(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147900
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】フィギア用和服衣装
(51)【国際特許分類】
A41D 1/00 20180101AFI20231005BHJP
【FI】
A41D1/00 101Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055665
(22)【出願日】2022-03-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和3年8月13日~17日のいずれかにウェブサイトにて公開 (2)令和3年9月19日又は27日のいずれかにウェブサイトにて公開 (3)令和4年2月6日にウェブサイトにて公開 (4)令和4年2月9日~12日のいずれかにウェブサイトにて公開 (5)令和4年2月26日にウェブサイトにて公開 (6)令和3年9月19日~25日に株式会社ビリビリ(東京都港区六本木7-18-18住友不動産六本木通ビル9F)主催のオンライン形式フィギュア販売イベント「919キャンペーン2021」にて公開 (7)令和4年2月6日~8日に株式会社ビリビリ(東京都港区六本木7-18-18住友不動産六本木通ビル9F)主催のオンライン形式フィギュア販売イベント「CHINA HOBBY EXPO 2022」にて公開 (8)令和4年2月26日にオンラインイベント「Kizuna AI The Last Live “hello,world 2022”」(https://kizunaai.com/news/live/1574/)にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】596136774
【氏名又は名称】株式会社 吉徳
(71)【出願人】
【識別番号】307010096
【氏名又は名称】フリュー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 ▲徳▼兵▲衛▼
(72)【発明者】
【氏名】阿部 彩香
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 桂太
【テーマコード(参考)】
3B030
【Fターム(参考)】
3B030BC01
3B030BC03
(57)【要約】
【課題】
ポージングに起因する自然な形状変化を発生させることができる、又は、不自然な形状変化を発生させないことができるフィギア用和服衣装を提供することを目的とする。
【解決手段】
固定されたポージングを有するフィギア本体に着せ付けるための和服衣装であって、前記和服衣装は、衣装が人間に着せるサイズであった場合に、ポージングに起因する自然な形状変化を発生させるための予備加工、又は、不自然な形状変化を発生させないための予備加工がされていることを特徴とするフィギア用和服衣装。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定されたポージングを有するフィギア本体に着せ付けるための和服衣装であって、
前記和服衣装は、衣装が人間に着せるサイズであった場合に、ポージングに起因する自然な形状変化を発生させるための予備加工、又は、不自然な形状変化を発生させないための予備加工がされていることを特徴とするフィギア用和服衣装。
【請求項2】
前記予備加工は、肘が曲げられるポージングがされている腕に通す袖部分に対しての切込加工であることを特徴とする請求項1記載のフィギア用和服衣装。
【請求項3】
前記切込加工は、左右の腕の一方にのみ施されている、又は、切込の形状が左右で異なることを特徴とする請求項2記載のフィギア用和服衣装。
【請求項4】
前記予備加工は、袖巾に対して袖丈が斜めとなるように直線でカットした形状とすること、若しくは、曲線を取り入れてカットした形状とすることであることを特徴とする請求項1記載のフィギア用和服衣装。
【請求項5】
前記予備加工は、身頃部と袖部とに分けて用意された二部材の間に、接続部材を設けることであることを特徴とする請求項1記載のフィギア用和服衣装。
【請求項6】
前記接続部材は、袖の一部を模したものであることを特徴とする請求項5記載のフィギア用和服衣装。
【請求項7】
固定されたポージングを有し、かつ、請求項1~6の何れか一に記載のフィギア用和服衣装が着付けられた和服着付けフィギア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、和服着付けフィギアのフィギア用和服衣装に関する。
【背景技術】
【0002】
