(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147853
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】中子部材および中子部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22C 9/10 20060101AFI20231005BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20231005BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20231005BHJP
【FI】
B22C9/10 C
B22C9/10 G
B33Y10/00
B33Y80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055588
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】千石 理紗
(72)【発明者】
【氏名】石田 弘徳
【テーマコード(参考)】
4E093
【Fターム(参考)】
4E093QA01
4E093QB01
4E093QC02
(57)【要約】
【課題】崩壊性がよく、生成される鋳物におけるガス欠陥を抑制可能な中子部材および中子部材の製造方法を提供する。
【解決手段】中空構造を有する鋳造用の中子部材30であって、鋳型1の造形に用いられる造形砂と、前記造形砂の粒子同士を結合して硬化されたバインダと、で形成され、前記中空構造を形成する壁部32の中空側と、鋳物形成側とを連通させるガス抜き用の孔35を有する。また、前記ガス抜き用の孔35は、鋳造時に前記中空側が上、前記鋳物形成側が下になるように形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空構造を有する鋳造用の中子部材であって、
鋳型の造形に用いられる造形砂と、
前記造形砂の粒子同士を結合して硬化されたバインダと、で形成され、
前記中空構造を形成する壁部の中空側と、鋳物形成側とを連通させるガス抜き用の孔を有することを特徴とする中子部材。
【請求項2】
前記ガス抜き用の孔は、鋳造時に前記中空側が上、前記鋳物形成側が下になるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の中子部材。
【請求項3】
前記ガス抜き用の孔は、前記中空側から前記鋳物形成側に向けて断面積が小さくなるように形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の中子部材。
【請求項4】
前記ガス抜き用の孔のうち、鋳物の厚さが小さい領域よりも、鋳物の厚さが大きい領域に接するものの方が、単位面積当たりの孔数が多いことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の中子部材。
【請求項5】
前記ガス抜き用の孔のうち、前記鋳型に溶湯を注入可能な開口部である堰から近い領域よりも、前記堰から遠い領域に接するものの方が、単位面積当たりの孔数が多いことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の中子部材。
【請求項6】
前記ガス抜き用の孔の前記鋳物形成側の直径はφ2mm以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の中子部材。
【請求項7】
前記壁部の肉厚は3mm以上12mm以下とすることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の中子部材。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の中子部材の製造方法であって、
一定厚さに前記造形砂を敷き均す工程と、
