(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147841
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】PCR用の溶液キット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/686 20180101AFI20231005BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20231005BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20231005BHJP
C12N 9/12 20060101ALI20231005BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z
C12N15/09 Z
C12Q1/6876 Z
C12N9/12
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055568
(22)【出願日】2022-03-30
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000001395
【氏名又は名称】杏林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】岡 正樹
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 裕子
(72)【発明者】
【氏名】竹内 亮太
(72)【発明者】
【氏名】胡 博之
【テーマコード(参考)】
4B029
4B050
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA23
4B029BB16
4B029BB20
4B029FA12
4B050CC03
4B050DD01
4B050LL03
4B050LL05
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ28
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】 レシプロカルフロー型の核酸増幅装置を用いたPCRにおいて液分かれが生じるのを抑制することができる新規な技術を提供する。
【解決手段】
(A)DNAポリメラーゼ、(B)少なくとも1対のプライマー、(C)蛍光色素結合プローブ、および(D)PCR緩衝液を含有し、
使用前に成分成分(A)と成分(B)とを混合する処理を経て調製されるPCR用の溶液キットであって、
成分(D)を収容する容器はガスバリア性を有する包装体により包装されていることを特徴とする、PCR用の溶液キット。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)DNAポリメラーゼ、(B)少なくとも1対のプライマー、(C)蛍光色素結合プローブ、および(D)PCR緩衝液を含有し、
使用前に前記成分(A)と前記成分(B)とを混合する処理を経て調製されるPCR用の溶液キットであって、
前記成分(D)を収容する容器はガスバリア性を有する包装体により包装されていることを特徴とする、PCR用の溶液キット。
【請求項2】
前記包装体がフィルム状の包装体であり、アルミニウム層、酸化アルミニウム層、ナイロン層、ポリ塩化ビニリデン層、ポリアクリロニトリル層、エチレンビニルアルコール共重合体層、ポリビニルアルコール層、ポリエステル層及びセロハン層からなる群から1種または2種以上選択される層を含む、請求項1に記載のPCR用の溶液キット。
【請求項3】
(E)非イオン界面活性剤をさらに含有する、請求項1または2に記載のPCR用の溶液キット。
【請求項4】
前記成分(C)が、蛍光色素とそのクエンチャーを結合したオリゴヌクレオチドである、請求項1から4のいずれか一つに記載のPCR用の溶液キット。
【請求項5】
前記混合処理に供される前の前記成分(A)、前記成分(B)および前記成分(C)が、それぞれ分離されて異なる部屋又は容器に収容されている、請求項1から4のいずれか一つに記載のPCR用の溶液キット。
【請求項6】
前記混合処理に供される前の前記成分(B)と前記成分(C)が同一の容器に収容されている、請求項1から4のいずれか一つに記載のPCR用の溶液キット。
【請求項7】
(F)逆転写酵素をさらに含有する、請求項1から6のいずれか一つに記載のPCR用の溶液キット。
【請求項8】
前記混合処理に供される前の前記成分(A)と前記成分(F)が、同一の容器に収容されている請求項7に記載のPCR用の溶液キット。
【請求項9】
(F)逆転写酵素を含有しない、請求項1から6のいずれか一つに記載のPCR用の溶液キット。
【請求項10】
蛍光色素が異なる2種又は3種以上の前記成分(C)を含む、請求項1から9のいずれか一つに記載のPCR用の溶液キット。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一つに記載のPCR用の溶液キットを含む、体外診断薬キット。
【請求項12】
クラス分類がクラスIIIに分類される請求項11に記載の体外診断薬キット。
【請求項13】
感染症診断用である請求項11又は12に記載の体外診断薬キット。
【請求項14】
(A)DNAポリメラーゼ、(B)少なくとも1対のプライマー、(C)蛍光色素結合プローブ、および(D)PCR用緩衝液を含有し、
使用前に前記成分(A)と前記成分(B)とを混合する処理を経て調製されるPCR用の溶液キットであって、
前記成分(D)を収容する容器はアルミニウム層及び/又は酸化アルミニウム層を含有する包装体により包装されていることを特徴とする、PCR用の溶液キット。
