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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147806
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】ウインチドラムの監視装置
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/00 20060101AFI20231005BHJP
   B66C 15/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B66C13/00 D
B66C15/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055524
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】503032946
【氏名又は名称】住友重機械建機クレーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】大江 峻生
(72)【発明者】
【氏名】松下 達也
【テーマコード(参考)】
3F204
【Fターム(参考)】
3F204AA01
3F204CA05
3F204FA10
3F204FB04
3F204FC01
3F204FE05
(57)【要約】
【課題】ウインチドラムの巻き層、巻き列をより高精度に検出する。
【解決手段】ウインチドラム361の状態を監視するウインチドラムの監視装置であって、ウインチドラム361の位相を検出する位相検出手段628と、ウインチドラム361との距離又はウインチドラム361に巻かれたワイヤロープ32との距離を検出する距離検出手段628とを有する。
ウインチドラム361は、巻き胴362と当該巻き胴362の両側部に設けられたフランジ部363,364と有し、フランジ部363の径方向の外周側には、周方向の一部に位相を検知するために、周方向の他の部分に対して凸または凹となる被位相判断部366を有し、位相検出手段628は、被位相判断部366を検出する構成とすることもできる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウインチドラムの状態を監視するウインチドラムの監視装置であって
前記ウインチドラムの位相を検出する位相検出手段と、
前記ウインチドラムとの距離又は前記ウインチドラムに巻かれたワイヤロープとの距離を検出する距離検出手段とを有するウインチドラムの監視装置。
【請求項2】
前記距離検出手段の検出に基づいて前記ウインチドラムに巻かれた前記ワイヤロープの層数と列数を求める
請求項1に記載のウインチドラムの監視装置。
【請求項3】
前記距離検出手段の検出に基づいて求められた、前記ウインチドラムに巻かれた前記ワイヤロープの層数と列数を表示する表示装置を備える
請求項2に記載のウインチドラムの監視装置。
【請求項4】
前記距離検出手段の検出に基づいて求められた、前記ウインチドラムに巻かれた前記ワイヤロープの層数が一層目である場合に、前記ウインチドラムと前記ワイヤロープとの間に摩耗が生じることを報知する
請求項2又は請求項3に記載のウインチドラムの監視装置。
【請求項5】
前記ウインチドラムは、ロープが巻き回される巻き回し部と当該巻き回し部の両側部に設けられたフランジ部と有し、
前記距離検出手段は、少なくとも前記巻き回し部の軸方向全長を含む範囲で距離を検出する
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のウインチドラムの監視装置。
【請求項6】
前記ウインチドラムは、ワイヤロープが巻き回される巻き回し部と当該巻き回し部の両側部に設けられたフランジ部と有し、
前記フランジ部の径方向の外周側には、周方向のすくなくとも一部に被位相判断部を有し、
前記位相検出手段は、前記被位相判断部を検出することで前記ウインチドラムの位相を検出する
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のウインチドラムの監視装置。
【請求項7】
前記被位相判断部は、周方向の他の部分に対して、凸または凹となる形状を有する
請求項6に記載のウインチドラムの監視装置。
【請求項8】
前記位相検出手段は、前記距離検出手段としても機能し、前記被位相判断部との距離を検出することで、前記ウインチドラムの位相を検出する
請求項6又は請求項7に記載のウインチドラムの監視装置。
【請求項9】
前記ウインチドラムは、ロープが巻き回される巻き回し部と当該巻き回し部の両側部に設けられたフランジ部と有し、
