IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大日本塗料株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-塗膜形成方法、塗装体および塗料 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147822
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】塗膜形成方法、塗装体および塗料
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20231005BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055544
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】橋本 学
(72)【発明者】
【氏名】中谷 了
(72)【発明者】
【氏名】小林 稔幸
(72)【発明者】
【氏名】木下 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】市川 貴士
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038BA081
4J038CG141
4J038PB06
4J038PB07
(57)【要約】
【課題】 本発明の目的は、優れためっき調を有しながら付着性も同時に満たす塗膜形成方法、塗装体およびその塗装体を形成するための塗料を提供することにある。
【解決手段】 本発明の目的は、少なくとも、
(1)プライマー塗料からプライマー塗膜を形成する工程、
(2)めっき調メタリック塗料からめっき調塗膜を形成する工程、
をこの順に有する塗膜形成方法であって、
該めっき調メタリック塗料の蒸発速度が、0.3~2.0g/hであり、
該(1)工程においてプライマー塗膜のゲル分率を80%以上としたのち、該(2)工程に移行する、塗膜形成方法、によって達成された。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
(1)プライマー塗料からプライマー塗膜を形成する工程、
(2)めっき調メタリック塗料からめっき調塗膜を形成する工程、
をこの順に有する塗膜形成方法であって、
該めっき調メタリック塗料の蒸発速度が、0.3~2.0g/hであり、
該(1)工程においてプライマー塗膜のゲル分率を80%以上としたのち、該(2)工程に移行する、塗膜形成方法。
【請求項2】
前記プライマー塗膜を形成するためのプライマー塗料が、少なくとも、樹脂および硬化剤を含有し、該樹脂のガラス転移温度Tgが40~120℃かつ水酸基価が25~250mgKOH/gであり、該硬化剤の官能基含有率がプライマー塗料の固形分中に2~10質量%である、請求項1記載の塗膜形成方法。
【請求項3】
前記めっき調メタリック塗料が、平均粒子径5~15μm、アスペクト比が200~1000のアルミニウムフレークを含有する請求項1または2記載の塗膜形成方法。
【請求項4】
前記(2)工程に次いで、(3)トップコート塗料からトップコート塗膜を形成する工程を有する請求項1~3いずれかに記載の塗膜形成方法。
【請求項5】
少なくとも基材上に(1)プライマー層、(2)めっき調メタリック層、をこの順に積層してなる塗装体であって、
前記めっき調メタリック層の膜厚が50~500nmであり、
前記塗装体表面を変角色差計で測定したとき、ハイライトの明度(L*(15°))が130以下であり、かつFI値が20以上である塗装体。
【請求項6】
前記塗装体表面の20°光沢値が200以上である請求項5記載の塗装体。
【請求項7】
少なくとも、平均粒子径5~15μm、アスペクト比が200~1000のアルミニウムフレーク、ラッカー樹脂、シランカップリング剤および有機溶剤を含有する、めっき調メタリック塗料。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面にめっき調塗膜を形成するための塗膜形成方法、塗装体およびその塗膜を形成するための塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車内外装部品や家電製品など(その他、自転車や釣具など)に高い意匠性を付与させるため、めっき部品が多く用いられている。しかし、めっき部品の生産には前処理から排水処理まで設備コストがかかる上、意匠面では表現できる色・素材形状が限られるため、アルミニウムフレーク(以下、アルミフレークともいう)を使用しためっき調の塗装が検討されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-136329号公報
