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特開2023-147857圧電体フィルム接合基板及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147857
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】圧電体フィルム接合基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/853 20230101AFI20231005BHJP
   H10N 30/87 20230101ALI20231005BHJP
   H10N 30/06 20230101ALI20231005BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20231005BHJP
   H10N 30/073 20230101ALI20231005BHJP
   H10N 30/076 20230101ALI20231005BHJP
【FI】
H01L41/187
H01L41/047
H01L41/29
H01L41/113
H01L41/313
H01L41/316
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055593
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116964
【弁理士】
【氏名又は名称】山形 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100120477
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 賢改
(74)【代理人】
【識別番号】100135921
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 昌彦
(74)【代理人】
【氏名又は名称】半田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】古田 裕典
(72)【発明者】
【氏名】小酒 達
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴人
(72)【発明者】
【氏名】谷川 兼一
(72)【発明者】
【氏名】石川 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】北島 由隆
(57)【要約】
【課題】同一基板上に2種類以上の圧電膜を重ねて設けた高性能な圧電体フィルム接合基板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】圧電体フィルム接合基板(100)は、基板(33)と、基板(33)上に設けられた基板電極(34)と、第1の圧電膜(25)とその上に形成された第1の上部電極膜(26)とを有し基板電極(34)に貼り付けられた第1の圧電体フィルム(27)と、第1の圧電膜(25)と異なる第2の圧電膜(15)と第2の圧電膜(15)上に形成された第2の上部電極膜(16)とを有し第1の上部電極膜(26)上に貼り付けられた第2の圧電体フィルム(17)と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた基板電極と、
第1の圧電膜と前記第1の圧電膜上に形成された第1の上部電極膜とを有し、前記基板電極に貼り付けられた第1の圧電体フィルムと、
前記第1の圧電膜と異なる第2の圧電膜と前記第2の圧電膜上に形成された第2の上部電極膜とを有し、前記第1の上部電極膜上に貼り付けられた第2の圧電体フィルムと
を有することを特徴とする圧電体フィルム接合基板。
【請求項2】
前記第1の圧電体フィルムの面積と前記第2の圧電体フィルムの面積とが異なる
ことを特徴とする請求項1に記載の圧電体フィルム接合基板。
【請求項3】
前記第2の圧電体フィルムの面積が前記第1の圧電体フィルムの面積より小さい
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電体フィルム接合基板。
【請求項4】
前記第2の圧電体フィルムは、前記第2の圧電膜における、前記第2の上部電極膜と反対側の面に形成された第2の下部電極膜をさらに有する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の圧電体フィルム接合基板。