前記距離検出手段は、前記巻き回し部又は当該巻き回し部に巻かれているワイヤロープからワイヤロープが離れ始める位置である前記ウインチドラムのロープ繰り出し部を避けて距離を検出する
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のウインチドラムの監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウインチドラムの監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クレーンのようなウインチドラムによってワイヤの巻き取り巻き出しを行う作業機械において、従来は、LiDAR(Light Detection and Ranging)のようなレーザ光走査型の距離測定装置を利用してウインチドラムの状態検出を行うことが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-138489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、LiDARのようなレーザ光走査型の距離測定装置の適用が提案されているに過ぎず、具体的に巻き層、巻き列を高精度に検出することは困難であった。
【0005】
本発明は、ウインチドラムの巻き層、巻き列をより高精度に検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
ウインチドラムの状態を監視するウインチドラムの監視装置であって
前記ウインチドラムの位相を検出する位相検出手段と、
前記ウインチドラムとの距離又は前記ウインチドラムに巻かれたワイヤロープとの距離を検出する距離検出手段とを有する、という構成としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ウインチドラムの巻き層、巻き列をより高精度に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係るウインチドラムの監視装置を搭載したクレーンの側面図である。
図2】クレーンの制御装置及びその周辺の構成を示すブロック図である。
図3】距離測定装置とウインチドラムの配置を示す斜視図である。
図4図4(A)はウインチドラムを径方向から見た正面図、図4(B)は中心軸方向から見た側面図、図4(C)は部分拡大図である。
図5】距離測定装置によるウインチドラムに対する距離検出結果を示す線図である。
図6】ウインチドラムの各位相の正規化処理値を示した線図である。
図7】ウインチドラムの1回転における各位相について検出される正規化処理値を示した線図である。
図8】監視処理部が実行する監視処理のフローチャートである。
図9】表示装置においてクレーンにおける各種の設定値や検出値等の稼働情報を表示する表示画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[クレーンの概略]
図1は本発明の実施形態に係るウインチドラムの監視装置を搭載した作業機械としてのクレーンの側面図である。
クレーン1は、いわゆる移動式のクローラクレーンである。クレーン1の記載に関して、車両前進方向を「前」、後退方向を「後」とし、前を向いた状態で左手側を「左」(図1紙面奥側)、右手側を「右」(図1紙面手前側)とする。また、走行を行う下部走行体2とその上で旋回を行う上部旋回体3とを備えるが、特に言及しない場合には、原則として、下部走行体2と上部旋回体3とは前後方向が一致した状態(基準姿勢とする)にあるものとして各部の方向を説明する。
【0010】
図1に示すように、クレーン1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3と、上部旋回体3の前側に起伏可能に取付けられたブーム4とを含んで構成されている。
【0011】
下部走行体2は、本体ボディ21と、本体ボディ21の左,右両側に設けられたクローラ22とを備えている。左,右のクローラ22は、それぞれ図示しない走行用油圧モータによって回転駆動される。
【0012】
上部旋回体3の前側には、ブーム4が起伏可能に取り付けられている。ブーム4の上側の先端近傍には、ワイヤロープとしての巻上ロープ32をガイドするシーブ43が回転可能に取付けられている。
また、上部旋回体3におけるブーム4よりも後側には、マスト31の下端部が支持されている。
また、上部旋回体3は、図示しない旋回用油圧モータによって下部走行体2に対して鉛直上下方向の軸回りに旋回駆動される。
【0013】
上部旋回体3の右前側にはキャブ33が配置されている。
また、上部旋回体3の後部には、ブーム4及び吊荷Lとの重量バランスをとるカウンタウエイト5が取付けられる。カウンタウエイト5は、必要に応じて枚数を増減させることができる。