【特許文献2】特開2017-075306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここでめっき調の塗装において、被塗物の基材としてはプラスチックや金属が使用されているが、通常基材への付着性を確保するため、プライマー塗装を実施する。ところがプライマー塗膜上にメタリック塗膜をさらに形成した場合、めっきに匹敵するような鏡面光沢を有する外観が得られにくいという現象があった。
【0005】
本発明の目的は、優れためっき調を有しながら付着性も同時に満たす塗膜形成方法、塗装体およびその塗装体を形成するための塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、下記によって達成された。
1. 少なくとも、
(1)プライマー塗料からプライマー塗膜を形成する工程、
(2)めっき調メタリック塗料からめっき調塗膜を形成する工程、
をこの順に有する塗膜形成方法であって、
該めっき調メタリック塗料の蒸発速度が、0.3~2.0g/hであり、
該(1)工程においてプライマー塗膜のゲル分率を80%以上としたのち、該(2)工程に移行する、塗膜形成方法。
2. 前記プライマー塗膜を形成するためのプライマー塗料が、少なくとも、樹脂および硬化剤を含有し、該樹脂のガラス転移温度Tgが40~120℃かつ水酸基価が25~250mgKOH/gであり、該硬化剤の官能基含有率がプライマー塗料の固形分中に2~10質量%である、前記1記載の塗膜形成方法。
3. 前記めっき調メタリック塗料が、平均粒子径5~15μm、アスペクト比が200~1000のアルミニウムフレークを含有する前記1または2記載の塗膜形成方法。
4. 前記(2)工程に次いで、(3)トップコート塗料からトップコート塗膜を形成する工程を有する前記1~3いずれかに記載の塗膜形成方法。
5. 少なくとも基材上に(1)プライマー層、(2)めっき調メタリック層、をこの順に積層してなる塗装体であって、
前記めっき調メタリック層の膜厚が50~500nmであり、
前記塗装体表面を変角色差計で測定したとき、ハイライトの明度(L*(15°))が130以下であり、かつFI値が20以上である塗装体。
6. 前記塗装体表面の20°光沢値が200以上である前記5記載の塗装体。
7. 少なくとも、平均粒子径5~15μm、アスペクト比が200~1000のアルミニウムフレーク、ラッカー樹脂、シランカップリング剤および有機溶剤を含有する、めっき調メタリック塗料。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れためっき調を有しながら付着性も同時に満たす塗膜形成方法、塗装体およびその塗装体を形成するための塗料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の溶剤の蒸発速度を示すグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の塗装体および塗料組成物を詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。
【0010】
<塗膜形成方法>
本発明の塗膜形成方法は、少なくとも、
(1)プライマー塗料からプライマー塗膜を形成する工程、
(2)めっき調メタリック塗料からめっき調塗膜を形成する工程、
をこの順に有する塗膜形成方法であって、
該めっき調メタリック塗料の蒸発速度が、0.3~2.0g/hであり、
該(1)工程においてプライマー塗膜のゲル分率を80%以上としたのち、該(2)工程に移行する、ことを特徴とする。
【0011】
本発明においては、プライマー塗膜上にメタリック塗膜をさらに形成した場合、めっきに匹敵するような鏡面光沢を有する外観が得られにくいという現象について、プライマー塗膜がメタリック塗膜を形成する過程で想定以上に浸漬されることにより、乾燥時にメタリック塗膜中のアルミフレークの配向が乱されることが原因であることを見出した。
【0012】
従来のめっき調塗膜の形成に使用されるメタリック塗料は、乾燥の速いラッカーが使用され、プライマー塗膜への影響は考慮されていなかった。
本発明では、メタリック塗料を塗布する直前のプライマー塗膜のゲル分率を80%以上とすることで、この問題を解決した。
【0013】
<(1)プライマー塗料からゲル分率が80%以上のプライマー塗膜を形成する工程>
本工程は、プライマー塗料を塗布してプライマー塗膜を形成し、その塗膜のゲル分率を80%以上とする工程である。
【0014】
≪プライマー塗料≫
本発明のプライマー塗料としては、ゲル分率を80%以上とすることができれば特に限定はなく、通常の自動車内外装部品や家電製品等に使用されるプライマー塗料を使用することができる。
【0015】