【請求項5】
前記第1の圧電体フィルムは、前記第1の圧電膜における、前記第1の上部電極膜と反対側の面に形成された第1の下部電極膜をさらに有する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の圧電体フィルム接合基板。
【請求項6】
前記第2の圧電膜は単結晶であり、前記第1の圧電膜は単結晶である
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の圧電体フィルム接合基板。
【請求項7】
前記基板電極の表面の面積は、前記基板電極の前記表面に貼り付けられた前記第1の圧電体フィルムの貼り付け面の面積より大きい
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の圧電体フィルム接合基板。
【請求項8】
前記第1の圧電膜は、AlN膜、又はタンタル酸リチウム膜、又はニオブ酸リチウム膜であり、
前記第2の圧電膜は、PZT膜、又はKNN膜、又はチタン酸バリウム膜である
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の圧電体フィルム接合基板。
【請求項9】
第1の基板上に形成され、第1の圧電膜と前記第1の圧電膜上に設けられた第1の電極膜とを有する第1の圧電体フィルムと、第2の基板上に形成され、第2の圧電膜と前記第2の圧電膜上に設けられた第2の電極膜とを有する第2の圧電体フィルムと、を前記第1の基板及び前記第2の基板からそれぞれ剥離し、
前記第1の基板及び前記第2の基板のいずれとも異なる第3の基板上に形成された電極上に、前記第1の圧電体フィルムを貼り付け、
前記第1の圧電体フィルム上に前記第2の圧電体フィルムを貼り付ける
ことを特徴とする圧電体フィルム接合基板の製造方法。
【請求項10】
前記第2の圧電体フィルムは、前記第2の圧電膜における、前記第2の上部電極膜と反対側の面に形成された第2の下部電極膜をさらに有する
ことを特徴とする請求項9に記載の圧電体フィルム接合基板の製造方法。
【請求項11】
前記第1の圧電体フィルムは、前記第1の圧電膜における、前記第1の上部電極膜と反対側の面に形成された第1の下部電極膜をさらに有する
ことを特徴とする請求項9又は10に記載の圧電体フィルム接合基板の製造方法。
【請求項12】
前記第2の圧電膜は単結晶であり、前記第1の圧電膜は単結晶である
ことを特徴とする請求項9から11のいずれか1項に記載の圧電体フィルム接合基板の製造方法。
【請求項13】
前記第3の基板上に形成された前記電極の表面の面積は、前記電極の前記表面に貼り付けられる前記第1の圧電体フィルムの貼り付け面の面積より大きい
ことを特徴とする請求項9から12のいずれか1項に記載の圧電体フィルム接合基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧電体フィルム接合基板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の異なる種類の圧電膜を積層したものが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-190890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の装置において、同一基板上に異なる種類の複数の圧電膜を積層させる場合には、複数の圧電膜を持つ高性能なデバイスを得ることができない。
【0005】
本開示は、同一基板上に2種類以上の圧電膜を重ねて設けた高性能な圧電体フィルム接合基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の圧電体フィルム接合基板は、
基板と、前記基板上に設けられた基板電極と、第1の圧電膜と前記第1の圧電膜上に形成された第1の上部電極膜とを有し、前記基板電極に貼り付けられた第1の圧電体フィルムと、前記第1の圧電膜と異なる第2の圧電膜と前記第2の圧電膜上に形成された第2の上部電極膜とを有し、前記第1の上部電極膜上に貼り付けられた第2の圧電体フィルムとを有することを特徴とする。
【0007】