【0014】
カウンタウエイト5近傍には、ブーム4の起伏動作を行う起伏ウインチ42が配設され、その前側には、巻上ロープ32の巻き取り、巻き出しを行う巻上ウインチ36が配設されている。巻上ウインチ36は、巻上用油圧モータ(図示略)により、巻上ロープ32の巻き取り、巻き出しを行い、フック34及び吊荷の昇降を行う。なお、巻上ウインチ36に使用されるウインチドラム361の詳細な構成については後述する。
【0015】
マスト31は、上端部に上部スプレッダ35を備え、上部スプレッダ35は、一端部がブーム4の上端部に接続されたペンダントロープ44の他端部に接続されている。上部スプレッダ35の下方には下部スプレッダ(図示略)が設けられ、これらの間に複数回掛け回されたワイヤロープとしての起伏ロープ37が起伏ウインチ42により巻き取られ又は巻き出されると上部スプレッダ35と下部スプレッダとの間隔が変化してブーム4が起伏する。起伏ウインチ42は、起伏用油圧モータ(図示略)により駆動する。
【0016】
[クレーンの制御系]
上部旋回体3のキャブ33等には、クレーン1の制御装置60が搭載されている。図2は制御装置60及びその周辺の構成を示すブロック図である。制御装置60は、クレーン
1に搭載された制御端末であり、クレーン1の走行、旋回、巻上ロープ32の巻き取り、巻き出し等の各種動作の制御に加えて、巻上ウインチ36による巻上ロープ32の巻き取り、巻き出しの監視処理を行う。
制御装置60は、CPUや記憶装置であるROMおよびRAM、その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成されているコントローラ61を備えている。
コントローラ61は、後述する巻上ロープ32の巻き取り、巻き出しの監視処理を行う監視処理部611のソフトウェアモジュールを備える。なお、監視処理部611は、ハードウェアから構成してもよい。
【0017】
コントローラ61には、入力部621、表示装置622、操作レバー624、メモリ625が接続され、これらが制御装置60を構成している。
さらに、コントローラ61には、ロードセル631、ブーム角度センサ632、旋回量センサ633、コントロールバルブ635、距離測定装置628が接続されている。
【0018】
上記監視処理部611、距離測定装置628及び表示装置622は、巻上ウインチ36のウインチドラム361の状態を監視するウインチドラムの監視装置を構成する。
監視処理部611の機能の詳細については後述する。
【0019】
入力部621は、キャブ33内に設けられ、例えば、タッチパネルのような入力インターフェイスであり、操作者からの操作に対応する制御信号をコントローラ61に出力する。操作者は、入力部621を操作してブーム4の長さ、フック34の重量、その他の各種の設定や操縦に必要な各種の入力を行うことができる。
表示装置622は、キャブ33内に設けられ、例えば、入力部621としても利用されるタッチパネル式のディスプレイを備え、コントローラ61から出力される制御信号に基づいて、表示画面に吊荷の重量、ブーム角度、上部旋回体3の旋回角度等の情報を表示する。また、表示装置622は、後述する監視処理部611によって表示による報知を行う報知手段として機能する。
【0020】
操作レバー624は、キャブ33内に設けられ、例えば、クレーン1に各種の動作を行わせる操作を手動入力し、操作レバー624の操作量に対応する制御信号をコントローラ61に入力する。
例えば、操作レバー624は、下部走行体2の走行動作、上部旋回体3の旋回動作、ブーム4の起伏動作、巻上ウインチ36による巻上ロープ32の巻き取り、巻き出しの操作入力を行うことができる。
【0021】
ロードセル631は、上部スプレッダ35と下部スプレッダに複数回掛け回された起伏ロープ37の末端に取付けられており、ブーム4を起伏させる際に起伏ロープ37に作用する張力を検出し、検出した張力に対応する制御信号をコントローラ61に出力する。
なお、ロードセル631は、ブーム4の起伏力を間接的に計測できればどこに配置されていてもよい。例えば、ブーム4先端のペンダントロープ44の取付位置(不図示)に設けて、ペンダントロープ44に掛かる張力を検出してもよい。
【0022】
ブーム角度センサ632は、ブーム4の基端側に取付けられており、ブーム4の起伏角度(以下、ブーム角度とも記す)を検出し、検出したブーム角度に対応する制御信号をコントローラ61に出力する。ブーム角度センサ632は、例えば、水平面に対する角度である対地角をブーム角度として検出する。
【0023】
旋回量センサ633は、下部走行体2と上部旋回体3の間に取付けられており、上部旋回体3の旋回角度を検出し、検出した旋回角度に対応する制御信号をコントローラ61に出力する。旋回量センサ633は、例えば、垂直軸回りの角度を旋回角度として検出する