プライマー塗料に使用する樹脂としては、例えば、アクリル・ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、アルキド系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、有機変性シリコーン系樹脂(例えば、アクリルシリコーン系樹脂)、塩化ゴム系樹脂、フェノール系樹脂、ポリエステル系樹脂、メラミン系樹脂及びナイロン系樹脂等を挙げることができ、特にアクリル・ウレタン系樹脂、アクリル・ポリエステル系樹脂を使用することが好ましい。
【0016】
≪ゲル分率80%以上のプライマー塗膜≫
ゲル分率が80%であるプライマー塗膜は、プライマー塗料における樹脂のガラス転移点(Tg)や水酸基価、添加する硬化剤の官能基含有率を調整すること、硬化促進剤や反応触媒を添加すること等によって形成することができる。
【0017】
例えば、Tgが40~120℃、好ましくは50~100℃である樹脂を含むことや、水酸基価が25~250mgKOH/g、好ましくは50~200mgKOH/gである樹脂を含むこと、更に硬化剤の官能基(例えばイソシアネート基、エポキシ基、アジリジン基等)の含有量がプライマー塗料の固形分中に2~10質量%、好ましくは3~8質量%であることが挙げられる。
【0018】
樹脂のTgや水酸基価、硬化剤の官能基の含有量を前記範囲とすることで、塗膜の架橋密度や耐薬品性が向上し、目的のゲル分率を有する塗膜が得られやすくなる。なお、本発明におけるゲル分率は、充分に乾燥した後の固形分のみから成る乾燥塗膜の非溶出分率と定義され、充分に乾燥した乾燥塗膜を有機溶媒中に浸漬し、その非溶出固形分率を測定することにより得られる。
【0019】
本発明におけるガラス転移温度(Tg)とは、FOX式を用いて計算されるものをいう。プライマー塗膜の膜厚は、10~50μmであり好ましくは15~40μmである。
【0020】
<(2)めっき調メタリック塗料からめっき調塗膜を形成する工程>
本工程は、(1)工程でゲル分率80%以上となったプライマー塗膜に、めっき調メタリック塗料を塗布してめっき調塗膜を形成する工程である。
【0021】
≪めっき調メタリック塗料≫
本発明のめっき調メタリック塗料は、少なくとも、平均粒子径5~15μm、アスペクト比が200~1000のアルミニウムフレーク、ラッカー樹脂、シランカップリング剤および有機溶剤を含有することを特徴とする。また、上記アルミニウムフレークの他に、平均粒径が0.1~10μmのインジウム顔料を用いることができる。
【0022】
[アルミニウムフレーク]
本発明のアルミフレークは、平均粒子径5~15μm、アスペクト比が200~1000である。平均厚みは、特に限定されるものではないが、5~30nmであり、10~20nmであることが好ましい。
【0023】
本発明における平均粒子径は、体積基準粒度分布の50%粒子径(D50)を指し、粒度分布測定装置(例えばレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置)を用いて測定される粒度分布から求めることができる。そして、本発明における粒子径は、レーザ回折・散乱法による球相当径で表される。
【0024】
また平均厚みについては、フレークの隠蔽力と密度とにより算出することができる。平均アスペクト比は、平均粒子径/平均厚みで表される。
【0025】
本発明のアルミフレークとしては、市販の蒸着粉砕アルミニウムフレークであるMetalure(Eckart製)、SPLENDAL(Benda-Lutz製)、トーヤルシャイン(東洋アルミニウム(株)製)等を使用することができる。アルミフレークの含有量は、めっき調メタリック塗料の固形分の5~40質量%であり、5~25質量%であることが好ましい。
【0026】
[インジウム顔料]
本発明のめっき調メタリック塗料には、光輝顔料としてインジウム顔料を用いることができる。インジウム顔料は、平均粒子径が0.1~10μmであり、0.1~1.0μmであることが好ましい。
【0027】
本発明のインジウム顔料としては、市販のリーフパウダーIn(尾池工業株式会社製)等を使用することができる。インジウム顔料の含有量は、めっき調メタリック塗料の固形分の10~50質量%であり、15~40質量%であることが好ましい。
【0028】
[ラッカー樹脂]
本発明のラッカー樹脂としては、特に限定はなく、通常のアクリル樹脂、セルロース樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂等を使用することができ、アクリル樹脂、セルロース樹脂であることが好ましい。
【0029】
アクリル樹脂としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルを主成分とする重合体または共重合体であることが好ましい。ここで主成分とは、50モル%以上含まれることをいう。本発明におけるアクリル樹脂の90質量%以上が、水酸基価5mg/KOHg未満であり、水酸基が少ない方が好ましい。そしてTgが50℃以上であることが好ましい。