【請求項15】
(A)DNAポリメラーゼ、(B)少なくとも1対のプライマー、(C)蛍光色素結合プローブ、および(D)PCR用緩衝液を含有し、
使用前に前記成分(A)と前記成分(B)とを混合する処理を経て調製されるPCR用の溶液キットであって、
前記成分(D)を収容する容器はナイロン層、ポリ塩化ビニリデン層及びポリアクリロニトリル層からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有する包装体により包装されていることを特徴とする、PCR用の溶液キット。
【請求項16】
(A)DNAポリメラーゼ、(B)少なくとも1対のプライマー、(D)PCR用緩衝液および成分(G)1種又は2種以上のプローブ非結合の蛍光色素を含有し、
使用前に前記成分(A)と前記成分(B)とを混合する処理を経て調製されるPCR用の溶液キットであって、
前記成分(D)を収容する容器はガスバリア性を有する包装体により包装されていることを特徴とする、PCR用の溶液キット。
【請求項17】
(A)DNAポリメラーゼ、(B)少なくとも1対のプライマー、(C)蛍光色素結合プローブ、(D)PCR用緩衝液および成分(G)1種又は2種以上のプローブ非結合の蛍光色素を含有し、
前記成分(D)を収容する容器はガスバリア性を有する包装体により包装されていることを特徴とする、PCR用の溶液キット。
【請求項18】
変性温度帯と伸長・アニーリング温度帯を形成できるヒーター、
微小流路中に存在する試料液の蛍光強度を測定可能な蛍光検出器、
前記2つの温度帯間の試料液の移動を可能にし、かつ、送液停止時には大気圧開放される送液用機構、
核酸増幅用チップを載置可能な基板、
試料液の移動に関する蛍光検出器からの電気信号が送られて送液用機構の駆動を制御する制御機構を備え、
サーマルサイクル毎の蛍光強度の計測を行うことでリアルタイムPCRを実施するレシプロカルフロー型の核酸増幅装置、
前記変性温度帯と前記伸長・アニーリング温度帯に各々対応する曲線流路、前記曲線流路をつなぐ直線状又は曲線状の中間流路、流路の一方又は両端部に前記核酸増幅装置における送液用機構に接続可能な接続部を備えた微小流路を少なくとも1つ有する核酸増幅用チップ、並びに
請求項1から10及び請求項14から17のいずれか一つのPCR用の溶液キットを用いることを特徴とする目的遺伝子又は目的核酸の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はPCR用の溶液キットに関する。
【背景技術】
【0002】
核酸の検出は、医薬品の研究開発、法医学、臨床検査、農作物や病原性微生物の種類の同定など、様々な分野において中核をなしている。当該核酸の検出のために、PCR(polymerase chain reaction)が広く用いられている。PCRはDNAのある特定領域を選択的に増幅する技術である。具体的には、サーマルサイクルと呼ばれる三相もしくは二相の温度条件を繰り返すことにより、単一鎖へのDNAの変性、変性されたDNA一本鎖とプライマーのアニーリング、及び熱安定性DNAポリメラーゼ酵素によるプライマーの伸長という個々の反応を順次繰り返すことによりDNAを増幅する。
【0003】
また、PCRにより増幅されたDNAの検出を容易とするリアルタイムPCRが開発されている。
PCRは目的のDNAを選択的に増幅できるが、増幅したDNAを確認するためには、PCRの終了後に別途ゲル電気泳動などによる確認作業が必要であった。リアルタイムPCRでは目的のDNAの増幅量に合わせ蛍光を発生もしくは消光させることにより、試料中の目的のDNAの有無を簡便に確認できるようになった。
また、従来のPCRでは、PCR前の試料中のテンプレートDNA量が一定量を超えると、PCR後の増幅DNA量はプラトーに達していることが多く、PCR前のテンプレートDNA量を定量することはできない。しかし、リアルタイムPCRにおいては、プラトーに達する前に、PCR途中の増幅DNA量をリアルタイムに検出できるため、DNA増幅の様子からPCR前のテンプレートDNA量を定量することが可能である。そのためリアルタイムPCRは、定量的PCRとも呼ばれる。
【0004】
また、1つのPCR反応系に複数のプライマー対を用いることで、複数の遺伝子領域を同時に増幅するマルチプレックスPCRが注目されている。マルチプレックスPCRを発展させたリアルタイムマルチプレックスPCRは、それぞれのターゲットを、他のターゲットの影響(クロストーク)を受けにくく、感度を落とすことなく、複数の異なるターゲット遺伝子を区別して検出し、定量的な結果を得ることを目的としている。
【0005】
PCRに使用される汎用のサーマルサイクラー装置は、ヒーターであるアルミブロック部の巨大な熱容量のため温度制御が遅く、30~40サイクルのPCR操作に従来1~2時間、場合によってはそれ以上を要する。そのため、最新の遺伝子検査装置を用いても分析にはトータルで、通常1時間以上を要しており、PCR操作の高速化は、技術登場以来の大きな課題であった。
【0006】
PCRの高速化のための手法として、レシプロカルフロー型の核酸増幅装置が提案されている(特許文献1)。
レシプロカルフロー型の核酸増幅装置を用いるPCRにおいては、マイクロプロア等の送液機構を使用し、中間流路を介して連通している変性温度帯に維持されている流路と伸長およびアニーリング温度帯に維持されている流路との間で試料液を行き来させ、DNAを増幅する。
【0007】