【0024】
コントロールバルブ635は、コントローラ61からの制御信号に応じて切り替えが可能な複数のバルブから構成されている。
例えば、コントロールバルブ635は、下部走行体2の左右のクローラ22の回転駆動を制御するバルブ、上部旋回体3の旋回動作を制御するバルブ、起伏ウインチ42の回転駆動を制御するバルブ、巻上ウインチ36の回転駆動を制御するバルブ等を含んでいる。
【0025】
[距離測定装置]
距離測定装置628は、巻上ウインチ36のウインチドラム361又はウインチドラム361に巻かれた巻上ロープ32との距離を検出する距離検出手段であり、ウインチドラム361に巻かれた巻上ロープ32の層列状態を検出する。
巻上ロープ32の層列状態とは、ウインチドラム361に対して層状に積層されて巻かれている巻上ロープ32の層数と列数を示す。
なお、ウインチドラム361の巻上ロープ32が巻き回される巻き胴(巻き回し部)362に巻かれた状態から離れ始める位置における巻上ロープ32を「ロープ繰り出し部(図4における符号365)」とする。従って、巻上ロープ32の層列状態は、巻上ロープ32のロープ繰り出し部365が何層目の何列目にあるかを示している。
【0026】
距離測定装置628として、本実施形態では、LiDARのようなレーザ光走査型の距離測定装置を例示する。
距離測定装置628は、当該距離測定装置628の正面に向かう所定長の直線を半径としてその左右両側に所定角度の範囲で広がりを持つ扇形の二次元平面を検出平面(レイヤー)としている。距離測定装置628は、このレイヤーの範囲で当該距離測定装置628からレーザ走査を行った物体までの距離を検出することができる。
【0027】
図3は距離測定装置628とウインチドラム361の配置を示す斜視図である。距離測定装置628は、装置正面がウインチドラム361の径方向に向けられ、ウインチドラム361の中心軸cが距離測定装置628のレイヤーと同一面上となるようにクレーン1に設置することが好ましい。
なお、ウインチドラム361の中心軸cが距離測定装置628のレイヤーの面内となることは必須ではない。距離測定装置628は、ウインチドラム361の後述する巻き胴362の外周面を軸方向全長に走査する方向に向けられて配置されていればよく、レイヤーがウインチドラム361の中心軸cに近い位置となることがより好ましい。
【0028】
なお、距離測定装置628は、ウインチドラム361に巻かれた巻上ロープ32までの距離を中心軸cに沿った軸方向の全範囲に渡って検出可能であればよく、LiDARのようなレーザ光走査型に限らず、他の距離センサを利用することも可能である。
【0029】
[ウインチドラム]
図4(A)はウインチドラム361を径方向から見た正面図、図4(B)は中心軸方向から見た側面図、図4(C)は部分拡大図である。
図4(A)に示すように、ウインチドラム361は、巻上ロープ32が巻き回される巻き胴362と、巻き胴362の両端部に設けられた二つの鍔状のフランジ部363,364とを有し、中心軸回りに回転可能に支持されている。そして、ウインチドラム361の巻き胴362には、一方のフランジ部363側から他方のフランジ部364側までの間を巻上ロープ32が順番に巻くことができ、これが積層するように繰り返されて層が形成されている。つまり、巻上ロープ32の径方向までの層数が「層列状態」における「層数」となる。また、一番外側の巻上ロープ32が端からロープ繰り出し部365まで巻かれた巻き数が「層列状態」における「列数」となる。
なお、ロープ繰り出し部365は、一番外側の層の巻上ロープ32における巻き胴362から離れて引き出された部分をいう。
【0030】
なお、ウインチドラム361で巻上ロープ32を巻き取る際には、一方のフランジ部363側から他方のフランジ部364側までの間を巻上ロープ32が一層分巻かれると、次の層では、折り返して他方のフランジ部364側から一方のフランジ部363側までの間を巻上ロープ32が一層分巻かれ、これを交互に繰り返すことで何層もの巻上ロープ32の巻き取りが行われる。
従って、巻上ロープ32の奇数番目の層では、1列目が一方のフランジ部363側(図4(A)の例では右側のフランジ部363)となり、偶数番目の層では、1列目が他方のフランジ部364側(図4(A)の例では左側のフランジ部364)となる。
【0031】
また、一方のフランジ部363の外周部には、距離測定装置628によって規定の位相を検出させるための被位相判断部366が設けられている。なお、この場合、距離測定装置628は、被位相判断部366を検出する位相検出手段としても機能する。