【0030】
セルロース樹脂としては、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース(NC)、アクリル変性セルロース誘導体、ポリエステル変性セルロース誘導体、及びポリウレタン変性セルロース誘導体等が挙げられ、特にニトロセルロースが好ましい。
ニトロセルロースは、窒素含有量が10%以上であることが好ましい。具体的には、市販の工業用硝化綿(T.N.C.INDUSTRIAL社製)等を使用することができる。
ラッカー樹脂の含有量は、めっき調メタリック塗料の固形分の1~50質量%であり、2~10質量%であることが好ましい。
【0031】
[シランカップリング剤]
本発明のラッカー樹脂は、シランカップリング剤を含有する。シランカップリング剤としては、ビニル基、エポキシ基、アクリル基、イソシアネート基等の反応性基を有するものが好ましく、特にエポキシ基を有するものが好ましい。具体的には、信越シリコーン社製、東レ・ダウコーニング社製等の市販のシランカップリング剤を使用することができる。
【0032】
シランカップリング剤の含有量は、めっき調メタリック塗料の固形分の10~90質量%であり、70~90質量%であることが好ましい。前記範囲のシランカップリング剤が含まれることで、プライマー塗膜との付着性が向上し、加えてメタリック顔料の配向性に寄与することから、優れためっき調外観が得られる。
【0033】
[溶剤]
本発明の溶剤としては、通常のラッカーに使用することができる溶剤を、限定なく使用することができる。例えばトルエン、キシレン等の炭化水素溶剤、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート等のエステル、2-エチルヘキサノール等のアルコール類が挙げられる。
【0034】
本発明においては、炭化水素溶剤の使用量は少なくし、ケトン系、エステル系を多くすることが好ましい。
【0035】
[その他の添加剤]
本発明のめっき調メタリック塗料には、塗料業界で通常使用される添加剤、例えば、表面調整剤、湿潤剤、分散剤、乳化剤、増粘剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、消泡剤、色分かれ防止剤、レベリング剤、乾燥剤、可塑剤、殺虫剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤及び導電性付与剤等を目的に応じて適宜配合することができる。
【0036】
≪めっき調塗膜の形成≫
本発明においては、基材に塗料組成物を塗布し、その後乾燥することにより、塗膜を形成させることができる。ラッカー塗料であることから、塗布後、塗料を5℃以上で且つ90℃未満の温度にて放置することにより塗膜が得られる。
【0037】
さらに、23℃50%RHにおける蒸発速度を0.3~2.0g/hとすることが好ましい。その速度は、通常のラッカーの乾燥速度よりも遅いものである。蒸発速度を2.0g/h以下とすることで、塗膜形成時の体積収縮率が大きくなり、メタリック顔料が緻密かつ平行に並ぶため、鮮映性の高い優れためっき調外観を有する塗膜が形成可能となる。
【0038】
さらにゲル分率が80%以上のプライマー塗膜を用いることで、蒸発速度が0.3~2.0g/hと通常のラッカーよりも遅い塗料を塗布した場合であっても、プライマー塗膜が浸漬されてメタリック顔料の配向が乱されることが起こりにくく、より優れためっき調外観を有する塗膜が形成可能となる。
【0039】
図1は、本発明のめっき調メタリック塗料の蒸発速度を示したグラフである。横軸は経過時間(分)、縦軸は溶剤の蒸発量(g)を示す。この蒸発速度を示したグラフは、内径89mm、深さ19mmのシャーレに各塗料約10gを秤量し、シャーレを天秤上に放置、20分毎に小数点以下3桁のまでの質量を測定して作成した。具体的には、120分経過後の各測定結果をプロットし、切片を0とした近似直線により蒸発速度を求めた。
【0040】
近似直線からのずれを示す決定係数Rが0.9未満となる場合は、決定係数Rが0.9以上となるまで経過時間が最も大きい点を削除して近似直線を作成する。測定雰囲気は、23℃50%RHである。
【0041】
蒸発速度を調整するために、炭化水素系の溶剤の量を少なくし、ケトン系、エステル系の溶剤を増やすことが好ましい。
【0042】
めっき調塗膜の膜厚は、50~500nmであり、100~300nmであることが好ましい。
【0043】
<その他の工程:(3)トップコート塗料からトップコート塗膜を形成する工程>