また、さらに、レシプロカルフロー型の核酸増幅装置を使用してPCRの高速化を実現するとともに、ノイズも低下させたリアルタイムマルチプレックスPCRも提案されている(特許文献2)。特許文献2においては、リアルタイムPCRを行う際に、空間的に離れた2つの温度帯の流路の所定の位置でサーマルサイクル毎の蛍光強度の計測を行うことで、PCRの高速化とノイズの低減を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2016/006612号
【特許文献2】国際公開第2020/189581号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、レシプロカルフロー型の核酸増幅装置を用いたPCRにおいて、試料液の液分かれが生じるのを抑制することができる新規な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
レシプロカルフロー型の核酸増幅装置を用いたPCRにおいては流路内を行き来させる試料液において複数の気泡が生じ、それらが結合してより大きな気泡が生じた結果、試料液が流路内で分断されることがあった(該状態を本明細書では液分かれという)。液分かれが生じると、リアルタイムPCR(特にリアルタイムマルチプレックスPCR)を行った際に蛍光の波形異常が生じてしまう。
本発明者は、検討の結果、この液分かれが、PCR用の溶液キットの保存・搬送の際に用いるドライアイス(炭酸ガス)の影響で生じているものと気が付いた。そして、本発明者は、特にPCR用緩衝液がドライアイスの影響を大きく受けること、さらにPCR緩衝液が収容される容器をガスバリア性を有する包装体で包装することによりPCR反応時の液分かれを抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]
(A)DNAポリメラーゼ、(B)少なくとも1対のプライマー、(C)蛍光色素結合プローブ、および(D)PCR用緩衝液を含有し、
使用前に前記成分(A)と前記成分(B)とを混合する処理を経て調製されるPCR用の溶液キットであって、
前記成分(D)を収容する容器はガスバリア性を有する包装体により包装されていることを特徴とする、PCR用の溶液キット。
[2]
前記包装体がフィルム状の包装体であり、アルミニウム層、酸化アルミニウム層、ナイロン層、ポリ塩化ビニリデン層、ポリアクリロニトリル層、およびセロハン層からなる群から1種または2種以上選択される層を含む、[1]に記載のPCR用の溶液キット。
[3]
(E)非イオン界面活性剤をさらに含有する、[1]または[2]に記載のPCR用の溶液キット。
[4]
成分(C)が、蛍光色素とそのクエンチャーを結合したオリゴヌクレオチドである、[1]から[4]のいずれか一つに記載のPCR用の溶液キット。
[5]
前記混合処理に供される前の成分(A)、成分(B)および成分(C)が、それぞれ分離されて異なる部屋又は容器に収容されている、[1]から[4]のいずれか一つに記載のPCR用の溶液キット。
[6]
前記混合処理に供される前の成分(B)と成分(C)が同一の容器に収容されている、[1]から[4]のいずれか一つに記載のPCR用の溶液キット。
[7]
(F)逆転写酵素をさらに含有する、[1]から[6]のいずれか一つに記載のPCR用の溶液キット。
[8]
前記混合処理に供される前の前記成分(A)と前記成分(F)が、同一の容器に収容されている[7]に記載のPCR用の溶液キット。
[9]
(F)逆転写酵素を含有しない、[1]から[6]のいずれか一つに記載のPCR用の溶液キット。
[10]
蛍光色素が異なる2種又は3種以上の前記成分(C)を含む、[1]から[9]のいずれか一つに記載のPCR用の溶液キット。
[11]
[1]から[10]のいずれか一つに記載のPCR用の溶液キットを含む、体外診断薬キット。
[12]
クラス分類がクラスIIIに分類される[11]に記載の体外診断薬キット。
[13]
感染症診断用である[11]または[12]に記載の体外診断薬キット。
[14]
(A)DNAポリメラーゼ、(B)少なくとも1対のプライマー、(C)蛍光色素結合プローブ、および(D)PCR用緩衝液を含有し、
使用前に前記成分(A)と前記成分(B)とを混合する処理を経て調製されるPCR用の溶液キットであって、
前記成分(D)を収容する容器はアルミニウム層及び/又は酸化アルミニウム層を含有する包装体により包装されていることを特徴とする、PCR用の溶液キット。
[15]
(A)DNAポリメラーゼ、(B)少なくとも1対のプライマー、(C)蛍光色素結合プローブ、および(D)PCR用緩衝液を含有し、
使用前に前記成分(A)と前記成分(B)とを混合する処理を経て調製されるPCR用の溶液キットであって、
前記成分(D)を収容する容器はナイロン層、ポリ塩化ビニリデン層及びポリアクリロニトリル層からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有する包装体により包装されていることを特徴とする、PCR用の溶液キット。
[16]
(A)DNAポリメラーゼ、(B)少なくとも1対のプライマー、(D)PCR用緩衝液および成分(G)1種又は2種以上のプローブ非結合の蛍光色素を含有し、
使用前に前記成分(A)と前記成分(B)とを混合する処理を経て調製されるPCR用の溶液キットであって、
前記成分(D)を収容する容器はガスバリア性を有する包装体により包装されていることを特徴とする、PCR用の溶液キット。
[17]
(A)DNAポリメラーゼ、(B)少なくとも1対のプライマー、(C)蛍光色素結合プローブ、(D)PCR用緩衝液および成分(G)1種又は2種以上のプローブ非結合の蛍光色素を含有し、
前記成分(D)を収容する容器はガスバリア性を有する包装体により包装されていることを特徴とする、PCR用の溶液キット。
[18]
変性温度帯と伸長・アニーリング温度帯を形成できるヒーター、
微小流路中に存在する試料液の蛍光強度を測定可能な蛍光検出器、
