(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147874
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】畜肉様加工食品用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 9/007 20060101AFI20231005BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20231005BHJP
A23L 13/40 20230101ALI20231005BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20231005BHJP
【FI】
A23D9/007
A23D9/00 518
A23L13/40
A23L13/00 Z
A23L13/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055623
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】水嶋 茂樹
【テーマコード(参考)】
4B026
4B042
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG02
4B026DH02
4B026DL03
4B026DL05
4B026DP01
4B026DX02
4B042AC05
4B042AD20
4B042AG07
4B042AH01
4B042AK01
4B042AK06
4B042AK08
4B042AK09
4B042AK11
4B042AK13
4B042AP18
4B042AP21
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、畜肉の配合量が少ない又は配合がないが故に生じる畜肉様加工食品の加熱後のドリップの流出とジューシー感の不足を改善できるような油脂組成物を提供することである。
【解決手段】特定のかさ密度を有する水不溶性食物繊維と該油脂組成物を構成する油脂全体が5℃で特定のSFCを有する油脂からなる油脂組成物を、畜肉の使用量が畜肉様加工食品中に80質量%以下である畜肉様加工食品の生地調製工程の混練前に小片状にして生地に配合することで、加熱後の加工食品のドリップの流出が抑制され、ジューシー感が得られることを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を全て満たす、畜肉の使用量が畜肉様加工食品中80質量%以下である畜肉様加工食品用油脂組成物。
(A)かさ密度が0.01~0.3g/mlである水不溶性食物繊維を含む。
(B)該油脂組成物を構成する油脂全体の5℃での固体脂含量(SFC)が40%以上である。
【請求項2】
該水不溶性食物繊維が該油脂組成物中に0.2~12質量%含む、請求項1に記載の畜肉様加工食品用油脂組成物。
【請求項3】
畜肉様加工食品の生地調製工程の混練前に、請求項1または2の何れか1項に記載の油脂組成物を小片状に細断して、該加工食品の生地に配合する、畜肉の使用量が畜肉様加工食品中80質量%以下である畜肉様加工食品の製造方法。
【請求項4】
かさ密度が0.01~0.3g/mlである水不溶性食物繊維と、該油脂組成物を構成する油脂全体の5℃でのSFCが40%以上である油脂から成る油脂組成物で、かつ小片状である、畜肉様加工食品のジューシー感を向上させるために使用する、畜肉使用量が畜肉様加工食品中80質量%以下である畜肉様加工食品用品質改良剤。
【請求項5】
かさ密度が0.01~0.3g/mlである水不溶性食物繊維を0.2~12質量%を含み、実質水を含まない、最長辺が15mm以下の小片状である、該油脂組成物を構成する油脂全体の5℃でのSFCが40%以上である油脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜肉様加工食品に使用する油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SDGs(持続可能な開発目標)の達成を目指す取り組みが世界的に進んでいる。とりわけ、世界的な人口増加により、食資源、特に動物性食資源の不足が予測されており、植物性の食資源への関心が高まっている。中でも、大豆、エンドウ、緑豆などの植物は、畜肉の代替素材として加工食品などに広く利用されている。