観賞用に製作される人形としてのフィギアが知られている。フィギアは様々なポージングを取るものであるが、ポージング自体の造形美も鑑賞の対象になるため、その形状は固定されているのが一般的であるし、固定されたポージングは観賞用として優れたものといえる。また、当然にフィギアが身に着けている衣装も鑑賞の対象になる。このような状況の中、本発明者らは、高級な衣装で着飾らせた造形美の高いフィギアを実現するべく、従来の日本人形の製造方法では克服できない新たな製造技術を採り入れて、和服が着付けられたフィギアを発明するに至った。
例えば、非特許文献1には、高級な衣装で着飾らせた造形美の高いフィギアが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】“吉徳×F:NEX Re:ゼロから始める異世界生活 レム -日本人形- 1/4スケールフィギュア”,[online],令和2年7月8日,[令和4年3月8日検索],インターネット,<URL:https://fnex.jp/products/detail.php?product_id=71>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に示される着物衣装は、人間用の着物からサイズを縮尺し、模したものである。実際の着物と同じ生地を用いているため、高級感が醸成されている。ところが、着物の生地が持つ特有の性質があるため、人形が着物衣装を着た場合には、人間が着た場合とは異なる状況が生じる場合がある。さらに、人間が着物を着た場合、たとえば、しわについては、人間が洋服を着た場合とは異なる和服特有のしわ形状が生じるという着物特有の問題もある。この問題は、洋服の場合には、人間用と人形用の別により然程の違いを生じさせないものであるが、和服の場合には、大きな違いとなる。具体的に、人間が洋服を着た場合には、腕を上げ下げすると、脇や肩から蛇腹のように潰れてしわができるのに対して、人間が着物を着た場合には、生地が持つ性質と重量の関係から、例えば、腕を曲げつつ上げた場合には、肘部分において大振りで綺麗なしわができる。非特許文献1のフィギアの腕には、当然ながら、洋服のような蛇腹のしわは生じていないものの、人間が着物を着た場合に生じるような大振りで綺麗なしわを再現するには至っていない。
また、様々なポージングを取ることがフィギアの最大の魅力の一つであるところ、和服が持つ特有の性質により、ポージングの形状によっては、不自然な状況が発生し、ポージングに制限を与えることも判明した。例えば、非特許文献1のフィギアにおいて、和傘を畳んで下に向けて下したポージングを取らせようとした場合には、当然に、腕も下に垂らす格好とする必要がある。
図7(a)に示されるように、腕を下した場合、着物の袖は、着物が持つ重量の影響を受けて下に落ちる。ところが、人形用の衣装は、サイズを縮小した分だけ生地を薄くできるという訳ではないことから、人間用の着物と比較して張りが出やすいという性質がある。さらに、人形用の衣装は、裁断しやすくするため、不織布や和紙で裏打ちする場合があり、その場合には、張りが出やすいという性質が一層顕著となる。人形用の衣装で腕を徐々に下ろす場合の状況を
図7(b)~(d)に示した。
図7(d)からは、着物の袖が下に全く落ちることが無く、不自然に跳ねたような恰好となってしまっていることが窺える。
本発明は、フィギアと和服という組み合わせによって生じる問題、換言すれば、ポージングに起因する自然な形状変化を発生させることができる、又は、不自然な形状変化を発生させないことができるフィギア用和服衣装を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のフィギア用和服衣装は、少なくとも以下の構成を具備するものである。
固定されたポージングを有するフィギア本体に着せ付けるための和服衣装であって、前記和服衣装は、衣装が人間に着せるサイズであった場合に、ポージングに起因する自然な形状変化を発生させるための予備加工、又は、不自然な形状変化を発生させないための予備加工がされていることを特徴とする。
また、本発明の和服着付けフィギアは、少なくとも以下の構成を具備するものである。
固定されたポージングを有し、かつ、衣装が人間に着せるサイズであった場合に、ポージングに起因する自然な形状変化を発生させるための予備加工、又は、不自然な形状変化を発生させないための予備加工がされている和服衣装が着付けられた和服着付けフィギア。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るフィギア用和服衣装を示す図であり、(a)はフィギアに着付けられた様子を示す説明図、(b)は切込加工がされている様子を示す説明図である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係るフィギア用和服衣装を示す図であり、(a)は前提とするポージングを示す説明図、(b)はフィギアに着付けられた様子を示す説明図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係るフィギア用和服衣装の説明図であり、(a)は従来の袖を示す説明図、(b)は本発明の第2実施形態を示す説明図である。
