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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147866
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】金属加工油剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 173/00 20060101AFI20231005BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20231005BHJP
   C10M 133/08 20060101ALI20231005BHJP
   C10M 129/42 20060101ALI20231005BHJP
   C10M 129/76 20060101ALI20231005BHJP
   C10M 129/06 20060101ALI20231005BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20231005BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20231005BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20231005BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20231005BHJP
   C10N 40/20 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
C10M173/00
C10M169/04
C10M133/08
C10M129/42
C10M129/76
C10M129/06
C10M101/02
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N30:12
C10N30:00 A
C10N40:20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055607
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000162423
【氏名又は名称】協同油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】青木 大知
(72)【発明者】
【氏名】山口 美幸
(72)【発明者】
【氏名】西塚 史章
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 節夫
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BB03C
4H104BB18C
4H104BB35C
4H104BE04B
4H104DA02A
4H104LA03
4H104LA06
4H104LA11
4H104LA20
4H104PA21
(57)【要約】
【課題】潤滑性(切削性)、耐硬水性、及び原液安定性に優れた金属加工油剤組成物を提供すること。
【解決手段】(A)炭素数6以上の1級アルカノールアミンを0.1~3.5質量%、(B)2-(2-アミノエトキシ)エタノール等の1級アルカノールアミンを1.0~8.0質量%、(C)3つのアルカノール基を持つ3級アミンを1.5~9.0質量%、(D)N-ブチルモノエタノールアミンを1.0~5.0質量%、(E)炭素数10以上の両末端にカルボン酸基を持つ二塩基酸を0.3~4.0質量%、(F)炭素数12~22の直鎖脂肪酸を2.0~10.0質量%、(G)ひまし脂肪酸重縮合物を5.0~15.0質量%、(H)1種以上の炭素数11以上の分岐アルコールを0.5~10.0質量%、(I)パラフィン系鉱油を35.0~50.0質量%、(J)水を含む金属加工油剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)少なくとも1種の炭素数6以上の1級アルカノールアミンを0.1~3.5質量%と、
(B)2-(2-アミノエトキシ)エタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、モノイソプロパノールアミン、及びモノエタノールアミンからなる郡から選ばれる少なくとも1種の1級アルカノールアミンを1.0~8.0質量%と、
(C)少なくとも1種の3つのアルカノール基を持つ3級アミンを1.5~9.0質量%と、
(D)N-ブチルモノエタノールアミンを1.0~5.0質量%と、