【0003】
畜肉の一部を植物性蛋白に代替した畜肉様加工食品は、チルド食品や冷凍食品として広く流通されている。畜肉様加工食品では、畜肉不使用あるいは畜肉使用量が少ないために、肉汁を感じにくく、ジューシー感が得られにくい。そのため、ジューシー感のある畜肉様加工食品の開発が期待されている。
【0004】
畜肉様加工食品へのジューシー感の付与という課題に対して、様々な検討がなされている。例えば、挽肉と同様の作業性やジューシー感、風味を有する挽肉様大豆加工食品(特許文献1)、植物性蛋白素材及び水をベースとするペースト中に、固形状油脂が高配合され分散された挽肉もしくは挽肉様加工食品用組成物の利用(特許文献2)、植物油脂にリパーゼを添加して得た混合物を食肉又は食肉様加工食品の原料に配合する、食肉又は食肉様加工食品の製造方法(特許文献3)、小片状の形状で特定の固体脂含量を有する、食肉及び植物製タンパク質からなる群より選ばれた1種又は2種以上を含むことを特徴とする加工食品用油脂組成物(特許文献4)の提案がなされている。
【0005】
特許文献1では、大豆蛋白と油脂とセルロースエーテル誘導体と加工澱粉とを含むことでその加工食品にジューシー感を付与させることができる。特許文献2では、従来畜肉様加工食品で利用される液油が配合されたエマルションカードは、ジューシー感を高めることが知られている。しかし、このエマルションカードを予め調製せずとも、本特許に示された組成物を配合することで挽肉様加工食品に配合できる油脂量を高めることができ、さらには加熱時のドリップの流出が少なく、歩留まりが良好で、ジューシー感を有する加工食品ができることが開示されている。特許文献3は、植物油脂にリパーゼを添加することで食肉又は食肉様加工食品の歩留まりが良好でジューシー感が向上するとある。特許文献4では、小片状の形状を持ち、特定の固体脂含量を有する油脂組成物を畜肉様加工食品に配合するとジューシー感が付与されたことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-171030号公報
【特許文献2】特開2011-139684号公報
【特許文献3】WO2021/153784号パンフレット
【特許文献4】WO2020/004058号パンプレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~4において、何れも畜肉様加工食品のジューシー感が付与されることは示されている。しかしながら、特許文献1では水の流出は検討されているが、ドリップに関係する油脂の流出の程度については検討されていない。特許文献2では、乳化物の調製には高剪断力の混合機を使用する必要があり、簡便に乳化物を調製できるよう改善が必要である。特許文献3ではリパーゼの反応条件によっては必ずしも歩留まり向上効果が見られていない場合があり、この技術を活用するには更なる検討が必要である。特許文献4では、ドリップ抑制や歩留まりの改善がなされたとの記載はない。
【0008】
また、Plant based foods(PBF)に代表される、使用する原材料が全て植物性原料である畜肉様加工食品は動物性原料を使用しない。そのため、動物脂代替などの環境課題等を解決していく必要がある。
【0009】
よって、本発明の目的は、畜肉の配合量が少ない又は配合がないが故に生じる畜肉様加工食品の加熱後のドリップの流出とジューシー感の不足を改善できるような油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者が検討を行ったところ、特定のかさ密度を有する水不溶性食物繊維と該油脂組成物を構成する油脂全体が5℃で特定のSFCを有する油脂からなる油脂組成物を、畜肉の使用量が畜肉様加工食品中に80質量%以下である畜肉様加工食品の生地調製工程の混練前に小片状にして生地に配合することで、加熱後の加工食品のドリップの流出が抑制され、ジューシー感が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)以下を全て満たす、畜肉の使用量が畜肉様加工食品中80質量%以下である畜肉様加工食品用油脂組成物、