本発明においては耐傷性及び耐薬品性を改善するためにめっき調塗膜上にトップコート塗膜を形成しても良く、トップコート塗膜の膜厚は15~50μmであり、好ましくは20~40μmである。また、めっき調塗膜の外観を損なわないよう、トップコート塗膜は、着色材を含まないクリアー塗膜または少量の着色材を含むカラークリアー塗膜であることが好ましい。
【0044】
トップコート塗膜を形成するトップコート塗料としては、特に限定はなく、通常の自動車内外装部品や家電製品などに使用されるトップコート塗料を使用することができる。トップコート塗料に使用する樹脂としては、例えば、アクリル・ウレタン系樹脂、アクリル・メラミン系樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、有機変性シリコーン系樹脂(例えば、アクリルシリコーン系樹脂)、ポリエステル系樹脂及びメラミン系樹脂等を挙げることができ、特にアクリル・ウレタン系樹脂、アクリル・メラミン系樹脂を使用することが好ましい。
【0045】
本発明の塗料から塗膜形成する工程では、通常の既知の塗装手段、例えば、刷毛塗装、ローラー塗装、コテ塗装、ヘラ塗装、フローコーター塗装、スプレー塗装(例えばエアースプレー塗装、エアレススプレー塗装など)等を使用して作製することができる。
【0046】
<塗装体>
本発明のめっき調塗膜を有する塗装体において、塗装体表面を変角色差計で測定したとき、ハイライトの明度(L*(15°))が130以下であり、かつFI値が20以上である塗装体であることを特徴とする。そして、塗装体表面の20°光沢値が200以上であることが好ましい。
【0047】
ハイライトの明度(L*(15°))は130以下であり、好ましくは100以下である。
FI値は、金属調の特性を示すフリップフロップ性を示す値であり、下記式によって定義されている。本発明では20以上であり、25以上であることが好ましい。
【0048】
【数1】
【0049】
本発明では、ハイライトの明度、FI値は、変角色差計「BYK-macI」(BYK-gardner社製)によって測定した15°、45°、110°の値を用いて算出した。FI値が大きいほど塗面のフリップフロップ性が高いことを示す。そして塗装体表面の20°光沢値が200以上であることが好ましく、さらには250以上であることが好ましい。
【実施例0050】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。なお、断りの無い限り23℃50%RH雰囲気下で測定し、固形分は下記の方法で測定した。
【0051】
<固形分>
本明細書において、固形分とは、最終的に塗膜を形成することになる成分であり、本発明においては、塗料組成物を130℃で60分間乾燥させた際に残存する成分を固形分とした。
【0052】
<プライマー塗料組成物の調製>
表1に示す配合処方に従い原料を混合し、公知の手法により分散させ、プライマー塗料を調製した。使用した材料は、下記の通りである。
【0053】
・アクリル樹脂A:製品名ヒタロイド3901、固形分50質量%、水酸基価13mgKOH/g、Tg35℃、昭和電工マテリアルズ(株)製
・アクリル樹脂B:製品名アクリディック WNL-200、固形分50質量%、水酸基価40mgKOH/g、Tg60℃、DIC(株)製
・アクリル樹脂C:製品名アルフォン UH-2041、固形分98質量%、Tg-50℃、水酸基価120mgKOH/g、東亜合成(株)製
・カーボンブラックA:製品名Raven5000 Ultra II Powder、コロンビアケミカルズ社製
・反応触媒:製品名ネオスタン U-100、日東化成(株)製
・顔料分散剤A:製品名DISPERBYK-164、固形分60質量%、ビックケミー・ジャパン(株)製
・顔料分散剤B:製品名Solsperse37500、固形分40質量%、日本ルーブリゾール(株)製
・シリコーン系表面調整剤:製品名ディスパロン LC-915、固形分10質量%、楠本化成(株)製
【0054】
・イソシアネート硬化剤A:製品名デスモジュール N75 MPA/X、固形分75質量%、NCO基含有率16.5質量%、住化コベストロウレタン(株)製
・イソシアネート硬化剤B:製品名デスモジュール L75(C)、固形分75質量%、NCO基含有率13.3質量%、住化コベストロウレタン(株)製
・イソシアネート硬化剤C:製品名デスモジュール N3900、固形分100質量%、NCO基含有率23.5質量%、住化コベストロウレタン(株)製
・イソシアネート硬化剤D:製品名デスモジュール Z4470 MPA/X、固形分70質量%、NCO基含有率11.9質量%、住化コベストロウレタン(株)製
【0055】
【表1】
【0056】
<めっき調メタリック塗料組成物の調製>
表2、3に示す配合処方に従い原料を混合し、公知の手法により分散させ、めっき調メタリック塗料を調製した。使用した材料は、下記の通りである。
【0057】
・ニトロセルロース:製品名工業用硝化綿 RS120、固形分70質量%、キミア(株)製