(E)少なくとも1種の炭素数10以上の両末端にカルボン酸基を持つ二塩基酸を0.3~4.0質量%と、
(F)炭素数12~22の直鎖脂肪酸を2.0~10.0質量%と、
(G)ひまし脂肪酸重縮合物を5.0~15.0質量%と、
(H)少なくとも1種の炭素数11以上の分岐アルコールを0.5~10.0質量%と、
(I)パラフィン系鉱油を35.0~50.0質量%と、
(J)水
含むことを特徴とする金属加工油剤組成物。
【請求項2】
(A)成分が、アミノヘキサノール、アミノオクタノール、アミノデカノール、及びアミノドデカノールからなる群から選ばれる1種又は2種である請求項1に記載の金属加工油剤組成物。
【請求項3】
(C)成分が、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、モノエタノールジイソプロパノールアミン、及びジエタノールモノイソプロパノールアミンからなる群から選ばれる1種又は2種である請求項1又は2に記載の金属加工油剤組成物。
【請求項4】
(E)成分が、セバシン酸、ウンデカン二酸、及びドデカン二酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1~3のいずれか1項記載の金属加工油剤組成物。
【請求項5】
(F)成分が、ラウリン酸、オレイン酸、リシノレイン酸、及びエルカ酸からなる郡から選ばれる少なくとも1種である請求項1~4のいずれか1項記載の金属加工油剤組成物。
【請求項6】
(G)成分が、酸価30~100mgKOH/gであるリシノレイン酸重縮合物である、請求項1~5のいずれか1項記載の金属加工油剤組成物。
【請求項7】
(H)成分が、少なくとも1種の炭素数13~26以上の分岐アルコールである請求項1~6のいずれか1項記載の金属加工油剤組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載の金属加工油剤組成物を水で希釈した金属加工油剤。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項記載の金属加工油剤組成物あるいは請求項8記載の金属加工油剤を使用することを含む、金属加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は切削研削加工をはじめとし塑性加工などの金属加工へも広く適用できる水溶性金属加工油剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
切削、研削加工分野に広く使用される切削油剤には鉱油をベースにした、不水溶性切削油剤と、鉱油、界面活性剤、有機アミン等を含有し、水に希釈して使用する水溶性切削油剤とがある。
そして、水溶性切削油剤においては、油剤の耐腐敗性能を向上させるために、防腐剤を添加したり、防腐効果のあるアミンを処方したりする。
しかしながら、近年の地球資源の節約、地球環境悪化防止の基に切削油剤においても、従来と比較し、一層の地球環境に優しい油剤、更にはできるだけ長期間使用に耐えうる油剤の開発が求められてきている。
【0003】
従来、水溶性金属加工油には、例えば、脂肪酸アルカノールアミドエチレンオキサイド付加物とアルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂環式アミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸高級アルコール付加物を用いる水溶性切削油組成物(特許文献1)、ベンゾール系化合物とパラオキシ安息香酸エステル化合物を用いる水溶性研削油剤組成物(特許文献2)、第1級アルカノールアミンと、炭素原子数6~24のカルボン酸と、特定のアルキレンジアミンを含むもの(特許文献3)、芳香族アミンあるいは脂環式アミンを用いる水溶性金属加工油剤(特許文献4)、1級、2級、3級のアルキルアミン、芳香族ジアミンオキシアルキレン付加物、脂環式ジアミンオキシアルキレン付加物等を用いる水溶性切削研削油剤(特許文献5)、不飽和脂肪酸と複素環化合物を用いる水溶性金属加工油剤組成物(特許文献6)、炭素数4以上のアルキル基を持つアミンとシクロ環またはベンゼン環を持つアミンを用いる金属加工油剤組成物および金属加工方法(特許文献7)、アルキレンジアミンを用いる抗菌性水溶性切削油剤(特許文献8)、殺生剤としてアミノアルコールを用いる金属作動流体(特許文献9)などが知られている。
【0004】
しかしながら、これらの水溶性金属加工油剤では、一般細菌には効果があるものの、黴、酵母に対しては十分な効果が得られない。また、効果があるものに付いては、ハロゲンを含有する化合物、多環芳香族化合物、フェノール系化合物あるいは金属塩を使用しており、PRTR対象物質となっている化合物もあり、人体に対しての影響が懸念される。