(A)かさ密度が0.01~0.3g/mlである水不溶性食物繊維を含む、
(B)該油脂組成物を構成する油脂全体の5℃での固体脂含量(SFC)が40%以上である、
(2)該水不溶性食物繊維が該油脂組成物中に0.2~12質量%含む、(1)に記載の畜肉様加工食品用油脂組成物、
(3)畜肉様加工食品の生地調製工程の混練前に、(1)または(2)の何れか1項に記載の油脂組成物を小片状に細断して、該加工食品の生地に配合する、畜肉の使用量が畜肉様加工食品中80質量%以下である畜肉様加工食品の製造方法、
(4)かさ密度が0.01~0.3g/mlである水不溶性食物繊維と、該油脂組成物を構成する油脂全体の5℃でのSFCが40%以上である油脂から成る油脂組成物で、かつ小片状である、畜肉様加工食品のジューシー感を向上させるために使用する、畜肉使用量が畜肉様加工食品中80質量%以下である畜肉様加工食品用品質改良剤、
(5)かさ密度が0.01~0.3g/mlである水不溶性食物繊維を0.2~12質量%を含み、実質水を含まない、最長辺が15mm以下の小片状である、該油脂組成物を構成する油脂全体の5℃でのSFCが40%以上である油脂組成物、
に関するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、本発明の油脂組成物を加工食品に使用することで、ジューシー感のある畜肉様加工食品を提供することができる。そして、PBF食品の開発課題の1つである動物脂代替を、本発明の油脂組成物の使用により解決することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0014】
(畜肉様加工食品)
本発明に係る畜肉様加工食品とは、畜肉と植物性蛋白質素材を併用した加工食品、または植物性蛋白質素材のみを使用した加工食品をさす。特に、植物性蛋白質素材のみを使用した畜肉様加工食品は、ミートレスと呼ばれる畜肉様加工食品である。本発明に係る畜肉様加工食品は、該加工食品中に畜肉を80質量%以下配合されれば、本発明の効果を得ることができる。より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下、さらにより好ましくは55質量%以下であり、本発明の効果を最大限に発揮することができる。
畜肉としては、牛、豚、鶏、馬、羊、鹿、猪、七面鳥、鴨、駝鳥、鯨などの鳥獣肉を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。ここでは鳥獣は陸上動物でも水生動物でも良いが、陸上動物が好ましい。また、該畜肉を使用した加工食品に使用する肉の部位は特に限定されない。畜肉、植物性蛋白質素材の使用量は製品に求める品質やコンセプトに応じて適宜決定すれば良く、例えばミートレス食品とするならば畜肉は全く使用しない。
【0015】
本発明に係る畜肉様加工食品の具体例として、ハンバーグ、パティ、ミートボール、ナゲット、つくね、ハム、サラミ、ソーゼージ、餃子、焼売、肉まん、小籠包、メンチカツ、コロッケ、フランクフルト、アメリカンドック、ミートパイ、ラビオリ、ラザニア、ミートローフ、ロールキャベツ、ピーマンやレンコンなどの肉詰めやその他種々の挽肉を使用した加工食品等が挙げられる。
【0016】
本発明に係る植物性蛋白質素材として、粒状植物性蛋白、粉末状植物性蛋白、エマルションカード等を、加工食品の製品形態に適した素材を適宜使用することができる。
本発明に係る植物性蛋白質素材として使用できる粒状植物性蛋白とは、大豆、大豆蛋白、小麦、小麦蛋白、エンドウ、エンドウ蛋白に例示される植物性の原材料を配合し、一軸又は二軸押出成形機(エクストルーダー)を用いて高温高圧下に組織化して得られるもので、粒状やフレーク状、スライス肉状などの形状がある。本発明には大豆を主原料とする粒状大豆蛋白が好適である。所望の商品形態に応じ、任意の形状や大きさの製品を適宜選択し使用することができる。
