を行うことで、熱間圧延設備10の構造をより簡易なものとすることができる。また、熱間圧延機3の入側および出側に1台ずつ変位計2を配置して測定を行えば、熱間圧延の1パス前後の反りを測定することができる。
【0027】
本実施形態では、
図1に示すように、被圧延材1の表面と変位計2との距離をLとし、変位計2の走査角度をθとし、変位計2の測定範囲をxとしたとき、それぞれ以下に説明する範囲に設定されることが好ましい。
【0028】
「被圧延材1の表面と変位計2との距離L」
図2は、
図1の熱間圧延設備10において、被圧延材1および変位計2以外を省略した図である。ただし、変位計2を1台省略している。
ここで、変位計2の測定範囲xは、距離Lと走査角度θとを用いて下記式(A)により表すことができる。
【0029】
【0030】
上記式(A)を変形すると下記式(B)となる。
【0031】
【0032】
本実施形態では、距離Lは上記式(B)の右辺よりも大きい値に設定することが好ましい。すなわち、距離Lは下記式(1)を満たすことが好ましい。
距離Lが下記式(1)を満たさない場合は、設定された測定範囲xおよび走査角度θに対して、被圧延材1の表面と変位計2との距離Lが近すぎることを示す。詳細は後述するが、測定範囲xは、搬送ロール同士の間隔によって設定される。また、距離Lと走査角度θとによって、測定範囲xは制御される。被圧延材1の表面と変位計2との距離Lを十分に確保することで、必要な測定範囲xを確保することができ、被圧延材1の反りをより精度良く測定することができる。
【0033】
【0034】
上記式(1)を満たすには、被圧延材1の表面と変位計2との距離Lを調整してもよいし、走査角度θおよび測定範囲xを後述する範囲内で調整してもよい。
【0035】
距離Lの上限は特に限定しないが、熱間圧延機3の周辺設備により変位計2を配置できる箇所が制限される。また、変位計2のスペックにより制限される。
【0036】
「変位計2の測定範囲x」
変位計2の測定範囲xは、被圧延材1のうねりの波長よりも大きい値とすることが好ましい。熱間圧延工程では、被圧延材1に反りとうねりとが生じる。うねりは反りに比べて波長が小さい。
図3に示すように、測定範囲xが小さすぎると被圧延材1のうねりの曲率を測定してしまい、被圧延材1の反りとは異なる曲率を測定しまうこととなる。その結果、
図5(A)に示すように被圧延材1の反りを精度よく測定することができない。そこで、
図4に示すように、測定範囲xはうねりの波長を除去可能な範囲とすることが好ましい。うねりの波長を除去可能な測定範囲xを確保することで、
図5(B)に示すように被圧延材1の反りを精度良く測定することができる。
【0037】
本実施形態において、うねりとは被圧延材1の長手方向に存在する2つ以上の波の総称をいい、これらのうねりを除去したものを被圧延材1の反りという。
本発明者らは、被圧延材1を熱間圧延するにあたり、被圧延材1に生じるうねりの波長は1つであり、且つこの波長は搬送ロールの間隔に影響を受けることを知見した。
図6は
図1と同様の熱間圧延設備10を示す図である。熱間圧延設備10では、複数の搬送ロール4が熱間圧延機3の入側および出側に同じ間隔nで配置されている。被圧延材1のうねりの波長に影響を及ぼす因子としては被圧延材1の入射角、上ワークロール31および下ワークロール32のロール径などが考えられるが、特に搬送ロール4同士の間隔nに大きく影響を受ける。本発明者らは、
図7に示すように、被圧延材のうねりの波長λは、搬送ロール4同士の間隔nとほぼ等しい値となることを知見した。
【0038】
被圧延材1の熱間圧延前の全長/搬送ロール4同士の間隔n(うねりとなり得る波長)>2(波の数)である場合、被圧延材1にうねりが生じると判断することができる。うねりの波長を除去可能な測定範囲xを確保するためには、下記式(2)を満たすことが好ましい。うねりの波長λの2倍に1.1をかけた値、すなわち下記式(2)の左辺よりも測定範囲xを大きい値に設定することで、うねりの波長λを除去して被圧延材1の反りをより精度良く測定することができる。
【0039】
n×1.1×2<x …(2)
【0040】
測定範囲xの上限は特に限定しないが、上述した距離Lと後述する走査角度θとにより制限される。
【0041】
「変位計2の走査角度θ」
変位計2の走査角度θは30°以下とすることが好ましい。走査角度θが大きすぎると、被圧延材1からの反射光が霧散して、変位計2にて反射光を十分に受光することができず、精度良く測定することができない。