フランジ部363の外周部は、被位相判断部366を除いて周方向の外径が均一な円形であり、被位相判断部366は、他の部分よりも凸又は凹となる形状を呈している。従って、距離測定装置628によって回転するウインチドラム361のフランジ部363の外周の距離を検出した場合に、被位相判断部366がレイヤーを通過すると距離測定値が変動を生じる。この距離測定値の変動により、ウインチドラム361が規定の位相であることを検出することができる。なお、以下では、被位相判断部366が他の部分よりも凹形状である場合を例示する。
【0032】
後述する監視処理部611は、被位相判断部366が示す規定の位相において距離測定装置628によって検出される距離測定値に基づいて巻上ロープ32の層列状態を取得する。
なお、この場合、被位相判断部366が示す位相は、巻き胴362又は巻き胴362に巻かれている巻上ロープ32から巻上ロープ32が離れ始める位置であるロープ繰り出し部365の位相の範囲を避けて設けることが好ましい。なお、ロープ繰り出し部365の位相は、ブーム4の起伏角度によって変動する。吊り荷作業を行う作業姿勢における起伏角度の範囲(例えば、クレーン仕様ならば30~80°、タワー仕様であれば、60~90°)でブーム4の起伏角度が変動し得るので、被位相判断部366が示す位相は、吊り荷作業を行う作業姿勢においてブーム4の起伏し得る角度範囲に応じたロープ繰り出し部365の位相の範囲を避けることが好ましく、休車姿勢や分解組立時の倒伏動作の時に使用する起伏角度の範囲を含めたクレーンの起伏角度限界からブームが水平となる位置までの起伏角度全範囲の位相の範囲(例えば、0~90°)を避けるとより好ましい。
被位相判断部366が示す位相がロープ繰り出し部365の範囲に含まれた配置とすると、距離測定装置628が、巻き胴362又は巻き胴362に巻かれている巻上ロープ32から起伏して離れた状態となるロープ繰り出し部365までの距離も検出することとなる。ロープ繰り出し部365は、繰り出し動作によって移動或いは振動を生じるおそれがあり、距離測定装置628の検出距離に変動が生じるおそれを生じる。
従って、被位相判断部366がロープ繰り出し部365の範囲を避けて設けられることにより、変動の少ない安定した距離検出を行うことが可能となる。
【0033】
ここで、図4(C)に示すように、被位相判断部366は周方向に一定の長さを有しているので、距離測定装置628による被位相判断部366の検出は、一定の期間に及ぶ。
例えば、距離測定装置628が非常に短いサンプリング周期で連続的に検出を行う場合、被位相判断部366が検出される期間において、複数の距離測定値が得られる可能性がある。
その場合、複数の距離測定値の平均値を既定の位相での距離測定値として扱ってもよい
。また、距離測定装置628による被位相判断部366の検出開始タイミングt1と検出終了タイミングt2の中間のタイミングtcで検出された距離測定値を既定の位相での距離測定値とみなして巻上ロープ32の層列状態を求めてもよい。
【0034】
また、ウインチドラム361のフランジ部363には、外部との接触を回避するために外周部を覆うカバー367が装着されている。回転を行うフランジ部363に対して、カバー367は、クレーン1側に固定装備されている。
そして、カバー367における距離測定装置628のレイヤーが交差する位置には、被位相判断部366を外部に露出させる開口部368が形成されている。当該開口部368は、フランジ部363の全幅よりも広く及び被位相判断部366の周方向の長さよりも長い範囲で開口している。従って、距離測定装置628による被位相判断部366の検出を妨げない。
【0035】
なお、他方のフランジ部364は、ウインチドラム361の制動を行うために一定の形状が周期的に繰り返される形状(例えば、略多角形状、略歯車形状等)に形成されている。
仮にこのフランジ部364に被位相判断部366を設ける場合には、当該フランジ部364の外径が採り得る範囲よりも内側となる深さ(凸形状とする場合には採り得る範囲よりも外側となる突出量)とすることが好ましい。
【0036】
[監視処理]
コントローラ61の監視処理部611による監視処理について説明する。
監視処理部611は、距離測定装置628によるウインチドラム361に対する距離検出結果に基づいてウインチドラム361に巻かれた巻上ロープ32の層数と列数を求める監視処理を行う。
【0037】
距離測定装置628は、ウインチドラム361の回転半径方向外側から半径方向内側に向かって、当該ウインチドラム361の中心軸cを含むレイヤー内をレーザ走査する。これにより、一方のフランジ部363と他方のフランジ部364との間で、軸方向に沿った微小間隔となる各位置で、巻き胴362に巻かれた巻上ロープ32の外側表面までの距離を測定する。
図5は距離測定装置628によるウインチドラム361に対する距離検出結果を示す線図である。