【0017】
本発明に係る植物性蛋白質素材として使用できる粉末状植物性蛋白とは、大豆、小麦、エンドウなどに例示される植物性の原材料を粉末化したもので、蛋白質を脱脂後の固形分あたり50質量%以上含むものである。本発明には大豆が好適である。市販の粉末状植物性蛋白を適宜選択して使用することができる。また、粉末状植物性蛋白は、生地中での分散性を高めるために、あらかじめ油脂を添加して粉末化したものも使用することができる。また、粉末状植物性蛋白を使用したエマルションカードも植物性蛋白質素材として使用することができる。ここでいうエマルションカードとは、粉末状植物性蛋白、水、油脂を含有し、均質化した乳化物をさす。この場合も、粉末状大豆蛋白が好適である。
【0018】
(その他原料)
本発明に係る畜肉様加工食品は、公知の材料や食品添加物を利用することができる。例えば、野菜、豚脂などの獣脂、植物油、澱粉、調味料(塩、胡椒、砂糖、醤油など)、加工澱粉、卵黄、卵白、乳化剤、香辛料、香料、その他の公知の添加物などを、本発明の効果を妨げない範囲で、適宜使用することができる。ミートレス食品とするならば、植物性の原料を使用する。
【0019】
本発明の畜肉様加工食品用油脂組成物は以下の全てを満たすことで、畜肉の使用量が畜肉様加工食品中80質量%以下である畜肉様加工食品に該油脂組成物を配合した時に、該加工食品の生地中に油脂と水不溶性食物繊維が共存した状態で均一に点在することができる。その結果、該加工食品にドリップの抑制とジューシー感の向上をもたらすことができる。
(A)かさ密度が0.01~0.3g/mlである水不溶性食物繊維を含む。
(B)該油脂組成物を構成する油脂全体の5℃でのSFCが40%以上である。
【0020】
本発明においてドリップとは、畜肉様加工食品を加熱した時に流れ出る油脂分のことをいう。加熱によりドリップが流れ出る量が多いと、該加工食品に残る油脂分が減少するため、食しても該加工食品がパサつき、口腔内で油脂分を感じられずジューシー感が得られない。また、該加工食品の歩留まり低下にもなる。一方で、加熱してもドリップの流出を防ぐことで、該加工食品を噛んだときに口腔内で油脂分を十分に感じられ、ジューシー感が向上する。なお、本発明では、ドリップ量を加熱後の該加工食品中の脂質含量、及び加熱前後の該加工食品中の油脂含量の変化量で評価する。
【0021】
本発明の畜肉様加工食品用油脂組成物は、(A)かさ密度が0.01~0.3g/mlである水不溶性食物繊維を含む。より好ましくはかさ密度が0.01~0.28g/ml、さらに好ましくは0.02~0.25g/mlである。この範囲内にあることで、畜肉様加工食品の加熱によるドリップの流出が減少し、ジューシー感が向上する。ここでいうかさ密度とは、日本薬局方で定められた「かさ密度」をさす。
【0022】
本発明に係る水不溶性食物繊維は、水または温水に溶解しない、植物に由来する繊維である。食物繊維の供給源は木材、穀類、豆類、果物、種子などがあり、具体的には、粉末セルロース、結晶セルロース、竹繊維、果実由来食物繊維、小麦や大豆などの穀類由来食物繊維、ヒマワリなどの種子由来食物繊維などが挙げられる。より好ましくは、結晶セルロース、竹繊維、ヒマワリ由来食物繊維、さらに好ましくは結晶セルロース、ヒマワリ由来食物繊維である。これら適当な水不溶性食物繊維を用いることで、該加工食品の加熱によるドリップの流出が減少し、ジューシー感が向上する。
【0023】
本発明に係る水不溶性食物繊維は、該油脂組成物中に0.2~12質量%配合するのが良い。より好ましくは0.5~10質量%、さらに好ましくは0.5~7質量%である。この範囲内にあると、該加工食品の加熱によるドリップの流出が減少し、ジューシー感が向上する。この範囲を超えると、該加工食品中に含まれる水不溶性食物繊維の含量が多くなりすぎ、該加工食品の食感がボソボソとし肉粒感がなく、食感が悪くなる場合がある。