・カーボンブラックB:製品名NSP-CZ 807(D)BLACK、日弘ビックス(株)製
・アルミニウムフレークA:製品名Metalure L55350、固形分10質量%、平均粒子径11.5μm、アスペクト比300~450、旭化成ケミカルズ(株)製
・アルミニウムフレークB:製品名Hydroshine WS6001、固形分10質量%、平均粒子径10μm、アスペクト比250~450、ビックケミー・ジャパン(株)製
・アルミニウムフレークC:製品名TS-408PM、固形分10質量%、平均粒子径7μm、アスペクト比450~700、東洋アルミニウム(株)製
・アルミニウムフレークD:製品名TS-710PM、固形分10質量%、平均粒子径10μm、アスペクト比650~800、東洋アルミニウム(株)製
・インジウム顔料:製品名リーフパウダーIn、固形分20質量%、平均粒子径0.5~1μm、尾池工業(株)製
・シランカップリング剤:製品名KBM-403、信越化学工業(株)製
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
<塗膜形成方法>
ABS基材上に、スプレー塗装により乾燥膜厚が20μmとなるような塗布量にて表1に記載のプライマー塗料を塗装し、7分間放置させ、その後80℃にて30分間乾燥させてプライマー塗膜を形成した。ここでゲル分率を測定した。
【0061】
このプライマー塗膜上に、乾燥膜厚が100~300nmとなるような塗布量にて表2に記載のめっき調メタリック塗料を塗装し、7分間放置させ、その後80℃にて30分間乾燥させ、めっき調メタリック塗膜を形成した。
【0062】
このめっき調メタリック塗膜上に、乾燥膜厚が20~40μmとなるような塗布量にてアクリル・ウレタン樹脂系クリヤー塗料(製品名アクリタンSSCM-200Uクリヤー、大日本塗料(株)製)を塗装し、7分間放置させ、その後80℃にて30分間乾燥させ、実施例1の塗装体を得た。
【0063】
プライマー塗料の配合、めっき調メタリック塗料の配合と乾燥膜厚を表2、表3のように変更することで、実施例2~12、比較例1~7の塗装体を得た。これら試料塗装体を試験体として下記試験を行い、得られた結果を表4~7に示す。
【0064】
<ゲル分率の測定方法>
配合1-1~1-5で得られたプライマー塗料を乾燥膜厚が20μmとなるようにアプリケーターを用いてガラス板上に塗装し、7分間放置させ、80℃にて30分間乾燥させてプライマー塗膜を形成し、ガラス板から塗膜を剥離した。次に金網の中に入れた塗膜をセパレート型丸底フラスコの中に設置し、トルエンとアセトンの混合溶液(50:50)を塗膜1gに対して100g加えて5時間還流した。取り出した塗膜を105℃×30分で乾燥後、塗膜質量を測定し、以下の式によりゲル分率を算出した。
ゲル分率(%)=還流後の塗膜質量/還流前の塗膜質量×100
【0065】
<付着性>
前記試験体を用い、塗膜表面に切込み角60°でカッターナイフにより直線の切れ込みを入れ、その切れ込みに対して角度60°で再び切れ込みを入れる。その後、切れ込みを覆うようにセロハンテープをしっかりと貼り付け、セロハンテープを塗膜表面に対して45°に引き剥がす。セロハンテープ剥離後、塗膜の剥がれの程度を以下の評価基準にて目視で判定した。△以上は、製品として採用可能なレベルである。
○:はがれが全くない。
△:カット部にわずかにはがれがある。
×:切込み部分の塗膜表面が完全にはがれる。
【0066】
<ハイライトの明度(L*(15°))、FI値>
「BYK-macI」(商品名、BYK-gardner社製)によって測定した。FI値は、15°、45°、110°の値を用いて算出し、以下の評価基準で判定した。△以上は、製品として採用可能なレベルである。
【0067】
≪ハイライトの明度(L*(15°))≫
〇:100未満
△:100~130
×:130を超える
【0068】
≪FI値≫
〇:25を超える
△:20~25
×:20未満
【0069】
<塗装体表面の20°光沢値>
光沢計を用いて、前記試験体の20°光沢度を測定し、以下の評価基準で判定した。△以上は、製品として採用可能なレベルである。
〇:250を超える
△:200~250
×:200未満
【0070】
<めっき調外観>
前記試験体を目視にて観察し、以下の評価基準で判定した。△以上は、製品として採用可能なレベルである。
○:金属めっきと同等のめっき調外観であり、鏡のような鮮映性を示す。
△:鏡のような鮮映性は十分でないが、金属めっきに匹敵するめっき調外観を示す。
×:十分なメタリック感を有するが、めっき調外観には至らない。
【0071】
【表4】
【0072】
【表5】
【0073】
【表6】
【0074】
【表7】
【0075】
表4~7の結果から、本発明によれば、優れためっき調を有しながら付着性も同時に満たすことができることが判る。

図1