【
図4】本発明の第3実施形態に係るフィギア用和服衣装の説明図であり、(a)は従来の衣装の問題を示す説明図、(b)は本発明の第3実施形態を示す説明図である。
【
図5】本発明の第4実施形態に係るフィギア用和服衣装の説明図であり、(a)は前提とするポージングを示す説明図、(b)は従来の衣装の問題を示す説明図、(c)本発明の第4実施形態に施す予備加工を示す説明図である。
【
図6】本発明の第4実施形態に係るフィギア用和服衣装を示す図である。
【
図7】人形用衣装の特性を示す説明図であり、(a)は人間用の実際の着物を示す説明図、(b)、(c)、(d)は人形用衣装を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の実施形態に係るフィギア用和服衣装は、固定されたポージングを有するフィギア本体に着せ付けるための和服衣装が人間に着せるサイズであった場合に、ポージングに起因する自然な形状変化を発生させるための予備加工、又は、不自然な形状変化を発生させないための予備加工がされていることを特徴とするものであり、本発明の実施形態に係る和服着付けフィギアは、そのような予備加工が施されたフィギア用和服衣装が着付けられたものである。
【0008】
以下、本発明の実施形態につき、図面を用いて説明するが、以下の図面は、説明を目的として、写真に注釈や部品名称を追加した説明図であって、実施されるそのままの態様を必ずしも示しているものではないことに留意する必要がある。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るフィギア用和服衣装を示す図であり、(a)はフィギアに着付けられた様子を示す説明図、(b)は切込加工がされている様子を示す説明図である。
フィギア用和服衣装1が着付けられた和服着付けフィギアは、左手に鼓を持ち、それを叩くべく右手を前に差し伸ばしているが、右手の肘部分には、人間が実際の着物を着る場合に現出される自然なしわが再現されている。このしわは、人形に着付けた場合には生じないものの、人間が着付けをした場合には、生地の重量故に生じることになる大振りで綺麗なしわである。
図1(b)に示すように、衣装腕部に先に切込加工を施して、不自然なしわの原因となる余分な生地を除去した上で、その箇所を塞ぐように曲げて繋ぎ止めることによって、綺麗なしわを表現できるようにされている。
【0010】
図1(a)及び(b)から容易に理解されるように、不自然なしわは腕を曲げることによって生じることになるため、腕の曲げ度合いに応じて不自然なしわの原因となる余分な生地の大きさは異なることになるし、腕を曲げない場合には、そもそも余分は生じないことになる。このため、本発明は、左右非対称なポーズをとるフィギュアの様々な形状に応じて、切込加工が、左右の腕の中、曲げられる一方の腕のみに施されるようにする態様や、腕の曲げ度合いが左右で異なる場合に切込21の形状を左右で異なるようにする態様を含むものとされている。
【0011】
(第2実施形態)
図2は、本発明の第2実施形態に係るフィギア用和服衣装を示す図であり、(a)は前提とするポージングを示す説明図、(b)はフィギアに着付けられた様子を示す説明図である。
畳んだ和傘を下に向けて携える立ち姿をフィギアに演出させるべく、
図2(a)に示されるように、フィギアの左腕は垂直に近く下に垂らされることになる。先述したように、人形用の衣装は、サイズを縮小した分だけ生地を薄くできるという訳ではないことから、人間用の着物と比較して張りが出やすいという性質があるため、腕を垂直に垂らした場合には、
図7(d)に示すように、或いは、
図2(b)の破線の矩形で示すように、着物の袖が下に全く落ちることが無く、不自然に跳ねたような恰好となってしまう。しかし、本発明の第2実施形態に係るフィギア用和服衣装では、
図2(b)に示されるように、人間が着物を着た時と同じように、着物の袖が重量の影響を受けて下に落ちる様子が再現されている。
【0012】
このことを実現しているのが、
図3で説明されるところの工夫である。
図3(a)は従来の袖を示す説明図、(b)は本発明の第2実施形態を示す説明図である。
従来の袖の型紙は、
図3(a)のように、矩形状のものである。これは、実際の着物と同じ形状であり、裁断後は、腕に相当する部分の袖巾を支点として折って縫製されることになる。これに対して、本発明の第2実施形態では、
図3(b)のように、新たに斜め形状を採り入れた袖部分の型紙が採用されている。この型紙は、袖巾に対して袖丈が斜めとなるように直線でカットした形状とされている。このことから、袖巾22を中心とした両側には斜めに角度を持たせた袖丈23が配置されることになる。裁断後は、腕に相当する部分の袖巾22を支点として折って両側の袖丈23が縫製されることになる。
このようにして、袖の形状を着物同様の矩形状にするのではなく、腕の角度に応じて斜め形状にすることで、