【0024】
本発明の畜肉様加工食品用油脂組成物は、(B)該油脂組成物を構成する油脂全体の5℃でのSFCが40%以上である。後述するが、該油脂組成物を構成する油脂全体の5℃でのSFCが40%以上であれば、該油脂組成物を小片状に加工することができる。小片状にした該油脂組成物は生地調製工程時に他の原材料と共に生地に混練することで、油脂とかさ密度が前述の水不溶性食物繊維が共存する状態で生地内に適度に点在することができる。その結果、該加工食品を加熱してもドリップの流出が少なくなり、該加工食品のジューシー感が向上する。一方で、該油脂組成物を構成する油脂全体の5℃でのSFCが40%未満の場合、該油脂組成物を細断する工程で結着が生じ小片状とならない、あるいは生地を混練する工程で小片状の油脂組成物が最長辺1mm未満に微細化され、畜肉様加工食品中で小片状を保つことができない。それらのために、本発明のような効果を発揮することができない。ここでいう5℃でのSFCとは、Solid Fat Contentの略称であり、IUPAC.2 150(a)Solid Content Determination In Fats By NMRに準じて測定して得られる。
【0025】
本発明に係る油脂は、前項を満たせば特に限定はなく、通常の食用の油脂を使用することができる。具体的には、ヤシ油、パーム核油、パーム油、コーン油、菜種油、綿実油、大豆油、米油、オリーブ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオ脂等の植物性油脂や、乳脂、ラード、牛脂などの動物性油脂、中鎖脂肪酸結合トリグリセリド等、及びこれらを原料とした分別、エステル交換、水素添加等の加工処理を1または2以上施した加工油脂を挙げることができる。また、該油脂は、前記食用油脂を原料として、1または2以上を組み合わせて使用することもできる。より好ましくは、5℃のSFCが45%以上、さらに好ましくは50%以上である。また、本発明に係る油脂は融点が40℃以下が好ましい。なおここでいう融点とは上昇融点のことであり、基準油脂分析試験法2.2.4.2-1996に記載の方法で測定して得られるものである。
【0026】
本発明の畜肉様加工食品用油脂組成物は、該加工食品の生地中に1~35質量%配合するのが好ましい。より好ましくは2~33質量%、さらに好ましくは5~30質量%である。該油脂組成物の配合量が適当であると、本効果を最大限発揮することができる。一方で、該油脂組成物の配合量が35質量%を越えると、該加工食品中に含まれる水不溶性食物繊維の含量が多くなりすぎ、該加工食品の食感がボソボソとし肉粒感がなく、食感が悪くなる場合がある。
【0027】
本発明の畜肉様加工食品用油脂組成物の主成分は油脂であり、実質的に水不含が好ましい。水が含まれると、本発明の効果を得られない場合がある。
また本発明の畜肉様加工食品用油脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で他の任意の成分が含まれても良い。例えば、乳化剤、酸化防止剤、pH調整剤、食塩やアミノ酸等の調味料、エキス等を、油溶性成分であれば直接、水溶性成分であれば水が含まれないように、適宜用いることができる。
【0028】
(畜肉様加工食品の製造方法)
本発明の畜肉様加工食品の製造方法は、本発明の畜肉様加工食品用油脂組成物を小片状に細断してから該加工食品の生地に配合することを特徴とする。
まず、畜肉様加工食品の製造方法は、次のような方法が例示できる。使用する原材料をミキサー、ロボクープ、サイレントカッターなどの混練機で混練して生地を調製する生地調製工程と、これを適当な大きさ、形状に成型する成型工程を経て、蒸し、フライ、焼成などにより加熱し、ヒートセットさせる加熱工程を経て、畜肉様加工食品が得られる。得られた畜肉様加工食品は冷蔵又は冷凍して流通させることができ、消費者が直接電子レンジ、煮込み、フライ、焼成、蒸しなどの調理を行うか、或いは小売業者や外食業者が間接的に調理を行い、提供される。
【0029】