本開示の圧電体フィルム接合基板の製造方法は、第1の基板上に形成され、第1の圧電膜と前記第1の圧電膜上に設けられた第1の電極膜とを有する第1の圧電体フィルムと、第2の基板上に形成され、第2の圧電膜と前記第2の圧電膜上に設けられた第2の電極膜とを有する第2の圧電体フィルムと、を前記第1の基板及び前記第2の基板からそれぞれ剥離し、前記第1の基板及び前記第2の基板のいずれとも異なる第3の基板上に形成された電極上に、前記第1の圧電体フィルムを貼り付け、前記第1の圧電体フィルム上に前記第2の圧電体フィルムを貼り付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、同一基板上に2種類以上の圧電膜を重ねて設けた高性能な圧電体フィルム接合基板及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る圧電体フィルム接合基板の構造を概略的に示す側面図である。
図2図1の圧電体フィルム接合基板の構造を概略的に示す上面図である。
図3図2の圧電体フィルム接合基板をS3-S3線で切る断面図である。
図4】実施の形態1に係る圧電体フィルム接合基板の製造方法を示すフローチャートである。
図5】(A)及び(B)は、図4のステップST101におけるPZTエピタキシャル成長膜の構造を概略的に示す上面図及び断面図であり、(C)及び(D)は、図4のステップST102におけるPZTエピタキシャル成長膜の構造を概略的に示す上面図及び断面図である。
図6】(A)及び(B)は、図4のステップST104におけるAlNエピタキシャル成長膜の構造を概略的に示す上面図及び断面図であり、(C)及び(D)は、図4のステップST105におけるAlNエピタキシャル成長膜の構造を概略的に示す上面図及び断面図である。
図7】(A)及び(B)は、図4のステップST103における複数のPZT圧電体フィルムの保持プロセスを概略的に示す断面図である。
図8】(A)及び(B)は、図4のステップST106における複数のAlN圧電体フィルムの保持プロセスを概略的に示す断面図である。
図9】(A)は、図4のステップST107におけるAlN圧電体フィルムの貼り付けプロセスを概略的に示す断面図であり、(B)は、AlN圧電体フィルムが貼り付けられた状態を示す上面図である。
図10】(A)は、図4のステップST108におけるPZT圧電体フィルムの貼り付けプロセスを概略的に示す断面図であり、(B)は、PZT圧電体フィルムが貼り付けられた状態を示す上面図である。
図11】(A)は、次の圧電体フィルム接合基板の製造プロセスを示す断面図であり、(B)は、PZT圧電体フィルムが貼り付けられた状態を示す上面図である。
図12】(A)及び(B)は、実施の形態1の変形例に係る圧電体フィルム接合基板の構造を概略的に示す側面図及び上面図である。
図13】(A)及び(B)は、実施の形態2に係る圧電体フィルム接合基板の構造を概略的に示す側面図及び上面図である。
図14】PZT圧電体フィルムを含むエピタキシャル成長膜の構造を概略的に示す断面図である。
図15】AlN圧電体フィルムを含むエピタキシャル成長膜の構造を概略的に示す断面図である。
図16図12(A)及び(B)の圧電体フィルム接合基板の製造方法を示すフローチャートである。
図17】(A)及び(B)は、図16のステップST201におけるPZTエピタキシャル成長膜の構造を概略的に示す上面図及び断面図であり、(C)及び(D)は、図16のステップST202におけるPZTエピタキシャル成長膜の構造を概略的に示す上面図及び断面図である。
図18】(A)及び(B)は、図16のステップST204におけるAlNエピタキシャル成長膜の構造を概略的に示す上面図及び断面図であり、(C)及び(D)は、図16のステップST205におけるAlNエピタキシャル成長膜の構造を概略的に示す上面図及び断面図である。
図19】(A)及び(B)は、図16のステップST203における複数のPZT圧電体フィルムの保持プロセスを概略的に示す断面図である。
図20】(A)及び(B)は、図16のステップST206における複数のAlN圧電体フィルムの保持プロセスを概略的に示す断面図である。
図21】(A)は、図16のステップST207におけるAlN圧電体フィルムの貼り付けプロセスを概略的に示す断面図であり、(B)は、AlN圧電体フィルムが貼り付けられた状態を示す上面図である。
図22】(A)は、図16のステップST208におけるPZT圧電体フィルムの貼り付けプロセスを概略的に示す断面図であり、(B)は、PZT圧電体フィルムが貼り付けられた状態を示す上面図である。
図23】(A)は、次の圧電体フィルム接合基板の製造プロセスを示す断面図であり、(B)は、PZT圧電体フィルムが貼り付けられた状態を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、実施の形態に係る圧電体フィルム接合基板及びその製造方法を、図面を参照しながら説明する。以下の実施の形態は、例にすぎず、本開示の範囲内で種々の変更が可能である。本出願において、圧電体フィルム接合基板は、同じ基板上に複数の圧電膜を設けた中間体としての製品である。圧電膜は、単結晶圧電膜であることが望ましいが、多結晶圧電膜で構成することも可能である。