図2(b)に示されるように、人間大の着物を着ているかの如く、地面に対して垂直方向に袖が落ちているような自然な見た目とすることができるのである。
【0013】
(第3実施形態)
袖巾に対して袖丈が斜めとなるように直線でカットした形状とすること、或いは、必要に応じて曲線を取り入れたカット形状とすることで、他の問題に対処することも可能である。
図4は、この態様を説明するための図であり、(a)は従来の衣装の問題を示す説明図、(b)は本発明の第3実施形態を示す説明図である。
図4(a)の楕円の破線で示したように、袖巾から下に延びる袖丈の上方部分ではしわが強く出てしまっている。これは、腕を曲げているポーズを取っている人形に対して、袖が垂れ下がるように無理に調整されているためである。袖の形状を斜めにカットしたり、必要に応じて曲線を取り入れてカットしたりすることによって、重量のある袖が適度な釣り合いを保つようになるため、
図4(b)の楕円の破線で示したように、袖巾から下に延びる袖丈の上方部分の遊びを減らすことができ、自然なしわを再現することが可能となる。
また、
図4(a)に示すように、和服着付けフィギアは、裾引き振袖を身にまとい、左半身部分の一単が外され後方に延びた格好となっている。ここで、矩形の破線で示したように、袖部分がたるみがちとなってしまっている。人間が、実際にこのような格好をしたならば、着物もたるみがちになるかもしれないが、フィギアの持つ優雅さを損なうことなく、たるみを抑えたいところである。そこで、本発明の第3実施形態では、袖巾に対して袖丈が斜めとなるようにし、かつ、曲線を取り入れたカット形状としている。
図4(b)に示されるように、不要なたるみが無くなって、裾引き振袖での外された一単を美しく魅せることを可能としている。
【0014】
(第4実施形態)
図5は、本発明の第4実施形態に係るフィギア用和服衣装の説明図であり、(a)は前提とするポージングを示す説明図、(b)は従来の衣装の問題を示す説明図、(c)本発明の第4実施形態に施す予備加工を示す説明図である。
左手に毬を持つ立ち姿をフィギアに演出させるべく、
図5(a)に示されるように、フィギアの左腕は脇が締められている。つまり、脇の下には十分な空間が無く着物の遊びを逃がすための余裕がないことになる。このような脇下の空間に着物を通す場合の問題について説明する。
図5(b)に示されるように、着物生地が有する直線的形状及びダボつきやすい性質のため、脇が締まった状態の腕に取り付けた場合、後ろにピンと跳ねるのが自然な状態となる。袖を下に垂らそうとしても、脇下の空間不足が災いし、十分に畳めずにダボつき、不自然な形状になる。
そこで、本発明の第4実施形態に係るフィギア用和服衣装では、
図5(c)に示す予備加工をしている。腕の角度を現状から変えずに袖を下に垂らした状態にするために、垂直に近い状態である二の腕部分からでなく水平に近い状態である前腕部から垂らすようにしている。しかし、ここで、身頃と袖が分断されてしまうという問題が生じる。身頃と袖のつなぎ目は、本来肩口に位置するが、このつなぎ目を上腕部まで下げては、前述のように、不自然な形状となる。
【0015】
この解決策として、
図6(a)に示されるように、袖2と身頃3の空間を埋める生地を接続部材31として継ぎ足すのである。接続部材31は、袖の一部のように見せて縫製する。袖の位置を下げた一方で、身頃と袖のつなぎ目の高さは変えていない。最後に、袖の長さのバランスがおかしくならないよう、袖を少し短くする。
【0016】
以上、本発明の実施形態に係るフィギア用和服衣装1について、図面を参照して詳述し、特徴的構造について説明してきたが、具体的な構成は、これらの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。従来の日本人形で採用されている技術の紹介は割愛したが、従来の日本人形に着物衣装を着せ付けた場合、腕部の芯は針金であり、着せ付けの最中に形状を曲げられることから、しわが目立ちにくく且つ袖の落ち方が自然に見えるように調整しながら曲げて着せ付けることが可能である。しかし、本件のように素体がフィギュアで出来ている場合、そもそも体を曲げる事ができず、肘の曲がりの角度が付くほどに、しわが付きやすくなるし、腕が地面に対して垂直に近づく程に、袖が不自然に跳ねた形となる。着物を綺麗に見せるための工夫が、従来の日本人形では、人形側に施されているのに対して、本発明では、和服衣装側に施されていることが最大の違いである。このことから、固定ポージングとして決定された態様に合わせて、予備加工を施すというのが本発明の最も広範な技術的思想として理解されよう。さらに、和服としての衣装は晴着でなく、紋付き袴などの変形例であっても本発明の範囲に含まれるものである。また、前述の実施例は、その目的および構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0017】
1 フィギア用和服衣装
2 袖
21 切込
22 袖巾
23 袖丈
3 身頃
31 接続部材