本発明の畜肉様加工食品の製造方法は、畜肉様加工食品の生地調製工程の混練前に、該油脂組成物を小片状の形状に細断する必要がある。そして、小片状の該油脂組成物を生地調製工程時に配合して混練する。以降の工程は前述の工程を経ることで、畜肉様加工食品を製造することができる。本発明の畜肉様加工食品用油脂組成物は、小片状にして生地に配合することで、該油脂組成物が生地中に均一に分散させることができる。この状態は、油脂と水不溶性食物繊維とを共存させた状態で生地に均一に点在させることができる。これにより、該加工食品を加熱した時にドリップとして流れ出ずに、喫食時に口腔内で油脂分を十分に感じることができる。すなわちジューシー感が感じられる状態となる。一方で、水不溶性食物繊維と油脂組成物を構成する油脂全体の5℃でのSFCが40%以上の油脂を共存しないで、生地に別に添加しても、ドリップは流出し、ジューシー感が感じられない。
【0030】
本発明に係る該油脂組成物の小片状に細断する方法は、ミキサー、チョッパー、ロボクープ、サイレントカッターなどが挙げられる。また、畜肉様加工食品の原材料を混練し生地を調製する工程で使用する細断機を用いることもできる。小片状の形状は最長辺が15mm以下であれば特に制限はない。具体的には、円柱状、立方体状、円状、半円状、多角錐、多角柱等の多面体、スライス状等が挙げられる。小片状の該油脂組成物を使用することで、生地調製後に該油脂組成物が生地中に最長辺が10mm以下の適当な大きさで分散することができる。このことで、該加工食品の生地中に油脂と水不溶性食物繊維が共存状態で点在することができ、本発明の効果を最大限に発揮することができる。また、特に該油脂組成物の最長辺が1mm~5mm程度の目視で確認しにくい状態であっても、該油脂組成物が他の原材料と共に均一に混練した状態であれば、本発明の効果を最大限に発揮することができる。逆に、生地調製工程後の生地に該油脂組成物が最長辺が15mmを越えるブロック状等で存在あるいは不均一に点在していると、加熱時にドリップとして流れ出易く、ジューシー感が得られにくくなる。
また、細断前あるいは細断後の該油脂組成物は冷蔵庫内(2~8℃)で保管するのが望ましい。細断時の該油脂組成物、及び生地調製工程、成型工程での生地の温度は2~8℃が望ましい。この温度域であれば、該油脂組成物は生地に混練することができ、本効果を発揮することができる。
【0031】
(品質改良剤)
本発明の油脂組成物は、畜肉の使用量が畜肉様加工食品中80質量%以下である畜肉様加工食品のジューシー感を向上させる、該畜肉様加工食品の品質改良剤としても利用することができる。該品質改良剤は、かさ密度が0.01~0.3g/mlである水不溶性食物繊維と、該油脂組成物を構成する油脂全体の5℃でのSFCが40%以上である油脂から成る油脂組成物である。そして、該品質改良剤は小片状である。該品質改良剤を配合することで、加工食品の生地調製時に該品質改良剤が均一に分散し、加熱によるドリップの流出が減少し、ジューシー感が得られる。なお、該品質改良剤の細断方法は前述の通りである。また該品質改良剤中の水不溶性食物繊維のかさ密度と種類、油脂の種類の詳細も前述の通りである。
【0032】
該品質改良剤の配合量は、該加工食品の生地中に1~35質量%が好ましい。より好ましくは2~33質量%、さらに好ましくは5~30質量%である。該品質改良剤の配合量が適当であると、本効果を最大限に発揮することができる。
【0033】
(実施例)
以降に本発明をより詳細に説明する。なお、文中「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準を意味する。
【0034】
(水不溶性食物繊維)
検討に使用した水不溶性食物繊維を表1に示した。また、各水不溶性食物繊維のかさ密度は下記方法で測定し、表1に示した。なお、水不溶性食物繊維1、2は三栄源株式会社製を、水不溶性食物繊維3~5はもったいないバイオマス株式会社製、水不溶性食物繊維6、7鳥越製品株式会社製、水不溶性食物繊維8~10は三井製糖株式会社製を、それぞれ用いた。
【0035】
(水不溶性食物繊維のかさ密度の測定)