【0005】
防腐剤、アミンは、油剤の耐腐敗性能を向上させるためには必要不可欠の化合物であった。
【0006】
一方、切削性を向上させる手段として、例えば、潤滑作用を向上させる方法として、特定のパームオレイン油を用いた熱間圧延油および熱間圧延方法(特許文献10)、全構成成分の酸価とアミン価を特定の比率とした金属加工油剤組成物、それを用いた加工方法およびその金属加工方法により製造される金属加工部品(特許文献11)などが知られている。
【0007】
しかしながら、これらの水溶性金属加工油剤では、一般切削加工では効果があるものの、重切削加工においては切削性能を満足しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平6-31388号公報
【特許文献2】特公平7-37632号公報
【特許文献3】特公平6-76590号公報
【特許文献4】特許第2510233号
【特許文献5】特開平9-316482号公報
【特許文献6】特許第4836341号
【特許文献7】特許第5255835号
【特許文献8】特許第5204390号
【特許文献9】特許第5670882号
【特許文献10】特許第3320642号
【特許文献11】特許第6355339号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明により、潤滑性(切削性)、耐硬水性、及び原液安定性に優れた金属加工油剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らによれば、特定のアミンと特定の脂肪酸、特定のアルコール、特定の鉱油を特定の比率で使用することにより、係る目的を達成できることがわかった。すなわち、本発明により、以下の金属加工油剤組成物、金属加工油剤及び金属加工方法を提供する:
1.(A)少なくとも1種の炭素数6以上の1級アルカノールアミンを0.1~3.5質量%と、
(B)2-(2-アミノエトキシ)エタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、モノイソプロパノールアミン、及びモノエタノールアミンからなる郡から選ばれる少なくとも1種の1級アルカノールアミンを1.0~8.0質量%と、
(C)少なくとも1種の3つのアルカノール基を持つ3級アミンを1.5~9.0質量%と、
(D)N-ブチルモノエタノールアミンを1.0~5.0質量%と、
(E)少なくとも1種の炭素数10以上の両末端にカルボン酸基を持つ二塩基酸を0.3~4.0質量%と、
(F)炭素数12~22の直鎖脂肪酸を2.0~10.0質量%と、
(G)ひまし脂肪酸重縮合物を5.0~15.0質量%と、
(H)少なくとも1種の炭素数11以上の分岐アルコールを0.5~10.0質量%と、
(I)パラフィン系鉱油を35.0~50.0質量%と、
(J)水
含むことを特徴とする金属加工油剤組成物。
2.(A)成分が、アミノヘキサノール、アミノオクタノール、アミノデカノール、及びアミノドデカノールからなる群から選ばれる1種又は2種である前記1に記載の金属加工油剤組成物。
3.(C)成分が、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、モノエタノールジイソプロパノールアミン、及びジエタノールモノイソプロパノールアミンからなる群から選ばれる1種又は2種である前記1又は2に記載の金属加工油剤組成物。
4.(E)成分が、セバシン酸、ウンデカン二酸、及びドデカン二酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である前記1~3のいずれかに記載の金属加工油剤組成物。
5.(F)成分が、ラウリン酸、オレイン酸、リシノレイン酸、及びエルカ酸からなる郡から選ばれる少なくとも1種である前記1~4のいずれかに記載の金属加工油剤組成物。
6.(G)成分が、酸価30~100mgKOH/gであるリシノレイン酸重縮合物である、前記1~5のいずれかに記載の金属加工油剤組成物。
7.(H)成分が、少なくとも1種の炭素数13~26以上の分岐アルコールである前記1~6のいずれかに記載の金属加工油剤組成物。
8.前記1~7のいずれかに記載の金属加工油剤組成物を水で希釈した金属加工油剤。
9.前記1~7のいずれかに記載の金属加工油剤組成物あるいは前記8に記載の金属加工油剤を使用することを含む、金属加工方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、潤滑性(切削性)、耐硬水性、及び原液安定性に優れた金属加工油剤組成物を提供することが出来る。本発明の組成物はまた、乳化安定性(希釈液の安定性)、非鉄防食性、廃液処理性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