造形体となる所定部分に前記バインダを噴射し硬化させる工程と、を含む一連の工程を繰り返すことで付加製造装置を用いて前記造形体を形成することを特徴とする中子部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中子部材および中子部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中子部材は、中空の鋳物を製造するために用いられる鋳型の一種であり、砂と砂の粒子同士を結合して硬化されたバインダから形成される砂型中子が一般的である。中子部材を用いた鋳造方法としては、主型に中子部材を設置した後に溶湯の投入口に注湯し、溶湯を冷却して型ばらしすることで生成された鋳物が得られる。
【0003】
中子部材は複雑な形状の鋳物の製造を可能にする一方、外部から型ばらししにくい位置に配置されることが多い。そのため、中子部材は崩壊性に優れていることが求められる。例えば、特許文献1に記載の発明では、中子部材の表層に鋳造する金属よりも高い融点塩を浸透させることで、耐圧性と崩壊性を両立させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、中子部材の使用によってガスが上手く排出されず、ガス欠陥が発生するおそれが高まる。具体的には、溶湯に溶け込んだ窒素や水素ガスの放出、砂型鋳型に含まれる水分、粘結剤の熱分解、あるいは、鋳型に溶湯を流し込んだ際に鋳型内の空気が上手く排出されないことにより生じる気泡により、鋳物にガス欠陥が生じるおそれがある。特に、中実な中子部材では、このようなガス欠陥が生じやすい傾向にある。そのため、崩壊性のよさだけでなく、ガス欠陥を抑制可能な中子部材が求められている。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、崩壊性がよく、生成される鋳物におけるガス欠陥を抑制可能な中子部材および中子部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の中子部材は、中空構造を有する鋳造用の中子部材であって、鋳型の造形に用いられる造形砂と、前記造形砂の粒子同士を結合して硬化されたバインダと、で形成され、前記中空構造を形成する壁部の中空側と、鋳物形成側とを連通させるガス抜き用の孔を有することを特徴とする。
【0008】
このように、中空構造を有するから崩壊性に優れ、中空側と鋳物形成側とを連通させるガス抜き用の孔を有するから、生成される鋳物におけるガス欠陥を抑制することが可能である。
【0009】
(2)本発明の中子部材において、前記ガス抜き用の孔は、鋳造時に前記中空側が上、前記鋳物形成側が下になるように形成されていることを特徴とする。これにより、溶湯が漏れることを抑制し、ガスのみが抜けやすくなる。
【0010】
(3)本発明の中子部材において、前記ガス抜き用の孔は、前記中空側から前記鋳物形成側に向けて断面積が小さくなるように形成されていることを特徴とする。これにより、溶湯が漏れることをより抑制し、ガスのみが抜けやすくなる。
【0011】
(4)本発明の中子部材において、前記ガス抜き用の孔のうち、鋳物の厚さが小さい領域よりも、鋳物の厚さが大きい領域に接するものの方が、単位面積当たりの孔数が多いことを特徴とする。ガス欠陥の要因となるガスは、形成される鋳物の体積が大きいほど多くのガスが発生する。そのため、形成される鋳物の厚さが大きい領域にガス抜き用の孔を多く形成することによって、生成される鋳物におけるガス欠陥をさらに抑制することができる。
【0012】
(5)本発明の中子部材において、前記ガス抜き用の孔のうち、前記鋳型に溶湯を注入可能な開口部である堰から近い領域よりも、前記堰から遠い領域に接するものの方が、単位面積当たりの孔数が多いことを特徴とする。これにより、堰から排出されにくい位置で発生するガスを、ガス抜き用の孔を通じて中空側から排出させることにより、生成される鋳物におけるガス欠陥をさらに抑制することができる。
【0013】
(6)本発明の中子部材において、前記ガス抜き用の孔の前記鋳物形成側の直径はφ2mm以下であることを特徴とする。これにより、溶湯が漏れることを抑制し、ガスのみが抜けやすくなる。
【0014】
(7)本発明の中子部材において、前記壁部の肉厚は3mm以上12mm以下とすることを特徴とする。これにより、崩壊性に優れた中子部材とすることが可能となる。
【0015】