水不溶性食物繊維のかさ密度の測定は日本薬局方の「かさ密度(第1法)」の方法を用いた。すなわち、水不溶性食物繊維を試料とし、ふるい(目開き2.8mm、JIS 7メッシュ)に通した。そして5gの試料を圧密せずに、乾燥した250mlメスシリンダーに静かに入れ、メモリを読み取り、かさ密度[g/ml]を算出した。かさ密度が0.2以上の場合は、試料を50gとして再測定を行った。
【0036】
【0037】
(油脂組成物の調製)
油脂組成物に使用する油脂Aはパーム中融点油(5℃でのSFCが77%、融点26℃、不二製油株式会社製)とした。溶解した油脂A97部を融解後、水不溶性食物繊維1を3部添加、混合し、-20℃で一週間冷凍して、それぞれ油脂組成物1を得た。使用する前に、チョッパーで8mm角に粉砕した。なお5℃でのSFCはIUPAC.2 150(a)Solid Content Determination In Fats By NMRに準じて測定した。
【0038】
<検討1>
(畜肉様ハンバーグの調製)
表2に示した配合の畜肉様ハンバーグを調製した。畜肉様ハンバーグの調製方法は、ケンウッドミキサー(愛工舎製作所社製、攪拌速度140rpm)を使用し、油脂Aあるいは油脂組成物1以外の原材料を3分間混合撹拌し、その後、油脂あるいは油脂組成物1を加えてさらに3分間混合撹拌した。撹拌した生地を1個50gに成型した(φ58mm×高さ18mm)。家庭用蒸し器にて12分間蒸した。蒸した後のハンバーグを計量し(N=10)、歩留まりを確認した。その後、ショックフリーザーにて急速冷凍し、試食まで冷凍保管した。なお、粒状大豆蛋白(不二製油株式会社製)は3倍加水したものを使用した。
【0039】
【0040】
(評価方法)
評価は、蒸煮後のハンバーグ中の脂質含量、ドリップ量、ジューシー感の3項目で行った。評価方法は以下に記した。水不溶性食物繊維を配合せず、油脂Aのみを配合した比較例をコントロールとして、脂質含量、ドリップ量、ジューシー感の3項目全てで向上が見られたものを合格とした。
【0041】
(ハンバーグの脂質含量の測定とドリップ量の算出)
蒸煮後のハンバーグサンプルを40℃環境下でミキサーにて解砕し、均一化した。常圧原料乾燥法(105℃で12時間)にて、乾燥減量を測定し、これをハンバーグの水分とした。乾燥したサンプルを粉砕し、エーテル抽出法、乾燥重量あたりの脂質含量を測定した。乾燥重量あたりの脂質含量を固形分含量(1から乾燥減量を差し引いたもの)を乗じて、蒸煮後のハンバーグの脂質含量とした。なお、本測定はソックスレー(フォス・ジャパン株式社製)を用いて実施した。また、ドリップ量は生地中の油脂量から蒸煮後のハンバーグ中の油脂量を差し引いたものとした。すなわち、蒸煮前のハンバーグ中の油脂量は蒸煮前のハンバーグ中の脂質含量(A)、ここでは生地に配合した脂質含量をさす。蒸煮後のハンバーグ中の油脂量は蒸煮後のハンバーグ中の脂質含量に、歩留まりを乗じたもの(B)をさす。そして(A)から(B)を差し引いたものをドリップ量とした。なお、歩留まりとは蒸煮後のハンバーグの重量を蒸煮前のハンバーグ重量で除したものとした。
【0042】
(官能評価の方法)
冷凍したハンバーグを電子レンジ(500ワット、2分間)で温めて、解凍及び加熱し、喫食して、以下の基準により評価した。官能評価は熟練したパネラー6名にて行い、合議により評価が4点(平均点)を越えるものを、ジューシー感が維持していると判断した。
(ジューシー感の評価)
0点:パサパサしており、油脂のジューシー感を感じない。
2点:しっとりとしていて、わずかに油脂のジューシー感を感じる。
4点:油脂のジューシー感を感じる。
6点:噛むと油が流れ出るほどに、十分なジューシー感を感じる。
【0043】
【0044】
比較例1は油脂を配合していないため、ハンバーグの蒸煮後のドリップはなかった。油脂Aのみを配合した比較例2では、比較例1よりも蒸煮後のハンバーグ中の脂質含量は高く、一方で蒸煮後のドリップ量は3.8%で、適度にジューシー感を感じた。油脂Aに結晶セルロースを添加した油脂組成物1を配合すると、蒸煮後のハンバーグ中の脂質含量は比較例2よりも多く、蒸煮後のドリップ量は少なくなった(実施例1)。そして油脂組成物1を配合すると、噛むと油が流れ出る程にジューシーであり、ジューシー感が向上した。