【0011】
実施の形態に係る圧電体フィルム接合基板を用いることで、複数の圧電体を有する圧電膜集積デバイスを製造することができる。この圧電膜集積デバイスは、例えば、音響振動センサである。なお、音響振動センサは、音響振動波を出力し、音響振動波の反射波を検出することで検出対象物の状態(例えば、距離、形状、動きなど)を検出するセンサである。音響振動センサは、「超音波センサ」とも呼ばれる。一般には、また、本出願において、音響振動波は、音波及び超音波の少なくとも一方からなる。すなわち、音響振動波は、音波、又は超音波、又は音波及び超音波の両方からなる。
【0012】
《1》実施の形態1
《1-1》圧電体フィルム接合基板100の構造
図1は、実施の形態1に係る圧電体フィルム接合基板100の構造を概略的に示す側面図である。図2は、圧電体フィルム接合基板100の構造を概略的に示す上面図である。図3は、図2の圧電体フィルム接合基板100をS3-S3線で切る断面図である。
【0013】
圧電体フィルム接合基板100は、基板としてのSOI基板33と、SOI基板33上に設けられた電極(すなわち、基板電極)としての白金(Pt)膜34とを有している。図2に示されるように、Pt膜34は、SOI基板33に形成された配線層に接続されている。SOIは、Silicon On Insulatorである。また、SOI基板33内には、圧電体フィルム接合基板100を駆動して音響振動波を発生させるための駆動回路及び音響振動波の検出信号を用いた処理を行う処理回路などが形成されてもよい。
【0014】
圧電体フィルム接合基板100は、基板電極であるPt膜34に貼り付けられた第1の圧電体フィルムとしてのAlN圧電体フィルム27と、AlN圧電体フィルム27上に貼り付けられた第2の圧電体フィルムとしてのPZT圧電体フィルム17とを有している。AlN圧電体フィルム27は、第1の圧電膜としてのAlN膜25と、その上に形成された第1の上部電極膜としてのPt膜26とを有している。PZT圧電体フィルム17は、第1の圧電膜と異なる(例えば、結晶構造が異なる)第2の圧電膜としてのPZT膜15とその上に形成された第2の上部電極膜としてのPt膜16とを有し、Pt膜26上に貼り付けられている。また、PZT圧電体フィルム17の面積とAlN圧電体フィルム27の面積とは互いに異なる。実施の形態1では、PZT圧電体フィルム17の面積がAlN圧電体フィルム27の面積より小さい。
【0015】
AlNは、窒化アルミニウムである。PZTは、チタン酸ジルコン酸鉛である。第1の圧電体フィルムとしては、AlN圧電体フィルムの代わりに、タンタル酸リチウム(LiTaO)圧電体フィルム又はニオブ酸リチウム(LiNbO)圧電体フィルムなどのような他の圧電膜を用いてもよい。第2の圧電体フィルムとしては、PZT圧電体フィルムの代わりに、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)圧電体フィルム又はチタン酸バリウム(BaTiO)圧電体フィルムなどのような他の圧電体フィルムを用いてもよい。また、第1及び第2の圧電体フィルムは、単結晶圧電体フィルムであることが望ましいが、多結晶圧電体フィルムであってもよい。図示の例では、第1の圧電体フィルムは、音響振動波(又はその反射波)を検出する圧電体であり、第2の圧電体フィルムより比誘電率が低く、より高い検出感度の圧電体である。第2の圧電体フィルムは、音響振動波を発生させる圧電体であり、第1の圧電体フィルムの振動振幅より圧電定数が大きく、大きい振動振幅が得られる圧電体であることが望ましい。
【0016】
なお、下側の圧電体フィルムである第1の圧電体フィルムが、PZT膜とPt膜とを有し、上側の圧電体フィルムである第2の圧電体フィルムが、AlN膜とこの上に重なるPt膜とを有してもよい。
【0017】
また、図1に示されるように、圧電体フィルム接合基板100は、絶縁膜35aとその上に形成された配線膜36aと、絶縁膜35bと、その上に形成された配線膜36bとを有している。
【0018】