前記2つの温度帯間の試料液の移動を可能にし、かつ、送液停止時には大気圧開放される送液用機構、
核酸増幅用チップを載置可能な基板、
試料液の移動に関する蛍光検出器からの電気信号が送られて送液用機構の駆動を制御する制御機構を備え、
サーマルサイクル毎の蛍光強度の計測を行うことでリアルタイムPCRを実施するレシプロカルフロー型の核酸増幅装置、
前記変性温度帯と前記伸長・アニーリング温度帯に各々対応する曲線流路、前記曲線流路をつなぐ直線状又は曲線状の中間流路、流路の一方又は両端部に前記核酸増幅装置における送液用機構に接続可能な接続部を備えた微小流路を少なくとも1つ有する核酸増幅用チップ、並びに
[1]から[10]及び[14]から[16]のいずれか一つのPCR用の溶液キットを用いることを特徴とする目的遺伝子又は目的核酸の検出方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、レシプロカルフロー型の核酸増幅装置を用いたPCRにおいて試料液の液分かれが生じるのを抑制でき、より安定な送液制御を可能とする微小流路系のPCR反応液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】レシプロカルフロー型の核酸増幅装置に使用する核酸増幅用チップの微小流路であって、DNA変性に適する温度に維持される流路、および伸長およびアニーリングに適する温度に維持される流路を有する微小流路の例を示す図である。
【
図2】レシプロカルフロー型の核酸増幅装置に使用する核酸増幅用チップの流路であって、逆転写反応に適する温度に維持される流路、DNA変性に適する温度に維持される流路、および伸長およびアニーリングに適する温度に維持される流路を有する流路の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態はPCR用の溶液キットに関する。本実施形態のPCR用の溶液キットは、(A)DNAポリメラーゼ、(B)少なくとも1対のプライマー、(C)蛍光色素結合プローブ、および(D)PCR用緩衝液を含有する。本実施形態のPCR用の溶液キットは、使用前に(A)DNAポリメラーゼ、と(B)少なくとも1対のプライマーとを混合する処理を経て調製される。混合処理前の(D)PCR用緩衝液を収容する容器はガスバリア性を有する包装体により包装されている。
【0015】
本実施形態のPCR用の溶液キットに含まれる(A)DNAポリメラーゼ、(B)少なくとも1対のプライマー、(C)蛍光色素結合プローブ、および(D)PCR用緩衝液は特に限定されず、当業者が適宜設定でき、例えばそれぞれ公知のものとすることができる。
【0016】
本明細書において、DNAポリメラーゼとは、耐熱性DNAポリメラーゼを意味する。
【0017】
本明細書において、プライマーの対とは、フォワードプライマーおよびリバースプライマーを組み合わせたものをいう。通常は一つの標的遺伝子領域に対応して1種のフォワードプライマーおよび1種のリバースプライマーを用いる。但し、フォワードプライマーとリバースプライマーについて対が成立していればよく、溶液中、フォワードプライマーとリバースプライマーについて種類の数が同数である必要はない。例えば、本実施形態の溶液中、1種のフォワードプライマーと2種のリバースプライマーとが含有されるようにしてもよい。
【0018】
本実施形態の溶液キットに含まれる蛍光色素結合プローブの蛍光色素の例としては、ABY、アクリジン、アレクサフルーア488、アレクサフルーア532、アレクサフルーア594、アレクサフルーア633、アレクサフルーア647、ATTO(ATTO-TEC蛍光色素)、バイオサーチブルー、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、クマリン、DANSYL、FAM(例えば、5-FAM、6-FAM)、FITC、GPF、5-HEX、6-HEX、JOE、JUN、マリーナブルー、NED、オレゴングリーン488、オレゴングリーン500、オレゴングリーン514、パシフィックブルー、PET、パルサー、クエザー570、クエザー670、クエザー705、ローダミングリーン、ローダミンレッド、5-ROX、6-ROX、5-TAMRA、6-TAMRA、5-TET、6-TET、テキサスレッド、TRITC、VICが挙げられる。
本実施形態の溶液キットに含まれる蛍光色素結合プローブは、蛍光色素とそのクエンチャーを結合したオリゴヌクレオチドであることが好ましい。該プローブとしては、例えば、TaqManプローブ、サイクリングプローブ等を挙げることができる。
また、リアルタイムマルチプレックスPCRに本実施形態の溶液キットが用いられることが好ましく、よって本実施形態の溶液キットにおいては蛍光色素が異なる2種又は3種以上の蛍光色素結合プローブが含有されることが好ましい。
【0019】
本実施形態のPCR用溶液キットは、(A)DNAポリメラーゼ、(B)少なくとも1対のプライマー、(C)蛍光色素結合プローブ、および(D)PCR用緩衝液に加えてその他PCRの反応に必要な成分を含むようにすることができる。
例えば、本実施形態のPCR用溶液キットは、4種類のデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)を含むことができる。また、マグネシウムイオン(Mg2+)の供給源となるMgCl2、MgSO4を含むことができる。また、カリウムイオン(K+)、アンモニウムイオン(NH4
+)などを含むようにしてもよい。
【0020】
また、本実施形態のPCR用溶液キットは、(E)非イオン界面活性剤をさらに含有してもよい。(E)非イオン界面活性剤の含有量は特に限定されないが、本実施形態の溶液に対して0.001~0.5w/w%の含有量で含有されることが、試料液の液分かれ防止の観点から好ましい。