一方で、油脂組成物1と同量の水不溶性食物繊維1を生地に直接添加しても、蒸煮後のハンバーグ中の脂質含量、ドリップ量も比較例2と同程度であり、脂質が流出していると言えた(比較例3)。そして、その時のジューシー感もパサつきを感じるものであり、合格品質ではなかった。この傾向は水不溶性食物繊維1を用量依存的に増やしても、脂質含量、ドリップ量の流出、ジューシー感の改善は認められなかった(比較例4~比較例6)。
これら結果より、水不溶性食物繊維を加工食品の生地に直接配合しても、水不溶性食物繊維を配合しない場合と比較して、蒸煮後のハンバーグ中の脂質含量、ドリップ量、ジューシー感の改善は認められなかった。一方で、水不溶性食物繊維を含有する油脂組成物を小片状にして生地に配合することで、蒸煮後のハンバーグ中の脂質含量、ドリップ量の流出抑制とジューシー感の向上が認められた。
【0045】
<検討2>
検討1と同様の方法で、表4の配合で畜肉様ハンバーグを調製した。なお、油脂組成物1~油脂組成物10は、表1に示した水不溶性食物繊維1~水不溶性食物繊維10を配合した。油脂組成物の調製方法は検討1に示した方法とした。
【0046】
【0047】
(評価方法と官能評価)
評価方法及び官能評価は検討1を踏襲した。なお、パネラーは5名であった。
【0048】
【0049】
水不溶性食物繊維を配合しない比較例8に対して、各種油脂組成物を配合したところ、かさ密度が0.01~0.3g/mlの水不溶性食物繊維を配合した油脂組成物1、3~5、8~10を配合することで、蒸煮後のハンバーグ中の脂質含量が多く、またドリップ量が少なかった(実施例2~実施例8)。そしてこれらのジューシー感の評価は何れも噛むと油脂が溢れ出て、ジューシー感が十分に感じられるものであった。特に、水不溶性食物繊維は結晶セルロースとヒマワリ内実繊維が良かった。一方、かさ密度が0.3g/mlを越える食物繊維を配合した油脂組成物2、6、7を使用すると、蒸煮後のハンバーグ中の脂質含量とドリップ量は比較例8と同程度であり、改善は見られなかった。
【0050】
<検討3>
表6に記載の配合の油脂組成物11~油脂組成物18を、検討1の調製方法に従って作製した。そして、検討1と同様の方法で、表7に記載の配合の畜肉様ハンバーグを調製した。なお、油脂組成物11及び油脂組成物12に使用した油脂Bは菜種油(5℃でのSFCが0%、不二製油株式会社製)、油脂Cは菜種油とヤシ油を50:50で混合した油脂(5℃でのSFCが36%、ヤシ油は不二製油株式会社製)とした。油脂組成物11は冷凍保存しても固体とならなかった。そのため、小片状にすることはできず、油脂組成物11は液状のまま畜肉様ハンバーグに配合した。
【0051】
【0052】
【0053】
(評価方法と官能評価)
評価方法及び官能評価は検討1を踏襲した、結果を表8に示した。なお、パネラーは6名であった。
【0054】
【0055】
コントロールである比較例12に対して、油脂組成物を構成する油脂全体の5℃でのSFCが40%未満である油脂組成物11を配合した比較例13では、蒸煮後のハンバーグの脂質含量は比較例12よりも多く、ドリップ量は少なかったが、ジューシー感はわずかにしか感じなかった。また、油脂組成物を構成する油脂全体の5℃でのSFCが40%未満である油脂組成物12を配合した比較例14のハンバーグでも、同様の傾向が見られた。これら結果から、油脂組成物を構成する油脂全体の5℃でのSFCが40%以上であることが、本発明の油脂組成物に適していることが明らかとなった。
【0056】
水不溶性食物繊維1の配合量を用量依存的に配合すると、蒸煮後のハンバーグ中の脂質含量は多くなり、またドリップ量が減少する相関が見られた(実施例9~実施例11)。ただし、水不溶性食物繊維1の配合量が多いと、ジューシー感が弱まった(実施例11)。水不溶性食物繊維1の配合量がさらに多くなると、パサパサとした食感でジューシー感は感じられなかった(比較例15)。このような傾向は水不溶性食物繊維3を配合した場合でも認められた(実施例12、実施例13)。