成分(A)は、少なくとも1種の炭素数6以上の1級アルカノールアミンである。成分(A)は、原液安定性に寄与する。
1級アルカノールアミン(A)としては、アミノヘキサノール、アミノオクタノール、アミノドデカノール等があげられる。これらを単独で用いても、二種以上を併用してもよい。このうち、アミノヘキサノール、アミノオクタノールが好ましく、3-アミノ-4-オクタノールが特に好ましい。
【0013】
成分(A)の含有量は、組成物の全質量を基準として、0.1~3.5質量%であり、0.5~1.0質量%であるのが好ましい。0.1~3.5質量%であると、十分な原液安定性を保つことができる。
【0014】
成分(B)は、2-(2-アミノエトキシ)エタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、モノイソプロパノールアミン、及びモノエタノールアミンからなる郡から選ばれる少なくとも1種の1級アルカノールアミンである。このうち2-(2-アミノエトキシエタノール)が特に好ましい。
成分(B)の含有量は、組成物の全質量を基準として、1.0~8.0質量%であり、2~6質量%であるのが好ましい。1.0質量%以上であると、良好な乳化安定性と耐硬水性を発揮することができる。8.0質量%以下であると、良好な非鉄防食性を保ち、切削性能を十分に向上させることができる。
【0015】
成分(C)の少なくとも1種の3つのアルカノール基を持つ3級アミンは、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジエタノールモノイソプロパノールアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンが好ましい。
成分(C)の含有量は、組成物の全質量を基準として、1.5~9.0質量%であり、3.0~6.0質量%であるのが好ましい。(C)の含有量が1.5~9.0質量%であることにより、良好な乳化安定性、耐硬水性、原液安定性を保つことができる。
(D)N-ブチルモノエタノールアミンの含有量は1.0~5.0質量%であり、1.5~4.0質量%であることが好ましい。1.0質量%以上であると、十分な原液安定性と乳化安定性を発揮することができる。5.0質量%以下であると、良好な耐硬水性を発揮することができる。
成分(C)、成分(D)の総量は、本発明の組成物の全質量を基準として4.0~12.0質量%であるのが好ましく、5.0~10.0質量%であるのがより好ましい。このような範囲で成分(C)及び成分(D)を含むことによって、良好な耐硬水性、乳化安定性、良好な原液安定性を保つことができる。
【0016】
成分(E)の少なくとも1種の炭素数10以上の両末端にカルボン酸基を持つ二塩基酸は、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸等があげられる。これらを単独で用いても、二種以上を併用してもよい。このうち、セバシン酸、ドデカン二酸が好ましい。成分(E)は、特に、錆止め性に寄与する。
【0017】
成分(F)の少なくとも1種の炭素数12~22の直鎖脂肪酸としては、直鎖型の、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、バクセン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、エイコサジエン酸、ミード酸、エルカ酸、エライジン酸、アラキドン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、及びリシノレイン酸等があげられる。これらを単独で用いても、二種以上を併用してもよい。このうち、オレイン酸、リシノレイン酸及びエルカ酸が好ましく、リシノレイン酸及びエルカ酸がより好ましい。
【0018】
成分(F)の含有量は、組成物の全質量を基準として、2.0~10.0質量%であり、3~8質量%であるのが好ましい。2.0~10.0質量%であると、良好な耐硬水性を保つことができる。
【0019】
成分(G)のひまし脂肪酸重縮合物は、酸価30~100mgKOH/gが好ましく、酸価30~50mgKOH/gがより好ましい。
成分(G)の含有量は、組成物の全質量を基準として、3.0~15.0質量%であり、5.0~15.0質量%であるのが好ましい。このような範囲で含まれると、希釈液の乳化および原液の安定性が優れる。
【0020】