【0021】
本実施形態のPCR用溶液キットはDNAを鋳型とする核酸増幅反応、およびRNAを鋳型とする核酸増幅反応のどちらにも使用することができる。RNAを鋳型とする核酸増幅反応に用いられる場合、本実施形態のPCR用溶液キットは(F)逆転写酵素をさらに含有するようにしてもよい。また、これに限定されず、本実施形態のPCR用溶液キットは(F)逆転写酵素を含有しない組成とすることもできる。
本明細書において、逆転写酵素とは、RNAの遺伝情報をDNAに逆転写する酵素をいい、適当なオリゴマーをプライマーとして、mRNA分子よりcDNAを合成するために用いられる。逆転写酵素についても特に限定されず、当業者が適宜選択できる。
【0022】
本実施形態のPCR用溶液は使用前に(A)DNAポリメラーゼと(B)少なくとも1対のプライマーとを混合する処理を経て調製される。また、この混合処理において(A)DNAポリメラーゼ、(B)少なくとも1対のプライマーに加えて他の成分が混合されるようにしてもよい。
例えば、PCR用溶液は使用前に(A)DNAポリメラーゼと、(B)少なくとも1対のプライマー、および(C)蛍光色素結合プローブとを混合する処理を経て調製してもよい。
また、PCR用溶液は使用前に(D)バッファーと(A)DNAポリメラーゼと、(B)少なくとも1対のプライマー、および(C)蛍光色素結合プローブとを混合する処理を経て調製してもよい。
なお、当該混合処理後の溶液は(A)DNAポリメラーゼ、(B)少なくとも1対のプライマー、(C)蛍光色素結合プローブおよび(D)バッファー全てについて接触できる状態であることを意味する。よって、当該混合処理前には(A)DNAポリメラーゼ、(B)少なくとも1対のプライマー、(C)蛍光色素結合プローブおよび(D)PCR用緩衝液はそれぞれ単独で容器に収容されていてもよく、2または3成分が同一の容器中に収容されていてもよい。
例えば、(A)DNAポリメラーゼと(B)少なくとも1対のプライマーとは混合処理前は異なる容器において収容されるようにすることができる。また、(A)DNAポリメラーゼ、(B)少なくとも1対のプライマーおよび(C)蛍光色素結合プローブについて、混合処理前はそれぞれ分離されている状態とすることができ、例えばそれぞれが異なる部屋又は容器に収容されるようにすることが非特異的増幅の防止、或いは保存安定性の点から好ましい。
一方、ユーザーの利便性の点からは、混合処理前は成分(B)少なくとも1対のプライマーと(C)蛍光色素結合プローブが同一の容器に収容されていることが好ましい。また、(A)DNAポリメラーゼ、(B)少なくとも1対のプライマー、(C)蛍光色素結合プローブ、(D)PCR用緩衝液を混合後、分注して再凍結し、使用する際に融解して使用してもよい。
また、本実施形態のPCR用溶液が(F)逆転写酵素を含有する場合、混合処理に供される前の(A)DNAポリメラーゼと(F)逆転写酵素が同一の容器に収容されていることが、ユーザーの利便性の点から好ましい。
なお、成分(A)~(D)、および必要に応じて本実施形態のPCR用溶液に含有される成分(E)、(F)を収容する容器については特に限定されず、当業者が適宜設定できる。
本実施形態のPCR用の溶液キットは、例えば、成分(A)~(D)を以下のように容器1~4に収容して提供することが可能である。キットの保存安定性やユーザーの利便性の点から、キット3やキット6のような形での提供が好ましいと考えられる。
【0023】
【0024】
本実施形態において、(D)PCR用緩衝液が収容されている容器はガスバリア性を有する。本明細書において、ガスバリア性とは、炭酸ガス等に対するバリア性(透過しにくいこと)を意味する。
包装体のガスの透過度は、低いほどガスが透過しないことからその値が好ましく、具体的にはJIS K 7126-1に準拠し、25℃、相対湿度65%、平均厚み25μmにて測定される酸素及び二酸化炭素に対するガス透過度(cm3/(m2・24h・atm))が1000cc/m2・24hrs・atm以下である包装体が好ましく、500cc/m2・24hrs・atm以下である包装体がより好ましい。さらに好ましくは、300cc/m2・24hrs・atm以下の包装体である。
【0025】
ここで、試料液の液分かれを抑制可能な包装体として、アルミニウム層及び酸化アルミニウム層からなる群から1種または2種選択される層を含むフィルム状の包装体を挙げることができる。アルミニウム層は、例えば、アルミニウム箔層やアルミニウム蒸着層とすることができる。
また、試料液の液分かれを抑制可能な包装体として、ナイロン層(例えば、ナイロン6,ナイロン66など)、ポリ塩化ビニリデン層、ポリアクリロニトリル層、エチレンビニルアルコール共重合体層、ポリビニルアルコール層、ポリエステル層(例えば、ポリエチレンテレフタレート、二軸延伸ポリエステルなど)及びセロハン層からなる群から1種または2種以上選択される層を含むフィルム状の包装体を挙げることができる。
なお、フィルム状の包装体は、1また2以上の層を有するフィルムであってもよいほか、1また2以上の層を有するフィルムで構成され、内部に対象が収容される収容部を有する態様であってもよい。
包装体として、具体的には、自立式チャック付きアルミ袋(アズワン社製)、ラミジップ スタンドタイプ アルミ(生産日本社製)、ハイブリバッグハード(コスモバイオ株式会社製S-1001)、ラミジップ(生産日本社製、5-5323-07)などを挙げることができる。
【0026】
調製された本実施形態のPCR用溶液は、試料(鋳型)となるDNAまたはRNAが添加されることにより、レシプロカルフロー型の核酸増幅装置を用いたPCRの試料液とすることができる。該PCRは、例えばリアルタイムマルチプレックスPCRとすることができる。