図8は、被圧延材1の表面と変位計2との距離Lを一定とし、被圧延材1の板厚tを変更して被圧延材1の反りを測定したときの、変位計2の走査角度θの測定限界値を示すグラフである。
図8に示す通り、変位計2の走査角度を30°以下とすることで、様々な板厚において測定可能なことが分かる。
【0042】
また、走査角度θは25°以上とすることが好ましい。走査角度θが小さすぎると、十分な測定範囲xを確保することができず、データ数が膨大となり、且つ、イレギュラーな測定データを容易に判別することができない場合がある。その結果、スポットビーム方式のレーザー変位計などを用いる場合と同様、測定データを容易に整理することができなくなり、被圧延材1の反りを容易に測定することができなくなる場合がある。
【0043】
変位計2の走査角度θは、例えば、被圧延材1の表面と変位計2との距離L、変位計2の測定範囲をxとから以下のようにして算出することができる。
図9は、変位計2から発せられる帯状のレーザー光の例を示す図である。例えば、
図9(A)に示す例では、距離Lが1875mmであり、測定範囲xが2000mmであるため、θ=2tan
-1(2000/(2×1875))からθ=56.14°と算出することができる。また、
図9(B)に示す例では、距離Lが2000mmであり、測定範囲xが1010mmであるため、θ=2tan
-1(1010/(2×2000))からθ=28.34°と算出することができる
【0044】
「変位計2を複数台配置する場合」
熱間圧延機3の入側または出側に、変位計2を複数台配置することで、測定範囲xを広く確保することができるため、被圧延材1の反りをより精度よく測定することができる。
【0045】
図10は、
図1の熱間圧延設備10において、被圧延材1および変位計2以外を省略した図である。
図10のように変位計2の測定範囲xが重なる場合、変位計2同士の間隔をdとしたとき、測定範囲xは間隔d、距離Lおよび走査角度θを用いて下記式(D)により表すことができる。
【0046】
【0047】
変位計2の測定範囲xが重ならず、且つ、変位計2同士の測定範囲xが離間しない場合には、測定範囲xは間隔d、距離Lおよび走査角度θを用いて下記式(E)により表すことができる。
【0048】
【0049】
一方、
図11に示すように変位計2同士の間隔dが大きすぎ、変位計2同士の測定範囲xが離間する場合には、
図12に示すように、被圧延材1の反りを測定できない箇所が生じてしまう。
図12のように測定できない箇所が生じると、被圧延材1の反りを精度よく測定することができない。そのため、変位計2を2台配置して被圧延材1の反りを精度よく測定しようとする場合には、変位計2同士の間隔dは下記式(3)を満たすことが好ましい。
2台の変位計2同士の間隔dを下記式(3)のように設定することで、被圧延材1の反りの未測定箇所を無くすことができ、被圧延材1の反りをより精度よく測定することができる。
【0050】
【0051】
変位計2同士の間隔dが小さすぎると、測定範囲xの重複範囲が大きくなり、変位計2を複数台配置することのメリットが損なわれるため、間隔dは下記式(4)を満たすことが好ましい。間隔dを下記式(4)のように設定することで、2台の変位計2の測定範囲xを大きく確保することができ、被圧延材1の反りをより精度よく測定することができる。
【0052】
【0053】
以上説明した例では、熱間圧延機3を1機のみ備える熱間圧延設備10であったが、熱間圧延機3を複数機備える熱間圧延設備10であってもよい。熱間圧延機3を複数機備える熱間圧延設備10では、被圧延材1の通板方向に連続して熱間圧延機3が配置され、被圧延材1は一方向に通板されることで複数機の熱間圧延機3により熱間圧延される。この場合には、変位計2は、連続して配置されている熱間圧延機3のうち、ある1機のみの出側、入側、あるいは入側および出側に配置されてもよい。あるいは、変位計2は、連続して配置されている熱間圧延機3のうち複数機の出側、入側、あるいは入側および出側に配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0054】
10 …熱間圧延設備
1、101…被圧延材
2 …変位計
3、103…熱間圧延機
4 …搬送ロール
31 …上ワークロール
32 …下ワークロール
102 …直尺
104 …可動ロール
105 …レーザー変位計