(8)本発明の中子部材の製造方法は、上記(1)から(7)のいずれかに記載の中子部材の製造方法であって、一定厚さに前記造形砂を敷き均す工程と、造形体となる所定部分に前記バインダを噴射し硬化させる工程と、を含む一連の工程を繰り返すことで付加製造装置を用いて前記造形体を形成することを特徴とする。
【0016】
これにより、中空構造を有し、中空側と鋳物形成側とを連通させるガス抜き用の孔を有する中子部材であっても、容易に製造できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、中子部材の崩壊性がよく、生成される鋳物におけるガス欠陥を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第一実施形態に係る中子部材と鋳物の概略構成を示す部分断面図である。
【
図2】第一実施形態に係る中子部材が主型に設置された状態を示す斜視図である。
【
図3】第一実施形態に係る中子部材が主型に設置された状態を示す部分断面図である。
【
図4】第一実施形態に係るガス抜き用の孔が設けられた中子部材の壁部の一部を拡大した拡大断面図である。
【
図5】第一実施形態に係る鋳物を示す斜視図である。
【
図6】第二実施形態に係る中子部材が主型に設置された状態を示す部分断面図である。
【
図7】第二実施形態に係る中子部材が主型に設置された状態を示す斜視図である。
【
図8】第二実施形態に係るガス抜き用の孔が設けられた中子部材の壁部の一部を拡大した拡大断面図である。
【
図9】第三実施形態に係る中子部材が主型に設置された状態を示す部分断面図である。
【
図10】第三実施形態に係るガス抜き用の孔が設けられた中子部材の壁部の一部を拡大した拡大断面図である。
【
図11】比較例の中子部材が主型に設置された状態を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第一実施形態]
以下、本発明の第一実施形態について図面を参照にしつつ詳細に説明する。なお、各実施形態では基本の実施形態との相違点を中心に説明し、同様の構成についてはその説明を省略する。
【0020】
[中子部材]
図1は、本発明の第一実施形態に係る中子部材30と、鋳物100を示す部分断面図である。中子部材30は、造形砂およびバインダで形成される。造形砂は、3Dプリンタ(付加製造装置)により鋳型の造形に用いられる砂である。バインダは、造形砂の粒子同士を結合して硬化している。なお、造形砂をレーザーで焼結する場合には、バインダがなくてもよい。
【0021】
中子部材30は、中空構造を形成する壁部32に囲まれた中空部31と、壁部32に形成されたガス抜き用の孔35とを有する。ガス抜き用の孔35の詳細については、後述する。中空構造は、壁部32と中空部31とで作られる構造を指し、中空部31は、壁部32に囲われた空間自体(壁部は含まない)を指す。
図1に示すように、壁部32は後述する鋳物形成部12(
図1では鋳物100)と接する部分に形成されていればよく、中空部31全体を囲う必要はない。
【0022】
中子部材30の壁部32は薄い方が好ましい。鋳造時に発生するガスは、注湯する金属の種類や鋳型の種類によって、溶湯および中子のいずれにおいても発生する可能性がある。積層型の3Dプリンタによる鋳型や中子部材は、一定厚さに敷いた砂に必要な部分のみを硬化させ、それを順次積層することによって得られる。積層型3Dプリンタはどんな鋳物砂でも敷けるわけではなく、敷いた厚さは一定でなければならず、その表面は平坦でなければならない。そのため、積層型3Dプリンタ用の材料は専用に調整されたものとなり、このような材料で得られる鋳型は、同じ平均粒径の一般的な鋳型と比較し、かさ比重が高くなりがちで通気性に劣る。また、多くの積層型の3Dプリンタは、一層の厚さを300μm以下とするため、後述するように造形砂の平均粒径は150μm以下が一般的である。砂の粒径が小さいほど砂の間隙が小さくなり、通気性が低下する。また、中子に用いられる材料で積層型3DプリンタでJISZ2601に基づく試験体を作製し、試験体の通気度を測定すると50未満である。このように積層型3Dプリンタで作製された中子は通気性が低い。
【0023】