リアルタイムマルチプレックスPCRは、特に限定されないが例えば特許文献2に基づき行うことができる。
【0027】
本実施形態のPCR用の溶液キットにより調製した核酸増幅用組成物を用いたリアルタイムPCRは、例えば、以下の核酸増幅装置と核酸増幅用チップの組み合わせで実施することができる。
【0028】
[核酸増幅装置]
変性温度帯と伸長・アニーリング温度帯を形成できるヒーター、
微小流路中に存在する試料液の蛍光強度を測定可能な蛍光検出器、
前記2つの温度帯間の試料液の移動を可能にする送液用機構、
核酸増幅用チップを載置可能な基板、
試料液の移動に関する蛍光検出器からの電気信号が送られて送液用機構の駆動を制御する制御機構を備え、
サーマルサイクル毎の蛍光強度の計測を行うことでリアルタイムPCRを実施するレシプロカルフロー型の核酸増幅装置。
【0029】
[核酸増幅用チップ]
前記変性温度帯と前記伸長・アニーリング温度帯に各々対応する曲線流路、前記曲線流路をつなぐ直線状又は曲線状の中間流路、流路の一方又は両端部に前記核酸増幅装置における送液用機構に接続可能な接続部を備えた微小流路を少なくとも1つ有する核酸増幅用チップ。
【0030】
上記核酸増幅装置によるリアルタイムPCRは、例えば、以下の工程1~4により行うことができる:
工程1:上記核酸増幅装置の基板に上記核酸増幅用チップを載置する工程、
工程2:微小流路の一方又は両端部の送液用機構接続部と送液用機構を接続する工程、
工程3:前記送液用機構により試料液を微小流路の2つの曲線流路間で往復させてサーマルサイクリングを行う工程
工程4:前記流路の所定の位置で前記蛍光検出器によりサーマルサイクル毎の試料液の蛍光強度の計測を行う工程。
【0031】
核酸増幅用チップの材料としては、ガラス、石英、シリコン、シクロオレフィンポリマー(COP)などの熱硬化性や光硬化性の各種樹脂が例示される。また、蛍光検出を実施するとの観点から、光(特に、蛍光検出を行うための励起光及び放射光)の透過性が高い(すなわち、吸収、拡散、反射等が少ない)、透明な材料であることが好ましい。
【0032】
微小流路は、例えば、NC加工による切削などの機械加工、射出成形、ナノインプリンティング、ソフトリソグラフィーなどの方法により溝が素材に形成され、シール(好ましくは、例えばポリオレフィン製などの透明シール)により密閉された構造とすることができる。あるいは、三次元プリンティングにより微小流路を形成することもできる。微小流路の断面の形状は、特に限定されず、半円形状、円形状、直方形状、くさび形、台形、多角形などとすることができる。また、微小流路の断面は、例えば、幅10~1000μm程度、深さ10~1000μm程度とすることができる。また、微小流路の幅及び深さのそれぞれは、一定、または、部分的に幅若しくは深さが変化するものとすることができる。
【0033】
微小流路が備える変性温度帯に対応する曲線流路及び伸長・アニーリング温度帯に対応する曲線流路の形状は、ループ形状を有する蛇行流路、渦巻き状などの曲線流路の形状とすることができる。変性温度帯に対応する曲線流路と伸長・アニーリング温度帯に対応する曲線流路とをつなぐ中間流路は、直線状又は曲線状のいずれの形状とすることができる。
【0034】
変性温度帯は、PCRにおけるDNA変性反応に必要な温度に維持されている。変性温度帯の温度は90~100℃程度が好ましく、95℃程度がより好ましい。伸長・アニーリング温度帯は、PCRにおけるDNAのアニーリング反応及び伸長反応のために必要な温度に維持されている。伸長・アニーリング温度帯の温度は40~75℃程度が好ましく、55~65℃程度がより好ましい。
【0035】
変性温度帯及び伸長・アニーリング温度帯のそれぞれは、一定の温度に維持されていることが好ましい。温度の維持は、熱源により実現することができる。熱源は、例えば、微小流路に内蔵されている又は微小流路が接触している。熱源の具体例としては、カートリッジヒーター、フィルムヒーター、ペルチェヒーター等が例示される。
【0036】
本実施形態の核酸増幅方法において、試料液はプラグ状の形態で微小流路中を移動する。微小流路中を移動する試料液の容量は、特に限定されず、好ましくは5~50μL程度、より好ましくは15~20μL程度とすることができる。
【0037】
本実施形態の核酸増幅方法における試料液の移動は、送液停止時には大気圧開放される送液用機構を使用することが好ましい。送液停止時には大気圧開放される送液用機構の例としては、マイクロブロア、ファンを挙げることができる。
【0038】
マイクロブロア(圧電マイクロブロアともいう)とは、空気を吸引及び吐出する公知の装置であり、密閉構造でない(逆止弁を有しない)ことを特徴とする。代表的なマイクロブロアにおいて、圧電素子への電圧印加によりダイヤフラムを屈曲変形させることで、空気の吸引及び吐出を実現する。マイクロブロアとしては、例えば、株式会社村田製作所が製造したものを使用することができる(MZB1001T02,MZB3004T04)。
【0039】
ファンとは、羽根車の回転運動によって送風を行う装置をいう。羽根車の構造上の特性上、流路を閉鎖系としない。
【0040】
上記サイクルを少なくとも1回以上、好ましくは30~60回程度、より好ましくは35~50回程度繰り返して行い、サーマルサイクリングを行う。サイクル数は、鋳型核酸の濃度、標的遺伝子の種類などに応じて適宜設定することができる。
【0041】
試料液を変性温度帯内に保持させる時間及び試料液を伸長・アニーリング温度帯内に保持させる時間のそれぞれは、標的遺伝子領域(遺伝子の種類、領域の長さ等)に応じて適宜設定することができる。例えば、試料液を変性温度帯内に保持させる時間としては、2~10秒程度、試料液を伸長・アニーリング温度帯内に保持させる時間としては、2~60秒程度とすることができる。
【0042】