成分(H)の少なくとも1種の炭素数11以上の分岐アルコールとしては、炭素数13~26が好ましい。成分(H)は、特に低温での原液安定性に寄与する。成分(H)としては、ウンデカノール、ラウリルアルコール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノリルアルコール、イコサノール、ヘンイコサノール、テトラコサノール、トリアコンタノールの分岐アルコール等があげられる。このうち、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソペンタデカノール、イソテトラコサノール、又はこれらの混合物が好ましく、イソテトラデカノールとイソペンタデカノールとの混合物がより好ましい。
成分(H)の含有量は、組成物の全質量を基準として、0.5~10.0質量%であり、1.0~5.0質量%であるのが好ましい。この範囲であると、満足行くレベルの原液安定性を発揮することができる。
【0021】
成分(I)は、パラフィン系鉱油である。成分(I)は、特に潤滑性に寄与する。成分(I)としては、40℃の動粘度が8~60mm2/sのパラフィン系鉱油が好ましい。なお、本明細書において、動粘度はJIS K 2283に従って測定することができる。
【0022】
成分(I)の含有量は、組成物の全質量を基準として、35.0~50.0質量%であり、40.0~45.0質量%であるのが好ましい。35.0質量%以上であると、良好な潤滑性を発揮することができる。50.0質量%以下であると、希釈液の乳化安定性を良好にすることができる。
【0023】
成分(J)は水である。成分(J)は原液安定性に寄与する。成分(J)の含有量は組成物の残部であり、具体的には、3.0~35.0質量%であるのが好ましく、15.0~25.0質量%であるのがより好ましい。
【0024】
本発明の金属加工油剤組成物は、(F)成分に加え、イソステアリン酸を0.3~2.0質量%、ネオデカン酸を0.5~3.0質量%を含んでもよい。これらの成分を含むことにより、使用時の泡立ちが適度に抑制されるので好ましい。
本発明の金属加工油剤組成物は、5(or6)-カルボキシ-4-ヘキシル-2-シクロヘキサンオクタノイックアシッド(例えば、Ingevity製「DIACID1550」)を0.5~3.0質量%を含んでもよい。この成分を含むことにより、希釈液の乳化安定性及び使用時の錆止め性を良好にするので好ましい。
【0025】
本発明の金属加工油剤組成物は、必要に応じて、潤滑助剤としての潤滑油を含有する。潤滑助剤としては、たとえば、合成エステル油、ポリオールエステル、アルキルベンゼン、天然油脂、ポリグリコール、ポリ-α-オレフィン等があげられる。これらは、単品に限らず、複数種のブレンド油としても良い。好ましくは、合成エステル油、天然油脂が良い。合成エステル油としては、2-エチルヘキシルパルミテート、2-エチルヘキシルステアレート、あるいは2-エチルヘキシルオレエートが好ましい。
【0026】
潤滑助剤としての潤滑油の含有量は、本発明の金属加工油剤組成物の全質量を基準として、3~20質量%であるのが好ましく、5~15質量%であるのがより好ましい。このような範囲で含まれると潤滑性が優れる。
【0027】
本発明の金属加工油剤組成物は、必要に応じて、界面活性剤を含有する。界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤のいずれでもよい。アニオン界面活性剤、及びノニオン界面活性剤が好ましい。アニオン界面活性剤としては、ラウリルアルコールEO付加物の末端に酢酸を付加したラウリルエーテルカルボン酸、オレイルアルコールEO付加物の末端に酢酸を付加したオレイルエーテルカルボン酸等のエーテルカルボン酸が好ましい。エーテルカルボン酸のEO付加モル数は、2~10が好ましい。
ノニオン界面活性剤としては、グリフィンの式であらわされるHLBが4~14のものが好ましい。例えば、ポリオキシプロピレンモノブチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキル(アルケニル)エーテル(重量平均分子量700~2000程度);ラウリルアミンEO付加物、ココアミンEO付加物等の高級アミンのアルキレンオキサイド付加物;C12-14アルコールEO,PO付加物等の高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物等があげられる。界面活性剤は、単独で用いても二種以上を併用してもよい。
界面活性剤の含有量は、組成物の全質量を基準として、0.2~5質量%であるのが好ましく、0.5~2質量%であるのがより好ましい。このような範囲で含まれると希釈液の乳化安定性及び原液の安定性が優れる。
【0028】
本発明の金属加工油剤組成物は、必要に応じて、ラウリルコハク酸、ステアリルコハク酸などの脂肪酸、石油スルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸塩、カルボン酸アミドなどを防錆剤として含んでも良い。