上記の観点から、中子部材30の壁部32の厚さは12mm以下が好ましい。壁部32の厚さが12mm以下であることで十分な通気性を確保できる。中空構造を形成する壁部32の厚さは、5mm以上であることが好ましい。壁部32の厚さが5mm以上であることで鋳型として破損リスクを低く抑え十分な強度を維持できる。壁部32の厚さは2mm以上であることがさらに好ましい。厚さ2mmを下回ると、中子部材30を取り扱う際に破損のリスクが高くなるため、実用上の下限は2mmである。
【0024】
また、中子部材30は、鋳物100の外形を形成する主型20に設置されることにより、主型20とともに鋳物100を鋳造可能な鋳型1を形成する。
図2、3は、中子部材が主型に設置された状態を示す図である。
図2、3に示す中子部材30は、上型24と下型25からなる主型20の間に中子部材30が設置されることで鋳型1が形成される。鋳型1は、溶湯の堰11および鋳物形成部12を有する。
【0025】
堰11は、溶湯を注入可能な鋳型1の開口部のうち湯道からの溶湯が鋳物形成部12に流れ込む流路として用いられるものである。なお、湯口は、鋳造で、溶融した金属を鋳型へ注ぐための口であり、湯道は、鋳造で溶融した金属を湯口から鋳型に導く孔である。
【0026】
堰11は、溶湯を注入しやすい位置に形成されればよく、鋳造時に上端となる位置に形成されるように設計されることが好ましい。
図2、3に示す鋳型1では、上型24に堰11が設けられている。
図2、3に示す鋳型1では、堰11が2つ設けられているが、溶湯が注入されるのはどちらの堰11であってもよい。堰11のサイズは、特に限定されず作製される鋳型1の形状に応じて適宜設定される。鋳物形成部12は、造形砂およびバインダで形成された主型の壁部22と中子部材の壁部32により実現される中空構造であり、堰11から注湯されることで鋳物形成部12に鋳物100が形成される。
【0027】
次に、中子部材30が有するガス抜き用の孔35について詳述する。
図4はガス抜き用の孔35が設けられた壁部32周辺を示す拡大模式図である。
図4では、ガス抜き用の孔を見やすくするために壁部32断面のハッチングを省略している。ガス抜き用の孔35は、中空側と鋳物形成側とを連通させるように形成される。すなわち、ガス抜き用の孔35は、鋳造時に中空部31と鋳物形成部12とを連通させる。これにより、鋳造時に発生するガスを、ガス抜き用の孔を通じて中空部から排出することにより、鋳物形成部にて形成される鋳物にガス欠陥が生じることを抑制できる。特に、積層型の3Dプリンタにより形成された中子部材30は、複雑形状の鋳物に適しているものの通気性の確保が課題になるため、ガス抜き用の孔35を設けることが効果的である。
【0028】
また、ガス抜き用の孔35は、鋳造時に中空側が上、鋳物形成側が下になるように形成されることが好ましい。これにより、鋳造時に発生するガスが、鋳物形成側から中空側に向けて排出されやすくなる。
図4では、載置面と平行である壁部32に対してガス抜き用の孔35が形成される。壁部32に形成されたガス抜き用の孔35は、中心線Lが載置面に対して垂直である。載置面とは、鋳造時に鋳型1の下面が接する面を指す。例えば、
図3に示す鋳型1では、鋳造時に主型20における下型25の外側の面が鋳型1の下面であり、図に示していない載置台の載置面と接するように載置される。この時、中子部材30は、ガス抜き用の穴について、中空側の開口部が鉛直方向上側に、鋳物が形成される側の開口部が鉛直方向下側に位置するように配置されることになる。このような中子部材30によれば、壁部32の鋳物側の面(表面)および中空部側の面(裏面)は載置面と平行であるため、載置面に対して垂直な中心線Lを有するガス抜き用の孔35を形成することが容易であり、このようなガス抜き用の孔35によりさらにガスが抜けやすくなる。
【0029】
また、ガス抜き用の孔35は、中空側から鋳物形成側に向けて断面積が小さくなるように形成されることが好ましい。これにより、ガス抜き用の孔35から溶湯が漏れにくくなり、ガスのみが抜けやすくなる。ガス抜き用の孔35は、中空側から鋳物形成側に向けて断面積が小さくなればよく、例えば段差を有していてもよい。鋳物形成側に向けて単調減少することが好ましい。特に、ガス抜き用の孔35は錐台状が好ましい。ガス抜き用の孔35の断面形状は多角形状であってもよいが、特に円形が好ましい。以上のことから、ガス抜き用の孔は円錐台状であることが特に好ましい。