【0038】
図5において、横軸はウインチドラム361の中心軸cの軸方向に沿った位置を示し、縦軸は中心軸cの軸方向に沿った各位置におけるウインチドラム361の外周までの検出距離を示す。
図示の距離検出結果において、区間A1は、フランジ部363を示し、区間A2は、巻上ロープ32が巻かれていない巻き胴362の外周面を示す。さらに、区間A3は、巻き胴362に層状に巻かれた巻上ロープ32の外周を示し、区間A4は、フランジ部364を示す。
【0039】
巻上ロープ32の層数と列数を求めるには、フランジ部363とフランジ部364の間の区間A2,A3における検出距離が必要となる。
一方、フランジ部363,364は、距離検出を行う方向に沿ったフランジ部363,364の内側面を有することから、区間A1,A4には検出距離の急激な増加又は急激な減少が現れる。
従って、監視処理部611は、一回の走査によって検出された距離検出情報に対して、軸方向の各位置における距離検出の変化率(傾き)について閾値を定め、区間A1と区間A4とを検出する。ここから、監視処理部611は、区間A1と区間A4の間となる区間
A2,A3、即ち、フランジ部363とフランジ部364の間における距離検出情報を抽出することができる。
【0040】
また、フランジ部363には被位相判断部366が設けられている。この被位相判断部366は、区間A1の端部(図5の区間A1の下端部)において検出される距離から求めることができる。
前述したように、区間A1は、フランジ部363による検出距離の急激な増加が生じるので、この急激な増加が発生する際の検出距離から被位相判断部366を検出することができる。
【0041】
被位相判断部366は、前述したように、ウインチドラム361の中心側に凹となる形状である。このため、距離測定装置628が検出する区間A1における検出距離の急激な増加の開始位置における検出距離の値は、被位相判断部366の方がそれ以外のフランジ部363の外周部よりも大きくなる。
従って、監視処理部611は、区間A1の開始位置で検出される距離について閾値を設定し、閾値以上であれば被位相判断部366が示す既定の位相と判断し、閾値未満であれば既定の位相以外の位相と判断する。
【0042】
さらに、監視処理部611は、フランジ部363とフランジ部364の間における距離検出情報を取得すると、区間A2,A3内の検出情報を正規化する。例えば、監視処理部611は、正規化処理として、フランジ部363とフランジ部364の間における距離検出情報を構成する軸方向の各位置における検出距離を合計した積算値を算出する。或いは、軸方向の各位置における検出距離の平均値を求めてもよい。以下、これらの算出値を「正規化処理値」とする。
【0043】
図6はウインチドラム361の各位相(回転角度)の正規化処理値を示した線図である。当該線図の横軸はウインチドラム361の位相を示し、縦軸は正規化処理値を示す。ウインチドラム361の位相は、一回転の12分の一を一単位としている。図6はウインチドラム361が三回転した場合の各位相の正規化処理値の変化が表れている。
ウインチドラム361が三回転する間に巻上ロープ32の巻き数が三列分増加するので、図6の線図には巻き胴362の外径の漸増による正規化処理値の漸減が表れている。
【0044】
図7はウインチドラム361の1回転における12等分された各位相について検出される正規化処理値を示した線図である。図7では、巻上ロープ32のn列目が巻かれる1回転の正規化処理値(図示●ドット)を示す線図L1とn+1列目が巻かれる1回転の正規化処理値(図示▲ドット)を示す線図L2とn+2列目が巻かれる1回転の正規化処理値(図示■ドット)を示す線図L3とを個別に記載している。なお、各線図L1~L3においてウインチドラム361に巻かれた巻上ロープ32の層数は等しいものとする。
【0045】
図7の線図L1~L3を比較した場合、正規化処理値は、ウインチドラム361の巻上ロープ32の列数に応じて個別の数値となることを示している。この時、12等分された各位相の正規化処理値は各列数において一致しないことが分かる。さらに、ウインチドラム361の巻上ロープ32の層数が異なれば、正規化処理値がより大きく異なることは明らかである。つまり、正規化処理値から層数と列数を特定するためには、ドラムの位相を特定する必要がある。
【0046】
監視処理部611は、予め、ウインチドラム361の巻上ロープ32の層数及び列数ごとに既定の位相で距離測定装置628により距離検出を行って、層数及び列数ごとの正規化処理値の固有値を求め、参照値として記憶する。
そして、監視処理部611は、巻上ウインチ36の使用時において、回転するウインチ