SOI基板33は、Si基板30と、絶縁膜としての酸化シリコン(SiO)部31と、単結晶シリコン(単結晶Si)部32とを有している。単結晶Si部32のPZT膜15及びAlN膜25の下部領域(すなわち、圧電膜に重なる領域)にSi基板30をエッチングすることで穴(キャビティ)が形成されてもよい。穴が形成された領域に位置するSiO部31及び単結晶Si部32が振動板としての機能を持つ。また、基板として、SOI基板33の代わりに、ガラス基板又は有機膜基板のような他の材料からなる基板を用いてもよい。PZT膜15で発生した音響振動波は穴から出力され、AlN膜25は穴を通して音響振動波の反射波を検出する。
【0019】
PZT膜15の厚さは、一般には、10nm~10μmの範囲内であり、望ましくは、100nm~5μmの範囲内である。また、AlN膜25の厚さは、一般には、10nm~10μmの範囲内であり、望ましくは、100nm~2μmの範囲内である。Pt膜34は、SOI基板33の上面に形成されている。Pt膜34の表面(上面)とAlN圧電体フィルム27は、分子間力によって接合されている。AlN圧電体フィルム27のPt膜26の表面とPZT圧電体フィルム17は、分子間力によって接合されている。これらの接合には、接着剤を用いる必要はない。これらを分子間力により良好に接合するためには、AlN圧電体フィルム27の貼り付け面、PZT圧電体フィルム17の貼り付け面、及び、Pt膜34とPt膜26の表面粗さが、10nm以下であることが望ましい。このために、Pt膜34とPt膜26の表面を平滑化する処理を行ってもよい。また、AlN圧電体フィルム27の貼り付け面とPt膜34とが貼り付けされたときの界面が10nm以下となる。さらに、Pt膜34の表面の面積は、AlN圧電体フィルム27の貼り付け面の面積よりも大きいことが望ましい。そのような構造のため、AlN圧電体フィルム27をPt膜34に貼り付ける際の貼り付け精度の誤差の許容範囲を大きくすることができる。
【0020】
《1-2》製造方法
圧電体フィルム接合基板100の製造に際しては、成長基板21上に形成され、AlN膜25とその上に設けられたPt膜26とを有するAlN圧電体フィルム27と、成長基板11上に形成され、PZT膜15とその上に設けられたPt膜16とを有するPZT圧電体フィルム17と、を成長基板21及び11からそれぞれ剥離し、成長基板21及び11のいずれとも異なるSOI基板33上に形成された電極であるPt膜34上に、AlN圧電体フィルム27を貼り付け、AlN圧電体フィルム27上にPZT圧電体フィルム17を貼り付ける。
【0021】
図4は、圧電体フィルム接合基板100の製造方法を示すフローチャートである。図5(A)及び(B)は、図4のステップST101におけるPZTエピタキシャル成長膜の構造を概略的に示す上面図及び断面図である。図5(C)及び(D)は、図4のステップST102におけるPZTエピタキシャル成長膜の構造を概略的に示す上面図及び断面図である。図6(A)及び(B)は、図4のステップST104におけるAlNエピタキシャル成長膜の構造を概略的に示す上面図及び断面図である。図6(C)及び(D)は、図4のステップST105におけるAlNエピタキシャル成長膜の構造を概略的に示す上面図及び断面図である。図7(A)及び(B)は、図4のステップST103における複数のPZT圧電体フィルム17の保持プロセスを概略的に示す断面図である。図8(A)及び(B)は、図4のステップST106における複数のAlN圧電体フィルム27の保持プロセスを概略的に示す断面図である。図9(A)は、図4のステップST107におけるAlN圧電体フィルム27の貼り付けプロセスを概略的に示す断面図であり、図9(B)は、AlN圧電体フィルム27が貼り付けられた状態を示す上面図である。図10(A)は、図4のステップST108におけるPZT圧電体フィルム17の貼り付けプロセスを概略的に示す断面図であり、図10(B)は、PZT圧電体フィルム17が貼り付けられた状態を示す上面図である。図11(A)は、次の圧電体フィルム接合基板の製造プロセスを示す断面図であり、図11(B)は、PZT圧電体フィルム17が貼り付けられた状態を示す上面図である。
【0022】
先ず、図5(A)及び(B)に示されるように、成長基板上に、犠牲層14、PZT膜15、Pt膜16をエピタキシャル成長させ(ステップST101)、図5(C)及び(D)に示されるように、PZT膜15及びPt膜16の形状をエッチングにより円形状にして、複数のPZT圧電体フィルム17を形成する(ステップST102)。
【0023】
また、図6(A)及び(B)に示されるように、他の成長基板上に、犠牲層24、AlN膜25、Pt膜26をエピタキシャル成長させ(ステップST104)、図6(C)及び(D)に示されるように、AlN膜25及びPt膜26の形状をエッチングにより円形状にして、複数のAlN圧電体フィルム27を形成する(ステップST105)。