防錆剤の含有量は、組成物の全質量を基準として、0~20質量%であるのが好ましく、1~10質量%であるのがより好ましい。
【0029】
また、本発明の金属加工油剤組成物は、必要に応じてシリコーン系消泡剤、アルコール系消泡剤、ベンゾトリアゾール系金属防食剤などを含んでも良い。
消泡剤及び金属防食剤の含有量は、組成物の全質量を基準として、それぞれ0.05~2質量%であるのが好ましく、0.1~1質量%であるのがより好ましい。
【0030】
さらに、本発明の金属加工油剤組成物は、必要に応じてベンゾイソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、ブチルベンゾイソチアゾリン-3-オン、金属ピリチオン塩(例えば、ソジウムオマジン、ジンクピリチオン)などの防腐剤、ラウリルアミン、オレイルアミンなどに代表されるアルキルアミンを防腐剤あるいは菌抑制剤として含んでも良い。
防腐剤あるいは菌抑制剤の含有量は、組成物の全質量を基準として、0.1~5質量%であるのが好ましく、0.2~2質量%であるのがより好ましい。
【0031】
本発明の金属加工油剤組成物のpH(25℃)は、原液を純水で5質量%に希釈した液において、好ましくは7.0~11、さらに好ましくは8.5~11である。pHが7.0以上で、満足いく程度の防腐性を得ることができる。pHが11以下であると、皮膚刺激性を低く抑えることができる。pH調整剤としては、(A)~(D)成分以外のアミン、例えば、ジシクロヘキシルアミン、1,3ビスアミノシクロヘキサン、シクロヘキシルプロピルジアミン等の脂環式基を有するアミンやそのEO付加物、メタキシレンジアミン等の芳香族環式基を有するアミンや、乳酸、リンゴ酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、ほう酸等の酸を用いることができる。
本発明の金属加工油剤組成物は、0.5質量%以上の濃度に水で希釈して使用するのが一般的である。
【0032】
表1に示す組成(単位は質量%)の実施例及び比較例の組成物を調製した。
【0033】
<評価手法>
(1)原液安定性
実施例または比較例の組成物を、ろうそく瓶に入れ、-5℃、25℃、50℃の恒温槽内で168時間静置し、取り出した時の原液の状態を確認する。
判定基準:分離、固化等、外観変化がなければ合格とする。
【0034】
(2)乳化安定性(希釈液の安定性)
実施例または比較例の組成物を、純水に5質量%となるように希釈し、栓付きメスシリンダーに100mL入れ、25℃、1日後の外観変化を確認する。
判定基準:乳化不良がなければ合格とする。
【0035】
(3)潤滑性(切削性)
下記被削材を用いて、下記条件にてM6のタップ加工を行い、加工時に受ける切削抵抗を測定した。
被削工具:ニューロールタップ(OSG製 B-NRT RH7 M6×1.0)
被削材 :アルミニウム合金(AC8B-T6、300×200×30mm)
切削速度:10m/min
下穴 :5.48mmリーマ仕上げ,止まり穴
切削長 :20mm
濃度 :原液を水で5質量%に希釈
N数: 5
試験油剤:実施例又は比較例の組成物を水で5質量%に希釈したもの
給油量 :試験油剤を6リットル/分
評価方法: 切削抵抗(トルク[N・m])を測定
判定基準:切削トルクが2.9N・m以下を合格とする。
【0036】
(4)非鉄防食性試験
実施例または比較例の組成物を、純水にて10倍に希釈したJIS硬水に5質量%となるように希釈し、マヨネーズ瓶に入れ、そこに、表面を#240のカーボランダムで研磨したアルミニウムテストピース(A1050)を浸漬した。密栓して、25℃2日後テストピースの外観変化を確認する。
判定基準: テストピースに著しい変色がなければ合格とする。
【0037】
(5)耐硬水性
あらかじめ、カルシウム濃度が100ppmとなるように、純水に塩化カルシウム2水塩を溶かした水を準備し、この水に対して実施例または比較例の組成物を、5質量%となるように希釈し、マヨネーズ瓶に入れ、密閉して、25℃、1日後の外観変化を確認する。
判定基準:著しいスカムの発生、油分離がなければ合格とする。
【0038】
(6)廃液処理性
実施例または比較例の組成物を、純水にて5重量%に希釈し、硫酸バンドおよび、硫酸を加え、pH3.0とし、酸分解させた後に、水酸化ナトリウム水溶液にて中性とし、高分子凝集剤を加えて浮上したフロックを凝集させる。その後、5Cのろ紙にてろ過を行い、ろ液の外観を確認する。
判定基準:外観が透明であれば合格とする。
結果を表1及び表2に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】