ドラム361が既定の位相となるときに、距離測定装置628により距離検出を行って、検出データから正規化処理値を導出する。そして、導出した正規化処理値を層数及び列数ごとに用意された正規化処理値の参照値と比較することにより、最も近い参照値から現在の巻上ロープ32の層数及び列数を特定する処理を行う。
なお、監視処理部611は、距離検出を行うべきウインチドラム361の特定の位相を前述したウインチドラム361の被位相判断部366の検出によって認識することができる。
【0047】
図8は監視処理部611が実行する監視処理のフローチャートである。
図示の通り、監視処理部611は、ウインチドラム361が回転すると(ステップS1)、距離測定装置628によるレーザ走査を行い、被位相判断部366の検出を行う(ステップS3)。
そして、被位相判断部366が検出されると、距離測定装置628による距離検出を行ってウインチドラム361に対する検出情報を取得する(ステップS5)。
【0048】
次いで、監視処理部611は、既定の位相における検出情報からフランジ部363とフランジ部364の間の区間A2,A3の検出情報を抽出し、さらに、各位置の距離を積算して正規化処理値を導出する(ステップS7)。
さらに、監視処理部611は、導出した正規化処理値をウインチドラム361における巻上ロープ32の層数と列数を示す正規化処理値の参照値と比較し、導出された正規化処理値が示す巻上ロープ32の層数と列数(層列状態)を特定する(ステップS9)。
そして、監視処理部611は、特定された層列情報を表示装置622に表示して(ステップS11)、監視処理を終了する。
【0049】
図9は、表示装置622においてクレーン1における各種の設定値や検出値等の稼働情報を表示する表示画面Gの一例を示している。
監視処理部611は、上記ステップS11の処理において、この表示画面Gに、特定された層列情報の表示を行う。
表示画面G内における中央下部に、上記監視処理で特定された層列情報が表示される層列情報表示部Wが設けられている。層列情報表示部Wには、測定に基づく列数の隣に一層に巻かれる列数の総量も表示される。
【0050】
なお、監視処理は、巻上ロープ32の層列情報を表示して終了する場合に限らず、取得した層列情報から別の状態監視を行ってもよい。
例えば、ウインチドラム361は、巻上ロープ32が残り1層目まで繰り出されると、巻き胴362と巻上ロープ32との間で強擦を乗じるため、これを回避する運用が求められる場合がある。
従って、取得した層列情報が残り1層目に至る場合や1層目に近くなった場合(1層目まで残り数列となった場合)に表示装置622による表示、別途設けられた報知ランプによる表示や音声出力部により音声出力等、操作者に認識可能な手段で報知処理を行ってもよい。
【0051】
例えば、図9の表示画面G中の層列情報表示部Wの上の二つの枠内に、1層目で巻き取り又は巻き出しが行われた場合の摩耗発生条件成立を示す第1アイコンN1と、巻上ロープ32がフランジ部363,364と摺接を生じる1列目での巻き取り長さ及び巻き出し長さの積算値が閾値を超過した場合の摩耗発生条件成立を示す第2アイコンN2とが表示され、表示による報知処理が行われる。
【0052】
[発明の実施形態の技術的効果]
以上のように、監視装置は、ウインチドラム361の位相とウインチドラム361との
距離とを検出する距離測定装置628を備えているので、これら二つの検出情報を用いることで、より高精度に層列情報を取得することが可能となる。
特に、監視装置は、距離測定装置628の検出に基づいてウインチドラム361に巻かれた巻上ロープ32の層数と列数を求めるので、明確に必要情報を取得することが可能である。
また、距離測定装置628は、巻き胴362の軸方向全長を含む範囲で距離を検出するので、ウインチドラム361に巻かれた巻上ロープ32の層数と列数をより的確に求めることが可能となる。
さらに、求められた巻上ロープ32の層数と列数は表示装置622に表示されるので、これらの情報を操作者に的確に明示することができ、速やかに認識させることが可能である。
【0053】
また、監視装置は、距離測定装置628の検出に基づくウインチドラム361に巻かれた巻上ロープ32の層数が一層目である場合に、ウインチドラム361と巻上ロープ32との間に摩耗が生じることを報知するので、操作者に巻上ロープ32によるウインチドラム361の摩耗の発生を的確に認識させることが可能となる。
【0054】
また、ウインチドラム361は、巻き胴362の両側部にフランジ部363,364を有し、一方のフランジ部363の径方向の外周側に周方向の他の部分に対して凸または凹となる被位相判断部366を有している。
このため、巻上ロープ32の距離の検出により層列情報を取得する処理は、周方向の一部に設けられた被位相判断部366の検出時に行えばよく、回転するウインチドラム361の位相を周方向全体に渡って常に検出する必要がなく、処理の簡易化を図ることができる。