【0024】
次に、図7(A)及び(B)に示されるように、PZT膜15とPt膜16からなる個片である複数(図示の例では、4個)のPZT圧電体フィルム17を保持部材としてのスタンプ42で保持し、犠牲層のエッチングにより剥離する(ステップST103)。また、図8(A)及び(B)に示されるように、AlN膜25とPt膜26からなる個片である複数(図示の例では、4個)のAlN圧電体フィルム27を保持部材としてのスタンプ41で保持し、犠牲層のエッチングにより剥離する(ステップST106)。
【0025】
次に、図9(A)及び(B)に示されるように、スタンプ41で保持された複数のAlN圧電体フィルム27のうちの1つを、Pt膜34上に貼り付ける(ステップST107)。
【0026】
次に、図10(A)及び(B)に示されるように、スタンプ42で保持された複数のPZT圧電体フィルム17の1つを、Pt膜34上に貼り付けられたAlN圧電体フィルム27のPt膜26上に貼り付ける(ステップST108)。また、貼り付け後に、アニール処理を施し、Ptと圧電膜との貼り付けを強固なものにするプロセスを追加してもよい。
【0027】
図9(A)及び(B)に示されるように、実施の形態1においては、SOI基板33上にコンタクト電極及び配線パターンをPtで形成し、AlN圧電体フィルム27を貼り付けた後、その上部電極膜であるPt膜26にPZT圧電体フィルム17を重ねて貼り付ける。スタンプ41に保持されるAlN圧電体フィルム27が2x2マトリクスの場合は、図中の#1,#2,#3,#4の順で異なるSOI基板33上に順に貼り付ける。この場合、径が大きいAlN圧電体フィルム27から先に貼り付ける。この例では、4個の圧電体フィルムに対してはSOI基板33が4枚用意される。図10(A)及び(B)に示されるように、PZT圧電体フィルム17がAlN圧電体フィルム27の上に貼り付けられる。#1,#2,#3,#4の順で順次貼り付けているので、図11(A)に示されるように、AlN圧電体フィルム27の上にPZT圧電体フィルム17を貼るので保持部材であるスタンプ42がAlN圧電体フィルム27に干渉せずに貼り付けが可能である。
【0028】
次に、PZT膜15とPt膜16上に絶縁膜35aと配線膜36aとを形成し、AlN膜25とPt膜26上に絶縁膜35bと配線膜36bとを形成する。
【0029】
貼り付けの際に、AlNの六方晶とPZTの立方晶の位相関係がc軸が平行となるように配置することでPZT膜15の圧電振動駆動とAlN膜25の圧電振動受信の効率が最大化される。
【0030】
《1-3》変形例
図12(A)及び(B)は、実施の形態1の変形例に係る圧電体フィルム接合基板100aの構造を概略的に示す側面図及び上面図である。圧電体フィルム接合基板100aは、AlN圧電体フィルム27a及びPZT圧電体フィルム17aの平面形状が四角形である点が、図1から図3に示される圧電体フィルム接合基板100と異なる。この点以外に関し、圧電体フィルム接合基板100aは圧電体フィルム接合基板100と同じである。
【0031】
《1-4》効果
以上説明したように、実施の形態1では、格子定数及び結晶構造が異なるという理由で、同一のSOI基板33上にエピタキシャル成長させるのが困難なPZT圧電体フィルム17とAlN圧電体フィルム27を、別個の成長基板上で成膜させ、成長基板から剥離して、共通のSOI基板33上に重ねて貼り付けることで、高性能な圧電体フィルム接合基板100を作成することが可能である。
【0032】
また、単結晶のPZT膜15は、多結晶PZT膜に比べて圧電定数が高いので、振動の振幅を容易に大きくすることができる。また、単結晶のAlN膜25は、多結晶AlN膜に比べて比誘電率が低いので、振動の受信感度を高くすることができる。ただし、PZT膜15に多結晶PZTが混在していてもよく、また、AlN膜25に多結晶AlNが混在していてもよい。つまり、PZT膜15及びAlN膜25の単結晶化率は100%以下であってもよい。
【0033】
また、従来は、異種圧電膜を形成するためには、保護層で一旦片方の圧電膜を覆い、もう片方の圧電膜形成後に保護層を削除するなどの工程が複雑で、かつ各工程での処理で熱を加えることにより圧電膜に残留応力歪が残ってセンサとしての効率悪化を招いた。実施の形態1の製造方法では、残留応力歪が無い状態で圧電体フィルム接合基板及び音響振動センサを構成可能である。
【0034】
《2》実施の形態2
《2-1》圧電体フィルム接合基板200の構造