送液用機構は、例えば接続部を介して、微小流路と接続している。
【0043】
本実施形態のPCR用の溶液キットにより調製した核酸増幅用組成物は、核酸増幅用チップに設けられた試料注入口より微小流路内に注入することができる。
【0044】
図1はレシプロカルフロー型の核酸増幅装置において鋳型をDNAとする場合の流路の概要を示す図である。また、
図2はレシプロカルフロー型の核酸増幅装置において鋳型をRNAとする場合の流路の概要を示す図である。
【0045】
図1中、highとして示した流路はPCRにおけるDNA変性反応に必要な温度帯(例えば90~100℃)に維持されている流路である。また、lowとして示した流路はPCRにおけるDNAの伸長およびアニーリング反応に必要な温度帯(例えば40~75℃)に維持されている流路である。highとして示した流路とlowとして示した流路とは中間流路aを介して連通している。レシプロカルフロー型の核酸増幅装置においては、流路内に投入された試料液をhighとして示した流路とlowとして示した流路とを行き来させることにより、PCRのサーマルサイクリングを行い、DNAを増幅する。なお、PCRのプロトコールについても特に限定されず、例えば公知のものを用いることができる。
【0046】
また、
図1と同様に、
図2中、highとして示した流路はPCRにおけるDNA変性反応に必要な温度帯に維持されている流路であり、lowとして示した流路はPCRにおけるDNAの伸長およびアニーリング反応に必要な温度帯に維持されている流路である。また、Rとして示した流路は逆転写酵素による逆転写反応が行われる流路であって、逆転写反応に必要な温度帯(例えば37~45℃)に維持されている流路である。highとして示した流路とlowとして示した流路とは中間流路aを介して連通しており、lowとして示した流路とRとして示した流路とは流路bを介して連通している。
鋳型をRNAとする場合は、試料液はまずRとして示した流路に投入され、逆転写酵素による逆転写反応が行われ、RNAに相補的なDNA(cDNA)が生成される。その後、試料液はhighとして示した流路およびlowとして示した流路に送られ、highとして示した流路およびlowとして示した流路の間で試料液を行き来させることによりPCRのサーマルサイクリングを行い、DNAを増幅する。
【0047】
本実施形態のPCR用の溶液キットで調製した核酸増幅用組成物は、目的核酸の検出に使用することができる。そのため、本実施形態のPCR用の溶液キットを含む体外診断薬キットを構成することができ、例えばクラスIIIに分類される体外診断薬キットとすることができる。
ここで、体外診断薬キットとは専ら疾病の診断に使用されることが目的とされている医薬品のうち、人又は動物の身体に直接使用されることのないものをいう。また、クラスIIIとは、厚生労働省による体外診断用医薬品のクラス分類の一つであり、体外診断用医薬品のうち診断情報リスクが比較的大きく、情報の正確さが生命維持に与える影響が大きいと考えられるものをいう。具体的には、例えば、本実施形態のPCR用の溶液キットを含む体外診断薬キットは、感染症診断用の体外診断薬キットとすることができる。
【実施例0048】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0049】
[実施例1及び比較例1のPCR用溶液の調製]
RNase Free dH2O、2xOneStep RT-PCR BufferIII、ROX reference dye(いずれもタカラバイオ製RR064A付属品)を1反応あたり1.52μL:10μL:0.08μLの比率で混合した。得られたPCR用緩衝液を278.4μLずつチューブ(日本ジェネティクス製KY-SCT05-BRS)3本に分注した。
これらを紙製チューブラック(フリーエス製)に立て、ユニパックJ-4(生産日本社製)、またはハイブリバッグハード(コスモバイオ株式会社製S-1001)で包装した後、ドライアイスで満たした発泡スチロール内で凍結させた。ユニパックJ-4(生産日本社製)はポリエチレンからできている包装体であり、ハイブリバッグハード(コスモバイオ株式会社製S-1001)は、ポリプロピレン層(内側)とナイロン層(外側)からできている包装体である。約60時間後にPCR用緩衝液を室温で融解した。
融解させたPCR用緩衝液11.6μL、Enzyme mix(杏林製薬製「N2杏林」付属品:DNAポリメラーゼ+逆転写酵素)1.4μL、Primer/Probe mix(杏林製薬製「N2杏林」付属品) 2μL、RNase Free dH2O(タカラバイオ,RR064A付属品)5μLを混合し、PCR用の溶液とした。ハイブリバッグハード(コスモバイオ株式会社製S-1001)で包装したPCR用緩衝液を使用したPCR用溶液(核酸増幅用組成物)を実施例1として、ユニパックJ-4(生産日本社製)で包装したPCR用緩衝液を使用したPCR用溶液(核酸増幅用組成物)を比較例1として試験例1のPCR反応に供した。
【0050】
[比較例2のPCR用溶液の調製]
RNase Free dH2O、2xOneStep RT-PCR BufferIII、ROX reference dye(いずれもタカラバイオ製RR064A付属品)を1反応あたり1.52μL:10μL:0.08μLの比率で混合した。得られたPCR用緩衝液を278.4μLずつチューブ(日本ジェネティクス製KY-SCT05-BRS)3本に分注した。
これらを紙製チューブラック(フリーエス製)に立て、ドライアイスで満たした発泡スチロール内で凍結させた。翌日、PCR用緩衝液を室温で融解してPCR反応に用いた。