【0030】
また、ガス抜き用の孔の鋳物形成側の直径はφ2mm以下であることが好ましい。これにより、ガス抜き用の孔35から溶湯がより漏れにくくなり、ガスのみが抜けやすくなる。
【0031】
また、ガス抜き用の孔35のうち、鋳物100の厚さが小さい領域よりも、鋳物100の厚さが大きい領域に接するものの方が、単位面積当たりの孔数が多いことが好ましい。鋳造時に発生するガスの量は、鋳物100の体積に依存する。そのため、鋳物の厚さが大きい領域にガス抜き用の孔を多く設けることによって、生成される鋳物におけるガス欠陥を抑制できる。
【0032】
ガス抜き用の孔35のうち、堰11から近い領域よりも、堰11から遠い領域に接するものの方が、単位面積当たりの孔数が多いことが好ましい。鋳物形成部12内で発生するガスは、通常、堰11から排出される。しかしながら、堰11から遠い領域で発生したガスは、堰11まで到達できずに鋳物形成部12内に残留してしまい、ガス欠陥を引き起こすおそれがある。そのため、堰から遠い領域にガス抜き用の孔を多く設けることによって、生成される鋳物におけるガス欠陥を抑制できる。
【0033】
例えば、
図3に示す鋳型1において、鋳造時に、堰11aから注湯し、堰11bを封鎖する場合、堰11bは開口部が塞がれており、堰として機能しない。この場合、壁部32aにおいて、中心軸C1に対する鋳型1の径方向内側と径方向外側とでは、径方向内側の方が堰11aから遠い。そのため、鋳型1の中空部側の面(裏面)において、径方向内側の領域よりも、径方向外側の領域の方が、単位面積当たりの孔数が多いことが好ましい。また、異なる中空部を形成する壁部32a、32bの中空部側の面(裏面)において、堰11aに近い壁部32aの単位面積当たりの孔数を、壁部32bの単位面積当たりの孔数よりも多くしてもよい。
【0034】
また、上述した通り、積層型3Dプリンタで作製された中子部材は通気性が低い。これに対して、本発明の中子部材30は、鋳造時に発生したガスを抜けやすくするために、ガス抜き用の孔35が設けられている。また、ガス抜き用の孔35は、鋳物の厚さが小さい領域よりも、鋳物の厚さが大きい領域に接するものの方が、単位面積当たりの孔数が多く、堰11から近い領域よりも、堰から遠い領域に接するものの方が、単位面積当たりの孔数が多い。また、ガス抜き用の孔35の鋳物形成側の直径はφ2mm以下である。このような孔の構成は、積層型3Dプリンタで作製された、通気性が低い中子部材において、特に有効である。
【0035】
[中子部材の製造方法]
(工程全体)
上記のように構成される中子部材30の製造方法を説明する。中子部材30は、積層型3Dプリンタ(付加製造装置)を用いて製造される。3Dプリンタとして市販のバインダージェットタイプのものを使用できる。
【0036】
3Dプリンタに入力する中子部材30のデータは、鋳物の空洞部の形状のままとするのではなく、外形を保ちながら中空構造とする。また、ガス抜き用の孔35を形成することで、鋳造時に鋳物形成部12からガスが抜けやすい構造に設計されている。この孔35から、鋳造中に発生するガスを逃がすことができる。なお、中空構造は、壁部と中空部とで作られる構造を指し、中空部は、壁部に囲われた空間自体(壁部は含まない)を指す。
【0037】
このように3Dプリンタにより、一定厚さに砂を敷き均し、造形体となる所定部分にバインダを噴射し硬化させる一連の工程を繰り返すことで造形体を形成する。これにより、複雑な形状の中子であっても多分割することなく寸法精度を高く維持できる。なお、造形材料の詳細については後述する。
【0038】
造形が終わると、形成された積層体内では硬化した造形体(例えば中子部材30)が未硬化の砂に埋没した状態となっている。積層体から未硬化の砂を取り除くことで、造形体が取り出される。造形体が中空の場合、周囲の未硬化の砂を取り除いても中空部には未硬化の砂が存在する。そのため、中子部材30は一部開口した中空構造が好ましい。
【0039】
(造形材料)