図13(A)及び(B)は、実施の形態2に係る圧電体フィルム接合基板200の構造を概略的に示す側面図及び上面図である。図13(A)及び(B)において、図1から図3に示される構成と同一又は対応する構成には、図1から図3に示される符号と同じ符号が付されている。
【0035】
圧電体フィルム接合基板200は、Pt膜134に貼り付けられた第1の圧電体フィルムとしてのAlN圧電体フィルム127と、AlN圧電体フィルム127上に貼り付けられた第2の圧電体フィルムとしてのPZT圧電体フィルム117とを有している。AlN圧電体フィルム127は、第1の下部電極膜であるPt膜126とその上に形成された第1の圧電膜としてのAlN膜25とその上に形成された第1の上部電極膜としてのPt膜26とを有している。PZT圧電体フィルム117は、第2の下部電極膜であるPt膜116と第1の圧電膜と異なる(例えば、結晶構造が異なる)第2の圧電膜としてのPZT膜15とその上に形成された第2の上部電極膜としてのPt膜16とを有し、Pt膜116がPt膜26上に貼り付けられている。また、PZT圧電体フィルム117の面積とAlN圧電体フィルム127の面積とは互いに異なる。実施の形態1では、PZT圧電体フィルム117の面積がAlN圧電体フィルム127の面積より小さい。上記以外に関し、圧電体フィルム接合基板200の構造は、圧電体フィルム接合基板100のものと同じである。ここで、基板電極をPt(白金)で形成したが、特にPtに限定する必要はない。例えば、基板電極を金やアルミ、銅などの種々の金属で形成してもよい。
【0036】
《2-2》製造方法
図14は、PZT圧電体フィルム117を含むエピタキシャル成長膜の構造を概略的に示す断面図である。図15は、AlN圧電体フィルム127を含むエピタキシャル成長膜の構造を概略的に示す断面図である。圧電体フィルム接合基板200の製造に際しては、成長基板21上に形成され、Pt膜126とAlN膜25とPt膜26とを有する第1の圧電体フィルムとしてのAlN圧電体フィルム127と、成長基板11上に形成され、Pt膜116とPZT膜15とPt膜16とを有するPZT圧電体フィルム117と、を成長基板21及び11からそれぞれ剥離し、成長基板21及び11のいずれとも異なるSOI基板33上に形成されたPt膜134上に、AlN圧電体フィルム127を貼り付け、AlN圧電体フィルム127上にPZT圧電体フィルム117を貼り付ける。
【0037】
図16は、圧電体フィルム接合基板200の製造方法を示すフローチャートである。図17(A)及び(B)は、図16のステップST201におけるPZTエピタキシャル成長膜の構造を概略的に示す上面図及び断面図である。図17(C)及び(D)は、図16のステップST202におけるPZTエピタキシャル成長膜の構造を概略的に示す上面図及び断面図である。図18(A)及び(B)は、図16のステップST204におけるAlNエピタキシャル成長膜の構造を概略的に示す上面図及び断面図である。図18(C)及び(D)は、図16のステップST105におけるAlNエピタキシャル成長膜の構造を概略的に示す上面図及び断面図である。図19(A)及び(B)は、図16のステップST203における複数のPZT圧電体フィルム117の保持プロセスを概略的に示す断面図である。図20(A)及び(B)は、図16のステップST206における複数のAlN圧電体フィルム127の保持プロセスを概略的に示す断面図である。図14(A)は、図16のステップST207におけるAlN圧電体フィルム127の貼り付けプロセスを概略的に示す断面図であり、図21(B)は、AlN圧電体フィルム127が貼り付けられた状態を示す上面図である。図22(A)は、図16のステップST208におけるPZT圧電体フィルム117の貼り付けプロセスを概略的に示す断面図であり、図22(B)は、PZT圧電体フィルム117が貼り付けられた状態を示す上面図である。
【0038】
先ず、図17(A)及び(B)に示されるように、成長基板上に、犠牲層14、Pt膜13、PZT膜15、Pt膜16をエピタキシャル成長させ(ステップST201)、図17(C)及び(D)に示されるように、Pt膜13、PZT膜15及びPt膜16の形状をエッチングにより円形状にして、複数のPZT圧電体フィルム117を形成する(ステップST202)。
【0039】
また、図18(A)及び(B)に示されるように、他の成長基板上に、犠牲層24、Pt膜23、AlN膜25、Pt膜26をエピタキシャル成長させ(ステップST204)、図18(C)及び(D)に示されるように、Pt膜23、AlN膜25及びPt膜26の形状をエッチングにより円形状にして、複数のAlN圧電体フィルム127を形成する(ステップST205)。