また、被位相判断部366を、距離検出を行うセンサで検出することが可能となる。
特に、距離測定装置628が被位相判断部366を検出することにより、被位相判断部366を検出するための専用のセンサを不要とすることが可能となる。
従って、監視装置の構成の簡略化、部品点数の低減、さらには、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0055】
また、ウインチドラム361の被位相判断部366がロープ繰り出し部365の範囲を避けて設けられることにより、変動の少ない安定した距離検出を行うことが可能となる。
【0056】
[その他]
上記発明の実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記実施形態では、監視装置の距離測定装置628が距離検出手段と位相検出手段の両方として機能する構成としたが、これに限定されない。
例えば、距離測定装置628とは別に位相検出手段を備える構成としてもよい。位相検出手段は、ウインチドラム361の位相(回転量)を検出可能なポテンショメータ、エンコーダ等のあらゆる検出機器を利用することができる。
また、位相検出手段が検出する位相は、ウインチドラム361の周方向の位置を示しており、ウインチドラム361の回転量からも求められるがこれに限定されない。位相検出手段は、ウインチドラム361の周方向の位置がわかる手段であればよい。
【0057】
また、被位相判断部366としては、凹凸構造のように既定の位相で距離変動を生じる構造に限定されない。例えば、ウインチドラム361のフランジ部の外周が全周に渡って漸減する形状とする等のように、異なる位相で検出距離が異なるように構成し、既定の位相に対応する検出距離を定めておくことで、既定の位相を検出可能としてもよい。
その場合、監視装置の距離測定装置628が位相検出手段として機能する構成としても
よいが、別途、専用の位相検出手段を設けてもよい。
【0058】
また、位相検出手段として距離測定手段を利用しない場合には、被位相判断部366としては、凹凸構造のような距離変動を生じる構造に限定されない。例えば、既定の位相となるウインチドラム361のフランジ部の周方向の一部に目印等を設け、位相検出手段が目印の読み取り等を行って目印の接近を検出する構成としてもよい。
【0059】
また、ウインチドラム361に、それぞれ異なる位相で検出される複数の被位相判断部366を設けてもよい。その場合、例えば、各位相ごとに凸構造の突出量を変える、各位相ごとに凹構造の深さを変える等によって、異なる位相を識別することが可能である。
また、複数の位相が検出される場合、巻上ロープ32の層数と列数を示す正規化処理値の対照データは、各位相ごとに用意することが好ましい。
このように、異なる複数の位相を検出する構成とする場合、ウインチドラム361の層列情報を高頻度で取得することが可能となる。
【0060】
また、距離測定装置628は、二次元平面である一つのレイヤー上で距離検出を行う構成だが、これに限定されない。例えば、距離測定装置628は、高さ又は傾斜角度が異なる複数のレイヤーにより三次元検出を行うものを使用してもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、巻上ウインチ36のウインチドラム361に対する監視装置を例示したが、起伏ウインチ42のウインチドラムにも同じ構成からなる監視装置を設けてもよい。
また、上記実施形態では、クローラクレーンのウインチドラムに監視装置を設ける例を示したが、クローラクレーンに限らず、タワーアタッチメントを付けたクレーン、ホイールクレーン、トラッククレーン等の他の移動式クレーンに加えて、港湾クレーン、天井クレーン、ジブクレーン、門型クレーン、アンローダ、固定式クレーン等、ウインチドラムを有するあらゆるクレーンに適用可能である。
また、吊荷フックを備えるクレーンに限らず、マグネット、アースドリルバケット等のアタッチメントを吊下するクレーンも本発明の適用の対象である。
【符号の説明】
【0062】
1 クレーン
32 巻上ロープ(ワイヤロープ)
36 巻上ウインチ
37 起伏ロープ
42 起伏ウインチ
60 制御装置
61 コントローラ
361 ウインチドラム
362 巻き胴(巻き回し部)
363,364 フランジ部
365 ロープ繰り出し部
366 被位相判断部
367 カバー
368 開口部
611 監視処理部(取得部)
621 入力部
622 表示装置
628 距離測定装置(距離検出手段,位相検出手段)
A1~A4 区間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9