造形砂には、積層型3Dプリンタ用の専用砂が用いられる。専用砂として市販されているものを適宜選択して使用できる。市販の専用砂には、例えば3Dプリンタの純正材料やTCaST(登録商標、太平洋セメント社製)が挙げられる。専用砂は、例えば、鋳造する金属の溶湯温度に応じて、耐熱性を勘案して選択することができる。さらには、市販の専用砂を改良して造形砂として用いてもよい。造形砂の平均粒径は、60μm以上150μm以下が好ましく、100μm程度がさらに好ましい。
【0040】
バインダは、縮合や重合により硬化するフェノール樹脂やフラン樹脂などの有機物であってもよいが、有機物の種類によっては高温での使用が制限されることもある。そのため、高温での使用をする場合や、鋳込み時に有機物が気化することによる臭気等の環境への影響、発生したガスを起因とする鋳物の欠陥を防止しようとする場合には、バインダは、カルシウムアルミネート、セメント、石膏、石灰などの無機質水硬性物質を主成分とすることが好ましい。例えば、バインダとしてカルシウムアルミネート化合物を使用する場合、セメントや石膏を使用した際に発生するS系ガスの要因となる成分を含まないため、ガスの発生を抑えられる。さらにガス抜き穴を設けることにより、ピンホールやブローホールなどといったガス欠陥の発生をより効果的に抑制することができる。
【0041】
[鋳造方法]
(工程全体)
上記の中子部材30を用いた鋳造方法を説明する。上型24および下型25は、型合わせした状態で
図5に示す鋳物100の外径に沿った形状になるように形成された主型20であり、上型24および下型25の間に中子部材30を設けることで、主型の壁部22と中子部材の壁部32により鋳物形成部12が形成されるように設計されている。
【0042】
鋳造時には、まず、下型25に中子部材30を設置する。そして、上型24を下型25および中子部材30に型合わせし、上型24および下型25内を閉じて、鋳型1を組み立てる。鋳型1を準備できたら、鋳型1に溶湯を注入する。このとき、鋳型1を鋳枠内に設置し、鋳型1の外表面のうち堰11を除く部分を覆うように鋳枠内に鋳物砂を充填してもよい。
【0043】
また、鋳型1に溶湯を注入する際には、溶湯や中子部材30からガスが発生する。しかし、中空部31と鋳物形成部12とを連通させるガス抜き用の孔35が中子部材30に形成されているから、ガス抜き用の孔35を通じて鋳物形成部12からガスが抜けることにより、鋳型1により作製される鋳物100におけるガス欠陥を抑制できる。
【0044】
そして、溶湯を冷却して鋳型1で生成された鋳物100を取り出す。その際には、鋳型1は型ばらしする。
図5は、製造された鋳物100を示す斜視図である。鋳物100は、鋳物の中心軸に沿って設けられた軸部と、中心軸とは異なる方向に伸びる6つの羽根部と、羽根部の両側に設けられた側板とを有する。鋳物100は、いわゆるクローズドインペラである。
【0045】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態の中子部材は、載置面に対して平行ではない壁部にガス抜き用の孔が設けられる点が第一実施形態と異なり、その他の点では同様の構成を有する。
【0046】
図6は中子部材60が主型50に設置された状態を示す部分断面図であり、
図7は鋳型2の斜視図である。
図6に示すように、主型50は下型55のみからなり、下型55に中子部材60が設置されることで鋳型2を形成する。
図6に示す鋳型2では、主型50に中子部材60を設置されることで堰41が形成される。堰41から溶湯を注入することにより、鋳物の中心軸に沿って設けられ、下方に向けて径が小さくなる軸部と、螺旋状に連続する羽根部とを有するスクリュー状の鋳物が、鋳物形成部42に形成される。
【0047】
図8は、ガス抜き用の孔65が設けられた壁部62周辺を示す拡大模式図である。中子部材60では、載置面に対して平行ではない方向に延びる壁部62に対して、ガス抜き用の孔65が形成される。ガス抜き用の孔65は、鋳造時に中空側が上、鋳物形成側が下になるように形成されることが好ましい。中子部材の壁部62が設置面に対して平行でない場合には、例えば、中空側と鋳物形成側における孔径が大きく異なるときなど、鋳造時に中空側が上であることを確認しにくいことがある。この場合、ガス抜き用の孔の中心線Lにおいて、中空側が上、鋳物形成側が下となるように形成されていればよい。