【0040】
次に、図19(A)及び(B)に示されるように、Pt膜13とPZT膜15とPt膜16とからなる個片である複数(図示の例では、4個)のPZT圧電体フィルム117を保持部材としてのスタンプ42で保持し、犠牲層のエッチングにより剥離する(ステップST203)。また、図20(A)及び(B)に示されるように、Pt膜23とAlN膜25とPt膜26とからなる個片である複数(図示の例では、4個)のAlN圧電体フィルム127を保持部材としてのスタンプ41で保持し、犠牲層のエッチングにより剥離する(ステップST206)。
【0041】
次に、図21(A)及び(B)に示されるように、スタンプ41で保持された複数のAlN圧電体フィルム127のうちの1つを、Pt膜134上に貼り付ける(ステップST207)。実施の形態2では、Pt膜134がガラスポリイミド積層基板133に形成されている例を示している。ガラスポリイミド積層基板133は、ガラス部131と、その上に積層されたポリイミド部132とから構成され、Pt膜134は、ポリイミド部132に形成されている。
【0042】
次に、図22(A)及び(B)に示されるように、スタンプ42で保持された複数のPZT圧電体フィルム117の1つを、Pt膜134上に貼り付けられたAlN圧電体フィルム127のPt膜26上に貼り付ける(ステップST208)。実施の形態1では、貼り付け後に、アニール処理を施し、Ptと圧電膜との貼り付けを強固なものにするプロセスを追加することが望ましいが、実施の形態2では、圧電体フィルムが上部電極であるPt膜16、26と下部電極であるPt膜13、23とを有する構造であることで、アニール処理を行う必要性はない。
【0043】
図21(A)及び(B)に示されるように、実施の形態2においては、ガラスポリイミド積層基板133上にコンタクト電極及び配線パターンをPtで形成し、AlN圧電体フィルム127を貼り付けた後、その上部電極膜であるPt膜26にPZT圧電体フィルム117を重ねて貼り付ける。スタンプ41に保持されるAlN圧電体フィルム127が2x2マトリクスの場合は、図中の#1,#2,#3,#4の順で異なるガラスポリイミド積層基板133上に順に貼り付ける。この場合、径が大きいAlN圧電体フィルム127から先に貼り付ける。この例では、4個の圧電体フィルムに対してはガラスポリイミド積層基板133が4枚用意される。図22(A)及び(B)に示されるように、PZT圧電体フィルム117がAlN圧電体フィルム127の上に貼り付けられる。#1,#2,#3,#4の順で順次貼り付けているので、図23(A)に示されるように、AlN圧電体フィルム127の上にPZT圧電体フィルム117を貼るので保持部材であるスタンプ42がAlN圧電体フィルム127に干渉せずに貼り付けが可能である。
【0044】
次に、PZT膜15とPt膜16上に絶縁膜35aと配線膜36aとを形成し、AlN膜25とPt膜26上に絶縁膜35bと配線膜36bとを形成する。
【0045】
《2-3》効果
以上説明したように、実施の形態2では、同一のガラスポリイミド積層基板133上にエピタキシャル成長させるのが困難なPZT圧電体フィルム117とAlN圧電体フィルム127を、別個の成長基板上でエピタキシャル成長させ、成長基板から剥離して、共通のガラスポリイミド積層基板133上に重ねて貼り付けることで、高性能な圧電体フィルム接合基板200を作成することが可能である。
【0046】
また、実施の形態2の製造方法によれば、特性の安定化のためのアニール処理が不要であるため、非耐熱性の基板上に複数の結晶構造の異なる圧電体フィルムを設けることができる。
【0047】
なお、上記以外に関し、実施の形態2は、実施の形態1と同じである。
【符号の説明】
【0048】
100、100a、200 圧電体フィルム接合基板、 11、21 成長基板(単結晶Si基板)、 15 PZT膜(第2の圧電膜)、 16 Pt膜(第2の上部電極膜)、 13 Pt膜(第2の下部電極膜)、 14、24 犠牲層、 17、117 PZT圧電体フィルム(第2の圧電体フィルム)、 23 Pt膜(第1の下部電極膜)、 25 AlN膜(第1の圧電膜)、 26 Pt膜(第1の上部電極膜)、 27、127 AlN圧電体フィルム(第1の圧電体フィルム)、 31 SiO部、 32 単結晶Si部、 33 SOI基板(基板)、 34、134 Pt膜(基板電極)、 116 Pt膜、 126 Pt膜、 133 ガラスポリイミド積層基板。
図1
図2
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