融解させたPCR用緩衝液11.6μL、Enzyme mix(杏林製薬製「N2杏林」付属品:DNAポリメラーゼ+逆転写酵素)1.4μL、Primer/Probe mix(杏林製薬製「N2杏林」付属品)2μL、RNase Free dH2O(タカラバイオ,RR064A付属品) 5μLを混合し、比較例2のPCR用溶液(核酸増幅用組成物)とした。得られた比較例2のPCR用溶液を試験例1のPCR反応に供した。
【0051】
[試験例1]
実施例のPCR用溶液または比較例のPCR用溶液をGeneSoC専用測定チップ(杏林製薬製、
図2に示す微小流路を有する)にアプライし、GeneSoC model 4(杏林製薬製)を用いて逆転写反応温度:42℃、変性温度:96℃、伸長およびアニーリング温度:58℃として測定を行った。
測定は、実施例及び比較例のいずれも調製した3本に対して実施した。液分かれの有無は、目視及び液分かれの影響が顕著なGreen波長の波形異常の有無により判定した。
【0052】
試験の結果、ガスを透過する包装体で包装した比較例1及び包装体で放送していない比較例2については、3本すべてについてGreen波長の波形異常が観察され、また、測定終了後のGeneSoC専用測定チップの流路内には液分かれが生じていることが目視で確認した。一方、ガスバリア性を有する包装体で包装した実施例1については、3本すべてについてGreen波長の波形異常は観察されず、また、測定終了後のGeneSoC専用測定チップの流路内には液分かれも生じていなかった。
また、液分かれが二酸化炭素の溶け込みによるものか確認する目的で、ドライアイス曝露した実施例および比較例1及び比較例2のPCR用緩衝混合液の一部についてpH試験紙(ADVANTEC製)でpHを確認した。その結果、比較例に係るPCR用緩衝液混合液においてはpHが約7.0に低下しており、二酸化炭素の溶け込みが生じているものと考えられた。
なお、他の3種類のチューブ(Thermo製3465、SARSTEDT製72.730.406、SSIbio製2141-S0)を用いて、同様に試験を行った結果についても、ガスバリア性を有する包装体で包装したPCR用溶液では、流路内での液分かれは見られなかった。
【0053】
[実施例2]
[PCR用緩衝液の調製]
RNase Free dH2O、2xOneStep RT-PCR BufferIII、ROX reference dye(いずれもタカラバイオ製RR064A付属品)を1反応あたり1.52μL:10μL:0.08μLの比率で混合する。得られたPCR用緩衝液を1.5mLチューブに分注してPCR用緩衝液とする。
[プライマープローブミックスの調製]
3対のDNAプライマーと3種の蛍光色素結合プローブ(6-FAM及びクエンチャー、Cy5及びクエンチャー、5-HEX及びクエンチャー)をプライマー終濃度各0.75μM、プローブ終濃度各0.3μMとなるように混合し、1.5mLチューブに分注してプライマープローブミックスとする。
[PCR溶液の調製]
PCR用緩衝液、プライマープローブミックス、Enzyme mix(杏林製薬製「N2杏林」付属品:DNAポリメラーゼ+逆転写酵素)をガスバリア性を有する包装体ラミジップ(生産日本社製、5-5323-07)により包装し、ドライアイスを充填した発泡スチロール製容器に梱包して、宅配便で輸送する。
輸送されたPCR溶液キットを融解し、PCR用緩衝液 11.6μL、Enzyme mix1.4μL、プライマープローブミックス 2μL、DNAテンプレート溶液5μLを混合し、PCR用溶液とする。
PCR用溶液をGeneSoC専用測定チップ(杏林製薬製)にアプライし、GeneSoC model 4(杏林製薬製)を用いて逆転写反応温度:42℃、変性温度:94℃、伸長およびアニーリング温度:66℃として測定を行う。
なお、包装体ラミジップ(生産日本社製、5-5323-07)は、PET・SPE・AL・SPE・PEの5層フィルムである。
PET:ポリエステルフィルム
AL:アルミ
PE:ポリエチレンフィルム
SPE:ポリエチレン(ポリサンドラミネート)
【0054】
[実施例3]
[PCR用緩衝液の調製]
RNase Free dH2O、10xEx-Taq Buffer、dNTP Mixture、ROX reference dye(いずれもタカラバイオ製RR064A付属品)、30μMのCy5色素液、Tween20をそれぞれ1反応あたり11.02μL:2μL:0.8μL:0.08μL:0.08μL:0.02μLの比率で混合する。得られたPCR用緩衝液を1.5mLチューブに分注してPCR用緩衝液とする。
[プライマープローブミックスの調製]
1対のDNAプライマーと蛍光色素結合プローブ(6-FAM及びクエンチャー)をプライマー終濃度各1μM、プローブ終濃度各0.3μMとなるように混合し、1.5mLチューブに分注してプライマープローブミックスとする。
[PCR溶液の調製]
PCR用緩衝液、プライマープローブミックス、Ex-Taq(タカラバイオ製RR006A:DNAポリメラーゼ)をガスバリア性を有する包装体ラミジップ(生産日本社製、5-5323-07)により包装し、ドライアイスを充填した発泡スチロール製容器に梱包して、宅配便で輸送する。
輸送されたPCR溶液キットを融解し、PCR用緩衝液 12μL、Ex-Taq1μL、プライマープローブミックス 2μL、DNAテンプレート溶液5μLを混合し、PCR用溶液とする。
PCR用溶液をGeneSoC専用測定チップ(杏林製薬製)にアプライし、GeneSoC model 4(杏林製薬製)を用いて逆転写反応温度:42℃、変性温度:95℃、伸長およびアニーリング温度:62℃として測定を行う。
なお、包装体ラミジップ(生産日本社製、5-5323-07)は、PET・SPE・AL・SPE・PEの5層フィルムである。
PET:ポリエステルフィルム
AL:アルミ
PE:ポリエチレンフィルム
SPE:ポリエチレン(ポリサンドラミネート)