【0048】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態について説明する。第三実施形態の中子部材は、載置面に対して垂直である壁部にガス抜き用の孔が設けられる点が第一実施形態と異なり、その他の点では同様の構成を有する。
【0049】
図9は、中子部材90が主型80に設置された状態を示す部分断面図である。
図9に示すように、中子部材90は円筒状であり、主型80において鋳物の軸を形成する軸形成部の内部に設置されることで鋳型3を形成する。
図9に示す鋳型3では、主型80の内側面と中子部材90の外側面との間が堰71となる。堰71から溶湯を注入することにより、鋳物の中心軸に沿って設けられる軸部と、螺旋状に連続する羽根部とを有するスクリュー状の鋳物が、鋳物形成部72に形成される。
【0050】
図10は、ガス抜き用の孔95が設けられた壁部92周辺を示す拡大模式図である。中子部材90では、載置面に対して垂直方向に延びる壁部92に対して、ガス抜き用の孔95が形成される。ガス抜き用の孔95は、鋳造時に中心線Lの中空側が上、鋳物形成側が下となるように形成されていることが好ましい。これにより、鋳造時に発生するガスが、鋳物形成部から中空部に向けて排出されやすくなる。
【0051】
[各実施形態の総括]
以上のことから、本発明に係る中子部材は、ガス抜き用の孔を通じて、鋳造時に発生するガスを鋳物形成部から排出させることにより、生成される鋳物におけるガス欠陥を抑制する。また、本発明に係る中子部材は中空構造であるため、崩壊性にも優れている。そのため、本発明の中子部材を用いて鋳造することにより、良好な鋳物を得ることができる。
【0052】
[実施例]
上記の方法に沿って、鋳型を作製し、鋳造を行なった。3Dプリンタとして、CJP660(3DSYSTEMS社製)を使用した。造形砂として、TCaST(太平洋セメント株式会社製、平均粒径は100μm)を使用した。
【0053】
実施例として、
図2、3に示す形状の鋳型を作製した。造形条件は、表1の通りである。作製された鋳型は、肉厚(壁部および蓋部の厚さ)が5mmであった。また、比較例1として、
図11に示す形状の鋳型を作製した。
図11に示す比較例1の鋳型は、ガス抜き用の孔を設けないこと、中子部材を中空構造にせず、中実であることを除いて実施例と同様に作製した。比較例2として、ガス抜き用の孔を設けないことを除いて実施例と同様である鋳型を作製した。
【表1】
【0054】
鋳造および型ばらしを行ない、中子部材の除去が問題なく行なえた場合には○と評価し、容易に除去できなかった場合には×と崩壊性を評価した。そして、実施例および比較例の鋳型から生成された鋳物において、ガス欠陥の有無について評価した。評価結果を表2に示す。
【表2】
【0055】
比較例1の中子部材では、中空構造でないことから崩壊性が悪く、中子部材の除去が困難であった。また、ガス抜き用の孔が設けられていないことから、鋳型により作製された鋳物にガス欠陥が生じた。
【0056】
比較例2の中子部材では、崩壊性には優れていたが、作製された鋳物の中心部にガス欠陥が生じた。しかし、比較例1と比べると、ガス欠陥の発生が抑制されていた。これは、中実である比較例1の中子部材に対して、比較例2の中子部材は中空構造であることから、中子部材から発生するガスの量を抑えることができ、ガス欠陥の発生が抑制されたと考えられる。
【0057】
これらに対して、実施例の中子部材では、崩壊性に優れるだけでなく、鋳型により作製された鋳物にガス欠陥が生じていなかった。これにより、比較例と比べて鋳物の精度が向上したといえる。以上のことから、中空構造を有する中子部材は崩壊性に優れていることを確認できた。また、中子部材の壁部にガス抜き用の孔を設けることにより、鋳造時に発生するガスが鋳物形成部に残留することを抑制し、鋳物においてガス欠陥が発生することを抑制することを確認できた。
【符号の説明】
【0058】
1、2、3 鋳型
11、11a、11b、41、71 堰
12、42、72 鋳物形成部
20、50、80 主型
22、52、82 (主型の)壁部
24 上型
25、55 下型
30、60、90 中子部材
31、61、91 中空部
32、32a、32b、62、92 (中子部材の)壁部
35、65、95 ガス抜き用の孔
100 鋳物
C1 中心軸
L 中心線